出版学会(活字離れ)資料

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「活字離れ」論の文化史「定義」と「統計」の実証研究日本出版学会春季研究発表会

2015/5/16林 智彦1

本日の内容•「活字離れ」と呼ばれる現象が、本当に起きているのかどうかを確認•「活字離れ」という語のルーツ、その意味の多様性を見極める•「活字離れ」という語が用いられる社会的文脈を検証し、この言葉の本当の「意義」を考察する

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研究のきっかけ•「活字離れ」「読書離れ」「出版不況」というタームは、「出版」についての論評で、まるで枕詞のように多用されている。•しかし、その定義が明示されることはまれ•また、学問的な検討に耐えうるようなデータ解釈が示されることもまれ。•いったい、どうしてこういうことになっているのか?•海外の文献で、こういう表現(どう訳す?)はあまり見かけたことがない

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構成1. 「活字離れ」論に根拠はあるか?2. 「活字離れ」論はいつ始まったのか?3. 「活字離れ」論の意義は?

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1. 「活字離れ」論に根拠はあるか?2. 「活字離れ」論はいつ始まったのか?3. 「活字離れ」論の意義は?5

最近、(改めて)めだってきた「活字離れ」論

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「活字離れ」論の典型的主張(藤原正彦)• 先日テレビで、一カ月に一冊も本を読まない人が47・5 %という文化庁の調査結果が出ていました。(中略)この傾向はいつ頃から始まったのか。私は、1997年が大きな転換点だったと思います。(中略)この頃、携帯やインターネットが普及してきました。そんな時期に人々は、本から携帯、ネットへと乗り換えていったのです。特に若い人たちのあいだで、ネットで情報を得ていれば、別に本を読まなくても済む、という感覚が広がった」(「新潮45」2015年2月号)

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この「調査」とは、「国語に関する世論調査」(文化庁)。産経新聞は……。「1冊も本を読まない」…47・5% 文化庁調査で「読書離れくっきり」 

文化庁が実施した「国語に関する世論調査」によれば(中略)平成21年実施の前回調査に比べ、1冊も読まない割合は1・4ポイント増加、14年実施の前々回調査からは10ポイント近く増加しており、日本人の読書離れが浮き彫りになった格好だ。(中略)文化庁関係者は「21年実施の調査で国民の読書量の減少が明白となったが、その後も改善されていない」と憂慮する。(産経ニュース  2014年 10月 11日 http://www.sankei.com/premium/news/141011/prm1410110018-n1.html)

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「活字離れ」の作業用定義(Working Definition)について•ここでは暫定的に、「(文字ものの)本を読む人が減ること」とする•「雑誌や絵本、マンガ単行本(コミックス)の読者が減ること」ではない•が、ビジュアルの多い教養本・雑学本などは「本」に入っている(らしい)•とりあえずは、数年〜 10年くらいを対象とする

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「活字離れ」はなぜ重要なのか?•文字ものを主体とした「本」が、一国の教養・学問・制度・伝統のベースをなすと考えられているから•この意味の「本」が読まれなくなったことが、さまざまな社会問題や歓迎すべからざる社会の変化の「原因」であると看取されているから•(しかし、本当にそうなのか、学問的に証明することは不可能なはずであり、無理矢理因果関係を主張すること自体が、反教養的な営みではないか?)

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藤原正彦氏、産経報道が依拠する、「文化庁の調査結果」(※)を見てみる※「平成 25年度 国語に関する世論調査」

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以下の数字だけを見ると確かに「不読率」は上がっているが……。

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13「読書離れ」は高齢層に顕著→すでに藤原正彦説が崩壊

不読率が高いのは高齢層不読率が最も低いのは 20代

「不読」の主役は、「若者」ではない

そもそも「国語に関する世論調査」は何を調べているのか?•「1か月に大体何冊くらい本を読んでいるかを尋ねた」 →極めて漠然とした質問•「本」に「雑誌」「ムック」や「コミック(単行本)」は入るのか? →不明•「電子書籍」は入るのか? → 実は別に調べている(次頁)ので、入っていない• 何分、何時間、何分の一読めば「読んだ」ことになるのか? →不明•「調べ読み」「ながら読み」は? →不明• 借りて読むのは「読書」か? 立ち読みは? →不明

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実は、電子書籍を含めると「不読率」は全年齢で急減している

→「読書をしなくなった」のではなく、「電子書籍でも読むようになった」ではないか?

全体の不読率も史上最低

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不読率引き下げの主役は電子書籍を読む若年層か

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ただし、電子書籍購読者の内訳を見ると、「電子書籍の方を多く読む」という層が、 30代、 50代で多いことがわかる。

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要するに……• 藤原氏は、文化庁の調査資料を見ず、「テレビでそう言っていた」というだけで「活字離れ」を論じている(→これこそが活字離れでは?)

• 産経は、敢えて電子書籍を無視した?• 産経はこんなことも書いているが、二重の意味で間違い(次頁)。「とくに子供たちの読書活動について(中略)インターネットをはじめとするさまざまな情報メディアの発達・普及により国民の生活環境が変化し、読書習慣が定着するどころか、ますます読書離れが進んでいるのが実情だ。文化庁の調査とは別に、全国学校図書館協議会が平成24年度に実施した学校読書調査によると、1カ月に1冊も本を読まない子供の割合は、小学生で4・5%、中学生で16・4%、高校生で53・2%と、年齢が高くなるにつれ読書離れが顕著になっている」

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「学校読書調査」を実際に見ると、不読率は06年に急減したあと、横ばい

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しかも、「活字離れ」のピークは、出版売上ピークの 1997年。→ここから導き出されるのは、「活字離れ」と呼ばれる現象がもしあったとしても、それは「出版不況」とはまったく関係がない、という結論

ピーク

横ばい

一般人を対象にした「読書世論調査」でも「書籍」「総合」読書率は下がっていない

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書籍は傾向的には未だに上昇傾向

総合読書率は横ばい

大学生の不読率も横ばい

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農村読書調査でも、ここ 10年ほどは横ばい

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横ばい

ここまでのまとめ•産経が「活字離れ」の証拠とした「国語に関する世論調査」(文化庁)「学校読書調査」(毎日新聞社)のいずれにおいても、さらに、「読書世論調査」(毎日新聞社、全国学校図書館協議会)「学生の消費生活に関する実態調査」(全国大学生協)「農村読書調査」(家の光協会)においても、「最近 10年間」については「書籍」に関する顕著な「活字離れ」が起きている証拠はない•「雑誌」については読書率の低下(不読率の上昇)は否めないが、これを「活字離れ」と呼ぶのかどうか? →本稿ではそう捉えない。

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「読書率」「不読率」以外の調査で「活字離れ」を裏付けるようなデータは見つかるか?•図書館の貸し出し冊数•書籍販売額•他産業との比較•コミック市場

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図書館貸出数は2014年に微減だが、「離れ」というほどの規模ではない(※)

26※ 貸出数には書籍以外の貸し出しも含まれているが、ほとんどは書籍

書籍販売金額・部数とも、「物価調整ずみ」「一人あたり」ではほぼ横ばい

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生産年齢人口一人あたり販売部数は横ばい

生産年齢人口一人あたり物価調整済み販売金額はこの数年は横ばい。そして、 1985年と同レベル

総人口一人あたり販売金額・部数は徐々に下降

人口一人あたり販売部数で見ると、ピークは80年代末だった

→ 要するに「激減」しているわけではない

なぜ「物価調整」「一人当たり」が必要か• 貨幣価値の異なる時代の売上数値を、直接比較しても意味がない。たとえば、 1970年の 100円は、今でいえば 300円の価値、 1950年の 100円は今では 560円の価値になる(総務省統計局「平成 22年基準消費者物価指数 」による)。•さらに、人間が一生に読める本は限られている以上、人口が減れば、読む本の総量が減るのは当然。そのため、「人口一人あたり( per capita)」を見る必要がある•そして、大量に本を読むのは、青年期から働き盛りであろうことを考えると、つまり「活字消費」「活字離れ」が本当に進んでいるかどうかをきちんと判断するには、「生産人口一人あたり」が適切な指標ではないか

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本と同じくパッケージメディアである CD ・レコードでは、どの物差しでも「離れ」ている→「活字離れ」の比ではない

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コミックスでは紙+電子の市場はむしろ成長している

結論:「活字離れ」論に根拠はない

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そもそも、なぜ「本」に限る必要があるのか?• 「教養」や「文化」の担い手は、「(文字ものの)本」だけではない• 「電子書籍」は「本」ではないのか?• 「ウェブ」(ブログ、 SNS)も膨大な「テキスト」の集まりであり、情報源として大きな存在感を持っている→一種の「本」ではないのか?• →「活字離れ」論は視野が狭すぎる。対象を「電子書籍」や「ウェブ」に拡張し、「現代人は文字を読まなくなった」という「文字離れ」論に拡張すると、結論はどうなるか?

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402013年 4月 5日朝日新聞

「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 」(総務省情報通信政策研究所)• 2013年度、 14年度、 15年度の三回にわたって実施・発表•テレビ、新聞といった従来型メディアと、ソーシャルメディア等のインターネット上のメディアの双方について、利用 時間と利用時間帯、利用率、利用目的、信頼度等を調査。• 総務省情報通信政策研究所が、東京大学大学院情報学環 橋元 良明教授ほかとの共同研究の形式で実施。• 対象者 :13歳から 69歳までの男女 1,500人 サンフルの構成は性別・年齢 10歳刻みで平成 26年 1月住民基本台帳の実勢比例。全国 125地点にてランタムロケーションクォータサンフリングにより抽出

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フリント(※)、電子書籍、ウェブの3つのメディアの利用実態を調査している

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ウェブのうち、テキスト閲読がメインのブログ・ウェブサイト、ソーシャルメディアの利用を調査

電子書籍(タウンロード型)の利用実態も調査(※)新聞、書籍、雑誌、コミックという「フリント」メディアの利用実態を調査ここでは、新聞を別にして、「書籍、雑誌、コミック」=「フリント」とする。

文字系メディアの平均利用時間は漸増→「文字離れ」はない

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「テキスト系サイト」の利用時間は増加しているが、それによって「書籍・雑誌・コミック」(本稿でいう「フリントメディア」)が激減するという結果にはなっていない→つまり、大規模な「フリントメディア離れ」も起きていない ※ただし、平日の新聞は減っている

行為者率で見ても、「フリント」は横ばいの一方、「文字」は上昇。

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テキスト系サイトが上昇、新聞は下降、書籍・雑誌・コミックと電子書籍は横ばい

「行為者」に限定した利用時間の平均を見ると、「電子書籍」の利用時間はテキスト系サイト(ウェブ)をも上回る→出版業界にとっての「電子書籍」の意義を考える必要あり

休日の年代別平均利用時間を見ると、フリントメディアを最も長く利用しているのは 10代。

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フリントメディアを最も利用している 10代

ウェブを最も利用しているのも10代→この2つは両立する「アイボール仮説」は間違い

アイボール仮説• Print is doomed. 「フリント(フィジカル)メディア( P)はネット( N)と有限時間を奪い合っており、コンスタントサム(定常和)ゲームの関係にある」• →人間が娯楽や教養に割ける時間が有限であるのは本当だが、そのことが直ちに Pと Nの関係を決定づけるのかどうか?• Pといってもいろいろある。たとえば、書籍のようなストック型のメディアと雑誌・新聞のようなフロー型のメディアでは、影響は異なるのではないか?•あるいは、握手券やイベントチケット、特典などと組み合わせやすい Pの特性を生かした製品はどうか?

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電子書籍の行為者率は低いが、 20代の行為者の利用時間は異常に長い。さらに、それによってフリントメディアの利用時間が劇的に減っている形跡はない

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行為者率の相関を見ると、ウェブの影響を大きく受けているのは、フリントではなく新聞20代行為者の電子書籍利用時間が長い。

「メディア利用調査」から読み取れること•藤原氏の言うような、若者のウェブ系メディアの利用による「フリント離れ」はなく、逆に若者こそがフリントメディアとウェブ系メディアの両方を最も多く利用している。• 全体的に見ても、「フリントメディア離れ」は起きていない• 電子書籍はまだ利用者が多いとはいえないが、利用者の利用時間は顕著に高い

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結論

• 要するに「活字離れ」論は根拠があやふやで、中身がない

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1. 「活字離れ」論に根拠はあるか?2. 「活字離れ」論はいつ始まったのか?3. 「活字離れ」論の意義は?50

「活字離れ」論はいつ始まったのか• 相良剛氏(「文芸研究」2012 明治大学文学部紀要)によると、新聞では読売「テレビに食われる読書熱」 (1958年)が最初。以下、「衰えた高校生の読書欲 受験やテレビが影響」(1959年)「テレビと平和共存を」(1964年)が続く。DBで見る限り、朝日は以下の記事が最初。

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「活字離れ」論はいつ始まったのか• 国会図書館のDBで調査すると、1972年9月の稲葉三千男「活字離れの現象をどう考えるか―問題点と施策―」(東販大ホールでの講演会)が初出。

• 「出版レポート」「活字離れの正体を追う!」(1982年)によると、出版物では『出版年鑑』(1973年版)が初出とのこと。しかし該当部分を見つけられなかった。

• 「活字離れ現象ということが問題になってきた。活字離れ現象は、文部省の資料や全国学校図書館協議会の調査をみても、小・中・高校生の不読者層がここ数年激増していることからもはっきりしている」(上記「出版レポート」が引用する「出版年鑑」の該当部分とされる文章)

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NDL-OPACで、「活字離れ」をキーワードに含む資料を検索した結果。 1982年、 2002年にピークがある( 2015年 5月に検索実施)

①第1次「活字離れ」論ブーム②第2次「活字離れ」論ブーム

【仮説】第一次「活字離れ論」ブーム=TV批判?

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1982年は、カラーテレビの普及率がほぼ100%になった年→テレビ批判?

1982「出版レポート」が定義する「活字離れ」1. テレビの普及、あるいは、その影響による影像文化への「移行」傾向を指す2. コミックやビジュアルな雑誌の全盛と、活字主体の人文・社会科学系出版物の不振3. 「硬派」出版社の経営不振と大手寡占化傾向、総じて、出版界のさきゆきの見通しの暗さ

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【疑問】1、2の視点からすると、右のような図解の多い本は、「活字離れ」の象徴とされてしまうのではないか。ともあれ、「テレビの普及に対する恐怖感」が「活字離れ」論の動機の一つのようだ。

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タイトルか本文に「活字離れ」を含む朝日新聞の記事数(朝日新聞記事 DBより)

朝日新聞の記事 DBで、「活字離れ」をキーワードに含む資料を検索した結果。 1998〜00年にピークがあるが、その後 2010年あたりまで大量の記事が配信される= 2015年 5月に検索実施)

②第2次「活字離れ」論ブームか?ただし、新聞の「活字離れ」記事のピークは、 NDLとは少しずれている……。

第二次「活字離れ論」ブームの裏で何があったか?(1)

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1991年 7月政府規制等と競争政策に関する研究会が独禁法適用除外制度の問題点を指摘し、見直しを提言

1992年 6月臨時行政改革推進審議会が再販適用除外が認められている著作物の範囲の見直しを提言

1995年 3月「規制緩和推進計画について」 (閣議決定 )で 98年末までに指定商品の取り消しを施行し、著作物の範囲の限定・明確化を図ることを提示

1995年 7月政府規制等と競争政策に関する研究会の再販問題検討小委員会が中間報告を提示

1995年 12月行政改革委員会が「規制緩和の推進に関する意見」で著作物再販制度の妥当性の検討を提示1996年 3月「規制緩和推進計画の改定について」 (閣議決定 )で、 96年度末までに指定商品の取り消しを

施行し 97年度末までに著作物の範囲の限定・明確化を図ることを提示1997年 4月再販指定商品 (化粧品 14品目、一般用医薬品 14品目 )の指定を取り消し

1997年 12月行政改革委員会が最終意見。法定再販の 4品目 (新聞、書籍、雑誌、 CD)のいずれについても、「現行再販制度を維持すべき『相当の特別な理由』があるとする十分な論拠は見出せなかった」とした。

規制緩和の流れの中で、著作物再販と新聞特殊指定は廃止に向けて動き出し、新聞業界はこれに反対するロビー活動を活発化させた

第二次「活字離れ論」ブームの裏で何があったか?(2)

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1998年 4月 公取委の「再販制度」見解発表1999年 1月 日本新聞協会が公正取引委員会に意見書

1999年 3月 特殊指定の維持求め、公取委に要請書提出 日本新聞労働組合連合

2000年 1月 自主的な活動へ一役 教育のなかの新聞-学校教材に新価格

2005年 11月 独禁法の特殊指定、公取委が見直し表明 新聞協会は抗議の声明

2006年 2月 独禁法特殊指定、缶・瓶詰外れる 新聞、教科書なども検討

2006年 3月 新聞協会「特殊指定、堅持を」 戸別配達、崩壊の懸念 特別決議

2006年 4月 新聞特殊指定、撤廃案に相次ぐ反対 新聞協会シンポ「活字文化守ろう」

2006年 5月 公取の裁量で廃止、阻止 自民が独禁法改正素案 新聞特殊指定問題

2006年 6月 新聞特殊指定、廃止見合わせを発表 見直し再開は未定 公取委

【仮説】新聞における「活字離れ」論についての考察• 「新聞特殊指定」:新聞も書籍・雑誌と同様の「再販制度」下にあるが、新聞の場合は、それに加えて「特殊指定」の対象にもなっている。• そして 1997〜 98年から 2006年にかけては、「新聞特殊指定」の見直しがさかんになった時期でもあった。• 新聞界にとって「活字離れ」についての報道は、「新聞特殊指定撤廃」「再販撤廃」を避ける、という自己利益に沿うものでもあった。• さらに、普段は週刊誌・月刊誌などの報道で利害が衝突する出版界とも、「再販撤廃」については利害が一致する、という都合の良さもあった。• 読売新聞は、 2002年 10月、活字文化推進会議を立ち上げる。現在では、「 21世紀活字文化フロジェクト」を推進し、「ビブリオバトル」の旗振り役でもある。

• 1996年、再販制度廃止反対を主張する「活字文化議員懇談会準備会」が発足。 1997年には「活字文化議員懇談会」に。 2003年「活字文化議員連盟」発足。

• 2005年、「文字・活字文化振興法」施行。以後、再販制度と新聞特殊指定維持の理論的根拠の一つとなる。• 2007年 財団法人文字・活字文化推進機構設立• ※1978年には、図書館振興を唱える「図書議員連盟」が発足。

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【仮説】政治的スローガンとしての「活字文化」

出版

新聞文字・活字文化推進機構

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NIE(教育に新聞を)

謝恩価格本販売フェア神保町ブックフェス、東京国際ブックフェア

著作物再販制度

新聞特殊指定

規制緩和

政 界官 界

活字文化推進会議活字文化議連

図書議連

公正取引委員会

規制緩和に抵抗するための「統一戦線」を構築し、維持するためのスローガンが「活字文化」。その対概念が「活字離れ」

再販制弾力運用

学校教材用新聞特別価格

【仮説】政治的スローガンとしての「活字文化」(2)• 再販制度と新聞特殊指定が、日本の「活字文化」を守っており、これらを撤廃すると、「活字文化」が崩壊し、「活字離れ」が進む、あるいは逆に「活字離れ」が進んでいるので、「活字文化を守るために再販制度と新聞特殊指定を守らなければならない、という「物語」を、新聞・出版業界は常時必要としている

• この目的のためには、「活字」「活字離れ」が何を意味するのかはある意味どうでもいい

• 新聞・出版業界の周辺の著述家や評論家は、無自覚にかあるいは自覚的にか、こうした「運動」に利用されていると考えられる

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1. 「活字離れ」論に根拠はあるか?2. 「活字離れ」論はいつ始まったのか?3. 「活字離れ」論の意義は?64

誰が? 何を? どのように? 「読まない」のか

活字離れ論の構図

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たいていは若者が指弾されるのだが、データを見ると、実は高齢者の方が「不読率」が高い。1970年代の「活字離れ」批判は、劇画好きな学生運動家=団塊世代批判だった。

「書籍」「雑誌」「新聞」「コミック」があいまい。また「ビジュアルの多い書籍」「雑誌」の流行も、「活字離れ」とされることがある(写真週刊誌)。この伝でいえば絵本の多い児童書の普及も「活字離れ」となるはずだが、児童書が非難されることはない。なぜ?

「販 売(購 入)額」「購入冊数」が問題なのか。「一人あたり」なのか、「総量」が問題なのか。「時間」か? 教科書、参考書、辞書のように、「必要な時、必要な場所だけを読む」使い方は「読書」と呼べるのか。「何冊(何分)」読めば「不読」でないといえるのか。「書く」のは「活字」に入るのか。

「活字(文字)」が問題だとすれば、現代の子どもはスマホで膨大な文字を読み書きしている。史上稀にみる「文字漬け」。※Typographic  Man を「活字人間」と訳しているが、 Web Typographyという語があるように、英語では印刷本に限る含みはない。訳語にふりまわされている?そして、「読まない」ことの何が問題なのか?

「フラスチック・ワード」•デジタル大辞泉の解説•プラスチック‐ワード( plastic

word)•《ドイツの言語学者ベルクゼンが提唱》意味のあいまいなままに、自由に形を変え、いかにも新しい内容を伝えているかのように思わせる言葉。「国際化」「世界化」「グローバル化」など。→バズワード

66※ リッフマン「ステレオタイフ」

【仮説】「外敵」が出現したとき、「活字離れ」論が立ち上がる• 「テレビの台頭」(1970年)• 「ニューメディアブーム」文字放送、通信・放送衛星(1983年)• 「マルチメディアブーム」(1994年)• 「再販撤廃」→新聞、出版が連携して反対するためのスローガンとして。※この場合の「活字」とは、「フリントメディ

ア」のことで、ムックやコミックも「活字」になる(2001年「著作物再販制度の見直しについて」)• 「軽減税率」(現在)• 「電子書籍」(2010年)※敵が3つ(電子書籍、海外事業者、ウェブ=ネット)• もちろん、単純な「売上低下」も。• しかし、過去の売上ピークが、同時に「活字離れ」論のピークとほぼ重なるということは、実態とは関係ない「体感活字離れ」があることを示す。

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新しいメディア勃興期の典型的パターン

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新メディア批判の歴史

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朝日新聞に見る注目すべき記事

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インクジェットフリンターの開発が「活字離れ」とされている例

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1992年 9月 30日朝日新聞東海版年間二万五千冊貸し出しの実績を作った高校司書の紹介。「(高山市と豊橋市の二つの高校では)『活字離れ返上』の実績を上げている」と記者は述懐するが、そのために採られた施策の一つが、宮沢りえの写真集「 Santa Fe」の購入。「 Santa Fe」は「活字」の仲間に入っているらしい。さらにいうとヌード写真集好きも「本好き」の範疇に入るということなのだろうか。

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2014年 10月 16日朝日新聞(北海道)フロ野球・日本ハムが読書推進キャンペーン。読み終えた本 1732冊を「北海道ブックシェアリング」に寄付。→これは確かに「活字離れ」の解消につながるかもしれないが、出版社の売り上げ的にはマイナス。「活字離れ」論者はこれをよしとするのかどうか?

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家計調査で「書籍・他の印刷物」への家計支出の伸びがマイナスに転じた=「活字離れ」↓

「教養娯楽サービス」(※)の伸びはフラス。※月謝、映画観覧、スポーツ観覧「(文化との接し方が)『読む』から『みる』『する』へ、静から動へ、文化に参加する人々の姿勢は急速に変わっていると言えそうだ」つまり、「活字離れ」には前向きな意義がありうることを示した記事。

1981年の構図:「活字離れ」論争?

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若者を中心に「活字離れ」がついに「読書離れ」に進んだ、と嘆く紀田順一郎氏と、「若者は活字離れなどしていない」、とする三浦雅士氏の寄稿が並ぶ面白い紙面。なお、紀田氏は「人文書などが売れなくなったこと」=「活字離れ」という認識であるようだが、三浦氏は、「文学」=「活字」であり、若者は文学的な想像力から「離れていない」とし、ここでも定義はすれ違っている。

「活字離れ」=「新聞離れ」

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今後の研究の方向•過去の「活字離れ」論をさらに収集・分類する• 規制緩和など、政治との動きのリンクを解明•より広くは、マクルーハンの新メディア批判の枠組み(いわば、「外敵撃退説」)の見地から分析•「外敵撃退説」で説明できる部分、説明できない部分•「文字離れ」「読書離れ」「出版不況」など、類縁概念との異同も考慮

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