関節炎の所見と鑑別診断 - 鳥取市立病院痛風 結晶誘発性関節炎 1)痛風...

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関節炎の所見と鑑別診断 鳥取市立病院 整形外科 香川 洋平 平成29年6月1日

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Page 1: 関節炎の所見と鑑別診断 - 鳥取市立病院痛風 結晶誘発性関節炎 1)痛風 ・足の母趾の付け根の関節(MTP関節) が最も多い ・尿酸結晶が関節内に遊離して炎症が生じる

関節炎の所見と鑑別診断

鳥取市立病院 整形外科

香川 洋平

平成29年6月1日

Page 2: 関節炎の所見と鑑別診断 - 鳥取市立病院痛風 結晶誘発性関節炎 1)痛風 ・足の母趾の付け根の関節(MTP関節) が最も多い ・尿酸結晶が関節内に遊離して炎症が生じる

関節炎=関節の炎症• 炎症の原因・・・

外因性:細菌、ウィルス、異物→ 化膿性関節炎

内因性:軟骨基質、尿酸結晶、CPPD→ 変形性関節症、痛風、偽痛風

生体反応の異常:自己免疫疾患→ 関節リウマチ

関節炎の局所所見発赤 腫脹 熱感 圧痛 可動域制限

みて、さわって

◆関節炎と診断するには?

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関節の構造

関節液

関節軟骨

関節

滑膜

繊維膜

鳥取市立病院:作

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関節炎と関節周囲炎

関節炎 関節周囲炎

腫脹 つよい よわい

熱感 つよい よわい

痛みの局在 ない(全体が痛い) ある

自分で動かすと いたい いたい

他人が動かすと いたい いたくない(事が多い)

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関節炎のタイプ:

いつからどのように痛いか?

痛い関節は何個?

・2-3日前から突然痛くなった

・1-2か月前からいつの間にか痛い

急性

慢性

・1つの関節が痛い

・いろんな関節が痛い

単関節

多関節

1.急性多関節炎 2.急性単関節炎3.慢性多関節炎 4.慢性単関節炎

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関節炎のタイプ

1.急性多関節炎細菌性関節炎,ウイルス性関節炎,慢性多関節炎の初期

2.急性単関節炎細菌性関節炎,結晶誘発性関節炎(痛風,偽痛風)

3.慢性多関節炎膠原病(関節リウマチなど)

4.慢性単関節炎変形性関節症,骨壊死

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淋菌性関節炎

細菌性関節炎

淋菌性関節炎

・ 若年者

・ 男:女=1:3

・発熱,悪寒移動性多発関節炎皮膚病変(皮疹,膿疹)腱滑膜炎

・ 治療抗菌薬開始後速やかに軽快

・ 婦人科・泌尿器科的症状

淋菌感染症→多関節炎

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ウイルス性関節炎

ウイルス性関節炎

Parvovirus B19,HBV,HCV,風疹,HIV感染症,HTLV-1

・ 原因ウイルス

・ ウイルス感染症に伴って、発現する多関節炎

・ 一般的に関節炎は一過性で、かつ可逆的に経過

・ 後遺症を残すことはまれで、3週程度で治癒

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・関節の表面の軟骨,さらに骨まで破壊

細菌性関節炎

細菌性関節炎

・ 関節内に細菌が入り,関節内が化膿してしまう病気

治療が遅れると関節障害が残り,生命予後にも影響する緊急を要する病気

放置されると…

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危険因子・糖尿病,血液透析,肝硬変ステロイドや免疫抑制剤などの服用人工物が挿入された関節

細菌性関節炎

細菌性関節炎

関節内に侵入する経路

原因となる菌・黄色ブドウ球菌,連鎖球菌,肺炎球菌,MRSAなど

・他の感染巣(肺炎,尿路感染など)からの波及・関節の近くから(蜂窩織炎,皮膚炎)の波及・けが,注射,手術などで直接細菌が関節内に入る

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・血液検査炎症反応(WBC,CRP)上昇

細菌性関節炎

細菌性関節炎 症状

検査

・局所所見:関節の痛み,腫脹,熱感,発赤

・全身所見:発熱,食欲不振,全身倦怠感,ショック

・関節穿刺→膿の確認,培養提出

細菌性関節炎

治療

診断がつき次第、早急にデブリ・洗浄・抗菌薬投与

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痛風

結晶誘発性関節炎1)痛風

・足の母趾の付け根の関節(MTP関節)が最も多い

・尿酸結晶が関節内に遊離して炎症が生じる

・90%以上は男性で,40歳前後に多い

・1-2日でピークに達し,1-2週で軽快

症状

どんな病気か?

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検査

・血液検査:炎症反応上昇(WBC,CRP)尿酸値の上昇(尿酸値は正常であることもある)

・関節穿刺:尿酸結晶の確認

・発作期 : 局所の安静,NSAID服用,ステロイド関節注射

・非発作時: 生活習慣の改善,尿酸値のコントロール

治療

結晶誘発性関節炎1)痛風

痛風

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偽痛風

・腫脹,圧痛,発赤,熱感

・ピロリン酸Ca結晶が関節内に遊離して炎症が生じる

・高齢者に多く,男女差はなし

症状

どんな病気か?

・膝関節,足関節,肘関節など大きい関節に多い

結晶誘発性関節炎2)偽痛風

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偽痛風

検査

・XP:Ca結晶の沈着

・血液検査炎症反応上昇(WBC,CRP)

・関節穿刺:黄色混濁の排液(膿様ではない)

結晶誘発性関節炎2)偽痛風

・安静,冷却,鎮痛剤

・関節穿刺,ステロイド注射

治療

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関節リウマチ

関節リウマチ

・原因不明の自己免疫性疾患

・30~50代の女性に好発

どんな病気か?

・関節のこわばり(特に朝のこわばり)左右対称性,全身の関節

症状

・関節炎→関節破壊・変形

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関節リウマチ

関節リウマチ

・抗炎症薬(NSAID,ステロイド剤)

・抗リウマチ薬(メトトレキサートなど)

治療

検査

・血液検査:炎症反応上昇(WBC,CRP)リウマトイド因子陽性抗CCP抗体陽性

・生物学的製剤

・保存療法で効果のない関節症状→手術加療(人工関節等)

・XP:関節変形

・関節症状→理学療法(装具療法,温熱療法)

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関節リウマチ

関節リウマチの治療の進歩

2003年:レミケード®

2004年:エンブレル®

2007年:ヒュミラ®

2007年:アクテムラ®

2009年:レミケード®の増・投与期間短縮が容認2010年:オレンシア®

2011年:シンポニー®

2012年:シムジア®

2013年:ゼルヤンツ®(PMS)

2011年:リウマトレックス®の成人用量が拡大(上限が8mg→16mg)

生物学的製剤の導入

疾患活動性を大幅に抑制することが可能となった

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関節リウマチ

関節リウマチの治療戦略

・関節炎が持続→関節破壊・身体機能障害・関節破壊は早期から生じ,治療が遅れると骨破壊が進行・初期に治療を開始することで,構造的破壊を抑制

早期治療、診断が必要(2010年 関節リウマチの新分類基準 ACR/EULAR)

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=

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20年以上前に発表された米国リウマチ学会の分類基準(1987年):早期診断には感受性が低い

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関節病変

中・大関節に1つ以下の腫脹または疼痛関節あり 0点

中・大関節に2~10個の腫脹または疼痛関節あり 1点

小関節に1~3個の腫脹または疼痛関節あり 2点

小関節に4~10個の腫脹または疼痛関節あり 3点

少なくとも1つ以上の小関節領域に10個を越える腫脹または疼痛関節あり 5点

血清学的因子

RF, ACPA(:抗CCP抗体)ともに陰性 0点

RF, ACPAの少なくとも1つが陽性で低力価 2点

RF, ACPAの少なくとも1つが陽性で高力価 3点

滑膜炎持続時間

<6週 0点

≧6週 1点

炎症マーカー

CRP、ESRとも正常 0点

CRP、ESRのいずれかが異常 1点

2010ACR/EULAR関節リウマチ分類基準:現在はこれを使用

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関節リウマチ

関節リウマチの治療の変遷

care

短期QOLの改善が目的

疼痛の軽減・ステロイドの使用・NSAIDsの使用

cure

長期QOLの改善が目的

骨関節破壊の防止・非生物学的製剤・生物学的製剤

関節変形を妥協 関節破壊を防止・抑制

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変形性関節症

変形性関節症

・対症療法(NSAID服用,外用剤,関節内注射) 治療

検査

・血液検査:炎症反応正常(WBC,CRP)・XP:関節症変化

・保存加療で効果のないもの→手術加療(人工関節など)

症状

・疼痛(特に初期は運動時痛),腫脹,熱感,可動域制限

・理学療法(装具療法,筋力訓練,温熱療法)

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骨壊死

骨壊死

治療

検査 ・血液検査:炎症反応正常(WBC,CRP)・XP:骨壊死による骨の圧潰・MRI:骨壊死

症状 ・疼痛(変形性関節症より強いことが多い)腫脹,熱感,可動域制限

・対症療法(NSAID服用,外用剤,関節内注射)

・関節変形が生じ保存加療で効果のないもの→手術加療(人工関節など)

・理学療法(装具療法,温熱療法)

何等かの要因(外傷,ステロイド,アルコールなど)で骨の壊死が生じたもの

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まとめ

• 関節炎とは

何らかの原因による生体の反応

• 関節炎の所見:

発赤 腫脹 熱感 圧痛 可動域制限

→みてさわって

• 関節炎の鑑別はパターンで

発症時期(急性・慢性)

分布 (単関節・多関節)

ご清聴ありがとうございました