功利主義 - web.ias.tokushima-u.ac.jp ·...
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功利主義
•功利主義は最大多数の最大幸福を原理とする。では,この考えにおいて少数派の意見はどのように扱われるのか。少数派の意見は全て切り捨てるのか。それとも彼らの意見も尊重し,代表者と協議を重ねるのか。お答え頂ければ幸いである。
想定される功利主義者の回答例 1.きちんと幸福計算をすれば大丈夫 2.行為功利主義ではなく規則功利主義で考える 3.功利主義だけの問題ではない
功利主義
1.きちんと幸福計算をすれば大丈夫
少数派の大きな不幸の合計>多数派の小さな幸福の合計
2.行為功利主義ではなく規則功利主義で考える
一回の行為の結果ではなく,それが社会の規則になったとき の結果を考える
3.功利主義だけの問題ではない
意見の対立が調停できないのは功利主義に限らない
哲学と倫理の違いと豚について
• 「哲学」と「倫理」の違いをどう説明したらいいのでしょうか。高校の「倫理」の教科書には「哲学」的な分野も含まれていたと思います。また功利主義は,どういった点から「豚」の哲学と呼ばれるのか疑問に思った。何故,「豚」でないといけないのか。
倫理学は哲学の一部門
「正しさ」や「知識」を扱うのが哲学だとするならば,道徳 についての「知識」・「正しさ」を扱うのが倫理学
ただし倫理学の目的のためには,人間や社会,世界につい ても知らなければいけないので,境界線は曖昧
豚でなくてもよいが,豚は昔から評判が悪い
豚について •豚からは「貪欲」「不潔」などを連想しやすい
太った体,泥遊びなどが原因
•ユダヤ教では豚肉食の禁忌
穢れた存在としてのイメージ(寄生虫対策?)
•かつてのキリスト教社会ではユダヤ人が豚肉を食べないことで「ユダヤ人自身が豚のような存在だから共食いを避けるために豚肉を食べないのだ」といった連想も生じた
豚について
• 「何を食べるか/食べないか」というのは,敵/味方を区別する目印としても機能する
•現代でも一部のベジタリアンと肉食家とのあいだや,鯨肉食や犬肉食などをめぐって政治的・感情的対立が生じることも
•余談1:豚の臓器・細胞の人間への移殖の可能性
•余談2:道徳問題の思考実験の題材になりやすいのは犬
なぜ自由?
• 「広い意味でのリベラリズム(liberalism, liberty=自由) 」
•自由を否定する思想が広く支持されるか?
•つまりリベラリズムには色々あって,誰も彼もが自分の思想をリベラルだという世の中
•だからこそ「自由」という概念の中身を考えることが大事
なぜ自由?
•近代社会では、個人が自由を享受することが当然だと考えられており、いわば社会の基盤を構成する重要な一要素に
•同時に私たちの周りでは、自由と自由の衝突や個人の自由と全体の福祉との衝突が頻繁に起きている
•ただしここでいう近代とは、単純に時代的な区分ではない
•近代的とは言いがたい社会や国家が今も存在
• 「近代」は一つなのか,「近代」的か否かで他文化を判定することは正しいのか
近代とは
•哲学・思想辞典(岩波書店)では、暴力の国家への集中、均
一的な税制の貫徹、官僚制の確立、政治の職業化、民主
主義の拡大と貫徹、個人主義と人権思想の拡大などが、そ
の特徴として挙げられている
•宗教や伝統的権威の地位低下→
世俗的・人間中心主義的社会
•世俗的・人間中心主義的社会で何が求められるか→
自由に各自の目的を追求できること
なぜ自由?
•自由が前提とされているはずなのに、私たちは自分の自由が制限されていることもあれば、逆に自由を要求する個人や集団を「他者や全体のことを考えないエゴイスト」と見なすこともある
•良い自由と悪い自由があるのか?
•そもそもなぜ自由が前提されるのか?
自由について考えるうえで
•西洋哲学の歴史を振り返ることは重要
•なぜなら、今日私たちが論じるような自由の概念も、明治期に西洋から輸入されたもの
•ちなみに哲学という訳語が定着する以前は、『性理学』や『希哲学』と訳されていた
•哲学発祥の地が古代ギリシャ(希臘)なので、まずはその時代を振り返る
哲学が誕生した古代ギリシャ
•なかでもアテネは、ソクラテス・プラトン・アリストテレスといった著名な哲学者を輩出した都市国家
•また民主政であり、市民にはさまざまな権利が認められ、アテネの発展と共に自由を謳歌
古代アテネの自由と近代的自由の違いは?
ソクラテスの紹介
•市場などで市民と問答を行う(自著はなく,プラトンが彼をモデルとした著作を多く残す)
•妻クサンティッペは悪妻の代名詞
•自身を「最も賢い人物」とする神託を受け,それを「無知の知」ゆえのものだと解釈
•無知の知とは?
ソクラテスの紹介
•知恵者とされる人物のもとへ赴き、人間にとって最も重要と思われる真・善・美といった事柄について尋ね、相手の主張を内在的に破綻させる
•対話において、相手のロゴス(言葉,論理,理性)を通じて、知識を生み出させる(産婆術とも)。 •自分自身が妊娠するわけではない •困難な出産を助ける/流産させる
•市民の怒りを招いたことで死刑判決を受け,あえて脱獄することなく死ぬ(「悪法も法なり」?)
ソクラテスの罪状と弁明
•不正を行い、また無益なことに従事する
•悪事をまげて善事となし、かつ他人にもこれらの事を教授する
•青年を腐敗せしめかつ国家の信ずる神々を信ぜずして他の新しき神霊を信ずる
•こうした事実はないと否定したうえで、自らの対話活動を正当化
どのように?
古代アテネの自由
•ソクラテスは、対話活動を「個人の自由」の名のもとに正当化していない
•ソクラテスの弁明は、神の権威と共同体の利益を根拠としている(共同体・宗教的権威>個人の自由)
•これはソクラテス一人の特殊な考えではなく、当時の基本的な考え方
『アンティゴネー』のストーリー、ヘロドトス(歴史 家)やペリクレ ス(政治家)の原稿 etc.
古代アテネの自由
•古代アテネで自由が評価されたのは、それが共同体の繁
栄(軍事的成功)をもたらしたと考えられていたから
•独裁制時代のアテネは他のポリスから抜きんでた存在では
なかったが、民主制になって覇権をにぎるように
古代アテネの自由
•自由は個人の権利として大切だから正当化されるのではな
く,アテネの偉大さの原因として正当化されていた
•自由で平等な個人という考えは、近代の産物で、その最初
期の思想家の一人がホッブズ
ただし個人の自由よりは,むしろ権威寄りであると見な
されている
『リヴァイアサン』
•ホッブズの最も有名な著作
•このなかでホッブズは自由意思を否定(唯物論的・機械論的な人間観と国家観)
•自由を持つ諸個人が生み出す自然状態から、いかに国家が成立し正当化されるかを論じた
自由についてのホッブズの考え
•ホッブズにとって、自由とは「外的障害の欠如」のこと
•全ての出来事には原因があり必然的
•しかし私たちはその一部を自由だと評し、その他を自由ではないという
•両者の違いは原因が行為主体の中にあるか否か
閉じ込められて部屋から出たくても出られない人
部屋に留まっている原因は当人の外部にある→不自由
部屋から出るつもりのない人
部屋に留まっている原因は当人の内部にある→自由
ホッブズの意志の自由についての考え
•意志するとき,人は自分が何をしたいか、すべきか熟慮する
•熟慮してた結果は必然的なもの(合理的に判断すると,結論
は一つになるはず)
•熟慮(deliberation)とは自由(liberty)を否定(de-)すること
•ホッブズは、人間も感覚や欲求によって動く機械やボールの
ようなものとして理解
• 「自由な意志とは、丸い四角のごとき無意味な言葉」
ホッブズの描く自然状態
•ホッブズの描く人間像は,社会が形成される以前の状態(自然状態)で,どのように振る舞うと考えられるか
•社会や国家がないので、決まり事も罰則もない
•人には意志の通りに行為する自由がある
•自分の求めること(その最大のものは「自己保存」)を各自が勝手に追求
•ただしホッブズは(本書では)、自然状態の人々に自己保存の権利があるとは言わない
ホッブズの描く自然状態
•権利があるということは、したりしなかったりする自由を持つということ
•ホッブズの理解では、人は必然的に生命を保存しようとする(そこに通常の意味で選択の余地はない)
•自然状態で人は自己保存の欲求、生命を失う恐怖に駆られ、身を守るためにあらゆることを行う
•そして人はその権利(=自然権)を有する
ホッブズの描く自然状態
•自然状態では「万人の万人に対する闘争」が、常に存在する
•誰かが有力になれば、それだけ危険が増すので、皆が他者の繁栄を妨害
•そうした不安定な状況では、知識の蓄積もできず、文化も発展せず、継続的な暴力と死の危険にさらされることに •自由があるはずなのに、自由を実現できない(can’t)
ホッブズの描く自然状態
•死への恐怖、快適な生活への意欲が、人々に社会契約を結ばせ、人造の強力な保護者を作り出す
•国家(リヴァイサン)の誕生
• してはいけないこと(mustn’t~)は増えたが、できないこと(can’t~)が減る
•王権神授説のように神に頼ることなく国家成立を論じた(世俗的な議論)ことで、無神論者として攻撃されることに