Ⅰ脊髄虚血の予防 - jseptic脊髄虚血予防及び治療マニュアル(executive summary)...

4
脊髄虚血予防及び治療マニュアル(Executive Summary) 目的 胸腹部大動脈手術において術後の脊髄虚血の頻度は10-11%とされている。 1 これは著しいADLの低下をきたし、最も悲惨な合併症の一つと言える。 これを予防、治療することは患者のQOLを損なわない為に必要である 脊髄虚血の予防 1:血行動態管理 リスクファクターとして術中低血圧が言われている。術後も低血圧は避け、 平均動脈圧を保つ。具体的には平均動脈圧を90以上 に保つこととする。 2:ヘモグロビン 10g/dlをキープする根拠はないが、貧血はおそらく避けるべきである 10g/dlを目標にする ことが現時点ではリーズナブルである 3:スパイナルドレナージ 後ろ向き研究をまとめたメタ解析 2 及び症例数は少ないがRCT 3 にて有効性あり 頭蓋内出血(2.9%)とそれによる神経障害(1%)及び死亡(0.6%)の報告がある 4 硬膜外穿刺の一般的禁忌がない限り使用することが勧められる 具体的な管理方法 手術前日にドレナージチューブをL3/4あるいはL4/5から挿入 術中より以下の手順に従って管理する ベッドフラットで耳介上8cmより開始 2hrドレナージがされないとき 2cm高さを下げる 50ml/2hr以上のドレナージがされるとき 2cm高さを上げる 80ml/2hr以上のドレナージがされるとき 4cm高さを上げる 100ml/2hr以上のドレナージがされるときは頭蓋内圧亢進の評価を行う 血性のドレナージがされたときは頭蓋内出血の評価を行う 移動の際及びベッドアップ15度を超えるときはクランプをする 術後72時間の留置を原則とする。脊髄麻痺発症例、高リスク症例では留置期間の延長を 考慮する。

Upload: others

Post on 24-Jul-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Ⅰ脊髄虚血の予防 - JSEPTIC脊髄虚血予防及び治療マニュアル(Executive Summary) 目的 胸腹部大動脈手術において術後の脊髄虚血の頻度は10-11%とされている。1

脊髄虚血予防及び治療マニュアル(Executive Summary)

目的 胸腹部大動脈手術において術後の脊髄虚血の頻度は10-11%とされている。1 これは著しいADLの低下をきたし、最も悲惨な合併症の一つと言える。 これを予防、治療することは患者のQOLを損なわない為に必要である

Ⅰ脊髄虚血の予防 1:血行動態管理 リスクファクターとして術中低血圧が言われている。術後も低血圧は避け、 平均動脈圧を保つ。具体的には平均動脈圧を90以上に保つこととする。

2:ヘモグロビン 10g/dlをキープする根拠はないが、貧血はおそらく避けるべきである 10g/dlを目標にすることが現時点ではリーズナブルである

3:スパイナルドレナージ 後ろ向き研究をまとめたメタ解析2及び症例数は少ないがRCT3にて有効性あり 頭蓋内出血(2.9%)とそれによる神経障害(1%)及び死亡(0.6%)の報告がある4 硬膜外穿刺の一般的禁忌がない限り使用することが勧められる

具体的な管理方法 手術前日にドレナージチューブをL3/4あるいはL4/5から挿入 術中より以下の手順に従って管理する ベッドフラットで耳介上8cmより開始 2hrドレナージがされないとき 2cm高さを下げる 50ml/2hr以上のドレナージがされるとき 2cm高さを上げる 80ml/2hr以上のドレナージがされるとき 4cm高さを上げる 100ml/2hr以上のドレナージがされるときは頭蓋内圧亢進の評価を行う 血性のドレナージがされたときは頭蓋内出血の評価を行う 移動の際及びベッドアップ15度を超えるときはクランプをする

術後72時間の留置を原則とする。脊髄麻痺発症例、高リスク症例では留置期間の延長を考慮する。

Page 2: Ⅰ脊髄虚血の予防 - JSEPTIC脊髄虚血予防及び治療マニュアル(Executive Summary) 目的 胸腹部大動脈手術において術後の脊髄虚血の頻度は10-11%とされている。1

4:ナロキソン 術後の脊髄虚血はナロキソンの投与にて減少しない(しかし分析のPowerが足りないので、今後の検討を要する)5 ルーチンでの投与は必要がない。高リスクでは使用を考慮してもよい

Ⅱ脊髄虚血の治療 1:血行動態管理 図1に従い平均動脈圧を90以上に保つこととする

2:ヘモグロビン 予防同様10g/dlを目標にする

3:スパイナルドレナージ 後ろ向きTAAおよびTAAA8例について検討6および前向きの脊椎外傷25例について検討7があり有効であったが、前向きの研究は存在しない。

図1のプロトコールに従い挿入(留置してある症例では留置の延長)を考慮する。 リスクベネフィットを考え、症例ごとに検討する姿勢が必要である。

4:ステロイド 脳虚血では使用を推奨されていない8。エキスパートオピニオンではあるが、 脊髄虚血でも使用は推奨されない9

5:ナロキソン Delayed Paraplegiaにナロキソンが有効であるかどうかを検討した文献はない。 害(診療面、費用面)が小さいので、考慮に値する。 1 Neurocrit Care. 2008;9(3):344 2J Vasc Surg 2004;40:36 3 J Vasc Surg 2002;35:631 4 J Vasc Surg 2009;49:29 5 J Vasc Surg 2004;40:681

6 Ann Thorac Surg 2002;74:413 7 J neurosurg Spine 2009;10:181

8 Circulation. 2007;115:e478-e534

9 UpToDate 2009 Spinal Cord Infarction

Page 3: Ⅰ脊髄虚血の予防 - JSEPTIC脊髄虚血予防及び治療マニュアル(Executive Summary) 目的 胸腹部大動脈手術において術後の脊髄虚血の頻度は10-11%とされている。1
Page 4: Ⅰ脊髄虚血の予防 - JSEPTIC脊髄虚血予防及び治療マニュアル(Executive Summary) 目的 胸腹部大動脈手術において術後の脊髄虚血の頻度は10-11%とされている。1