第3回 未病産業研究会 平成30年2月5日 健康無関心層の行動特性 … ·...

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健康無関心層の行動特性とアプローチ方法 ~行動経済学と健康格差の視点から~ 帝京大学大学院公衆衛生学研究科 福田 吉治 第3回 未病産業研究会 平成30年2月5日

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健康無関心層の行動特性とアプローチ方法

~行動経済学と健康格差の視点から~

帝京大学大学院公衆衛生学研究科福田 吉治

第3回 未病産業研究会平成30年2月5日

本日お話しすること

1. 背景:健康格差と健康の社会的決定要因

2. なぜ、健康無関心層に注目すべきなのか?

3. 行動経済学の考え方と研究・実践への応用

4. 今後の健康づくりへの示唆

健康日本21(第2次)の概念図

[厚生労働省報告書より]

農業と食生産

労働環境

失業

水・衛生

保健医療サービス

教育

住宅年齢,性,遺伝素因

Dahlgrenら(1991)をもとに改変

所得

健康の社会的決定要因Social Determinants of Health (SDH)

職業階層による死亡率(英国)15-64 years, 1970-72

[Black Report]

男性 女性

高 ← 職業階層 → 低 高 ← 職業階層 → 低

*

*

* p<0.05

学歴と死亡率(日本人男性)

短大・大卒と比較したハザード比(男性)

年齢と地域を調整

最終学歴

Ito, et al. Eur J Public Health 2008; 18: 466-472.

*

* p<0.05

学歴と死亡率(日本人女性)

短大・大卒と比較したハザード比(女性)

年齢と地域を調整

最終学歴

Ito, et al. Eur J Public Health 2008; 18: 466-472.

家計支出四分位

[Fukuda Y, Hiyoshi A. J Epidemiol 2013;23:21-27]

肥満

家計支出との関係

高血圧

*

*

**

* p<0.05

家計支出四分位

空腹時血糖上昇

家計支出との関係

マルチリスク

**

*

*

* p<0.05

*

(注)マルチリスク=メタボリックシンドロームに準じる

[Fukuda Y, Hiyoshi A. J Epidemiol 2013;23:21-27]

世帯所得(円)肥満者の割合(%)

平成22年国民健康・栄養調査より

所得と肥満(日本人)

**

* 600万~と有意差有

[国民生活基礎調査2010年より]

学歴と喫煙(男性)

喫煙率(%)

0

20

40

60

80

25-34 35-44 45-54 55-64

中学 高校 専門学校 大学 大学院

年齢階級

Tabuchi T, et al. Journal of Epidemiology 2017

[国民生活基礎調査2010年より]

学歴と喫煙(女性)

喫煙率(%)

0

20

40

60

25-34 35-44 45-54 55-64

中学 高校 専門学校 短大 大学

年齢階級

Tabuchi T, et al. Journal of Epidemiology 2017

[平成19年度国民生活基礎調査より]

検診受診率

世帯所得とがん検診受診率40―59歳

胃がん(男性)

世帯所得(5分位)

肺がん(男性)

大腸がん(男性)

胃がん(女性)

肺がん(女性)

大腸がん(女性)

子宮がん(女性)

乳がん(女性)

http://www.geocities.jp/newpublichealthmovement/28cariescontrolforpopulations.html

Upstream Strategy or Downstream Strategy

本日お話しすること

1. 背景:健康格差と健康の社会的決定要因

2. なぜ、健康無関心層に注目すべきなのか?

3. 行動経済学の考え方と研究・実践への応用

4. 今後の健康づくりへの示唆

健康無関心層とは?

具体的にはどんな人?

なぜ、健康に無関心?

健康への関心度

良不良

健康状態(リスク含む)

【健康無関心層A】

不健康なのに関心が低い

【健康無関心層B】

健康で関心が低い

健康で

関心も高い

不健康で

関心が高い

これまでの行動変容プログラムは、十分なリソースを持つ人の行動変容を促すうえで大きな成功を示してきた。

言い換えると、これまでの健康教育にかけた努力が、社会経済的格差の拡大に部分的であれ貢献してしまった。

Kawachi I. Social Epidemiology 2nd ed.(仮訳)

イチローの告白

Len’s Challenge

Professor S. Leonard SymeBerkeley School of Public Health

Why do behavioral intervention fail?

(行動変容介入はなぜ失敗するのか?)

行動介入は成功するか?循環器疾患予防の地域プログラムの総括

• 36の地域介入研究(1970~2008)を総括

• メディア、検診、健康相談、環境改善等を組み合わせた介入プログラムの前後比較

Pennant M, et al. Community programs for the prevention of cardiovascular

disease: a systematic review. Am J Epidemiol. 2010;172: 501-16.

• 循環器のリスクの減少:0.65%

• 7つの研究が、循環器・全死因の死亡率の変化を報告。うち、有意な変化を示したものは0。

行動変容介入はうまくいかない!?

ポピュレーションアプローチが格差を拡大させる?

Frohlich KL, et al. Am J Public Health 2008; 98: 216-221;

福田、日本衛生学会誌 2008; 63: 735-738

リスク低減の理想

ポピュレーションアプローチが格差を拡大させる?

もともとリスクの低い(=健康な)集団のリスクがさらに低下し、リスクの高い(=不健康な)集団は不変

リスクの集積する集団(Vulnerable population)への対策が重要

Frohlich KL, et al. Am J Public Health 2008; 98: 216-221; 福田、日本衛生学会誌 2008; 63: 735-738

健康を支援する環境づくり

行動経済学

マーケティング

健康無関心層に有効と考えらえる戦略

1. 社会環境の整備が「正攻法」

2. 健康的な行動を促す「しかけ」

3. 見逃されてきた「別の一手」-人の一見おかしな行動様式を逆手にとる

4. “敵”に学ぼう

5. 健康サービスを“売る”という視点で

6. ゲーミフィケーション-健康づくりを「ゲーム」に

(健康格差対策の進め方、近藤尚己、医学書院より)

本日お話しすること

1. 背景:健康格差と健康の社会的決定要因

2. なぜ、健康無関心層に注目すべきなのか?

3. 行動経済学の考え方と研究・実践への応用

4. 今後の健康づくりへの示唆

おめでとうノーベル経済学賞!リチャード・セイラ―博士

行動経済学は2度目のノーベル経済学賞!

2002年ダニエル・カールマン博士

“ヒューリスティクス”“バイアス” など

第1世代の行動経済学とも呼ばれます。

行動経済学と健康増進の論文数

PubMed:“behavioral economics” AND (“health promotion” OR “prevention”)

0

5

10

15

20

25

30

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

論文数

行動経済学とは?

行動経済学(Behavioral economics)とは、典型的な経済学のように経済人を前提とするのではなく、実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学の一分野である。

(少し前のウィキペディアより)

人の行動は不合理だ

Bounded Rationality(限定合理性):人は、完璧な合理性を持たず、限定的な合理性の中で意思決定をする。

意思決定の二重のプロセス

直 観 的 論 理 的

システムⅠ システムⅡ

早 い自動的

努力不要連想的感情的

ゆっくり感情抑制的努力必要

規範に基づく中立的

ヒューリステック(・バイアス)

• Heuristic (bias)

• 意思決定を行う際、暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則(経験則など)

• 人は、おおざっぱな方法で選択する。

• 近道選び。

知 識

態 度

意 図

行 動

ジャムの実験

どちらがよく売れる?

6種類のジャムが試食可

24種類のジャムが試食可

豊富すぎる選択肢は意思決定を阻害

選択回避・選択肢削減の法則

助かる確率90%

亡くなる確率10%

どちらの手術を選ぶ?

同じ内容であっても、表現の仕方で受け取り方が異なる。

フレーミング framing

幸せ感とデート回数

「幸せですか?」の後に「今月のデートの回数は?」を質問

「今月のデートの回数は?」の後に「幸せですか?」を質問

相関なし 相関あり

ヒントとして与えられた前の情報に引きずられてしまう。

アンカリング Anchoring

行動をした結果を後悔することを避けたい。同じ行動をとり続ける。

後悔回避、現状維持=Status Quo

転職する?

優しい上司快適な職場環境

給料アップ

ブラック企業きついノルマ社会いじめ

確実な方を選ぶ。

危険回避

1/10の確率で50,000円もらう

1/2の確率で10,000円もらう

どちらを選ぶ?

1000円もらって、500円なくす

500円もらう

喜びはどちらが大きい?

「損失による満足感の低下」は「利得による満足感の増加」よりも大きい。

損失回避 Loss Aversion

ディナーはどれにする?

A 2000円

B 4000円

A 2000円

B 4000円

C 6000円

極端を避け、真ん中を選ぶ。

松竹梅効果・極端の回避

A店• 何も具がのっていない

ラーメンが500円。• タッチパネルで、好きな

具をトッピングする。• トッピングは1つ50円。

全部で10種類、全部選ぶと1000円のラーメン。

B店• 10種類のトッピングが

のって1000円。• タッチパネルで、いらな

いトッピングを外す。• 1つのトッピングを外す

と50円安くなり、全部外すと500円のラーメン。

http://tomoe.life/8556

どちらの店が高いラーメンが売れる?

最初から提示されたもの従いやすい。

Default Option(初期値設定)

なぜ、たばこはやめられない?

将来の重いリスク

現在バイアス 現在重視選択 近視眼

時間選好 time preference

今の小さな快楽

“将来の大きな報酬” < “すぐの小さな報酬”

(例:半年後の1,5000円より今の10,000円)

<<

コミットメント Commitment

将来の自分を縛っておく。

(例)

• 天引き預金

• 同僚に「禁煙宣言」

• ダイエット失敗したら、妻に罰金

• 最初に払っておく(デポジット)

オプトイン vs オプトアウト

オプトイン Opt-in

選択して参加する。(参加を申出)

(Default=不参加)

オプトアウト Opt-out

選択して参加しない。(不参加を申出)(Default=参加)

オプトインとオプトアウトの例

• 臓器提供の意思表示:オプトアウトの国では提供意思表示者が多い

• 後発医薬品(ジェネリック)の処方:オプトアウトにして増加

ナッジ(Nudge)

人々を強制することなく、望ましい行動に誘導するようなシグナルまたは仕組み

“そっと後押し”

Default Optionはその例

ポップコーンの実験

• 映画館にて、ポップコーンを無料で配布。

• 小さなカップ群(120g)と大きなカップ群(240g)で食べた量を比較。

• おいしいものとまずいもの(数日前に作った、発泡スチロールみたいな) 。

Wansink Brian and Park S. At the Movies: How

External cues and Perceived Taste Impact

Consumption Volume, Food Qual Prefer 2001;

12: 69-74.

結 果

0

20

40

60

80

100

おいしい まずい

小さなカップ 大きなカップ

食べた量(グラム)

味に関係なく

与えられた量で食べる量が決まる!

100g×4袋の方が、400g×1袋よりも、25%(75カロリー)、食べる量が少なかった。

小袋と大袋で食べる量は?

Wansink B, Payne CR, Shimizu M. The 100-calorie semi-solution: sub-

packaging most reduces intake among the heaviest. Obesity.

2011;19:1098-100.

カロリーはいくら?

Chernev A. The Dieter‘s Paradox, Journal of Consumer Psychology,

2011; 21: 178–183.

体重を気にしている群

体重を気にしていない群

推定カロリー(Kcal)

結 果

あるレストランにて、売上(サンドイッチ、サラダ、スープ)を以下で比較。

(1)コントロール(いつも通り)

(2)価格の低下

(3)健康メッセージ

(4)価格の低下+健康メッセージ。

「価格の低下」と「健康メッセージ」は、どちらが健康的な食べ物を選択させるのに効果的?

Hargen KB, Brownell KD. Comparison of price change and health

message interventions in promoting healthy food choice. Health

Psychology 2002; 21: 505-12.

結果:サンドイッチの売上

0

5

10

15

平均の売上個数

ベースライン 価格低下 健康メッセージ

価格低下+

健康メッセージ

※食べ物の種類によって結果は若干異なる。

健康的なもの(野菜)を先に並べると健康的な選択になる。

ブッフェで、料理の順番によって選択する内容が変わる?

Wansink B, Hanks AS. Slim by design: serving healthy foods first in

buffet lines improves overall meal selection. PLoS ONE 8(10): e77055

やってみました!

野菜先行群 肉先行群

1.生野菜(生キュウリ、生ニンジン、プチトマト)、

2.果実(パイン、オレンジ)3.ポテトサラダ4.里芋の煮物、人参の煮物5.カボチャのチーズ焼き、ピー

マンのチーズ焼き、6.巻き寿司、サンドイッチ、7.シュウマイ8.鮭の西京焼き9.グリルチキン10.とんかつ

(日本健康教育学会誌 2016, 24(1), 3-11)

研究の流れ

対象者(N=61)

野菜先行群(N=31)

肉先行群(N=30)

無作為

• 別々の部屋でブッフェ方式のランチ

• 分析は女性に限定(各群25名)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

キュウリ

ニンジン

トマト

ポテトサラダ

パイン

オレンジ

里芋煮

人参煮

かぼちゃ

ピーマン

巻き寿司

サンドイッチ

シュウマイ

サケ

チキン

とんかつ

野菜先行群(N=27) 肉類先行群(N=27)

摂取した人の割合(%)

料理品目別の摂取した人の割合

摂取品目数

料理種類別の摂取量の比較

0

1

2

3

4

5

生野菜、サラダ、果

野菜料理

タンパク質料理

野菜先行群

肉類先行群

0

2

4

6

8

生野菜、サラダ、果

野菜料理

タンパク質料理

摂取数

生野菜、サラダ、果実は6品目、野菜料理は4品目、タンパク質料理は4品目

* p<0.05

**

• 肥満を伴う2型糖尿病患者130名

• Portion Control Plate使用群とコントロール群

• 6か月フォローアップ

Pedersen SD, et al. Portion control plate for weight loss in obese

patients with type 2 diabetes mellitus: a controlled clinical trial. Arch

Intern Med. 2007 Jun 25;167(12):1277-83.

Portion Control Plateの効果は?

結 果

プレート群 コントロール群 P値

体重の変化(%)

-1.8±3.9 -0.1±3.0 0.006

体重の変化(kg)

-2.1±4.9 -0.1±3.5 0.01

5%以上減量した者の割合

16.9% 4.6% 0.048

お皿を変えるだけでも減量効果あり!

どんなインセンティブが効果ある?

Framing Financial Incentives to Increase Physical Activity Among Overweight and Obese Adults: A Randomized, Controlled TrialPatel MS. et al. Ann Inter Med 2016;164: 385-94.

Group 概 要

Control 前日の歩数を報告

Gain-incentive 目標達成で$1.4/日得る

Lottery-incentive

事前に2桁の番号を与える。毎日、ランダムに番号が示され、1つの数字が合っていれば(18%)$5、両方合えば(1%)$50得る。ただし、目標達成の日のみ。

Loss-incentive目標不達成で$1.4/日没収(事前に$42/月提供)

身体活動(目標7000歩/日)に関する介入研究

Control

Loss-Incentive

Lottery-Incentive

Gain-Incentive

結 果

目標達成日の割合(平均)

介入期間 フォローアップ

本日お話しすること

1. 背景:健康格差と健康の社会的決定要因

2. なぜ、健康無関心層に注目すべきなのか?

3. 行動経済学の考え方と研究・実践への応用

4. 今後の健康づくりへの示唆

行動経済学の発展は、もっぱら、いかに人々が健康的な生活習慣を持つことが難しいかを説明してきた。

今のところ、行動変容に関する行動経済学的アプローチの効果は、期待されたものよりささやかなものである。

Kawachi I. Social Epidemiology 2nd ed/Am J Prev Med 2014; 47: 832-837より改変.

イチローの告白 ②

健康増進に期待される主な行動経済学理論

ナッジ/Default option

ヘルスコミュニケーションへの応用(フレーミング等)

ゲーミング

インセンティブ/コミットメント

政策への応用

経済財政運営と改革の基本方針2016

第3章 経済・財政一体改革の推進

(1)社会保障

平成28年6月 閣議決定

②「見える化」の更なる深化とワイズ・スペンディング

(データヘルスの強化等)企業による健康経営の取組とデータヘルスとの更なる

連携を図る。

(健康づくり・疾病予防・重症化予防等の取組推進)日常生活の動線の中で健康づくり・疾病予防ができる

環境を地域ぐるみ・企業ぐるみの取組により整備する。

5.主要分野ごとの改革の取組

ナッジの例

• 定食に野菜の小鉢やサラダを必ず付ける

• メニューの目立つ所に健康的なものを掲載する

• 野菜料理から最初に出す(足立区の“ベジファースト”)

• 出入り口を閉鎖して、遠回りさせ、歩数を増加させる

知らず知らずに健康な選択を!

Prof. Brain WansinkUSDA's Center for Nutrition Policy and Promotion, Food and Brand Lab, Cornell University

食の選択に関する”CAN“アプローチ

Attractive

(魅力的にする)名前、外観、価格、期待

Convenient

(便利にする)見る、注文する手に取る、消費する

Normative

(日常ごとにする)注文する、買う、提供する、食べる

食の選択 味の評価習慣的な選 択

Wanskink B, Behavioral Economics & Public Health, 2016.

CANの具体例

Wanskink B, Behavioral Economics & Public Health, 2016.

CANの要素 具体例

Convenient

To see レジの近くにフルーツを設置

To order食堂に健康的な“Grab and Go”(すぐ持ち帰り可)ラインを作る

To pick up ブッフェの初めの方に健康的な食べ物を置く

To consume 一口のサイズを大きくする

Attractive

Name 野菜料理に魅力的な名前をつける

Appearance サイドディッシュの野菜に飾りをつける

Price バリュー価格にしない

Expectation パッケージの高さを変える(健康感アップ)

CANの具体例(続)

Wanskink B, Behavioral Economics & Public Health, 2016.

CANの要素 具体例

Normative

To order トレイに、野菜のステッカーを貼っておく

To purchase買い物カートを半分に区切り、半分は野菜やフルーツ用と示唆させる

To serve 入れ物のサイズを変える

To eatブッフェでは、食べるものの多くを事前に決めている

※前スライドを含め、いずれも実証研究で検証されている。

フレーミングの例

Negative (Loss-framed)

Positive (Gain-framed)

がんは命に係わる重大な病気です。がん検診を受けましょう。

検診で安心な毎日を。がん検診を受けましょう。

Bankらのマンモグラフィーに関する研究(The effects of message framing on mammography utilization. Health Psychology 1995; 14: 178-84)では、Negativeの方が受診率が高かった。

効果的な健康メッセージは異なるか?

仮説:性別、婚姻状況、学歴、所得などの属性で、影響を受ける健康メッセージは異なる?

福田吉治,林辰巳.健康づくりに関するメッセージの効果認識の関連要因:社会経済的要因に注目して.日本公衆衛生雑誌62;347-356,2015.

例:がん検診勧奨① 日本人の3人に1人はがんで亡くなっています(罹患の

多さ)② がん検診で見つかったがんは、予後が2倍よくなります

(予後良好)③ 大切な家族のためにがん検診を受けましょう(家族の

ため)④ 市町のがん検診は、わずかな自己負担で受けることが

できます(自己負担)

がん検診勧奨の効果の認識

① 日本人の3人に1人はがんで亡くなっています(罹患の多さ)② がん検診で見つかったがんは、予後が2倍よくなります(予後良好)③ 大切な家族のためにがん検診を受けましょう(家族のため)④ 市町のがん検診はわずかな自己負担で受けることができます(自己負担)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

高校以下

短大・専門学校

大学以上

①罹患の多さ ②予後良好 ③家族のため ④自己負担

IT・ゲームによる健康づくり

ポケモンGOで身体活動増加?

BMJ 2016; 355

健康行動へのインセンティブ

Lewis K et al., Behavioral Economics & Public Health, 2016.

• 禁煙

• 減量・体重維持

• 身体活動・運動の推奨

• 薬物依存

• 家族計画

インセンティブが利用される保健行動の例

健幸ポイント制度

http://www.twr.jp/service/kenkou_point/

健幸ポイント制度の効果

http://www.twr.jp/service/kenkou_point/

医療費・経済的評価

• 医療費:60 歳代では約4.3 万円/人、70歳以上では約9.7 万円/人の抑制効果(年間)

• 地域経済効果を合わせると、6市で4.7億円の効果

平均歩数の推移

インセンティブの主な課題

• 対象となる疾病・行動は?

• 形態:インセンティブか、ペナルティか、デポジットか?

• 適切な大きさ:いくら?

• 誰が受け取るか?

• 長期的な効果は?

• 倫理的問題は?

Photo by https://kigyotv.jp/wp/wp-content/uploads/2016/03/BA-BF020_trusts_G_20140502155111.jpg

Center for Health Incentives and Behavioral Economics

Prof. Kevin VolppUniversity of Pennsylvania

行動経済学の政策への応用例

英 国

• “ナッジ”を政策として積極的に推進

• Behavioral Insights Team(通称 Nudge Unit)が2010年より政策提言

米 国

• Affordable Care Act(ACA:患者保護並びに医療費負担適正化法、オバマケア、2010年)により、保険料に対するインセンティブが拡大

• SNAP(Supplemental Nutrition Assistance、補助的栄養支援プログラム)での応用

英国の減塩政策

• 食品業界を巻き込んだ減塩運動

• 食品ごとに減塩の目標値を設定(例:食パンを徐々に減塩に)

• 商品ごとの塩分量を公表(例:ベーコン、ピザなど)

SNAPへの応用例

• 支給する回数を頻回に

• 健康的な食品に対して補助

• 食料品店に健康的な食品の在庫を要求

• 事前の注文と宅配

• 購入できる食品の制限

SNAP(補助的栄養支援プログラム、フードスタンプ)では、購入する方法や食品の質が問題となる。そこで、行動経済学を応用して・・・。

足立区の「ベジタベライフ」

• 健康寿命:都平均より2年短

• 取り組み例 栄養成分表示 「野菜たっぷりメニュー」「バランス

メニュー」「塩分控えめメニュー」などの提供

ベジファースト:野菜料理を最初に(お通し、料理の順番等)

介入のレベル

選択を禁止する:選択肢から完全に排除するべく規制する。

選択を制限する:選ぶことができる選択肢を制限する。

逆インセンティブ:金銭的、他の逆インセンティブにより行動させないようにする。

インセンティブ:金銭的、他のインセンティブによりある行動をさせるようにする。デフォルト:より健康な選択肢をデフォルトとして選択しやすいようにする。

選択を可能にする:選択を可能にする環境を整えるなど。

情報提供する:教育・普及啓発

介入のはしご A ladder of interventions

Public Health: ethical issues, 2007; 大島、保健の科学 2013; 武見、健康教育学会誌 2013より

介入せずに現状をモニターする。

格差縮小?

介入のはしご の具体例レベル 具体例

選択させない • ある種の薬物の禁止

選択を制限 • 公共の場所での喫煙の禁止

逆インセンティブ • たばこ税の引き上げ

インセンティブ • 検診受診によるポイント制

デフォルト • サイドディッシュのサラダを必ず付ける

選択を可能にする• 無料の禁煙プログラムの提供• 食品の成分表示やカロリー表示

情報提供する • 教育や普及啓発

介入せず現状をモニターする

• 何もしない

武見、健康教育学会誌 2013より

傾斜をつけたユニバーサル・アプローチ(Proportionate Universalism)

「社会疫学」より

特定健診等実施計画・データヘルス計画のスケジュール

26 27~29

H30~35

助走的稼働

データ蓄積本格稼働計画

づくり

第3期第2期

特定健診等実施計画

H25~29H20~24

第2期

第1期

第1期

データヘルス施計画

保険者における予防・健康づくり等のインセンティブの見直し

現行(~H29年度)

見直し後(H30年度~)

保険者種別

健保組合・共済組合

協会けんぽ国保

(市町村)国保組合

後期高齢者医療広域連合

手法 後期高齢者支援金の加算・減算制度なし

指標 特定健診・保健指導の実施率

保険者種別

健保組合・共済組合

協会けんぽ国保

(市町村)国保組合

後期高齢者医療広域連合

手法

後期高齢者支援金の加算・減算制度の見直し

各支部の取組等を都道府県単位保険料率

に反映

保険者努力支援制度を

創設

各国保組合の取組等を特別調整補助金に反映

各広域連合の取組等を特別調整交付金に

反映

指標• 保険者種別共通の項目を設定• 保険者種別ごとの特性を踏まえた項目を追加で設定

インセンティブの共通の指標

ア 予防・健康づくりに係る指標

① 特定健診・保健指導の実施率、メタボリックシンドローム該当者及び予備群の減少率

② 特定健診・保健指導に加えて他の健診の実施や健診結果等に基づく受診勧奨等の取組の実施状況(がん検診や歯科健診等)

③ 糖尿病等の重症化予防の取組の実施状況

④ 広く加入者に対して行う予防・健康づくりの取組の実施状況(ICTの活用、ヘルスケアポイント等)

イ 医療の効率的な提供への働きかけに係る指標

⑤ 加入者の適正受診・適正服薬を促す取組の実施状況(重複頻回受診・重複投薬・多剤投与等の防止対策)

⑥ 後発医薬品の使用促進に関する取組の実施状況