第3節 調査結果 フライブルグ市(ドイツ) - meti...2016/03/03  · 第3節...

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第3節 調査結果 フライブルグ市(ドイツ) 1.ドイツにおける新エネルギー政策のベース -「再生可能エネルギー法 2000年3月 、「再生可能エネルギー法」が導入されたことにより、ドイツ国内 の新エネルギー導入は急速に伸びた。特に風力発電は全世界の 1/3、EU の半分 を占めるに至っている。 再生可能エネルギー法の概要 ①目標:自然エネルギーが国内の発電に占める割合を 2010 年までに施行時 (6%)の倍にし、温暖化防止、環境保護、持続可能な発展を促進する。 ②対象エネルギー:水力、天然ガス、風力、太陽光、バイオマス、地熱。 ③電力供給事業所の買取義務:上記エネルギー源で発電された電力を、最 寄の電力供給事業所が買い取ることを義務づけ。 ④1 kWh 買い取り価格(1マルク=100 ペニヒ=約53円) エネルギー種別 価格(単位:ペニヒ) 太陽光 99 風力 17.8 20(出 力500 kW まで) バイオマス 18(出 力5 MW まで) 15(出 力500 kW まで) 水力 13(出 力5 MW まで) ⑤関連効果:CO 削減、雇用拡大 なお、2003年3月2 9日に大幅な法改正があり、再生可能エネルギー電力比率 (現在 8%)を2010 年までに最低 12.5%、2020 年には20%に引き上げる目標 が規定された。戦略的目標として、2050 年の電力比率 50%の実現を掲げている。 今回の調査においても、この再生可能エネルギー法導入および改正の効果につ いての多くのヒアリング調査協力者から評価する声があがっており、同法が現 場レベルで実際的な効果を挙げていることがわかる。 ※欧州では“再生可能エネルギー”という用語が利用されることが多い。これは、わが国の“新エネルギ ー”とは厳密には一致しないが、本節の以下の記述では固有名詞以外は“新エネルギー”の用語で統一 した。 149

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  • 第3節 調査結果 フライブルグ市(ドイツ)

    1.ドイツにおける新エネルギー政策のベース -「再生可能エネルギー法※」

    2000 年 3 月、「再生可能エネルギー法」が導入されたことにより、ドイツ国内

    の新エネルギー導入は急速に伸びた。特に風力発電は全世界の 1/3、EU の半分

    を占めるに至っている。

    再生可能エネルギー法の概要 ①目標:自然エネルギーが国内の発電に占める割合を 2010 年までに施行時

    (6%)の倍にし、温暖化防止、環境保護、持続可能な発展を促進する。 ②対象エネルギー:水力、天然ガス、風力、太陽光、バイオマス、地熱。 ③電力供給事業所の買取義務:上記エネルギー源で発電された電力を、最

    寄の電力供給事業所が買い取ることを義務づけ。 ④1 kWh 買い取り価格(1マルク=100 ペニヒ=約 53 円)

    エネルギー種別 価格(単位:ペニヒ) 太陽光 99 風力 17.8

    20(出力 500kW まで) バイオマス 18(出力 5MW まで)

    15(出力 500kW まで) 水力 13(出力 5MW まで)

    ⑤関連効果:CO2削減、雇用拡大

    なお、2003 年 3 月 29 日に大幅な法改正があり、再生可能エネルギー電力比率

    (現在 8%)を 2010 年までに最低 12.5%、2020 年には 20%に引き上げる目標

    が規定された。戦略的目標として、2050年の電力比率50%の実現を掲げている。

    今回の調査においても、この再生可能エネルギー法導入および改正の効果につ

    いての多くのヒアリング調査協力者から評価する声があがっており、同法が現

    場レベルで実際的な効果を挙げていることがわかる。

    ※欧州では“再生可能エネルギー”という用語が利用されることが多い。これは、わが国の“新エネルギ

    ー”とは厳密には一致しないが、本節の以下の記述では固有名詞以外は“新エネルギー”の用語で統一

    した。

    149

  • 2.フライブルグ市の概況

    フライブルグ市は人口約 20 万人、ドイツ南部の温暖なバーデン・ヴュルテン

    地方に位置し、中世の街並みを残す美しい町である。この街は、「環境首都」お

    よび「観光のまち」という二つの性格を持っている。

    (1)「環境首都」フライブルグ

    フライブルグでは、30 年前の原発反対運動をきっかけに、単なる政策反対

    ではなく、つねに現実的な代替政策を提案しつづけるという取り組みを進めて

    きた。その結果、ドイツの「環境首都」として市民にも認知されるようになっ

    た。

    同市の環境関連政策は、「自然保護」「温暖化対応」「ゴミ問題」「交通問題」

    などの諸項目間の調和を図りつつ、相乗効果を得ることを重視している。「新

    エネルギー(再生エネルギー)」の活用も、こうした全体的な政策の一環とし

    て位置づけられている。

    図表 3-3-1 フライブルグの環境関連政策への取り組み

    公共交通推進

    20 年前より推進。50km 圏四方で「環境乗車券」の発行。パー

    ク・アンド・ライドなどによる交通量の減量。日常の市内交

    通の 1/3 は、自転車による代替が完了している。

    ゴミ問題

    「循環社会」に向けた対応として重視。ゴミ埋め立て量:130kg

    /人・年。さまざまな取り組みの成果としてのゴミ処理コス

    トの低さは、一種の経済効果として評価できる。

    自然保護 市面積の 50%、約 150 平方キロを自然保護区域に指定。シュ

    バルツバルトの美しい森は重要な観光資源でもある。

    CO2削減

    1992~2010年で 25%削減を目標としている。うち1/4は交通、

    3/4 はエネルギー代替による削減を予定。

    再生エネルギー 「ソーラーシティ」として太陽エネルギーへの集中的な取り

    組みを行っているほか、バイオマス、風力、水力などの新エ

    ネルギーの活用も推進している。

    150

  • (2)「観光のまち」フライブルグ

    フライブルグの二大観光資源は、美しい「街並み」と、豊かな「自然」で

    ある。

    ①まち

    フライブルグは、「古都」(HISTORICAL CITY)としての心をなごませる

    美しさと文化的蓄積を誇る都市である。古い水路などが残る中世の街並

    みや教会などの歴史的建造物群は最大の観光資源である。また、街の中

    心部にはフライブルグ大学が位置しており、同大学の研究機能やメッセ

    機能も重要な集客交流資源となっている。

    ②自然

    フライブルグ

    れた山岳景観や

    といわれる食べ

    が高く、観光交

    経済観光公社

    るものはこうし

    国内でもバカン

    社としては、年

    光集客の理想的

    ソーラーシテ

    に関わる観光の

    的とはなってい

    は、ドイツ南部シュヴァルツバルト地方の首都として、優

    リゾート空間を有している。特に、「バーデンキッチン」

    物と白ワイン・ビールなどの食文化はドイツ国内でも評価

    流資源として重要である。

    の分析によると、基本的にフライブルグへの観光客が求め

    た「まち」「自然」などの観光資源である。近年はドイツ

    ス取得時期を分散させる傾向が見られることから、観光公

    に「一回はまちを、一回は自然を」見に来てくれる姿が観

    なあり方であると考えている。

    ィとしてアピールをしている同市ではあるが、このテーマ

    ほとんどは視察やビジネスであり、一般的な観光客の主目

    ない。

    151

  • ③フライブルグ市観光の実態

    フライブルグ市では、市 100%出資の経済観光公社が観光政策を担当し

    ている。しかし観光関連予算は少なく、宣伝費にも限りがある(年間 35

    万ユーロ:5,000 万円強)。他都市・他国とのパートナーシップなどの取

    組みに力を入れている。

    図表 3-3-2 フライブルグ市観光の実態

    来訪客 年間約 50 万人。

    延べ宿泊数 年間 100 万泊に到達。

    平均滞在日数 1.8 日

    国内 75%、海外 25%。

    スイス、アメリカ、イタリア、フランスが多い。

    国別顧客構成

    日本からは環境視察が多く、年間延べ 10,000 泊以上に及ぶ。

    目的別顧客

    構成

    ①個人旅行②メッセ③ビジネス・環境がそれぞれ 1/3 づつで

    安定している。

    その他 市内のホテルキャパも満杯となっており、ファシリティ追加

    を検討している。

    他国からの「環境ツーリズム」は、これからも増えると見て

    いる。

    フライブルグ市のおもなパートナーシップ事例としては、以下のような

    ものがある。

    ◆「ツール・ド・フランス誘致」(2000 年)

    「サイクリングの街」「スポーツと健康の都市」をテーマに、これまで 4

    回開催。住民参加の小さな関連イベントも多数実施されている。

    ◆国際的パートナーシップ

    日本の愛媛県松山市と姉妹都の提携をしている。

    ◆「ヒストリック・ハイライト・ジャーマニー」

    ドイツ国内における古都のパートナーシップ。アウグスブルグ、ミュン

    スター、ブレーメンなどの歴史的都市が加盟している。

    ◆近隣都市とのタイアップ

    「緑街道」などの仕掛けやバーゼル(スイス)との大学都市連携など。

    152

  • 3.フライブルグ市における新エネルギーへの取り組み

    (1)新エネルギー政策の柱

    市では、エネルギー関連で以下の 3 つのタイプの政策の柱を設け、現在約

    60 の関連プロジェクトを推進中である。

    図表 3-3-3 フライブルグ市のエネルギー政策3つの柱

    ①省エネルギー対応(工法レベル)

    ②新エネルギー対応(有限エネルギー対応)

    ③新しいエネルギーテクノロジーによる高効

    率化

    ここでは、②新エネルギーへの取り組みが単独で存在するのではなく、①

    ③などの関連エネルギー政策と補完的な推進が意識されている。特に①省エ

    ネルギーがエネルギー政策の第一に挙げられていることは注目される。新エ

    ネルギーの開発をいかに進めても、オフィスや住宅の冷暖房効率が悪かった

    り需要の抑制がなされなければ、エネルギー政策全体の効用が低下してしま

    うからである。

    市環境局の資料によると、こうした取り組みの結果、10 年前と比較してロ

    ーカルエネルギー比率が 3%から 50%へと大幅な改善を達成し、その他の指

    標においても現実的な効果が出ている。

    図表 3-3-4 エネルギー(熱および電力)供給のバランスの推移

    1993 実績 2003 実績

    ローカルエネルギー 3% 50%

    原子力 60% 30%

    CO2削減 - 11%

    市における新エネルギーの導入状況は、2003 年実績でエネルギー供給全体

    の 3.5%に達している。内訳を見ると、風力発電とバイオマス関連が大きな比

    率となっている。2010 年における新エネルギー供給量 10%の達成実現が当面

    の目標となっている。

    153

  • 図表 3-3-5 新エネルギーの導入状況および計画(エネルギー供給に占める割合)

    2003 年実績 2010 年(計画)

    風力 1.6%

    ソーラー+水力 0.3%

    バイオマス 1.6%

    合計 10%

    154

  • (2)新エネルギー関連の諸事業

    ①「ソーラーシティ」への取り組み

    フライブルグ市は、研究機能や人材、インフラも含めて、太陽エネル

    ギー(ソーラー)に関するノウハウが濃縮された「ソーラーシティ」とし

    て最高の都市となることを目標としている。

    実験レベルから始めて 20 年間をかけた様々な取り組みが、ソーラーに

    関わる環境産業を着実に育成し、ここへきてようやく産業としてコマーシ

    ャルベースに乗りはじめている。ソーラーに対する補助には、州レベル、

    国レベル、地方自治体レベルのものがあるが、特に近年の「再生可能エネ

    ルギー法」による売買価格引き上げが、経済効果面でも大きいものがあっ

    た。

    行政による取り組みの実例としては、例えば市所有の建物の「屋根リス

    ト」が作成されていて、太陽光システム導入の順番待ちになっている。く

    じ引き方式で次々に導入することにより、市のソーラーイメージの向上に

    役立てているとのことである。

    再生エネルギー協会の解説によると、ソーラーエネルギーは環境都市と

    しての広報活動上重要な意義を持つが、エネルギー効率として見た場合、

    風力発電の方がよい。このため、ソーラーエネルギーだけに特化するので

    はなく様々な新エネルギーの「ハイブリッド化」により、効率のよいエネ

    ルギー源を確保することが理想的であるとのことである。

    ◆ソーラー・シティ・マップ

    観光集客資源の中心ではないものの、同市の環境・エネルギーへのさ

    まざまな取り組みは、ビジターに対するアピールポイントとしての価

    値を次第に高めてきていることは間違いない。市でもこうした傾向を

    意識し、訪者向けに「ソーラーガイドマップ」を発行し、ソーラー・

    ツーリストの集客をねらっている。同マップは日本語にも翻訳されて

    おり、日本からの来訪者はこれを利用して市内の主なソーラー関連施

    設を自分で見学することができる。

    図表 3-3-6 ソーラー・シティ・マップに掲載されている主な関連施設

    施設区分 名 称 地図番号

    ソーラーインフォセンター 3

    フラウンホッファー研究所 4

    主な新エネルギー研究開発施設

    ソーラーファブリックセンター 11

    ドライザムスタディオン(サッカー場) 22

    ホテルビクトリア 16

    主な新エネ&観光・レジャー施設

    エコステーション 2

    *地図番号は図表 3-3-7 のもの

    155

  • 図表 3-3-7 ソーラーシティ・マップ(地図部分のみ)

    (出所:フライブルグ市発行資料)

    156

  • ②コージェネレーション

    1991 年より、市内におけるコージェネレーションシステムの推進を開

    始。1 万人規模の団地への地域暖房の導入などの取り組みを進めている。

    また、埋立地より発生するメタンガスを利用し、2万人分の電力を生産し

    ている。

    ③その他の新エネルギー源への対応

    ◆木質バイオマス

    シュバルツシルト地方の豊富な森林資源に着目し、木質バイオマスへ

    の取り組みが盛んである。ペレットボイラーなどのバイオマスによる

    熱源の普及のほか、発電、コージェネレーションシステムの導入など

    の取り組みを推進している。

    ◆地熱エネルギー

    フライブルグの位置するライン川地帯は有名な地殻変動地帯でもあり、

    地熱エネルギーが大量に賦存している。特に大深度の地熱エネルギー

    の利用を検討している。

    ◆マイクロ水力

    バーデン・ヴュルテン地方は自然の豊かな地域であり、地形的特色を

    活かして古くからの水車利用の伝統がある。これに注目して、小水力

    発電への取り組みも進んでいる。SEEBACH(ゼーバッハ)村(バーデン

    バーデン付近)などが、水車利用のコミュニティ事例として有名。人

    口 1,000 人程度の小さな村だが、水車見学のツアーがあり、日本の旅

    行会社も参入して一種の観光資源化している。

    157

  • (3)環境およびソーラーエネルギーへの取り組みによる「地域経済効果」

    最新の調査機関によるレポートによると、フライブルグ周辺地域(人口約

    60 万人)における環境・ソーラーへの取り組みは、1万人の雇用を生み、1,500

    社の環境関連企業が活動し、年 5億ユーロの経済効果(GDP)を生み出してい

    る(章末参考資料参照)。

    (4)「環境都市」の観光経済効果

    フライブルグ市における人間の環境すべて、ポジティブな生活の質そのも

    のが、大きな観光資源となっている。もともと同市は自然美へのこだわりな

    どの下地があり、環境経済のベースをつくりやすかったといえる。

    「ソーラーツーリズム」の効果は特に大きい。前述のように、市でも来

    訪者向けに「ソーラーガイドマップ」を編集・発行し、ソーラー・ツーリス

    トの一層の集客拡大をねらっている。また、ソーラーへの取り組みの知名度

    から、「インターソーラーメッセ」「国際ソーラー学会」などの継続的な誘致

    に成功しており、フライブルグ大学を中心とした研究都市としてのメッセ機

    能も、大きな集客力となっている。

    経済観光公社では、いわゆる「環境ツーリズム」は、今後も伸びる可能性

    が高いと見ている。ただし、同公社では、フライブルグ市がさまざまな文化

    的なオッファーを有する町であるからこそ、環境ツーリズムが可能になるの

    であり、観光が環境ツーリズムだけというのは健全な姿ではないという立場

    をとっている。来訪者の 90%が普通の観光客、残りの 10%が環境ツーリズ

    ム客で、両者の間の交流や相乗効果をねらっていくというのが、フライブル

    グ市の「持続型観光地」としての健全なあり方であろうとのことである。

    158

  • 4.調査対象施設の概要

    (1)サッカー場(「ドライザムスタディオン」)

    ①施設概要

    「フライブルグ SC」(ブンデスリーガ1部所属のサッカーチーム)のホ

    ームスタジアムでは、観客席屋根を利用した太陽光発電・太陽熱利用の

    大規模施設を設置している。

    同チームの 1 部リーグ昇格の年(10 年前)に、スタジアムの改装に合

    わせて「市民共同発電所」の事業をスタートした。「スポーツの明るいイ

    メージを新エネルギー普及につなげる」ことをねらい成功している。現

    在のチームのメインスポンサーも、自然エネルギー電力の販売に携わる

    「ナトゥーアエネルギー社」であり、随所で自然エネルギーへの取り組

    みをアピールしている。

    【ドライザムスタディオン】

    ②新エネルギー関連施設

    ◆太陽光発電システム

    南側屋根:100kW(市民共同発電所)

    東側屋根:90kW(SAG ソーラーシュトルーム

    ◆太陽光集熱器(屋根上)

    選手やのシャワー室、浴槽用、事務所用に温

    ◆直交変換システム

    スタンド入口付近に直交変換システムを設置

    イム発電状況データを表示して来訪者にアピ

    159

    【スタジアム屋上のパネル群】

    社)

    水を利用している。

    。太陽電池でのリアルタ

    ールしている。

  • ③事業の仕組み -市民共同発電所の「株システム」-

    市民共同発電所では、1 口 5 枚=500W相当の「太陽光電池株」を発行

    している。現在までに計 158 口を販売。一人で複数株を購入した人もいる。

    160 口×500W≒80,000W の発電能力を持つ。

    株購入者には、フライブルグ SC 年間観戦チケット購入割引特典が与え

    られ、株の魅力を高める工夫をしているのがポイントである。

    施設管理およびデータ収集を担当するのは NGO 組織「再生エネルギー振

    興公社」で、エネルギー生産実績を計算し、地域の電力会社であるバデ

    ノヴァ社に売電している。

    事業開始当時はまだ売電価格についての保証が無かったが、州政府の

    助成および FEW(フライブルグエネルギー公社:現バデノヴァ社)の買

    取り価格援助を受け、1 口あたりの価格 5,000 ユーロのところ 2,500 ユ

    ーロ(≒30 万円)に抑えることができた。株は、主に「理想家」のサッ

    カーファンが賛同し、購入してくれた。現在は「再生可能エネルギー法」

    による売電価格の保証により、購入者への配当は当初よりも高くなって

    おり、株主には年間 5%の配当金が支払われている。

    ④市民参加方式のひろがり

    市内では、他に市民参加方式の太陽光発電システムが 8ヶ所(学校を含

    む)存在している。最近登場した風力発電所のケースでは、総経費 1,300

    万ユーロのうち 420 万ユーロを「市民参加方式」、残りは金融機関からの

    環境低利融資と連邦政府からの補助でまかなうという方式がとられた。こ

    のように、サッカー場の例をきっかけに、自然エネルギーに関する「市民

    参加型」の事業手法の応用範囲が広がってきている。

    160

  • (2)ホテルビクトリア

    ①施設概要

    市中心部に位置するクラシカルな四つ星ホテル。同ホテルは、環境経営

    の三つの柱として「ニューエネルギーへの対応」「有害放射物の削減」「有

    害物質の不生産」を掲げ、ドイツ最初の「ゼロエミッションホテル」とし

    ても知られる環境経営の先進事業者である。客室稼働率は 70%と市内平

    均を大きく上回っており、事業的にも成功している。

    ②新エネルギー関連施設と取り組み

    ◆屋上太陽光発電システム

    86 ㎡、出力 7.6kw、ソーラーファブリック社

    16 室分の電力(6%)をカバーし、余剰電

    ◆太陽光集熱器(温水)

    同じく屋上に太陽光集熱による温水器が設

    太陽光を利用した温水を施設に供給している

    ③バイオマスシステム(木質ペレットボイラー

    出力 300kW のもので、主に暖房温水器に利

    量は 110t/年(トラック 8台分)。

    ペレットは、現在はオーストリア製(KOB 社

    エネルギーの「地産地消」を意識し、近い将

    のものへの移行を検討している。

    【地下のバイオマス施設

    【屋上の太陽光パネル】

    製の太陽光パネルを導入。

    力は売電している。

    置されている。夏場は豊富な

    用している。消費ペレット

    )のものを使用しているが、

    来地元シュバルツバルト産

    161

  • 同システムは完全自動運転のため、管理・マンパワーに関わるコストが

    発生しないのが特徴。これらの効果を考慮した運転コストは、石油ボイラ

    ーとほぼ変わらない。特に、現在は石油の値段が上がっているので、その

    分バイオマスシステムの方が事業的に有利になっている。

    また、バイオマスシステムは「香り」もよいという特長を有する。これ

    により、レジャー・サービス施設としてのホテルの快適性をよくすること

    もできるという側面も、事業的に評価できる部分である。

    ④グリーン電力の購入

    同ホテルでは、地域電力会社より、風力・水力・ソーラー由来の電力

    を購入し、ローカルエネルギー推進の面でも地域貢献をしている。

    ⑤その他の環境・地域への配慮

    同ホテルでは、食材や建材なども「地産地消」を原則とする一貫した

    地域密着戦略を事業戦略としている。その他電気設備では、ロングライ

    フ電球や、省エネルギーテレビの導入などの工夫をしている。また対人

    センサーやスイッチシステムの工夫により、室内温度を安定化しエネル

    ギー節約を図っている。これらの取組みにより、導入前に比べて 40%の

    省エネルギーを実現している。

    新しい部屋材には、絨毯よりも寿命が長く、ゴミの量も少ない木材フ

    ローリングを採用。石鹸・タオル等のムダも意識して排除している。

    ドイツのホテル事業者のボランタリーな組織「VIA BONO」の活動通じ

    て、ホテル業界における環境対応の推進をリードしている。

    162

  • (3)エコステーション

    ①施設概要

    1986 年、州庭園祭の際につくられた環境・エネルギー教育のための学

    習施設。ドイツには多くのエコステーションが存在するが、そのさきがけ

    となった施設である。

    施設構成は、エコロジカルな建築様式を採用した「自然の家」(地域材

    利用)と、芝生ドーム、および有機庭園から成る。総建築面積 250 ㎡。

    集会所(100 ㎡)、温室テラス(40 ㎡)を備えている。

    電気や温水は建物設置のソーラー設備により賄われている。また、石

    積み壁により熱のロスを避けるなど、随所でエネルギー面の工夫がなさ

    れている。

    ②事業内

    同施

    術」「

    の情報

    特に子

    開発お

    現在

    なって

    されて

    ドイ

    る利用

    【「自然の家」中央ホール】

    設の中心事業は、「建築エコロジー技

    太陽エネルギー利用技術」「有機農園

    提供をすることである。

    どもたちに向けた様々な環境関連体

    よび提供に力を入れている。

    は職員 2名のほか、実習生・ボランテ

    いる。環境市民団体(BUND)による施

    いる。

    ツでは、教師に教育プログラム作成の

    も多く、教師用の学習コースも設け

    163

    【明るいバルコニーの学習施設】

    術」「エネルギー・水の節約技

    の運営」などについて、市民へ

    験学習プログラムのメニュー

    ィア・外部講師という体制に

    設運営の成功例としても注目

    自主権があるため、教師によ

    られている。

  • (4)ソーラーファブリックセンター

    市の西端にある太陽電池モジュールの組み立て工場。南面はガラス壁で覆

    われ、太陽電池がはめ込まれているのが見える。

    センター入口にある巨大な開放ロビーには「カフェテラス」があり、オー

    プンスペースは公共の場として開放している。

    また、南面ガラス壁の角度に設計上の工夫を施すことにより、昼間はまっ

    たく照明が不要となっている。冬場は太陽熱をふんだんに取り入れ、夏は強

    い太陽光線をさえぎるという性能を持っている。

    このほか、菜種油を燃料にしたコジェネレーションシステムを導入し、電

    力と熱を完全自給している。

    (5)ソーラーインフォセ

    ①施設概要

    2004年にオープ

    ソーラーなど新エ

    り、日本の環境関

    に配慮した独特の

    【巨大な南面のガラス壁】

    ンター

    ンした、ソーラー産業のインキュベーションセンター。

    ネルギーの研究機関やメーカー約 30 社が入居してお

    連企業も入所している。建物自体も環境・エネルギー

    建築で、注目を集めている。

    【外光を取り入れたロビー】

    164

  • ②事業概要

    効率的なエネルギー創出や新エネルギーにかかわる事業者を集め、人

    材・能力の交流による“資源の集中”を進めるためのプラットフォーム

    となることをねらっている。

    センターの独自事業としては、「ソーラーシステムを活用した建築技術

    の相談・アドバイス」「再生エネルギーに関するコンサルティング」「教

    育研修プログラム」などを行っている。

    ③事業支援の基本的考え方

    センターによる事業者への事業支援に関する基本的姿勢は、民間経済

    活動ベースの「事業性」においている。建物の施主に対し、従来型の工

    法に対するソーラー等の新しい解決策・代替案(「新しい経済のツール」

    という表現をしている)を見せていくことを重視している。大きな事業

    (資金)が動いてしまう前に、代替案の経済性をはじきだし、検討の俎

    上に乗せていくことが重要であるとしている。

    ④新エネルギー導入の前提としての省エネルギー重視

    省エネルギーはエネルギー問題に関するエコノミカルな面での基本

    であり、ただ新エネルギーを導入すればよいというわけではない。ソー

    ラーエネルギーは一つのコンポーネントであって、効率のよい導入を図

    ることによってエコノミカルな結果を出すことに成功すると、自然に他

    の事業もついてくる。

    建物の構造計算も重要である。いろいろな新エネルギーを導入して

    も、断熱や蓄熱(熱を逃さない)の対応がされていないと意味がない。

    こうした部分で新しい仕組みの提案を意識している。

    ⑤新エネルギー関連施設と取り組み

    ◆大研修室

    冬は地熱で外気を温める(足元に吸気口あり)。遠隔ビデオ会議シス

    テムでムダを省いている。

    ◆小会議室

    空調は、体によいものをつかっている(バイオメディカル)。夜の冷

    気を通気する構造や、コンクリートの基礎表面をわざと仕上げない

    工夫により、夏はクーリング作用がある(夜は 10 度くらいになる)。

    ◆実験データ収集ファサード

    特別な角度を設計し、太陽の正面になるようにしている。内部では

    太陽光のブラインドなどの実験が行われている。

    165

  • (6)リヒャルト・フェーレンバッハ実科学校

    ①事業概要

    職人養成の高等学校。近年では、大学等でアカデミック(セオレティ

    カル)な教育を受けた子どもたちがかえって失業するケースが増えてお

    り、実社会とマッチした技術を身につけられる職人学校が脚光を浴びて

    いる。カリキュラムの中に、ソーラー技術の専門家になるためのコース

    も設けている。

    ②施設概要

    学校敷地内には、校

    ルギー関連の設備や学

    民が散策しながらソー

    る。

    構内の「ソーラータ

    回転する「動く体験学

    ルギーは、隣接の体育

    (7)バデノヴァ社

    ①事業概要

    ヨーロッパのエネル

    ネルギー対策として、

    ネルギー供給企業。旧

    独自の電力料金制度を

    【街

    【校庭にあるソーラー学習施設】

    舎正面のソーラーパネルをはじめ、随所に新エネ

    習用施設、解説板等が設置されている。校庭は市

    ラー技術に触れることができるよう工夫されてい

    ワー」は特に有名で、ソーラー技術で施設自体が

    習施設」である。学校内で回収された太陽光エネ

    館へ温水として供給するなどして活用されている。

    ギー市場自由化にともなうドイツ地方自治体のエ

    フライブルグ市および近郊都市で結成した広域エ

    エネルギー公社としての営業政策は継承しつつ、

    採用している。

    166

    角のバデノヴァ社オフィス】

  • また、街角に事業普及のためのオープンでしゃれたオフィスを設置し、

    一般市民への新エネルギー導入に関する情報提供や助成制度の相談にあ

    たっている。こうした取組みは市民生活に定着しており、本調査時も実際

    に一般市民が窓口を訪れて相談する光景が見られた。

    ②電力料金制度

    バデノヴァ社では、以下の2種類の電力料金制度を採用している。

    ◆スタンダード料金システム

    通常の電力にかかわる料金制度。

    ◆レギオ料金システム

    代替エネルギー源による電力に対応する料金制度。水力、ソーラー、

    バイオマス、コージェネ電力などが対象。将来的には風力も予定。現

    在、顧客の約 10%がこの料金システムを選択しており、ドイツでも最

    先端の企業となっている。

    住民は、上記の二つの料金システムから選択することが可能である。

    「レギオ料金システム」は、スタンダード料金システムよりも多少高め

    になっており、バデノヴァ社はその差額を「レギオ電力設備」(ソーラ

    ー、バイオマス、水力発電設備等)および「ソーラー助成プログラム」

    (市内でソーラーモジュールを設置する場合の助成金)に投資している。

    167

  • <3章巻末資料>

    「フライブルクにおける環境及びソーラー産業について」

    (調査機関 BNL によるニコライ・ルツキー博士のレポートの一部翻訳)

    1.調査目的と背景

    フライブルクおよびその近郊地域(フライブルク市を中心とし、近郊の田地帯

    を含む人口規模 59 万 7 千人のエリア)において、環境及びソーラー産業は特別

    な役割を果たしており、このことは以下の事から解る。

    ①国内外の人々が持つ地域イメージとして、環境及びソーラー産業はその向

    上に大きく貢献している

    ②地域資源を効率的に活用しており、地域の自立的経済運営の為の開発で中心

    的役割を果たしている

    ③自治体が環境及びソーラー産業を成長産業として重視し、育成している

    この調査では、環境及びソーラー産業のフライブルク地域における経済的影

    響力を詳細に調べることを目的とし、フライブルク市環境保全局が調査機関で

    ある BNL に調査委託を行い実施した。また調査においてはフライブルク観光公

    社、フライブルク市経済局やバーゼル州サステイナブルエネルギー局の協力も

    得た。

    2.分析結果

    (1)ドイツにおける「ソーラー産業」の基礎技術・応用技術の中心都市

    フライブルク地域は環境産業振興に非常に積極的な地域であるが、その中

    でも特にソーラー産業に重点を置き、ドイツ国内でも当分野では最も先進的地

    域である。フラウンフォーファー研究所、ソーラーファブリック AG、欧州で

    最大規模のソーラーフェアの開催など、関係機関・企業が集積している。これ

    ら集積により経済効果はソーラー産業に止まることなく、波及効果を生んでい

    る。図表 3-3-8 からも解るように、ソーラー産業では 80 の企業に 640 人が従

    事している。フライブルクはソーラーブンデスリーガーでも 1位を獲得してお

    り、公共施設へのソーラーエネルギー施設の設置やソーラー住宅開発地域での

    取りくみなどを引き続き実施しており、ソーラー情報センターを中心として更

    なるソーラー地域としてのイメージ強化を図っている。

    168

  • (2)環境サービス産業

    フライブルク地域では 9,400 人が環境関連産業に従事しており、全就業者

    の 3%程度を占めている。環境関連産業の企業数は 1,500 社であり、GDP ベー

    スで年間 5 億ユーロ(約 680 億円)の経済的価値を創出している。フライブル

    クにおける主要産業はサービス産業と環境関連産業であり、環境サービス産

    業の従事者数は全国平均を 25%以上上回っている。

    図表 3-3-8 フライブルク地域における環境とソーラー産業

    169

  • (3)決定要因

    環境関連産業での従業者比率のばらつきの決定要因については以下の事

    が考えられる。

    ① フライブルクでは環境への取組みが積極的であるので、環境規制の必要性が弱い。この事を背景とし、環境装置といった環境関連製造業の

    従事者は比較的少ない。環境負荷の低い公共交通機関の需要は都市部

    で高く、郊外では低くなっている。また環境対応の視点を取り入れた

    農林業、飲食業、観光業は雇用を創出している。

    ② 他地域からの移入 上述した通り、フライブルクでは環境関連製造業は盛んではないため、

    必要となる環境関連機器などは、他地域から購入する事で賄っている。

    ③ 中核的要因 フライブルクでは建築業および小売業の従事者比率が平均より高い。

    これは各々の業種における環境関連事業で雇用が創出されていると考

    えられる。

    ④ 環境関連技術の中心都市 ソーラーエネルギーに関する基礎・応用技術の研究所や大学などの機

    関が集積しており、当分野の従事者比率は平均を大幅に上回っている

    (図表 3-3-9 参照)。

    図表 3-3-9 環境関連産業従事者数比率

    製造業・エネルギー/水道供給・建築

    サービス業

    (公的・民

    間)

    農林業

    170

  • 図表 3-3-10 環境産業従事者の比較(2000 年:ドイツ全土・フライブルク)

    業種 ドイツ全土 全土比率に

    よる計算値

    フライブルグ

    地域

    計算値

    との差

    農林業 55,700 423 1,202 779

    製造業 514,000 3,906 2,182 -1,724

    エネルギー/水供給業 41,900 318 150 -168

    建設業 68,000 517 885 368

    企業向け環境サービス業 168,800 1,283 970 -313

    環境関連小売り業 86,000 654 1,334 680

    環境関連飲食/観光業 5,000 38 149 111

    低環境負荷交通サービス業 75,500 574 380 -194

    環境管理サービス業 59,800 454 543 89

    環境教育/調査関連 22,500 171 710 539

    廃棄物処理業 166,300 1,264 795 -469

    NGO その他 13,000 100 100 0

    合計 1,277,000 9,705 9,400 -305

    製造業を除く合計 763,000 5,799 7,218 1,419

    171

  • 3.ソーラー産業の検証

    ソーラー産業は大きく太陽熱利用と太陽光発電に分かれる。フライブルクで

    はソーラー産業従事者は全土比率から見て、4~5 倍の水準(図表 )となっ

    ている。ソーラー首都と呼ばれるフライブルクでは、自然環境・技術開発・製造・

    需要/マーケット・政策・市民参加/意識などの多様な要素が相乗効果的に働き、

    ドイツにおいても特異な発展を遂げている。

    図表 3-3-11 ソーラー産業従事者の比較

    全土のソーラー産業従事者は 18,000 人であり、フライブルク地域の人口規

    模を乗じた数値は 136 人となる。一方現実の従事者は 637 人となっている。

    事業者数も同様に 23 社に対し 77 社となっている。

    172