免疫抑制とsepsis免疫抑制とsepsis immunosuppression in patients who die of sepsis and...
TRANSCRIPT
免疫抑制とSepsis
Immunosuppression in Patients Who Die of Sepsis and Multiple Organ Failure
JAMA, December 21, 2011—Vol 306, No. 23 2594-2605
背景 Severe Sepsisは、cytokine stormに始まり、
発熱・意識障害・臓器障害をきたすものである
Cytokine stormでは多くの基礎研究や治療ガイドラインが存在し、研究がなされている
一方、Sepsisによって起こる免疫抑制について
は、動物実験では研究がされているが疫学的な(ヒトでの)検証はされていないため今回行った
目的
①Sepsisと先天的/後天的免疫応答がどのように関与しているかを検証する
②Sepsisにおける免疫抑制の機序を解明する
Sepsis治療において免疫抑制のKey pointが分か
れば、より効果的な治療法が開発できるのではないか?
方法 〈Sepsis群〉 2009-2011の2年間に 1施設ICUでsevere sepsisで死亡した例(n=40)を死後解剖し、脾臓(リンパ系組織)および肺(末梢組織) を免疫組織化学的に染色・分析した
<Control群> ①脾臓 :脳死例や外傷で脾臓摘出した例(n=29)
②肺組織:臓器移植ドナー患者や肺切除患者(n=20)
Inclusion and exclusion criteria
<Sepsis群>
・ICU入室中に死亡した患者で
・細菌学的・臨床学的に感染を疑われ
SIRS (Systemic Inflammatory response
syndrome)criteriaを満たす
但し、
・ガンおよび自己免疫疾患
・慢性ウイルス感染症(HBV,HCV)
・hydrocortisone内服(>200 mg/day)
・免疫抑制療法施行中
は除く
control population <Control Spleen>
Sepsisではなく、明らかな外傷での脾摘例や脳死例
※但し、VAP(Ventilator-assoiciated pneumonia)を除外するため、4日以上呼吸器を使用した症例は除いた
<Control Lung>
Sepsisではなく、
①臓器移植ドナー患者から摘出された組織
あるいは
②肺がん患者から摘出された組織
患者背景
Table 1
CD(Cluster of differentiation )と免疫機能 免疫反応促進を示唆するもの
CD28 →ナイーブT細胞を活性化する。細胞性免疫の活動性指標
CD69 →TやB細胞の活性化後発現する、細胞表面糖タンパク
休止期のリンパ球には存在しない
活性化MφやNK細胞、好中球や好酸球、血小板にも発現する
IL-2α →活性化T細胞に多く発現するIL-2受容体のサブユニットのひとつ
IL-7αR→B細胞表面に発現し、骨髄中でB細胞分化を促すIL-7が結合する
CD86 →CD28と結合する樹状細胞上のリガンドの一部分
免疫反応を抑制を示唆するもの
BTLA(B and T lymphocyte attenuator )→T細胞表面の抑制性受容体
PD-1(Programmed cell death-1)→T細胞上に発現し、T細胞に細胞死を誘導する免疫抑制性補助シグナル受容体
CTLA(細胞毒性Tリンパ球抗原)→T細胞活性化の抑制 する
PD-L1、PD-L2→主に樹状細胞で発現しているPD-1のリガンド
HVEM(Herpes virus entry mediator)→BTLA(B and T attenuator)の特異的なリガンド
評価項目 ①Cytokines分泌量 TNF,INF-γ,IL-6,IL-10 ②細胞表面に発現された受容体やリガンドの 発現陽性率と蛍光強度 CD69,PD-1,IL-7Rα,CTLA-4, IL-2Rα,CD-28, CD86 ,PDL-1,PDL-2,HLA-DR ③光学組織上で T cell細胞数、HVEM,PD-L1,PDL-2の発現細胞数
結果①(脾臓Cytokine濃度)
結果②(脾T細胞の受容体/ligandの発現率と蛍光強度) CD69
(細胞表面タンパク)
PD-1
(抑制性受容体)
IL7-Rα
(促進性受容体)
CTLA-4
(抑制性抗原)
IL2-Rα
(細胞表面タンパク)
CD28
(促進性抗原)
結果③ (脾抗原提示細胞とMφの受容体/ligand発現率と蛍光強度)
CD86
(Ligand)
PD-L1
(Ligand)
HLA-DR
結果④ (肺T細胞と樹状細胞の受容体/ligand発現率と蛍光強度)
結果⑤(組織標本:脾)
結果⑥(組織標本:肺①HVEM)
結果⑦(組織標本:肺②PDL-1とPDL-2)
結論 ・脾および肺組織において、Sepsis群とControl群で免疫化学的にも組織標本観察によっても、Sepsis群では、免疫抑制がかかっている事が分かった
・今後、Sepsis治療において免疫抑制のKey
pointが分かれば、より効果的な治療法が開発され、Sepsisの死亡率低下が期待できる
と、結ばれている
考察① ・結果の妥当性
→Sepsis患者
脾臓細胞:Cytokine分泌量が減少。抑制性受容体の発現が優位
抗原提示細胞で抑制性の細胞が優位
→
これらの結果は、Sepsis患者ではT細胞抑制性のCytokineが増えていた結果と一致
→CLINICAL AND VACCINE IMMUNOLOGY, Dec. 2008, p. 1851–1858
・免疫抑制は可逆的なものか?
→今回の研究でSepsis患者の一部では、分泌刺激22時間後のcytokine濃度は Control群と同じなので、Sepsisが取り除かれればCytokine分泌が回復する可能性がある
・免疫抑制に不可欠な要素がSepsisに存在するのでは?
→今回の研究では突き止めることが出来ず、今後検討が必要
・肺組織と脾臓組織の免疫抑制には共通部分と特異的部分とがあるように思われる
→肺・脾ともにCD86とHLA-DRの発現が減少していた(共通部分:今回の結果)
一方、調節性T細胞は脾臓では増加していたが、肺ではそうではなかった
・継続的な抗原暴露と細胞刺激によるT細胞Exhaustionが、Sepsisによる免疫抑制でも重要である
→脾臓組織でT細胞Exhausionでも発現が促進される、抑制性PD-1の発現が促進されていた
考察② ・Sepsisによる免疫抑制に対する免疫賦活療法への期待が大きい
→Functional Assayやflow cytometryを組み合わせることで、免疫細胞の表現型の変化が分かれば、効果的に治療が可能となる
(Cytokine stormeの時期に免疫賦活治療を行ってしまうと危険)
実際、 ①G-CSF(HLA-DR賦活)によるSepsis治療法が実験されている
②がん患者でHCVとHIDV-Type1に対する免疫を賦活した
→J Immunol 2010;184;3768-3779/ Cell 144, 601–613, February 18, 2011
・さらに、動物実験でPD-1を阻害することで感染症とSepsisの生存率が改善したとの報告もある
→ Journal of Leukocyte Biology Volume 88, August 2010
・今回の研究の課題
→一般化するには重要な制限がある
・Sample sizeが小さい
・Sepsis群とControl群で、Base lineが違っている(栄養状態、病歴の長さなど)
・Sepsis群に適応できる患者が少ない
ICU以外でのSepsis例、回復良好のSepsis、ICU入室前の死亡などは除外されている
・免疫抑制が観察されないSepsis患者もいる
よって、多施設間のメタ解析、対象の拡充、より詳細な機序の解明が今後必要
Editorial ・この報告は、Severe Sepsisにおいてヒトでも免疫抑制が起こっている事を示した報告です
・CD28のような免疫応答を促進させるような受容体の活性を低下させ、抗原提示細胞内では免疫抑制が優位になっており、肺の内皮細胞においてはリンパ球の反応性が低下させていることも想定される
しかし、その結果を見ていくとかならずしも免疫抑制が起こっているというわけではない
・T細胞おいてのCD69や、CD4におけるIL2-Rαのように、免疫促進性の受容体/Ligandの発現が上昇していることも示されている
また、免疫抑制が起こっている事は確認されたが、そのメカニズムに関しては必ずしも解明されたとは言えず、今後さらなる研究が必要と考えられる
批判的吟味① 1.明確な課題設定がされていたか
対象:Sepsis患者
介入:免疫化学的測定
評価基準:免疫促進/抑制の指標を定量的に評価
2.研究方法は課題に答えられるものであったか?
:Retrospective コホート研究で、研究デザインとしては、いまいち
3.患者の割り付け方は適切であったか?
:Sepsis群とControl群には、Base lineで差があり適切とは言い難い
4.割付方法はBlindされていたか?
:Control群との臨床経過がまるで違うため、不可能
5.研究対対象になった介入以外は2群間で同様の処置が行われたか:はい
批判的吟味② 6.標本サイズは適切であったか:N=40 あまりに少なすぎる
7.結果はどのように示されたか:
免疫化学染色を使ったCytokine、標的分子の定量
8.最も重要な結果は何か:
Sepsisで死亡したヒトの脾肺組織でも、免疫抑制機序が働いている
9.結果の信頼性は示されているか:P値および95%信頼区間
10.結果が、臨床現場で対象者に当てはめることは可能か:
実際の臨床現場では、自己免疫に影響を与える合併症を持つ患者が多いため、この結果をそのまま当てはめるのは適切ではない
11.この臨床試験結果に基づいて、健康政策や方針、医療内容を変えるべきか:
ヒトでの免疫抑制の機序が明らかではなく、更なる調査・研究が必要