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どのような時代背景だったのか 1 国民皆保険・皆年金を達成する前後から現在に至るまでの間に、人口、雇用をめぐる情勢、経 済状況、家族形態、社会生活は大きく変化している。社会保障制度に求められる役割や機能、社 会保障が前提としている経済、社会の状況もこの間大きく変化した。 ① 経済や働き方はどうだったのか -生活水準は向上したが雇用の不安は増大- 第 2 次世界大戦で壊滅的打撃を受けた経済は、国民皆保険・皆年金を実現した昭和 30 年代に は高度成長期を迎えた。この高度経済成長は日本の産業構造を第 1 次産業中心から第 2 次産業、 第 3 次産業にシフトさせ、就業構造の変化をもたらした。 多くの世帯ではかつては農林漁業などで自営という形で生計を立てていたが、工業化の進展等 とともに、高等学校や大学を卒業し、企業に正社員として雇用され、賃金で家族ともども生計を 立たせることが一般的となった。 一方、企業も優秀で必要な労働力を確保するために「終身雇用」「年功序列賃金」「企業別組合」 といった日本型雇用慣行により主として男性労働者を正社員として処遇してきた。 そして、日本は「一億総中流」という言葉に代表されるように、生活水準は向上した。家庭で 子育てや家事に専念していた専業主婦は子どもの養育費など家計の補助のためにパートやアルバ イトをするようになった。 しかし、バブル経済崩壊後のグローバル経済により、企業は競争に生き残るために人件費削減 も含めたリストラに追いこまれ、福利厚生も含め労働者の処遇を見直してきた。そうした結果、 日本型雇用慣行が変容してきた。近年は、女性労働者の半数以上は非正規雇用となり、非正規の 男性労働者の割合も増加してきた。 ② 家族はどうだったか -大家族から単身世帯の増加- 工場が大都市を中心に立地されたこと等から、大都市への人口集中が加速し、家族の在り方も 変容してきた。 昭和 20~30 年代は 3 世代世帯も多く、子どもの数も 3 人以上というのは珍しくなかった。し かし、高校や大学を卒業後、大都市で就職し、結婚するケースが多くなった結果、核家族化が進 んだ。 また、最近は平均初婚年齢が上昇し、晩婚化が進行している。生涯未婚率も上昇しており、今 後もさらに上昇が予測されている。さらに、離婚件数も上昇傾向にあり、親が離婚した未成年の 子どもの数も増加している。 今後は単身世帯の増加が予測され、特に高齢者の単身世帯の増加が予測されている。こうした 家族の在り方の変容は地域におけるつながりの希薄化の一つの大きな要因となった。 ③ 人口増加社会から人口減少社会へ -現役世代の減少- 第 2 次世界大戦後、総人口は 2 度のベビーブームを経て、一貫して増加し、そうした人口増加 により高度経済成長は支えられてきた。また、衛生水準の向上や医学の進歩等により平均寿命は 昭和 20 年代前半では 50 歳代であったが、今や 80 歳前後まで上がってきており、死因も感染症 から生活習慣病を原因とするものに変化してきた。 第 1 章 どのような時代背景だったのか 5 1

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Page 1: 章 どのような時代背景だったのか - mhlw.go.jp · しかし、バブル経済崩壊後のグローバル経済により、企業は競争に生き残るために人件費削減

どのような時代背景だったのか

第1章

国民皆保険・皆年金を達成する前後から現在に至るまでの間に、人口、雇用をめぐる情勢、経済状況、家族形態、社会生活は大きく変化している。社会保障制度に求められる役割や機能、社会保障が前提としている経済、社会の状況もこの間大きく変化した。

① 経済や働き方はどうだったのか -生活水準は向上したが雇用の不安は増大-第2次世界大戦で壊滅的打撃を受けた経済は、国民皆保険・皆年金を実現した昭和30年代に

は高度成長期を迎えた。この高度経済成長は日本の産業構造を第1次産業中心から第2次産業、第3次産業にシフトさせ、就業構造の変化をもたらした。多くの世帯ではかつては農林漁業などで自営という形で生計を立てていたが、工業化の進展等

とともに、高等学校や大学を卒業し、企業に正社員として雇用され、賃金で家族ともども生計を立たせることが一般的となった。一方、企業も優秀で必要な労働力を確保するために「終身雇用」「年功序列賃金」「企業別組合」

といった日本型雇用慣行により主として男性労働者を正社員として処遇してきた。そして、日本は「一億総中流」という言葉に代表されるように、生活水準は向上した。家庭で

子育てや家事に専念していた専業主婦は子どもの養育費など家計の補助のためにパートやアルバイトをするようになった。しかし、バブル経済崩壊後のグローバル経済により、企業は競争に生き残るために人件費削減

も含めたリストラに追いこまれ、福利厚生も含め労働者の処遇を見直してきた。そうした結果、日本型雇用慣行が変容してきた。近年は、女性労働者の半数以上は非正規雇用となり、非正規の男性労働者の割合も増加してきた。

② 家族はどうだったか -大家族から単身世帯の増加-工場が大都市を中心に立地されたこと等から、大都市への人口集中が加速し、家族の在り方も

変容してきた。昭和20~30年代は3世代世帯も多く、子どもの数も3人以上というのは珍しくなかった。し

かし、高校や大学を卒業後、大都市で就職し、結婚するケースが多くなった結果、核家族化が進んだ。また、最近は平均初婚年齢が上昇し、晩婚化が進行している。生涯未婚率も上昇しており、今

後もさらに上昇が予測されている。さらに、離婚件数も上昇傾向にあり、親が離婚した未成年の子どもの数も増加している。今後は単身世帯の増加が予測され、特に高齢者の単身世帯の増加が予測されている。こうした

家族の在り方の変容は地域におけるつながりの希薄化の一つの大きな要因となった。

③ 人口増加社会から人口減少社会へ -現役世代の減少-第2次世界大戦後、総人口は2度のベビーブームを経て、一貫して増加し、そうした人口増加

により高度経済成長は支えられてきた。また、衛生水準の向上や医学の進歩等により平均寿命は昭和20年代前半では50歳代であったが、今や80歳前後まで上がってきており、死因も感染症から生活習慣病を原因とするものに変化してきた。

第1章 どのような時代背景だったのか

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第1章

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平均寿命の上昇により、1970(昭和45)年に総人口に占める65歳人口の割合が7%を超える高齢化社会に、その24年後の1994(平成6)年には14%を超え高齢社会に、さらに21%を超える超高齢社会を迎えた。その一方で、多産多死から少産少子に変化していく中で出生数の低下が続き、平成になると少

子社会への本格的な対応が求められるようになり、総人口が減少するといった人口減少社会を迎えようとしている。

④ 人生80年時代になったが、不安は増大 -不安社会の到来-統計でみた平均的なライフスタイルは、夫妻の子どもの数は減ったが、女性の平均寿命は80

歳を超え、夫の引退してからの老後の期間は長くなっている。しかし、悩みや不安を感じている人は多くなってきており、今や約7割が何らかの悩みを抱え

ている。その内容をみると、「老後の生活設計について」「自分の健康について」「今後の収入や資産の見通しについて」といったものが多い。

時代背景

昭和30年代からオイルショック

平成10年~グローバル経済へ

平成元~ 10年頃少子高齢社会への対応

昭和50年代から60年代昭和20年代

経済

産業

人口

疾病

家族(世帯)

雇用

医学の進歩

総人口は一貫して増加

壊滅から復興へ 高度経済成長 バブル経済と

その崩壊停滞

工業化の進展経済のサービス化

の進展

非正規雇用の増大

第1次ベビーブーム

第2次ベビーブーム

日本的雇用慣行(終身雇用、年功序列賃金、企業別組合)の定着

第1次産業に大きなウエイト

感染症 生活習慣病

人口減少社会

男女の平均寿命は50歳代

少子高齢社会

平均世帯人員4.97

(昭和25年)

核家族化の進行

就業者のうち雇用者55.1%自営業者21.9%家族従業者23.0%

失業率1.4%(昭和36年)

単身世帯の増加

就業者のうち雇用者87.3%自営業者9.3%家族従業者3.0%

失業率5.1%(平成21年)

男女の平均寿命は80歳前後に

女性の雇用者の増加→パートタイマーの増加

共働き世帯の増加

大都市に人口が集中

平均世帯人員2.56

(平成17年)

企業は(福利厚生も含め)人件費を見直す

安定経済成長

地域のつながりの低下

昭和23年の死因順位

①結核②脳卒中

平成22年の死因順位

①がん②心臓病

農林漁業従事者48.5%

(昭和30年)

農林漁業従事者13.8%

(昭和50年)

農林漁業従事者4.8%

(平成17年)

昭和45年高齢化社会65歳以上が全人口の7%超

平成6年高齢社会65歳以上が全人口の14%超

現役世代の減少

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

6 平成23年版 厚生労働白書

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第1節 経済や働き方はどうだったのか -生活水準は向上しつつも雇用不安は近年増大-

1 経済成長の変化実質国内総生産(実質GDP)成長率は、高度経済成長期に6~10%超であったが、第1次オ

イルショックを契機に低下した。バブル期には6%程度の成長を記録したが、その後は3%を超えることはなく、マイナス成長の年もあった。また、対前年比の物価上昇率をみると、1960年代以降は5%前後で推移してきており、第1

次オイルショック以降の1973~1975年は10%を越えていた。バブル崩壊後は0%前後で、デフレ基調で推移している。さらに、現金給与総額の増減率をみると、1966年から1974年の第1次オイルショックまで

は10%を超えており、物価上昇率を上回っていた。しかし、第1次オイルショック以降は増減率が減少してきており、バブル崩壊の1990年代半ば以降はおおむねマイナスで推移するようになり、物価が下がる以上に給与が下がっている状況であった(図表1-1-1)。国民皆保険・皆年金の実現した1961(昭和36)年当時は高度経済成長期に当たり、第1次オ

国民皆保険・皆年金が実現された1961(昭和36)年頃(1960(昭和35)~1963(昭和38)年)と現在(2005(平成17)~2010(平成22)年)はどのように変化したのか?

*青い数字(1961年頃の数字)→ 赤い数字(現在の数字)

【100人でみた日本】市部の人口は? 63.3人 → 86.3人郡部の人口は? 36.7人 → 13.7人15歳未満は? 29.8人 → 13.1人65歳以上? 5.8人 → 22.9人 (そのうち75歳以上 1.7人 → 11.1人)小学生は? 12.5人 → 5.5人中学生は? 7.3人 → 2.8人高校生は? 3.3人 → 2.6人大学生・大学院生は? 0.7人 → 2.3人

仕事についているのは? 47.7人 → 48.9人 雇われているのは? 26.3人 → 42.7人 自営しているのは? 10.4人 → 4.5人  うち農林業は? 4.7人 → 0.9人失業者は? 0.7人 → 2.6人雇用保険加入者は? 15.4人 → 29.4人雇用保険受給者は? 0.4人 → 0.5人

生活保護受給者は? 1.7人 → 1.4人

健康保険加入者は? 35.6人 → 51.0人国民健康保険加入者は? 49.6人 → 31.0人

年金に加入しているのは? 自営業者や学生等 19.3人 → 15.5人

【日本の1日】生まれるのは? 4,354人 → 2,935人亡くなるのは? 1,906人 → 3,280人がんでは? 264人 → 968人心疾患では? 186人 → 518人脳血管疾患では? 427人 → 338人事故では? 114人 → 111人老衰では? 150人 → 124人

結婚するのは? 2,439組 → 1,918組離婚するのは? 190組 → 689組

ハローワークで新たに仕事を探し始めたのは? 11,977人 → 21,200人

入院しているのは? 608,800人→1,392,400人通院しているのは? 3,879,600人→6,865,000人国民全体の医療費は? 約14億1,000万円 → 約953億6,000万円 一人当たりだと 14.8円 → 746.8円

平均野菜摂取量 160g → 281g

薬物事犯の逮捕者は? 大麻取締法 0.07人 → 8.46人 覚せい剤取締法 1.31人 → 32.53人

世帯数は? 22.4世帯 → 39.1世帯

国家公務員(Ⅰ種)の初任給は? 12,900円 → 181,200円

第1章 どのような時代背景だったのか

7

第1章

第1節 経済や働き方はどうだったのか -生活水準は向上しつつも雇用不安は近年増大-

Page 4: 章 どのような時代背景だったのか - mhlw.go.jp · しかし、バブル経済崩壊後のグローバル経済により、企業は競争に生き残るために人件費削減

イルショックまでは経済も右肩上がりの時代であった。しかし、第1次オイルショックにより物価が高騰し、社会保障もその対応に取り組まねばならなかった。バブル崩壊以降は平均給与が下落する中で、非正規労働者の増加などにより現役世代の収入格

差も問題視されるようになり、そうした問題に対しては社会保障のセーフティネット機能が問われる時代となった。

2 完全失業率、有効求人倍率の変化完全失業率は高度経済成長期から1970年代まで1%前後で推移していたが、1980年代は2%

台、1990年代で4%台まで上昇し、2000年代は5%台まで上昇した。一方、有効求人倍率は景気循環に応じて上昇・低下を繰り返している(図表1-1-2)。国民皆保険・皆年金制度が実現した1961(昭和36)年から1970年代までは、完全失業者が

100人に1人という状況であり、就職を希望していた者は、条件を問わなければほぼ就職ができた時代であった。こうした就業の長期的安定状況の中で、日本型雇用慣行の三種の神器と称される「終身雇用」

「年功序列賃金」「企業別労働組合」といったものが普及・定着した。

図表1-1-1 実質GDP成長率、物価上昇率、現金給与総額の増減率

○実質GDP成長率は高度経済成長期には6~10%超、オイルショックで急激に物価が上昇。

-10.0

-5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

1956 1959 1962 1965 1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007

(%)

2010高度経済成長期

-1.9-0.7

オイルショック 安定成長期 バブル景気 バブル崩壊 リーマンショック(年)

1.4

物価上昇率

現金給与総額増減率

実質GDP成長率

資料:内閣府「国民経済計算」、総務省統計局「消費者物価指数」、厚生労働省大臣官房統計情報部「毎月勤労統計調査」より厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成

(注) 現金給与総額増減率について、1970年までは製造業かつ事業所規模30人以上、1971年以降は全産業の平均かつ事業所規模30人以上。

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

8 平成23年版 厚生労働白書

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3 産業別就業者数の変化 図表1-1-3 産業別就業者数の変化

○国民皆保険・皆年金が実現した1961年には第1次産業に就業者数の約3分の1が従事。

公務

運輸・通信業、電気・ガス・熱供給・水道業

製造業

鉱業、建設業

農林漁業

サービス業

卸売・小売業、金融・保険業、不動産業

生活関連サービス業、娯楽業

宿泊業、飲食サービス業

学術研究、専門・技術サービス業

複合サービス

サービス業(他に分類されないもの)

教育、学習支援業

医療・福祉

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1961 1982 2010

(%)

(年)

第3次産業

第1次産業

第2次産業

29.0

9.7 4.0

6.9

9.88.0

22.5

24.5

16.8

5.5

6.8

9.3

19.8

26.6

21.3

3.26.23.84.6

10.40.712.9

18.97.3

3.3 3.5 3.5

資料:総務省統計局「労働力調査」(注) 日本標準産業分類の改訂により、2009年以前では産業の表章が異なっており、接合は行えない。

産業構造の変化に伴い、各産業に就業している者の比率も大きく変化している。昭和30年代(1961年)では農林漁業の第1次産業に就業者のおよそ3分の1が従事していたが、2010(平成22)年では5%を下回っている。第2次産業従事者は、1961(昭和36)年の29.4%から、

図表1-1-2 完全失業率と有効求人倍率の推移

○完全失業率は1%前後で1970年代まで推移、近年急激に上昇。

有効求人倍率

完全失業率

0.52倍

5.1%

(倍) (%)

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

(年)高度経済成長期 オイルショック 安定成長期 バブル景気 バブル崩壊 リーマンショック

有効求人倍率

完全失業率

1953 1956 1959 1962 1965 1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010

資料:総務省統計局「労働力調査」、厚生労働省職業安定局「職業安定業務統計」(注) 有効求人倍率は、新規学卒者を除きパートタイムを含む。また年平均の数値である。

第1章 どのような時代背景だったのか

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第1章

第1節 経済や働き方はどうだったのか -生活水準は向上しつつも雇用不安は近年増大-

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1982(昭和57)年には、34.3%まで増加しているが、2010年には24.8%に減少している。一方、サービス業などの第3次産業に就業している者は1961年では約4割であったが、2010

年では約7割を占めている。中でも、医療・福祉に就業している者は10.4%を占め、今後の伸びも見込まれている(図表1-1-3)。

4 進学率の変化 図表1-1-4 進学率の推移

○高等学校等進学率は1970年代に90%を超え、現在は2人に1人が大学に進学。

高等学校等進学率男性:96.1%女性:96.5%

大学進学率男性:56.4%女性:45.2%

大学院進学率男性:17.4%女性:7.1%

短期大学進学率男性:1.3%女性:10.8%

高等学校等(男性)

高等学校等(女性)

短期大学(女性)

大学院(女性)

大学院(男性)

短期大学(男性)

大学(男性)

大学(女性)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

(%)

(年)

資料:文部科学省「学校基本調査」(注) 1.高等学校等への進学率:中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者のうち、高等学校、中等教育学校

後期課程及び特別支援学校高等部の本科・別科並びに高等専門学校に進学した者の占める比率(高等学校の通信制課程(本科)への進学者を除く)

2.大学・短期大学への進学率:大学学部・短期大学本科入学者数(過年度高卒者等を含む。)を3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者数で除した比率。

3.大学院への進学率:大学学部卒業者のうち、ただちに大学院に進学した者の比率

1961(昭和36)年には、高等学校等進学率が男女とも60%超であった。大学進学率は、男性が15%程度、女性は3%程度であった。高等学校等進学率は1970年代には男女ともに90%を超えていた。現在、男女ともに95%以

上であり、高校等はほぼすべての者が進学する国民的な教育機関となっている。大学進学率は1950年代には男性が10%台、女性が2%台であったが、2010(平成22)年には男性が56.4%、女性が45.2%と大きく増加しており、高学歴化が進んでいる。また女性の短期大学への進学者を含めれば、半数以上の者が大学・短期大学に進学しており、

大学・短期大学に進学することが珍しくなくなってきている。なお、最近は大学院進学率も上昇し、2010(平成22)年には男性で17.4%になった(図表

1-1-4)。

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

10 平成23年版 厚生労働白書

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5 職業別就業者数、雇用形態別雇用者数の変化 図表1-1-5 就業者の変化

○国民皆保険・皆年金が実現した1961年は雇用者が約5割だったが、近年は約9割を占める。

雇用者

家族従業者

自営業主21.9 17.2

9.3

23.0

10.9

3.0

55.1

71.7

87.3

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1961 1980 2010 (年)

(%)

資料:総務省統計局「労働力調査」

産業構造の変化により第1次産業の就業者が減少してきた。1961年には農林業者をはじめとする自営業者は就業者のうち21.9%であったが、2010年には9.3%という状況である。家族従業者も同様に1961年には23.0%であったが、2010年には3.0%にしかすぎない。その一方で、雇用者は1961年には5割強であったが、1980年には7割を超え、2010年には働いている人のうち、およそ9割が雇用されて働いている(図表1-1-5)。日本の医療保険は、大きく労働者を対象とする被用者保険と農家や自営業者等を対象とする地

域保険に分かれて発展してきたが、こうした就業構造の変化は、特に地域保険である国民健康保険に大きな影響を与えてきた。

第1章 どのような時代背景だったのか

11

第1章

第1節 経済や働き方はどうだったのか -生活水準は向上しつつも雇用不安は近年増大-

Page 8: 章 どのような時代背景だったのか - mhlw.go.jp · しかし、バブル経済崩壊後のグローバル経済により、企業は競争に生き残るために人件費削減

その一方、雇用者の変化の状況をみると、これまで男性の正社員が中心であったが、特に、女性の社会進出等により女性が増加している。男性と女性の雇用者の比率は、1959(昭和34)年には男性雇用者が女性の2.5倍程度であったが、2007(平成19)年には男性は女性の1.3倍程度になっている。しかしながら、女性の雇用者については、派遣社員、契約社員、パート、アルバイト等の非正規雇用を中心に増加している。2007年には女性の雇用者のうち非正規雇用が過半数を占めている。1982(昭和57)年から2007年の間の変化をみると、正規の職員従業員の数はあまり増加し

ておらず、男女とも被用者の増加分はほとんど派遣社員、契約社員、パート、アルバイト等の非正規雇用となっている(図表1-1-6)。社会保障制度においても、男性が正規職員として安定的に就業しているという前提は、見直さ

ざるを得なくなっている。

図表1-1-6 雇用形態別雇用者の変化

○女性の半数以上が非正規雇用であり、近年は男性も非正規雇用の割合が増加。

【その他】パート、アルバイト、労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員、嘱託等

【その他】パート・アルバイト、嘱託等

【その他】臨時・日雇い等

会社団体役員

一般常雇

正規の職員・従業員

正規の職員・従業員

民間の役員

496

991

1,053

8

48

93

74

461

1,299

1,244

2,310

2,380

73

227

308

122

209

591

1959

1982

2007

(年)

0 1,000 2,000 3,000 4,00001,0002,0003,0004,000 (万人)

資料:総務省統計局「就業構造基本調査」より厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

12 平成23年版 厚生労働白書

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6 共働き世帯の増加 図表1-1-7 専業主婦世帯と共働き世帯の推移

○いわゆる専業主婦世帯が多かったが、1990年代に共働き世帯が逆転。

男性雇用者と無業の妻からなる世帯

雇用者の共働き世帯

1,114

797

614

1,012

600

700

800

900

1,000

1,100

1,200

1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 (年)

(万世帯)

2010

資料:1980年から2001年は総務省統計局「労働力調査特別調査」、2002年以降は総務省統計局「労働力調査(詳細集計)(年平均)」より厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成

(注) 1.「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」とは、夫が非農林業雇用者で、妻が非就業者(非労働力人口及び完全失業者)の世帯。

2.「雇用者の共働き世帯」とは、夫婦ともに非農林業雇用者の世帯。3.「労働力調査特別調査」と「労働力調査(詳細集計)」とでは、調査方法、調査月などが相違することから、時系列比較には注意を要する。

社会保障制度は、専業主婦世帯が一般的であることを想定して構築されてきた部分がある。また、企業の賃金制度も男性労働者が家族を養うことを前提に、各種の福利厚生制度が構築されてきた。1980(昭和55)年には、男性世帯雇用者と無業の妻(いわゆる専業主婦)からなる世帯が

1,114万世帯であったのに対して、雇用者の共働き世帯が614万世帯であった。しかしながら、雇用者の共働き世帯は増加を続ける一方、男性雇用者と無業の妻からなる世帯は減少を続け、1990年代に雇用者の共働き世帯が男性雇用者と無業の妻からなる世帯を上回った(図表1-1-7)。子育てや介護あるいは様々な地域活動は専業主婦に期待されるところが大きかったが、子育て

支援や介護ニーズに社会的にどう対応するかが大きな課題となっていった。

第1章 どのような時代背景だったのか

13

第1章

第1節 経済や働き方はどうだったのか -生活水準は向上しつつも雇用不安は近年増大-

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7 家計の変化 図表1-1-8 家計状況の推移

○エンゲル係数は大幅に減少、実収入に占める黒字の割合は増加。

実収入:40,453円

消費支出に占める割合 実収入に占める割合

黒字10.1%

非消費支出7.4%

実収入:444,846円

黒字18.9%

非消費支出16.0%

実収入:518,226円

黒字21.0%

非消費支出17.4%22.0% 6.7%

4.3%

4.8%

6.1%

4.7%

60.8%

25.7% 7.0%

5.9%

56.7%

37.6% 10.2% 11.8% 35.5%

食料 住居 光熱 被服 その他支出

0 20 40 60 80 100(%)

2009

1985

1961

(年)

資料:総務省統計局「家計調査」(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)より厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成

1961(昭和36)年、1985(昭和60)年、2009(平成21)年の家計の状況を比較すると、実収入に占める税や社会保険料等の非消費支出の割合は1961年では7.4%であったが、2009年では17.4%まで上昇した。消費支出に占める割合をみると、1961年は食費、住居費、光熱費、被服費で約65%であった

が、2009年では40%を下回っている。また、食費の割合(エンゲル係数)は、1961年の37.6%から、1985年には25.7%、2009年には22.0%と低下している。その一方で、家計の実収入に占める黒字の割合は1961年の10.1%から、1985年には18.9%、2009年には21.0%となっており、将来不安から貯蓄に回しているという面があるとしても、総体として家計に余裕があることがうかがえる(図表1-1-8)。また、高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、またはこれに18歳未満の未婚の者が加

わった世帯)の所得内訳をみると、公的年金・恩給が占める割合は1978(昭和53)年で34.1%、1993(平成5)年で54.8%、2008年で70.6%となっており、高齢者世帯の所得のうち公的年金・恩給が占める割合が増加している。一方、全世帯の平均所得を100にした場合、1978年では高齢者世帯は45.7であったが、

2008年では高齢者世帯は54.2となっており、格差も小さくなってきている。ただし、高齢者間の所得や資産の格差が生じているという指摘もある(参照 P90 図表3-1-5 高齢者世帯の所得の経年変化)。

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

14 平成23年版 厚生労働白書

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第2節 家族はどうだったのか -大家族から単身世帯の増加-

1 都市部への人口集中 図表1-2-1 市部・郡部人口割合の推移

○市部人口の割合は増加傾向にあるが、郡部人口は減少傾向にある。

郡部人口の割合

37.3

56.1

63.367.9

72.175.9 76.2 76.7 77.4 78.1 78.7

86.3

62.7

43.9

36.732.1

27.924.1 23.8 23.3 22.6 21.9 21.3

13.7

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

(%)

(年)

市部人口の割合

資料:総務省統計局「国勢調査」(注) 1.1955年の数字は町村合併推進法、また2005年の数字は市町村合併特例法による市町村合併及び新市成立

の結果、それ以前の数字とは異なっている。2.1960年の長野県西筑摩郡山口村と岐阜県中津川市の間の境界紛争地域の人口(73人)及び岡山県児島湾干拓第7区の人口(1,200人)は、全国に含まれているが、市部又は郡部には含まれていない。

日本の市部人口と郡部人口を比較してみると、市部人口が増加を続け、高度経済成長期に入ったところで市部人口が郡部人口を逆転し、その後もその差は拡大している(図表1-2-1)。地方から都市への人口移動に加え、職住が近接している農家や自営業者の減少、専業主婦の減少により、人々の意識の変化と相まって、地域社会での人々の結びつきは弱くなっている。なお、都市部への人口移動の結果、現在では地方部での高齢化が比較的問題にされているが、

近い将来には都市部に集中した人口が一気に高齢化することから、その対応が大きな課題となっている。

第1章 どのような時代背景だったのか

15

第1章

第2節 家族はどうだったのか -大家族から単身世帯の増加-

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2 世帯構成の変化 図表1-2-2 家族類型別一般世帯数と平均世帯人員の推移

○単身世帯が増加する一方で、「夫婦と子」、三世代同居等の「その他」の世帯は減少。

その他

夫婦と子

ひとり親と子

夫婦のみ

単身

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

55,000

1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 20304.47 4.05 3.69 3.45 3.22 3.14 2.99 2.82 2.67 2.56 2.47 2.42 2.36 2.31 2.27

(千世帯)

(参考)平均世帯人員

12.7%

29.5%

8.4%

29.9%

19.6%

11.2%

37.4%

10.3%

21.9%

19.2%

実績値(国勢調査)

平成20年推計値(日本の世帯数の将来推計)

(年)8.3%

43.4%8.5%4.7%35.1%

(人)

資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2008年3月推計)」(注) 集計の出発点となる基準人口は、総務省統計局「国勢調査」(2005年)に調整を加えて得たものである。

世帯構成の変化をみると、高度経済成長期には「夫婦と子」の世帯の割合が大きく、夫婦子ども2人の世帯が「標準的な世帯」とされた。しかし、近年では、単身世帯の割合が増加し、夫婦と子どもの世帯、3世代同居などの「その他」世帯の割合が大幅に低下している。1960(昭和35)年には、夫婦と子の世帯が43.4%、三世帯同居等を含む「その他」世帯が

35.1%であり、両者でほぼ8割を占めていた。また、平均世帯人員は1960年では4.47人となっていた。1960年当時、4.7%にすぎなかった単身世帯が2005年には29.5%に増加し、夫婦のみ世帯も

8.3%から19.6%に増加した。1960年はあわせて約13%であったが、2005(平成17)年には、ほぼ5割に達した。他方、夫婦と子ども世帯とその他世帯は、8割程度からほぼ半減し、両者あわせて4割程度となった。2005年では、世帯規模も2.56人と大きく減少しており、1960年のほぼ半分となった(図表

1-2-2)。三世代同居の減少は、扶養意識等の変化とともに、年金や介護等の高齢者福祉へのニーズを高

めていった。また、子育て支援を家庭外に求めることがより必要になっていった。近年では特に単身世帯の増加が著しい。これは、死別、非婚者の増加、三世代同居の減少等が

背景にあると考えられる。今後も単身世帯は増加が予測されている。2030(平成42)年には4割弱が単身世帯となる。そうした中で高齢者の単身世帯も増加が予測されており、地域での支え合いが課題となっている(図表1-2-3)。

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

16 平成23年版 厚生労働白書

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図表1-2-3 単身世帯(高齢者単身世帯)、三世代同居の推移

○単身世帯は今後も増加が予測。そのうち、高齢者の単身世帯も増加。

三世代同居

単身世帯

高齢者単身世帯4,110

3,004

129

3,865

7,173

919

14,457

18,237

0

5,000

10,000

15,000

20,000

1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030

(千世帯)実績値

(国勢調査)平成20年推計値

(日本の世帯数の将来推計)

(年)

資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2008年3月推計)」(注) 1.集計の出発点となる基準人口は、総務省統計局「国勢調査」(2005年)に調整を加えて得たものである。

2.三世代同居とは、「夫婦と子どもと両親から成る世帯」「夫婦と子どもと片親から成る世帯」を合計したものである。

3.高齢者単身世帯の1960年は世帯主の年齢が70歳以上、1965年以降は世帯主の年齢が65歳以上の単身世帯である。

3 合計特殊出生率の低下と晩婚化傾向 図表1-2-4 出生者数の推移

○出生者数は急激に低下。

267.88

107.13

0

50

100

150

200

250

300

19471950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010(年)

(万人)

出生数

資料:厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」(注) 2010年は概数である。

出生者数は、1947(昭和22)年から1949(昭和24)年の第一次ベビーブームと1971(昭和46)年から1974(昭和49)年の第二次ベビーブームに200万人を超えているが、それを除いて減少傾向にあった。1989(平成元)年以降は120万人前後で推移したがその後減少し、2010(平成22)年は概数で107万人であった(図表1-2-4)。

第1章 どのような時代背景だったのか

17

第1章

第2節 家族はどうだったのか -大家族から単身世帯の増加-

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合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当)が低下しており、1956(昭和31)年に人口置換水準*1を下回り、1989年には「ひのえうま*2」であった1966(昭和41)年を下回る1.57となり、「1.57ショック」として社会的に注目された。その一方で、1970年代半ば以降、合計特殊出生率は低下傾向が続いていたが、2006(平成18)年以降やや改善している。しかしながら、出生率の低下傾向が変化したとまでは、いうことはできない。平均初婚年齢が上昇しており、晩婚化が進行している。男性、女性とも国民皆保険・皆年金が

成立した1961(昭和36)年当時と比較すると、男性は27.3歳から30.5歳に、女性は24.5歳から28.8歳になり、男性は3.2歳、女性は4.3歳それぞれ上昇した(図表1-2-5)。

図表1-2-5 平均初婚年齢と合計特殊出生率の推移

○平均初婚年齢が上昇する一方で合計特殊出生率は低下。

1966年 1.58ひのえうま

1989年1.57ショック

男性の平均初婚年齢

合計特殊出生率

女性の平均初婚年齢

30.5

28.8

1.39

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

20

22

24

26

28

30

32

1947 1950 1953 1956 1959 1962 1965 1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 (年)2010

(歳)

1956年 2.22人口置換水準(当時は2.24)を初めて下回る

合計特殊出生率

平均初婚年齢

資料:厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」(注) 1.平均初婚年齢とは、1947~1967年は結婚式をあげた時の年齢、1968年以降は結婚式をあげたときまた

は同居を始めた時のうち早いほうの年齢である。2.2010年は概数値である。

生涯未婚率も上昇している。男性の出生数が女性より多いことなどもあり、特に男性の生涯未婚率が上昇していくことが見込まれている。2030(平成42)年には、およそ男性の10人のうち3人、女性の10人のうち2人が生涯未婚であると予測されている(図表1-2-6)。一方、夫婦の間に生まれる子ども数(完結出生児数)は、2005(平成17)年で2.09であり

若干の減少傾向が見られるが、1972(昭和47)年から2.2前後で比較的安定して推移してきている。したがって、近年の出生率の低下は、晩婚化や結婚しない人の増加が主因ということができる(図表1-2-7)。しかし、若年世代では、子どものいない夫婦や子どもが一人の夫婦が増加しており、今後、夫

婦の間に生まれる子ども数は更に減少することも予測される。

*1 合計特殊出生率がこの水準以下になると人口が減少することになる水準のことを言う。おおむね2.1だが年によって変動がある。*2 1966(昭和41)年は、干支の一つの「丙午(ひのえうま)」の年。「ひのえうま」に関する迷信が、この年の出生率に影響を与え

たものと考えられている。

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少子化が社会経済、特に社会保障制度に与える影響は非常に大きく、子ども・子育て支援の重要性が高まっている。

図表1-2-6 生涯未婚率の推移

○生涯未婚率は男女とも上昇傾向にあり、今後もさらに上昇。

男性 女性

0

5

10

15

20

25

30

35

1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030

(%)

(年)

実績値(国勢調査より算出)

平成20年推計値(日本の世帯数の将来推計)

22.6

29.5

16.0

7.3

1.5

1.2

資料:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2010年版)、「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2008年3月推計)」

(注) 生涯未婚率とは、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合であり、2005年までは「人口統計資料集(2010年版)」、2010年以降は「日本の世帯数の将来推計」より、45~49歳の未婚率と50~54歳の未婚率の平均である。

図表1-2-7 実際の子ども数

○夫婦の間に生まれる子ども数は2人以上おり、非婚が出生率低下の大きな原因。

完結出生児数

4.27

3.50

3.60

2.83 2.65

2.20

2.19 2.23 2.19 2.21 2.21 2.23 2.09

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

1940 1952 1957 1962 1967 1972 1977 1982 1987 1992 1997 2002 2005(年)

(人)

資料:国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」(注) 結婚持続期間15~19年の初婚同士夫婦の平均出生子ども数である。

第1章 どのような時代背景だったのか

19

第1章

第2節 家族はどうだったのか -大家族から単身世帯の増加-

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少子化の状況を表す指標としてよく用いられるのが「合計特殊出生率」である。これは、15~49歳の女性の年齢別の出生率を合計したものであるが、年齢構成が異なる地域ごとの出生の状況を比較するときに用いる指標である。ここでいう合計特殊出生率は「期間合計特殊出生率」といい、このほかに「1人の女性

が一生の間に生む子どもの数に相当するもの」として同一世代生まれの女性の年齢別出生率を過去から積み上げた「コーホート合計特殊出生率」がある。仮に「期間合計特殊出生率」が上昇しても、1人の女性が一生の間に生む子ども数(コーホート合計特殊出生率)が必ずしも上昇するわけではないことに留意する必要がある。

コラム 2種類ある合計特殊出生率

4 離婚件数の増加と親が離婚した未成年の子どもの増加 図表1-2-8 離婚件数と親が離婚した未成年の子の数の推移

○離婚件数は増加傾向にあり、とりわけ妻が未成年の子の親権を行う離婚が増加。

未成年の子がいない離婚

妻が全児の親権を行う離婚

夫が全児の親権を行う離婚

夫妻が分け合って親権を行う離婚

親が離婚をした未成年の子の数

0

5

10

15

20

25

30

0

5

10

15

20

25

30

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

親が離婚をした未成年の子の数

離婚件数

(万組) (万人)

(年)2009

資料:厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」(注) 未成年の子とは、20歳未満の未婚の子をいう。親権とは、未成年の子に対して有する身分上、財産上の監督、

保護を内容とする権利、義務をいう。

離婚件数は上昇傾向にある。1950年代は、離婚件数は8万組程度であったが、1970年代以降離婚件数が増加し、2000(平成12)年には26万件に達している。それに伴い、親が離婚した未成年の子どもの数も増加している。1950年は夫が親権を行う場合がおよそ半数であったが、2009(平成21)年は妻が親権を行う場合が8割以上となっている(図表1-2-8)。1950年以降の59歳までの年齢の年齢階級別有配偶離婚率についても、夫婦ともにどの年齢

階級も上昇傾向で推移している。夫は19歳以下と20~24歳が交互に高くなっており、妻は19歳以下が最も高くなっている。人口千人あたりの離婚率は、2010(平成22)年では人口千人当たり1.99人(概数値)となっ

ている。大正期から昭和初期にかけて、人口千人当たり1人を下回っていたが、その後、上昇傾向で推移している(図表1-2-9)。家族形態が変化する中で、親との死別も含め、ひとり親家庭への支援ニーズが高まっている。

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図表1-2-9 夫妻の同居をやめたときの59歳までの年齢(5歳階級)別にみた有配偶離婚率(人口千対、同年別居)の年次推移

○どの年齢階級においても離婚率は上昇、とりわけ「19歳以下」、「20~24歳」が高い。

0

10

20

30

40

50

60

70

80夫

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005(年)

有配偶離婚率

0

10

20

30

40

50

60

70

80妻

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005(年)

有配偶離婚率

55~5950~5445~4940~4435~3930~3425~2920~24~19歳

(有配偶男性人口千対)

(有配偶女性人口千対)

資料:厚生労働省大臣官房統計情報部「平成21年度 離婚に関する統計」

第1章 どのような時代背景だったのか

21

第1章

第2節 家族はどうだったのか -大家族から単身世帯の増加-

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5 近所付き合いの程度 図表1-2-10 近所付き合いの程度

○2000年代は近所とよく付き合っている割合は少ない。

ある程度付き合っている あまり付き合っていない わからない全く付き合っていないよく付き合っているわからない

2002年以降:1997年以前: 親しく付き合っている 付き合いはしているが、あまり親しくはない 付き合いはしていない

大都市と町村

自営業・雇用者(%)

(%)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

雇用者

自営業者

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

(2011年)

(2004年)

(2002年)

(1997年)

(1986年)

(1975年)

(2011年)

(2004年)

(2002年)

(1997年)

(1986年)

(1975年)

(2011年)

(2004年)

(2002年)

(1997年)

(1986年)

(1975年)

(2011年)

(2004年)

(2002年)

(1997年)

(1986年)

(1975年)

大都市

町村

資料:内閣府「社会意識に関する世論調査」より厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成(注) 1986年の「大都市」は「11大市」、1975年の「大都市」は「10大市」。

1975(昭和50)年、1986(昭和61)年、1997(平成9)年において、大都市、町村、雇用者、自営業者のいずれでも近所付き合いの程度について「親しく付き合っている」と回答した人の割合は3割以上であった。一方、2002(平成14)年、2004(平成16)年、2011(平成23)年には「よく付き合っている」と回答した割合が大都市や雇用者では1割強であった。こうしたことから、単純には比較できないが、近所付き合いの程度は低下していると考えられる(図表1-2-10)。

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~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

22 平成23年版 厚生労働白書

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第3節 人口増加社会から人口減少社会への転換 -現役世代の減少-

1 人口構造の変化 図表1-3-1 人口構造の変化

○多産多死社会から少産少子社会へ。総人口は増加傾向から減少傾向に。

50556065707580859095100

105以上

男 女

(歳)

05101520253035404545

50556065707580859095100

105以上

男 女

(歳)

0510152025303540

男 女

2005年 2055年1960年

(歳)

人口人口人口人口人口人口0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95

100以上

資料:1960年、2005年は総務省統計局「国勢調査」、2055年は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)中位推計」より厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成

第2次世界大戦後、日本の総人口は一貫して増加してきたが、2000年代に入ると伸びが鈍化し、今後、人口の減少が見込まれている。1960年の日本の人口構成は、第1次ベビーブーム(1947~1949年生まれ)の層が広がった

山のような形をしており、多産多死社会の特徴を有していた。当時の人口に占める65歳以上の者の割合は、6%程度にすぎなかった。その後、多産少死社会、さらには、少産少子社会へと移行していった。その結果、現在、日本の人口構成は、人口停滞社会の特徴である釣り鐘のような形から、徐々

に人口減少社会の特徴である壺のような形へと移行しつつある。また、第1次ベビーブーム世代と第2次ベビーブーム世代(1971~1974年生まれ)の人口が多いことから、ひょうたんのような形と表現することもできる(図表1-3-1)。

第1章 どのような時代背景だったのか

23

第1章

第3節 人口増加社会から人口減少社会への転換 -現役世代の減少-

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人口の年齢構成をみると、若年人口(14歳以下人口)は減少傾向が続いており、生産年齢人口(15~64歳人口)も1990年代以降減少傾向となっている。その中、高齢者人口(65歳以上人口)だけは、今世紀前半も増加傾向が続くと予測されている。人口に占める65歳以上の者の割合は、1950年代の5%程度から2005年に20%程度まで上昇

している。今後、2055(平成67)年には、その傾向が更に進むことが予想されている。人口のうち、65歳以上の者の割合が40.5%に及び、生産年齢人口に迫る勢いである。1人の65歳以上の方を何人の現役世代(20~64歳人口)で支えているのかをみると、1950

(昭和25)年では10.0人の現役世代で支えていたが、40年後の1990(平成2)年は、そのおよそ半分にあたる5.1人の現役世代で支えることになった。特に、1990年代に入ってからは、高齢者人口は増加する一方、生産年齢人口は減少したことから高齢化のスピードは早まっており、わずか20年後の2010(平成22)年では、1990年のおよそ半分に当たる2.6人の現役世代で支えることになる。つまり、1990年代から、超高齢社会に向かってのきつい上り坂にさしかかっているというこ

とができる。2020年以降も高齢化の進行は引き続くものの、高齢化のスピードは若干遅くなり、2050(平成62)年に2010年のおよそ半分に当たる1.2人の現役世代で支えることが予測されている(図表1-3-2)。高度経済成長期の日本は、人口構成割合でみれば、いわば若い国であり、経済のパイも拡大

し、社会保障給付の拡充も比較的容易であった。その後、日本は成熟した国に変化しつつあり、社会保障制度の持続可能性が課題となっている。

図表1-3-2 総人口の推移

○1990年代から高齢化の進行速度が上昇。生産年齢人口は減少に転じ、高齢者は増加。

生産年齢人口(15~ 64歳)の割合

高齢化率(65歳以上人口割合)

51.1%

40.5%

15~ 64歳人口

65歳以上人口

14歳以下人口2,979

1,759752

5,017

8,442

4,595

416

2,576

3,646

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055(年)

実績値(国勢調査)

平成18年推計値(日本の将来人口推計)

(万人) (%)

1960年1人9.5人

65歳~人口20~ 64歳人口

1950年1人10.0人

1970年1人8.5人

1980年1人6.6人

1990年1人5.1人

2000年1人3.6人

2010年1人2.6人

2020年1人1.9人

2030年1人1.7人

2040年1人1.4人

2050年1人1.2人

資料:2005年までは総務省統計局「国勢調査」、2010年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)中位推計」

(注) 2005年は総務省統計局「国勢調査」の年齢不詳人口を各歳別に按分して含めた。

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

24 平成23年版 厚生労働白書

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*1 当時の一般的な定年は55歳であるが、就業人口の約3分の1を農家等の第1次産業従事者が占めていたこと等も考慮した。*2 平成20年3月健康寿命の地域指標算定の標準化に関する研究班「平均自立期間の算定方法の指針」

2 平均余命の変化 図表1-3-3 平均寿命の推移

○1947年当時と比べると平均寿命は男女とも約30年長くなり、世界最高水準となった。

45

50

55

60

65

70

75

80

85

90

1947 1950 1953 1956 1959 1962 1965 1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007

(年)

【参考】諸外国の平均寿命

アメリカカナダ英国フランスドイツイタリアロシア中国韓国

男性75.4年78.0年77.4年77.8年77.17年78.67年61.4年69.63年76.5年

女性80.4年(2007年)82.7年(2005年)81.6年(2006-2008年)84.5年(2009年)82.40年(2006年-2008年)84.04年(2007年)73.9年(2007年)73.33年(2000年)83.3年(2008年)

2009(年)

2009年平均寿命

男性:79.59年女性:86.44年

※男性は世界第5位 女性は世界第1位

1961年平均寿命

男性:66.03年女性:70.79年

女性

男性

資料:(日本)厚生労働省大臣官房統計情報部「完全生命表」「簡易生命表」(諸外国)UN「DemographicYearbook2007」および当該政府公表資料

第2次世界大戦が終了した直後の平均寿命は、男女とも50歳代であった。若年で死亡する者も多く、老後の期間は誰にでも訪れるものではなかった。また、国民皆保険・皆年金を実現した1961(昭和36)年当時、平均寿命は男性で66.03年、女性で70.79年であった。60歳で引退*1したとしても、平均余命までの期間は、男性が6年程度、女性が10年程度にすぎなかった。また、60歳代では病気や障害で長期間療養することも比較的少なかった。直近の2009(平成21)年では、医療の進歩などにより、平均寿命(0歳時の平均余命)は男性で79.59歳と世界第5位、女性で86.44歳と世界第1位の長寿社会となったが、男女平均では世界第1位である。仮に年金支給開始年齢の65歳で引退したとしても、平均余命まで男性が14年、女性は21年もある(図表1-3-3)。人々は、引退後も長い老後を過ごす時代となっている。高齢になると、病気や障害をかかえる可能性が高まるが、2004(平成16)年のWHOデータによれば、日本人の健康寿命は男性72.3歳、女性77.7歳であり、世界第1位である。また、2005(平成17)年の65歳になってからの平均余命は男性18.13歳、女性は23.19歳である。そのうち、介護等を受けずに生活できる自立期間の平均は、男性が16.66年、女性が20.13年であり、平均して男性は1.45年、女性は3.03年介護等を受けている。*2

平均余命の伸長は、年金のニーズを高め、給付の増大につながっていく。

第1章 どのような時代背景だったのか

25

第1章

第3節 人口増加社会から人口減少社会への転換 -現役世代の減少-

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3 疾病構造の変化 図表1-3-4 死因で見た死亡率の推移

○医療の進歩により、結核等の感染症による死亡が減少。がん等の生活習慣病が増加。

0

50

100

150

200

250

300

死亡率

1947 1952 1957 1962 1967 1972 1977 1982 1987 1992 1997 2002

がん 279.6

心臓病 149.7

脳卒中 97.6

肺炎 94.0

不慮の事故 32.1自殺 23.4肝疾患 12.8結核 1.7

20102007 (年)

1961年1位:脳卒中2位:がん3位:心臓病

1947年1位:結核2位:肺炎3位:脳卒中

(人口10万対)

資料:厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」(注) 2010年は概数値である

死因別の死亡率をみると、国民病といわれた結核を医学の進歩等により克服してきた。1947(昭和22)年では1位結核、2位肺炎、3位脳卒中であったが、国民皆保険が実現した1961(昭和36)年では1位脳卒中、2位がん、3位心臓病であった。結核は1961年には6位と順位は下がったものの、その死亡率は10万人あたり29.6人と依然高かった。直近の2010(平成22)年では、1位がん、2位心臓病、3位脳卒中となっており、結核の死亡者は10万人あたり1.7人にまで低下しており、国民の主な死因は感染症から生活習慣病へと変化している(図表1-3-4)。年齢調整後の死亡率は、ほとんどの病気で減少傾向である。しかしながら、高齢化の進行に

伴って死亡率は上昇傾向にある。これはがんの死亡率が大きく上昇しているほか、高齢化の影響で心臓病、肺炎の死亡率も上昇しているためである。慢性疾患の増大という疾病構造の変化は、特に医療制度に大きな影響を与えた。

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

26 平成23年版 厚生労働白書

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4 少子高齢化の進行 図表1-3-5 合計特殊出生率の推移(諸外国のなかの日本)

○日本の合計特殊出生率は急激に低下。最近はアジア諸国で同様の傾向。

1.39

2.10

1.26

1.881.96

1.39

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

1947 1950 1953 1956 1959 1962 1965 1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 (年)2010

韓国

日本

アメリカ

フランス

ドイツ

スウェーデン

資料:(日本)厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」(諸外国)「UN,DemographicYearbook」

(注) 1.ドイツは1990年までは旧西ドイツの数値である。2.フランスは海外領土を含む。3.2005年は総務省統計局「国勢調査」の年齢不詳人口を各歳別に按分して含めた。4.2010年の日本の数値は概数値である。

諸外国に比べても日本は少子化が急速に進行しており、高齢化も急速に進行している(図表1-3-5)。日本では1990(平成2)年の高齢化率12.0%から、2020(平成32)年の29.2%まで、わずか30年間で17.2ポイント増加し、約2.4倍となると予測されている。フランス、スウェーデン、アメリカなどは、1950(昭和25)年から2050(平成62)年の間でも13~15ポイント程度しか増加しない(図表1-3-6)。これだけ短期間に急激に高齢化するのは、先進諸国でも日本が最初であり、これまで人類がほとんど経験していない急激な変化である。日本は、こうした急激な変化に対応するため、社会保障分野の制度面、サービス基盤の整備等

を短期間で行うことが求められることとなる。今後、出生率が急激に低下したアジア諸国でも同様の急激な高齢化を経験することが見込ま

れ、日本の経験はその先例となる。

第1章 どのような時代背景だったのか

27

第1章

第3節 人口増加社会から人口減少社会への転換 -現役世代の減少-

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第4節 人生80年時代になったが、不安は増大 -不安社会の到来-

1 統計でみた平均的なライフスタイル国民の平均的なライフスタイルについて、大正期から現在までの変化をみると、平均初婚年齢

は上昇し、夫婦で出生する子どもの数は減少している。その間の平均寿命は上昇しており、夫引退からの老後の期間も長くなってきている。結婚年齢は上昇傾向である。1961(昭和36)年と2009(平成21)年を比較すると、男性で

は27.3歳から30.4歳になった。子どもの数も3名から2名に減少している。さらに、結婚しない人、結婚しても子どもを持たない人も増加している。子育ての手間がかかる幼児期間は11年から8.6年に減少した。他方、子どもに対する経済的

な扶養を継続する期間は、23年と24.6年でほぼ一緒である。高学歴化等に伴って、経済的な負担は増加した。他方、老後の期間は、著しく長くなった。1961年には、60歳に達した後の男性の老後期間は

12.4年であったのが、2009年には65歳に達した後の老後期間が15.8年になった。また、夫が亡くなる年齢が69.2歳であれば、独居であったとしても介護等が問題となりにく

いが、夫が亡くなる年齢が79歳であれば、介護等が問題となる。3世代同居が減少した現状をあわせて考えると切実な問題である(図表1-4-1)。

図表1-3-6 高齢化率の推移

○日本はOECD諸国でも最も高齢化に進んだ国になった。今後、さらに高齢化が進行。

スウェーデン

韓国

日本

ドイツ

フランス アメリカ

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050

(%)

(年)

21.6

24.124.1

32.534.2

39.6実績値 推計値

資料:(日本)2005年までは総務省統計局「国勢調査」、2010年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)中位推計」。(諸外国)「WorldPopulationProspects:The2008RevisionPopulationDatabase(中位推計)」

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

28 平成23年版 厚生労働白書

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図表1-4-1 統計でみた平均的なライフサイクル

○子どもの数は減少したが、平均寿命の上昇より夫引退からの期間も長くなった。

老後期間(23.4年)

32.730.1

出産期間(4.1年)

老後期間(17.5年)

(第3子)

(第2子)

老後期間(5.3年)

老後期間(16.3年)

夫引退

夫死亡

妻死亡

60.0 61.1

初孫誕生

定  年

夫  妻

夫  妻

夫  妻

夫  妻

41.9

出産期間(14.7年)

出産期間(6.8年)

21.2 23.6

子扶養期間(27.3年)

幼児期間(18.3年)

1961(昭和36)年

35.9

1920年(大正期)

結婚 

25.0 27.4

長子誕生

54.7 54.8 55.0

末子誕生

(第5子)

39.7 52.4

長男結婚

末子学卒

夫死亡

61.5

寡婦期間(4.2年)

末子小学入学

45.7

57.356.251.248.6 50.9 51.0

夫引退

長子誕生

末子誕生

末子小学入学

末子学卒

長男結婚

初孫誕生

幼児期間(11.0年)

子扶養期間(23.0年)

1980(昭和55)年

妻死亡

寡婦期間(4.3年)

結婚 

妻死亡

夫引退

65.0

夫死亡

75.0

25.0 35.5

結婚 

28.0

長子誕生

29.5

末子誕生

(第2子)

32.5

末子小学入学

38.5

末子学卒

50.5

長男結婚

57.5

初孫誕生

59.0

62.056.054.547.529.526.5 79.572.0

寡婦期間(7.5年)

出産期間(4.5年)

2009(平成21)年

結婚

末子誕生

長子誕生

末子小学入学

幼児期間(9.0年)

子扶養期間(21年)

夫引退

65.0

28.6

30.4 34.531.9 40.5

子扶養期間(24.6年)

妻死亡

86.6

寡婦期間(7.6年)

79.060.559.054.7

末子学卒

56.5

長男結婚

62.3

初孫誕生

63.8

夫死亡

80.8

38.7

幼児期間(8.6年)

63.2

57.2 69.2 73.5

27.3 29.1 34.1 40.1 52.1 56.4 58.2 60.0 72.4

24.5 31.3 37.3 49.3 53.6 55.426.3

資料:資料:1920年、1980年は厚生省「昭和59年厚生白書」、1961年、2009年は厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」等より厚生労働省政策統括官付政策評価官室において作成。

(注) 1.夫妻の死亡年齢は、各々の平均初婚年齢に結婚時の平均余命を加えて算出している。そのため、本モデルの寡婦期間は、実際に夫と死別した妻のそれとは異なることに注意する必要がある。

2.価値観の多様化により、人生の選択肢も多くなってきており、統計でみた平均的なライフスタイルに合致しない場合が多くなっていることに留意する必要がある。

第1章 どのような時代背景だったのか

29

第1章

第4節 人生80年時代になったが、不安は増大 -不安社会の到来-

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2 日常生活での悩みや不安 図表1-4-2 日常生活での悩みや不安

○約7割が悩みや不安を感じている。

悩みや不安を感じている

悩みや不安を感じていない

0

10

20

30

40

50

60

70

80(%)

(年)1009080706050403022001999796959493929190898887868584838281646362616059195

8

資料:内閣府「国民生活に関する世論調査」(注) 1964年調査までは、不安が「ある」、不安が「ない・不明」を聞いている。

「悩みや不安を感じている」と回答している割合は1958年では3割程度であったが、1959(昭和34)年から1964(昭和39)年、1981(昭和56)年から1985(昭和60)年までおおむね55%程度であった。1980年代後半から1990年代前半のいわゆるバブル経済期には、「悩みや不安を感じている」と回答している割合は40%台まで低下し、「悩みや不安を感じていない」と回答する人の方が割合が高い年もあった。1995(平成7)年以降「悩みや不安を感じている」と回答している割合は上昇傾向を示し、

近年では7割程度まで上昇している。他方、「悩みや不安を感じていない」と回答する人の方が割合は低下傾向を示しており、おおむね3割程度となっている(図表1-4-2)。国民はどのようなことに悩みや不安を感じているのだろうか。内閣府「国民生活に関する世論

調査」により1981(昭和56)年から2010(平成22)年までの悩みや不安の内容の推移をみると、1990(平成2)年までは「自分の健康」「家族の健康」といった健康問題を挙げる者が最も多かったが、80年代から90年代にかけて「老後の生活設計」を挙げる者が急上昇し、2003年以降「自分の健康」に替わり第1位を占めるようになった。また、1998(平成10)年以降「今後の収入や資産の見通し」が急上昇し、2010(平成22)年も約4割の人が不安に感じている。このように、国民の悩みや不安については、健康問題や老後の生活設計を挙げるものが上位を

占めているが、「今後の収入や資産の見通し」が90年代後半以降上昇していることから、急速な高齢化等を背景に、将来の生活設計に不安を抱える国民が増えていることが窺える(図表1-4-3)。

第1部 社会保障の検証と展望

~国民皆保険・皆年金制度実現から半世紀~

30 平成23年版 厚生労働白書

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図表1-4-3 悩みや不安の内容

○以前は自分や家族の健康についての悩みが多かったが、最近は「老後の生活設計」「自分の健康」「今後の収入や資産」についての悩みが多い。

自分の健康について家族の健康について自分の生活(進学、就職、結婚など)上の問題について家族の生活(進学、就職、結婚など)上の問題について現在の収入や資産について(注1)今後の収入や資産の見通しについて(注2)近隣・地域との関係について(注3)事業や家業の経営上の問題について(注4)勤務先での仕事や人間関係について家族・親族間の人間関係について(注5)老後の生活設計について

0

10

20

30

40

50

60

1981 1985 1990 1995 2000 2005 2010

(%)

(年)

資料:内閣府「国民生活に関する世論調査」(注) 1.1991年以前は「日常の生活費について」

2.1991年以前は「今後の生活費の見通しについて」3.1991年は「隣近所との人間関係について」4.1991年以前は「家業や事業の経営(農林漁業を含む)について」5.1991年以前は「家族との人間関係について」6.1981~1991年の調査と1992~2010年の調査においては設問が異なっており、時系列比較においては留意する必要がある。

第1章 どのような時代背景だったのか

31

第1章

第4節 人生80年時代になったが、不安は増大 -不安社会の到来-