脊髄超音波検査で脊髄脂肪腫が疑われた新生児の1...

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厚生連医誌 第27巻 1号 40~42 2018 40 症例報告 脊髄超音波検査で脊髄脂肪腫が疑われた新生児の1症例 新潟医療センター、検査科;臨床検査技師 1) 、佐渡総合病院、検査科;臨床検査技師 2) あいち小児保健医療総合センター、小児科;小児科医 3) なかがわ とも みやざき かつ よし さいとう けい じま なお 中川 友也 1) 、宮崎 勝吉 2) 、斎藤 桂子 2) 、田島 直哉 3) 背景:潜在性二分脊椎症では背部から腰仙部に皮膚異 常などを伴うことが多く皮膚所見を認めた場合 には脊髄評価を行うことが重要である。近年、 超音波検査での脊髄評価の有用性が報告されて いる。今回、新生児の患児に行った超音波検査 で脊髄脂肪腫が疑われた症例を経験したので報 告する。 症例内容:患者は生後2日の女児で、腰仙部に毛髪を 認めたため、脊髄超音波検査を施行した。脊髄 超音波検査で、低位脊髄円錐と脊髄脂肪種が超 音波検査で疑われた。精査のため核磁気共鳴画 像法(MRI)を行い脊髄の評価をし、MRI では T1強調画像で脊髄終糸脂肪腫を疑わせる縦走 する高信号構造が認められた。 結論:脊髄脂肪腫は MRI と同様の所見であった。低 位脊髄円錐は MRI と不一致であった。脊髄超 音波検査は、非侵襲的であり新生児のスクリー ニング検査として有用と考えられた。 キーワード : 脊髄超音波検査、二分脊椎症、脊髄脂肪 種、新生児、スクリーニング検査 小児の腰仙部にみられる脊髄疾患の多くは先天性で あり、脊髄髄膜瘤のように出生後視診にて容易に診断 される開放性二分脊椎症と、外表面に神経組織が露出 せず神経症状を伴わないか軽微であるため発見や診断 が困難な潜在性二分脊椎症の二つに大別される。潜在 性では背部から腰仙部の正中付近に皮膚異常などを伴 うことが多く、出生時に多毛、血管腫、皮膚小陥凹、 皮膚洞、皮膚突起物などの皮膚所見を認めた場合には 脊髄評価を行うことが重要である。潜在性では、脊髄 脂肪腫などが原因で成長に伴い脊髄係留が起こり、症 状の出現がきっかけで診断されることもあり、その後 に治療しても改善しにくいことから、早期診断の必要 があるといわれている。 画像診断検査による脊髄評価は MRI が gold stan- dard だが、新生児から乳児期においては鎮静が必要 であり必ずしも簡便に行える検査ではない。しかし超 音波検査では鎮静が不要で非侵襲的なため、超音波検 査の有用性が報告されている(1)。 今回、新生児の患児に行った超音波検査で脊髄脂肪 腫が疑われた症例を経験したので報告する。 患者は生後2日の女児で、明らかな先天性の異常は 認められなかった。腰仙部に毛髪を認めたため、脊髄 脂肪腫の有無などの評価目的で脊髄超音波検査を施行 した。脊髄超音波検査で、脊髄円錐下端が第3腰椎レ ベルに位置していた(写真1)。終糸は1.1mmと肥厚 し、輝度上昇が疑われた(写真2)。その他、明らか な異常所見は指摘できなかった。これらの結果より、 低位脊髄円錐と脊髄脂肪種が超音波検査で疑われた。 精査のため鎮静のできる生後4か月まで待ち、MRI を行い脊髄の評価をした。MRI では T1強調画像で脊 髄終糸脂肪腫を疑わせる縦走する高信号構造が認めら れた(写真3)。 脊髄脂肪腫は MRI と同様の所見であった。低位脊 髄円錐は MRI と不一致であった。 原因として考えられることは、超音波検査は生後2 日で行ったが、MRI は生後4か月と同時期でないた め成長に伴い経時的な脊髄円錐の上昇の可能性や、超 音波検査では腹臥位での検査だったが、MRI は仰臥 位での検査と体位の違いによる影響が報告されている (1)。手技上の問題で、腰椎同定の際に骨化している 第5仙椎から椎体を頭側ヘカウントする方法で第何腰 椎に脊髄円錐下端が位置するか同定するが、カウント を誤っていたため不一致であった可能性が考えられ た。 脊髄超音波検査は、鎮静なしで行え、非侵襲的であ り簡便な検査である。潜在性二分脊椎症などの脊髄病 変の早期発見、早期治療を行うためのスクリーニング 検査として有用と考えられた。MRI 適応の決定に超 音波検査が重要な役割となりうると考えられた。 1.前島 基志、東澤 恭介、安井 一浩、宮坂 木子、堤 義之、野坂 俊介、長田裕次他.新生児 から乳児期早期における脊髄超音波検査の有用性.

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厚生連医誌 第27巻 1号 40~42 2018

― 40 ―

症例報告

脊髄超音波検査で脊髄脂肪腫が疑われた新生児の1症例

新潟医療センター、検査科;臨床検査技師1)、佐渡総合病院、検査科;臨床検査技師2)

あいち小児保健医療総合センター、小児科;小児科医3)

な か が わ とも や み や ざ き かつ よし さ い と う けい こ た じま なお や

中川 友也1)、宮崎 勝吉2)、斎藤 桂子2)、田島 直哉3)

背景:潜在性二分脊椎症では背部から腰仙部に皮膚異常などを伴うことが多く皮膚所見を認めた場合には脊髄評価を行うことが重要である。近年、超音波検査での脊髄評価の有用性が報告されている。今回、新生児の患児に行った超音波検査で脊髄脂肪腫が疑われた症例を経験したので報告する。

症例内容:患者は生後2日の女児で、腰仙部に毛髪を認めたため、脊髄超音波検査を施行した。脊髄超音波検査で、低位脊髄円錐と脊髄脂肪種が超音波検査で疑われた。精査のため核磁気共鳴画像法(MRI)を行い脊髄の評価をし、MRI ではT1強調画像で脊髄終糸脂肪腫を疑わせる縦走する高信号構造が認められた。

結論:脊髄脂肪腫は MRI と同様の所見であった。低位脊髄円錐は MRI と不一致であった。脊髄超音波検査は、非侵襲的であり新生児のスクリーニング検査として有用と考えられた。

キーワード : 脊髄超音波検査、二分脊椎症、脊髄脂肪種、新生児、スクリーニング検査

背 景

小児の腰仙部にみられる脊髄疾患の多くは先天性であり、脊髄髄膜瘤のように出生後視診にて容易に診断される開放性二分脊椎症と、外表面に神経組織が露出せず神経症状を伴わないか軽微であるため発見や診断が困難な潜在性二分脊椎症の二つに大別される。潜在性では背部から腰仙部の正中付近に皮膚異常などを伴うことが多く、出生時に多毛、血管腫、皮膚小陥凹、皮膚洞、皮膚突起物などの皮膚所見を認めた場合には脊髄評価を行うことが重要である。潜在性では、脊髄脂肪腫などが原因で成長に伴い脊髄係留が起こり、症状の出現がきっかけで診断されることもあり、その後に治療しても改善しにくいことから、早期診断の必要があるといわれている。

画像診断検査による脊髄評価は MRI が gold stan-dard だが、新生児から乳児期においては鎮静が必要であり必ずしも簡便に行える検査ではない。しかし超音波検査では鎮静が不要で非侵襲的なため、超音波検査の有用性が報告されている(1)。

今回、新生児の患児に行った超音波検査で脊髄脂肪腫が疑われた症例を経験したので報告する。

症 例 内 容

患者は生後2日の女児で、明らかな先天性の異常は認められなかった。腰仙部に毛髪を認めたため、脊髄脂肪腫の有無などの評価目的で脊髄超音波検査を施行した。脊髄超音波検査で、脊髄円錐下端が第3腰椎レベルに位置していた(写真1)。終糸は1.1mm と肥厚し、輝度上昇が疑われた(写真2)。その他、明らかな異常所見は指摘できなかった。これらの結果より、低位脊髄円錐と脊髄脂肪種が超音波検査で疑われた。精査のため鎮静のできる生後4か月まで待ち、MRIを行い脊髄の評価をした。MRI では T1強調画像で脊髄終糸脂肪腫を疑わせる縦走する高信号構造が認められた(写真3)。

考 察

脊髄脂肪腫は MRI と同様の所見であった。低位脊髄円錐は MRI と不一致であった。

原因として考えられることは、超音波検査は生後2日で行ったが、MRI は生後4か月と同時期でないため成長に伴い経時的な脊髄円錐の上昇の可能性や、超音波検査では腹臥位での検査だったが、MRI は仰臥位での検査と体位の違いによる影響が報告されている

(1)。手技上の問題で、腰椎同定の際に骨化している第5仙椎から椎体を頭側ヘカウントする方法で第何腰椎に脊髄円錐下端が位置するか同定するが、カウントを誤っていたため不一致であった可能性が考えられた。

結 語

脊髄超音波検査は、鎮静なしで行え、非侵襲的であり簡便な検査である。潜在性二分脊椎症などの脊髄病変の早期発見、早期治療を行うためのスクリーニング検査として有用と考えられた。MRI 適応の決定に超音波検査が重要な役割となりうると考えられた。

文 献

1.前島 基志、東澤 恭介、安井 一浩、宮坂 実木子、堤 義之、野坂 俊介、長田裕次他.新生児から乳児期早期における脊髄超音波検査の有用性.

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脊髄超音波検査で脊髄脂肪腫が疑われた新生児の1症例

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写真1.脊髄超音波検査画像脊髄円錐下端が第3腰椎レベルに位置するため、低位脊髄円錐が疑われた。

超音波検査技術 2014;39:11-21

英 文 抄 録

Case report

A case of a neonatal spinal cord lipoma diagnosed by spi-nal ultrasonography

Niigata Medical Center, Clinical laboratory ; medicaltechnologist1), Sado General Hospital, Clinical laboratory ;medical technologist2), Aichi Children's Health and Medi-cal Center, Pediatrics ; doctor3)

Tomoya Nakagawa1), Katsuyoshi Miyazaki2),keiko Saitou2), Naoya Tajima3)

Background : A neonatal case of latent spina bifida with

the skin abnormality in the lumbosacral region wasreported. There was also a spinal cord lipoma. Itwas important to evaluate the spinal cord by ultra-sonography examination.

Case report : The female neonate revealed hair in thelumbosacral area on her second day, so that thespina bifida was suggested and a spinal ultra-sonography was performed. On spinal ultra-sonography, low spinal cord cone and spinal cordlipoma were shown. Magnetic resonance imaging

(MRI) showed a high-signal structure on T1-weighted image that suggested spinal cord lipoma.

Conclusion : Spinal ultrasonography was a noninvasivestudy technique and was considered useful as ascreening test for spina bifida with lipoma.

Key words : spinal ultrasonography, spina bifida, spinalcord lipoma, neonatal, screening test

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厚生連医誌 第27巻 1号 40~42 2018

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(2017/11/28受付)

写真2.脊髄超音波検査画像終糸は1.1mmと肥厚し、輝度上昇が疑われたため、脊髄脂肪種が疑われた。

写真3.核磁気共鳴画像法(MRI)脊髄下部水平断面上、T1強調画像で脊髄終糸脂肪腫を疑わせる縦走する高信号構造が認められた。

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