進化経済学会2013春ポスターセッション

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ソーシャルゲームの問題点と

ユーザーの特性小山友介(芝浦工業大学)

ゲームという商品の特性▶嗜好性が非常に強い商品

ゼロ円でも要らないモノもある(ワゴンの肥やし)

→単純な価格競争にならない ブランドに対する忠誠心(ロイヤリティ)を持つ

価格を上げても、かなりの消費者はついてくる

経済学用語で言うところの市場支配力を持つ

各ユーザーが「値頃( reasonable)」ラインを持つ 値頃ラインより安ければ購入

1本のゲームからの利益を増やすには?▶大きく 2つの方法

新規ユーザーを増やす 客単価を上げる

▶新規ユーザーを増やすのは非常に難しい 新規タイトルはあまり売れない 既存タイトルの続編はほとんどが縮小再生産

減衰率をどこまで下げられるか、が勝負

広告宣伝費はほとんど無い▶客単価上昇しか方法がない

パッケージゲームでの客単価上昇法価格差別戦略

▶下の 3戦略の組合せ DLC,限定版,廉価版

初回版

人数(需要)

払える上限額

0

廉価版

初回版

人数(需要)

払える上限額

0

限定版

売上

人数(需要)

払える上限額

0

DLC

※これ以外だと,店舗別特典を用意して複数買い誘発もありますが,特殊な例外とします

ソーシャルゲームの特性▶ゲームのパッケージではなく,サービスを販売する 売り切り型でない 顧客を継続的に「もてなす」必要あり

○○キャンペーン,○○イベント...

サービスの対価として,消費者が遊んでいる間は継続的に収入チャンス

▶最低課金単位が小さい:細やかに価格差別可能 10000円払ってもいい人からは 10000円 100円だけ試したい人からは 100円

企業の売上額

人数(需要)

払える上限額

0

ソーシャルゲームの価格差別戦略▶最低課金単位が細かい→演出次第で,本人が払ってもいい上限まで出してもらうことが可能に

▶理論上,ソーシャルゲームでの可能な売上(右図) 三角形のすべての部分だけ払ってもらうことが可能

アイテム課金のビジネスモデルの特徴▶パッケージにない利点が多い

1. 基本料金無料:多数の潜在的な顧客を呼び込む (いわゆるフリーミアムビジネスモデル)

2. パッケージよりずっと細やかに価格差別を行える

1. 100円しか払う気がない顧客からは 100円

2. 5000円まで出せると考えている顧客からは 5000円

3. 10 万円までと考えている顧客からは 10 万円▶ 重要なこと:ビジネスの重心が移動

お金:ゲームエクスペリエンスの対価 モノ(パッケージ)からサービスへ

価格差別戦略:不十分▶ソーシャルゲームのすさまじい高収益

利益高・利益率ともに高い 売上高利益率: 50 %?

非常な高収益:別の理由があるはず 価格差別戦略だけではそこまでいくのか?

▶補助線:頻発する高額支払 子供~高校生が親のアカウントで遊ぶ→高額課金 いい年した大人も高額課金

数十万,百万以上

▶合理性を失わせてるのでは?

「演出」による上限額拡大▶ゲーム内の様々な作り込

み 課金をすることで気持ちよく/楽しくプレイできるデザイン

CEDECでの開発者の発言 月 5000円:俺ツエー

月 30000円:無双

定期的なイベント 1 月は正月, 2 月はチョ

コ・・・

支出するきっかけにする

人数(需要)

払える上限額

0

様々な作り込みで合理的な行動より支払が増加

課金率

モバゲー全体

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

0円 1-300円 301-500円 501-1000円1001-2000円 2001-3000円 3001-5000円 5000円 -

Prospect Theoryの知見とソシャゲ(1)▶Prospect Theoryの知見で,ソーシャルゲーム

での人間行動はある程度説明可能 もっと言うなら,「ハマるゲームデザイン」として,ゲーム産業内に暗黙知化されたノウハウとして存在しているのでは?

1. 人間は損得の計算を「損(得)の総額」ではなく、「基準となる点からの差額」で行う

→1回 300円ずつ徴収することで基準点を毎回ずらす.「 300円出しただけ」という感覚→最終的に 10 万円に.

Prospect Theoryの知見とソシャゲ(2)2. 損得の評価:基準点から離れるにつれて・・・

得:プラス評価の伸び幅が弱まる(逓減) 損:マイナスの評価の伸び幅が強まる(逓増)

→1回あたりの支出額が高額になると忌避感が強まるので、安価( 100円~ 300円程度)に押さえる

Prospect Theoryの知見とソシャゲ(3)3. 確率が小さい現象に対して、人間はその発生確

率を過剰に見積もりがちである。言い換えると、「ほぼ 100 %」の現象に対しては「 100 %でない」ことに過剰に反応し「わずかだが可能性がある」現象に関しては「確率がゼロでない」ことに過剰に反応する

→ユーザーは実際の確率以上に「レアアイテムが当たるかもしれない」と考えやすい

▶これら 3つの知見:“ Prospect Theory”からの帰結

ソーシャルゲーム依存度判定(1)1. いつも頭のなかでソーシャルゲームのことばかり考えている。

2. 興奮を求めてソーシャルゲームに使う金額が次第に増えている。

3. ソーシャルゲームをやめようとしてもやめられない。

4. ソーシャルゲームをやめているとイライラして落ちつかない。

5. いやな感情や問題から逃げようとしてソーシャルゲームをする。

DSM-IVをソーシャルゲームに合うように改変

ソーシャルゲーム依存度判定(2)6. (コンプ)ガチャで欲しいカードが出ないと、

使ったお金をムダにしたくなくて、いつまでも(コンプ)ガチャをやり続ける。

7. ソーシャルゲームの問題を隠そうとして、家族やその他の人々に嘘をつく。

8. ソーシャルゲームの元手を得るために、詐欺、盗み、親のクレジットカード番号を盗み見する、横領、着服などの不正行為をする。

9. ソーシャルゲームのために、人間関係や仕事、学業などがそこなわれている。

10.ソーシャルゲームでつくった借金を他人に肩代わりしてもらっている。

ユーザー特性調査▶データソース:ゲームを日常的にプレイしているユーザー 2060人 10 代, 20 代, 30 代, 40 代, 50 代の男女それぞれ

200人 データ選別用アンケートを 3 万人から以下のうち少なくとも 1 種類に関して「日常的に遊ぶ」と回答した人のみをピックアップ 家庭用ゲーム

PCのオンラインゲーム

ソーシャルゲーム

(ソーシャル以外の)

ケータイゲーム

1次調査(スクリーニング調査)約3万サンプル

2次調査(本調査)10代から50代の男女各200サンプル

「家庭用ゲーム・オンラインゲーム」もしくは「ソーシャルゲーム・モバイルゲーム」を現在利用している人のみに限定

ユーザ間の交流

▶ゲームを遊ぶ際の交流 一人で遊ぶ人がほとんど

▶ゲームの紹介・勧誘 家庭用の方が積極的 ソーシャルはあまり勧誘しない

78.3%

11.2%

0.7%

13.5%

78.2%

6.1%

8.5%

9.7%

67.9%

17.1%

10.6%

17.0%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%100.0%

基本的に一人

周囲の友人・知人

ネットの友人・知人

家族

家庭用のみ オンライン・ソーシャル 両方遊ぶ

40.8%

30.1%

27.9%

44.1%

38.7%

39.0%

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0%

家庭用

オンライン

ソーシャル

家庭用

オンライン

ソーシャル

両方利用経

験あり

家庭用

のみ

オンライン

・ソー

シャルの

遊んでいるゲームを紹介・勧誘するか

ゲームで重視する要素(クロス)

0% 25% 50% 75% 100%

ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者ソーシャル未経験ソーシャル経験者

操作

のシン

プルさ

シナリ

オ・世

界観

グラ

フィッ

クキャラ

クターサ

ウンド

緊張

感・スリル

コミ

ュニケー

ション

比較

・ランキ

ング対戦

不要 どちらでもない 重要

重要という回答が過半数を超える 4項目

「操作のシンプルさ」以外は家庭用によく見

られる特徴

ソーシャルの経験有無で評価が変わる 3項目

ゲームで重視する要素(因子分析)▶ 前スライド各質問で因子分

析 主因子法・バリマックス回転

▶ 出来すぎぐらいキレイに 2

▶ 縦軸:家庭用ゲーム的因子 サウンド,グラフィック,

キャラクター,シナリオ・世

界観

▶ 横軸:ソシャゲ的因子 対戦,比較・ランキング,コ

ミュニケーション

▶ 面白さとして 2つの因子は個別のもの

-.500

.000

.500

1.000

-.500 .000 .500 1.000

操作のシンプルさ

対戦比較・ランキング

コミュニケーション

緊張感・スリル

グラフィック

サウンド

キャラクターシナリオ・世界観

ゲームハード価格の主観的評価▶本体価格(定価)を提示した上で各ハードに対し高い( 5)~安い( 1)について 5 件法で質問

▶ 3 グループで 4, 5と回答した比率を計算し,横軸をハード価格としてプロット 家庭用のみ遊ぶ オンライン orソシャゲの

み 両方遊ぶ

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000

高いと

感じた人の

割合

価格[円]

家庭用のみ オンライン・ソーシャルのみ

両方プレイ経験あり 線形 (家庭用のみ)

線形 (オンライン・ソーシャルのみ) 線形 (両方プレイ経験あり)

PSVITA

WiiU

PlayStation3

Xbox360

ニンテンドー3DS

オンライン・ソシャゲのみ:ハード価格に厳しい

両方プレイ:ゲーム好き→ハード価格に寛容

家庭用のみ:その中間  

ユーザー特性(おまけ)卒論データより▶ 中高生データ

( 2012 年 12 月実施) 私立 A学園(中高一貫の男子校)

中学生 180人,高校生200人

▶ゲームユーザーの傾向 経験率 5 割,現役率 3 割

中>高>大

プレイ経験者中の課金率2 割程度

小山研の卒論調査より

67

55

20

29

40

18

84

94

34

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中学

高校

パイロット調査

今も遊んでいる

過去にやっていた

遊んでいない

※パイロット調査:芝浦工大 1, 2年生(ほぼ男子)

23

17

69

85

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中学

高校

ある

ない

参考:コンプガチャ

コンプガチャ規制とその対応▶消費者庁:「絵合わせ」のみ規制 「カード合わせ」に関する景品表示法(景品規制)の運用基準の公表について( 2012 年 6 月 28 日)

▶一般社団法人ソーシャルゲーム協会( JASGA)設立  2012 年 11 月 8日 現在,自主規制議論中 「何がコンプガチャか」のガイドラインは作成

ガチャ自体を辞める気は無いらしい

コンプガチャの問題点1. 販売しているのが「アイテムが手に入る”かもしれない”くじを引く権利」であること

アイテムをそのまま販売しているのではない

2. ( 1と関連して)ユーザーが欲しいアイテムを手に入れるまでにかかる金額が不明

「ガチャ 1回 300円、コンプガチャの最終商品の価格が 10 万円」だとしても、消費者に商品価格は明示されていない

3. くじ 1回あたりの支出額が少額で、かつ、くじ1回あたりにかかる時間が短い

気がついたら高額課金,と言うことが起こりうる

スマートフォン普及後のソシャゲこの 1 年で急激にスマホシフト

1. ゲームが複雑に 画面解像度が大幅上昇 端末性能が飛躍的に上昇 UIがタッチパネルに Webベースで、ネイティブアプリとしての開発も

2. ガワネイティブがやりづらい

→開発コストが高騰

KLab2011年度四半期決算短信より抜粋

12 ―月 2月 3 ―月 5月 6 ―月 8月 9 ―月 11月0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

スマホ・ネイティブアプリ スマホ・Web経由ガラケー

Klabの 2011年 12月~ 2012年 11月のモバイルゲーム売上比率

ソシャゲの今後▶ コンプガチャ騒動後:増収減益

まだまだ高収益だが,限界も見えた

▶ 未だに「ガチャ」以外のビジネスモデルが無い パズル&ドラゴンズ(ガンホーゲームズ)ですら,収益源は廃人のガ

チャ

▶ 消費者庁がガチャ規制まで踏み込むかが,今後の鍵騒動前 1騒動後 2騒動後 騒動前 1騒動後 2騒動後 騒動前 1騒動後 2騒動後

Klab 3660 3299 3546 1446 931 -212 39.5% 28.2% -6.0%

Cave 651 661 518 82 -15 -46 12.6% -2.3% -8.9%

ドリコム 1875 1901 2176 251 18 200 13.4% 0.9% 9.2%

アクセルマーク 471 562 475 57 -11 -6 12.1% -2.0% -1.3%

クルーズ 1781 2284 3196 278 477 460 15.6% 20.9% 14.4%

ボルテージ 2195 2218 2407 465 -107 181 21.2% -4.8% 7.5%

*エイチーム 685 1224 1836 262 341 750 38.2% 27.9% 40.8%

合計 11318 12149 14154 2841 1634 1327 25.1% 13.4% 9.4%

**ガンホーゲームズ 1936 2730 12159 685 1251 6897 35.4% 45.8% 56.7%

***合計(参考値含 ) 13254 14879 40467 3526 2885 9551 26.6% 19.4% 23.6%

単位:百万円売上高 営業利益 営業利益率

結語:ソーシャルの利点はどこか?▶日本のゲーム産業が海外で不利な点がカバーされ,

日本のゲーム産業の優れた点が生きている分野

1. 2Dのイラストに非常に高い付加価値がつく。2. プレイヤーを熱中させる、きめ細やかな作り込

みがとても重要である。3. 据置機ほどの高度な技術/システム設計能力を必要としない。

▶早く業界を健全化させ,世界市場に出て行くべし

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