第 13...

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13 回日本脳循環代謝学会総会 2日目 (2001 10 19 日) シンポジウム 2 病態解析における神経画像 座長成富博章 一構造と機能のインテグレーションー 灰田宗孝 S-2-1 Early deoxygenation induced by functional brain activation : Do sit exist. S-2-2 and should we use it for neuroimaging ? Department of Experimental Neurology Charit Hospital Ul rich Dirnagl 脳磁図と機能磁気共鳴画像による前頭,側頭葉言語優位性の機能評価 北海道大学医学部脳神経外科鎌田恭輔 国立循環器病センター内科脳血管部門 大江洋史 東海大学医学部神経内科灰田宗孝 S-2-3 脳磁計を用いためまい,めまい感の検討 S-2-4 近赤外光による脳機能測定 指定発言 S-2-5 SPECT を用いた脳機能の新しいイメージング 宮崎社会保険病院脳神経外科上田 S-2-6 PET による虚血脳の運動賦活解析:補足運動野と小脳への影響 名古屋第一赤十字病院脳神経外科稲尾意秀 2 日目 (2001 10 19 日) 一般演題(口演) 口演 9 脳虚血 2 座長福内靖男 086 マウス前脳虚血における EC-SOD の役割 防衛医科大学校脳神経外科福井伸二 087 脳梗塞容積と nitrotyrosine 生成に及ぼす my loperoxidase の関与について 東海大学医学部神経内科滝沢俊也 088 実験的脳損傷後における神経再生の可能性についての検討 香川医科大学脳神経外科中村丈洋 090 STZ 誘発 I 型糖尿病ラットにおける Preconditioning による 脳内ー酸化窒素 (NO)産生動態の検討 埼玉医科大学神経内科島津智一 口演 10 PET 2 座長上村和夫 091 血行力学的脳虚血における llC-flumazenil を用いた PETstudy 岩手医科大学医学部脳神経外科湯川 宏胤 092 頚動脈閉塞性疾患における acetazolamide 反応性と OEF の関連について一定量的解析 北海道大学医学研究科脳神経外科学黒田 093 SPM 解析法による PET のてんかん焦点局在診断に 対する有用性の検討 東京医科歯科大学医学部脳神経外科太田禎久 U

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第 13回日本脳循環代謝学会総会

第 2日目 (2001年 10月19日)

シンポジウム 2 病態解析における神経画像 座長成富博章

一構造と機能のインテグレーションー 灰 田 宗 孝

S-2-1 Early deoxygenation induced by functional brain activation : Do巴sit exist.

S-2-2

and should we use it for neuroimaging ?

Department of Experimental Neurology Charit邑Hospital Ulrich Dirnagl

脳磁図と機能磁気共鳴画像による前頭,側頭葉言語優位性の機能評価

北海道大学医学部脳神経外科鎌田恭輔

国立循環器病センター内科脳血管部門 大 江 洋 史

東海大学医学部神経内科灰田宗孝

S-2-3 脳磁計を用いためまい,めまい感の検討

S-2-4 近赤外光による脳機能測定

指定発言

S-2-5 SPECTを用いた脳機能の新しいイメージング 宮崎社会保険病院脳神経外科上田 孝

S-2-6 PETによる虚血脳の運動賦活解析:補足運動野と小脳への影響

名古屋第一赤十字病院脳神経外科稲尾意秀

第 2日目 (2001年 10月19日)

一般演題(口演)

口演 9 脳虚血2 座長福内靖男

086 マウス前脳虚血における EC-SODの役割 防衛医科大学校脳神経外科福井伸二

087 脳梗塞容積と nitrotyrosine生成に及ぼす my巴loperoxidaseの関与について

東海大学医学部神経内科滝沢俊也

088 実験的脳損傷後における神経再生の可能性についての検討 香川医科大学脳神経外科中村丈洋

090 STZ誘発I型糖尿病ラットにおける Preconditioningによる

脳内ー酸化窒素 (NO)産生動態の検討 埼玉医科大学神経内科島津智一

口演 10 PET 2 座長上村和夫

091 血行力学的脳虚血におけるllC-flumazenilを用いた PETstudy

岩手医科大学医学部脳神経外科湯川 宏胤

092 頚動脈閉塞性疾患における acetazolamide反応性と

OEFの関連について一定量的解析 北海道大学医学研究科脳神経外科学黒田 敏

093 SPM解析法による PETのてんかん焦点局在診断に

対する有用性の検討 東京医科歯科大学医学部脳神経外科太田禎久

ハU

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一般演題目次

第2日目 (2001年 10月 19日)

一般演題(ポスター)

ポスター 12 脳循環調節2 座長成富博章

094 COXによる脳循環調節機構-COX-1の役割について 東海大学医学部内科学系神経内科学松回 博

095 高血圧自然発症ラットの脳血流自動調節下限域に対する

アンジオテンシン II受容体措抗薬パルサルタンの効果

九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 高田 i問-

096 Trapidilによる脳血管轡縮緩解効果及び血小板由来

成長因子による脳血管の持続的狭小化に関する研究

国立循環器病センター脳血管外科,脳血管障害研究室張 志文

097 摘出ブタ脳血管m首におよぼす静脈麻酔薬の影響 新潟大学医学部麻酔科冨士原秀善

099

100

101

102

103

104

105

106

ポスター 13 脳虚血3 座長立花久大

マウス中大脳動脈の直接把持による虚血再潅流モデル作成の試み 国立埼玉病院脳神経外科寺尾 聴

細胞障害性脳浮腫における脳循環代謝動態の検討 東海大学医学部神経内科栗田太作

ラット脳梗塞モデルにおける 5-iodo-6-amino-1,2-benzopyrone

(INH2BP)の神経保護作用についての検討 東海大学医学部神経内科篠原伸顕

直達手術によるマウス中大脳動脈近位閉塞モデルの

開発とその特性の検討 東京大学医学部脳神経外科古屋一英

脳梗塞進展における内因性 t-PAの線溶活性と神経毒性の関係:

ιPAノックアウトマウスを用いての検討 浜松医科大学薬理学梅村和夫

ポスター 14 SAH・脳温 座長長尾省吾

クモ膜下出血後の体温の日内変動について 帝京大学医学部脳神経外科 高木 i青くも膜下出血 (SAH) と心電図異常

特に右シルビウス裂 SAHの関与一 富山医科薬科大学医学部脳神経外科平島 豊

くも膜下出血急性期における脳循環動態の解析 大阪大学医学部脳神経外科中島義和

191

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脳循環代謝第 14巻第3号

S-2-1 Early deoxygenation induced by functional brain activation:

Does it exist, and can we use it for 町田oimaging?

Ulrich Dirnagl

Division ofExperimental Neurology, Depa出 nentof Neurology, Charit己Hospital,

Schumannstrasse 20/21, D-10098 Berlin, Germany

Brain activation leadsωchanges in regional brain metabolism, cer向 alblood flow (rCBF),

ando可genationof hemoglobin, wruch are utilized in modern neuroimaging wi出 pOSl位on

emission tomog押 hy伊E1),白nctionalmagnetic resona邸 eimaging (削R1),and near

tn仕aredspec住oscopy(N1RS) to map brain fu:即位on白血neand space.

Blood 0勾genationlevel dependent (BOLD) fMR1 is based on a decrease in也e

conce凶 ationof deoxygenated hemoglobin (deoxHb) wruch occurs血也efu低 tionally

active areas as a result of an increased inflow of arteriolar blood (neurovascular coupling').

Following the pioneering work of Amiram Grinvald using optical imaging (01, a variant of

N1悶血catvisual cortex, a numb同e町rofgr伊rou叩恥P戸sha幻ave

hyp巴位主roxマyenationma可ybepr巴cededby a shot;t and ve巧勾Tlocalized hypoox勾y唱genation.Trus

early deoxygenation, wruch has been coined '出tialdip', could be the res由 ofan increased

oxygen metabolism of the activated neurons and glial cells at a也nepoint when the blood

flow response has not yet become hemodynamical1y effective. Consequently, utilizing出e

signal provided by trus early rise in DeoxyHb would not only increase temporal resolution

of Eunctional neuroimaging (because社occ山 sfast,白血an也edel勾Tedhyperoxygenation),

but also spatial resolution (because it is restricted to也emetabolizing, i.e. oxygen

consuming region)・

However, a siginificant amount of con位oversyhas arisen concerni時 theexistence of ea均

deoxygenation, and its usefu:lness for brain mapping. The issue has been complicated by

也efact伽 tdifferent techniques (倒即, 01, N1RS, phosphorescence quenching), different

technical details (fieldstrength,旬peof data analysis, mode of s由nulation,brain region etc.),

192一

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シンポジウム

species同, cat, monkey, human), and consciousness (awake vs. anes也叩a)were used. 1n

my talk 1 w皿住Yto summarize the current status concerning this controversy. Based on

出isliterature and own data on附 (01,N1RS, phosphorescence quenching) and humans

(N1RS) 1 will conclude也ata lot of the con位oversycan be resolved by observing pitfalls in

也eanalysis of 01 data. Early deoxygenation exists under certain physiological and

pathophysiological conditions, but it appears not to be a robust phenomenon, wbich is of

comparatively low intensity (compared to delayed hyperoxygenation). Therefore, and

because of recent advances in flow sensitive imaging, 1 believe that is unlikely that也e

signal provided by early deoxygenation叩11be of relevance in human brain mapping.

S坤1jJo巾 dl?Y the Deutsche Forsch制 rgsgemeii服 hqft,the Germai揖 IsraelS cience Fo間抑制,and the Hermai間側d

Iilfy S chillil哩 Fo;削 dation.

-193-

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脳循環代謝第 14巻第3号

S-2-2 脳磁図と機能磁気共鳴画像による前頭、側頭葉言語優位性の機能評価

鎌田恭輔、宝金清博、岩崎喜信、三森研自牢

北海道大学医学部脳神経外科、*北海道脳神経外科記念病院

(要約〕

[目的] 臨床において低侵襲な言語機能の局在法で、あるアミタールテストは、その製造が中止にな

るため、これに代わる言語機能同定方法の確立が急務となっている。本研究では脳磁図

(Magnetoencepha}ography ; MEG)と機能MRI(fMRI)という機序の異なる機能画像の組合せることに

より、信頼性の高い言語機能マッピング法を確立することとした。本法が確立することにより言語

機能を詳細に局在して、頭蓋内疾患に対する手術切除、または放射線照射範囲の決定を、患者毎に

行うことが可能になるものと期待される。

[方法] 手術または放射線治療前の頭蓋内疾患をもっ患者 33例と、既往歴のない健常成人 12例

を対象とした。患者は全例アミタールテストにより言語優位半球を同定した。

MEG計測には、被検者にひらがな 3文字で構成された単語を提示し、提示語が、抽象、具象語の

クラス分け(A/C)課題を行なった。文字認識に関する反応は刺激後 250msecから 600msecの聞に下

前頭.上側頭領域および側頭.後頭領域にあるものと予想されるため、 250msec以降の反応を単一

ダイポールモデ、ルを用いて解析した。左右大脳半球の下前頭.上側頭領域に集積するダイポールの

潜時と数について検討した。

fMRIは1.5TMRI装置で撮像し、検査は音声により提示された名調に関連した動調の想起課題を行

なった。音刺激に対する一次聴覚野の反応を差分により消去する目的で、"Rest"課題として音声

刺激を逆再生した(意味を持たない)音刺激をあたえた。取得データの統計処理後に有意な信号変

化(z> 2.5)をもっピクセルの表示と左右大脳半球のピクセル数の比較を行った

[結果]

MEG

RMS

A/C categorization

Right Left

15 52

アミタールテストにより 33例中(右

利き 28例、左利き 5例) 3 0例におい

て言語優位半球を同定することができた。

左利き 5例中の3例において優位半球は

右側にあった。 AVMをもっ 3例でアミタ

ールの動注では明確な神経症状が出現せ

ず、 言語優位半球の同定は不可能であっ

た。これは AVMによる脳血流の盗血現象

によるものと推察された。

A/C課題による MEGでは主に文字提示

後 300-500msec付近にゆっくりした反応を両側の前頭.側頭領域に認めた。左右の大脳半球に

194ー

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シンポジウム

分布するダイボール数を比較することにより、 28例において優位半球を同定することが可能

Case C.K., Normal Volunteer 語想起

Edinburgh: 110 Handedness: Right

混入して、信頼性のある結果に至らなかった。

であった。 A/C課題遂行が困難であっ

た5例ではダイポール推定計算には十

分な信号を得ることができなかった。

語想起による fMRIでは主に、中.

下前頭回周辺と帯状回に活動を認める

のが特徴的であった。この所見により、

2 9例において優位半球を同定するこ

とができた。しかし、語想起課題が困

難であったり、閉所恐怖症のある患者

では、動きによるアーチファクト等が

[まとめおよび考察] 本研究では、アミタールテストによって言語優位半球の同定ができないこと

も、 33例中 3例で経験した。一方、 MEGとfMRIの両者の結果を考慮することにより、全症例で明

瞭に言語の優位側を同定することができた。今回用いた脳機能画像法はアミタールテストと異なり、

容易に繰返し施行することが可能であり、今後臨床においてアミタールテストに代わる役割を担う

もの期待できる。

しかし、一方で検査の際には患者の協力が必須であるため、課題遂行の困難な患者では十分な信

号をえることが不可能であった。このため、本検査では患者を選択しなければならないのが現状で

ある。また、言語という高次脳機能を画像イじするにあたり、課題の選択やそれらにより活動する言

語関連性の高い領域を把握しておくことも必要である。

Hinkeらは印刷を用いて、発声をせずに名調に関連する単語を想起をする課題により、健常人

の運動性言語機能の画像化に成功している。また、 Binderらは周波数の異なる純音を聞き分ける課

題による fMRIよの脳活動領域の広い側をもとに、優位半球を決定することができると報告してい

る。

一方、 Martinらは純音刺激による聴覚誘発脳磁界信号瀬(一次聴覚野)を求め、その後方に位

置する感覚性言語野を同定して脳神経外科手術に応用した。さらにより高次の感覚性言語認識機能

の局在には、文字提示による視覚刺激後約 400msecに左側優位の側頭葉の反応があるとの報告があ

る。この反応は失読症患者では減弱または消失しているため、感覚性言語機能と強い関連があるも

のと考えらている。

優位半球の決定により治療方針が大きく左右されるため、この決定は非常に慎重におこなわなけ

ればならない。このためには fMRIまたは MEGという単一の機能画像のみではなく、両者を組み合

わせることにより検査結果をより信頼性の高いものになると考えられる。特に頭蓋内疾患をもっ患

者では言語野の状態および機能が正常でない例も多いため、異なる機序による機能画像によるアプ

ローチにより、いずれかの機能情報を参考に優位半球を決定できる可能性もある。本研究では運動

性課題に適している印刷によりブローカ領を、正確なトリガー用いる感覚性課題による MEG検査

によりウエルニッケ領同定することとした。 2種類の機能画像に盲目的に同一の課題を負荷するの

ではなしそれぞれの特徴をいかして、運動性と感覚性の言語機能を分離して画像イじすることとし

た。また、 MEG検査に MRI検査は必須であるため、この 2種の検査を組み合わせることは比較的容

易かっ、現実的である考えられる。

[文献](1) Kamada K, et al. (1998) Cogn. Brain Res 7: 89-98. (2) Kuriki S, et al. (1996) Cogn. Brain Res., 4: 185-199.

195-

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脳循環代謝第 14巻第3号

S-2-3 脳磁計を用いためまい、めまい感の検討

大江洋史1、神鳥明彦2、成冨博章1

(国立循環器病センター脳内科1、日立製作所(株)中央研究所2)

【要約】高齢者の中には、原因が明らかでない自覚的な慢性的浮動感を訴える慢性めまい症例が

認められるが、それらを客観的に検出できる方法がないのが現状である。我々は、慢性めまい例

で脳磁計を用いた聴覚誘発磁界計測結果をもとに解析された側頭頭頂葉の脳表電流に特徴的なパ

ターンを見い出しその定量化に成功した。抗けいれん剤投与により、そのパターンが改善し症状

も消失した。

【背景}動物実験では、浮動感である平衡機能に関係する前庭中枢野は頭頂葉に存在する area2v、

3aV、?と parieto-insularvestibular cortex (PIVC)より形成されている

(図 1)1。特に人間では音刺激で一次聴覚中枢 (primaryauditory center)に至った情報がさら

にarea7に投射し、音の位置・場所を特定する音の空間認知に関する auditory-vestibular

neuronal networkを形成していることが分かっている2、3。本研究は、音刺激による聴覚誘発磁

界を記録し、聴覚中枢やその周囲に存在する前庭中枢に生じる電気活動を計測することで前庭中

枢機能を評価することを原理として行った。

【目的}明らかな末梢前庭機能異常や運動麻簿、感覚異常、失調症状を認めず、 MRI、P町など

の神経放射学的検査でも原因となる異常が認められない非回転性の浮動感を自覚する(慢性めま

い)症例の病態生理を解明する目的で本研究を行った。

【対象と方法】対象は正常対照群 8例(男性4例、女性4例、 mean:1:SD年令:66:1:5歳)と半年

以上持続する慢性めまい症例群 14例(男性6例、女性8例、 mean:1:SD年令:68:1:8歳)。脳磁計

は64-coaxialgradiometerを備えた円筒形の目立社製MC-6400型磁気計測装置4 を使用。音刺

激は plastictubeを介し外耳孔に 1000Hz、90dBの 0.3Hz25%ランダムの toneburst音を 8分

関与え、同時に反対側にはmaskingとして whitenoiseを与え両側側頭頭頂部より聴覚誘発磁界

計測を施行した。音刺激より約 100msecに出現する NI00m波形成分を 200回以上加算解析し、大

脳皮質に生じる接線方向の細胞電流成分を current-arrowmap5作成し評価した。さらに、

current-arrow mapを元に dI rot値を算出し回旋度の定量的評価を行った。

【結果と考察】正常対照群の current-arrowmapは、右側頭部では左斜後下方向、左側頭部で

は右斜後下方向のまとまった一方向性電流成分が認められたが、慢性めまい症例群にて側頭頭頂

部に回旋性電流成分が検出された(図 2)。回旋性成分の定量評価 dI rot値は正常対照群では1.56

一196-

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シンポジウム

::!:O.46、慢性めまい群では 3.34:!: 1. 42となり慢性めまい群で統計学的に有意な増加を示した(図

3)。抗けいれん剤を慢性めまい群のうち 3例に投与した結果、症状は改善し dI rot値はグラフ

のごとく改善した(図 3)。これらの結果より、慢性めまい例における脳表の回旋性電流異常は

可逆的変化であり、 auditory-vestibularneuronal networkに生じる epilepsyに類似した

hypersensitivityが慢性めまいの原因の一つである可能性が示唆された。

I参考文献】

1. Th. Brandt et al., Ann. Neurol. 35,403(1994).

2. R.A. Weeks et al., Neurosci. Letters 262,155 (1999).

3. J. Lewald et al., J. Neurophysiol. 84, 1107 (2000).

4. K. Tsukada et al., Proceedings 20th Int. Conf. IEEE/E肥S(HongKong) 524 (1998).

5. A. Kandori et al., Med. Biol. Eng. Comput. 39, 21 (2001).

正常群

慢性めまい君事

図 1

7

PIVC

primary auditory center

200

忌マ;gコ

-:8‘E国言B b 0

-200 100 200 。Time(ms)

200

e ヨtZ-2 s 。

-200

図3

7., ・ ・・"p<O.05

rーーーーー一--ー「

dlrot f直

OtIt‘功、ん欄(.) tlUtいれん欄《り

正常僻 慢性めまい事事

pT/m

300

pT/m

197

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脳循環代謝第 14巻 第3号

S-2-4 近赤外光による脳機能測定

灰田宗孝、政所広行*、篠原幸人*

東海大学生体構造機能系生理科学、東海大学医学部神経内科*

【要約]

近赤外光を用いた脳機能測定について、特に光トポグラフ法を中心に紹介した。光トポグラフ法による信号の意味

を調べるためftmctional:MRIとの同時測定をおこない、 O苅r-Hb、toぬ}-Hbにおいて両者に有意な相が認められたが、

deoxy-Hbでは両者は全く相関しないことが示された。このことはftmctional:MRIではかなり太いレベルの静脈が信

号に関与するのに対し、近赤外光においては太い静脈は信号に関与していないことが推定された。更に、近赤外光の

特性を利用した意思伝達装置の開発の一端を紹介した。

【目的]

近赤外光を用いた脳機能測定の原理とその応用について概観する

【方法と結果]

今回の近赤外光測定装置は主として、日立メディコ製光トポグラフ装置町'G-I∞を用いた。本装置は

78伽m、83伽m2波長を用い、図 l、図2のように頭部に片側9本の光ファイパーを装着し、そのうち 5

本を光源に、 4本を検出用に用いた。それらの間で片側 12個の吸収がえられる。、それらからヘモグロ

ビン量を計算したものを図3に示す。

図1ファイパーの装着状態 図2ホルダー 図3得られたヘモグロビン変化

図3では1分間の安静時、 1分間の両手の把握運動、を交互に2回繰り返し、その平均を用いた。図で

判る様に手の運動負荷時にはto凶-Hbとoxy-Hbの増加が、光トポとfunctionalM悶(f-MRI)との同時測定を行

った。:MRIはPhilipsACS-NT 1.5T、f-:MRIはecho-pl釘1afl:去により測定。運動負荷は手の把握運動を用い、 1分間

の運動負荷を2回、 1分間の安静を3回交互に行った。その結果、 to凶-Hbとoxy-Hbの両者の相聞は非常によく、統

。onv

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シンポジウム

計的有意に両者は相闘があると結論できた。一方、 deoxy-Hbのデータに関しては相関係数はo.2程度と非常に低

く、光トポグラフとf-M斑とは相関が見られなかった。とのことは静脈系の情報に関して検出しているものが全く異

なることを意味している。図4に光トポグラフの正常人での典型的憶号変化を示す。

図5 能血流増加の仕組み

図5-a脳血管床の増加による場合。

動脈血部自血管 静脈血

図4 正常対照両手把握運動中のヘモグロビン変化。

一番上:oxy-Hb

二番目 :to句l-Hb

三番目:deo:羽r-Hb

線と線の間で手の把握運動を行っている。

図5-b 脳毛細血管レベルの祈躍糊日による場合。

動脈血卦田血管静脈血

一__i;;;;.コ、一一

図4に示すように運動負荷時、白コ凶-Hbとoxy-Hbが増加し、 deoxy-Hbが低下したが、その現象を説明する

ために図5のモデルを考える。図5-aは能血流増加が毛細血管床の増加によると考えた場合である。この場

合、 ω凶・Hbとoxy-Hbの増加は説明できるが、 deoxy-Hbの減少は説明できない。一方、毛細血管での血流

速度の増加により脳血流増加が起きるとし、更に光トポが主として毛細血管レベルヘモグロビンのみを検

出していると仮定するとd的 >xy-Hbの減少が説明できる(図5・b)。つまり、近赤外光では太い血管からの信

号は検出できず、主として毛細血管でのヘモグロビンを測定していると解釈できる。一方、 f-MRIでかな

り太いレベルの静脈も信号に関与しているとの報告もあり、それが両者の同時測定においてdω>xy-Hbでの

相関が見られなかった原因であるともいえ、光が主として毛細血管をみているとの仮定を支持すると思わ

れる。

このように、近赤外光を用いて脳機能測定が可能である。この方法により、筋萎縮性側索硬化症による

完全ロックドイン状態の患者で、手の把握運動、言語負荷等をかし、その結果、本疾患では脳機能は正常

に保たれていることが示されたことから、光を利用した意志伝達装置を開発しつつあり、患者のyesの答

えを手の把握運動を用いて検出することに成功した。今後、近赤外光の利用はますます広がることが期待

される。

-199一

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脳循環代謝第 14巻第3号

S-2-5 SPECTを用いた脳機能の新しいイメージング

上回孝,有JII 章治,古賀さとみ

宮崎社会保険病院脳神経外務

1.はじめに

PETやSP配 Tでは,不可能であった1回の検査で多数回の刺激や賦活の連続画像表示カ可能な蜘Tc-

HMPAO持続静注下連続dynamicSP配 T説、こstatisticalparametric mapping (SPM)解析を組み合わせる

ことにより,統計学的に有意に変化した部位を立体画像化できるかを試みた。

s.方法

曹9aTc-HMPAO(日本メジフイジックス社製,東京)1,110MBqを生理食塩水30lltに祷解し,持続注入

ポンプを用いて1,110MBq/30・t/30minの定速度で右肘静脈内に投与した。投与直後より1分毎に

pl祖釘像で大動脈弓,頚部頚動脈,脳内のcountを経時的に収集し, 30分間の安静,閤眼,無負荷時の

time activity curve (T AC)を作成した。次に三次元的局所脳血流の変化の観察のために,ガンマカメ

ラ;GCA-7200AlUI two head SPECT system (東芝社製).コリメ}タ;low energy high resolution

(LEHR) fan-beam collimator,エネルギーウインドゥ;140keV (20%) , 140keV (7%, lower) • 収集モ}ド;continuous SP配 Treturn mode,収集角度;4度,サンプリング;2min/rotatioX

15r伽 tions,収集マトリックス;64X64,収集拡大率;1.31の収集条件でSP配 T収集を行い,デ』タ

処理装置;GMS-5500AlUI (東芝社製),散乱緯補正;triple energy window (TEW) .前処理フィル

タ;Butter鴨池制御 (order=8,cut 0:炉 0.40),再構成フィルタ;Ramp filter,吸収補正;Chang法

(吸収補正係数,=0.15),スライス厚;3.6聞の条件で画像再構成を行った。このようにして2分毎の

dynamic SPECT (詔ial,coronal, sagi伽 1views)を30分関連続的に撮像し,種々の賦活試験を任意の

時聞に行い, dynamic SP配 T上に任意の複数のROI(r,昭ionof inter蝿 t)を設けてTACを作成し,経時

的な局所脂血流の変化を観察した。またTAC下の面積を経時的 (2分毎, 30分関連続:sp配 rのため)

に積分し,安静時無負荷の積分値を安静時とし,負荷中の面積との差を負荷分としてSPM解析

(SPM98)を行った。

m.結果

運動負荷,痛覚刺_,音楽,光,香り, chewingなどの単純賦活,複合賦活もSPM解析により個々の

症例によって各々有意差立体画像治章作成された。

w.考察

SP配 TやPETを用いた従来の方法では,三次元的な局所脳血誌の変化を1-2分単位でとらえること

は不可能であった。確かにM闘は,空間分解能に優れており,非侵襲的に操り返しi圃定治可能である

が, m唱 neticsusceptibility effectを調定原理に用いる凶ILD法では,前頭蓋近傍,後頭蓋商等解剖学的

構造から欄定領域に制限があったり,調定中の騒音治覗活時の障害になったり,高次機能欄定時に背

景雑音の影響がでる可能性もある。また,信号機序にBOLD法独特のinflow効果や脳表静脈の流速増加

の影響が考えられる九しかし, MRIを用いた方法の最大の欠点は, PETを用いた研究によると,機能

負荷を加えることによって担当する部位で局所脳血糊坪均29%増加するカ軍酸素消費量の増加は平均

5%のにすぎず,その結果,酸素飽和度が上昇し,その変化を利用するのがfunctionalMRIであるため,

感度という点ではPET,SP配 Tに劣っている。現時点の臨康可能なSP配 T用脳血流トレ}サ}の中

で, 133Xeガスを用いる方法5)では,空関分解能が低いことと, 1回の灘定に最低10分聞は要するために

1-2分毎の経時的な血流の変化をとらえることはできない。 123I-IMPは,投与後時間の経過とともに

脳組織にトラップされ一方で徐々にW踊 houtされ,その聞に初回循環で蹄が23I-IMPのr脱 rvoirとなり,

ここから献繍に123I-IMP治会摂取されるという複雑な再分布現家}が生じ, 0-30分間の経時的な血施

の変化をとらえるのには適さないo 99aTc-HMPAOは, 123I_IMPと同様に脂椿性のトレーサーで血液ー

-200一

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シンポジウム

脳関門を通過後,水溶性の化合物として脂組織にとどまる。その性質を利用してSP配 Tに応用し,局

所脳血流分布画像を得ることができる明。しかも1231_IMPとは異なり,静注後初回循環での脳への摂取

率は8096以上で,静注1-2分後に定常状態となり, 123I-IMPの投与の際にみられる再分布現象はみら

れない旬。現に今回の我々の検討の中で,血流量が一定に保たれている部位での蜘Tc-HMPAOの脂組織

での取込は, トレーサーの投与量と正比例の一定鎌形で推移した。標語率の低下10)という問題がり,

限られた時間(今回は30分間)であるが,その聞に種々の薬物の効果や各種脂賦活を複数回同一患者

に施行でき,その闘の局所脳血流の褒化を経時的に観察できる本法は唯一の方法といえる。また従来

のSPM法, SSP法いずれにしても5-10名の正常と思われる標識脂との統計学的有意差を蘭像化してい

る為,幾つかの解決不可能な問題を含んでいるが" 9!MTc-HMPAO持続静注下連続dyn細 icSPECT法

は,同一人での変化を扇像化している点で優れており,わずかな変化もとらえることができる。本法

は,分単位ではあるが.real timeに反応した樺子治覗祭できる点で.SP配 Tを用いた脳機能マッピング

のまったく新しいユニークな方法といえる。今後は,ガンマカメラの開発,コンピュータ技術の進

歩, トレーサーの開発・改良等が進むにつれ,分単位から秒単位のrCBF画像カ匂yn岨 icに得られるよう

になれば, SPM法を組み合わせることにより賦括部位の統計学的有意差立体画像治章作成できるであろ、つ。

V.結論

蜘Tc-HMPAO持続静注下連続dyn祖 icSP配 T法にSPM解析を組み合わせることにより.1回の検査

で多数回の連続した賦情調定治可能となり,しかもそれらの有意差立体蘭像カ鳴られた。

VI.文献

1)上回孝:各種病患における脚.tazol掴 ide投与による脳血流の経時的変化の相違について,脳循環代謝

9: 58・59.1998.

2) Friston町.Holmes AP. Worsley KJ. PolineJP. Frith CD. Frackowiak RS]: Statistcal parametric ma;関 in

functionnal im噌 ing;a generallinear apprω凶.Hum Brain Mapp 2: 189-210. 1995.

3) Kwong KK: Fanctional magnetic re却 nan田 imagingwith echo planar im唱 inJr.Magn Reson Q 11: 1・20.

1995.

4) Edelman RR. Siewert B. Darby DG. et al: Qualitative mapping of cerebral blood flow and functional locali踊 .tionwi出 ecbo-planarMR imaging and signal tar欝 tingwiぬalternatingradio-frequency.

Radiol<句D'192: 513・520.1994.

5) K踊 noLL踊 senNA: Two methods for calculating r'噌 onal僧 rebralblood flow from emi路 ioncompu総d

tom,句F却 hyof inert gas concentrtion. J Comput Assist Tom句p"3: 71・76.1979.

6) Kubl DE. Barrio JR. Huang SC. Selin C. Aclermann RF. L伺 rJL. Wu JL. Lin TH. Phel開 ME:Quantifying

10伺 1cerebral bl,ωd flow by N-i剖 -propyl-p-e23IJiod伺 mpbetaaine(IMP)ωm唱 raphy.J Nucl Med 23:

196・203.1982.

7) Neirincb RD. C組 ni曙 LR.Piper 1M. Nowotnik DP. Pickett RD. Holmans RA. Volkert W A. F,個terAM.

Weisner PS. Marri悦tJA.Cbapkin SB: Technetium-99m d.l-HM-PAO: a new radio-pbarmaceutical for

SP配 Tim棺 ingof regaonal cer.曲ralblood酔 rfusion.J Nucl M剖 28:191・202.1987.

8) Now,悦nikDP. Canning LR. Cumming SA. Harrison RC, Higley B. Nechvatal G. Pikett RD, Piper 1M.

Bayne V], F,崎terAM. Weisner PS. Neirinckx RD: Development of a 99mTc-labelled radio-pbamaceutical

for倒油ralblo叫 flowimaginJr. Nucl Med白,mmun6:499・506.1985.

9) Sbarp PF. Smith FW. Gemmell HG, Lyall D. Evans NTS, Gvozdanovic D, D町 idsonJ. Tyrrell DA. Pickett PD. Neirinckx RI沈Tecbnetium-99mHMPAO舗釘 伺i剖鵬問舗仰飽ntiala僻 ntsfor imaging

r噸 onalcer,ぬralblood flow: buman volun慨 rstudies. ] Nucl Med 27: 171・177.1986.

10)三村浩朗,小野志磨人,柳元真一,反光遺志,森田浩一,西村布紀子.材中明,永井清久,

大塚信昭,福永仁夫:蜘Tc-ECDの基礎的検討。核医学 29:1227・1236,1992.

-201-

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脳循環代謝第 14巻第3号

S-2-6 PETによる虚血脳の運動賦活解析:補足運動野と小脳への影響

稲尾意秀

名古屋第一赤十字病院脳神経外科

[要約]

血行力学的脳虚血における運動負荷時の補足運動野と小脳への影響、神経賦活の意

義、血流・糖代謝couplingについて検討した。対象は上肢麻揮のない慢性期脳主幹動

脈閉塞例 (n=12)で、ポジ卜口ン 150-HzO静注法による脳血流測定を安静時、両側

手掌の開閉運動 (2回/秒)時、およびアセタゾラマイド (ACZ、1g)静脈内投与後に

行った。また、 18F-FDG法により脳糖代謝を測定した。運動賦活に関しては、 SPMを

用い健常ボランテイアと比較した。その結果、脳虚血ではACZに対する血管拡張能が

低下していても、神経賦活による血管拡張能は正常範囲に保持され、安静時では嫌気

性解糖の冗進が示唆された。 SPMによる解析では、虚血患者では両方の運動野と補足

運動野の賦活が得られ、小脳半球では反体側半球の賦活消失を認めた。補足運動野の

賦活は、一次運動野の潜在的機能低下の補完を示し、小脳半球賦活の消失は、潜在的

なCCDによると考えられた。

【目的】血行力学的脳虚血における運動負荷時の補足運動野と小脳への影響、神経賦

活の意義、血流・糖代謝couplingについて、ポジト口ンCT(PET)を用いて検討し

た。

【方法】上肢麻揮のない慢性期脳主幹動脈閉塞例 (n=12)を対象とした。ポジト口ン

150-HzO静注法による脳血流測定を安静時、両側手掌の開閉運動 (2回/秒)による神

経賦活時、およびアセタゾラマイド (ACZ、1g)静脈内投与10分後に行った。関心

領域を一次感覚運動野におき、患側・健側を比較した。また、 18F-FDG法により脳糖

代謝を測定した。右側病変例 (n=6)の運動賦活に関しては、 SPMを用い健常ボラン

テイア (n=7)と比較した。

【結果】虚血側運動野の局所脳血流は、神経賦活により健側と同程度に有意に上昇し

た (p<0.05)。安静時の糖代謝は患側で上昇していた (p<O.Ol)oSPMによる解析で

は、虚血患者では両方の運動野と補足運動野の賦活が得られ、小脳半球では反体側半

球の賦活消失を認めた。

【考察】従来の仮説では、血行力学的脳虚血では潅流圧の低下に対して代償的に最大

-202-

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シンポジウム

限の血管拡張が生じており、炭酸ガスやACZのような化学的血管拡張因子によっては

もはや脳血流は増加しないと考えられていた。しかしながら、我々の示した結果は

ACZに対する血管拡張能が低下していても、神経賦活による血管拡張能はほぼ正常範

囲に保持されていることを示している。さらに、このような血行力学的脳虚血では糖

代謝が冗進していることを明らかにし、嫌気性解糖の冗進が存在することを推定し

た。同部ではこれまで酸素抽出率は冗進しているが、 CMROzは正常範囲と報告されて

いる。もし、 CMROzの上昇がなければ、 CMRglcの上昇は確かに嫌気性解糖を示すと恩

われる。 MRスペク卜口スコピーを用いて脳組織乳酸を測定した報告では、慢性期の脳

虚血は乳酸の増加が認められるとされ、嫌気性解糖を支持する結果が示されている。

しかし、グルコースと酸素のmetabolic-couplingを正確に検討するためには、同一例

での酸素とグルコース代謝の測定が必要で今後の課題である。

血行力学的脳虚血における運動負荷時に、両側一次感覚運動野の賦活に加えて両側の

補足運動野の賦活が生じる。これは、一次運動野の潜在的機能低下の補完を示してい

ると考えられる。また、反対側の小脳半球賦活の消失は、潜在的なCrossedcerebellar

diaschisisによると考えられる。このような、病態下における一次機能野以外の脳領域

の賦活や賦活消失は、これまで知られた神経路や脳領域の機能的・代償的ネットワー

クを示すものと考えられ、神経症状の改善過程やリハビリテーション医学に重要な示

唆を与えるものと思われる。 PET検査は、背景となる脳循環代謝の状態把握と機能賦活

検査を同時に行える点が有利と考えられる。

【文献】

(1) Baron JC, Bousser MG, Rey A, et al: Reversal of focal "misery-perfusion syndrome" by extra-intracranial arterial bypass in hemodynamic cerebral ischemia: a case study with 150 positron emission tomography. Stroke 12: 454-459, 1981.

(2) Inao S, Tadokoro M, Nishino M, et al: Neural activation of the brain with hemodynamic insufficiency. J Cereb Blood Flow Metab 18: 960-967, 1998.

(3) Inao S, Kabeya R, Hata N, et al: Neural activation and glucose metabolism in hemodynamic ischemia. In “Ischemic Blood Flow in the Brain" (Eds. Fukuuchi Y, Tomita M, Koto A), Springer-Verlag Tokyo, pp443-447, 2000.

(4) Kabeya R, Inao S, Hata N, et al: in submiteed (5) Powers WJ: Cerebral hemodynamics in ischemic cerebrovascular disease.

Ann Neuro129: 231-240, 1991. (6) van der Grond J, Balm R, Klijn CJM, et al: Cerebral metabolism of patients

with stenosis of the internal carotid artery before and after endarterectomy. J Cereb Blood Flow Metab 16: 320-326, 1996.

-203-

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脳循環代謝第 14巻第3号

086 マウス前脳虚血における EC-SODの役割

〔要約〕

福井伸二,大河原知水ぺ苗代 弘,野村奈美子,矢野明子,宮津隆仁,

大谷直樹,鈴木敬一郎*,島 克司

防衛医科大学校 脳神経外科、*兵庫医科大学 生化学教室

マウス一過性前脳虚血モデルを作成し,脳虚血における extrac巴lIular superoxide dismutase

(EC-SOD)の役割を検討した. ELISA法を用いた EC-SODの測定の結果,虚血後 24時間で

脳内 EC-SODは有意に上昇し,虚血後 3時間で血清 EC-SODは減少する傾向がみられた.

正常脳における免疫組織学的検討では, EC-SODは軟膜,脈絡叢,及び視床下部腹側部等に

強い染色性を示した.虚血後の変化として 3時間後に皮質毛細血管壁での免疫原性が著明

に強くなり, 24時間後には皮質の神経細胞体において新たな免疫原性の発現が認められた.

In situ hybridization法による EC-SODmRNAの検討の結果,皮質毛細血管壁,軟膜,脳室上

衣における EC-SODmRNAの発現は認められなかった.一方 皮質神経細胞及び視床下部

腹側部において著明な mRNAの発現を認め,脈絡叢,手網核にも中等度の発現を認めた.

ノーザンブロッティング法による検討では,虚血後 24時間における脳内 EC-SOD mRNA

の有意な上昇が明らかになった.これらの結果から,脳虚血における EC-SODの役割は以

下の 2つが考えられた. (1)血清 EC-SODは脳内毛細血管壁に付着することにより内皮

細胞を, ( 2 )皮質神経細胞は EC-SODを自ら産生し,虚血再潅流後の酸化ストレスから

防抑している.

【目的】近年, extrac巴lIularsuperoxide dismutase (EC-SOD)が虚血性神経細胞障害に保護的

に働くことが報告されているが(1),(2),その機序や役割についてはほとんど解明されていな

い.今回,我々はマウス一過性前脳虚血モデルを用いて,脳内及び血清における EC-SOD

を定量的に測定し,更に分子生物学的な検討も加えた.

【方法】マウス一過性前脳虚血モデルを作成し,全ての群に対して偽手術群を作成した.

まず,血清及び脳における EC-SODを ELISA法で測定した.また,免疫組織学的に脳内

EC-SODの局在及び虚血後の変化を検討し, in situ hybridization法により EC-SODmRNAの

脳内分布も検討した.更にノーザンプロッティング法にて虚血負荷後の EC-SOD mRNAの

変化を検討した.

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一般演題(口演)

【結果】脳内 EC-SODは虚血後 24時間後に有意に上昇し, 脳内 EC-SOD/血清 EC-SOD

比は虚血後 3時間で有意に上昇した.正常脳における免疫組織学的検討では,軟膜,脈絡

叢,及び視床下部腹側部に EC-SODに対する強い免疫原性を示し,皮質毛細血管内皮細胞,

脳室上衣,手網核に弱い免疫原性を示した.虚血後 3時間には皮質毛細血管壁での免疫原

性が著明に強くなり, 24時間後には皮質神経細胞に新たに免疫原性の発現が認められた.In

situ hybridization法による mRNAの検討では,皮質毛細血管壁,軟膜,脳室上衣における

EC-SOD mRNAの発現は認められなかった.一方,皮質神経細胞及び視床下部腹側部にお

いて著明な mRNAの発現を認め,脈絡叢,手網核にも中等度の発現を認めた.ノーザンブ

ロッティング法による検討では,虚血後 24時間における脳内 EC-SOD mRNAの有意な上

昇が明らかになった.

【結論】脳虚血における EC-SODの動態が明らかになった.皮質毛細血管における EC-SOD

免疫原性の増強,及び血清 EC-SODの減少は,血清 EC-SODが皮質毛細血管に付着し,虚

血再潅流時の酸化ストレスから血管内皮細胞を保護していることを強く示唆していると考

えられる.一方,皮質神経細胞においては,虚血後 24時間で発現した EιSODが,虚血再

潅流時の酸化ストレスから皮質神経細胞を保護していると考えられる.

【文献】

(1) Sheng H et al., Experimental Neurology 2000; 163: 392-398

(2) Sheng H et al., N巴uroscienceletters 1999; 267: 13-16

(3) Ookawara T巴tal., Am J Physiol 1998; 275: C840-C847

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脳循環代謝第 14巻第3号

087 ‘ 脳梗塞容積と nitrotyrosine生成に及ぼす myeloperoxidaseの関与に

ついて

滝沢俊也平林久幸 *福山直人 *中津博江篠原幸人

I 東海大学医学部神経内科、*東海大学医学部生理

〔要約〕 虚血/再潅流後のmyeloperoxidase(MPO)欠損マウスの脳皮質におい

てN02・Tyrの生成と梗塞巣の増大を認めた。この結果より、脳虚血/再潅流にお

いてはMPOを介した系より ONOO・を介する系がチロシンのニトロ化に主に関

与していると考えられた。 MPO欠損マウスにおいて梗塞巣が増大した機序とし

て、チロシンのニトロ化が増加し神経障害的に働いた可能性、 MPOがH202を

消去しない結果OH-の生成が増強した可能性が推察された。

【目的]蛋白のニトロ化には、 NOとsuperoxideとの反応で生成される ONOOー

を介する系 1)ないしは myeloperoxidase(MPO)を介する系 2)が関与すると報告

されているが、脳虚血・再濯流傷害においてどの反応系が関与するかは未だ解

明されていない。本研究では MPO欠損マウスを用い、脳虚血・再濯流後の 3・

nitro・L-tyrosine (N02・苛r)の定量および脳梗塞容積に及ぼす MPOの影響を検

討したので報告する。

[方法}対象として雄 MPO欠損マウス 3)29匹、雄 C57Black/6マウス 28匹

を用いた。ハロセン麻酔下で中大脳動脈を thread法で 2時間閉塞後再濯流さ

せ、 14時間後ないし 24時間後に sacrificeし、梗塞巣の同定ないし N02・Tyr

の定量を行った。脳梗塞容積は 2%2,3,5・triphenyltetrazoliumchloride (TTC)

染色により同定し、 digitizerにて梗塞面積を測定後、脳浮腫を較正して梗塞容

量を求めた。 N02・Tyrはanti-nitrotyrosinerabbit IgGとdonkeyanti-rabbit

IgGを用い ELISA法で定量した。なお実験中、神経症候、直腸温、レーザー

ドップラーにより脳血流を測定した。

【結果]1)神経症候、直腸温、脳血流値は 2群間で、差がなかった。2)C57 Black/6

マウスと比較して、 MPO欠損マウスの脳梗塞容積は有意に増大していた(8l:f:20

mm3 vs. 52:!::13 mm3; pぐ0.01)03) C57 Black/6マウスと比較して、 MPO欠損

マウスの脳梗塞半球の N02・Tyrは、虚血・再潅流 14時間群で有意に増加し

-206

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一般演題(口演)

(3.3:!:2.9 vs. 1.4主0.4μg/mg;p<O.O功、24時間群で増加傾向を示した(13.4:!:6.1vs.

9.8:!:4.4μg/mg; p=O.l功。

【考察】 MPO欠損マウスでN02・Tyrの生成を認めたことより、脳虚血/再濯流

においては多核白血球・単球に内在するMPOを介した系より ONOO・を介する

系がチロシンのニトロ化に主に関与していると考えられた。 MPO欠損マウスに

おいて梗塞巣が増大した機序として、チロシンのニトロ化が増加し神経障害的

に働いた可能性、 MPOがH202を消去しない結果OH-の生成が増強した可能性

が推察された。

なお、本報告は 2001年9月JCereb Blood Flow Metabに受理された。

[文献11) Beckman JS, et al. (1990) Apparent hydroxyl radical production by

peroxynitrite: Implications for endothelial injury from nitric oxide. and

superoxide. Proc Natl Acad Sci USA 87: 1620・1624

2) Eiserich JP, et al. (1998) Formation of nitric oxide-derived inflammatory

oxidants by myeloperoxidase in neutrophils. Nature 391: 393・397

3) Aratani Y, et al. (1999) Severe impairment in early host defence against

Candida albicans in mice deficient in myeloperoxidase. Infect Immun 67:

1828-1836

-207-

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脳循環代謝第 14巻第3号

088 実験的脳損傷後における神経再生の可能性についての検討

中村丈洋I,山下史朗I,河井信行1,園塩勝三L宮本修三板野俊文z,長尾省吾1

(香川医科大学脳神経外科1、同生物学2)

外傷後の神経再生の可能性について組織学的組織学的に検討した。雄性ddNマウスを〔要約〕 用い、実験モデルは凍結脳損傷とした。評価方法として組織学的検討(海馬領域の

H&E染色、 TUNEL染色、 nestinおよび、GFAPの免疫組織化学染色)、神経行動学的検討 (8方向迷

路試験)を経時的 (1日、 1週間、 1カ月後)に行った。結果は、 H&E染色および叩NEL染色にお

いて24時間で受傷直下の皮質に損傷がみられ、 1週間後には海馬神経細胞の一部に変性がみられ

た。また1カ月後には損傷部位にmigrationと思われる所見がみられ、これらの一部がnestin陽性で

あった。神経行動学的には、損傷後1カ月では24時間と比較し改善がみられた (p<0.05)。これ

らの変化が頭部外傷後の神経変性に対する神経再生機構の一部である可能性が示唆された。

【目的]実験的に脳損傷後、急性期に周辺領域では脳浮腫や神経細胞障害などの二次的損傷が

経時的に進行することが知られている九しかし、長期的に検討した報告は少なく、慢性期にお

ける神経修復および神経再生の長期的転帰に関する詳細は不明である。最近、中間系フィラメ

ントタンパクであるnestinは神経幹細胞のマーカーとして有用であり、神経幹細胞の研究に広く

用いられている問。本研究では凍結脳損傷モデルを用いて、組織学的にnestinの免疫染色にて内在性の神経再生の可能性、および、神経行動学的に機能再生の可能性について検討した。

[方法】動物は、 25-35gの雄性ddNmouseを用い、頭蓋骨を露出させ右頭頂骨(ブレグマより

1.7mm後方、1.5mm右側方の部位を中心)を液体窒素にて冷却した径3mmの金属片で却秒間凍結冷

却を行い、凍結脳損傷モデルを作成した。実験群として、損傷後の変化を経時的にみるために、

り損傷後1日群、 2)損傷後1週間群、 3)損傷後1カ月群、 4)正常対照群の4群に分けて検討した。な

お、組織学的検討では各群n=3、神経行動学的検討ではn=10で検討した。組織学的検討は、

Hematoxyloin祖 deosin(H&E)染色、 DN地庁片化を組織上で検出するTUNEL染色、免疫組織化学染

色(nestin、GFAP)で検討した。神経行動学的検討は、 8方向迷路試験を用い損傷後の記憶学習機

能を経時的に観察した。迷路は、中心部に待機場所(径22anの円形状)と8方向の放射状通路(長さ

25cm、先端部は閉鎖端)で構成されている。 8本の通路の先端に餌を置きこの餌を全て取り終える

のに何回間違えるか(誤選択数)で評価した。各群において、 1日1回の連続4日間施行した。

【結果〕溜誠学的損討:損傷1日後では、損傷直下の皮質に挫傷性変化がみられた。 1週間後に

は海馬領域に病変の拡大がみられ、 CA1錐体細胞の一部に変性がみられた。 1カ月後には損傷部

位を含む海馬領域に細胞遊走と思われる所見がみられた。損傷1日後において、 H&E染色にて皮

質挫傷の周辺部にTUNEU易性細胞を認めた。損傷1週間後では、 H&E染色でみられた海馬CA1領

域の変性した細胞は1別EL陽性を示した。損傷後1カ月では特にTUNEL陽性細胞はみられなかっ

た。 n巴stinの免疫組織化学染色において、損傷後1日および損傷後1週間群では明らかな発現を認

めなかった。損傷後1カ月群では、 H&E染色でみられた遊走細胞の一部、血管周囲や海馬神経細

胞の一部なと、に脳血を発現する細胞を認めた。 GFAPによる免疫染色を行い遊走細胞の一部と血

管周囲でみられたnestin陽性細胞はGFAPにおいても陽性であったが、海馬神経細胞の一部でみら

れたnestin陽性細胞はGFAPは陰性であった。神経庁易学的樹討:正常対照群と比べ損傷後1日

(p<0.01)、1週間(p<0.01)、1カ月。<0.05)いずれも有意な学習記憶機能の低下を認めたが、損傷後

1カ月は損傷後1日群と比較し改善がみられた(p<0.05)。

-208

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一般演題(口演)

【考察】近年まで、中枢神経系の損傷は一般的に修復不能で神経細胞の再生はあり得ないとさ

れていた。しかし、最近では虚血モデルを中心に神経再生を示唆する報告が散見される以九虚

血に対して脆弱である海馬において、シナプス構造の維持や神経細胞の増加そして遺伝子やタ

ンパクの発現は、障害に対する適応現象であり、海馬の障害から将来的に機能的回復への第一

段階である可能性を示唆している九

中間系フィラメントタンパクであるnestinは神経幹細胞のマーカーとして有用であり、神経幹

細胞の研究に広く用いられている。最近の神経幹細胞に関する研究の発展により、障害された

部位に神経幹細胞を移植することで、中枢神経系の再建の可能性が報告されている九しかし、

臨床応用するには癌化や免疫寛容などの問題が存在する。一方、最近では成獣醤歯類の中枢神

経系において、脳室下層より幹細胞が同定されている同。このことから、幹細胞移植を行わず

に内在性の幹細胞の活性化による再生の可能性も指摘されている凶州。よって、変性した脳にお

いて、内在性の神経幹細胞が失われた神経団路を回復し死滅した細胞の替わりをする能力を保有するか否かが重要となる。

今回の検討では、組織学的に神経変性の指標としてTUNEL染色、また神経再生の指標として

nestinによる免疫染色にて観察を行なった。図1に示したように、損傷後1日では皮質限局であっ

た損傷が、損傷後1週間では損傷部直下の海馬にまで進展がみられ、これらは二次的損傷による

ものと考えられた。また損傷後1週間までにnestinの発現はみられず、この時点では神経変性が進

行しているものと思われた。損傷後1カ月になるとTUNEL陽性細胞はみられず、損傷部位周囲に

種々の形態でnest泊陽性細胞を認めた。この時点では神経変性から再生の段階に進行しているこ

とが考えられた。特に海馬CA1領域におけるradiatum層やlaαmosum層に遊走と考えられる細胞が

みられ、これらの一部がnestin陽性であり、 GFAP染色からグリア系細胞である可能性が示唆された。このほか、血管周囲細胞やこれまでの報告1)と同様に脳室下層にnestin陽性グリア系細胞を認

めた。これらの細胞が遊走に関与していることが考えられる九また、海馬CA1錐体細胞層のな

かにもnestin陽性細胞がみられ、 GFAP陰性より nestin~~'性の神経細胞であると考えられた。しかし、このnestin陽性の神経細胞は、再生に関与するものか、あるいは細胞死に向かうものかはこ

の時点で判断は困難であった。今後、さらなる長期的観察が必要である。また、学習記憶機能

に関しては、損傷後長期にわたり機能低下がみられたが、損傷後1カ月において損傷後1日より

改善がみられ、機能的にも再生の可能性が示唆された。しかし、十分な改善とは言えず、さら

なる改善には後治療が必要となる。よって後治療を病態に合わせ適切な時期に行うことにより、内在性の神経幹細胞を活性化させ再生治療に結び、つくことが今後期待される。

[文献】 (1)Doetsch F, et al. (1999) Ce1l97:703開 716.

(2) Duggal N, et al. (1997) Brain Res 768:1・9.

(3) Johansson 1M, et al. (2000) Eur J Neurosci 12:3615-3625.

(4) Kaya S, et al. (1999) Brain Res 840:153・157.

。)Liu J, et al (1998) J Neurosci 18:7768-7778

(6) Monrna S, et al. (200町Curr句,iNeurobiol10:45-49.

σ) Nak:amura T, et al. (2001) Neurosurgery 49:706・714.

(8) S町derEY,巴tal. (1997) Proc Natl Acad Sci USA 94:11663・11668.

(9) White BC,et al. (2000) J Neurol Sci 179: 1・33.

曲目。finjury

de且encraljonl-day after injury

dcgeneration l-weekafterinjury

migration changc l-month after injury

-209一

図1.凍結損傷後における組織上の変化

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脳循環代謝第 14巻第3号

090 STZ誘発 I型糖尿病ラットにおける preconditioningによる

脳内一酸化窒素(NO)産生動態の検討

島津智一、荒木信夫、大久保毅、浅野賀雄、津田雅彦、武井和夫、大熊 彩

島津邦男

(埼玉医科大学神経内科)

〔要約)Streptozotocin誘発 I型糖尿病ラット(STZラット)における ischemicpreconditioning後の虚

血・再濯流負荷に対する脳内 NO産生を検討した.NOは invivo microdialysis法により線条体と海馬

の N02・と N03・濃度を測定した.Preconditioningは、脳虚血負荷 140分前に 5分間の両側総頚動脈結

殺を 2回行なった.海馬の totalNOはpreconditioning後に増加した.線条体の N03・は、 preconditioning

群(PC群)の再濯流後 100・110分値で control群(C群)に比し低値を示した(p<0.05).海馬の N03・は、

PC群の虚血 10分後で C群に比し高値、再濯流40・80・90分後でC群に比し低値を示した(p<0.05).

以上から、糖尿病モデル動物である STZ誘発 I型糖尿病ラットにおける preconditioningは再濯流後

のNO産生を抑制し、 NOによる再濯流後の神経細胞傷害を抑制する可能性が示唆された.

[目的】近年、短時間の虚血により、その後の強い虚血に対して耐性を誘導できることが報告され

てきたし 2) 従来、虚血耐性の獲得には数日要することからdelayedischemic preconditioningと呼ばれて

きたが、最近Staglianoら3)はearlyischemic preconditioning即ち、短時間の虚血曝露後、短時間で虚血耐

性を獲得する現象がマウスの脳で起こることを明らかにした.これまで我々は、 WistarratやSHRラッ

トを用いてbrainischemic early preconditioningを行い、虚血耐性に脳内NO産生の抑制が関与することや、

streptozotocin誘発 I型糖尿病ラット(STZラット)で脳虚血・再濯流時に脳内NO産生が充進することを報告

してきた.そこで今回、脳卒中のリスクファクターである糖尿病モデルのSTZラットを用い、 early

ischemic preconditioningによる虚血耐性を誘導した際のNO動態を検討した.

【方法】 対象は雄性 Wistarrat 13匹を用い、実験 2週間前に streptozotocin(45mg/kg)を大腿静脈より

注入し STZ誘発 I型糖尿病ラットを作製した Control群は 7匹 (C群、体重 233土41g) (mean土

SD)、preconditioning群 6匹 (PC群、 320土49g)の2群を用いた.Pentobarbital (40mg/kg) の腹腔内

麻酔後、脳温と直腸温を heatinglumpおよび padを使用し 37ル37.5tに管理した.大腿動静脈にカテ

ーテルを挿入し血圧測定と脱血・血液再注入用とした.微小透析プローブをー側線条体と海馬にそ

れぞれ stereotaxicに刺入後、 invivo microdialysisを施行し、脱気リンゲル液を 2μI/minで2時間の謹

流を行い、その後 10分毎に濯流液を回収した.脳虚血は Smithの方法に従い、両側総頚動脈結紫後、

脱血により平均動脈血圧を 50mmHg以下に維持し、前脳虚血を 20分間負荷した.その後、再濯流・

血液再注入し 120分間観察した.Preconditioningは、脳虚血負荷 140分前に 5分間の両側総頚動脈結

紫および再濯流を 2回行なった.実験終了後、瀧流液中の nitrite(N02・)と nitrate(NOf)濃度を Griess

反応で定量的に測定し比較検討した.また反対側の阿部位でレーザードップラ一血流計プロープに

より局所脳血流量を連続的に測定した.NOおよびrCBFは虚血前値に対する経時的変化を 2群聞で

検討した.推計学的検討には ANOVA(Fisher F-test)を用いた.

210一

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一般演題(口演)

【結果J(1)血圧:虚血は C群 50土6mmHg(平均動脈血圧)(mean土SD)、PC群 50:!:3で、虚血前お

よび再濯流においても 2群間で有意差を認めなかった.(2) rCBF : [線条体]PC群・ C群間に差を認

めなかった. [海馬]PC群は再濯流 20、30、50、60、80、120分で、 C群に比し有意な高値(p<0.05)を

示した (Fig.1).(3) Preconditioning前後 NO産生:海馬の NO産生量は preconditioning後に増加した

(Fig.2). (4)虚血後NO産生:[線条体]N02・および、totalNOは両群聞に差を認めなかった.N03・は、

PC群の再濯流 100・110分後(106土26.5%; mean:!:SD・110土22.9)で C群(140土8.1 ・144:!:6后)に

比し低値(pく0.05)を示した. [海馬]N02"は両群聞に差を認めなかった.N03・は、 PC群の虚血 10分値

で C群に比し高値、再濯流 40(128土28.8)・80・90分後で C群(195土56.0)に比し低値(p<0.05)を示

した (Fig.3).

rCBF

刊川

%MW

'4

,,

150

100

50

。Fig.l

基礎 TotalNO産生 NO. .Hippocampus. .Hippocampus.

300 4ト PC 群群{。Ph6 J ,ra eoPI t ssmm j

トー-p < 0.05 一一一→ % -0-C ff (n= 7; mean:t

10 -1 250 • p < 0.05

「vd-ー戸ーーFー曙'

E 200

ミ 5 150

字ラ三 100

50 l虚血1PC前 後 青函漏

Fig.2 PC群 Fig.3

【考察】本研究結果から、糖尿病モデル動物である STZ誘発 I型糖尿病ラットにおける再潅流後の

線条体、海馬でN03・の産生量は earlyischemic preconditioningにより増加が抑制された.early ischemic

preconditioningの NO産生に関する報告としては、 NOSinhibitorを用い、 SDratにおいて、虚血耐性

獲得に NOが関与することが報告されている 4) 我々も invivo microdialysisを用いて NOの代謝産物

である nitrite(N02・)と nitrate(N03')濃度を測定し、 Wistarratのearlyischemic preconditioningで再

擢流早期に線条体の N02"産生が抑制されることを明らかにした.STZラットを用いた中大脳動脈の

虚血・再濯流モデルでは、 L-NAME投与後に対照群に比して有意に梗塞巣が縮小したことより、 STZ

ラットでは虚血後の脳細胞傷害にNOが重要なmediatorとして深く関与した成績が報告されている 5)

以上の報告から、 STZ誘発 I型糖尿病ラットにおいて earlyischemic preconditioningにより再濯流後

の NO産生が抑制された本成績は、糖尿病モデル動物において earlyischemic preconditioning 後の、

脳虚血耐性の獲得に NO産生の抑制が重要な因子である可能性が示唆された.

【文献}

(1) Kitagawa K, et al.( 1990) Brain Res 528 :21-24

(2) Kirino T, et al.(1991) J Cereb Blood Flow Metab 11:299・307

(3) Stagliano NE, et al.(l999) J Cereb Blood Flow Metab 19:757・761

(4) Gidday J.M, et al.(1999) J Cereb Blood Flow Metab 19:331・340

(5) Michael J, et al.(l995) Brain Res 677:204・212

-211

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脳循環代謝第 14巻第3号

091 血行カ司直前脳虚血患者における 11C・伽m健制嚇を用いた陀T紺刈y

〔要約〕

語"'.鼠"小箆原輝晴、小林正和、安田量、笹生.之、紺嘗底、小111・9岩手量制大串値神峰外純

E目的1)"C...flumaz酬は大筒度買に分布する除問叫a捌随時開ptorに特員約に錨合する

υガンドである.書々".主... 問書佳膚奮を持つ書倒に対しτ町r.随行し踊麗轟繍費

量と怯師協鵠酬の同僚を比般槍討した.

E対象と方漉3封書院は肉扇動属議に..憧嫡寵を有する 13.倒である.会側艶檀1ヶ月以降

@慢憧"に陀T..持した.C'句、ー勺z、H2'句3から闘血涜量、雌.轟慎取率、踊.鷹泊費

量..定した.ぬ町陽Z町曜日について肱脇信留を対照として帽対的鎗倉健を算出した.関心領域

肱個臨書前角.魁緯膨大鼠及び拳'問中心のSス,イス土で司回大踊働属領蟻に揖置した.

E舗.J踊.寝泊賓量と俺m回制湖錨合鍵との聞には有憲な亙@相闘が寓められた

(f'I・O.758,P<O.制問).しかし..止舗檀憲繍費量陪低下しているものの、組前雌創鳴館合鍵

は僚たれている祇.が存在した.

E館町 "C-fIumo舗による陀T・鼠踊.禽代制画像と額制していた.しかし、ぬm躍倒

錯倉健が低下していな〈と唱』脳・a鋪質量が低下している祇.が存在し、これは可避的な儲.

憶障書を示す可飽憶がおると脅えられ、今.舗備が必聾であると思われた.

212

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一般演題(口演)

092 頚動脈閉塞性疾患における acetazolamide反応性と PETパラメータとの関連

についてー定量的解析ー

黒田敏、宝金清博、岩崎喜信、志賀 哲、加藤千恵次、玉木長良

北海道大学医学研究科脳神経外科学分野、核医学分野

【目的】近年、 PETにて測定される OEFは内頚動脈閉塞症における脳梗塞再発の危険性を

予知するための重要な因子であることが明らかとされている。一方、より汎用性の高い

SPECTで測定される acetazolamide反応性も、最近の知見では、評価方法が正しく行な

われれば、同様の役割を果たし得ることが判明した。しかし、これまでいくつかの報告で

ace同zolamide反応性の障害された領域では、統計学的に有意に OEFが上昇していると

されているものの詳細な検討はなされていない。今回、われわれは頚動脈閉塞性疾患の症

例において、。cetazolamide反応性と PETパラメータとの関連について定量的な解析を

実施したので報告する。

【対象、方法]対象は 1999年から 2001年に当科を受診した 44例である。全ての症例が

以下の cri↑eriaを満たした。すなわち、 1)TIAあるいは軽症脳梗塞で発症し、 2)DSAにて

内頚動脈あるいは中大脳動脈水平部に閉塞あるいは高度狭窄(90%以上)を有し、 3)血管病

変はー側性であった。発症後 4週以降に、 SPECT(1231-IMP ARG法)により、 rCBFに加え

て acetazolamide反応性(rCVR)を測定し、その結果から 4型に分類した。また、ほぼ同

時期に PET(150 gas吸入法)により、 rCBF、rCMR02、rCBV、rOEFを測定し、その結果

は反対側に対する比として算出した(ipsilateral/contralateralratio; I/C ratio)。

【結果】 SPECT上、 5fYtlがType1 (rCBF、rCVR正常)、 2例が Type2 (rCBF正常、 rCVR

低下)、 23例が Type3 (rCBF、rCVR低下)、 14例が Type4と診断された。 PET上、 Type1

の症例では、 PETのパラメータはいずれも I/Cratioが1.0前後で、あった。 Type2の症例

では、 rCBF、rCMR02、rOEFの I/Cratioは1.0前後で、あったが、 rCBVの I/Cratioは1.2

以上と上昇していた(Powers'針。ge1)0 Type 4の症例では、 rCBF、rCMR02の I/Cra↑io

は 0.9以下、 rCBV、rOEFは1.0前後であった(ischemia・inducedhypometabolismまた

は matchedpeげusion)。したがって、これら Type1、2、4の症例では、 SPECTの結果

から脳酸素代謝のパラメータをほぼ予測可能であることが示唆された。これに対して、

Type 3の症例では、 rCBFの I/Cratio は SPECTと同様、 0.85以下であったが、 rCMR02

は 0.65"-'1 .20、rCBVは 0.88"-'1 .25、rOEFは 0.78"-'1 .6と各症例によって大きくばらつく

ことが判明した。

rOEFのI/Cratioが1.1以上の例は23例中ヲ例(39%)であり、ほかの 14例(61%)ではrOEF

の I/Cratioは1.1未満であった。 rOEFの I/Cr,αtioとrCMR02の I/Cratioは有意な正の

相関を示し、 rOEFのI/CratioとrCMR02のI/Cratioも同様に有意な正の相関を示した。

また、 10症例における 11C-flumazenill (FMZ)を用いた PETの検討から、 rOEFが上昇し

ている領域では、 lIC-FMZの bindingpotentialが維持されているものの、 rCMR02低下、

213

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脳循環代謝第 14巻第3号

r OEF正常の領域では、 llC-FMZの bindingpotentialが低下していた。

【考察、結語】これまでもわれわれは視覚的検討から Type3の症例では、 rOEFが上昇し

ている例(Powers'針。ge"または miseryperfusion)と,Type4と同様、 rCMR02が減少し

r OEFが上昇していない例が混在していることを報告してきた。今回。 PETパラメータの

定量的解析からもこれが証明された。

今後、 SPECTで Type3と診断された症例の中から、いかに真に rOEFが上昇している

針。ge" (misery perfusion)の症例を PET以外の modalityでも検出するかを検討する必要

がある。今回の検討からは、 SPECTあるいは perfusionMRIにて rMTTを算出したり、将

来的に 1231-iomazenil(IMZ)が利用可能となれば、これらの目的を達することができるか

もしれない。

-214一

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一般演題(口演)

093 SPM解析法による PETのてんかん焦点局在診断に対する有用性の検討

〔要約〕

太田禎久、成相直、今江省吾、大野喜久郎、石井賢二*、石渡喜一*

(東京医科歯科大学医学部脳神経外科、*東京都老人総合研究所)

F胃 18FDGPETを用いたブドウ糖代謝低下域およびC・11Fluma民 nil(FMZ) PETを用い

た中枢性ベンゾジアゼピン受容体結合能低下域の分布を、Statisticalparametric mapping (SPI¥めによる統計学的解析法により明らかにし、難治側頭葉てんかんの術前診断としての

有用性を検討した。その結果、 F-18FDG PETはてんかん焦点側を極めて高率に示唆した。

一方、 C・11FMZPET単独では、てんかん焦点側の描出能は必ずしも高くなかった。しか

し、てんかん焦点の局在は、 F・18FDGPETよりも良く描出していた。結局、難治側頭葉

てんかんの術前検索では、両者を併用し、 F・18FDGPETで高い異常検出能を保ちながら、

C-11 FMZPETで正確な焦点診断を行うことが肝要であると考えた。

【目的1我々は、難治てんかん症例に対する外科的治療の為の術前てんかん焦点診断の重

要な検査モダリティーの 1っとして、 PETによるブドウ糖代謝および中枢性ベンゾジアゼ

ピン受容体結合能測定を行ない、焦点診断に極めて有効である事を報告してきた。しかし、

従来の我々の方法は、各症例のMRI画像と同一スライスに再構成した PET画像を視察的

に検討しており、客観性に欠けると言う欠点があった。そこで今回我々は、 PETの結果を

Statistical parametric mapping (SP切により統計学的に解析し、焦点診断における PETの有用性を検討した。

【方法]対象は、難治側頭葉てんかんの診断で前側頭葉切除術後 1年以上を経過した 11症例 (18-45歳、平均 32.5歳)。全例術前検索として、 PETにより F・18FDGを用いたブ

ドウ糖代謝およびC-11Flumazenil (FMZ)を用いた中枢性ベンゾジアゼピン受容体結合能

を測定した。発作型、頭皮脳波所見、皮質脳波所見、 MRI、PETによる視察的検討などに

より焦点側を決定し、前側頭葉切除術を施行した。切除側は左8例、右 3例であった。手

術成績は、 Engelの分類で Class1が8例、 Cl槌 s3が3例であった。 PETはHeadtomeJV

(Shimadzu, Kyo旬)を用いて行なった。局所ブドウ糖代謝測定は、 150MBqのF-18FDG を静注後、 45分後より 12分間 Staticscanを行ない、 Standardizeduptake valueを算出

した。中枢性ベンゾジアゼピン受容体結合能測定は、 500MBqのC・11FMZを静注後、

60分間動脈採血を行ないながら Dynamicscanを行ない、 2コンパートメントモデルによ

りDistributionvolumeを算出した。各症例の F-18FDGおよびC・11FMZ PET所見を

SPM99により統計学的に検討した。 F・18FDGPETデータの標準化には SPM99cerebral blood flow templateを用いた。又、 C・11FMZPETは各症例の PETデータを個々のMRIに重ね合わせた後、まず SPM99MR T1 image templateにより MRIを標準化し、同ーの

パラメータを用い PETデータも標準化した。スムージングは 15mmFWHMで行なった。

F・18FDGPETは12名(46・77歳、平均 64.3歳)、 C・11FMZPETは5名(22・23歳、平均

22.6歳)の正常対象者と、ボクセノレごとに統計学的に検討し、 p<0.05.で低下している領域

を有意とした。

215

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脳循環代謝第 14巻第3号

【結果)F-・18FDGPETは11例中 10例 (91%)で、側頭葉切除側優位のブドウ糖代謝低

下を示した。残りの 1例は、対側側頭葉でブドウ糖代謝が低下していた。一方、 C-11FMZ

PETは7例で検討可能であったが、 3例 (43%)で切除側側頭葉内側で中枢性ベンゾジア

ゼピン受容体結合能が低下していた。これらの症例では、結合能低下域はブドウ糖代謝低

下域よりも狭く側頭葉内側に限局しており、実際のてんかん焦点を良く反映していた。そ

の他の症例は、 2例は両側性で明らかな左右差がなく、 1例は対側側頭葉で中枢性ベンゾ

ジアゼ、ピン受容体結合能が低下していた。残りの 1例は中枢性ベンゾジアゼ、ピン受容体結

合能低下域が検出できなかった。 F-18FDG PETの結果のみで切除側を決定した場合、術

後発作が消失する確率は 64%(11例中 7例)で、あった。切除側の決定を F・18FDG PET

とC-11FMZPETの両者で、行なった場合、 100%(3例中 3例)で術後発作消失した。

【考察]難治側頭葉てんかんの外科治療における術前検索として、 PETは重要な検査モダ

リティーの 1つである。てんかん焦点およびその周囲では、発作間欠期にブドウ糖代謝が

低下しており、 F・18FDGPETは焦点診断に有用であると報告されている。今回の報告で

も、 F・18FDGPETのSPM解析は、側頭葉切除側を決定するのには極めて有用であるこ

とがわかり、難治側頭葉てんかんの術前診断としては必須であると考えた。一方、てんか

ん焦点では、抑制性神経受容体である中枢性ベンゾジアゼピン受容体の結合能が低下して

おり、中枢性ベンゾジアゼピン受容体の桔抗薬であるFlumazenilを用いた C・11FMZ

PETで、結合能低下域として描出される。今回の結果からは、 C-11FMZPET単独では、

焦点側を決定するには必ずしも充分ではないと言える。しかし、中枢性ベンゾジアゼピン

受容体結合能低下域は、ブドウ糖代謝低下域よりも狭く、かっ実際のてんかん焦点である

側頭葉内側に限局していることから、難治側頭葉てんかんの焦点局在診断に重要な情報が

得られると考えられた。結局、難治側頭葉てんかんの術前検索では、 F・18FDG PETと

C・11FMZ PETの併用が、高い異常検出能を保ちながら (F-18FDG PET)、正確に焦点

診断を行う (C・11FMZPET)ために有用であると考えた。

216一

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一般演題(口演)

094 COXによる脳循環調節機構-COX-lの役割についてー

〔要約〕

松田博,丹羽潔,川口千佳子,篠原幸人

東海大学医学部内科学系神経内科部門

脳循環調節機構における COX-l の役割につき検討した. C57/BL6 マウスに

Cyclooxygenase-l (COX-l)阻害薬 Resveratrolを脳局所投与し,その前後で口髭刺激,

炭酸ガス吸入,内皮依存性血管拡張物質投与による脳血流増加反応をレーザードップラ

ーにて観察した.内皮依存性血管拡張物質のうち bradykinin(BK), Ca ionophore (A23187)

投与時 s また内皮非依存性反応と考えられる炭酸ガス反応性は Resveratrol投与後に脳血

流増加反応は有意に低下し, COX-l が関与した反応と考えられた.一方, acetylcholine

(ACh)投与時 3 神経活性化時の脳血流増加反応は Resveratrol投与の前後で有意な変化が

みられず, COX-lが関与しないと考えられた.

【目的] COXは脳循環調節に影響を及ぼすとされ,その isoformとしては構成型の

COX-lと誘導型の COX-2が知られている. COXは脳虚血に対する保護作用があるとさ

れるが,脳循環調節にどのように作用するかは不明の点が多い.我々はすでに口髭刺激

による神経活性化時の脳血流増加反応には COX-2が重要な役割を果たしているという

報告(1)をしているが, COX-lに関しては脳循環調節にどのような影響があるか不明の点

も多い.今回我々は 3 食物由来の COX-l間害薬である Resveratrolを脳局所投与し 3 脳

循環調節に及ぼす影響を検討した.

【方法】 実験には雄 C57/BL6Jマウス (20・30g)24匹を使用した. 1.5%ハロセン吸入

麻酔下で両側股動脈にカテーテルを挿入後 3 左頭頂葉 whiskerbarrel cortex上に頭窓

(dura removed)を作成した.その後,麻酔をクロラロース (50mg/kg)およびウレタン

(750mg/kg)の腹腔内麻酔に変更した.脳血流は頭窓を介し,レーザードップラーにて

測定した.頭窓は Ringer液で持続濯流し,麻酔変更 1時間後にまず 3 口髭刺激, 5%炭

酸ガス吸入 (PaCO2 ; 50-60 Torr)及び acetylcholine(ACh ; 3μM), bradykinin (BK ; 50

μM), Ca ionophore (A23187 ; 3μM)の各種脳血管拡張物質による脳血流増加率を観察

した.次に Resveratrol(100μM)を 60分間脳局所投与し,再度各種脳血流増加反応を

再度測定した.

-217

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脳循環代謝第 14巻第3号

【結果】 Resveratrol局所投与の前後で,生理学的パラメーターの有意な変化は認めら

れなかった.口髭刺激時, ACh濯流時の脳血流増加反応は Resveratrol局所投与の前後で

有意な変化を認めなかった.一方,炭酸ガス吸入時, BK濯流時, A23187濯流時は

Resveratrol局所投与後に脳血流増加率の有意な低下 (p<O.Ol)を認めた.

100

_ 75 0 ω 旬。‘ー0 .5 50 求、.... L m U 25

口 Ringer• Resveratrol (100 pM)

* p<0.01 from Ringer

ACh (100pM)

BK (50pM)

A23187 (3pM)

C02

n=6

vibrissal sti町1

【考察】 内皮依存性の血管拡張反応を来たす物質のうち, bradykinin, Ca ionophoreは

COX-1が関与した反応を来たすと考えられた.また内皮非依存性の血管拡張反応を来た

す炭酸ガス反応性についても COX-1が関与していると考えられた.一方 COX-2が関与

していると考えられている神経活性化時の脳血流増加反応には COX-1 は関与していな

いと考えられた.

【文献】

(1) Niwa K, Araki K, Morham SG, Ross ME, ladecola C. (2000) J Ne旧 osci.20: 763-770.

-218-

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一般演題(口演)

095 高血圧自然発症ラットの脳血流自動調節下限域に対する

アンジオテンシンII受容体桔抗薬パルサルタンの効果

高田潤一,井林雪郎,大星博明,北園孝成,藤島正敏,飯田三雄

九州大学大学院医学研究院病態機能内科学

〔要約〕今回我々は,高血圧モデルにおけるアンジオテンシンII(AII)受容体桔抗

薬パルサルタンの脳血流自動調節に対する急性効果について検討した.雄性高血圧

自然発症ラット(SHR)を用い,アモパルビタール麻酔下に,パルサルタン投与群には

パルサルタンを0.3rng/kgで,対照群には生食をそれぞれ静脈内投与し, 15分安静

後,頭頂部脳血流(CBF)を測定しながら脱血によって10mmHgずつ降圧を行った.

投薬前のCBFを前値として投薬後15分と各血圧レベルでのCBF(%変化)を求めた.

CBFが前値の80%に減少する血圧レベルを脳血流自動調節下限域と定め, 2群間で比

較した. パルサルタンの急性投与によって, CBFに変化はみられなかったが,血圧

は有意に低下した.脳血流自動調節曲線はパルサルタン投与によって有意に左方偏

位し,自動調節下限域は対照群の135土4mmHgに比しパルサルタン投与群では122

土3mmHgと有意に低値であった(P<0.05). これらの結果から,パルサルタンは高

血圧患者の脳血流自動調節に有益な効果を有する可能性が示唆された.

【目的】アンジオテンシンII(A II) 1型(AT1)受容体措抗薬は高血圧患者の心血管系

臓器障害を予防する降圧薬の1つとして期待されている.しかしながら,脳血流自動

調節能に対する効果については一定した結果が得られていない.AII受容体のうち

AT1受容体に対して,より選択的な阻害作用を有するパルサルタンを用い,高血圧

自然発症ラット(SHR)の脳血流およびその自動調節下限域に対する急性効果を検討

した.

{方法】雄性SHR(n=6)を用い,平均動脈圧(MAP)を10mmHg上昇させるAIIの投

与量を決定し,そのAII投与による血圧上昇を阻害するパルサルタンの至適投与量お

よび効果発現時間を検討した.前記で求めた至適用量のパルサルタン投与群(n=7)と

生食投与の対照群(n=7)の2群で, laser-Doppler flowmetryを用いて頭頂部脳血流量

(CBF)を測定した.脱血によって10mmHgずつ降圧し,投薬前のCBFを前値として

投薬後15分と各血圧レベルでのCBF(%変化)を求めた. CBFが前値の80%に減少す

る血圧レベルを脳血流自動調節下限域と定め, 2群間で比較した.

【結果】パルサルタン0.3および3.0rng/kgを静脈内投与すると,AII (100ng/kg iv)

の昇圧効果を90分以上阻害した.0.3mg/kgでのバルサルタン急性投与では15分後

のMAPを184:1:5mmHg(平均±標準誤差)から174土5mmHgに有意に低下させた

(P<O.OOl)が, CBFには有意な変佑は認められなかった.脳血流自動調節曲線はパル

サルタン投与によって有意に左方偏位した(p<O.05,図1).対照群の自動調節下限域

219一

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脳循環代謝第 14巻第3号

は135土4mmHgであり,パルサルタン投与によって下限域が122:1:3mmHgと有意

に低下していた匂<0.05).

【考察】 AT1受容体詰抗薬の脳血流自動調節への効果については,これまでにロサ

ルタンは自動調節曲線を右方偏位させ,カンデサルタンは左方偏位させると報告さ

れている.パルサルタンが脳血流自動調節に関わるレベルの脳血管にどのように作

用しているのか,つまり,平滑筋細胞のAT1受容体に作用しているのか,内皮細胞

のAT1受容体に作用するのかは今後の検討課題であるが,今回,パルサルタンはロ

サルタンと異なり自動調節曲線を左方偏位させた.その要因としては,パルサルタ

ンのAT1受容体への親和性がロサルタンより5倍高いこと(文献1)と, AT2受容体に比

しAT1受容体への選択性が30,000倍高い(文献2)というパルサルタンの特性にあると

推測される.

【結論】バルサルタンはSHRにおける定常脳血流には影響を与えず,脳血流自動調

節下限域を左方へ偏位し,高血圧患者の脳血流に対する有益な効果を持つことが示

唆された.

【文献]1. Gasparo M, et al. (1995) Regul Peptides 59:303-311

2. CriscioneL, et a1. (1993) Br J Pharmacol110:761-771

図 1 脳血流自動調節曲線

流昨U

山、/ハU

ハU

ハU

ハU

ハU

ハU

M剛

%

ω

8

6

4

2

nHHMft、「

l

一・一対照群

ー0ーパルサルタン群

60 80 100 120 140 160 180平均動脈圧(mmHg)

-220一

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096

一般演題(口演)

血小板由来成長因子による脳血管の持続的狭小化及び

Trapidilによる脳血管軍縮緩解効果に関する研究

張志文、柳本広二、永田泉、酵脊障、村尾健一、飯原弘二、菊池晴彦

国立循環器病センター脳血管外科、脳血管障害研究室

〔要約) Thrombin刺激により血管平滑筋にて産生されると考えられる血小板由来成長因子

(PDGF'BB)の脳血管に対する作用を検討すると共に、クモ膜下出血(SAH)後の脳血管筆縮維持にお

ける PDGF'BBの関与を調べる目的に、 PDGF阻害剤である trapidilの完成した脳血管掌縮に対する

効果を検討した。正常家兎のクモ膜下腔に注入した recombinantPDGF' BBは、注入後 24時間をピー

クとする遅発性持続的脳血管狭小化を生じた。一方、 SAH作成2日後に行った経静脈的、あるいは経

動脈的trapidilの投与(1.5mg/kg/30min)は、脳血管撮影上で観察される筆縮血管を著しく拡張させ

た。 PDGF'BBは、 SAH後脳血管肇縮の発生及びその維持に関与することが示唆された。

【目的】:すでに我々は、クモ膜下出血(SAH)後の急性期にクモ膜下腔にて生じるセリン蛋白分解酵

素の一つであるthrombinの活性化および血管壁でのPDGF.BBの発現が脳血管撃縮進展に関与する

ことを報告した(1,2)。 本研究では、 thrombin刺激により血管平滑筋にて産生されると考えられる

血小板由来成長国子 (PDGF'BB)の脳血管に対する直接作用を調べた。 さらに、 PDGF'BBの脳

血管掌縮維持における関与を調べる目的に、 PDGF.BB阻害剤を完成した脳血管肇縮に投与し、その

後の血管径の変化を観察した。

【方法]:平均体重約 3kgの雄性日本白色正常家兎の CisternamagnaにrecombinantPDGF. BB, 5

μg (n=10)あるいは、 vehicle(n=10,同用量の 0.2%albumin)を注入し, その直後より 2日間にわ

たる脳血管撮影を行い、脳底動脈径を経時的に観察した。 また、別の動物群を用い、全身麻酔後、

自家動脈血 lmlをcisternamagnaに注入することによって SAHを作成した。 SAH前 (day0,

100%)および、その 2日後 (day2)に、椎骨動脈撮影(DSA)を行い、個々の脳底動脈の血管径(%)

を計測した。 Day2にtrapidilを持続的経静脈 (n=7)あるいは経動脈的 (n=5)にて投与開始(1.5

mg/kg, 30min)し、その後 90分間にわたり脳底動脈径の変化を観察した。

[結果]: Recombinant PDGF. BBをクモ膜下腔に注入した場合の脳底動脈径; 前値、注入 15分後,

1,6,24,48時間後の値はそれぞれ 920::t40,940::t30, 810::t30, 680土50,650::t50, 750::t50μmで

あり、注入後 24時間をピークとする遅発性持続的脳血管狭小化を生じた σig.l)。一方、SAH-Day2

で脳血管撃縮確認の後に行った PDGF.BB阻害剤の効果に関する研究では、trapidil投与開始前、 15,

30, 60及び 90分後の血管径は、静脈内投与群において 64::t2.6,84::t4.5, 89士1.0,82::t4.1, 75土

2.3%であり、動脈内投与群では、それぞれ 70::t2.3,82::!::3.0, 85::t2.5, 80::!::4.4、 76土1.1%であり、

いずれも有意な筆縮血管拡張作用が認められた(Fig.2,Fig勾。

-221-

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脳循環代謝第 14巻第3号

Fig.l Fig.2 Fig目3

;醐"ωEfホ'ect0' Intrac脂ternallnjectlonof POGF・88。nRabblt Basllar Arte叩

土 EDGEFSs

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Effect of Trapldll (I.V.) on Cerebral Vasospasm E栴 ctof Trapldll (I.A.) on Cereb悶IVasospasm

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【結論]:PDGF.BBは、クモ膜下腔に注入後、 24時間をピークとする脳血管撃縮様の遅発性かっ持

続的脳血管の狭小化を示した。一方、 PDGF.BB阻害剤である trapidilの静脈あるいは動脈内投与は

完成した脳血管撃縮を有意に拡張させた。

【考察ト我々は既に家兎 SAH後に生じる撃縮脳底動脈に PDGF-BBの発現が増強し、その発現増強と血

管掌縮の強度が相関することを報告した (1,2)0 PDGF-BBは血管平滑筋細胞に対する強力な増殖・

遊走因子としての機能のみではなく、ラット大動脈を強く収縮する作用をも有することが、 exvivoの

系にて報告されている (3)。しかしながら、その血管反応性はL即時型であり、脳血管に対する効果お

よび持続的な収縮を示す脳血管筆縮との関連は不明であった。本研究では、クモ膜下腔に直接投与さ

れた PDGF-BBが脳底動脈を遅発的、持続的に収縮させることが初めて示された。そして、この血管反

応性は、クモ膜下出血後の脳血管撃縮の経過に酷似していた。 また、PDGF-BBの阻害剤である trapidil

は SAH後すでに完成した脳血管撃縮に対し、強力な血管拡張作用を有することが示された。 すな

わち、 PDGF-BBが脳血管掌縮の発生およびその維持に関与していることが示唆された。 PDGF-BBの正

常脳血管に対する収縮作用の機構、並びにその阻害剤で、ある Trapidilの肇縮血管拡張機構は今後のさ

らなる研究を必要とする。 Trapidilは、脳血管聖堂縮の予防および治療に有効である可能性がある。

【文献1

l. Zhang,Z.; Nagata,I.; Kikuchi,H.; Xue,J-H.; Yanamoto,H. Effects of specific thrombin inhibitor, Arga釘obanon

experimental cerebral vasospasm and PDGF-BB expression. J Cereb Blood Flow恥1etab2001; 21(suppl): S202

2. Zhang,Z.; Nagata,l.; Kikuchi,H.; Xue,J-H.; Sakai,N.; Sakai,H.; Yan創noto,H.Broad-spectrum and selective

serine protease inhibitors prevent expression of platelet-derived growth factor-BB and cer巴bralvasospasm a食er

subaracnoid hemorrhage: vasospasm caused by cistemal injectin of recombinant platelet-derived growth

fator-BB. Stroke 2001;32:1665

3. Berk,B.C.; A1exander,R.W.; Brock,T.A.; Gimbrone,Jr.M.A.; Webb,R.C. VasoconstrIction: A new activity for

platelet-derived growth factor. Science 1986; 232: 87

222一

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一般演題(口演)

097 摘出ブタ脳血管収縮におよぼす静脈麻酔薬の影響

冨士原秀善、呉超然、福田悟*、下地恒毅

新潟大学医学部麻酔科学教室、*福井医科大学医学部麻酔・蘇生学教室

〔要約〕

ブタ摘出脳血管を用いて収縮のカルシウム感受性冗進に対する

静脈麻酔薬プロポフォールの影響を、細胞膜無傷標本、細胞膜可透化標本

の等尺性張力を測定することにより検索した。

(目的)静脈麻酔薬プロポフォールは、体血管拡張作用を有するが、脳循

環におけるプロポフォールの直接作用についてはよく知られていない。そこでプロポフォールの脳血管におよぼす作用について、 1 )脱分極刺激またはGTP結合タンパクを介する収縮(prostaglandinF2α)、2)細胞

膜可透化標本における prostaglandinF2α/ GTPySあるいはフォルボー

ルエステルによる収縮のカルシウム感受性元進、に対するプロポフォー

ルの影響を検索した。

(方法)摘出ブタ脳血管条片の等尺性張力を測定した。データは、最初の40mM K+または、 prostaglandin F2α10-5Mによる収縮に対するパーセ

ン卜あるいは30μMCa2+による最大収縮(細胞膜可透化標本)に対する

パーセントで示した。統計は、一元配置分散分析により行った。

(結果) 細胞膜無傷標本においては、プロポフォール (10一100μM)は40mM K+刺激による収縮を prostaglandinF2α10-5Mによる収縮よりも

有意に抑制した。細胞膜可透化標本においては、プロポフォール (30-

100μM)は、一定のカルシウム濃度下で (pCa6.5) prostaglandin F2α10-

5M, GTPyS, phorbol 12,13 dibutyrateによる収縮のカルシウム感受性冗

進を抑制しなかった。

(総括)プロポフォールは、脳血管平滑筋において、脱分極刺激による細

胞外からのカルシウム流入を抑制すると考えられた。 prostaglandinF2α

/ GTPySによる収縮のカルシウム感受性元進は、 Rho-Rho-kinaseを介

すると考えられているが、これらはプロポフォールにより影響を受けな

かった。以上から、プロポフォールは、脳血管撃縮のような脳血管障害に

は、あまり有用でない可能性が示唆された。

-223-

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脳循環代謝第 14巻第3号

099 マウス中大脳動脈の直接把持による

虚血再潅流モデル作成の試み

寺尾聴,関塚永一¥山口員,Ij之・¥石川真実“事,河瀬斌・・・

国立埼玉病院脳外科f同臨床研究部,・事浦和市立病院脳外科Y.事慶慮義塾大学脳外科

〔要約〕マウス CI,倒edcranial window法にはノックアウトマウスを対象動物として選択できる利点

があるが、 threadによる一般的な虚血再擢流モデルとの併用を考えた場合、腹臥位での釦伺dの挿

入操作が技術的な障害となる。そこで中大脳動脈の直接把持により腹臥位でのマウス虚血再権流モ

デルの作成を試みた。【方法】 C571BL6mo蝋 20-25g)をα-chloral舗と脱出蹴の腹腔内投与下に麻

酔し、気管切開後に調節呼吸とした。股動静脈にラインを挿入し、血圧測定と蛍光色素(Rhod制的G)

の持続注入(釦μI/h)を行った。マウスをゆinxpositionに固定した後、左眼球後方の頭蓋骨に小孔

を聞け、 distalMCAを確保した。この動脈の末梢枝が潅流する脳表を中心として、左頭頂部に直径

約7mmのCl倒edcranial windowを作成し、硬膜を切開した(Figl).Windowには Inflow/ Ouu1owチ

ュープを配し、事前に調整した人工髄液でWindow内を一定速度でsuperfusionした。直腸温はheating

戸dで 37'Cに維持し、生体顕微鏡(8町伺mera)で Window内を観察した。次いで先細の for,切戸の先

端を subpialに進め、中大脳動脈を両側から挟んで閉塞し(dis凶 MCAO)、同時に clipで同側の CCA

も閉塞してから虚血部脳表を windowから観察した。 Forcepsの固定にはMicromanipulaめr(Narishige

GJ・めを使用した。動脈閉塞の達成はScalar社製Vid伺凶crosω戸(VMA・70A)により脳表の動脈血流

方向の逆転をもって確認した。 1時間の distalMCAU+CCAOの後、 for,田戸の開放により血流を再開

通させ、以後 8時間にわたり、虚血部脳表を走る軟膜細静脈における白血球動態を観察した。実験

終了時に動脈血採血を行い、 1回だけ血液ガス分析を行った。【結果】細静脈 1∞叩Eあたりに 30秒

以上留まる・白血球を腰着白血球としてカウントした(Fig2)。腰着白血球数の増加は再潅流後約 1時

間で戸誌を迎え、その後は消退する傾向にあった(Fig3)。【総括】血管の直接把持による血行遮断

は侵襲的である点で問題もあるが、技術的には十分達成可能であり、マウス C蜘 edcranial window

法を併用して虚血再潅流後急性期の軟膜血管における白血球動態を観察できた。本法は腹臥位での

虚血負荷が可能であり、血行遮断の達成を直視下に確認できるという点で、伽伺dによる方法には

ない利点を持っていると考えられた。

【文献】

(l)Meng W et al.(1鰐粉AmJPhysiol幻'4(2pt 2):H411-5.

(2)Yω19 T et al.(l99'乃JNeuroimm臨場80(1・2):158-“-

-224一

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一般i1ii題(仁liiii)

一 ー

、 F ・""-----一-四回ιCranlalWindow

100μm ・・・・・・・・・・・周囲.

MCAO+CCAO 1時間 Reperfusion直後

8時間6時間4時間2時間1時間

日品腰着白血球の観察

16

14

12

10

8

6

4

.着白血..c個}

時間(H)

(n~4)

毒事ミZ N

z E窃司4・Baea

ZFOduu+

。4uz

2

D品腰着白血球数の時間的推移

-225

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脳循環代謝第 14巻第3号

100 細胞障害性脳浮腫における脳循環代謝動態の検討

栗田太作、灰田宗孝ヘ堀内豊材、篠原幸人

(東海大学医学部神経内科、*同生体機能構造系生理科学、神杏林会八木病院)

〔要約〕

細胞障害性脳浮腫モデルにおける脳皮質のエネルギー代謝と血流そして脳波の変化を 31p-NMR,

NIRS, laser-Dopplar f1owmeter, EEG, MRIおよびHE染色により検討した。モデ、ノレ作成後、 31p-NMRで

は、高エネルギーリン酸系の代謝と細胞内 pHには変化が認められなかったが、代謝産物である

phosphomonoesterの増加が認められた。 NIRSおよびlaser-Dopplarf10wmeterでは、総ヘモグロビンと

脳血流の増加が認められた。 EEGでは 8波が認められた。 MRIでは、 T2相対的強度の増加が認めら

れた。また、形態学的にはグリア細胞の空胞化が認められた。

【目的】 6-aminonicotinamide(6-ANA)により細胞障害性脳浮腫モデ、ル(1,2)を作成し、脳皮質のエネ

ルギー代謝と血流そして脳波の経時的変イじから、その病態を検討した。今回、特に細胞障害性脳浮

腫モデル作成後、 4時間および10時間に注目した。

【対象および、方法】 MaleWistar Rat, 250""350g, 9"" 11週齢, 16匹。麻酔は、 Chloralose50""

75mg/kg + Urethane 500""750mg/kg IP,。大腿動脈にカニューレを挿入し動脈血圧をモニターしたo

細胞障害性脳浮腫モデルは、 6-aminonicotinamide{6-ANA) 120mg/kg・BWIPにより作成した。

6-ANAの作用機序は、 Niacinの代謝措抗剤で、 NAD,NADP-dependent enzymes,殊に

6-phosphogluconate dehydrogenasesを阻害し、解糖系を抑制して脳組織に必要となるエネルギーを

枯渇させる。その結果、 Na+-K+ ATPase機能が障害され、細胞内に Na+と水の貯留をきたすと考えら

れている。測定には、 31p-NMR(BEM250/80, PHOSPHO-ENERGETICS, Inc.), NIRS(OM-100A,

SHIMADZU), laser-Dopplar f10wmeter (FLO-Cl, NEUROSCIENCE, Inc.), EEG (AB-601G,

NIHON KOHDEN)および、MRI(MR Vectra Fast, GE横河)を用いた。 31p-NMRスペクトルは、 2cmφの

surface coilをBregma後方1.5即 nを中心に設置し、繰り返し時間 10sec、積算 120回(20分)で、 PCr

index(=PCr/(PC什 Pi),PCr;クレアチンリン酸, Pi;無機リン酸)と細胞内 pH (pHi)および

phosphomonoester(PME)を算出した。 NIRSの送受光プローブ、は、 Bregma後方 5mm右方 2mm、前方

3mm右方 2mmにそれぞれ設置し、脳皮質の酸化(oxy-Hb)、還元(deoxy-Hb)そして総ヘモグロビン

(tot-Hb)を1sec毎に算出した。 laser-Dopplarf10wmeterプローブ、は Bregma後方 2mm左方 2mmに

設置し、脳血流量:(CBF),脳血液量(CBV),血流速度(VELOCITY)を算出した。 EEG電極は Bregma

後方 5mm左方 2mmに設置し、サンプリング時間を 10msecとした。これらは、 6-ANA投与前から投与

後約 24時間まで連続的に測定した。 MRIは、 axial,SE法, TE/TR=130/3200msec, SL= 3mmとし、

Bregmaを中心にスライス厚 3mmで標準試料(0.2%CuS04)水溶液と前後 10スライス同時撮像し、皮

-226一

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一般演題(口演)

質と標準試料の T2相対的強度を算出した。また、形態学的検討は、 6-.必JA非投与と投与後約 10時

間を HE染色で比較検討した。

【結果1PCr indexおよびpHiは、 6-ANA投与前に比べ、投与後 4時間と 10時間では統計学的に有

意差を認めなかった。 PMEは投与前に比べ投与後10時間で有意差を認めた。 CBFとVELOCITYは、

投与後 4時間から 10時間で増加を認めたが、 CBVは投与後 10時間で軽度減少を認めた。 oxy-Hb

とtot-Hbは、投与後 4時間から 10時間で増加し、 deoxy-Hbは減少を認めた。 EEGは投与前では、

O波と8波を認めたが、投与後 4時間から6波であった。 MRIは投与後 10時間でT2相対的強度の

増加を認めた。大脳皮質2層(頭頂葉)の HE染色では、グリア細胞の空胞化が認められた。

【考察16-ANAによる細胞障害は、全身的影響も考えられるが、投与後約 4時間から約10時間まで

徐々に脳浮腫が進行すると考えられた。また、酸素消費の低下は認められたが、 ATP産生は平衡を

保ち、神経活動は長時間にわたり保たれていると考えられた。

【文献】

(1) Klatzo 1. (1967) ] Neuropath Exp Neurol 26 : 1-14

(2) Politis M], et aL (1989) ] Neurological Sciences 92 : 71-79

227一

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脳循環代謝第 14巻第3号

101 ラット脳梗塞モデルにおける 5"iodoサ amino"1,2・benzopyrone(INH2BP)の

効果について、脳梗塞サイズ及びBehavioraltestingからの検討

篠原伸顕合,AntoineHakim**, Charlie Thompsonぺ篠原幸人*

(東海大学医学部神経内科ー UniversityofOttawa Neuroscience Research institute**)

ラット脳梗塞モデ、ノレにおいてPARP inhibitorである INH2BPの神経保護作用について、梗塞サイ

ズ、脳血流量、 Behavioraltestingから検討した。ハロセン麻酔下に、 intraluminalmethodを用い

て左脳梗塞を作製した。虚血時間は 90分とし、 INH2BPは術前 2時間と術後 24,48時間に腹腔内

に投与をした。 lowdose群には 20mg圧(g,highdose群には 40mg/Kgを投与した。 vehicleには

DMSOを使用した。 Behavioraltestingとして 4種類の testを行った (Morriswater

maze ,Rotarod ,Tongue extension ,Open宣.eldtest) 0 Testは術前日と術後は15日まで行なった。

test終了後ラット脳を取り出し TTC染色し梗塞サイズを測定した。結果は梗塞サイズ、脳血流減少量

とも各投与群聞に有意な差は認めなかった。 Behavioraltestingも各投与群聞に有意差は認めなか

ったが、低濃度群は偽薬群より回復過程が早く、逆に高濃度群は遅延する傾向を認めた。

【始めに】Poly{ADP"ribose)polymerase (PARP)は chrornatinbinding proteinであり、細胞内

DNAが損傷された時に活性化される。その役割の中に傷害された DNA鎖の修復がある。活性化の

際に nicotinamideadenine dinucleotide(NAD+)が消費される為、虚血などで大量の DNAが損傷

された場合には、大量のPARPが活性化されNAD+が著明に減少しさらにATP産生が遅延するため

より多くの細胞が死に至ると考えられている。

【目的】今回我々は、 PARP inhibitοrである 5"iodoサ amino"1,2"benzopyrone(INH2BP)の神経保

護作用について脳梗塞サイズ、脳血流およびBehavioraltestingによって検討することにある。

【対象及び方法】実験には体重200・300gの雄Sprague"Dawleyratを用いた。 Belayevらの方法を

参考にしintraluminalmethodにて左脳梗塞を作製した。術中にはLaserDoppler法にて脳血流

減少量を測定した。各groupは以下の様に設定をした。

Group1: Low dose (20mglKg) + ischemic model (n=6)

Group2: High dose (40mglKg) + ischemic model (n=6)

Group3: Vehicle (DMSO) + ischemic model (n=5)

Group4: High dωe + sham model (n=12)

Group 5:Vehicle + sham rnodel (n=12)

INH2BPは術前2時間と、術後 24、48時間に腹腔内投与を行った。 Behavioraltestingとして①

Morris Water Maze②Rotarod③Tongue Extension④Open直eldと4種類の testで評価をした。

①②③のtestは術前日と術後は3日毎に 15日後迄行い、④は術前日と術後は4日毎に 12日後迄

行なった。Test終了後 rat脳を取り出し、 TTC染色後に脳梗塞サイズを測定した。

[Behavioral testing]

-228一

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一般演題(口演)

① Morris Water Maze Test:直径2mの円形プールに水を入れ、水面下のーカ所にプラットホーム

を置いた。ラットがプラットホームを見つけるまでの時間を測定した。

② Rotarod Test: 4 -40RPMと回転数が徐々に増加するローラーの上から落下するまでの時間を

測定した。

③ Tongue Extension 時 st:長さ約5cmのガラス円柱の中にピーナッツバターを充、満させ、一昼夜

で祇めた長さ(舌の長さ)を測定した。

④ upen Field Test: 50X50X30cm3の隔離された箱の中で60分間の総移動距離を測定した。

SoftwareはVideomex.V(Columbusinstruments製)を使用した。

【結果)17匹の ischemicmodelと24匹の shammodelについて検討をした。脳梗塞サイズは、

Group1:93.6士26mm3侶EM)、2:64.5:t15.16mm3(SEM)、3:49.5:t15.1mm3(SEM)であった。脳

血流減少量は Groupl:66.1:t14.5%(SEM)、 2:70.3:t15.2%(SEM)、3:66.1:t4.85%(SEM)であったo

梗塞サイズ・脳血流共に統計学的に有意差は認めなかった。 Behavioraltestingに於いても各虚血

群間に有意差は認められなかったが、 lowdose群は vehicle群と比較し神経回復過程が早くなり、

high dose群は遅延する傾向を認めた。

【考察】今回の結果からは、 INH2BPの慢性期における梗塞サイズ減少は認められなかった。

Behavioral testingからはhighdose群においてvehicle群より回復過程が遅延する傾向を認めた。

その原因は不明であるが、薬物自体の二次的作用が原因のーっと考えられた。

【文献】

(1) Kazushi Takahashi , et al. (1997) J Cereb Blood Flow Metab. 17: 1137 -1142

(2) Kazushi Takahashi , et al. (199ωBrain Res 829: 46 -54

(3) Matthis Enders et al. (1998) Eur J Pharmacho1351: 377 -382

(4) Ludmila Belayev et al. (1996) Stroke 27: 1616 -1623

(5) Richard Morris et al. (1981) Nature 297:681 -683

(6) Ian Whishaw et al. (1982) Physiology & Behavior 30: 471-480

229

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脳循環代謝第 14巻第3号

102 直達手術によるマウス中大脳動脈近位閉塞モデルの開発とその特性の検討

古屋一英、川原信隆、川合謙介、豊田富勝、前田佳一郎、桐野高明

東京大学脳神経外科

【目的および背景】遺伝子ターゲティングによりトランスジェニックあるいはノックアウトマウス

が産生されこれらを脳虚血分野に応用することで虚血時の様々な遺伝子の働きが明らかにされつ

つある。マウスを使った局所脳虚血モデルでは threadocclusionが多用されているが、脳梗塞が大き

く長期生存が望みにくいこと、血管構築、特に後突通動脈♂CoA)発達度の個体差により梗塞体積

のばらつきが大きいこと、さらに prematurerep巴伯lsionの可能性が避けられないこと、などの欠点

がある。そこで本研究では、中大脳動脈似CA)に対する直達手術により、長期生存が可能で PCoA

の発達度に左右されない安定したマウス局所脳虚血モデルを作製することを目的とした。

【方法】雄性α7Black 6マウス (10・16週齢)を用い、頬骨弓切除後、左MCA近位部を露出し、

嘆索枝の近位で顕微鏡下に MCAを凝固切断(永久閉塞)、またはクリップを用いて 1時間及び 2

時間閉塞した。これらを (1)閉塞後 24時間生存群(それぞれn= 8)と (2)閉塞後7日生存群(そ

れぞれn= 8)とに分けた。生理学的パラメーターの測定は (1)群のみで行い (2)群は麻酔条件等

を (1)群と同じ条件下で行った。脳梗塞体積の測定、神経学的所見の推移、 PCoA発達度(カーボ

ンブラック法)を両群にて、また 7日固までの生存率を (2)群で検討した。またこれらとは別に閉

塞中および再瀧流後 1時間の虚血中心但regma+lmm, 5mm lateral)での局所脳血流をレーザード

ツプラ一法で測定した(それぞれn=5)。脳梗塞体積は濯流固定した脳からアトラスに従い間隔 0.5

mmでクライオスタットにより 12スライス採取した組織切片をクレジルバイオレツトにて染色後

にScionimageにて測定した。 PCoA発達度は実体顕微鏡下観察により 4段階にえ神経学的所見

は5段階に分類し 3術後 1、4、7日に判定した。同時に体重測定を行いその変佑率の推移を観察

した。

-230一

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一般演題(口i寅)

【結果](1)群での脳梗塞体積は 1時間閉塞群、 2時間閉塞群、永久閉塞群でそれぞれ 19.5主 6.2、

26.0主3.9、 29.2:!:5.9 (mean :!: SD, mm3)であり 1時間閉塞群で 2時間閉塞群、永久閉塞群に比べ有

意に小さかった(それぞれ p< 0.05, p < 0.005)が2時間閉塞群、永久閉塞群との差は有意ではなか

った。 (2)群ではそれぞれ 11.8土 3.5、 16.7 :!:3ム 19.2:!: 4.1であり 24時間の時点よりも縮小傾向

を示したがその差は(1)群と同様であり 1時間閉塞群で 2時間閉塞群、永久閉塞群に比べ有意に小

さかった(それぞれp< 0.05, p < 0.005)0 PCoA発達度と脳梗塞体積との相関係数は 24時間後で 1

時間閉塞群、 2時間閉塞群、永久閉塞群それぞれ r= 0.11、 r = 0.21、 r =0.22、7日後でそれぞれ r=

0.03、 r = 0.02、r= 0.39であり、脳梗塞体積は PCoA発達度の影響を受けていなかった。神経学的

所見では永久閉塞群で 1時間閉塞群、 2時間閉塞群と比較し観察期間全てにおいて有意に悪佑して

いた (p< 0.05)。体重減少率では永久間塞群が 1時間閉塞群に比し、また 2時間閉塞群が 1時間閉

塞群に比し有意に減少した (p< 0.05)0 7日目での減少率は 1時間閉塞群 10%、2時間閉塞群、永

久閉塞群ともに 20%であった。 7日固までの生存率は 1時間閉塞群、 2時間閉塞群、永久閉塞群で

それぞれ 72.7%、 80.0%、 80%であり閉塞時間、麻酔時間による有意な差は認めず良好な生存率

が得られた。虚血中の脳血流は 1時間閉塞群、 2時間閉塞群、永久閉塞群で閉塞前を 100%とした

場合、平均 20%、30%、30%であり再濯流後は 1時間閉塞群70%、2時間閉塞群 75%であった。

【考察】 Threadocclusion法は、血管内からの閉塞という、より実際の病態に近い利点を有するもの

の、塞栓子と血管径のバランスにより MCAのみならず前大脳動脈や後大脳動脈 σCA)起始部を

も閉塞する可能性が高い。特に PCA起始部が閉塞された場合、その血流は PCoAを介した上小脳

動脈からの血流に依存するので、脳梗塞体積は PCoA発達度に応じてばらつきが大きくなるものと

考えられる。我々のモデルは、血管構築がほぼ一定である部位で閉塞することにより、ぱらつきの

少ない脳梗塞を再現性良く作成することができた。遺伝的系統や個体差による血管構築差異の影響

が少ないことは遺伝子操作マウスを用いた脳虚血実験に特に有益であろう。一方、このモデルでは、

頬骨弓切除を必要とするが、それによる摂食障害や死亡率の上昇は見られず、むしろ長期生存が可

能で慢性実験にも使用できる。再濯流モデルとして使用する場合には、 2時間以上の閉塞時間では

永久閉塞モデルと比べて脳梗塞体積に有意な差はなく、目的に応じて 2時間以内の閉塞時間を選択

するのが妥当であると考えられた。

【文献】

1. Maeda K, Hata R and Hossmann KA: NeuroReport 9, 1317・1319:1998

2. Murakami K, Kondo T, Kawase M and Chan PH: Brain RI四 earch780, 304-310,1998

3. Huang Z, Huang PL, Panahian N, Dalkara T, Fishman MC and Moskowitz MA: Science 265,

1883・1885,1994

231一

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脳循環代謝第 14巻第3号

103 脳梗塞進展における内因性 t-PAの線溶活性と神経毒性の関係

: t-PAノックアウトマウスを用いての検討

梅村和夫、鈴木康裕、越掠樵、永井信夫*

(浜松医大・薬理学、当レーベン大学)

〔要約〕

最近、血栓溶解薬である組織型プラスミンアクチベータ(t-PA)が神経細胞毒性作用を有して

いるという報告がされた。そこで、 t-PAノックアウトマウス(PA-KO)を用いて脳虚血による脳

梗塞進展における内因性 t-PAの役割について検討した。ローズベンガルと緑色光による光増

感反応を用いて中大脳動脈の血管内皮を傷害し、そとに血栓を形成させ、動脈を閉塞した。閉

塞後 24時聞に脳を取り出し梗塞の広がりを測定した。また、 }jl]の実験で、閉塞後3時間に脳

を取り出し、梗塞周辺部のフィプリン血栓の有無を組織学的に観察した。照射する光の強さと

ローズベンガルの投与量を変えることで血管内皮の傷害の程度を変えた。傷害の強さは弱、中、

強の 3段階を用いた。野生型マウスの梗塞の大きさは傷害の程度が強くなるととともに大きく

なった。血管内皮の傷害が弱いときは PA-KOにおける梗塞の大きさは野生型マウスと比べ大

きくなった。逆に、傷害が強いときは野生型マウスにおける梗塞の大きさは PA-KOと比べ大

きくなった。傷害が中程度の場合は野生型及びPA-KO間での梗塞の大きさには差がなかった。

梗塞周辺部のフィプリン血栓は傷害が弱いときは PA-KOにおいてフィプリン血栓が多く見ら

れたが、傷害が強いときはフィフリン血栓の形成には差が認められなかった。以上の結果から、

梗塞進展において内因性 t-PAの線溶活性は 2次的なフィプリン血栓の形成を抑制し梗塞進展

を抑制じているとと、さらにある条件下では内因性 t-PAの神経毒性作用は梗塞を進展させる

可能性があることを示唆した。

【目的]血栓溶解薬である t-PAの血栓溶解作用は脳梗塞急性期の治療に有用であるが、最近、

t-PAが神経毒性作用を有しているという報告がされている(1)。そこで、我々は脳梗塞が進展

していく過程で内因性 t-PAの線溶活性としての 2次血栓形成の抑制と神経毒性作用としての

細胞死の促進がinvivoでどのような関係にあるかを検討することを目的とした。

[方法]ハロセン麻酔下に頭蓋骨を削り、硬膜を通して中大脳動脈を明視下に置いた。中大脳

動脈に緑色光を照射した。頚静脈にカテーテルを挿入し、ローズベンガルを投与した。ローズ

ベンガルと緑色光による光増感反応を用いて中大脳動脈の血管内皮を傷害し、そこに血栓を形

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一般演題(口演)

成させ、動脈を閉塞した(2)。閉塞後 24時間に脳を取り出し梗塞の広がりを測定した。また、

別の実験で、閉塞後3時間に脳を取り出し、パラフィン包埋し組織切片を作成した。梗塞周辺

部のフィプリン血栓の有無を組織学的に観察した。照射する光の強さとローズベンガルの投与

量を変えることで血管内皮の傷害の程度を変えた。傷害の強さは弱、中、強の 3段階を用いた。

[結果]野生型マウスの梗塞の大きさは内皮の傷害の程度が強くなるとともに大きくなった。

傷害の程度の違いによる梗塞の広がりを図に示す。血管内皮の傷害が弱いときは PA-KOにお

ける梗塞の大きさは野生型マウスと比べ大きくなった。逆に、傷害が強いときは野生型マウス

における梗塞の大きさはPA-KOと比べ大きくなった。傷害が中程度の場合は野生型及びPA-KO

間での梗塞の大きさには差がなかった。梗塞周辺部のフィプリン血栓は傷害が弱いときは PA-

KOにおいてフィプリン血栓が多く見られたが、傷害が強いときはフィプリン血栓の形成には

差が認められなかった。

Sever ohotoch巴micalreaction Progression of cerebral infarction tPA +/+ tPA -/ in t-PA deficiency mice

l芦 0.012口 tPA+/十「一一寸

!:1 1 ロ tPA-/-

g 5

Mod巴ratephotoch巴micalr巴actiol ~ 10 ~ I k p=0.0 16

tPA +/+ tPA一/ー 「一一寸

g'u ・4 5

。S巴V巴r Intermediate Moderat巴

[考察)以上の結果から、梗塞進展において内因性 t-PAの線溶活性は 2次的なフィ プリン血

栓の形成を抑制し梗塞進展を抑制していること、さらにある条件下では内因性トPAの神経毒

性作用は梗塞を進展させる可能性があることを示唆した。

[文献]

(1) Nagai N et al., (1999) Circu1ation 99: 2440-2444.

(2) Zhao BQ., (2001) Strok巴32:2157・2163.

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脳循環代謝第 14巻第3号

104 クモ膜下出血後の体温の日内変動について

〔要約〕

高木清、中込忠好、大脇和浩、土屋喜照、高木貴美子、田村晃

帝京大学医学部脳神経外科

発症から 4時間以内に入院したクモ膜下出血 (SAH)患者の入院時体温を、日中入

院群と夜間入院群の体温を比較した。体温は肢嵩で測定された。 SAHの重症度分類

は WFNSsca1e (1)によって決定された。入院時の体温は、どの重症度においても日

中入院群の方が夜間入院群よりも低く、正常と逆転していた。

【目的】人の体温には日内変動があり、視床下部によって調節されていると考えられ

ている。正常人では日中 (09:00-21:00) の体温は夜間 (21:00-09:00) の体温より

も約 1Oc高い (2)。特発性クモ膜下出血では視床下部が障害されることが多い (3)

。したがって、 SAHでは体温の日内変動が乱れている可能性がある。この研究の目

的は SAHが体温の日内変動に影響を与えるかどうかを検討することである。

【方法11981年から 1995年までに入院した SAH患者のうち、発症から 4時間以

内に入院し、発症時間と入院時聞が明記されており、入院時体温が測定されていた

SAH患者 338人について、日中入院群と夜間入院群の体温を比較した。いわゆる

DOA症例は除外した。体温は服寵で電子体温計で測定された。入院時の SAH重症

度分類は WFNSscaleによって決定された。未破裂脳動脈癌の治療のために入院した

73例を正常群とし、その入院時体温を正常日中体温とした。結果は meanage士SDで

表した。

【結果]正常群と SAH群で、平均年齢(57.2士11.8歳 vs56.6土 12.6)と性分布(maIe:

female, 25 : 48 vs 144 : 194)に差はなかった。日中入院群と夜間入院群の間性分布、平

均年齢に差は認められなかった (maIe: female; 81:108 vs. 63:86; 57.0土 12.3,n=189 vs.

56.1土13.0,n=149)。しかし正常群に比べ SAH群の平均体温は低くかった (36.49土0.45

OC vs 38.88土1.00oC, p<O.OI) 0 SAHでは、日中群で 36.00土1.07 oC (n= 189)、夜間群

で36.34土1.00oC(n=149)であり、日中群の方が夜間群よりも有意に低かった(pく0.01)

。重症度別ではgrade1 (36.21土0.70oC,n=32 vs. 36.32土0.69oC, n=27, ns)、gradeII

(35.70土 0.87oC, n=26 vs. 36.37土 0.670C,n=24, pく0.01)、gradeIII (36.17土 0.55oC, n=6

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一般演題(口演)

vS.35.65士0.85oC, n=6, ns)、gradeIV (35.60土0.93oC, n=27 VS. 36.01土0.93oC, n=23, ns)

、およびgradeV (35.65土1.070C,n=98 VS. 35.83士1.190C,n=69, ns)であった。

【考察】メカニズムは不明であるが、 SAH急性期では正常よりも体温が下がり、ま

た日中の体温と夜間の体温が正常と比べて逆転し、体温の日内変動が乱れていること

が示唆された。この傾向は意識障害を伴わない grade1においても認められ、軽症例

でも視床下部機能が障害されている可能性が示唆された。

【文献】

(1) Drak:e, C. G.: Report of World Federation of Neurological Surgeons Cornrni伽 eon a

universal subarachnoid hemorrhage grading scale. J Neurosurg 68; 985・986,1988

(2) Hellbrugge, T.: The development of circadian rhythms in infants. Cold Spring Harb

Symp Quant Biol 25: 311・323,1960

σ) Doshi, R. and Neil・Dwyer,G.: A c1inicopathologica1 study of patien飽 followinga

subarachnoid hemorrhage. JNeurosurg 52: 295-301, 1980

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脳循環代謝第 14巻第3号

105 くも膜下出血(SAH)部位と心電図異常

〔要約〕

一右シルビウス裂SAHの関与一平島 豊、高嶋修太郎*、松村内久、栗本昌紀、桑山直也、折笠秀樹林、遠藤俊郎

(富山医科薬科大学脳神経外科、*第二内科、料統計・情報科学

くも膜下出血(S組)後の血圧と脈拍測定、心電図検査の結果から、くも膜下出血の部位、また血

圧、脈拍と心電図異常の聞に相関があるかどうかを検討した。 univariate分析では収縮期血圧、拡張

期血圧ともに心電図異常群で高く、左迂回槽、左トルコ鞍上槽、四丘体槽、右迂回槽、右トルコ鞍上

槽、右シルビウス裂、総SAH量のSAH量が心電図異常群で多かった。これらの因子聞の相関を調節

し、心電図異常群と相関する独立な因子を求めるためmultivariatelogistic regression analysis with

stepwise methodを用いた。その結果、 160mmHg以上の収縮期圧と、四丘体槽、右シルビウス裂の

SAHが心電図異常のpredictorであることが分かつた。

旧的】 SAHで発症した患者の入院時頭部CTから、各脳裂、脳槽の血腫量を測定し、同時に行った心

電図の異常と各部位のS必 f量の相闘を検討することを目的とした。また、入院時血圧、脈拍と心電図

異常との相関も検討した。

【方法]1995年6月から1999年10月の聞にS必 f発症後24時間以内に富山医科薬科大学脳神経外科に

入院した連続129例のうち、一ヶ月以内死亡例を除く 118例を対象とした。血圧、脈拍は入院時第一回

目測定値を採用した。心電図は入院時と発症約一ヶ月に行い、 T波逆転、 QT延長、 ST上昇あるいは低

下を入院時に認め、追跡心電図で認めないもののみ入院時心電図異常有りとした。頭部CTは入院時撮

影し、半球間裂、左右迂回槽、左右トルコ鞍上槽、左右シルピウス裂、四丘体槽のSAHを0-3点でス

コア化するHijdraの方法(1)に準じて定量化した。統計はSPSSstatistical software (Chicago, Illinois,

U.S.A.)を用い、単変量解析(chi-squaretest、Student'stest、Mann-Whitneytest)、多変量解析

(stepwise logistic regression model)を行った。

【結果】単変量解析では心電図異常を示した群では示さなかった群に比べ、収縮期血圧、拡張期血圧

が有意に高く、また、左迂回槽、左トルコ鞍上槽、四丘体構、右迂回槽、右トルコ鞍上槽、右シルピ

ウス裂で血腫が多かった。多変量解析では160mmHg以上の収縮期血圧、四丘体槽、右シルビウス裂

の血腫スコアが2以上のものが独立して心電図異常と相関することが分かつた(表1)。

【考察】人島皮質刺激は、心血管系に関し、右方では交感神経作用、左方では副交感神経作用が示唆

されている(2)。今回の結果はシルビウス裂の血腫は物理的、化学的に島皮質を刺激し、心血管系に効

果を及ぼしていることを示唆している。大量のSAH、特に右方シルピウス裂の血腫が多い場合は心血

管系の合併症を念頭において治療すべきである。

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一般演題(口演)

{文献]

(1) Hijdra A, et al. (1990) Stroke 21: 1156-1161.

(2) Oppenheimer SM, et al. (1992) Neurology 42: 1727-1732.

表1心電図異常と関係する因子のmultivariatelogistic regression分析

adjusted odds ratio 95%CI pvalue

収縮期圧6.50 2.22 -19.0 0.0006

(>160mmHg)

四丘体槽S必 f量(>2) 7.26 1.32 -39.8 0.022

右シルビウス裂6.95 2.04-23.6 0.0019

SAH量(>2)

-237-

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〔要約〕

脳循環代謝第 14巻第3号

くも膜下出血急性期における脳指環動態の解析

中島義和,横田順一朗h 坂下恵治久久村英嗣,平田雅之,加藤天美,

藤中俊之,西尾雅実,秋山正博,甲村英二,吉峰俊樹

大阪大学医学部脳神経外科、牢大阪府立泉州救命救急センター

超急性期脳循環病態評価法として急性くも膜下出血症例において、 1)single

slice dynamic CT検査法、 2)DSA画像データの PerfusionImaging解析法を行った。

single slice dynamic CT検査法による搬入後早期の脳循環不全病態は、搬入時臨床重

症度と強い相闘がみられた。 DSAの解析データは患者の短期予後との強い相闘がみられ、

頭蓋内濯流不全病態の回復過程の指標になり得る可能性が示された。

【目的】重症くも膜下出血患者の脳循環病態は脳動脈癌破裂による著しい頭蓋内圧克進に

伴う脳循環不全、その後の脳圧降下の程度に応じた脳再濯流がおとっているものと考えら

れ、その病態は頭蓋内圧、全身の循環動態等、多くの因子に影響を受けているものと考え

られる。くも膜下出血急性期においては再出血のリスクがあり侵襲的な検査法は不可能で

あり、その循環不全病態は十分に解明されていない。今回、私達はくも膜下出血におげる

超急性期脳循環病態をこつの検査法(少量の造影剤を用いた singleslice dynamic CT検

査法(1)および平田らの開発した(PerfusionImaging (PI)法(2))により解析を行った。

【方法】発症後 6時間以内に singleslice dynamic CT検査法が施行されたくも膜下出

血 32症例を対象とした。造影剤 15mlを上大静脈より注入し(4mll秒)、両側内頚動脈(C

4)および S状静脈洞(SS)における CT値の時間濃度曲線を作成し、ピーク時間 (PT)、平

均通過時間 (MTT)の測定を行った。 発症後 8時間以内に DSAが施行された 25症例に

ついては、造影剤 10-12 mlを頚動脈より注入し(4mll秒)、 PI法により内頚動脈

(cavernous portion)、中大脳動脈(horizontaland peripheral portion)、前大脳動脈

(pericallosal a.)、S状静脈洞 (SS)の PerfusionIndex, PTを求めた。

【結果】 singleslice dynamic CT検査法により搬入後早期の SSにおける PTを軽症例

(WFNS grade = 2, 3)では 17.3士 4.6、重症例(grade= 4, 5)では 30.2土 7.8であ

り有意差が認められた(p< 0.001)。また ssにおける MTTを軽症例では 8.8士 2.5、

重症例では 16.5土 8.2であり有意差が認められた(pく 0.001)0 PI法により中大脳動脈

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一般演題(口演)

末梢部(M4)の PerfusionIndexを測定した所、短期予後良好群(GR:3.0土 0.3 )と不

良群(GR以外:3.9土 0.6)との間に有意差が認められた(p= .002)。また C4と SS聞の

PTでも、短期予後良好群(GR:3.3土 0.3)と不良群(GR以外:4.3 I 0.6)とで有意差が

認められた(p= .002)。

【総括】今回施行した搬入後早期の singleslice dynamic CT検査法は搬入時臨床重症

度と強い相闘があり破裂後早期の頭蓋内濯流不全状態との関係が示唆された。一方、術前

に施行された DSAの解析データは搬入時臨尿重症度よりも患者の短期予後との強い相闘

がみられ、脳濯流動態の回復過程の指標になり得る可能性が示された。 今後さらに他の

非侵襲的検査法による解析も加え、さらに詳細な検討を行っていく必要があるものと考え

られた。

【文献】

(1) NakaJima Y, et s1. (1998) J Neurosurg 88:663-669.

(2) Hirata M, et a1. (1998) Neurol Res 20(4):327-332.

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