私たちの宇宙は137億年前に超高温、超高密度...

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要点 BOX 10 11 星間雲 200 万年間 時間 星間雲の収縮 太陽の誕生は、今から46億年前です。 現在のパビタブルゾーンは、0.97~1.34 天文単位と考えられています。 1 天文単位は太陽と地球の距離(~500 光秒=~1.5×10 11 m)です。 3万年間 ガス円盤と 双極分子流 10万年間 原始星 1000 万年間 0 0 1 2 0.1 1 10 40 太陽からの距離(天文単位) 金星 地球 火星 ハビタブルゾーン 1 ●第1章 太陽の科学 ●太陽の誕生は46億年前。地球の誕生もほぼ同時 ●40億年前に地球上に原始海洋が形成され、生 命は海の底で誕生 46 10 40 46 原始太陽の誕生 太陽の進化に伴うハビタブルゾーン(生存可能領域)の変化

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Page 1: 私たちの宇宙は137億年前に超高温、超高密度 太陽の誕生pub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file4c610d99ae4fa.pdf · 星間雲 200万年間 時間 星間雲の収縮

要点BOX

1011

星間雲

200万年間

時間

星間雲の収縮

太陽の誕生は、今から46億年前です。

現在のパビタブルゾーンは、0.97~1.34天文単位と考えられています。1天文単位は太陽と地球の距離(~500光秒=~1.5×1011m)です。

3万年間

ガス円盤と双極分子流

10万年間

原始星

1000万年間

0

0

1

2

0.1 1 10 40

現在の太陽を1とした質量

太陽からの距離(天文単位)

金星 地球 火星

ハビタブルゾーン

1●第1章 太陽の科学

●太陽の誕生は46億年前。地球の誕生もほぼ同時●40億年前に地球上に原始海洋が形成され、生命は海の底で誕生

 

地球上の生物のほとんどは、太陽からの膨大な光

や熱のエネルギーのおかげで生命を維持してきました。

もし太陽からのエネルギーがなくなったとしたら、地

上の生命や地球環境を維持することができません。

 

今、地球温暖化問題解決の切り札として、この太

陽エネルギーを利用した発電に期待が寄せられています。

まず、その源としての太陽の生い立ちと地球環境の

歴史を見てみることにしましょう。

 

私たちの宇宙は137億年前に超高温、超高密度

のミクロな火の玉として生まれ、膨張するにつれて温

度が下がり元素が合成されて物質が作られてきました。

宇宙は現在も膨張を続けています。宇宙に無数の星

が生まれ、寄り集まって巨大化し、超新星爆発など

により、星のかけらとして再び宇宙に散らばりました。

 

私たちの太陽は宇宙に漂うこの星くずが集まって、

およそ46億年前に誕生したと考えられています。超

新星爆発の衝撃波などによって星くずにムラが生じ、

星間雲が収縮して、1千万年間ほどで原始太陽が生

まれました。この時、星の直径は現在の太陽の10倍

ほどでした。重力と内部圧力との釣り合いで、現在

の太陽の大きさが維持され、いわゆる「主系列星」と

して安定な輝きを放つことになります。

 

地球も太陽誕生から5千年後のほぼ同じ時期に誕

生しました。高温のマグマ(溶岩)の海であった地球は

ゆっくりと冷え、今から約40億年前には原始大気中

の水蒸気が水となって原始の海ができ、水の惑星と

なりました。そのとき太陽からの強力な風(太陽風、

高エネルギーの粒子の流れ)に地球はさらされていまし

たが、生命は海の底で誕生し維持されてきました。

 

生物が生きていけるには適度な温度や水が必要です。

その生存可能領域(ハビタブルゾーン)は、現在の太陽

系の中では地球近傍に限定されています。文字通り、

母なる太陽のぬくもりの中で、地球環境と生物が育

まれてきています。

46億年の歩み

太陽の誕生

原始太陽の誕生

太陽の進化に伴うハビタブルゾーン(生存可能領域)の変化

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要点BOX

1213

エネルギーの対流輸送

エネルギーの放射輸送

核融合反応をしているコア、γ線の発生

光球

氷点下

低温 高温

常温 摂氏百度以上 数千~万度以上

固体 液体 気体 プラズマ

気体 プラズマ(電離気体)

加熱

コロナ

粒状斑(グラニュール)超粒状斑(スーパーグラニュール)

太陽風

放射

 太陽は大きなプラズマ球です。コアでの核融合反応でニュートリノとガンマ線が放出されます。ニュートリノは、直接太陽から地球に8分ほどで到達します。一方、ガンマ線(高エネルギー光子)は放射層の中の原子に吸収され、再放出されて、外側にいくに従い、エネルギーの低い多数の光子に変換されていきます。太陽の光になるのに数百万年かかります。

電子

原子核

彩層

●第1章 太陽の科学

太陽の内部構造

プラズマとは?(水の場合)

●太陽は巨大な核融合プラズマ●太陽内部のプラズマは重力で閉じ込め●太陽からの光は百万年前のエネルギーから

 

大空に輝く太陽は静かに燃えているように見えま

すが、実際には荒れ狂う星です。太陽の半径は70万

キロメートルで、地球のおよそ100倍。毎秒10億個

の原子爆弾に相当するエネルギーを放出しています。

 

太陽の内部の構造は中心核、放射層、対流層、

光球、彩層、および、コロナからできています。

 

中心の核は、半径が太陽の2割ほどであり、地上

の固体の鉛の10倍ほどの高密度です。太陽はほとん

どが水素でできていますが、このような高温では水素

原子は陽子(原子核)と電子にばらばらに分離された

状態となります。これが、固体、液体、気体に次ぐ、

第4の物質「プラズマ」です。そこでは原子核同士に

よる核融合反応が起こり、エネルギーの高い電磁波(ガ

ンマ線)が発生しています。

 

太陽半径の7割ほどまでの放射層ではガンマ線のエ

ネルギーが吸収され、放射で輸送されます。熱が熱

い方から冷たい方に伝わるように、放射も低温で低

密度の場所に流れていきます。ジグザグに進むガンマ

線はエネルギーの低い電磁波に変わっていき、上層の

対流層の底に到達します。

 

厚さが20万キロメートルの対流層では、中心核で

発生した放射エネルギーは対流現象により表面まで

運ばれます。対流層の下方がおよそ200万度で上

方が1万度程度ですので、沸騰する鍋の中のお湯の

ように対流現象が起こっています。放射層と異なり、

対流層のエネルギー輸送は10日程度の短期間で起こ

ります。対流層の外には光球があります。厚みはお

よそ6百キロメートルですので、太陽の半径の千分の

1以下の、非常に薄い不透明な太陽の大気層です。

 

光球の上の彩層は約2千キロメートルの薄い層(数

百万度)であり、更にその外には、数百万キロメート

ルにも及ぶコロナ(百万度)が広がっています。

 

核融合反応によるエネルギーが光として私たちに到

達するには、数十万年から数百万年もかかっています。

核と放射層と対流層

太陽内部の構造は?

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要点BOX

1415

ヘリウム

水素

100

50

0中心からの距離

中心からの距離(km)

中心からの距離

100

50

0

100

50

誕生時

50億年後(現在)

100億年後

0

350,000 700,000

ヘリウム

水素

中心核

ヘリウム

水素

元素の割合(%)

元素の割合(%)

元素の割合(%)

e+ γ線ν

e+ γ線ν

11H

11H

11H

11H

11H

42He

21H

11H

32 He

32He

11H

21H

11H

11H

水素重水素 ヘリウム3

ヘリウム4

ゆえに

+ 21H+ +e +ν⑴1

1H21H+ 3

2He+γ ⑵11H

32 He+ 4

2 He 2+ 11H ⑶3

2 He

442He+2e 2ν+ 2γ+ 26.2MeV+

11H

陽子中性子

1秒間に6億トンの陽子が消費され、ヘリウム4に変換され、陽電子(e)、ニュートリノ(ν)、ガンマ線 (γ) が発生します。

誕生後100億年後には中心の水素が燃え尽き、コア部分の水素燃料がほとんど消費されてしまいます。

(約800万度以上で起こる)

+

+

●第1章 太陽の科学

太陽の中心部での核融合反応(ppチェイン)

核融合による太陽内部の元素の変化

●太陽エネルギーは、水素原子からヘリウムが作られる核融合反応で生成される●化学反応や重力で燃えているとの考えもあった

 

古代ギリシャでは、太陽は燃える石と考えられてい

ました。物が燃えることは化学反応により説明でき

ます。しかし、太陽が強大な光や熱を長期間発する

ことが何故できるのでしょうか?太陽が化学反応で燃

焼しているとすると数千年程度しか維持することが

できません。筒の中の気体をピストンで急に圧縮する

と熱くなることは知られていますが、19世紀中頃に

イギリスの物理学者ケルビン卿とドイツの物理学者へ

ルマン・フォン・ヘルムホルツは独立に、星くずが重力

で集まり収縮して熱せられて、太陽が燃えているとの

説を出しました。この説では数千万年から数億年は

燃え続けると考えられ、信じられていました。

 

しかし、恐竜の骨や足跡が発見され、もっと長い

年代の地質学的なスケールの理解が進み、数十億年

の長期間にわたって燃え続けることを説明する必要

がありました。それには、1920年代の英国の天文

学者アーサー・エディントン(1882〜1944)やド

イツ生まれの米国の物理学者ハンス・ベーテ(1906

〜2005)の「プラズマ・核融合」による星の内部で

のエネルギー生成の核融合理論の出現を待たなけれ

ばなりませんでした。

 

太陽中心の核はおよそ千5百万度であり、4個の

水素原子が融合してヘリウムが生成される核融合反

応により、太陽の燃焼が維持されています。

 

この高温のプラズマは、太陽自身の重力で閉じ込

められています。約8百万度以上では、陽子(水素

原子)同士で重水素原子が生成され、その重水素と

陽子でヘリウム3ができ、ヘリウム3同士でヘリウム4

と2個の陽子がつくられる陽子―陽子連鎖反応(ppチ

ェイン反応)が起こっています。

 

太陽内部では、誕生時にはほとんどが水素でしたが、

現在は水素とヘリウム4が同程度であり、今から50

億年後には中心核ではほとんどの水素燃料がヘリウム

4に変換され、消費されてしまいます。

ppチェイン核融合

太陽エネルギーの

発生メカニズムは?

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