「舞姫」指導の試み...「舞姫」指導の試み-生徒の積極的参加を促すために-は...

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「舞姫」指導の試み

-生徒の積極的参加を促すために-

 

 

 

高等学校における国語の授業は'乱暴に言えば'「読解」が主

流となっている。説明的文章においては「要旨」を、文学的文串

においては「主思」を明らかにすることが授業内容となってい

る.授業者は念入りに下調べをLt授業で生徒を巧みに誘導しな

がらへ結局は授業者の読みを伝えていくという「伝達型」の授業

が中心である。私はへ この「伝達型」の授業を'生徒による「参

加型」の授業に変えへなんとか授業を活性化したいと考え授某実

践を行ってきた。生徒の1人1人が'興味・関心を持続し、間脳

意識をもって参加する授業を作り出すことによってはじめて1人

一人の生徒に力をつけることができると考えるからである。

この論稲では「舞姫」 の授業実践を通して'1人一人に力をつ

けるためにへ生徒にどのようにして興味・関心を持続させへ問超

渡  辺  春  美

意識を持たせるかということを探ってみた。

「教材と授業のねらい

① 教 材

「舞姫」 (「新現代文」三省堂)は'高校生が虫も深い間

心を寄せる作品のlつである。雅文体による言柴の抵抗はあ

るが'「舞姫」には'桃成上、私達を全編にわたってその世

界に引き寄せる用意が周到になされている。

更にへ高校三年生という時期は'恋愛に憧れをもちなが

ら、同時にその現実的な在り方に関心を寄せる時期であるo

興国を舞台に繰り広げられる恋愛はそれだけで関心を呼びへ

心を捉えるに迎いないo生徒は「舞姫」の世界を追休旅しな

がらへ様々な場に身を泣いて変の現実的な在り方や生き方に

ついて考えるo若い感性から豊太郎を批判し'徹底して憎む

64

ものもいるだろう。批判しながらへ同情する者もいるだろ

う。エリスの生き方に疑問を持つ者もいるかもしれない。こ

のように考えながら生徒は自らの生き方を探って行-0

「舞姫」は、生徒の興味・関心を持続させへさまざまに考

えさせる力を持った作品と言える。

② 授業のねらい

「舞姫」の授業を行うにあたって、二つの大きなねらいを

設定した。

イ'「舞姫」を丁寧に読むことを通して'生徒1人一人に'

変の在り方や生き方について自らの考えをまとめさせ

る。

ロへ生徒に興味・関心を持続させへ問題意識を持たせること

によって積極的に授業に参加させる。

ここでは特に1斉授業の形態の中で'ロへ のねらいの達成

を検討することにする。

二へ授業のねらいを達成するための工夫

授業のねらいを達成するための方法として次の点を工夫してみ

た。①

 導 入

導入は'通常へ生徒の教材に対する興味・関心を高めへ授

I*-I

業効果を上げるために、授業に入る直前に行われている。し

かしへもっと以前から意識的に導入を行うことによって更に

効果を上げることができると思われる。二学期後半の 「舞

姫」の授業に対して、私は一学期からさりげない導入を行っ

てみた。

② 学習目標の明示

授業者は明確な授業目標に基づいて生徒に指示・発問を行

いまとめていく。すべての指示・発間が授業者の中では意味

付けられている。しかし'生徒の中では意味付けは唆味で'

それは'視界の利かぬ場所にいる者が'どこに行-かわから

ぬままに手を取られ'一歩一歩展望の利-高みに導かれてい

るようなものであるo学習目標を明示することは'到達すべ

き地点への指標を与えへ そこへ向かって自ら歩-よう促すこ

とである。

この「舞姫」の授業では'後で学習目標について自己評価

させることを課して目標を意識化させることを試みた。

③ 1読総合法方式の導入

「教材」の項で述べたように'「舞姫」には'良初の1文

から最後の一文に至るまで読者の興味・関心を拭き立てる工

夫が周到になされている。虫太郎の「人知らぬ恨み」が'劇

的な展開の・もとに次抗に明らかになっていく過程を'興味・

関心を失わずに読み進めるには'一読総合法方式を導入した

読みを試みるのがふさわしい。

④ 学習諜猫の設定

「舞姫」を五場面に分けてへ 三へ 四場面を更に的・後半に

65

(法2)

分けてそれぞれに学習課題を設定し'授業で場面に入る前に

生徒に課した。授業内容についてあらかじめ考えさせるため

と授業展開の道筋を意識させるためであるo

⑤ 読み取りノートと感想文

各場面を読み終えた後にへ 「読み取りノート」にまとめさ・

せたO 「読み取りノート」は'場面の内容を端的に表す「小

題」の欄と内容をまとめる「登場人物の心情」・「心情の背

景」の欄へ それと「感想」の欄とから成っている。生徒の主

体的な取り組みの中で内容の全体像が明らかになるように工

夫した。またへ 「感想」欄を設けることで'絶えず生徒自身

の考えを求めることにした。感想文はその延長として生徒の

様々な考えを述べられるように配慮した。

⑥ 板 書

高等学校の授業では'板書に十分な注意が払われていない

ように見受けられる。この授業では生徒の理解を碓かなもの

とするための板苗を特に注意して心がけた。

三、授業の計画と展開

① 計 画

授業は概ね次のような時間配分で行った。

一場面 1時間

二場面 3時間

三場面 4時間(前半-2時間 後半-2時間)

四場面 4時間(前半-2時間 後半-2時間)

五場面 2時間

まとめ 1時間・・感想文と自己評価

② 対 象

三年二クラス (各E]七名)

③ 展開の概略

各場面ごとの授業は概ね次のように展開した。

ア'「学習諜血」を配布する(一場面では学習目標も併記)0

イ'各場面の朗読テープをかける。

ウ、語句の意味を明らかにしたり'易しく言い換えたりす

る。

エ'内容を発問しながらまとめ、板書する。

オ'朗読テープを再び閃きへ内容を味わう。

カへ 「読み取りノート」をまとめる。

☆朗読テープは'イ'オ以外にも時間があれば聞かせること

を心がけた。

☆内容をまとめる際には'時に応じて訳読し理解を促した。

④ 具体的展開

ここでは紙数の都合で一場面と五場面を示すこととする。

66

[舞姫]  - 森鴎外 組 番氏名

学習目標

- 語句に留意Lへ内容を理解する。

2 豊太郎の心情を場面毎にとらえるo

3 豊太郎の心情の変化をその背景とともに考える0

4 豊太郎とエリスの愛の在り方について自らの考えをま

とめる。

学習課題(1場面)

一、次の語句を分かり易く言い換えてみよう。

◇灼熱灯の光の晴れがましきもあだなり

◇日ごとに幾千言をかなしけん

◇さらぬも尋常の動栢金石

◇浮世の憂きふしをも知りたりへ人の心の頼みがたきは

言うも更なり

◇1抹の雲のごとく

◇さはあらじと思えど

二、次の事柄について考えへまとめよう。

- 豊太郎は'今何のためにどこにいるのですか。

2 「東に帰る今の我は'西に航せし昔の我ならず」とあ

るが、「西に航せし昔の我」と「東に帰る今の我」の

それぞれについてどうなのかまとめなさい。

「日記ものせむとて買ひし冊子もまだ白紙のままなる

は」とありますが'それは何故ですか。

「人知らぬ恨み」は、豊太郎にどのような影響を与

えていますか。

「その概略を文につづりてみむ」とあるが何の概略を

書こうというのか。

板 召  事 項

舞姫  森鴎外

[一場面]

帰朝-サイゴン

◇西に航せし昔の我

紀行文日ごとに幾千言を

かなしけん

^ci^i 相棒的 知識欲

◇東に帰る今の我

日記もまだ白紙のまま

なる理由

×ニルーアド-ラリイの

気象

×浮世の憂きふし

×人の心 我が心の変わ

E

3

3

E

人知らぬ恨み

1指の蝣ft

I

惨捕↑

1^のg=

その概略を文に

つづりてみむ

(人知らぬ恨みをもつ

に至った事情)

発 問・注 意 事項

-豊太郎は、今何のためにどこに

いるのか。

I昔の我と今の我はどう違うか。

-なぜか。

-豊太郎にどのような影響を与え

ているか。

(どのように変化したか)

-その概略とは。

☆核心をぼかして読者の関心を引

-手法に留意させる。

☆生徒にも展開に関心を持たせる

ように配慮する。

[舞姫] 5 森鴎外 組 番氏名

学習課題(五場面)

I、次の語句を分かり易-言い換えてみよう0

◇われとともに東に帰る心なきか'~閲きて落ちゐたり。

◇その気色、いなむペくもあらず

◇なんらの特技なき心ぞ

◇鉄の額はありとも'~一寸ばかりも輯もりたりき0

◇余が彼に隠したる賊末をつばらに知りて。

◇余が病は全-癒えぬ。

二へ次の事柄について考えへまとめよう。

-「承りはべり」と等見るに至った経過をたどってみよ。

2「わが脳中にはただただわれは許すべからぬ罪人なりと

恩ふ心のみ満ち満ちたりき」とあるが、豊太郎は何故こ

れほど苦しんだのだろうか。

3「わが豊太郎ぬLへかくまでに我をば欺きたまひしか」

について「欺きたまひし」とはどういうことを指して言

っているのか。

4「エリスが生ける屍を抱きて、千行の涙を注ぎLは幾た

びぞ」とあるが'ここには豊太郎のどのような思いが表

されているか。

5「されど我が脳裏に一点の彼を憎む心、今日までも残れ

り」とあるがどのような点で彼を憎んでいるのか。

三、太田豊太郎・相沢謙吉・エリスのそれぞれについて触れ

ながらへ舞姫を読んだ感想をまとめなさい。

[五場面]

板書事項

天方伯の帰郷への誘い

・気色いなむペくもあらず

・本国・名誉を失う

承りはべり

われは許すべからぬ罪人なり

巴太郎の苦しみ

・自分を信頼している人

(エリス)を蛮切ったから

・エリスを愛していたから

・人間として恥ずべきこと

をしたから

エリスの反応-相沢の説明

か-まで我をば欺きたまひしか

・相沢に与へし約束

・大臣に間こえ上げし1諾

SiEilBg歴抱きて千行の涙を注

ぎLは幾たびぞ

・後悔・悲哀・やるせな

さ・すまなさ

l点の彼を憎む心

・相沢の助けがエリスと別

れるきっかけとなった

・エリスに郵相を告げ柑神

的に殺した点

発問・注意部項

-「承りはべり」と答えるに至っ

た経過はどうか。

I天方伯の誘いを承諾した自分を

豊太郎はどう思っているか.

I豊太郎は何故これほど苦しむの

か。

-「欺きたまひし」とはどういう

ことを指して言っているのか。

-豊太郎はどのような思いで涙を

注いだのか。

Iどのような点で相沢を憎んでい

るか。

68

⑤「読み取りノート」

参考に生徒のまとめたものを示す。

舞 姫  森 鴎外 三年(六)組(四十七)番 氏名(山出谷典子)

ゥ ① 場面

ま 帰 小

」と▼ の

われ

. 覗 . 今 盟

つ に 人 在 の 入 所 ひ ま 太郎た 気 の の 糞 に 勤 た で

づ 思 豊 や さ 的 す の II

探 た 人 現 誠 も希 五き う 太 TL か . ら き、ま 郎 女 ら 岩旨父 太ま の う . の い れ ロ バ て

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つさ 宝豊 い い は の 虫

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学 と に も への

の の 船 交 帰自 わ 旅 わ る由 れ を ら たな に す ず め凪 日 ご 、 に

景で ざ し美 船あ め て L に

つ 目 少 を た ま 母 せ 望 る 読 の ま 容 豊

た 党 し 少 の で や に 太 に 者 は で が 太と め 遅 L で の 官 臆 郎 は の と の は 郎思 る く か は 年 長 病 は ぴ 感 て い や のう こ な わ な 月 の 者 自 つ心 も き く「

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思 に だ 想 な 恨ま の 思 な て な 倍 う 向 と文 つみだ 自 つ豊 し つ 高 け 忠 に た 」よ 分 た 太 ま て い さ つす 0 のか に 0 郎 つ今 く せ た る 今 内

④前 ③後 ③前

相 節し

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択の い い読 坐

揺い

エ う相 豊 豊 中豊 を そ ク豊 に同 を そ 思 そ くい エ ま豊リと沢 太 太 で太 愛 ん を 太 漁 郷 も し うん れ い リ う太ス恩 は郎 郎 も郎 す な う郎 す 入 っ て な てが ス 郎は う豊 の は 楽 と る豊 け は る た エ エ いか は は悪 太 心 エ しエ よ太 る免 もち リ リる り父 エい 郎 は リ か リ う郎 官 の は ス ス や の リ便 の 共 ス つス に は と と豊 も を 母 死 スり 名 しの た は な今 母 し太 や 豊 の を をが 誉 か 妊 つ る ま の た郎 さ 大 給 嘆 一き を ら娠 ら で 死 を し 郎 た き 日た 回 ず に く よ に 色 い は い悲 見と 復 と 貧 り ダ 姦 莞 宕 拝 立 石思 さ ま し 探 プい せ ど い く ル 姫 郎 い に 、 か、 て う 生 エ シ の に そ 途 座 れ

豊 や 活 リ ヨ 群 好 う 方 長 て太 ろ の ス ッ れ 感 に にの し

相 天 相 エ 明 くそ寓 通 相 きわ 豊豊 豊 るが そ のそ く リ堂開 禁 呈竺 が しす 信 択 仲 り太 太 太 始 れ 葬 し ス太

知 て る員 謙 とを郎 郎 郎 まか 式 て と郎エ に らが十 誠 豊 こと吉 な生 は は は り ら代 エ 出 はリ翻 手 妊 - は太 と なの る じエ母 免 、工 と リ 会 散ス 訳 紙 娠年 統 郎 と り助 、リの官 同 リ しス い 歩とを が す の 括 の な 、け そ ス死 に 郷 スて を 、を別顧 くる冬 的 学 つエ で れ はを な 人 と時 助 エ しれ ま る に間 た リ豊 か ま知 る に豊 計 け リてる れ な は ス 太 らづ る あ太 を る ス いと る る荒 の 郎 離 師 や 郎 手 た の て約 ん 家 は れ弟 しの 淀 め 家偶東 で に 杜 が の ま交 す に に然す い 奇 の た交 れ 際 父 行 エ

る う畠 だ相 よ豊 か 時 お にム 私 が た けが 勉約 0太 な択 か 太 わ に 母 とベ は う 0 る よ学

束妊郎あと つ郎いしさ 鍋を娠 は とい た はそ らんす しゆ思 う なエ う さのるて う つ人 あ リだ れ 死な い じたは と ス とた とん る ゆ と 恩 が 思 幾 日て エ う て つい つ大 分信 リ不 も た たた 郎 のじス断 友 の 0は免らを だ 達 で L と官 打 シ 少 と声 望れ す と 思 まか て を つ ヤ し忠 を 太なて 思 い だ L も同 母 ウ ち つか 郎

-70-

⑤ ④後 ④前

刺 ロ 相れ シ 釈

アへ

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の い派

こエ 日豊 き盟 リ太 ドの豊 た大 エ忘凸い ロエ と盟 と揺豊 う天郎こ リ分 太 な太 ス郎 イ よ太 臣 リれ太 シリも太 羨 縞 と縞ま ス は郎 か 郎 とは ツう郎 はスな郎 アスで郎で は許 は つは 共 一にだ は 豊 はか は 行 はきは めが はて はて欺 す すエ た特 に瞬帰 と自 大 ベ つロ き豊ず ま る らエい盟 らか ベ ベ リ 操 生 低 り思分 郎 ルた シ に太 、た ↑もリる太れれ て か ス な き回エ つの に リ ア ひ郎 ロ弱 弱 、ス 郎 るた を らに き よ蜘 リた足 大 ン で どを シい き結 の ののと知 ぬ何 心 う措ス を きで 成 く厚 ア心 心局愛 ドを思 つ罪 と で との と 純 な一 功 心 く行 で 友 と イ恐つた人 い い 思思 再 し 信人 L を信 き友 の名 ツれた 時 だ お な つひ全 て 頼 さ て 悩 じをに 言誉 語て

、と う む たが し 放 をぴ も まて承 さ 薬 回 を い豊 恩 か こ 去た た もし エ しい譜 か 提讐 割 る太 うと と り時 れ つか リ て るす ら郎 恩 が 、 、 た て つ ス いのる う う間 しに い で エ丑 鳥 いた を なで こ こで よ

あ ま ま豊 発 出 と豊 豊 エ大 口へ 豊 て頼る うよ太 し太 再 太 太 リ成 シ出太 しま日 い郎 て 郎 全 部 郎 ス功 ア発 郎 まれ相 歩 は しは す はの は を です は うた

翻沢 き冬 ま大 るベ 帰 日お登 る天が 、の う臣尋 そベ に

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-71-

・豊太郎は千行の涙を注いだ

・豊太郎は脳出に一点相沢を憎む心が今

日までも残っている

スにすべてを話してしまう

エリスは精神的に死んでしまい

気が狂う

凸太郎はエリスの母に少しばか

りの資本を与えへエリスとおな

かの子供を残して日本へ帰って

ゆく

リスをおいて自分だけ日本に帰

り、幸せになろうとする=:且太郎

になにか許せないものを感じた

豊太郎が相沢を憎むのは筋ちが

いだと思う。すべては自分の弱

き心がひきおこしたことなのだ

から

四、舞姫の感想

次にへ生徒の感想「舞姫を読んで」を二縮示すo

ドイツに渡ってから豊太郎に変化が起こったものは'大き

C  -  11_

-二つある。一つは'自我の目覚めと言おうか'今の所動

望耶械的で創る自分に疑問を持ったということだoここで

ママ

興味あることは'この時の豊太郎の年歳であるo この時豊太

郎は二十五歳であるが'現在と比較してみるとどうも少し遅

すぎるような気がする。それも日本の地でなくドイツの地で

このような状態となるのは当時の日本の恐ろしさなどを感じ

る。ひょっとすると鴎外はこのことについても何か触れたか

ったのではt という気が僕の心に起こるのです。さても周囲

の反応はといえば'このような豊太郎を描疑し詮議するので

あるが'彼らこそ自己を悟っていず'豊太郎にあって彼らに

ないものを求めているのかもしれない。あるいは彼らはすで

に自己を悟っていて'虫太郎がまだ完全に自分に目覚めてい

ないことに何かいら立ちを感じているのであるかもしれな

いO ここでは彼らは何か悪者のように苔かれているが'僕が

蠎>

彼らならきっと出太郎はT人でいきがっている者として移る

と思う。

豊太郎が変化したことについての二つ目はもちろんエ甘ハ

'J'河川      エりK->,'=, 'にHL->i--Z^、, c'・.'''て

け台㌢言Ili'JGrruそ  冒男,"蝣--^vj:-=y間鴫,Tf

鼠劃u何朝qu刻紺剖山川JU画瑚叫時期のような気がす

る。学問は荒みぬとかわけのわからないことを言っているの

が後になって出太郎もそのように思ったにちがいないOでも

この時の間思はやは如矧瑚顎矧でエリスが妊娠したこと.A)

相虫なって相沢の誘いにのる.「我をば見捨てたまはじ」あ

ぁへなんて心をとらえるセリフだろう。Tj封で言われても

豊太郎はエリスを偽ってしまう0川・ ~刊へ このように言われた

から安心させるため偽ったようにも思えるo u利Uへ天方伯

にエリスと別れることをほのめかされ'帰朝を的した光太郎

M

にはどうしても反感を覚えてしまう。

エリスをとるか名誉を

72

とるかは難しい選択だ。僕が豊太郎の立場なら-。少なくと

も、探-広く考え自分で決断したい。見かけの損得に惑わさ

れずo良後にへ 明治文語体は読解するのが困難だった。

llsfj

この生徒は'凸太郎の変化を二つに分けて捕らえている。即ち

①と②である。①についてはへ思春期の「自我」と「近代自我」

の混同が見られる.②についてはへ その意味を③と適切に捕らえ

ている。しかし、①と②の関連については理解が十分ではない。

①と②は変化とその発展を捕らえることによって事情がはっきり

する。更にt的B太郎が帰郷するに至った部梢についてへ閉山は④

にあると捕らえている。これは後で「名誉」と言い換えている

が'十分に理解が及んでいないように見受けられる。

このようにへ理解の不十分な点もあるが'「舞姫」を通してよ

-自分の思いを検証している。特に後半へ 「こうまで言われて

も」と豊太郎に反発し、「いや」と理解を示しながらへ 「しかし

どうしても」と;:皿太郎への反感を確認するo この揺れの中に

検証の過程があるo更にへ この生徒は'改めて⑤のように間皿を

立て豊太郎を迫体験しようとする。生徒は「僕が望太郎の立場な

ら」と考える。しかし'答えようとして、心の揺れに答えられな

い.答えを指ることが「読む」ことの探まりを意味するのではな

い。「読む」ことの深まりは'揺れの中に、検証の過程の中に求

められる。

次に示すものも揺れの大きい感想文の一つである。

私がこの物語を読み終えてからまず考えたことは'豊太郎

O-1m

という人はなんと意気地なしで卑怯なんだろうということで

した。このことは授業で読み進む間にもかんじていましたが

点後はひどいように思えたのです。瑚封叫豊太郎自身が悩み

続けていたように、友情と愛情の板ばさみとなりどちらも失

いた-ないがためにへどっちつかずな態度をとってしまった

という気持ちはとてもよ-わかります.私ヨもし何か二

つのものについてへどちらか1つだけと言われればtものす

ご-悩んでしまってなかなか決心がつかないからです.fJ

引'エリスがどれほど自分のことを愛してくれているかをは

っきり悟っていて'自分もエリスを必安だと言わんばかりな

のにt d到u可何も考えずに軽く退部をしてしまうのか理解

Lがたいところです。

てみれば'返事は後日に、とで

も言ってエリスと相談すればいいと思うのですがo苛へ利

叫封珂利引'エリスの気持ちには完全に同調できるとして

も、男である地規太郎はできないのかも知れませんoあの友柏

の背後には'人間なら欲しいと思ってしまう名誉が隠れてい

たのですから。苛へ以前の=:山太郎はそのような地位にい

たのだからなおさらでし

よう。それ

りしません。(女)

-・*'畔-

73

この生徒は豊太郎に焦点をあてて感想を述べている。その前半

を収り上げてみるoこの生徒は①から出発し'豊太郎への共感と

反感の問を揺れ動いて'②にたどり着いている。たどり着いた地

点は碓かなものではない。しかし、そこに至った過程の中に碓か

な深まりを見ることができる。生徒は①と捕らえた盟太郎に「確

かに」 「よくわかります」と理解を示しへ 「私だって」と自分に

引き付けて考え共感する。しかし、納得はできない。「でも」へ

「どうして」と如間を発Lt 「私にしてみれば」と'もうl皮自

分に引き付けて考え金太郎を批判する。私には'生徒の「どうし

て」という問いがせつなげに響く0更にへ生徒は視点を変えて考

える。友情の背後に「人間なら欲しいと思ってしまう名誉」を見

て取り'男女の観点の違いから考えようとする。そしてへ男であ

る豊太郎は「まして」 「なおさらでしょう」と理解し共感する。

「それでもやはり」納得はできない。この生徒の到達点は碓かな

地点ではない。しかし'最後に「すっきりしない」と言うところ

に'確かにこの生徒の生き方の原形が読み取れるのである。

五、自己評価

授業がすべて終わった後で'学習目標に対する到達度を次の項

目ごとに自己評価させた。

4';n太郎の心情の変化をその背茄とともにかんがえること

ができたか。

5'豊太郎とエリスの変のありかたについて自らの考えをま

とめることができたか。

☆よくできた-A だいたいできたIB できなかったIc

その結果は次のとおりである。

5

4

3

2

1

、 項

の荏

り方

と管

三五pa

甲 六 A

(%

冗.- -.

- -五 - 七 0

、J

五 四

- 六

B

ノ、%

、.メ.四

.九

.

-⊥ 九 四

- C

ノ、 ′.、

五 九 六 八%

74

次のことがらについて自己評価しなさい。

Iへ語句(特に学習諜血について)に留意し学習できたか。

2'内容(話の肪)を理解できたか。

3'豊太郎の心情を場面ごとに把握することができたか。

これはあくまでも自己評価の結果である。厳しく評価した者も

いれば'甘-評価した者もいるであろうO従って、客組的とは言

い難いが、ある程度の実態を表していると見ることはできよう。

この結果によればt AとBを合わせるとどの項目も九割に近い

かへ 九割を越えておりへある程度の成果を収めたとは言える。

「Iへ語句」について「A」の項目が低いのは、授業で取り扱っ

た語句の数が少なくも折々に訳読しながら授業を捉間したもの

のへなお言糞の抵抗が大きかったことを示している。しかし'そ

れが読みの障害になっているのではないことは'「2'内容」の

「A」の数値が示している。この「Iへ語句」と他の項目へ取り

分け「2'内容」との差を埋めるものとして「読み取りノート」へ

「板書」の効果を考えることもできるのである.

しかし'なおへ厳しく問われなければならないのは'各項目の

「C」の生徒の存在である。この生徒をどう捉えへどう対処する

かが今後の課題であるo

叩BfEi 毎

次に'授業の全体を振り返って'授業の「ねらい」と「工夫」

が有効であったかどうかを検討することにする。

まずへ導入についてはへ生徒が次のようにむいているO

「三年生になってすぐ先生がt r舞姫は(前年度三年生の問

で-筆者注)非常に評判が良かったjと言ったので'私はすご

く期待していた」。

感想文の古き出しで同様の趣旨を述べているものが四人いた。

残念ながらこの生徒は'続いて「私はがっかりした。なぜなら

M-

ばへ私は'文語体で苫かれている物は嫌いだからだ.それでも授

業は始まったo」 とむいているO

導入に触れているのは僅かに四人である。しかし'触れる必要

の無い感想文中で触れているところに'私は、さりげない導入の

意外なまでの効果を見るのである。

一読総合法方式を導入した読みの試みはどうであったか。男子

生徒の一人は'作品の構成に触れへ 「読者に先を読ませたいと思

わせるにはとてもすぐれているo」へ 「たえず興味をそそりながら

展開している。」 と述べへ女子生徒のl人は「とにかく展開がお

もしろかったo rどうなるんだろう。どうなるんだろう.jと胸

をわ-わ-させながらへ 読み進められたO」と述べているO更

に、「読み取りノート」の一場面の「感想」の欄で、「興味をそ

そられる」・「豊太郎の悩みをはやく知りたい」という趣旨の感

想を述べた者が、二二名いた。これらのことを考えると、舞姫に

おけるIf.跳総合法方式を導入した読みの試みは'確かに効災的で

あったと言えよう。

「読み取りノ-卜」は内容把握を確実にしたoまたへ 1人一人

に場面ごとに感想を求めへ読みへの参加を促した点で良かった。

ここに記した感想はまとめとしての感想文につながって行ったと

思われるoただ、「登場人物の心情」と「心情の背景」 の欄に混

乱が見られた。

「学習目標の明示」へ 「学習課題」の設定については、生徒の

興味・関心を高め維持する効架があったと尖感するが'早急な結

論は避けたい。

「板苔」は'前章で少し触れたように'生徒の内容把捉を容易

にするうえで役立ったと思われる。しかし'ここでも早急な結論

は避けるべきであろう。

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l般的に点も広く採られている1斉授業の中でt l人1人の生

徒に力を付けるためにへ生徒の一人1人が興味・関心を持続Lへ

間道意識をもって参加する授業を作り出すことを試みた。ある程

度の成果を収めえたとは信じる。しかし'残された課題は多いO

学習目概明示の効果や板古の効用を調べる必要もあろう。ここ

では生徒に担極的参加を促す方法を工夫し'それに基づいて実践

を行ったが'生徒による「参加」の授業から'さらに'生徒の

「主導」による授業が試みられてもよい。またへ生徒の興味・関

心へ学力に応じへ班別学習や個別学習が試みられてもよいo更に

実践を探めたいC

(一九八八年十一月二十九日柄了)

(大阪府立和泉高校教諭)

(注-)大槻和夫先生「基礎講座授業改善の方法2r授業の成

立をめざして」」 (「月刊国語教育」3月号東京法令出

版一九八五年)を参考にさせて頂きましたo

(注2) 「学習課題」の作成にあたっては'「国語教育研究」

第二十六号・中巻(広島大学教育学部光菓会)掲載の

「r舞姫」学習指導の展開と反省」 (築地道江)を参考

にさせて頂きました。

※ 本稿は第二十九回広島大学教育学部国語教育学会で発表

したものに加筆したものである。

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