「第35回北里腫瘍フォーラム みんなで緩和ケア」...

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21 北里医学 2019; 49: 21-24 Received 11 November 2018, accepted 14 December 2018 連絡先: 菊池(北里大学病栄養) 252-0375 神奈川県相模原市南区北里1-15-1 E-mail: [email protected] 「第35回北里腫瘍フォーラム: みんなで緩和ケア」 緩和ケアの視点で取り組む食事・栄養サポート 菊池 北里大学病栄養治療の栄養ートは,病期や治療に応て治療開から終続的に行とが必要とされ,特に経口QOLつたに重である。ではが治療栄養 ートとして,nutirition support team (NST) 栄養を行っており,緩和ケアチー ムにもしている。2018では,緩和ケアしている腫瘍について別栄養管理算」が認られ,緩和ケアチームでした症11%の対となった。 からことを重し,緩和ケアチーム 管理栄養士がいるからこ栄養ートをしていきたい。 Key words: 栄養ート,別栄養管理緩和ケアチーム はじめに 近年,が治療にお栄養管理の重性が認れつつある。がにとって体重減少やの減少がQOLする子となる 1 ,が治療の から終で,病期や治療方法に応て連続的 に行う適切栄養ートは重といる。 治療において,栄養状態の評価き低栄養 状態にっている,あるいはるリスいと判断 された合には的な栄養することなど ラインに示されている 2 栄養経口 は特にQOL持するたに重で,患自身が 々行るが治療のとつとも考えられる。 におるがに対する栄養ートの把握するたに,20162017栄養談件緩和ケアチームでの別栄養管理算件などを きに調した。 当院のがん治療患者の栄養サポート 1. Nutirition support team (NST) 栄養ートは,主に病NSTってお り,栄養管理に関する々なを多種によるチー ムで解決にあたる。でも,が治療経口に関する管理栄養士が対応することが多く, 化学療放射副作用として生内炎,障害などに対して,する栄養補給方法している。このよに,は医療側からの栄養ートが可能であ る一,外来は患自身にされる。は,外来化学療時の栄養ートを行く,2017 年から治療でのNSTを開している。 2. 栄養相談 栄養ートのとつに栄養(以下,) があり,医から示があった合はとして栄養導料可能である。2016では,この(腫瘍) された。これでに栄養導料が認られていた特は,臓病糖尿臓病など多にわたるものの,が治療に関する導料算は主に管手術後以外は認られていな かった。つり,化学療放射以外 手術などに伴う食欲や体重減少,栄養障害に対 して栄養を行った合でもができない状あったが,からもが栄養ートの 性が認られたと考える。でのがに対

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 講  座 北里医学 2019; 49: 21-24 

Received 11 November 2018, accepted 14 December 2018連絡先: 菊池奈穂子 (北里大学病院栄養部)〒252-0375 神奈川県相模原市南区北里1-15-1E-mail: [email protected]

「第35回北里腫瘍フォーラム: みんなで緩和ケア」

緩和ケアの視点で取り組む食事・栄養サポート

菊池 奈穂子

北里大学病院栄養部

 がん治療の栄養サポートは,病期や治療に応じて治療開始から終末期まで継続的に行うこ

とが必要とされ,特に経口摂取はQOLを保つために重要である。当院ではがん治療中の栄養

サポートとして,nutirition support team (NST) 活動や栄養相談を行っており,緩和ケアチー

ムにも参加している。2018年度の診療報酬改訂では,緩和ケア診療加算を算定している悪性

腫瘍患者について「個別栄養食事管理加算」の追加が認められ,当院緩和ケアチームで介入

した症例のうち11%がその対象となった。“口から食べる”ことを尊重し,緩和ケアチーム

に管理栄養士がいるからこその栄養サポートを実践していきたい。

Key words: 栄養サポート,個別栄養食事管理加算,緩和ケアチーム

はじめに

 近年,がん治療における栄養管理の重要性が認識さ

れつつある。がん患者にとって体重減少や食事摂取量

の減少がQOLを規定する因子となる1ため,がん治療の

開始から終末期まで,病期や治療方法に応じて連続的

に行う適切な栄養サポートは重要といえる。

 がん治療において,栄養状態の評価に基づき低栄養

状態に陥っている,あるいは陥るリスクが高いと判断

された場合には積極的な栄養療法を実施することなど

がガイドラインに示されている2。栄養療法のうち経口

摂取は特にQOLを維持するために重要で,患者自身が

日々行えるがん治療のひとつとも考えられる。

方  法

 当院におけるがん患者に対する栄養サポートの実態

を把握するために,2016,2017年度の栄養相談件数,

緩和ケアチームでの個別栄養食事管理加算件数などを

後ろ向きに調査した。

当院のがん治療患者の栄養サポート

1. Nutirition support team (NST) 入院中の栄養サポートは,主に病棟NSTが担ってお

り,栄養管理に関する様々な課題を多職種によるチー

ムで解決にあたる。その中でも,がん治療中の経口摂

取に関する問題は管理栄養士が対応することが多く,

化学療法や放射線療法の副作用として生じる食思不

振,口内炎,味覚障害などに対して,提供する食事内

容の工夫や栄養補給方法を提案している。このよう

に,入院中は医療者側からの栄養サポートが可能であ

る一方,外来通院中は患者自身に任される。当院で

は,外来化学療法時の栄養サポートを行うべく,2017

年から通院治療室でのNST活動を開始している。

2. 栄養相談 栄養サポートのひとつに個人栄養食事指導 (以下,栄

養相談) があり,医師から指示があった場合は診療報酬

として個人栄養食事指導料が算定可能である。2016年

度の診療報酬改訂では,この算定対象に癌 (悪性腫瘍)

が追加された。これまでに個人栄養食事指導料の算定

が認められていた特別食は,腎臓病食,糖尿病食,心

臓病食など多岐にわたるものの,がん治療に関する指

導料算定は主に消化管手術後以外は認められていな

かった。つまり,化学療法,放射線療法,消化管以外

の手術などに伴う食欲不振や体重減少,栄養障害に対

して栄養相談を行った場合でも算定ができない状況で

あったが,診療報酬改訂からもがんの栄養サポートの

重要性が認められたと考える。当院でのがん患者に対

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菊池 奈穂子

図1. 栄養相談の内訳 (2016年度,2017年度)

図2. がんに対する栄養相談件数 (2016年度,2017年度)

図3. 食事調整の例 (上)/個別栄養食事管理加算対象例の食事調整の内容 (下)

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「第35回北里腫瘍フォーラム: みんなで緩和ケア」緩和ケアの視点で取り組む食事・栄養サポート

図4. 食事調整の実例① 体重維持,栄養状態改善のため経口摂取量の確保を図った例

図5. 食事調整の実例② QOLを考慮し本人の希望を取り入れた食事調整の例

する栄養相談は,栄養相談全体の件数からみると数%

にとどまるが (図1),通院治療室NSTの一環で栄養指導

を開始したことも影響し,相談件数は増加している (図

2)。

緩和ケアチームでの管理栄養士の活動

 当院では2014年9月より,緩和ケアチームに管理栄

養士が参加して栄養サポートの役割を担ってきた。

2016年度にがんが個人栄養指導料の算定対象になった

ことに続き,2018年度診療報酬改訂においては,緩和

ケア診療加算 (1日につき390点) に「個別栄養食事管理

加算 (1日につき70点)」が追加された。この加算は,緩

和ケア診療加算を算定している悪性腫瘍患者につい

て,緩和ケアチームに管理栄養士が参加し,患者の症

状や希望に応じた栄養食事管理を行うことが要件とさ

れる。がん患者の栄養サポート,特に緩和治療におけ

る栄養管理の必要性が認識されるようなってきたこと

がうかがえる。

 2018年4月から8月前半の期間に「個別栄養食事管理

加算」の算定対象となった症例は,緩和ケアチームが

介入した102例のうち,管理栄養士が食事提供内容を

患者の希望に応じて調整した11例であった。算定対象

となる患者は,管理栄養士が直接患者の希望を聞き

取ったうえで食事調整を行った場合に限っているが (図

3〜5),介入時7割の患者は何らかの食事が提供されて

いたため,今後はより積極的な介入を図ることで算定

対象の拡充は可能と思われる。

 積極的治療を行っている場合は,栄養状態を維持・

改善させることに主眼をおいた栄養サポートが必要と

なるため,栄養量を確保するための食事調整が必要と

なる。一方,緩和治療が中心となる時期には,栄養状

態の維持・改善は目標にせず,QOLの維持を中心に考

えるため,可能な限り患者の嗜好や希望に配慮した食

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事を提供する必要性が高くなる。入院中に行う経口摂

取のサポートは,患者個々の食べることへの価値観や

食習慣,嗜好などへの配慮が必要となり,大規模な病

院で行う給食管理の範囲では困難な事例に多々直面す

るため,緩和ケアの視点からよりきめ細かな対応をす

るための課題は多いと考える。

ま と め

 がんの緩和ケアは治療開始とともに開始されること

が望ましいとされる。緩和ケアと同様に,栄養サポー

トも治療開始とともに必要である。医療者側からの一

方的な栄養管理ではなく,患者自身の“口から食べ

菊池 奈穂子

る”ことを尊重し,緩和ケアチームに管理栄養士がい

るからこその栄養サポートを実践していきたい。

利益相反

 本論文内容に関する著者の利益相反: なし

文  献

1. Ravasco P, Monteiro-Grillo I, Vidal PM, et al. Cancer: disease andnutrition are key determinants of patients' quality of life. SupportCare Cancer 2004; 12: 246-52.

2.日本静脈経腸栄養学会. PART IV 成人の病態別栄養管理 がん緩和医療. 静脈経腸栄養ガイドライン第3版,日本静脈経腸栄養学会編,照林社,東京,2013,p.344-51.