航空機へのcfrp適用と非破壊検査技術 - nikkan...図 5 time...

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はじめに

近年地球温暖化防止のため、他の輸送機関と同様に航空機から排出されるCO2の削減が一層要求されている。そのため従来は構造重量比で10〜15%の複合材料が適用されてきたが、ボーイング787やエアバスA350XWBでは、胴体や主尾翼など従来アルミ合金製であった主構造にも炭素繊維強化プラスチック(以下CFRP)が大量に適用され、構造重量比でおおよそ50%にまで拡大している1)。どの輸送機関よりも構造健全性が必要とされる航空機に複合材料を適用するに当たり、その品質を保証するための非破壊検査について述べる。

複合材料と非破壊検査

複合材料は40年以上前から航空機に適用されてきたが、コストよりも極限の性能を追求する軍用機、特に戦闘機にボロンFRP(BFRP)やCFRPの適用が先行した。また民間機では大型旅客機 よりも小型機から主構造への適用が進んできた。

主構造にCFRPなどの複合材料を適用するに当たり、その製造品質を保証するための手段として種々の非破壊検査が活用されている。

複合材用非破壊検査の歴史1)

現在航空機に使用されている複合材料はガラスやカーボンなどの強化繊維にエポキシなどの熱硬

化樹脂を含浸させ、オートクレーブで加圧加温して硬化させたものが主流である。そのため金属材料では一般的な浸透探傷検査や磁気探傷検査さらには整備検査で多用される渦電流探傷検査を適用することが難しく、X線検査と超音波検査が複合材料用非破壊検査技術として多用されてきた。さらにコンピュータの発達とともに自動超音波装置

(CSCAN装置)の検査結果をデジタルデータとして保存し、コンピュータで各種の解析が行えるようになると、複合材料特有の欠陥に対する検出性能の違いから、CSCAN装置が主力検査方法として用いられるようになった。

一方X線検査も、医療用X線検査技術が発展しX線CT(コンピュータ断層写真)が工業用にも適用されるようになると、エンジンなどで適用されるケースがでてきた。しかしながらCFRPの機体構造部品はそのサイズが大きくまた縦横比が大きいという特徴を有するため、市販の工業用CT装置で検査することが難しく、通常の製造検査でX線CTがCFRP構造部品の検査に用いられることは少ない。

複合材料の非破壊検査として超音波やX線以外に用いられているものとして、部品の剛性や残響を測定して欠陥を検出するMIA(Mechanical Im-pedance Analysis)法やタッピング法がある。これらの検出精度は一般に超音波よりも劣るが、作業の容易さなどから特に手動によるタッピング検

特集•拡大するCFRPの適用分野と可能性•

川崎重工業㈱ 椿Tsubaki 健

Kenji二

航空宇宙システムカンパニー QM推進本部品質保証部品証技術課〒504-8710 岐阜県各務原市川崎町1☎058-382-5731

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航空機へのCFRP適用と非破壊検査技術

解 説

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査はフィールドで多用されている。また、赤外線画像を用いるサーモグラフィ法や

レーザ光を用いるシェアログラフィ法なども、特定のアプリケーションにおいて超音波を凌ぐ有効な結果が報告されている。さらに、超音速の代わりにマイクロ波(テラヘルツ波)を用いた検査方法の研究も進められている。

超音波探傷検査

CFRP部品の適用が拡大するにつれ、主力検査として用いられている超音波検査も、より効率的かつ高精度の装置が要求されるようになった。

手動超音波装置(ASCAN)の平面部分の単位時間当たりの探傷面積を1とした場合、従来法のCSCAN装置は約5倍の能力を有する2)。大型旅客機の胴体や主翼など10mを超えるCFRP積層部品を従来法のCSCAN装置で検査すると、対象部品を数ミリのグリッドに分割してデータを収集・解析するため、1つの部品の検査に数日以上かかるケースが出てきた。CFRP部品の検査は原則全数全面検査が要求されるため、量産に対応するには従来装置よりも格段に処理能力の高いCSCAN装置の実用化が必要とされた。

CSCAN装置の高速化の1つの手段として、医療用超音波装置での活用が先行していたフェーズドアレー方式(以下PA法)が工業用として普及が進み適用されるに至った。PA法では多数の素子が一体化したアレーセンサの各エレメントから得られた信号を処理することで、単一振動子から得られた個別信号の集合による表示と比べ、より高

精度な探傷結果を得ることが可能になった。さらにコンピュータの高速化と相まって検査精度の向上と処理能力の向上が図られた。

図 1 にCFRP製胴体構造の超音波検査の概観を示す。

エルロンやラダーなどに用いられているCFRPハニカムサンドイッチパネルは、軽量で浮力が大きいことと、内部に水が侵入する可能性が高いことから、シングルセンサの噴水透過法(図 2 )を用いることが一般的だった。全没水浸法とは異なり、アレーセンサが動作する水柱を安定して維持することが難しかったため噴水式のアレーセンサは今までなかったが、最近になりアレーセンサを用いたPA式噴水透過法の実用例が出てきた。BAK-ER HUGHES社の装置による探傷例を図 3 、図 4に示す。探傷能力はシングルセンサの約5倍であり、検出精度はシングルセンサと同程度である2)。

アレーセンサを用いることで平面や緩やかな曲面部に対しては大幅に処理能力が向上したが、CFRPの特性を生かした自由曲面の複雑形状部品の場合、超音波センサを部品表面に対して高精度で垂直に保つ必要があり、そのため部品形状にならう多軸制御の複雑高価な機構部が必要とされてきた。

近年アレーセンサと部品との垂直アライメントを正確に保たなくても、部品表面形状の変化に応じて各エレメントからの超音波送信タイミングを制御して実用レベルの信号が得られる(検出能力が 低 下 し な い)Time Reversal法 やSAUL(Sur-face-Adaptive Ultrasound)法と呼ばれる技術が実用化されており、これらを活用して機構部の簡

図 1 CFRP製胴体の超音波検査 6mφ×7mL 図 2 シングルセンサCSCAN(噴水透過法)

452020年3月号(Vol.68 No.3)

素化が期待される。図 5 にアレーセンサが傾いた状態での通常PA

法とTime Reversal法の探傷結果を示す。通 常PA法 で は 反 射 信 号 が 変 動 し、 満 足 な

CSCAN画像(平面画像)が得られないが、Time Reversal法では反射信号が安定し、CSCAN画像に欠陥が確実に表示されていることがわかる。

従来のCSCAN装置は、センサを部品に垂直に保つため複雑な機構部を有し、特に3次元曲面での探傷速度の大幅な向上は難しかった。レーザ超音波装置は通常の超音波装置と異なり、センサで超音波を発生させる代わりに部品表面にレーザ光を照射することで、部品自身に熱膨張による超音波(弾性波)を発生させ、非接触で検査が行える。そのため従来装置では超音波センサが部品表面に常に垂直になるように角度制御していたが、レーザ光が十分に照射される角度(±45度)の範囲であれば、レーザ照射部を高精度で角度制御する必要はなくなり、複雑な多軸制御の機構部が不要となる。また、レーザ光をポリゴンミラーなどにより光学的に高速でスキャンすることで、自由曲面を含む複雑形状部品においては、PA法よりも高

い処理速度を示している。図 6 にPaR Systems社のレーザ超音波装置を

示す。図 7 に示すコの字断面形状のCFRP試験片をレーザ超音波探傷した結果を図 8 に示す。部品から離れた位置からレーザ光を照射して探傷した結果である。非接触で探傷するため部品を決められた位置に置くだけで検査が可能になる。図 7の試験片の場合、#1から#5までの5方向からのレーザ照射が必要になるが、光学的なレーザスキャンにより従来の機械的スキャンに比べて高速探傷が可能になる2)。#3および#4はコーナーR部で、レーザ光が部品表面に対して傾斜して照射されていても欠陥が検出されているのが分かる。

超音波探傷の欠点の1つとして、超音波をCFRPに入射するために水のような接触媒質が必要になることがあげられる。水の使用により水が部品内に侵入したり、あるいはスキャン速度を高

図 3  ア レ ー セ ン サ に よ る 探 傷(写 真 提 供:BAKER HUGHES社)2)

図 4 噴水透過式アレーセンサ探傷結果2)

探傷状況

通常PA法 Time Reversal法

図 5 Time Reversal法(写真提供:ZETEC社)

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