第 11...

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11回日本脳循環代謝学会総会 1 日目平成 11 10 4日(月) 口演 21 神経伝達物質 座長浅野孝雄 98 頭蓋外神経節由来 NOS 含有脳血管周囲神経の両倶i j 慢性切断が 脳血管口径に及ぼす影響 慶麿義塾大学医学部神経内科野川 99 ラット前脳虚血時の一酸化窒素 (NO) 産生量および 脳血流量の部位別検討 埼玉医科大学神経内科浅野賀雄 100 D-aspartate の海馬 nitrite 動態に対する影響について 慶慮義塾大学医学部神経内科後藤 101 Cy cI o-oxygenase-2 選択的阻害薬 NS-398 によるマウス梗塞容積縮小, 機能回復促進作用,および iNOSknockout の効呆 一一定量的神経学的機能評価法とその問題点一 102 脳血管における calbindin-D28 k 陽性神経線維の分布について 103 皮質に広範な活動一血流量カプリングを実現する 中枢性神経統合 東海大学医学部神経内科永山正雄 北里大学医学部内科鈴木則宏 国立循環器病センタ」研究所中野正継 口演 22 トレーサー脳血流測定 座長坂井文彦 104 IMP を用いた非侵襲的マイクロスフェア法と Patlak 法による 脳血流定量化の比較 105 99mTc-ECD/Patlak Plot 法と stableXe CT 脳血流測定の比較 106 ECD CBF SPECT の非線形較差分析法による脳血流定量法 107 DSA 画像処理による脳語直流解析の理論と留意点 110 Rasmussen' s encephalitis の画像的検討 公立昭和病院脳神経外科武笠晃文 大阪医科大学脳神経外科出口 横浜新都市脳神経外科病院吉津 大阪大学医学部脳神経外科加藤天美 県立岐阜病院神経内科西田 口演 24 臨床・その他 2 座長片山泰朗 111 虚血性脳血管障害患者における NADPHoxidase p 22 phox 遺伝子多型の解析 112 脳梗塞における白血球接着分子 LFA- l Mac-1 の経時的検討 113 無症候性脳梗塞の進展因子-5 年間の追跡調査結果 慶慮義塾大学医学部神経内科伊東大介 埼玉医科大学神経内科高演美里 国立大阪病院内科井坂育成 2 日目平成 11 10 5 日(火) 口演 25 血行再建など 座長小川 115 脳虚血におけるアセタゾラミドと炭酸ガス負荷による 脳血管反応性の比較 秋田県立脳血管研究センター脳卒中診療部丸谷 116 虚血脳の病態解析:PET を用いた神経賦活と 脳血流・糖代謝測定による検討 117 内頚動脈閉塞症の頭蓋内外吻合術前後の TCD SPECT 所見 118 浅側頭動脈血流速度による STA-MCA 吻合術後の血行評価 119 頚動脈内膜剥離術前後での頚動脈血流動態の変化 120 )1 貢行性部分脳循環を用いた血行再建術 -127 名古屋大学医学部脳神経外科稲尾意秀 久留米大学医学部島本宝哲 九州医療センター脳血管内科荒川修治 徳島大学医学部脳神経外科新野清人 日本大学医学部脳神経外科吉田憲司

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第 11回日本脳循環代謝学会総会

第 1日目平成 11年 10月4日(月)

口演 21 神経伝達物質 座長浅野孝雄

98 頭蓋外神経節由来 NOS含有脳血管周囲神経の両倶ij慢性切断が

脳血管口径に及ぼす影響 慶麿義塾大学医学部神経内科野川 茂

99 ラット前脳虚血時の一酸化窒素 (NO)産生量および

脳血流量の部位別検討 埼玉医科大学神経内科浅野賀雄

100 D-aspartateの海馬 nitrite動態に対する影響について 慶慮義塾大学医学部神経内科後藤 淳

101 CycIo-oxygenase-2選択的阻害薬NS-398によるマウス梗塞容積縮小,

機能回復促進作用,およびiNOSknockoutの効呆

一一定量的神経学的機能評価法とその問題点一

102 脳血管における calbindin-D28 k陽性神経線維の分布について

103 皮質に広範な活動一血流量カプリングを実現する

中枢性神経統合

東海大学医学部神経内科永山正雄

北里大学医学部内科鈴木則宏

国立循環器病センタ」研究所中野正継

口演 22 トレーサー脳血流測定 座長坂井文彦

104 IMPを用いた非侵襲的マイクロスフェア法と Patlak法による

脳血流定量化の比較

105 99mTc-ECD/Patlak Plot法と stableXe CT脳血流測定の比較

106 ECD CBF SPECTの非線形較差分析法による脳血流定量法

107 DSA画像処理による脳語直流解析の理論と留意点

110 Rasmussen' s encephalitisの画像的検討

公立昭和病院脳神経外科武笠晃文

大阪医科大学脳神経外科出口 潤

横浜新都市脳神経外科病院吉津 卓

大阪大学医学部脳神経外科加藤天美

県立岐阜病院神経内科西田 浩

口演 24 臨床・その他2 座長片山泰朗

111 虚血性脳血管障害患者における NADPHoxidase p 22 phox

遺伝子多型の解析

112 脳梗塞における白血球接着分子 LFA-l, Mac-1の経時的検討

113 無症候性脳梗塞の進展因子-5年間の追跡調査結果

慶慮義塾大学医学部神経内科伊東大介

埼玉医科大学神経内科高演美里

国立大阪病院内科井坂育成

第 2日目平成 11年10月5日(火)

口演 25 血行再建など 座長小川 彰

115 脳虚血におけるアセタゾラミドと炭酸ガス負荷による

脳血管反応性の比較 秋田県立脳血管研究センター脳卒中診療部丸谷 宏

116 虚血脳の病態解析:PETを用いた神経賦活と

脳血流・糖代謝測定による検討

117 内頚動脈閉塞症の頭蓋内外吻合術前後の TCD,SPECT所見

118 浅側頭動脈血流速度による STA-MCA吻合術後の血行評価

119 頚動脈内膜剥離術前後での頚動脈血流動態の変化

120 )11貢行性部分脳循環を用いた血行再建術

-127一

名古屋大学医学部脳神経外科稲尾意秀

久留米大学医学部島本宝哲

九州医療センター脳血管内科荒川修治

徳島大学医学部脳神経外科新野清人

日本大学医学部脳神経外科吉田憲司

脳循環代謝第 12巻第2号

98 頭蓋外神経節由来NOS含有脳血管周囲神経の両側慢性切断が脳血管口径

に及ぼす影響

野川 茂,福内靖男,田中耕太郎,永田栄一郎,鈴木重明,惇法倫久,小堺有史

(慶謄義塾大学神経内科)

[要約]脳血管周囲神経由来 NOが血管リモデリング抑制に関与しているかどうかを調べるため,

幼若ラットにおいて同神経を両側で切断し, 3ヶ月後にウィリス動脈輸血管径および局所脳血流

の変化を検討した.その結果,同神経の両側慢性切断は,ウィリス動脈輪各部位の血管外径,血

管壁/内腔比,安静時局所脳血流量には影響を及ぼさなかった.従って,脳血管周囲神経由来 NO

は脳血管リモデリング抑制には関与していないことが示唆された.

【目的】翼口蓋神経節由来副交感神経(SPGN)および三叉神経節由来鼻毛様体神経(NCN)は一酸化

窒素合成酵素(NOS)を含有しており,ラットでは舗骨孔(EF)を通り頭蓋内に入り,内簡骨動脈をた

どりウィリス動脈輪前半部を中心とする同側の脳血管に分布していることが, Suzuki ら(1),

Nozakiら(2)により明らかにされている.この頭蓋外神経節由来 NOS含有脳血管周囲神経の脳循

環調節に関する機能に関しては,虚血時の脳血流維持や脱血時の autoregulationなど,脳血流低

下時の防御的な反応に関与するが(3),安静時局所脳血流には影響しないことが報告されている

(4) .しかし,これまで同神経を 3ヶ月以上の長期にわたり除神経し,脳血管形態に対する影響を

検討した報告はない.一方,最近 NOS阻害薬の捜性経口投与により,血圧とは無関係に冠微小血

管のリモデリング(中膜平滑筋肥厚,血管周囲線維化)が生じることが明らかにされた(5).そこ

で脳血管周囲神経由来 NOが血管リモデリング抑制に関与しているかどうかを調べるため,幼若ラ

ットにおいて同神経を両側で切断し,慢性期にウィリス動脈輪血管径および局所脳血流の変化を

検討した.

【方法】 3週齢の雄 Sprague-Dawleyラットを用い, eQuithesin (0.3 ml/l00 g体重)腹腔内投与

麻酔下に,膜状の印刷およびTGNを内側壁EF部において両側で切断した(切断群).一方, Sham

手術群では各神経を露出するに留めた.その後, 3カ月間ケージで飼育し,以下の実験に供した:

1) NADPH diaphorase染色:還流固定を行い,取り出した脳よりウィリス動脈輪を取り外して

プレパラート上にマウントした.NADPH diaphorase染色を行い,頭蓋外神経節由来NOS含有

血管周囲神経の有無を検討した (Sham群,切断群,各 n=3).さらに,脳実質切片において,

実質内 NOS陽性神経細胞,血管内皮の NADPHdiaphoraseの染色性も比較検討した.

2) ウィリス動脈輸血管外径測定:一定の圧で還流固定し, india ink溶液を注入した後,脳底

部の外観を CCDビデオカメラを用いてデジタル画像としてコンビューターに取り込み,ウィ

一128

一般演題(口演)

リス動脈輪各構成血管の血管外径を測定した (Sham群, n=7:切断群, n=6).

3) ウィリス動脈輪血管壁/内腔比測定:凍結 H-E染色切片において,ウィリス動脈輪各構成

血管の血管壁/内腔比を測定した (Sham群, n=6:切断群, n=7).

4) 局所脳血流量測定:[14CJヨードアンチピリン法により脳内各部位における局所脳血流量

(LCBF)を測定した (Sham群, n=6:切断群, n=7).

【成績】 1)切断群ではSham手術群で認められたウィリス動脈輪前半部の頭蓋外神経節由来NADPH

diaphorase陽性血管周囲神経線維は消失していた.一方,脳実質内神経細胞,血管内皮の染色性

には違いが見られなかった.

2) ウィリス動脈輪各部位の血管外径は両群間で差異を認めなかった(内頚動脈:Sham群 3.4土

0.5,切断群 3.4土0.5,内備骨動脈:Sham群1.8土0.3,切断群1.5:1::0.3x10-lmm).

3)ウィリス動脈輪各部位の血管壁/内腔比にも両群間で差異を認、めなかった(図 1).

4) LCBFにも両群間で違いは見られなかった(図 2).

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図1.ウィリス動脈輪各部位の血管壁/内腔比 図2.局所脳血流量(口:Sham群,・:切断群)

【結論}頭蓋外神経節由来 NOS含有脳血管周囲神経の両側慢性切断は,ウィリス動脈輸を含む脳

血管の安静時血管径には影響を及ぼさなかった.従って,脳血管周囲神経由来NOは脳血管リモデ

リング抑制には関与していないことが示唆された.

【文献】

(1) Suzuki N, et al. (1993) Neurosci Lett 151:1-3.

(2) Nozaki K, et al. (1993) ] Cereb Blood Flow Metab 13:70-79.

(3) Koketsu N, et al. (1992) ] Cereb Blood Flow Metab 12:613-20.

(4) Tanaka K, e t al. (1995) ] Au ton Nerv SyS t 53: 95-1 02.

(5) Numaguchi K, et al. (1995) Hypertension 26:957-962.

-129-

脳循環代謝第 12巻第2号

99 ラット前脳虚血時のー酸化窒素(NO)産生量および

脳血流量の部位別検討

浅野賀雄,荒木信夫,大久保毅,金 浩j畢,津田雅彦,古屋大典,武井和夫,島津邦男

(埼玉医科大学神経内科)

〔要約〕 ラット前脳虚血モデルを用い,線条体と海馬における NO産生量と脳血流量を部位別に検討し

た.NOはinvivo microdialysisにより totalNO(NOよ+N03-)濃度を測定し前脳虚血を 20分間負荷した.

脳血流量の変化は両部位聞で差はなかった.NO濃度は,線条体では虚血中と再湛流 10分後で有意に低

下し,海馬では再濯流 30分後で有意に上昇した.以上より,脳虚血・再濯流時の NO産生動態に部位特異

性の存在が示唆された.

【目的】NOは脳虚血・再濯流時の神経細胞障害の発生に深く関与することが明らかにされてきた.一方,免

痕組織化学的な検討から,中枢神経系におけるNO合成酵素の分布に差が存在することが報告されている

これらの事実から,虚血時における NO産生が部位により異なることが示唆されるが,十分な検討がなされ

ていない.

本基礎研究で、はラット線条体と海馬における NO産生量と脳血流量を同一個体で連続的に測定し,部位

別に比較検討した.

【方法】雄性Wistarラット 7匹(体重 270-320g)を用いた.pentobarbital (40 mg/kg, i.p.)の腹腔内麻酔後に体

温を heatingpadにて 37.0-37.50CIこ保った.一側大腿動静脈にカテーテルを挿入し血圧測定と脱血・血液

再注入用とした.微小透析プローブをー側線条体と海馬にそれぞれ stereotaxicに刺入後,脱気リンゲル液

を2μI/minで濯流し, 2時間の濯流を行った後から 10分毎に濯流液を回収した.脳血流は反対側の同部位

にレーザードップラー血流計プローブを留置し線条体と海馬の局所脳血流量を連続的に測定した.また,

脳温センサーを頭頂部の脳表に挿入し,脳温を記録した.脳虚血は両側総頚動脈の結紫後,脱血により平

均動脈血圧を 50mmHg以下に維持して前脳虚血を 20分間施行し,その後,再濯流,血液再注入を行った

実験終了後,濯流液中の nitriteとnitrate濃度を Griess反応で定量的に測定し, totalNO (N02-+N03-)濃

度として検討した.推計学的検討には ANOVA(Fisher'sPLSD)を用いた.

【結果】(1)血圧・脳温:平均動脈血圧は虚血直前の 110::!::4mmHg(mean::!::SE)に対し,虚血 10分後は 48

土1,虚血 20分後では 50::!::2と,虚血中は 50mmHg以下を維持した.脳温は,虚血 20分後で 34.0::!::0.40C

まで低下し再濯流後に上昇したが,再濯流 30分後と 40分後ではそれぞれ 35.9::!::0.7,35.5::!::0.8へ低下し

た.

(2)脳血流(図1):虚血前 40分間の平均値に対して虚血中の脳血流量は,線条体で虚血 10分後 26.3::!::

4.8 %,慮血 20分後 30.2土2.8,海馬ではそれぞれ 31.2::!::7.6, 36.6土7.6まで減少し両部位聞に差を認めな

かった.また,再濯流後の各時点においても差を認めなかった.

-130

一般演題(口演)

(3)Total NO濃度(図 2):線条体の totalNO濃度は虚血前 40分間の平均値 3.43土0.82μmol/Iに対して,

虚血 10分後で 2.18::t0.84,虚血 20分後 1.62土0.64と,有意な低下(pく0.05,pく0.05)を示し,再濯流 10分後

においても 2.46::t0.74と有意な低下 (pく0.05)が持続した一方,海馬では虚血前の平均値 2.68士 1.03

μmol/I,虚血 10分後 2.53土 1.23,虚血 20分後 2.31::t1.14と,虚血中に有意な変化を認めず,再濯流 30分

後で 3.79::t1.30と有意な上昇(pく0.05)を示した

【考察】線条体では虚血後早期から NO産生量が減少し海馬では再濯流後に遅れて増加を示した.虚血脳

における NO産生動態に関しては,同様の invivo microdialysisを用いた報告 1)でも,ラットの線条体で、虚血

に伴う NO産生の低下が報告され,酸素や L-arginine供給との関連性が指摘されている.虚血中および再

濯流早期に線条体の NO産生が低下した本成績に関しても,虚血時の低酸素状態や基質としての L-

arginine供給減少に伴い一過性に NO産生量が低下し,再濯流で上昇したものと考えた.

これまで海馬においては,免疫組織化学的な検討から高い neuronalNOSの mRNA発現 2)や,虚血/低酸

素状態における NO産生の冗進 3)など,線条体との相違が報告されている.海馬における NO濃度が,虚血

中に明らかな変化を示さず再濯流後に有意な上昇を認めた本成績は,海馬では虚血負荷によりカルシウム

依存性である neuronalNOSがより強く活性化されたことにより NO濃度が維持され,その後,再濯流により

NO産生量が上昇したものと考えた.

50

田・・圃40 (min)

1.0 I 圃・・圃10 20 10 20 30

Base Ischemia Repe斤usion40 (min)

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Base Ischemia Repe斤usion

図 1 図 2

【文献】

(1) Shibata M, et al. (1996) Brain Res 734:86-90.

(2) Bredt DS, et al. (1991) Nature 351 :714-718.

(3) Kuppusamy P, et al. (1995) J Cereb Blood Flow Metab 15:899-903.

131

脳循環代謝第 12巻第2号

100 D-aspartateの海馬 nitrite動態に対する影響について

後藤淳,演田潤ー 1),福内靖男 1),荒木信夫 2),

太田晃一 3),柴田護汽佐々木貴浩 1)

国立埼玉病院神経内科、慶応義塾大学神経内科 1)、埼玉医大神経内科勾

水戸赤十字病院神経内科 3)、大阪大学機能解剖 4)

〔要約〕 薬理学的用量の D-aspartate局所投与により、海馬 nitriteレベルは有意に低下する。

D-aspartateは、海馬において basalレベルの NO産生を抑制している可能性が示唆された。

{目的】 L-体の興奮性アミノ酸の生理学的、病態生理学的意義については従来より多くの

検討がある。近年、 Schellらのラット脳内に比較的多量に存在する D-aspartateおよび、

D-aspartate oxidaseの存在に関する研究などから、 D-体アミノ酸の生物学的意義についても

注目が集まっている。 Invivo microdialysisを用いたラット線条体における検討では、 D-

aspartate負荷により、細胞外でドーパミン、セロトニン濃度の上昇とその代謝産物である、

DOPAC、HVA、5HIAA濃度の減少が明らかにされている(荒木ら,1998)。この変化は、負

荷した D-aspartateにより用量依存性の傾向を示しており、 D-aspartateを介した何らかの機

序の存在が示唆された。今回は、 L-体の興奮性アミノ酸が、重要な役割を示す海馬に注目

し、 D-aspartateのNO産生系への影響を明らかにする目的で、ラット海馬への D嚇 partate

負荷時の海馬細胞外 nitriteレベルを検討した。

[方法】雄性 Sprague-Dawleyラット(n=5)を、 pentobarbital(40 mg!kg)で麻酔後、体温を 37.5

度に維持した。尾動脈と大腿動脈にカテーテルを挿入した。 Paxinosのアトラスに従って、

脳定位固定装置を用いて海馬に微小透析プローブを挿入し、脱気 Ringer'ssolutionで謹流し

in vivo microdialysisを施行した。濯流液は5分ごとに田収した。 Ringer'ssolutionによる 20

分の濯流後に、 1mM, 10 mMのD-aspartateをRinger'ssolutionで調製し、それぞれ 20分間

で濯流した。 NO代謝産物である nitriteは、 Griess法で測定した(Ohta et al.,1994, Shibata et

al., 1997)。

{結果】濯流液の nitrite濃度は、 1mM D-aspartate濯流時には、低下傾向を認めたものの、

有意な変化を認めなかった。 10mM D-aspartat巴濯流時には、投与開始から 10分後に前値よ

り・52.6+ 7.7 % (p < 0.001)、15分後に -64.3+ 12.7 % (p<O.OOl)、20分後に・71.8+ 7.4 %

(p<O.OOl)と、統計学的に有意な減少を認めた(図)。この減少は、濯流液を再び Ringer's

solutionに戻すことで抑制された。

-132

一般演題(口演)

Effects of D-aSpartate on nitrite production in the rat hippocampus

D-aspartate

I函 110mM (mean .:!:...SEM)

0.0

0.7

0.6

; 0.4

i E弓 0.3

αr 。

fraction 1 2 3 4 5 s F 8 9 10 11 12 13 14 15 16

。 10 20 30 40 50 60 70 (min)

[考察}薬理学的用量の D-aspartate局所投与により、海馬 nitriteレベルは有意な低下を示

した。 D-aspartateは、海馬において basalレベルの NO産生を抑制している可能性が示唆さ

れた。さらにこの抑制は、可逆的である可能性が示唆された。 Glutamate トランスポータ

ーは、ニューロンやグリアにおいて構造特異性が明らかでないことから、今回の D-aspartate

投与により、何らかの影響を受けた可能性も考えられた。 D剖 partateの作用機序について

は、トランスポーターの他に、海馬でのニューロン、グリアでのグルタミン酸代謝のコン

パートメントや Glutamate受容体などとの関連を含め、今後の詳細な検討を要すると考えら

れた。

[文献]

Schell MJ, Cooper OB, Snyder SH (1997) D-aspartate localizations imply neuronal and endocrine

roles. Proc Natl Acad Sci USA 94:2013-2018.

荒木信夫ら (1998)D-aspartateの線条体モノアミン動態に対する影響。脳循環代謝

Ohta K et al (1994) A novel in vivo system for consecutive measurement of brain nitric oxide

production combined with th巴microdialysistechniqu巴. Neurosci Lett 176:165-168.

Shibata M et al (1996) Brain nitrite production during global ischemia and reperfusion: an in vivo

microdialysis study. Brain Research 734:86-90.

Paxinos G and Watson C. (1986) The Rat Brain in Stereotaxic Coordinates, Raven Press, N巴W

York.

-133

脳循環代謝第 12巻第2号

101 Cyclo・oxygenase・2選択的阻害薬NS-3981こよるマウス槙塞

[要約]

容積縮小、機能回復促進作用、およびiNOSknockoutの効果

一定量的神経学的機能評価法とその問題点ー

永山正雄*,**,丹羽潔¥合合,永山富子*,**, MaryE.Ross**,

Costantino ladecola脅〈篠原幸人*

(東海大学神経内科*、ミネソタ大学神経内科合*)

【目的】我々は、マウス中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを用いて局所脳虚血後における

inducible nitric oxide synthase (iNOS)とCOX-2(inducible form cyclo-oxygenase)の

遅発性発現、 iNOSknockout (ー/ー)miceおよび虚血後期における比較的選択的なiNOS抑

制薬による梗塞容積縮小・機能回復促進作用など、を明らかにした(1,2,3,4)。一方iNOS

由来の陥により賦活されたCOX-2を介する遅発性神経障害の可能性が近情旨摘されている。

本研究の目的は、選択的COX-2抑制薬NS-398およびiNOS-/-miceを用いて、虚血後の

遅発性神経障害病態におけるiNOS,COX-2の役割を定量的に、すなわち形態的、機能的、

および遺伝子的に明らかにすることである。

【方法]Halothane麻酔下にwild-type{C57BL/6 (n=14), 129SVeV (n=11)} miceお

よびiNOS-/-mice (n=21)に直違法により永久MCAOモデルを作製し、 24時間ごとに経

時的1こposturalreflex testによる神経機能評価を行った(5).NS-398(20 mg/kg,

b.i.d., i.p.)は陀AOの6時間後から投与、 7・NI(nNOS抑制薬, 50 mg/kg, i.p.)はMCAOの

5分後に1回のみ投与、を行った.96時間後にsacrificeし、 thionin染色およびimage

analyzerを用いて梗塞容積を定量した.脳血流量のモニターにはlaser-Doppler

flowmetry、脳虚血病巣におけるCOX-2mRNAの経時的、定量的評価にはRT-PCR法を用

いた.

【結果】 Wild-typemiceでは、 NS-398投与は梗塞容積を推計学的に有意に縮小し

(C57BL/6: -38%, 129SVeV: -22%)、かつ遅発性に神経学的機能回復を促進した

(p<0.05). iNOS -/-miceでは、 NS-398によるこれらの効果は認めなかった(p>0.05)

が、 7・NI投与は有意な梗塞容積の縮小・遅発性の神経学的機能回復促進をもたらした

(-20%, p<0.05). NS-398は動脈圧、脳血流量、脳血管の∞2反応性に何ら影響を及ぼ

さなかった。

134ー

一般演題(口演)

【考察】 NS-398によるCOX-2の選択的抑制は虚血脳損傷を軽減する。しかしiNOS-/ー

miceにおいて、 7・NIがさらに梗塞容積を縮小するにも拘わらず、 NS・398による上乗せ効

果は認められなかった.以上よりCOX-2による虚血後の遅発性神経障害作用が発揮される

ためには、 iNOSに由来する悶が必要と考えられる。すなわちiNOS由来の聞による虚血脳

損傷のメカニズムのーっとして、 COX-2の役割は重要である(6)。また本研究にて有用性

が示された定量的かつ経時的な神経学的機能評価法の実際、その実験的脳虚血領域における

有用性、問題点について言及した。

【文献】

(1) ladecola C, et al. (1995) J Cereb Blood Flow Metab 15: 378-384.

(2) ladecola C, et al. (1996) Stroke 27: 1373-1380.

(3) ladecola C, et al. (1995) J Neurosci 17: 9157-9164.

(4) Nagayama M, et al. (1998) J Cereb Blood Flow Metab 18: 1107-1113.

(5) Nagayama M, et al. (1999) J Cereb Blood Flow Metab 19: 661-666.

(6) Nagayama M, et al. (1999) J Cereb Blood Flow Metab 18: (in press).

135

脳循環代謝第 12巻第2号

102 脳血管における calbindin-D28k陽性神経線維の分布について

〔要約〕

鈴木則宏来、清水利彦、森田陽子、後藤淳、高尾昌樹、大友哲、厚東篤生、福内靖男

(来北里大学内科、慶臆義塾大学神経内科)

Calcium結合蛋白の一つである calbindin-D28kの脳血管および脳血管支配神経系での分布につい

て免疫組織化学により検討した_calbindin-D28kは脳血管およびその支配神経系に存在し、脳血管で

はその外膜に神経線維と一致して観察された。また、支配神経節においては、感覚系神経節において

calbindin -D28k陽性神経細胞の分布が密である一方、陽性神絶穣維は交感神経系神経節および面IJ交感

神経系神経節において分布が著明に認められた.以上より、 calbindin-D28kは頭蓋内の侵害受容およ

びその伝達に関与している可能性が示唆された.

[目的】 Calciumは神経細胞膜をとりまくその内外のシグナノレ伝達、また細胞内のシグ、ナル伝達に重

要な役割を果たしていることはいうまでもない。しかし、カルシウムがその機能を発現するには、カ

ルシウム単独では困難であり、 calcium結合蛋白 (calciumbinding protein) との結合が必要とされ

ている。 Calbindin-D28kはカルシワム結合蛋自の一つで、 palvalbumin,calretininなどとともに EF

hand familyに属し、神経系に特異的であり、かっ極めて豊富に分布していることが知られている。

その役割として細胞内カルシワムの buffer作用などが知られているが,詳細な機能については未だ明

らかにされていない.近年、 calbindin-D28kは神経細胞内に存在することが明らかにされており,中

枢神経の他に三叉神経節,後根神経節など末梢神経系にも存在することが報告されている.今回我々

は, 脳血管支配神経における calbindin-D28kの局在について免疫組織化学法を用いて検討した.

[方法】体重 250・350gの雄性Sprague-Dawley種ラット 8匹を 4%paraformaldehydeにて濯流固定

し,ウィリス動脈輸を含む脳主幹動脈,三叉神経節,後根神経節,頚静脈神経節,翼口蓋神経節,耳

神経節,内頚神経節,上頚神経節を摘出し標本を作成した.これらに抗calbindin-D28k抗体(SWant

Swiss Antibodies)を反応させ, calbindin-D28kの分布を abitin-biotinatedperoxidase complex 法で

検討した.さらに、脳血管外膜の calbindin-D28k陽性線維について、単位面積あたりの線維の密度

を各脳主幹動脈で算出、神経節においては単位面積あたりの calbindin-D28k陽性神経細胞数、およ

び神経線維の分布に指標としてcalbindin-D28k陽性線維に取り巻かれている神経細胞数を算出した。

[結果】 varicosityを有する多数の calbindin-D28k陽性神経線維がワィリス動脈輪を構成する脳血

管とその分枝に観察された_Calbindin-D28k陽性神経線維の分布は,ワィリス動脈輪前半部で間後

半部および椎骨脳底動脈に比し多く認められた(図)-三叉神経節,後根神経節,頚静脈神経節に多く

の calbindin-D28k陽性神経細胞が認められた.耳神経節および上頚神経節には少数の陽性細胞が観

察された.また翼口蓋神経節,耳神経節,内頚神経節および上頚神経節に calbindin-D28k陽性の神

経線維が神経細胞を取り囲んでいる像が観察された.これらの神経細胞および神品線維の分布を表に

示す.

136

一般演題(口演)

(number刷 m2)

500

400

唱a ーω同300

200

z 100

。ACA IEA MCA ICA Pcom PCA BA VA

図 各脳主幹動脈におけるCalbindin-D28k陽性神経線維の分布密度

表神経節肉のCalbindin-D28陽性神経細胞および神経線維の分布

Proportion of Proportion of

neuronsw油 CB-IR nerve fibers with CB-IR

Sensory g岨 glia

Trigemina1 gang1ion 25% (1322/5352)事 0% (0/5352)

Dorsa1 r,∞,t ganglion 24% (35111443) 0% (0/1443)

Jugu1ar gang1ion 30% (48811619) 0% (011619)

Parasympathetic ganglia

Sphenopa1atine gang1ion 0% (0/725) 46% (330刀25)

Otic gang1ion 1% (1511088) 14% (15111088)

Sympathetic ganglion

Superior cervical gang1ion 8% (14711930) 80%(1537/1930)

(Number of neurons with CB-IRI Number of all examined neurons)'

【考察】脳血管外膜神経線維と脳血管を支配する神経節における calbindin-D28kの存在は、脳血管

の神経性調節における神経伝達物質の作用機序に細胞内カルシワムが動的に関与していることを示唆

する.さらに、 calbindin-D28k陽性神経細胞の分布が三叉神経節、脊髄後根神経、頚静脈神経節に著

明であり、陽性神経線維が交感および副交感神経節において多く認められたことから、

calbindin -D28kは頭蓋内侵害受容およびその伝達に関与している可能性があると考えられた.

[文献】 (1)Baimbridge KG, et al. (1992) Trends Neurosci 15:303・308.

137-

脳循環代謝第 12巻第2号

103 ~輩EえZ 二た眉商工支霊童宇宙璽fJ・ I血訪花王量カつf リンクf

を勇三玉見ーする中本区'性本申楽呈来充壬テ

中 井正継,前田正信

(国循センター研究所,産業医大研究所応用生理学)

〔要約〕

大脳皮質に広範に発生する「皮質活動一血流量カプリング」を実現する機序を調べるため,

麻酔下ラットの中心灰白質を神経化学的に刺激しカプリングを発生させた.このカプリングは

マイネルト核を起始とするコリン作動性皮質投射と皮質の興奮性アミノ酸作動性機構,および

皮質のムスカリン受容体とNMDA受容体の働きによって皮質の活動が広範に促進することに

基づいている.このとき皮質においてエネルギ一代謝が盛んとなるので血管作動性代謝産物の

産生も促進し,また神経やアストロサイトの活性化に基づいたNO産生も増加するので皮質血

管が拡張し,カプリングが実現していると考えることができる.

【目的】皮質の活性化に際して促進した皮質エネルギ一代謝機構に基質を補給するため皮質血

流量は増加する.この現象は「皮質活動一血流量カプリング」として知られているが.従来は

皮質が感覚を受容した場合のように限られた皮質領域で発生するカプリング現象に着目して調

べられていることが多い.一方,皮質の活性化といっても賦活のように皮質に広範に発生し部

位および機能について非特殊なものもあり,これは皮質の特殊機能(各種の知覚機能や高次脳

機能)の鋭敏な発揮を可能にする(反応性を促進する)基盤機能である.この類の皮質の活性

化にはマイネルト核を起始とするコリン作動性皮質投射とグルタミン酸作動性である皮質神経

機構が携わっていることも良く知られている.今回の研究では,このときも「皮質活動一血流

量カプリング」現象が発生しており,この皮質血流量増加の実現にはこれら 2種の中枢性神経

系が担っていることを明らかにする.

なお,このような研究目的では適切な受容体遮断剤の使用が不可欠である.筆者らは以前

の実験においてムスカリン受容体遮断剤として atropineを.NMDA受容体遮断剤として

MK-801を採用した(平成10年度脳循環代謝学会発表) .しかし atropineはNMDA受容体

に.MK-801はムスカリン受容体に親和性があることが明かとなったので,今回の研究では各々

scopo1amineおよびかAP5を使用し,再度検討をおこなった.

【方法】ラット 60匹をウレタン麻酔,人工呼吸,頚髄切断のもとに頭頂骨に骨窓を設けた.

露出した脳表を人工脳脊髄液で濯流し,それを介して薬剤を皮質表面に局所投与した.皮質血

流量はレーザードップラ一法に基づいて測定した.広範で非特殊的な皮質活動一血流量カプリ

ングを発生させるため,中脳中心灰白質 (PAG)尾側1/3外側部にNMDAを微量注入(1

mM. 100μ1: Refs. 1, 3) した.PAG刺激がカプリングを惹起することは,そのとき皮質血流

量は広範な皮質において増加し しかも同時に酸素代謝率も促進している (Refs. 1.3)ので明

かである.なお,頚髄切断のため. PAG刺激時でも動脈圧は変化しない.

-138

一般演題(口演)

【結果】アセチルコリン (ACh)およびNMDA皮質投与による皮質血流量増加が,それぞ

れ D-AP5および scopolamine皮質投与によって全く影響を受けないことから.Scopolamine

はNMDA受容体に対して D-AP5はムスカリン受容体に対して親和性が全くないことが明か

である (Ref.6) .

PAG刺激は皮質血流量を平均 202土20(SD)先に増加した.これは scopol-amine(最高

lmM)およびかAP5(最高 0.2mM)皮質局所投与によって用量依存性に抑制された (Ref.5. 6)

一方,それぞれ高濃度で投与したニコチン受容体遮断剤 mecamylamine(静脈投与)および

non-NMDA受容体遮断剤CNQX(皮質局所投与)の効果は殆ど検出できなかった

(Ref.6) .

闘値上用量のAc h (15μM) とNMDA(10μM) を同時投与して相互増強作用(同時投

与による血流量増加から個別投与による血流量増加の和を引いたもの)の有無も観察した.相

互増強作用は強力ではないが有意に存在し,同時投与による皮質血流量増加の 21先に達した.

【考察】 PAGの活動は伝達物質AChと興奮性アミノ酸を皮質に同時に放出させ,それぞれ

皮質のムスカリン受容体およびNMDA受容体を刺激する.関わるAChの起源はマイネルト

核を起始とするコリン作動性皮質投射である (Ref.4)が,興奮性アミノ酸の起源は視床皮質

投射および皮質皮質投射であろう.興奮性アミノ酸は皮質血管に直接作用せず. AChの増強

作用の支援を受け皮質細胞成分(ニューロンとグリア)の活動を増加するので.皮質のエネル

ギ一代謝が盛んとなり (Ref. 3)その代謝産物の産生が促進し,皮質NO産生も促進すること

を介して皮質血流量を増加する (Ref.2) . A C hが皮質血管内皮細胞に至り EDRF産生を

盛んにする機序も加わっているのかも知れない.他にKイオン放出促進や,アラキドン酸代謝

促進も血管運動機構として関与する可能性も考えておかなくてはならない.

【文献】

(1) Nakai M. Maeda M (1994) Neuroscience 58: 785-791.

(2) Nakai M. Maeda M (1996) Neuroreport 7: 2571-2574.

(3) Nakai M. Maeda M (1996) Neuroscience 72: 1133-1140.

(4) Nakai M. et al. (1997) Neuroscience 79: 571-579.

(5) Nakai M. Maeda M (1999) Neurosci Lett 270: 173-176.

(6) Nakai M. Maeda M (1999) Neuroscience submitted.

139

脳循環代謝第 12巻第2号

104 IMPを用いた非侵襲的マイクロス7:r.7法と Patlak法による

〔要約〕

脳血流定量化の比較

武笠晃丈、永田和哉、河本俊介、指田 純、古屋一、谷岡大輔、田中幸太郎

(公立昭和病院脳神経外科)

脳血流 SPECTの非侵襲的定量化法のうち、 IMP非侵襲的陥位悌phere法制IMS法)の信頼性を

蜘"Tc・ECDを用いた Patlak法による脳血流測定法との比較に基づき検討した。くも膜下出血・脳出

血慢性期の息者8名(平均 58歳)それぞれに、 ECDPatlak法と NIMS法による脳血流定量測定を順

次施行。各々のデータにつき 13カ所の関心領域を設定し局所脳血流量を求め、両方法での測定値の

相聞を調べた。その結果は、病変部の描出は両法とも良好であったが、 NIMS法で測定した 2例に

脳血流定量値が異常高値を示すものがあった。また、脳血流の平均値は NIMS法の方が高めにでる

傾向があったが、NIMS法で異常高値を示した2例を除くとr=O.697(p<O.∞1)とある程度有意な正

の相関が得られた。 NIMS法は、有用で簡便な脳血流定量法であるが、Bol田性や肺の洗い出しが

悪い場合や、 cardiacoutput等より入力関数を推定するに当たり一部誤差の生じる症例も存在する。

測定技術の習熟も含めた今後の経験の蓄積が必要と思われた。

【目的】抽吋c・ECDを用いた Patlak法に基づく非侵襲的脳血流測定法は簡便で日常的にも汎用しう

るが、大脳の前面のみから解析データを得ているために誤差を生じる恐れがあるなどの欠点を有す

る。近年、他のトトトと比較し優れた脳血流直線性を有する 1おI-IMPを用い、入力関数を採血なし

に推定する方法を取り入れた IMP非侵襲的Microsphere法φ証MS法)が開発され、当院にでも使

用を開始した。 NIMS法は IMP持続動脈採血随位制p恥m 法や PETと良好な相闘を有すると

言われているが、我々がこれまでに使用してきた ECDPatlak法との比較はまだない。そこで今回、

その信頼性を ECDPatlak法との比較を用いて検討した。

【方法】対象は、 '98.10月"'-"99.2月に当院にて入院治療を行った、くも膜下出血・脳出血慢性期の

患者8例(男性4例・女性4例)(SAH6例・ ICH2例)。年齢は 49"'-'73歳(平均 58歳)。状態の安定

した時期を選び、蜘'Tc-ECDSPECT Patlak法を施行、その2日後に NIMS法により脳血流定量測

定を行った。各々のデータにつき 13カ所の関心領域(脳幹・左右小脳半球・左右基底核・左右視床・

左右後頭葉・左右大脳半球上部・左右大脳半球下部)を設定し局所脳血流量を求め、両方法での測定

値の相関を検討した。

【結果】梗塞巣など病変部の描出は両法とも良好であった。 NIMS法で測定した 2例に脳血流定量

値が異常高値を示すものがあった。脳血流量の平均値は、Patlak法 33.8、NIMS法46.6ml11似)g/min。

異常高値を示した2例を除いても Patlak法 31.9、NIMS法 38.1 mlI1 OOg/minと後者の方が高めに

-140

一般演題(口演)

でる傾向があった。同一患者で測定した両方法での局所脳血流量の相関はr=:0.597であったが、

NIMS法で異常高値を示した2例を除くとr=:O.697(p<0.∞1)とある程度有意な正の相闘が得られ

た。(図 1)

【考察)NIMS法は、有用で簡便な脳血流定量法であるが、Bol瑚性や肺の洗い出しが悪い場合は

中心循環系から送り出された IMPの総量が正しく求められず、また cardiacoutputの推定値が正

しくない場合なども、入力関数を推定するに当たり一部誤差の生じる可能性があると考えられる。

また、原因が不明の血流異常高値を示す例があることも知られている。今回は、 IMP持続動脈採血

Micl'08pere法と良好な相闘を有すると言われている ECDPatlak法との比較を試みたが、原因不明

の脳血流異常を示す症例もあり十分な相関は得られなかった。両測定法ともにいくつかの測定誤差

を生む問題点があり、そのいずれもが少しづっ誤差に寄与しているものと思われた。これら問題点

に対しては、種々の補正法も試みられているが未だ決定的なものはない。臨床データを解釈する際は、

このような点に留意し、総合的に判断する必要があると思われる。

【結論)NIMS法は ECDPatlak法の欠点を補い、動脈採血を要さない簡便で有用な脳血流定量

法であるが、原因不明の脳血流異常を示す症例もあり、完全に満足のいく結果とは言い得なかったo

測定技術の習熟も含めた今後の経験の蓄積が必要と思われた。

この研究に協力して下さった公立昭和病院放射線科、大場 洋先生・小林影記技師・高品龍次技師に

深謝いたします。

{文献I( 1 )米倉義晴,他 (199η 核医学 34:901-ω8

(2)中野正剛,松田博史,他 (1998)核 医 学 部:203・218

70

き通宮 田咽園

vl

~ 却z

10

。。 10 却 却 40 関 回

ECD刷/1∞g/min)

図 1 NIMS法異常高値を除いた両測定法の局所脳血流量の相関

141

脳循環代謝第12巻第2号

105 99mTc-ECD /Patlak Plot法と stableXe-CT脳血流測定の比較

〔要約〕

出口 潤,林万寿夫*,長津史朗,楢林勇*,太田富雄

(大阪医科大学脳神経外科3 放射線科*)

99r可 c-ECD/PatlakPlot法の正当性を検証するために,慢性期脳血管障害患者 62

例において同時期に ECD/Patlak Plot法と stableXe-CTによる脳血流測定を行い

両者を比較した. ECD-BPIとXe-CTmean CBFの回帰式は mCBF=3.15* BPI十7.

96であり 123I-IMP持続動脈採血法との比較から得られた回帰式とほぼ一致した.従

って BPIから mCBFを算出することおよび換算式は妥当であると思われる.最適な

Lassen補正係数を算出すると α=2.23となったが,この補正係数を用いても高血流

領域の過少評価,低血流領域の過大評価は改善しなかった.したがって ECD-SPECTにLassen補正を行うことには限界がある.

【目的】 近年脳血流 SPECTにおいて簡便に定量評価のできる ECD/Patlak Plot 法が普及している. Patlak Plot法ではまづ RIAngiographyから brainperfusion

index (BpI)を測定し,既知の回帰式から meanCBFを算出する.更に局所の RIcount比にLassen補正を行って局所 CBFを算出する方法である(松田ら)• .問題点

として,一般に用いられている回帰式は 133Xeや 123トIMPSPECT定量法との相関

より算出されたものであり,他の modalityと比較しでも BPIから mCBFを換算す

ることが正しいか.また ECDcount比がLassen補正で充分補正されているかが問

題であると考える.我々は全く異なる脳血流測定法である stableXe-CTとの比較を

行い, ECD /Patlak Plot法の正当性を検証した.

【対象・方法] 1996年1月から1999年8月までに1週間以内の間隔で ECD/PatlakPlot法と stableXe-CTを測定し得た慢性期脳血管障害例 62例を対象とした

ECD/ Patlak Plot法は松田らの方法に従い,右肘静脈から 99mTc-ECD600MBqを

急速注入し RIAngiographyを施行3 静注後30分から SPECTを行った. stable Xe-

CTは 30%coldXeを4min inhalation/4 min wash-outで施行した.計測スライ

スは松果体レベルと側脳室体部レベルで各々 7scanを行っている.得られた SPECTデータには散乱線補正 (TEW法),減弱補正 (Chang法)を行った.まず片側病変では

健側,両側病変では RIcountの多い半球を選び BPIを測定. stable Xe-CTより得

られた松果体レベル大脳半球 mCBFと比較した.次いで BPIのばらつきの影響を除

外するために回帰直線に近い 40例を抽出し,松果体レベル,側脳室体部レベルで左

右皮質領域と穿通枝領域の計6箇所の regionalcount/mean count比, regional CBF/mean CBF比を測定した.

-142

一般演題(口演)

【結果】 1) ECD-BPIとXe-CTmean CBFはr2=0.603と比較的良い相関を示し,

その回帰式は mCBF=3.15* BPI +7.96 (S.D. ;傾き土0.33,切片::!:::2.89: p<O.Ol) であった. 2) rCOUNT/mCOUNTとrCBF/mCBFよりLassen補正係数を算出する

とα=2.23::!:::0.49となった.この係数を用いて stableXe-CTとECD/Patlak Plot法

で算出した rCBFを1次回帰で比較すると rCBFEcD=0.691* rCBFxe + 10.64であっ

た.一般に用いられている α=2.59で比較しでも rCBFEcD=0.683* rCBFxe + 10.92と

ほとんど変わらない.

【考察】 1)一般に用いられている ECD-BPIから mCBFを算出する回帰式には,

123I-IMP持続動脈採血法との比較から得られた mCBF=3.61* BPI +4.69 (本田ら)

があるが,我々の stableXe-CTとの比較から得られた回帰式と極めて近似する.異

なる対象および、modalityでの回帰式がほぼ一致することから, BPIから mCBFを算

出することおよび換算式は妥当であると思われる. 2)しかし ECD/Patlak Plot法で

測定した rCBFは stableXe-CTで測定した結果より高血流領域の過少評価,低血流

領域の過大評価がみられ我々のデータに最適なLassen補正係数を用いても改善しな

かった.したがって ECD-SPECTにLassen補正を行うことには限界があり, PS modelなどの他の補正方法を考える必要があると思われる.

143

脳循環代謝第 12巻第2号

106 ECD CBF SPECTの非線形較差分析法による脳血流定量法

〔要約〕

吉津卓,伊藤建次郎,*鯨岡祐司,*佐藤元始,*武田徹,*松村明,

*板井悠二,*能勢忠男

(横浜新都市脳神経外科病院,*筑波大学)

機種に違いがあっても複数回の血流画像間の相関は線形にならず、また、ことにキ

ャリプレーションを試みるに足るデータが内在する。但し、機種の相違により精度な

ど、に違いがあり、高分解能機種になると位置変動補正は必須となった。より正確な情

報が得られれば採血や動態測定のいらない定量法になる可能性がある。

[背景]脳血流量の定量測定が可能となって半世紀余、この聞にどれほどの血と汗と

が必要であったか。脳血流量の測定は定量データにあるべきところ、画像採取のみは

容易な時代となった。この非侵襲性と簡便性の下に定量作業も可能となるべきである。

すなわち標識物質の投与と頭部の画像データの採取のみで定量結果が得られる、とい

うのが近い将来の姿であろう。資源の面でも人的時間的な側面からもこれが期待され

る。すなわち、無採血、一回標識静注、単一汎用機種によるデータ採取が理想の方法

の一歩前である。一方、臨床という立場にあると、多くは複雑で多様な現象のみから

入力系と内部の状況を推測することが一般的であるため、Fickの原理による入力系の

測定から始める単純な実験的モデル解析こそが不似合いである、という現実にも関わ

らず、シンプルな理論をもとにした科学的計測という評価をまえにしたとき、他のア

ブローチは提唱されにくかった、と考える。本研究は、一般的な計測におけるダイナ

ミックレンジの存在、すなわち、現象の計測と認識という立場から、計測結果のみで

その定性的データのキャリプレーションを試みるものである。脳循環の測定では、あ

るレベルから結果の上昇が血流量に正比例しなくなるという現象が存在する(図 1)。

二回の測定を行い、その各々の血流量が異なるとき、例えば二回目の血流量が増加し

たとき、二回の測定結果の相関は直線的ではなく、ダイナミック・レンジの限界にお

いて変形することになる(図 2)。このレベルと形状から、ここで見られた現象、す

なわち計測結果:画像のみのキャリプレーションを試みるものである。

[目的]本手法を提唱したときの機種(SimazuSET050 : 6金c64matrix )とは違

う機種のデータを用いても同様の現象が認められ、かつ、ここにキャリプレーション

を試みるに足るデータが存在するかを明かにする。

-144一

一般演題(口演)

[方法]対象は 1999年 4月から 9月までに閉塞性脳血管障害例でAcetazolamide

負荷を行った 99mTc ECD SPECTデータのうち bianrydataが得られた8例である。

使用装置はSIEMENSMulti Spect 3で、Butterworthfilterを用いて再構成した 128

x 128 matrixの画像の binary dataを用いた。 UNIX上に移して上記の解析を行い、

RVR法のよる Patlakplot解析の定量結果と最高値、全脳平均とを採って比較した。

この画像データから一回目スキャンを横軸に、二回目スキャンを縦軸にプロット(図

3、図4)した。

[結果]負荷の有無によりプロットの形状(図 3、図 4)は異なる。横軸に Patlakplot

による定量値を縦軸にこの方法による定量値をフロット(図 5) した。この取り方で

は相関を認めたが、誤差を標準偏差から見ると、約 20%程度の違いを認めた。その誤

差に大きく寄与した原因として二回のデータの聞の mis-registration、すなわち位

置の相違をみた。

[考察]結果の定量値の信頼性は必ずしも十分大とは言えないが、ある程度妥当な結

果が得られることを認めた。体動による位置のずれが今回の検討では大問題であった

が、Patlakplot解析の定量結果との比較で必ずしも大きな差異のない値を得たことは

この手法に可能性のあることが示唆されたと考えられる。したがって、高分解能にな

ることによってより大きな問題となった位置の問題や散乱線や吸収によるアーチフ

ァクトの問題とノイズレベルの設定の手法の問題が解決されると、この方法は更に実

用性を帯びるものと考える。非侵襲性、簡便化定量という主旨のもと、 ECDSPECT

による脳血流量画像の定量化は複数の画像のみを処理することによって、入力関数を

得るための採血等をせずとも可能になると考える。

図 1:横軸血流量と 図 2:横軸初回ピク

縦軸ピクセル値 セル値と縦軸二

の関係 回目ピクセル値

の関係:

30%増加、 10%増加、

[文献]

(1) 吉津卓,他 (1999) 脳循環代謝 10:316-317.

(2) 吉津卓 (1999) 特許公報 2939442.

145

の図 5:Patlakと

この方法の比較

R 2~0.93 ・

SD ~ 13

脳循環代謝第 12巻第2号

107 DSA画像処理による脳濯流解析の理論と留意点

大阪大学脳神経外科、放射線科

加藤天美、平田雅之、渡部貴士、藤中俊之、甲村英二、平吹度夫、吉峰俊樹

目的

DSAは形態的には精密な情報が得られるが、脳濯流などの動的解析への応用は少な

い。我々が開発した脳濯流画像化法は肉眼では弁別困難な濯流の変化をも迅速に捉え

られ、実用的有用性が高い。反面、理論的限界もあり留意点も多い。今回その理論と

実用上の留意点について検討した。

方法

脳血管撮影のDSA画像をコンヒ。ユータに取り込み、一定の大きさの関心領域をDSA

画像上の主要血管上に設定し、造影剤の時間濃度曲線から見かけの平均通過時間を

area over height法により算出して、その値に応じて血管をカラー表示した。これを

perfusion index(PI)と呼んだ。 PIの測定に影響を与える因子として、造影剤濃度ー画

像輝度の直線性や像の歪みなどの機械的因子、造影剤投与のbolus性や脈波などの生理

学的因子が考えられるが、今回、理論的問題のうち1)血流方向やX線投影方向の影響、

2)動脈より組織内細血管に移行した造影剤によるfoggingeffect-.. 3)動脈癌などに

よるpoolingeffectを検討した。

結果

1)血流方向やX線投影方向の影響

PI算出におけるX線投影方向の影響をシミュレーションしたところ、これらはPI値

に影響を受えないことが理論的に証明された。粗大血管病変を有さない患者において

PIは頚部内頚動脈1.82士0.27、同海綿静脈洞部2.29土0.30、中大脳動脈起始部2.55士

0.33と比較的ぱらつきの少ない結果が得られた。頚部内頚動脈、錐体部、海綿静脈洞

部、内頚動脈終末部、中大脳動脈起始部、前大脳動脈起始部では造影剤の時間濃度曲

線は基本的には相似であり、造影剤注入部で、のbolusinjectionを入力関数とする単一

の入力ー応答系を仮定してよいものと考えられた。

2)動脈より組織内細血管に移行した造影剤による fogg in g effect

動脈相後期には組織内細血管ヘ造影剤が移行し、対象血管のまわりにあたかも霧の

ように発生、分布する。これらは、 DSAで重なりあって投影されるため、時間濃度曲

146

一般演題(口演)

線に動脈とは別のコンパートメントとして重畳される。頭蓋内近位側の動脈では動脈

内の造影剤のピーク濃度が高いことと、 2つのコンパートメントが時間的に分離される

ため影響が少ないが、遠位側の動脈では時間的にも濃度的にも重なりが大きく、見か

けのPIが延長する原因と考えられた。

3)動脈癌などによる poolingeffect

巨大内頚動脈動脈癌の末梢側では時間濃度曲線は急激になだらかとなり、 PIは大き

く延長した。これは動脈癌内部の造影剤の停滞により、その前後で入力関数が大きく

変化するためであり、動脈癌末梢側のPI延長は血流の遅延を必ずしも意味しないと考

えられた。これをdeconvolution法で補正したところ動脈癌遠位側でも正常値と同様

のPI値が得られ、この考えを裏付けた。本法による脳濯流の正しい評価のためにはま

ず入力関数のチェックが必要があると考えられた。

結論

本法は、 DSAを用いて血管の走行やX線投影方向に影響されず脳濯流指標を簡便か

っ迅速に算出できることから、血管内治療をはじめとする各種治療の効果判定に有用

なモニターとなると考える。この際いくつかの理論的問題があり、遠位側動脈のPI値

評価や入力関数の変化はそのうちの重要なものと考えられた。

文献

Hirata M, Yoshimine T, Kato A, 110 M, Hirabuki N, Taniguchi M, Nakamura H, Hayakawa T:

Computational imaging of cerebral perfusion by real time processing of DSA images: clinical

applications. Neurol Res 20:327-332,1998

147

脳循環代謝第 12巻第2号

110 Rasmuss en ench alitisの画像的検討

西田浩

県立岐阜摘院神経内科

【要約] 薬剤抵抗性の難治性けいれんを認め,画最上進行性に脳萎縮を来した少年

例を経験した.病巣はMRIでは, T2強調慢で高信号を示し,時間的空間的に多巣性で

あった.進行期ではdiffusion慢が病巣診断に有用であった. 99mTc-ECD SP ECTでは,

発作時にはMRI異常より広範囲に高集積を認めたが,間欠期には逆に低集穫を示した.

診断上Rasmussenencha1itisを疑ったが,本疾患の経時的検討は少なく貴重な症例と

考え報告した.

【目的】 Rasmussen encha1itisはまれな疾患で経時的に画橡所見検討した報告は少

ない.今回我々は,けいれんおよび脳卒中発作を操り返し,進行性の脳萎縮をきたし

た少年聞を経験したので報告する.

【症側】 症例は 16歳の男性(発症時 13歳) .平成6年9月10日けいれん発作のため近

医を受診.頭部CTにて脳腫蕩を疑われ小児科へ紹介.家族歴・既往歴なし.初回入院

時神経学的に特記すべき所見はなし.初回入院時検査では,自己免疫検査,脂肪酸分

析,アミノ酸分析,ライソゾーム酵素活性等異常なし.髄液検査では乳酸高値以外異

常なし.mt遺伝子解析ではミトコンドリア脳筋症関連の遺伝子変異は認めず.筋生検

ではraggedred fiber認めず.初回入院時MRIT2強調慢では,左基底核,左敢糠冠,左

前頭葉に高信号域を認めたが,阿部位の造影効果はなかった。脳血管撮影検査では

AVM等の血管奇形はなかった.

経過: (第2回入院)症状改善 L後遺症症状なく一時退院したが,約3カ月後の 12月

13日右手のしびれが出現, 15日右顔面けいれんが出現し再入院. MRIT2強調慢,左前

頭・頭頂葉皮質・皮質下,右前頭葉に高信号域があり,脳表に軽度造影効果を認めた.

99血 Tc-ECDSP ECTでは, MRI異常より広範囲に左前頭頭頂葉及び右前頭葉にに高集

積を認めた.その後症状は改善し,平成7年1月17日退院.

(第5回入院)その後もたびたび脳卒中捧発作,けいれん発作が発症し知能低下,四

肢の筋力低下,歩行障害が進行した.平成9年11月27日右欄共同偏視,左片麻痩が出

現し入院. MRIでは,病変は皮質・皮質下,基底核,小脳に認め,脳萎縮が顕著であ

るため, T2強調像, FLAIR像では責任病巣の判別は困難であったが, difusion偉にて

右前頭葉病変が明瞭に描出され責任病巣と診断できた. 99mTc_ECD SPECTでは発作

時には右前頭葉を中心に高集積を認めたが 2発作間欠期には,同部位は逆に低集積を示

した.

-148-

一般演題(口演)

[考察] 本例は,鑑別上脳血管障害,腫壕性病変, MELAS等否定されたため,

Rasmussen脳炎類似開と考えた. R asm us s en脳炎は通常小児期に発症し,薬剤抵抗性

の部分運動発作を特徴とする進行性に脳萎縮をきたす神経疾患であり, MRIでは発作

時に MRIT2強調慢で高官号を示し,進行性に脳萎縮を示すが, SPECTの報告は少なく,

病変部は低集積を示した報告されている.本例では発作時高集積を示し、既報告とは

異なった.この理由として本例ではけいれん発作時に SPECTを撮影しているためと考

えられ,発作間欠期には逆に低集積を示すことより,てんかん報告例と同様一過性に

脳の局所血流増加したためと推測した.

-149一

111

脳循環代謝第 12巻第2号

虚血性脳血管障害患者における NADPHoxidase p22 phox 遺伝子多型の解析

伊東大介1)棚橋紀夫1)福内靖男1) 吉田正2) 斉藤郁夫2)竹下栄子3)

村田満3) 渡辺清明3)

慶磨、義塾大学神経内科1)、同保健管理センター 2)、問中央臨床検査部 3)

〔要約〕 活性酸素生成酵素である NADPHoxidase p22 phoxのC242T遺伝子多型を虚血性

脳血管障害患者において解析した.患者群において CT+TT型の genotypeを有する頻度が

有意に高値であった.病型別の検討では、アテローム硬化性脳梗塞において最も高い傾向

が認められた.したがって、 p22phoxのC242T遺伝子多型は、虚血性脳血管障害の新し

い riskfactorとなりうることが示唆された.

【目的]活性酸素は、動脈硬化や虚血性疾患の病態に関与していることが知られている.

特に、 NADPHOxidaseは、血管内皮細胞や血管平滑筋において活性酸素の生成に中心的

役割を担っていることが報告されている(1).近年、 NADPHOxidaseの構成分子である p22

phoxの C242T遺伝子多型が虚血性心疾患の発症に関連することが示唆されている(2).今

回、我々は虚血性脳血管障害において NADPHoxidase p22 phoxのC242T遺伝子多型との

関連を検討したので報告する.

【対象と方法】当院神経内科にて加療中の虚血性脳血管障害患者(アテローム硬化性脳梗

塞、ラクナ梗塞、一過性脳虚血発作)226例(年齢 58土8、mean士S.D.) と年齢、性別を一

致させた健常者 301例(年齢 59士4) より文書にて許可を得た上、末梢血採血を行った.

全血より PolymeraseChain Reaction (PCR)法により NADPHoxidase p22 phox遺伝子の

exon4を増幅し、制限酵素 Rsa1を用いて RestrictionFlagment Length Polymorphism (RFLP)

として C242T遺伝子多型を解析した.

[結果】 Table1に健常者と虚血性脳血管障害患者の種々の危険因子を示す.虚血性脳血

管障害患者において CC型、 CT型+TT型はそれぞれ 177名(78.3%)、46+3名(21.7%)であ

った.健常者においては CC型、 CT型+TT型はそれぞれ 261名(86.7%)、38+2名(13.3%)

であり、虚血性脳血管障害患者において CT+TT型を有する頻度が有意に高値で、あった

(odd ratio 1.81、95%CI 1.15-2.86、p=O.OII).病型別の検討では、アテローム硬化性脳梗塞、

ラクナ梗塞、一過性脳虚血発作においてそれぞれ oddratioは、 2.22(95% CI 1.11-2.78、

p=0.015)、1.71(95% CI 1.01-2.88、p=0.046)、1.37(95% CI 0.45-3.05、p=0.306)であり、

アテローム硬化性脳梗塞において最も高い傾向が認められた(Table2).また、他の危険因

子を含めたロジスティク回帰分析においても有意差を認め(p=0.02)、C242T遺伝子多型の

T alleleは、独立した危険因子であることが示唆された.

【考察】本研究は、虚血性脳血管障害と p22phoxの遺伝子多型の関連性を検討した最初

の報告である .p22 phox C242T遺伝子多型の Talleleは、虚血性脳血管障害の新しい risk

factorとなりうることが示唆された.

[文献】(1)Babior BM, NADPH oxidase: An Update. Blood 1999; 93: 1464・1476.

(2) Inoue N, Kawashima S, Kanazawa K, Yamada S, Akita H, Yokoyama M, Polymorphism ofthe

NADH/NADPH oxidase p22 phox gene in patients with coronary artery disease. Circulation 1998;

97: 135-137.

-150

一般演題(口演)

Table 1. Clinical Characteristics of Patients and Controls

Controls Cases p* (n=301) (n=226)

Numb巴rofmen,% 76.6 77.4 NS

Age, y, mean::!::S.D. 59::!::4 58::!:: 8 NS

Hypertension, % 25.5 56.1 く0.001

Hypercholesterolemia, % 32.6 39.4 0.11

Diabetes mellitus, % 6.6 24.4 く0.001

Smoker, % 38.2 53.2 0.001

*χ2 tests were used to compare the values for CVD patients and controls for all parameters except for age, which was compar巴dwith the use of t -test.

Table 2. Allele Frequencies and Odds Ratios for the

C242T Polymorphism in p22 PHOX

T allele frequ巴ncy CC,% TC+TT,% p*

Controls 0.07 261 (86.7) 38+2 (13.3)

(n=301)

All Patients 0.12 177 (78.3) 46+3 (21.7) 0.011

(n=226)

Ath巴rothrombotic 0.13 47 (74.6) 16+0 (25.3) 0.015

(n=63)

Lacunar 0.11 111 (79.3) 26+3 (20.7) 0.046

(n=140)

TIA 0.09 19 (82.6) 4+0 (17.4) 0.306

(n=23)

Odds Ratio (95% CI)

1.81 (1.15・2.86)

2.22 (1.11-2.78)

1.71 (1.01・2.88)

1.37 (0.45・3.05)

*χ2 tests were used to compare genotype企equenciesbetween controls and all patients, or b巴tweencontrols and each group of patients.

151

脳循環代謝第 12巻第2号

112 脳梗塞における白血球接着分子 LFA-l,Mac-lの経時的検討

〔要約〕

高演美里,野村恭一,富岳亮 高砂子由佳子,木津英樹,井口貴子,島津邦男

(埼玉医科大学神経内科)

脳梗塞における白血球(単球・リンパ球・頼粒球)の接着分子 LFA-l, Mac-lを超急性期ならびに

亜急性期において測定した.接着分子の測定は FACScanを用い,末梢静脈血の白血球接着分子

の高発現細胞群 brightと,陽性細胞群の peakchannelを測定した.

①単球は, LFA-lの brightは急性期に高値を示し, peakは急性期~亜急性期にかけ上昇した.

②リンパ球は, LFA-lのbright,Mac-lのpositiveおよび各々の peakは急性期~亜急性期にかけ

上昇した.③頼粒球は, LFA-lのpeakが急性期~亜急性期にかけ上昇した.脳梗塞の急性期に

おいて,単球が病態に関与していることが示唆された.

【目的]近年,虚血性脳血管障害の急性期において,白血球接着分子を含めた様々な因子が関

与し合い,脳の微少循環障害をきたすことが示唆されている.しかし,脳梗塞患者を対象とし白

血球接着分子を測定した報告は少なく, 単球,リンパ球,頼粒球の動きを同時に測定し,それ

ぞれの役割について検討した報告はない.今回,我々は脳梗塞の急性期から亜急性期にかけて白

血球接着分子 LFA-l,Mac-lを解析した.

[対象および方法]対象は,脳血栓 9例,それぞれ急性期(発症 2日以内),亜急性期(発症 3-----

5週)および健常者 8例である.白血球接着分子の測定は BECTONDICKINSON社製の FACScan

を用い,単染色法で解析した. LFA-lαは CDllaの抗体を, LFA-IlMac-1 sは CD18抗体を,

Mac-1αは CDl1bの抗体を用いた.検体はチトラート添加末梢血を用い,各抗体において 1X 104

個の細胞を単球,リンパ球,頼粒球分画にわけ測定した.各々の抗体に対して高発現分画 Cbright)

の発現率,および陽性細胞群の蛍光強度の peakchannel(以下 peak)を測定した.

健常者の各測定値を正常域とし,脳梗塞患者の急性期,亜急性期の値を比較検討した.推計学的

検討には pairedt-testを用いた.

【結果】①単球:LFA-lαおよび LFA-1/Mac-lsのbrightは,急性期に高値を示し亜急性期にか

けて低下した(各々,p=0.006,p=O.OOl). LFA-lαおよび LFA-lIMac-1sのpeakは,急性期から亜

急性期にかけて上昇した(各々,p=0.007,P二 0.002).一方Mac-1αは有意な変動を認めなかった(図)

②リンパ球:LFA-lα, LFA-IlMac-l sのbrightとMac-1αの Positiveならびに各々の peakは,

いずれも急性期から亜急性期にかけて上昇した(各々,bright: p=O.OO 1, p=O.OO 1, P二 0.003,各々 ,

peak : p=O.03, pニ0.006,p=0.002).③頼粒球:LFA-lα, LFA-1IMac-1 sのbrightは,経過中に

有意な変動を示さなかったが, peakは亜急性期にいず、れも上昇した(各々,p=0.034,0.017) .一

方, Mac-lαは有意な変動を認めなかった.

152

1200

000

ハUnU

AU1

Peak

嗣判

Positive

(3)

%

l∞ 200

100

一般演題(口演)

Peak (2)

%

30

20

10

120

40

P巴ak

Bright

%

30

20

(1)

10

ハーフトーン:健常者

図脳便塞における単球接着分子の経時的変化

(1) LFA-lαのbrightは,急性期に高値を示し亜急性期にかけて低下した.peakは,急性期から亜急性期に

かけて上昇した.(2) LFA-lIMac-l βのbrightは,急性期に高値を示し亜急性期にかけて低下した.

peakは,急性期から亜急性期にかけて上昇した.(3) Mac-lαは有意な変動を認めなかった

【考察]ラットを用いた脳虚血・再環流モデルにおいて,白血球が虚血病巣とその周囲に浸潤

する過程は,既に明らかにされている.これらの報告によると再環流後まず 6"-'12時間で頼粒

球が,その後 48時間から単球が,引き続いてリンパ球が浸潤し始める 1) 本研究では,脳梗塞

患者において単球は LFA-lのbrightが急性期に高値を示し, peakは急性期~亜急性期にかけ上

昇した.リンパ球は, LFA-lの bright,Mac-lのpositiveおよび各々の peakは急性期~亜急性期

にかけ上昇した.頼粒球は, LFA-lのpeakが急性期~亜急性期にかけ上昇した.

以上の成績より,急性期発症 2日以内においては,多くの LFA-l分子を有する一群の単球が上

昇し,これらの細胞群が何らかの病態に関与しているものと考えた.最近,抗接着分子と血栓溶

解剤との併用が,病巣の縮小に有効であったとの報告もあり 2¥ヒトの脳梗塞の急性期において

も白血球接着分子に対する治療への進展が期待される.

[文献]

1) Hiroyuki Kato,et al. (1996) Brain Reseach

2) Rui Lan Zhang,et. al. (1999) Neurology

153

734:203-212

52:273-279.

脳循環代謝第 12巻第2号

113 無症候性脳梗塞の進展因子

-5年間の追跡調査結果ー

井坂吉成、古河聡、恵谷秀紀、中西悦子、大江洋介、今泉国利

国立大阪病院内科

〔要約)1993年、当科初診の無症候性脳梗塞 50例を 5年間追跡し、全脳、脳 16部位における脳

病変進展の程度を MRI刀強調画像により半定量的 (high intensity score, HIS)に評価した。脳

病変進展と脳血管障害危険因子の関係について検討した。 5年間に新たな脳病変が検出されるか既

存脳病変の進展が認められたのは、 19例 (38%)であった。全脳HISは初回 8.02士6.93、5年後 8.7

:t7.16であり、有意に増加していた。新しい病変の出現、病変の進展は、放線冠と側脳室体部ス

ライスの後部傍側脳室白質に有意に多く認められた。無症候性脳梗塞進展の有意な危険因子は高血

圧コントロール不良であった (oddsratio, OR = 8.4)。無症候性脳梗塞の進展は5年間で約 1/3

の症例に認められた。 HIS増加率は1.5%/年で、あった。進展因子として高血圧コントロール不良

が最も重要であり。喫煙は脳病変の進展に関係しなかった。

【目的】無症候性脳梗塞 (silentcerebral infarction, SCI)の進展と脳血管障害危険因子の関係を

前向き研究で明らかにする。

【方法】対象は 1993年初診の SCI例で、 5年間追跡調査が可能であった 50例である(男性20例、

女性 30例、平均 67.6歳)。一般検査終了後、定期的に外来診察を行ない、 1998年に再度 MRIを

撮像した。 T2強調横断断層像 5スライス:半卵円中心 (CS)、放線冠 (CR)、CRスライスでの前

後傍側脳室白質向明A,WMP)、被殻 (PU)、視床(町、橋(PO)および小脳半球 (Ce)の左右 16部

位にてτ'2HIの程度 (highintensity score, HIS)を、 0,なし、 1,1個、 2,2"'4個、 3,5個以上、

4,癒合性の 5段階に分類した。 SCI進展の程度は、各関心領域において 2度目の HISと最初の HIS

の差(ムHIS)で評価した。ムHIS> 0を脳病変進展群とした。脳病変進展の有無と関係させた変量

は、性別、年齢(歳)、高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、虚血性心疾患、左室肥大、腎障

害、飲酒、肥満、喫煙、追跡期間中の高血圧、糖尿病、高脂血症コントロールの程度、禁煙の有

無である。コントロール良好の基準は、追跡期間中、常に血圧<160/95 mmHg、総コレステロ

-154-

一般演題(口演)

ール<220 mg/ dl、HbAIC< 7%とした。

【結果】 50例中 19例 (38%)において、新たな脳病変が検出されるか、既存脳病変の進展が認め

られた。初回の全脳 HISは 8.02::!:6.93、5年後には 8.7::!:7.16であり、有意に増加していた (p<

0.001)。脳局所では、放線冠 (p< 0.02または<0.05)、後傍側脳室白質 (p< 0.05)にて HISは

有意に増加していた。脳病変進展相対危険度は、高血圧コントロール不良群で有意に全脳 HIS増

加例が多かった (OR= 8.4; P < 0.005)。高血圧コントロール良好群38例中、病変進展が認められ

たのは 10例 (26.3%)、高血圧コントロール不良群 12例中、病変進展が認められたのは 9例 (759る)

であった。

【考察】高血圧、加齢は SCIの強力な危険因子であることが知られている。今回の研究では SCI

進展例が高血圧コントロール不良群に多いことが明らかになったが、他の危険因子、他の危険因子

のコントロール状態については、進展例と非進展例の聞で、有意差を認、めなかった。この原因として

は、対象例がやや少なかったこと、多数例が高血圧を合併していたため、他の危険因子の影響が過

小評価されたことが考えられた。しかし、 SCI進展に高血圧コントーロールの程度が最も強い影響

を及ぼすことは、今回の結果から明らかである。 SCIで高血圧コントロール不良例では、約 75%

に SCIの進展を認めており、このような例では血圧をさらに低くコントロールする必要がある。今

回の症例は全て SCIを合併していたこと、開始が 5年前であったことから血圧コントロール基準を

< 160/95 mmHgとした。高血圧における大規模介入試験の結果をふまえて高血圧治療指針では高

血圧コントロール基準を<140/90 rrimHgとしており、 SCI進展防止のための高血圧コントロー

ル基準をどの程度にすればよいかは、さらに検討すべき課題である。また血圧コントロールが良好

にもかかわらず SCIが進展している例が約 25%存在し、血圧コントロール以外の小さな SCI進展

危険因子の存在も示唆された。

【文献】

(I)Shinkawa A, et al. (1995) Stroke 26: 380司 5

(2) Kobayashi S, et al. (1997) Stroke 28: 1932-9

-155

脳循環代謝第 12巻第2号

115 脳虚血におけるアセタゾラミドと炭酸ガス負荷による

〔要約〕

脳血管反応性の比較

丸谷宏,鈴木明文,長田乾,川村伸悟,佐藤美佳,瀧津克巳,畑i翠順

秋田県立脳血管研究センター・脳卒中診療部,放射線科

脳血管反応性の評価方法として用いられる炭酸ガス吸入法とアセタゾラミド (DMX)静注法を、

CBF/CBV、OEFとの関連から比較検討し、脳虚血における脳循環予備能の検討を行った.

【目的]脳循環予備能を評価する方法としての評価方法として炭酸ガス吸入法とアセタゾラミド(DMX)

静注法がある.P町を用いてこれらの負荷方法を比較検討するととにより、脳虚血における脳循環予備能

の検討を行った.

{対象と方法]一側の内頚動脈もしくは中大脳動脈主幹部に狭窄または閉塞を有する症例で、炭酸ガス吸

入によりPaC02が3mmHg以上上昇した18例(脳梗塞 14例、無症候4例)を対象とした.脳循環測定は、

目立を用いて、安静時脳血流量(rCBF)、7%炭酸ガス吸入時の脳血流量(cCBF)、アセタゾラミド 19静注8

分後の脳血流量(aCB町、脳酸素摂取率(OEF)、脳血液量(CBV)を測定した.脳潅流圧Cppは、 CBFを

CBVで除して算出した.炭酸ガス吸入に対する脳血管反応性(cVR)は、 cCBFの単位PaC02当たりの変化

率で評価し、 ACZ静注に対する脳血管反応性(aVR)は、 aCBFの変化率で評価した.結果は梗塞巣を除い

た中大脳動脈皮質枝領域に関心領域を設定して解析した.

【結果】全例の比較では、病巣側、健常側ともに、 aCBFとcCBFの聞には正の相関関係がみられ、

%cCBFと%aCBFは病巣側のみで正の相聞を示した.aCBFとOEF、cCBFとOEFの聞には病巣側のみで負

の相関関係がみられた.aVRでは、虚血巣周辺で負荷後に却ってCBFが減少する所謂盗血現象が観察され

たが、 cVRでは明らかな盗血現象は認められなかった.当施設のCPPの正常域が15.5::t4.1であることか

ら、 CPPが11.4を正常下限とし、病巣側半球のCPPの平均値が正常範囲にあった症例をA群、 CPPが正常

値を下回りアセタゾラミド負荷により盗血現象を認めなかった症例をB群、 CPPが正常値を下回りアセタ

ゾラミド負荷により盗血現象を認めた症例をC群に分類して更に解析を加えた. C群ではA,B群にくらべ

てcVRが低下していたが、全体としてはアセタゾラミド負棚寺にみられたような盗血現象は認めなかった。

またC群ではA,B群にくらべてOEFが有意に上昇していた。 C群症例についてaVRとcVRの聞には正の相

関関係を認めたがaVRでは盗血現象がみられるような症例でもcVRの低下は軽度にとどまっていた.

156

一般演題(口演)

【結語】脳梗塞症例におけるP町を用いた脳血管反応性の評価ではアセタゾラミド静注法と炭酸ガス吸入

法との聞で密な相聞がみられた.脳内盗血現象はアセタゾラミド負荷でより顕著にみられ、血管反応性は

病巣側半球でOEFやcppとの有意な相闘を示した.脳濯流圧が低下し脳内盗血現象を呈する群ではOEFの

上昇がみられた.炭酸ガス吸入に比べて、アセタゾラミド負荷による脳血管反応性の評価は、健常部位と

虚血巣の差違が際立つ傾向にあった.

157一

脳循環代謝第 12巻第2号

116 虚血脳の病態解析:PETを用いた神経賦活と脳血流・糖代謝測定による検討

稲尾意秀、壁谷龍介、杉本亨、河合達巳、梶田泰一、丹羽政宏、吉田純、

田所匡典*、西野正成*

名古屋大学脳神経外科、放射線科*

〔要約〕

組織形態の維持された低潅流組織、すなわち血行力学的脳虚血とCrossedCerebellar

Diaschisis (CCD)についてその循環と代謝を比較し検討した。血行力学的脳虚血では、

アセタゾラマイド (ACZ)に対する血管拡張能が低下していても、神経賦活による血管

拡張能及び糖代謝は正常範囲に保持されている。神経路切断による低血流組織では、

組織形態とACZ血管拡張能は保持されているが、糖代謝は低下していた。血行力学的

脳虚血巣の皮質下に脳梗塞が生じると、生きのこった脳組織ではこの両者の特徴をあ

わせ持つこととなる。

【目的】血行力学的脳虚血における脳循環・糖代謝、神経賦活による血管反応を測定

し、アセタゾラマイド (ACZ)負荷との違い、虚血脳における神経賦活の意義、脳循環

調節メカニズムについて検討した。また、 functionaldeactivationにより生じるCrossed

Cerebellar Diaschisis (CCD)についても検討を加え、血行力学的脳虚血と比較した。

【対象と方法120名の慢性期脳虚血患者(全例内頚動脈または中大脳動脈の閉塞・高

度狭搾例、平均年齢 58.9才)を対象とした。ポジトロン 150-H20静注法による脳循環測

定および18p_PDG静注法によるCMRglcの測定を行ったO

検討-1:上肢麻痔のない12症例では(1)安静・負荷無し、 (2)両側手掌の開閉運動 (2回/

秒、メトロノーム)による神経賦活、 (3)ACZ静脈内投与(1g) 10分後に脳血流測定を

行い、一次感覚運動野 (PSM:Primary Sensorimotor cortex) の局所脳血流を測定した。

検討-2:脳糖代謝を測定した14症例では、血行力学的脳虚血 (n=6)とCCD(n=8)とを比較

した。解析にはROI法を用い、神経賦活に関してはSPM法も用いた。体血圧、血液ガ

ス、血糖値を測定した。

{結果]検討ーl:ACZに対する血流増加反応はPSM領域を含む患側大脳半球全体で低下

していた (p<O.Ol)が、虚血側 PSM領域の局所脳血流は、神経賦活により健側と同程度

に有意に上昇した (pく0.05)。検討・2:血行力学的脳虚血ではACZ血流増加反応は低下し

ているが、糖代謝は正常であったo CCDでは、 ACZ血流増加反応は保持されていた

が、糖代謝は低下していた。

【考察】血行力学的脳虚血では、 ACZに対する血管拡張能が低下していても、神経賦

活による血管拡張能及び糖代謝は正常範囲に保持されている。神経路切断による低血

流組織では、組織形態とACZ血管拡張能は保持されているが、糖代謝は低下してい

た。脳虚血病態下における神経賦活とautoregulation、ACZ血管反応性の意義、糖代謝

について考察する。

-158

一般演題(口演)

117 内頚動脈閉塞症における頭蓋内外吻合術前後のTCD,SPECT所見

【要約】

島本宝哲・宮城知也・杉田俊介・高橋禎彦・森本一弥・高崎勝幸・重森稔

久留米大学脳神経外科

浅側頭動脈(STA)ー中大脳動脈(MCA)吻合術を施行した内頚動脈閉塞症 12症例にお

いて、臨床症状と共に術前後の術側STAのTCD測定を行い、術前後のSPEC1爾見と比

較検討を行った。術後、術側STA-MFV(平均血流流速)が29.0cm/s以上を示した症

例ではAcetazolar凶de負荷SPECT所見での脳血管拡張予備能の改善が認、められた。

TCDおよびAcetazolarnide負荷SPECT所見は本症例におけるSTA-MCA吻合術前後の臨

床評価に有用であると考えられた。

{目的】 STA田 MCA吻合術を施行した内頚動脈閉塞症例において、臨床症状と共に術

前後の術側STAのTCD測定を行い、術前後のAcetazolamide負荷SPECT所見と比較検

討し、その臨床的有用性について検討したので報告する。

【対象症例】対象はSTA-MCA吻合術を施行した内頚動脈問塞例12例(全例男性)で

ある。年齢は55"-'75歳(平均年齢64.4歳)であり、内2例は両側閉塞例であった。術前

のAcetazolamide負荷SPECT所見は全例で脳血管拡張予備能の低下が認められた。両側

閉塞例はSPECT所見で脳血管拡張予備能の低下を示した半球側に吻合術を施行した。

【方法]TCDはτ'ranssccanを使用し、術側STA本幹(外耳孔前部)のMFVおよびPI値

を測定した。 SPECTは全例にAcetazolar凶de負荷を行い、脳血管拡張予備能を検討した。

SPECT所見の評価は定量的または一部視覚的に評価を行った。

【結果】 TCD所見は全例において術前と比較し、 STA-MFVの上昇とPIの低値を示した。

また、術後にSTA-MFVが29.0cm/s以上、 STA-PI値が1.0前後を示した9例では

Acetazolarnide負荷SPECT所見の長期観察で脳血管拡張予備能の改善が認められた。

【考察】今回我々は術側STA本幹のTCD所見を術前後で検討を行った。 STA本幹のTCD

測定は手技的に簡便であり、また、術後にSTA-MFVが24.0cm/s以下を示した症例で

はAcetazolamide負荷SPECT所見で脳血管拡張予備能の改善は認められなかったが、

-159

脳循環代謝第 12巻第2号

29.0 cm/s以上を示した症例では同検査所見で脳血管拡張予備能の改善が認められた。

この事は術後のSTAのTCD所見は頭蓋内循環動態の変化を予測することが可能であると

考えられ、術後の臨床評価法として有用であると考えられた。

【結語】 STA-MCA吻合術を施行した内頚動脈閉塞症例において、 STAのTCD所見お

よびAcetazolamide負荷SPECT所見は術前後の臨床評価に有用であると考えられた。

-160一

一般演題(口演)

118 浅側頭動脈血流速度によるSTA-MCA吻合術後の血行評価荒川修治,岸川和裕,永富葉子,鴨打正浩,岡田靖,井上亨1,勝田俊郎1,

道祖尾伯史1,安森弘太郎z,井林雪郎3,藤島正敏3

九州医療センター脳血管内科,脳外科1,放射線科z,九州大学第二内科3

〔要約〕STA-MCA吻合術後のバイパスを介した血行の程度が,超音波検査の血流速度パラ

メーターで評価できるか否かを検討した.術後の浅側頭動脈拡張末期血流速度は,バ

イパスを介した血行が発達している症例ほど上昇した.浅側頭動脈拡張末期血流速度

比(術側/健側)を求めることで,バイパスを介した血行の程度を判断することが可

能であった.外頚動脈や総頚動脈血流速度は指標とはならなかった.

【目的】 STA-MCA吻合術後の血行動態の評価には脳血管撮影や脳血流シンチが用

いられている.しかし脳血管撮影は,その侵襲性から,たびたび施行できるものでは

い.そこでSTA-MCA吻合術後のバイパスを介した血行の程度が,超音波検査の血流

速度パラメーターで評価できるか否かを検討した.

【対象,方法】 1994年9月-1999年6月までにSTA-MCA吻合術を施行した56例

中,術後3ヶ月以降の同時期に脳血管撮影および浅側頭動脈の超音波検査を施行しえ

た21例(男性17例,女性4例,平均年齢66歳).コントロールとして,頚部ドプラ

で主幹動脈病変がないことを確認した脳卒中以外の神経疾患15例を用いた.

対象例の臨床病型は脳梗塞14例,一過性脳虚血発作4例,虚血性限症 1例,無症候

(虚血性心疾患手術例) 2例.一方,血管病変の内訳は内頚動脈閉塞6例,内頚動脈

遠位部高度狭窄7例,中大脳動脈水平部閉塞6例,中大脳動脈水平部高度狭窄2例で,

いずれも脳血管病変は片側であった.

術後の外頚動脈撮影により,バイパスを介した血行の程度を 3群に分類した.

extensive群;MCA全域が描出されるもの (n=6), moderate群;複数のMCA分枝

が描出されるもの (n=10), poor群;吻合したMCA分枝しか描出されないもの

(n=5) .超音波検査により浅側頭動脈,外頚動脈,総頚動脈の血流速度を測定し,

各群聞で比較した.また血流速度比(術側/健側)を求め,同様に比較した.

なお浅側頭動脈の血流速度は,外耳口の前方, frontal branchとparietalbranch

に分岐する前の部分で測定した.

161

脳循環代謝第 12巻第2号

【結果】

1 )血流速度(絶対値)の検討

浅側頭動脈の拡張末期血流速度はextensive群 27.4土11.4, moderate群 20.0

:1: 7.2, poor群 13.5:1:7.5,control群 8.8:1:2.8cm/secで,バイパスを介した血行

が発達しているほど上昇した. しかしextensive群とmoderate群およびmoderate

群とpoor群の聞には有意差がなく,拡張末期血流速度の絶対値からバイパスを介した

血行の程度を判断することは難しいと考えられた収縮期血流速度も同様の結果であっ

た.外頚動脈や総頚動脈血流速度は各群聞に有意差を認めず,バイパスを介した血行

の程度を判断する指標にはならなかった a

2)血流速度比(術側/健側)の検討

浅側頭動脈の拡張末期血流速度比は, extensive群 3.5土0.4, moderate群 2.2土

0.5, poor群 1.3:1: 0.4, control群 1.2:1:0.1で,バイパスを介した血行が発達して

いるほど上昇した. poor群とcontrol群の間には有意差がないものの,その他の各群

聞には有意差を認め,拡張末期血流速度比からバイパスを介した血行の程度を判断す

ることが可能であった(おおよそ 3.0以上であればextensive群, 1.7----3.0は

moderate群, 1.7未満はpoor群).収縮期血流速度比も概ね同様の結果であったが,

moderate群とpoor群の聞に有意差を認めなかった.外頚動脈や総頚動脈血流速度比

は各群聞に有意差を認めず,バイパスを介した血行の程度を判断する指標にはならな

かった.

【結論】 超音波検査で測定した浅側頭動脈血流速度比によって, STA“ MCA吻合術

後のバイパスを介した血行の程度を非侵襲的に評価でき,フォローアップの検査とし

て有用であると考えられた.

-162ー

一般演題(口演)

119 頚動脈内膜剥離術前後での頚動脈血流動態の変化

新野清人、宇野昌明、西京子、永慶信治、上回伸*

(徳島大学脳神経外科、*福岡輝栄会病院脳神経疾患治療センター)

〔要約) 96年10月以降当科でCEAを施行した44例を対象とし、 7.5MHZ超音波装置に

より総頚動脈時間平均最高血流速度 (CCTAVm鉱)、内頚動脈時間平均最高血流速度

(ICTAVmax)及び両者の比 (IC/CC)をCEA術前と術後14日目で比較した。また有意狭

窄と対応する流速パラメーター関値を求めた。対照として正常群を用いた。 CEA前後

でCCTAVmax(m!s)には有意差はなかった (0.34土0.14vs 0.39土0.14)0ICTAVmaxは

CEA前:1.58土1.09に対しCEA後:0.33+0.14と有意に低下し (p<0.0001)、N群:0.34+

0.12と差はみられなくなった。流速比も同様に CEA前:4.79土4.00に対しCEA後 0.86

+0.20と有意に改善し (pく0.0001)、N群:0.81 +0.29と差はみられなくなった。また

ICTA Vmax> 1.5 m/s、IC/CC流速比>3.8のとき70%以上の狭窄が示唆された。 α A前

後で ICTAVmax及びIC/CC比は有意に変化しαA後の血流動態正常化の指標として有

用であった。

{目的】頚部頚動脈超音波検査は、頚動脈の形態および血流動態を非侵襲的かつリ

アルタイムに評価可能な極めて重要な手段といえる。今回我々は、内頚動脈狭窄症に

対する頚動脈内膜剥離術 (CEA)の前後で頚動脈血流速度および血流量変化について検

討し、白A後の血流動態変化を反映する各パラメーターの有用性を評価した。また有

意狭窄と対応する流速パラメーター闘値を求めその有用性を検討した。

{方法196年10月以降当科でαAを施行した44例(内頚動脈狭窄度:73::1::15%、平均

年齢:64.7+6.1歳)を対象とした。 7.5阻Iz超音波装置 (LOGIQ500) を用い総頚動脈

時間平均最高血流速度 (CCTAVmax)、内頚動脈時間平均最高血流速度 (ICTAVmax)及

び両者の比 (IC/CC)をCEA術前と術後14日目で比較した。また最近の23例では総頚動

脈血流量 (CCFV)及び内頚動脈血流量 (ICFV)の変化も検討した。更に血管撮影上70%

以上の有意狭窄と対応する流速パラメータ一関値をnon-linearregression anaIysis により

求めた。対照として正常群 (N群:n=44、平均年齢:62.8土9.2歳)を用いた。

{結果】 CEA前後で CCTAVmax(m/s)には有意差はなかった (0.34+0.14 vs 0.39+

0.14)。一方ICTAVmaxはαA前:1.58+ 1.09に対しCEA後:0.33土0.14と有意に低下し

(pく0.0001)、N群:0.34+0.12と差はみられなくなった。流速比も同様に CEA前:4.79

土4.00に対しCEA後 0.86土0.20と有意に改善し (p<0.0001)、N群:0.81 +0.29と差はみ

-163

脳循環代謝第 12巻第2号

られなくなった。 CCFV(ml/s)はCEA前後で有意の変化はみられなかった (6.4土1.9vs

5.8+2.0)0 ICFVにも有意の変化はみられなかった(3.7+2.1 vs 3.3 + 1.3)。一方

ICTA Vmax > 1.5 m/s、IC/CC流速比>3.8のとき70%以上の狭窄が示唆された。感度お

よび特異度は前者でそれぞれ63%、99%、後者で67%、99%であった。

【考察、結論】 CEA前後で ICTAVmax及びIC/CC比は有意に変化しCEA後の血流動

態正常化の指標として有用であった。また ICTAVmax>1.5 m/s、IC/CC;流速比 >3.8

は70%以上の有意狭窄と対応し、 αAを考慮する上で有用な指標になるものと思われ

た。

-164

一般演題(口演)

120 JI慎行性部分脳循環を用いた血行再建術

吉田憲司,中村三郎

(日本大学医学部脳神経外科)

〔要約〕

内頚動脈巨大動脈癌に対して梼骨動脈を用いた頭蓋内外バイパス術を施行した。吻合の際l乙,

末梢の脳循環を維持するために遠心ポンプを用いて arteryto artery bypassを施行し,良好な

結果を得たので報告した.

【目的】静脈または動脈 graftを用いた頭蓋内外バイパス術は,クリッピングが不能な巨大動脈

癌症例や海綿静脈洞部付近の腫蕩などの摘出の際に応用されている(1).本法の問題点のひとつは

吻合にある程度の時聞が必要なために術中における虚血合併症がある .ζ のために EC-,-IC high

flow bypass前に STA← MCAbypassを施行するなどの予防的処置がとられている.私どもは,

頭蓋内外バイパス術を行う際l乙術中の虚血予防として arteryto artery bypassを利用した症例

を経験したので報告する.

【症例】症例は51歳の男性でくも膜下出血で発症した.初回血管撮影Kて動脈績を認めずに 8日

後lζ施行された血管撮影にて左内頚動脈 C2部に動脈痛を認めた.クリッピング術施行するも不

完全クリッピングとなり,その後の血管撮影では動脈績の更なる増大を認めた.乙のために通常

のクリッピングは困難と判断して頭蓋内外バイパス術と動脈癌のトラッピングを計画した.本症

例はすでに中大脳動脈穿通枝および皮質枝lと梗塞像を認め,手術による更なる虚血は神経症状の

増悪をきたす乙とが予想された.乙のため,術中の頭 内血管の吻合時に arteryto artery

bypassを用いた順行性部分脳循環を計画し.虚血時間の短縮を試みた. 送血時には中大脳動脈

末梢を超音波カラードプラにて血流信号の有無を確認した.

【結果】 arteryto artery bypassを用いた順行性部分脳循環は,以下の手順で施行した.循環

装置は専用コーン付きの JOSTRA社製 RotaFlow (遠心ポンプ).熱交換器P::JMS社製HIPEX.

動脈フィルターはポーノレフィノレター (LPE-1440)を施行した.血液回路は 6脚・ 10脚・ 3脚チ

ューブと各種コネクターの接続lζて作成した.脱血カニューレはクランプキャス 18G(メディキ

ット社製)を用いて,脱血部位を左足背動脈とした。送血力ニューレは 2脚コロナリーチップ

( D 1 p社製)を用いて吻合の遠位部より送血を行った.送血は約30分間施行し,回路内圧は 10-

70mmHg, 回転数は. 1300 -1800 ppm .流量は50-120metminであった.送血中はカラードプ

ラl乙て血流信号が得られた.術後,新たな神経症状の発生や既存の神経症状の増悪を認めず,良

好lζ経過した.術後 3週間自に施行した血管撮影では graftのpatencyは良好に保たれていた.

【考察】大動脈弓部手術を始めとし,心臓外科手術が術中の脳保護を目的に超低体温下循環停止

法や脳分離循環下が広く施行されている.分離循環法では逆行性脳濯流法が用いられているが,

濯流方法や条件についてはいまだ一定の見解はない.本法は,足背動脈から脱血を行い,ポンプ

165

脳循環代謝第 12巻第2号

を用いて中大脳動脈末梢部i乙順行性l乙送血を行ったが,術中管理に問題なく施行可能であった.

本症例のように術中の虚血が問題になるような症例では,有用な方法lとなり得ると考えられた.

【文献】

上山博康(1994 )脳外 22:911-924

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