─ 褥瘡の予防と治療...

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群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授 石川 治 先生 ろう ケア ─ 褥瘡の予防と治療 ─ 監修 褥瘡

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Page 1: ─ 褥瘡の予防と治療 ─...などに、腹臥位では膝などに、坐位では坐骨結節部などに褥瘡が発生することもある(図4)。 厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授石川 治 先生

知ろうをケア─ 褥瘡の予防と治療 ─

監修

褥瘡

Page 2: ─ 褥瘡の予防と治療 ─...などに、腹臥位では膝などに、坐位では坐骨結節部などに褥瘡が発生することもある(図4)。 厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変
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1. 急性期と慢性期

   急性期褥瘡

   慢性期褥瘡

2. DESIGN分類

   重症度分類用

   経過評価用

3. DESIGN分類による慢性期褥瘡の局所治療

   浅い褥瘡(d)の治療

   深い褥瘡(D)の治療

4. 外用薬とその基剤について

5. ドレッシング材について

1515151616181919202223

褥瘡の分類と治療

1. 褥瘡発生のメカニズム

   褥瘡発生の直接的要因

   好発部位

   褥瘡発生の二次的要因

4456

褥瘡とは

1. リスクアセスメント

   ブレーデンスケール

   OHスケール

2. 体圧分散ケア

  臥位でのケア

   体位変換

   体圧分散用寝具の使用

   ヘッドアップ

   踵骨部の除圧

  坐位でのケア

3. スキンケア

   摩擦・ずれのスキンケア

   湿潤のスキンケア

4. 栄養管理

778999

1011111112121214

褥瘡の予防と管理

褥瘡ケアを知ろう─ 褥瘡の予防と治療 ─

褥瘡ケア アルゴリズム 2

1

褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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●直接的要因は持続的圧迫●仙骨部が好発部位●局所的・全身的・社会的な 二次的要因も関与している

●体位変換 •2時間ごと  •側臥位は30度が原則 •摩擦・ずれに注意する●体圧分散用寝具の使用●ヘッドアップ •30度以下が原則●踵骨部の除圧

●姿勢保持 •90度ルール●用具の使用

体圧分散ケア●摩擦・ずれのスキンケア•半透過性フィルムなどで摩擦から皮膚を保護

•乾燥しないよう保湿剤を塗布

●湿潤のスキンケア•尿失禁には高吸水性ポリマー入り紙おむつを使用

•撥水性クリームを使用•弱酸性洗浄剤で洗浄

毎日の皮膚観察

褥瘡ケアアルゴリズム

臥位

坐位

スキンケア

褥瘡の基礎知識

2

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●ブレーデンスケール●OHスケール

リスクアセスメント

●身体計測•体重管理

●栄養管理•目安値チェック•栄養補助食品の使用

●急性期と慢性期●DESIGN分類

●急性期の治療•創の保護と適度な湿潤環境の保持•創の観察

●慢性期→DESIGN分類に基づく治療•浅い褥瘡(d)では創の保護と適度な水分バランスの保持

•深い褥瘡(D)では、①壊死組織の除去、②肉芽形成の促進、③創の縮小の順に治療方針を立て、炎症/感染の制御、滲出液の制御、ポケットの解消も随時行う。

医師に報告

栄養管理

褥瘡が発生したら…

褥瘡の予防

褥瘡の分類

褥瘡の治療

3

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褥瘡とは

圧力

目に見える皮膚部分より、見えない深部の軟部組織の方に大きな力が加わっており、血行障害を生じやすい。

皮下組織が薄いほど血行障害を生じやすい。

表皮 皮下脂肪

筋膜 筋肉骨膜

骨真皮

皮膚

(mmHg)

(時間)

6005004003002001000

2 4 6 8 10 12 14 16持続的圧迫

壊死坐位時の坐骨結節部

仰臥位時の仙骨部

褥瘡発生のメカニズム1

図1:骨突起部に加わる力 図2:圧・時間と壊死の関係

殿部皮膚カンジダ症 慢性閉塞性動脈硬化症

静脈瘤性症候群による下腿潰瘍 糖尿病性壊疽

図3:褥瘡の判別

褥瘡発生の直接的要因褥瘡は、皮膚の一定部位に持続的圧迫が加わり皮膚への血流が途絶え、皮膚が壊死に陥っ

た状態である。骨突起部などに体圧が集中すると、骨とベッドや車椅子のシートとの間に挟まれた皮膚および軟部組織の血管が圧迫され、一時的にその血管が還流している範囲は壊死に陥る。その間、組織への酸素供給が絶たれて、一定時間以上の阻血状態が続いた結果として不可逆的な組織壊死が生じる(図1)。約200mmHgで2時間、約500mmHgで20分間の圧迫が加わると皮膚に壊死が生じるとされている

(図2)。仰臥位の仙骨部には150mmHg、坐位時の坐骨結節部には500mmHgの圧がかかる。原則として、ベッド上での2時間ごとの体位変換、坐位での20分ごとのプッシュアップが推奨される。

*褥瘡の判別*

厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

石川 治、田村敦志編著:創傷治療プラクティス ─皮膚潰瘍・褥瘡・熱傷・小外傷─(南江堂)より一部改変

圧迫が原因か否かで判別する。

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踵骨部

踵骨部外果部、内果部

趾部 膝関節部 性器(男性の場合)

乳房(女性の場合)

肩峰突起部

耳介部

膝関節顆部 大転子部腸骨稜部

肋骨部肩峰突起部

耳介部

仙骨部肩甲骨部

肘頭部 後頭部

●仰臥位 ●坐位(ヘッドアップ)

●坐位(車椅子)

ぎょう が い

●側臥位そく が い

●腹臥位ふく が い

坐骨結節部

図4:褥瘡好発部位

好発部位多くの患者は仰臥位で臥床しており、この体位では仙骨部に体重の約44%が集中する。その

ため、仙骨部が褥瘡の好発部位となり、入院、在宅ともに褥瘡の40~60%が仙骨部に生じている。しかし、体位によって体圧の集中する部位が異なるため、側臥位では腸骨稜部、大転子部などに、腹臥位では膝などに、坐位では坐骨結節部などに褥瘡が発生することもある(図4)。

厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

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褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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■局所的要因

❶加齢による皮膚の変化加齢による皮脂分泌低下や発汗低下によるドライスキン、表皮の菲薄化、皮膚のバリア機能の低下などにより、外界からの刺激に弱くなる。

❷摩擦・ずれヘッドアップ、体位変換時などに摩擦やずれが生じやすい。褥瘡におけるポケット形成の一因となる。

❸失禁・湿潤失禁、下痢、発汗などによる局所の湿潤や汚染が皮膚の浸軟(ふやけ)を招き、皮膚障害を生じやすくなる。

❹局所の皮膚疾患皮膚感染症、炎症性皮膚疾患など

■全身的要因

❶低栄養低アルブミン血症による浮腫や皮膚弾力性の低下、低ヘモグロビン血症による皮膚組織耐久性の低下が褥瘡の発生や予後に影響する。

❷やせ低栄養が進むと皮下脂肪が減少し、骨突出を生じやすいため褥瘡ができやすくなる。

❸加齢、基礎疾患など加齢に伴う日常活動性や精神活動性の低下、生体防御機能の低下、さらに基礎疾患としての骨粗鬆症、糖尿病、心不全、閉塞性血管病変なども関与する。

❹薬剤投与抗がん薬、ステロイドなどによる易感染性、創傷治癒遷延などが指摘されている。

■社会的要因❶介護のマンパワー不足❷経済力不足❸情報不足

社会的要因●介護のマンパワー不足●経済力不足●情報不足

全身的要因●低栄養●やせ●加齢、基礎疾患など●薬剤投与

褥瘡発生

局所的要因●加齢による皮膚の変化●摩擦・ずれ●失禁・湿潤●局所の皮膚疾患

図5:褥瘡の二次的要因

褥瘡発生の二次的要因褥瘡発生とその予後には、直接的な皮膚局所要因のみでなく、多彩な局所的、全身的ある

いは社会的な二次的要因が加わることが常である(図5)。

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知覚の認知圧迫による不快感に対して適切に対応できる能力

1. 全く知覚なし 2. 重度の障害 あり

3. 軽度の障害 あり

4. 障害なし

可動性体位を変えたり整えたりできる能力

1. 全く体動なし 2. 非常に 限られる

3. やや限られる 4. 自由に 体動する

湿潤皮膚が湿潤にさらされる程度

1. 常に湿って いる

2. たいてい 湿っている

3. 時々湿って いる

4. めったに 湿っていない

活動性行動の範囲

1. 臥床 2. 坐位可能 3. 時々歩行可能 4. 歩行可能

栄養状態普段の食事摂取状況

1. 不良 2. やや不良 3. 良好 4. 非常に良好

摩擦とずれ 1. 問題あり 2. 潜在的に 問題あり

3. 問題なし

Total

褥瘡のケアの基本は予防であり、そのためには個々の褥瘡発生の危険性を予測することが必要となる。褥瘡のリスクアセスメントには、ブレーデンスケール、OHスケールなどの褥瘡発生予測スケールを使用し、定期的に評価することが必要である。

ブレーデンスケール米国のBraden Scaleを翻訳した日本語版ブレーデンスケールは、看護師が日常業務の中

で観察できる知覚の認知・湿潤・活動性・可動性・栄養状態・摩擦とずれの6項目からなり、リスクを評点化して判定する。点数は6~23点の範囲となり、点数が低いほど褥瘡発生の危険性が高くなる(表1)。

リスクアセスメント1

採点の仕方:危険点は病院で14点以下、施設・在宅で17点以下。採点開始時期:寝たきりの状態、つまり可動性、活動性が低下し、いずれかが2点以下になったとき。

採 点 頻 度:急性期は48時間ごと、慢性期は1週間ごとに行う。高齢者の場合は、最初の4週間は毎週、その後状態の変化がない場合は3ヵ月に1回を目安とする。

採 点 者:看護者によって差が出ることもあるため、できるだけ同一の看護者が同一の患者を継続して採点することが望ましい。

注 意 点:褥瘡発生の判断のため、皮膚の観察を毎日行うこと。

スケールの使用方法

表1:ブレーデンスケール

石川 治、田村敦志編著:創傷治療プラクティス ─皮膚潰瘍・褥瘡・熱傷・小外傷─(南江堂)より一部改変

褥瘡の予防と管理

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褥瘡の分類と治療

褥瘡の予防と管理

褥瘡とは

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表3:OHスコアのレベル分けと褥瘡発症確率

OHスコア(危険要因保有合計点数) 点数 褥瘡発症確率

偶発性褥瘡 危険要因なし 0点 ─

起因性褥瘡

軽度レベル 1~ 3点 約25%以下

中等度レベル 4~ 6点 約26~65%

高度レベル 7~ 10 点 約66%以上

宮地良樹、真田弘美編著:よくわかって役に立つ 新・褥瘡のすべて(永井書店)

OHスケール1998年から3年間にわたる厚生労働省長寿科学総合研究班(大浦武彦班長)による調査をもと

に作成されたスケールである。スケールは自力体位変換・病的骨突出・浮腫・関節拘縮の4項目で、項目によって重みが異なっており、得点域は0~10点となる。また、危険要因を「もつ」か「もたない」かによって分類する(表2)。

4項目の危険要因を採点し、その合計点により患者を4段階に分類している。危険要因をもつ患者の褥瘡は、軽度(1~3点)・中等度(4~6点)・高度レベル(7~10点)に分類する(表3)。

OHスコアによる褥瘡発症確率は、軽度レベルで約25%以下、中等度レベルで約26~65%、高度レベルでは約66%以上とされている。全ての危険要因を重症の状態でもつ場合は91%とされ、たとえ治癒しても再発しやすい状態である。

危険要因 点数

自力体位変換麻痺・安静度意識状態の低下(麻酔覚醒、薬剤)

できるどちらでもないできない

0点1.5点3点

病的骨突出(仙骨部)なし軽度・中等度高度

0点1.5点3点

浮腫 なしあり

0点3点

関節拘縮 なしあり

0点1点

宮地良樹、真田弘美編著:よくわかって役に立つ 新・褥瘡のすべて(永井書店)

表2:褥瘡危険要因点数表

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体圧分散ケア2

12

6

10

8

2

4

午前

仰臥位

右側臥位右側臥位

左側臥位

仰臥位 仰臥位

12

6

10

8

2

4

午後

仰臥位

左側臥位左側臥位

右側臥位

仰臥位 仰臥位

図6:体位変換スケジュール表

体圧とは、ベッドなどの寝具から体表面に加わる圧力のことであり、褥瘡ケアには骨突起部に加わる圧力をできるだけ低く保つことが重要である。体圧分散ケアには、臥位における体位変換や体圧分散用具の使用、坐位における姿勢保持

や用具の使用などがある。

臥位でのケア

体位変換・体位変換の基本は圧迫が加わった部位の圧を下げ、体重の分散を図ることである。

・体位変換は、例えば2時間ごとに仰臥位→右(左)側臥位→仰臥位→左(右)側臥位→仰臥位の順に行う(図6)。

・側臥位は30度が原則である(図7)。その理由は、30度側臥位にすることにより骨突出がなく最も広い面積をもつ殿筋で体重を受けることができるからである。このとき、種々の形や大きさのクッションを用いて姿勢保持を援助する。

・患者の体動に制限があり、体位変換に協力できない場合は摩擦とずれを引き起こさないよう2人で行う(図8)。また、体位変換後、しわによる圧迫を除くために、体を浮かせて、患者の皮膚および寝衣・寝具のしわを伸ばす。

30度

大転子

殿筋

仙骨

図7: 30度側臥位 図8: 2人で行う体位変換

石川 治、田村敦志編著:創傷治療プラクティス ─皮膚潰瘍・褥瘡・熱傷・小外傷─(南江堂)

石川 治、田村敦志編著:創傷治療プラクティス ―皮膚潰瘍・褥瘡・熱傷・小外傷―(南江堂)

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褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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あり

あり

あり

あり

あり

あり

あり

あり

あり

なし

なし

なし なし

なしなし

なし

なし

なし

体位変換時の安定性を優先して選択

圧力分散を優先して選択

定期的にスキンチェック・体圧測定

定期的にスキンチェック ・ 体圧測定 定期的にスキンチェック ・ 体圧測定

*看護師、介護者による体位変換ができない場合

骨突出自力体位変換能力

ヘッドアップ45度以上

ヘッドアップ45度以上

強度屈曲型拘縮あり

発赤(反応性充血含む)発生

骨突出

上敷ウレタンフォームマットレス上敷ゲルまたはゴムマットレスリバーシブルマットレス(柔面)端坐位:超薄型上敷エアマットレス

上敷き2層式エアセルマットレス交換エアマットレス交換ウォーターマットレスローリング機能付交換エアマットレス*ローリングベッド*

交換ウレタンフォームマットレス交換ハイブリッド型マットレス上敷き2層式エアセルマットレス

拘縮対応型超高性能エアマットレス低圧保持可能な高機能エアマットレス特殊ベッド

発赤(反応性充血含む)発生

発赤(反応性充血含む)発生

上敷きエアマットレスローリング機能付交換エアマットレス*ローリングベッド*

図9:体圧分散用寝具選択基準

体圧分散用寝具の使用■体圧分散用寝具とは体圧分散用具は除圧機能を有し、体圧分散用寝具は大きく2種類に分けられる。

 ❶接触部位を別の部位に変えるもの  例:圧切替型エアマットレス

─エアセル内圧を交互に上下することにより、各部位に圧の加わらない時間を設けることができる。

 ❷接触面積を広くして圧力を減少させるもの  例:静止型マットレス(ウレタンフォームマットレスなど)

─柔らかいマットレスを使用することにより、身体が沈み込み、接触面積が広くなる。

■体圧分散用寝具の種類と選択自力体位変換能力や骨突出の有無などを評価し、適切な体圧分散用寝具を選択する(図9)。

■体圧分散用寝具の管理体圧分散用寝具は、体圧分散機能が十分にあるかどうかをきちんと確認しながら使用する

ことが重要である。エアマットレスでは、底付きを確認し適切な圧設定であるか、エアセルの破損がないかなどを常に確認することが大切である(図10)。

宮地良樹、真田弘美編著:よくわかって役に立つ 新・褥瘡のすべて(永井書店)

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ヘッドアップヘッドアップは30度以下が原則である。ヘッドアップ角度が45度では上半身体重の50%、

70度では88%が仙骨部から尾骨部に集中する。また、ヘッドアップ時には平均0.7kg、ヘッドダウン時には重心が下方へ移動し1.8kgの引っ張り加重が加わる。ヘッドアップ・ヘッドダウン後は皮膚にずれが生じているため、患者を支えながらベッドか

ら背中をいったん浮かせてずれを解消する「背抜き」や「抱き起こし」を必ず行う。

踵骨部の除圧下腿部に座布団やクッションを当て、踵骨部を浮かせて除圧

する(図11)。踵骨部に円座を使用してはならない。円座に接触する皮膚に引

張力と圧迫が加わり虚血状態を起こす。

坐位でのケア

■姿勢保持90度ルール(股関節90度、膝関節90度、足関節90度)で座ると、圧力は殿部から骨突起がなく支持面積の広い大腿後面へと移動し、褥瘡ができにくくなる(図12)。90度ルールの坐位が保持できる姿勢補正用車椅子を使用したり、背部・側腹部に枕などをあてて体位を安定させることもある。体動可能な患者は20分ごとに両腕で上半身を持ち上げ、殿部の

除圧を行う(プッシュアップ)。これができない場合には、坐位時間を1時間以内とする。

■用具の使用自ら90度ルールの坐位姿勢が保持できない患者、尾骨部の骨突

起が著しい患者においては、坐位姿勢保持用具や体圧分散クッションを使用する(適切なポジショニング)。

中指か人差し指を曲げてみる

指を曲げると骨突起に触れる(2.5cm前後)

適切なマット内圧

どれだけ曲げても骨突起に触れない(2.5cm以上)

空気の入れすぎ状態マット内圧を低くする

曲げる余地がないすぐに骨突起に触れる(2.5cm以下)

底付き状態マット内圧を高くする

手の平を上にし、指をまっすぐにして、マットの下に差し込む。圧迫部位の真下に入れること。

図10:底付きの確認方法

図11:踵骨部の除圧方法

踵がつく90°

90°

2.5cm

90°

図12: 90度坐位姿勢

厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)

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褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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スキンケア3

図13:骨突起部に半透過性フィルムを貼付 図14:乾燥した皮膚に保湿剤を塗布

摩擦・ずれのスキンケア■摩擦・ずれとは摩擦とは、自力あるいは他力で身体を移動させるときに皮膚の表面がベッドに擦れる現象

であり、摩擦の刺激が繰り返されることにより表皮が損傷しやすくなり、わずかな圧迫でも褥瘡が発生しやすくなる。ずれとは、接触面に沿った圧迫である。ヘッドアップを行い患者がずり下がったとき、組

織内では筋肉から皮膚に向かって血管が引き伸ばされて細くなるため、皮膚への血行が悪くなり、わずかな圧迫でも虚血となり褥瘡が発生しやすくなる。

■摩擦・ずれのスキンケア・患者の体動に制限があり体位変換に協力できない場合は、体位変換の介助は2人で行う。また、寝衣・寝具のしわに注意する。

・骨突起部のマッサージは皮膚組織に摩擦・ずれを生じさせることになるため禁忌である。

・ヘッドアップは30度以下とする。また、「背抜き」を行ったり、ずれを予防できる用具を使用したりする。

・坐位の場合は90度ルールの坐位姿勢を保持する。

・骨突起部に半透過性フィルムなどを貼付し、摩擦から皮膚を保護する(図13)。

・乾燥した皮膚は摩擦により表皮が剥離しやすいため、入浴後や清拭後に保湿剤を塗布し、皮膚の乾燥を防ぐ(図14)。また、室内湿度が40%以下にならないよう、皮膚が寒気にさらされないよう注意する。

湿潤のスキンケア湿潤の原因には発汗、尿、便などがある。これらは皮膚を保護している皮脂を取り除いて

皮膚のバリア機能を低下させたり、皮膚を浸軟(ふやけ)させて摩擦・ずれを生じやすくさせたりする。また、便や放置した尿はアルカリ性のため、皮膚に刺激を与え皮膚傷害が起こりやすくなる。

12

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図16:清拭方法とタオルの巻き方

■尿失禁の場合・高吸水性ポリマー入り紙おむつを使用する。しわができてその部分の体圧が高まるのを防ぐため、身体の動きにフィットした患者に合ったサイズのパンツタイプを選択し、おむつやパッドは何枚も重ねて使用しないようにする。

・男性で常時尿が漏れたり、尿量が多い場合などには陰茎固定型収尿器を使用する。

・尿が殿部や背部に流れる場合は撥水性クリームを使用する。

■便失禁の場合・下痢、水様便の場合は残渣が紙おむつ表面の不織布に目詰まりを起こし吸水能を低下させることがあるため、布おむつを1枚敷いて水分と残渣を濾し分ける。

・便失禁の回数が多い場合は肛門用装具を使用する。

・便付着による皮膚炎を予防するため撥水性クリームを使用する。

■失禁により皮膚トラブルがある場合・排便・排尿ごとに刺激の少ない石けんを使い、ぬるま湯で皮膚をこすらないように洗浄し、撥水性クリームを塗布する。

・細菌や真菌(カビ)感染の可能性もあるので医師と経過観察を行う。

■洗浄・清拭ぬるま湯と弱酸性洗浄剤を用い、使い捨て手袋をはめた手でやさしく洗浄する(図15)。強くこすってはいけない。最後に生理食塩水や水道水などで洗い流す。洗浄時に洗浄液が褥瘡に流れても心配ない。洗浄後は皮膚にタオルを押し付けるようにして水分を拭き

取る(図16)。保湿剤、撥水性クリームなどを皮膚の状態によって使い分ける。また、血行促進により創部の治癒が促進されるため、全身状態が落ち着いていればできるだけ入浴させる。

図15:洗浄方法

タオルの巻き方

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褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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栄養管理4

表4:栄養管理の目安

血中濃度 1日必要量

血清アルブミンヘモグロビン空腹時血糖血清鉄血清亜鉛血清銅血清カルシウム血清ビタミンA血清ビタミンC血清ナトリウム摂取エネルギー水分

3.0g/dL以上11.0g/dL以上80~110mg/dL80~160μg/dL70~150μg/dL80~130μg/dL8.5~10.3mg/dL400~1,200ng/mL

2~15μg/mL137~147mEq/L

タンパク質として1.1~1.2g/kg

15mg15mg

1.3~2.5mg600mg2,000IU

150~500mg食塩として10g以下25~30kcal/kg

1L以上

石川 治、田村敦志編著:創傷治療プラクティス ─皮膚潰瘍・褥瘡・熱傷・小外傷─(南江堂)

褥瘡患者のほとんどが低栄養状態であり、低栄養は褥瘡の発生や治癒の妨げに大きく関与している。そのため、栄養状態のアセスメントが重要となる。

■身体計測身長、体重を測定し、BMI[Body Mass Index:体重(kg)÷身長(m)2]を求める。BMI 20以下が「やせ」と判定される。また、体重減少率が1ヵ月に5%以上、あるいは3ヵ月で7.5%以上は褥瘡の危険要因となる。1ヵ月に1回は体重を測定し記録することが望ましい。

■栄養管理(表4)・血清総タンパク、血清アルブミン、血糖、血清コレステロール、血液ヘモグロビンおよびリンパ球数、ヘマトクリット、血清クレアチニンは必須検査項目である。血清アルブミン値、血液ヘモグロビン値の低下は褥瘡発生の危険要因であることが明らかになっている。また、ヘマトクリット値から脱水の有無をチェックする。

・高齢者の必要エネルギー量は標準体重あたり25~35kcal/kg/日であるが、体重減少が著しい高齢者では30~40kcal/kg/日とやや多めに設定し、経過をみて適宜増減する。

・タンパク質は、高齢者の褥瘡予防には1.13g/kg、低栄養状態では1.25~1.5g/kgを目標とする。

・水分は、脱水や浮腫がなければ食物由来の水分も含めて30mL/kg/日を目安として補給する。

・亜鉛は、高齢者が摂取する通常の病院・施設食の量では不足するので、補助食品で補う。

・ビタミンA、ビタミンCが不足すると皮膚の再生が遅滞する。

・高齢者が通常の食事でバランスよく必要な栄養素を摂取することは難しいので、目的に合わせて各種栄養素、ビタミン、ミネラルなどが調整された栄養剤、栄養補助食品を上手に利用する。

14

Page 17: ─ 褥瘡の予防と治療 ─...などに、腹臥位では膝などに、坐位では坐骨結節部などに褥瘡が発生することもある(図4)。 厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

褥瘡が発生した直後から約1~2週間の時期を急性期、それ以降を慢性期とよぶ。

急性期褥瘡■特徴・全身状態が不安定でさまざまな褥瘡発生要因が混在している。・局所には強い炎症反応を認め、知覚障害がない場合には痛みを伴いやすい。・紅斑(発赤)、紫斑、水疱、びらん、浅い潰瘍、浮腫、硬結といった多彩な症状が短時間に現れる。・不可逆的な阻血性傷害がどの深さまで達しているかを判定するのは難しい。

■治療・褥瘡の発生原因を追究し、徹底して除去する。・刻々と変化する可能性がある創を毎日注意深く観察する。・局所治療の基本は創の保護と適度な湿潤環境の保持である。各種ドレッシング材が用いられることが多い。ドレッシング材は創の状態が透見でき、非固着性あるいは粘着力の弱いものが望ましい。その他、創面保護効果の高い油脂性基剤(白色ワセリンなど)、感染を合併している場合には非特異的抗菌活性を有する外用薬などを用いる。

■経過急性期の褥瘡は、時間経過とともに

局所病態が落ちついてくる。このとき、紅斑(発赤)だけの場合は治癒することもある。また、紅斑や水疱、びらん、浅い潰瘍といった状態が続く場合は浅い褥瘡、創面が次第に暗紫色から黒褐色に変化してくる場合は深い褥瘡と判断する(図17)。

急性期と慢性期1

急性期 慢性期

発赤紫斑水疱びらんなど

刻々と変化する創を毎日注意深く観察する

浅い褥瘡

治癒

深い褥瘡暗紫色~黒褐色化

図17:褥瘡の進展様式

褥瘡の分類と治療

宮地良樹、真田弘美編集:「ガイドラインを読む」シリーズ 褥瘡局所治療ガイドライン編(メディカルレビュー社)より一部改変

慢性期褥瘡DESIGN分類に基づいて治療方針を決める(P.16~参照)。

15

褥瘡とは

褥瘡の分類と治療

褥瘡の予防と管理

Page 18: ─ 褥瘡の予防と治療 ─...などに、腹臥位では膝などに、坐位では坐骨結節部などに褥瘡が発生することもある(図4)。 厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

DESIGN分類2

Depth 深さ (創内の一番深いところで評価する)

Exudate 滲出液 (ドレッシング交換の回数)

Size 大きさ [長径(cm)×長径と直交する最大径(cm)]

Inflammation/Infection 炎症/感染

Granulation tissue 肉芽組織 (良性肉芽の割合)

Necrotic tissue 壊死組織 (壊死組織の有無)

Pocket ポケット (ポケットの有無)

部位[仙骨部、坐骨部、大転子部、踵骨部、その他(       )]

d

カルテ番号(         )患 者 氏 名(              )

e

s

i

g

n

日時

D

E

S

I

G

N

-P

真皮までの損傷

1日1回以下

100未満

局所の感染徴候なし

50%以上(真皮までの損傷時も含む)

なし

皮下組織から深部

1日2回以上

100以上

局所の感染徴候あり

50%未満

あり

あり

表5:DESIGN褥瘡重症度分類用

2002年に日本褥瘡学会学術教育委員会が開発した褥瘡状態判定スケール。6つの項目で構成されており、それぞれの項目の英語の頭文字をとりDESIGNと表記する(図18)。ポケット(Pocket)が存在する場合には最後にPを付加し、DESIGN-Pと表記する。褥瘡の重症度を分類するとともに、治癒過程を数量化することができ、重症度分類用と経過評価用の2段階構成となっている。急性期は病態の変化が早く、多岐にわたるため、DESIGN分類は急性期には使用しない。経過評価用は2008年に改訂され、経過評価に加え患者間の重症度比較もできるDESIGN-R

(Rはrating(評価・評点))が作成された。

重症度分類用6つの評価項目を軽度と重度の2つに区分して、軽度はアルファベットの小文字、重度は大

文字を用いて表す(表5)。初療時に重症度分類用を用いて評価することで、褥瘡の大まかな状態を把握することがで

きる。どの項目が問題であるかがわかるため、治療方針を容易に決定できる。大文字で表記された項目(重症度が高い項目)を小文字に変えていくように治療する。

Depth :深さExudate :滲出液Size :大きさInfl ammation/Infection:炎症 /感染Granulation tissue :肉芽組織Necrotic tissue :壊死組織Pocket :ポケット

図18:DESIGNの項目

日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(照林社)

16

Page 19: ─ 褥瘡の予防と治療 ─...などに、腹臥位では膝などに、坐位では坐骨結節部などに褥瘡が発生することもある(図4)。 厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

❶Depth:深さ創内の一番深いところで判定し、真皮全層の損傷(真皮層と同等の肉芽組織が形

成された場合も含める)までをd、皮下組織を越えた損傷をDとし、壊死組織のために深さが判定できない場合もこのDの範疇に含める。

❷Exudate:滲出液ドレッシング交換の回数で判定する。ドレッシング材の種類は詳しく限定せず、

1日1回以下の交換の場合をe、1日2回以上の交換の場合をEとする。

❸Size:大きさ褥瘡の皮膚損傷部の長径(cm)と長径と直交する最大径(cm)を測定し、それぞれを

かけたものを数値として表現する。100未満をs、100以上をSとする。ただし、この値は面積を示すものではない。

❹Inflammation/Infection:炎症/感染局所の感染徴候のないものをi、感染

徴候のあるものをIとする。

❺Granulation tissue:肉芽組織良性肉芽の割合を測定し、50%以上

をg、50%未満をGとする。なお、良性肉芽は必ずしも病理組織学的所見とは限らず、鮮紅色を呈する肉芽を表現するものとする。

❻Necrotic tissue:壊死組織壊死組織の種類に関わらず、壊死組

織なしをn、ありをNとする。

i の症例 I の症例

gの症例 Gの症例

黄色で浸軟している 黒色で乾燥している

❼Pocket:ポケット褥瘡にはポケットが存在する場合と存在しない場合がある。ポケットが存在しな

い場合には何も書かず、存在する場合のみDESIGNの後に-Pと記載する。

*DESIGNの項目(褥瘡重症度分類用)*

日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(照林社)

Nの症例slough:黄色壊死組織

Nの症例eschar:黒色壊死組織

17

褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

Page 20: ─ 褥瘡の予防と治療 ─...などに、腹臥位では膝などに、坐位では坐骨結節部などに褥瘡が発生することもある(図4)。 厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン(照林社)より一部改変

表6:DESIGN-R褥瘡経過評価用

合計部位[仙骨部、坐骨部、大転子部、踵骨部、その他(       )]

カルテ番号(         )患 者 氏 名(              )

D

E

S

I

G

N

P

月日

創内の一番深い部分で評価し、改善に伴い創底が浅くなった場合、これと相応の深さとして評価する

混在している場合は全体的に多い病態をもって評価する

毎回同じ体位で、ポケット全周(潰瘍面も含め)[長径(cm)×長径と直交する最大径(cm)]から潰瘍の大きさを差し引いたもの

d

e

s

i

g

p

0368912

皮膚損傷なし4未満4以上 16未満16以上 36未満36以上 64未満64以上100未満

皮膚損傷・発赤なし持続する発赤

皮下組織までの損傷皮下組織を越える損傷関節腔、体腔に至る損傷深さ判定が不能の場合

691224

4未満 4以上16未満16以上36未満36以上

柔らかい壊死組織あり硬く厚い密着した壊死組織あり

壊死組織なし

ポケットなし

0

1

3

0

1

3

9

0

1

3

4

5

6

0

0

なし

100以上

多量:1日2回以上のドレッシン   グ交換を要する

少量:毎日のドレッシング交換   を要しない

局所の炎症徴候なし

局所の炎症徴候あり(創周囲の発赤、腫脹、熱感、疼痛)

01

2

345U

真皮までの損傷

治癒あるいは創が浅いため肉芽形成の評価ができない

良性肉芽が創面の90%以上を占める

良性肉芽が創面の50%以上90%未満を占める

良性肉芽が創面の10%以上50%未満を占める

良性肉芽が創面の10%未満を占める

良性肉芽が全く形成されていない

局所の明らかな感染徴候あり(炎症徴候、膿、悪臭など)

全身的影響あり(発熱など)

中等量:1日1回のドレッシング    交換を要する

6

15

36

n

Depth 深さ

Exudate 滲出液

Size 大きさ 皮膚損傷範囲を測定:[長径(cm)×長径と直交する最大径(cm)]*

Inflammation/Infection 炎症/感染

Granulation tissue 肉芽組織

Necrotic tissue 壊死組織

Pocket ポケット

経過評価用各項目に異なる重み付けをしており、深さ以外の6項目の合計点(0~66点)がその創の重症

度を表す。深さ(Depth:d、D)の得点は合計点には加えない。例えば「D3-e3s9i1G4N3p0:20(点)」と表記する(表6)。治療開始後に、治療経過を詳細かつ客観的に評価できる。個人の経過評価だけでなく、患者間の重症度比較もできる。

* 持続する発赤の場合も皮膚損傷に準じて評価する  日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(照林社)18

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DESIGN分類による慢性期褥瘡の局所治療3

表皮

浅い褥瘡

深い褥瘡

真皮

毛包 汗腺

皮下組織

筋、骨

浅い褥瘡(d)の治療基本的に創の保護と適度な水分バランスの保持が重要である。一般的にドレッシング材が

有用であるが、代わりに外用薬を用いることもある。

発赤:ドレッシング材などで創を保護することが治療の中心となる。

水疱:ドレッシング材などで創を保護することが治療の中心となる。水疱が緊満している状態では、水疱を穿刺し、内容液の排出を図ることがある。

びらん、浅い潰瘍:吸水性のあるドレッシング材や外用薬を用いる。

*浅い褥瘡と深い褥瘡の違い*浅い褥瘡は損傷が真皮までにとどまり、

ほとんどの場合毛包などから新たな表皮が再生することで治癒できる。一方、深い褥瘡は損傷が皮下組織にまで及んでおり、壊死に陥った深部組織(皮下組織や筋組織など)が再生することはなく、壊死組織が取り除かれた創面に肉芽組織が形成され、さらにそれが瘢痕組織に変化することで治癒に至る(図19)。すなわち、褥瘡が浅い褥瘡か深い褥瘡か

でその治癒過程は大きく異なってくる。

慢性期褥瘡の局所治療においては、まず治療する褥瘡が浅い褥瘡(d)であるか深い褥瘡(D)であるかを考えることが重要である。

図19:皮膚の構造

19

褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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(肉芽形成の促進)G g

(創の縮小)S s

(壊死組織の除去)N n

これらの要素については、大文字のものがあれば、適宜それを小文字に、あるいはそれをなくすための治療を最優先に考える。

(炎症/感染の制御)

(滲出液の制御)

(ポケットの解消)

IEP

ie

(-)

図20:深い褥瘡の局所治療

深い褥瘡(D)の治療深い褥瘡(D)では、治療経過とともに局所の病態が大きく変化する。そこで、DESIGN重

症度分類の深さ(D)以外の項目の中で特に大文字(重度)のものに注目し、それを小文字(軽度)に変えていくような治療方針を立てる。DESIGNの項目の中でも、壊死組織(N)、肉芽組織(G)、大きさ(S)については、一般には

N→G→Sの順に注目し、①創から壊死組織を除去し(N→n)、②清浄化した創面から良性肉芽組織を盛り上げ(G→g)、③創の縮小を図る(S→s)ことで深い褥瘡を治癒に導く。その他の項目である炎症/感染(I)、滲出液(E)やポケット(P)については、大文字(重度)の

ものがある場合には適宜これを小文字(軽度)にする、もしくは軽減、解消するような治療を優先的に、あるいは上記の治療と併せて行う(図20、21)。

日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(照林社)

20

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図21:慢性期の深い褥瘡(D)に対するDESIGN-Rに準拠した外用剤、ドレッシング材の選択

:十分な根拠*があり、行うよう強く勧められる:根拠があり、行うよう勧められる:根拠は限られているが、行ってもよい

ABC1

C2D

*根拠とは臨床試験や疫学研究による知見を指す

推奨度

Necrotic tissue

【壊死組織】N→n

Inflammation/Infection

【炎症 /感染】I→i

Exudate

【滲出液】E→e

Granulationtissue

【肉芽組織】G→g

Size

【大きさ】S→s

Pocket

【ポケット】P→(-)

外用薬

ドレッシング材

B C1 C2:根拠がないので、勧められない:無効ないし有害である根拠があるので、行わない よう勧められる

アルプロスタジルアルファデクス

カデキソマー・ヨウ素

アルプロスタジルアルファデクス

ブクラデシンナトリウム ブクラデシンナトリウム

幼牛血液抽出物

カデキソマー・ヨウ素カデキソマー・ヨウ素

スルファジアジン銀

ポビドンヨード

アルギン酸Ag

銀含有ハイドロファイバー®

ヨウ素軟膏

ヨードホルム

ポビドンヨード・シュガーポビドンヨード・シュガー

スルファジアジン銀

酸化亜鉛

トレチノイントコフェリル

ジメチルイソプロビルアズレン

トラフェルミン

ポビドンヨード・シュガー

リゾチーム塩酸塩

アルクロキサ

臨界的定着の疑いカデキソマー・ヨウ素渗出液が多い

アルギン酸塩

キチン

アルギン酸塩

アルギン酸/CMC

アルギン酸塩渗出液が多い

アルギン酸塩渗出液が多い

アルギン酸/CMC渗出液が多い

アルギン酸フォーム

ハイドロジェルハイドロジェル

アルギン酸フォーム渗出液が多い

キチン渗出液が多い

ハイドロポリマーハイドロポリマー渗出液が多い

ポリウレタンフォームポリウレタンフォーム渗出液が多い

ポリウレタンフォーム/ソフトシリコンポリウレタンフォーム/ソフトシリコン

渗出液が多い

ハイドロコロイド

ハイドロファイバー®

ハイドロファイバー®/ハイドロコロイド

ハイドロコロイド渗出液が少ない

ハイドロジェル渗出液が少ない

ハイドロファイバー®渗出液が多い

アルギン酸Agアルギン酸Ag

銀含有ハイドロファイバー®

アルギン酸塩渗出液が多い

アルギン酸Ag渗出液が多い

ハイドロファイバー®(銀含有製材を含む)

渗出液が多い

デキストラノマー

ブロメライン

デキストラノマー渗出液が多い

ポビドンヨード・シュガー渗出液が多い

ヨウ素軟膏渗出液が多い

ポビドンヨード・シュガー渗出液が多い

乳剤性基剤の軟膏

フラジオマイシン硫酸塩・結晶トリプシン

渗出液が少ない

トレチノイントコフェリル渗出液が少ない

トラフェルミン渗出液が少ない

スルファジアジン銀臨界的定着の疑い

ポビドンヨード・シュガー臨界的定着の疑い

ヨウ素軟膏臨界的定着の疑い

銀含有ハイドロファイバー®臨界的定着の疑い

スルファジアジン銀渗出液が少ない[感染創]

トレチノイントコフェリル渗出液が少ない[非感染創]

日本褥瘡学会教育委員会ガイドライン改訂委員会:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版). 褥瘡会誌, 17(4):487-557,2015.を基に作成21

褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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外用薬とその基剤について4褥瘡局所の治療に用いる外用薬は、褥瘡の病態に応じた選択や使い分けが大切である。外

用薬は薬効成分と基剤から成る。基剤は創の保護、水分補給あるいは吸収などの役割も担っている。外用薬の選択には目的とする薬効のみでなく、基剤の性質を考慮することが重要である。急性期で滲出液の多い時期では創面水分量が多く、滲出液が減少するにつれて創面水分量

も減少する。よって、滲出液を吸収する外用薬を漫然と使用すると、水分量が過度に減少して湿潤環境が保持できなくなるため、薬剤を変更して湿潤環境を保持する必要がある。滲出液量が多い場合はポリマービーズ、精製白糖や水溶性のマクロゴール基剤を用いた外

用薬、適切な湿潤状態の場合はワセリン基剤、プラスチベース基剤や油中水型の乳剤性基剤を用いた外用薬、滲出液量が少ない場合は水溶液、水中油型の乳剤性基剤やハイドロゲル基剤を用いた薬剤を選択する(表7、図22)。

創面の変化

潰瘍発生

創面水分量

肉芽形成上皮化

適正水分量

滲出液量

治癒

細菌量壊死組織

上皮化が進むと水分量が低下してくる

図22:創面の水分コントロール概念図

外用薬(代表的な製品)基剤の種類

疎水性基剤

親水性基剤

水 分含有率

水 分吸収率

酸化亜鉛軟膏ジメチルイソプロピルアズレン軟膏アルプロスタジルアルファデクス軟膏

マクロゴール軟膏

マクロゴール軟膏(+白糖)マクロゴール軟膏(+ポリマービーズ)マクロゴール600(+ポリマービーズ)

吸水軟膏、コールドクリーム、親水ワセリン、ラノリン

分 類

油脂性基剤

乳剤性基剤

水溶性基剤

懸濁性基剤

水中油型(0/W)油中水型(W/0)

───

───

73%67%

──

21%25%

──

───

76%370%300%

トレチノイントコフェリル軟膏スルファジアジン銀クリーム

白糖・ポビドンヨード配合製剤カデキソマー・ヨウ素軟膏デキストラノマー

リゾチーム塩酸塩製剤幼牛血液抽出物軟膏剤

ハイドロゲル基剤FAPG基剤

アルクロキサ製剤   ─

60%─

──

ブクラデシンナトリウム軟膏ブロメライン軟膏スルファジアジン軟膏

───

───

白色ワセリン、プラスチベース単軟膏、亜鉛華軟膏

鉱物性動植物性

親水軟膏、バニシングクリーム

表7:外用薬の軟膏基剤による分類

古田勝経著:薬局別冊2006年(vol.57)8月臨時増刊号 褥瘡外用療法のヒミツ ─事例で学ぶ極意─(南山堂)

古田勝経著:薬局別冊2006年(vol.57)8月臨時増刊号 褥瘡外用療法のヒミツ ─事例で学ぶ極意─(南山堂)

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ドレッシング材について5

表9:ドレッシング材の機能別分類

機  能 ドレッシング材 主な適応

創面を閉鎖し創面に湿潤環境を形成する

ハイドロコロイド 主に肉芽組織増殖促進、上皮形成促進

ポリウレタンフィルム ─

乾燥した創を湿潤させる ハイドロジェル 乾燥した壊死組織に覆われている創の壊死組織の除去

滲出液の吸収・保持

キチン、アルギン酸塩、ハイドロファイバー ®(銀含有製材を含む)、ハイドロポリマー、ポリウレタンフォーム

主に炎症期から肉芽組織増殖期への移行期までの滲出液が多量な創、壊死組織除去など創面の清浄化が必要な創、肉芽組織増殖のために滲出液のコントロールが必要な創

 ドレッシング材には創面に湿潤環境を形成する機能がある(表9)。

・創面を閉鎖し創面に湿潤環境を形成するドレッシング材・乾燥した創を湿潤させるドレッシング材・滲出液を吸収し保持するドレッシング材

ドレッシング材は、創傷治癒環境整備を目的に創を直接覆う治療材料である。創の解剖学的深さにより、皮膚欠損用ドレッシング材(特定保険医療材料)として褥瘡治療にも適応となる。ポリウレタンフィルムも含めると、全8種類が褥瘡治療環境整備に使用できる(表8)。近年、moist wound healing(P.24参照)理論に基づいたドレッシング材が開発されている。

表8:皮膚欠損用ドレッシング材

保険償還 定  義 使用材料

技術料に包括 ─ ポリウレタンフィルム

特定保険医療材料

皮膚欠損用創傷被覆材

真皮に至る創傷用 真皮に至る創傷に使用されるものであること

キチンハイドロコロイドポリウレタンフォームハイドロジェル

皮下組織に至る創傷用

標準型次のいずれにも該当すること

ア:皮下組織に至る創傷に使用されるものであることイ:シート、ロープ、リボン状などの標準形状であること

ハイドロコロイドハイドロジェルキチンアルギン酸塩ハイドロファイバー ®

ハイドロポリマーポリウレタンフォーム

異形型

次のいずれにも該当することア:皮下組織に至る創傷に使用されるものであることイ:顆粒状、ペースト状、ジェル状などの標準形状以外の

形状であること

ハイドロコロイドハイドロジェル

筋・骨に至る創傷用 筋・骨に至る創傷に使用されるものであること ポリウレタンフォーム

キチン

(2009年6月現在)

23

褥瘡とは

褥瘡の予防と管理

褥瘡の分類と治療

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創傷治癒のための環境づくり

Wound Bed Preparation

湿潤環境づくり

Moist Wound Healing

*創傷治癒の基本的な考え方 ─Wound Bed PreparationとMoist Wound Healing ─*深い慢性期褥瘡の治療においては、前半はwound bed preparationを行うことで

創面の清浄化を図ることが大切である。一方、後半では創部を湿潤環境下にもっていくmoist wound healingにより、順調に創傷治癒過程が進むことが確認されている。

創部を湿潤環境下にもっていくことで、速やかに創傷治癒過程が進行すること。

・適度な水分バランスの保持・ドレッシング材の使用 →肉芽・上皮形成促進

 ・壊死組織除去 ・感染制御 ・滲出液制御

慢性創傷において、創傷治癒過程の流れを停滞させている要因を除去・調整し、「治癒する創傷」 へと変換すること。

24

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参考

・石川 治、田村敦志編著:創傷治療プラクティス ─皮膚潰瘍・褥瘡・熱傷・小外傷─,南江堂,東京,2006

・日本褥瘡学会:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版), 2015

・厚生省老人保健福祉局老人保健課監修:褥瘡の予防・治療ガイドライン,照林社,東京,1998

・臨床栄養臨時増刊 褥瘡ケア UPDATE Vol.112 2008年5月号

・宮地良樹、真田弘美編集:「ガイドラインを読む」シリーズ 褥瘡局所治療ガイドライン編,メディカルレビュー社,東京,2007

・宮地良樹、真田弘美編著:よくわかって役に立つ 新・褥瘡のすべて,永井書店,大阪,2006

・古田勝経著:薬局別冊2006年(vol.57)8月臨時増刊号 褥瘡外用療法のヒミツ ─事例で学ぶ極意─,南山堂,東京,2006

・東京大学大学院医学系研究科老年看護学・金沢大学大学院医学系研究科臨床実践看護学:褥瘡・創傷の管理のホームページ

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