第1講 緩和ケア総論 包括的がん医療日本緩和医療学会発足...

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1 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2013 第1講 緩和ケア総論 包括的がん医療 旭川医科大学病院 緩和ケア診療部 阿部泰之 あさひかわ緩和ケア講座 2013 緩和ケア総論 あさひかわ緩和ケア講座 2013 緩和ケアってなに? 「ホスピスでしょ?」 「行ったらそれっきりの場所」 「がんの痛みの治療だよ」 「カウンセリングかな?」 「末期になったらするもの」 「看取りのときのこと?」 あさひかわ緩和ケア講座 2013 ホスピス 中世の巡礼者や十字軍の兵士が,聖地エル サレムに辿り着くまでの休息の場 hospice 客を温かくもてなす hospes 主,客の両者を意味する hospitium 客を厚遇する hospitality もてなしの心,厚遇,歓待 hospital 病院 あさひかわ緩和ケア講座 2013 世界の緩和ケアの歴史 中世 19世紀 1967 1969 1975 1981 1986 1987 西ヨーロッパ、旅人・巡礼者への援助施設=ホスピス 死にゆく病人の慰めと安らぎの場“ホスピス“(救貧院) イギリス、St. Christphers Hospice開設(C. Saunders医師) ホスピス運動の活発化 アメリカ、K. Ross医師(精神科医)「死の瞬間」を出版 St. Christphers Hospiceで在宅医療のスタート カナダ、Royal Victoria Hospital “Palliative care Unit”開設 イギリス、St. Thomas Hospitalで緩和ケアチームが稼働 リスボン宣言(患者の権利宣言)採択 WHO「Freedom from Cancer Pain」発刊 イギリス、”Palliative Medicine”が専門分野として認められる

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Page 1: 第1講 緩和ケア総論 包括的がん医療日本緩和医療学会発足 緩和ケア診療加算→緩和ケアチーム増加 “がん対策基本法”策定 がん拠点病院の指定要件:「緩和ケアの提供体制」

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あさひかわ緩和ケア講座 2013あさひかわ緩和ケア講座 2013

あさひかわ緩和ケア講座 2013

あさひかわ緩和ケア講座 2013あさひかわ緩和ケア講座 2013

第1講 緩和ケア総論包括的がん医療

旭川医科大学病院

緩和ケア診療部 阿部泰之

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア総論

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアってなに?

• 「ホスピスでしょ?」• 「行ったらそれっきりの場所」

• 「がんの痛みの治療だよ」• 「カウンセリングかな?」

• 「末期になったらするもの」• 「看取りのときのこと?」

あさひかわ緩和ケア講座 2013

ホスピス

• 中世の巡礼者や十字軍の兵士が,聖地エルサレムに辿り着くまでの休息の場

– hospice 客を温かくもてなす

– hospes 主,客の両者を意味する

– hospitium 客を厚遇する

– hospitality もてなしの心,厚遇,歓待

– hospital 病院

あさひかわ緩和ケア講座 2013

世界の緩和ケアの歴史

中世

19世紀

1967

1969

1975

1981

1986

1987

西ヨーロッパ、旅人・巡礼者への援助施設=ホスピス

死にゆく病人の慰めと安らぎの場“ホスピス“(救貧院)

イギリス、St. Christphers Hospice開設(C. Saunders医師)

ホスピス運動の活発化

アメリカ、K. Ross医師(精神科医)「死の瞬間」を出版

St. Christphers Hospiceで在宅医療のスタート

カナダ、Royal Victoria Hospital “Palliative care Unit”開設

イギリス、St. Thomas Hospitalで緩和ケアチームが稼働

リスボン宣言(患者の権利宣言)採択

WHO「Freedom from Cancer Pain」発刊

イギリス、”Palliative Medicine”が専門分野として認められる

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

日本の緩和ケアの歴史

1973

1981

1987

1990

1996

2002

2006

2008

淀川キリスト教病院にて勉強会(OCDP)始まる

柏木哲夫医師(精神科医)

日本初のホスピス、聖隷三方原病院

WHO「がんの痛みからの解放」日本語版発刊

緩和ケア病棟入院料(2,500点/日→現在3,780点/日)

→緩和ケア病棟増加

日本緩和医療学会発足

緩和ケア診療加算→緩和ケアチーム増加

“がん対策基本法”策定

がん拠点病院の指定要件:「緩和ケアの提供体制」

あさひかわ緩和ケア講座 2013

ホスピス・緩和ケアの歴史

Hospice = “Hospitality”“Hospital”の語源

Hospice ≠ Hospital、死にゆく人の慰みの場所

Hospice Care → Palliative Careへ

医療全般に適用、(医療に留まらず)QOLを考える分野

近代Hospice ≒ Terminal Careを行う医療施設

あさひかわ緩和ケア講座 2013

概念としての

緩和ケア

哲学

文学 社会

宗教

教育

福祉

医療

概念として・実践としてフィードバック

症状緩和 ビリーブメントケア

サイコオンコロジー

がん支持療法

各疾患の緩和ケア

スピリチュアルケア

・・・

医療実践として

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義 -WHO定義の変遷-

Palliative care is the active total care of patientswhose disease is not responsive to curative treatment. Control of pain, of other symptoms, and of psycological, social and spiritual problems is paramount. The goal of palliative care is achivementof the possible quality of life for patients and their families. Many aspects of palliative care are also applicable earlier in the course of the illness, in conjunction with anticancer treatment. (WHO 1990)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義 -WHO定義の変遷-

Palliative care is an approach that improves the quality of life of patients and their families facing the problem of associated with life-threatening illness, through the prevention and relief of suffering by means of early identification and impeccable assessment and treatment of pain and other problems, physical, psychosocial and spiritual. (WHO 2002)

WHO Definition of Palliative Care. Genova, Switzerland:World Health Organization ,2002. http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義

• Lifeを脅かす疾患に関わる問題に直面してい

る患者と家族のクオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチ

• 痛み、その他の身体的、心理社会的、スピリチュアルな諸問題の早期かつ確実な診断、早期治療と対応によって苦痛の予防と苦痛からの解放を実現

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

広義の“緩和ケア”

全ての援助者がもつべき“心構え”

疾患や援助者の職種、提供される場所を問わず必要なもの

あさひかわ緩和ケア講座 2013

対象疾患ってある?

• がん• 慢性疾患(心臓・呼吸器・腎臓)

• 神経難病

• 認知症

• 高齢者

• AIDS• ・・・

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアをめぐる言葉

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアをめぐる言葉

ターミナルケア Terminal care

1950年代からアメリカやイギリスで提唱された考え方。人が死に向かってゆく過程を理解して、医療のみでなく人間的な対応をすることを主張した

ホスピスケア Hospice care

1960年代からイギリスで始まったホスピスでの実践を踏まえて提唱された考え方。死に行く人への全人的アプローチの必要性を主張した

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアをめぐる言葉

緩和ケア Palliative care

1970年代からカナダで提唱された考え方で、ホスピスケアの考え方を受け継ぎ、国や社会の違いを超えて人の死に向かう過程に焦点をあて、 積極的なケアを提供することを主張し、WHOがその概念を定式化した

支持療法 Supportive care

1980年代にアメリカやヨーロッパでがん治療から発展した考え方で、治療に伴う副作用の軽減や、リハビリテーションなど抗がん治療でない 様々な治療を指しており、緩和ケアと重なる概念である

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアをめぐる言葉

緩和医療学(緩和医学) Palliative Medicine

1980年代からイギリスで緩和ケアを支える学問領域として発展したもので、国際的にも緩和ケアを学問的に裏ずける医学や看護学等の専門領域のひとつとして確立している

エンドオブライフ・ケア End-of-Life care

1990年代からアメリカやカナダで高齢者医療と緩和ケアを統合する考え方として提唱されている。北米では緩和ケアはがんやエイズを対象としたものという理解があり、がんのみならず認知症や脳血管障害など広く高齢者の疾患を対象としたケアを指す

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

White Paper on standards and norms for hospice and palliative care in Europe: Part 1.Eur J Palliat Care 2009;16: 278-289

緩和ケア

⽀持療法

患者さんのつらさ症状や問題の複雑さ

エンド・オブ・ライフケア

病状の経過/期待される⽣命予後

年 月 週 日 死亡

19 あさひかわ緩和ケア講座 2013

治すことは時々しかできないが

和らげることはしばしばでき

癒すことならいつでもできる

To Cure Sometimes, Relieve Often,

Comfort Always―Ambroise Paré

あさひかわ緩和ケア講座 2013

2名のパイオニア

あさひかわ緩和ケア講座 2013

患者の声に耳をかたむける

人間らしく生きる支援を多職種で行う

複雑ながんの痛みを解明し、解放へ導く

死の恐怖への支えとなる

進化する科学と

普遍な人間愛を

統合し全人的医療を築く

近代ホスピス運動のパイオニア

Dame Cicely Saunders(1918-2005)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

勇気を示しながら逆境を乗り越えていく人々に出会うのは、我々にとっての名誉である。このような出会いのための最良の方法は身体的な不快さを改善する技術を発展させることである。そして、患者が心の中の苦痛を分かち合う特権を与えてくれるなら、我々の関心は身体的な問題から、心の中の苦痛を除くことへと向いていく。多くのことができないかもしれないが、我々は少なくとも患者のそばにいることができる。

C. Saunders「Living with Dying」

あさひかわ緩和ケア講座 2013

Elisabeth Kübler–Ross(1926-2004)

スイス生まれの精神科医

その後、渡米

瀕死の患者との関わり

1969年「死ぬ瞬間」発表

200人の末期患者との面接

から、彼らの心理を、医師の教育の一環としてまとめた

死に至る心理過程:5段階

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

致命疾患の自覚

衝撃

1.否認

2.怒り

3.取り引き

4.抑うつ

5.受容

希望

部分的否認

準備的悲嘆

死にゆく患者の心理反応5段階モデル(Kübler-Ross,1969)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

私の願いは、この本を読んだ人が「望みのない」病人から尻込みすることなく、彼らに近づき、彼らが人生の最後の時間を過ごす手伝いができるようになることである。そうしたことができるようになれば、その経験が病人だけではなく自分にとっても有益になりうるということがわかるだろうし、人間の心の働きについて多くを学ぶことができ、自分たちの存在のどこがいちばん人間らしい側面であるかがわかるだろう。

E. Kübler–Ross 「On Death and Dying」

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義 つづき palliative care…

① provides relief from pain and other distressing symptoms

② affirms life and regards dying as a normal process③ intends neither to hasten or postpone death④ integrates the psychological and spiritual aspects of

patient care⑤ offers a support system to help patients live as

actively as possible until death⑥ offers a support system to help the family cope

during the patients illness and in their own bereavement

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義 つづき palliative care…

⑦ uses a team approach to address the needs of patients and their families, including bereavement counseling, if indicated

⑧ will enhance quality of life, and may also positively influence the course of illness

⑨ is applicable early in the course of illness, in conjunction with other therapies that are intended to prolong life, such as chemotherapy or radiation therapy, and includes those investigations needed to better understand and manage distressing clinical complications.

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義 つづき palliative care…

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する

② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する

③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない

④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れ

るように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義 つづき palliative care…

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケ

アも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけでなく、病の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと

並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメ

ントも含め、病気の早い段階から提供される

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの要件

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れるように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケアも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけではなく、病気の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメントも含め、病気の早い段階から提供される

あさひかわ緩和ケア講座 2013

症状緩和の重要性

• 痛みの有病率

– がん患者:70%(いずれかの時期に)

– HIV患者:30~80%

• さらに、平均3つの不快な身体症状に苦しむ(がん患者) Grond S. J Pain Symptom Manage. 1994.

• 痛みを持つ患者の心理ストレスは、コントロールされていない痛みの結果であり、ときとして人格的要因すら歪められる

Breitbart W. Handbook of Psychiatry in Palliative Medicine. 2000.

あさひかわ緩和ケア講座 2013

患者の抱える問題には段階がある

スピリチュアルな問題

社会的な問題

精神心理的な問題

身体的な問題

あさひかわ緩和ケア講座 2013

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78

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0 50 100

在宅ケア施設

(N=292)

緩和ケア病棟

(N=5311)

がん拠点病院

(N=2560)

「医師はつらい症状に速やかに対処していた」

73

80

50

0 50 100

在宅ケア施設

(N=292)

緩和ケア病棟

(N=5311)

がん拠点病院

(N=2560)

「からだの苦痛が少なく過ごせた」

●がん患者遺族の全国調査

がん診療連携拠点病院における遺族による緩和ケアの質の評価に関する研究班

症状緩和の普及は不十分

・緩和ケア病棟・がん拠点病院・在宅ケア施設

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの要件

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れるように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケアも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけではなく、病気の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメントも含め、病気の早い段階から提供される

あさひかわ緩和ケア講座 2013

現代の死の特徴

• 家庭死から病院死へ

• 交わりの死から孤独な死へ

• 情緒的な死から科学的な死へ

(Medicalization of Death)• 現実の死から劇化された死へ

柏木哲夫「死を看取る医学」1997

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

自分に心的な苦痛や不快を与える身近な人の苦しみや悲しみにかかわることには辛くて耐えられないと言えば、それは現代人の「やさしさ」のように受け取られるが、このやさしさは、汚れ、醜さ、不快、悲しみを感じさせるものは、できるだけ眼前から排除し、遠ざけておきたい「冷たさ」と一つである。そしてこの心理傾向は、いつのまにかわれわれ現代人のだれもを支配する心性になってしまった。

小此木啓吾「対象喪失」1979

悲哀排除症状群(死の過程を尊重できない現代人の心性)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

患者・家族からみた望ましいがん緩和ケア

Miyashita M, et al: Ann Oncol. 18: 1090-1097, 2007

日本人が「望ましい死」を迎えるために

必要だと考えていること

がん医療における望ましい終末期医療のあり方について

一般市民2548人および遺族513人を対象とした調査

あさひかわ緩和ケア講座 2013

望ましい死を迎えるために

日本人が共通して重要だと考えること

「痛くないようにしたい」 苦痛がない

「うちにいるのが一番」 望んだ場所で過ごす

「明日は少しよくなるって思いたい」 希望や楽しみがある

「先生とよく話し合って決めたい」 医師や看護師を信頼できる

「家族も元気でいてほしい」 負担にならない

「子供と一緒にいたい」 家族や友人とよい関係でいる

「自分のことは自分でしたい」 自立している

「人に気兼ねしないで過したい」 落ち着いた環境で過ごす

「ものや子ども扱いしないでほしい」 人として大切にされる

「悔いを残したくない」 人生を全うしたと感じる

Miyashita M, et al: Ann Oncol. 18: 1090-1097, 2007

あさひかわ緩和ケア講座 2013

望ましい死を迎えるために

人によって重要さは異なるが大切にしていること

「やるだけの治療は十分してもらえたと思っています」

できるだけの治療を受ける

「自然なかたちで最期を迎えたい」 自然なかたちで過ごす

「みんなに感謝の気持ちを伝えたい」 伝えたいことを伝えておける

「残された時間を知っておきたい」 先々のことを自分で決められる

「普段と同じように、毎日毎日を過ごしていきたい」

病気や死を意識しない

「弱った姿を人に見せたくない」 他人に弱った姿を見せない

「誰かの役に立っていると感じられる」 価値を感じられる

信仰に支えられている

Miyashita M, et al: Ann Oncol. 18: 1090-1097, 2007

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの要件

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れるように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケアも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけではなく、病気の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメントも含め、病気の早い段階から提供される

あさひかわ緩和ケア講座 2013

C. Saunders;全人的苦痛(Total pain)

• 近代ホスピス運動の創始者C. Saundersは、

多くの進行がん患者との関わりの中から、患者が経験している複雑な苦痛を次のように表した

• 「患者の苦痛は単に身体的な側面だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな側面から構成されている(全人的苦痛 Total Pain)」

• 患者は“苦痛を感じている人間(生活者)”である

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

全人的苦痛

痛み他の身体症状

日常生活の支障

不安・怒りいらだちうつ状態

経済的な問題仕事上の問題家庭内の問題

生きる意味への問い死への恐怖自責の念

身体的な苦痛

スピリチュアルな苦痛

社会的な苦痛

C. Saunders;全人的苦痛(Total pain)

精神的な苦痛

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの要件

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れるように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケアも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけではなく、病気の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメントも含め、病気の早い段階から提供される

あさひかわ緩和ケア講座 2013

あなたが、治る見込みがなく死期が迫って

いる(余命が半年以下)と告げられたら

① どこで療養したいですか?

② 最期をどこで迎えたいですか?

療養場所を選べない

a. 緩和ケア病棟 b. 自宅

c. これまで通った病院 d. がん治療病院

あさひかわ緩和ケア講座 2013

療養場所を選べない

希望する療養場所

緩和ケア病棟

自宅

今まで通った病院

がん治療病院

希望する死亡場所

緩和ケア病棟

自宅

今まで通った病院

がん治療病院

18%

63%

9%

3%

29%

23%

47%

11%

32%

死期が迫っている(余命が半年以下)と告げられた場合一般集団2527人(2008年)

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変

あさひかわ緩和ケア講座 2013

がんによる死亡年間34万人

緩和ケア病棟緩和ケア病棟

4%4%

一般病棟一般病棟

90%以上90%以上

在宅在宅

数%数%

療養場所を選べない

あさひかわ緩和ケア講座 2013

療養場所を選べない(参考)

0

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20

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90

100

1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2004 2005 2006 2007

その他

自宅

老人ホーム

助産所

介護老人保健施設

診療所

病院

※厚生労働省統計表データベースをもとにグラフ化

悪性新生物による死亡の場所別及び年次別百分率

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

療養場所を選べない(参考)

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

1951 1956 1961 1966 1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006

その他

自宅

老人ホーム

助産所

介護老人保健施設

診療所

病院

死亡の場所別にみた年次別死亡数百分率(全死亡数)

※厚生労働省統計表データベースをもとにグラフ化

あさひかわ緩和ケア講座 2013

どういう「体制」が必要?

0次緩和ケア

1次緩和ケア

2次緩和ケア

3次緩和ケア専門家

一般医療者

援助者

市民・患者

あさひかわ緩和ケア講座 2013

0次緩和ケア 市民・患者

• 市民や患者のセルフコントロール

• 有事や死への心構えと準備

• コミュニティーで生や死を支える文化

医療側だけの変化では足りない

あさひかわ緩和ケア講座 2013

1次緩和ケア 援助者全員

• 基本的な疼痛・症状コントロール

• オピオイド鎮痛剤の知識

• コミュニケーションの力

• 医療システムの理解

全ての医療者や援助者に求められる基本的な緩和ケアの能力

あさひかわ緩和ケア講座 2013

2次緩和ケア 緩和ケアチーム

• 専門的な痛み治療の相談

• 心のケア

• 在宅ケアとの架け橋

• チーム医療

緩和ケアの専門家による相談業務施設内外での緩和ケアチームによる活動

あさひかわ緩和ケア講座 2013

3次緩和ケア 緩和ケア病棟・研究機関

• 入院での症状緩和治療

• 看取り

• 介護中の家族の休息

• 教育と研究

緩和ケアの専門入院施設緩和ケアの教育・研究施設

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

相互の連携

スムーズな移行

緩和ケア専門施設・ホスピス 老人保健施設など

一般病院(緩和ケアチーム)

相談窓口・電話相談

在宅ケア

緩和ケアの提供体制(地域ケアネットワーク)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの要件

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れるように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケアも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけではなく、病気の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメントも含め、病気の早い段階から提供される

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの定義

• Lifeを脅かす疾患に関わる問題に直面してい

る患者と家族のクオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチ

• 痛み、その他の身体的、心理社会的、スピリチュアルな諸問題の早期かつ確実な診断、早期治療と対応によって苦痛の予防と苦痛からの解放を実現

あさひかわ緩和ケア講座 2013

家族・遺族のケア

家族のケア・遺族のケア

受診 死遺族ケア

治療緩和ケア

あさひかわ緩和ケア講座 2013

家族の苦痛

• 家族は第2の患者

– 家族も患者と同様もしくはそれ以上に「ケア」の対象である

• がん患者の家族が抱える問題

– 不安・抑うつ・怒り

– 身体的負荷

– 患者の死に対する恐怖

– 役割とライフスタイルの変化への対処

– 経済的問題Ferrel BR. In Oxford Textbook of Palliative Medicine 3rd edition. 2003

あさひかわ緩和ケア講座 2013

遺族の苦痛

• 患者の死は、遺族にとっては死別のつらさ、社会的問題など苦痛の始まり

• 配偶者の死

– 死別後の死亡率の上昇(心疾患が多い)

– 死別後のうつ病罹患率の上昇(20%前後)

• 死別反応=悲嘆

– 通常は問題ない(むしろ必要なもの)

– 複雑化して生活に支障を来すことがある

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

記念日反応

• 亡くなった日、誕生日、結婚記念日など

• その日が近づくと、その時の記憶がよみがえり、反応が起こりやすい

• 日本:季節の情景とともに記憶がよみがえる

あさひかわ緩和ケア講座 2013

うつ病は治療したほうがいい

死別 死別

うつ病

うつ病あり うつ病なし

二重の苦しみ

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの要件

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れるように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケアも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけではなく、病気の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメントも含め、病気の早い段階から提供される

あさひかわ緩和ケア講座 2013

チームアプローチ

•ケアの行き詰まり

•知識・技術マンネリ化

•ニーズが引き出せない

•多様な問題がある

多職種で対応

合う人が関与

構成員自身のケア

アイデアの活性化

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアの要件

① 痛みやその他の苦痛症状から解放する② 生を肯定し、死の過程を自然なものと尊重する③ 死を早めることも、引き延ばすことも意図しない④ 心理社会的、スピリチュアルな側面をケアに統合する

⑤ 患者が死の間際まで、可能な限り望んだ生活が送れるように支援する

⑥ 患者の療養中から死別後まで家族を支援する

⑦ 患者・家族が必要としたときにニーズ(死別後のケアも含む)に応えられるように、チームで対応する

⑧ QOLだけではなく、病気の経過にも良い影響を与える

⑨ 他の治療法、例えば化学療法や放射線療法などと並行して、その治療の合併症による苦痛のマネジメントも含め、病気の早い段階から提供される

あさひかわ緩和ケア講座 2013

早期からの緩和ケア

治療中から最期まで、苦痛への対処が必要

緩和ケア

受診 死

有機的な連携

(Disease-Modifying)

治療

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

早期からの緩和ケアがもたらすもの

Bresford L, et al. Financial implications of promoting excellence in end-of-life care, Robert Wood Johnson Foundation, Princeton, NJ, 2002. Report of financial implications of pilot project to test novel approaches to combing palliative and standard care. In Michigan, a phaseⅢ randomized trial of combined palliative and standard cancer care for patients versus standard care alone showed longer survival in the intervention arm versus the control arm.

抗がん治療のみに専念した人たち

包括的にがん医療を受けた人たち

あさひかわ緩和ケア講座 2013

早期からの緩和ケアがもたらすもの

N Engl J Med 2010

転移のある非小細胞肺癌を対象とした臨床試験

・Standard care群 (n=74)

従来通りの抗がん治療、主治医の判断で緩和ケア導入

・Early palliative care群 (n=77)

診断後早期から緩和ケア専門医・看護師が介入

あさひかわ緩和ケア講座 2013

Temel et al. N Engl J Med 2010

早期からの緩和ケア導入群のほうが…

・不安・抑うつの程度が低い

・予後期間が延長(生存期間中央値:8.9か月 vs. 11.6か月)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

• 緩和ケアは「あきらめ」た後の医療ではない

• ただし、緩和ケアが「あきらめ」たらその先には誰もいない

• 病気が進行すると容易に「あきらめ」は生じる

– 診断の間違い

– 治療の可能性

– うつ病など精神症状の見逃し

– 痛みの放置

• 緩和ケアは「最終の門番」でもある

Final Gate Keeper

あさひかわ緩和ケア講座 2013

包括的がん医療

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア受診 死

遺族ケア

有機的な連携

(Disease-Modifying)

抗がん治療

包括的がん医療モデル

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

アメリカ臨床腫瘍学会ASCO:American Society of Clinical Oncology

がん患者に対するケアの責任は、診断のその時から病気の全過程にわたってオンコロジストにある。適切な抗がん治療に加えて、がん医療の全段階での症状マネジメントや心理的サポート、死が近い時期のケアが必要である

包括的がん医療

ASCO J Clin Oncol. 1998.

あさひかわ緩和ケア講座 2013

がん緩和ケア

緩和ケアは「がん」だけに限らない

患者さんの人数が多い

死因の第一位である

痛みなどの苦痛を伴いやすい

医療の質の問題に直結している

まずは“がん”をモデルとして緩和ケアを進めていく

あさひかわ緩和ケア講座 2013

抗がん治療がんを治したり、コントロールする医療

がん緩和ケアがんに伴う苦痛を和らげる医療

共通の目標可能な限り長く、かつ苦痛のない生活(人生)を送ること

包括的がん医療

あさひかわ緩和ケア講座 2013

現実 痛みと苦痛

むしろ負担となる

自分でコントロールできなくなる

希望しない場所で死を迎える

理想 苦痛なく穏やか

家族が対処できる

自分でコントロールできる

希望する場所で死を迎える

がん医療 理想と現実のギャップ

このギャップを埋めることも大切

あさひかわ緩和ケア講座 2013

数字で見るがん日本

生涯罹患率

治癒率

50%(2人に1人)

50%以上

担がん患者数

400万人(推定)

再発転移がんの治癒率

約0%

あさひかわ緩和ケア講座 2013

年間の全死亡者数

がんによる死亡

125万人

36万人(29%)

日本人が死ぬ確率

100%

数字で見るがん日本

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

主要死因死亡率(人口10万対)の年次推移

27年前からがんは死因の第1位

0

50

100

150

200

250

300

1947 1952 1957 1962 1967 1972 1977 1982 1987 1992 1997 2002 2007

悪性新生物

心疾患

脳血管疾患

肺炎

不慮の事故

自殺

結核

肝疾患

人口10万対

※厚生労働省統計表データベースをもとにグラフ化

主な死因別にみた死亡率の推移(人口10万対)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

わが国のがん対策のあゆみ

1962年 国立がんセンター設立

1963年 がん研究助成金制度開始(厚生省・文部省)

1966年 胃がん検診が国庫補助対象となる

1967年 子宮がん検診が国庫補助対象となる

1981年 がん(悪性新生物)が死因の第1位となる

1983年 老人保健法による自治体がん検診体制発足

(胃がん・子宮がん・肺がん・乳がん・大腸がん)

1984年 「対がん10ヵ年総合戦略」:がんの本態解明

1994年 「がん克服新10ヵ年戦略」:がんの克服

1998年 老保法によるがん検診が一般財源化

2004年 「第3次対がん10ヵ年総合戦略」:がん医療の均てん化

2005年 がん対策推進本部設置(本部長:厚労大臣)

2006年6月 「がん対策基本法」成立

2007年4月 同法施行

2007年6月 「がん対策推進基本計画」策定

あさひかわ緩和ケア講座 2013

要旨

がんは国民の最大の死因で、国民生活に重大な問題となっている。その対策について、国や地方自治体、医療関係者や国民の責任を明らかにして、みんなでがん対策をしていきましょう!

2006年6月成立 2007年4月施行

がん対策にあたっての道筋を示した法律⇒理念法

がん対策基本法

あさひかわ緩和ケア講座 2013

がん対策基本法

• 患者側の求め–抗がん薬剤の早期承認–がん医療の均霑化※

–医療者のコミュニケーション改善

–現患者の痛み等の苦痛軽減

がん対策推進協議会に患者代表が参加して患者の意向が色濃く反映された

※生けるものが等しく雨露の恩恵を得るように各人が平等に利益を得ること

あさひかわ緩和ケア講座 2013

がん対策推進基本計画

「重点的に取り組むべき課題」

放射線療法及び化学療法の推進

(これらを専門的に行う医師等の育成)

治療の初期段階からの緩和ケアの実施

(がん登録の推進)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

ホスピスマインド

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

考えたことがありますか?

• トイレに行けない→尿道バルーン– 排泄物を見られる恥ずかしさ、あきらめ

– 自分のことができなくなった喪失感

• 食べれない→点滴– 人工的に生かされている違和感

– もう家に帰れないのではという不安

これらを慮ること→ホスピスマインドおもんばか

ホスピスマインド

あさひかわ緩和ケア講座 2013

その患者にとって何が最善か。このような理性的判断を激烈に試

される機会は、がんの患者が大量に致命的な出血を来たした時であ

る。誰もがこれまでの訓練と直感により、「すぐ止血しなければ!」と

慌ただしくする衝動にかられる。

しかし、今は止血できたとしてもすぐに再出血を来たし死にいたる

であろう。一瞬でも自分に問いかける時間を持てたのなら、患者が

最も必要としているのは、誰かすがりつける人が欲しいことであるこ

とがわかるだろう。

いくつかの英国の病院ではこのような時のために手近な戸棚に大

きめの真っ赤な毛布を備えている。この毛布は血液の色を目立たな

くし、患者の恐怖感を減らすためのものである。そうして誰かが患者

の傍によりそっていることであろう。季羽倭文子訳「死の看護」

ホスピスマインド「赤い毛布」

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアは終末期ケアである!?

• 人がもっとも苦痛なこととはなにか?

→死を前にして、自己存在が問われ、寄る辺のなさを感じているときではないだろうか

• 死の前には、それゆえに「生」の本質も見え隠れするのではないか

→終末期ケアの場が、ケアの本質をついていることは必然である

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアは終末期ケアである!?

だから、

• 歴史的にも緩和ケアは終末期ケアが始まり

• しかし、それゆえにケアの本質がある

• その思想は、ケア全体に影響を与える

あさひかわ緩和ケア講座 2013

Q.一番重要なのは“寄りそう”こと?これからどう考えて医療をしていったらいいのでしょう?

• この質問からは今の医療者が抱えている葛藤の重要な部分が見いだせます。医療技術が発達し、病気に対して遺伝子といったミクロな部分まで解明が進み、それに伴い病気に対して医療者が使える選択肢は格段に増えました。その中でどの選択肢がいいのかを選び取るためにエビデンス・ベイスド・メディスンEBMという考え方も広がりました。しかし、その反面「病をみて人をみず」といった揶揄に代表されるように患者を個々の人生を歩んできた人間としてみることがおざなりになっていました。むろん、医療者自身もこの現状に違和感を持たなかったわけではありません。全人的医療とか患者中心医療、ナラティブ・ベイスド・メディスンとかいう流れはこういった反動であろうと思います。こうした大きな考え方の“振れ”の怖いところは、片一方に対してのアンチとなるところです。つまり「患者中心であるべきだ!」と思っている人は、医療者の目線からの見解などに過度な嫌悪感を抱いてしまったりします。場合によってはそれがチーム内(特に職種間)での無用な対立を生むこともあります。たしかに人間を臓器の集合体のようにしか見なさないような医療はよくないでしょう。しかし、病気の診断や治療が進んだのはある意味身体をシステムとして見てきたからでもあります。つまり、医療技術的な見方も、患者に寄り添うこともどっちも大事なのです。何を考えておいたほうがいいかの答えとしては、こういうちょっと余裕のあるものの見方であると思います。まずはいろいろな考え方、価値観を吸収してください。

あさひかわ緩和ケア講座 2010

Take Home Message!

緩和ケアは、もともと終末期ケアから出でたが、より包含的な分野となっている

死を医療以外の視点からも捉え、ひとりひとりの死の過程(dying)を尊重できる社会を創っていく必要がある

患者の療養を支えるには、十分練られた地域ケアのネットワーク構築が必須である

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あさひかわ緩和ケア講座 2010

Take Home Message!

患者の死は遺族にとって大きな苦痛となるため、ケアが必要である

各職種の立場を理解し、チームで医療を行うことが重要である

がん医療は緩和ケアを取り入れて包括的に行われるべきであり、近年は法的にも支持されている

あさひかわ緩和ケア講座 2013

補足資料

緩和ケアチーム/緩和ケア病棟

-要件と現状-

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアチーム

専門病棟を持たず、一般病棟の中で緩和ケアの専門的なコンサルテーションを行う多職種によるチーム

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア医(身体症状の緩和)、精神科医(精神症状の緩和)、看護師、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカー、栄養士、チャプレン、ボランティアなど

患者・家族

主治医看護師

在宅ケアホスピス

緩和ケアチーム

チームメンバー

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアチームの必要性

一般病棟での緩和ケア推進が必要!

がんによる死亡年間33万人

緩和ケア病棟

4%

一般病棟

90%以上

在宅

数%

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアチームのメリット

① 早期からの緩和ケアの導入

がんの診断時・治療中から早期の関わりが可能となる(WHOも早期からの導入を提案)

② 緩和ケアの啓蒙・教育

医師や看護師等のスタッフに対して。若い看護師や研修医、医学生や看護学生に対しての啓蒙は特に重要

③ 適切な療養場所の選定

一般病院での在院日数の短縮化に対応し、在宅やホスピスへの移行が具体的に進む

④ 一般病棟での緩和ケアの提供

今まではホスピス・緩和ケア病棟に限られていた緩和ケア支援の裾野が拡がる

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアチームの基準

緩和ケア医:身体症状の緩和を担当する常勤医師悪性腫瘍またはAIDSの患者を対象とした症状緩和治療を3年以上経験

精神科医:精神症状の緩和を担当する常勤医師精神腫瘍学に長け、がん専門病院もしくは一般病院で3年以上従事

いずれか一方が専従であること(一方は専任でよい)

看護師:緩和ケアチームに専従する悪性腫瘍患者の看護に5年以上従事した経験を有し、緩和ケア病棟等における研修を終了している者(がん看護専門看護師・緩和ケア認定看護師・がん性疼痛認定看護師)

薬剤師:専任でよい緩和ケアの経験を有する薬剤師、緩和ケアに関して専任でも構わない

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケアチームの基準

① 医療機能評価を受けている施設であること

② 前述の3名以上から構成されるチームがあること

③ 定期的にカンファレンスを開催すること

④ 病院組織上緩和ケアチームが明確化していること

⑤ 緩和ケアチームについて掲示等の情報提供があること

緩和ケア診療加算:1日につき、患者1人あたり400点

※~2007:250点、2008~:300点、2010~:400点

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア診療加算届出施設(緩和ケアチーム)

2012年10月1日現在 全国で168施設(北海道は7施設)

日本ホスピス緩和ケア協会HPより引用

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア病棟

苦痛の緩和を必要とする悪性腫瘍患者・AIDS患者を入院させ、外来や在宅への円滑な移行を支援する病棟

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア病棟承認施設

日本ホスピス緩和ケア協会HPより引用

2012年11月1日現在 全国で257施設、5101病床

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア病棟承認施設

ちなみに北海道では、

○KKR札幌医療センター(豊平区) ○恵佑会札幌病院(白石区)

○札幌ひばりが丘病院(厚別区) ○札幌南青洲病院(清田区)

○勤医協中央病院(東区) ○東札幌病院(白石区)

○清田病院(清田区) ○札幌厚生病院(中央区)

○札幌共立五輪橋病院(南区) ○函館おしま病院(函館)

○森病院(函館) ○洞爺温泉病院(洞爺)

○日鋼記念病院(室蘭) ○旭川厚生病院(旭川)

の14施設

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア病棟入院料の施設基準

• 主として苦痛の緩和を必要とする悪性腫瘍患者又はAIDSに罹患している患者を入院 させ、外来や在宅への円滑な移行を支援する病棟

• 「がん緩和ケアに関するマニュアル」を参考にする• 地域の在宅医療を担う機関との連携• 連携している患者に対し、24時間連絡を受ける体制• 7:1以上の看護体制、夜勤看護師の複数配置• 担当常勤医師を1名以上配置• 医療機能評価を受けている• 連携保険医療機関の医師・看護師等に対しての研修を実施• 病棟床面積は患者1人につき30平方メートル以上、 病室床面積は患

者1人につき8平方メートル以上• 患者家族の控え室、患者専用の台所、面談室、談話室の設置• 全室個室であって差し支えないが、特別室は5割以下• 入退棟に関する基準作成と判定が行われている• 患者向けの案内作成、患者・家族に対する説明義務

• 主として苦痛の緩和を必要とする悪性腫瘍患者又はAIDSに罹患している患者を入院 させ、外来や在宅への円滑な移行を支援する病棟

• 「がん緩和ケアに関するマニュアル」を参考にする• 地域の在宅医療を担う機関との連携• 連携している患者に対し、24時間連絡を受ける体制• 7:1以上の看護体制、夜勤看護師の複数配置• 担当常勤医師を1名以上配置• 医療機能評価を受けている• 連携保険医療機関の医師・看護師等に対しての研修を実施• 病棟床面積は患者1人につき30平方メートル以上、 病室床面積は患

者1人につき8平方メートル以上• 患者家族の控え室、患者専用の台所、面談室、談話室の設置• 全室個室であって差し支えないが、特別室は5割以下• 入退棟に関する基準作成と判定が行われている• 患者向けの案内作成、患者・家族に対する説明義務

都道府県知事への届出により開設

あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア病棟入院料(1日につき)

• ~2012年:一律3,780点

• 2012年から

– 30日以内:4791点

– 31-60日:4,291点

– 61日以上:3,291点

• なお、別途食事療養費として、概ね2,000円が病院の収入となる

あさひかわ緩和ケア講座 2013

参考文献

• 恒藤 暁著:最新緩和医療学. 最新医学社. 1999.• 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団:ホスピス・緩和ケアに関する意識調査. 2006.• 柏木哲夫ほか著:緩和ケアマニュアル-ターミナルケアマニュアル改訂第4版-. 最新医学

社. 2001.• がん末期医療に関するケアのマニュアル改訂委員会編:がん緩和ケアに関するマニュアル.

2005.• 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団:ホスピス緩和ケア白書2007. 2007.• 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団:ホスピス緩和ケア白書2008. 2008.• 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団:ホスピス緩和ケア白書2009. 2009.• 大学病院の緩和ケアを考える会編:臨床緩和ケア. 青海社. 2004.• 終末期医療に関する調査等検討会編:今後の終末期医療の在り方. 中央法規. 2005.• 木澤義之ほか訳:EPEC-O Participant’s Handbook. 日本緩和医療学会教育研修

委員会. 2006.• Derek Doyle, et al.:Oxford Textbook of Palliative Medicine third

edition. Oxford university press. 2004.• 内富庸介監訳:緩和医療における精神医学ハンドブック. 星和書店 2001.• 恒藤 暁、内布 敦子編:系統看護学講座 緩和ケア. 医学書院. 2007.• 小川朝生、内富庸介編:精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版.2009.