第2015-07号 ictを活用した橋梁の維持管理技術の 国際展開 …第2015-07号...

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2015-07ICTを活用した橋梁の維持管理技術の 国際展開に関する研究 平成298京都大学経営管理大学院 小林潔司 田村敬一

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  • 第2015-07号

    ICTを活用した橋梁の維持管理技術の 国際展開に関する研究

    平成29年8月

    京都大学経営管理大学院

    小林潔司

    田村敬一

  • 目 次

    1. はじめに ............................................................................................................. 1

    2. 計測対象橋梁の選定 ......................................................................................... 1

    2.1 対象橋梁の選定 ............................................................................................. 1

    2.2 計測対象橋梁 ................................................................................................. 2

    3. 橋梁の三次元モデルの作成 ............................................................................. 5

    3.1 計測機器........................................................................................................ 5

    3.2 計測結果........................................................................................................ 7

    3.3 三次元モデルの特徴 .................................................................................... 10

    4. 三次元による橋梁の損傷計測と記録 ............................................................ 11

    4.1 計測機器...................................................................................................... 11

    4.2 計測結果...................................................................................................... 11

    4.3 三次元による損傷把握の特徴 ....................................................................... 13

    5. 橋梁の遠隔診断システムの開発 .................................................................... 14

    5.1 システム開発の概要 .................................................................................... 14

    5.2 システム要件の検討 .................................................................................... 14

    5.3 システム設計 ............................................................................................... 16

    6. 橋梁の遠隔診断プロトコルの作成及びデモンストレーション ................. 20

    6.1 遠隔診断の手順 ........................................................................................... 20

    6.2 遠隔診断プロトコルの作成 .......................................................................... 21

    6.3 遠隔診断のデモンストレーション ................................................................ 23

    7. おわりに ........................................................................................................... 26

  • - 1 -

    ICTを活用した橋梁の維持管理技術の国際展開に関する研究

    京都大学経営管理大学院経営研究センター長・教授 小林潔司

    京都大学経営管理大学院特命教授 田村敬一

    1.はじめに

    現在、先進国のみならず開発途上国においても、橋梁等の社会インフラの維持管理が重

    要な課題となっている。特に、開発途上国では、維持管理の最も基礎となる橋梁等のデー

    タの整備が不十分であるとともに、構造物の点検・診断を行う専門技術者が不足している。

    また、先進国に比較して社会インフラの新規整備が積極的に行われている開発途上国では、

    今後、維持管理すべき社会インフラが急速に増加し、現在の状態のままでは事態が一層深

    刻化することが懸念されている。さらに、構造物の診断を行うためには、近接目視点検が

    有効な手段であることは論を待たないが、専門技術者を先進国より派遣し、現地にて点

    検・診断を行うことには限界があることは自明である。

    以上のような背景を踏まえ、本研究は、開発途上国における橋梁の維持管理技術の向上

    に資することを目的とし、情報通信技術を活用し、橋梁の状態を三次元モデル化した上で、

    インターネットを介して同モデルを共有し、我が国の専門技術者による橋梁の遠隔診断を

    行うためのシステム開発を行うものである。

    2.計測対象橋梁の選定

    2.1 対象橋梁の選定 本研究においてはベトナムを対象国とした。これは、次の理由により、短期間で着実に

    研究を実施することが可能なことによるものである。①京都大学ではすでに10年以上にわ

    たりハノイ交通通信大学と研究連携関係を築いており、現地における協力体制が確立して

    いて、短期間で調査や計測を実施することが可能。②さらに、同大学を通じてベトナム交

    通省の支援を得ることが可能。対象橋梁は、ベトナムのハノイ郊外における橋梁から次の

    条件を考慮して選定した。

    ①構造形式は複数径間を有する桁橋

    ②コンクリート橋と鋼橋の2種類

    ③損傷の多い橋梁が望ましい

    表2-1には計測対象の候補橋梁と評価結果を示す。

  • Mai Lin

    RONG

    TAY B

    COI Br

    XUÂN

    SUỐI H

    ĐÔNG

    TRÀNG

    選定に

    性等を考

    Bridgeと

    2.2 計測

    2.2.1 R 表2-2

    橋梁名

    nh Bridge

    DAI Bridge

    Bridge

    ridge

    MAI Bridg

    H Bridge

    HỘI Bridge

    G Bridge

    に当たって

    考慮し、コ

    とした。図2

    測対象橋梁

    ONG DAI B2に橋梁諸元

    形式

    Co橋

    e Co橋

    Co橋

    Co橋

    e 鋼橋

    鋼橋

    e 鋼橋

    鋼橋

    は、橋梁の

    コンクリー

    2-1にはこれ

    Bridge 元、図2-2に

    表 2-1 計測

    橋長

    (m)

    170.270

    59.000

    41.100

    30.100

    78.000

    48.850

    32.500

    の規模、構造

    ト橋につい

    れら2橋の位

    図2-1 計

    に橋梁一般図

    - 2 -

    測対象候補橋

    径間

    数 損

    5 ○

    3 ○

    1 △

    1 ×

    3 △

    4 ○

    3 ○

    3 ○

    造形式、損傷

    いてはRONG

    位置を示す。

    計測対象橋梁

    図、図2-3に

    橋梁の一覧

    傷桁下

    進入

    ○ ○

    ○ ○

    △ ×

    × ○

    △ ○

    ○ ○

    ○ ×

    ○ ×

    傷の状況、

    G DAI Brid

    梁の位置

    に対象橋梁の

    評価

    橋梁

    規模

    ○ 特殊

    ○ Co橋

    △ 1径

    × 1径

    ○ 部材

    ○ 鋼橋

    × 支間

    △ 支間

    桁下への進

    dge、鋼橋に

    の写真を示す

    特記事項

    殊な橋梁形

    橋の対象

    径間

    径間

    材数が多い

    橋の対象

    間長が短い

    間長が長い

    進入などに伴

    については

    す。

    伴う作業

    SUỐI H

  • 表2-2 計

    橋梁名

    橋長

    総幅員

    供用開始

    計測対象とす

    RONG D

    59.000 m

    12.800 m

    1979 年

    図2

    図2-3 R

    - 3 -

    するコンク

    DAI Bridge

    m 径間

    m 主桁

    供用

    2-2 橋梁一般

    RONG DAI

    リート橋の

    間数 3

    桁本数 6

    用年数 3

    般図

    Bridge

    橋梁諸元

    3

    6

    37 年

  • 2.2.2 S 表2-3

    UỐI H Brid3に橋梁諸元

    ge 元、図2-4に

    表2

    橋梁名

    橋長

    総幅員

    供用開始

    に橋梁一般図

    2-3 計測対

    SUỐI H

    48.850 m

    5.500 m

    不明

    図2

    図2-5

    - 4 -

    図、図2-5に

    象とする鋼

    H Bridge

    m 径間

    m 主桁

    供用

    2-4 橋梁一般

    5 SUỐI H B

    に対象橋梁の

    鋼橋の橋梁諸

    間数 4

    桁本数 8

    用年数 不

    般図

    Bridge

    の写真を示す

    諸元

    4

    8

    不明

    す。

  • - 5 -

    3.橋梁の三次元モデルの作成

    3.1 計測機器 橋梁の三次元計測には、2種類の機材を使用した。三次元計測では、まず、地上式レー

    ザスキャナを用いて、点群データを取得した。次に、ノンプリズムトータルステーション

    を用いて、前述の点群データから構成される三次元モデルを補正することとした。

    3.1.1 地上式レーザスキャナ

    本計測で用いた地上式レーザスキャナの仕様は、表3-1に示すとおりである。

    表3-1 地上式レーザスキャナの仕様

  • - 6 -

    3.1.2 ノンプリズムトータルステーション

    本計測では、表3-2に示すノンプリズムトータルステーションのうちOS-105を使用した。

    表3-2 ノンプリズムトータルステーションの仕様

  • 3.2 計測

    3.2.1 R 計測に

    図3-1地点は1

    も同一の

    測結果

    ONG DAI Bに関する情

    地上式レー

    ノンプリズ

    取得した点

    橋梁の概算

    1は計測器の19箇所であ

    の19箇所で

    Bridge 報を表3-3に

    ザスキャナ

    ムトータル

    群数(総点

    点群数

    の設置地点

    る。また、

    ある。

    に示す。

    ナの設置箇所

    ルステーショ

    点群数)

    を示したも

    補正用のノ

    図3-1

    - 7 -

    3-3 計測情

    ョンの設置箇

    ものである。

    ノンプリズム

    計測器の設

    情報

    箇所

    地上式レー

    ムトータル

    設置地点

    19箇所

    19箇所

    12,698万

    5,476万点

    ーザスキャ

    ステーショ

    ナを設置し

    ョンを設置し

    した計測

    した地点

  • 作成し

    した三次元モデルを図

    図3

    図3-2に示す

    -2 RONG D

    - 8 -

    DAI Bridgeのの三次元モデデル

  • 3.2.2 S 計測に

    図3-3地点は2

    は18箇所

    を用いて

    流出した

    できなか

    を用いて

    ためのみ

    UỐI H Bridに関する情

    地上式レー

    ノンプリズ

    取得した点

    橋梁の概算

    3は計測器の22箇所であ

    所である。

    て計測する

    たことによ

    かった地点

    てシェープ

    みに用意し

    ge 報を表3-4に

    ザスキャナ

    ムトータル

    群数(総点

    点群数

    の設置地点

    る。また、

    計測地点数

    前に、降雨

    る。そのた

    点が6点存在

    プマッチング

    た測点であ

    に示す。

    ナの設置箇所

    ルステーショ

    点群数)

    を示したも

    補正用のノ

    数が同一では

    雨により現場

    ため、ノンプ

    した。これ

    グで合成を行

    あり、地上式

    図3-3

    - 9 -

    3-4 計測情

    ョンの設置箇

    ものである。

    ノンプリズム

    はない理由は

    場の河川が増

    プリズムトー

    れらの箇所に

    行った。図

    式レーザスキ

    計測器の設

    情報

    箇所

    地上式レー

    ムトータル

    は、ノンプ

    増水し、地

    ータルステ

    については

    3-3中の紫色キャナは設

    設置地点

    22箇所

    18箇所

    13,349万

    4,957万点

    ーザスキャ

    ステーショ

    リズムトー

    上式レーザ

    ーションを

    、後処理ソ

    色三角印は

    置していな

    ナを設置し

    ョンを設置し

    ータルステー

    ザスキャナの

    を用いて座標

    ソフト(Sca

    は、座標付け

    ない箇所であ

    した計測

    した箇所

    ーション

    の測点が

    標付けが

    anMaster)

    けを行う

    ある。

  • 作成し

    3.3 三次

    対象物

    ることが

    した三次元

    次元モデル

    物から一定

    がわかる。

    モデルを図

    の特徴

    の距離をお

    ただし、色

    図3-4に示す

    図3-4 SUỐI H

    おけば、レー

    色彩のデータ

    - 10 -

    H Bridgeの三

    ーザスキャナ

    タは、天候の

    三次元モデ

    ナによる三

    の影響を受

    次元モデル

    け、例えば

    ルは写真と同

    ば、快晴時に

    同等であ

    には太陽

  • 光線の方

    注意が必

    4.三次

    4.1 計測

    三次元

    105を使

    4.2 計測

    4.2.1 R 計測情

    図4-1

    ョンを用

    方向と計測

    必要である

    次元による

    測機器

    元による既

    使用した。

    測結果

    ONG DAI B情報の総括

    ノンプ

    損傷の

    1は、地上式

    用いた損傷

    の方向によ

    橋梁の損傷

    既設橋梁の損

    Bridge を表4-1に示

    プリズムトー

    の種類

    式レーザス

    状況の計測

    よって計測デ

    傷計測と記録

    損傷計測・記

    示す。

    表4-1

    ータルステ

    キャナを用

    測地点を赤色

    図4-1

    - 11 -

    データにハ

    記録には、

    計測情報の

    ーションの

    クラ

    鉄筋

    用いた計測地

    色三角印で追

    計測器の設

    レーション

    ノンプリズ

    の総括

    の設置地点

    ラック

    筋露出

    地点に、ノ

    追記したも

    設置地点

    が発生する

    ズムトータル

    4地点

    8箇所

    1箇所

    ンプリズム

    のである。

    る場合もある

    ルステーシ

    ムトータルス

    るため、

    ョンOS-

    ステーシ

  • 図4-2

    4.2.2 S 計測情

    ったが、

    テーシ

    図4-3

    ョンを用

    2は、橋梁の

    UỐI H Brid情報の総括

    、路面の損

    ョンを用い

    ノンプ

    損傷の

    3は、地上式

    用いた損傷

    の三次元モデ

    図4-2

    ge 括を表4-2に示傷が著しか

    て計測した

    プリズムトー

    の種類

    式レーザス

    状況の計測

    デルに損傷

    橋梁の三次

    示す。本橋

    かった。その

    た。

    表4-2

    ータルステ

    キャナを用

    測地点を赤色

    - 12 -

    データの計

    次元モデル

    橋では、主桁

    のため、路面

    計測情報の

    ーションの

    クラ

    用いた計測地

    色三角印で追

    計測結果を重

    と損傷の重

    桁や下部工

    面の損傷状

    の総括

    の設置地点

    ラック

    地点に、ノ

    追記したも

    重ね合わせた

    ね書き

    については

    況をノンプ

    4地点

    32箇所

    ンプリズム

    のである。

    たものであ

    は顕著な損傷

    プリズムトー

    ムトータルス

    る。

    傷はなか

    ータルス

    ステーシ

  • 図4-4

    4.3 三次 RONG

    両方で確

    材料の一

    点群デ

    接してみ

    イズを変

    4は、橋梁の

    次元による損

    G DAI Brid

    確認された

    一つとなり

    データにク

    みる際、熟

    変更するこ

    の三次元モデ

    図4-4

    損傷把握の

    dgeでは、主

    。この計測

    、有益な成

    ラックを表

    練者でなけ

    とで、視認

    図4-3

    デルに損傷

    橋梁の三次

    の特徴 主桁に発生し

    測結果は、損

    成果となった

    表現したベク

    ければ視認性

    認性を向上さ

    - 13 -

    計測器の設

    データの計

    次元モデル

    している損傷

    損傷が内部で

    た(図4-5参クトルデータ

    性が低下する

    させることな

    設置地点

    計測結果を重

    と損傷の重

    傷(クラッ

    でつながっ

    参照)。

    タを重ねた

    る。解決策

    などが考え

    重ね合わせた

    ね書き

    ク)が、上

    ていること

    三次元モデ

    としては点

    られる。

    たものであ

    上流側及び下

    とが想定され

    デルについて

    点群データの

    る。

    下流側の

    れる判断

    ては、近

    の表示サ

  • 5.橋梁

    5.1 シス

    3.及

    回線を介

    ットマネ

    梁の損傷

    とする。

    な操作に

    ソフトウ

    5.2 シス

    三次元

    っては、

    態を示す

    5.2.1 シ

    本シス

    ・三次元

    かのよ

    況を三

    ・損傷の

    及び剥

    図4-5

    梁の遠隔診

    ステム開発

    及び4.で

    介し、橋梁

    ネジメント

    傷把握及び

    。遠隔診断

    に加え、三

    ウェア、動

    ステム要件

    元モデルに

    、図面がな

    すモデルを

    システム要求

    ステムの要

    元モデルを

    ようにする

    三次元モデ

    の状態を把

    剥離」とし

    近接表示し

    断システム

    の概要

    作成した損

    の遠隔診断

    技術の高度

    三次元モデ

    システムで

    次元モデル

    作環境等に

    の検討

    おいて橋梁

    い橋梁を想

    重ね合わせ

    求定義の検

    求定義は以

    拡大・縮小

    とともに、

    ルの表示/

    握できるこ

    、以下の確

    した点群デー

    ムの開発

    損傷を含む既

    断を行うため

    度化に資する

    デルから遠隔

    では、三次元

    ル上への描画

    については今

    梁の健全度等

    想定し、三次

    せるものとし

    以下のとおり

    小・回転する

    三次元モ

    /非表示によ

    こと。対象と

    確認ができる

    - 14 -

    ータと損傷デ

    既設橋梁の三

    めのシステム

    ることを目的

    隔にて橋梁の

    元モデルの平

    画、レイヤー

    今後の拡張性

    等の状態把握

    次元的に橋梁

    した。

    りである。

    ることによ

    デルの特性

    より目視でき

    とする損傷は

    ること。

    データを重

    三次元モデ

    ムを作成し

    的として、

    の健全度評

    平行移動・

    ー表示等を

    性に留意し

    握に資する

    梁外形を示

    り、現場で

    性である実際

    きること。

    は、「路面

    ねた三次元

    ルを用いて

    た。本シス

    レーザー計

    価を行うこ

    回転、拡大

    可能とした

    た。

    機能を検討

    すモデルに

    実物の橋梁

    際には目視

    の損傷」、

    元モデル

    て、インター

    ステムは橋梁

    計測に基づく

    ことを支援す

    大・縮小等の

    た。また、使

    討した。検討

    に三次元的に

    梁を目視でき

    視できない背

    「部材のひ

    ーネット

    梁のアセ

    く既設橋

    するもの

    の基本的

    使用する

    討にあた

    に損傷状

    きている

    背後の状

    ひび割れ

  • - 15 -

    損傷の種類 確認事項 機能

    路面損傷 位置 三次元モデル制御機能

    写真 写真表示機能

    ひび割れ

    位置

    三次元モデル制御機能 方向

    本数

    写真 写真表示機能

    剥離 剥離面の位置 三次元モデル制御機能

    漏水など状態把握 写真表示機能

    ・点検調書や損傷写真の登録、確認ができるとともに履歴管理ができること。

    ・複数の利用者は、映像・音声・文章をリアルタイムに共有できること(テレビ会議のイ

    メージ)。

    ・三次元モデルの操作は操作制御権を所持している利用者が行い、操作制御権は他の利用

    者に譲渡することができること。

    5.2.2 システム運用基盤の検討

    本システムを運用する基盤の要件は以下のとおりとした。また、システム運用基盤のイ

    メージを図5-1に示す。

    ・異なる場所において情報共有するための通信基盤は、インターネットとする。

    ・三次元モデルは、データ容量が多く通信負荷が大きくなるため、三次元モデルとそれを

    制御するプログラムは、システム利用者の端末に予めインストールした状態として利

    用するものとする(システム操作のレスポンス向上のため)。

    ・システム利用者は、インターネットに接続可能な端末を用意することとする。また、そ

    の端末のOSは、Windows7及びWindows8とする。

    ・各システム利用者が、三次元モデルを操作した結果を共有するためには、その動きを同

    期 す る 必 要 が あ る 。 そ の 同 期 処 理 を 行 う た め に ラ イ セ ン ス 費 が 無 償 で あ る

    PhotonRealtime(ドイツExitGames社製:http://photoncloud.jp)のサービスを利用する。

  • - 16 -

    図5-1 システム運用基盤のイメージ

    5.2.3 ソフトウェアの検討

    システム要求定義より、本システムは三次元モデル制御機能とテレビ会議機能を有する

    必要がある。この2つの機能は独立して動作することで支障がないため、システムの拡張

    性に配慮し、三次元モデル制御機能とテレビ会議機能は別システムとして運用するものと

    した。

    (1) テレビ会議機能

    本システムにおけるテレビ会議機能は、要求定義から「複数の利用者は、映像・音声・

    文章をリアルタイムに共有できる」ことを満たす必要がある。このようなテレビ会議機能

    を有するシステムとしては、多くの製品が市場に提供されており、有償・無償のものがあ

    る。ここでは、普及率が高く無償の製品である「スカイプ」を採用した。

    (2) 三次元モデル制御機能

    三次元モデルを高速に制御するためのソフトウェアが必要となる。日本において比較的

    普及している三次元モデル制御ソフトウェアから、「三次元モデルの品質」と「機能のカ

    スタマイズ」に比較的優れ、一般的に普及率が高く利用者ライセンス料が無料である

    「Unity」を採用した。

    5.3 システム設計

    本システムでは、テレビ会議機能、三次元モデル制御機能及び損傷状態把握機能が必要

    となる。また、画面表示は英文表記とする。本システムの機能を表5-1に示すとともに、

    各機能の設計結果を示す。

    ・端末はWindows7,8・三次元モデルとその制御プログラ

    ムを予め端末側にインストール

    ・損傷等の写真も予め端末側にイ

    ンストール

    インターネット

    ・操作権のある利用者がモデル操作し

    た情報を受信

    ・受信した情報を同期処理

    ・他の利用者に同期結果を配信

    PhotonRealtimeサーバ

    進行役

    現地点検員

    診断者

  • - 17 -

    表5-1 システム機能一覧

    No. 機能名 概要 自動

    共有

    1 テレビ会議機能 スカイプの機能によりグループを設

    定し、同時に複数人の映像、音声を

    共有する。

    2

    三次元モデ

    ル制御機能

    拡大・縮小・回転

    機能

    三次元モデルを拡大、縮小、回転す

    る。操作可能なシステム利用者は、

    いずれか一人に限定し、三次元モデ

    ルの表示状態は、全システム利用者

    が共有する。

    3 レイヤー自動切替

    機能

    点群及び損傷三次元モデルのレイヤ

    ーを視点により自動にて表示・非表

    示を切り替える。 ○

    4 レイヤー手動切替

    機能

    点群及び損傷三次元モデルのレイヤ

    ーを手動により表示・非表示を切り

    替える。

    5 初期状態設定機能 橋梁全体を表示している状態を初期

    状態とし、三次元モデルを初期状態

    に戻す。 ○

    6 操作権取得機能 三次元モデルを操作する権限を取得

    する。操作権はいずれか一人とす

    る。 ○

    7 視点切替機能 三次元モデルの任意の視点を複数地

    点登録でき、その視点に切り替え

    る。 ○

    8 描画機能

    システム画面上に表示されている三

    次元モデルに対し、システム画面上

    (二次元上 )にマウスで描画する。描画した情報は全システム利用者が共

    有する。

    9 背景色切替機能 システム画面背景色を変更すること

    で点群データの視認性を向上させ

    る。

    10 点データサイズ切

    替機能 点群のサイズを変更することで点群

    データの視認性を向上させる。

    11 視野角変更機能 視点の視野角を変更することで点群

    データの視認性を向上させる。 ○

    12

    損傷状態把

    握機能

    写真表示機能 損傷箇所に対し、写真を関連付け

    る。写真貼付箇所をクリックすると

    別画面で写真を表示する。

    13 旗揚げ機能 損傷箇所に対し旗揚げによりその位

    置を表示する。

    14 点検調書表示機能 点検調書のPDFを履歴管理し、そのファイルを表示する機能

    ○:システム操作結果を他のシステム利用者が自動共有できる機能

  • - 18 -

    5.3.1 テレビ会議機能 本機能は、スカイプの機能に依存し、三次元モデル制御機能及び損傷状態把握機能とは

    独立したシステムとする。そのため、端末上には、2つのシステムが起動し、各システム

    を並列表示して利用するものとする。

    図5-2 システム全体画面

    5.3.2 三次元モデル制御機能 (1) 拡大・縮小・回転機能

    橋梁の部材と損傷の関係を三次元的に把握できるようにするために三次元モデルを制御す

    る機能を設計した。主な制御機能としては、三次元モデルの表示・拡大・縮小・回転とし

    た。

    図5-3 拡大・縮小・回転機能の例

    (2) レイヤー自動切替機能

    一般の点群データでは、手前の構造物の背後の点群も同時に視認されるため、実際に目

  • - 19 -

    視している環境を提供することは困難である。構造物の背後が視認される例を図5-4に示す。

    図5-4 構造物の背後が視認される例

    この問題を少しでも解消するために、点群データに対しレーザー計測機器を設置した地

    点を属性データとして付与し、視点により、物理的に視覚に入らない点群データのレイヤ

    ーの表示・非表示を切り替える機能を開発した。

    (3) レイヤー手動切替機能

    各レーザー計測位置により得られた点群データならびに各損傷の三次元モデルをレイヤ

    ー構成とし、手動により表示・非表示を切り替え可能とした。

    (4) 初期状態設定機能

    三次元モデルの制御中に初期状態へ戻す機能を作成した。

    (5) 操作権取得機能

    三次元モデルを操作するシステム利用者を一人とし、その操作権を複数の利用者へ移行

    する機能を作成した。

    (6) 視点切替機能

    三次元モデル上の任意視点を登録し、その視点へ移動する機能を構築した。登録した地

    点は、システム上でリスト化され、リストをクリックすることで当該視点へ自動的に移動

    する。

    (7) 描画機能

    損傷箇所などテレビ会議中に注視させたい場所を共有するためにシステム画面上に表示

    されている三次元モデルに対し、システム画面上(二次元上)にマウスで描画する。なお、

    描画した情報は全システム利用者が共有できるようにする。

    桁の反対側の水道管が視認される 桁の上から桁下の橋脚が視認される例

  • - 20 -

    (8) 背景色切替機能

    点群の各データには、計測時の色(RGB値)を属性情報として付加されている。画面

    の背景色と同系色の点群データは、視認性が悪くなる場合がある。そのため、点群データ

    の視認性を向上させるために三次元モデル表示領域の背景色を変更可能とした。変更可能

    色は、3種類とした。

    (9) 点データサイズ切替機能

    点群のサイズを変更することで点群間の隙間を埋めることができ、点群データの視認性

    を向上させる機能を作成した。サイズは3段階とした。

    (10) 視野角変更機能

    三次元モデルを表示する場合、人の視野角以上の状態で表示することも可能であり、そ

    のため表示状態によっては誤認してしまう場合(例えば、クラックの大きさや位置等)が

    ある。そのため視点の視野角を変更することで点群データの視認性を向上させる機能を構

    築した。視野角は、30°、60°及び90°の3段階とした。

    5.3.3 損傷状態把握機能

    (1) 写真表示機能

    点群データのみでは損傷の状態を把握しづらい場合もあるため、損傷箇所に写真をリン

    クすることで、損傷の状態を確認することを可能とした。

    (2) 旗揚げ機能

    損傷箇所に対し旗揚げによりその位置を表示させ、個々の損傷箇所を把握するとともに、

    損傷とその周辺の関係を確認可能とした。

    (3) 点検調書表示機能

    データベースにおける橋梁の点検結果の記録項目は、橋梁定期点検要領(案)(国土交

    通省、平成16年3月)及び橋梁定期点検要領(同、平成26年6月)に準拠した。三次元モデ

    ルに表示されている損傷データをクリックすることで、上述した要領の点検調書をリンク

    できるものとした。

    6.橋梁の遠隔診断プロトコルの作成及びデモンストレーション

    6.1 遠隔診断の手順 遠隔診断は、現場に行かずとも遠隔地にある構造物の健全性を判断し、専門家による現

    地調査の必要性を判断する行為である。そのため、現地で実施する点検・診断とは異なり、

    限られた情報から橋梁の状態を把握することが重要になる。ここでは、診断を実施するた

    めに最低限確認すべき事項と限られた情報の中で診断を実施するための手順について検討

    を行う。遠隔診断を実施するための流れを図6-1に示す。

  • - 21 -

    図6-1 遠隔診断実施フロー

    6.2 遠隔診断プロトコルの作成

    遠隔診断の実施に際して確認すべき基本的な事項や確認上の留意点をプロトコルとして

    整備した。

    表6-1 確認すべき橋梁諸元

    確認事項 備考

    1 橋長、幅員、径間

    2 上部工形式、下部工形式

    3 竣工年次(適用基準の情報) 設計上の不具合

    4 交通量、大型車交通量 疲労の有無

    5 設置環境(塩害、凍害、硫酸塩など) 劣化速度

    6 設計者、施工者

    7 使用材料 アル骨、耐久性

    8 地盤条件 軟弱層(沈下)

    9 橋面防水の有無

    (1)橋梁の基本情報の確認

    (2)現地状況の確認

    (2-1)全景の確認

    (2-2)路面の確認

    (2-3)桁下の確認

    (2-4)その他の確認

    (3)橋梁の健全性の診断

  • - 22 -

    表6-2 確認すべき履歴情報

    確認事項 備考

    1 点検履歴

    2 補修履歴 補修履歴と合わせて、補修前の点検履歴を

    確認するとより有効である

    表6-3 全体としての確認項目

    確認事項 備考

    1

    正面・側面

    橋梁のねじれ

    下部工の沈下

    支承の変状

    施工不良

    (1-1)高欄・防護柵の連続性

    (1-2)道路線形との不整合

    (横断勾配、縦断勾配等)

    (1-3)たわみ・上部工のキャンバー

    2 振動・異音

    3 下部工の傾き

    表6-4 路面の確認項目

    確認事項 備考

    1 舗装のひび割れ、ポットホール 床版の劣化との関連性

    2 伸縮装置 遊間の異常・段差(下部工の不具合)

    3 伸縮装置 遊間の異常・段差(第三者被害)

    4 伸縮装置 止水性(桁下への漏水の有無)

    5 高欄・防護柵の不具合 第三者被害

    6 排水装置のつまり 漏水・滞水の原因

    表6-5 橋梁下の確認項目

    確認事項 備考

    1 桁端部の漏水 鋼部材、支承の腐食、支承の機能障害

    コンクリート部材の劣化

    2 支承の土砂堆積 支承の腐食、支承の機能障害

    3 床版の損傷 舗装の損傷との関連性

    4 桁、床版からの漏水 排水装置の状況との関連性

    橋面防水の有無

    5 下部工の傾き・沈下 高欄・防護柵の不具合との関連性

    伸縮装置の不具合との関連性

    6 桁のひび割れ性状(両側面で確認) 貫通の可能性

    7 構造的に問題のあるひび割れ

    (せん断、曲げ等) 耐荷力不足

  • - 23 -

    6.3 遠隔診断のデモンストレーション

    構築した遠隔診断システムを使用して、遠隔診断のデモンストレーションを実施し、遠

    隔診断システム及びプロトコルの有効性を検証した。デモンストレーションの記録例を以

    下に示す。

    ・進行役:画面中央

    ・現地点検員:画面右側

    ・診断者:画面左側

    6.3.1 伸縮装置の損傷

    1.(進行役)橋面の確認を行います。橋面を表示してください。

    We'd like to see the road surface next. Would you please switch the screen?

    2.(現地点検員)わかりました。橋面を表示します。

    Yes, I will show you the road surface.

  • - 24 -

    3.(診断者)止めて下さい。操作権を移します。ジョイント部分に部材の変状がありそう

    に見えますので、拡大表示します。

    Stop it! May I operate the screen now? There seems some damage to the joint members. Let me

    try to enlarge it.

    4.(進行役)どのあたりでしょうか?

    Which part do you mean?

    5.(診断者)このあたりです。

    Please look at this part.

    6.(現地点検員)現状の写真と点群データをリンクしていますので、写真を表示します。

    操作権を移します。伸縮装置の部材の一部が欠損していました。

    Would you allow me to operate the screen? We have linked a picture to the point cloud data,

    and I'd like to show you it. Some members of the expansion joint were lost.

    7.(診断者)写真を拡大します。欠損部は段差が生じており、車両の通行に影響する可能

    性があります。特に、二輪車は段差により転倒する可能性があり、早期に補修する必要が

    あります。

    Let me enlarge the picture. There is a gap at the joint, and it may affect the passage of vehicles.

    Particularly, motorcycles may fall down at the gap. This gap should be repaired immediately.

    8.(進行役)補修が必要なジョイント部については、早急に対策を進めてください。続い

    て、桁下の状況について、確認します。桁下を表示してください。

    I would suggest you repair the expansion joint as soon as possible. Let's move to the next. We'd

    like to review girders.

    6.3.2 主桁のひびわれ

    10.(診断者)桁の端部で色の異なる部分がありますが、現地の状況について教えてくだ

    さい。

    There is a striped pattern at the girder end. Could you explain it?

    11.(現地点検員)桁の端部は、炭素繊維シートで補強が実施されています。また、コン

    クリート部に斜め方向のひび割れが発生していました。ひび割れは、別途、現地計測した

    ものを点群データに重ねて示します。

    The girder end is reinforced by carbon fiber sheet. There were diagonal cracks on the concrete

    surface. Let me superimpose the cracks observed at the site on the point cloud data.

    12.(診断者)ひび割れに連続性はありましたか?

  • - 25 -

    Were the cracks continuous?

    13.(現地点検員)ひびわれは連続しているものと考えられます。

    Yes, I suppose so including those covered by carbon fiber sheet.

    14.(診断者)反対側面にもひびわれが発生していましたか?

    Were there cracks on the opposite side of the girder?

    15.(現地点検員)両側面で発生していました。上流川側面のひび割れを青線、下流川側

    面のひびわれを赤線で示します。

    There were cracks on the both sides of the girder. These blue lines are cracks on the upstream

    side and red ones are those on the downstream side.

    16.(診断者)ひび割れの発生位置は、同位置ですか?

    Were the cracks on the both sides located at the facing position?

    17.(現地点検員)両側面で、ほぼ同位置に発生していました。

    Yes, they were. They were located at almost the facing position.

    18.(診断者)了解しました。斜め方向にひび割れが発生しており、せん断ひび割れで貫

    通している可能性がと考えられます。補強はこのせん断ひび割れに対するものと考えられ、

    構造的には問題がないと判断します

    Thank you for your information. Those diagonal cracks are shear cracks, and they are likely

    passing-through cracks. The reinforcement performed is for shear cracks, and I evaluate there is

    no serious structural problem.

    19.(進行役)桁端部のひび割れについては、現時点では対策の必要性は低いですが、継

    続的にモニタリングを実施してください。

  • - 26 -

    At the moment, there is little need to conduct additional reinforcement for the cracks at the

    girder end. I would suggest you continue monitoring of those cracks.

    20.(現地点検員)了解しました。

    I agree to your suggestion. Thank you.

    7.おわりに

    本研究では、まず、CIMの分野で近年急速に発展してきた三次元スキャナーの技術を応

    用し、橋梁の三次元モデルを構築した。本モデルは、設計図や竣工図が保管されていない

    場合でも、橋梁の状態を記録・保存するためのデータベースとなるものである。また、三

    次元化により、従来の二次元図面や写真からでは把握が困難な、着目している面以外の部

    材の面の状態や複数の部材に影響を及ぼすような損傷の進展等の把握が容易に行えるよう

    になる。

    次に、構築した橋梁の三次元モデルをインターネットを介して共有することにより、橋

    梁の遠隔診断を行うためのシステム開発を行った。システム開発に当たっては、開発途上

    国におけるインターネット環境を踏まえ、三次元モデルの拡大・縮小、視点の移動等がス

    ムーズに行えるようにするとともに、インターネット回線への負荷を極力低減するように

    配慮した。また、システム開発とあわせて、遠隔診断が我が国の専門技術者から現地技術

    者への一方通行とならないように、診断時のコミュニケーションプロトコルの開発を行っ

    た。

    本研究により、我が国の橋梁の維持管理技術を開発途上国に効果的・効率的に移転する

    ことが可能になるとともに、開発途上国における橋梁のデータベースといった維持管理の

    ための基礎データの構築、また、技術者の技量向上に貢献することが期待される。