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Page 1: 章 歯科衛生士と法律 · 2018-02-27 · 11 1 章 歯科衛生士と法律 (2)歯科診療の補助と歯科医行為 歯科衛生士法では歯科診療補助の範囲について具体的な規定はしていない.ただ

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章 歯科衛生士と法律

1─はじめに 歯科衛生士は,国の出す免許を得て患者・国民に歯科保健医療を提供するという特別な職種である.歯科衛生士免許とは,国が国民に向けてこの免許を持った者に自分の口腔内の健康に関して任せても大丈夫としたものである.決して,歯科衛生士の身分や生活を保障するための免許ではない. 無資格者が行えば違法行為となり罰せられる行為を,歯科衛生士であるが故にその行為を行うことができると法で定められているのである.しかし注意しなくてはならないのは,法律で行ってよいとされている行為でも,そこで医療事故が生じた場合,その責任が問われるということである.「法律で行ってもよい」とされているから行ったのだから,行ってもよいといった国に責任がある,という意見をいう人がいるがこれは誤りである.業務上行った過失による傷害は,刑法という法律で罰せられる.また,被害を受けた患者が損害賠償を求められることが民法で定められている.一方で,事故も起こさずいかに上手に医療を行う人がいても,その人が免許を持っていない場合は「ニセ医者」として罰せられるのである. 国は,国民に医療を提供し国民の健康をまもるために多くの法律を作ってそれを行っている.国民に歯科保健医療を提供する職種の歯科衛生士として,これらの法律を修得することは必須の要件である.

1.衛生行政の目的と組織

 国の権力は行政,立法,司法の三権に分立している.この行政の中に衛生行政もある.法律等に基づき,権限をもって国民の健康を守るために衛生行政がある.行

1章

❶歯科衛生士資格の成り立ちと目的を説明できる.

❷歯科衛生士業務とその法的根拠を説明できる.

❸歯科衛生士の試験・免許に関する手続きを理解する.

❹歯科衛生士法に規定されている義務・責務を説明できる.

❺歯科医師法・歯科技工士法に規定されている義務・責務を説明できる.

❻歯科医師・歯科技工士の試験・免許に関する手続きを理解する.

❼医療法の成り立ちと目的を説明できる.

❽医療法に規定されている遵守事項について説明できる.

❾歯科口腔保健の推進に関する法律の概要を理解する.

歯科衛生士と法律

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章 歯科衛生士と法律

(2)歯科診療の補助と歯科医行為

 歯科衛生士法では歯科診療補助の範囲について具体的な規定はしていない.ただし,歯科衛生士が歯科診療の補助を行う際の制限に関する条項として法第 13 条の二の規定がある.同条項では,

(歯科衛生士法)

第 13 条の二歯科衛生士は,歯科診療の補助をなすに当っては,主治の歯科医師の指示があった場合を除くほか,診療機械を使用し,医薬品を授与し,又は医薬品について指示をなし,その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない.ただし,臨時応急の手当をすることは,さしつかえない.

と規定している.この条項は一般に「歯科医行為の禁止規定」として理解されているが,歯科診療の補助について,一定の限度(社会通念上歯科医師が行うことが要

 医療職種の数は,医師・歯科医師を始め20を

超えています.この職種のうち,診療の補助を業

務の1つとしているのは,10職種ありますが,

看護師以外の診療放射線技師,歯科衛生士等の9

職種の法律にはすべて,「保健師助産師看護師法第

31条第1項及び第32条の規定にかかわらず,

診療の補助として・・」という文が記されています.

 歯科衛生士以外の職種では,法令で診療補助の

内容が詳細・具体的に示されています.例えば,

診療放射線技師が診療の補助として検査を行うこ

とのできる画像診断装置は,政令で 磁気共鳴画

像診断装置,超音波診断装置,眼底写真撮影装置

と限定されています.理学療法士・作業療法士は,

診療の補助として理学療法又は作業療法を行うこ

とを業とすることができるとされており,法律の

第2条には「理学療法」とは,身体に障害のあ

る者に対し,主としてその基本的動作能力の回復

を図るため,治療体操その他の運動を行わせ,及

び電気刺激,マッサージ,温熱その他の物理的手

段を加えることをいうとあります.また,「作業

療法」とは,身体又は精神に障害のある者に対し,

主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力

の回復を図るため,手芸,工作その他の作業を行

わせることをいうとされています.

 看護師と歯科衛生士の場合,看護師は法第5

条で診療の補助を行うことを業とする者とし,歯

科衛生士は歯科診療の補助をなすことを業とする

ことができる,という規定のみとなっています.

政令・省令で具体的な行為は定められていませ

ん.この両職種は,医業・歯科医業の全般にわたっ

て診療の補助を行う特別な職種ということになり

ます.詳細に行為を規定すると,医学医療,歯科

医学医療の進歩に応じ,常に法令の改正を行わね

ばならず,それは厚生行政において適切さを欠く

ことになります.医師,歯科医師が医行為,歯科

医行為を詳細に法律で決めていないのもそのため

です.きわめて自由裁量性の高い職種であるとい

えます.ただし,特定看護師の検討において,看

護師業務を具体的に明文化すべしとの見解が示さ

れましたが,具体的な法改正はまだなされていま

せん.

 なお,医療関係職種のなかで,医師・歯科医師・

薬剤師は当然ですが,保健師・助産師の業務に診

療の補助はなく,歯科技工士,あん摩マッサージ

指圧師,はり師,きゅう師,柔道整復師にも診療

の補助業務はありません.

看護師・歯科衛生士と他職種における診療の補助の違い

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よって完了し(同法第 6 条),歯科衛生士免許証は単に歯科衛生士名簿に登録されていることを証明するものである.

(歯科衛生士法)

第 3 条  歯科衛生士になろうとする者は,歯科衛生士国家試験(以下「試験」という.)に合格し,厚生労働大臣の歯科衛生士免許(以下「免許」という.)を受けなければならない.

第 5 条  厚生労働省に歯科衛生士名簿を備え,免許に関する事項を登録する.第 6 条  免許は,試験に合格した者の申請により,歯科衛生士名簿に登録すること

によって行う.2  厚生労働大臣は,免許を与えたときは,歯科衛生士免許証(以下「免許証」と

いう.)を交付する.3  (略)

 歯科衛生士法第 6 条第二項に「厚生労働大臣は,免許を与えたときは,歯科衛生士免許証を交付する」となっているが,同法第 8 条の六第一項の規定により指定登録機関が登録事務を行う場合は,厚生労働大臣が免許を与えたときは,指定登録機関は歯科衛生士免許証明書を交付するとされている.1991(平成 3)年 7 月に歯科医療研修振興財団(現一般財団法人歯科医療振興財団)が指定登録機関となったときから,「歯科衛生士免許証明書」(図 1-3)が交付されていた.しかし,法律はそのままであるが,歯科衛生士免許証を交付しても良いという,解釈通知が出され,1999(平成 11)年 4 月から「歯科衛生士免許証」(図 1-4)が交付されている. 免許・登録に関して,歯科衛生士法第 8 条の六第 2 項を受ける形で同法施行令第

図 1-3 歯科衛生士免許証明書 図 1-4 歯科衛生士免許証

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章 医療関係職種

1─歯科医療とかかわる医療関係者1.�法的に歯科医師の指示で歯科診療の補助を行う医療関係者

 法的に歯科医師の指示で歯科診療の補助を行う医療職は,歯科衛生士のほかに,看護師・准看護師,臨床検査技師,診療放射線技師,言語聴覚士がある.それぞれについて簡便に記す.

1)看護師・准看護師 看護師の定義の中に,診療の補助を行うことを業とする者(保健師助産師看護師法第 5条)とある.准看護師については保健師助産師看護師法第 6条に,具体的に医師,歯科医師又は看護師の指示を受けて看護をする者と規定している. また,主治の医師又は歯科医師の指示があった場合を除くほか,診療機械を使用して,医薬品を授与し,医薬品について指示をし,そのほか医師,歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生じるおそれのある行為をしてはならないと特定行為の制限がある(保健師助産師看護師法第 37 条).

2)臨床検査技師 臨床検査技師は保健師助産師看護師法の規定にかかわらず,診療の補助として,医師または歯科医師の具体的な指示を受けて行う採血および生理学的検査を行うことができる(臨床検査技師等に関する法律第 20 条の 2).

2章

❶歯科医師の指示で歯科診療の補助を行う医療職種を挙げることができる.

❷保健師助産師看護師法の概要および診療の補助について理解する.

❸診療放射線技師および言語聴覚士の業務の概略について理解する.

❹医師法・薬剤師法の概略について理解する.

❺その他の医療関係者の業務概要について理解する.

医療関係職種

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章 その他の関係法規

1─薬事に関連する法規 医療機関における医薬品や医療機器の安全使用のための対策は医療法に基づき行われているが,企業などによる医薬品や医療機器の製造,輸入,販売などに係る規制は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性に関する法律(医薬品医療機器等法)に基づき行われている.また,医薬品や医療機器の使用によって生じた健康被害などの報告についても,製品の品質や安全性に関連した問題であることから,同法に医療関係者などによる報告義務が定められている.その他,覚せい剤などの薬物の濫用による保健衛生上の危害を防止する観点から,各種の関連法規で取締りが行われている.

1.�医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性に関する法律(医薬品医療機器等法)(昭和35年法律第145号)

1)法律の目的 この法律は,医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器及び再生医療等製品の品質,有効性及び安全性の確保を行うこと,これらの製品の使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うこと,指定薬物(いわゆる危険ドラッグ)の規制に関する措置を講じること,医療上の必要性が特に高い医薬品,医療機器及び再生医療等製品の研究開発の促進のために必要な措置を講じることによって,保健衛生の向上を図ることを目的としている(第1条).法律名については,2014(平成 26)年 11 月に従来の薬事法から現在の名称に変更された.

3章

❶薬事に関連する法規を列挙し,その概要を説明できる.

❷地域保健に関連する法規を列挙し,その概要を説明できる.

❸食品衛生法や感染症法の概要を説明できる.

その他の関係法規

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1─社会保障 社会保障とは,国民の生存権の確保を目的に,国家レベルで行う保障のことである.しかし,もともとの社会保障に関する源流は「困窮者に対する救済」や「労働者間の相互扶助」であった. 現在のわが国の社会保障は,1946(昭和 21)年 11 月に制定された日本国憲法第25 条が基礎となっている.その条文の第一項には,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と示し国民の生存権を定め,第二項には,「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上および増進に努めなければならない」と示し,国の生存権を保障する義務を定められている.1950(昭和 25)年には,内閣に設置された社会保障制度審議会が「社会保障制度に関する勧告」として,「社会保障制度は,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子その他困窮の原因に対し,保険的方法または直接公の負担において経済的保障の途を講じ,生活困窮に陥った者に対しては,国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに,公衆衛生及び社会福祉の向上を図り,もって,すべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるように保障することを目的とする」と示した.このようにして,その後の国民皆年金や国民皆保険体制の導入によって,全国民を対象にした社会保障制度の基盤が築かれ,逐次制度改革を実施することにより現在の社会保障の体系が整備されてきた. 以上のことから,わが国の社会保障は,憲法 25 条を基本的な根拠に,国が国民に対して行う生存権の保障で,社会保険,公的扶助(生活保護),公衆衛生(保健),社会福祉の 4つの方法からなる社会保障制度によって確保されている.

4章

❶憲法第 25 条で示す社会保障の種類について列挙できる.

❷社会保険の種類とその特徴について概説できる.

❸医療保険の種類とその法律について概説できる.

❹介護保険制度の仕組みについて概説できる.

❺年金保険,雇用保険,労働者災害補償保険について概説できる.

❻歯科衛生士に関係する社会福祉について概説できる.

社会保障