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Applying IFRS IFRS11共同支配の取決め IFRS11号適用時の課題 20124

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Page 1: 第11号適用時の課題 - EY Japan...IAS第31号の開示規定の多くはIFRS第12号に引き継がれている。しかし、IFRS第12号の導入による最も大きな変更点の1つは、企業

Applying IFRS IFRS第11号 共同支配の取決め

IFRS第11号適用時の課題 2012年4月

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序説

国際会計基準審議会(The International Accounting Standards Board、以下IASB)は、2011年5月に、3つの新しい基準書、IFRS第10号「連結財務諸表」、IFRS第11号「共同支配の取決め」及び

IFRS第12号「他の企業への関与の開示」を公表した。これらの基準

書は、2013年1月1日以降開始する事業年度より適用される。また

一部例外はあるものの、遡及適用することが求められている。 IFRS第11号は、現行のIAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する

持分」及びSIC第13号「共同支配企業―共同支配投資企業による

非貨幣性資産の拠出」に置き換わる基準書である。IFRS第11号は

IAS第31号で用いられていた用語を一部踏襲しているが、異なる意

味で用いられているものもある。そのため、IFRS第11号とIAS第31号にどのような違いがあるのかについて、少し混乱が生じている。例

えば、IAS第31号ではジョイント・ベンチャーを3つの形態(共同支配

の営業活動、共同支配の資産、及び共同支配企業)に分類している

が、IFRS第11号は、共同支配の取決めについて2つの形態(共同

支配事業及び共同支配企業)にのみ分類している。 IASBがIFRS第11号を公表した主な理由の1つは、共同支配企業

(jointly controlled entities、以下JCE)を比例連結により会計処

理する選択肢を廃止することにより、比較可能性を向上させることに

ある。その代わりに、(新たに定義された)共同支配企業の定義を満

たすJCEは持分法により会計処理しなければならない。これにより、

共同支配企業については通常、持分法による会計処理を要求して

いる米国会計基準とのコンバージェンスも達成することができる。共

同支配事業(従前の共同支配の営業活動、共同支配の資産、及び

共同支配企業の一部が含まれる)の場合、企業は資産、負債、収益

及び費用、ならびに必要に応じてこれらに対応する自らの持分を認

識する。この共同支配事業の会計処理をもって「比例連結」と言わ

れることがあるが、これは正しい理解ではない。2つの会計処理方

法は、本稿で詳しく説明するが、会計技術的な観点からは別のもの

である。 IFRS第11号が公表された意図は、共同支配の取決めを分類する

際の焦点を拡げることにより、共同支配の取決めの構造が唯一の

考慮要因とならないようにする点にある。具体的にいえば、IAS第31号は企業の法的形態のみを考慮しているが、IFRS第11号は、取

決めにより生じるより幅広い権利及び義務に重点を置いていること

が挙げられる。 IAS第31号の開示規定の多くはIFRS第12号に引き継がれている。

しかし、IFRS第12号の導入による最も大きな変更点の1つは、企業

が他の事業体を共同支配しているか否かを判断する際、及び共同

支配の取決めを分類する際の根拠を開示しなければならなくなるこ

とである。また企業は、重要な各共同支配企業について、要約財務

情報を開示することが要求される。 本稿では、IFRS第11号の規定を説明し、IFRS第11号に関係する

適用上の論点を探るとともに、共同支配の取決めと共同支配企業

について関連する開示規定を説明している。IFRS第11号では、共

同支配を定義するためにIFRS第10号の支配の原則が使われてい

るため、共同支配の取決めが存在するかどうかを評価するうえで、

弊社の刊行物である「IFRS第10号 適用時の課題」1 を参照するこ

とは有益である。また本稿では、IFRS第11号上、いまだ解釈が不

明確な点があることを認識したうえで、IFRS第11号の導入にあたり

よく尋ねられる質問のうち、いくつかの重要なものについて応えてい

く。企業が本基準を導入する際には、新たな論点や疑問がさらに提

起されるものと思われるため、本稿はこれからも適宜アップデートを

行っていく予定である。 2012年4月

1 http://www.shinnihon.or.jp/services/ifrs/ifrs-commentary/ifrs-others/pdf/ifrs-10-consolidated-financial-statements-2012-03.pdf

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目次

序説 2

第1章 概要 6

第2章 適用範囲 9 2.1 ベンチャー・キャピタル組織による適用 9

2.1.1 企業の「セグメント」ごとの測定に関する免除規定の使用 9

第3章 共同支配の取決め 10 3.1 会計単位 10

第4章 共同支配 13

4.1 共同支配の取決めにおける関連性のある活動 14

4.1.1 連続的な活動 15

4.2 集団で支配する権利 16

4.2.1 防御的な権利 16

4.2.2 潜在的議決権と共同支配 16

4.2.3 共同支配のその他の証拠 17

4.2.4 委譲された意思決定 17

4.2.5 関連当事者及び事実上の代理人 17

4.2.6 政府の役割 18

4.3 全員一致の合意 18

4.3.1 受動的な投資家 19

4.3.2 最終的な議決権限 19

4.3.3 仲裁 19

4.3.4 黙示的な共同支配 19

4.3.5 事実上の共同支配(de facto joint control)と共同での事実上の支配(joint de facto control) 20

4.4 共同支配を評価する際のその他の実務上の論点 21

4.4.1 リースと共同支配の取決め 21

4.4.2 複数の契約を合わせて評価する 21

第5章 共同支配の取決めの分類 22 5.1 別個のビークル 25

5.2 別個のビークルの法的形態 25

5.3 契約条件 26

5.3.1 保証 27

5.3.2 共同支配の取決めの清算又は解散に関する契約条件 27

5.4 その他の事実及び状況 28

5.4.1 1名の当事者のみがアウトプットを得る場合 30

5.4.2 当事者がキャッシュ・フローを提供するか否かを評価する 30

3 IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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第6章 共同支配事業の会計処理 32 6.1 比例連結との違い 33

6.2 関連するIFRSを判断する 35

6.3 共同支配を有しない共同支配事業の当事者 35

6.4 非支配持分/受動的な投資家が存在する共同支配事業 35

6.5 共同支配事業者と共同支配事業の間の取引 36

第7章 共同支配企業の会計処理 37 7.1 共同支配を伴わない共同支配企業に対する持分 37

7.2 共同支配企業への非貨幣性資産の拠出 37

第8章 継続的な評価 38 8.1 IFRS第11号の下ではどのような場合に再評価を行うか 38

8.2 共同支配企業に関する所有持分の変動 39

8.2.1 共同支配企業に対する持分の取得 39

8.2.2 以前は共同支配企業であった投資先に対する支配の獲得 39

8.2.3 以前は子会社であった投資先が共同支配企業になる場合 40

8.2.4 共同支配企業が関連会社になる場合(又はその逆) 40

8.2.5 共同支配企業が金融資産になる場合(又はその逆) 40

8.2.6 共同支配企業に対する持分の処分 41

8.3 共同支配事業に関する所有持分の変動 41

8.3.1 共同支配事業に対する持分の取得 41

8.3.2 以前は共同支配事業であった投資先に対する支配の獲得 42

8.3.3 以前は子会社であった投資先が共同支配事業になる場合 42

8.3.4 共同支配事業の所有持分のその他の変動 42

8.3.5 共同支配事業に対する持分の処分 43

8.4 共同支配事業から共同支配企業への変更(又はその逆) 43

8.4.1 共同支配事業が共同支配企業になった場合 43

8.4.2 共同支配企業が共同支配事業になった場合 43

第9章 開示 44 9.1 IFRS第12号の原則 44

9.2 判断の開示 44

9.3 共同支配の取決めに対する企業の持分の内容 45

9.4 共同支配の取決めへの関与の内容、程度及び財務上の影響 45

9.4.1 重要な共同支配企業に関する会計方針 46

9.4.2 要約財務情報 46

9.4.3 公表市場価格を有する共同支配企業に関する公正価値 50

9.4.4 共同支配企業に対する制限 50

9.4.5 分法適用の際の財務諸表日 50

9.4.6 未認識の損失 50

4 IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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9.5 共同支配企業に対する持分に関連して生じるリスク 50

9.5.1 共同支配企業に対する持分に関連したコミットメント 50

9.5.2 共同支配企業に関する偶発負債 51

9.6 組成された企業である共同支配の取決め 51

9.7 関連当事者取引 51

9.7.1 関連当事者に関する開示規定の範囲 51

9.7.2 関連当事者である個人又は近親者 51

9.7.3 共同支配企業に関する関連当事者の開示 52

9.7.4 政府関連企業 53

9.7.5 関連当事者ではない当事者 53

第10章 経過措置 54

10.1 比例連結から持分法への移行 55

10.1.1 代替としての開示 56

10.2 持分法から資産及び負債の会計処理への移行 57

10.3 比例連結から共同支配事業会計へ 58

10.4 共同支配の資産又は共同支配の営業活動から持分法へ 58

10.5 主要業績評価指標への影響-表示 58

10.6 主要業績評価指標への影響-測定 60

10.6.1 減損 60

10.6.2 借入費用 61

10.6.3 ヘッジ 61

10.6.4 関連会社に、又は関連会社から変更された場合の再測定 61

第11章 米国基準とのコンバージェンス 63

11.1 共同支配の取決めの会計処理 63

11.2 開示 63

11.3 投資企業による共同支配企業の将来の会計処理 63

11.3.1 経過措置 64

11.3.2 発効日 64

第12章 ビジネスへの影響 65

12.1 システム及びプロセス 65

12.2 見積り及び評価 65

12.3 主要財務指標 65

12.4 法人所得税 65

結論 66

付録-用語集 67

5 IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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概要 適用範囲 共同支配の

取決め

共同支

第1章 概要

アーンスト・アンド・ヤングが最近行った調査によると、回答者のうち

29%が今後12ヵ月の間にパートナーシップ又は共同支配の取決め

を締結する可能性が高いと述べた。2 事業を行う上で共同支配の取

決めを用いるのには、以下をはじめとする多くの理由が考えられる。

• 新技術の開発速度を速める

• 既存の技術を用いて市場で売れる商品を開発する既存 技術を用 市場 売れる商品を開発する

• 新しい市場や業界に参入する

• 事業の地理的エリアを拡大する

• サプライ・チェーン及び生産能力を保持する

• (競合他社を含む)他の企業が保有する知的財産を活用する

• リスクを分散する

• 銀行融資又は株式発行による資金調達の代わりとして用いる

• さらなる専門性を獲得する

• 政府系利害関係者の要求事項に応える

• 製品の流通を促進する

• 事業取得の第一歩とする

実務では、「共同支配の取決め(ジョイント・アレンジメント)」又は「共

同支配企業(ジョイント・ベンチャー)」と呼ばれているものの、実際に

は1名の当事者しか支配を有していない、又はどの当事者も共同支

配を有していない取決めも存在する。一方で、「共同支配の取決め」

又は「共同支配」という用語は使われていないが、IFRS第11号に定

められる共同支配の取決めに該当する取決めも存在する。2名の当

事者間で持分を均等(50/50)に分け合う取決めもあれば、いずれか

一方により大きい持分を付与する取決めもある。取決め又はその目的

を表すうえでどのような用語が使われていようとも、経営者は、取決め

が共同支配の取決めに該当するかどうかを判断するにあたり、取決め

の条件や関連する事実及び状況を慎重に評価しなければならない。

2 Capital confidence barometer survey, Exceptional – Ernst & YoungJanuary/February 2010, p21

3 このフロ チ トは IASBが公表した「P j t S d F db k

6 IFRS第11号 共同支配の

3 このフロー・チャートは、IASBが公表した「Project Summary and FeedbackIFRS 11 Joint Arrangements」(2011年5月)を基に作成されたものである。

支配 共同支配の

取決めの分類

共同支配事業の

会計処理

共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号からの抜粋

4 共同支配の取決めは、複数の当事者が共同支配を有する取決

めである。

5 共同支配の取決めは次の特徴を有する。

(a) 当事者が契約上の取決めで拘束されている。

(b) 契約上の取決めにより、複数の当事者が当該取決めに対

する共同支配を有している

6 共同支配の取決めは、共同支配事業又は共同支配企業のい

ずれかである。

7 共同支配とは、取決めに対する契約上合意された支配の共有

であり、関連性のある活動に関する意思決定が、支配を共有し

ている当事者の全員一致の合意を必要とする場合にのみ存在

する。

共同支配の定義及び共同支配の取決めの概念については、それぞ

れ第4章と第5章で詳細に取り扱っている。第6章と第7章では、IFRS

第11号に定義される2種類の共同支配の取決め(共同支配事業及び

共同支配企業)について説明するとともに、共同支配の取決めをその

どちらかにどのように分類するかを説明する。また、第6章では、「通

常の事業の過程」という意味において、共同支配の取決めを分類する

際に権利及び義務を考慮することの重要性を考える。

図1では、共同支配の取決めの各種類の定義と会計処理、ならびに

IFRS第10号、IFRS第11号、IFRS第12号及びIAS第28号「関連会社

及び共同支配企業に対する投資」の関係をまとめている。3 共同支配

企業の会計処理については、第7章で詳しく説明している。

magazine,

St t t

の取決め 適用時の課題

Statement:

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図1-IFRS第10号、IFRS第11号、IFRS第12号及びIAS第28号の相互関係

4 企業が資産に対する支配(又は単なる資産に対する権利)及び負債に対する義務を有して

いるものの、企業に対する支配は有していない場合がこのケースに該当する。この場合、企

業は関連するIFRSに従い、これらの資産及び負債を会計処理する(第6章で説明)。

IFRS第12号に従って

開示

IFRS第10号に従って

連結

投資者は単独で企業

を支配しているか

投資者は取決めに対

して共同支配を有して

いるか

共同支配の取決めを

IFRS第11号に従って

分類

資産、負債、収益及

び費用を会計処理 IAS第28号に従い持

分法により会計処理

投資者は企業に対し

て重要な影響力を有

しているか

金融商品と

して持分を

会計処理

その他の

IFRS4 に従

い会計処理

IFRS第12号及びそ

の他関連するIFRSに従って開示

IFRS第12号に従って

開示

IFRS第12号及びその他の

関連するIFRSに従って 開示

はい いいえ

はい

はい

いいえ

いいえ

共同支配事業 共同支配企業

7 IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

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5 アーンスト・アンド・ヤングLLP, レクシスネクシス・ジャパン 2010年

8

図2-IFRS内で記載箇所が変更された規定

IAS第31号でのトピック 移転先 本稿での参照先

共同支配の定義及び共同支配の取決めの種類 IFRS第11号 第2章から第5章

ベンチャー・キャピタル組織、ミューチュアル・ファンド、

ユニット・トラスト及び類似の企業が保有する共同支

配企業に対する適用免除規定

IAS第28号(「持分法適用の免除」の

項) セクション2.1

共同支配事業の会計処理 IFRS第11号 第6章

共同支配を有しない投資者による共同支配事業の会

計処理 • IFRS第11号 • その他の適切なIFRS

セクション6.3

共同支配企業の会計処理 IAS第28号 第7章

共同支配を有しない投資者による共同支配企業の会

計処理 必要に応じて

• IAS第39号 • IAS第28号 • その他の適切なIFRS

セクション7.1

共同支配企業への非貨幣性資産の拠出 IAS第28号 セクション7.2

共同支配企業に対する共同支配の喪失 IAS第28号 セクション8.2

個別財務諸表 IFRS第11号(共同支配事業の場合)

及びIAS第27号「個別財務諸表」(共

同支配企業又は関連会社の場合)

「国際会計の実務」上巻5

受領する管理手数料 IAS第18号 「国際会計の実務」下巻5

開示 IFRS第12号 第9章

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

本稿では、個別財務諸表における共同支配企業又は共同支配事業

の会計処理については取り上げていないが、IFRS第11号では個別

財務諸表における共同支配事業の会計処理が取り上げられている。

図2で示すように、IFRS第11号の公表及びIAS第28号の改訂に合わ

せて、IAS第31号及びIAS第28号中の多くの規定の記載箇所が変更

されている。

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基準書のタイトルが「ジョイント・ベンチャーに対する持分」から「共同

支配の取決め」に変更されているが、IFRS第11号でも引き続き共同

支配が存在する場合の取決めに関してのみ、規定が定められている。

IFRS第11号の適用範囲は、IAS第31号とほぼ同様であると考えられ

るが、「共同支配」の概念に含まれる「支配」の定義はIFRS第10号を

参照しており、その定義がIAS第27号に基づく「支配」の概念よりも広

いことから、IFRS第11号の下では、より多くの取決めが共同支配の

取決めに該当する可能性がある。

2.1 ベンチャー・キャピタル組織による適用 IFRS第11号は、共同支配の取決めの当事者である、ベンチャー・

キャピタル組織、ミューチュアル・ファンド、ユニット・トラスト、投資連動

保険ファンド及び類似の企業(以下単に、ベンチャー・キャピタル組織

と称する)を含むすべての企業に適用される。一見すると、IAS第31号の適用対象から除外されていたこれらのベンチャー・キャピタル組

織にとって、これは適用範囲の変更を意味しているようにもみえる。

しかし、ベンチャー・キャピタル組織は、IAS第28号の下でも共同支配

企業に対する投資を引き続き公正価値で測定することを選択できる。

IASBは、ベンチャー・キャピタル組織に関する規定を適用除外規定と

して引き継ぐのではなく、公正価値を用いる選択肢を「測定に関する

免除規定」として位置づけたほうが好ましいと判断した。したがって、

この選択肢はIAS第28号に含められている 。

なお、ベンチャー・キャピタル組織は、IFRS第12号の開示規定を適用

することが求められる(第9章参照)。

第2章 適用範囲

9

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

2.1.1 企業の「セグメント」ごとの測定に関する免除規定の使用 特定のケースでは、企業のあるセグメントがベンチャー・キャピタル組

織として事業を行っているが、他のセグメントでは別の事業を行なって

いる場合がある。IAS第31号の下では、ベンチャー・キャピタルを事業

としているセグメントが、当該セグメントによる共同支配企業への投資

を持分法ではなく公正価値で測定できるか否かという疑問が生じてい

た。IFRS第11号は、この論点を明確にはしていない。

ベンチャー・キャピタル組織とそのセグメントは、投資企業に関する

IASBとFASBの共同プロジェクトの結果によっては、将来的に測定に

関する免除規定を引き続き使えるかどうかに影響が及ぶ可能性があ

るため、当該プロジェクトの動向を注意深く見守るべきである。当該プ

ロジェクトについては、本稿のセクション11.3、及び弊社の刊行物で

ある「IFRS第10号 適用時の課題」のセクション12.2で説明している。

弊社のコメント

我々は、IAS第31号でも同様に考えていたように、ベンチャー・キャ

ピタル組織に該当するセグメントは、経営者が当該セグメントをベン

チャー・キャピタル事業として管理しているのであれば、IAS第28号の測定に関する免除規定を適用できると考えている(ただし、ベン

チャー・キャピタル活動は、その事業の重要な部分でなければなら

ない。)。これは、測定に関する免除規定が、「ベンチャー・キャピタ

ル組織の財務諸表」ではなく、「ベンチャー・キャピタル組織が保有

する共同支配企業に対する投資」を参照しているからである。仮に

「ベンチャー・キャピタル組織の財務諸表」とされていたのであれば、

企業全体がベンチャー・キャピタル組織でなければならないと理解

されていたであろう。

我々は、ベンチャー・キャピタル組織が共同支配企業に対する投資

を公正価値で測定した方が一般に、持分法より目的適合性の高い

情報を提供すると引き続き考えている。また、公正価値の使用は、

ベンチャー・キャピタル業界では実務として確立されている。しかし、

現時点でも我々は、そのような場合であっても、企業のベンチャー・

キャピタル組織が、共同支配企業への投資を公正価値に基づいて

管理しているのを証明することが重要であると考えている。

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10

第3章 共同支配の取決め

この呼び方は誤解を招く可能性がある。「共同支配の取決め(ジョイン

ト・アレンジメント)」と呼ばれる一部の取決めには、実際には1つの当

事者が事業体を支配する取決めも含まれる。そうした取決めでは、支

配を有する企業が連結を行い、他の当事者は、自身の投資の内容性

質に基づきその事業体に対する持分を会計処理する。一方で、「共同

支配の取決め」と呼ばれない取決めでも、IFRS第11号に定義される

共同支配の取決めに該当する場合がある。すなわち、取決めの呼び

方は重要ではなく、IFRS第11号に定められる共同支配の取決めの

定義を満たすかどうかのみが重要である。

IFRS第11号では、契約上の取決めは書面で取り交わされる場合が

多いものの、常にそうであるとは限らないとしている(ただし、書面では

ない取決めは実務では稀であると思われる)。法的な枠組みにより、

単独で、又は当事者間の契約と合わせて強制力のある取決めは生じ

うる。契約上の取決めは、企業(あるいは「別個のビークル」―これは、

「企業(entity)」よりも幅広い概念となる新しい用語である(詳細はセ

クション5.1参照))の基本定款、設立趣意書、又は付属定款に組み込

まれている場合がある。

契約上の取決めでは一般に、以下の事項が定められる。

• 共同支配の取決めの目的、活動及び存続期間 • 共同支配の取決めの取締役会又はそれに相当する統治機関の

メンバーが、どのように選任されるか • 意思決定プロセス:

• 当事者の意思決定を必要とする事項 • 当事者の議決権 • それらの事項について必要な同意のレベル

• 各当事者に要求される資本その他の出資 • 各当事者が、共同支配の取決めに係る資産、負債、収益、費用

又は純損益を、どのように共有しているか

契約上の取決めの条件を理解することは、共同支配が存在するか否

か、存在するのであれば(第5章で説明するように)共同支配の取決

めの種類を判断するにあたり必要不可欠である。

3.1 会計単位 IFRS第11号は、共同支配の取決めが存在するか否かを判断する際

の会計単位を明示していない。しかし、IASBは、共同支配の取決め

の会計単位は、複数の当事者が共同で支配することに合意した活動

であることを意図しているようである。

したがって、当事者は、ある活動に係る資産に対する権利及び負債に

対する義務を評価することになると思われる。このIFRS第11号にお

ける結論の根拠に基づくアプローチを実務で適用すると、次のような

見解が導かれる可能性が高い。

• 会計単位が、企業又は別個のビークルより大きいというようなこと

がありえるか?-複数の当事者が共同支配することに同意した

活動が、企業又は別個のビークルより大きい場合、そのようなこと

がありえる。これは、同一の活動に関係する複数の取決め(重層

契約という。これについては第4章設例13で説明している)が存在

する場合に該当する可能性がある。

• 企業又は別個のビークルの中に、複数の会計単位は存在しうる

か?-複数の当事者が共同支配することに合意した活動が、企

業又は別個のビークルの中で複数ある場合には、存在しうる。通

常、企業又は別個のビークルの中の2つの活動には何らかの区

別又は区分があるものと予想される。

• 基本契約の中に複数の会計単位は存在しうるか?-複数の当事

者が基本契約の中で共同支配することに合意した活動が複数あ

る場合には、存在しうる。これについては11ページでさらに詳しく

説明している。

IFRS第11号の結論の根拠からの抜粋

BC35 ED9へのコメント提出者の多くは、共同支配企業が単なる

「残余」となる可能性があると懸念した。これは、これらのコ

メント提出者が、共同支配企業とは、各当事者が個々の資

産に対する権利又は費用若しくは資金調達に係る義務を識

別した後に、共同支配企業が当該取決めの残りの資産及

び負債となることを意味するものと解釈したからである。こう

した懸念の結果、当審議会は、共同支配の取決めの会計

単位は、複数の当事者が共同で支配することに合意した活

動であり、当事者は当該活動に係る資産に対する権利及び

負債に対する義務を検討すべきであることを明確にした。し

たがって、「共同支配企業」という用語は、各当事者が投資

を有している共同で支配される活動を指す。

IFRS第11号からの抜粋

4 共同支配の取決めは、複数の当事者が共同支配を有する取決

めである。 5 共同支配の取決めは次の特徴を有する。

(a) 当事者が契約上の取決めで拘束されている (b) 契約上の取決めにより、複数の当事者が当該取決めに対

する共同支配を有している

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

Page 11: 第11号適用時の課題 - EY Japan...IAS第31号の開示規定の多くはIFRS第12号に引き継がれている。しかし、IFRS第12号の導入による最も大きな変更点の1つは、企業

設例1-製造及び流通に関する基本契約

2名の当事者間の単一の契約では、製造及び流通活動に関係する条件が定められており、さまざまな国や地域において、複数の企業を通じてこ

れらの活動がどのように実施されるのかが定められている。

当事者は、この取決めには、独立した共同支配の取決めが複数含まれる(各国の各活動について1つの共同支配の取決めが存在し、それぞれ

が1つの企業に対応している)と判断するかもしれない。このケースでは、各企業が共同支配企業か共同支配事業に分類される可能性が高い。

各活動に関する条件が、企業ごとにはっきりと区分されている場合には、こうしたケースに該当する可能性が高い。

前提条件を一部変更したケース―当事者間の契約では、製造及び流通活動に関係する条件、及びさまざまな国や地域において、これらの活動

がどのように実施されるのかが定められている。ここで、一方の当事者が、一定の企業(例えばA国の企業)の関連性のある活動を指図する能

力を有しており、もう一方の当事者は別の企業(例えばB国の企業)の関連性のある活動を指図する能力を有している場合、2名の当事者間に

共同支配は存在せず、各当事者がそれぞれの企業を支配していることになる。

11

共同支配の取決めの会計単位を識別するにあたり、通常、契約上の

取決めを精査することから始めるのが適切である。多くの場合、各契

約上の取決めは単一の共同支配の取決めを生み出す。しかし、一部

の契約には、複数の共同支配の取決めが含まれている場合もある。

例えば、基本契約( IFRS第11号では「枠組み契約( framework

agreement)」と呼ばれている)には、数多くの別々の共同支配の取

決めの条件が含まれている場合がある。設例1では、基本契約が、い

くつかの別個の共同支配の取決めとして会計処理されるケースにつ

いて説明している(それぞれの共同支配の取決めは、共同支配事業

か共同支配企業に分類される)。

基本契約

製造活動 流通活動

C国 ゼネラル・

パートナーシップ 共同支配事業

D国 リミティッド・

パートナーシップ 共同支配企業

A国 ゼネラル・

パートナーシップ 共同支配事業

B国 リミティッド・

パートナーシップ 共同支配企業

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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場合によっては、同じ活動に関連し複数の契約上の取決めが存在す

る場合がある。このような場合、共同支配の取決めの存在の有無及

び共同支配の取決めの種類を判断するために、これら複数の契約を

合わせて分析しなければならない(第5章参照)。

また、複数の異なる活動を対象とする単一の基本契約が存在する場

合もある。これらの活動には、当事者のいずれか一方により支配され

ているものもあれば、当事者により共同支配されているものもある。

会計単位を決定する場合、及び(共同支配がある場合に)どの取決め

が共同支配されているのかを判断する際は細心の注意が必要である。

設例2は、複数の取決めが含まれている契約に関して、そのうち1つだけが共同支配の取決めであるケースを説明している。

設例2-支配及び共同支配が存在する契約

AとBは、他の当事者にリースするために12階建ての建物を購入

する契約上の取決めを締結する。AとBはリースに関し、それぞれ

5つのフロアに責任を負い、当該フロアに関する意思決定を独自

ですべて行うとともに、それに関する収益のすべてを受け取ること

ができる。残りの2つのフロアは共同で管理する。それらの2つの

フロアに関する意思決定はAとBが合意しなければならず、すべ

ての利益は均等に分配される。

この設例では、3つの取決めが存在する。

• Aが支配する5つのフロア-他のIFRSに基づき会計処理される

• Bが支配する5つのフロア-他のIFRSに基づき会計処理される

• AとBが共同で支配する2つのフロア-共同支配の取決め

(IFRS第11号が適用される)

この設例では、IFRS第11号に基づきA及びBについて決定され

た会計単位が、IAS第40号「投資不動産」に基づき以前の所有者

について決定された会計単位とは異なる可能性がある。

12

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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はい

はい

共同支配の取決めが存在するうえで欠かせない要素は共同支配であ

ることから、その定義を理解することが重要である。

共同支配に見られる主要な特徴は以下の通りである。

• 契約上合意された-第3章参照

• 関連性のある活動及び支配-当事者が支配を有するか否かを判

断する方法及び関連性のある活動を識別する方法については、

IFRS第10号で規定されている。これらは、弊社の刊行物である

「IFRS第10号 適用時の課題」で詳しく説明している。共同支配を

特定するにあたり最も重要な考慮要因である、「関連性のある活

動」及び「支配」については、それぞれセクション4.1と4.2で説明

している。

• 全員一致の合意-全員一致の合意の要求は、(取決めに対する

共同支配を有している)どの当事者も、他の当事者又は当事者の

グループが、自らの同意なしに関連性のある活動に関する一方

的な決定を行うのを阻止できることを意味する、とIFRS第11号で

は規定されている。

図3のフロー・チャートは、共同支配が存在するか否かをどのように評

価するかを説明したものである。6

IFRS第11号からの抜粋

7 共同支配とは、取決めに対する契約上合意された支配の共有

であり、関連性のある活動に関する意思決定が、支配を共有し

ている当事者の全員一致の合意を必要とする場合にのみ存在

する。

13

第4章 共同支配

経営者は、共同支配の取決めを再度精査し、共同支配又は支配を有

しているか、そのどちらも有していないかを再検討すべきである。

IFRS第11号を公表した際、IAS第31号の適用範囲を広げる(又は狭

める)ことは必ずしもIASBの意図ではなかったが、「共同支配の取決

め」や「支配」の定義の変更により、これまでと比較して、異なる取決

めが含まれる又は除外される可能性がある。

本稿の以下のセクションでは、共同支配の取決めに関連して、支配の

概念、関連性のある活動の決定、及び全員一致の合意について説明

している。取決めの目的及び設計を理解することは、共同支配が存在

するか否かを特定するうえで非常に重要である。

すべての当事者(又は当事者のグループ7 )は、契約上の取決めによって、集団で当該取決めに対する支配を得ているか。

関連性のある活動に関する意思決定には、当該取決めを集団で支配しているすべての当事者(又は当事者のグループ)の全員一致の合意

が必要とされるか。

いいえ

いいえ

IFRS第11号の適用範

囲外(共同支配の取

決めではない)

当該取決めは共同で支配されており、共同支配の取決めに該当する。

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影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

6 図は、IASBのIFRS第11号(B10項)から抜粋。

7 「当事者のグループ」とは、共同支配の取決めにおいて一部複数の当事者による共同支配が存在するものの、それ以外の当事者はあくま

でも受動的な投資家である状況をいう(すなわち、当該取決めに関し、共同支配を有しない当事者が別にいる)。そのような投資者もIFRS第11号の適用対象となるものの、当該投資に係る実際の会計処理は、それぞれ関連するIFRSに従って行われる(例えば、重要な影響力

を有する場合にはIAS第28号、それ以外の場合は金融商品)。

図3-IFRS第11号の適用範囲か?

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多くの場合、取決めの戦略的な営業及び財務の方針を決定すること

がリターンに最も重要な影響を及ぼす活動である。取決めでは、これ

らの両方の方針に当事者が合意することが求められていることが多

い。しかし、場合によっては、営業方針を決定するためには全員一致

の合意が必要だが、財務方針については必要でない(又はその逆)こ

とがある。そのようなケースでは、それぞれの活動が異なる当事者に

よって指図されることから、当事者は、2つの活動(営業又は財務)の

うちどちらがリターンに最も重要な影響を及ぼす活動か、そしてその

活動に対して共同支配が存在するかを評価しなければならない。取

決めのリターンに重要な影響を及ぼす活動が複数あり、それらの活

動が異なる当事者によって指図されている場合には必ずこの評価を

行わなければならない。これについては設例3で説明している。

4.1 共同支配の取決めにおける関連性のある活動 契約上の取決めにより、当事者が集団で取決めを支配しているかどう

かを判断するためには、まず当該取決めの関連性のある活動、すな

わち取決めのリターンに重要な影響を及ぼす活動を特定しなければ

ならない。

関連性のある活動を特定する際は、取決めの目的及び設計を考慮し

なければならない。具体的には、共同支配の取決めがさらされるよう

に設計されているリスク、共同支配の取決めに関与している当事者に

移転するように設計されているリスク、及び当事者がそれらのリスク

の一部又は全部にさらされているかどうかを考慮しなければならない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例3-複数の活動が取決めのリターンに影響を及ぼす場合

2名の当事者が、医薬品の製造及び販売に関し契約を締結する。3つの活動がこの取決めのリターンに重要な影響を及ぼす。

• 医薬品の製造-一方の当事者がこの活動に責任を負う

• マーケティング及び販売活動-もう一方の当事者がこれらの活動に責任を負う

• 両方の当事者が製造、マーケティング及び販売活動に係るすべての財務方針を承認する(例:予算の承認や、承認された予算の重要な修

正及び変更には全員一致の合意が必要な場合)

最初の2つの活動に関しては、予算の範囲内で活動している限り、各当事者がそれぞれの担当分野について営業上の決定を行う際には全員

一致の合意は必要ない。すなわち、この契約では、それぞれの責任を実行する裁量が当事者に与えられている。

この設例において当事者は、取決めのリターンに最も重要な影響を及ぼす活動を判断しなければならない。

事実及び状況から判断して、最初の2つの活動のうちどちらかが、取決めのリターンに最も重要な影響を及ぼす活動であるといえるかもしれな

い。その場合、その活動に責任を負う当事者がもう一方の当事者なくしてその活動を指図できることから、その当事者が取決めに対するパワー

を有していることになる。

しかし、その事実及び状況から、関連性のある活動は財務方針を決定することであると判断されるかもしれない。その場合、それらの財務方針

を決定するには全員一致の合意が必要なため、共同支配が存在することになる。なお、共同支配が存在すると言えるためには、両方の当事者

がリターンの変動性に対するエクスポージャーを有していることも必要である。支配の要件である、変動リターンへのエクスポージャーを有して

いること、かつパワーを通じてそのエクスポージャーに影響を及ぼすことができるということは、IFRS第11号の基になっているIFRS第10号に定

められている。

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15

設例4では、当事者が取決めの活動を集団で指図していないため、共

同支配は存在しない。むしろ、各当事者がそれぞれの活動を指図して

いる。しかし、これが取決めの活動を集団で指図しているような設例

であったならば、共同支配は存在することになるであろう。このような

状況については設例5で説明している。

4.1.1 連続的な活動 取決めにおいて、異なる段階で生じる異なる活動について定められて

いる場合がある。一般に、次の2つの状況が考えられる。

• 当事者が異なる活動を指図する権利を有している場合

• 当事者がすべての活動を集団で指図している場合

最初の状況では、リターンに最も重要な影響を及ぼす活動を指図す

る権利を有しているかどうか、よって取決めを支配しているかどうかを

各当事者が評価しなければならない。この状況では共同支配は存在

しないが、これについては設例4(IFRS第10号から引用)で説明して

いる。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

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影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例4-連続的な活動を個別に指図する場合

投資者2社が、医薬品の開発及び販売のため、投資先を設立する。一方の投資者は、医薬品の開発と規制当局の認可の取得に責任を負う

(その責任には、製品の開発と規制当局の認可の取得に関するすべての意思決定を一方的に行う能力が含まれる)。規制当局が商品を認可

した後、もう一方の投資者がそれを製造し販売する(当該投資者は、プロジェクトの製造及び販売に関するすべての意思決定を一方的に行う能

力がある)。これらすべての活動(当該医薬品の開発及び規制当局の認可の取得、ならびに製造及び販売)が関連性のある活動である場合、

各投資者は、投資先のリターンに最も重要な影響を及ぼす活動を自らが指図できるかどうかを判断する必要がある。

したがって、各投資者は、当該医薬品の開発及び規制当局の認可の取得と、製造及び販売のいずれが投資先のリターンに最も重要な影響を

及ぼす活動であるのか、また、自らがその活動を指図できるのかどうかを考慮する必要がある。いずれの投資者がパワーを有しているのかの

決定に際しては、投資者は次の事項を考慮することになる。

a) 投資先の目的及び設計

b) 投資先の利益マージン、収益及び価値ならびに当該医薬品の価値を決定する要因

c) (b)の要因に関する各投資者の意思決定権限から生じる投資先のリターンへの影響

d) リターンの変動性に対する投資者のエクスポージャー

この設例においては、投資者は次の事項も考慮する。

e) 規制当局の認可を得ることについての不確実性及びそれに必要な労力(医薬品の開発及び規制当局の認可の取得に関する当該投資者

の成功の実績を考慮する)

f) 開発フェーズが成功した段階で、どの投資者が当該医薬品を支配するのか

設例5-連続的な活動を共同して指図する場合

投資者2社が、医薬品の開発及び販売のため、投資先を設立する。これは2段階に分けられている。第1段階は、医薬品の開発と規制当局の

認可の取得である。第2段階は、当該医薬品の製造及び販売である。投資者2社は、両方の段階について、共同して意思決定を行うことに合意

する。

投資者2社は取決めの期間を通してすべての意思決定を共同で行うことから、上記のどの活動が取決めのリターンに最も重要な影響を及ぼす

かを判断する必要はない。というのも、すべての活動は同じように指図されているからである。投資者2社は、取決めに対して共同支配を有して

いる。

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設例6-防御的な権利と共同支配

A、B及びCは、Z社の活動を実行するために、共同支配の取決めを

締結する。AとBの間の契約上の取決めでは、Zのすべての活動を

指図するためには両者の一致した合意が必要であると定められて

いる。Cの合意は必要とされないが、Cは、Zによる負債性又は資本

性金融商品の発行に対し拒否権を有する。資本性及び負債性金融

商品の発行は、Zの事業の根本的な変更を意味するため、それは

防御的な権利とみなされる。 この設例では、AとBが集団でZを指図することができ、契約上の取

決めにより両者の一致した合意が必要なため、AとBはZに対して共

同支配を有する。Cは共同支配の取決めの当事者ではあるが、Zに関する防御的な権利しか保有していないため、共同支配を有してい

ない。

IFRS第10号付録Aからの抜粋

(防御的な権利とは、)当該権利が関係する企業に対するパワーを

与えることなく、当該権利を有する当事者の利益を保護するように

設計された権利

16

4.2 集団で支配する権利 契約上の取決めにより、当事者が取決めを共同で支配しているかどう

かを判断するためには、その取決めの関連性のある活動を識別した

後で、関連性のある活動を指図する現在の能力を当事者に付与して

いるのはどの権利かを判断する必要がある。というのも、共同支配が

存在するには、当事者が共同で支配を有していなければならず、当事

者が支配を有するには、関連性のある活動に対して集団でパワーを

有していなければならないためである。

多くの場合、関連性のある活動は、所有持分に比例して保有される議

決権により指図される。しかし、いつもそうとは限らないため、各ケー

スの事実及び状況に注意を払わなければならない。

4.2.1 防御的な権利 IFRS第10号では、防御的な権利は次のように定義されている。

防御的な権利は、取決めの活動の根本的な変更に関係するか、例外

的な状況で適用される。パワーは支配のために不可欠な要素である

ため、防御的な権利により当事者が取決めを支配することはない。防

御的な権利を保有しているだけでは、他の当事者が取決めに対する

パワーを保有することを阻止できない。防御的な権利については、弊

社の刊行物「IFRS第10号 適用時の課題」のセクション3.3.2でさら

に詳しく説明している。

したがって、当事者のグループが集団で取決めを支配しているかどう

か(よって共同支配が存在するかどうか)を評価するにあたり、当事者

が保有する権利について以下を考慮しなければならない。

• その権利が防御的であるか(その場合、他の当事者が取決めを

集団で支配している可能性がある)

• その権利が実質的であるか(その場合、その権利により、他の当

事者が共同支配を有することが阻止される可能性があり、そうし

た権利の保有者に支配を付与する場合もある)

設例6では、防御的な権利を付与するために使われることが多い手法

である拒否権を使ってこの点を説明している(ただし、すべての拒否権

が防御的な権利というわけではない)。

一部の当事者が防御的な権利を保有するように取決めが組成される

のではなく、すべての当事者が議決権を有しており、可否が同数だっ

た場合、又は意見が不一致の場合の決定票を一当事者が有するよう

に取決めが組成される場合がある。これについてはセクション4.3.2で説明する。

4.2.2 潜在的議決権と共同支配 IFRS第11号は、共同支配が存在するかどうかを評価するにあたり、

潜在的議決権をどのように取り扱うかについては明示していない。し

かし、IFRS第11号の「共同支配」における「支配」の定義が、IFRS第10号の「支配」の定義と同じであるため、潜在的議決権が存在する場

合には、IFRS第10号の規定を考慮しなければならない。

弊社のコメント

潜在的議決権が発行又は付与された状況など、潜在的議決権の目

的及び設計を理解することは、潜在的議決権が実質的であるかどう

か、実質的である場合に共同支配が存在するかどうかを評価する

にあたり重要である。「IFRS第10号 適用時の課題」のセクション

3.3.4では、潜在的議決権が実質的であるかどうかをどのように評

価するかについて、より詳しく説明している。

潜在的議決権が実質的である場合、契約上の取決めの条件により

共同支配が黙示的に創出されるのであれば、その保有者は他の当

事者と一緒に共同支配を有している可能性がある。そのためには、

潜在的議決権の保有者と取決めの他の当事者は、(1)取決めを集

団で支配し、(2)取決めの関連性のある活動を指図するために全員

一致の合意を行わなければならない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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17

• 報酬を通じたリターンの変動性に対する管理者のエクスポー

ジャー

• 他の関与により生じるリターンの変動性に対する管理者のエクス

ポージャー(例:共同支配の取決めの管理者による直接投資)

これらの各事項については、弊社の刊行物「IFRS第10号 適用時の

課題」の第5章でより詳しく説明している。

4.2.5 関連当事者及び事実上の代理人 IFRS第10号は、一方の当事者がもう一方の当事者の事実上の代理

人として行動する場合があるとしている(弊社の刊行物「IFRS第10号

適用時の課題」第6章参照)。事実上の代理人には、(IAS第24号に

定められる)関連当事者が含まれる場合がある。

IFRS第10号の概念はIFRS第11号にも適用されるため、設例7で説

明しているように、一方の当事者がもう一方の当事者の事実上の代

理人である場合、支配又は共同支配が存在するかどうかを考慮しな

ければならない。

4.2.3 共同支配のその他の証拠 弊社の刊行物「IFRS第10号 適用時の課題」のセクション3.5で説明

しているように、当事者の権利が取決めに対するパワーを与えるもの

であるかどうかを判断することが困難な場合がある。そのような場合、

当事者は、関連性のある活動を指図する現在の能力を有しているこ

とを示す他の証拠を考慮する。この証拠は、取決めの当事者がその

取決めを集団で支配しているかどうかを評価する際(すなわち、共同

支配を評価する際)にも考慮する。

4.2.4 委譲された意思決定 特定の業界、例えば採掘業界においては一般に、当事者のうちの1社が取決めの管理者に任命される。採掘業界の管理者は、「オペ

レーター(operator)」と呼ばれることが多いが、「共同支配事業(joint operation)」及び「共同支配事業者(joint operator)」という新しい用

語が導入されていることから、混乱を避けるため、ここではそうした当

事者のことを「管理者(manager)」と呼ぶ。取決めの他の当事者は、

一部の意思決定権をこの管理者に委譲する場合がある。

IAS第31号の下では、通常、管理者は代理人として取決めの当事者

の決定を実行しているだけであると結論づけられていた。しかし、

IFRS第10号及びIFRS第11号の下では、管理者が実際に取決めを

支配しているかどうかを考慮しなければならない。意思決定権が委譲

されている場合に、意思決定者が本人又は代理人のどちらに該当す

るか、それゆえ(そのような当事者が存在する場合に)どの当事者が

支配を有しているか、の両方をどのように評価するのかについてIFRS第10号は説明している。この際、以下を慎重に考慮することが必要と

なる。

• 管理者の意思決定権限の範囲

• 他の当事者が有している権利(例:防御的な権利、解任権)

弊社のコメント

IFRS第10号に挙げられている証拠の例の他に、当事者が支配(又

は共同支配)を有していることを示す別の事実として、当事者が取

決めを会計処理(例えば持分法を適用)し、要求される開示を提供

するために必要な財務情報を入手できるかということがある。当事

者が取決めに関して情報を入手できない場合(例えば取決めの経

営者が提供を拒否している場合)、当事者が取決めを共同して支配

していない(よって共同支配が存在しない)ということが示唆される

かもしれない。

弊社のコメント

事実上の代理人の識別は複雑な場合があり、判断が必要とされる。

一方の当事者がもう一方の当事者の事実上の代理人であるかどうか

を判断する際は、その事実及び状況を慎重に評価する必要がある。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

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影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例7-共同支配における事実上の代理人

契約上の取決めには3つの当事者が存在する。Aは議決権の50%、BとCはそれぞれ25%を保有している。A、B、及びC間の契約上の取

決めでは、取決めの関連性のある活動について意思決定を行う際

は、最低でも75%の議決権が必要であると定められている。 分析-議決権の75%に達し、よって関連性のある活動を指図するた

めの組み合わせは複数存在することから、支配も共同支配も存在し

ない。 前提条件を一部変更したケース-例えばCがBの事実上の代理人と

みなされる場合には、Bが実質的に(Cの25%と合わせて)50%を保

有することになり、関連性のある活動を指図するためにAはBの合意

が必要になることから、AとBが共同支配を有することになる。

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4.3 全員一致の合意 IFRS第11号は、関連性のある活動に関する決定は、取決めを集団

で支配するすべての当事者又は当事者のグループの全員一致の合

意を必要とすると規定している。つまり、全員一致の合意が存在する

には、必ずしも取決めのすべての当事者が合意する必要はないとい

うことである。全員一致の合意が存在するには、集団で取決めを支配

する当事者のみが合意すれば良いのである。

全員一致の合意を求める規定により、取決めを単独で支配する当事

者は存在しないことになる。全員一致の合意に関する規定は新しいも

のではないが、IFRS第11号は、どのような場合に全員一致の合意が

存在するかについて明確な規定を定めている。例えば、契約上の取

決めにより、意思決定を行う際の議決権の最低割合が定められてい

る場合がある。最低割合に達するために、合意する当事者の組み合

わせが複数考えられる場合には、どの当事者(又は当事者の組み合

わせ)が取決めの関連性のある活動について一致して合意しなけれ

ばならないかが定められている場合を除き、当該取決めは共同支配

の取決めではない。IFRS第11号はこの点を説明するための例をいく

つか挙げている。この例を図4にまとめている。

4.2.6 政府の役割 一部の新興経済国では、政府が一定の取決めの50%持分を保持す

ることを主張する場合がある。政府が取決めの当事者である場合、共

同支配又は支配が存在するか否かを判断するために、取決めを慎重

に評価する必要がある。これについては設例8で説明する。

要件 シナリオ1 シナリオ2

関連性のある活動を指図するためには75%の賛成票が必要

関連性のある活動を指図するためには75%の賛成票が必要

当事者A 50% 50%

当事者B 30% 25%

当事者C 20% 25%

結論 共同支配が存在する―(両者の議決権に

よってのみ要件が満たされるため)AとBが、

集団で取決めを支配している。AとBは、集

団で取決めを支配する唯一の組み合わせ

であることから、AとBが全員一致の合意を

しなければならないことが明確である。

共同支配は存在しない―集団で取決めを

支配する当事者の組み合わせは複数ある

(すなわち、要件を満たすため、AとB又はAとCが一緒に議決を行う可能性がある)。複

数の組み合わせがあり、契約上の取決めに

より合意しなければならない当事者が定め

られていないことから、全員一致の合意は

存在しない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例8-政府の役割

ある政府は、土地を保有しており、その地中には石油が存在すると

考えられている。この政府は、石油を採掘し、製品を販売する契約

上の取決めを石油会社と締結する。当該石油会社は、別個のビー

クルを用いてこれらの事業を行う予定である。石油会社は、自社が

共同支配、支配、又はその他の種類の利害関係を有しているかを

判断するため、取決めの契約条件を綿密に評価しなければならない。

別個のビークルに対する所有持分割合は、必ずしも一方の当事者

による支配又は共同支配が存在するかどうかを判断するうえでの決

定要因ではない。 契約条件により、開発活動に関するすべての最終意思決定権限が

政府に付与される場合があるが、この場合、政府が支配を有し、石

油会社は共同支配を有しないことになる。 しかし、関連性のある活動を指図するために政府と石油会社の全員

一致の合意が必要とされるような場合は、両者が共同支配を有して

いることになる。

図4-共同支配の有無

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4.3.3 仲裁 契約上の取決めには、紛争の解決に関連する条件が含まれているこ

とが多く、仲裁についての定めも含まれている場合もあるが、それに

よって取決めに共同支配が存在することが妨げられることはない(す

なわち共同支配の取決めとなることが妨げられることはない)。

4.3.4 黙示的な共同支配 共同支配が存在するために、契約上の取決めの条件にそれが明示さ

れる必要はない。すなわち、共同支配は黙示的に存在する場合があ

る。それは取決めの契約条件、及び取決めの条件が当事者の全員一

致の合意を明示的又は黙示的に求めているかどうかによって決まる。

例えば、2つの当事者が別個のビークルの所有権を等しく(50%)保有

する場合、契約上の取決めの条件において、関連性のある活動に対

する全員一致の合意が求められていない場合であっても、共同支配

は存在しうる。IFRS第11号からの下記の抜粋は、この概念を説明し

たものである。

上記の事例では、両当事者の一致した合意は取決めにおいて黙示的

に求められている。というのも、各当事者は議決権の50%ずつしか保

有していないことから、議決権の51%の合意を得るには両当事者の

一致した合意が求められるからである。IFRS第11号のこの例は、共

同支配が存在するために、黙示的な全員一致の合意が存在しうるこ

とを説明している。

共同支配が黙示的に存在するか否かを判断するには、取決めの契

約条件を慎重に評価しなければならない。2名の当事者が等しい所有

持分を有するものの、両当事者間の契約上の取決めに従い、一方の

当事者が関連性のある活動を指図する場合もありえる。この場合、関

連性のある活動を指図する契約上の権利を有する当事者が支配を

有することになる(すなわち、共同支配は存在しない)。より詳しい情

報については、「IFRS第10号 適用時の課題」のセクション3.4を参

照されたい。

19

4.3.1 受動的な投資家 第三者が共同支配の取決めに対する持分は有するものの共同支配

を有しない場合には、その他の2名の当事者が取決めの共同支配を

有することがありえる。この状況は、上記の図4のシナリオ1で説明し

ている。

IFRS第11号は、共同支配の取決めに参加しているが、当該取決め

に対する共同支配を有していない当事者の会計処理を定めている。

これについては、共同支配事業に関してはセクション6.3で、共同支配

企業に関してはセクション7.1で説明している。

4.3.2 最終的な議決権限 すべての当事者が議決権を有しており、可否が同数だった場合、又

は意見が不一致の場合の決定票を一当事者が有するように取決め

が組成される場合がある。単一の当事者が関連性のある活動を単独

で指図できる場合、共同支配は存在しない。この点については設例9及び10で説明している。

一方の当事者が決定票を有しているからといって、特に他の当事者

が当該当事者の合意なく行動できる場合には、必ずしも支配を有して

いることにはならない。これについては設例10で説明している。

IFRS第11号からの抜粋

B7 時には、各当事者が契約上の取決めで合意した意思決定プロセ

スが、黙示的に共同支配を生じさせている場合がある。例えば、

2名の当事者が取決めを交わし、それぞれが議決権の50%を有

し、両者の契約上の取決めにより、関連性のある活動に関する

意思決定を行うには議決権の少なくとも51%が必要と定められ

ていると仮定する。この場合には、各当事者は共同支配を有する

ことに黙示的に合意している。関連性のある活動に関する意思決

定が、両者の合意なしには行えないからである。

設例9-最終的な意思決定権限-共同支配が存在しない場合(1)

GとHは、契約を締結し、共同運営委員会を立ち上げる。共同運営

委員会で合意に至らない場合、一方の当事者が最終的な意思決定

を行うことができる。この場合、他の当事者の合意は必要ではない

ため、共同支配は存在しない。

決定票を有する当事者が支配を有しているか否かを評価するため

には、IFRS第10号で求められるように、当該当事者が変動リターン

に対するエクスポージャーを有しているかどうか、及びパワーを通じ

てそれらのリターンに影響を及ぼすことができるかどうかを評価しな

ければならない。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例10-最終的な意思決定権限-共同支配が存在しない場合(2)

I、J及びKは、契約を締結し、共同運営委員会を立ち上げる。各当

事者は1票を保有し、動議を可決するには2票が必要である。共同

運営委員会が合意に達することができない場合、Kが最終的な意思

決定権限を有する。例えば、I、J、Kのどの組み合わせもお互いに合

意することができない場合、Kが最終的な意思決定権限を有するこ

とになる。

Kの合意なくとも、IとJがお互いに合意できることから、共同支配は

存在しない。Kは、意思決定権限を有するが、支配は有しない。すな

わち、Kの意思決定権限が条件付きであることから、Kは支配を有し

ていない。

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第3章で説明したように、IFRS第11号では、法的な枠組みにより、強

制力のある取決めは生じうるとされている。また、別個のビークル(そ

のような事業体が存在する場合)の基本定款、設立趣意書、又は付

属定款も、当事者間の契約上の取決めの一部である。したがって、取

決めにより黙示的な共同支配が生じるかどうかを評価するにあたり、

結論に影響が及ぶ可能性があることから、取決めが設定された国・地

域の法規定を考慮しなければならない。

4.3.5 事実上の共同支配(de facto joint control)と共同での事実

上の支配(joint de facto control) IFRS第11号では、「共同支配」の概念に含まれる「支配」の定義は、

IFRS第10号での定義を参照していると述べられている。セクション

4.3.4で説明したように、共同支配は、黙示的な取決めを通じて生じる

場合がある。そのため、事実上の共同支配又は共同での事実上の支

配が生じうるかという疑問が生じている。我々は、これらの用語を次の

ように定義している。

• 事実上の共同支配(de facto joint control)とは、2つ(又はそれ

以上)の当事者が取決めを集団で支配しているが、その当事者間

で全員一致の合意が求められない場合をいう。

• 共同での事実上の支配(joint de facto control)とは、2つ(又は

それ以上)の当事者が取決めを集団で支配しており、かつその当

事者間で全員一致の合意が求められる場合をいう。

(我々が定義した)事実上の共同支配は、IFRS第11号の下では存在

しない。これは、当事者間で全員一致の合意がないからである。(図1及び上記で説明しているように)共同支配が存在するためには、全員

一致の合意が必要であることから、共同支配は存在しない。

一方、理論上は、(我々が定義した)共同での事実上の支配はIFRS第10号及びIFRS第11号の下で存在しうる。これは、2つ(又はそれ以

上)の当事者が集団で取決めを支配しており、その当事者間で全員

一致の合意が存在するからである。しかし、共同での事実上の支配

が実務で生じることは稀であると思われる。これについては、図5及び

設例11で説明している。

20

集団での事実上の支配

一致した合意

共同での事実上の支配

集団での支配

一致した合意

事実上の共同支配

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例11-事実上の共同支配と共同での事実上の支配

AとBは、それぞれが24%の議決権を有する取決めを有している。関

連性のある活動についての決定には、議決権の過半数が必要とな

る。残りの52%の議決権は広く分散している。AとBは、関連性のあ

る活動について両当事者の一致した合意が必要である旨の契約を

結んでいる。

IFRS第10号の規定に基づくと、AとBは集団での事実上の支配(過

半数に満たない議決権でのパワー)を有していることになる。さらに、

AとBの間には、関連性のある活動について両当事者の一致した合

意が必要である旨の契約上の取決めが存在するため、共同での事

実上の支配が存在し、よって共同支配が存在することから、これは

共同支配の取決めに該当する。

前提条件を一部変更したケース-AとBはすべての決定に関して両

者の合意を求める契約を締結していないという点を除き、事実関係

が上記と同じであると仮定する。この場合、AとBは集団で取決めを

支配しているが、両者間で全員一致の合意が必要とされないことか

ら、共同支配は存在しない。この状況では、AとBは取決めに対しそ

れぞれ重要な影響力を有している可能性が高い。

図5-事実上の共同支配と共同での事実上の支配

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設例13-重層契約

A、B、C及びDは、石油・ガスの探鉱を行うために契約No.1を締結

する。年次予算と営業方針のレビュー及び承認などの活動に関係

するすべての活動を指示するため、委員会No.1が設立される。委

員会No.1は、A、B、C及びDによって任命された4人のメンバーで構

成される。委員会No.1の決定には、メンバー全員一致の合意が必

要である。

AとBは、同じ石油・ガスの探鉱活動に関し、契約No.2を締結し、Aと

Bの協力を取りまとめるために委員会No.2を設立する。AとBは委

員会No.2の代表者をそれぞれ1名ずつ任命する。委員会No.2は、

委員会No.1の承認を求めるための事項を決定する権限を有する。

委員会No.2が決定する事項はすべて、両当事者の一致した合意を

必要とする。しかし、AとBで合意に達すことができなかった場合、Bが決定権を有する。AとBは委員会No.2での決定に拘束され、委員

会No.1においてその決定に従い投票を行わなければならない。

この設例では、2つの別個の契約が存在する。しかし、これらの2つの契約は、同じ石油・ガスの探鉱活動に関係していることから、共同

支配の取決めが存在するかを判断する際に合わせて評価される。

例えば、契約No.1を単独で考慮した場合、A、B、C及びDすべてが

当該契約に対して共同支配を有しているように見える。

しかし、契約No.1は契約No.2と合わせて評価されなければならな

い。したがって、B、C及びDのみが共同支配の取決めに対する共同

支配を有していることになる。実質的にBは、(契約No.2に基づい

て)委員会No.2において、Aにどのように投票するか指示することが

できるため、AはBの事実上の代理人となり、他の当事者との共同

支配を有しない。

21

4.4 共同支配を評価する際のその他の実務上の論点

4.4.1 リースと共同支配の取決め 当事者が他の当事者によって支配されている資産をリースしているの

か(その場合、その他の当事者と一緒に、実質的に資産の耐用年数

にわたり資産をリースしているかもしれない)、又は当事者間に共同

支配の取決めが存在するのかを判断するために、取決めの条件を慎

重に考慮しなければならない場合がある。これら2つのケースについ

ては、設例12で説明している。

4.4.2 複数の契約を合わせて評価する IFRS第11号では明示的な規定は定められていないが、取決めの目

的及び設計を理解し、共同支配が存在するか否かを判断するため、

複数の契約を合わせて評価しなければならない場合がある。単一の

契約だけを見ると当事者が取決めに対する共同支配を有しているよう

に評価されるものの、契約の目的及び設計全体を見ると共同支配を

有していないと評価される場合がある。設例13でこの点について説

明している。

D A B C

委員会No.2

委員会No.1

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例12-リースか共同支配の取決めか

5名の当事者が、共同で航空機を購入した。契約により各企業は、1年のうち一定の日数だけ航空機を使用する権利を有し、維持費につ

いては比例的に分担する。航空機の関連性のある活動は航空機の

維持及び処分であるが、これに関しては共同で意思決定を行う。そ

れらの意思決定にはすべての当事者の全員一致の合意が必要とな

る。契約期間は航空機の予想耐用年数と同じであり、これを変更す

るにも全員一致の合意が必要である。

分析-この契約は共同支配の取決めである。契約を通じて、5名の

当事者は航空機を共有で使用し、維持費を分担することに合意して

おり、決定には全員一致の合意が必要となる。

前提条件を一部変更したケース-代わりに5名の当事者が、航空機

を支配する別個のビークルと契約を締結した場合は、リースに該当

する場合がある。これは、5名の当事者が関連性のある活動を指図

する能力を有しない場合に該当する(例えば、別個のビークルの経

営者が、維持又は処分についての決定を行う場合)。

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実務で広く使われている「ジョイント・ベンチャー(joint venture)」とい

う用語よりも、IFRS第11号の「共同支配企業(joint venture)」はより

狭く定義されていることに留意されたい。IAS第31号のジョイントベン

チャー(joint venture)には共同支配企業、共同支配の資産、及び共

同支配の営業活動が含まれていたが、IFRS第11号では、共同支配

企業(joint venture)は共同支配の取決めの1つの種類に過ぎない。

IAS第31号における「共同支配の資産」及び「共同支配の営業活動」

は、IFRS第11号では「共同支配事業」に分類される。これらの会計処

理はIAS第31号のものと変わることなく、共同支配事業者は、自らの

資産、負債、収益及び費用、ならびに(もしあれば)共同支配事業の

資産、負債、収益及び費用に対する自らの持分を認識する。

セクション6.1で説明しているが、この会計処理は、比例連結とは会計

技術的には異なるものである。図7では、新しい用語がIAS第31号で

使用されている用語とどのように違うのかを説明している。

22

第5章 共同支配の取決めの分類

取決めの種類 共同支配事業 共同支配企業

定義 取決めに対する共同支配を有する当事者が当該取決めに関する資産に対する権利及び負債に対する義務を有している場合の共同支配の取決め

取決めに対する共同支配を有する当事者が当該取決めの純資産に対する権利を有している場合の共同支配の取決め

共同支配を有する当事者 共同支配事業者-共同支配事業の当事者のうち当該共同支配事業に対する共同支配を有している当事者

共同支配投資者-共同支配企業の当事者のうち当該共同支配企業に対する共同支配を有している当事者

会計処理の概要 共同支配事業者は、共同支配事業に対する持分に関して以下を認識しなければならない。

• 自らの資産(共同で保有する資産に対する持分を含む)

• 自らの負債(共同で負う負債に対する持分を含む)

• 共同支配事業から生じるアウトプットに対する持分の販売による収益

• 共同支配事業から生じるアウトプットの販売による収益に対する持分

• 自らの費用(共同で負う費用に対する持分を含む)

共同支配投資者は、共同支配企業に対する投資を持分法により会計処理する。比例連結は選択できない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図6で示しているように、共同支配の取決めは、共同支配事業又は共同支配企業のいずれかに分類される。

図6-共同支配事業か共同支配企業か

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23

FRS第11号により最も影響を受けるのは、IAS第31号の下で共同支

配企業が比例連結で会計処理されており、かつ、当該企業がIFRS第11号でも共同支配企業に分類される場合であろう。なぜなら、IFRS第11号では、共同支配企業は持分法で会計処理されなければならな

いからである。共同支配企業に対する投資は財政状態計算書におい

て単一の科目として認識され、共同支配企業の純損益及びその他の

包括利益の変動のうち、共同支配投資者の持分も包括利益計算書

の単一の科目として認識される。これは、財務諸表におけるこうした

分野の表示について、影響を受ける企業に重要な変更をもたらす可

能性がある。

場合によっては、比例連結を用いた場合に認識されたであろう金額と

異なる金額が純損益に認識されることで、測定にも影響する可能性

がある。これについては、セクション6.1及び10.6.4でさらに説明して

いる。

共同支配の取決めの資産及び負債それぞれに対して同じ持分(例

50%)を有する場合と、純資産に対して持分を有する場合で違いが生

じない場合もある。しかし、資産に対する権利及び負債に対する義務

を有する当事者の場合、通常、それらの資産及び負債に係る損失負

担に制限はない。共同支配事業では、当該当事者は、負債が資産を

上回ったとしても、これらの資産及び義務を制限なく認識する。反対に、

共同支配企業では、当事者は純資産に対する持分を有し、当該当事

者の損失はその投資額に限定される。当事者が純資産に対する持分 を有し、損失が投資額を上回った場合、当該損失は認識されない

IAS3

1 IF

RS

11

共同支配の営業活動 会計処理:自らの資産、負債、

費用及び収益に対する 持分相当額を認識

共同支配の資産 会計処理:資産に対する持分相当額、

負債に対する持分相当額、自らの収

益、費用及び費用に対する持分相当

額を認識

共同支配企業 会計処理:持分法会計

又は比例連結

共同支配事業 共同支配を有する企業が、取決めに係る資産に対する権

利及び負債に対する義務を有している。

会計処理:自らの資産、負債、収益及び費用ならびに/又は当

事者に共通して発生したそれらに対する持分相当額を認識

共同支配企業 共同支配を有する企業が、

取決めに係る純資産に対す

る権利を有している。

会計処理:持分法

ジョイント・ベンチャー

共同支配の取決め

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

(すなわち、当事者は負の投資を認識しない)。その代わりに、このよ

うな損失は、当該当事者が共同支配企業に代わって支払いを行う法

的債務又は推定的債務を有する範囲についてのみ認識される。

共同支配の取決めを共同支配事業又は共同支配企業のいずれかに

分類するにあたり、まず別個のビークルが存在するかどうかを評価す

る。存在しない場合、共同支配の取決めは自動的に共同支配事業に

分類される。しかし、別個のビークルが存在する場合、以下の要因を

考慮しなければならない。 • 別個のビークルの法的形態 • 契約条件 • その他の事実及び状況

弊社のコメント

共同支配事業の定義では、「資産に対する権利及び負債に対する

義務を有している」と言及されている。そのため、資産に対する権利

又は負債に対する義務の(両方ではなく)どちらかしか有しない場合、

共同支配の取決めが共同支配事業に該当する可能性があるのか

という疑問が生じる。我々は、このような場合(すなわち、共同支配

の取り決めの当事者が資産に対する権利又は負債に対する義務を

有するような場合)、共同支配事業に該当する可能性があると考え

ている。

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図7-類似のコンセプト、異なる用語の使い方

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このプロセスは図8で説明しており、以下のセクションで各事項についてさらに詳しく説明している。8 このフロー・チャートは、共同支配の取決め

を共同支配企業に分類するために満たすことが求められるいくつかの要件を説明したものである。これらのうち1つでも、当事者が資産に対する

権利及び負債に対する義務を有していることが示唆されるのなら、共同支配の取決めは共同支配事業に分類される。IFRS第11号には、この評

価の例も示されている。

共同支配の取決めを分類する際は、共同支配の取決めのすべての

当事者が、共同支配の取決めの分類について同じ結論に至ることを

IASBは想定している。共同支配の取決めの分類について異なる結論

に至るということは、同じ別個のビークルにおいて、当事者が異なる資

産に対する権利及び負債に対する義務を有しているということになる

が、IASBはそのような事態は稀であると考えている。

基本契約が存在する場合など(セクション3.1参照)、複数の契約を一

緒に分析しなければならない場合がある。IFRS第11号はまた、共同

支配の取決めの分類は、通常の事業の過程という意味において行う

べきであると定めている。

24

これらの概念については、取決めの契約条件及びその他の事実及び

状況についての分析に関連して、それぞれセクション5.3及び5.4でさ

らに詳しく説明している。

弊社のコメント

通常の事業の過程に基づいて共同支配の取決めの分類を要求す

る規定は、投資先の目的及び設計を考慮することを求めたIFRS第10号の規定と整合している(この点の詳細については、弊社の刊行

物「IFRS第10号 適用時の課題」の第1章参照)。共同支配の取決

めの目的及び設計は、適切な分類を判断するうえで考慮すべき重

要な点であると我々は考えている。 IFRS第11号からの抜粋

B14 本基準が要求している共同支配の取決めの分類は、通常の

事業の過程で当該取決めから生じる各当事者の権利及び義

務に応じて決まる。

共同支配の取決めは別個のビークルを用いて組成されているか?

別個のビークルの法的形態により、各当事者に、当該取決めに係る資産

に対する権利及び負債に対する義務が与えられているか?

契約上の取決めの諸条件で、各当事者が当該取決めに係る資産に対す

る権利及び負債に対する義務を有していると明示されているか?

その他の事実関係と状況を踏まえた場合、取決めに係る資産に対する権

利及び負債に対する義務が当事者に与えられていると認められるか?

共同支配企業

共同支配事業

はい

いいえ

いいえ

いいえ

はい

はい

はい

いいえ

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図8-共同支配の取決めの分類

8 この図は、IASBがIFRS第11号B33項で提示していた図を修正したものである。

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25

5.1 別個のビークル IFRS第11号は、共同支配の取決めの構造が考慮すべき唯一の要因

とならないように、共同支配の取決めの分類に関する焦点を広げるこ

とを意図している。とはいえ、共同支配の取決めを分類する際に最初

に考慮する要因は、別個のビークルが存在するか否かである。存在

する場合、共同支配の取決めを分類するためにさらに評価を行わな

ければならない。しかし、別個のビークルが存在しない場合、共同支

配の取決めは必ず共同支配事業に分類される。

例えば、パートナーシップや会社は別個のビークルとみなされる。場

合によっては、信託又はシンジケートも別個のビークルとみなされるこ

ともあろうが、そうした判断を行う際は国や地域の法令を考慮しなけ

ればならない。一部の国や地域では、口頭での契約で、契約に基づ

いたパートナーシップを設立できるとみなされているため、別個のビー

クルが存在するためのハードルは比較的低い。

独立とみなされる事業体(IFRS第10号ではサイロと呼ばれている)が

設立される場合など、契約により、別個のビークルが設立される場合

がある。取決めの特定の資産が、取決めの特定の負債に関する唯一

の支払財源であり、その特定の負債を有する者以外は、その特定の

資産又はその特定の資産からの残余キャッシュ・フローに関する権利

又は義務を有していない場合にサイロは存在する。すなわち、実質的

に、その独立とみなされる事業体のすべての資産、負債及び資本が、

取決め全体から隔離されている場合にサイロが存在する。サイロの

識別の詳細に関しては、弊社の刊行物「IFRS第10号 適用時の課

題」のセクション7.1を参照されたい。

「別個のビークル(separate vehicle)」という用語は、「法的主体」と

いう用語よりも幅広い(図9参照)。この変更は主に、一部の国・地域

において、共同支配の取決めを立ち上げるために別個のビークルが

設立されていたが、これらの別個のビークルがその国・地域において

法的主体の定義を満たさないことに対し、懸念が生じていたことに対

応するために行われたと思われる。IAS第31号では、そのような別個

のビークルは、その実態が経済的に共同支配企業に類似していたと

しても、自動的にそうは分類されないようになっていた。IFRS第11号により「別個のビークル」へと変更が行われたため、これらの取決め

は、共同支配事業又は共同支配企業のどちらに分類されるかを評価

することになる。

別個のビークルが存在するかどうかを判断するのは、別個のビークル

なくして共同支配の取決めにより当事者に純資産に対する権利が付

与されることは稀であるとIASBが結論付けたからである。よって、別

個のビークルが存在しないのであれば、24ページの図8で示すように

共同支配の取決めは共同支配事業であると即座に結論づけることが

できる。

5.2 別個のビークルの法的形態 別個のビークルが存在すると判断されると、次はその別個のビークル

の法的形態を分析する。これは、別個の企業が存在するかどうかだけ

で会計処理が決まっていたIAS第31号からの大きな変更である。IFRS第11号の下では、取決めに係る純資産に対する権利が付与されてい

るか、または取決めに係る資産に対する権利及び負債に対する義務

が付与されているかを判断するにあたり、別個のビークルの法的形態

を評価しなければならない。別個のビークルを用いることで、当事者と

別個のビークルが分離されているかどうかの評価が求められる。

別個のビークルの形態を分析する際は、現地の法律の影響を慎重に

評価しなければならない。例えば、多くの国では、会社の形態を用い

ることで、当事者と別個のビークルが分離され、かつ当事者に純資産

に対する権利が付与される(これは、共同支配企業に該当することの

指標である)。すなわち、会社の負債は会社のみが責任を負う。債権

者は、それらの負債について、当該会社の投資家に償還請求するこ

とはできない。しかし、すべての国でそうであるとは限らない。

同様に、無限責任を有するパートナーシップ(これは、多くの国で一般

的である)では、当事者と別個のビークルは分離されない。すなわち、

パートナーには資産に対する権利と負債に対する義務が付与されて

おり、よってこの取決めが共同支配事業であることが示唆される。し

かし、パートナーの責任が投資額に限定されるパートナーシップは、

実質的に純資産に対する権利を当該パートナーに付与していることに

なる。これは、当該パートナーシップが共同支配企業であることの指

標である。

別個のビークル

別個の法的 主体

図9-法人は、別個のビークルの一部である

法令で認知された主体

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号からの抜粋

別個のビークルとは、別個に識別可能な財務構造(別個の法的主

体又は法令で認知された主体を含むが、当該主体が法人格を有し

ているかどうかは問わない)

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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5.3 契約条件 共同支配の取決めの分類における次のステップは、純資産に対する

権利が付与されているか(共同支配企業)、資産に対する権利及び負

債に対する義務が付与されているか(共同支配事業)を判断するため

に、取決めの契約条件を調査することである。これは、別個のビーク

ルの法的形態を用いて各当事者の権利が設定されている場合であっ

ても、共同支配の取決めの契約条件により法的形態の影響が打ち消

され、当事者に資産に対する権利及び負債に対する義務が付与され

る場合があり得るためである。この規定は、IFRS第11号がその前身

のIAS第31号(IAS第31号では単純に取決めの法的形態に着目して

いた)と比較して、共同支配の取決めを分類するにあたり、共同支配

の取決めの権利及び義務の内容及び実態により重きを置いているこ

とを追加的に示すものである。

IFRS第11号には、共同支配の取決めで一般的に見られる契約条件

の例が含まれており、それが共同支配事業又は共同支配企業のどち

らの例であるかが示されている。これについては図10にまとめている。

26

共同支配事業 共同支配企業

資産に対する権利 共同支配の取決めに係る資産に対するすべて

の持分(例:権利、所有権又は権原)を、当

事者が所定の割合で共有する。

共同支配の取決めに拠出された資産又は事後的に

取得された資産は、共同支配の取決めの資産であ

る。当事者は、共同支配の取決めの資産に対し、

いかなる持分(すなわち、権利、所有権又は権

原)も有しない。

負債に対する義務 当事者は、すべての負債、義務、コスト及び

費用を所定の割合で負担する。 共同支配の取決めが当該取決めの債務及び義務を

負うと定められている。

当事者が、共同支配の取決めの義務に対して

連帯責任を負う。 共同支配の取決めにおいて、当事者がそれぞれの

投資の範囲のみについて、又は未払込資本もしく

は追加資本を拠出する各自の義務について、ある

いはその両方について責任を負っている。

当事者は第三者が提起した請求について義務

を負う。 共同支配の取決めの債権者は、取決めの債務又は

義務に関して、どの当事者にも遡求権を有さない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

また、IFRS第11号には、共同支配の取決めの契約条件によって、別

個のビークルの形態が変更される例が含まれている。これを設例14で示す。

図10-共同支配の取決めに一般的に見られる契約条件の例

設例14-契約条件による法的形態の変更

AとBは、両社が共同支配を有する会社(C)を共同で立ち上げた。

別個のビークルが存在するという事実と、その別個のビークルの法

的形態(会社)から、当初Cは共同支配企業であると示唆される。

しかし、契約条件には、AとBが特定の割合で、Cの資産に対する権

利を有し、Cの負債に対する義務を有すると定められている。こうし

た条件は、この契約条件は法的形態(会社)の影響を実質的に打ち

消すものである。したがって、Cは共同支配事業となる。

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5.3.1 保証 共同支配の取決めの当事者は、第三者に保証を提供することがある。

例えば、共同支配の取決めの当事者は、次のような内容の保証又は

コミットメントを提供する場合がある。 • 共同支配の取決めによって第三者に提供されるサービスが、一

定の品質又は性質を満たすこと • 第三者からの資金提供を共同支配の取決めが返済すること • 共同支配の取決めの業績が悪化した場合に支援を行うこと

保証(又は保証を行うというコミットメント)を提供することにより、当事

者には負債に対する義務が生じ、よって共同支配の取決めを共同支

配事業に分類すべきであると示唆されると考えることもできる。しかし、

IFRS第11号には、これは正しくないと記載されている。 保証の提供者が、当該保証に基づき支払いを行う又は履行しなけれ

ばならない場合、これは事実及び状況に変更があったこと、又はトリ

ガー事由の発生時に取決めの条件変更が行われたことを示している

かもしれない。こうした変更が生じた場合、取決めについて依然として

共同支配が存在するか否か(第8章参照)、存在するのであれば共同

支配の取決めが共同支配事業と共同支配企業のどちらであるかを再

評価しなければならない。保証を提供している当事者は、当該保証を

引き続きIAS第39号に従って会計処理しなければならない。

27

5.3.2 共同支配の取決めの清算又は解散に関する契約条件 一部の共同支配の取決めでは、共同支配の取決めの運営期間中に

当該活動で使用するように、当事者が共同支配の取決めに資産を拠

出する場合がある。しかし、共同支配の取決めが清算又は解散する

場合、拠出された資産はその資産を拠出した当事者に戻される。この

際に問題になるのが、こうした契約条件により、当事者に資産に対す

る権利が付与されているかどうかということである。付与されているの

であれば、その共同支配の取決めは共同支配事業に分類される。

結論に達するには、関連するすべての事実及び状況を考慮しなけれ

ばならない。例えば、資産を拠出している当事者が、当該資産に対し、

現在行使可能なコール・オプションを有している場合、当事者が共同

支配の取決めに係る資産に対する権利及び負債に対する義務を有し

ているかどうか、すなわち共同支配の取決めが共同支配事業である

か否かを評価するにあたり、その事実を考慮しなければならない。ま

た、当該コール・オプションは、適切なIFRSに従って会計処理する必

要がある。

弊社のコメント

直感に反しているかもしれないが、保証が共同支配の取決めの分

類の決定要因ではないことは、IFRS第11号の原則と整合している。

というのも、保証によって、保証の提供者が取決めの負債に対する

現在の義務を有することはないからである。したがって、保証は負

債に対する義務を有することの決定要因にはならない。

弊社のコメント

共同支配の取決めに拠出された資産を、共同支配企業の清算又は

解散時に資産を拠出した当事者に戻すという契約上の取決めに

よって、当該契約が必ずしも共同支配事業に該当することにはなら

ないと我々は考えている。というのも、拠出した当事者は拠出した資

産を事業の通常の事業の過程において受け取ることを想定してい

ないからである。24ページで述べたように、共同支配の取決めは通

常の事業の過程という意味において分析しなければならない。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

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影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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5.4 その他の事実及び状況 共同支配の取決めの法的形態及び契約条件の暫定評価の結果、共

同支配の取決めが共同支配企業の可能性があると示される場合、当

事者は、自身が資産に対する権利及び負債に対する義務を有してい

ないか(これは共同支配事業の要件である)を判断するために、それ

以外の事実及び状況を考慮しなければならない。

共同支配の取決めを共同支配事業又は共同支配企業のいずれかに

分類するにあたり、共同支配の取決めの目的及び設計を理解するこ

とが非常に重要である。すなわち、以下に該当するか否かを理解する

必要がある。

• 取決めの活動が主として各当事者へのアウトプット(産出物)の提

供を目的にしている(すなわち、各当事者が、別個のビークルで保

有されている資産の経済的便益のほとんどすべてに対する権利

を有している)

• 取決めを通じて行われる活動に係る負債の決済について、継続

的に各当事者に依存している

共同支配の取決めが上記両方の特徴を有する場合、当該共同支配

の取決めが共同支配事業であることが示唆される。一定のケースで

は、これらの要件が満たされているか否かを評価するにあたり、判断

が必要となる。図11では、これらの要因が共同支配の取決めにどの

ような形でみられる可能性があるかを説明している。

設例15(IFRS第11号を要約)では、法的形態及び契約条件により共

同支配の取決めが共同支配企業であると示される場合であっても、

事実及び状況により、共同支配の取決めが共同支配事業であると示

唆される可能性がある場合を説明している。

28

共同支配事業 共同支配企業

アウトプットの販売制限 当事者以外の第三者にアウトプットを販売することが制限されている

そのような制限は存在しない。他の当事者にアウトプットを販売できる

アウトプットの購入義務 当事者は(それぞれが、又は集団で)生産されたアウトプットのほとんどすべてを購入しなければならない

そのような義務は存在しない。他の当事者がアウトプットを購入する可能性がある

負債の支払いのためのキャッシュ・フローの原資

共同支配の取決めの当事者 第三者(アウトプットの購入を通じて)

予想される財務業績 利益がゼロ、又は(当事者により補填される)損失が出るように設計されている

利益が出るように設計されている

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図11-その他の事実及び状況

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設例15-事実及び状況による法的形態の修正

AとBは、AとBが共同支配を有する会社(C)を立ち上げる。Cは会社であるため別個のビークルが存在する。法的形態による評価では、Cの保

有する資産及び負債がCの資産及び負債であり、よってCは共同支配企業であることが示唆される。契約条件による評価において、A及びBが資産に対する権利及び負債に対する義務を有することを示す契約条件は存在しないことから、当該共同支配の取決めはこの点においても共

同支配企業であることが示唆されるようにも思える。

しかし、AとBは以下に合意している。

• AとBは、Cが生産するアウトプットのすべてを50:50の割合で購入する。

• Cは、A及びBの承認なくしてアウトプットを第三者に販売することはできない。取決めの目的は、AとBに対して両者が必要なアウトプットを

提供することであるから、第三者への販売は稀であり、重要ではない。

• AとBに販売されるアウトプットの価格は、AとBが設定しており、Cに発生した生産コストと管理費をカバーするように計算されている。この取

決めは、利益を出さないように運営することが意図されている。

分析 • A及びBがC の生産するアウトプットのすべてを購入する義務は、C がキャッシュ・フローの生成をもっぱら各当事者に依存していることを表

しており、したがって、A及びBはC の負債の決済資金を提供する義務を有している。

• A及びBがC の生産するアウトプットのすべてに対する権利を有しているという事実は、A及びBがC の資産の経済的便益のすべてを消費し

ており、したがって、それらに対する権利を有していることを意味している。

前提条件の一部を変更した場合(ケース1)-AとBが、Cから購入したアウトプットの持分相当を自己で使用するのではなく、それを第三者に販

売した場合であっても、取決めは共同支配事業である。

前提条件の一部を変更した場合(ケース2)-取決めがアウトプットを第三者に販売できるようにするため、AとBが契約上の取決めの条件を変

更した場合は、Cが需要、在庫及び信用リスクを引き受けることになり、AとBは実質的にすべての経済的便益を有しないことになる。したがって、

こうした事実及び状況は、当該取決めが共同支配企業であることを示すこととなる。

29

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影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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5.4.1 1名の当事者のみがアウトプットを得る場合 IFRS第11号の設例と分析では、共同支配の取決めのすべての当事

者がアウトプットを共有する共同支配の取決めが取り上げられている。

しかし、1名の当事者のみがアウトプットのすべてを受領する場合もあ

る。例えば、次のような場合である。 • 1名の当事者が、共同支配の取決めの活動である事業を行なっ

ていない場合(例:現地政府が外国企業と共同支配を有している

場合)。一般に、アウトプットを受領しない当事者は、共同支配の

取決めにおけるそれぞれの持分に比例して、他の方法により補

填される。 • すべてのアウトプットを受領する当事者が、共同支配の取決めの

他の当事者の代理人であり、他の当事者に代わって行動してい

る場合。

弊社のコメント

上記のようなケースでは、まず、共同支配が実際に存在することを

確認しなければならない。事実及び状況の評価により、すべてのア

ウトプットを受領する当事者が取決めを支配していると示されるかも

しれない。

しかし、共同支配が存在するのであれば、これは共同支配事業に

該当する可能性が高い。というのも、取決めの資産の経済的便益

のほとんどすべてに対する権利を、当事者が集団で有しているから

である。我々は、資産の性質は各当事者で異なると考えている。す

なわち、一方の当事者は有形のアウトプットを受領し、もう一方の当

事者は金融資産を受領しているが、両当事者ともに、共同支配の取

決めの純資産に対する権利ではなく、共同支配の取決めに係る資

産に対する権利及び負債に対する義務を有している。

5.4.2 当事者がキャッシュ・フローを提供するか否かを評価する 上記で説明したように、IFRS第11号では、共同支配の取決めが負債

の決済に関し、継続的に当事者に依存している場合、これは共同支

配事業であることの指標になると述べられている。

この場合、当事者が共同支配の取決めの締結時にキャッシュ・フロー

を提供しているが、その後はキャッシュ・フローの提供が予定されてお

らず、活動が終了するまでそれ以外のいかなる当事者もキャッシュ・フ

ローを提供することが想定されていない場合、当事者が「実質的に

キャッシュ・フローの唯一の原資である」とみなされるかどうかという疑

問が生じる。あるいは、当事者は、取決めの期間を通じて行われる一

連の「現金支出の要請(cash call)」によりキャッシュ・フローを提供す

る可能性がある。

IFRS第11号からの抜粋

B31 共同支配の取決めの活動が主として各当事者へアウトプット

を提供するために設計されている場合、これは、当該取決め

の資産の経済的便益のほとんどすべてに対する権利を当事

者が有していることを示している。このような取決めの当事者

は、当該取決めで第三者へのアウトプットの販売を禁止するこ

とにより、当該取決めが提供するアウトプットに対するアクセス

を確保することが多い。

B32 このような設計及び目的を有する取決めの効果は、当該取決

めに生じた負債が、実質上、各当事者からアウトプットの購入

を通じて受け取るキャッシュ・フローで充足されることである。

各当事者が、当該取決めの営業活動の継続に貢献している

キャッシュ・フローのほぼ唯一の源泉である場合、これは各当

事者が当該取決めに係る負債に対する義務を有していること

を示している。

30

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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弊社のコメント

我々は、当事者が共同支配の取決めの締結時にキャッシュ・フローを提供しており、活動が終了するまでそれ以外のいかなる当事者もキャッ

シュ・フローを提供することが想定されていない場合、当該当事者が取決めの存続期間中のキャッシュ・フローの唯一の原資であるという事実

によよって、共同支配の取決めが共同支配事業に該当することにはならないと考えている。これは、当事者が継続的に現金を提供していない

からであり、通常の事業の過程において共同支配の取決めの負債に関する資金供給義務を負うことが想定されていないからである。同様に、

一連の「現金支出の要請」を通じて現金を提供するという要件又は期待があったとしても、必ずしも共同支配の取決めが共同支配事業である

ことにはならない。こうした状況については、設例16で説明している。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

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IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例16-建設及び不動産の販売

事例-2名の当事者が共同支配を有する別個のビークルが設立される。共同支配の取決めの法的形態又は契約条件のいずれによっても、当

事者には取決めに係る資産に対する権利又は負債に対する義務は与えられない。その他の事実及び状況は次のとおりである。 • 共同支配の取決めの目的は、住宅ユニットを一般に販売するために、共同住宅を建設することである。 • 当事者が拠出した資本は、土地を購入し、建設資金のために第三者から借入を行うのに十分である。 • 売上入金は、次のように使われる(上から順番で)。

• 外部からの借入の返済 • 残りの利益は当事者に分配

分析-別個のビークルが存在し、共同支配の取決めの法的形態又は契約条件のいずれによっても、当事者には当該事業体に係る資産に対

する権利又は負債に対する義務は与えられないことから、暫定評価では共同支配企業であると示される。締結時に、当事者がキャッシュ・フ

ローの唯一の原資であるからといって、それは必ずしも当該共同支配の取決めが共同支配事業であることにはならない。当事者は、外部から

の借入を返済した後、初めて純利益を受け取るため、事実及び状況の中に、当事者が資産に対する権利又は負債に対する義務を有している

ことを示すものは存在しない。したがって、これは共同支配企業に該当する。

前提条件の一部を変更した場合-拠出された資本が、土地を購入し、借入を行うにあたり十分ではないものとする。この場合、当事者が、一連

の「現金支出の要請」を通じて共同支配の取決めに現金を提供しなければならないという期待又は要求が存在する。一連の「現金支出の要請」

により、当事者が取決めに寄与するキャッシュ・フローの実質的に唯一の原資であることが示唆されるか否か、よって当事者が取決めに係る負

債に対する義務を有しているか否か(すなわち、取決めが共同支配事業であるか否か)の決定は、判断の問題である。依然として、純資産に対

する権利が当事者に与えられると判断されるのならば、当該取決めは共同支配企業となる。

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共同支配事業に関し、共同支配事業者は以下を認識する。 • 自らの資産(共同で保有する資産に対する持分を含む)

• 自らの負債(共同で負う負債に対する持分を含む)

• 共同支配事業から生じるアウトプットに対する持分の売却による

収益

• 共同支配事業から生じるアウトプットの売却による収益に対する

持分

• 自らの費用(共同で負う費用に対する持分を含む)

これらの各項目の会計処理及び測定は、「適用される適切なIFRSに従って」行われる。

共同支配事業の資産に対する権利及び負債に対する義務(又は資産、

負債、収益及び費用に対する持分)があれば、その内容に注意を払

わなければならない。すなわち、共同支配の取決めにより、共同支配

事業者には実際にどの権利が与えられ、何に対して責任を負ってい

るかということである。

例えば、共同支配事業者のうちの一当事者は、共同支配事業の特定

の負債残高総額に対して、直接の法的責任を有している場合がある。

また、この当事者は、共同支配事業の当該負債に関する他の当事者

の負担分について、当該他の当事者に対して求償権を有する場合が

ある。この状況は、当該共同支配事業者が共同支配事業の管理者で

ある場合に生じることが多い。

債務残高総額に対して責任を負う共同支配事業者は、当該負債の

100%を認識し、当該負債のうち他の当事者の負担分に相当する求

償権を債権として認識する。IFRSは、当該負債を当該債権と相殺す

ることを禁じている。しかし、ほとんどの場合、負債と債権が同じ金額

であるならば、財政状態計算書への計上額が増加する点を除き、財

務諸表(例えば包括利益計算書)にマイナスの影響が生じることはな

い。なぜなら、他の当事者が当該負債に対する各自の負担分を、共

同支配事業者に返済する能力又は意思に疑いが生じる可能性は少

ないからである(特に現金支出の要請が事前に行われている場合)。

しかし、他の当事者が支払いを行うことができない場合もある。そのよ

うな場合、共同支配事業者は求償分全額について債権を認識するこ

とはできない。すなわち、債権が減損している(又は計上された負債よ

り少ない)ため、この状況では共同支配事業者の財務諸表(例えば包

括利益計算書)にマイナスの影響が及ぶことになる。

共同支配の取決め(又は該当する場合は別個のビークルの法的形

態)により、取決めの義務について連帯責任が存在する場合がある。

この場合、共同支配事業者は、自らの持分相当額だけでなく債務全

額を認識しなければならない可能性がある。ケースごとに事実及び状

況を評価したうえで、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」

に従って会計処理しなければならない。

共同支配の取決めの当事者は、他の当事者が有する求償権に対し

て返済義務を有する場合、求償権の対象となる費用の種類に関係し

た負債ではなく、金融負債を認識する。

共同支配事業によっては、共同支配事業者のうちの一当事者が共同

支配事業の管理業務等を提供することに対し、他の共同支配事業者

から報酬を受け取ることがある(これは、共同支配事業者のうちの一

当事者が共同支配事業の管理者である場合にみられることが多い)。

IAS第31号では、そうした当事者は、受領した報酬をIAS第18号「収

益」に従って会計処理することが求められている。この規定はIFRS第11号では同様に定められていないものの、これは、そのような記述が

なかったとしても、そうした報酬を受領する当事者が当該報酬をIAS第18号に従って会計処理することは明らかであるからだと思われる。

弊社のコメント

共同支配事業者にとって、共同支配の取決めを、その事後的な修

正や付録部分も含め、詳細に見直すことが極めて重要である。共同

支配事業者は、共同支配の取決めに含まれる権利及び義務と、そ

れらの権利及び義務がどのように当事者間に割り当てられている

かを十分に理解することが必要となる。

ある共同支配事業者が、共同支配事業の債務残高総額に対する

責任を負っているために、負債の100%を認識することを要求される

場合、通常、財政状態計算書の純資産及び包括利益計算書の利

益の額がマイナスの影響を受けることはない。これは、共同支配事

業者が通常、他の共同支配事業者に対する別個の債権を同時に

認識し、かつこれらの債権が通常は回収可能であるためである。し

かし、共同支配事業者は、財政状態計算書の計上額が大きくなるこ

とによるレバレッジ又はギアリング比率へのマイナスの影響を考慮

しなければならない。

32

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

第6章 共同支配事業の会計処理

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6.1 比例連結との違い 共同支配事業の会計処理が、IAS第31号に基づきJCEを会計処理する場合に用いることができる「比例連結」と同じであるかどうかについて、混

乱が生じることがよくある。したがって、以前はJCEに該当し、IFRS第11号の下では共同支配事業に分類される共同支配の取決めに関し、IFRS第11号を適用することによって共同支配事業者の財務諸表に影響が及ぶのかどうかが明確ではない場合がある。

IFRS第11号結論の根拠からの抜粋

BC38 共同支配事業の当事者の持分の会計処理に関して、ED9へのコメント提出者の一部は、比例連結は、共同支配事業から生じる資産、

負債、収益及び費用の認識(又はそれらに対する持分相当額の認識)とどのように異なるのかと質問した。当審議会は、共同支配事業

の活動に係る資産、負債、収益及び費用の認識と、比例連結との間には、2つの主要な相違点があることに留意した。第1の相違点は、

契約上の取決めで定められた、企業が共同支配事業に係る資産、負債、収益及び費用に関して有する権利及び義務は、共同支配事

業に対する所有持分とは異なる可能性があることである。本基準が、共同支配事業に対する持分を有する企業に要求しているのは、資

産、負債、収益及び費用の認識を、契約上の取決めで決定され定められた当該共同支配事業の資産、負債、収益及び費用に対する企

業の持分相当額に応じて行うことであり、資産、負債、収益及び費用の認識を企業が当該共同支配事業に対して有する所有持分に基

づいて行うことではない。比例連結との第2の相違点は、共同支配事業への各当事者の持分が個別財務諸表で認識されることである。

したがって、各当事者の個別財務諸表及び連結財務諸表又は投資を持分法で会計処理する財務諸表において、認識される内容に相

違がない。

33

共同支配事業者が、すべての資産及び負債の一定割合に対する権

利及び義務を有している場合、共同支配事業の会計処理と比例連結

との間に実務上相違はないと考えられる。

しかし、共同支配事業者が、さまざまな資産に対して異なる権利(及び

割合)を有し、かつ/又はさまざまな負債に対して異なる義務を負う場

合には、それらの個々の権利及び義務を会計処理した結果は、すべ

ての資産及び負債に対する単純割合を会計処理する比例連結の場

合と大きく異なることになる。設例17では、IFRS第11号に基づく共同

支配事業の会計処理を説明している。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

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影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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7.1.2 組成された企業におけるサイロの識別 組成された企業が保有し、証券化している資産が、IFRS第10号の下ではサイロとみなされる場合がある。この判断は、個々のケースの事実及

び状況によって決まる。この点を設例18で説明する。

設例17-資産に対する権利及び負債に対する義務の会計処理

D及びEは、別個のビークルを使い、共同支配の取決め(F)を立ち上げる。ただし、別個のビークルの法的形態により、当事者と別個のビークル

そのものは分離されない。すなわち、D及びEは、Fに係る資産に対する権利及び負債に対する義務を有する(Fは共同支配事業である)。契約

上の条件とその他の事実及び状況のいずれによっても共同支配の取決めが共同支配事業ではないことは示されない。したがってD及びEは、

関連するIFRSに従い、Fの資産に対するそれぞれの権利及び負債に対するそれぞれの義務を会計処理する。

D及びEは、それぞれFの持分(例;株式)の50%を保有している。しかし、共同支配の取決めの契約条件には、Dが、建物No.1のすべてに対す

る権利と、Fの第三者借入のすべてを支払う義務を有している。それ以外のすべての資産に対する権利及びすべての負債に対する義務は、D及びEの保有する持分の割合(すなわち50%)に応じて有している。

Fの財政状態計算書は次の通りである(単位:CU)。

IFRS第11号に基づくと、Dは、Fの資産に対する自らの権利とFの負債に対する自らの義務を会計処理するにあたり、財務諸表に次のような金

額を計上することになる。これは、比例連結を用いて計上される金額とは異なる可能性がある。

(1) Dは建物No.1に付随する権利のすべてを有しているため、その全額を計上する。

(2) Dの義務は、第三者借入全体に対するものである。

34

弊社のコメント

資産及び負債に対する共同支配事業者の持分相当額を認識する場合と比べ、比例連結に基づく資産及び負債は、表示と測定のどちらにおい

ても異なる可能性がある。したがって経営者は、IFRS第11号適用の影響を評価するため、契約の条件を注意深く分析しなければならない。

資産 負債及び資本

現金 20 借入金 120 建物No.1 120 従業員給付債務 50 建物No.2 100 資本 70 資産合計 240 負債及び資本合計 240

資産 負債及び資本

現金 10 借入金(2) 120 建物No.1(1) 120 従業員給付債務 25 建物No.2 50 資本 35 資産合計 180 負債及び資本合計 180

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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6.3 共同支配を有しない共同支配事業の当事者 共同支配事業に関与している当事者が、共同支配を有しないケース

が存在する。すなわち、当事者が共同支配事業者でない場合である。

IFRS第11号では、このような当事者が、資産に対する権利及び負債

に対する義務を有する場合、上記で説明した共同支配事業者の会計

処理と同じになると述べられている。

一方、このような当事者が、共同支配事業に関連する資産に対する

権利及び負債に対する義務を有しない場合、共同支配事業に対する

持分は、例えば下記のように、他の関連するIFRSに従って会計処理

する。 • 当事者が重要な影響力を有する、別個のビークルに対する持分

-IAS第28号を適用 • 当事者が重要な影響力を有しない、別個のビークルに対する持

分-当該持分を金融資産として会計処理 • 別個のビークルの形態を取らない取決めに対する持分-他の適

切なIFRSを適用する

共同支配の取決めが共同支配事業に該当し、かつ当事者が共同支

配事業に係る資産に対する権利及び負債に対する義務を有する場合

には、共同支配の取決めの当事者が共同支配を有するか否かに関

係なく、結局、会計処理は同じになる。

しかし、IFRS第12号は当事者が重要な影響力を有する場合を除き、

当事者が共同支配を有しない共同支配の取決めには適用されないた

め、開示規定は異なることになろう。開示規定については第9章で説

明している。

6.4 非支配持分/受動的な投資家が存在する共同支配事業 共同支配事業は別個のビークルを通じて行われる場合があるため、

別個のビークルに対する所有持分を有するが、共同支配は有しない

当事者が共同支配事業には存在する場合がある(すなわち受動的な

投資家)。

そのような場合、共同支配事業者は、非支配持分/受動的な投資家に

帰属する資産に対する権利及び負債に対する義務を認識せず、非支

配持分も認識しない。共同支配事業者は、共同で保有する資産に対

する自らの持分及び共同で負う負債に対する自らの持分のみを認識

する。これについては設例18で説明している。

6.2 関連するIFRSを判断する 共同支配事業者は、資産に対する自らの権利と負債に対する自らの

義務を、「関連するIFRS」に従って認識することを求められている。

「関連するIFRS」が明確な場合もあるが、それ以外の場合には疑問

が生じる。 IFRS第11号中の共同支配事業に関する設例では、「使用権」を認識

するのではなく、資産に対する共同支配事業者の持分を認識すると記

載されている(例:有形固定資産、売掛金、現金、生産物の取り分)。

弊社のコメント

共同支配事業者は、適切な会計処理を決定するにあたり、資産に

対する自らの権利の内容を慎重に分析しなければならない。

例えば、共同支配事業者は、必要に応じてIAS第16号「有形固定

資産」又はIAS第38号に従い、資産に対する自らの持分を認識する。

共同支配事業の契約条件により、共同支配事業者に資産自体に対

する持分ではなく、資産を使用する権利が与えられている場合、当

該共同支配事業者は、IFRIC第4号「契約にリースが含まれている

か否かの判断」を適用する。

IFRS第11号の結論の根拠からの抜粋

BC39 コメント提出者は、共同支配事業の資産に対する持分相当

額の会計処理に関する要求事項をより明確に記述すること

も提案した。ED 9への多くのコメント提出者は、資産に対す

る権利を有する共同支配事業の当事者が認識すべきなのは、

「使用する権利」なのか「共有する権利」なのか、あるいは

「資産の内容に応じて分類した、共同の資産に対する持分相

当額」を直接的に認識すべきなのかが明確に理解できな

かった。この不明確さにより生じた懸念は、これらの解釈(す

なわち、権利の会計処理なのか、資産に対する持分相当額

の会計処理なのか)の会計上の影響の相違である。当審議

会は、共同支配事業の当事者は、その資産又は資産に対す

る持分相当額を、具体的な資産に適用される IFRS に従って

認識すべきだと結論を下した。

35

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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IAS第31号では、所有に伴うリスクと経済価値がジョイント・ベン

チャーに移転された場合にのみ、他の共同支配投資企業に帰属する

利得又は損失部分の認識が容認されていたが、IFRS全体を通じて

「リスク及び経済価値」モデルから「支配」モデルに移行しているため、

IFRS第11号にはそのような規定は含まれていない。

6.5 共同支配事業者と共同支配事業の間の取引 IFRS第11号は、共同支配事業者と共同支配事業の間の取引を取り

扱っているが、これらの取引の会計処理に関する規定は、IAS第31号で要求されていた会計処理と比べ、若干変更されている。

弊社のコメント

共同支配事業者と共同支配事業の間に取引が存在する場合、取

引により共同支配事業者の資産に対する権利及び負債に対する義

務の内容に変更が生じるのかどうかを考慮しなければならない。変

更が生じるような場合、それは共同支配事業者の財務諸表におい

て、新たな資産及び負債に関連するIFRSに従って会計処理される

ことになる。

これらの規定では、共同支配を有しない共同支配事業の当事者(例

えば共同支配事業の受動的投資家)について具体的に言及してい

ないが、そうした状況でも同じ会計処理を使うことが適切であると考

えられる。

36

IFRS第11号からの抜粋

B34 企業が、自らが共同支配事業者である共同支配事業と資産

の売却又は拠出などの取引を行う場合には、共同支配事業

の他の当事者との取引を行っているのであり、そのようなもの

として、当該共同支配事業者は、そうした取引から生じる利得

及び損失の認識を、当該共同支配事業に対する他の当事者

の持分の範囲でのみ行わなければならない。

B35 こうした取引が、共同支配事業に売却又は拠出される資産の

正味実現可能価額の減少、又はそれらの資産の減損の証拠

を提供している場合には、当該損失の全額を共同支配事業

者が認識しなければならない。

B36 企業が、自らが共同支配事業者である共同支配事業と資産

の購入などの取引を行う場合には、当該資産を第三者に再

販売するまで、利得及び損失に対する持分を認識してはなら

ない。

B37 こうした取引が、共同支配事業から購入する資産の正味実現

可能価額の減少、又はそれらの資産の減損の証拠を提供し

ている場合には、共同支配事業者は当該損失に対する持分

を認識しなければならない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例18-非支配持分/受動的な投資家が存在する共同支配事業

A及びBは、別個のビークルを用いて共同支配事業Zを立ち上げる。A及びBのそれぞれは別個のビークルに対し40%の持分を保有している。

Zの残りの20%はCが保有しているが、Cは共同支配の取決めの当事者ではないため、Zに対する共同支配を有しておらず、受動的な投資家と

みなされる。別個のビークルの法的形態により、当事者と別個のビークルそのものは分離されない。すなわち、A及びBは、Zの資産に対する権

利及び負債に対する義務を有する(Zは共同支配事業である)。契約上の条件とその他の事実及び状況のいずれによっても共同支配の取決め

が共同支配事業ではないことは示されない。したがってA及びBは、関連するIFRSに従い、自らの資産(共同で保有する資産に対する持分を含

む)及び自らの負債(共同で負う負債に対する持分を含む)を認識する。

Aの財務諸表では、関連するIFRSに従い、自らの資産、負債、収益及び費用を認識する。これは、Zの資産、負債、収益及び費用の単に40%になることもある。AはZに関係する非支配持分を認識しない。

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IFRS第11号を公表した大きな理由の1つは、JCEを比例連結する方

法を廃止することにより、米国会計基準とのコンバージェンスを達成

することにあった。IFRS第11号では、共同支配企業(IAS第31号の下

ではJCEであった可能性が高い)は、持分法を使って会計処理される

ことになる。

IFRS第11号は、どのように持分法を適用するかについては定めてい

ない。企業は、IAS第28号にしたがい、共同支配企業に対して持分法

を適用することになる。これらの企業の資産、負債、収益及び費用は

すべて、「共同支配企業に対する投資」という1つの表示科目に表示さ

れ、共同支配投資者は純損益及びその他の包括利益の変動に対す

る自らの持分を認識する。なお、経過措置については第10章で説明

している。持分法の適用についての詳細は、「国際会計の実務」上巻5

を参照されたい。

IAS第28号は、実質的に、所有持分に関連した「リターン」を現時点で

与えている所有持分に言及していることに留意しなければならない。

2011年改訂前のIAS第28号は「経済的便益」に言及していた。これ

は、IFRS第10号によってもたらされた変更と整合している(「IFRS第10号 適用時の課題」の第4章参照)。

セクション2.1で説明したように、ベンチャー・キャピタル組織は、IAS第31号の場合と同じように、共同支配企業に対する投資を公正価値

で測定することを選択できる。これは、IFRS第11号における適用範囲

に関する除外規定ではなく、測定に関する免除規定であると考えられ

る。すなわちそうした企業は、第9章で説明しているように、共同支配

企業に関する開示規定の適用対象となる。また、IAS第31号に含ま

れていたその他の規定に関して、場所が移動されているものもあるの

で留意されたい(図2を参照)。

第7章 共同支配企業の会計処理

7.1 共同支配を伴わない共同支配企業に対する持分 投資者が共同支配企業に対する共同支配を有しないが、重要な影響

力を有する場合、IAS第28号が適用され、また、関連会社に関する開

示を行う。

投資者が重要な影響力を有するが、共同支配企業(joint venture)が企業(entity)ではない(しかし別個のビークル(separate vehicle)ではある)場合、IAS第28号は適用されず、投資者は関連するIFRSを適用する。

投資者が重要な影響力を有しない場合、共同支配企業に対する持分

は金融資産として会計処理される。

7.2 共同支配企業への非貨幣性資産の拠出 以前、共同支配企業への非貨幣性資産の拠出は、SIC第13号に基

づき会計処理されていた。IFRS第11号に関連する改訂として、SIC第13号の規定がIAS第28号に含められた結果、当該規定は関連会社

への非貨幣性資産の拠出にも適用される。したがって、共同支配投

資者が共同支配企業に対する持分と引き換えに共同支配企業に非

貨幣性資産又は負債を拠出する場合、共同支配投資者は、共同支配

企業の他の当事者に帰属する利得又は損失部分を認識する。ただし、

当該拠出が経済的実質を欠いている場合を除く。

IAS第28号を改訂するにあたり、IASBは、「リスクと経済価値」という

概念がIFRS第11号の原則(支配に基づくモデル)と整合していないと

して、SIC第13号で求められていた、所有に伴う重要なリスクと経済価

値が共同支配企業に移転されるという規定を取り除くことを決定した。

IASBはまた、「財務報告の概念フレームワーク」に含まれているとい

う理由から、利得又は損失を信頼性をもって測定できなければならな

いとする要件も削除した。

拠出された非貨幣性資産が企業の子会社である場合、IAS第28号の

規定とIFRS第10号の規定の間に矛盾が生じる。これについてはセク

ション8.2.3で説明している。

37

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

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影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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IFRS第11号には、IFRS第10号の規定と整合するように、継続的な

評価の概念が組み込まれている。本章では、どのような場合に再評

価を行うか(セクション8.1)、また、所有する持分の内容に変更があっ

た場合の会計処理(セクション8.2から8.4)について説明する。

事実及び状況に変更が生じた場合、当事者は以下を再評価する。 • 取決めに対する共同支配を依然として有しているか否か • 共同支配の取決めに関する分類の変更が生じているか否か

8.1 IFRS第11号の下ではどのような場合に再評価を行うか IFRS第11号には、共同支配を有するか否か、又は共同支配の取決

めの種類を再評価する具体的な状況は定められていない。そのため、

それらの決定に関連しうる事実及び状況に変更が生じた場合に、当

事者は再評価を行う。事実及び状況の変更により、ある当事者が取

決めに対する支配を有することになる(よって単一の当事者が支配を

有するため、共同支配の取決めではなくなる)場合がある。また、取決

めは引き続き共同支配されるが、共同支配企業から共同支配事業

(又はその逆)にその分類が変更になる場合もある。個々のケースご

とに、その事実及び状況に基づいて慎重に評価を行う必要がある。

共同支配の取決めの再評価は、以下に変更が生じた場合に行わな

ければならない。 • 活動が指図される方法-例えば、新しい製品又は技術を開発す

るためにAはZを立ち上げる。当初Zには株主によって選出された

取締役会、独立した経営陣などが存在し、関連性のある活動はAが独占的に保有する議決権によって指図されていた。AがBと取

決めを締結し、AとBがすべての決定に同意しなければならなく

なった場合(例:AとBが取締役会に取って代わり、経営に関して

決定を行う場合)には、AとBがZに対する共同支配を有するか否

かを再評価しなければならない。

第8章 継続的な評価

• 法的形態-例えば、当初、当事者と事業体とが分離されていな

かった別個のビークル(例:ジェネラル・パートナーシップ)が、当

事者と事業体とが分離される別個のビークル(例:リミティッド・

パートナーシップ)に変更されたとする。これにより、共同支配事

業から共同支配企業に分類が変更されることが示唆されるかどう

か再評価する必要がある。

• 契約条件-例えば、共同支配の取決めの条件が再交渉され、当

事者が資産に対する権利又は負債に対する義務を有することに

なったとする。これにより、共同支配事業へ分類が変更されること

が示唆されるかどうか再評価する必要がある。

• その他の事実及び状況-例えば、共同支配事業の条件が再交

渉されるとする。当初、共同支配の取決めは、共同支配の取決め

の当事者にしかアウトプットを販売することができなかった。その

後、共同支配の取決めは第三者である顧客にもアウトプットを販

売できるようになった。これにより、共同支配事業から共同支配企

業に分類が変更されることが示唆されるかどうか再評価する必要

がある。

セクション5.3.1で説明しているように、再評価が必要となる可能性の

ある事象として、保証人が保証に基づき支払いを行わなければならな

い(又は履行しなければならない)場合も挙げられる。

IFRS第11号の適用後に、共同支配企業及び共同支配事業に対する

所有持分の変動から生じる会計処理の変更について、それぞれ8.2及び8.3で説明している。第10章では、IFRS第11号への移行に伴い

生じる会計処理の変更について説明している。

38

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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8.2 共同支配企業に関する所有持分の変動 共同支配企業に関する所有持分の変動の会計処理は、所有持分の変動が生じる前に保有していた持分の種類によって決まる。セクション

8.2.1では、以前にまったく持分を保有していなかった場合の共同支配企業に対する持分の取得について説明している。また、セクション8.2.2から8.2.6では、以前から保有していた持分の変動について説明している。図12では、共同支配企業に関する所有持分の変動について、想定され

るケースを説明している。

図12-共同支配企業に関する所有持分の変動 共同支配企業に関する所有持分の変動の会計処理を説明している箇所は、所有持分の変動の前と後に保有する持分の種類をつなぐボックス

の中に示している。

39

8.2.1 共同支配企業に対する持分の取得 共同支配企業に対する持分の取得は、IAS第28号に基づき会計処

理する。これについては、 「国際会計の実務」上巻5 で詳しく説明して

いる。

一部の手続は、事業の取得に適用されるIFRS第3号の手続と類似し

ているが、IFRS第3号の適用範囲に鑑みると、共同支配企業の設立

がIFRS第3号の適用対象に含まれないのは明らかである。

8.2.2 以前は共同支配企業であった投資先に対する支配の獲得 企業が以前は共同支配企業であった投資先に対して支配を獲得する

場合、被取得企業が事業の定義を満たしているのであれば、IFRS第3号を適用する。満たしていない場合、企業はIFRS第3号の第2項(b)を適用し、資産を公正価値の比率に基づき測定する。IFRS第3号の

適用の詳細に関しては、 「国際会計の実務」上巻5 を参照されたい。

IFRS第11号に関連して行われたIFRS第5号「売却目的で保有する非

流動資産及び非継続事業」及びIFRS第28号に対する改訂の結果、

共同支配投資者が、共同支配企業に対する持分の一部を処分するこ

とを計画している場合、処分する部分の持分が売却目的保有への分

類要件を満たすならば、当該部分のみを売却目的保有に振り替える。

共同支配企業に対する残存持分は、売却する持分を実際に処分する

まで、引き続き持分法を用いて会計処理する。これは、売却する持分

を(処分する前ではなく)実際に処分する時点まで、企業が共同支配

企業に対する持分全体を引き続き共同支配しているためである。処

分した時点で残余持分の内容を再評価し、それに応じて(例えば、金

融資産として)当該持分を会計処理する。

共同支配企業に対する持分(又は持分の一部)が売却目的保有への

分類要件を満たさなくなった場合、当該持分は、売却目的保有に分類

された日に遡って持分法により会計処理される。

子会社 共同支配企業 関連会社 金融資産 持分なし

支配の獲得(8.2.2参照) 支配の喪失(8.2.3参照)

セクション8.2.4参照

セクション8.2.5参照

共同支配の獲得―セクション8.2.1参照 共同支配の喪失―セクション8.2.6参照

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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40

8.2.4 共同支配企業が関連会社になる場合(又はその逆) 共同支配投資者が、IFRS第11号及びIAS第28号の適用後に、共同

支配を喪失するが、関連会社に対する持分を引き続き保有する場合、

当該企業は引き続き持分法を適用することになる。ただし、IAS第31号及びIAS第28号の従前の規定とは異なり、企業は、共同支配企業

に対する共同支配を喪失した際、関連会社に対する残存持分を再測

定しない。同様に、以前その他の包括利益に認識され、資本に累積し

ていた金額(例:累積為替差額)を振り替えることはしない。

IAS第28号の結論の根拠においてIASBは、投資者-投資先の関係

の性質は、共同支配企業から関連会社(又はその逆)に変更となった

時点で変化することを認識している。しかし、当該投資は引き続き持

分法を使って会計処理され(すなわち、測定規定に変更はない)、これ

はグループの変更に該当しないため、残存持分を公正価値で再測定

しなければならない事象ではない。

移行時に生じるこの変更に関する論点については、セクション10.6.4で詳しく説明している。

8.2.5 共同支配企業が金融資産になる場合(又はその逆) 共同支配企業が金融資産になる(又はその逆の)場合、測定方法は

変更される。企業は、当該金融資産に対する残存持分を公正価値で

測定し、それが金融資産として当初認識する際の公正価値となる。

企業は、下記の2つの項目の差額を純損益に認識する。

• 残存持分の公正価値、及び共同支配企業に対する持分の一部を

処分したことによる受取金 • 持分法の適用を中止した日時点の、共同支配企業に対する持分

の帳簿価額

企業が投資に関連してその他の包括利益に認識していた金額のすべ

てを、仮に投資先が関連する資産又は負債を直接処分したとした場

合に要求されるのと同じ基礎で会計処理する。例えば、資本に累積さ

れた累積為替差額に関連する利得及び損失は、純損益に振り替えら

れる。

8.2.3 以前は子会社であった投資先が共同支配企業になる場合 以前は子会社であった投資先が共同支配企業になる場合、この取引

において発生する利得又は損失をどのように計算するかに関し、IAS第28号の規定とIFRS第10号の規定の間に不整合が生じる。この不

整合は、親会社が共同支配企業に子会社を拠出し(又は子会社に対

する支配を喪失し、子会社がその後、共同支配企業になる)、それと

引き換えに当該共同支配企業に対する所有持分を受領する場合に

生じる。例えば、親会社が子会社の株式を他の当事者に売却し、取

決めが共同支配企業になる場合、又は希薄化により(すなわち、子会

社が別の当事者に新株を発行し、取決めが共同支配企業になる場

合)生じる場合である。

IFRS第10号を適用すると、企業が子会社に対する支配を喪失し、共

同支配企業に対する共同支配を獲得する場合、企業は以下を行うこ

とになる(IFRS第10号アプローチ)。

• 連結財政状態計算書から、以前の子会社の資産及び負債(関連

するのれん及び非支配持分を含む)の認識を中止する。 • 受領した対価の公正価値を認識する。 • 所有者に対する子会社株式の分配を認識する。 • 共同支配企業に対して引き続き有する投資を、支配喪失時点の

公正価値で認識し、その後IFRS第11号及びIAS第28号に従って

会計処理する(当該公正価値を持分法におけるみなし原価とす

る)。 • 当該子会社に関連してその他の包括利益に認識された金額を、

(適切なIFRSに基づき)純損益または利益剰余金に振り替える。 • この結果発生する利得又は損失は、すべて認識する。

一方、セクション7.2で説明したように、IAS第28号が適用されると、共

同支配企業に子会社が拠出された場合には、認識される利得が制限

される(IAS第28号アプローチ)。IFRS解釈指針委員会(以下、解釈指

針委員会)は、IFRSに存在するこの不整合を認識しており、この論点

を検討するようIASBに提言している。

弊社のコメント

IFRSが明瞭性を欠いていることから、企業はそうした状況において

適切な会計処理方法を選択する必要がある。それに応じて、利得

は損失のすべて又は一部のいずれかが認識されることになる。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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8.3.1 共同支配事業に対する持分の取得 共同支配事業に対する持分の取得に関し、IFRS第11号には明示的

な規定はないが、これについては解釈指針委員会が2011年7月の会

議と2011年9月の会議で審議を行なっている。

解釈指針委員会は、共同支配事業の活動がIFRS第3号に定義され

る事業に該当する場合の、当該共同支配事業に対する持分の取得

の会計処理が明確でないことに留意した。

解釈指針委員会は、IFRS第3号に定義される事業に該当するような

活動を行っている共同支配事業の持分を共同支配事業者が取得した

場合には、共同支配事業の特定の資産及び負債にIFRS第3号を適

用することは要求されないとの見解について議論した。この見解の根

拠として、IFRS第3号は企業結合に適用されるものであり、共同支配

事業に対する持分の取得の場合、取得企業は事業に対する支配を

獲得しないことが挙げられる。しかし、この見解について合意には至ら

なかった。

実務で大きなばらつきが生じるのを避け、要望書で提起された懸念に

対応するため、解釈指針委員会は、さらなる分析を行うようスタッフに

指示した。スタッフは、シナジーのために支払われるプレミアムを、 (i)事業を含む共同支配事業に対する持分を企業が取得する状況に

おいて、別の基準書(例:IAS第38号「無形資産」)に基づき個別の資

産として認識することができるか、又は(ii)IFRS第3号を類推適用する

ことができるかについて分析する予定である。スタッフは、この論点に

ついて、追加ガイダンスを開発すべきかどうかについても検討する。

41

子会社 共同支配事業 関連会社 金融資産 持分なし

支配の獲得(8.3.2参照) 支配の喪失(8.3.3参照)

セクション8.3.4参照

セクション8.3.4参照

共同支配の獲得―セクション8.2.1参照 共同支配の喪失―セクション8.2.5参照

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図13-共同支配事業に関する所有持分の変動 共同支配事業に関する所有持分の変動の会計処理を説明している箇所は、所有持分の変動の前と後に保有する持分の種類をつなぐボックス

の中に示している。

8.2.6 共同支配企業に対する持分の処分 企業は、共同支配企業に対する持分を処分する場合、当該日時点で

持分法の使用を中止する。企業はまた、自身の持分の認識を中止し、

売却による利得又は損失を認識する。

そのような場合、企業は、報告期間中に共同支配を有していなかった

かのように、当該期間(又は比較期間)について財務諸表を修正再表

示することはできない。IAS第28号は、共同支配投資者が共同支配

企業に対する持分を処分した日まで持分法を適用することを求めてい

る。これは、企業がIFRS第10号、IAS第27号又はIAS第28号により

財務諸表の作成が免除されず、かつ公正価値測定に関する免除規

定(セクション2.1参照)を使用していないことを前提としている。

企業は、個別財務諸表も作成することを選択する(又は要求される)

場合がある。個別財務諸表では、企業は共同支配企業に対する持分

を取得原価またはIFRS 第9号に従って会計処理する。個別財務諸表

については、 「国際会計の実務」上巻5 で詳しく説明している。これら

の個別財務諸表は、持分法を使って作成される財務諸表に加えて作

成される。

上記は、子会社及び関連会社に対する持分の場合にも適用する。

8.3 共同支配事業に関する所有持分の変動 共同支配事業に関する所有持分の変動の会計処理は、以前保有し

ていた持分の種類によって決まる。セクション8.3.1では、以前まった

く持分を保有していなかった共同支配事業に対する持分の取得につ

いて説明している。また、セクション8.3.2.から8.3.5では、既存の持

分の変動について説明している。図13では、共同支配事業に関する

所有持分の変動について、想定されるケースを説明している。

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• 連結財政状態計算書から、以前の子会社の資産及び負債(関連

するのれん及び非支配持分を含む)の認識を中止する。

• 受領した対価の公正価値を認識する。

• 所有者に対する子会社株式の分配を認識する。

• 共同支配事業の資産に対する権利及び負債に対する義務を公正

価値で認識する(セクション8.3.1で説明したように、この場合

IFRS第3号を適用するかどうかは明確ではない)

• 当該子会社に関連してその他の包括利益に認識された金額を、

(適切なIFRSに基づき)純損益または利益剰余金に振り替える。

• この結果発生する利得又は損失は、すべて認識する。

上記の会計処理は、以前は子会社であった投資先が共同支配企業

になる場合に使われるIFRS第10号アプローチと同じである(セクショ

ン8.2.3参照)。IAS第28号は共同支配事業には適用されないため、

セクション8.2.3で言及したIAS第28号のアプローチは、この状況では

使うことができない。

8.3.4 共同支配事業の所有持分のその他の変動 IFRS第11号は、以前の共同支配事業の会計処理、及び共同支配事

業が関連会社、金融資産になった場合、または共同支配事業が個々

の資産又は負債への支配に置き換えられた場合の会計処理につい

て明示的な規定を設けていない。

IFRS第5号に従うと、共同支配事業者が共同支配事業に対する持分

の一部を処分することを計画している場合、処分する持分が売却目

的保有への分類要件を満たすならば、当該部分のみを売却目的保有

に振り替える。共同支配事業に対する残存持分は、売却する持分を

実際に処分するまで、引き続きIFRS第11号に従って会計処理する。

これは、売却する持分を(処分する前ではなく)実際に処分する時点ま

で、企業が共同支配事業に対する投資全体を引き続き共同支配して

いるためである。処分した時点で残存持分の内容を再評価し、それに

応じて(例えば、関連会社又は金融資産として)当該持分を会計処理

する。

共同支配事業に対する持分(又は持分の一部)が売却目的保有への

分類要件を満たさなくなった場合、企業は、売却目的保有に分類され

た以降の期間について財務諸表を修正再表示する。

解釈指針委員会はまた、関連する改訂において、IASBがIFRS第3号の適用除外規定の、”the formation of a joint venture”という記載

を変更しなかったものの、IASBがIFRS第3号の適用範囲を変更する

ことを意図していたわけではないことに留意した。解釈指針委員会は、

IFRS第11号により共同支配の取決めの種類が再定義され、名前も

変更されていることから、 IFRS第3号の適用除外規定を ”the formation of a joint arrangement”に改訂すべきであると指摘した。

IFRS第11号では”joint venture”は共同支配の取決めの1種類でし

かないのに対し、IAS第31号では、”joint venture”にはすべての種

類の共同支配の取決めが包含されていた。解釈指針委員会は、年次

改善プロセスを通じてこの論点を取り扱うことができるかどうかを検討

するようスタッフに指示した。スタッフは、今後開催される会議におい

て、分析及び年次改善の草案を提出する予定にしている。

8.3.2 以前は共同支配事業であった投資先に対する支配の獲得 企業が、以前は共同支配事業であった投資先に対する支配を獲得す

る場合、投資先が事業の定義を満たしているのであれば、IFRS第3号の企業結合の会計処理を適用する。そうでない場合、企業はIFRS第3号の第2項(b)を適用し、取得した資産及び負債を公正価値の比

率に基づき測定する。IFRS第3号の適用の詳細に関しては、「国際会

計の実務」上巻5 を参照されたい。

8.3.3 以前は子会社であった投資先が共同支配事業になる場合 IFRS第10号に定められるように、企業が子会社に対する支配を喪失

し、共同支配事業に対する共同支配を獲得する場合、企業は以下を

行うことになる。

42

弊社のコメント

IFRS第3号及びIFRS第11号におけるこれらの表現は明瞭でない。

経営者が選択する会計手法は、取引の事実及び状況に基づき適

切でなければならない。共同支配事業の持分を取得する当事者は、

必要に応じて、解釈指針委員会及び/又はIASBの審議の行方を見

守る必要がある。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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8.3.5 共同支配事業に対する持分の処分 企業が共同支配事業に対する持分を処分する場合、資産に対する権

利及び負債に対する義務の会計処理を中止し、処分日時点の利得又

は損失を認識する。唯一の例外となるのが、資産に対する権利又は負

債に対する義務により当該持分が直接置き換えられる場合である。こ

の場合、持分を処分する前と後のいずれも資産及び負債が関連する

IFRSに従って会計処理されるため、変更は生じない。

43

セクション8.2.6で説明した共同支配企業の処理と整合し、企業は当

該持分を保有していた報告期間(及び比較期間)について、共同支配

事業に対する持分を引き続き反映する。企業は、処分した共同支配

事業に対し、持分を保有していたことがなかったかのように財務諸表

を修正再表示してはならない。

8.4 共同支配事業から共同支配企業への変更(又はその逆) IFRS第11号は、以前は共同支配事業であったが共同支配企業に

なった場合(又はその逆)の会計処理について明示的な規定を定めて

いない(ただし、第10章で説明している経過規定を除く)。

8.4.1 共同支配事業が共同支配企業になった場合 共同支配事業から共同支配企業になった場合、通常、IFRS第11号に従って以前認識された資産及び負債の認識を中止し、共同支配企

業に対する新たな持分をIAS第28号に従って会計処理することが適

切となる。IAS第28号については、「国際会計の実務」上巻5 で詳しく

説明している。

8.4.2 共同支配企業が共同支配事業になった場合 以前の共同支配企業が共同支配事業になった場合、持分法適用投

資の認識を中止し、変更が生じた日時点で資産に対する権利及び負

債に対する義務をIFRS第11号に従い会計処理することが適切となる

(第6章参照)。

弊社のコメント

以前の共同支配事業が関連会社(企業が存在する場合のみ)又は

金融商品になる場合、一般に、以前IFRS第11号に従って認識され

ていた資産及び負債の認識を中止し、新たな持分を適切なIFRSに基づき当該日時点で会計処理することが適切であろう。このアプ

ローチは、共同支配事業であったときに企業が保有していた資産に

対する権利及び負債に対する義務が、共同支配事業に対する持分

を保有しなくなった時点での権利又は義務と異なる場合にも適切か

もしれない。

しかし、企業の保有する資産に対する権利及び負債に対する義務

が、共同支配事業であったときと、共同支配事業に対する持分を保

有しなくなった時点とで同じである場合には、通常、会計処理を変更

することはないと我々は考えている。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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IFRS第12号は、子会社、共同支配の取決め、関連会社及び組成さ

れた企業に対する企業の関与に関する開示規定を、単一の包括的開

示基準としてまとめたものである。共同支配の取決めに関係する開示

規定の多くは、IAS第31号に含まれていたものに類似している。しか

し、新しい規定もあれば、IAS第31号に含まれていたものを明確化し

た規定もある。

この章では、IFRS第12号の開示規定のうち、共同支配の取決めに関

係するものを取り上げる。ここで説明している開示規定は、共同支配

の取決めに対して共同支配を有する当事者に適用されるものであり、

共同支配の取決めの受動的な投資家(すなわち、共同支配を有しな

い当事者)には適用されない。一方、当事者が共同支配の取決めに

対して重要な影響力を有する場合、関連会社に関するIFRS第12号の開示規定が適用されるが、それらの規定は下記で説明している規

定とはわずかに異なっている。

連結対象及び非連結の組成された企業を含む、子会社に関する

IFRS第12号の開示規定については、弊社の刊行物である「IFRS第10号 適用時の課題」の第10章で説明している。

9.1 IFRS第12号の原則 IFRS第12号の目的は、財務諸表の利用者が次のことを評価できるよ

うにする情報の開示を企業に要求することである。

• 共同支配を有する他の当事者との契約上の関係を含む、他の企

業への関与の内容及びそれに関連するリスク • それらの関与が財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに与

える影響

これらについてはセクション9.2から9.6で説明している。関連当事者

取引については、セクション9.7で説明している。

9.2 判断の開示 IFRS第12号で新たに追加された一つの開示規定として、企業は、取

決めに対して共同支配を有しているかどうかを決定するにあたり行っ

た重大な判断及び仮定(ならびにその後の変更)の開示が要求されて

いる。企業はまた、共同支配の取決めが別個のビークルを用いて組

成されている場合には、共同支配の取決めの種類(すなわち、共同支

配事業又は共同支配企業)を決定するにあたり行った重大な判断及

び仮定の開示も要求されている。

IFRS第12号の規定は、共同支配を有しているかどうかを決定するの

に必要な判断の程度を反映している。以下は、開示が要求される可

能性のある重大な判断の例である。

• 権利が(共同支配を与えることのない)単なる防御的な権利であ

るか、企業に共同支配を与える実質的な権利であるか

• 取決めの管理者が本人又は代理人のどちらに該当するか。これ

は、管理者が支配又は共同支配を有しているか否かの判断に影

響を及ぼす可能性が高い。

• 共同支配の取決めが共同支配事業と共同支配企業のどちらに該

当するか(IAS第31号とは異なり、この分類はIFRS第11号の下

では法的形態にのみ基づいたものではない)。

44

第9章 開示

弊社のコメント

経営者はIFRS第12号の開示目的を満たすため、判断を行使しな

ければならない。IFRS第12号の特定の規定にかかわらず、開示目

的を満たすために追加の情報を開示する必要が生じることがある。

IFRS第12号からの抜粋

3 本基準で要求している開示が、他の IFRS が要求している開示と合わせても第1項の目的を満たさない場合には、企業は当該目的を満た

すのに必要な追加的な情報を開示しなければならない。

4 企業は、開示目的を満たすのに必要なレベルの詳細さと、本基準の要求事項のそれぞれにどの程度重点を置くべきなのかを考慮しなけ

ればならない。企業は、重要でない詳細情報を大量に含めたり、性格の異なる項目を集約したりすることによって有用な情報が隠されてし

まわないように、開示の集約又は分解を行わなければならない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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45

9.3 共同支配の取決めに対する企業の持分の内容 IFRS第12号は、企業にとって重要性のある共同支配の取決めごとに、

以下のすべてを開示することを要求している。

共同支配の取決めの名称 • 企業と共同支配の取決めの関係の内容(例えば、共同支配の取

決めの活動の内容及びそれらが企業の活動にとって戦略的に重

要なものかどうかを記述) • 共同支配の取決めの主要な事業場所(及び、該当があり、かつ主

要な事業場所と異なる場合には法人設立国) • 企業が保有している所有持分又は参加持分の割合、及び、これと

異なる場合には、保有している議決権の割合(該当がある場合)

上記規定は、共同支配事業と共同支配企業の両方に適用される。設

例19では、これらの開示について説明している。

9.4 共同支配の取決めへの関与の内容、程度及び財務

上の影響 上記の情報に加え、企業は共同支配企業に対する持分についてさら

なる情報を開示することが要求される。図14の表では、重要な共同支

配企業について要求される開示、重要性の低い共同支配企業につい

て要求される開示(集約)、その両方について要求される開示をまとめ

ている。これらの開示規定の詳細については、本セクションの残りの

部分で説明する。図14の表に示される開示は、共同支配事業に対し

ては要求されない。

弊社のコメント

図14で示しているように、IFRS第12号は、重要性の低い共同支配

企業に関しても、資金を移転する能力に対する制限、財務諸表の

日付又は期間が企業の財務諸表と異なる場合の日付及び理由、な

らびに損失に対する未認識の持分の開示を免除していない。しかし、

情報が重要でない場合には、IFRSの特定の開示規定に従う必要

はないと定めているIAS第1号「財務諸表の表示」についても考慮し

なければならない。財務諸表の利用者にとってどの情報が有用で

あるかを評価するには、判断が必要となる。

項目 個別に重要性のある共同支配企業

個別に重要性のない共同支配企業

会計方針(すなわち、持分法か公正価値か)

✓ ☓

要約財務情報 ✓ ✓ (集約する)

公正価値(公表された市場価格が入手可能で、持分法により測定されている場合)

✓ ☓

資金を移転する能力に対する制限

✓ ✓

財務諸表の日付が企業のものとは異なっている場合、その日付及び日付が異なる理由

✓ ✓

報告期間と累計の両方についての共同支配企業の損失に対する未認識の持分

✓ ✓

✓ 要求される

☓ 要求されない

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図14-共同支配企業について要求される開示

設例19-共同支配の取決めの内容

グループは、共同支配の取決めであるF Limitedの持分50%を子会

社K Limitedを通じて保有している。共同支配の取決めの条件と、

議決権を有しない投資家が存在していることから、グループはF Limitedの議決権付持分のうち60%を保有している。F Limitedの主要な事業所の所在地はユーラシアであるが、設立場所は米国の

デラウェアである。グループは、この共同支配の取決めの2名の

パートナーのうちの1名であり、共同支配の取決めの目的はユーラ

シアのガス田におけるガスの採掘である。F Limitedはユーラシアに

おけるガスの供給業者である。グループの事業と業種が類似してい

ることから、グループの事業にとってF Limitedは戦略上重要である。

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9.4.1 重要な共同支配企業に関する会計方針 重要な共同支配企業に関し、企業は当該共同支配企業を会計処理

する際に用いた会計方針を開示しなければならない。持分法が一般

的ではあるものの、公正価値により測定されることもある(セクション

2.1参照)。

共同支配企業に対する投資を測定する際に公正価値が使われてい

る場合、又は公正価値が開示されている場合、IFRS第13号「公正価

値測定」の規定も考慮しなければならない。例えば、IFRS第13号は、

財務諸表において公正価値測定が行われている場合には重要なイン

プットを開示するとともに、当該公正価値が公正価値ヒエラルキーの

どのレベルに属するかを開示することを求めている。

9.4.2 要約財務情報 企業は、共同支配企業に関し要約財務情報を開示しなければならな

い。IFRS第12号は、企業にとって重要性のある共同支配企業につい

ては共同支配企業ごとに、個々には重要性のない共同支配企業につ

いては集約して要約財務情報を開示することを求めている。しかし、

図15で示すように、要求される情報の範囲はそれぞれ異なっている。

また、図15ではIAS第31号とIFRS第12号の開示規定の違いを示し

ている。なお、IFRS第12号の目的を満たすためには、共同支配投資

者が、図15に挙げている項目以外にも追加情報を開示しなければな

らない場合があることに留意されたい。

46

個々に重要性のある共同支配企業 個々に重要性のない共同支配企業

開示される金額 全額(すなわち、100%)9 共同支配投資者の持分相当額10

受取配当金 新規 ☓

投資の帳簿価額 ✓11 ☓

流動資産に含まれる現金及び現金同等物 新規 ☓

流動資産 ✓ ☓

非流動資産 ✓ ☓

流動負債に含まれる営業債務や引当金を除いた、 流動金融負債 新規 ☓

流動負債 ✓ ☓

非流動負債に含まれる営業債務や引当金を除いた、 非流動金融負債 新規 ☓

非流動負債 ✓ ☓

収益 新規 ☓

減価償却費及び償却費 新規 ☓

利息収益 新規 ☓

利息費用 新規 ☓

法人所得税費用又は収益 新規 ☓

継続事業からの利益(損失) 新規 新規

非継続事業からの税引後利益(損失) 新規 新規

その他の包括利益 新規 新規

包括利益合計 新規 新規

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図15-共同支配企業に関する要約財務情報

✓ IFRS第12号で要求されており、IAS第31号でも要求されていた。 新規 IFRS第12号で要求されているが、IAS第31号では要求されていなかった。 ☓ 要求されない

9 IAS第31号に基づいた場合、JCEに関連する要約財務情報で開示すべき金額が、JCEの財務諸表に計上されている金額の全額か、またはJCEに対する投資企業の持分相当額かが明確ではなかっ

た。IFRS第12号では、開示する金額は、共同支配企業の財務諸表に計上されている金額を、以下で説明するように調整した金額であると明確化された(すなわち、それらの金額に対する共同支配投

資者の持分相当額ではない)。 10 IFRS第12号では、個々には重要性のない共同支配企業に関しては、要約財務情報は集約され、共同支配企業の財務諸表に計上された金額のうち共同支配投資者の持分相当額のみが開示される

と明記されている。 11 明示的に要求されてはいないが、共同支配企業の帳簿価額合計と集約された個々には重要性のない共同支配企業の帳簿価額の両方の開示が要求されていることから、個々に重要性のある共同支

配企業の帳簿価額についても開示することが論理的であると思われる。

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共同支配投資者が持分法を用いて共同支配企業を会計処理してい

る場合、重要な共同支配企業についての個々の要約財務情報は、持

分法を適用した際に共同支配投資者が行った修正を反映するために

調整される。例えば、以下のような修正が含まれる可能性がある。 • 取得時に行った公正価値修正 • 会計方針の相違に関する修正

また、共同支配投資者は、要約財務情報と共同支配企業に対する持

分の帳簿価額との調整表を開示することが要求される。IFRS第12号は、どの構成要素を調整表に含めるべきかを定めていない。そのた

め、共同支配投資者は、財務諸表の利用者にとって意味のある(かつ

重要性のある)構成要素を開示すべきであろう。例えば、のれんや、

持分法における名目上の取得原価の配分で認識されたその他の公

正価値修正額が、構成要素として開示される可能性がある。

共同支配投資者は、共同支配企業の取得時に発生したのれんを、重

要な共同支配企業についての要約財務情報に含めることになる点に

留意されたい。しかし、これは当該共同支配投資者が保有する共同

支配企業に対する持分だけに帰属するのれんに限られる。他の共同

支配投資者が保有する共同支配企業に対する持分に帰属するのれ

んは、おそらく分からないと思われる。したがって、調整表においてそ

のようなのれんを表示して、その内容を説明する際は注意しなければ

ならない。また、共同支配企業自体の財務諸表に計上されたのれん

は、おそらく共同支配企業に対する持分の取得時に、共同支配投資

者によって公正価値修正として反映されていると思われる。

上記規定については設例20で説明している。

要約財務情報は、(ベンチャー・キャピタル組織等が)関連会社及び共

同支配企業に対する投資を会計処理するにあたり公正価値オプショ

ンが使われた場合にも要求される。しかし、この情報は、以下の両方

の要件が満たされれば、IFRSに従って表示する必要はない。 • 共同支配企業がIFRS財務諸表を作成していない場合 • IFRSに従って作成することが実務上不可能である、又は過度の

コストが生じる場合(「実務上不可能」という用語は、IAS第8号「会

計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」で定義されている)

すなわち、公正価値オプションが使われている場合、上記両方の要件

を満たせば、要約財務情報をIFRSに従わない方法で表示できる。

公正価値で会計処理されている共同支配企業がIFRS財務諸表を作

成している場合、又はIFRS財務情報の作成が実務上不可能ではな

い、もしくはその作成により過度のコストが発生しない場合、要約財務

情報は、共同支配企業のIFRS財務諸表に含まれている金額の開示

が行われる。

共同支配企業(又は共同支配企業に対する持分の一部)が、共同支

配投資者により、IFRS第5号に従い売却目的保有に区分されている

場合、要約財務情報は要求されない(ただし、IFRS第5号の開示規定

が適用される)。しかし、この状況を、共同支配企業自体がIFRS第5号に従って売却目的保有の資産を保有している場合と混同してはな

らない。そのようなケースでは、共同支配企業に関する要約財務情報

は要求される。

47

弊社のコメント

IAS第31号に基づき比例連結を使っていた企業にとって、詳細な要約財務情報を提供することは、共同支配企業において保有されている資産

及び負債の詳細を知りたいと望む財務諸表利用者との溝を埋めるうえでも有用となる可能性がある。共同支配投資者は、この財務情報を総

額ベースで提供することが要求される(すなわち、共同支配投資者の比例持分ではない)。しかし、共同支配企業の資産及び負債に対する比

例持分相当額が財務諸表の利用者にとって意味のある情報である場合、共同支配投資者はそのような情報を任意で開示すべきと考える場合

があるかもしれない。しかし我々は、そうした情報は、開示することが必要な理由を述べたうえで、あくまでも財務諸表の補足情報として開示す

べきであると考えている。

共同支配投資者は、必要な開示を作成するために必要な情報のほとんどをすでに有しているはずではあるが、特に総額ベースで要約財務情

報を開示することを求める規定など、新規定に従うためにシステムやプロセスを変更しなければならない場合がある。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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設例20-要約財務諸表 下記の設例では、F Limited及びG Incがグループにとって重要な共同支配企業である。非継続事業は存在せず、当該グループが F Limitedに対する50%持分、G Inc に対する35%持分を保有していると仮定する。

48

注記X-共同支配企業に対する投資(単位:CU) 20X2 20X1

F Limited G Inc その他共同支配企業

4,150 3,705

300

4,025 3,670

290

共同支配企業に対する投資合計 8,155 7,985

共同支配企業に対する投資の当期変動額 期首残高 包括利益合計に対する持分 受取配当金 為替及びその他調整

7,985

290 (50) (70)

7,732

245 (57)

65

期末残高 8,155 7,985

共同支配企業の包括利益に対する持分 継続事業からの税引後利益 F Limited12 G Inc12

その他共同支配企業13

225 34

7

188 28 11

共同支配企業の継続事業からの税引後利益に対する持分合計額14 266 227

その他の包括利益 F Limited12

G Inc12

その他共同支配企業13

20

2 2

17 (1)

2

共同支配企業のその他の包括利益に対する持分合計額14 24 18

包括利益 F Limited12

G Inc12

その他共同支配企業13

245

36 9

205

27 13

共同支配企業の包括利益に対する持分合計額14 290 245

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

12 IFRS第12号とIAS第1号のどちらも、個々に重要性のある共同支配企業の利益又は包括利益に対する共同支配投資者の持分を表示することを要求していない。しかし、

IFRS第12号の目的を満たし、この調整表を理解できるようにするためには、共同支配投資者は個々に重要性のある共同支配企業の利益及び包括利益に対する持分を

開示することが推奨される。 13 IFRS第12号は、個々には重要性のない共同支配企業の利益及びその他の包括利益に対する持分を集約して開示することを要求している。 14 IAS第1号は、利益及び包括利益に対する持分合計額を開示することを要求している。

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設例20-要約財務諸表(続き)

49

要約財政状態計算書 20X2 F Limited

20X1 F Limited

20X2 G Inc

20X1 G Inc

現金及び現金同等物 その他流動資産

200 300

850 200

200 200

250 100

流動資産合計 非流動資産(のれんを除く) のれん

500 9,800 1,725

1,050 9,023 1,725

400 5,400 2,546

350 5,222 2,546

資産合計 12,025 11,798 8,346 8,168 流動金融負債(営業債務、その他の債務及び引当金を除く) その他流動負債

200 200

180 250

100 350

120 300

流動負債合計 400 430 450 420

非流動金融負債(営業債務、その他の債務及び引当金を除く) その他非流動負債

5,000 50

5,000 43

2,000 40

2,100 40

非流動負債合計 5,050 5,043 2,040 2,140 負債合計 5,450 5,473 2,490 2,560 純資産 6,575 6,325 5,856 5,758 純資産(のれんを除く) 4,850 4,600 3,310 3,212

要約包括利益計算書 20X2 F Limited

20X1 F Limited

20X2 G Inc

20X1 G Inc

収益 2,500 1,500 750 650 減価償却費及び償却費 200 180 100 110 利息収益 25 20 60 55

利息費用 180 200 75 85

税引前利益(損失) 法人所得税費用

600 (150)

500 (125)

130 (33)

110 (28)

税引後利益(損失) 450 375 97 82 その他の包括利益 40 35 5 (4) 包括利益合計 490 410 102 78

純資産に対する持分から帳簿価額への調整 20X2 F Limited

20X1 F Limited

20X2 G Inc

20X1 G Inc

共同支配企業の純資産(のれんを除く)に対するグループの持分 2,425 2,300 1,589 1,124

減損損失累計額を控除した取得に伴うのれん 1,725 1,725 2,546 2,546 共同支配企業に対する投資の帳簿価額 4,150 4,025 3,705 3,670

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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9.4.3 公表市場価格を有する共同支配企業に関する公正価値 IFRS第12号は、持分法により会計処理される重要な共同支配企業

に対する共同支配投資者の投資の公表市場価格が存在する場合、

当該投資の公正価値を開示することを要求している。公正価値を開

示する場合、企業が持分法を適用しているにもかかわらず、IFRS第13号の規定に準拠しなければならない(ただし、公正価値を用いて会

計処理している場合よりは開示規定が少ない)。

9.4.4 共同支配企業に対する制限 IAS第31号の規定と同様に、共同支配投資者は、以下に対する重要

な制限の性質及び範囲を開示することが求められる。 • 共同支配企業が、現金配当の形で共同支配投資者に送金する能力 • 共同支配企業が、共同支配投資者からの貸付を返済する能力 例えば、第三者との借入契約に定められる財務制限条項、規制上の

要件、又は共同支配投資者間の契約上の取決めによって制限が生じ

ることがある。

9.4.5 持分法適用の際の財務諸表日 IAS第31号と同様に、持分法を適用する際に使用した共同支配企業

の財務諸表の日付又は期間が、共同支配投資者のものと異なる場合、

共同支配投資者は以下の両方を開示することが求められる。 • 当該共同支配企業の財務諸表の報告期間の末日 • 異なる日付又は期間を使っている理由

9.4.6 未認識の損失 共同支配投資者は、持分法を適用する際に、共同支配企業の損失に

対する自らの持分の認識を中止することがある(例えば過去の損失を

認識した結果、投資額がゼロになっており、そうした損失に対して資金

を提供するコミットメントが存在しない場合)。そのような場合、IAS第28号の規定と同じように、共同支配投資者は、共同支配企業の損失

に対する当期及び累計の未認識の持分を開示しなければならない。

50

9.5 共同支配企業に対する持分に関連して生じるリスク 共同支配の取決めに関する開示の目的の1つは、共同支配企業に関

連して生じるリスクの内容及び変動に関係する。この目的を満たすた

め、共同支配投資者は、以下を開示しなければならない。 • 共同支配企業に関連したコミットメント(他のコミットメントの金額と

は区別して表示) • 共同支配企業に対する持分に関連して負っている偶発負債(他

の偶発負債の金額とは区別して表示)

これについては、セクション9.5の残りの部分で詳しく説明している。こ

うした開示規定は、共同支配企業にのみ適用される。

9.5.1 共同支配企業に対する持分に関連したコミットメント 共同支配投資者は、共同支配企業に対する持分に関連して締結はし

たものの、報告日時点で認識されていないコミットメントの合計額を開

示することが要求される。この金額には、他の共同支配投資者と共同

で締結したコミットメントに対する自らの持分も含まれる。コミットメント

とは、現金又はその他資源を将来流出させる可能性のあるすべての

ものをいう。

IFRS第12号では、資金又は資源を提供するという未認識のコミットメ

ントを生じさせる可能性のある項目の例がいくつか挙げられている。

• 共同支配企業の設立又は取得の契約(所定の期間にわたって資

金を拠出することを企業に要求するもの) • 共同支配企業が行う資本集約的なプロジェクト • 無条件の購入義務で、企業が共同支配企業から又は共同支配

企業に代わって購入することを約束している設備、棚卸資産又は

サービスの調達からなるもの • 共同支配企業に貸付け又は他の財務的支援を提供する未認識

のコミットメント • 共同支配企業に資産又はサービスなどの資源を拠出する未認識

のコミットメント

共同支配投資者は、他の当事者が有する共同支配企業に対する所

有持分(又はその所有持分の一部)を、偶発事象の発生時(又は偶発

事象が発生しなかった場合)に取得するという未認識のコミットメントも

有している場合がある。

弊社のコメント

IFRS第12号では明示的に要求されていないが、IFRS第12号の目

的を満たし、かつ上記調整表を理解できるようにするために、共同

支配投資者は、設例20で示すように、個々に重要性のある共同支

配企業の利益及び包括利益に対する持分を開示することが推奨さ

れる。

共同支配企業の継続事業からの利益を総額で表示するのか、税引

後で表示するのかは明確ではない。我々は、明確に開示している

限り、どちらも容認されると考えている。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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51

9.5.2 共同支配企業に関する偶発負債 共同支配投資者は、共同支配企業に対する持分に関連して生じてい

る偶発負債を、他の偶発負債の金額とは区別して開示しなければな

らない。

この開示は、以下の開示を要求しているIAS第37号に従って行う(た

だし、損失の発生可能性が極めて低い場合を除く)。 • 偶発負債の見積額 • 流出の金額又は時期に関する不確実性の内容 • 補填の可能性

共同支配企業に関して開示される偶発負債には、他の共同支配投資

者又は共同支配企業に対して重要な影響力を有する投資者と共同で

負担する偶発負債のうち、当該共同支配投資者の持分が含まれる。

9.6 組成された企業である共同支配の取決め 可能性は低いかもしれないが、共同支配の取決めが組成された企業

の定義を満たす場合がある。その場合、連結対象外の組成された企

業に関するIFRS第12号の開示規定が適用される。これは、当事者が

関連会社に対して重要な影響力を有し、その関連会社が組成された

企業の定義を満たす場合も該当する。なお、IASBは、(IFRS第12号の結論の根拠で)この点を説明する際に共同支配企業と関連会社に

しか言及していないが、共同支配事業に関しても同じことがあてはま

るであろう。

組成された企業の定義と関連する開示規定については、それぞれ

「IFRS第10号 適用時の課題」のセクション3.4.1と10.4で詳しく説明

している。

9.7 関連当事者取引 IFRS第12号には、共同支配企業の持分に関連したリスクに関する開

示(セクション9.5参照)は、IAS第24号で要求される開示の一部を説

明するものであると記載されている。下記では、IFRS第11号及び

IFRS第12号によって改訂された、(共同支配事業を含む)共同支配

の取決めに関係するIAS第24号の開示規定の概要を説明している。

9.7.1 関連当事者に関する開示規定の範囲 IAS第24号は、下記の連結、個別又は単体財務諸表において、関連

当事者との関係、取引、未決済残高(コミットメントを含む)を開示する

ことを求めている。 • 親会社 • 共同支配投資者 • 共同支配事業者 • 投資先に対して重要な影響力を有する投資者

これは、以前の規定と整合している。

9.7.2 関連当事者である個人又は近親者 個人又はその個人の近親者は、以下のいずれかに該当する場合、報

告企業の関連当事者とみなされる。 • 報告企業に対する支配又は共同支配を有している • 報告企業に対して重要な影響力を有している • 報告企業又は報告企業の親会社の経営幹部の一員である

そのような当事者との取引は、関連当事者との取引であるとみなされ、

開示が要求される。共同支配の定義は、IAS第24号とIFRS第11号で

同じである。この開示は、共同支配を参照しているため、共同支配企

業と共同支配事業の両方に適用される。

個人又は近親者が関与するビジネス上の関係については、IAS第24号の設例を基にした以下の設例21及び22で説明している。

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

IFRS第12号付録Aからの抜粋

組成された企業-誰が企業を支配しているのかの決定に際して、

議決権又は類似の権利が決定的な要因とならないように設計され

た企業(例えば、あらゆる議決権が管理業務のみに関係しており、

その関連性のある活動が契約上の取決めによって指図される場合

など)

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52

設例22-投資を保有する近親者

X氏は、X夫人の配偶者である。X氏はAに対する投資を有しており、

X夫人はBに対する投資を有している。

Aの財務諸表に関し、X氏がAに対する支配又は共同支配を有して

いる場合、X夫人がBに対する支配、共同支配又は重要な影響力を

有するのであれば、BはAの関連当事者となる。

Bの財務諸表に関し、X氏がAに対する支配又は共同支配を有して

いる場合、X夫人がBに対する支配、共同支配又は重要な影響力を

有するのであれば、AはBの関連当事者となる。

X氏がAに対する重要な影響力を有しており(ただし支配又は共同支

配は有していない)、X夫人がBに対する重要な影響力を有している

(ただし支配又は共同支配は有していない)場合、AとBはお互い関

連当事者ではない。

9.7.3 共同支配企業に関する関連当事者の開示 IAS第24号は、関連当事者取引の定義において、共同支配企業が関

与するいくつかの関係を説明している。IAS第24号(IFRS第11号によ

り改訂)は、共同支配企業にのみ言及しており、共同支配事業には言

及していない。改訂前の IAS第24号は、幅広い意味での” joint venture”に言及していたため、IAS第24号には、共同支配の営業活

動、共同支配の資産、及びJCEが含まれていた。

共同支配企業に関連する関連当事者取引の開示を求める規定は、

ベンチャー・キャピタル組織等が保有する投資にも適用される(投資が

持分法ではなく公正価値で会計処理されている場合であっても)。

共同支配企業に関し、以下に該当する場合、企業は報告企業の関連

当事者であるとIAS第24号には記載されている。 • 一方の企業が、もう一方の企業の共同支配企業である場合(又

はもう一方の企業が属するグループのメンバー企業の関連会社

又は共同支配企業である場合)。したがって、共同支配投資者と

その共同支配企業は関連当事者となる。

• 両方の企業が、同じ第三者の共同支配企業である場合(共同支

配企業の子会社を含む)。したがって、共同支配企業の子会社と

共同支配投資者は、お互い関連当事者となる。これについては設

例23で説明している。

• 一方の企業が、第三者企業の共同支配企業であり、もう一方の

企業が当該第三者企業の関連会社である場合。すなわち、関連

会社と共同支配企業は、投資者/共同支配投資者が同じ場合、関

連当事者となる。これについては設例24で説明している。

• 企業が、セクション9.7.2で特定した、報告企業に対する支配又は

共同支配を有する個人又はその個人の近親者により支配又は共

同支配されている場合。これについては設例21と22で説明して

いる。

設例21-共同支配を有する個人

X夫人は、AとBに対する投資を保有している。

A の財務諸表においては、X夫人 がA を支配又は共同支配してい

る場合には、B は、X夫人がB に対する支配、共同支配又は重要な

影響力を有しているときは、A の関連当事者となる。

B の財務諸表においては、X夫人 がA を支配又は共同支配してい

る場合には、A は、X夫人がB に対する支配、共同支配又は重要な

影響力を有しているときは、B の関連当事者となる。

X夫人がAとBに対する重要な影響力を有している(ただし支配又は共

同支配は有していない)場合、AとBはお互い関連当事者ではない。

弊社のコメント

要求はされていないが、我々は、そうした開示が財務諸表の利用者

にとって有用であるならば、共同支配事業との類似の取引及び共

同支配事業者間の類似の取引を開示することを推奨している。

X夫人

A B

X氏 X夫人

A B

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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設例24-同じ第三者企業の共同支配企業及び関連会社である企業

SはHの共同支配企業であり、AはHの関連会社である。したがって、

SとAは関連当事者である。しかし、セクション9.7.5で説明している

ように、ZとHは関連当事者ではない。

設例23-同じ第三者の共同支配企業である企業

SとAはHの共同支配企業であり、よって関連当事者である。Aの子

会社であるCもHとSの関連当事者である。

53 IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

政府が企業に対する支配、共同支配又は重要な影響力を有する場合、

当該政府との関係、取引、未決済残高(コミットメントを含む)は、IAS第24号において関連当事者取引とみなされる。同様に、当該政府が

支配、共同支配又は重要な影響力を有する他の企業との取引及び未

決済残高(コミットメントを含む)も、IAS第24号の下では関連当事者

取引に分類される。政府関連企業との関連当事者取引に対しては、

一部開示規定の適用が免除される。この点については、 「国際会計

の実務」下巻5 で詳しく説明している。

9.7.5 関連当事者ではない当事者 IAS第24号は、以下は関連当事者ではないと明示している。 • 2つの会社が単に共通の取締役又は経営幹部を有しているか又

は一方の企業の経営幹部が他方の企業に重要な影響力を有して

いるのみである場合

• 2社の共同支配投資企業が単に1つのジョイント・ベンチャーに対

する共同支配を共有しているのみの場合

• 金融機関、労働組合、公共事業体及び政府の部門及び機関で、

報告企業に対する支配、共同支配又は重要な影響力を有してい

ないものが、単に当該企業と通常の取引を行っているのみである

場合(企業の行動の自由に影響を与えるか又は意思決定過程に

関与しているとしても)

• 企業が、単一の得意先、仕入先、フランチャイズ本部、卸売業者

又は総代理店と多額の取引を行った結果、単純に経済的依存度

が高まったのみである場合

上記の企業が除外されている理由は、そうした企業を除外しなければ、

関連当事者とは通常みなされることがないであろう多くの企業が、関

連当事者の定義に該当してしまう可能性があるためである。

IAS第24号は、IFRS第11号が定義した”joint venture”にしか言及

しておらず、”joint operation”については言及していない。改訂前の

IAS第24号は、当事者が関連当事者に該当しない場合について説明

するにあたり、より広い意味で”joint venture”を使っていた。

9.7.4 政府関連企業 IAS第24号は、政府関連企業(政府が支配、共同支配、又は重要な

影響力を有する企業)の概念を用いている。この文脈において「政府」

とは、地方、国、国際を問わず、政府、政府機関及び類似機関をいう。

政府の定義に関しては、国・地域によって実務上ばらつきがある可能

性がある。

弊社のコメント

IFRS第10号において支配の定義が変更された結果、従前のIAS第24号に基づいた場合より、多くの当事者が箇条書きの最後の項目

に記載される当事者によって支配されているとみなされる可能性が

ある。したがって、この除外規定については、より慎重に評価する必

要がある。

H

S A

C

50% 50%

100%

H

S A

Z

50% 30% 50%

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

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54

第10章 経過措置

IFRS第11号は2013年1月1日以降開始事業年度より適用される。

早期適用は認められているが、企業はIFRS第10号、IFRS第12号、

IAS第27号及びIAS第28号を同一日時点でまとめて適用しなければ

ならない。同時適用が要求されるのは、それらの基準すべてが、企業

と他の企業との関係(すなわち、他の企業に対する支配、共同支配又

は重要な影響力)の評価と、関連する会計処理及び開示規定を取り

扱っているからである。よってIASBは、これらの基準のうち1つだけを

適用し、他の基準を適用しなければ混乱が生じかねないと結論付け

た。また、発効日が異なれば、これらの基準及び他のIFRSの関連す

る改訂を継続的に把握することが困難になっていただろう。

1つの例外として、企業は、早期適用することが財務諸表の利用者に

有益な場合、(他の新基準を適用しなくとも)IFRS第12号の開示規定

を早期適用することができる。

IAS第1号は、企業が新会計基準を遡及適用するにあたり、(最も古

い比較期間の期首時点の)財政状態計算書を表示することを求めて

いる。IFRS第11号がこのケースに相当する。

図16に示されるように、IFRS第11号への移行の影響は以下に左右

される。 • IAS第31号に従って取決めがどのように分類されていたか • IAS第31号に従って適用されていた会計処理方法 • IFRS第11号に従って共同支配事業又は共同支配企業のいずれ

に分類されるか

IFRS第11号は、その全面的な遡及適用に関し、実務上一定の救済

措置を定めている。2013年はまだ先に思えるかもしれないが、企業

が現在の取決めの再交渉を行いたいと考えるのであれば、また、3年分の比較財務諸表を提供しなければならないのであれば、迅速に対

応しなければならない。下記は移行時の影響に焦点をあてているが、

セクション10.5と10.6で解説しているように、その後の財務諸表及び

主要業績評価指標(セクション12.3で解説)にも影響が及ぶ可能性が

ある。

IAS3

1 IF

RS

11

共同支配の営業活動

自らの資産、負債、費用、及

び収益に対する持分を認識

共同支配の資産

資産に対する持分相当額、負債に対

する持分相当額、自らの収益、費用

及び費用に対する持分相当額を認識

被共同支配企業

比例連結 持分法

適用時の調整は想定されていないが、IAS第8号が適用

されると考えられる15

共同支配事業

自らの資産、負債、収益及び費用ならびに/又は当事者

に共通して発生した資産、負債、収益及び費用に対する

持分相当額を認識

具体的に取り上

げられている 適用時の調整は

想定されていな

いが、IAS第8号が適用されると

考えられる15

共同支配企業

持分法

ジョイント・ベン

チャー

共同支配の取決め

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図16-IAS第31号からIFRS第11号への移行

15 これらの状況に関しIFRS第11号に具体的な定めはないことから、IAS第8号が適用されると思われる。IAS第8号は、特定の経過措置が定められていない場合、新たな会

計原則を遡及適用することを求めている。

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企業が任意に比較情報を追加して提供する場合(または、規制上の要

求により第三の損益計算書に関する情報の提供が義務付けられる場

合)、企業は当該期間に関してもIFRS第11号を適用する必要がある。

すなわち、IFRS第11号に関してはすべての3つの損益計算書を同じ

基準で表示すべきである。比較情報を修正再表示することを求める規

定は、表示される最も古い期間(自主的に表示する期間を含む)の期

首から2013年1月1日までの間に企業が共同支配企業に対する持分

を処分する(また共同支配を喪失する)場合であっても適用される。

このプロセスにより結果として純資産がマイナスになる場合、共同支

配投資者は、マイナスの純資産に関する法的債務又は推定的債務を

有しているか否かを評価し、有しているとしたら、それに対応する負債

を認識する。この金額は、(IAS第37号に従って算定した)共同支配投

資者の法的債務又は推定的債務であり、単に上記で計算したマイナ

スの純資産額にはならない。共同支配投資者が法的債務又は推定

的債務を有していない場合、負債を認識しない。ただし、共同支配投

資者は、表示される最も古い期間の期首時点(例えば2012年1月1日)の、ならびにIFRS第11号が最初に適用される日時点(例えば

2013年1月1日)の、損失に対する未認識の持分累計額を利益剰余

金に計上する共にその事実を開示しなければならない。

55

10.1 比例連結から持分法への移行 企業IFRS第11号に従って共同支配企業に分類されるかつてのJCEは、持分法で会計処理する必要がある。図17にその移行プロセスを示す。

投資を認識

• 表示される最も古い期間の期首時点で認識する(例:2012年1月1日)

投資を測定

• 以前に比例連結していた資産及び負債の帳簿価額を集約する • 必要に応じて(配分された)のれんを含める • 資産及び負債の帳簿価額の合計額を当初の投資原価とする • 当初認識に関するIAS第12号の免除規定は適用しない

減損テスト

• IAS第39号に従って、投資に減損の兆候が存在しないか否かを判断する • 兆候が存在するようであれば、IAS第36号の方法を用いて減損テストを行う • 回収可能価額が処分費用控除後の公正価値を基にしているのであれば、IFRS第13号を適用する影

響を考慮する • 表示される最も早い期間の期首時点で、減損損失を利益剰余金に認識する

持分法を適用

• 当初認識後は持分法を用いてジョイント・ベンチャーに対する投資を会計処理する

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図17-比例連結から持分法への移行

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56

減損の兆候が存在する場合に移行時点で減損テストを行うことに加

えて、経営者は兆候が前期末時点(例えば2011年12月31日)に存

在しているか否かを検討しなければならない。その場合、当該日時点

で減損テストを実施し、その結果生じる損失をその時点で認識しなけ

ればならない。

前期末時点で認識された減損の代わりに、また、それに追加して、最

も古い比較期間の期首時点で減損が認識されることもある。これは

IAS第36号「資産の減損」の兆候とIAS第39号の兆候の相違によるも

のである。さらに、移行時点の資金生成単位への配分の違いによって

減損損失が認識されることがある。

減損テストが必要とされ、回収可能価額が処分費用控除後の公正価

値に基づいている場合、経営者は、IFRSの下で公正価値をどのよう

に測定するかを定めたIFRS第13号の影響を勘案しなければならない。

IFRS第13号も2013年1月1日から将来に向けて適用することになる

が、早期適用も可能である。

比例連結から持分法に移行するにあたり、共同支配投資者が移行時

点で共同支配企業に対する持分法投資を認識する場合、IAS第12号「法人所得税」に定められる繰延税金資産及び負債の当初認識に関

する適用除外規定は適用されないとIFRS第11号は定めている。これ

は、繰延税金資産及び負債に関する適用除外規定が、その他の状況

において、共同支配企業に関する外部一時差異(アウトサイド・ベーシ

スの一時差異)には適用されないとする弊社の一般的な見方と一致

する。

持分法の適用の詳細に関しては「国際会計の実務」上巻5 を参照された

い。経営者は会計上のこうした変更が財務諸表に及ぼす影響を過小評

価してはならない。セクション10.5-10.6及び12.3で詳しく説明している

ように、これは主要業績評価指標に影響を及ぼす可能性がある。

10.1.1 代替としての開示 JCEの比例連結による会計処理を支持する者は、比例連結がJCEを管理する上での役割及びJCEのリスクと経済価値の内容をより良く反

映すると考えていた。支持者は、比例連結のほうが、財務諸表の利用

者にとってJCEの業績及び財政状態についてより透明性が高いもの

であると考えていた。

しかし、比例連結はIFRS第11号では容認されていない。IAS第31号においてJCEに該当するものの一部がIFRS第11号では共同支配事

業になる場合がある。そのような場合、セクション6.1で説明している

ように、IFRS第11号に定められる会計処理は、IAS第31号に基づい

た比例連結の処理とよく似ている可能性がある。

一方、JCEが共同支配企業になる場合、比例連結を使用することを今

後容認されず、持分法を用いて共同支配企業を会計処理しなければ

ならない。こうした企業は、IAS第31号に従って比例持分を用いて伝

えていた情報を引き続き提供するために、他の開示を行うことができ

ると考える可能性がある。

一つの可能性としては、セクション9.4.2で説明しているようにIFRS第12号では、個々に重要な共同支配企業に関しては要約財務情報が

要求され、それ以外のすべての共同支配企業に関しては集約して要

約財務情報が求められることである。一定のケースでは、比例連結を

用いて提供されていた情報を要約財務情報から得ることができる。

弊社のコメント

減損が移行時点で認識されるとき、共同支配企業に対する投資の

みなし原価は、減損テストが実施される前の帳簿価額の合計になる。

このことは、移行時点に認識される減損はみなし原価の一部ではな

いことを示唆している。すなわち、原価は純額ではなく総額を基にし

ている。これは重要である。というのも、移行時に認識される減損損

失は、戻入れの要件が満たされるのであれば、後の報告期間で純

損益を通じて戻し入れることができるからである。

弊社は、設例25に説明されるように、比例連結から持分法に移行

する企業は、後知恵の使用を回避するために、IFRS第11号への移

行時点で投資について減損テストを同時に実施する必要があるか

否かを判断することを推奨する。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例25-移行の準備-減損テスト

ある企業は2013年1月1日からIFRS第11号を適用しなければなら

ない。当該企業は、IAS第31号に従って比例連結を用いて会計処

理しているJCEを有しているが、IFRS第11号では共同支配企業に

分類されると判断する。そのため、経営者はIFRS第11号の移行に

際し、2012年1月1日現在で持分法投資に関し減損の兆候が存在

するか否かを検討し、存在するようであれば、減損テストを実施しな

ければならない。

したがって経営者は、2012年1月1日現在、及びIFRS第11号の適

用前の各報告期間に関し、持分法を適用していたかのようにJCEに対する持分の減損を評価しなければならない。実際にIFRS11適用

前(IAS31ベース)の2012年財務諸表において減損が認識されるこ

とはないが、IFRS第11号の適用の前にこの評価を実施することで、

後知恵を用いることなく見積りを行うことができる。

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その他の可能性としては、共同支配企業又は共同支配事業が(IFRS第8号「事業セグメント」に定義される)報告セグメントである場合、共

同支配投資者又は共同支配事業者は、最高営業意思決定者に事業

セグメントについての財務情報が報告されているのであれば、当該情

報を開示しなければならなくなることが考えられる。IFRS第11号で求

められる会計処理方法が変更になったという理由だけで、最高営業

意思決定者が使用する情報を変更する必要はない。

セグメント報告に関する規定についてのさらなる情報は「国際会計の

実務」下巻5 を参照されたい。

10.2 持分法から資産及び負債の会計処理への移行 企業がIAS第31号に従って持分法を用いてJCEを会計処理しており、

共同支配の取決めがIFRS第11号に基づくと共同支配事業に該当す

ると判断する場合、資産に対する権利と負債に対する義務を会計処

理しなければならなくなる。図18ではこの移行プロセスを示している。

57

投資を認識を 中止

• 持分法で処理されていた投資の認識を中止する(表示される最も古い期間の期首時点(例:2012年1月)における企業の純投資の一部を構成する項目を含む)

資産と負債を

認識

• 契約及び関連するIFRS(例:IAS第16号「有形固定資産」)に基づき、資産に対する権利と負債に対す

る義務を認識する • 持分法投資の帳簿価額の一部を構成していたのれんを認識する

権利と義務を

測定

• 持分法を適用するときに企業が利用した情報を基に測定する • 他のIFRS(例:IAS第16号)に従って測定する • 差額をのれんの減少及び(又は)利益剰余金の修正として認識する-特別の規定が適用される • IAS第12号の当初認識に関する例外規定は適用されない

権利と義務の 会計処理

• 当初認識後は関連するIFRSに従って権利と義務を会計処理する

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図18-持分法から資産及び負債の会計処理への移行

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持分法から資産に対する権利及び負債に対する義務の会計処理へ

と移行する企業は、表示される最も古い期間の期首時点において下

記の両方を開示しなければならない。 • 認識の中止を行った投資と認識した資産及び負債の調整表 • 利益剰余金に計上された金額

第6章で説明しているように、共同支配事業者は当初認識後、自らの

資産及び負債、ならびに収益及び費用を認識する。持分法により会

計処理されてきた個々の資産と負債に対する企業の持分は、財政状

態計算書上、純投資として1つの科目に表示するのではなく、別々の

科目に表示する。同じように、収益と費用も損益計算書上、純損益の

1つの科目ではなく、別々の科目に表示する。

経営者はこの会計上の変更が財務諸表に及ぼす影響を過小評価す

べきではない。これも主要業績評価指標に影響を及ぼすことになるか

もしれない。詳細はセクション10.5、10.6及び12.3で説明している。

10.3 比例連結から共同支配事業会計へ IAS第31号に従って比例連結を用いていた共同支配の取決めが、

IFRS第11号においては共同支配事業に分類される場合(つまり共同

支配事業者は自らの資産、負債、収益及び費用を認識する)、IFRS第11号の適用に際してほとんど(又はまったく)影響が出ないと考えられ

るが、セクション6.1で説明しているように、差異が生じる場合もある。

例えば比例連結では、共同支配投資者はJCEのすべての資産と負債

に対する比例持分を認識していた。一方、共同支配事業では、共同支

配事業者は一定の資産及び負債に対する持分しか有していない場合

がある。その場合、比例連結を使った場合と共同支配事業とでは重

要な違いが生じる可能性がある。

この状況はIFRS第11号の経過措置で特に取り扱われていない。した

がって、比例連結を用いている共同支配企業から共同支配事業に分

類が変更されることにより、財務諸表に変更が生じる場合、これらの

変更は遡及して(すなわちIAS第8号に従って)反映されることになると

思われる。

10.4 共同支配の資産又は共同支配の営業活動から持分

法へ IAS第31号による共同支配の資産/営業活動がIFRS第11号の下で

共同支配企業に該当することは一般的でないと我々は考えている。と

いうのもこの状況は、IAS第31号の下では企業が存在しないが、

IFRS第11号の下では別個のビークルが存在する(そしてその別個の

ビークルが当事者に資産に対する権利と負債に対する義務を与える)

と判断された場合にのみ生じることになるからである。しかし、もしこの

ようなケースに該当する投資があるならば、企業の財務諸表には重

要な変更が生じる。というのも企業は、IAS第31号の下では共同支配

の資産/営業活動を資産、負債、収益及び費用に対する持分を基に

会計処理していたであろうが、IFRS第11号では持分法を用いること

になるからである。

この状況はIFRS第11号の経過措置で特に取り扱われていない。した

がって、これらの変更は、移行時点で遡及して(すなわちIAS第8号に

従って)反映されることになると思われる。

10.5 主要業績評価指標への影響-表示 経営者は、会計上の変更が財務諸表に及ぼす影響を過少評価して

はならない。これは、収益、売上総利益及びレバレッジ比率など、企

業業績を評価するために内部向け及び外部向けの両方に使用される

主要業績評価指標に影響を及ぼす。設例26でその潜在的な影響を

説明している。

おそらくこれは極端な例であるものの、共同支配企業を持分法により

会計処理した場合に、一部の企業に非常に大きな影響が及ぶ可能性

があることを説明している。しかし、そうした結論に至る前に、下記を

慎重に再評価すべきである。 • そうした状況で共同支配が存在しているか否か • そうした共同支配の取決めが共同支配事業でなく共同支配企業

であるか

58

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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設例26-比例連結と持分法の比較

ある製造会社の新興経済国における事業は、当該国における法的要件により、すべて共同支配の取決めを通じて遂行されている。IAS第31号の下では、これらの共同支配の取決めはJCEであるとみなされ、製造会社はこれらの事業体を比例連結により会計処理していた。 IFRS第11号を適用するにあたり、製造会社は、自社と現地政府の間で取決めに対する共同支配が存在すると結論付けた。次に製造会社

は、別個のビークルの法的形態や共同支配の取決めの契約条件及びその他の事実及び状況を評価し、これらのかつてのJCEはIFRS第11号の下では共同支配企業に該当すると判断する。したがって製造会社は持分法を用いてこれらの共同支配企業を会計処理しなければなら

ない。以下の表ではその影響を説明している。

上記は適用時点で減損及びその他の測定上の差異が存在しないと仮定している(セクション10.6も参照)。

59

財政状態計算書 (単位:CU)

2012年1月1日 (適用前)

2012年1月1日 (適用後)

流動資産 320 -

非流動資産 2,100 1,520

資産合計 2,420 1,520

流動負債 (350) -

非流動負債 (550) -

負債合計 (900) -

資本合計 (1,520) (1,520)

損益計算書 (単位:CU)

2012年12月期 (適用前)

2012年12月期 (適用後)

収益 1,070 -

売上原価 (840) -

売上総利益 230 -

その他営業費用 (125) -

営業利益 105 -

利息及び税金 (25) -

共同支配企業の利益に対する持分 - 80

純利益 80 80

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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60

10.6 主要業績評価指標への影響-測定 IFRS第11号の適用後において、純利益(又は包括利益)及び純資産

は、IAS第31号の下で報告されていた金額と異なることがある。という

のも持分法の適用に関する測定規定は、以前認識されていたその他

の資産及び負債に適用されていた測定規定と異なるからである。本

セクションでは、生じる可能性のある主な相違点について説明する。

10.6.1 減損 会計処理を持分法から資産に対する権利及び負債に対する義務の

会計処理に変更する際、図表19に示されるような論点が生じる可能

性がある。

以前には要求されていなかった減損テストが必要となったために、あ

る過去の日付時点で評価を取得する場合には、後知恵が用いられる

ことのないように注意しなければならない。見積りはその時点で存在

していた事実及び状況を基にすべきである。

持分法 資産に対する権利及び負債に対

する義務の会計処理 影響

減損テストの実施時期 IAS第28号は、共同支配投資者

に対し、持分投資に関して減損損

失を認識する必要があるか否か

を判断するにあたりIAS第39号を

適用することを求めている。しか

しながら、減損損失の金額はIAS第36号に従って測定される。共

同支配企業に関連するのれんは、

共同支配企業の帳簿価額に含ま

れる。したがって、個別に減損テ

ストは行われない。

資産はIAS第36号に従って減損テ

ストが実施される(資産が金融商

品である場合にはその限りではな

く、IAS第39号が適用される)。の

れんに関しては少なくとも年に一

度、減損テストを実施する。

IAS第39号に定められる減損の兆

候とIAS第36号に定められる減損

の兆候は、わずかに異なっている。

すなわち、企業は以前に減損テス

トを行っていなかった場合でも、減

損テストを実施しなければならない

可能性がある(又はその逆もあり

得る)。 のれんに関しては、兆候が存在し

ない場合であっても、(年に1度は

減損テストを実施することを要求し

ているIAS第36号の規定により)

初めて減損テストの実施が要求さ

れる可能性がある。

減損テストの対象 持分法で処理されている投資全

体について減損テストを実施する。 兆候が存在する資産のみ、又はの

れん(及び、のれんが含まれる資

金生成単位内のその他の資産)に

ついて減損テストを実施する。

共同支配の取決めの資産が複数

の資金生成単位に配分されている

場合、従前には減損が存在してい

なかったとしても、減損が存在する

ことがある(又はその逆もあり得

る)。

減損の戻入れは容認されるか 投資残高に含められているのれ

んに関して、移行時点または移行

後に認識された減損は、要件を

充足する場合、戻し入れられる。

のれんの減損の戻し入れは禁止さ

れている。移行時点または移行後

に認識されたその他の資産の減

損は、要件を充足する場合、戻し

入れられる。

今後、資産に対する権利を会計処

理するにあたり、以前行われてい

た減損の戻入れが容認されない

場合がある。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

図19-減損に関して起こりうる測定上の相違

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10.6.2 借入費用 比例連結により会計処理されていたJCEが借入費用を負担していな

かった場合、共同支配投資企業は、IAS第23号「借入費用」に従って

自身の借入費用を資産化する場合がある。共同支配事業に関し認識

された資産に関しても同じことがいえる。しかし、持分法投資について

は借入費用を資産化することはできない。というのも当該借入費用は

IAS第23号における適格資産にならないからである。

したがってIAS第31号の下でのJCEがIFRS第11号の下で共同支配

事業に該当する場合、共同支配事業者は、最も古い比較期間の期首

時点から借入費用を将来に向けて認識しなければならない。共同支

配事業者はまた、追加の資産化によりそれらの適格資産の帳簿価額

が高くなった部分について、追加の減価償却費、外国為替換算差額

及び潜在的な減損(セクション10.6.1参照)も認識する必要がある。

10.6.3 ヘッジ IAS第31号に基づきJCEが比例連結を用いて会計処理されていた場

合、企業は、JCEの資産、負債、確定約定及び非常に可能性の高い

予定取引にヘッジ会計を適用することができたかもしれない。かつて

のJCEがIFRS第11号の下で共同支配企業に分類される場合、ヘッ

ジ会計は持分法投資全体に対してのみ適用することができる。一方、

共同支配事業者は、共同支配事業の資産、負債、確定約定及び非常

に可能性の高い予定取引にヘッジ会計を適用することができる。

このことは、過去には有効とみなされていたヘッジが今後は有効では

なくなる場合があり、その結果生じる非有効部分は純損益に認識する

必要があることを意味している。例えば、共同支配の取決めが以前は

比例連結されるJCEであったが、IFRS第11号の下では共同支配企

業である場合がこれに該当する。経営者はまた、IFRS第11号(関連

する場合)及びIFRS第9号(発効している場合)における新しい会計処

理を基に、共同支配の取決めに関し新たなヘッジを実行する必要が

あるか否かを検討すべきである。

10.6.4 関連会社に、又は関連会社から変更された場合の再測定 セクション8.2.4で説明しているように、ある企業が共同支配企業に対

する共同支配を喪失するが、関連会社に対する持分を引き続き保有

する場合(又はその逆)、企業は関連会社に対する残存持分を再測

定しない。同様に、以前その他の包括利益に認識され、資本に累積し

ていた金額(例:累積為替差額)を純損益に振り替えることはしない。

これらは、IFRS第3号及びIAS第28号に関連する2008年の改訂によ

り導入された規定からの変更である。これらの規定は、2008年に導

入されたときに将来に向けて適用することが求められた。

興味深いのは、IFRS第11号に関連して改訂が行われた際、IAS第28号には経過措置が含まれなかったことである。経過措置について

特に取り扱われていないため、IAS第8号の一般規定を適用すること

が示唆されるように思われる。すなわち、たとえ共同支配の取決めの

分類がIFRS第11号の公表により影響を受けなかったとしても、遡及

的な修正再表示が要求される。この結論の影響は下記設例27で説

明している。

61

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例27-JCEから関連会社に変更された場合の再測定

ある企業は、比例連結を適用していたJCEに対する持分を有してい

た。企業は、2010年1月1日からIFRS第3号(2008年)及びIAS第27号(2008年)を適用した。2010年、企業はJCEの共同支配を喪

失したが、残存持分に対する重要な影響力を保持していた。すなわ

ち、JCEは2010年に関連会社になった。IAS第31号に従って企業

は残存持分を公正価値に再測定し、資本に累積していた関連する

累積為替差額のすべてを純損益に振り替えた。したがって当報告期

間(2013年)と比較期間(2012年)に関し、企業は関連会社に対す

る持分を有しており、当該期間に関し持分法を適用した。 企業は2013年も当該関連会社を保有しており、引き続き持分法を

適用する。当期及び比較期間の両期間に関し持分は関連会社に対

するものであるが、それでも企業は2013年1月1日からIAS第28号(2011年)を適用しなければならない。IAS第28号(2011年)は、

(IFRS第11号の下では共同支配企業に該当する)JCEが関連会社

になる場合の再測定を容認しておらず、また、資本に累積された関

連する累積為替差額のリサイクリング(組替調整)を容認していない。 図16で説明しているように、共同支配の取決めがIAS第31号の下

では持分法により会計処理されるJCEであり、IFRS第11号の下で

は持分法により会計処理される共同支配企業である場合に関し、

IAS第28号には特定の経過措置が存在しない。したがってIAS第8号の一般規定が適用されるように思われる。すなわち、再測定が比

較期間より前に行われ、IFRS第11号又はIAS第28号を適用したと

ころで関連会社であることに変わりはなかったとしても、再測定及び

組替調整の影響をその他の包括利益累計額から取り除くため、企

業は財務諸表を修正再表示しなければならない。

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逆の状況でも同じことがいえるが、関連会社が比例連結を用いて会

計処理されるJCEになった場合はその限りではない。この場合、IFRS第11号とIAS第28号の規定の間には不整合が存在するように思わ

れる。というのも、IFRS第11号は、比例連結から持分法への移行に

関する経過措置を定めているからである。この場合に関し、IFRS第11号は、共同支配企業に対する投資のみなし原価は、IAS第31号に

従って比例連結を用いて認識された金額の調整が行われていない合

計になると明示的に定めている(ただし、減損テストは行う)。この規定

は、IAS第28号に従って計上された再測定は戻し入れることが要求さ

れると考えられる、黙示的な経過措置に整合しないように思われる。

この明らかな不整合については設例28で説明している。

弊社のコメント

これらのどの状況においても、IAS第28号(2011年)の遡及適用を

求めることはIASBの意図するところではなかったと我々は考えてお

り、この点はIAS第28号の経過措置で見過ごされてしまったように

思われる。企業がIAS第28号に従って再測定を元に戻すことを要

求されないように、IASBはこの点について対処すべきであると我々

は考えている。

62

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

設例28-関連会社からJCEに変更された場合の再測定

ある企業は関連会社に対する持分を有していた。当該企業は、

2010年1月1日からIFRS第3号(2008年)及びIAS第27号(2008年)を適用した。2010年、企業は関連会社の共同支配を獲得した

(すなわち関連会社はJCEになった)。IAS第28号(2008年)に従っ

て企業は、残存持分を公正価値に再測定し、その後、JCEに対する

持分を比例連結により会計処理した。 企業は2013年にIFRS第11号を適用し、共同支配をなお有している。

取決めは共同支配企業に該当すると判断される。IFRS第11号と

IAS第28号(2011年)は比例連結の使用を認めておらず、2012年1月1日時点で認識されていた金額を合算することを要求しているよ

うに思われる。しかし、IAS第28号は、2010年に計上された再測定

の影響を取り除くことを企業に対して求めているように思われる。し

たがって、両基準の間には不整合が存在すると考えられる。

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11.1 共同支配の取決めの会計処理 IFRS第11号の公表は、米国基準とのコンバージェンスに向けた重要

な一歩であり、IASBとFASBの間で締結された2006年覚書(MoU)

の一部でもあった。米国基準は、IAS第31号で認められていた比例

連結を一般的に容認していない。IFRS第11号の公表により、IFRSと米国基準の両方において、共同支配企業の会計処理に全般的に持

分法を適用することが要求される。

不動産及び採掘産業では、米国基準がそれらの業界に関し依然とし

て比例連結を容認していることが問題になっている。これらの業界の

IFRS関係者の一部は、IFRSにおける比例連結を取り除くことで実際

に比較可能性が損なわれると訴えている。

一見するとこうした主張には一理あるように思われるが、本当にそう

であるかは疑わしい。共同支配の取決めの法的形態、契約条件、及

びその他の事実及び状況に基づくと、これらの業界における多くの共

同支配の取決めが共同支配事業に分類されると我々は考えている。

先に触れたように、比例連結と、資産に対する権利及び負債に対する

義務の会計処理との間には差異が存在するが、その結果生じる金額

は、持分法の金額より近い金額になる。したがって、これらの業界に

おける共同支配の取決めには共同支配企業に分類され、持分法が

要求されるものもあるが、こうした懸念は以前に考えられていたほど

重要ではない。

IFRSと米国基準の規定はまったく同じではないため、持分法の適用

に関して両基準の規定の間に相違点は引き続き存在する。

11.2 開示 IFRS第12号は米国基準よりも詳細な開示を要求している。例えば

IFRSでは、個々に重要性のあるすべての共同支配企業に関して要

約財務情報が求められるのに対し、米国基準では、規制機関が要求

する場合を除き、そうした情報を集約することができる。さらに要約財

務情報が表示されるとき、IFRSでは、米国基準より詳細な開示が要

求される。例えば、現金、減価償却費、法人所得税費用の開示が

IFRSでは要求されるが、米国基準では要求されない。

第11章 米国基準とのコンバージェンス

63

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

11.3 投資企業による共同支配企業の将来の会計処理 2011年8月、IASBは、投資企業に関して、支配を有するすべての企

業を連結するというIFRS第10号の原則に対する例外規定を定めた

公開草案(ED)を公表した。これはFASBとの共同プロジェクトの一部

である。

関連する改訂として、EDは共同支配企業及び関連会社の会計処理

を変更することを提案している。現行のIFRSでは、ベンチャー・キャピ

タル組織は、公正価値と持分法のどちらを使用するかについて選択

肢を有している(セクション2.1参照)。EDはこの選択肢を取り除くこと

を提案している。投資企業は、関連会社及び共同支配企業に対する

投資を、純損益を通じて公正価値で測定しなければならなくなる。とい

うのも、投資企業に該当するための要件の1つが、企業の実質的に

すべての投資が公正価値ベースで管理され、その業績が評価されて

いなければならないというものだからである。この規定は、投資企業

が支配持分を有している企業だけでなく、共同支配企業及び関連会

社に対する投資にも適用される。

EDは、投資企業の親会社が、子会社に対する投資を公正価値で測

定することを容認しない一方で、共同支配企業及び関連会社に対す

る投資企業の投資を公正価値で測定することを求めている(弊社の

出版物「IFRS第10号 適用時の課題」セクション12.2を参照)。

投資企業の定義を満たさないが、現在、IAS第28号により共同支配

企業又は関連会社に対する投資を公正価値で測定することを容認さ

れている企業は、今後は公正価値を用いることができなくなる。そうし

た企業は持分法を用いて関連会社及び共同支配企業に対する投資

を測定しなければならなくなる。これは、投資企業に該当するための

要件を充足しないベンチャー・キャピタル組織にとっては重要な変更と

なる。

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13.3.1 経過措置 EDでは、企業が投資企業の定義を満たすのであれば、測定に関する

例外規定を導入する影響を、提案されたIFRSを最初に適用する期間

の期首時点で開始利益剰余金の調整として認識することが提案され

ている。利益剰余金の調整は、以下の差額である。(投資先における

公正価値の変動のうち、その他の包括利益の累積額に残存している

金額があれば、それについても利益剰余金に調整する)。 (1) 投資先の純資産の従前の帳簿価額 (2) 提案されたIFRSを最初に適用した日時点の投資先の公正価値

11.3.2 発効日 EDは将来に向けて適用される。EDには発効日は定められていない。

しかしIASBが以前審議した際、2013年1月1日からの適用が提案さ

れていた。当該日はIFRS第10号とIFRS第11号が適用される日と一

致する。そのため、企業は、一度限りの移行で済むことになる。

64

弊社のコメント

公正価値の使用から持分法への変更(又はその逆)に向けてシス

テム及びプロセスを修正するために、作成者にどのくらいの期間が

必要になるかを考慮すべきである。

弊社のコメント

持分法について存在する懸念事項に鑑みると、より多くの企業に持

分法を適用させることが、意思決定に有用な情報の提供につなが

るかについて検討されるべきであろう。持分法がIASBのアジェンダ

項目に選ばれるまでは、おそらく、現在、公正価値を使用している

企業が公正価値を使用することを禁止しない方が良いであろうし、

IAS第28号の表現又は選択肢を変更しない方が良いであろう。

IASBが、投資企業である親会社及び投資企業ではない親会社の

両方に、連結時に公正価値会計を保持することを認める決定をする

場合、いずれの親会社も共同支配企業及び関連会社に対する投資

企業の投資を公正価値で会計処理することを要求するのは合理的

である。

しかし、IASBがEDでの提案の通りに進めていくのであれば(すなわ

ち、投資企業ではない親会社は連結において公正価値会計を保持

することができない)、親会社は共同支配企業又は関連会社に対す

る投資を公正価値で測定するか否かの選択肢を有するべきかもし

れない。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

Page 65: 第11号適用時の課題 - EY Japan...IAS第31号の開示規定の多くはIFRS第12号に引き継がれている。しかし、IFRS第12号の導入による最も大きな変更点の1つは、企業

12.1 システム及びプロセス 移行時及びその後継続的に、判断を行使し、要求された開示に準拠

するために必要な情報を収集するため、新しいプロセス及びシステム

(又は既存のプロセス及びシステムの修正)が必要になる可能性があ

る。共同支配の再評価及び(又は)共同支配の取決めの分類に影響

を及ぼす事実及び状況は、時の経過とともに変化する可能性がある

ため、それに応じてプロセスを調整しなければならない。

12.2 見積り及び評価 経営者は新たな見積りを行う必要に迫られ、その結果、評価を必要と

することがある。例えば、共同支配企業又は共同支配事業に関し所

有に変動が生じる場合(それぞれセクション8.2と8.3を参照)、評価が

必要となる。IFRS11号適用の最初の比較期間の期首時点をはじめ、

共同支配企業に対する持分法投資に関する減損テストが必要になる

場合にも評価が必要になる可能性がある(セクション10.6.1参照)。

経営者は必要とされるすべての情報を入手できるか否か検討しなけ

ればならない。

第12章 ビジネスへの影響

65

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

12.3 主要財務指標 共同支配の取決めの会計処理に変更が生じる場合(例:比例連結か

ら持分法に変更)、経営者は主要財務指標にどのような影響が及ぶ

かを考慮しなければならない。例えば、資産合計、負債合計、収益合

計及び費用合計が増減することがある。経営者は、アナリスト向け説

明会、決算発表、及びその他株主とのコミュニケーションにおいてそ

れらの変更がどのように提示されるかを評価しなければならない。借

入金の財務制限条項への抵触についても考慮する必要がある。

賞与、株式報酬の権利確定条件、その他の報酬制度が財務上の測

定値に基づいている場合、経営者はそれを継続させるのが適切であ

るか評価すべきである。

12.4 法人所得税 経営者はIFRS第11号を適用したときの税務上の影響を考慮する必

要がある。多くのケースでは、共同支配の取決めの会計処理の変更

により支払われる法人所得税の金額に影響が及ぶことはない。しかし、

特定のケースでは、課税される利得又は損失が生じる可能性がある。

経営者は、繰延税金資産及び負債が正しく表示されるように、帳簿金

額及び税務基準額が確実に追跡されるような措置を講じなければな

らない。

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結論

66

IAS第31号に従って比例連結を用いてJCEを会計処理している企業

は、会計方針を変更する必要がある。しかしながら、会計処理を機械

的に持分法に変更するのではなく、経営者は、法的形態、契約上の

取決めの条件、その他の事実と状況を基に、各当事者が資産に対す

る権利及び負債に対する義務を有しているかのか(共同支配事業に

該当)、純資産に対する権利を有しているのか(共同支配企業に該

当)を判断し、それに応じて会計処理しなければならない。IFRS第11号は、2013年1月1日まで適用は必須でないものの、共同支配の取

決めをはじめとする戦略的提携の頻度は高まりつつある。特に、手元

資金が不足している場合やリスク管理上の理由により買収がその選

択肢ではない場合などに行われる。企業が流通経路を拡充するのに

伴い、共同支配の取決めは多くの業界でますます見られるようになっ

ている。企業は、新しい共同支配の取決めの交渉にあたり、又は既存

の共同支配の取決めの条件を変更するにあたり、IFRS第11号の影

響を考慮すべきであろう。早期に分析を行うことは、予期せぬ事態の

発生を避け、円滑な移行プロセスの実現のために有益である。

概要 適用範囲 共同支配の 取決め

共同支配 共同支配の 取決めの分類

共同支配事業の

会計処理 共同支配企業の

会計処理

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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付録-用語集

投資先に対する支配 投資者は、投資先への関与により生じる変動リターンに対するエクスポージャー又は権利を有し、かつ、投資先に

対するパワーにより当該リターンに影響を及ぼす能力を有している場合には、投資先を支配している。

共同支配の取決め 複数の当事者が共同支配を有する取決め

共同支配 取決めに対する契約上合意された支配の共有であり、関連性のある活動に関する意思決定に、支配を共有してい

る当事者の全員一致の合意を必要とする場合にのみ存在する。

共同支配事業 取決めに対する共同支配を有する当事者が当該取決めに関する資産に対する権利及び負債に対する義務を有し

ている場合の共同支配の取決め

共同支配事業者 共同支配事業の当事者のうち当該共同支配事業に対する共同支配を有している当事者

共同支配企業 取決めに対する共同支配を有する当事者が当該取決めの純資産に対する権利を有している場合の共同支配の取

決め

共同支配投資者 共同支配企業の当事者のうち当該共同支配企業に対する共同支配を有している当事者

共同支配の取決めの当事者 共同支配の取決めに参加している企業(当該取決めに対する共同支配を有しているかどうかは問わない)

パワー 関連性のある活動を指図する現在の能力

防御的な権利 当該権利が関係する企業に対するパワーを与えることなく、当該権利を有する当事者の利益を保護するように設計

された権利

関連性のある活動 投資先の活動のうち投資先のリターンに重要な影響を及ぼす活動である。

別個のビークル 別個に識別可能な財務構造(別個の法的主体又は法令で認知された主体を含むが、当該主体が法人格を有してい

るかどうかは問わない)

67

継続的な評価 開示 経過措置 米国基準とのコ

ンバージェンス ビジネスへの

影響 結論

IFRS第11号 共同支配の取決め 適用時の課題

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Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト・アンド・ヤングについて アーンスト・アンド・ヤングは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーサービスの分野における世界的なリーダーです。全世界の15万2千人の構成員は、共通のバリュー

(価値観)に基づいて、品質において徹底した責任を果します。私どもは、クライアント、構成員、そして社会の可能性の実現に向けて、プラスの変化をもたらすよう支援します。

「アーンスト・アンド・ヤング」とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル・ネットワークを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、 www.ey.comにて紹介しています。 新日本有限責任監査法人について 新日本有限責任監査法人は、アーンスト・アンド・ヤングのメンバーファームです。全国に拠点を持ち、日本最大級の人員を擁する監査法人業界のリーダーです。品質を最優先に、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。アーンスト・アンド・ヤングのグローバル・ネットワークを通じて、日本を取り巻く世界経済、社会における資本市場への信任を確保し、その機能を向上するため、可能性の実現を追求します。詳しくは、www.shinnihon.or.jp にて紹介しています。 アーンスト・アンド・ヤングの IFRS(国際財務報 告基準) グループについて IFRS(国際財務報告基準)への移行は、財務報 告における唯一最も重要な取り組みであり、そ の影響は会計をはるかに超え、財務報告の方法だけでなく、企業が下すすべての重要な判断にも及びます。私たちは、クライアントによりよいサービスを提供するため、世界的なリソースであるアーンスト・アンド・ヤングの構成員とナレッジの精錬に尽力しています。さらに、さまざまな業種別セクターでの経験、関連する主題に精通したナレッジ、そして世界中で培った最先端の知見から得られる利点を提供するよう努めています。アーンスト・アンド・ヤングはこのようにしてプラスの変化をもたらすよう支援します。 お問い合わせ先 新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 〒100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目2-3 日比谷国際ビル

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