bvp 方程式で表される発振回路 -...

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1 BVP 方程式で表される発振回路 BVP (Bonh¨offer van der Pol equation) れる をあげ, する. 1.1 はじめに BVP また において 大変 ある.こ によって から されてきたこ から きる.したがって,こ について ある.これら を大 する して して かれ る.ここ 2 くこ にしよう. 1.2 発振回路と回路方程式 1.1 (a) える. る. C dv dt = i g (v) L di dt = E Ri v (1.2.1) ここに, 1.1 (b) よう えられる する. 1.2.1 正規化:その 1 して する によく いられる える.変 x = Cv, y = Li (1.2.2) (1.2.1) る. dx dt = 1 LC y 1 C g x C dy dt = E L R L y 1 LC x (1.2.3) 1

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Page 1: BVP 方程式で表される発振回路 - EDB/CMScms.db.tokushima-u.ac.jp/DAV/lecture/125260/LectureNote/Oscillator/bvp.pdf · 第1章 BVP 方程式で表される発振回路 この章では,回路方程式がBVP方程式(Bonh¨offervanderPolequation)で表さ

第1章

BVP 方程式で表される発振回路

この章では,回路方程式が BVP 方程式 (Bonhoffer van der Pol equation) で表される発振回路の例をあげ,回路方程式の正規化の例を検討する.

1.1 はじめに

BVP 方程式は,応用面でもまた力学系理論においても大変重要な方程式である.このことは,様々な研究者によって色々な角度から研究されてきたことからも伺い知ることができる.したがって,この方程式の正規形についても多種多様である.これらを大別すると,正弦波発振器としての正規形と,弛張発振器としての正規形に分かれる.ここでは,代表的な 2 つの正規形を導くことにしよう.

1.2 発振回路と回路方程式

図 1.1 (a) の発振器回路を考える.回路方程式は次式となる.

Cdv

dt= i− g (v)

Ldi

dt= E −Ri− v

(1.2.1)

ここに,非線形抵抗の特性は,図 1.1 (b)のような電圧制御型で与えられるものとする.

1.2.1 正規化:その 1

正弦波発振器として動作する場合によく用いられる正規化の方法を考える.変数変換:

x =√Cv, y =

√Li (1.2.2)

を行うと,式 (1.2.1) は次式となる.

dx

dt=

1√LC

y − 1√Cg

(x√C

)dy

dt=

E√L

− R

Ly − 1√

LCx

(1.2.3)

1

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2 第 1章  BVP 方程式で表される発振回路

G C

(a)

L

R

E

iCiG i

(b)

iG

v

i = g(v)

E =Ri+v

G

v

図 1.1. BVP 発振器回路.

次式でパラメータと非線形抵抗特性を定義する

ω0 =1√LC

, ζ =R

L, ε =

E√L, ϕ (x) =

1√Cg

(x√C

)(1.2.4)

と式 (1.2.3) は次式となる.

dx

dt= ω0y − ϕ (x)

dy

dt= −ω0x− ζy + ε

(1.2.5)

この方程式は,時間軸をスケーリングしてないので,周波数の異なる同種類の発振器を結合した場合の現象を解析する場合に適した正規形の方程式といえる.次に,時間軸のスケーリングを

τ =1√LC

t = ω0t (1.2.6)

と行うと,式 (1.2.5) は次式となる.

dx

dt= y − 1

ω0ϕ (x)

dy

dt= −x− ζ

ω0y +

ε

ω0

(1.2.7)

したがって,

b =ε

ω0=

√CE, k =

ζ

ω0= R

√C

L, f (x) =

1ω0ϕ (x) =

√Lg

(x√C

)(1.2.8)

とおくと式 (1.2.7)は次式となる.

dx

dt= y − f (x)

dy

dt= −x− ky + b

(1.2.9)

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1.2  発振回路と回路方程式 3

J G C

(a)

L

R

E

iCiG i

(b)

iG

v

i = g(v)

E =Ri+v

G

v

図 1.2. 電流源を含む BVP 発振器回路.

1.2.2 正規化:その 2

キャパシタンス C の値が小さい場合は,発振が弛張振動となる.このような場合を含み,回路定数をできるだけ陽に含む正規化を考える.式 (1.2.1) は時間軸の変換(1.2.6) によって次式となる.

dv

dτ=

√L

Ci− g (v) + J

di

dτ=

√C

LE −Ri− v

(1.2.10)

ここに,J はキャパシタに並列に印加された電流源を表す.図 1.2(b) 参照.そこで,変数とパラメータを

v = x, i = y, τ = t; Z0 =

√L

C(1.2.11)

と書き換えて,式 (1.2.10) は次式となる.

dx

dt= Z0 y − g (x) + J

dy

dt= − 1

Z0x+Ry −E

(1.2.12)

この正規化では,特性インピーダンス Z0 の値によって次の対応が付けられる.

1. Z0 = 1 近傍:正弦波発振器モデル.式 (1.2.9) 参照.

2. Z0 が 1 から大きくずれた場合:弛張振動モデル.

また,パラメータの置き換えも少ないので回路実験との対応も付けやすいモデルと言えよう.

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4 第 1章  BVP 方程式で表される発振回路

1.3 非線形抵抗特性の正規化

非線形抵抗特性を奇数次の多項式で近似した場合,座標の原点を取り直して簡単な形,出来れば対称な性質を持たせる形,に変換することを考えよう.以下,特性が 3 次の多項式で与えられる場合を考える.すなわち

i = g (v) = g1v + g2v2 + g3v3 (1.3.1)

で与えられる場合を考えよう.この特性は,一般性を失うことなく,曲線の変曲点に座標を平行移動させることによって,2 次の項を含まない形:

f (x) = cx+ x3 (1.3.2)

に変換できる.この変換を考えよう.式 (1.2.8) の関数を次式と置こう.

f (x) =√Lg

(x√C

)= a1x+ a2x

2 + a3x3 (1.3.3)

方程式 (1.2.9) を例にしてこの変換を考えよう.座標変換:

x = x0 + u

y = y0 + v(1.3.4)

と平行移動する.

y − f (x) = y0 + v − a1 (x0 + v)− a2 (x0 + v)2 − a3 (x0 + v)

3

= y0 − a3x30 − a2x

20 − a1x0 + v −

(3a3x

20 + 2a2x0 + a1

)u− (3a3x0 + a2)u2 − a3u

3

であるから,

x0 = − a2

3a3

y0 = a3x30 + a2x

20 + a1x0 = −a2

a3

(a1 − 2a2

2

9a3

) (1.3.5)

と選ぶと,方程式 (1.2.9) は次式となる.

du

dt= v −

(3a3x

20 + 2a2x0 + a1

)u− a3u

3

dv

dt= −u− kv + b− x0 − ky0

(1.3.6)

そこで,変数のスケーリング:

u = αx, v = αy (1.3.7)

を行うと,式 (1.3.6) は次式となる.

dx

dt= y −

(3a3x

20 + 2a2x0 + a1

)x− a3α

2x3

dy

dt= −x− ky + 1

α(b− x0 − ky0)

(1.3.8)

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1.4  OP アンプによる積分型発振回路 5

G C

(a)

L

R

E

iCiG i

(b)

iG

v

i = g(v)

E =Ri+v

G

v

図 1.3. BVP 発振器回路.

したがって,

α =1√a3

(1.3.9)

に選べば,最終的に回路方程式は次式となる.

dx

dt= y + cx− x3

dy

dt= −x− ky +B

(1.3.10)

ここに

c = −(3a3x

20 + 2a2x0 + a1

)=a2

2

3a3− a1

B =√a3

b+

a2

3a3+ k

a2

a3

(a1 − 2a2

2

9a3

) (1.3.11)

とおいた.このようにして,式 (1.3.10) は変数のスケーリング,抵抗特性の変曲点への平行移

動および時間軸のスケーリングによって得られる正規形方程式である.図 1.3(b)参照.この方程式から,この系に含まれる本質的なパラメータは 3 個であることが分かる.

1.4 OP アンプによる積分型発振回路

演算増幅器を用いて BVP 発振器を実現しよう.図 1.4 参照.この回路は正負 2 つの積分器を負性抵抗回路と組み合わせて考案した回路である.入力端子に直流電圧源を印加した図 1.5 の回路について回路方程式を導出しよう.まず,前段 OP amp の出力電圧は次式となる.

v0 =(1 +

R4

R3

)v1 = αv1 (1.4.1)

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6 第 1章  BVP 方程式で表される発振回路

R1

R3 R4

R5

R2

GC1

C2

v1

v1

v1

αv1

v2

v2input 1

input 2

output 1

output 2

図 1.4. 積分型発振器回路と 2 つの入出力.

R1

R1E1

R3 R4

R5

R2

R2

E2

GC1

C2

v1

v1

v1

αv1

v2

v2

図 1.5. OP アンプを用いた BVP 発振器回路の実現.

次に各キャパシタの接続された入力端子での KCL 方程式は次式となる.

C1dv1dt

+v1 − v2R1

+G(−R4

R3v1

)+v1 −E1

R1= 0

C2dv2dt

+v2R5

+αv1R2

+E2 − v2R2

= 0(1.4.2)

ここに,非線形コンダクタンス G の特性は電圧制御型の飽和特性を持つものと仮定する.したがって,例えば

iG = G (v) = a tanh−1 bv (1.4.3)

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1.4  OP アンプによる積分型発振回路 7

の特性を仮定する.式 (1.4.2) を書き直すと次式を得る.

R1C1dv1dt

= v2 − 2v1 +G(R4

R3v1

)+E1 = v2 + g (v1) +E1

R2C2dv2dt

= −(1 +

R4

R3

)v1 − R2

R5v2 −E2

(1.4.4)

ここで

g (v1) = −2v1 +G(R4

R3v1

)≈ g1v1 − g3v31 (1.4.5)

とおいた.そこで,時間軸を次式で正規化する.

τ =1√

R1C1R2C2t (1.4.6)

式 (1.4.4) は次式となる.

dv1dτ

=

√R2C2

R1C1v2 + g (v1) +E1

dv2dτ

= −√R1C1

R2C2

(1 +

R4

R3

)v1 +

R2

R5v2 +E2

(1.4.7)

状態とパラメータを

v1 = x, v2 = y, c =

√R2C2

R1C1, a1 = E1, a2 = E2, b =

R2

R5, α = 1 +

R4

R3(1.4.8)

と置くと,式 (1.4.7) は次式となる.

dx

dt= c y + g (x) + a1

dy

dt= −1

cαx+ by + a2

(1.4.9)

ここで,時間を τ から t に書き直しておいた.式 (1.4.9) は式 (1.2.12) と類似の方程式となっている.すなわち,図 1.5 の回路と図 1.1 (a) の発振器回路を比較すると,

1. 図 1.5 の左の OP アンプの出力電圧が,図 1.1 (a) の発振器回路のキャパシタ電圧に,

2. 図 1.5 の右の OP アンプの出力電圧が,図 1.1 (a) の発振器回路のインダクタ電流に,

それぞれ対応していることが分かる.なお,OP アンプで構成した発振回路は,結合発振器をつくる場合に結合方法を自

由に設計できる利点がある.

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第2章

ウイーン・ブリッジ発振器の構成と回路方程式の導出

2.1 はじめに

ウイーン・ブリッジ発振器は代表的な RC 発振器の一つである.この発振器は幾つかの異なった回路で構成が可能である.一般に交流ブリッジから発振器を構成するには図 2.1の手順に従えばよい.この構成方法については別にレポートとしてまとめたい.ここではウイーンブリッジに限って構成された回路の回路方程式を導出する.これらの方程式は,発振器を結合する場合の基本となる.また,各々の回路を用い

てカオス発振器を構成する際にどのような付加回路をつけ加えれば良いかをみるための設計のヒントを与える.

2.2 ウイーン・ブリッジ発振器

2.2.1 ウイーンブリッジから発振器を構成する方法

簡単に発振器を構成する方法を考えておこう.図 2.2 は 2 つのウイーンブリッジの回路を示している.これらの回路は互いに共役 (conjugate)であると呼ばれている.明らかにどちらの回路も平衡条件は同じとなり,次式で与えられる.

1R1C1

+1

R2C2=

1R2C1

R3

R4, ω2 =

1R1C1R2C2

(2.2.1)

さて,これらのブリッジから発振器を構成するには,つぎのようにすればよい.まず,detedtor の接続されている各端子をOp amp の入力端子で置き換える.この際, Opamp の入力端子の極性をうまく選んで回路が安定に動作するように接続する必要がある.次に電源がつながっていた端子は,一方をOp amp の出力端子に接続し,他の一方の端子を接地する.この段階で 2 種類の回路が構成できる.図 2.3 参照.一般に,互いに共役なブリッジがあるので,1 つのブリッジから 4 個の回路が構成できることとなる.これらが発振器回路の候補となる.図 2.4 と 2.5 にこれら 4 つの回路を示しておいた.

9

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10 第 2章  ウイーン・ブリッジ発振器の構成と回路方程式の導出

Bridged Oscillators

図 2.1. 交流ブリッジから発振器を構成する方法.

C2

R2

R3

R1

C1

R4

a c

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

a c

b

d

(a) original Wien bridge circuit (b) conjugate Wien bridge circuit

D D

図 2.2. 2 つの互いに共役なブリッジ回路.

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2.2  ウイーン・ブリッジ発振器 11

C2

R2

R3

R1

C1

R4

a c

b

d

(a) original Wien bridge circuit

(b) construction of Wien bridge oscillators

D

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

(b-1) WBI-a (b-2) WBI-b

図 2.3. 発振器の構成手順.

2.2.2 非線形抵抗の種類と配置

さて,それぞれの回路について回路に含まれているいずれかの抵抗を少なくとも 1つ非線形抵抗に置き換え発振器を構成する.使用する抵抗は,電圧制御型あるいは電流制御型のいずれかである.非線形抵抗(コンダクタンス)としては,FET を用いた電圧制御型の素子を使用

する.この回路を図 2.6(a) に,また実測した特性を図 2.6(b) に示した.この結果から近似曲線として

i = g (v) = α tanh (βv) (2.2.2)

やi = g (v) = α tan−1 (βv) (2.2.3)

で特性をほぼうまく近似できることが分かる.図 2.7 参照.この抵抗が R = 600[Ω]

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12 第 2章  ウイーン・ブリッジ発振器の構成と回路方程式の導出

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

(a) WBI-a (b) WBI-b

(c) WBII-a (d) WBII-b

図 2.4. 4 種類の発振器回路.

と直列に接続された場合には,R の両端の電圧は

v = Rg (v) = f (v) = 3.1 tanh (0.6v) (2.2.4)

となる.なお,非線形抵抗の挿入場所により,電流制御型の抵抗を用いたほうが便利な場合

がある.そのための素子としてはダイオードによる実現が一般的である.次に,これらの非線形抵抗の配置であるが,ウイーブリッジには 4 個の抵抗がある

ので,1 つの回路について 4 種類の配置方法が考えられる.この一例を図 2.8 に示した.

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2.3  WBI の発振器の回路方程式 13

R1

C2

R2

C1R3

R4

v1

v2

v1

v1

v1

v0

R2

C1

R1

C2

R4

R3v2

v0

R2

C1

R1

C2

R3

R4 v2

v0

R2

C1

R3

C2R1

R4

v2

v0

(a) WBI-a (b) WBI-b

(c) WBII-a (d) WBII-b

図 2.5. 4 つの異なるウイーン・ブリッジ発振器.

2.3 WBI の発振器の回路方程式

まず,一般的な注意事項として,図 2.5 に示した 4 つの回路のうち,WBI-a とWBI-b は,非線形抵抗の配置が同じであると回路方程式は同じ方程式となる.これは増幅器の出力端子の接続がことなるだけであるので,ブリッジを構成する素子から決まる方程式の導出には影響を与えないためである.したがって,以下 WBI-a の回路を取りあげ,それぞれの抵抗を非線形とした場合

の回路方程式を導出することにしよう.見やすくするため図 2.8 の回路を描き直して図 2.9 に示した.この図の回路方程式を導こう.

2.3.1 WBI-a-NR1 の回路方程式

図 2.9(a) の回路を考える.この回路では,抵抗 が非線形コンダクタンスとなっている.回路方程式は次式となる.

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14 第 2章  ウイーン・ブリッジ発振器の構成と回路方程式の導出

750KΩ

750KΩ

600Ω

2SK30A

y axis[V]

i mA

x axis[V]

0-1-2-3-4-5 1 2 3 4 5

6

4

2

0

-2

-4

-6

3.6

2.4

1.2

0

-1.2

-2.4

-3.6

mAV

V

(a) (b)

図 2.6. FET を用いた非線形コンダクタンスとその特性.

-4-5 -2 0 2 4 5-6

-4

-2

0

2

4

6

-3

-3.6

-2

-1

0

1

2

3

3.6

実測値

印加電圧

流れる電流

抵抗 R

4 にかかる電圧

関数: i = 3.1 tanh(0.6 v)

関数: i = 2.2 tan-1( v)

v

vi

mA V

V

図 2.7. 非線形コンダクタンス特性の近似曲線.

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2.3  WBI の発振器の回路方程式 15

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

C2

R2

R3

R1

C1

R4

ac

b

d

(a) WBI-a-NR1 (b) WBI-a-NR2

(c) WBI-a-NR3 (d) WBI-a-NR4

VCVC

VCVC

VCVC

CCCC

図 2.8. 4 種類の非線形抵抗の配置法.

dv1dt

=1

R2C1

R3

R4v1 − 1

R2C1v2 − 1

C1g (v1)

dv2dt

=1

R2C2

R3

R4v1 − 1

R2C2v2

(2.3.1)

平衡点での特性方程式は∣∣∣∣∣∣∣1

R2C1

R3

R4− 1C1g − µ − 1

R2C11

R2C2

R3

R4− 1R2C2

− µ

∣∣∣∣∣∣∣ = 0 (2.3.2)

すなわち

µ2 +[

1R2C2

+1C1g − 1

R2C1

R3

R4

]µ+

1R2C1C2

g = 0 (2.3.3)

となる.このことから非線形コンダクタンスは減衰定数の正の部分に影響を与えることとなる.したがってこのままでは発振をおさえることが困難であろう.適当に直流

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16 第 2章  ウイーン・ブリッジ発振器の構成と回路方程式の導出

R1

C2

R2

C1R3

R4

v1

v2

v0

(a) WBI-a-NR1 (b) WBI-a-NR2

R1

C2

R2

C1R3

R4

v1

v2

v0

(c) WBI-a-NR3

R1

C2

R2

C1R3

R4

v1

v2

v0

R1

C2

R2

C1R3

R4

v1

v2

v0

(d) WBI-a-NR4

VC

VC

VC

CC

図 2.9. 4 種類の非線形抵抗の配置法.

電圧源を印加して平衡点の位置をずらすとおもしろい発振が可能かも知れない.ともかくこのままでは発振器としては使用できない.

2.3.2 WBI-a-NR2 の回路方程式

次に,図 2.9 (b) の回路を考えよう.回路方程式は次式となる.

C2dv2dt

= C1dv1dt

+v1R1

= g (vR2)

vR2 + v2 =R3

R4v1

(2.3.4)

整理して次式を得る.

dv1dt

=1C1g

(R3

R4v1 − v2

)− v1R1C1

dv2dt

=1C2g

(R3

R4v1 − v2

) (2.3.5)

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2.3  WBI の発振器の回路方程式 17

したがって平衡点での特性方程式は次式となる.

µ2 +[

1R1C1

+g

C2− g

C1

R3

R4

]µ+

g

R1C1C2= 0 (2.3.6)

これより Hopf 分岐の条件は

1R1C1

<

(1C1

R3

R4− 1C2

)g (2.3.7)

となる.また,発振周波数は

ω2 =g

R1C1C2(2.3.8)

となる.この発振器は発振周波数が動作点のコンダクタンスによって変化することに特徴がある.この性質を活かしてカオス発振器を構成することも考えられよう.

2.3.3 WBI-a-NR3 の回路方程式

次に,図 2.9 (c) の回路を考える.この回路では電流制御型の非線形抵抗を使用する.そこで回路方程式は次式となる.

v0 = f

(v1R4

)+ v1 = v1 + v2 +R2C2

dv2dt

C2dv2dt

= C1dv1dt

+v1R1

(2.3.9)

整理して次式を得る.

dv1dt

=1

R2C1f

(v1R4

)− 1R2C1

v2 − v1R1C1

dv2dt

=1

R2C2f

(v1R4

)− 1R2C2

v2

(2.3.10)

したがって平衡点での特性方程式は次式となる.

µ2 +[

1R1C1

+1

R2C2− 1R2C1

f

R4

]µ+

1R1R2C1C2

= 0 (2.3.11)

これより発振の条件は1

R1C1+

1R2C2

<1

R2C1

f

R4(2.3.12)

となる.また,発振周波数は

ω2 =1

R1R2C1C2(2.3.13)

となり,非線形効果はこの左辺にのみ現れる.したがって実用回路としてこの回路はしばしば用いられている.

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18 第 2章  ウイーン・ブリッジ発振器の構成と回路方程式の導出

2.3.4 WBI-a-NR4 の回路方程式

この回路は,通常ウイーン・ブリッジ発振器と呼ばれている回路である.図 2.9 (d)の回路を考える. 図中の記号を用いて回路方程式は次式となる.

C1dv1dt

+1R1v1 = C2

dv2dt

R2C2dv2dt

+ v2 + v1 = v0

R3g (v1) + v1 = v0

(2.3.14)

第 3 式を第 2 式に代入して整理すると,次の状態方程式を得る.

dv1dt

= − 1R1C1

v1 +1

R2C1R3g (v1)− 1

R2C1v2

dv2dt

=1

R2C2R3g (v1)− 1

R2C2v2

(2.3.15)

なお,変数 v2 を消去して 2 階スカラー方程式にまとめると

d2v1dt2

+[

1R1C1

+1

R2C2− R3

R2C1

dg

dv1

]dv1dt

+1

R1R2C1C2v1 = 0 (2.3.16)

となる.次に,時間軸のスケールを

τ =1

R1C1t (2.3.17)

と変換する.式 (2.3.15) は次式となる.

dv1dt

= −v1 + R1

R2R3g (v1)− v2

dv2dt

=R1C1

R2C2R3g (v1)− v2

(2.3.18)

計算機シミュレーションではこの式を用いると良いであろう.更に

x = cv1 − ρv2y = v1

(2.3.19)

の変数変換を行うと,式 (2.3.18) は次式となる.

dx

dt= −cy

dy

dt= c

−1ρx+ f (y)− c

ρy

(2.3.20)

この最後の形は,リミットサイクルが円に近い変数の選び方になっている.

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2.4  WBII の発振器の回路方程式 19

v1

R2

C1

R3

C2R1

R4

v2

v0

(a) WBII-a-NR1

v1

R2

C1

R3

C2R1

R4

v2

v0

(b) WBII-a-NR2

v1

R2

C1

R3

C2R1

R4

v2

v0

(c) WBII-a-NR3

v1

R2

C1

R3

C2R1

R4

v2

v0

(d) WBII-a-NR4

図 2.10. WBII-a タイプの発振器.

2.4 WBII の発振器の回路方程式

2.4.1 WBII-a-NR1 の回路方程式

図 2.10(a) の回路を考える.回路方程式は次式となる.

dv1dt

= − 1C1g (v1) +

1R2C1

R3

R4(v1 − v2)

dv2dt

=1

R2C2(v1 − v2)

(2.4.1)

この方程式の特性方程式は次式となる.

µ2 +[g

C1+

1R2C2

− 1R2C1

R3

R4

]µ+

g

R2C1C2= 0 (2.4.2)

この回路は前節で導出した WBI-a-NR1 と本質的に同じである.

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20 第 2章  ウイーン・ブリッジ発振器の構成と回路方程式の導出

2.4.2 WBII-a-NR2 の回路方程式

次に,図 2.10 (b) の回路を考えよう.回路方程式は次式となる.

dv1dt

=1C1

R3

R4g (v1 − v2)− v1

R1C1dv2dt

=1C2g (v1 − v2)

(2.4.3)

したがって平衡点での特性方程式は次式となる.

µ2 +[

1R1C1

+g

C2− g

C1

R3

R4

]µ+

g

R1C1C2= 0 (2.4.4)

これより Hopf 分岐の条件は

1R1C1

<

(1C1

R3

R4− 1C2

)g (2.4.5)

となる.また,発振周波数はω2 =

g

R1C1C2(2.4.6)

となる.

2.4.3 WBII-a-NR3 の回路方程式

次に,図 2.10 (c) の回路を考える.この回路では電流制御型の非線形抵抗を使用する.そこで回路方程式は次式となる.

dv1dt

=1

R4C1f

(v1 − v2R2

)− v1R1C1

dv2dt

=v1 − v2R2C2

(2.4.7)

したがって,平衡点での特性方程式は次式となる.

µ2 +[

1R1C1

+1

R2C2− 1R2C1

f

R4

]µ+

1R1R2C1C2

= 0 (2.4.8)

2.4.4 WBII-a-NR4 の回路方程式

図 2.10 (d) の回路を考える. 図中の記号を用いて回路方程式は次式となる.

dv1dt

= − 1R1C1

v1 +1C1g

(R3

R2(v1 − v2)

)dv2dt

=1

R2C2v1 − 1

R2C2v2

(2.4.9)

したがって,平衡点での特性方程式は次式となる.

µ2 +[

1R1C1

+1

R2C2− R3

R2C1g

]µ+

1R1R2C1C2

= 0 (2.4.10)

となる.