2011年度数学ia演習第1 - lecture.ecc.u-tokyo.ac.jpnkiyono/kiyono/saka11...第1 回解答 2...
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2011年度数学 IA演習第 1回理 I 22, 23, 24, 25, 26, 27組
4月 26日 清野和彦
問題 1. 三つの関数 f(x), g(x), h(x) に対し、命題 A を
f(x) = g(x) = h(x) = 0 を満たす実数 x が存在する。
とする。A の否定命題を書け。
問題 2. a, b を実数、φ(x) = −x2 + a, ψ(x) = x2 − 2x+ b とし、命題 B を
すべての実数 x に対して、φ(x) ≥ 0 ならば ψ(x) ≥ 0 が成り立つ。
とする。(1) B の成り立つ a, b をすべて求めよ。(2) B の否定命題をかけ。
問題 3. 実数 a, b, c に対する命題
a ≤ b, b ≤ c ならば a ≤ c が成り立つ。
の逆命題を書き、それが正しければ証明し間違っていれば反例をあげよ。
問題 4. 実数 a, b に対し、次の二つの命題
(1) 任意の実数 c に対して「『b ≤ c ならば a ≤ c が成り立つ』が成り立てば a ≤ b が成り立つ」が成り立つ。
(2) 「任意の実数 c に対して b ≤ c ならば a ≤ c が成り立つ」が成り立てば、a ≤ b が成り立つ。
はそれぞれ正しいか。正しければ証明し間違っていれば反例をあげよ。
●以下の問題は高校までで学んだ知識で考えてください。
問題 5. 実数全体を定義域とする関数
g(x) =
x2 sin
1
xx ̸= 0
0 x = 0
について次の問に答えよ。
(1) x ̸= 0 において g′(x) を計算せよ。
(2) g′(0) を計算せよ。
(3) 導関数 g′(x) は x = 0 で不連続であることを示せ。
問題 6. 問題 5で見たように導関数が連続関数にならない例があるので、次の「導関数は必ず連続関数であることの証明」はどこかが間違っている。間違っている文の番号と、その間違いを指摘せよ。なお、話の核心が曖昧にならないようにするために、関数の定義域は実数全体としておく。
導関数は必ず連続関数であることの「証明」.
1. f を微分可能な関数とし、その導関数を f ′ と書くことにする。
2. f ′ が連続関数であるとは、任意の実数 x0 に対して f ′ が x0 で連続であること、すなわち x→ x0 としたとき f ′(x) → f ′(x0) となることである。
3. よって、実数 x0 を一つとって考えればよい。
4. 微分の定義より
limx→x0
f(x) − f(x0)
x− x0
= f ′(x0) (1)
である。
5. 一方、平均値の定理より
f(x) − f(x0)
x− x0
= f ′(c) (2)
となる c が x と x0 の間に存在する。
6. 式 (2)を式 (1)に代入すると limx→x0
f ′(c) = f ′(x0) が得られる。
7. c は x と x0 の間の数なので、x→ x0 のとき c→ x0 となる。
8. よって、 limc→x0
f ′(c) = f ′(x0) である。
9. この式は f ′ が x0 で連続であることを示している。
10. x0 は任意だったので、f ′ は連続関数である。
2011年度数学 IA演習第 1回解答理 I 22, 23, 24, 25, 26, 27組
4月 26日 清野和彦
目 次
1 論理記号 1
1.1 論理とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.2 命題とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.3 数学の命題の実際 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.4 ∧ と ∨ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.5 ∀ と ∃ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31.6 ∀ と ∃ の順序について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41.7 ¬ について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51.8 =⇒ について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51.9 ∃ と ∧、および ∀ と ∨ の組み合わせ:問題 1の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . 61.10 =⇒ の否定:問題 2の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 71.11 逆命題について:問題 3の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 81.12 係り受けについて:問題 4の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
2 大学での数学、特に数 IAの感覚 10
2.1 問題 5の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 102.2 問題 6の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 122.3 極限の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
1 論理記号
1.1 論理とは
数学を学ぶ上で必要な「論理」とは、「論理学」のことではなく、いくつかの命題から別のいく
つかの命題を導き出す手続きのことで、皆さんが日常的に使っているものをちょっと抽象的にした
という程度のものです。
そうはいっても、「命題」や「逆」などの普段あまり使わない言葉や「∀」や「∃」などの見たこともない記号を使うので、なんだか難しいことのように感じる人もいるかも知れません。しかし、
それは、なじみのない抽象的な表現にとまどわされているだけのことで、慣れれば何ということも
ありません。試みに、数学とは無縁の生活をしている妻に「『A(x) ならば B(x) が任意の x につ
いて成り立つ』の否定を言ってみて」と要求したら、「何それ? 全然わかんないわよ。」という答でしたが、「それじゃ、『全出席した人には単位をあげる』と言っていた教員はどういう場合にウソを
ついたことになる?」と訊いたら、「そりゃ、全出席したのに不可の学生がいた場合でしょ。」と即座に返ってきました。つまり、そういう学生が一人でもいればウソをついたことになるし、また、
欠席したのに単位を取れた学生がいてもウソをついたかどうかには関係ないと自然に思っているわ
けです。このように、「A(x) ならば B(x) が任意の x について成り立つ」の否定が「A(x) なのに
第 1 回解答 2
B(x) でない x が一つでも存在する」だということは常識的に理解されているということで、単に
抽象的な表現方法に慣れていないだけのことなのです。
この節では、論理 (三段論法とか背理法とか)に付いて説明するのでなく (それこそ論理学です)、日常の言葉では曖昧になりやすい論理を、誤解のないように明確にとらえるための記号について説
明します。
1.2 命題とは
「いくつかの命題から別のいくつかの命題を導き出す」というからには「命題とは何か」をハッ
キリさせなければなりませんが、我々は論理学をやろうというのではないのですから、
命題とは、主観的な判断の入らない、意味のハッキリした文のことである。
という程度で十分です。「主観的な判断の入った文」とは、「とんぱた亭のラーメンは日本で一番お
いしい」のような文のことで、数学をやる上では出てこないので、結局、数学として意味のある
文、つまり
正しいとか間違っているとかを議論できる文
が命題だと言えます。例えば、「3は 2より大きい」とか「2は 3より大きい」とかが命題です。この場合、前者は正しい命題、後者は間違った命題とすぐに分かりますが、フェルマ予想のように正
しいことが分かるまでに 350年かかった命題や、リーマン予想のように未だに正しいか間違いか分からない命題も当然あります1。
1.3 数学の命題の実際
ゴチャゴチャ言いましたが、実際の命題は、数学の対象として定義されたもの(数とか式とか集
合とか)と、記号
∀ ∃ ∧ ∨ ¬ =⇒
と、係り受けをはっきりさせる括弧(このプリントでは [ ] を使うことにします)で作ります。誤解して欲しくないのですが、これらの記号で作らなければならないということではなく、日本語の
文のままでは意味を取りづらいようなときにこれらの記号で書き換えてみるとわかりやすくなるか
も知れない、という程度のものです。何度も言いますが、論理学ではないのですから、論理そのも
のに余り細かくこだわっても詰まらなくなってしまうだけです。論理に振り回されないための手だ
てだと思っておいて下さい。
それでは、それぞれの記号の意味を説明しましょう。
1.4 ∧ と ∨
どちらも二つの命題から一つの命題を作る操作を表す記号です。
1「ゲーデルの不完全性定理」というのを聞いたことがある人もいるかも知れません。それは、ごく大雑把に言うと「命題なのに正しいとも間違っているとも言えないものがある」というものです。だから、「正しいとか間違っているとかを議論できる文」という命題の定義は不十分なのです。しかし、数学基礎論や論理学をやるのでない限りこれで十分です。なお、不完全性定理に興味のある人には『林 晋 : ゲーデルの謎を解く : 岩波科学ライブラリー』をお勧めします。
第 1 回解答 3
∧の意味は andです。記号を使わず「and」や「かつ」と言葉で書いたり、省略して「,」で済すましたりすることもよくあります。例えば、命題「3 > 2」と「4 > 5」から一つの命題「[3 > 2]∧[4 > 5]」という命題を作ります。意味は、「3は 2より大きく、しかも 4は 5より大きい」です。もちろんこの命題は間違っています。(ばからしい例ですみません。)
∨ の意味は or です。実際に「or」と書いたり「または」と書いたりもします。「or」であって「either. . . or. . .」ではありません。例えば、上の二つの命題から一つの命題 「[3 > 2] ∨ [4 > 5]」を作ります。意味は、「3は 2より大きいか、または、4は 5より大きい」ですが、もっと細かく言うと「『3は 2より大きい』と『4は 5より大きい』の少なくとも一方が成り立つ」という意味です。だから、この例は正しい命題ということになります。
なお、∨ を「,」で書くことは絶対にありません。「,」は必ず ∧ を意味する約束になっています。
1.5 ∀ と ∃
∀ は、この記号のすぐ後に付いた文字(変数といいます)が取りうる値のすべてについてその直後にある括弧で括られた命題が成り立つという意味です。例えば、R を実数全体として、
∀x ∈ R [x2 ≥ 0]
と書いて、意味は
任意の実数 x に対して x2 ≥ 0 が成り立つ
です。(∀ という記号は「任意の」を意味する英語 “arbitrary”、または、「すべての」を意味する英語 “all”、または、「どれでも」を意味する英語 “any” の頭文字の大文字 A をひっくり返したも
のです。)
∃ は、この記号のすぐ後に付いた文字の取りうる値のうち少なくとも一つについてその直後にある括弧で括られた命題が成り立つという意味です。例えば、
∃x ∈ R [x2 ≤ 0]
と書いて、意味は
少なくとも一つの実数 x に対して x2 ≤ 0 が成り立つ
つまり、
x2 ≤ 0 の成り立つ実数 x が存在する
です。(∃ という記号は「存在する」を意味する英語 exist の頭文字の大文字 E をひっくり返した
ものです。)
なお、∀x や ∀y がどこまでに掛かっているのかが明らかな場合、直後の括弧は省くのが普通です。例えば、
∃x ∈ R [x2 < 2 ∧ x3 > 3]
を
∃x ∈ R x2 < 2 ∧ x3 > 3
第 1 回解答 4
と書いても誤読のおそれはないでしょう。また、∃については、「次のような」を意味する英語 “suchthat” を省略した記号 s.t を使うことがよくあります。例えば
∃x ∈ R[x2 < 2 ∧ x3 > 3
]は
x2 < 2 と x3 > 3 を両方とも満たすような実数 x が存在する
という意味なので、括弧を使う代わりに「満たすような」の部分を such that を省略した記号 s.t
で置き換えて
∃x ∈ R s.t. x2 < 2 ∧ x3 > 3
と書くわけです。論理記号を使って書かれた命題の意味が取りづらいときには、自分で括弧を補っ
て係り受けをはっきりさせてみると分かりやすくなると思います。
1.6 ∀ と ∃ の順序について
∀ と ∃ の両方が出てくる命題は注意が必要です。例えば、
∀x ∈ R[∃y ∈ R[(x2 + 1)y = 1]
](1)
と
∃y ∈ R[∀x ∈ R[(x2 + 1)y = 1]
](2)
は違う命題です。
(1)は
任意の実数 x に対して ∃y ∈ R[(x2 + 1)y = 1] が成り立つ
という意味です。つまり、∃y ∈ R[(12 + 1)y = 1] も成り立つし、∃y ∈ R[(e2 + 1)y = 1] も成り立つし、∃y ∈ R[(π2 + 1)y = 1] も成り立つし、、、というように x のところに勝手な実数を代入した
命題がそれぞれすべて成り立つという意味です。ということは、
それぞれの x に対して別々の y があればよい
という意味になります。そして、この命題の場合、本当に各 x に対してそのような y があります
ので、命題 (1)は正しい命題です。一方、(2)は
∀x[(x2 + 1)y = 1] の成り立つ y が存在する
という意味になります。つまり、
x に依らない実数 y で、x が何であっても (x2 + 1)y = 1 の成り立つものが存在する
ということです。そんな y はありませんので、この命題は間違った命題です。
いちいち上のように分析するのは面倒ですが、実際には
∀x が ∃y より先に出てきたときは(つまり左にあるときは)、y は x に依存してよい。
∃y が ∀x より先に出てきたときは、y は x に依存してはいけない。
第 1 回解答 5
と約束するのだと思っておけば十分です。不用意に日常語を使うと、(1)も (2)も
任意の実数 x に対して (x2 + 1)y = 1 を満たす y が存在する
となってしまい、意味が曖昧になってしまうので気を付けましょう。
∀ 同士、∃ 同士は順番を換えても意味が変わりませんので、元々括弧で囲わずに「∀x∀y」とか、もっと省略して「∀x, y」とかと書くのが普通ですが、∀ と ∃ の混在するときも、上のように約束してあるので、例えば
∀x∃y s.t. (x2 + 1)y = 1
などと括弧なしで書くのが一般的です。
1.7 ¬ について
¬ はその後にある命題の否定を作るものです。言葉で言えば、もとの命題の最後に「でない」を付け加えるだけのことで、皆さんも対偶や背理法でよく使うものです。例えば、「3 > 2」という命題からその否定「¬[3 > 2]」を作ります。意味は、当然「3 > 2 でない」、つまり「3 ≤ 2」です。このように、具体的な命題の否定は意味を考えて作るしかないのですが、上に挙げた「∀、∃、∧、∨」の部分については、それぞれを「∃、∀、∨、∧」に機械的に置き換えるだけで否定を作ることができます。
具体例で検証しておきましょう。
例えば、実数を変数とする実数値関数 f(x) に対して
f(x) は常に 0以上である
という命題の否定は、意味を考えれば
f(x) が負となる x が存在する
となります。一方、もとの命題を記号で書けば
∀x ∈ R [f(x) ≥ 0]
です。これの否定を上に書いた規則を使って機械的に作ると
¬[∀x ∈ R [f(x) ≥ 0]
]⇐⇒ ∃x ∈ R
[¬[f(x) ≥ 0]
]⇐⇒ ∃x ∈ R [f(x) < 0]
となって、ちゃんと否定が作れました。(記号 ⇐⇒ は二つの命題が「同値」であること、つまり、
意味の同じ命題であることを表す記号です。命題を作るときに使う記号ではありません。)
そのほかの記号については皆さんで実例を作って試してみて下さい。
1.8 =⇒ について
=⇒ は二つの命題から一つの命題を作るもので、普通は「ならば」と読まれます。しかし、この読み方は慣れないと誤解を生みやすいので気を付けなければいけません。二つの命題 A,B に対し
A =⇒ B を [¬A] ∨B で定義
第 1 回解答 6
します。これはあくまでも記号 =⇒ の定義なのであって、日常語としての「ならば」がこういう
意味だといっているのではありません。日常語の「ならば」とか「なら」とか「たら」とか「ば」
とか「とき」とかは曖昧なのです。例えば、雨の日に「雨が降ってなければ出かけるのに」と言っ
た場合、これを記号 =⇒ を使って
“[雨が降っていない ] =⇒ [出かける ]”が成り立つ
と読んでしまうと、=⇒ の定義から
“[¬[雨が降っていない ]
]∨ [出かける ]”が成り立つ
つまり
“[雨が降っている ] ∨ [出かける ]”が成り立つ
すなわち
[雨が降っている ]と [出かける ]の少なくとも一方が成り立つ
となってしまって「雨の中を出かける」というのもありということになってしまいますが、元々の
発言の本来の意味はもちろん「雨が降っているから出かけられない」、つまり「雨の中を出かける
のはなし」ということなのですから、全く違うことになってしまいます。一方、「全出席なら単位
をあげる」と言った場合、「全出席でなければ単位をあげない」という意味まで含んでいるとは言
えないでしょうから、=⇒ の定義とマッチします。
1.9 ∃ と ∧、および ∀ と ∨ の組み合わせ:問題 1の解答
ここから先は話が少し複雑になりますので、実例を解いてもらいながら説明して行くことにしま
した。それが問題 1から問題 4です。まず、この小節では問題 1を題材に、「∃ と ∧」の組み合わせ、および「∀ と ∨」の組み合わせについて考えます。論理記号なんか使わなくても解けるとは思いますが、練習のために論理記号を
使って解いてみましょう。
解答. 命題 A を記号で書くと
∃x ∈ R [f(x) = g(x) = h(x) = 0]
ですので、その否定は
∀x ∈ R[¬[f(x) = g(x) = h(x) = 0]
]です。ここで「f(x) = g(x) = h(x) = 0」の否定を考えるために等号をバラしましょう。このとき、例えば「[f(x) = g(x)]∧ [g(x) = h(x)]∧ [h(x) = 0]」としても正しいのですが、関数と関数の間の等式より関数と値の間の等式の方が簡単そうに見えますので、「[f(x) = 0]∧ [g(x) = 0]∧ [h(x) = 0]」とバラすことにしましょう。すると、
¬[[f(x) = 0] ∧ [g(x) = 0] ∧ [h(x) = 0]
]⇐⇒ [f(x) ̸= 0] ∨ [g(x) ̸= 0] ∨ [h(x) ̸= 0]
となります。まとめて、A の否定は
∀x ∈ R[[f(x) ̸= 0] ∨ [g(x) ̸= 0] ∨ [h(x) ̸= 0]
]です。これを日本語の文に直すと
第 1 回解答 7
任意の実数 x に対し f(x), g(x), h(x) の少なくとも一つは 0でない
となります。 □
最後の日本語の文は少々曖昧になっていることに気付きましたか?その「あいまいさ」をはっき
りさせるために、問題 1の命題 A に似た次の 4つの命題
∃x[[f(x) = 0] ∧ [g(x) = 0]
]∃x
[[f(x) = 0] ∨ [g(x) = 0]
]∀x
[[f(x) = 0] ∧ [g(x) = 0]
]∀x
[[f(x) = 0] ∨ [g(x) = 0]
]と、∀ や ∃ を ∧ や ∨ に対して「分配」した命題[
∃x[f(x) = 0]]∧
[∃x[g(x) = 0]
][∃x[f(x) = 0]
]∨
[∃x[g(x) = 0]
][∀x[f(x) = 0]
]∧
[∀x[g(x) = 0]
][∀x[f(x) = 0]
]∨
[∀x[g(x) = 0]
]
を比べてみましょう。意味を考えてみれば、真ん中の二つは分配する前と後とで同値ですが、一番
上と一番下の二つは同値でないことが分かるでしょう。つまり「分配法則」は、∃ と ∧ の組み合わせ、および ∀ と ∨ の組み合わせに対しては成り立ちません。例えば、
∃x ∈ R [x > 0 ∧ x < 0]
は
正でもあり負でもある実数が存在する
という意味なのでもちろん間違いですが、[∃x ∈ R [x > 0]
]∧
[∃x ∈ R [x < 0]
]は
正の実数も負の実数も存在する
という意味(つまり、前側の x と後側の x は別な値で良い)なので正しい命題です。
問題 1の最後の日本語での答えは、「任意の実数 x に対し」が分配されているのかいないのかが
少し曖昧に感じられます。このようなときに命題を論理記号で表すと誤解を避けられるのです。
1.10 =⇒ の否定:問題 2の解答
解答. (1) 命題 B を記号で書けば
∀x ∈ R[[φ(x) ≥ 0] =⇒ [ψ(x) ≥ 0]
]
第 1 回解答 8
です。ここで =⇒ を定義に従って書き換えると
∀x ∈ R[[φ(x) < 0] ∨ [ψ(x) ≥ 0]
](3)
となります。つまり、
任意の実数 x に対して φ(x) < 0 か ψ(x) ≥ 0 の少なくとも一方が成り立つ
となります。よって、(1)の答は
「a < 0」または 「0 ≤ a ≤ 1, b ≥ 2√a− a」または 「a ≥ 1, b ≥ 1」
となります。 □
「φ(x) < 0 が任意の実数に対して成り立ってしまうときは、ψ(x) は何でもよい」というところが気持ちの悪いところだと思いますが、あくまでも論理における「ならば(=⇒)」の定義ですので、「全出席なら単位がもらえる」の例でも思い出して納得して下さい。「『3 < 2 =⇒ 100 = 1』も正しい命題なのか」といった批判をする人がありますが、例えば「(石原慎太郎の弟の)石原裕次
郎が都知事になったなら逆立ちで世界一周してみせる」という約束をしたやつがいても、石原裕次
郎は故人なので絶対に逆立ちで世界一周をする羽目にはならないわけですから、こいつはウソをつ
いたことにはなりません。これは「なら (ば)」がナンセンスなのではなく約束の内容自体がくだらないだけなのです。「『3 < 2 =⇒ 100 = 1』が正しい」というのも、命題の内容がくだらないだけであって =⇒ の定義の問題ではありません。
解答. (2) 命題 B の否定も =⇒ の定義に戻ればできます。命題 B を記号で書くと (3)なのですから、その否定は
∃x ∈ R[[φ(x) ≥ 0] ∧ [ψ(x) < 0]
]で、日本語で書くと
φ(x) ≥ 0 なのに ψ(x) < 0 であるような実数 x が少なくとも一つ存在する
となります。 □
このように
「A ならば B である」の否定は「A なのに B でない」
です。「全出席なら単位がもらえる」の例でも感じてもらえるように、これは納得しやすいことだ
と思います。
1.11 逆命題について:問題 3の解答
A =⇒ B という命題に対して B =⇒ A という命題を元の命題の逆命題、あるいは簡単に逆とい
います。「逆必ずしも真ならず」を具体例でみてもらうのが問題 3です。なお、問題文はわざと曖昧に書いてあって、本当は「任意の実数 a, b, c に対して」が要ります。
しかし、実際にはこの問題のように「分かり切っていることは省く」のが普通なので、注意して補
いながら教科書やノートなどを読むようにして下さい。
第 1 回解答 9
解答. 問題の命題を記号で書くと (∈ R は面倒なので省きます。)
∀a∀b∀c[[
[a ≤ b] ∧ [b ≤ c]]
=⇒ [a ≤ c]]
です。「逆」とは =⇒ の前後を入れ替えた命題のことですので、
∀a∀b∀c[[a ≤ c] =⇒
[[a ≤ b] ∧ [b ≤ c]
]]となって、日本語で書けば
(任意の実数 a, b, c に対して、) a ≤ c が成り立っているならば a ≤ b と b ≤ c の両方
が成り立つ
です。これは間違った命題です。つまり、これの否定
∃a∃b∃c[[a ≤ c] ∧
[[a > b] ∨ [b > c]
]]日本語で書けば
a ≤ c であっても a > b か b > c の少なくとも一方の成り立つ実数 a, b, c が存在する
が正しくなります。例えば、a = 1, b = 3, c = 2 が例、つまり元の命題の逆命題の反例です。 □
1.12 係り受けについて:問題 4の解答
最後に「任意の c」がどこに係るかで意味が違ってしまう例を見ておきましょう。問題 4です。問題 3と同様に「任意の実数 a, b に対して」が省かれていることに注意して下さい。
解答. (1) 論理記号を使って書くと
∀a∀b∀c[[
[b ≤ c] =⇒ [a ≤ c]]
=⇒ [a ≤ b]]
です。例によって =⇒ を定義に従って書き換えると、
∀a∀b∀c[[
[b ≤ c] ∧ [a > c]]∨ [a ≤ b]
]日本語で書くと
任意の実数 a, b, c に対して、b ≤ c と a > c が同時に成り立つか、または a ≤ b が成
り立つ
となります。これは間違った命題で、例えば a = 2, b = 1, c = 3 が反例です。 □
(2) これも論理記号で書くと、
∀a∀b[[∀c
[[b ≤ c] =⇒ [a ≤ c]
]]=⇒ [a ≤ b]
]で、=⇒ の定義で書き換えると
∀a∀b[[
∃c[[b ≤ c] ∧ [a > c]
]]∨ [a ≤ b]
]日本語で書くと
第 1 回解答 10
任意の実数 a, b に対して、b ≤ c と a > c が同時に成り立つ実数 c が存在するか、ま
たは a ≤ b である
となります。これは正しい命題です。なぜなら、a > b のときは c として b を選べるからです。□
(2)の場合は、「対偶」を考えた方がすっきりします。A =⇒ B の対偶とは
[¬B] =⇒ [¬A]
のことです。=⇒ の定義に従って対偶を書き換えてみると
[¬B] =⇒ [¬A] ⇐⇒[¬[¬B]
]∨ [¬A]
となり、これは [¬A] ∨B と同値ですので A =⇒ B と一致します2。実際に (2)の(二番目の =⇒に対する)対偶を記号で書いてみると、
∀a∀b[[a > b] =⇒ ∃c
[[b ≤ c] ∧ [a > c]
]]日本語で書けば、
任意の実数 a, b に対して、a > b ならば、b ≤ c と a > c を同時に成り立たせる c が
存在する
となります。c として b を選べるので、これは正しい命題です。
2 大学での数学、特に数 IAの感覚
よく「大学の数学は高校までのものとは違う」という人がいます。数学を学んで行く上での「心
構えの違い」を指している場合もありますが、心構えが違うのは物理や化学など他の科目でも同じ
ことです。その意味での違いではなく、数学の内容としての違いがどこにあるのか、特に Aコースではどのようなところを重視するのか、その点に具体的な例で触れてもらうのが問題 6です。収束や極限の定義をしないと話が曖昧になってしまうということを実感していただければ目的は達成
されたと言えます。最後の小節で極限の定義をお見せしますが、今回は「こんな言葉遣いをするの
だ」という「顔見せ」にすぎません。ちゃんとした説明は(講義でも演習でも)あとでたっぷりと
やるので、気楽に読み流してください。今回は「収束や極限をちゃんと定義した方が良さそうだ」
という気分になっていただければ十分です。
問題の指示にもあるように、解答はすべて高校で学んだ知識の範囲で書きます。
2.1 問題 5の解答
(1) x ̸= 0 では g(x) は sin y に y = 1/x を合成したものと x2 との積ですので、積の微分法と合
成関数の微分法で計算できます。積の微分法とは
(φ(x)ψ(x))′ = φ′(x)ψ(x) + φ(x)ψ′(x)
2命題 A と ¬[¬A] が同じ命題であること、つまり「二重否定は何もしないのと同じ」というのは認めて下さい。これを無条件には認めない立場の論理学もあります。
第 1 回解答 11
であり、合成関数の微分法とは、
(φ(ψ(x)))′ = φ′(ψ(x))ψ′(x)
です。これらを使って、
g′(x) =(x2 sin
1x
)′
= (x2)′ sin1x
+ x2
(sin
1x
)′
= 2x sin1x
+ x2
(sin′ 1
x
)(1x
)′
= 2x sin1x− cos
1x
と計算できます。 □
(2) x = 0 を含む範囲では g(x) は一つの式で定義されていないので、(1)のように公式を適用してg′(0) を計算することはできません。そこで、微分の定義を直接使って計算しましょう。
g′(0) = limx→0
g(x) − g(0)x− 0
= limx→0
x2 sin 1x − 0
x− 0= lim
x→0x sin
1x
となります。ここで、−1 ≤ sin 1x ≤ 1 であることから、
−|x| ≤ x sin1x≤ |x|
という不等式が成り立つことに注意しましょう。すると、x→ 0 のときこの不等式の右辺と左辺はどちらも 0に収束するので、はさみうちの原理によって中辺も 0に収束します。以上より、g′(0) = 0であることがわかりました。 □
(3) 関数 φ(x) が x = a で連続であるとは、 limx→a
φ(x) = φ(a) が成り立つこと、つまり、「x → a
としたとき φ(x) は収束する」上に、「その極限値が φ(a) に一致する」ことです。ということは、g′(x) が x = 0 で不連続であるとは、
x→ 0 のとき g′(x) は収束しない
か、または
limx→0
g′(x) は存在するが g′(0) と一致しない
のどちらかが成り立つことです。だから、まず x → 0 のとき g′(x) が収束するかどうかを調べ、収束しなければそれで証明終了、収束するならその値が g′(0) = 0 と一致しないことを確認して証明終了となります。
それでは、 limx→0
g′(x) を計算してみましょう。(1)で計算したように x ̸= 0 では
g′(x) = 2x sin1x− cos
1x
でした。一方、(2)の最後に計算したように、
limx→0
x sin1x
= 0
です。ということは、もし limx→0
g′(x) が存在するなら、
limx→0
g′(x) = limx→0
(g′(x) − 2x sin
1x
)= − lim
x→0cos
1x
となります。ところが、x → 0 のとき、1/x は x が正なら正の無限大に発散、x が負なら負の無
限大に発散しますので、どちらにせよ cos 1x は −1 と 1の間を振動してしまって収束しません。と
いうことは x→ 0 のとき g′(x) も収束しません。よって g′(x) は x = 0 で不連続です。 □
第 1 回解答 12
� �
O
y
x O
y
x
g(x) のグラフ g′(x) のグラフ
0.01
1
� �2.2 問題 6の解答
「証明」の中の文を一つ一つ検討して行きましょう。
1. f を微分可能な関数とし、その導関数を f ′ と書くことにする。
これは名前を付けただけです。なんの問題もありません。
2. f ′ が連続関数であるとは、任意の実数 x0 に対して f ′ が x0 で連続であること、すなわち
x→ x0 としたとき f ′(x) → f ′(x0) となることである。
問題 5の (3)でも使ったように、これは「f ′ という関数が連続関数である」ということの定義そのものです。問題ありません。
3. よって、実数 x0 を一つとって考えればよい。
このようにあからさまに「一つとって」と言われてしまうと、特定の x0 についてしか議論しな
いように読めてしまうかも知れませんが、ここでは「ある性質を持つ特定の x0」をとっているの
ではなく、「任意の x0」をとっているのだから問題ありません。つまり、「以下の議論は x0 が何で
あっても成り立つように進めて行く」と宣言しているわけです。
4. 微分の定義より
limx→x0
f(x) − f(x0)x− x0
= f ′(x0) (4)
である。
微分の定義そのものが書いてあるだけです。問題 5の (2)でも使いました。
第 1 回解答 13
5. 一方、平均値の定理よりf(x) − f(x0)
x− x0= f ′(c) (5)
となる c が x と x0 の間に存在する。
f の定義域は実数全体としているので、f が微分可能なら導関数 f ′ の定義域も実数全体です。
よって、xと x0 に挟まれた部分はすべて f ′ の定義域に入っていますから平均値の定理が使えます。
「f が連続であることを明示的に言っていないのだから平均値の定理が使えるとは限らない」と
思う人がいるかも知れませんが、微分可能なら連続なのですから問題ありません。例えば、4の倍数についての問題で、それが偶数であることを証明に使うことをためらう人はいませんよね。
「微分可能なら連続だなんて初めて聞いた」という人もいるかも知れませんが、このことは高校
で学んでいます。念のために証明を書いておきましょう。
φ(x) が x = a で微分可能だとします。すると、
limx→a
(φ(x) − φ(a)) = limx→a
φ(x) − φ(a)x− a
(x− a)
=(
limx→a
φ(x) − φ(a)x− a
) (limx→a
(x− a))
= φ′(a) · 0 = 0
が成り立ちます。φ(a) は x によらない定数ですので limx→a
の外に出すことができます。つまり、
limx→a
(φ(x) − φ(a)) = limx→a
φ(x) − φ(a)
です。そこで、φ(a) を右辺に移項すると、
limx→a
φ(x) = φ(a)
となります。これは φ(x) が x = a で連続であることの定義です。これで示せました。
6. 式 (5)を式 (4)に代入して limx→x0
f ′(c) = f ′(x0) となる。
これも、本当に代入しただけなので問題ありません。注意すべき点は c が x に依存する数だとい
うことでしょう。c の取り方は複数ある場合もあるので「c は x の関数」と言ってしまうのは少々
ためらわれます。「c として、例えば x にもっとも近いものをとることに決めればよい」と思うか
も知れませんが、「x にもっとも近い c」があるとは限らない3のでそうもいきません。ただし、決
め方は別として、各 x に対して c を一つ決めさえすれば、当然 c は x の関数になりますので、c
を x の関数だと思ってもかまいません。
7. c は x と x0 の間の数なので、x→ x0 のとき c→ x0 となる。
皆さんお馴染みの「はさみうちの原理」を使っただけです。問題 5の (2)でも使いました。
3このことは講義や演習が進めばはっきりします。今はとりあえず信じて下さい。
第 1 回解答 14
8. よって、 limc→x0
f ′(c) = f ′(x0) である。
「よって」と書いてありますが、なにによってなのでしょうか。文 1から文 7までの議論の流れ
から考えて、文 6と文 7によってなのでしょう。
文 6は
x→ x0 ならば f ′(c) → f ′(x0)
で、文 7は
x→ x0 ならば c→ x0
なので、そもそも三段論法になっていない、つまり
A ならば B、B ならば C、よって A ならば C
という論理の使い方を間違えたのだ、と見えるかも知れませんが、今の場合は実はそれとも違って
います。
状況をわかりやすくするために、文 6と文 7で c を x の関数として c(x) と書いてしまいましょう。c は x ̸= x0 のときに x と x0 の間に存在するのですから、x0 は関数 c(x) の定義域に入っていないことに注意して下さい。
さて、c(x) という記号を使うと、文 6は
limx→x0
f ′(c(x)) = f ′(x0)
と、文 7は
limx→x0
c(x) = x0
と書き直せます。この二つから結論できることは
c(x0) = x0 と定義することで x0 を c(x) の定義域に含めることにすると、合成関数f ′(c(x)) は x = x0 で連続になる
ということまでです。f ′(x) が x = x0 で連続であることまでは言えていません。
ところが
limc→x0
f ′(c) = f ′(x0)
という式は、f ′(x) は x = x0 で連続であるということの定義式です。「x じゃなくて c と書いてあ
る」と思うかも知れませんが、定積分における積分変数と同じように limc→x0
f ′(c) の文字 c は何で
もかまわないダミーです。∫ b
aφ(x)dx =
∫ b
aφ(t)dt と同じように、 lim
x→aφ(x) = lim
c→aφ(c) です。
結局、この文 8は、文 6と文 7から巧みに x を消し去ることにより「x に依存する c をまるで
独立変数のように見せる」という飛躍を行っているのです。
9. この式は f ′ が x0 で連続であることを示している。
文 8の主張を日本語で言い換えただけです。
第 1 回解答 15
10. x0 は任意だったので、f ′ は連続関数である。
x0 は特別なものをとったのでなく任意の実数でよいのだということを改めて注意しているだけ
で、そもそも必要のない文だとさえ言えます。問題ありません。
結論
以上により、「間違っているとすれば文 8である」ということがわかりました。一方、問題 5によって「導関数は連続である」という主張が間違っていることがわかっています。よって、文 8は
(単なる説明不足などではなく)本当に間違っていることになります。そして、間違いの中身は、
例えば
x に依存する数 c を独立変数として扱ってしまった
というように言うことができます。(「どう間違えたか」は見ようによっていろいろと説明できるで
しょうから、これは指摘の仕方の一例に過ぎません。) □
2.3 極限の定義
以上で、本当に文 8が間違っていることがわかりました。しかし、「高校の知識」ではっきりし
たことは、
• 文 8に論理的な飛躍のあること
• 導関数が連続でない関数が存在すること
で、「論理的な飛躍」の内容は
x に依存する c を独立変数とすり替えた
というものです。このままでは、「結論が間違っているのだから間違い」と言っているだけで、ど
う間違ったのか、あるいはどうしてそういうことをしてはいけないのかまでははっきりしません。
はっきりしない原因は、「極限の定義」をしていないからです。高校までは、極限の定義はせず
に極限の満たすべき性質のみを使ってきました。ここでは極限の定義から文 8の間違いを考察しま
しょう。なお、最初に注意したように、今回は極限の定義の「顔見せ」に過ぎません。講義でも演
習でも後で「正式に」出てくるので、今すぐ身につけようなどと考えずに、気楽に読んでください。� �定義 1. 関数 f(x) が x → x0 のとき a に収束するとは、どんなに小さな正実数 ε に対して
も十分小さな正実数 δ をうまくとって |x− x0| < δ を満たす任意の x が |f(x)− a| < ε を満
たすようにできることを言う。� �論理記号を使って書けば、
∀ε > 0 ∃δ > 0 ∀x |x− x0| < δ ⇒ |f(x) − a| < ε
となります。
なんだかゴチャゴチャしてわかりにくいですが、グラフで考えて見るとわかりやすくなります。
y = a を中心とした幅 2ε の帯を考えたとき、y = f(x) のグラフは普通この帯の中に収まりません
第 1 回解答 16
� �
O
y
x O
y
x
εε
δ δ
連続不連続
フが帯からはみ出すδ をどうとってもグラ
図 1:� �が、x = x0 を中心とした幅 2δ の部分だけは収まっているという状況です(図 1)。 こう考えれば、この定義が「y = f(x) のグラフが x→ x0 で (x0, a) に収束している」という状況を表していることは納得できるでしょう。
さて、我々が明らかにしたいことは、「文 6と文 7から文 8を作ることはできない」ということ
でした。そこで、この 3つの文を、上の定義を使って詳しく書き換えてみることにしましょう。論理記号を使って文を書き換えてみます。ただし、見た目がゴチャゴチャして読みにくくなるの
を防ぐために、ε > 0 とか x ̸= x0 とかの分かり切った条件は省いてしまうことにします。また、
「ならば」という日本語を「⇒」という矢印で書くことにします。すると、文 6は
∀ε ∃δ ∀x |x− x0| < δ ⇒ |f ′(c) − f ′(x0)| < ε
文 7は
∀ε ∃δ ∀x |x− x0| < δ ⇒ |c− x0| < ε
文 8は
∀ε ∃δ ∀c |c− x0| < δ ⇒ |f ′(c) − f ′(x0)| < ε
です。
ここで、∀ などの記号を無視し、|x− x0| < δ を A、|f ′(c) − f ′(x0)| < ε を B、|c− x0| < ε を
C と省略して書いてみると、
A⇒ B, A⇒ C, よって C ⇒ B
というむちゃくちゃな三段論法をやってしまっているように見えるかも知れません。しかし、そう
ではないのです。なぜなら、文 6の f ′(c) と文 8の f ′(c) は別物だからです。∀ や ∃ などのついている文字はダミーで、定積分における積分変数のようになんの文字に置き換えてもよいのです。そ
こで、文 8の中の c を文 6,7にあわせて x に書き換えておきましょう。すると、文 6は
∀ε ∃δ ∀x |x− x0| < δ ⇒ |f ′(c) − f ′(x0)| < ε
文 7は
∀ε ∃δ ∀x |x− x0| < δ ⇒ |c− x0| < ε
第 1 回解答 17
文 8は
∀ε ∃δ ∀x |x− x0| < δ ⇒ |f ′(x) − f ′(x0)| < ε
となります。ここまで来れば、文 6と文 7から文 8を結論できるはずのないことは一目瞭然でしょ
う。なぜなら、文 8の結論に当たる |f(x) − f ′(x0)| < ε という不等式が文 6にも文 7にも出てき
ていないからです。
文 6は
任意の x に対して |f ′(c) − f ′(x0)| が小さい c がとれる
と言っており、文 7は
その c は x0 に近い
と言っています。つまり、文 6と文 7でわかることは
|f ′(x) − f ′(x0)| < ε を満たす x が x0 のどんなに近くにも少なくとも一つ存在する
ということです。だから、x0 の近くに |f ′(x) − f ′(x0)| < ε を満たさない x がいくら存在しても
かまわないわけです。ところが、文 8の主張は
x0 に近い x はすべて |f ′(x) − f ′(x0)| < ε を満たす
ということです。このように、文 8においては、「成り立つ実数が少なくとも一つ存在する」とい
うことを「すべての実数について成り立つ」と言い換えてしまっているわけです。日常的に(意識
的にも無意識にも)よく犯されている間違いですね。(「オレの知り合いの東大生はスゲー生意気な
んだよ。ったく東大生なんてみんな生意気でいけ好かねぇ。」とか (^^;)
大学の数学(特に数 IA)では「何が正しくて何が正しくないか」ということについていつもこの程度まで掘り下げて(拘って?)考える、というところが高校までの数学との違い(の一つ)で
す。問題 6の解答の議論を問題 5の関数 g に当てはめて具体的にどのような状況になっているの
か是非考えてみてください。
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