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42 SERI Monthly August & September 2018. No.640

外承継を考える場合のポイントとして次の3点を紹介したい。

親族外承継を考える場合のポイント①安定株主としての従業員持株会の導入②種類株式の導入による経営権の確保と次世代 への承継③事業承継税制の特例制度の活用

①安定株主としての従業員持株会の導入従業員持株会というと、上場会社だけのものというイメージを持たれるかもしれないが、中小企業においても、従業員持株会を導入している会社は少なくない。その目的は、従業員の福利厚生、就業意欲の醸成などがよく聞かれるところである。だが、同族企業のオーナーとしての目的は、安定株主を導入し、経営を安定させ、かつ次世代の経営者が承継する株式を少なくすることで承継コストを下げることにある。たとえば、従業員の中から後継者を選定し、株式を承継してもらおうとした場合、株式の譲渡価格は、相続税の財産評価基本通達の特例的評価方法に基づく配当還元方式を適用し、原則的評価方法による評価額(いわゆる時価)よりも低い株価で譲渡することができるかもしれない。しかし、そもそも従業員の資力が乏しければ、現経営者が保有する株式の全部を譲渡対象とすることはでき

本シリーズ5回目は、親族外承継について紹介する。

後継者に悩むオーナー経営者

事業は好調、家庭も円満、従業員の評判もまずまず。そんな経営者であっても、後継者がいないことに頭を悩ませている方は少なくないだろう。オーナー経営者の後継者というと、真っ先に思い浮かぶのが自らの子女だろうが、子女に恵まれなかった、あるいは別の道を選択したといった理由から、子女が後継者にならないケースも多くある。また、子女以外の親族、たとえば兄弟姉妹や甥や姪も選択肢の一つであるが、それすら恵まれないケースは多い。その場合には事業の承継先を親族外に求めることになる。

親族外承継という選択肢

親族外承継には二つのパターンがある。一つは、親族外の法

・ ・人を事業の承継先に選択するパ

ターン、もう一つは、親族外の個・ ・人を事業の承継

先に選択するパターンである。本稿では後者のパターンについて、特に従業員の中から後継者を選定する場合に焦点をあてていきたい。親族外の個人への事業承継といっても、経営のみを承継させるのか、経営と所有(株式)を同時に承継させるのか、これらの折衷方式をとるのかで、さまざまな形が考えられる。ここでは、親族

第5回

親族外承継を考える

オーナー社長のための事業承継のポイント

アシスタントマネジャー 山﨑 克史デロイト トーマツ税理士法人 浜松事務所 税理士

43SERI Monthly August & September 2018. No.640

ないかもしれない。そこで、従業員持株会を設立し、承継対象株式を少なくすることで、株式と経営の承継を円滑に行うという目的を達成しようというのである。ただし、従業員持株会は安定株主であるといえ

ども、他の株主と同じ権利を保有する株主であることに変わりない。経営がうまくいかず、財務状態が悪化し、配当が出ないような事態になれば、経営者にとって、安定株主ではなくなるリスクもあるだろう。

②�種類株式の導入による経営権の確保と次世代への承継種類株式とは、権利の内容が異なる2種類以上

の株式を発行した場合の当該株式をいう。会社法では、株式に付されている議決権などの権利を制限する株式を発行することができるとされている。そうした権利が制限された株式や権利が付与された株式を、総称して種類株式と呼んでいる。オーナー経営者が保有する株式の分散はやむを

えないとした場合、たとえば発行済株式100株のうち、将来の経営権の安定化のため、株主総会の議決権が付されている株式を10株のみ残し、残りを株主総会の議決権が付されていない株式(無議決権株式)とすることも可能である。このとき、後継者となる従業員が議決権の付さ

れている株式10株を持てば、株式会社の最高意思決定機関である株主総会を掌握できるので、経営の安定化を達成することができる。そればかりでなく、株式の承継に関するコストについても10株など限定された株式数であれば、それほど高額な評価額にはならず、コストが障害となることも考えにくくなる。ただし、この事例では無議決権株式の導入を想

定しているが、無議決権株式であっても、会社の

帳簿を閲覧する権利や株主総会への議案提出の権利など、株主としての権利は留保されたままであるため、経営者の意に反する行動をとる株主が出てくるリスクを内包している。

③事業承継税制の特例制度の活用平成30年度税制改正において、事業承継税制の特例制度が創設されたことは、本シリーズ第3回でも触れたとおりである。事業承継税制は親族外の後継者が贈与により株式を承継した場合にも適用することができ、適用要件を満たしている場合には、贈与税の納税猶予および免除を適用することができることから、株式の承継にあたり有力な選択肢となるだろう。とはいえ、特例の適用要件を外れてしまった場合には、納税額が大きくなる可能性がある。また、それを軽減するための相続時精算課税制度を適用したとしても、オーナー経営者の相続発生時には、相続人との遺留分の問題や相続税の2割加算の問題など課題も多い。

筋の通った承継策の検討を

非上場会社の親族外承継は非常に難しい。承継のための対策を立てたとしても、そこにはメリットとデメリットが必ず相反する関係で存在する。オーナー経営者は、会社が直面している状況によって、さまざまな手段を織り交ぜながら対策を打っていくことになるだろう。そして、その対策は決して一代限りではなく、次代、次々代への承継をイメージしながら立案しなくてはならない。人の一生以上に会社の寿命は長い。いろいろな策を施したとしても、最後はオーナー経営者の思いを継ぎ、形にしていくことが親族外承継の答えであり、後継者の使命なのかもしれない。

会計事務所、事業会社を経て、2015年4月に税理士法人トーマツ(現デロイト トーマツ税理士法人)に入社。主として、上場会社及び非上場会社の法人税申告、税務調査対応の他、デューデリジェンス、グループ内組織再編、非上場企業の経営承継業務に従事している。

山﨑 克史(やまざき かつし)

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