第4章 ディジタル ic とその特性 - uitec.net · 4.1.1 cmos とttl の特性 cmos...
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新欲張り電子工作(第4章)
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第4章 ディジタル IC とその特性
ディジタル IC は半導体で作られています。この半導体は、負の電荷を持つ電子(electron:エレクトロ
ン)と正の電荷を持つ正孔(Hole:ホール)を持ちます。この特性を用いて、整流作用を持つダイオード
や増幅作用を持つトランジスタなどのような能動素子(Active Device)が作られます。
これに対して、抵抗やコンデンサ、及びコイルなどは受動素子(Passive Device)といわれています。
なお、ディジタル IC のほとんどは、半導体であるシリコンから作られています。このシリコンには N 形
シリコン(純粋シリコンにリンや砒素を混入)と P 形シリコン(純粋シリコンにホウ素やガリウムを混
入)があります。
いろいろな物質を電気伝導の観点から分類すると以下のようになります。
① 絶縁体:1012Ω・cm以上
石英、テフロン、アルミナセラミックス
② 半導体:10-1~1012Ω・cm
シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ化ガリウム(GaAS)、リン化ガリウム(GaP)、
インジウムアンチオン
③ 導体:10-6~10-1Ω・cm
銅(Cu)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、タングステン(W)
なお、論理演算回路には様々なものがあり、この組み合わせにより、様々な回路が作られています。
例えば、2本の信号線のいずれかに信号が入った時に何らかの処理を行う仕組みを実現しようとした場
合、その各々の信号の有無を調べるのは非常に面倒となります。この2本の信号を、OR 回路を使ってひ
とつの信号にし、入力すれば一本の入力信号線のみで処理可能となります。このように論理回路は電子
回路上、極めて有効なものと言えます。また、これらの IC はゲートと呼ばれ、電流増幅の機能も持って
います。
補足1:
IC とは、シリコンウエーハの表面、及びシリコン内部にダイオード、トランジスタ、抵抗、及びコン
デンサのような素子を集積させ、1チップとしたもので、それ自身で電子回路を構成しています。また、
このチップはプラスチックパッケージ化されています。
この IC は集積される素子の数により以下のように分類されています。
① SSI(Small-Scale Integration) :100個以下(小規模集積回路)
② MSI(Medium-Scale Integration) :102個~103個(中規模集積回路)
③ LSI(Large-Scale Integration) :103~105個(大規模集積回路)
④ VLSI(Very-Large-Scale Integration):105~107個(超大規模集積回路)
⑤ ULSI(Ultra-Large-Scale Integration):107個以上(超大規模集積回路)
補足2:論理回路の表現
論理回路を表現する方法として、MIL 記号(米軍が調達する部品の、品質と信頼性に関する規定)と
JIS 記号がありますが、一般的には MIL 記号が使用されています。
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4.1 ディジタル IC
ディジタル IC は、アナログ IC 回路同様に、小さな薄いシリコン板にトランジスタや抵抗、及びコン
デンサなどと等価なものを実装し、論理回路などのような複雑なディジタル回路を実現しています。ま
た、通常この IC 素子には複数の回路が搭載され、それらの回路に対し、共通の電源端子とアース端子が
実装されています。なお、このディジタル IC 素子には、その IC を構成する物質の違いから、CMOS 型
と TTL型があります。これらは、同じ機能を持っていても素材の違いから動作環境が大きく異なります。
4.1.1 CMOS と TTL の特性
CMOS 型と TTL 型では、その IC の特性や動作環境が大きく異なります。例えば、NAND 用 IC であ
る74HC00(CMOS タイプ)と、74LS00(TTL タイプ)における違いを見た場合、ディジタ
ルである1と0の判断を行う電圧が大きく異なっています。
素子のタイプ “1”と認識する
電圧範囲
“0”と認識する
電圧範囲
特徴及び注意点
CMOS タイプ
3.5V~5V 0~1.5V Complementary Metal Oxide Semiconductor
シリコンなどの半導体と、その酸化物の絶縁
体、アルミなどから構成されている
乾電池での使用可能である(3V~16V)
電源が Vdd と定義される
TTL に比較し処理速度が遅い
ノイズに強い
消費電力が尐ない
TTL タイプ
2.0V~5V 0~0.8V Transistor Transistor Logic
殆どがトランジスターで構成されている。
安定した5V 電源が必要(乾電池は不可)
電源が Vcc と定義される
CMOS に比較し、処理速度が速い
ノイズに弱い(ノイズ対策必須)
消費電力が大きい(発熱)
補足1:
判断する範囲に無い場合はどちらに判断されるかは保証されません。ですが、ディジタル電子回
路において使用される各種の IC は増幅機能を持ちますので、この範囲は大きな問題とはなりませ
ん。
TTL でも CMOS でも正常に接続されている状態(オープンコネクト状態ではない)では、入力電
圧に対して同じ出力結果を出します。(ON/OFF の判断のための電圧は異なります)
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補足2:
最近の CMOS は製造技術の発達に伴い、性能面でも TTL に劣らなくなっています。
補足 3:
IC は一般的に熱に弱い(特に CMOS タイプは弱い)ので、逆電流をかけた場合に簡単に壊れる
ことがあります。
補足4:
CMOS 型 IC と TTL 型 IC では、電源やグランドに対する表記が異なります。
Vdd :DorainVoltage
CMOS IC に対する電源供給(通常は5V)を示します。
Vss :SourceVoltage
CMOS IC に対するグランド(通常は0V)を示します。
Vcc :SupplyVoltage
TTL IC に対する電源供給(通常は5V)を示します。
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4.2 ブール代数
ブール代数(Boolean algebra)とは、ジョージ・ブール(George Boole:論理学者 1815~1864
年)によって研究開発された、「0」と「1」の関係を使って論理分野(回路など)を数学的考え方で
扱った演算方式のことで、論理積(AND)、論理和(OR)、排他的論理和(EOR)、否定(NO
T)などから構成される論理演算を数学的な数式で表現したものです。
ディジタル電子回路においては、全ての信号が ON と OFF の2値(2進数)で表されます。こ
の2値で表された回路をブール代数を使って演算を行い、結果を導き出せば、回路の動作を簡単に
把握/検証することができます。
4.2.1 論理演算記号とブール代数における表現
0と1を対象とした論理演算記号の種類として以下のようなものがあります。ブール代数ではこれ
らの論理演算を以下のように数学的な式で表現します。
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4.2.2 ブール代数の公理
論理演算を数学的な公式で表現し、その法則を定義したのがブール代数の公理です。一般的な数学的
表現で、2値の数値(0と1)の演算を行うことができます。
補足1:
(A+B)・(C+D)=A・C+A・D+B・C+B・D
補足2:集合との表記の違
い
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A B OR AND NOR NAND EXOR0 0 0 0 1 1 0 1 10 1 1 0 0 1 1 1 01 0 1 0 0 1 1 0 11 1 1 1 0 0 0 0 0
A+B A・B A+B A・B A・B+A・B A B
A+1 = 1 A+0 = A A+A = A A+A = 1 A = A
A・1 = A A・0 = 0 A・A = A A・A = 0ブール代数
図記号
A = Aブール代数
図記号
NOT
図記号
ブール代数表現
補足3:論理演算と図記号、及びブール代数表現
以下が分れば、論理演算やブール代数は感覚的に理解できます。
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交換の法則 結合の法則
分配の法則 恒等の法則
同一の法則 補元の法則
ブール代数の検証
以下にブール代数の公理を実際の回路を使って検証します。各々の回路に対して真理値表を作成して
検証してください。
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ド・モルガンの法則 復元の法則
吸収の法則
補足:
もし、理解に苦しまれるようであれば、ブール代数の扱う数値は0か1しか無いということを念頭
において、公理に当てはめてください。そうすれば、このブール代数の公理は極めて簡単に理解でき
ます。まずは、このことを十分に認識した上でブール代数の公理を分析してみてください。
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4.2.3 ブール代数の応用
以下の回路を、ブール代数を使って展開し、ブール代数で演算を行った結果と、実際の回路の動作が
合致することを検証してください。ブール代数による演算結果は、各回路図の右側のとおりです。
検証1
検証2
2
検証3
検証4
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4.3 複合回路による応用
4.3.1 半加算器回路(複合ゲートの応用)
論理ゲートを組み合わせることにより、様々な回路を作成することができます。以下は1ビットの演
算を行う場合に使用される回路です。この動きを検証してみましょう。
上図において、SW1 と SW2 の両方のスイッチを OFF にした時(論理 IC に対する入力信号としては
ON となります)Carry 信号(桁上げの為の信号です)ON となり、対応する LED が点灯します、また、
Signal 信号(加算結果の信号です)は OFF となり、対応する LED は消灯します。
この回路は、1ビットと1ビットの演算を行い、1ビットに結果を格納する回路ですので、“1+1”
の結果は“0”(最小桁は0です)となり、桁上がり(Carry)が起きたことを意味します。
次に、SW1 か SW2 の何れか一方のスイッチだけを ON 状態(論理 IC に対する入力は OFF となりま
す)にします。この結果、Signal 信号は ON となり LED が点灯しますが、Carry 信号は OFF で LED
は消灯します。これは、“1+0”又は“0+1”の演算結果は“1”であり、桁上がりが起きないこと
を示します。
勿論、SW1,及び SW2 の両方を ON 状態(論理 IC の入力信号は全て OFF 状態となります)にした場
合は、“0+0”の演算となりますので、Signal 信号も Carry 信号も OFF となりますので、どちらの
LED も点灯しません。
この検証から、この回路によって、1ビットの演算ができることが分ります。
補足:
半加算回路とは、けた上がりを考慮しない回路です。これに対し、けた上がりを考慮した回路を全加
算回路といい、入力信号線数が3(桁上がり分が追加されます)となります。一般的なコンピュータで
採用されているのは、この全加算回路となります。
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4.3.2 フリップフロップ回路(複合ゲートの応用)
フリップフロップ回路とは、記憶を行うための回路です。以下は1ビットの記憶を行うための回路で
あり、膨大なメモリ記憶容量を持つコンピュータは、このような回路を搭載されているメモリ容量分だ
け搭載していることになります。(但し、基本的な考え方としての回路構成であり、実際とは同じではあ
りません。)
NAND,NOT 回路を併用した RS フリップフロップ回路です
NOR 回路を使った RS フリップフロップ回路です
フリップフロップ回路とは、一度入力した信号は、その入力信号を継続的に入力しなくとも(Set 信号
を ON から OFF に切り替えても)出力(ランプの点灯状態)には影響を与えない回路(つまり記憶デー
タが保持される)です。上記回路において、Set 信号の ON/OFF だけを繰り返しても、ランプ点灯状態
には変化が起きないことで理解できます。出力信号(記憶状態)の初期化は、Reset 信号で行います。
つまり、Reset 信号を出力した(記憶の初期化)直後に Set 信号を出力すると、その信号は記憶され、
それ以降に Set 信号が変化しても、Reset 信号が出るまで、出力(記憶内容)には変化が起きないという
ことです。上記例では、出力状態(記憶状態)の変化を2つの LED の点灯状態の切り替わりで分かるよ
うにしています。
また、上記回路は、Set と Reset も同様の回路となっておりますので、どちらが Set でどちらが Reset
でも同じような動作をします。
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但し、Set 信号と Reset 信号を同時に ON にした場合(SW1 と SW2 を共に OFF にした状態です)は、
その動作の保障はされません。
補足:
フリップフロップゲートは1チップとして市販されており、種類も様々なものがあります。
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4.3.3 論理回路を使った発振回路
抵抗とコンデンサと NAND 用 IC を組み合わせて発振回路を作ってみましょう。
発振回路とは、回路の出力として高電圧(オン)と低電圧(オフ)を定期的に繰り返す回路であり、こ
の発振周期に連動させていろいろの電子機器を動かしています。CPU などの電子素子も、このような発
振回路からの信号を受けて動作しています。
1)実際の発信回路
NAND 回路と抵抗とコンデンサの組み合わせにより ON/OFF の繰り返し信号を作ることができます。
この回路図上では、100K の抵抗を小さい抵抗に変えると点滅の間隔が短くなり、大きくすると長く
なります。
上記の回路上での変化を要約しますと以下のようになります。
電源投入時の状態は不定ですが、仮に NAND 回路の3ピンが“0”で、その結果6ピンが“1”となっ
ているとします。この状態では、電流は6ピンからコンデンサ方向と LED1 方向に流れ、コンデンサに
充電が行われ LED1 も点灯(6ピンの電圧が高いので電源から LED2 方向には電流は流れず、LED2 は
点灯しません)します。この状態でコンデンサの充電が進むにつれてコンデンサの電位と電源の電位の
差が小さくなり、電流が流れなくなっていきます。
そうなると1ピンの電圧も小さくなり NAND 回路の0と1を判断する閾値を超えると、1ピンの入力
は1から0に切り替わります。この瞬間に3ピンは1に切り替わり、6ピンは0に切り替わります。こ
の結果、電源から LED2 に対して電流が流れ(6ピンが0ですので、6ピンに流れ込みます)LED2 が
点灯します。つまり、この瞬間に電流の流れる方向が逆転し、今度は、3ピンからコンデンサ方向に向
発振回路
出力 電子機器
この周波数の周期が抵抗とコンデ
ンサにより変わります
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かって電流が流れコンデンサの充電が発生します。
このコンデンサの充電が進むにつれて1ピンの電圧は徐々に大きくなっていきます。この結果、1ピ
ンの入力が0から1に切り替わり、3ピン及び6ピンも、それぞれ0,1に切り替わります。また、こ
の切り替わりの時間はコンデンサの充電容量と、3ピンとコンデンサ間の抵抗値により決まることにな
ります。
これを6ピンの出力信号(2つの LED にて検証)で見た場合、一定時間間隔で出力信号が ON/OFF
を繰り替えす事が分ります。これが、発振回路の原理です。
補足:
方形波を発生する回路はマルチバイブレータ回路と言われています。
マルチバイブレータには以下の3種があります。
① 非安定マルチバイブレータ
クロックパルス発生器として使用されています。このバイブレータは入力信号を必要とせ
ず、独自に方形波を発生させることができます。
② 単安定マルチバイブレータ
タイミングを合わせるのに使用されるバイブレータで、入力信号(トリガー入力信号)が
入ると一定の時間幅の方形波を出力するものです。
③ 双安定マルチバイブレータ
フリップフロップ回路のことを言います。
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4.3.4 論理演算用 IC を組み合わせたブザー発生回路
2 組の発信回路を使ってスピーカからブザー音を発生させる回路を作ってみます。左側の回路は、ブザ
ー音が継続する期間と無音になる期間を制御するクロック発生用で、右側の回路は、左側で作られたク
ロックに連動させて、ブザー音を早いインターバル(周波数)で発生するクロックを作っています。つ
まり、左側の回路から発信されるクロック ON の部分を更に細かく ON/OFF 分割(ピコピコ音を発生さ
せるために)するのが右側の回路の役割となります。
補足:
スピーカは、周波数が高いほど高音となります。
補足:
左側の回路と右側の回路の周波数は以下の式で求めることができます。但し、電子素子の特性の違い
などから正確な値は導き出せません。
t1=―C1xR1xLog(Vt/V) :左側の回路
t2=―C2xR2xLog(Vt/V) :右側の回路
V : この回路に入力される電圧の最大値です。(この実験では、5V とします)
Vt : ディジタルで0と認識する電圧の最大値です。この値は NAND 回路の電子素子の
材質に応じて(TTL か CMOS)異なります。
CMOS であれば、1.5v、TTL であれば、0.8vです。
上記条件で、電子素子が CMOS であれば左側が8.8Hz、右側回路が2.69KHz となります。計
算してみましょう。
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