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3 米国における生食用魚介類市場と日本産水産物 3 米国における 生食用魚介類市場と 日本産水産物

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3 米国における生食用魚介類市場と日本産水産物

3 米国における

生食用魚介類市場と

日本産水産物

平成 21年度農林水産物等輸出促進支援事業のうち農林水産物等課題解決対策公募事業

「米国と英国の小売市場参入に向けて」プロマヸジャパン

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3.1 米国の水産物市場の概況と日本のポジション

米国の一人当たり年間水産物消費量はわずかに 7.3kg で、現状では横ばいから減少傾向。うち 1/4

強を占めるのが米国人にとって「シヸフヸド」を代表する品目-エビである。他にはコッド、ハ

リブットなど白身魚やサヸモン、クラムやホタテなどの貝類、ツナ缶などが主に消費されている。

また生食といえば、スシやサシミの他に生ガキ、セビヸチェ、クルヸド、カルパッチョが食され

る。水産物市場では外食が、約 67%を占めている。米国は主要な水産物供給国の一つだが、国内

供給の約半分は既に輸入が占める。日本はその中で、第 11 位の輸入相手国の位置に付けている。

3.1.1 米国における水産物の需要

米国でシーフードといえば、エビ、白身魚、サーモン

本題に入る前に、まず米国人の一般的なシーフードの食べ方

を簡卖に紹介したい。「シーフード」といって米国人がまずイメ

ージするのはエビである。シュリンプあるいはプラウンと呼ぶ。

茹でたエビにソースを添えて食べるシュリンプカクテルのほか、

茹でたり焼いたり、衣を付けてフライにしたり、あるいはパス

タやピザ、スープなどの具など、様々に用いる。

この他に一般的なシーフードレストランで代表的な魚のメニ

ューは、白身魚のフライとポテトを盛り付けたフィッシュアン

ドチップスの他、オーブンやフライパンで焼いた白身魚やサー

モンが挙げられる。魚ではこの他に米国全土で一般に見られる

ものは、カジキマグロ、淡水魚のトラウトやナマズ、近年安価

で人気が上昇しているティラピアなどがある。魚はほとんど全て

骨を取り除いた状態で提供される。

上ヷシュリンプカクテル

下:フィッシュ&チップス

出典:Public-Domain-Photo

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魚以外には、オーブンやフライパンで焼いたホタテ、貝類のス

ープ、蒸した貝をバターに漬けるホワイトスティーマー、カニ肉

を成形したクラブケーキなども良く好まれる。専門店には、ゆで

たり焼いたりしたロブスターを提供するロブスターレストラン

や、多種類の生ガキと白ワインをメインに提供するオイスターバ

ーなどがある。イタリアレストランではイカのリングフライが良

く出される。

家庭では、冷凍や生鮮の白身魚やサーモン等を使い、フライパ

ンでそのまま、又は衣を付けて焼いたり(パンフライと呼ぶ)、

あるいはオーブンで焼く(ベークと呼ぶ)、あるいはバーベキュ

ーといった調理法がみられる。家庭では他に、ツナ缶などのシー

フードの缶詰の消費量も多い。

また、1.2 節でみたように、生ガキ、セビーチェ、クルード、

カルパッチョ、スシなど魚介類を生で食べる例も現れてきた。

米国における水産物の一人当たり消費量は 7.3kg で、現在は横ばいから減尐

米国における水産物の一人当たり年間消費量は 2008 年実績では約 16 ポンド(7.3kg、日本の

4 分の 1 以下)で、うち 74%が生鮮・冷凍の水産物、24%が缶詰、2%が塩漬けや燻製等の保存

処理をした水産物となっている。2000 年代前半には健康志向による魚介類消費の拡大がみられ、

生鮮や冷凍の水産物消費が成長したが、2000 年代後半になってからは横ばいからやや減尐傾向

に転じている。

図 17:米国における一人当たり水産物消費量の推移

出典:National Marine Fisheries Service, 2009, Fisheries of the United States 2008

注:可食部重量

米国における水産物の消費で卖独の品目として最も多いのは前述のエビで、年間消費量は 4.1

ポンド(1.86kg)と、約 4 分の 1 を占めている。魚では骨を抜いてフィレやステーキの形にカ

ットした形態での消費が多く、30%となっている。次いで、同じく骨を抜いてスティックやポー

ション状に加工した形態が 6%となる。缶詰ではツナ缶がほとんどであるが、他にイワシやサー

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

ポンド

塩漬け・燻製等

生鮮・冷凍

上ヷホワイトスティーマー

下:魚介類のバヸベキュヸ

出典:前掲に同じ

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モン、貝などの缶詰も食べられている。

図 18:米国における水産物の消費形態

出典:National Marine Fisheries Service, 2009, Fisheries of the United States 2008

注:ポヸションは太い切り身状のカット。

水産物の消費額では、外食産業が 67%を占める。

米国の消費者が 2008 年に水産物に費やした金額は、総額で 698 億ドル(約 6 兆 3 千億円8)、

このうち実に 67%が外食産業(レストラン、テイクアウト、ケータリングを含む)を通じての

消費で、圧倒的に重要であることが分かる。家庭での消費は 33%となっている。

図 19:米国の消費者の水産物消費額のシェア

出典:National Marine Fisheries Service, 2009, Fisheries of the United States 2008

3.1.2 米国における水産物の供給

米国では、水産物の供給は半分以上を輸入に頼り、しかもますます重要になっている

米国はアラスカを抱える巨大な漁業国で、水産物の輸出にも国策として力を入れている。しか

し、消費される水産物の供給の面からは、2002 年に初めて輸入が国内生産を上回った。それ以

降、毎年輸入割合は増加の一途を辿り、2008 年時点では 193 億ポンド(約 873 万トン)の国内

供給の約 56.8%を輸入が占めるに至っている。(下図参照)

8 1 ドル=90 円で推計。以下日本円での推計値は同様。

エビ

26%

フィレ・ステーキ

30%

スティック・ポーション*

6%

その他生鮮・冷蔵

12%

ツナ缶

17%

イワシ缶

1%

サーモン缶

1%

貝缶

2%

その他缶詰

3%

塩漬け・燻製等

2%

外食67%

内食33%

計698億ドル

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図 20:米国の水産物供給における国内生産と輸入量の推移

出典:National Marine Fisheries Service, 2009, Fisheries of the United States 2008

漁獲ではカニ、エビ、サーモン、ホタテ、ロブスター、養殖ではナマズ、アメリカザリガ

ニ、カキ、クラム、マス

米国の 2008 年の漁獲量は 83 億ポンド(約 376 万トン)、漁獲高は 44 億ドル(約 3 千 9 百億

円)で、このうち量ベースで約 8 割が食料向けとなる。金額ベースで最も重要な魚種はカニで

13%を占める。次いでエビ、サーモン、ホタテ、ロブスター、スケトウダラ、コッド、オヒョウ、

クラム、ヒラメ/カレイの項となっている。次頁表に量と金額ベースでの上位 10 品目を挙げる。

米国の 2008 年の水産物の養殖生産額は約 12 億ドル(約 1 千億円)で、うち 35%を占めるの

はナマズであるが、価格の低迷と餌代の高騰などを受けて生産は減尐傾向にある。他には、水田

の裏作として養殖されて年々増加傾向にあるアメリカザリガニ、ワシントン州を中心とする太平

洋沿岸でのカキ・クラム・マッセル、アイダホ州を中心とするマス、淡水養殖のティラピアなど

が主要な養殖魚となっている。このうちカキでは、生産の約 8 割が、オイスターバー等用の生

食用に出荷されている。

水産物の輸入は増加傾向にあり、食用輸入の 3 割がエビ、1 割がサーモン。

米国の水産物輸入額は増加傾向にあって、2008 年の実績では食用が 142 億ドル、その他が 143

億ドルで、合計 285 億ドル(257 億円)となった。相手国としては中国、カナダ、タイの上位 3

ヶ国で約半分を占める。食用の輸入の約 3 割はエビで、1 割がサーモン。他に、ロブスター、淡

水魚のフィレ、マグロ、カニ、ツナ缶、カニ缶などが主要な輸入品目となっている。

図 21:米国の水産物輸入額の推移(1999-2008 年)

出典:National Marine Fisheries Service, 2009, Fisheries of the United States 2008

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

百万ドル

その他

食用

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図 22:米国の水産物輸入の主要相手国シェア(2009年、 HS03,1604,1605 類計)

出典:TradeStats Express,

表 5:米国の主要な輸入魚介類(2005-2009 年)

単位 百万ドル 2005 2006 2007 2008 2009

エビ(冷凍・冷蔵・調製品) 3,671 4,136 3,911 4,105 3,778

アトランティックサーモン(フィレ) 697 886 935 916 858

ティラピア 393 483 560 734 696

アトランティックサーモン(生鮮・冷凍) 318 437 473 478 529

ホタテ 230 243 237 245 233

パシフィックサーモン(生鮮・冷凍) 111 149 159 154 177

サケ缶等 76 90 105 107 118

出典:USDA ERS, 2010, Volume and value of U.S. imports of selected fish and shellfish products

米国の水産物輸入において日本は第 11 位。特にホタテと海水魚の冷凍・チルドフィレ

前頁の図に示すように、米国の水産物輸入の中で日本は 2009 年実績で 2%を占め、相手国で

は第 11 位につけている。

日本産水産物で最も重要な品目はホタテで、輸入額にして 9 千 2 百万ドル、日本産魚介類輸

入額の中で 37%を占める。米国の 2009 年のホタテ輸入に関して、金額ベースでは日本が最大の

供給相手国であった。

次に重要なのが、おそらくブリ類が多くを占めるとみられる海水魚のフィレが冷凍とチルドを

併せて約 6 千 5 百万ドル、日本産魚介類輸入額の中で 26%を占める。

中国16%

カナダ16%

タイ15%

インドネシア7%

チリ6%

ベトナム5%

エクアドル4%

メキシコ4%

ノルウェー2%

ロシア2%

日本2%

その他21%

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表 6:米国の日本産の水産物輸入(2008年、2009 年)

輸入量 輸入額

2008 年 2009 年 2008 年 2009 年

トン 000 ドル

魚介類計 22,765 20,904 245,268 249,517

ホタテ 5,800 6,028 90,632 92,374 貝類 NSPF(調製) 648 614 8,963 8,878 イカ 548 519 4,471 4,448 カニヷカニ肉 229 316 2,085 3,629

海水魚 NSPF*フィレ(冷凍) 1,879 2,397 27,284 41,731 海水魚 NSPF フィレ(チルド) 1,664 1,485 24,533 23,083 魚 NSPF(燻製) 89 138 1,370 2,558 海水魚 NSPF(生鮮) 855 587 10,261 7,413 海水魚 NSPF(冷凍) 708 808 2,688 2,991

フィッシュボールヷケーキ 2,835 2,503 19,961 20,796

水産物の棒状の調製品(スティック) 1,111 908 9,569 9,202

サバ 1,010 812 2,957 3,045 マグロ 833 227 4,593 3,028

魚介類のダシヷスヸプ 597 659 3,964 4,550

海藻等 1,863 1,338 12,696 9,405

合計 24,628 22,242 257,964 258,921

出典:National Marine Fisheries Service, Office of Science & Technology

*Not Specified 特定されていない

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3.2 米国の外食産業

米国の外食産業は 1990 年から一貫した成長を遂げ、現在の市場規模は約 52 兆円と推計される。

米国の外食産業は低価格のラインが中心で、日本に比べると客単価が高い店の割合が少ない。客

単価が 3,000 円以上クラスのプレミアムレストランは外食産業のわずか 1.7%となっている。ただ

し金融危機の影響を大きく受け、様々な指標によればフルサヸビスレストランを中心として数%

~10%程度のマイナス成長で、メニュヸ単価が下落する傾向がみられるとともに、単価に影響の

少ない「地場産」と「持続性」がレストラン業界でトレンドのキヸワヸドに浮上している。

3.2.1 米国の外食産業の規模と推移、外食率

外食産業のビジネス規模は約 52 兆円

全米レストラン協会によれば、レストラン、バー、給食サービス、ホテルでの飲食、テイクア

ウトを含む、米国全体の外食産業のビジネス規模は 2010 年推計で約 5 千 8 百億ドル(約 52 兆

円)9と日本の約 2 倍程度。このうち食事をメインとするいわゆる「レストラン」業態が約 67%

で、3 千 885 億ドルを占める。

図 23:米国における外食産業のビジネス規模(2010 年、単位:10 億ドル)

出所:National Restaurant Association, 2010, 2010 Restaurant Industry Pocket Factbook

9 日本の外食産業市場規模は 2008 年で約 24 兆円。財団法人外食産業総合調査研究センター推計。アルコール支

出を含む。

レストラン

(Eating places)$388.5bn

67%バー、酒場

$18.8bn3%

給食サービス$40.9bn

7%

ホテルでの飲食$26.9bn

5%

小売店、自販機、

移動販売等$55.2bn

9%

その他の

非商業的ビジネス$49.7bn

9%

外食産業計

5 千 8 百億ドル

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外食産業は継続して伸びてきたが金融危機の影響を受けて直近ではマイナス成長

米国の外食産業売上高は 1990 年代から 2007 年にかけて、下図のように一貫した成長を記録

してきた。インフレ率を換算した実質成長率でみても、毎年 0.7~3.8%増となっている。

図 24:米国の外食産業売上高推移

売上高 実質成長率*

出典:US Census Bureau, 2010, Annual Retail Trade Survey

注:成長率は US Department of Labor, 2010, Consumer Price Index を用いプロマヸジャパンが推計

ところが、2008 年 9 月に米国で表面化した連鎖的な金融危機の影響を受けて、外食産業の月

別売上高も 2009 年後半から減尐に転じている。労働統計局の調査によれば、外食業界の平均メ

ニュー卖価は、2010 年 1 月の調査結果で 0.1%増と、過去 16 年間で最も低い増加率となった10。

全米レストラン協会が毎月傘下の外食企業から既存店売上高や来客数、労働者数、資本支出等の

情報を収集して、独自に外食ビジネスの健全性について推計している外食産業指標では、2007

年末には既に外食業界で健全性の悪化が始まっており、2010 年 1 月期になっても外食産業は引

き続き縮小局面にあると指摘されている。下図に見るように、金融危機の影響はプレアムダイニ

ングに色濃く表れている。

図 25:米国における 4 半期毎の外食セクタヸ別売上高増加率(2004-2009年)

出典:Duff & Phelps, 2009, Restaurant Industry Insights Q3 2009

10 National Restaurant Association, 2010 年 2 月 19 日付記事, Menu Prices Edged Up 0.1 percent in January;

Posted Lowest 12-Month Gain in 16 Years

クィックサービス指数 カジュアルダイニング指数 プレミアムダイニング指数

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外食産業は食料支出のうち約半分と依然として比重は高いものの、内食傾向が拡大

農務省の統計によれば、米国における食料支出は全体として 2008 年まで毎年 4~5%の成長が

継続し、内食と外食双方において食料支出が大きく増大した。食料支出における外食率は、2004

年に 48.5%11と全体のおよそ半分に迫って以降は横ばいとなっている。

図 26:米国の食料支出*と内食ヷ外食**での消費シェアの推移

出典:USDA ERS, 2010, Food CPI and Expenditures

注:*アルコヸル飲料を除く。**内食=Eat at home/外食=Food away from home

ただし、経済危機後は外食から内食への傾向がややみられ12、外食産業は食品小売業と比べて

多尐苦戦を強いられている状況にある。2009 年にフードマーケティング研究所が実施したアン

ケート調査によれば、消費者の 69%が「外食を減らしている」、53%が「スーパーマーケットで

の食品の購買量が増えている」と答えた13。

3.2.2 米国の外食産業における高級レストランビジネス

フルサービスレストランの市場規模は 17 兆 7 千億円、プレミアムダイニングの市場規模は

約 9 千億円

米国の外食市場の中で 34.1%(17 兆 7 千億円)を占めるのが「フ

ルサービスレストラン」として区分されるサービス係が配される、

セルフサービスでは無いレストラン業態である。

ただし、この中で平均客卖価 30 ドル以上のクラスの「プレミア

ムダイニング」とよばれる部門はわずかである。外食産業の中での

シェアは約 1.7%で、8,840 億円の市場規模である。プレミアムダイ

ニングは、「ファインダイニング」、あるいは「ホワイトテーブルク

ロス(白いテーブルクロスをかけることが特徴的であるから)」など

11 日本は外食率 42.7%(2005 年)。財団法人外食産業総合調査研究センター推計。アルコール支出を含む。

12 2007 年と 2009 年比ではスーパーマーケット等食品小売が 5.2%増に比べ、外食は 3.5%増に留まる。

13 FMI Research, 2009, Shopping for Health 2009

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

42%

43%

44%

45%

46%

47%

48%

49%

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

billion $

外食支出

内食支出

外食シェア

10 億ドル

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とも呼ばれている。日本産の生食用水産物は比較的高価な材料となるため、これらプレミアムダ

イニングが重要な市場となっている。

表 7:米国の外食産業の分類と売上高シェア

外食産業 レストラン フルサヸビスレストラン Full service restaurant 34.1%

プレミアムダイニング 1.7%

カジュアルダイニング 7.2%

ミッドスケヸル(カフェ等) 5.5%

簡易食事施設(ファーストフード店等) Limited service eating places

32.9%

バヸ、酒場(飲みがメイン) 3.2%

給食サヸビス(学校、会社、工場等) 7.1%

ホテル等の宿泊施設での飲食 4.6%

小売店、自販機、移動販売等 9.5%

その他の非商業的ビジネス 8.6%

出典:以下の資料に基づきプロマヸジャパン推計

第一段階のシェアは:National Restaurant Association, 2010, 2010 Restaurant Industry Pocket Factbook

フルサヸビスレストランと簡易食事施設のシェアは:US Census Bureau, 2010, Monthly Retail Trade Report

プレミアムダイニング、カジュアルダイニング、ミッドスケールのシェアは:Darden Restaurants, 2008, Selling Crab in the U.S.

注:ミッドスケヸルは平均単価 9$、カジュアルダイニングは平均単価 15$、プレミアムダイニングは平均単価 30$クラス

フルサービスレストランの中で最も大きいシェアを持ち、外食市場の中で 7.2%を占めるのが、

「カジュアルダイニング」と呼ばれ、チェーン展開が進み現在米国で最も成長しているとみられ

る、平均客卖価 15 ドル(1,350 円)程度のレストランである。ここには、シーフードで有名な

Red Lobster を始め、Applebee’s、Chili’s、Olive Garden、P.F. Chang’s China Bistro などの大

手チェーンが含まれる。これらのチェーン店でのメニューはステーキ、タコス、フライドチキン、

フィッシュフライ、エビ料理などで、全般的には日本産の生食用水産物に対する需要は高くない。

ただし、カジュアルなスシ店や回転スシなど日本食レストランのうち比較的安価なクラスはこの

カテゴリーに含まれ、日本産水産物の市場としてやはり重要性がある。

この他に、近年は学校給食や工場でのカフェテリアサービスなどでスシが提供されることもみ

られ、またホテル等での飲食にもスシはしばしば提供されるため、前頁表の外食産業の分類のう

ち、「給食サービス」、「ホテル等の宿泊施設での飲食」も本事業に関連するカテゴリーとなる。

ただし米国のプレミアムレストランで顧客が食事に支払う単価は低い。

米国のフルサービスレストランについて気を付けなければならないのは、池澤康氏が著書『ア

メリカ日本食ウォーズ』14の中で指摘するように、米国のレストランの顧客卖価は日本に比べる

とまだまだ低いということである。ここ 10 年の間に高価格帯のプレミアムレストランが次々と

オープンして話題となったが、それでも日本に比べれば、まだまだフルサービスレストランでの

食事にかけるコストは低い。米国には日本のような料亭等で接待の習慣が無いことも、大きな理

由の一つであろう。人気のあるレストランの発掘と紹介において米国で定評のあるザガットサー

ベイの 2010 年版のまとめによれば、同誌に掲載された合計 1,533 店の米国の最も人気のあるレ

14 池澤康、2005 年『アメリカ日本食ウォーズ』旭屋出版

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ストラン15における食事コスト(1 人あたりの顧客が支払った料理とドリンク、チップを含む客

卖価)は、2010 年に全米都市平均で 34.62 ドル(3,116 円)に留まる。

日本の都市との比較を行うと、米国の低さはより鮮明になる。下表に示す通り、ザガットサー

ベイに掲載されるレストランで最も高い 20 店の平均食事コストは、東京では 271 ドル(24,000

円)であるのに比べて、米国で最も客卖価が高いニューヨークでも 154 ドル(14,000 円)と東

京の 60%であり、全米の都市の平均値では 76 ドル(6,800 円)にすぎない。つまり、米国では

客卖価が 1 万円を超える高価な料理を提供するプレミアムレストランの数は、日本に比べると

非常に限られていると推測される。

表 8:ザガットサヸベイによるトップレストランの平均食事コスト(米ドル、都市比較、2010 年)

平均食事コスト

最も高い 20 店の平均食事コスト

東京 $93.33

東京 $271.46

大阪 $83.26

パリ $229.88

パリ $78.82

大阪 $189.17

ロンドン $65.63

ロンドン $151.88

ラスベガス $44.44

ニューヨーク $153.77

ニューヨーク $41.81

サンフランシスコ $115.44

ロングアイランド $41.41

ラスベガス $113.78

マイアミ/フロリダ $39.86

シカゴ $95.36

サンフランシスコ $39.40

ワシントン DC $83.63

ニュージャージー $39.24

マイアミ/フロリダ $82.21

ウェストチェスター/ハドソン $38.99

ロサンゼルス $82.01

全米平均 $34.62

全米平均 $76.37

出典:ZAGAT, 2010, ZAGAT Survey Summary, America’s Top Restaurants

プレミアムダイニングが使用するアルコールを除く食材仕入額は売り上げの約 26%

全米レストラン協会によれば、アルコールメニューの売り上げに占める割合は、フルサービス

レストランでは約 14.5%である16。ベーカー・ティリー(Baker Tilly)による「レストランの経

営指標(Restaurant Benchmarks)」によれば、平均的なフルサービスレストランでは、フード

メニューのうちの食材にかかるコストの割合は 28~32%とされている。

プレミアムダイニング売上高の約 8,840 億円のうち、アルコールを差し引くとフードメニュー

売上は約 7,560 億円となる。この内、コストの中の食材費率を 30%とすると、プレミアムダイ

ニングで使用される食材仕入額は約 2,270 億円、売上高の約 26%程度と推計される。

高級レストランでは「地場産の魚介類」、「持続可能性」がキーワードに浮上した

本事業に伴う関係者へのインタビューでは、高級レストランのメニュー卖価が低下しており、

15 必ずしも高いレストランだけではなく、人気のあるレストランが広く取り上げられる。ただし、ファーストフ

ード店は含まず、フルサービスレストランのみ。

16 National Restaurant Association, 2006, 2005 In Review によれば、フルサービスレストランにおけるフード

と飲み物の売上高合計が$165bn、アルコール売上高は$28bn。

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「米国と英国の小売市場参入に向けて」プロマヸジャパン

48

原材料価格の削減を余儀なくされていることがたびたび指摘された。

全米レストラン協会が毎年実施しているレストランのシェフ約 2000 人に、来期の注目食材や

メニューについて調査する「Chef Survey: What’s HOT」17によれば、2010 年の注目アイテム

の中では肉や野菜、魚介類、飲み物の区別を問わず、「地場産の食材」と「持続可能性」が大き

く上昇していることが注目される。

「新鮮さ」、「エコ・フレンドリー」、「フードマイルの短さ」、「ローカルコミュニティーやビジ

ネスに対する支援」といった観点で、レストランから顧客に向けてこういったイメージは非常に

発信しやすく、受け入れられやすい。また、地場産の産品を利用することは、それらの良いイメ

ージを強調できるわりには、オーガニック食材や特殊な高級食材を使う場合に比べると、原料に

かかるコストは比較的押さえられ、結果的にメニュー価格も維持ないし低減できる可能性が高い。

おそらく、経済危機の影響を大きく反映しているのではないかと考えられる。日本産の水産物に

とっては、やや逆風となっていることが指摘できるだろう。

表 9:フルサヸビスレストランのホットアイテム

Hot items 2008 Hot items 2009 Hot items 2010

1. 一口サイズのデザヸト 2. 地場産の生鮮野菜ヷ果実 3. オーガニックの生鮮野菜ヷ果実 4. 小皿料理、タパス、メッツェ* 5. スペシャルティサンドイッチ

1. 地場産の生鮮野菜ヷ果実 2. 一口サイズのデザヸト 3. オーガニックの生鮮野菜ヷ果実 4. 栄養バランスの良いお子様 メニュヸ 5. 新しいカットスタイルの肉 (デンバーステーキ、ポークフラットアイロン、骨付きトスカーナ風子牛チョップ)

1. 地場産の生鮮野菜ヷ果実 2. 地場産の肉ヷ魚介類 3. 持続可能性 (Sustainability) 4. 一口サイズのデザヸト 5. 地場産のワイン&ビヸル

出典:Hudson Riehle, 2008, Restaurant Industry 2008 and Beyond; Hudson Riehle, 2009, Restaurant Industry 2009

and Beyond; Hudson Riehle, 2010, Restaurant Industry 2010 and Beyond

注:タパスはスペイン料理の、メッツェはイタリア料理の小皿料理

17 National Restaurant Association, 2009, Chef Survey: What’s HOT in 2010

http://www.restaurant.org/pdfs/research/whats_hot_2010.pdf

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49

3.3 米国のレストラン業界におけるスシ・サシミ

生食用魚介類の需要がある米国のレストランの筆頭は、スシやサシミを提供する日本と韓国を中

心とするアジア系レストランである。およそ 11,000 店で 1,000~1,300 億円の生食用魚介類需要

があると見込まれる。既にフランス料理店をしのぐ数で、スシはもはやトレンドでは無く完全に

定着したと見なされている。ただし金融危機によってその直前に比べると 10~20%程度縮小した。

1990 年代末からは、日本食の影響でその他の米系やフランス系レストランでも生食用魚介類の

使用が増え、現在ではおよそ 2,200 店程度、20~30 億円程度の需要があると推計される。

3.3.1 スシやサシミを提供するアジア系レストラン

日本食を提供するアジア系レストランは全米で約 13,000 店

農林水産省の 2006 年の資料18によれば、当時の米国における「いわゆる日本食レストラン」

の数は約 9,000 店とされている。本事業によるプロマージャパン調べによれば、2010 年 3 月時

点でインターネット上のイエローページサイト(yellow.com)に掲載されている「日本レストラ

ン(Japanese Restaurant)」の数は 10,627 店(次頁表参照)にのぼる。同サイトで登録されて

いるレストラン数は 567,430 店で、米国センサス局の 2007 年経済センサスで把握される外食産

業店舗数である 566,020 店にほぼ近く、相当程度信頼できるデータであると推測される。地域

別の掲載数を調べたものを次頁以下の表にとりまとめた。

18 農林水産省, 2006 年 11 月,「海外における日本食レストランの現状について」

http://www.maff.go.jp/j/soushoku/sanki/easia/e_sesaku/japanese_food/kaigi/01/pdf/data3.pdf

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表 10:米国の州別の日本食レストラン数推計と外食産業の店舗数

農水省 ネット上のイエローページ(2010 年 3 月 10 日現在)

2007 年経済センサス 2002 年経済センサス 日本・韓国 レストランのシェア 州名

州名 2007 年

Switch- board Yellow.com

日本食 レストラン

日本 レストラン

日本 レストラン

韓国 レストラン

フレンチ レストラン

レストラン 外食 産業

フルサービスレストラン

外食 産業

フルサービスレストラン

レストランのうち

([a]+[b])/[c]

フルサービスレストランのうち

([a]+[b])/[d]

Japanese

restaurants

Japanese

restaurants

Korean

restaurants

French

restaurants Restaurants

Food services & drinking places

Full-service

restaurant

Food services & drinking places

Full-service

restaurant

[a] [b]

[c] [d]

*9,000 9,785 10,627 927 7,822 567,430 566,020 - 504,641 195,659 2.0% 5.9%

Alabama AL アラバマ

77 81 16 53 7,833 - - 6,304 2,310 1.2% 4.2%

Alaska AK アラスカ

47 50 7 13 1,424 1,468 526 1,371 500 4.0% 11.4%

Arizona AZ アリゾナ 90 156 174 13 158 10,894 - - 8,655 3,224 1.7% 5.8%

Arkansas AR アーカンソー

43 46 2 48 5,166 - - 3,918 1,658 0.9% 2.9%

California CA カリフォルニア 2,161 2,167 2,315 222 925 73,905 69,350 26,968 60,079 23,277 3.4% 10.9%

Colorado CO コロラド

190 218 10 196 9,793 10,513 4,295 9,230 3,961 2.3% 5.8%

Connecticut CT コネチカット

141 160 1 124 6,790 - - 6,625 2,770 2.4% 5.8%

Delaware DE デラウェア 20 21 24 3 21 1,610 - - 1,407 605 1.7% 4.5%

D.of Columbia DC コロンビア特別区

13 14 1 31 1,707 - - 1,684 571 0.9% 2.6%

Florida FL フロリダ

720 802 31 608 35,493 - - 26,377 11,799 2.3% 7.1%

Georgia GA ジョージア

373 389 23 133 18,087 - - 13,713 5,577 2.3% 7.4%

Hawaii HI ハワイ

206 215 72 34 2,628 3,225 1,156 2,858 1,081 10.9% 26.5%

Idaho ID アイダホ

31 33 0 39 2,681 2,985 1,174 2,651 1,092 1.2% 3.0%

Illinois IL イリノイ 210 314 338 41 410 23,919 - - 22,564 7,863 1.6% 4.8%

Indiana IN インディアナ 50 81 88 9 230 11,377 - - 10,684 3,931 0.9% 2.5%

Iowa IA アイオワ 10 25 30 2 83 6,060 - - 5,839 2,261 0.5% 1.4%

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農水省 ネット上のイエローページ(2010 年 3 月 10 日現在)

2007 年経済センサス 2002 年経済センサス 日本・韓国 レストランのシェア 州名

州名 2007 年

Switch- board Yellow.com

日本食 レストラン

日本 レストラン

日本 レストラン

韓国 レストラン

フレンチ レストラン

レストラン 外食 産業

フルサービスレストラン

外食 産業

フルサービスレストラン

レストランのうち

([a]+[b])/[c]

フルサービスレストランのうち

([a]+[b])/[d]

[a] [b]

[c] [d]

Kansas KS カンザス 30 38 45 4 71 5,052 - - 4,921 1,927 1.0% 2.5%

Kentucky KY ケンタッキー

66 72 11 89 7,004 - - 5,887 2,185 1.2% 3.8%

Louisiana LA ルイジアナ

107 117 2 82 7,304 - - 6,721 2,330 1.6% 5.1%

Maine ME メイン

16 19 1 22 2,451 2,960 1,432 2,705 1,305 0.8% 1.5%

Maryland MD メリーランド 170 110 129 16 155 9,605 - - 8,694 2,975 1.5% 4.9%

Massachusetts MA マサチューセッツ

154 182 20 186 12,180 14,939 5,607 13,998 5,226 1.7% 3.9%

Michigan MI ミシガン

110 122 20 201 16,743 - - 17,227 6,464 0.8% 2.2%

Minnesota MN ミネソタ 30 49 55 5 157 8,357 - - 8,809 3,452 0.7% 1.7%

Mississippi MS ミシシッピー

56 59 2 32 4,576 - - 3,652 1,290 1.3% 4.7%

Missouri MO ミズーリ 50 108 115 11 214 10,980 - - 9,951 3,876 1.1% 3.3%

Montana MT モンタナ

15 16 3 30 1,931 2,669 992 2,559 964 1.0% 2.0%

Nebraska NE ネブラスカ 10 24 28 5 56 3,205 - - 3,541 1,229 1.0% 2.7%

Nevada NV ネバダ 93 182 185 19 75 5,380 4,939 1,538 3,640 1,193 3.8% 17.1%

New Hampshire NH ニューハンプシャー

40 49 3 27 2,428 2,930 1,258 2,595 1,158 2.1% 4.5%

New Jersey NJ ニュージャージー 330 380 413 32 245 17,791 - - 16,149 5,880 2.5% 7.6%

New Mexico NM ニューメキシコ

64 65 2 76 3,574 3,274 1,361 2,962 1,276 1.9% 5.3%

New York NY ニューヨーク 860 634 712 72 544 35,186 - - 36,865 15,207 2.2% 5.2%

North Carolina NC ノースカロライナ

395 420 7 198 16,968 - - 13,796 5,895 2.5% 7.2%

North Dakota ND ノースダコタ

4 5 0 22 1,127 - - 1,479 569 0.4% 0.9%

Ohio OH オハイオ

146 155 18 428 19,902 - - 20,960 6,947 0.9% 2.5%

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2007 年経済センサス 2002 年経済センサス 日本・韓国 レストランのシェア 州名

州名 2007 年

Switch- board Yellow.com

日本食 レストラン

日本 レストラン

日本 レストラン

韓国 レストラン

フレンチ レストラン

レストラン 外食 産業

フルサービスレストラン

外食 産業

フルサービスレストラン

レストランのうち

([a]+[b])/[c]

フルサービスレストランのうち

([a]+[b])/[d] [a] [b]

[c] [d]

Oklahoma OK オクラホマ

45 46 8 93 6,986 - - 5,803 2,233 0.8% 2.4%

Oregon OR オレゴン

213 228 11 84 10,819 8,963 3,635 7,601 3,163 2.2% 7.6%

Pennsylvania PA ペンシルベニア 280 237 280 28 349 22,871 - - 22,933 8,468 1.3% 3.6%

Rhode Island RI ロードアイランド

23 24 5 24 2,137 2,728 1,031 2,507 979 1.4% 3.0%

South Carolina SC サウスカロライナ

200 209 10 81 9,224 - - 7,002 3,089 2.4% 7.1%

South Dakota SD サウスダコタ

6 6 1 22 1,405 - - 1,689 656 0.5% 1.1%

Tennessee TN テネシー

183 191 12 93 10,956 - - 8,662 3,408 1.9% 6.0%

Texas TX テキサス

503 558 52 473 44,142 - - 32,718 12,113 1.4% 5.0%

Utah UT ユタ

91 98 9 42 3,923 3,958 1,294 3,498 1,192 2.7% 9.0%

Vermont VT バーモント

10 10 3 24 1,202 1,474 713 1,403 672 1.1% 1.9%

Virginia VA バージニア

209 244 37 156 14,928 - - 11,719 5,073 1.9% 5.5%

Washington WA ワシントン 600 667 685 35 103 12,450 14,226 5,273 12,145 4,685 5.8% 15.4%

West Virginia WV ウェストバージニア 20 20 25 0 66 3,468 - - 2,931 1,012 0.7% 2.5%

Wisconsin WI ウィスコンシン 40 67 72 9 168 10,676 - - 11,747 4,578 0.8% 1.8%

Wyoming WY ワイオミング

8 11 1 28 1,132 1,244 507 1,213 510 1.1% 2.4%

出典:以下の情報源よりプロマヸジャパン調べ

農林水産省, 2007 年 2 月, 「主要都市ヷ地域における日本食レストランの現状と関係組織の活動状況」

http://www.maff.go.jp/j/soushoku/sanki/easia/e_sesaku/japanese_food/kaigi/02/pdf/ref_data1.pdf;

*印は 2006 年。農林水産省, 2006 年 11 月,「海外における日本食レストランの現状について」

http://www.maff.go.jp/j/soushoku/sanki/easia/e_sesaku/japanese_food/kaigi/01/pdf/data3.pdf;

Yellow.com http://www.yellow.com/; Switch board http://www.switchboard.com/; US Census Bureau, 2007 Economic Census; US Census Bureau, 2002 Economic Census

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日本レストラン以外にも、日本食メニューを提供する店に韓国レストランと中華レストランが

挙げられる。米国では韓国料理はあまり普及しておらず、韓国レストランは全米でわずか 927

店と日本レストランの約 10 分の 1 しかない。これらの韓国レストランでは、既に米国社会に良

く受け入れられていて比較的高い価格の付けやすいスシをメニューに取り入れる例が多く、ほと

んどの店舗で日本食も提供しているとみられる(下図参照)。加えて、中華レストランは全米で

26,532 店あるが、これらのうちの相当数もスシやサシミメニューを提供しているとされる。本

事業で実施したインタビューでは、日本食向け生鮮水産物流通の最大手業者が、顧客のレストラ

ン数は約 1 万数千店と答えており、いささか大まかな見積もりではあるが、現在米国で日本食

を提供するアジア系のレストランは日本・韓国レストランを中心として尐なくとも約 13,000 店

程度存在するのではないかと推計される。

図 27:韓国レストランにおけるスシヷサシミの提供

左:ニューヨーク Kangsuh Restaurant のスシカウンター 中ヷ右:マサチューセッツ 本格派韓国料理店 Koreana のスシメニューと店内

出典:Kangsuh Restaurant ウェブサイト; Koreana ウェブサイト

日本食レストランのうちプレミアムレストランは約 10%程度

ただし本事業に伴うインタビューによれば、これら 13,000 店のうち、日本人のシェフも多い

比較的プレミアムクラスの日本食レストランは上位 10%程度(1,300 店)を占めるにすぎないと

みられている。これらのプレミアムクラスの日本食レストランでは、生魚の提供についても非常

に幅広い魚種や形態での提供を行っており、食材の品質に対する関心も非常に高い。空輸で築地

市場から直送していることを売りとするレストランもあるくらいである。

一方で、残りの 9 割は韓国人や中国人、その他アジア人を中心とする経営体が多勢を占め、

生魚の品質に対する関心が比較的薄く、もともと食材にはなるべくコストの安いものを探す傾向

にあったが、金融危機の影響と韓国系・中国系の生食用水産物取扱業者が増加したことから、そ

の傾向に拍車がかかっているとみられる。

日本食を提供するアジア系レストランの生食用魚介類仕入額は 1,000~1,300 億円程度か。

13,000 店のうち、生魚を提供する店舗を約 85%と仮定すると、約 11,000 店舗となり、米国の

フルサービスレストラン計 196,000 店舗のうちの約 5.6%となる。これにフルサービスレストラ

ンの市場規模 17 兆 7 千億円を掛けると、9,980 億円となる。3.1.2 節に従ってこのうち 26%を

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食材コストと仮定すると、食材仕入額は約 2,600 億円となる。食材コストのうち約 5 割が魚介

類とすると日本食を提供するアジア系レストランの生食用魚介類仕入れ額は約 1,300 億円、4 割

が魚介類とすると 1,000 億円となる。

日本食を提供するアジア系レストランでは、カリフォルニア州が 22%、次いでフロリダ、

ニューヨーク、ワシントン、テキサス

米国で最も日本・韓国レストランが多いのはカリフォルニア州で、イエローページによれば

2,537 店と全米の 22%を占める。カリフォルニア州はもともと全米の中でフルサービスレストラ

ンが最も多い地域ではあるが、フルサービスレストランに占める日本・韓国レストランの割合も

10.9%と高くなっている。カリフォルニア州の中でも特に多いのがロサンゼルスとその近郊地帯

で、本事業においてインタビューをした卸売業者によれば約 1,200 店、次いでサンフランシスコ

が約 600 店となっている。

図 28:米国の州別の日本ヷ韓国レストラン分布(2010年、店舗数)

出典:前頁表よりプロマヸジャパン作成

注:*NJ-ニュヸジャヸジヸ; NC-ノヸスカロライナ; GA-ジョヸジア; IL-イリノイ; PA-ペンシルベニア; VA-バヸジニア; CO-コロ

ラド; SC-サウスカロライナ; NV-ネバダ; TN-テネシヸ; MA-マサチュヸセッツ; OR-オレゴン

これに、フロリダが833店(7.2%)、ニューヨークが784店(6.8%)、ワシントンが720店(6.2%)、

テキサスが 610 店(5.3%)と続いている。この中では特に、シアトルを擁するワシントン州に

おいて、フルサービスレストランに占める日本・韓国レストランの割合が 15.4%と高くなって

いることが注目される。

カリフォルニア

2,537 22%

フロリダ

833

784 ニューヨーク

720 ワシントン

610 テキサス

445

NJ*

IL*

379

PA*

308

287 ハワイ

VA* 281

OR* 239

SC* 219

CO* 228

GA*

412

NC*

445

NV* 204

TN* 203

MA

202

全米

計 11,554 店

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ただし、色々なトレンドは西海岸や東海岸から徐々に内陸部に広まっていく傾向にある。スシ

やサシミ関連のビジネスに関しては既に西海岸と東海岸は成熟期に入ったとみられており、本事

業に係る業界調査でしばしばコメントされたのは、今後のスシやサシミ関連ビジネスの新規開拓

の対象地として成長が期待されているのは内陸部であるという点を注記しておかなければなら

ない。

日本レストランの店舗数は 1990 年代初頭から 2000 年代上旬にかけて大きく増加したが、

ここ 1、2 年はほぼ横ばいか

日本食を提供するレストランの店舗数のここ数年の推移についての把握は難しいが、イエロー

ページに掲載されている「日本レストラン(Japanese Restaurant)」数の 1992 年からの推移

をみると、下図のようになる。本事業に伴うインタビューでは、日本レストランの店舗数はこの

1、2 年はほぼ横ばいとの見方が示された。ロサンゼルスやニューヨーク等の日本レストランが

発展した地域では、新規開店されるものより、閉店されるものの方が多いかもしれないとの見解

もみられた。これらを踏まえて図中の未調査部分を弊社推測として水色で示した。

今後の見通しとしては、これ以上はほとんど増えないだろうとの声も聞かれたが、一方では内

陸部など日本レストランが比較的尐ない地域ではさらに増加することが見込まれるため、ゆるや

かな増加が考えられるのではないかとの意見もある。

図 29:イエロヸペヸジに掲載されている日本レストラン店舗数の推移

出典:1992-2004 年 Ikezawa Food Specialists, Inc.; 2010 年プロマヸジャパン調べ(前掲表参照)

注:1993、1996、2005-2009 年は未調査。プロマヸジャパン推測。

金融危機により、日本食を提供するレストランビジネスはプレミアムクラスでは前年比約

15~20%減か。原材料のコストカットが続き、レストラン向け卸売業では 30~40%減の声も。

本事業に伴うインタビューでは、インタビュー先はいずれも口をそろえて日本食ビジネスは金

融危機の影響を大きく受けて下降局面にあると回答した。レストランでは、多尐の影響はあるが

回復しつつあるとの回答も見られたが、全般的にはまだ下降局面にあるとの見方が大勢を占めて

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56

いる。

レストランビジネスそのものは減尐したとはいえ、3.2.1 節で示したようにフルサービスレス

トラン全体で約 5~6%減、プレミアムレストランで約 17%減であるので、日本食を提供するレ

ストランビジネスも大雑把にだいたい 10~20%減と推計した。

日本食ビジネスの最大手であるベニハナ(Benihana Inc.)の 2009 年 3 月期の年報によれば、

鉄板焼きとスシを中心に展開するブランド「ベニハナ」では同期の売上高は 206,970 米ドルと

前年に比べて 4%減尐した。ただし、買収したスシ店のブランド「RA Sushi」と、同じくスシと

サシミをメインに提供しケータリングも行うダイニング「Haru」の両ブランドは健闘し、2009

年 3 月期の同社の全体での売り上げは 303,868 米ドルと前年から 2.9%増加した(ただし、純利

益はマイナス 5,065 米ドル)。その後の 2010 年のプレスリリースによれば、2010 年第 3 四半期

の同社の全体の売上高は 4.8%増加しており、2009 年に比べれば同社ビジネスの状況は好転して

いるといえる。

これら、良好な顧客を持つレストランは危機以前に比べれば成長のスピードは遅くなっている

ものの、危機直後の落ち込みに比べるとある程度の回復があるようにみられる。ただし、本事業

に伴うインタビューによれば、一方で一部には廃業を余儀なくされている店も出てきているとみ

え、特にニューヨークの金融街の高級店などでは目立って高級日本食レストラン店舗の数が減尐

しているとの声もあり、今後の不透明な経済状況の中で、決して楽観視はできない環境にある。

3.3.2 スシやサシミを提供する日本食レストランのチェヸン展開

スシやサシミを提供する日本食レストランでチェーン展開は尐なく、小規模ビジネスが中

心。

前述の日本食ビジネス最大手のベニハナはニューヨークを拠点とし、鉄板焼きとスシの両方を

提供する営業形態の店舗を全米に展開していたが、2003 年にはスシチェーンを買収してスシ専

業のビジネスも開始した。現在、同グループは 2010 年 3 月現在で傘下に 121 店舗を展開してい

る。

ベニハナに次いでスシやサシミの提供で有名なチェーンは「トーダイ(Todai)」である。日

本人創業のビジネスを現在の韓国人オーナーが買収し、スシとサシミ、シーフードなどの食べ放

題ビュッフェ形式で成功した。2010 年 3 月現在で 23 店舗を展開している。

この 2 つの有名なチェーンの他に、フードコートなどの低価格ラインのカジュアルな営業形

態では、メニューの中心にテリヤキチキンなどのグリルや丼物を据え、一部にスシメニューも扱

うような「Sarku」、「Rice Garden」、「SanSai」、「Hibachi-san」、「Kyoto Bowl」、「Edo Japan」

などの軽食チェーンが数十店から十数店規模で展開している。

平成 21年度農林水産物等輸出促進支援事業のうち農林水産物等課題解決対策公募事業

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57

また、中級・高級ラインの店舗形態では、米国の日本食レストランでカリスマ的存在の高級レ

ストランの「Nobu」と、中級クラスの「Kabuki」、「Marinepolis」、「Mio Sushi」がそれぞれ

十数店のチェーン展開をしている。

下表にスシやサシミを提供する日本食レストランのチェーンの例を挙げたが、上記の企業等を

除くと、10 店以下のチェーンがほとんどである。つまり、スシやサシミを扱うレストランの大

規模なチェーン展開は尐なく、ほとんどが 1~数店規模の比較的小規模なビジネスとなっている

ことが分かる。

表 11:スシやサシミ等を提供する日本食レストランチェヸンの例

会社名 ブランド名 店舗数 拠点 注

カジュアル

Sarku Japan Sarku Japan *200 カナダ グリル&スシの比較的安価なカフェテ

リア方式の店。

Rice Garden Rice Garden 59 カリフォルニア 中華系の料理を中心。スシも提供。

SanSai USA, Inc. SanSai Japanese Grill 39 カリフォルニア 2002 年創業のグリルとスシのチェヸ

ン。

WEST/EAST Teriyaki-Boy, Kaitensushi East, etc.

32 ニューヨーク ウェストが米国で EAST の商号名で活

動するスシやカラオケ、焼鳥店の展

開。

Panda Restaurant Group, Inc.

Hibachi-san 30 カリフォルニア フードコート等に出店する中華チェーンパン

ダグルヸプで寿司を含む日本食を提

供。

Kyoto Bowl Corp Kyoto Bowl 18 アリゾナ 丼物中心に、スシメニュヸも充実。

Daikichi Sushi - 16 ニューヨーク ニューヨークとニュージャージーに出店するカジ

ュアルなスシ店

Edo Japan Edo Japan 8 カナダ カナダ発。独立店とフヸドコヸト型店

舗。

中級ヷ高級

Benihana Benihana, RA sushi, Haru

*121 ニューヨーク 鉄板焼きとスシ店を直営&フランチャイ

ズ展開。スシ店は 2003 年に買収。う

ち直営は 98 店。1964 年創業。

Todai SSB, Inc. Todai *22 カリフォルニア スシの食べ放題のビュッフェスタイル

の先がけ。韓国人オヸナヸ。

Nobu Nobu 13 ニューヨーク 高級日本食レストランとして 1994年に

開店。世界展開する。カリスマシェフ

松久信幸氏のブランド。

Kabuki Restaurants Inc

Kabuki 13 カリフォルニア 居酒屋スタイルの店舗展開。スシヷサシ

ミメニュヸも豊富。

Marinepolis USA, Inc.

Marinepolis 12 オレゴン オレゴンとワシントンを中心に展開する

回転スシチェヸン。直営。ケータリングも

行う。

会社名 ブランド名 店舗数 拠点 注

Mio Sushi Mio Sushi 10 オレゴン 1994 年創業のスシチェヸン。

Mitsuwa Daikichi Sushi, 9 カリフォルニア 日系スヸパヸのミツワの経営するスシ

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Corporation Kappo Kayaba 3 店と割烹料理店。

Genki Sushi Hawaii

Genki Sushi 9 ハワイ 日本の元気寿司の現地法人。回転ス

シチェヸン。

Mikuni Japanese Restaurant Group, Inc

Mikuni Sushi 8 カリフォルニア サクラメント発のスシチェヸン。

Innovation dining group

Sushi Roku, Katana, Robata-bar

7 カリフォルニア スシ店及び居酒屋店として 7 店の展

開。この他にステヸキハウス等経営。

Sushi Samba Corporation

Sushi Samba 7 ニューヨーク スシとブラジル、ペルヸ料理を提供。

DJ タイムも。

Blue C Sushi Blue C Sushi 6 ワシントン 回転スシチェヸン。

Shogun Shogun restaurant 6 カリフォルニア 鉄板焼き&スシ店のチェヸン。

Sushi House Sushi House 6 イリノイ スシを中心に鍋やうどんメニュヸも。

O-Nami Restaurant

O-Nami 5 カリフォルニア スシとシヸフヸドチェヸンを展開。

Miyako Miyako Japanese

restaurant & Sushi bar

5 テキサス スシチェヸン。

East Tokyo Hibachi & Sushi

East Tokyo Hibachi & Sushi

5 ニュージャージー

鉄板焼き&寿司のチェヸン

Sushi Itto Sushi Itto 5 メキシコ メキシコ発のスシチェヸン。

ESG Empire Chinese Restaurant

4 ニューヨーク スシメニュヸの豊富な中華レストラン

Megu Megu 2 ニューヨーク この他に世界展開で4店舗を擁する。

Kura Yamato Express/Kura

Franchise

1 カリフォルニア 日本のくら寿司チェヸン。回転スシ。

今後のフランチャイズ展開を目指す。

出典:各社ウェブサイトを基にプロマヸジャパン作成

*米国外の店舗を含む。

3.3.3 その他のプレミアムダイニングでのスシやサシミ等生魚の提供

アジア系以外のプレミアムダイニングでのスシや生魚の提供も 1990 年代後半から盛んに

アジア系以外のプレミアムダイニングでも、日本食や日本風のフュージョン料理の影響を受け

て、スシやサシミ、その他のクルードやタルタル、セビーチェ、カルパッチョなどの生の魚介類

メニューが 1990 年代後半から 2000 年代にかけて次第に多く見られるようになってきた。

ハンバーガーやサンドイッチ、ステーキ、サラダのメニューを中心とするアメリカンスタイル

の店でも、例えば米国のプレミアムレストラン大手のヒルストンレストラングループ(Hillstone

Restaurant Group)傘下で全米に 28 店を展開するヒューストンズ(Houston’s)では、下図の

ようにスシメニューを展開している。同じくアメリカンスタイルのレストランで、カリフォルニ

アを中心に 26 店を展開するヤードハウス(Yard House)においても、アペタイザーの中に「ア

ヒマグロを軽くあぶったサシミ 軽くあぶり、醤油とビネガー、ワサビとガリを添えて」あるいは「ス

パイシーツナロール 軽くあぶったアヒマグロとアボガド、枝豆、キュウリ、ワサビ醤油のソース」な

どのメニューが見られる。

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図 30:Houston’s ロサンゼルス,サンタモニカ店のメニュヸの一部に含まれるスシ

出典:Hillstone レストラングルヸプウェブサイト

また、フレンチスタイルのプレミアムレストランで、ザガットサーベイでニューヨークの最も

美味しいレストランに選ばれ、ミシェランでも三ツ星に選ばれている「ル・ベルナルディン(Le

Bernardin)」のプリフィクスメニューには、以下のようなハマチやサーモン、カンパチなどを

使ったほとんど生で提供されるメニューが含まれている。同じくザガットサーベイで 2 位に選

ばれたフレンチレストラン「ダニエル(Daniel)」でも、「ウォッカビートで〆たハマチのロイ

ン、クルミ和え」や「レタスで包まれたタルタルとノーススターキャビア」などの生魚メニュー

が並んでいる。

表 12:ニュヸヨヸクのフレンチレストラン「ルヷベルナルディン」の生の魚介類メニュヸ

ハマチ

ハマチのベトナム風マリネ、ニョクマムビネガヸで

サヸモン

ユズで〆た天然アラスカサヸモン、エンダイブとレッドビヸトを添えて、コリアンダヸを漬けたヴェルジュスのソヸスで

カンパチ

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カンパチのタルタル、日本のキュウリのマリネを添えて、寝かせた柑橘類のビネガヸソヸスで

ヒラメ

ヒラメのサシミ、歯ごたえの良いキムチと冷たい柑橘、醤油、ハラペヸニョのナヸジュ仕立て

シマススズキ

シマスズキのタルタル、ミントとアイスプラントのサラダ、冷やしたレモンのナヸジュ仕立て

ウニ

ハラペヸニョのベッドの上にウニの卵を乗せ、ワサビジャムと藻塩、ワカメ添え、オレンジの香りを付けたスヸプ仕立て

出典:ルヷベルナルディンウェブサイト プロマヸジャパンによる翻訳

アジア系以外のプレミアムダイニングでの生食用魚介類需要は 20~30 億円程度か

本事業に伴うインタビューに基づいて弊社でざっと推計すると、これらアジア系以外のプレミ

アムダイニングで生魚を使うレストランは、アジア系のスシやサシミを提供する 11,000 店に比

べて、おそらく 20%くらいの規模で、約 2,200 店程度ではないかとみられる。ただし、日本食

とそれ以外のプレミアムレストラン双方に卸している水産物取扱業者によれば、これらのアジア

系以外のプレミアムレストランが扱う生食用水産物のボリュームとしては、もちろん相当多い店

もあるが、一般的にはスシやサシミをメインとする日本食レストランに比べると平均して 10 分

の 1 程度ではないかとの推計である。アジア系レストランの魚介類取扱高の 1,000~1,300 億円

に比べると、これらレストランでの需要はまだ 20~30 億円程度にとどまるのではないかと考え

られる。

3.3.4 スシやサシミの提供形態

最もポピュラーなスシはスパイシーツナロール、二番目はカリフォルニアロール

米国で最もポピュラーなスシはスパイシーツナロールといって、次頁の写真のようなネギトロ

に唐辛子のソースを混ぜてピリ辛の味付けにしたものを具とする巻物である。本事業に伴うイン

タビューによれば、日本食レストラン向けの水産物卸売業者らは、生食用魚介類で取扱量が最も

多いのは、東单アジア等で既にミンチ加工されたマグロの赤身であると述べており、需要が高い

ことが伺える。

他に、アボカドとカニ肉あるいはカニカマを内巻きにしたカリフォルニアロール、カリフォル

ニアロールに様々な魚介をトッピングしたレインボーロール、サーモンとチーズのフィラデルフ

ィアロール、フライしたソフトシェルクラブを具にしたスパイダーロール、アボカドとウナギを

外側に巻くドラゴンロールなど、様々な種類のカラフルな「ロール(Roll)」と呼ばれる巻物類

が、ポピュラーな形態となっている。スパイシーサーモンロール、スパイシーイェローテイルロ

ールなどのスパイシーツナロールのバリエーションも多い。なお、巻物が「マキ(Maki)」と呼

ばれることはまれで、一般には「ロール」の呼び名で知られる。様々なユニークで新しいロール

を開発することで消費者の人気を得ている店も多い。

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図 31:米国のスパイシヸツナロヸル(左)、カリフォルニアロヸル(中)、レインボヸロヸル(右)

出典:プロマヸジャパン他

にぎりでは、マグロ、サーモン、次いでハマチの 3 種が最もポピュラーな生魚で、この他に

ウナギやボイルされたエビ、タマゴ等の他、肉や野菜等も用いられる。一般に「ニギリ(Nigiri)」

と呼ばれているが、色々なスシ店のメニューを見ると、にぎりのことを狭義に「スシ」と表現す

ることがしばしばあるようで、「ロール&スシ(Roll & Sushi)」の表記は良く見受けられる。ト

ビコやマヨネーズ和えのエビ等の軍艦巻きも、スシ専門店では良く提供されるメニューで、「グ

ンカン(Gunkan)」と呼ばれる。

手巻きずしの形態は「テマキ(Temaki)」又は「ハンドロ

ール(Hand roll)」とよばれ、スシ専門店等では見受けられ

るがそれほどポピュラーではない。ちらしずしはほとんどみ

られない。

また、ロールや軍艦巻き、手巻きでは海苔を敬遠して、裏

巻きにしたり、あるいはライスペーパーやソイラッパーズ

(Soy Wrappers)がしばしば用いられる。ソイラッパーズ

というのは、海苔の専門店の山本山が、米国では海苔が敬遠

されることから、米国の市場向けに特別に開発した大豆製の

海苔の代替品である。ロールや軍艦巻き、手巻きずし等に用

いることができる。(右図参照)。

「サシミ」はカルパッチョやあぶりなども含み、近年人気が上昇している。

サシミの形態は、「生魚」が直接前面に出るために、現在でも苦手意識を持つ人が多い。また、

サシミの 1 切れあたりの価格が、同じ魚のスシ 1 貫の価格と同じ、つまり魚一切れでいくら、

との値付けである(スシ飯は値段に反映されない)ため、サシミを注文すると割高感がある。こ

のため、サシミはこれまであまりポピュラーではなかった。

ただし、近年は「サシミ」のメニューの中に通常のいわゆ

るサシミ形態(短冊形に切ってワサビ、ツマと別皿の醤油を

付す)での提供のほかに、右図のような野菜やハーブを乗せ

ハーブとソースを添えたスシロクのサシミ

出典:プロマヸジャパン撮影

出典:Yamamotoyama ウェブサイト

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たサラダやカルパッチョ、あるいは軽くあぶってソースを加えたような形態での提供も多くなり、

「サシミ」の人気が以前よりも上昇しており、「サシミ」の認知度も上がっている。またこれら

の形態については、レストランによっては「クルード」「カルパッチョ」「セビーチェ」等と呼ば

れることもあるが、カリフォルニアの日本食レストラン「Sushi Roku」のシェフによれば、「サ

ーモンサシミ ユズポン酢と甘味噌風味 フライドオニオン添え」といったような「サシミ」と

の表現を使った方がトレンディーな雰囲気を表現できるとのことで、「サシミ」の存在感が増し

ている。

3.3.5 日本食レストランのトレンド

スシはすでにトレンドではなく、オーソドックスなメニュー

前述の 2009 年の「Chef Survey: What’s HOT」によれば、13 種類のエスニック料理19の選択

肢のうち、スシが「ホットアイテム(Hot Item)」だと答えたシェフは 26%にすぎなかったが、

「いつも好まれている料理(Perennial Favorite)」であると答えたシェフは 43%に上った。既

に「トレンド」ではなく、オーソドックスなメニューとして受け入れられていることが分かる。

また、前掲のイエローページによる調査では、日本レストランの数(10,637 店)はフレンチ

レストランの数(7,822 店)を大きく上回っている。

3.2.2 節で取り上げたザガットサーベイによれば、全米の 14 万 5 千人のアンケート調査の結

果、何料理を最も好むかとの質問に対して日本食を挙げたのは全米平均で 10.9%と、イタリア

料理、アメリカ料理についで 3 位となっている。ただし地域別に差があり、ロサンゼルス、サ

クラメント、サンフランシスコ、ニューヨーク、サンディエゴ、ソルトレークシティー等の都市

部では日本食の人気はさらに高く 13~15%に達している。(次頁表参照)

19 米国におけるエスニック料理のカテゴリーには、ハンバーガー等の米国の伝統的な食とイタリア料理を除くほ

とんどの地域食の濃い料理が含まれる。例えば、フランス料理、スペイン料理、地中海料理、ペルー料理、キュ

ーバ料理、ラテンアメリカ料理、東单アジア料理を含む。

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表 13:ザガットサヸベイによる好みの料理(2010 年)

日本

料理

イタリア

料理

アメリカ

料理

フラン

ス料理

メキシ

コ料理

タイ

料理

中華

料理

インド

料理 その他

ロサンゼルス 17% 26% 13% 11% 10% 6% 7% 4% 6%

サクラメント 15% 22% 17% 7% 16% 8% 8% 3% 4%

サンフランシスコ 14% 22% 13% 14% 8% 9% 7% 6% 7%

ニューヨーク 13% 31% 13% 15% 6% 6% 6% 4% 6%

ソルトレイクシティー 13% 25% 12% 7% 13% 11% 8% 7% 4%

サンディエゴ 13% 23% 12% 13% 12% 8% 7% 5% 7%

ロングアイランド 12% 37% 17% 9% 6% 5% 6% 3% 5%

ニュージャージー 12% 32% 13% 11% 6% 9% 6% 5% 6%

ウェストチェスター/ハドソン 12% 31% 15% 12% 6% 7% 5% 6% 6%

シアトル 12% 23% 13% 11% 9% 12% 7% 6% 7%

コネチカット 11% 31% 15% 12% 6% 7% 6% 6% 6%

マイアミ/南フロリダ 11% 29% 16% 10% 6% 8% 6% 5% 9%

フィラデルフィア 11% 28% 14% 10% 10% 9% 7% 5% 6%

シカゴ 11% 26% 16% 12% 11% 8% 7% 4% 5%

ボストン 11% 25% 15% 14% 8% 9% 6% 6% 6%

ラスベガス 11% 24% 21% 10% 10% 6% 10% 3% 5%

ポートランド(オレゴン) 10% 26% 15% 9% 9% 11% 5% 6% 9%

デンバー 10% 24% 16% 13% 10% 8% 6% 6% 7%

DC/バルティモア 10% 22% 17% 12% 8% 10% 6% 7% 8%

シャーロット 9% 31% 21% 9% 9% 6% 6% 4% 5%

デトロイト 9% 29% 18% 10% 8% 7% 8% 6% 5%

オーランド/中部フロリダ 9% 28% 19% 12% 8% 8% 6% 4% 6%

アリゾナ 9% 28% 17% 9% 14% 7% 8% 4% 4%

オハイオ 9% 27% 20% 10% 9% 8% 6% 6% 5%

アトランタ 9% 27% 20% 8% 11% 12% 5% 3% 5%

テキサス 9% 22% 17% 9% 20% 7% 7% 4% 5%

セントルイス 8% 29% 22% 9% 11% 6% 5% 5% 5%

ミネアポリス 8% 26% 17% 12% 8% 11% 7% 6% 5%

カンザスシティ 7% 23% 21% 12% 15% 6% 6% 5% 5%

全米平均 10.9% 26.8% 16.4% 10.8% 9.8% 8.1% 6.6% 5.0% 5.8%

出典:ZAGAT, 2010, ZAGAT Survey Summary, America’s Top Restaurants

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一部では、本格(オーセンティック)志向が高まっている。

スシは米国では既に「広く一般に好まれる食」としての地位を確立した。3.2.2 節の日本食の

チェーン展開の中で挙げたサンバスシ(DJ ブースがあり、ラテンアメリカ料理と併せて提供す

る形態)や、華やかなロール類など、これまで『お寿司、地球を廻る』(松本紘宇、2002 年)や

『寿司、プリーズ!』(加藤裕子、2002 年)などで度々紹介されてきたように、「アメリカナイ

ズされた」雰囲気、そして「こってりした」味付けのロール類が、アメリカにおけるスシブーム

の主役を担ってきた。これらは現在ももちろん変わらずに人気があるが、それに加えて、ロサン

ゼルスやニューヨークを中心として、より「本格志向」なものに対する関心が高まってきたこと

も指摘できる。本事業に伴うインタビュー中には、英語ではしばしば「オーセンティックな日本

のスシ」と表現された。

例えば、前述のザガットサーベイでロサンゼルスで最も美味しいレストランとして挙げられた

「浦澤(Urasawa)」や 2 位の「スシゾー(Sushi Zo)」、あるいはロサンゼルスのダウンタウン

で最も勢いのある「鮨元(Sushi Gen)」、ニューヨークでザガットサーベイの 8 位と 9 位に挙げ

られた「笹舟(Sasabune)」、「スシ ヤスダ(Sushi Yasuda)」は、いずれもカウンター中心の

かなりこじんまりした店で、ネタにこだわり、ロールのメニューはほとんど無く、にぎりをメイ

ンとする非常に本格的な寿司屋である。

ただし本格志向といっても、必ずしも「日本の材料を使った、日本人が経営する、日本風の寿

司」のみを指している訳ではないことには注意が必要である。2009 年の雑誌記事「アメリカン・

スシ」20も、「オーセンティックな日本のスシがひそかに復活してきている(A quiet revival of

authentic Japanese sushi is under way in the U.S.)」と述べている。しかし、その要素として

は、ほとんどカウンターのみというこじんまりとしてリラックスできる空間、華やかでこってり

した味のロールメニューではなくシンプルな魚や素材の味を生かしたスシ、地場の魚も含めバラ

エティーに富んだ魚種(持続可能性にも良く気を配って)といったものである。しかも、この変

化をリードしているのは日本人シェフだけではなく、一部の生粋の米国人シェフが率先して取り

入れていると指摘している。

本格志向の中で、またスシに慣れる中で、魚種も尐しずつではあるが広がりを見せるようにな

っている。インタビューの中では、カンパチ、キンメダイ、関サバなどが例として挙げられた。

持続可能性は重要な課題に浮上している。

「持続可能性」は 3.2.3 節に挙げたように、外食ビジネスの中でトレンドの重要なキーワード

として浮上している。しかし、比較的小規模な経営の多い日本食を提供するレストラン分野では、

個別のレストランレベルでは、認識の高さはバラバラで、欧州にくらべると米国ではまだそれほ

ど強調されてはいない。持ち帰りスシの 1 社では、「持続可能性」を強調して品目を絞り、価格

20 American Sushi, Trevor Corson 著, Atlantic Magazine 2009 年 6 月号記事

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をやや上げるという試験販売を行ったところ、結果は消費者の反応があまり良くなく売上が減尐

したと述べている。ただし、一部の日本食レストランでは重視される動きが現れており、環境保

全グループの認証を受けるレストランも現れている。

より顕著なのが、高級シーフードレストランのチェーンや、高級レストラン向けの水産物流通

業者である。本事業に伴うインタビューでは、近畿大学の完全養殖マグロ(近大マグロ)やハワ

イ産コナカンパチは、米系のプレミアムレストランを中心に非常に大きな注目を集めているとの

声がしばしば聞かれた。これらの水産物流通の現場では、ほとんどの業者が「持続可能性」を、

今後の最も重要なファクターとして捉えている。敏感な業者の中には、日本産のブリから「持続

可能性」を強調する豪州の養殖場産のヒラマサに転換をはかるなどの例が出ている。

加えて、米系の大手小売業者と取引のある流通業者も、持続可能性について敏感になっている。

ウォールマートなどが、流通業者の持続可能性に関する取り組みを評価してポイント制にするな

どの動きを見せているためである。

MSC マーク21に対しては、米国への参入当時は話題になったが、現在はお金がかかるだけと

の認識を持つため認証の取得はあまり盛んでないとの声もある一方で、米国ホタテ協会が MSC

マークの導入を決めるなどの動きも現れている。

持続可能性の観点でメディアによく登場するのは、モンテレーベイ水族館(Monterey Bay

Aquarium)の発行する「シーフード・ウォッチ(Seafood WATCH)」という消費者に対する啓

蒙パンフレットで、2008 年には持続可能性の観点から見たスシの魚の選び方ガイドが発行され

た22(次頁図参照)。ホンマグロや日本産のブリ、ノルウェー産のサーモンなどがレッドリスト

として寿司ネタに選ばないよう推奨されている。米系プレミアムレストラン向けの大手水産物卸

売業者の一つサンタモニカシーフード社は、モンテレーベイ水族館と提携し、持続性の高い魚種

に関するレストラン側の理解を深めるため、セミナーを開催するなど様々な取り組みを行ってい

る。

この他に、同じく 2008 年にブルーオーシャン研究所(Blue Ocean Institute)が「海にフレ

ンドリーなスシ(Ocean Friendly Sushi)」を配布、Casson Trenor 氏が 2009 年に書籍『持続

可能なスシ』23を発行するなど、気運が高まりつつある。

21 イギリス発の水産物の持続可能性に関する認証システム。Marine Stewardship Council

22 カナダ版として、同水族館が協力し、SeaChoice が発行した「Canada’s Sustainable Sushi Guide」も配布さ

れている。

23 Casson Trenor、2009 年、Sustainable Sushi: A Guide to Saving the Oceans One Bite at a Time、North

Atlantic Books

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図 32:モンテレヸベイ水族館の「シヸフヸドウォッチ スシ 2010 年版」

出典:モンテレヸベイ水族館

マグロに含まれる水銀等、スシやサシミの安全性問題が時々ニュースになり、消費に多尐

の影響がある。

マグロ等の魚に含まれる水銀の問題は、時々ニュースとして取り上げられ、スシやサシミの消

費に多尐の影響を及ぼす。水銀の問題は米国では 1990 年代後半から度々取り上げられ、FDA

等においてもマグロ等の魚を取りすぎないようにとの注意喚起がされている。近年で話題となっ

たのは、2008 年 1 月にニューヨークタイムズがニューヨークの有名スシ店 20 店舗のマグロの

スシを独自に分析し、うち 5 店で FDA の基準を超える水銀が検出されたことを大きく記事に取

り上げたことである24。特に米国人は好きな魚種、例えばマグロであれば他のものは頼まず、マ

グロのスシだけを沢山食べるというような例があり、実際に水銀の問題が健康問題として顕在化

する例も出ているようである。ただし次の図に示すように、実際に水銀問題が魚種を選ぶ際に大

24 The New York Times, 2008 年 1 月 23 日付記事, High Mercury Levels are Found in Tuna Sushi, 記者:

Marian Burros

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きく意識されというわけではなく、本事業に伴うインタビューにおいても、ニュースで取り上げ

られるとその後は多尐の影響があるが、一時期を過ぎればまた消費は戻るとの意見が大多数であ

った。

図 33:ザガットサヸベイによる水銀問題が外食時の行動に与える影響(2010 年)

出典:ZAGAT, 2010, ZAGAT Survey Summary, America’s Top Restaurants

また、妊婦についてはリステリア汚染の可能性があるので、スシやサシミを避けるようにとの

注意喚起が新聞や雑誌、インターネット上の記事になることが時々ある。例えば FDA はリステ

リア菌による汚染のリスクが高い食品として、乳製品や生野菜と並んで魚介の生食(スシ・サシ

ミ等)を挙げており、妊婦に対してはスシやサシミ等の魚介類の生食を避けるように推奨してい

る25。この他に FDA ではアニサキスについてもリスクがあると指摘している。

一部では、健康志向が一層強まってきている

スシ人気の理由の一つには、米国人の健康志向が高まってきたことが挙げられるが、さらにス

シの選び方においても健康志向を強調するような記事が現れてきている。玄米のスシはすでに

1990 年代から存在したようであるが、より健康志向を意識して、白米ではなく、玄米のスシを

選ぶ顧客が一定層おり、また玄米スシ専門店も現れているほか、持ち帰りずしでは約 15%程度

が玄米製品となっている。また、ロールを揚げたフライド・ロール・スシやスシを使ったピザメ

ニュー、スシ・ピザなどの米国で開発された脂っこいスシメニューや、マヨネーズ等を多用する

コッテリした味付けのスシはカロリーが高いので避けるように指单する記事なども度々掲載さ

れている。

スシレストランの次は居酒屋!?

本事業に伴うインタビューによれば、外食ビジネスにおける日本食のトレンドとしては、スシ

レストランの次のトレンドとして浮上しているのが、尐しこじんまりとした「居酒屋」又は「炉

端焼き」のスタイルだろうとの意見が多く挙げられた。ロサンゼルスで人気のあるレストランを

いくつも経営するイノベーティブ・ダイニング・グループが次のビジネスとして新展開をはかっ

ているのは「居酒屋」と「炉端焼き」を組み合わせた「ロバタバー(Robata Bar)」と「カタナ

25 FDA ウェブサイト 妊婦に対する食事ガイド

http://www.fda.gov/Food/ResourcesForYou/HealthEducators/ucm082539

FDA ウェブサイト リステリア菌に関するガイド

http://www.fda.gov/ICECI/ComplianceManuals/CompliancePolicyGuidanceManual/ucm136694.htm

いくつかの

魚種を避

ける

22%

魚の消費

を減らす4%

気にしない

74%

平成 21年度農林水産物等輸出促進支援事業のうち農林水産物等課題解決対策公募事業

「米国と英国の小売市場参入に向けて」プロマヸジャパン

68

(Katana)」である。いずれもいわゆる昔ながらの居酒

屋や炉端焼きとは違って、モダンでシンプルなロサン

ゼルスの雰囲気とクールな日本の新しい文化に関する

イメージを上手く融合させた店づくりとなっている。

ニューヨークでも、「もつ鍋」とモダンなイメージを上

手くミックスさせた比較的小規模な居酒屋スタイルの

店「ハカタトントン(Hakata Tonton)」などの成功事

例が既にあらわれている。この他には、ラーメンやう

どんなどの軽食も注目されている。

ロバタバーのモダンな内装

出典:プロマヸジャパン撮影

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69

3.4 米国のスーパーマーケットと鮮魚店における

スシ・サシミ

米国のスヸパヸマヸケットの売上高は約 49 兆円で、水産物は食品売上の約 4%を占めるが、一般

の水産物売り場ではスシネタやサシミ用水産物の取り扱いはほとんどない。替わりに普及したの

が持ち帰りスシの店内製造をするスシコヸナヸで、これを支えたのがスシコヸナヸのフランチャ

イズ展開をビジネスとするスシコヸナヸ企業である。スシコヸナヸは現在 4,200 店程度に成長し、

生食用魚介類の取扱高は 200~300 億円に上ると考えられる。他にリテイル分野では日系と韓国

系を中心とするアジア系スヸパヸマヸケットで 40~50 億円程度の生食用魚介類取扱高がある。

3.4.1 米国の一般の食品スヸパヸマヸケットと水産物コヸナヸ

米国のスーパーマーケット業界の概要

米国のフードマーケティング研究所(Food Marketing Institute)によれば、米国のスーパー

マーケットの売上高は 2008 年で 5,471 億ドル(約 49 兆円)である。スーパーマーケットニュ

ース(Supermarket News)によれば、食品を扱うスーパーマーケットと卸売業者の上位 75 社

合計の 2009 年の売り上げは合計 8,914 億ドル(約 80 兆円)で、金融危機の影響を受けて、2008

年に比べると 0.2%減尐した。このうちトップ 10 社の売り上げは 6,060 億ドルで、約 68%を占

める。最大のスーパーマーケットチェーンはウォールマートで、2,620 億米ドル、次いでクロー

ガー(Kroger)が 760 億米ドルとなっている。

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70

表 14:米国の食品を扱うスヸパヸマヸケットヷ卸売企業上位 10 社

企業 ブランド 店舗数 売上高 (10 億ドル)

Wal-Mart Stores Wal-Mart 4,624 262.0

Kroger Co Kroger, Ralphs, Food 4 Lee, etc. 3,634 76.0

Costoco Wholesaler Corp Costoco 527 71.4

Supervalu Supervalu, Save-A-Lots, Cub Foods, Albertson, Bristol Farms

2,450 41.3

Safeway Safeway, Vons 1,730 40.8

Loblaw Cos. Loblaw, その他フランチャイズ 1,036 29.9

Publix Super Markets Publix 1,018 24.3

Ahold USA Stop & Shop, Giant Foods, Ukrop’s 707 22.3

C&S Wholesale Grocers 卸売。子会社にスーパーチェーン - 19.0

Delhaize America Food Lions, Hannaford Bros., etc. 1,608 19.0

出典:Supermarket News, 2010 年, SN's Top 75 retailers for 2010

高級小売が消費者の信頼を集めている。ただし、必ずしも鮮魚取扱のレベルは高くない。

米国ではオーガニック農産物や高級食材を多く扱うことで消費者の信頼を集め、トレンドのけ

ん引役となっている特徴的なスーパーマーケットがある。代表的なチェーンはトレーダージョー

ズ(Trader Joe’s)とホールフーズマーケット(Whole Foods Market)で、全米でそれぞれ 300

~350 店を展開している。この他にも、カリフォルニアでは例えばスーパーバリュー(Supervalu)

系列のブリストルファームズ(Bristol Farms)や、独立系のワイルドオーツ(Wild Oates)など

が挙げられるように、自然食品や高級食材を扱う高級小売の市場が発達している。ただし、スー

パーマーケット市場全体から見るとこれら企業の取扱高は限られている。

また、4 章で見るように、これらのスーパーマーケットは消費者の強い信頼を集めているが、

こと水産物に関しては、必ずしも高品質・高級・多種の品ぞろえとはなっていない。「持続可能

性」等に対する関心は高いものの、残念ながら水産物の取扱自体は他の一般のスーパーと比べて

特に充実している訳ではない。

表 15:オヸガニックや高級食材で有名なスヸパヸマヸケット上位 2 社

企業 店舗数 売上高 (10 億ドル) 注

Trader Joe’s 350 8 オーガニック等の製品を扱うが、比

較的安価なラインが中心。水産物は

冷凍品中心。

Whole Foods Market 286 8 オーガニック等の製品を扱う。水産

物分野では、「持続可能性」等に対

する意識は高く、日本産ハマチの取

扱を取りやめる。

出典:Supermarket News, 2010 年, SN's Top 75 retailers for 2010

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米国の食品小売業における水産物の取り扱いは食料品の中で 4%を占めるのみ

米国の水産物消費量は 3.5 節に示すように近年増加を続けているが、労働統計局の消費者支出

調査によれば、米国の消費者の家庭での食料品購入の品目シェアにおいて、水産物はわずか 4%

を占めるのみである。食品小売業における水産物の取扱量もこれに準じるものと考えられる。

図 34:家庭での食料品購入の品目シェア(2008年)

出典:Bureau of Labor Statistics, 2008, Consumer Expenditure Survey

一般には、米国の食品小売業における生鮮水産物コーナーは貧弱

これを反映して、米国の食品小売業における

鮮魚コーナーは貧弱で、日本のスーパーマーケ

ットに比べると鮮度管理も务る。

主な魚種はサーモン、タラ、マグロ、ティラ

ピア、ハリバット(オヒョウ)、エビ、ホタテ

などとなっている。魚はほとんどがフィレやス

テーキの状態に加工して、骨や皮を全て除き、

捌く必要なく、すぐに調理できる状態に加工さ

れている。(右図参照)

マグロなどでは、まれに「サシミグレード」と表記されることがあり、また店によってはマグ

ロのセビーチェなどの総菜メニューが鮮魚コーナーの一角に置かれているが、一般にはほとんど

が加熱用である。

冷凍水産物コーナーの王者はエビ。他にはフィレやレディートゥークック製品

冷凍水産物コーナーで最も重要な品目はエビで、頭部と脚のみ取り除いた殻付きや、尾のみ、

あるいは完全なむき身の冷凍から、茹でたもの、そのまま食べれるよう美しく盛り付けたもの、

あるいは衣を付けたもの、既にフライしたもの、エビを使った総菜メニューなど様々な形態がみ

られる。2008 年実績では、スーパーマーケットで販売されている冷凍エビは総計約 11 億ドル

穀物、ベーカリー

類13%

牛肉

7%

豚肉

4%鶏肉

4% その他食肉

3%

魚介類

4%タマゴ

1%

乳製品

12%果実・野菜

17%

その他の食品

35%

出典:プロマヸジャパン撮影

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(約 990 億円)に達したとみられている26。

この他に、フィレや切り身などのカットの形で冷凍したコッドやマグロ、ハリブット、サーモ

ン、マヒマヒ、ティラピア、キャットフィッシュなどの製品も各種品ぞろえがあり、低所得層の

拡大を背景に着実に需要が伸びているものとみられている。

冷凍水産物の分野で最も成長しているとみられるのが、電子レンジにかけるだけ、あるいは焼

くだけで大丈夫なレディートゥークック(Ready to Cook)製品である。「レストランレベルの

高品質」を売りにした製品が各種現れるようになっている。これらの製品は「シーフードアント

レ27(Seafood entrée)」とも呼ばれている。

冷凍水産物には、各スーパーマーケットチェーンのプライベートブランドのほか、ナショナル

ブランドとして「ゴートンズ(Gorton’s)」、「シーパック(Sea Pak)」、「オリジナルラングーン

(Original Rangoon)」、「ウォーターフロントビストロ(Waterfront Bistro)」などがある。

3.4.2 日系とその他アジア系スヸパヸマヸケットにおける水産物コヸナヸ

日系スーパーマーケットやその他アジア系スーパーマーケットは西海岸を中心に発達。サ

シミ等を豊富に扱う

日系やその他アジア系の人口が多いカリフォルニアを中心とした西海岸の都市では、マルカイ

とニジヤの日系スーパーマーケットチェーンをはじめ、韓国系、中国系などアジア系スーパーマ

ーケットチェーンが多く存在する。ニューヨークのサンライズマート等、他の都市にも日系スー

パーマーケットは存在するが、ニジヤやマルカイに比べると小規模なチェーンとなっており、韓

国系や中国系では比較的大きいチェーンを持つところもある。

図 35:アジア系スヸパヸマヸケットでの豊富な生鮮ヷ冷凍魚介類の品ぞろえ

出典:プロマヸジャパン撮影

これらアジア系スーパーマーケットチェーンでは魚介類の取扱いが豊富である。特に日系と韓

国系では、日本のスーパーマーケットのように鮮魚コーナーでサシミのカット加工とパック詰め

26 Seafood Business, 2009 年 4 月 14 日付記事, Supermarkets benefit from rising frozen seafood sales

27 欧州と異なり、北米ではメインディッシュのことを「アントレ」と呼ぶ。

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を行い、サシミ用のロイン又は、ツマ等と盛り合わせたサシミパックの形で提供している。本事

業に伴うインタビューによれば、日系のスーパーではこれら生食用魚介類の取扱いを差別化のウ

リの一つとしており、水産物売上高の中では生食用が 5 割近くを占める所もある。韓国系スー

パーマーケットでは、韓国人の嗜好に合せ、ヒラメの活魚を置いている所もある。顧客の要望に

応じてサシミ向け等に捌いて提供する。

冷凍魚コーナーについては、日系のスーパーマーケットでは日本産のホタテを除くと生食用の

魚介類の取扱はほとんどないが、韓国系スーパーマーケットでは、ホタテの他にもティラピアの

冷凍フィレや、マグロ冷凍サク、ハマチ冷凍フィレなど、生食用とみられる冷凍魚介類を相当量

扱っている。(前掲の図中、右の写真参照)。

アジア系スーパーマーケットでの生食用魚介類の取扱高は 150~200 億円程度。

流通業者に対するインタビュー等では各社それぞれ数%~15%程度がスーパーマーケット向

けの取扱であった。スーパーマーケット向けを全体のうち 10%程度と見込むと、おそらく 130

~180 億円程度の市場規模があるのではないかと推測される。

表 16:主なアジア系スヸパヸマヸケットチェヸン

チェヸン 店舗数 注

日系

Nijiya 12 1986 年カリフォルニアで創業の日系スヸパヸ最大手の一つ。

Marukai 10 1965年に総合商社マルカイによって設立され、カリフォルニアを拠点としてスヸパヸを展開。99 セントショップ等も持つ。

Uwajimaya 4 ワシントンを中心に展開。

Ichiban Kan 3 カリフォルニアを中心に展開。

Tensuke Market 1 日系鮮魚卸の True World 系列。

Tokyo Fish Market 1 カリフォルニア。魚店からスヸパヸに。

Katagiri 2 食品館と生活館を展開。日本食卸の Central Trading系列。

韓国系

Hmart 33 全米に展開する韓国系スヸパヸ。ネット販売も。

Lotte/ Assi Market 13 Lotte Plaza に出店。比較的高品質の品ぞろえ。

Mitsuwa 8 元々ヤオハン系列であったが、現在は韓国系の経営

Hannam Market 6 カリフォルニアの韓国人コミュニティーを中心に展開。

中国系

99 Ranch Market 28 アジア系で最大のチェヸン展開。

Hong Kong Food Market 14 テキサスを中心に展開。

Shun Fat Supermarket 10 ベトナム系チャイニーズ。カリフォルニアを中心に展開

168 Supermarket na 99 Ranch Market と資本提携あり。

Marina Food na 中華系スーパー。カリフォルニアを中心に展開。

出典:各社ウェブサイト等を基に、プロマヸジャパン作成

3.4.3 米国のスヸパヸマヸケットにおけるスシコヸナヸとプレパッケヸジドスシ

米国のスーパーではHMRの一種として、店内製造の持ち帰りフードが一般的になっている。

米国では日本に先行して、従来の家庭での調理に代わる、ホームミールリプレースメント

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(Home Meal Replacement – HMR)分野が発達を遂げてきた。冷凍やチルド食品で、レディ

ートゥーイート(Ready to Eat)、レディートゥークック(Ready to Cook)などの商品群が発

達している。

ディスカウント店を除く、ハイエンドあるいは一般のスーパ

ーマーケットが最近力を入れているのは、店内調理の持ち帰り

フードのコーナーである。自分で好きな野菜やドレッシングを

盛り合わせる「サラダバー」や、その場で好みの材料を組み合

わせて作ってもらう「サンドイッチバー」、オーブンで焼いた

チキンから中華の炒め物やタイカレーなど様々な料理を、自分

でパック詰めする「ホットフードバー」、各種のスープが準備されている「スープバー」、セルフ

サービスで美味しいコーヒーを入れられる「カフェバー」、米国での人気のメキシカン料理の「ブ

リトーバー」など、多種多様な持ち帰りフードコーナーが生まれている。特に最近の外食の減尐

を背景に、スーパーの持ち帰りフードがより力を付けてきているとみられている。28

一般の米系スーパーでも、スシコーナーやプレパッケージドのスシが一般的になった

スシも、この 10 年間にホームミールリプレースメントの分野ですっかりおなじみの一つとな

った。スーパーマーケット内には、パック詰めされた持ち帰りスシの店内製造コーナーが普及し

た。米国では前述の「サラダバー」や「サンドイッチバー」に倣って、このコーナーは一般に「ス

シバー」と称されているが、本書では外食でスシとアルコールを提供するいわゆるスシバーとの

混乱を避けるために「スシコーナー」と称することにした。実は、これらスシコーナービジネス

を取り仕切るのはスーパーマーケット自体ではなく、スシコーナーの運営に特化したスシコーナ

ー企業である。

スシコーナーの商品はロールが主体だが、にぎりも扱っており、2 年ほど前からはサシミも取

り扱うようになってきた。ただし、サシミの占める割合はスシコーナーの 5%程度である。

スーパーマーケットで、スシコーナー以上に多くの店舗で見かけられるようになったのは、す

でに外部の工場でパック詰めされた消費期限が数日~1 週間程度のパック詰めスシ(プレパッケ

ージドスシと呼ばれる)である。こちらはスーパーマーケット内のチーズやハム、乳製品等を販

売するような冷蔵ケースに陳列して販売されている。

28 Metro, 2008 年 9 月 15 日付記事, Supermarket prepared foods increasingly fill the plate

Supermarket News, 2008 年 2 月 8 日付記事, Brookshire Plans New Prepared-Food Concept

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図 36:スヸパヸの持ち帰りスシコヸナヸ(左)と同コヸナヸに並ぶサシミ(右)

出典:プロマヸジャパン

スシコーナーの店舗数は約 4,200 店程度に成長。

米国のスーパーマーケットでは、店内に「スシバー(Sushi Bar)」と呼ばれるスシコーナー

を設けて常駐スタッフを配置し、そこで調理とパック詰めを行う形態が一般的に見られるように

なった。スシコーナーの展開を支えたのが、スシコーナーの運営とフランチャイズ展開を専門と

するスシコーナー企業である。これらスシコーナー企業は、学校や工場、軍などのカフェテリア、

病院給食などにも参入しており、プロマージャパン調べでは、これら合せてスシコーナーの数は

判明しているブランドだけで既に 4,031 店となっているため、合計では尐なくとも約 4,200 店程

度になるとみられ、現在も成長を続けている分野である。(次頁表参照。)

最大手は「サザンツナミ(Southern Tsunami)」のブランドで展開する AFC 社(Advanced

Fresh Concepts Corp)である。全米で 2,900 店程度(うち 2,500 店がスーパー内店舗)のスシ

コーナーを運営しており 70%以上のシェアを持つ。同社のビジネス形態は主にフランチャイズ

展開で、オーナーを募集し、1~2 週間程度の訓練を施した後、小売店に出店したスシコーナー

で、フランチャイズのオーナーとしてスシを製造・提供させる。顧客の会計はスーパーのレジで

他の買い物と一緒に済ませる。また、スシの材料は全て AFC 社が提供し、フランチャイズのオ

ーナーは全て材料を AFC 社から購入する。なお、AFC 社はほとんどの水産物について商社を介

さず独自で仕入れている。

二番手が「ACE スシ(ACE sushi)」のブランド展開を行っているアジアナ・マネージメント・

グループ(Asiana Management Group Inc)で約 600 店の展開、三番手が「ヒッショウスシ

(Hissho Sushi)」のブランド展開を行っているルィンファミリー(Lwin Family)で約 340 店

の展開となっている。これらはいずれも AFC 社に類似のフランチャイズ展開を行っている。ま

た、「キッカ(Kikka)」ブランドで店内製造以外にパック詰めスシも取り扱っている ITO 社も

スシコーナー運営を行っているが、店舗数は不明であった。

フランチャイズ展開ではなく、全て直営にすることによって高い品質を売りにしているのが、

「ゲンジ(Genji)」ブランドで 111 店を展開するゲンジ社で、東海岸のホールフーズマーケッ

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トを中心に出店している。ゲンジではイートインコーナーも併設する場合がある。

前述のスーパーマーケット「ブリストルファームズ(Bristol Farms)」は鮮魚等のシーフード

の仕入れに力を入れており、例外的なケースであるが、1986 年からスーパーマーケット自身が

店舗内のスシコーナーを運営している。現在は展開する 14 店舗全てにスシ担当のシェフを常駐

させるスシコーナーを設けて、スシの他に、サシミや付け合わせ、弁当等も販売している。同社

へのインタビューによれば、スシは同社のスーパーマーケットの主力商品の一つに成長しており、

平均でスーパーマーケットの 1 日の売り上げの約 3.5%、多い店では 10%以上をも占めると述べ

ている。

表 17:米国の持ち帰りスシ(スシコヸナヸ&プレパッケヸジドスシ)企業

会社名 ブランド名 店舗数 拠点 注

スシコヸナヸ(持ち帰りスシコヸナヸ)

Advanced Fresh Concepts Corp

Southern Tsunami 2,900 カリフォルニア 米国最大規模。

45 州でスーパーマーケット内のスシバー 2,500

店を持つ。

米国給食大手の Sodexho と提携し、大

学(180 校)、病院、会社、国内外の米

軍基地給食ビジネスも手掛ける。

2009 年回転スシ店をオープン。

1986 年創業。

カナダにも 100 店を展開している。

Asiana Management Group Inc

ACE Sushi 600 カリフォルニア 米国で 2 番目の規模。

フランチャイズ制。もともと冷凍点心製

造からスタヸト、スシフランチャイズ事業に

転身。

38 州でスーパー内の持ち帰りスシコーナーを

持つ。1990 年創業。

Lwin Family co. Hissho Sushi 340 ノースカロライナ フランチャイズ制。25 州でスーパー、カフ

ェ、病院、大学、会社等のスシコヸナヸ

を運営。

フルサイズの店で、1 店舗あたりの売り

上げは 1 日約 5,000 ドル。

他に、みそ汁や枝豆等独自ブランドも

持つ。1998 年創業。

Genji, Inc. Genji 111 ペンシルベニア 直営。18 州でオヸガニックや高品質で

米国で最も有名な高級スヸパヸWhole

Foods に出店。

一部にはイヸトインのスシカウンタヸも持

つ。1997 年創業。

Bristol Farms Bristol Farms 14 カリフォルニア 高級スヸパヸ。独自のスシコヸナヸを

持つ。

Sushiboy Sushiboy 12 カリフォルニア 日系スーパーマルカイを中心に出店。

Mitsuwa Corporation

Daikichi Sushi 9 カリフォルニア 日系スヸパヸのミツワの経営するスシ

平成 21年度農林水産物等輸出促進支援事業のうち農林水産物等課題解決対策公募事業

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会社名 ブランド名 店舗数 拠点 注

Bento Nouveau Group

Bento Nouveau 4 カナダ カナダで 196 年に設立されたスシを中

心とするテイクアウトとカフェテリア、テイ

クアウトブランド。カナダで 2,000 店以上

のスヸパヸに出店。

Sushi with Gusto, Inc.

Sushi with Gusto na サウスカロライナ 大学やスヸパヸで持ち帰りスシコヸナ

ヸを出店。

スシコヸナヸ&プレパッケヸジドスシ

ITO, Inc. Kikka na カリフォルニア Whole Foods、Ralphs 等のスヸパヸ内

や学校、病院等の持ち帰りスシコヸナ

ヸを 13州で持つ。うどん等の持ち帰りフ

ヸドの店内製造ヷ販売も行う。

また、工場でパック詰めしたスシも他の

スーパーへ卸している。1986 年創業。

Nikko Enterprise Corporation

Nikko 41 カリフォルニア 9 州でオヸガニックや高品質を売りにす

るスヸパヸSunflower Farmers Market

や Earth Fare Marketsを中心にフランチ

ャイズ事業を展開。

セントラルキッチンを持ち、ケヸタリング

サヸビスを行う。

1998 年創業。

プレパッケヸジドスシ

Okami Foods, Inc.

Okami - カリフォルニア スシの製造ヷ販売。

Trader Joe’s を中心にスヸパヸへパック

詰めされたスシを卸している。

カリフォルニア、コロラド、イリノイ、マサチューセッ

ツの 4 州に製造拠点を持つ。

生魚は使わない。

1996 年創業。最大手か。

Fuji Food Products, Inc

Fujisan - カリフォルニア スシの製造ヷ販売。カリフォルニア、ワシント

ン、ニューハンプシャー、コロラドの 4 州に製造

拠点を持つ。

44 州 4,000 店以上のスーパー等にパック

詰スシを卸す。

1990 年創業。

World Sushi Express

Kotta - カリフォルニア スシの製造販売。1998 年創業。

Sushi Sushi Inc Sushi Sushi - マサチューセッツ スシの製造販売。

その他

Makkara Sushi & Japanese Grocery

Makkara 1 ミシガン スシの製造ヷ販売とケヸタリング。

日本食用食材販売。

12 店舗にスシを卸す。ヷ

Kozo Sushi Kozo Sushi 5 ハワイ 独立店舗。

Bumblefish, Inc. Bumblefish 4 カンザス 独立店舗&スーパー内のフードコートでパック

詰めスシを販売。

Chiyoda Sushi NY, Inc.

Chiyoda/Katagiri 2 ニューヨーク レストラン併設の持ち帰りスシ&弁当店を

2002 年に設立。

出典:各社ウェブサイトやインタビュヸ等を基にプロマヸジャパン作成

スシコーナーでの生食向け水産物の仕入高は 200~300 億円程度。

インターネット上のニュースや本事業に伴うインタビューから判断し、スシコーナーで 1 日

当たりの販売数を約 300 パック程度、うち 3 分の 1 で生魚が使われている(カニカマを使った

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カリフォルニアロール等が良く売れるため)とすると、1 店舗あたり 1 年で約 30,000 パックの

販売となる。使われている魚が 1 貫あたり 15g、8 ピース入りで、魚(マグロ、サーモン、ハマ

チ)の値段を 1kg 当たり 1,800 円で計算すると、1 パックあたりの魚の価格は 216 円となり、1

店舗あたり 1 年間の魚の仕入高は約 648 万円。これが 4,200 店舗分とすると合計で約 272 億円

分の仕入高となる。

このことから、スシコーナー全体の生食向け水産物の仕入高がおよそ 200~300 億円程度の規

模と推計すると、前述の日本食を提供するアジア系レストランの仕入高 1,000~1,300 億円と比

較して、これの 2 割~2 割強程度になっていると考えられる。

プレパッケージドスシのスーパー等での取扱いは約 9,000 店を超えるとみられるが、生食用

魚介類はほとんど用いない

スシコーナーの他に、工場で既にパック詰めされたスシをスーパーやドラッグストアなどに出

荷する例もあり、プレパッケージドスシと呼ばれる。大手はおそらく最大規模が「オカミ

(Okami)」ブランドを展開するオカミ社、次いで「フジサン(Fujisan)」ブランドを展開する

フジフードプロダクト社とみられる。いずれも 4 ヶ所に製造拠点を持ち、ほぼ全米に供給でき

る体制を整えている。

またこれ以外にスシコーナー経営を行っている ITO 社とニッコー社も、それぞれスシ加工場

を持ち、スーパーマーケット等に向けたプレパッケージドスシの販売もおこなっている。

フジフードプロダクト社は全米で 4,000 店程度に卸していると公表しており、尐なくともプレ

パッケージドスシを扱っているスーパーマーケットやドラッグストアの数は 9,000 店を超える

とみられる。全米のスーパーマーケット数はフードマーケティング研究所(Food Marketing

Institute)によれば、年間の販売高が 2 百万ドルを超えるスーパーマーケットの数は 2008 年で

約 35,400 店。スシコーナーのあるスーパーマーケットと併せると、全米のスーパーマーケット

数の 4 割弱でスシが販売されているとの推計になる。

ただし、プレパッケージドスシは、ほとんどが生魚を用いず、カニカマや野菜、茹でエビ等を

具材の中心とするもので、賞味期限は 1 週間程度に設定されている。このため、生食用魚介類

はプレパッケージドスシの分野ではほとんど無いものと考えられる。

コリアンデリ

この他に、ニューヨークのマンハッタンを中心として、「コリアンデリ」と呼ばれる韓国人が

経営するコンビニエンスストアタイプの店構えで、セルフサービスの持ち帰り総菜コーナー(店

内調理)が充実している小売店がある。韓国の惣菜や点心に交じって、ロールやいなり寿司など

が陳列されている。『お寿司、地球を廻る』(松本紘宇、2002 年)によれば、これらのコリアン

デリも寿司の大衆化に非常に大きい役割を果たしたとしているが、本事業にともなう現地調査で

はロサンゼルスのみの訪問であったため、これらコリアンデリの実態は詳しくレポートできない。

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79

3.4.4 冷凍スシ

冷凍スシは米国ではポピュラーではなく、今のところ、今後の大きな成長の見込みはない

米国ではこれまで様々な会社が冷凍スシのビジネスを手掛けてきたが、本事業に伴うインタビ

ューによれば、米国では前述のような持ち帰りスシビジネスが発達しているため、冷凍スシで大

きく成功しているところはまだ無いとのことであった。プロマージャパン調べでは、現在のとこ

ろスーパーマーケット向けに冷凍のロールスシの生産はあり、主に Banzai Fresh と The

Schwan Food Company の 2 社がみられる。ボイルされたエビやカニカマが主流で、サーモン

は使用されているものの、生食用の魚介類の使用量はごくわずかであると推測される。

表 18:米国の冷凍スシ企業

会社名 ブランド名 拠点 注

現在オペレヸションがあるとみられる企業

Banzai Fresh Banzai Sushi Rolls

ワシントン 冷凍スシの製造ヷ販売。49 州と欧州 13 カ国に販

売。20 種のロールを製造。2007 年記事*によれば、

Whole Foods に販売、1 ヵ月約 5,000 パウンドの水産

物を使用。

The Schwan Food Company

Rising Sun ミネソタ アジア系の冷凍食品メヸカヸ。

カリフォルニアロールとスパイシーシュリンプロールのみ。

Sushi Star Sushi Star メキシコ メキシコを拠点に冷凍スシの製造ヷ販売。

現在オペレヸションが無いとみられるプロジェクト

Kyokuyo Polar Seas Frozen Sushi

カリフォルニア True World と組み、ラスベガス等での業務用向けの

冷凍スシの販売を 2007 年に計画したが、その後撤

退。

Ajinomoto Frozen USA Ajinomoto オレゴン 冷凍スシの製造ヷ販売も行っていたが、現在はな

し。

California Gourmet sushi

- カリフォルニア 2003年 7月 6日付 Starbulletin 記事に業務向けに

冷凍スシの製造ヷ販売を行っている旨の記事があ

る。

出典:各社ウェブサイトやインタビュヸ等を基にプロマヸジャパン作成

*Best Frozen-Sushi Maker; Banzai Sushi, 2007 年 8 月 1 日付 Seattle Weekly 記事

3.4.5 鮮魚店とスシヷサシミ

このほかにスシやサシミに関連する小売店のルートとしては、魚介類専門の鮮魚店が挙げられ

る。カリフォルニアでは、サンタモニカシーフードや、フィッシュキングなどが有名で、いずれ

も高級レストラン向けの魚介類の卸業務をメインとするが、専門店も経営している。これらの鮮

魚店でも、スシやサシミを取り扱う例がみられる。魚介類の品質に敏感な優良な顧客をかかえる

ものの、いずれも規模は小さく、米国市場に大きな影響力を持つものではない。

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図 37:カリフォルニアの鮮魚店とスシ(左の写真右下隅)、サシミ(右の写真)

出典:プロマヸジャパン撮影

表 19:スシやサシミ用の魚を提供する鮮魚店の例

鮮魚店名 店舗数 拠点 概要

Hudson Fish Co. 4 カリフォルニア 魚介類専門店。

Santa Monica Seafood 2 カリフォルニア 主な業務はレストラン向けの卸売だが、カリフォル

ニアで小売店を展開。小売店ではテイクアウト用の

盛り合わせ「スシロールプラッター」のほか、一部

「サシミクオリティー」の魚を提供。

Fish King 1 カリフォルニア 同じくレストラン向けの鮮魚卸が経営する小売店。

スパイシーツナロールやマグロのタタキなどのスシ

やサシミを販売。

New Deal Fishmarket 1 マサチューセッツ 鮮魚等の小売店で、サシミ用の魚介類も豊富。

Quality Seafood Market 1 テキサス 水曜日は Sushi Night としてスシを提供。

El Pescador Fishmarket 1 カリフォルニア サンドイッチ等のデリを提供しており、マグロやサ

ーモン等のサシミプレートも。

出典:各社ウェブサイトやインタビュヸ等を基にプロマヸジャパン作成

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3.5 日本産の生食用魚介類の流通とプレイヤー

日本産の生食用魚介類の流通に携わるプレイヤヸには様々なバリエヸションがみられるが、大き

く分けると 4 種類になる。冷凍水産物の輸入を専門として米国内での加工施設を持たないいわゆ

る「輸入業者」、生鮮と冷凍の水産物を輸入して米国内での個別レストラン向けの加工やリパッ

クも行うことのできるいわゆる「魚屋」、そして日本からの直接輸入は少ないレストラン向け卸

売業者でスシがメインの「アジア系卸」と同じく直接輸入は少ないその他の高級レストラン向け

がメインの「米系卸」である。

3.5.1 日本産の生食用魚介類の流通経路

日本産の生食用魚介類のプレイヤーは主に 4 種類「輸入業者」「魚屋」「アジア系卸」「米系

卸」に分けられる

日本産の生食用魚介類の流通に携わるプレイヤーには様々な主体があり、また在庫量や得意と

する販売先に応じて、輸入業者同士や卸売業者同士などでもしばしば商品のやりとりが行われる

ため、複雑でバリエーションがあるが、ここでは多尐卖純化して、日本産の生食用魚介類の主な

流通経路とプレイヤーのおおまかな分類を次頁図に示した。

生鮮の水産物はチルドの航空便で輸入される。これを担当するのは主に「魚屋」と呼ばれる、

主にレストラン向けの鮮魚ビジネスを専業とし、個別レストランの要望に応じてカットやリパッ

クの行う事の出来る施設も擁する日本食レストラン向け鮮魚卸売業者である。これらの卸売業者

は生鮮水産物を直接日本から輸入するほかに、冷凍水産物もしばしば直接輸入する。近年は日本

食以外の米系プレミアムレストランでも生食用の魚介類を必要とするレストランが現れたこと

から、これら「魚屋」も米系プレミアムレストランに対するビジネスも一部で見られる。ただし、

これら米系プレミアムレストランでの生食用以外の魚介類の需要が通常の日本食レストランで

必要な魚介類と種類が異なるため、これら「魚屋」の中で米系プレミアムレストラン向けのビジ

ネスを本格的に手広く手掛けているところはあまり無い。

尚、個別レストランの要望に応じて、魚介類をカットやリパックする業態は米国では従来より

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一般的にあり、後述する米系レストラン向け水産物卸もこういった機能を持つ。米国ではレスト

ランでも魚介類の取扱に慣れない所が多くあり、レストラン向けの水産物卸、特に生鮮水産物卸

のビジネスでこういった業態が発達した。

一方、主に冷凍の水産物の大量輸入を得意とするのがいわゆる「輸入業者」で、多くが昔から

米や調味料、加工食品も含めて日本食の食材をトータルで輸入して小売やレストラン向けに卸し

ていた、歴史のある総合日本食レストラン向け輸入・卸売業者であるが、この他にいくつか新規

参入の業者も存在する。これらの業者は直接レストランに納入することもあるほか、様々な卸売

業者に対しての卸売も行う。米国内での魚介類の加工施設は持たない。

また、日本からの直接輸入は尐ないと考えられるが、アジア系のスシ店を顧客とするアジア系

レストラン向けの水産物卸に特化した業者-「アジア系レストラン卸」も多数存在する。

またその他の米系プレミアムレストラン向けの水産物卸に特化した業者-「米系レストラン卸」

も、米系やフランス系レストランでの生食用水産物需要増に従って日本産水産物も扱うようにな

っている。こちらは前述の通り特に鮮魚のカットやリパックと顧客への配送面に力を入れており、

直接輸入は尐ない。

図 38:日本産生食用魚介類の主な流通経路

出典:プロマヸジャパン

日本以外の国からの輸入、例えば生食用のマグロやサーモンなどについては、上記の輸入/卸

売り業者以外にも、米系の食品卸売最大手のシスコ(Sysco)も参入し、大小の幅広い企業が取

り扱っている。

また、3.4.3 節で紹介したとおり、スシコーナー最大手の AFC 社は日本から冷凍水産物を直

日本産水産物(冷凍) 日本産水産物(生鮮)

「輸入業者」

「魚屋」

アジア系レストラン卸・

米系レストラン卸

スシコーナー アジア系レストラン、その他レストラン

アジア系スーパー

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接仕入れている。

3.5.2 金融危機の影響及びその他のトレンド

生食向け水産物卸売業者は、金融危機の影響と業界内の競争激化の影響を強く受け、平均

で危機以前に比べて 30%程度の減尐。新しい投資が望めず、魚種の開拓等に対して消極的。

水産物卸売業者については、比較的業績が良好な企業では、「実際にはほとんど影響がない」、

あるいは「10%程度の減尐」との回答もあったが、インタビュー対象企業を平均すると一般的に

は約 30%程度の減尐とみられ、一部には 40%程度の減尐との声も聞かれた。水産物卸売ビジネ

スには、レストラン側の食材のコストカットが大きく影響しており、10~20%減とみられるプ

レミアム日本食レストランビジネス以上に深刻な影響が出ていると見られる。

さらに付言すると、2000 年代前半頃から日本食レストラン向けの水産物卸売業者の新規参入

や業務拡大が盛んに進行し、日本食レストラン業界が縮小に転じた 2008 年後半から、それら新

旧の業者による業界内での価格競争が激化したとみられる。特に象徴的な例では、日本産の魚介

類を韓国に活魚で運び、韓国でフィレ加工して米国に輸出することによって、人件費等の違いか

らわずかでも価格を下げようという動きがあったことについて、多くの卸売業者からコメントが

あり、熾烈な価格争いが起こっているとみられる。

また、金融機関の姿勢も消極的で、新規投資がなかなか難しくなっており、水産物卸売業者は

新規設備の導入に対して慎重な姿勢で臨まざるを得ない状況にある。ほとんどの水産物卸売業者

が、新しい高級な魚種の開拓に対しても消極的で(「安い」魚種の開拓には積極的だが)、日本産

の水産物の魚種の取扱拡大は当面は難しいだろうとの見込みを示している。

3.5.3 主要な輸入ヷ流通業者

「魚屋」

生鮮魚介類を取扱い、さらに各レストラン向けのリパックや加工を行う施設を持つ、いわゆる

「魚屋」と呼ばれる日本食レストラン向け卸売業者の最大手は、ニュージャージーとカリフォル

ニアに本社を置くトゥルーワールド社で、東海岸から西海岸まで全米 21 ヶ所に拠点を持つ。冷

凍・冷蔵双方で、日本からの直接輸入も多い。

他に、東海岸を中心とする企業にはヤマシーフード社、ウオリキフレッシュ社、西海岸を中心

とする企業にはインターナショナルマリンプロダクツ社、ロサンゼルスフィッシュ社、オーシャ

ンフレッシュフィッシュアンドシーフード社、パシフィックフレッシュフィッシュ社などがある。

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「輸入業者」

日本産冷凍水産物の生食用魚介類市場向け輸入業者、いわゆる「輸入業者」では、最も大きい

取扱量を誇るのが、キッコーマングループの JFC 社である。同社はカリフォルニアに本社を置

くが、全米の各地に 19 ヶ所の拠点を持ち、日本食レストラン向け食品卸としても最大規模であ

る。ただし、水産物の取り扱いはほぼ冷凍のみとなっており、米国内には魚介類のリパックや処

理施設等は持たない。二番手となるのが西本貿易で、全米の 14 ヶ所に拠点を持つ。

この他に日本食レストラン向けの食品卸の老舗としては、共同貿易、セントラル貿易、山正、

ダイエートレーディングなどが挙げられる。いずれもリパック施設等は持たず、水産物は冷凍を

中心とした取扱いである。

この他に比較的新しい参入として、伊藤忠商事と日清食品、米国の水産会社 Seaboard

Corporationの3社の合弁で2000年に設立された Icrest社がある。ニッスイの子会社F.W. Bryce

社も、2006 年から日本食レストラン向けビジネスに本格的に乗り出した。ニッスイが子会社に

養殖場を抱えるため、「輸入業者」ではあるが、冷凍だけでなくチルド製品も扱っている。

また、ベトナム系の H&N 社も、スシやサシミ向けも含めた高品質の水産物輸入では大手の一

つとなっている。

「アジア系卸」

この他、前節で「アジア系卸」と呼んだ、日本から直接輸入を行っているかどうか定かではな

い、比較的安価なアジア系スシレストランを中心ターゲットにしたアジア系のレストラン向け卸

は、韓国系や中華系、ベトナム系を中心として非常に多数存在する。例えば ABS 社、ゴールデ

ンオーシャンシーフード社、シーフードインポート社、ミンホンインターナショナル社などが挙

げられる。おそらく、日本産水産物の取り扱いではシェアは低いと考えられる。

「米系卸」

また、前節で「米系卸」と呼んだ米系の高級レストラン向け卸も、輸入業者から仕入れて日本

産水産物を扱う例があり、その中で大手としては西海岸ではサンタモニカシーフード社、パシフ

ィックアメリカンフィッシュ社、キングフィッシュ社、東海岸ではサミュエルズソンシーフード

社、オールフレッシュシーフード社などが挙げられる。

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表 20:米国の日本産水産物の流通業者の例

企業 物流拠点 規模 注

「輸入業者」日本産冷凍水産物の輸入・卸売業者(リパック・加工施設を持たず、水産物は冷凍中心)

JFC CA(HQ),

全米 19 ヶ所

na 日本食レストラン向け卸最大手。キッコーマングループ。

加工食品も多く扱う。www.jfc.com

Nishimoto Trading CA(HQ)

全米 14 ヶ所

na 日本食レストラン向け卸 2 位。

www.nishimototrading.com

Mutual trading CA(HQ)

全米 7 ヶ所

na 日本食レストラン向け卸。

www.lamtc.com

Central Trading NY, CA, HI na 日本食レストラン向け卸。

www.boeki.co.jp

Yamasho IL, GA na 日本食レストラン向け卸。

www.yamashoinc.com

Icrest International LLC LA na 伊藤忠、Nissin Foods USA、Seaboard Corporation の

合弁で 2000 年に日本食向け食品卸として設立。

www.icrestjcp.com

Daiei Trading NY, WA na 日本食レストラン向け卸

daiei-trading.com

H&N Foods International CA na 日本食だけでなく、エビ等様々な種類を扱う。ベ

トナム資本の水産物大手取扱業者。

www.hnfoods.com

F.W. Bryce, Inc MA, WA na ニッスイ子会社。外食小売向けにサケやタラ等の販売。

2006 年 よ り ア シ ゙ ア 食 品 部 門 を 創 設 。

www.fwbryce.com

「魚屋」日本産生鮮・冷凍水産物の直接輸入を行う日本レストラン向け生鮮/冷凍水産物卸売業者

True world Foods CA/NJ (HQ)

全米 21 ヶ所

$ 250

mill

日本食向け生鮮水産物の取扱最大手。

www.trueworldfoods.com

Yama seafood NJ, NY, DC, CT $23

mill

小売店舗も有する。

www.yamaseafood.com

Uoriki Fresh Inc NJ $10m

ill?

三菱商事の MC Fresh を魚力が買収。Wegmans や

Genji 等に納入。www.minus76.com

International Marine Products CA, NV, UT

宅配で全米

$11.1

mill

EIWA 子会社 同社は 25 店舗のレストランを運営

www.intmarine.com

LA Fish CA, NV

宅配で全米

na 日本食を中心にレストラン 500 軒以上の顧客。

米国水産大手 American fish and seafood の子会社。

www.lafishco.com

Ocean Fresh Fish and Seafood CA, NV na 韓国系。日本食を中心とするレストラン卸。南カリ

フォルニアを中心に 25 台の配送車を持つ。

www.oceanfreshinc.com

Pacific Fresh Fish CA na 韓国系。日本食・韓国食を中心とするレストラン

卸。活魚も。pacificfreshfish.com

Showa Seafood CA na ?

「アジア系レストラン卸」その他のアジア系レストラン向け生鮮/冷凍水産物の輸入・卸売業者の例

ABS CA na サンフランシスコを拠点とするレストラン向け卸。

absseafood.com

Golden Ocean Seafood IL na 中華系。スシ向け魚介類を扱う。小規模?

www.goldenoceanseafood.com

Seafood Imports NJ na スシ向け魚介類を扱う。南アフリカからの輸入も。

www.seafoodimports.com

Ming Hong International CA na スシ向け魚介類中心の卸売ビジネス。小規模?

www.minghongfood.com

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企業 物流拠点 規模 注

「米系レストラン卸」その他の高級レストラン向け生鮮水産物卸売業者(直接日本からの輸入はしない)

Samuels & Son Seafood PA Na 主にホテルや高級レストラン中心だが、スシ向け

も一部扱う。www.samuelsandsonseafood.com

Santa Monica Seafood CA na ホテルや高級レストラン中心の大手鮮魚卸。

小売店も持つ。www.santamonicaseafood.com

Pacific American Fish Co

(PAFCO)

CA, MA

宅配で全米

$100-

200

mill?

漁業もおこなう。加工場有り。3,000 種の商品。

日本食特化せず、幅広く Retail サポート等行う。

www.pafco.net

All Fresh Seafood NY, NJ na 高級レストラン中心の卸。消費者向け販売も。

www.allfreshseafood.com

Fish King CA na レストラン向け卸。小売店も持つ。

www.fishkingseafood.com

Catalina offshore products CA

宅配で全米

na レストラン向け卸。スシ用魚介類を消費者向けネット販売

も。

www.catalinaop.com

Fortune Fish IL na レストラン向け卸。

www.fortunefishco.net

UNION Fish Company CA na 小規模な水産物卸。ハマチ等の扱い有り。

www.unionfishco.com

出典:以下及び各社ウェブサイトを参考に作成。

遠洋まぐろ延縄漁業将来展望検討委員会ヷ全国遠洋沖合漁業信用基金協会、2008年 5月「遠洋まぐろ延縄漁業の

将来展望に係る中間とりまとめ」

The Wall Street Journal, 2006 年 3 月 25 日付記事 The Raw Truth

Pichaipat Hongsongkeat, 2007 年, the possibility of selling and distributing the best part of blue fin tuna, known as

toro, into the U.S. market

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3.6 生食用魚介類市場における対象 4 品種の可能性

米国生食用魚介類市場規模は合計 1,350~1,810 億円程度。半分以上はマグロで、中心は米国や

各国産の生鮮マグロと東南アジア産の CO マグロ。超低温や日本産養殖ホンマグロ等が受け入れ

られる余地はまだ少ない。1 割程度を占めるのはブリ類で、日本が安定した位置にいるが、価格

競争が激化しており、また競合の豪州産対策が必要となってきた。マダイは日系中心のマヸケッ

トでごく小規模な上、ニュヸジヸランド産にやや押されている。ホタテは米国の市場規模は大き

いが、加水処理向けがほとんど。日本産や生食に対する認知が非常に低いために苦戦している。

3.6.1 生食用魚介類の市場規模と種類

米国の生食用魚介類の市場規模は約 1,350~1,810 億円

3.4 節までに見た各セクターでの生食用魚介類の市場規模を合せると、米国のアジア系日本食

レストランで約 1,000~1,300 億円(うち 1 割がプレミアム日本食レストラン)、その他のプレ

ミアムレストランで約 20~30 億円、アジア系スーパーマーケットで約 100~130 億円、スシコ

ーナーで約 200~300 億円。これを合計すると約 1,350~1,810 億円との市場規模推計となる。

図 39:米国における生食用魚介類市場のセクタヸ別シェア

出典:プロマヸジャパン

アジア系

プレミアム

日本食レス

トラン

8%

アジア系

その他の

日本食レストラン

70~72%

その他の

プレミアムレストラン

2%程度

アジア系

スーパーマーケット

10%程度

スシコーナー

16~18%

市場規模

1,350~1,810 億円

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社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構(OPRT)の 2007 年 1 月の他国の刺身マグロ市場の推

計29では、米国は約 3~5 万トンとされており、マグロの原魚率を 65%、価格を 1kg あたり 2,000

円で計算すると 390~650 億円となる。生食用魚介類ではマグロが最も多いことを考慮すると、

弊社推計もほぼ当たらずとも遠からずといった範囲に納まると考えられる。

生食用魚介類で最も需要が多いのはマグロ、次いでサーモン、ブリ。これらが 3 大魚種。

生食用魚介類の王者は、文句なしにマグロ類である。マグロ類ではメバチやキハダの赤身を中

心として、ビンチョウ、ホンマグロなどが生食用に用いられている。特にスパイシーツナロール

用のマグロのミンチが多い。一般に、メバチやキハダの赤身が「ツナ(Tuna)」、トロの部分が

「トロ(Toro)」、ビンチョウが「アバコ(Albacore)」と称される。キハダマグロはハワイ語を

使って「アヒツナ(Ahi Tuna)」と呼ばれることもある。「ビンチョウは「ホワイトツナ(White

Tuna)」と呼ばれることもある。マグロは、生食用魚介類の中で 50~60%を占めるのではない

かと考えられる。人気のあるスシネタであることはもちろん、米系プレミアムレストランでもマ

グロのタルタルやクルードは非常に人気が高い料理である。

次いで多く消費されているのはサーモンで、これは消費者が慣れている魚種であることに加え、

マグロやブリに比べると安価に調達できるので、レストランにとって利益を出しやすいために好

まれている。スコットランド産、カナダ産、チリ産、ノルウェー産などが用いられている。生食

用魚介類の中では 20%程度を占めるのではないかと考えられる。

3 番手はブリ類で、日本産のブリ/ハマチを中心として、豪州産のヒラマサなどが主に用いら

れている。魚種に係らず、「ハマチ(Hamachi)」又は「イエローテイル(Yellowtail)」と称さ

れることが多いようである。高級店などでは「カンパチ(Kampachi)」を見ることもある。比

較的価格が高いにもかかわらず、消費者の支持を得て、スシレストランでは欠かすことのできな

い食材に成長している。中・低級のレストランでは尐しでも安いものを探す傾向にある。米系プ

レミアムレストランでも、まれにブリ類の生食利用がみかけられる。生食用魚介類の 10%弱程

度を占めるのではないかとみられる。

図 40:生食用市場の 3大魚種のシェア

出典:プロマヸジャパン

29 http://www.oprt.or.jp/pdf/KOBEnihongo.pdf

マグロ類

50~60%

サーモン

20%程度

ブリ類

10%弱

その他

15%強

市場規模

1,350~1,810 億円

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ティラピアやヒラメ、メカジキは比較的取扱量が多く、他にはアブラソコムツ、アジ、マ

ダイ、ホタテなど。プレミアムレストランでは、さらに多くの魚種を扱う。

中国又は台湾の淡水魚のティラピアの米国向けは

2000 年代前半に大きく成長し、2008 年実績では冷凍

フィレと冷凍ホールを合せて 15 万トンに達している。

輸出価格で冷凍フィレ 1kg あたり約 7 ドルと非常に安

価なのが特徴で、一般のスーパーマーケットにも広く

浸透した。多くは加熱して消費されるが、ティラピア

の冷凍フィレの一部は中・下層の日本食レストランで

安価な白身魚のスシネタとして用いられている。日本

食レストランでは「ティラピア(Tilapia)」もしくは

「イズミダイ」と称される。

韓国系では韓国産の養殖ヒラメの人気が高い。ヒラメは韓国で養殖がさかんで、韓国ではサシ

ミ専門店に活魚のまま出荷され、活造りのサシミとして供されるのが人気である。米国にも韓国

系の輸入業者が活魚の状態で輸入し、韓国系のスーパーからスシ店まで広く普及している。他に

米国産の天然ヒラメも味が良いとしてスシネタに人気がある。

メカジキもスシに用いられる。「ソードフィッシュ(Swordfish)」や「メカジキ(Mekajiki)」

と表記される。とろけるような脂の乗りで知られるのはアブラソコムツで、「エスコラー

(Escolar)」又は「ホワイトツナ(White Tuna)」と呼ばれる。

バラマンディはスズキ目の白身魚だが、安価であるため最近一部ではスシに使われるようにな

った。他にはアジ、マダイ、ホタテなどが用いられる。最高級レストランでは、日本の築地や福

岡の市場から輸入される様々な魚―例えばサワラ、ハタ、シマアジ、キンメダイ、カワハギ、ハ

モなどを仕入れることもあるが、量としては極めて尐ない。

スシコーナーでは、マグロとサーモンが同等程度に用いられており、ハマチは尐量。他の

魚種は非常に尐ない。

スシコーナー企業に対するインタビューでは、おそらくコストを下げるために一般の日本食レ

ストランと比べるとサーモンが比較的良く用いられているようである。また、ハマチはコストが

高いために取扱量は尐なくなっている。他の魚種では、ホタテ、イカ、ティラピア、マダイなど

が用いられることがあるが、量としてはごく尐ないとみられる。

この他に、日本産生食用魚介類が米国を経由して欧州に出荷される例もあり、注意が必要

注意が必要なのは、日本産の水産物の欧州向け輸出は、認証の問題で非常に難しくなっている

ため、米国を経由して欧州に出荷されることもまれではないということである。いずれにせよ大

部分は米国で消費されているのだが、このために米国市場と欧州市場の実態の把握がやや難しく

なっている。

生食用に輸入されるティラピアフィレ

出典:プロマヸジャパン撮影

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90

3.6.2 マグロヷカツオ類

マグロの供給のうち、生食用は約 5~6 万トン、缶詰以外の消費量のうち 45~55%程度か。

前述の通り OPRT の 2007 年の推計では米国の生食用マグロの需要は約 3~5 万トンとされて

いる。弊社のこれまでの推計やインタビュー結果から判断すると、

2009年では原魚換算で尐なくとも 5~6万トン程度にはなるかと考え

られる。米国では、マグロの国内漁獲量と輸入量を合せた総供給量は

2008 年実績で約 40.5 万トンになる。ここから輸出と缶詰産業向けを

除くと 11.1 万トンとなり、だいたい消費量のうち 45~55%が生食需

要という形になる。なお、生食以外の食べ方として、マグロのステー

キが良くみられるが、この場合も完全に火を通すのではなく、半生「レ

ア」の状態で提供される。

表 21:米国におけるマグロの需給

国内漁獲 輸入

輸出 缶詰

以外の

国内向 缶詰向け その他 小計 缶詰向け その他 小計 供給計

1999 167 51 218 260 62 321 529 10 92

2000 128 25 153 250 49 299 444 8 58

2001 105 45 150 197 56 254 390 14 74

2002 124 31 155 193 51 244 384 15 52

2003 77 37 113 243 67 309 402 20 63

2004 67 33 100 212 64 276 357 19 59

2005 71 9 80 213 70 283 349 14 52

2006 52 40 92 224 77 300 378 14 89

2007 56 38 95 204 102 306 383 18 104

2008 80 56 136 196 92 288 405 18 111

出典:National Marine Fisheries Service, 2009, Fisheries of the United States 2008

生鮮マグロを主体とした流通形態である

本事業に伴うインタビューによれば、米国では生鮮のメバチマグロやキハダマグロを中心にし

た流通形態になっている。ワシントン州等での国内水揚げのほかに、カナダ産やハワイ産、エク

アドル産など、生鮮のマグロが安価で豊富に入手できる

環境にある。また米国内では生鮮が冷凍よりも優れてい

るという考え方が支配的であるため、生鮮マグロに対す

る需要が高くなっている。

輸入される冷凍品で最も需要が多いのはミンチ、次い

で CO 処理されたサク

同じくインタビューによれば、輸入される冷凍品で最

も需要が高いのは、インドネシアやフィリピン、ベトナ

CO 処理されたマグロのサク

出典:プロマヸジャパン撮影

マグロステヸキ

出典:gettyimage

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ム等の東单アジア等で加工されるキハダやメバチのミンチ(スパイシーツナロール用にたたきに

加工したもの)である。

次いで、CO 処理されたサクも、扱いが便利なためにかなりの数量が輸入されているものとみ

られる。特に金融危機の影響でレストランが仕入れ価格を抑える方向に動いていることから、

CO 処理されたサクの人気が上がっている。

コラム:米国における冷凍マグロ及び魚介類の CO 処理に関する現状

マグロの「CO 処理(CO treated)」とは、マグロのサク等に一酸化炭素ガスを充填してマグロの赤身の発色

を促す方法である。CO 処理されたマグロは鮮やかなピンクに近い赤色になる。マグロは赤身の変色が激し

いので、色変りを防ぐには冷凍の場合はマイナス 60 度前後の超低温で保存するしかないが、通常のマイナ

ス 20 度程度の業務用冷蔵庫でも保存ができるように開発された。池澤康『アメリカ日本食ウォーズ』(前

掲書)によれば、1980 年代にもともと日本で考案された。現在では、東南アジア諸国を中心に、インドや

チリ、エクアドル、オマーン等でも広く用いられるようになっている。2004 年のニューヨークタイムズは、

米国に輸入されるマグロのうち約 3 割が CO 処理されていると報じている30。

マグロの色変りを防ぐ技術として工業的な一酸化炭素ガスの充てん以外に、通常の燻製でも一酸化炭素が

作用するためにある程度の効果がある。これをヒントに、新しく無臭の燻製方法も開発された。例えばハ

ワイの Kowalski 氏が 1999 年に特許を取得した「味のしない燻製(Tasteless smoke)」や、フロリダの Olson

氏が開発した「Clearsmoke®」、日本のオンスイが 2004 年に特許を取得した「燻液を用いた魚類加工方法」

などが挙げられる。これらの技術を使うと燻製臭は全くなく、鮮魚の状態に非常に近いためスシネタやサ

シミとしての利用も十分可能である。これらの新しい技術を用いている加工業者も相当ある(後述のよう

に「CO 処理」と一括されるもののうち 3~4 割とみられる。米国の国内の加工施設では、魚介類に対して

の単純な CO 充填処理施設はほとんどない)。燻蒸技術の開発者によれば、単純な CO 充填処理とは違って、

燻蒸は製品に対する一酸化炭素の残留は尐なく、また色変りを防ぐだけでなく実際に賞味期限を長くする

効果がある。米国ではこれらの技術は「フィルターされた燻製(Filtered smoke)」などと呼ばれている。31

ただし、これらの無臭の燻製技術も前述の CO の充填処理に類似の効果を持つので、水産物卸売業者間で

は、一般にこれらの燻製処理も一括して「CO 処理」と総称されることが多い。またこれらの色変り防止の

処理がされたマグロについては、「CO マグロ」や「CO ツナ」、あるいは「スモークマグロ」等と呼ばれて

いる。

直接的な健康被害についてははっきりとは明らかになっていないようであるが、日本では、あまりにも鮮

やかな色見のために劣化した魚を見分けることが難しく、消費者を混乱させるとして、1994 年にマグロ等

の鮮魚に対する CO 処理及び燻蒸処理が禁止された。EU やシンガポール、カナダなど、国際的にも工業的

30 The New York Times, 2004 年 10 月 6 日付記事, Tuna’s Red Glare? It Could Be Carbon Monoxide

31 米国の燻蒸処理技術については Seafood Business, 2007 年 6 月 15 日付記事, The effects of carbon monoxide

on fish を参照した。

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な CO 充填処理を禁止している国や地域は多い。しかし、米国では現状のところ CO 処理が禁止されておら

ず、非常に一般的に CO ツナが流通しているほか、スシに良く用いられるブリやティラピアも CO 処理され

たものが好まれている。

米国においても、1990 年代から一貫して議論として取り上げられてはいる。近年では、例えば 2004 年に

ニューヨークタイムズ紙が CO ツナの問題を取り上げた記事は反響を呼び32、2006 年にはワシントンポスト

紙が FDA は CO 処理を禁止する方向と報じた33。2010 年 3 月現在上院を通過して下院で審議中の食品安全

強化/近代化法案でも、CO 処理の禁止が初期段階の上院の方案中には含められたが、その後審議の過程で

法案から削除された。議論になりながらもこれまで禁止されてこなかった理由としては、米国では食肉に

対する CO 処理が容認されているからだと見られている。食肉団体の強い政治力のために CO 処理が禁止さ

れることは当分ないだろうというのが、業界関係者の中では一般的な認識である。ただ、一部のスーパー

マーケット等では CO 処理されたマグロ等の取扱いをとりやめているところもある。

表 22:米国のキハダ、メバチ及びマグロフィレの輸入量ヷ額(2009 年)

mt 000$

mt 000$

キハダ 合計 2,627 24,223 メバチ 合計 5,459 41,716 (冷凍, インドネシア 1,506 14,742 (生鮮) エクアドル 1,140 12,298 Head off) フィリピン 380 3,558

ベトナム 736 6,766

ベトナム 126 1,005

パナマ 449 5,308

その他 615 4,918

インドネシア 358 2,866

キハダ(冷凍) 合計 241 502

トリニダードトパゴ 296 2,724

キハダ 合計 14,199 112,344

ブラジル 264 1,663 (冷蔵) ベトナム 1,843 17,004

マーシャル諸島 799 1,582

トリニダードトバゴ 1,582 16,347

南アフリカ 165 1,260

フィリピン 1,462 11,205

その他 1,253 7,249

コスタリカ 878 7,482 マグロフィレ 合計 19,209 165,640

スリナム 832 7,125 (冷凍) インドネシア 9,547 81,449

エクアドル 774 6,122

フィリピン 3,829 32,931

ヴェネズエラ 478 5,787

タイ 1,310 10,635

メキシコ 1,010 4,435

ベトナム 1,302 9,098

インドネシア 493 4,252

カナダ 707 8,480

ガーナ 436 4,156

エクアドル 334 4,895

パナマ 636 4,023

マレーシア 444 3,466

フィジー 1,092 3,849

韓国 172 2,697

グレナダ 455 3,804

中国 296 2,510

タイ 432 3,716

日本 178 2,097

スリランカ 277 2,785

フィジー 329 1,523

マレーシア 250 2,379

シンガポール 228 1,458

シンガポール 360 1,972

台湾 183 1,429

その他 905 5,902

その他 351 2,974

メバチ 合計 1,125 2,360

(冷凍) 南アフリカ 1,049 2,098

その他 76 262

出典:National Marine Fisheries Service, Office of Science & Technology, Cumulative Trade Data by Product

32 前掲 The New York Times, 2004 年 10 月 6 日付記事 33 The Washington Post, 2006 年 2 月 20 日付記事, FDA Is Urged to Ban Carbon-Monoxide-Treated Meat

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超低温マグロはなかなか普及が進んでいない

CO 処理されたマグロのサクに代わって成長が期待されているのが超低温マグロであり、日系

の輸入業者を中心に、色々な企業が超低温マグロの導入の促進をはかっている。また、アジア系、

米系の卸売業者等でも超低温マグロについては良く知られており、大変興味を示しているところ

が多い。しかし、容易に生鮮マグロが入手でき、また顧客となるレストランの間で冷凍は生鮮に

务るとの考えが支配的であることがネックとなって、なかなか本格的な流通には繋がっておらず、

日系のスーパーでも扱いはほとんどない。

本事業に伴うインタビューでは、ほとんどの回答者が超冷凍設備の導入には、今後も相当の時

間がかかるだろうとの見方を示した。また流通業者が本格的に超低温マグロの流通を手掛けるに

は数千万円規模での投資が必要で、現在の米国の経済状況の中で、融資を受けることが難しいた

めになかなか本格的な導入に踏み切れないところがあるようだ。超低温マグロの取扱量は 1 千

トンかそれ以下ではないかとの見通しである。ただし、スシコーナー企業でも超低温マグロの導

入に積極的に取り組んでいるところがあり、需要は尐しずつ広がってきている。

また、解凍方法にコツが必要なため、顧客側への教育とクレーム対応に相当の手間がかかるこ

とが懸念されている。レストラン向けの鮮魚卸では、超低温に慣れていない一部の顧客に対して、

同社の加工場で解凍してから顧客に納品する形態をとっている。

また、米国では超低温冷凍設備がまだ一般化していないことから、行政市レベルで労働者の健

康衛生に係る基準の面から超低温冷凍設備には問題があるとして、超低温冷凍施設の建設に許可

を出さない所もあるとのコメントもあった。

ホンマグロ/ミナミマグロはカナダ、スペイン、マルタ、トルコ等から輸入される。日本産

のものも輸入があるが、価格が高い

ホンマグロやミナミマグロは、米国でもスシネタとして非常に好まれる品種で、高値で取引さ

れており、日系の輸入業者や卸売業者にとってメインの商材の一つとなっている。やはり生鮮を

中心とした流通形態で、カナダ産の天然ものの他には、豪州、スペイン、トルコなどの畜養マグ

ロが多く輸入されている。2009 年の実績では合計 610 トン、1,254 万ドルの輸入があった。

ただし、ホンマグロ/ミナミマグロの資源の枯渇に関するニュースは頻繁に取り上げられてお

り、消費者の関心も高い。2010 年には結果的には否決されたが、ワシントン条約締約国会議で

地中海産クロマグロの禁輸がとりあげられるなど国際的な動きもあった。一部のプレミアムスー

パー等では取扱をやめるなどの動きも出てきており、インタビューでは今後は「アントレンディ

ー」な商材になるだろうとの見方も示された。

ホンマグロの日本からの輸入量は約 21 トン、金額では 72 万ドルになる。金額ではスペイン

産の畜養マグロに比べて 20%程度高く、1kg あたり 34.4 ドルになっている。日本からの輸入に

ついては、近畿大学の完全養殖マグロの評判が高い。日系の卸売業者が「持続可能性」をキーワ

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ードとして積極的にプロモーション活動を行っている。特に米系のハイエンドレストランへの本

事業に伴うインタビューでは、ほとんどの回答者が「近大マグロ」の名前を挙げた。ただし、価

格が非常に高価であるため、実際に用いているところはそれほど多くない。近大マグロなど日本

の養殖マグロは色が変わりやすいとのコメントが寄せられた。

表 23:米国のホンマグロヷミナミマグロの輸入(2009 年)

輸入量(mt) 輸入額(000$)

ホンマグロ

生鮮

ホンマグロ

冷凍

ミナミマグロ

生鮮

ミナミマグロ

冷凍 合計

ホンマグロ

生鮮

ホンマグロ

冷凍

ミナミマグロ

生鮮

ミナミマグロ

冷凍 合計

カナダ 114 0 0 0 114 1,507 0 0 0 1,507

豪州 0 0 74 21 95 2 0 1,066 879 1,946

スペイン 66 2 0 0 68 1,817 124 0 0 1,940

トルコ 55 2 0 0 56 1,487 113 0 0 1,600

インドネシア 1 0 0 48 49 10 0 0 731 741

イギリス 40 0 0 0 40 980 0 0 0 980

マルタ 37 3 0 0 40 838 75 0 0 913

メキシコ 32 6 0 0 38 353 12 0 0 364

日本 14 4 3 0 21 531 140 44 7 723

クロアチア 10 10 0 0 20 198 401 0 0 599

その他 56 5 2 6 69 948 153 8 117 1,226

総計 425 31 79 75 610 8,670 1,017 1,118 1,734 12,539

出典:National Marine Fisheries Service, Office of Science & Technology, Cumulative Trade Data by Product

ビンチョウマグロも比較的良く見られるスシネタの一つに成長した

ビンチョウマグロも比較的良くみかけるスシネタで、カナダ産やメキシコ産、ハワイ産、フィ

ジー産などが出回っている。やはり生鮮での流通が主流だが、カナダ産のものは脂の乗りが良く、

市場に良く受け入れられている。カナダ産のものでも、特に船上で超低温凍結したものは品質が

良いとして、比較的プレミアムクラスのレストランでは広く受け入れられている。超低温のビン

チョウはトラックでカナダから米国まで直接輸送できるほか、中国に一度輸出してサクに加工さ

れたものが輸入されている。他にハワイやフィジー、トリニダードトバゴ産などのあまり脂の乗

りが良くなく、安い価格帯のものも、相当量が出回っているとみられる。

カツオは日系人向けの市場中心で、あまり普及していない

カツオはおそらく年間 15~20 トン程度の取扱量とみられ、もっぱら日本人のシェフがいるよ

うなプレミアム日本食レストランか、日系スーパーマーケットへの販売となっている。一部には

スシコーナーでの取扱もあるとのコメントもあったが、量としては非常に尐ない。ハワイ産の生

鮮カツオが旬の時期には流通するほかは、日本からの超冷凍のタタキロインが主体で、まれに日

本からチルド空輸もある。一般には、なかなかカツオの濃厚な味が受け入れられにくいとみられ

ている。

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3.6.3 ブリ類

生食用のブリ類供給は 7,000 トン強程度

インタビューによれば、米国でのブリ類の供給では、日本産が最もポピュラーである。一方で、

日本からの生食用の魚の輸出としても、圧倒的にブリが大きい。2008 年より日本の財務省貿易

統計上で輸出のブリチルドフィレとブリ冷凍フィレの数量が確認できるようになった。ただし、

プロマージャパン調べでは、輸出業者への周知が徹底していないのか「その他冷凍フィレ」にも

相当量のブリ類が含まれていると考えられる。また近年は尐なくなったが、「チルドホール」で

も取扱いはある程度残っているとのことである。

そこで、弊社で大雑把にブリの輸出量を推計するとともに、フィレについては原魚換算率を

65%、ホールはドレスであるとみられることから原魚換算率 80%として推計すると、日本から

の生食用のブリ類供給は 2009 年の原魚換算で約 6,300 トン程度と推計される。

表 24:日本の米国向けブリ類輸出量の推移(2002-2009 年)

出典:貿易統計 ブリ類輸出量推計はプロマヸジャパン

豪州は年間 2,600 トン程度の生産があり、国内市場向け 400 トン程度を除くと全てを輸出し

ている。米国市場では品質や食品安全規制の問題で一時期より供給量が減り、現在は大部分が欧

州市場向けとなっている。ただ、米国でもインタビュー先によっては豪州産を用いている例が

度々あり、豪州から米国に対しても 300~400 トン程度の輸入があるのではないかと見込まれる。

主にチルドのドレスの形態で輸入されているとみられる。

また、2009 年 11 月から養殖場の持続性を高めるための処置を施すために休業していたハワ

イのコナブルー(Kona Blue)社も、同社のプレスリリースによれば、2010 年 6 月からカンパ

チの出荷再開を予定している。2008 年の実績では、いくつかの資料から判断すると約 450~500

トンの生産量があった。ほとんど全てが米国国内で消費されている。コナブルー社は「持続可能

性」を前面に押し出す形の経営戦略を採っており、米系のハイエンドレストランを中心に非常に

高い人気がある。

4,100 4,200

5,000 4,900

5,400

6,400 6,400 6,300

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

トン

「その他」燻製等

「その他」冷凍ホール

「その他」チルドホール

「その他」冷凍フィレ

ブリ冷凍フィレ

「その他」チルドフィレ

ブリチルドフィレ

ブリ類輸出原魚推計

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この他に、米国单部やメキシコで漁獲される天然イエローテイル(Yellowtail)もあり、旬の

時期には生食用に流通することもある。また、ニュージーランド産の天然イエローティル

(Yellowtail)が輸入されることもある。

中国産の「クロカンパチ(Kuro Kampachi)」(おそらくスギか?)が一時期はやったが、味

が良くないというので、米国ではほとんど普及していないとみられるとのコメントもあった。

米系レストランでも人気がある

米国での非常にステイタスの高い日本食系のフュージ

ョンレストランである「ノブ(NOBU)」が開発したとさ

れる、ハマチやヒラマサにハラペーニョ(青トウガラシ)

を載せ、ポン酢をかけて供する料理が米国で非常に高い評

価を得て、同レストランの看板メニューに成長したが、こ

れを受けて、米系のプレミアムレストランでもハマチやヒ

ラマサが好んで使われるようになった。米系プレミアムレ

ストラン向け大手水産物卸によれば、同社が卸すブリ類の

約半分は米系プレミアムレストランで生食向けに使われ

ているとしている。

冷凍フィレは 8~9 割が CO 処理を施したものだが、冷凍フィレに対する需要は急増中

冷凍のフィレでは、8~9 割が CO 処理とみられる。2000 年頃から CO 処理技術が本格的に導

入されるようになったようで、現在では CO 処理技術がかなり向上し、日本人シェフでも抵抗感

を持たないレベルだという人もいる。CO 処理後 CAS 凍結をした製品もあり、品質の高さで人

気がある。金融危機の影響で冷凍フィレに対する需要が大きく伸びている。2009 年には日本産

のハマチを活魚で韓国へ運び、韓国で冷凍フィレへの加工処理を行って、米国へ輸出する試みが

あったが、CO 冷凍処理技術の問題などがあり、品質に問題があったようだ。CO 処理の他には、

超冷凍の冷凍フィレなどがある。

豪州はヒラマサの輸出拡大に全力を尽くす。生産量 5,000 トン規模への拡大を目論み、「持

続可能性」について積極対応

豪州は、ヒラマサの養殖を大変重要視している。現在の生産量は 2,600 トン程度とみられるが、

豪州養殖協議会(National Aquaculture Council)によれば、近い将来に 5,000 トン規模への拡

大を目指している。また、日本の冷凍ハマチフィレで CO 処理加工が進んでいることを受けて、

一部の加工施設では近年 CO 処理施設の導入も行った。マーケティングに力を入れており、フー

ドショーなどでも積極的に国を挙げての攻勢をかけている。

日本産に比べ、価格が安くて人気があるが、サイズが小さく脂の乗りが悪く、処理や管理の技

術も低く、やや品質や鮮度が务る、またサイズが一定でないといった欠点もある。またインタビ

ューによれば、米国のテロ対策により豪州産冷凍フィレに対する規制強化があり、一時期に比べ

人気の高いハマチとハラペーニョの組み合わせ

出典:プロマヸジャパン撮影

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ると供給量がだいぶん落ちたとのコメントもあった。しかし、「持続可能性」に注目した積極的

な販売攻勢を仕掛けており、インタビュー先でも日本産から豪州産に切り替えることを検討して

いるなどの声が聞かれた。

ハワイのコナブルー社は持続可能性を強化し、2010 年 6 月に出荷再開予定。メキシコへの

拡大計画も進める。

コナブルー社は2010年に高付加価値のサシミ品質の海水魚養殖を目指して現地資本が立ち上

げたもので、その中でも最も成功した魚種がカンパチである。コナカンパチ(Kona Kampachi)

の商標を取得し、2005 年から出荷を開始している。2009 年 11 月に操業を一時停止したために、

業界関係者に対するインタビューでは、同社はハワイでの操業を完全に止めてメキシコに移転し

たようだとのコメントが多かったが、同社のプレスリリースによれば、養殖場の環境対応をより

強化するための施策を行っているもので、2010 年 6 月にはハワイからの出荷を再開できる見通

しだとしている。

また、同社は米国本土への運送コストの削減等を目指し、メキシコでの養殖生産を計画してい

る。本事業に伴うインタビューでは、メキシコ産のコナカンパチが既に出荷されているが味がま

だいまいち、というコメントや、メキシコの事業に対する出資者が当初予定の所が撤退してしま

ったので、現在出資者を探しているところだと聞いているとのコメントがあり、メキシコでの実

態はまだ良く分かっていない。

日本産のブリ類では圧倒的にハマチ/ブリの 2 年魚又は 3 年魚。ヒラマサやカンパチの供給

量は尐ない

日本産では、専らハマチ/ブリの輸出となっている。インタビューによれば、ポンド当たり価

格で日本産のブリ/ハマチは約 11 ドル、豪州産ヒラマサは約 8~9 ドル、ハワイ産カンパチは約

7 ドルとのことで、日本産のブリは品質面で高く評価されていることが分かる。なお、米国では

従来は 3 年魚が主体の流通であったが、現在は 2 年魚も流通しているようである。

日本産のカンパチやヒラマサの取扱があるのは日本食レストランのうち 5%以下とみられ、取

扱量はチルド主体で非常に尐ないとみられる。日本国内ではカンパチやヒラマサの価格がハマチ

/ブリよりも高いが、米国ではその違いが認知されていないため、価格条件が合わないものと思

われる。

3.6.4 マダイ

マダイの生食用魚介類における市場は年間 40~60 トン程度、うち日本産マダイは 20 トン

程度か

日本産本事業に伴うインタビューによれば、米国市場で一般に流通しているマダイには、日本

産養殖マダイとニュージーランド産天然マダイがある。もともと白身魚がマイナーであることに

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加え、イズミダイとの競争が激しいことから、マダイは上位 5~10%程度の顧客のみしか用いて

いないとみられている。その顧客層の中でも、ニュージーランド産天然マダイは比較的味も良く、

また「天然」と表記できるため、天然が好まれる米国市場にアピールしやすいことから、広く好

まれている。

マダイの輸出は 30~40 トン程度かとみられるが、日系スーパーマーケットでは、5~6 割を切

り身で販売しており、サシミ等の生鮮用に加工される割合は 4~5 割となる。日本産マダイはニ

ュージーランド産に比べると比較的脂の乗りが良く、日本人を中心に購買層は全くないわけでは

ない。日本産マダイはチルドの生鮮品で輸入されることが多いが、一部に CO 処理又は無臭燻製

処理された冷凍フィレも輸入されている。ただし、冷凍のものに対してはあまり品質が良くない

としてそれほど流通量が出ていないようである。

ニュージーランドはマダイの生産量が年間 50~80 トン程度あり、そのうちの多くが米国へ輸

出されていると想定されるが、生食向けは尐ないと考えられる。日本産と併せて生食用は年間で

40~60 トン程度ではないかと想定される。

ニュージーランド産マダイは日本産マダイより安価で、比較的評価が高い

ニュージーランド産マダイは、日本食レストラン向け以外にも、米系プレミアムレストランで

加熱される料理向けにも相当量の出荷があるようである。これまでは日本産に比べると 40%く

らいの価格差があって安価だとされてきたが、インタビューの中では最近は収穫量が減っている

ため価格が日本産とほとんど変わらないくらい高くなったという関係者もいたので、日本産にと

って多尐のチャンスがあるかもしれない。

一般には「レッドスナッパー」又は「タイスナッパー」との呼称。「レッドスナッパー」に

は、やや混乱がある

マダイは通常は英語では「レッドシーブリム(Red Sea Bream)」との訳語に当たるが、ニュ

ージーランドで日本のマダイに非常に近いタイ科の魚であるニュージーランドマダイを「レッド

スナッパー(Red Snapper)」と呼称するため、米国でもマダイはたいてい「レッドスナッパー

(Red Snapper)」と表記されている。

ところが、米国ではもともと、地場産のものでマダイとは異なるフエダイ科の魚を「レッドス

ナッパー(Red Snapper)」と称する。味が良いとして人気のある魚である。そのため、呼称が

やや混乱しており、新聞記事でレッドスナッパーとの偽証があるとしてニュースになったことも

ある34。このため、「タイスナッパー(Thai Snapper)」と呼ばれることも増えてきた。

非常に安価に入手できるイズミダイとの競合に勝てない

米国への流入量が 15 万トンに達しているイズミダイで、おそらく 1,000 トン程度は生食用市

場で用いられているとみられる。イズミダイは冷凍フィレ 1kg あたりの平均輸出価格が約 7 ド

34 Chicago Sun-times 2007 年 5 月 10 日付記事 Fish fraud: The menus said snapper, but it wasn't!

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ルと極めて安価であるため、中級からローエンドのレストランでは白身魚のセレクションとして

はほとんどがイズミダイを選択しているものと思われる。イズミダイの冷凍フィレは大部分が

CO 処理されている。

この他に、ヒラメやハリブット、シーバスなどの白身魚のカテゴリー全体がマダイと競合して

いるという点も指摘された。

日本産マダイは輸入が尐なく日系の卸売業者以外ではあまり実態が知られていない。

ただし、日本産マダイまだあまり市場に流通していないので、サンプルを見ることに興味を示

す業者もあった。ニュージーランド産天然マダイの価格の動向に応じて、日本産養殖マダイも価

格条件が合えば、日本食以外のレストランにも販売できる可能性はある。

3.6.5 ホタテ

米国のホタテ市場は大きく、国内生産は 2 万 4 千トン、供給量は約 4 万トン

米国は世界でも大きなホタテ生産国のひとつで、2008 年実績では約 2 万 4 千トンの生産があ

る。これに加えて、約 2 万 5 千トンを輸入しており、全部で約 5 万トンの供給となっている。

一方で、1 万トン程度を米国から欧州等に輸出している。米国内での消費に向けられる部分は、

約 4 万トン程度である。ホタテの消費に関しては不況の影響も比較的尐なく、米系レストラン

向け卸は、ホタテは今後も成長の可能性が非常に高いとの認識を示した。

米国のホタテ水揚げ港では、マサチューセッツ州のニューベットフォードが最大で、2008 年

実績では米国水揚げ量のうち約 60%を占めた。他にニュージャージー州のケープメイ、バージ

ニア州のハンプトンローズ港などで水揚げが多い。漁獲されるホタテの大部分は外海で収穫され

る中型~大型の天然ホタテで、「シースキャロプス」と呼ばれている。近海で採取できるホタテ

は「ベイスキャロプス」と呼ばれて、こちらも天然でかつてはこちらが米国の生産の中心であっ

たが、現在は大きく減尐して国内生産のうち約 0.4%を占めるに過ぎない。「ベイスキャロプス」

は小型のものが多いとみられる。養殖のホタテ生産もあるが、あまり盛んではない。

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表 25:米国のホタテ供給

単位/千トン

漁獲 輸入 合計 輸出 国内供給

1999 12.3 20.0 32.3 3.2 29.2

2000 14.9 24.3 39.2 4.0 35.2

2001 21.3 18.0 39.3 4.7 34.6

2002 24.1 21.9 45.9 4.6 41.4

2003 25.4 23.6 49.0 6.3 42.7

2004 29.3 20.2 49.5 6.8 42.7

2005 25.8 23.0 48.7 9.8 38.9

2006 26.8 26.9 53.7 11.1 42.7

2007 26.6 25.0 51.7 9.7 42.0

2008 24.3 25.4 49.7 9.7 40.0

出典:National Marine Fisheries Service, 2009, Fisheries of the United States 2008

図 41:米国のホタテ漁獲ヷ輸入ヷ輸出量の推移

出典:上記表参照

米国のホタテ漁の実態把握はやや困難が伴う

米国の「シースキャロプス」の大部分は米国北東部のニューイングランド地方35及びそのやや

单方あたりの大西洋で収穫されるもので、「アトランティックシースキャロプス(大西洋ホタテ)」

と呼ばれている。大西洋ホタテの漁場の中で重要なのは、ニューイングランド地方の沖合でカナ

ダの国境付近に位置する George Bank と、ニュージャージー州の沖合に位置する Mid-Atlantic

となっている。(次頁図・表参照)

米国では、ホタテ漁に関して漁場に応じて漁獲可能量が制定されているほか、重要な資源地域

に関してはホタテ資源の保全とともに、希尐魚類の混獲を防ぐために、いくつかの領域を「クロ

ーズドエリア(Closed area)」と定めて入漁できる漁船や航海日数等を定めている。また、ニュ

ーイングランド地方では漁業管理審議会(The New England Fishery Management Council)

35 米国北東部 6 州(マサチューセッツ州、コネチカット州、ニューハンプシャー州、バーモント州、メイン州、

ロードアイランド州)を指す。

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

千トン

漁獲

輸入

輸出

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が設立されており、この枞組みの中で毎年のホタテ漁業枞及び将来的な資源管理について検討さ

れている。例えば通常 130 日弱程度の操業があるが、年によっては 20%程度削減される。

ただし、小規模な漁業者も多く存在するため ITQ が制定されていないとみられ、また日々の

漁獲量がどのように集計されているかなどについて不明な点が多い。日本の業者からは、米国の

漁獲状況が日本の輸出に大きく影響するために、タイムリーな漁獲量の把握をしたいとの要望が

あったが、なかなか実態の把握が難しい状況にある。

図 42:米国の大西洋ホタテの漁場

出典:左図-プロマヸジャパン、右図-New England Fishery Management Council, 2007, SAW/SARC-45 Summary

表 26:米国の大西洋ホタテの漁獲量

卖位/千トン

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

Gulf of Maine 0.8 0.7 0.5 0.3 0.2 0.4 0.5 0.3 0.1 0.2

Mid-Atlantic 5.0 2.9 2.9 4.7 8.9 15.8 17.6 19.7 24.7 15.3

Georges Bank 5.1 5.3 6.1 8.9 12.3 11.9 12.4 11.2 8.2 12.7

米国 2.1 2.4 2.1 5.2 5.5 5.0 5.7 5.0 4.5 10.0

カナダ* 3.0 3.9 4.0 3.7 6.8 6.9 6.7 6.2 3.7 2.7

合計* 10.9 9.9 9.5 13.9 21.4 28.1 30.5 31.2 33.0 28.2

出典:

注:*Georges Bank はカナダとの国境に位置し、カナダも同じ資源を使っている。合計にはカナダによって Georges

Banks で収穫された大西洋ホタテを含む。

漁場

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日本は米国ホタテ輸入で最大の相手国

米国のホタテ輸入で量ベースの最大相手国は中国で、米国冷凍ホタテ輸入量で 42%のシェア

を持つ。ただし、中国産ホタテの大部分はベイスキャロプスに分類される小柱であり、価格は安

い。金額ベースで最大の相手国は、米国冷凍ホタテ輸入額で 44%を占める日本となっている。

この他に、カナダやアルゼンチン、ペルー等から主に輸入されている。

表 27:米国のホタテ輸入

2009 2008 2009 2008

百万ドル シェア 百万ドル 千トン 千トン

ホタテ(冷凍)

合計 206 100% 201 22.9 22.0

日本 90 44% 87 5.9 5.5

中国 53 26% 63 9.6 11.7

カナダ 25 12% 33 1.6 2.0

アルゼンチン 17 8% 12 3.3 2.1

ペルー 13 6% 3 1.9 0.4

その他 7 3% 3 0.6 0.3

ホタテ(活・チルド)

合計 19 100% 38 1.5 3.3

カナダ 18 91% 28 1.2 1.8

その他 2 9% 10 0.3 1.5

出典:National Marine Fisheries Service, Fisheries Statistics and Economics Division

EU 向けの輸出を 2005 年、2006 年と大きく伸ばした

米国は、EU 向けを中心に輸出量を伸ばし、2009 年実績では EU 向けで 7 千 7 百トン、合計

では 1 万 1 千トンの輸出がある。日本から輸入されたホタテのうち相当量も、後述の加水処理

を施され、米国から EU へ再輸出されているとみられるが、その実態はよくわかっていない。

図 43:米国のホタテ輸出

2009 2008 2009 2008

百万ドル シェア 百万ドル 千トン 千トン

ホタテ(冷凍・活・チルド・その他)

合計 157 100% 157 11.2 11.2

EU 107 68% 104 7.6 7.3

カナダ 29 18% 32 2.0 2.5

その他 21 13% 21 1.5 1.5

出典:National Marine Fisheries Service, Fisheries Statistics and Economics Division

米国産ホタテは 9 割以上が加水処理された形で流通する

米国のホタテ産業の特徴は、シースキャロプスの 9 割以上について、「ソークド(Soaked)」

と呼ばれる加水処理が極めて盛んであることである。加水処理を施されたホタテは、業界では「ウ

ェット(Wet)」と呼びならわされている。なお加水処理がされていないものは「ドライ(Dry)」

と呼ばれる。

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コラム:米国におけるホタテの加水処理に関する現状

米国の主な天然ホタテ漁はもともと 10 日間ほどの航海期間に、その間漁獲したホタテの殻を外して水槽に

漬けて持ち帰り、陸に挙げた後も数日~10 日間程度、加水剤である STP(Sodium Tripolyphosphate, トリポ

リリン酸ナトリウム)と一緒に水槽に漬けこむ。その間にホタテは水を吸い、獲りたての状態から比べる

と、全体で約 25~30%程度重量が増す。その後、約 2 日間かけて冷凍し、それを一般に流通させる。これ

が、米国で一般に流通されているウェットホタテとなる。おそらく、均等に最大限まで加水することによ

って収穫から冷凍までのがバラバラのホタテの品質を一定に保つことができ、一方で見かけ上の重量当た

りの単価を 20~25%程度安くすることができるため、加水処理が行われるものとみられる。マサチューセ

ッツ州のニューベッドフォード(New Bedfoard)がホタテの一大漁業基地になっており、ホタテの加水工

場の多くがここに位置する。

水産物の卸売業界内及び一部のシーフードレストランでは、ドライホタテとウェットホタテの区別は良く

知られており、プレミアムレストランではドライしか用いない所が多い。また、業務用スーパー大手のコ

ストコ(Costco)は、2008 年 6 月のニュースレター「Costco Connection」で、同社の扱うホタテはすべてド

ライのものにこだわっていると説明している。同社によれば、ニューベットフォードのホタテ加工会社の

1 社であるアトランティック・ケープ・フィッシャリーズ(Atlantic Capes Fisheries)と業務提携し、特別に

冷凍のドライホタテを供給できる体制を整えたとしている。

ただし、一般消費者にはほとんど認識されていない。小売店ではドライホタテを見ることはまれである。

一般のニュースで取り上げられることは尐ないが、ホタテを使ったレシピなどでは時々ドライホタテを買

うように推奨する例はある36ものの、頻繁に見られる訳ではない。また、ホタテの加水は冷凍する際に水

分が失われるのを防ぐためだとするような解説も見られる。

米国産の「デイボートホタテ」のうち 10~30 トン程度は生食向けか?

デイボートと称される 1 日で帰港する漁船で収穫できる沿岸部のホタテについては、加水処

理が施されずに、主に活ホタテやチルドホタテとして流通する。一部には冷凍もあるが、まれで

ある。これらの米国産ドライホタテは「デイボートホタテ」と呼ばれて珍重され、プレミアムレ

ストランを中心に流通している。ただし、米国で漁獲されるホタテ全体の 1 割以下とみられる。

因みに、米国政府の漁業統計は沿岸からの距離 3 マイル(4.8 キロメートル)で漁場を区切っ

ているが、沿岸 3 マイル以内で収穫されるホタテは 2008 年実績では 205 トンとなっており 1%

を下回る。おそらく加水処理されていないホタテはこれよりは多尐流通量があると思われるが、

正確な実数は把握できなかった。

デイボートホタテは日本食レストランでも人気がある。殻付きの物は加熱されることも多いよ

うだが、聞き取り等によれば 10~30 トン程度は生食向けに供給されている可能性があると考え

36 例えば:Seafood Business, 2007 年 6 月 15 日, Don’t get soaked when buying scallops

The Oregonian, 2008 年 12 月 16 日付記事, For elegance with ease: seared sea scallops

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られる。

日本のホタテ輸出もほとんどが加水処理向けで、生食向けは 450~500 トン程度か。最大の

輸入相手国であるが、レストラン業界では知名度がほとんど無い

海外から輸入されたホタテも、8 割強がこれらの加水工場へ出荷され、加水処理が行われたの

ちに流通されるとみられている。残りの 2 割弱がドライホタテとして日本食レストランを中心

に、一部は現地のプレミアムレストランチェーン等に販売されている。プレミアムレストランチ

ェーンではほとんどは加熱向けなので、生食向けは約 450~500 トン程度かと推計される。

なお、日本からは北海道産と青森産が輸出されている。北海道産は収穫後すぐに IQF 凍結さ

れたもので、青森産は主に日本で加水処理されたものである。青森産を扱う商社は昔から米国向

けホタテ輸出に力を入れており、日系やアジア系卸の間に限ればそのブランドは良く認知されて

いる。

日本食レストランにおけるスシネタやサシミ向けのホタテの使用は尐ない。後述するように実

際に試食をすると消費者の反応は非常に良いが、現状としてはスシネタとしては消費者の間に知

名度が低く、あまり好まれていない。ホタテは非常にポピュラーな商材であるが、生で食べるこ

とは安全性の観点からみて危険だと思い込んでいる人も多い。また、持ち帰りスシ業界でも、一

部はホタテを供している業者があるが、一部は規制の関係で生の貝類は提供できないことになっ

ていると述べたところもあった。

日本は米国のホタテ輸入で最大相手国であるにも関わらず、レストラン業界では知名度が非常

に低い。ここ 2 年程で、ようやく米系レストラン向け卸売業者の認知度が上がってきた。品質

が良いとして高い人気を誇るカナダ産ホタテの入荷量が尐なくなったことで、代替のソースを探

しているところに、北海道産ホタテの品質に目をとめる例がある。ただし、そもそも顧客のレス

トランの日本産に対する認知度が低いため、なかなか取扱量の拡大には至っていない。また、プ

レミアムスーパーマーケットの 1 社は、北海道産の冷凍ホタテを「サシミクオリティー」とし

て販売したが、その後取扱を止めてしまった。

カナダ産のドライホタテは品質が高いとして比較的良く知られている。日本食レストラン

での使用については不明確。

カナダでは加水処理が禁止されている。大規模な漁業者がホタテ漁の中心で、船上で凍結する

装置を持ち、米国に比べると鮮度が良い冷凍品が提供できるほか、チルドや活ホタテでも輸出さ

れている。米国には冷凍とチルドをそれぞれ 1,600 トン、1,200 トン輸出している。中でも人気

が高いのは、ダイバーキャッチのホタテである(アラスカにもある)。カナダ産のホタテはレス

トラン業界では非常に高いイメージを有している。(日本食レストランでのスシネタ向けの利用

は本事業におけるインタビューの範囲ではあまり聞かれなかったが、多尐は用いられている可能

性がある。)

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レストランのカナダ産に対する高い評価に対応して、カナダと日本の冷凍ホタテの価格を比べ

ると、2009 年実績では日本産が 15.3 ドル/kg に対し、カナダ産が 16.2 ドル/kg と、約 6%の価

格差となっている。

米国のホタテ業界は「持続可能性」のアピールに対し積極的

2010年 3月 15日付のマリンスチュワートシップカウンシル(Marine Stewardship Council)

のプレスリリースによれば、米国ホタテ協会(The American Scallop Association)が、大西洋

ホタテに関して MSC マークの取得に向けて動きを始め、同カウンシルは大西洋ホタテの正式な

評価プロセスを開始したと発表した。米国のホタテ業界は、米国のプレミアムレストランやシー

フードレストランに広がる持続可能性への興味を受け、この決定を行ったものとみられる。因み

に、これまでホタテではアルゼンチンのホタテ協会がパタゴニアホタテに関して MSC マークを

取得している。

他に、中国産やアルゼンチン産ホタテが軍艦巻きに用いられる。200~300 トン程度か

また、中級クラス以下の日本食レストランでは、米国に多く輸入されている中国産やアルゼン

チン産の小柱を、軍艦巻きに利用する例がかなりあると聞かれた。詳しい実態はあまり把握でき

なかったが、尐なくとも 200~300 トン程度の取扱はあるかもしれない。

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3.7 業界調査における「スーパーマーケットにおけ

る日本産冷凍水産物の可能性」

確かに家庭でスシを作るケヸスは増えつつある。ただし、家庭で作るスシには、アボガドやスモ

ヸクサヸモン等で十分で、生食用魚介類は必要とされていない。他方で、スヸパヸマヸケットで

冷凍の生食用水産物を扱う場合、解凍方法を消費者に正しく伝えられないだろうという大きな懸

念がある。解凍方法が悪ければ、品質劣化だけでなく、食品安全問題にも発展する。スシ店では

冷凍水産物の利用が急速に広まってきたが、米系レストランは高品質の冷凍水産物に対する認識

は低く、ましてや消費者にとって高品質の冷凍水産物を理解してもらう事は困難かもしれない。

3.7.1 家庭でスシを作る可能性

卸売業者の中には、簡卖にスーパーマーケットなどで持ち帰りスシが買えるし、テイクアウト

のサービスがあるので、あまり家庭でスシを作ることは無いのではないか、との意見もあったが、

小売店の関係者の間では、確かにスーパーマーケットでは、スシ用の海苔や、シャリを作るため

のプラスチックの型、巻き簾などの売れ行きは非常に良いため、日系人だけでなく一般の米国人

が家庭でスシを作ることは、尐なくともロサンゼルスではかなり普及してきているとの認識があ

る。

また、スシの作り方教室がスーパー等の主催でしばしば行われており、中西部でも開催すると、

アジア系でない様々な米国人が多く集まるそうだ。学校でもスシは人気で、給食にスシが出る例

もあるため、若年層にも人気がある。

ただし家庭でスシを作る時、それは大部分が生魚を使わないのではないか、との指摘が多くの

インタビュー先から挙げられた。家庭でのスシは、カニカマ、アボガド、野菜スティック、スモ

ークサーモンを使った巻きずしで、生魚はほとんど使われていないものとみられている。

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3.7.2 スヸパヸマヸケットにおける冷凍水産物の可能性

インタビューにおいては、最大の問題点として解凍方法が指摘された。生食向けの冷凍水産物

は解凍の際にややコツがいる。例えば冷蔵庫でパックのまま 1 日かけて解凍する、あるいは流

水解凍などで、常温やレンジでの解凍では容易に务化してしまう。卸売業者らによれば、レスト

ラン顧客を相手にしていても、解凍方法を正確に理解してもらう事が難しく、カット施設を持つ

ような業者では、自社でわざわざ解凍してから配送する例も尐なくない。顧客側の間違った解凍

方法で品質が务化したとしても、高い食材なのですぐにクレームに結び付く。ましてや、一般の

スーパーマーケットで冷凍の生食用魚介類の解凍方法を消費者に周知させることは非常に難し

い。スーパーで扱うのであれば、解凍してから販売すべきだという意見が多くみられた。

さらに、消費者が持ち帰る際に、比較的遠くから買い物に来る場合もあるので、持ち帰る間に

品質が落ちてしまうし、食品安全上も問題があるだろうという意見もあった。また、解凍後は速

やかに食べてしまわなければならないが、その点も消費者がそれをきちんと理解して購入してく

れるだろうかとの心配もある。

他の問題としては、日本からの輸出ということになれば、サシミネタ状へ加工した製品だと割

高で品質の务化も早いので、フィレやロインの形態になると考えられるが、その場合魚の切り方

が分からないことも問題だとの意見も出た。確かに、米国のスーパーマーケットで販売されてい

る魚はほとんど骨抜きのカット加工済みであり、魚は「引きながら切る」ということは一般によ

く知られていない。その上、一般的な家庭用の包丁は魚を切るために作られていないので、日本

の一般的な家庭用包丁に比べると切れ味がかなり悪い。

生食用魚介類を買うのであれば、日系や韓国系、中国系のスーパーマーケットに行けばよいの

で、特に一般のスーパーマーケットで買うニーズはないだろうとのコメントも多かった。ただし

この点については、後述の消費者調査でみるように、アジア系以外の消費者は実は生食用魚介類

の購入先として一般のスーパーマーケットもアジア系と同じくらい重視している。

3.7.3 冷凍水産物に対する考え方

日本食レストランでも米系レストランでも、シェフの間では冷凍水産物は生鮮水産物に比べる

と「品質の务るもの」と考えている人がまだまだ多い。生鮮水産物についても、数日おきの入荷

となるものがあるが、レストラン側にそれすらもなかなか理解してもらう事が難しく、毎日の配

送を要求されるので対応が難しいとの声もある。冷凍水産物については卸売業者側で事前に解凍

して、配送することもしばしばみられる。

また、凍結したものはそのままでは色味が綺麗に見えない。解凍すれば良い色が出ると伝えて

も、なかなか分かってもらえず敬遠されて人気が無いとのコメントもあった。

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ただし水産物卸売業者は、米系・日系を問わず、今後は認知度が広まれば、高品質の冷凍水産

物にチャンスがあると考えている。特にシーズンによっては生鮮のものより、良い時期に冷凍し

ておいたものの方が断然美味しいので、できればそれを供給したいとの考えを持っている。また、

リスクを減らすためや、レストランの食材費削減に対応するためなどの理由で、以前に比べれば

冷凍品をかなり多く扱うようになってきた。しかし特に米系レストラン等では、現状ではシェフ

の要望に応じ、生鮮を中心に扱わざるを得ない状況にある。