b 型ti (0 10 mass v (0.5 1 o 組織と機械的特性 - jim東北大学大学院生(graduate...

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東北大学大学院生(Graduate Student, Tohoku University) J-STAGE Advance Publication date : November 27, 2015 日本金属学会誌 第 80 巻第 1 号(2016)60 65 特集「微細組織,組織制御,力学的性質に関する材料研究最前線」 ab Ti(010)massV(0.51)massO 合金の 組織と機械的特性 上田恭介 小 林 達 矢 成島尚之 東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻 J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 80, No. 1 (2016), pp. 60 65 Special Issue on Frontier Researches Related to Nano/Microstructure, Microstructure Control and Mechanical Properties of Materials 2015 The Japan Institute of Metals and Materials Microstructure and Mechanical Property of ab Type Ti(010)massV (0.51)massO Alloys Kyosuke Ueda, Tatsuya Kobayashi and Takayuki Narushima Department of Materials Processing, Graduate School of Engineering, Tohoku University, Sendai 980 8579 The microstructure and mechanical properties of the ab type Ti V O alloys with high oxygen content were investigated. Ti (010)massV (0.5, 0.75, 1.0)massO alloy ingots were prepared using arc melting and hot rolling at 1373 K and 1073 K. The alloys were heat treated at temperatures varying from 923 K to 1323 K for 3.6 ks under Ar flow. The b transus of the alloys was experimentally determined, and its value decreased with increasing V content and decreasing oxygen content in the alloy. Athermal v was detected in the alloys with 6, 8 and 10 massV content and 0.5, 0.75 and 1 massO content after heat treatment at low temperatures in the range of 923 to 1123 K, wherein the V content in the b phase was higher than 12 mass. The forma- tion of the athermal v led to the increase in hardness and decrease in the elongation and reduction of area of the alloys. Based on the investigation results, it was suggested that the Ti 4 massV(0.50.75)massO alloy had an excellent balance between strength and ductility. [doi:10.2320/jinstmet.JB201503] (Received September 4, 2015; Accepted October 14, 2015; Published November 27, 2015) Keywords: ab type titanium alloy, oxygen, vanadium, athermal v, tensile test 1. チタン(Ti)および Ti 合金は高い比強度を有し,耐食性に 優れることから,航空機や化学プラントなどに用いられてい 1 3) Ti 合金は大きく a 型,ab 型,b 型に大別される が,その中でも ab Ti 合金は加工熱処理により a 相分 率( f a )や a 粒径制御が可能であり,多様な組織を得ることが できる 2) .代表的な ab Ti 合金である Ti 6 massAl 4 mass V 合金は,JIS H4600 60 種において引張強さは 895 MPa 以上,伸びは 10以上と規格化されている. Ti は製錬および加工プロセスが高コストであり,生産量 はそれほど多くはないのが現状である 1) .そこで近年,低コ スト Ti 合金として,Ti 中の不純物であるユビキタス元素の 活用が提案されている 4) .その中でも酸素はスポンジ Ti の代表的な不純物元素として存在するとともに,溶解プロセ スや加工プロセスにおいても混入が不可避である.すなわ ち,高酸素濃度 Ti 合金の開発は,安価な低グレードスポン Ti やスクラップ Ti の有効利用を可能とする.本研究で は,構造材料としての応用を念頭に,低コスト高酸素含有 ab Ti 合金設計を検討した. Ti 中において酸素は a 相安定化元素であり,Al 10 の安定化能を有するとされている 5) Ti 6Al 4V 合金に及ぼ す酸素の影響に関しては多くの研究が行われている.Liu and Welsch は酸素を 0.31.0 mass添加することで,酸素 濃度の増加に伴い硬さは増加したことを報告している 6) 高橋と佐藤は,酸素濃度の増加に伴い引張強さは増加するも のの,伸びおよび靱性は低下し,特に酸素濃度 0.5 mass 以上では伸びが急激に減少したと報告している 7) .このよう に,Ti 中の酸素は硬さや強度を増加させるものの,延性を 低下させるため,合金設計に際しては添加量に限度があるこ とが予想される. 前述のとおり,酸素は a 型安定化元素である.そこで ab Ti 合金とするためには,b 型安定化元素を添加する必 要がある.酸素との親和力および溶解度を踏まえて 8) ,本研 究では添加元素としてバナジウム(V)に着目した.V Ti b 相に対して全率固溶型であるため,幅広い V 組成の合 金設計が可能となる.Ti V 系合金については,組織や機械 的特性に及ぼす V の影響についていくつか報告がある 5,9 14) Ti V 二元系合金においては,V 濃度が 9.4 mass 以上で a″相が,1422 massにおいては v が形成することが知ら れている 5,11 13) .池田らは Ti ( 10 30 ) mass V( 0.08 1.1)massO 合金について調査を行っており,b 変態点以上 の温度からの焼き入れにより,V および酸素濃度の増加に

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  • 東北大学大学院生(Graduate Student, Tohoku University)

    J-STAGE Advance Publication date : November 27, 2015

    日本金属学会誌 第 80 巻 第 1 号(2016)6065特集「微細組織,組織制御,力学的性質に関する材料研究最前線」

    a+b 型 Ti(0~10)massV(0.5~1)massO 合金の組織と機械的特性

    上 田 恭 介 小 林 達 矢 成 島 尚 之

    東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻

    J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 80, No. 1 (2016), pp. 6065Special Issue on Frontier Researches Related to Nano/Microstructure, Microstructure Control and Mechanical Properties of Materials 2015 The Japan Institute of Metals and Materials

    Microstructure and Mechanical Property of a+b TypeTi(0~10)massV(0.5~1)massO Alloys

    Kyosuke Ueda, Tatsuya Kobayashiand Takayuki Narushima

    Department of Materials Processing, Graduate School of Engineering, Tohoku University, Sendai 9808579

    The microstructure and mechanical properties of the a+b type TiVO alloys with high oxygen content were investigated.Ti(0~10)massV(0.5, 0.75, 1.0)massO alloy ingots were prepared using arc melting and hot rolling at 1373 K and 1073 K.The alloys were heattreated at temperatures varying from 923 K to 1323 K for 3.6 ks under Ar flow. The b transus of the alloyswas experimentally determined, and its value decreased with increasing V content and decreasing oxygen content in the alloy.Athermal v was detected in the alloys with 6, 8 and 10 massV content and 0.5, 0.75 and 1 massO content after heat treatmentat low temperatures in the range of 923 to 1123 K, wherein the V content in the b phase was higher than 12 mass. The forma-tion of the athermal v led to the increase in hardness and decrease in the elongation and reduction of area of the alloys. Based onthe investigation results, it was suggested that the Ti4 massV(0.5~0.75)massO alloy had an excellent balance betweenstrength and ductility. [doi:10.2320/jinstmet.JB201503]

    (Received September 4, 2015; Accepted October 14, 2015; Published November 27, 2015)

    Keywords: a+b type titanium alloy, oxygen, vanadium, athermal v, tensile test

    1. 緒 言

    チタン(Ti)および Ti 合金は高い比強度を有し,耐食性に

    優れることから,航空機や化学プラントなどに用いられてい

    る13).Ti 合金は大きく a 型,a+b 型,b 型に大別される

    が,その中でも a+b 型 Ti 合金は加工熱処理により a 相分

    率( fa)や a 粒径制御が可能であり,多様な組織を得ることが

    できる2).代表的な a+b 型 Ti 合金である Ti6 massAl

    4 massV 合金は,JIS H4600 60 種において引張強さは

    895 MPa 以上,伸びは 10以上と規格化されている.

    Ti は製錬および加工プロセスが高コストであり,生産量

    はそれほど多くはないのが現状である1).そこで近年,低コ

    スト Ti 合金として,Ti 中の不純物であるユビキタス元素の

    活用が提案されている4).その中でも酸素はスポンジ Ti 中

    の代表的な不純物元素として存在するとともに,溶解プロセ

    スや加工プロセスにおいても混入が不可避である.すなわ

    ち,高酸素濃度 Ti 合金の開発は,安価な低グレードスポン

    ジ Ti やスクラップ Ti の有効利用を可能とする.本研究で

    は,構造材料としての応用を念頭に,低コスト高酸素含有

    a+b 型 Ti 合金設計を検討した.

    Ti 中において酸素は a 相安定化元素であり,Al の 10 倍

    の安定化能を有するとされている5).Ti6Al4V 合金に及ぼ

    す酸素の影響に関しては多くの研究が行われている.Liu

    and Welsch は酸素を 0.3~1.0 mass添加することで,酸素

    濃度の増加に伴い硬さは増加したことを報告している6).

    高橋と佐藤は,酸素濃度の増加に伴い引張強さは増加するも

    のの,伸びおよび靱性は低下し,特に酸素濃度 0.5 mass

    以上では伸びが急激に減少したと報告している7).このよう

    に,Ti 中の酸素は硬さや強度を増加させるものの,延性を

    低下させるため,合金設計に際しては添加量に限度があるこ

    とが予想される.

    前述のとおり,酸素は a 型安定化元素である.そこで a+

    b 型 Ti 合金とするためには,b 型安定化元素を添加する必

    要がある.酸素との親和力および溶解度を踏まえて8),本研

    究では添加元素としてバナジウム(V)に着目した.V は Ti

    の b 相に対して全率固溶型であるため,幅広い V 組成の合

    金設計が可能となる.TiV 系合金については,組織や機械

    的特性に及ぼす V の影響についていくつか報告がある5,914).

    TiV 二元系合金においては,V 濃度が 9.4 mass以上で

    a″相が,14~22 massにおいては v が形成することが知ら

    れている5,1113).池田らは Ti(10~30)massV(0.08~

    1.1)massO 合金について調査を行っており,b 変態点以上

    の温度からの焼き入れにより,V および酸素濃度の増加に

  • 61

    Table 1 Chemical compositions of xVy[O] alloys used in thisstudy. (mass)

    0V 2V 4V 6V 8V 10V

    0.5[O]V ― ― 3.84 6.18 8.74 10.14

    O 0.587 0.563 0.588 0.584 0.549 0.578

    0.75[O]V ― ― 4.46 6.50 9.01 11.08

    O 0.807 0.758 0.772 0.788 0.771 0.790

    1[O]V ― ― 4.03 6.89 9.33 10.14

    O 1.055 1.033 1.051 1.025 1.042 1.001Fig. 1 Microstructure of 10V1[O] alloys after heat treat-ment at (a) 1073, (b) 1123, (c) 1173, and (d) 1223 K.

    61第 1 号 a+b 型 Ti(0~10)massV(0.5~1)massO 合金の組織と機械的特性

    伴い athermal v の形成が抑制されることを報告してい

    る13).しかしながら,いずれの報告も b 型 Ti 合金に関する

    ものであり,a+b 域の熱処理を行った a+b 型 Ti 合金とし

    ての報告はない.

    以上を踏まえ本研究では,不純物元素とされている酸素に

    着目し,酸素を合金元素として添加した a+b 型 Ti 合金開

    発の基礎研究として,酸素および V が Ti 合金の組織よび機

    械的特性に及ぼす影響を調査することを目的とした.なお,

    酸素濃度は最大 1 massとし,V 濃度は a+b 型 Ti 合金と

    なるよう,最大 10 massとした.

    2. 実 験 方 法

    TiV[O]合金は非消耗電極型アルゴン(Ar)アーク溶解法

    により溶製した.最初に CP Ti (JIS 第 2 種,UEX,酸素濃

    度 1040 mass ppm)および TiO2 粉末を用いて Ti3 massO

    母合金を溶製した.本母合金,CP Ti および V フレーク(太

    陽鉱工,酸素濃度 1.574 mass)を原料として,V 濃度およ

    び酸素濃度の異なる 18 種類のインゴット約 100 g (q55×

    13t mm)を溶製した.なお,溶解前に V フレーク中の酸素

    濃度を測定し,試料合金酸素濃度の計算時には V 添加によ

    る酸素濃度増加を考慮した.合金中の酸素濃度は不活性ガス

    溶解赤外吸収法(ONH836, LECO ジャパン合同会社)によ

    り測定した.V 濃度は高周波誘導結合プラズマ質量分析法

    (ICPMS: Agilent8800,アジレント・テクノロジー)により

    測定した.得られた合金の組成を Table 1 に示す.これ以

    降,合金中目標 V 濃度(x )および目標酸素濃度( y )を用い

    て,試料名を xVy[O]と称することとする.インゴットは

    1373 K にて 8 mm まで,1073 K にて 4 mm まで熱間圧延

    後,空冷した.なお,熱間圧延は再加熱ありの条件で行っ

    た.圧延後試料は表面の酸化皮膜を研磨により除去後,Ar

    フロー中で 923~1323 K, 3.6 ks,氷水冷の熱処理に供した.

    熱処理後試料の相同定は X 線回折法(XRD: UltimaIV,リ

    ガク)により行った.微細組織は試料を鏡面研磨後,走査型

    電子顕微鏡の反射電子像(SEMBSE: XL30FEG,フィリッ

    プス)にて観察した.試料中の a 相分率( fa)は,2000 倍の

    SEMBSE 像 5 枚から ImageJ (NIH)を用いた画像解析によ

    り式( 1 )を用いて算出した.

    fa=Sa/Stot ( 1 )

    ここで,Sa は SEMBSE 像中の a 相面積,Stot は SEM

    BSE 像全体の面積を表す.より微細な組織は,透過型電子

    顕微鏡(TEM: JSM6500F,日本電子)により観察した.各

    相中の V 濃度を電界放射型電子プローブマイクロアナライ

    ザー(FEEPMA, JXA8530F,日本電子)により,試料の硬

    さはビッカース硬さ試験(HM102,ミツトヨ)により,荷重

    0.49 N(50 gf)の条件にて測定した.機械的評価として,引

    張試験(RTF1325,エー・アンド・デイ)を行った.標点間

    距離 10 mm,厚さ 1.5 mm となるように切り出した試験片

    をひずみ速度 8.33×10-4 s-1 の条件にて室温にて試験し

    た.破断面を SEM により観察し,絞りを算出した.

    3. 結 果 と 考 察

    3.1 組織

    圧延後試料の XRD 分析から,いずれの酸素濃度において

    も 0Vy[O]および 2Vy[O]材は a 相単相であった.一方,

    4~10V 材はいずれの酸素濃度においても XRD 分析より a

    および b 相が検出された.本研究では a+b 型合金を検討し

    ているため,これ以降の熱処理は 4~10Vy[O]材のみ用い

    ることとした.

    Fig. 1 に各温度において熱処理後の 10V1[O]材の組織を

    示す.本図は SEMBSE 像であり,図中の黒色部分が a

    相,灰色部分が b 相である.a 粒は等軸であり,a 粒径は

    5 mm 未満であった.熱処理温度の増加に伴い a 相の面積率

    は減少し,1223 K では針状組織が観察された.この変態組

    織は b 変態点以上の温度から急冷されたことを意味する.

    SEM 像の画像解析から a 相分率( fa)を算出した.Fig. 2 に

    各試料の fa と熱処理温度の関係(アプローチカーブ)を示

    す.なお,変態組織が見られた試料の fa は 0 とした.いず

    れの試料においても温度の増加に伴い fa は減少していた.

    この図の fa を 0 まで外挿し,そのときの温度を b 変態点

    (Tb)とした.Fig. 3 に Fig. 2 から算出された Tb と合金中 V

    濃度の関係を示す.合金中酸素濃度の低下および V 濃度の

    増加により Tb は低下することが分かった.Fig. 3 には

    Ouchi が提案した Tb の回帰式15)からの計算値も同時に示し

    た.実測値と計算値はよく一致していることが分かる.

  • 62

    Fig. 2 Change in volume fraction of a phase (fa) of xV(a) 0.5, (b) 0.75, and (c) 1[O] alloys with heat treatment temperature.

    Fig. 3 b transus (Tb) of xVy[O] alloys obtained byexperimental and calculation.

    62 日 本 金 属 学 会 誌(2016) 第 80 巻

    圧延ままおよび熱処理後試料の硬さを Fig. 4 に示す.

    10V0.5[O]材(Fig. 4(a))の硬さは,圧延ままでは 391 Hv

    であり,923 K 熱処理においてもほぼ同程度の値であった.

    一方,973 K および 1023 K 熱処理において,硬さは急激に

    増加し,485 Hv 程度となった.しかし,1073 K 以上の熱処

    理温度においては圧延ままと同程度の硬さであった.同様の

    傾向は 10V0.75[O], 8V0.75[O], 10V1[O], 8V1[O]およ

    び 6V1[O]材においても確認された.10V0.5[O]材を

    973 K において熱処理後試料の TEM 分析を行った結果を

    Fig. 5 に示す.Fig. 5(a)の暗視野像からは,b 相中に白色の

    析出相が観察され,Fig. 5(b)の電子回折像からは b 相のス

    ポットの間に v のスポットが観察された(Fig. 5(c)).なお,

    10V0.5[O]材の 973 K 熱処理後試料の XRD 解析からも v

    のピークが検出されている.焼き入れによって形成された

    v であることから,暗視野像中の白色析出相は b 相中に形

    成した athermal v であることが確認された.Ti の b 相中に

    形成される v は,硬さおよび弾性率を上昇させることが知

    られている9,1214,1618).このことから,本研究における急激

    な硬さの上昇は athermal v の形成が原因であると考えられ

    る.

    各酸素,V 濃度および熱処理温度においても XRD 分析を

    行ったところ,一部の条件において a″相の形成が確認され

    た.ここで,a″相は適度な b 安定化元素濃度の Ti 合金を高

    温域から急冷することにより形成される19,20).例えば,

    10V1[O]材の 1223 K 熱処理試料(Fig. 1(d))の針状組織の

    TEM 分析により a″相が確認されている.athermal v およ

    び a″相が検出された条件を,熱処理温度および合金中 V 濃

    度についてまとめた図を Fig. 6 に示す.図中には Tb も示し

    た. athermal v は, 10V 0.5 [ O ] 材の 1023 K 以下,

    8V0.75[O]および 10V0.75[O]材の 1073 K 以下および

    10V1[O], 8V1[O]および 6V1[O]の 1123 K の熱処理条

    件にて検出されており,酸素濃度の増加に伴い athermal v

    を生成する V 濃度も低下する傾向が見られた.さらに,

    athermal v 生成条件と,Fig. 4 に示した硬さが上昇した条

    件はよい一致を示した.なお,a″相は a 相よりも硬さは小さ

    くなることが知られており19),athermal v 生成に伴う硬さ

    の上昇後の低下は,a″相の生成も関連していると考えられる.

    TiV 系合金においては,V 濃度が約 14~22 massでは

    b 単相温度域から急冷した際に v が形成されることが報告

    されている5,1113).本研究で用いた Ti 合金の V 濃度は 4~

    10 massであるが,V は b 相安定化元素であり,a+b 二相

    合金中においては b 相中に多く分配される17).そこで,各

    熱処理温度で処理した 10V0.5[O]材の a 相および b 相の V

    濃度を FEEPMA にて 10 点ずつ測定し,平均した値を faに対してプロットしたものを Fig. 7 に示す.図中の点線は

    ICP により測定した 10V0.5[O]材全体の V 濃度(10.14

    mass)である.なお,athermal v は fa=0.32 以上の条件

    から観察されている.fa=0.39 (973 K 熱処理)における V

    濃度は,b 相中では 13.4 mass,a 相中では 5.0 massで

    あり,b 相中に V は濃化していることが分かる.athermal

    v が形成された条件の b 相中 V 濃度は約 12 mass以上で

    あった.これらの結果から,これまで,TiV 合金の v 形成

    は V 濃度 14~22 massの範囲であると報告されている

    が5,1113),本研究においては b 相中の V 濃度は約 12 mass

    以上において athermal v が形成することが確認された.こ

    の差異については,酸素濃度が関連していると予想されるも

    のの,より詳細な検討が必要であり,今後の検討課題の一つ

    である.

    8Vy[O]材について,fa が 0.3 程度の熱処理材の b 相中 V

    濃度を測定したところ,8V0.5[O]材では 10.8 mass,

    8V0.75[O]材では 12.3 mass,8V1[O]材では 14.6

  • 63

    Fig. 4 Change in Vickers hardness of xV(a) 0.5, (b) 0.75, and (c) 1.0[O] alloys with heat treatment temperature.

    Fig. 5 TEM micrographs of (a) dark field image, (b) electron diffraction pattern, and (c) indexed diffraction pattern of10V0.5[O] alloy after heat treatment at 973 K.

    Fig. 6 v and a″formation conditions in xV(a) 0.5, (b) 0.75, and (c) 1[O] alloys with heat treatment temperature.

    63第 1 号 a+b 型 Ti(0~10)massV(0.5~1)massO 合金の組織と機械的特性

    massと,合金中酸素濃度の増加により b 相中 V 濃度は高

    くなることが分かった.その結果,athermal v も酸素濃度

    の増加に伴い低 V 濃度まで形成したと予想される.

    以上のことから,athermal v 形成には合金中 V 濃度,酸

    素濃度,熱処理温度が密接に関連することが明らかとなった.

    3.2 機械的特性

    Fig. 8 に xV0.5[O]材の引張試験から得られた応力ひずみ

    線図を示す.Fig. 9 は xV0.5[O]材および 4Vy[O]材の引

    張強さ,伸び(全伸び)および試験後の破断面から算出した絞

    りを示す.ここで,各試料の熱処理条件およびそのときの

    fa, athermal v の有無を Table 2 に示す.Fig. 8 の応力ひず

    み線図から,4, 6, 8V0.5[O]材は塑性変形域が存在したの

    に対し,10V0.5[O]材からは塑性変形域は観察されなかっ

    た.応力ひずみ線図の傾きも 10V0.5[O]材のみ大きいこと

    から,弾性率も他の試料よりも高い.

    Fig. 9(a)より,いずれの V 濃度においても引張強さは

    1000 MPa 程度であり,JIS H4600 60 種に規格されている

    Ti6Al4V の引張強さである 895 MPa を超えていた.

    xV0.5[O]材の伸びは 4V, 6V, 8V 材では JIS 規格である

    10を超えていたが,10V 材では 7.1と低い値であった.

    引張試験後の破断面観察から算出した絞りは,10V 材のみ

    2.5と低い値となっていた.これらは,10V0.5[O]材には

    athermal v が形成していたことに起因すると考えられる.

    4Vy[O]材(Fig. 9(b))においては,伸びは酸素濃度の増

    加に伴い減少したが,引張強さは 4V0.75[O]材で最大とな

    り,1095 MPa となった.

    以上の結果から,強度・延性のバランスを考慮すると,V

  • 64

    Fig. 7 V contents in a and b phases as a function of fa in10V0.5[O] alloy measured by FEEPMA.

    Fig. 8 Stressstrain curves of xV0.5[O] alloys after heattreatment.

    Fig. 9 Tensile strength, elongation, and reduction of area of (a) xV0.5[O] and (b) 4Vy[O] alloys after heat treatment.

    Table 2 Heat treatment temperature, volume fraction of aphase ( fa), and formation of athermal v of xVy[O] alloys usedfor tensile tests.

    Specimen Heat treatmenttemperature, T/K fa Athermal v

    4V0.5[O] 1123 0.43 Not detected6V0.5[O] 1073 0.38 Not detected8V0.5[O] 1073 0.29 Not detected10V0.5[O] 973 0.39 Detected4V0.75[O] 1123 0.40 Not detected

    4V1[O] 1173 0.40 Not detected

    64 日 本 金 属 学 会 誌(2016) 第 80 巻

    濃度は 4 mass,酸素濃度は 0.5~0.75 massが高酸素濃

    度 a+b 型 Ti 合金として候補となる.今後は,本合金系の

    熱処理性および疲労特性等の評価を通して,組成や加工熱処

    理条件のファインチューニングを行う予定である.

    4. 結 言

    TiVO 三元系合金の V および酸素濃度および熱処理が

    組織および機械的特性に及ぼす影響を調査し,以下の結果を

    得た.

    V 濃度が 2 massまでの圧延まま材は,酸素濃度に

    よらず a 単相であったが,4~10 massV 材においては a+

    b 二相となった.

    酸素濃度 0.5, 0.75, 1.0 massにおける V 添加量と b

    変態点の関係を実験的に明らかにした.

    6, 8 および 10 massV 材の a+b 温度域からの急冷

    において,athermal v の形成が確認され,硬さの増加およ

    び伸びの低下が見られた.これは a+b 温度域での熱処理に

    より b 相中の V 濃度が athermal v 形成濃度まで濃化したた

    めと考察した.

    高酸素 a+b 型 Ti 合金として,Ti4 massV(0.5~

    0.75)massO 合金が候補として考えられる.

    本研究は科学研究費補助金基盤研究(A)25249094,若手

    研究(A)26709049 および軽金属奨学会教育研究資金の補助

    を受けて実施した.謝意を表する.

  • 6565第 1 号 a+b 型 Ti(0~10)massV(0.5~1)massO 合金の組織と機械的特性

    文 献

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