続 がん細胞のかたち - 第14回...

3
-機器試薬 33(4)2010515がん細胞のかたち 第14回 子宮頚部細胞診- ×10 ×40 ×40 ×40 症例 50 歳代後半,女性 臨床所見:約 4 ヶ月前より不正性器出血。MRI にて子宮内に 6x8cm mass を認める。 検体染色 : 子宮頸部剥離細胞診(上段),腫瘍捺印(下段)・パパニコロー染色 司会者 : 今回は,子宮頚部の細胞標本です。推 定組織を含めていかがでしょうか。 C : 好中球を含む軽度の炎症性背景に,重積性 のある集塊と平面的な細胞の集塊が認められま す。上段右では粘液様の物質も見られますね。 B : 下段左では,小管腔を形成する篩状構造が 見られることから腺癌を考えたいですね。上段 右では,細胞接着性の低下した細胞に,核偏在 性と明瞭な核小体が認められ,腺癌細胞の低分 化成分あるいは sarcomatoid carcinoma として矛 盾しません。 A : 下段右では,核縁の肥厚がなく,柔らかい 繊細なクロマチンをもつ孤在細胞が目立ちます。 この細胞は上皮性よりは sarcoma と思います。 腺系細胞と合わせると carcinosarcoma でしょう か。 司会者 : 組織球のような良性細胞の可能性はあ りませんか。 A : 核の切れ込みが目立ち,確かに組織球にも 類似しています。総合的には,N/C 比が高いこ

Upload: others

Post on 22-Jan-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

-機器・試薬 33(4),2010-

-515-

続 がん細胞のかたち - 第14回 子宮頚部細胞診-

×10 ×40

×40 ×40

症例 50 歳代後半,女性

臨床所見:約 4 ヶ月前より不正性器出血。MRI にて子宮内に 6x8cm の mass を認める。

検体・染色 : 子宮頸部剥離細胞診(上段),腫瘍捺印(下段)・パパニコロー染色

司会者 : 今回は,子宮頚部の細胞標本です。推

定組織を含めていかがでしょうか。

C : 好中球を含む軽度の炎症性背景に,重積性

のある集塊と平面的な細胞の集塊が認められま

す。上段右では粘液様の物質も見られますね。

B : 下段左では,小管腔を形成する篩状構造が

見られることから腺癌を考えたいですね。上段

右では,細胞接着性の低下した細胞に,核偏在

性と明瞭な核小体が認められ,腺癌細胞の低分

化成分あるいは sarcomatoid carcinoma として矛

盾しません。

A : 下段右では,核縁の肥厚がなく,柔らかい

繊細なクロマチンをもつ孤在細胞が目立ちます。

この細胞は上皮性よりは sarcoma と思います。

腺系細胞と合わせると carcinosarcoma でしょう

か。

司会者 : 組織球のような良性細胞の可能性はあ

りませんか。

A : 核の切れ込みが目立ち,確かに組織球にも

類似しています。総合的には,N/C 比が高いこ

-機器・試薬 33(4),2010-

-516-

と,核の飛び出しが見られること,核分裂像が

見られることから悪性と思います。

B : 核小体の性状が細胞によって異なることも

悪性を示唆する所見の 1 つと思います。

司会者 : 組織型を推定してください。

D : 細胞質内封入体様の構造は不明瞭ですが,

核偏在性が強く rhabdoid に類似する形態を呈す

るものも見られます。私も carcinosarcoma に賛

成です。

D : 下段の左右の細胞は,核小体の性状も類似

しているように見え,一元的に考えたい所見で

す。Carcinosarcoma に一票。

司会者 : 他にご意見がなければ,解答をお願い

します

出題者 : rhabdomyosarcoma の成分を伴うadeno-

sarcoma と診断した症例です。手術標本では,

腺管構造は見られたものの,細胞診で見られた

ような篩状を呈する腺管はなく,上皮成分は良

性と考えました。

司会者 : 稀な組織型ですので詳しく解説しても

らいましょう。

【解 説】

摘出された子宮には,底部に大きさが 10×8.0

×6.0cmでポリープ様に内向性発育を示す腫瘍が

認められました(図1)。腫瘍割面は黄白色~灰白

色,充実性で表層部に強い出血が見られ,深部

では筋層内に浸潤しています(図2)。組織学的に

は,腫瘍は乳腺の葉状腫瘍を模倣するスリット

様の管腔構造を示す上皮成分と紡錘形細胞ない

し多角形細胞からなる間質成分からなり(図3),

管腔構造周辺では間質成分の細胞密度が高い傾

向が見られました(図4)。間質成分は紡錘形細胞

が fascicular pattern を示したり,好酸性胞体を

有し横紋筋芽細胞を思わす細胞が胞巣状にみられ

たり(図5),嚢胞内に横紋筋芽様細胞が乳頭状集塊

を形成している像(図6)が認められました。間質成

分には sarcomatous overgrowth が見られるととも

に,異常核分裂像を含めた核分像が 3~5/10HPF

みられました。免疫染色ではvimentin が陽性で

myoglobin は横紋筋芽様細胞の一部に陽性で desmin

がごく少数の細胞に陽性,HHF-35 ,αsmooth

muscle actin ,CD10 は陰性でした。以上から,

rhabdomyosarcoma の成分を伴うadenosarcoma と診

断されました。3 ヶ月後に直腸への肉腫成分の

転移がみられました。

図1 図2

-機器・試薬 33(4),2010-

-517-

本例は,稀な子宮底部の adenosarcoma の症例

で,遠隔転移の頻度は 5% 程度と低いのですが,

本例にみられた sarcomatous overgrowth は予後

不良因子の 1 つといわれています。転移巣は,

通常は,本例のように肉腫成分のみからなりま

す。

今回は,細胞標本に上皮性細胞と肉腫様の細

胞が混在して出現していました。肉腫様細胞が

癌細胞の肉腫様変化なのか分化した肉腫なのか

が議論されましたが,核クロマチン,核縁の性

状や細胞質の性状などから,細胞診においても

両者の鑑別はある程度可能と考えられました。

【出題者・討論者・査読者】

大谷 博(白十字病院)

岩崎啓介(佐世保市立総合病院)

小島英明(東京都医学研究機構)

田中義成(佐世保共済病院)

井関充及(佐世保共済病院)

福留伸幸(千葉科学大学)

岸川正大(長崎病理診断科)

図3 図4

図5 図6

【文献】 1) Tavassoli FA, Devilee P: Mixed epithelial and

mesenchymal tumours, Tumours of the breast and

female genital organs, Pathology & Genetics, World

Health Organization Classification of Tumours, Lyon;

IARC Press, 2003. 245-249 2) Clement PB. Mullerian adenosarcomas of the uterus

with sarcomatous overgrowth. A clinicopathlogical

analysis of 10 cases. Am J Surg Pathol 13: 28-38, 1989 3) Kaku T, Silverberg SG, Major FJ, et al. Adenosarcoma

of the uterus: a Gynecologic Oncology Group

clinicopathologic study of 31 cases. Int J Gynecol

Pathol 11: 75-88, 1992