褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の最前線2019vol. 23 23 23 end of...

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2018 年度の診療報酬改定では、褥瘡ハイリスクケア加算の対象に MDRPU(医療関連機器圧迫創傷)が追 加され、褥瘡の危険因子の評価項目にスキン - テア(皮膚裂傷)が追加されるなど、褥瘡対策に関わる重 要な内容が反映されました。 本稿では、真田弘美先生が登壇されたランチョンセミナーの内容を紹介します。近年の褥瘡対策における 重要なトピック(①スキン - テア、②浮腫、③ Kennedy Terminal Ulcer)や、褥瘡治療の重要なアプロー チである栄養管理について、コラーゲンペプチドの有用性を検証した多施設共同試験の結果を含めてお話 しいただきました。 司会 大阪赤十字病院 皮膚科部長 立花 隆夫 先生 演者 東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野 教授 グローバルナーシングリサーチセンター センター長 真田 弘美 先生 SEMINAR REPORT 開催日:2019 年 8 月 24 日(土) 会 場:京都国際会館 1F メインホール 共 催:ニュートリー株式会社 第 21 回 日本褥瘡学会学術集会 ランチョンセミナー 9 褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の 最前線 2019 23

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Page 1: 褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の最前線2019Vol. 23 23 23 End of Life期の「いわゆる防ぎき れない褥瘡」について、日本人に 合った定義が必要

PCP23 2019年11月作成 MTO 58_0133

発行:2019 年 11 月 初版

Vol.23

〒101-0041 東京都千代田区神田須田町 2-7-3TEL:03-5577-5877 FAX:03-5577-5878www.medicalonline.jp [email protected]© 2019 Meteo Inc. All Rights Reserved

7) 山中英治 , 岡田晋吾 , 真田弘美 . コラーゲンペプチドの褥瘡治療への臨床効果―多施設共同ランダム化比較試験 . 外科と代謝・栄養 . 2016; 50(3): 158.8) 野本達哉 , 犬塚久善 , 肥塚佳果 . コラーゲンペプチド含有飲料摂取による高齢者ドライスキン改善についての検討 . 日本褥瘡学会誌 . 2016; 18(3): 350.9) 野本達哉 . 高齢者特有の皮膚障害 スキン - テア(皮膚裂傷)/ ドライスキン 予防ケアの効果的な取り組み ―栄養管理に焦点を当てて― PART 2

“ スキン - テア/ドライスキン ” 予防のためのコラーゲンペプチドの効果 . エキスパートナース . 2017; 33(5): 95-97.

図 1 DESIGN-R® の実測値と変化値の推移(提供:ニュートリー株式会社)

るため、多施設ランダム化比較試験を実施しました 7)。褥瘡患者を 3 群(CP 飲料投与、アルギニン含有飲料投与、非投与)に分け、CP 飲料またはアルギニン含有飲料を 1 日 1 本、経管または経口投与し、4 週間続けました。そして 1 週間ごとに、褥瘡治癒の評価を DESIGN-R® でおこないました。

DESIGN-R® の実測値と変化値(差分)の推移を示したのが図 1 です。実測値では、CP 飲料群の 2 週間目以降ならびに最終スコアが非投与群と比べて有意に低値でした

(p<0.05)。変化値では、CP 飲料群の 4 週間目および最終スコアが非投与群と比べて有意に低値でした(p<0.05)。この結果から、コラーゲンペプチドが褥瘡治癒の促進に貢献したと考えられます。

また、高齢者のドライスキン(角質水分量が減少して皮膚が乾燥した状態)は褥瘡やスキン - テアの発生リスクが高いとされ、その改善に関するコラーゲンペプチドの有用性が検証されています 8) 9)。4 週間後には、CP 飲料を摂取した患者さんの角質水分量が開始前と比べて有意に上昇し

(p<0.01)、角質水分量増加率も非摂取群と比べて有意に高かったことが示されています(p<0.05)。このように、コラーゲンペプチドはドライスキン改善にも貢献することが示唆されています。

まとめスキン - テアや浮腫は褥瘡の大きなリスク要因とされて

いるため、これらをよく理解して褥瘡対策に活かすことが重要です。また、End of Life 期の患者さんに発生する防ぎきれない褥瘡については、日本人における定義が必要な時期に来ているのではないかと思われます。

そして、脆弱な皮膚を回復するアプローチとして栄養管理の重要性が高まっており、エビデンスの蓄積も進んでいます。その中でも、コラーゲンペプチドを活用した栄養補給については、褥瘡治癒の促進やドライスキン改善に貢献する点で有用だと考えています。

2018 年度の診療報酬改定では、褥瘡ハイリスクケア加算の対象に MDRPU(医療関連機器圧迫創傷)が追

加され、褥瘡の危険因子の評価項目にスキン - テア(皮膚裂傷)が追加されるなど、褥瘡対策に関わる重

要な内容が反映されました。

本稿では、真田弘美先生が登壇されたランチョンセミナーの内容を紹介します。近年の褥瘡対策における

重要なトピック(①スキン - テア、②浮腫、③ Kennedy Terminal Ulcer)や、褥瘡治療の重要なアプロー

チである栄養管理について、コラーゲンペプチドの有用性を検証した多施設共同試験の結果を含めてお話

しいただきました。

司会大阪赤十字病院 皮膚科部長

立花 隆夫 先生

演者東京大学大学院 医学系研究科健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野 教授グローバルナーシングリサーチセンター センター長

真田 弘美 先生

S E M I N A R R E P O R T

開催日:2019 年 8 月 24 日(土)会 場:京都国際会館 1F メインホール共 催:ニュートリー株式会社

第 21 回 日本褥瘡学会学術集会 ランチョンセミナー 9

褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の最前線 2019

23

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Page 2: 褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の最前線2019Vol. 23 23 23 End of Life期の「いわゆる防ぎき れない褥瘡」について、日本人に 合った定義が必要

Vol.

2323

23

End of Life 期の「いわゆる防ぎきれない褥瘡」について、日本人に 合った定義が必要

End of Life 期 に お け る 防 ぎ き れ な い 褥 瘡 は Kennedy Terminal Ulcer(KTU)3) と呼ばれ、圧迫やずれに加えて、終末期の循環器・低酸素状態・多臓器不全による皮膚血流不全に伴って生じる皮膚の脆弱性に起因するとされています。形状は洋梨状、色は赤・黄色・黒などに変化し、発生部位は尾骨部または仙骨部です。また、亡くなる前の 2 週間から 6 週間で急激に発生してステージ 3 ~ 4 に至るとされています。

アメリカの公的医療保険制度 Medicare では、入院中に発生した褥瘡には支払いがなされませんが、そのペナルティの対象に KTU は含まれないとされています。日本では、2018 年度の診療報酬改定で、褥瘡評価実施加算の基準にアウトカム評価(3 ヶ月 DESIGN-R® の点数が下がらなかったら加算の条件が変わる)が導入されました。ターミナルステージの患者さんが多い病院では、加算の条件が変わるケースが増えると思われます。そのため、End of Life 期の褥瘡について、日本でも議論すべき時期なのではないでしょうか。

また、先述の KTU の特徴は、体格の良いがん患者さんで見受けられました。そこで、「日本における End of Life 期の痩せた患者さんに対して、同じ条件で KTU を取り入れてもよいのか」という観点で研究を実施しました 4)。その結果、KTU は腸骨部と大転子部に発生し、仙骨部にはできていませんでした。これは、高齢者の場合は亡くなる前に拘縮が進み、側臥位になる方が多いためと考えられます。また、形状は線形、色は紅斑と紫斑の二重発赤が見られました。

今後は KTU の定義との違いを踏まえ、日本人における防ぎきれない褥瘡を、欧米と異なる基準で定義する必要があると考えています。

脆弱な皮膚の回復に寄与する コラーゲンペプチド

褥瘡のように脆弱な皮膚を回復させるアプローチのひとつとして、栄養管理が挙げられます。『褥瘡予防・管理ガイドライン 第 4 版』では、「亜鉛、アスコルビン酸、アルギニン、L- カルノシン、n-3 系脂肪酸、コラーゲン加水分解物など疾患を考慮したうえで補給してもよい」(推奨度 C1)5)

とされています。

栄養補給の例として「コラーゲンペプチド」を紹介します。コラーゲンペプチドに特徴的なアミノ酸(ヒドロキシプロリン)を含むジペプチドが線維芽細胞を刺激し、線維芽細胞の増殖・遊走が起きることでコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸が合成され、皮膚の創傷治癒を促進する可能性が示唆されています 6)。

患者さんに、コラーゲンペプチド含有飲料(以下、「CP飲料」)(ニュートリー株式会社)を 1 日 1 本飲んでもらったことがあります。CP 飲料には、コラーゲンペプチドに加え、創傷治癒に関連するビタミン C、鉄、亜鉛などの微量元素が入っています。

CP 飲料を飲み始めて 1 週間後、印象的だったのは、創周囲の乾燥した皮膚にハリが出て、きれいになったことです。このときから、コラーゲンペプチドの継続的な摂取は創傷治癒の促進に貢献するのではないかと考えていました。

褥瘡治療・ドライスキン/スキン-テア改善におけるコラーゲン ペプチドの臨床研究

褥瘡患者への栄養補給の効果について、現状ではエビデンスが蓄積されているところですが、関連する研究を紹介します。

褥瘡治療におけるコラーゲンペプチドの有用性を検証す

スキン - テアが褥瘡の危険因子の 評価項目に加わった

2018 年度の診療報酬・介護報酬改定では、褥瘡に関連する重要な内容が追加されました。介護報酬改定では、褥瘡の発生を予防するための管理に対する評価として「褥瘡マネジメント加算」が新設されました。一方、診療報酬改定で追加された項目は 2 つあります。1 つは褥瘡ハイリスク患者ケア加算の対象に MDRPU が入ったことであり、もう 1つは褥瘡の危険因子の評価項目に「皮膚の脆弱性(スキン -テアの保有、既往)」が加わったことです(表 1)。

スキン - テアは「摩擦・ずれによって、皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷(部分層損傷)」1) と定義されています。日本創傷・オストミー・失禁管理学会がスキン - テアの定義や分類システム(STAR 分類)の導入をおこない、予防と管理のベストプラクティスを作成しました。

「皮膚の脆弱性(スキン - テアの保有、既往)」の追加にあたって、エビデンスとなった研究を紹介します 2)。この研究では、500 床の療養病床病院を対象として、3 ヶ月におけるスキン - テアの累積発生率と関連因子を検討しました。ロジスティック回帰分析の結果、ブレーデンスケールの得

点がスキン - テアの発生と有意に関連していました。

褥瘡の発生リスクとスキン - テアの発生との関係が示されたことで、スキン - テアを褥瘡のリスク要因として捉えることの重要性が高まり、診療報酬改定に反映されました。

浮腫は褥瘡の大きなリスク要因褥瘡のリスク要因としてスキン - テアと同様に重視され

ているのが浮腫です。

褥瘡の発生リスクと浮腫の関係について、ある大学病院の WOC ナースの協力を得てデータを収集しました。褥瘡ハイリスク患者の数は年間約 58,000 人(ベッド上安静の患者さんが約 30,000 人)でした。

この方々で褥瘡発生のリスク要因を分類していくと、関節拘縮、骨突出、浮腫について有意差が見られました。そこで、多重ロジスティック回帰分析で各項目の順位を調べたところ、浮腫が最も大きい値を示しました。

褥瘡発生の最も大きなリスク要因は、以前は骨突出でしたが、この研究のように今後は浮腫が大変重要な予防ケアになるといえます。褥瘡予防の観点で浮腫を見逃してはいけないということを再確認しました。

第 21 回 日本褥瘡学会学術集会 ランチョンセミナー 9

褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の最前線 2019

1) 日本創傷・オストミー・失禁管理学会 編 . ベストプラクティス スキン - テア(皮膚裂傷)の予防と管理 . 照林社 , 東京 , 2015.2) 真田弘美 , 仲上豪二朗 , 小谷野結衣子 , 他 . 療養病床病院における四肢のスキンテアの 3 か月累積発生率および関連因子の検討:前向きコホート研究 .

日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 . 2014; 18(2): 193.3) Kennedy KL. The prevalence of pressure ulcer in an intermediate care facility. Decubitus . 1989; 2(2): 44-45.

4) 玉井奈緒 , 中井彩乃 , 峰松健夫 , 青木未来 , Defa Arisandi, 須釜淳子 , 真田弘美 . Kennedy Terminal Ulcer は見極められるか? 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 . 2018; 22(2): 175.

5) 日本褥瘡学会 教育委員会 ガイドライン改訂委員会 編 . 褥瘡予防・管理ガイドライン 第 4 版 . 日本褥瘡学会誌 . 2015; 17(4): 487-557.6) 小山洋一 . 天然素材コラーゲンの機能性 . 皮革科学 . 2010; 56(2): 71-79.

S E M I N A R R E P O R T

表 1 2018 年度の診療報酬改定前後における褥瘡の危険因子の評価項目

改定後

褥瘡対策に関する診療計画書

危険因子の評価

日常生活自立度

基本的動作能力

病体骨突出

関節拘縮

栄養状態低下

皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)

皮膚の脆弱性(浮腫)皮膚の脆弱性(スキン -テアの保有、既往)

改定前

褥瘡対策に関する診療計画書

危険因子の評価

日常生活自立度

基本的動作能力

病体骨突出

関節拘縮

栄養状態低下

皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)

浮腫(局所以外の部位)

[新設]

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End of Life 期の「いわゆる防ぎきれない褥瘡」について、日本人に 合った定義が必要

End of Life 期 に お け る 防 ぎ き れ な い 褥 瘡 は Kennedy Terminal Ulcer(KTU)3) と呼ばれ、圧迫やずれに加えて、終末期の循環器・低酸素状態・多臓器不全による皮膚血流不全に伴って生じる皮膚の脆弱性に起因するとされています。形状は洋梨状、色は赤・黄色・黒などに変化し、発生部位は尾骨部または仙骨部です。また、亡くなる前の 2 週間から 6 週間で急激に発生してステージ 3 ~ 4 に至るとされています。

アメリカの公的医療保険制度 Medicare では、入院中に発生した褥瘡には支払いがなされませんが、そのペナルティの対象に KTU は含まれないとされています。日本では、2018 年度の診療報酬改定で、褥瘡評価実施加算の基準にアウトカム評価(3 ヶ月 DESIGN-R® の点数が下がらなかったら加算の条件が変わる)が導入されました。ターミナルステージの患者さんが多い病院では、加算の条件が変わるケースが増えると思われます。そのため、End of Life 期の褥瘡について、日本でも議論すべき時期なのではないでしょうか。

また、先述の KTU の特徴は、体格の良いがん患者さんで見受けられました。そこで、「日本における End of Life 期の痩せた患者さんに対して、同じ条件で KTU を取り入れてもよいのか」という観点で研究を実施しました 4)。その結果、KTU は腸骨部と大転子部に発生し、仙骨部にはできていませんでした。これは、高齢者の場合は亡くなる前に拘縮が進み、側臥位になる方が多いためと考えられます。また、形状は線形、色は紅斑と紫斑の二重発赤が見られました。

今後は KTU の定義との違いを踏まえ、日本人における防ぎきれない褥瘡を、欧米と異なる基準で定義する必要があると考えています。

脆弱な皮膚の回復に寄与する コラーゲンペプチド

褥瘡のように脆弱な皮膚を回復させるアプローチのひとつとして、栄養管理が挙げられます。『褥瘡予防・管理ガイドライン 第 4 版』では、「亜鉛、アスコルビン酸、アルギニン、L- カルノシン、n-3 系脂肪酸、コラーゲン加水分解物など疾患を考慮したうえで補給してもよい」(推奨度 C1)5)

とされています。

栄養補給の例として「コラーゲンペプチド」を紹介します。コラーゲンペプチドに特徴的なアミノ酸(ヒドロキシプロリン)を含むジペプチドが線維芽細胞を刺激し、線維芽細胞の増殖・遊走が起きることでコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸が合成され、皮膚の創傷治癒を促進する可能性が示唆されています 6)。

患者さんに、コラーゲンペプチド含有飲料(以下、「CP飲料」)(ニュートリー株式会社)を 1 日 1 本飲んでもらったことがあります。CP 飲料には、コラーゲンペプチドに加え、創傷治癒に関連するビタミン C、鉄、亜鉛などの微量元素が入っています。

CP 飲料を飲み始めて 1 週間後、印象的だったのは、創周囲の乾燥した皮膚にハリが出て、きれいになったことです。このときから、コラーゲンペプチドの継続的な摂取は創傷治癒の促進に貢献するのではないかと考えていました。

褥瘡治療・ドライスキン/スキン-テア改善におけるコラーゲン ペプチドの臨床研究

褥瘡患者への栄養補給の効果について、現状ではエビデンスが蓄積されているところですが、関連する研究を紹介します。

褥瘡治療におけるコラーゲンペプチドの有用性を検証す

スキン - テアが褥瘡の危険因子の 評価項目に加わった

2018 年度の診療報酬・介護報酬改定では、褥瘡に関連する重要な内容が追加されました。介護報酬改定では、褥瘡の発生を予防するための管理に対する評価として「褥瘡マネジメント加算」が新設されました。一方、診療報酬改定で追加された項目は 2 つあります。1 つは褥瘡ハイリスク患者ケア加算の対象に MDRPU が入ったことであり、もう 1つは褥瘡の危険因子の評価項目に「皮膚の脆弱性(スキン -テアの保有、既往)」が加わったことです(表 1)。

スキン - テアは「摩擦・ずれによって、皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷(部分層損傷)」1) と定義されています。日本創傷・オストミー・失禁管理学会がスキン - テアの定義や分類システム(STAR 分類)の導入をおこない、予防と管理のベストプラクティスを作成しました。

「皮膚の脆弱性(スキン - テアの保有、既往)」の追加にあたって、エビデンスとなった研究を紹介します 2)。この研究では、500 床の療養病床病院を対象として、3 ヶ月におけるスキン - テアの累積発生率と関連因子を検討しました。ロジスティック回帰分析の結果、ブレーデンスケールの得

点がスキン - テアの発生と有意に関連していました。

褥瘡の発生リスクとスキン - テアの発生との関係が示されたことで、スキン - テアを褥瘡のリスク要因として捉えることの重要性が高まり、診療報酬改定に反映されました。

浮腫は褥瘡の大きなリスク要因褥瘡のリスク要因としてスキン - テアと同様に重視され

ているのが浮腫です。

褥瘡の発生リスクと浮腫の関係について、ある大学病院の WOC ナースの協力を得てデータを収集しました。褥瘡ハイリスク患者の数は年間約 58,000 人(ベッド上安静の患者さんが約 30,000 人)でした。

この方々で褥瘡発生のリスク要因を分類していくと、関節拘縮、骨突出、浮腫について有意差が見られました。そこで、多重ロジスティック回帰分析で各項目の順位を調べたところ、浮腫が最も大きい値を示しました。

褥瘡発生の最も大きなリスク要因は、以前は骨突出でしたが、この研究のように今後は浮腫が大変重要な予防ケアになるといえます。褥瘡予防の観点で浮腫を見逃してはいけないということを再確認しました。

第 21 回 日本褥瘡学会学術集会 ランチョンセミナー 9

褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の最前線 2019

1) 日本創傷・オストミー・失禁管理学会 編 . ベストプラクティス スキン - テア(皮膚裂傷)の予防と管理 . 照林社 , 東京 , 2015.2) 真田弘美 , 仲上豪二朗 , 小谷野結衣子 , 他 . 療養病床病院における四肢のスキンテアの 3 か月累積発生率および関連因子の検討:前向きコホート研究 .

日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 . 2014; 18(2): 193.3) Kennedy KL. The prevalence of pressure ulcer in an intermediate care facility. Decubitus . 1989; 2(2): 44-45.

4) 玉井奈緒 , 中井彩乃 , 峰松健夫 , 青木未来 , Defa Arisandi, 須釜淳子 , 真田弘美 . Kennedy Terminal Ulcer は見極められるか? 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 . 2018; 22(2): 175.

5) 日本褥瘡学会 教育委員会 ガイドライン改訂委員会 編 . 褥瘡予防・管理ガイドライン 第 4 版 . 日本褥瘡学会誌 . 2015; 17(4): 487-557.6) 小山洋一 . 天然素材コラーゲンの機能性 . 皮革科学 . 2010; 56(2): 71-79.

S E M I N A R R E P O R T

表 1 2018 年度の診療報酬改定前後における褥瘡の危険因子の評価項目

改定後

褥瘡対策に関する診療計画書

危険因子の評価

日常生活自立度

基本的動作能力

病体骨突出

関節拘縮

栄養状態低下

皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)

皮膚の脆弱性(浮腫)皮膚の脆弱性(スキン -テアの保有、既往)

改定前

褥瘡対策に関する診療計画書

危険因子の評価

日常生活自立度

基本的動作能力

病体骨突出

関節拘縮

栄養状態低下

皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)

浮腫(局所以外の部位)

[新設]

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PCP23 2019年11月作成 MTO 58_0133

発行:2019 年 11 月 初版

Vol.23

〒101-0041 東京都千代田区神田須田町 2-7-3TEL:03-5577-5877 FAX:03-5577-5878www.medicalonline.jp [email protected]© 2019 Meteo Inc. All Rights Reserved

7) 山中英治 , 岡田晋吾 , 真田弘美 . コラーゲンペプチドの褥瘡治療への臨床効果―多施設共同ランダム化比較試験 . 外科と代謝・栄養 . 2016; 50(3): 158.8) 野本達哉 , 犬塚久善 , 肥塚佳果 . コラーゲンペプチド含有飲料摂取による高齢者ドライスキン改善についての検討 . 日本褥瘡学会誌 . 2016; 18(3): 350.9) 野本達哉 . 高齢者特有の皮膚障害 スキン - テア(皮膚裂傷)/ ドライスキン 予防ケアの効果的な取り組み ―栄養管理に焦点を当てて― PART 2

“ スキン - テア/ドライスキン ” 予防のためのコラーゲンペプチドの効果 . エキスパートナース . 2017; 33(5): 95-97.

図 1 DESIGN-R® の実測値と変化値の推移(提供:ニュートリー株式会社)

るため、多施設ランダム化比較試験を実施しました 7)。褥瘡患者を 3 群(CP 飲料投与、アルギニン含有飲料投与、非投与)に分け、CP 飲料またはアルギニン含有飲料を 1 日 1 本、経管または経口投与し、4 週間続けました。そして 1 週間ごとに、褥瘡治癒の評価を DESIGN-R® でおこないました。

DESIGN-R® の実測値と変化値(差分)の推移を示したのが図 1 です。実測値では、CP 飲料群の 2 週間目以降ならびに最終スコアが非投与群と比べて有意に低値でした

(p<0.05)。変化値では、CP 飲料群の 4 週間目および最終スコアが非投与群と比べて有意に低値でした(p<0.05)。この結果から、コラーゲンペプチドが褥瘡治癒の促進に貢献したと考えられます。

また、高齢者のドライスキン(角質水分量が減少して皮膚が乾燥した状態)は褥瘡やスキン - テアの発生リスクが高いとされ、その改善に関するコラーゲンペプチドの有用性が検証されています 8) 9)。4 週間後には、CP 飲料を摂取した患者さんの角質水分量が開始前と比べて有意に上昇し

(p<0.01)、角質水分量増加率も非摂取群と比べて有意に高かったことが示されています(p<0.05)。このように、コラーゲンペプチドはドライスキン改善にも貢献することが示唆されています。

まとめスキン - テアや浮腫は褥瘡の大きなリスク要因とされて

いるため、これらをよく理解して褥瘡対策に活かすことが重要です。また、End of Life 期の患者さんに発生する防ぎきれない褥瘡については、日本人における定義が必要な時期に来ているのではないかと思われます。

そして、脆弱な皮膚を回復するアプローチとして栄養管理の重要性が高まっており、エビデンスの蓄積も進んでいます。その中でも、コラーゲンペプチドを活用した栄養補給については、褥瘡治癒の促進やドライスキン改善に貢献する点で有用だと考えています。

2018 年度の診療報酬改定では、褥瘡ハイリスクケア加算の対象に MDRPU(医療関連機器圧迫創傷)が追

加され、褥瘡の危険因子の評価項目にスキン - テア(皮膚裂傷)が追加されるなど、褥瘡対策に関わる重

要な内容が反映されました。

本稿では、真田弘美先生が登壇されたランチョンセミナーの内容を紹介します。近年の褥瘡対策における

重要なトピック(①スキン - テア、②浮腫、③ Kennedy Terminal Ulcer)や、褥瘡治療の重要なアプロー

チである栄養管理について、コラーゲンペプチドの有用性を検証した多施設共同試験の結果を含めてお話

しいただきました。

司会大阪赤十字病院 皮膚科部長

立花 隆夫 先生

演者東京大学大学院 医学系研究科健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野 教授グローバルナーシングリサーチセンター センター長

真田 弘美 先生

S E M I N A R R E P O R T

開催日:2019 年 8 月 24 日(土)会 場:京都国際会館 1F メインホール共 催:ニュートリー株式会社

第 21 回 日本褥瘡学会学術集会 ランチョンセミナー 9

褥瘡、そしてスキン-テア(皮膚裂傷)の最前線 2019

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191106_PE23-21stJSPU_LS9_report.indd 1 2019/11/06 11:17