第6章 トランスログモデルによるわが 国の1次エネ …第6章...

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232 第6章 トランスログモデルによるわが 国の1次エネルギー消費分析 1. 序 1.1 わが国の化石燃料消費の概要 現代社会においてエネルギーが大きな役割を果たし,われわれの社会が大 量のエネルギーを消費することによって成り立っていることは言うまでもな い。産業活動や国民生活の中では,石油,石炭,天然ガス,あるいは原子力, 水力といった1次エネルギーが直接に,あるいは電力,都市ガス等の2次エネ ルギー製造のために間接にと多様に消費されている。これらの1次エネル ギーは,利用形態をみても動力源,熱源として,あるいはまた原料として各 種産業部門,輸送部門,業務部門,家庭部門等の各部門で利用されている。 石油,石炭,天然ガスなどの1次エネルギーとしての資源の重要性が高ま るにつれて,これらの資源の世界的な賦存状況が問題となっている。特に石 油資源の可採埋蔵量の大部分が中東地域をはじめとする多くの発展途上国に 偏在していることによってもたらされる,資源輸出国と資源輸入国の間のあ つれきは国際関係あるいは各国の経済にも重大な影響を及ぼすに至っている。 特に原油を中心とする1次エネルギー価格がわが国ばかりではなく世界のエ ネルギー需給に及ぼす影響は大きく,1973年秋から1974年にかけてのOPEC諸 国による原油禁輸を中心とする第1次石油危機,あるいは1978年末から1979 年にかけてのイラン革命,イラン・イラク戦争をめぐる第2次石油危機を通 じて原油価格はそれ以前の10倍以上となり,それが他のエネルギー資源の需 要ひいては先進国をはじめとする各国の経済成長にも深刻な影響を及ぼして きた。 わが国の燃料用としての化石燃料消費の1970年以来の経緯は図1.1のよう に与えられる。1970年にはわが国は総計147.5×10 13 kcalの化石燃料による

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第6章 トランスログモデルによるわが

国の1次エネルギー消費分析

1. 序 論

1.1 わが国の化石燃料消費の概要

現代社会においてエネルギーが大きな役割を果たし,われわれの社会が大

量のエネルギーを消費することによって成り立っていることは言うまでもな

い。産業活動や国民生活の中では,石油,石炭,天然ガス,あるいは原子力,

水力といった1次エネルギーが直接に,あるいは電力,都市ガス等の2次エネ

ルギー製造のために間接にと多様に消費されている。これらの1次エネル

ギーは,利用形態をみても動力源,熱源として,あるいはまた原料として各

種産業部門,輸送部門,業務部門,家庭部門等の各部門で利用されている。

石油,石炭,天然ガスなどの1次エネルギーとしての資源の重要性が高ま

るにつれて,これらの資源の世界的な賦存状況が問題となっている。特に石

油資源の可採埋蔵量の大部分が中東地域をはじめとする多くの発展途上国に

偏在していることによってもたらされる,資源輸出国と資源輸入国の間のあ

つれきは国際関係あるいは各国の経済にも重大な影響を及ぼすに至っている。

特に原油を中心とする1次エネルギー価格がわが国ばかりではなく世界のエ

ネルギー需給に及ぼす影響は大きく,1973年秋から1974年にかけてのOPEC諸

国による原油禁輸を中心とする第1次石油危機,あるいは1978年末から1979

年にかけてのイラン革命,イラン・イラク戦争をめぐる第2次石油危機を通

じて原油価格はそれ以前の10倍以上となり,それが他のエネルギー資源の需

要ひいては先進国をはじめとする各国の経済成長にも深刻な影響を及ぼして

きた。

わが国の燃料用としての化石燃料消費の1970年以来の経緯は図1.1のよう

に与えられる。1970年にはわが国は総計147.5×1013kcalの化石燃料による

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

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図1.1 わが国の燃料用化石燃料消費量の推移

1次エネルギーを燃料用として消費し,その構成は石油88.8%,石炭10.4%そ

して液化天然ガス(LNG)0.8%であった。それに対して1980年には,わが国

の燃料用化石燃料の総消費量は186.2×1013kcalとなり10年間で約26%増加し

た。1980年における1次エネルギー消費の構成は石油82.2%,石炭5.8%,そし

てLNG12.0%となり,石油,石炭の割合が減少しているのに対してLNG

の割合が大きく上昇しているのがわかる。

安全かつクリーンなエネルギー源として動力,熱,照明などの多様な利用

形態を持つのは電力である。化石燃料消費の主要な担い手であってかつわが

国の主要な2次エネルギー供給者としての電気事業について,同様の燃料消

費の経緯をみよう。わが国の火力発電による発電電力量の推移は図1.2のと

おりである。1971年における電気事業の化石燃料消費量は総計525.1×

1012kcalであって,同年におけるわが国全体の消費量の35.6%である。その構

成は石油,石炭,LNGに対してそれぞれ82.9%,15.3%,1.8%である。

それに対して1980年における電気事業の総消費量は総計756.3×1012kcalで

あって,1971年の消費量と比較して44%の増加を示している。またこれは

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図1.2 わが国の火力発電による発電電力量の推移

図1.3 化石燃料の平均価格の推移

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

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1980年におけるわが国全体の消費量の40.6%を占め,1971年に35.6%であった

のと比較して5%の増加を示しており,化石燃料消費に占める電力用需要の割

合が増大しているのがわかる。1980年における電気事業の化石燃料消費の内

訳は,石油,石炭,LNGに対してそれぞれ69.8%,6.8%,23.4%であって,

わが国全体の化石燃料消費の構成の変化とほぼ同様に,石油,石炭の割合が

かなり減少しているのに対してLNGの割合が大きく増加している。

化石燃料の平均価格(円/103kcal)の推移は図1.3のように与えられる。燃

料価格の内訳をみると,1971年においては石油,石炭,LNGがそれぞれ

0.51円/103kcal,1.35円/103kcal,0.71円/103kcalであったのが,1980年には

それぞれ5.1円/103kcal,2.51円/103kcal,4.5円/103kcalとなっている。石油

については約10倍,LNGについては約7倍であるのに対して石炭について

はほぼ2倍にすぎないことがわかる。化石燃料全体の消費量が1970年から

1980年にかけてわずか26%程度しか増加しておらず,しかも個々の化石燃料

について増加の内訳をみると,石油はほぼ同量,石炭は11.5%の減少である

から,全体としての増加はほとんどLNGのみに依存しているということが

できる。そのような中で石油価格が約10倍,LNG価格が約7倍になってい

るということがエネルギー問題を難しくしているといえよう。

1.2 生産関数理論とエネルギー問題

生産プロセスにおける各種生産要素の投入量と産出量の間の定量的な関係

を数学的に表現したものが生産関数である。生産関数を中心とする理論は企

業,産業,国家等におけるさまざまな種類の経済的な問題を分析するのに用

いられている。Cobb & Douglas〔1〕が1932年に単純な形の生産関数を提起

して以来,一般化Leontief〔2〕,ACMS〔3〕等のより一般的な改良形の生産

関数が登場し,それらを用いた多くの実証分析がなされている。

1970年にChristensen,Jorgenson & Lau〔4〕はそれまでの生産関数のよ

り一般形としてのいわゆるトランスログ型生産関数( transcendental

logarithmic production function)を提起した。トランスログ型生産関数は

単に形の上で生産要素の対数形に関して2次の項までを含むという特徴を有

するばかりでなく,それまでのCobb-Douglas型あるいはCES型〔5〕の生

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産関数と比較して,生産要素間の代替弾力性,価格弾力性が前もって固定さ

れているのではなく,モデル分析の中で任意に求められるという大きな利点

を有している。このようなモデルとしての柔軟性がトランスログモデルの実

証分析における有用性を大幅に拡張したということができる。

トランスログ型生産関数は各国の製造業〔6,7〕,電気事業〔8,9〕,エネ

ルギー産業等いくつかの産業〔9,10,11,12,13,14〕における資本,労

働,エネルギー等の各種生産要素間の代替・補完関係を中心とする相互関係

を分析するのに用いられている。また米国の電気事業等を対象に,生産要素

として資本,労働,エネルギーといったものに限らず,石油,石炭,天然ガ

ス等のエネルギー資源を考慮し,それぞれの火力発電プラントにおける燃料

代替の定量的な実証分析を行なったもの〔7〕もある。

上に紹介したようなトランスログ型生産関数を中心とする理論を用いたい

ろいろな実証分析を可能にしている背景には,各種の形を有する生産関数と

コスト関数の間の“双対性”が大きな役割を果している。これらの生産関数,

コスト関数がそれぞれ他方から最大化あるいは最小化操作を経て一意的に得

られるという双対性は,トランスログ型生産関数理論を大いに有用なものと

したといえる。多くの実証分析では資本,労働,エネルギーあるいは原材料

といった生産要素がどのような相互関係を有するかを求め,さらにそれらの

代替・補完関係を各種生産要素間代替弾力性,価格弾力性として計測する形

をとっている。本論文ではわが国における化石燃料を中心とする1次エネル

ギー消費について石油,石炭,LNGといった1次エネルギー資源間の代

替・補完という相互関連の最近における推移を定量的に計測し,さらには1

次エネルギー消費に関連するわが国のエネルギー技術変化の分析を行なうこ

とを目的とする。

2. トランスログモデル分析

2.1 生産関数と生産要素の代替関係

生産関数は,一般的には n個の生産要素のそれぞれの投入量を

,ix ni ,,1 LL= ,それらの生産要素の投入によって生産されるひとつの生産

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

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物の産出量を yとすると,数学的に関数 f を用いて

(2.1) ),,( 1 nxxfy LL=

の形に書くことができる。一般には生産関数は与えられた技術的諸条件の下

での生産要素の投入量と生産物の産出量との間の技術的,数量的な関係を表

わす。生産物としては,たとえば鉄鋼,電力,あるいは農産物といった各種

産業における生産物などが考えられる。また生産要素としては,労働,資本,

エネルギー,中間生産物あるいは原材料などが一般的には考えられるであろ

う。(2.1)の数学的関係からも予想されるように,同一量の生産物の産出量

を得るには,一般には生産要素の異なる組み合せが数多く存在する。つまり

各種生産要素間には代替,補完関係などの相互関係が存在する。

(2,1)で与えられるような生産関数 ),,( 1 nxxf LL が生産要素投入量

nxx ,,1 LL に関して1次同次であって,任意の2つの生産要素間に限界代替率

低減則が成立するという条件の下では,生産要素 iと ,, jij ≠ の間の偏代替弾

力性(Allen〔15〕) ijσ は次のように定義される。

(2.2) DD

xxfx ij

ji

kknk

ij ⋅= Σ =1σ

jiij

ii xx

ffxff

∂∂∂

=∂∂

=2

, 

ijD はDの行列における要素 ijf の余因子を表わす。

(2.2)式からも分かるように,任意の ,,, jiji ≠ に関して jiij σσ = が成立す

る。 n種の生産要素の価格をそれぞれ niPi ,,1, LL= とする。この時,生産

物の産出量が yの場合のコスト関数 ),,,( 1 yPPC nLL は一般に次のように定

義される。

- 238 -

(2.3) ),,,( 1 yPPC nLL

n

niini

xx

xxfyxP

,,

),,(|min

1

11

L

LL== Σ =   

上の定義を用いると,一般に生産関数がCobb-Douglas型の場合にはコスト

関数もCobb-Douglas型関数として得られ,また生産関数がCES型の場合に

はコスト関数もCES型として得られる。

(2.2)で与えたAllenの偏代替弾力性 ijσ は,コスト関数 ),,,( 1 yPPC nLL を

用いると次式のように書くことができる。

(2.4) jixxPxC

ji

j

i

ij ≠∂∂

= ,σ

ここでShephardの補題によって

(2.5) nixPC

ii

,,1, LL==∂∂

が成立することを用いると,(2.4)式は次のように書くことができる。

(2.6) ji

PC

PC

PPCC

ji

jiij ≠

∂∂⋅

∂∂

∂∂∂

= ,

2

σ

(2.4)あるいは(2.6)を用いると,Cobb-Douglas型生産関数の場合には,

Allenの偏代替弾力性は,任意の生産要素 ji, の間で常に 1=ijσ となる。

またCES型生産関数が

(2.7) 0,)(1

1 >=−−

=Σ ρα PP

iini xy

によって与えられる場合には

(2.8) jiij ≠+

= ,1

σ

となることがわかる。このことからもCobb-Douglas型生産関数がCES型生

産関数における 0→ρ の時の極限であるとみなすことができる。

Cobb-Douglas型あるいはCES型の生産関数ではAllenの偏代替弾力性 ijσ

の値が生産要素の投入量に依存することなく常に一定であった。それに対し

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

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て ijσ の値が常に一定ではないような,より一般的な形にしたものがトラン

スログ型生産関数である。Christensen, et al〔4〕らによって提起されたト

ランスログ型生産関数は次の形を有する。

(2.9) log ii

n

ixy log

10 αα Σ

=

+=

))(log(log21

11jiij

n

j

n

ixxβ  ΣΣ

==

+

jijiij ≠= ,ββ

一般のトランスログ型生産関数モデルは,いくつかの生産要素の間の代

替・補完関係を定量的に分析するのに用いられる。

2.2 トランスログモデル

生産関数とコスト関数は一般にはShephardの補題にもとずく双対性によ

って対応づけられる(〔17〕,〔18〕等参照)。つまり生産関数とコスト関数に

関してはどちらか一方の関数が定義されると他の一方が唯一に得られる。

そこで生産物の産出量 yを得るのに要する総コストCを与えるコスト関数

gは,各種生産要素の価格 niPi ,,1, LL= を用いて次のように表わされる。

(2.10) ),,,( 1 yPPgC nLL=

上の関数 ),,,( 1 yPPg nLL が産出量と各生産要素の価格の対数の2次の項ま

でを用いて表わされるとすると,次のようなトランスログ型コスト関数の一

般形が得られる。

(2.11) ii

n

iPyCC loglogloglog

100 αα Σ

=

++=

))(log(log21

11jiij

n

j

n

iPPβΣΣ

==

+

20

1)(log

21))(log(log yPy ii

n

iγγ ++Σ

=

jijiij ≠= ,ββ

ここで生産構造における1次同次性を仮定すると,コスト関数は単位産出

- 240 -

量当りのコストV を表わす単位コスト関数となり,次の形が得られる。

(2.12) ))(log(log21loglog

111

10 jiij

n

j

n

ii

n

iPPPV βαα ΣΣΣ

===

++=

1, ≠= ijiij ββ

単位コスト関数と生産要素の投入量との関係を表わすShephardの補題は

次式で与えられる。

(2.13) nixPVy i

i

,,1, LL==∂∂

(2.13)を用いると,(2.12)の単位コスト関数から以下のようなコストシェ

アを表わす式が得られる。

(2.14) VP

PV

PV i

ii

⋅∂∂

=∂∂

loglog

yVxP ii=

iM=

niPjij

n

ji ,,1),(log

1LL=+= Σ

=

βα

(2.13)および(2.14)における ix は総コストを最小にするような生産要 iの

投入量であるので,その時の総コストCは

(2.15) ii

n

ixpyVC  Σ

=

==1

で与えられる。したがって(2.14)における iM は総コスト yV に占める生産要

素 iのシェアを表わすことになる。

パラメタ iji βα , は(2.12)の単位コスト関数が生産要素価格 niPi ,,1, LL=

に関して1次同次であること,あるいは(2.14)で与えられるコストシェアの式

から,

ijji PPV

PPV

logloglog

logloglog 22

∂∂∂

=∂∂

が成り立つことを合わせると,以下の条件を満たさなければならない。

(2.16) 11

=Σ=

i

n

iα 

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

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(2.17) nkkj

n

jik

n

i,,1,0

11LL=== ΣΣ

==

ββ   

(2.18) jijiij ≠= ,ββ

(2.16)~(2.18)を満たすようなパラメタ iji βα , の推定は(2.14)のコストシ

ェアの式を用いて行なわれる。このようなパラメタ間の制約条件つきの最小

2乗推定にはZellner〔16〕の同時推定法を適用することができる。

生産要素間の代替弾力性および価格弾力性の計測について述べよう。トラ

ンスログ型コスト関数に関しては,生産要素 ji, 間のAllenの代替弾力性は次

のように書くことができる。

(2.19) niM

MM

i

iiiiii ,,1,2

2

LL=−+

σ

(2.20) njijiMM

MM

ji

jiijij ,,1,,, LL=≠

+=β

σ

上の代替弾力性を用いると,生産要素 iの要素価格 jP に対する価格弾力性

ijE は次式で与えられる。

(2.21) j

iij P

xEloglog

∂∂

=

ijjM σ=

(2.19)-(2.21)からも分かるように,Allenの代替弾力性 ijσ に関して

jiij σσ = なる対称性が成立しているのに対して,価格弾力性 ijE に関しては

一般に対称性は成立しない。

トランスログ型の単位コスト関数(2.12)に対して,技術進歩を表わす項と

して時間 tを導入したものを想定する。

(2.22) ∑∑∑= ==

++=n

j

n

jjiij

n

iii PPPV

1 110 ))(log(log

21loglog βαα

∑=

+++n

ittiitt tPtt

1

2

21)(log γγα

この場合にもコスト関数の1次同次性および2階連続微分可能性からパラメ

タ iji βα , は(2.16)-(2.18)の制約式を満たすものとする。さらにパラメタ itγ

は以下の制約条件を満たす。

- 242 -

(2.23) ∑=

=n

iit

10γ

パラメタ ttitiji γγβα ,,, の推定に用いる式は以下のとおりである。

(2.24) nitPM itj

n

jijii ,,1,log

1LL=++= ∑

=

γβα

(2.25) ∑=

++=∂

∂ n

ittiitt tP

tV

1loglog γγα

なおここで(2.25)の左辺は生産要素価格が一定のもとでの単位コストの変

化率を表わす。またパラメタ itγ はHicks-中立型でない技術進歩を表わす。

3. 実証分析

3.1 モデル分析の概要

いま生産要素として資本( K ),労働( L ),そして n種類のエネルギー

nEEE ,, ,21 LL を設定すると,生産関数は一般に次式のように書くことが

できる。

(3.1) ),,,,( 1 nEELKfy LL=

そこでエネルギー生産要素 nEE ,,1 LL が集計可能であって, LK , からも

弱分離可能であることを前提とすると,生産関数(3,1)は次のように書くこ

とができる。

(3.2) )),,(,,( 1 nEELKfy LL=

なお上式の ),,( 1 nEEE LL はエネルギー生産要素 nEE ,,1 LL を集計化し

て得られる関数である。さらにここで任意のエネルギー生産要素 ji EE , の間

の限界代替率が他の生産要素 LK , の投入量には依存しないとする。つまりエ

ネルギーの各生産要素の投入量に関するコスト最小化プロセス(あるいは利

益(効用)最大化プロセス)が資本,労働の投入量には依存しないとすると,

次のような2段階最適化プロセスが得られる。まず第1に集計化されたエネル

ギー各要素間の混合に関する最適化プロセスが成立し,次に資本,労働,

(集計化された)エネルギーという生産要素の間の最適化プロセスが存在す

る。

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 243 -

エネルギー集計化関数に関しては,もちろん1次同次性その他の特性(ホ

モセティック(〔17〕,〔18〕等参照))そして要素間の弱分離可能性を前提と

するが,それらの前提によって(3.2)の生産関数に対応して次のようなコスト

関数が一般に得られる。

(3.3) )),,(,,( 1 EnEELK PPPPPgC LL=

ここで LK PP , はそれぞれ資本,労働の価格, EP は集計化されたエネルギー

の価格である。 EP はエネルギーの“単位コスト”であることから,2段階最

適化プロセスの第1プロセスによって,エネルギー要素価格 EnE PP LL,1 を用

いて一般に次のように表わすことができる。

(3.4) ),,( 1 EnEE PPhP LL=

石油,石炭,LNGといった化石燃料を中心とする1次エネルギー資源が

それぞれ相互にいかなる代替補完関係を有するかを定量的に分析するために

トランスログモデルを用いる。同時にこれらの化石燃料消費に関連した技術

変化がわが国の1次エネルギー消費にどのような影響を及ぼしたか,あるい

はわが国におけるエネルギー技術の変化がわが国の1次エネルギー消費にど

のような影響を及ぼしたか,あるいはわが国におけるエネルギー技術の変化

が化石燃料の消費に関してどのように説明できるかをトランスログモデルに

よって分析する。

トランスログモデルは2種類のレベル-電気事業と全国-を対象として設

定される。ここで電気事業とは,わが国の北海道,東北,東京,中部,関西,

北陸,中国,四国,九州の9電気事業者を対象とする。全国レベルとは,わ

が国の産業,輸送,業務,家庭の4部門のすべてにおける燃料としての1次エ

ネルギー総消費を対象とする。

技術進歩を表わす項がある場合とない場合とのトランスログ型単位コスト

関数は以下のように書くことができる。

(3.5) ))(log(log21loglog 0 jiij

NjNiii

NiPPPV βαα ΣΣΣ

∈∈∈

++=

2

21)(log tPtt ttiit

Nit γγα +++ Σ

- 244 -

(3.6) ))(log(log21loglog 0 jiij

NjNiii

NiPPPV βαα ΣΣΣ

∈∈∈

++=

ここで N は石油( P ),石炭(C ),LNG( L )の添字の集合 LCP ,, を表

わす。技術進歩を表わす項がある場合のコスト関数(3.5)のパラメタは以下

の式を用いて推定される。 (3.7) NitPM itjij

Niii ∈++= Σ

,log γβα

(3.8) tPt

Vttiit

Nit γγα ++=

∂∂ Σ

loglog

(3.8)式の左辺値は,ここでは以下のような1次近似を用いて計測される。

tP

PV

tV

tV i

iNi αα

αα log

loglogloglog

 ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛∂∂

+∂

∂= Σ

1logloglog−−≈ tt VV

tV

αα

)1(log)(loglog−−≈ tPtP

tP

iii

αα

)1()(21

loglog

−+≈∂∂ tMtM

PV

iii

ここで )(),(, tMtPV iit はそれぞれ期間 tにおける単位コスト,生産要素 iの

価格およびシェアを表わす。

モデル分析の対象とする期間に関しては,次のような3つの期間を設定す

る。

I:1970年・第1四半期~1981年・第4四半期

II:1970年・第1四半期~1973年・第3四半期(第1次石油危機以前)

III:1975年・第1四半期~1981年・第4四半期(第1次石油危機以後)

上に述べた分類からもわかるように,われわれのトランスログモデルに関

しては,それぞれのレベルに対して技術進歩項の有無,そして対象期間I,

II,IIIが考慮されるので,合計6ケースが設定される。

3.2 入力データ

1970年から1981年にかけてのわが国の電気事業および全国レベルにおける

化石燃料別の各年四半期毎の1次エネルギー消費熱量の経緯はそれぞれ表3.1,

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

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表3.1 電気事業における化石燃料消 費実績

年 四半期 石油 石炭 LNG

1970 2 82.8 21.30 1.796 3 105.2 25.44 2.846 4 106.7 26.28 2.381

1971 1 111.2 25.28 2.487 2 95.2 17.12 1.649 3 108.8 18.92 2.806 4 120.3 18.96 2.660

1972 1 11646 17.57 2.394 2 103.7 12.66 1.357 3 136.8 15.15 2.394 4 145.0 15.01 2.993

1973 1 144.4 14.20 2.248 2 136.7 10.59 3.631 3 179.6 11.59 4.429 4 170.4 11.45 4.562

1974 1 155.9 10.62 5.719 2 128.8 9.43 6.185 3 148.5 9.85 8.991 4 151.3 9.18 8.805

1975 1 145.0 9.84 8.938 2 130.5 8.10 7.648 3 166.3 9.47 11.010 4 143.8 9.98 12.650

1976 1 149.6 10.58 12.940 2 127.7 9.56 11.480 3 156.9 11.05 14.350 4 162.5 11.16 12.480

1977 1 177.3 10.45 13.830 2 144.7 9.54 14.630 3 184.8 12.65 18.570 4 173.6 11.26 17.990

1978 1 165.8 11.41 24.640 2 135.8 9.67 26.270 3 181.2 11.46 33.010 4 165.7 10.96 26.850

1979 1 161.0 10.72 28.280 2 151.1 9.46 34.190 3 164.3 12.47 41.440 4 148.2 12.00 37.400

1980 1 146.0 12.45 42.680 2 119.7 10.38 41.550 3 124.7 13.74 48.580 4 137.7 15.14 43.720

1981 1 137.7 16.08 38.860 2 99.7 14.54 40.510

(熱量単位:1012kcal)

表3.2 全国レベルにおける化石燃料 消費実績

年 四半期 石油 石炭 LNG 1970 1 349.9 44.46 1.729

2 287.3 35.48 3.032 3 297.3 36.04 3.471 4 375.1 38.46 3.072

1971 1 399.6 36.06 3.445 2 320.1 29.66 2.660 3 314.4 29.35 3.365 4 386.8 26.79 3.604

1972 1 397.3 22.47 3.272 2 323.7 18.30 1.822 3 328.7 20.44 3.392 4 413.9 20.28 4.190

1973 1 444.2 18.71 4.815 2 390.1 15.77 5.998 3 376.0 16.88 6.850 4 458.5 17.14 8.219

1974 1 457.5 16.86 10.370 2 366.5 14.75 9.589 3 363.6 17.41 12.100 4 418.3 17.77 13.090

1975 1 416.6 16.43 15.080 2 328.8 14.82 12.250 3 338.5 14.69 15.550 4 403.8 16.62 17.800

1976 1 437.7 15.94 21.000 2 350.1 14.81 16.630 3 354.6 16.84 18.850 4 434.2 17.98 20.560

1977 1 473.3 17.53 22.490 2 358.4 16.36 19.950 3 365.5 18.06 25.940 4 428.0 19.26 28.180

1978 1 470.6 16.42 35.620 2 367.0 15.57 36.040 3 365.9 16.71 39.430 4 449.8 17.14 37.510

1979 1 480.1 15.65 42.430 2 381.1 14.56 42.760 3 372.9 19.17 49.410 4 440.9 20.32 49.020

1980 1 464.4 19.88 56.430 2 353.5 22.09 55.120 3 322.2 30.33 57.930 4 394.3 35.43 54.520

1981 1 428.9 37.09 58.080 2 300.6 39.46 51.900

(熱量単位:1012kcal)

- 246 -

表3.3 電気事業における化石燃両

価格実績

年 四半期 石油 石炭 LN

G1970 2 0.419 1.360 0.738

3 0.416 1.476 0.737 4 0.426 1.487 0.739

1971 1 0.453 1.523 0.739 2 0.516 1.466 0.739 3 0.522 1.456 0.729 4 0.495 1.259 0.676

1972 1 0.488 1.285 0.632 2 0.503 1.272 0.660 3 0.513 1.273 0.693 4 0.518 1.233 0.684

1973 1 0.510 1.207 0.616 2 0.523 1.150 0.555 3 0.569 1.198 0.550 4 0.763 1.305 0.646

1974 1 1.699 1.663 1.128 2 2.090 1.938 1.429 3 2.262 2.800 1.631 4 2.319 3.339 1.848

1975 1 2.311 3.260 1.822 2 2.285 2.886 1.885 3 2.322 3.088 1.969 4 2.436 3.352 2.049

1976 1 2.534 3.272 2.048 2 2.510 3.281 2.161 3 2.455 3.163 2.126 4 2.447 3.148 2.163

1977 1 2.495 3.070 2.169 2 2.489 2.873 2.144 3 2.461 2.837 2.113 4 2.313 2.808 2.120

1978 1 2.204 2.578 2.153 2 2.048 2.314 2.041 3 1.803 2.132 1.823 4 1.732 2.014 1.797

1979 1 1.888 2.191 1.906 2 2.380 2.358 2.224 3 2.983 2.376 2.542 4 3.807 2.644 2.887

1980 1 4.909 2.682 3.957 2 5.136 2.738 4.778 3 5.009 2.648 4.752 4 4.839 2.518 4.653

1981 1 5.028 2.365 4.665 2 5.522 2.534 4.877

(円/103kcal)

表3.4 全国レベルにおける化石燃料 価格実績

年 四半期 石油 石炭 LN

G1970 1 0.450 1.132 0.740

2 0.446 1.292 0.738 3 0.437 1.355 0.737 4 0.451 1.392 0.739

1971 1 0.478 1.434 0.739 2 0.537 1.365 0.739 3 0.537 1.364 0.729 4 0.516 1.190 0.676

1972 1 0.510 1.200 0.632 2 0.523 1.248 0.659 3 0.531 1.210 0.693 4 0.540 1.187 0.681

1973 1 0.529 1.135 0.614 2 0.534 1.097 0.556 3 0.579 1.140 0.549 4 0.776 1.248 0.655

1974 1 1.726 1.543 1.122 2 2.090 1.788 1.414 3 2.275 2.630 1.630 4 2.368 3.020 1.849

1975 1 2.395 3.002 1.824 2 2.340 2.693 1.885 3 2.363 2.911 1.967 4 2.514 3.127 2.049

1976 1 2.613 3.111 2.045 2 2.562 3.120 2.162 3 2.485 3.030 2.125 4 2.509 3.039 2.162

1977 1 2.554 2.950 2.165 2 2.526 2.761 2.145 3 2.445 2.730 2.116 4 2.345 2.611 2.118

1978 1 2.261 2.482 2.153 2 2.092 2.261 2.043 3 1.826 2.068 1.819 4 1.781 1.964 1.804

1979 1 1.941 2.115 1.904 2 2.383 2.297 2.224 3 3.013 2.320 2.540 4 3.923 2.492 2.878

1980 1 5.059 2.612 3.945 2 5.295 2.637 4.782 3 5.119 2.513 4.749 4 4.985 2.386 4.653

1981 1 5.166 2.308 4.666 2 5.617 2.478 4.880

(円/103kcal)

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 247 -

図3.1 電気事業における化石燃料別消費熱量シェアの推移

図3.2 全国レベルにおける化石燃料別消費熱量シェアの推移

図3.3 電気事業における化石燃料別コストシェアの推移

- 248 -

表3.5 電気事業モデルのパラメタ推定結果

技術変化項あり 技術変化項なし

I II III I II III 0.7323 0.5005 0.9166 0.7095 0.6292 0.9025

Pα (27.38) (38.18) (83.42) (30.31) (28.45) (100.9) 0.2815 0.4769 0.0791 0.2352 0.3526 0.0915

Cα (13.38) (38.84) (24.12) (9.257) (16.52) (25.71) -0.0138 0.0226 0.0043 0.0553 0.01816 0.0061

Lα (-1.638) (10.67) (0.4163) (7.535) (10.95) (0.5854) -0.0117 -0.0130 0.0005

tα (-4.265) (-1.906) (0.5351)

0.1592 -0.0498 0.0456 0.1042 0.2979 0.2029 PPβ

(3.002) (-1.869) (0.9606) (4.501) (6.705) (4.966) -0.1277 0.0354 -0.0022 -0.0521 -0.3043 0.0999

PCβ (-3.041) (1.417) (-0.1692) (-2.200) (-7.097) (11.33) -0.0315 0.0144 -0.0434 -0.0521 0.0064 -0.3028

PLβ (-1.958) (1.671) (-0.8988) (-4.246) (1.835) (-7.643) -0.1277 0.0354 -0.0022 -0.0521 -0.3043 0.0999

CPβ (-3.041) (1.417) (-0.1692) (-2.200) (-7.097) (11.33)

0.1540 -0.0231 0.0256 0.2394 0.3004 0.0230 CCβ

(4.349) (-0.9609) (3.291) (9.109) (7.186) (4.632) -0.0263 -0.0123 -0.0234 -0.1873 0.0040 -0.1228

CLβ (-1.891) (-1.474) (-1.448) (-23.34) (0.4997) (-11.65) -0.0315 0.0144 -0.0434 -0.0521 0.0064 -0.3028

LPβ (-1.958) (1.671) (-0.8988) (-4.246) (1.835) (-7.643) -0.0263 -0.0123 -0.0234 -0.1873 0.0040 -0.1228

LCβ (-1.891) (-1.474) (-1.448) (-23.34) (0.4997) (-11.65)

0.0577 -0.0021 0.0668 0.2393 -0.0104 0.4256 LLβ

(4.373) (-0.1476) (1.235) (14.44) (-1.046) (10.33) -0.0033 0.0302 -0.0066

Ptγ (-1.652) (13.46) (-7.866) -0.0015 -0.0293 -0.0005

Ctγ (-0.9218) (-13.94) (-1.216)

0.0048 -0.0008 0.0071 Ltγ

(8.128) (-1.678) (7.141) 0.0003 -0.0012 -0.0003

ttγ (2.902) (-1.532) (-4.317)

RSQ(P) 0.241 0.976 0.856 0.326 0.935 0.880 RSQ(C) 0.644 0.977 0.853 0.393 0.936 0.471 RSQ(t) 0.133 -0.003 0.357 DW(P) 0.0932 1.542 0.989 0.080 0.317 1.268 DW(C) 0.0807 1.519 0.929 0.066 0.322 0.594 DW(t) 1.577 2.251 1.866

(各パラメタ推定値の下段の括孤内の数値は −t 値である。 RSQは( )で与えられる推定式の適合度,DWはダービン・ワトソン統計量を表わす。)

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 249 -

表3.6 全国モデルのパラメタ推定結果

技術変化項あり 技術変化項なし

I II III I II III 0.8557 0.7109 0.9450 0.8413 0.8212 0.9291

Pα (56.71) (56.53) (155.7) (75.03) (70.70) (207.5) 0.1527 0.2780 0.0488 0.1152 0.1736 0.0555

Cα (12.12) (24.53) (15.11) (9.151) (15.61) (26.36) -0.0084 0.0111 0.0062 0.0435 0.0052 0.0154

Lα (-1.932) (7.034) (1.313) (9.597) (3.949) (3.541) -0.0051 -0.0053 0.0013

tα (-2.242) (-1.051) (0.7211)

0.0917 -0.0291 0.0548 0.0576 0.2041 0.0678 PPβ

(2.950) (-1.262) (2.690) (4.387) (5.360) (2.916) -0.0670 0.0239 0.0041 -0.0282 -0.2127 0.0557

PCβ (-2.570) (1.158) (0.4538) (-2.058) (-5.851) (9.441) -0.0248 0.0052 -0.0589 -0.0294 0.0086 -0.1235

PLβ (-3.110) (1.093) (-2.764) (-3.649) (3.317) (-5.808) -0.0670 0.0239 0.0041 -0.0282 -0.2127 0.0557

CPβ (-2.570) (1.158) (0.4538) (-2.058) (-5.851) (9.441) -0.0685 -0.0207 0.0085 0.1276 0.1901 0.0107

CCβ (-3.012) (-1.112) (1.297) (8.006) (5.428) (2.554) -0.0015 -0.0032 -0.0126 -0.0994 0.0226 -0.0664

CLβ (-0.2145) (-0.7594) (-1.252) (-17.79) (4.172) (-13.64) -0.0248 0.0052 -0.0589 -0.0294 0.0086 -0.1235

LPβ (-3.110) (1.093) (-2.764) (-3.649) (3.317) (-5.808) -0.0015 -0.0032 -0.0126 -0.0994 0.0226 -0.0664

LCβ (-0.2145) (-0.7594) (-1.252) (-17.79) (4.172) (-13.64)

0.0263 -0.0020 0.0715 0.1287 -0.0313 0.1900 LLβ

(3.837) (-0.2830) (2.684) (11.77) (-5.313) (9.286) -0.0016 0.0164 -0.0029

Ptγ (-1.357) (9.650) (-5.537) -0.0013 -0.0163 -0.0003

Ctγ (-1.291) (-10.72) (-0.8346)

0.0029 -0.0001 0.0032 Ltγ

(10.15) (-0.1354) (5.597) 0.0001 -0.0004 -0.0003

ttγ (1.093) (-0.7560) (-2.407)

RSQ(P) 0.245 0.939 0.811 0.307 0.627 0.840 RSQ(C) 0.612 0.951 0.375 0.323 0.662 0.018 RSQ(t) -0.013 -0.007 0.123 DW(P) 0.141 1.187 1.541 0.138 0.436 1.818 DW(C) 0.100 1.219 0.969 0.073 0.418 0.852 DW(t) 1.531 1.843 1.662

(各パラメタ推定値の下段の括孤内の数値は −t 値である。 RSQは( )で与えられる推定式の適合度,DWはダービン・ワトソン統計量を表わす。)

- 250 -

表3.2のように与えられる。同期間における電気事業および全国の両レベル

に対する燃料種別の価格推移を表わしたものが表3.3,表3.4である。

電気事業および全国レベルの1次エネルギー消費に関して,石油,石炭,

LNGの燃料別の消費熱量のシェアの推移を示すと図3.1,図3.2のようにな

る。また同様に燃料別のコストシェアの推移は図3.3,図3.4のようになる。

3.3 推定結果

電気事業および全国レベルというそれぞれのレベルに対して,技術進歩を

表わす項の有無および対象期間をI,II,IIIのいずれかに設定した上でトラ

ンスログ型単位コスト関数を用いてパラメタの推定を行なう。それらの各

ケースに対する推定結果は表3.5,表3.6に示されている。ここで表中の

RSQはモデルの適合度を表わす。 )(PRSQ , )(CRSQ , )(LRSQ , )(tRSQ

はそれぞれ(2.14)あるいは(3.7)で表わさせる石油( P ),石炭(C ),LNG

( L )に関するコストシェアの推定式,そして(3.8)で表わされる単位コスト

の変化率の推定式に関して以下のように定義される。

(3.9) 2

2

)(1

yyRSQ

ii

ii

−−=ΣΣ ε

ここで yy ii ,,ε はそれぞれ i番目の観測値,推定誤差,そして観測値 iy の

平均値を表わす。

表3.5,表3.6の結果から,一般に技術進歩項が入ったモデルはそうでない

場合よりも適合度が高いことがわかる。モデルの対象期間別にみると,第1

次石油危機以後を対象期間(III)とするモデルは他のI,IIの場合よりも高い

適合度を有している。したがってモデルの適合度という観点からみると,電

気事業レベルに対して対象期間を第一次石油ショック以降(III)とするモデ

ルの適合度が最も高いのが確かめられる。

パラメタ推定方法としてここで用いたZellnerの方法では,すべての推定パ

ラメタを含む複数個の推定式に対して同時推定を行なう。その場合の制約条

件付きパラメタ推定問題は推定による残差ベクトルの分散共分散行列の逆行

列に関する2次形式を最小にすることを目的としている。したがって表3.5,

表3.6における技術変化項なしの場合の推定式の適合度に見られるように,

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 251 -

石油(P ),石炭(C ),LNG( L )の3種類の推定式のうちのいずれかの RSQ

が特に高くなったりあるいは低くなることが生ずる。電気事業および全国の

いずれのレベルのモデルにおいても,1970年から81年までの全期間を対象と

する場合にはLNGのシェアの変動が1~2%程度から25%程度あるいは1%から

12%というように大きい。したがってこのような場合にはZellnerのパラメタ

推定方法ではLNGのシェア推定式の適合度を下げる方向に作用しているの

がわかる。第1次石油危機以降を表わす対象期間IIIのモデルでは,石炭のシ

ェアが電気事業,全国レベルのいずれにおいても3%程度と小さいために石炭

の式の適合度が低くなっている。

異なる生産要素間の代替弾力性および各生産要素の価格弾力性の計測結果

について述べよう。これらは(2.20),(2.21)からもわかるように時系列デー

タの各類シェアデータに対して得られる。ここでは第1次石油危機以前の

1972年,その直後の1975年,そして第2次石油危機直前の1978年,その直後

の1980年を代表年として,それぞれの年の四半期データから得られる4個の

計測値の平均をとり,その年の計測結果とした。

異なる生産要素間の代替弾力性の計測結果は,電気事業および全国の両レ

ベルに対してそれぞれ表3.7,表3.8のように与えられる。

これらの表における結果からもわかるように,対象期間の異なるモデル間

での計測結果の差異,あるいは技術進歩項の有無による結果の差異などはそ

れほど大きくはない。なお表3.7,表3.8において CLLL σσ , などの値が異常に

大きく得られるのは,第1次石油危機以前ではLNGのコストシェアが電気

事業で2%程度,全国レベルで1%程度と低く,また第2次石油危機以降では石

炭のコストシェアが電気事業で3%程度,全国レベルで2%程度と低いためにト

ランスログモデルの前提となる双対性の条件が満たされず,モデルの信頼性

が低下することによるものと思われる。

第1次石油危機以降の傾向として,モデルII,IIIの結果から, CLPC σσ , に

関しては電気事業よりも全国レベルにおける代替弾力性の方が絶対値が大き

いのに対して, PLσ に関しては全国レベルよりも電気事業における代替弾力

性の方が大であることがわかる。石炭と石油,あるいは石炭とLNGという

- 252 -

表3.7 電気事業における燃料間代替弾力性

技術変化項あり 技術変化項なし 代 替 弾力性 1972 7975 1978 1980 1972 1975 1978 1980

-0.0235 0.0623 -0.0060 -0.0705 -0.1147 -0.0102 -0.0931 -0.1737 PPσ

-0.3699 0.0873 -0.1857 -0.2853 0.2066 0.1198 0.0632 0.0116 0.1973 -0.9860 -1.615 -3.456 0.6725 0.1905 -0.0667 -0.8179

PCσ 1.222 0.9655 0.9546 0.9227 -0.9128 2.553 3.045 4.485 1.489 0.3171 0.7238 0.8111 -3.117 -0.1299 0.5430 0.6874

PLσ 2.139 0.0581 0.6190 0.7394 1.509 -5.573 -1.368 -0.8184

-0.1808 15.9827 25.54 76.37 1.876 31.81 48.16 132.3 CCσ

-4.447 -8.078 -8.4963 -7.726 3.346 -8.315 -9.360 -9.447 -6.817 -5.838 -1.987 -1.937 -54.71 -47.73 -20.28 -19.93

CLσ -2.646 -5.079 -1.655 -1.611 2.178 -30.96 -12.96 -12.73

164.6 3.318 -3.162 -2.271 872.0 70.25 5.706 1.274 LLσ

-68.68 6.640 -2.697 -2.095 -100.8 138.9 14.80 4.916

(各欄の上,下段の数値はそれぞれ対象期間I,IIおよびIIIのモデルで得られたものである。)

表3.8 全国レベルにおける燃料間代替弾力性

技術変化項あり 技術変化項なし 代 替 弾力性 1972 7975 1978 1980 1972 1975 1978 1980

-0.0329 0.0235 -0.0163 -0.0431 -0.0654 -0.0167 -0.0603 -0.0898 PPσ

-0.1781 -0.0208 -0.0665 -0.1032 0.1251 -0.0055 -0.0496 -0.0851 0.3210 -0.5305 -0.9556 -1.752 0.7138 0.3550 0.1757 -0.1600

PCσ 1.242 1.097 1.122 1.145 -1.156 2.322 2.673 2.990

-2.152 0.1014 0.6394 0.7376 -22.58 -5.721 -1.697 -0.9623 PLσ

1.659 -0.9751 0.1807 0.4077 2.101 -3.146 -0.7196 -0.2431 -2.422 10.35 21.13 58.09 2.308 36.62 60.77 138.0

CCσ -9.555 -16.77 -19.39 -21.32 7.303 -13.98 -17.85 -19.29 -0.4832 -0.0661 0.4939 0.4921 -96.77 -69.27 -32.36 -32.48

CLσ -2.137 -7.478 -3.105 -2.262 23.27 -43.75 -20.67 -16.22

240.7 -2.554 -7.438 -5.859 1611.2 114.2 9.820 2.941 LLσ

-137.2 39.04 -0.4597 -2.277 -529.0 128.4 17.43 6.455

(各欄の上,下段の数値はそれぞれ対象期間I,IIおよびIIIのモデルで得られたものである。)

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 253 -

うに石炭を含む生産要素間の代替弾力性に関しては電気事業以外の産業部門

における代替,補完関係が大きいために全国レベルにおける数値の方が大と

なり,また石油とLNGに関しては,燃料転換の容易さから電気事業におい

てより大きな代替が行なわれるために全国レベルとくらべて電気事業におけ

る代替弾力性が大となることが理解される。

1980年における代替弾力性の計測結果をみると,石油と石炭に関しては電

気事業で ,923.0=PCσ 全国レベルでは 15.1=PCσ ,また石油,LNGに関し

ては電気事業で ,739.0=PLσ 全国レベルでは 41.0=PLσ である。また石炭,

LNGに関しては,電気事業で 61.1−=CLσ ,全国レベルでは 26.2−=CLσ

となる。このように石炭,LNGに関しては電気事業,全国レベルのいずれ

においても 0<CLσ となり,これらの燃料が補完関係にあることを示唆して

いる。

Atkinson & Halvorsen〔8〕が1976年に米国の火力発電プラントにおける

石油,石炭,天然ガスの燃料間代替関係をトランスログモデルを用いて計測

した。彼らの計測結果によるとこれら3種の燃料間の相互関係はすべて代替

関係として把えられ,代替弾力性は石油( P ),石炭(C ),天然ガス(G )に

関してそれぞれ 50.1,36.3,06.4 === CGPGPC σσσ と得られ,上に述べたわ

れわれの計測結果よりは大きな値となっている。このことは彼らのモデルが

技術変化の項を導入していないこと,あるいは彼らの対象が個々の火力発電

プラントというよりミクロな組織体としていることからも十分に予想される

現象である注1)。

各種生産要素の価格弾力性の計測結果は,電気事業および全国レベルに対

してそれぞれ表3.9,表3.10のように与えられる。

代替弾力性の計測結果の場合とほぼ同様に,価格弾力性に関してもモデル

としての対象期間の相異あるいは技術進歩項の有無などは計測結果に対して

注1) Atkinson & Halvorsenで得られている偏代替弾力性は,厳密にはAllenの偏代替弾力性と同一ではない。つまり彼らの定式化の前提となっているの

は生産要素価格が一定という条件ではなく,いくつかの生産要素投入量が

一定であるという条件であること,および産出量一定という条件ではなく

て総価格一定であるという条件であることがその主要な相異点である。

- 254 -

表3.9 電気事業における燃料間価格弾力性

技 術 変 化 項 あ り 技 術 変 化 項 な し 弾力性

1972 1975 1978 1980 1972 1975 1978 1980

-0.1798 0.0544 -0.0047 -0.0511 -0.0888 -0.0087 -0.0739 -0.1264 PPE

-0.2870 -0.0759 -0.1476 -0.2056 0.1606 0.1046 0.0503 0.0088

0.0416 -0.0723 -0.0993 -0.1352 0.1389 0.0144 -0.0041 -0.318 PCE

0.2515 0.0716 0.0587 0.0365 0.1858 0.1888 0.1871 0.1763

-0.0236 0.0179 0.1039 0.1863 -0.0501 -0.0063 0.0780 0.1582 PLE

0.0354 0.0042 0.0889 0.1700 0.0252 -0.2933 -0.2374 -0.1851

0.1525 -0.8614 -1.284 -2.523 0.5223 0.1647 -0.0530 -0.5965 CPE

0.9500 0.8417 0.7590 0.6745 -0.7114 2.227 2.421 3.276

-0.0409 1.164 1.568 2.963 0.3767 2.323 2.957 5.138 CCE

-0.9070 -0.5786 -0.5222 -0.3087 0.6751 -0.6143 -0.5650 -0.3757

-0.1116 -0.3026 -0.2842 -0.4401 -0.8989 -2.487 -2.904 -4.542 CLE

-0.0430 -0.2630 -0.2368 -0.3658 0.0363 -1.613 -1.856 -2.900

-1.152 0.2751 0.5754 0.5926 -2.415 -0.1153 0.4316 0.5021 LPE

1.6602 0.0488 0.4921 0.5402 1.172 -4.871 -1.319 -0.6008

-1.406 -0.4242 -0.1220 -0.0760 -11.28 -3.477 -1.246 -0.7841 LCE

-0.5457 -0.3689 -0.1016 -0.0632 0.4489 -2.255 -0.7961 -0.5007

2.558 0.1491 -0.4534 -0.5166 13.69 3.593 0.8144 0.2820 LLE

-1.114 0.3200 -0.3904 -0.4710 -1.621 7.126 2.115 1.101

(各欄の上,下段の数値はそれぞれ対象期間I,IIおよびIIIのモデルで得られたものである。)

さほど大きくは影響していないことがわかる。

1980年における自己価格弾力性の計測結果をみると,石油に関しては電気

事業で-0.21,全国レベルでは-0.09,石炭に関しては電気事業で-0.31,

全国レベルでは-0.71,そしてLNGに関しては電気事業で-0.48,全国レ

ベルでは-0.27である。第一次石油危機以後の燃料別の自己価格弾力性に関

する対象期間IIIの計測結果について電気事業と全国レベルの計測結果を比

較してみると,1980年の計測結果に見られるように,石油,LNGについて

は電気事業の方が絶対値が大である。このことは石油やLNGの燃料価格上

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 255 -

表3.10 全国レベルにおける燃料別価格弾力性

技 術 変 化 項 あ り 技 術 変 化 項 な し 価 格 弾力性 1972 1975 1978 1980 1972 1975 1978 1980

-0.0183 0.0217 -0.0142 -0.0363 -0.0572 -0.0154 -0.0529 -0.0762 PPE

-0.1561 -0.0192 -0.0583 -0.0873 0.1098 -0.0050 -0.0435 -0.0719

0.0370 -0.0251 -0.0368 -0.0480 0.0812 0.0169 0.0071 -0.0027 PCE

0.1406 0.0525 0.0431 0.0385 -0.1292 0.1065 0.1018 0.0994

-0.0187 0.0035 0.0510 0.0842 -0.2106 -0.1705 -0.1310 -0.1033 PLE

0.0155 -0.0313 0.1524 0.0488 0.0194 -0.1015 -0.0583 -0.0275

0.2810 -0.4891 -0.8447 -1.516 0.5758 0.3273 0.1540 -0.1435 CPE

1.090 1.010 0.9870 0.9715 -1.016 2.140 2.352 2.537

-0.2771 0.4905 0.8044 1.456 0.2492 1.737 2.329 3.551 CCE

-1.071 -0.7679 -0.7367 0.7085 0.8050 -0.7207 -0.6795 -0.6429

-0.0039 -0.0014 0.0403 0.0598 -0.8750 -2.064 -2.483 -3.408 CLE

-0.0188 -0.2424 -0.2503 -0.2630 0.2110 -1.419 -1.673 -1.894

-1.886 0.0930 0.5632 0.6308 -19.79 -5.279 -1.500 -0.8316 LPE

1.455 -0.8987 0.1391 0.3451 1.842 -2.899 -0.6340 -0.2075

-0.0549 -0.0030 0.0198 0.0230 -10.98 -3.280 -1.239 -0.8757 LCE

-0.2425 -0.3429 -0.1157 -0.0738 2.640 -2.007 -0.7748 -0.5336

1.941 -0.0900 -0.5830 -0.6474 13.38 3.341 0.7351 0.2867 LLE

-1.213 1.242 0.0427 -0.2713 -4.482 4.906 1.409 0.7411

(各欄の上,下段の数値はそれぞれ対象期間I,IIおよびIIIのモデルで得られた

ものである。)

昇が電気事業に対しては他のエネルギー消費部門全般に対してより大幅な需

要減をもたらす可能性が存在することを示している。特にLNGに関しては,

現在わが国でLNGを消費しているのが主として電気事業と都市ガス産業で

あって,電気事業が全体の約80%近くを占めており,価格に対してはかなり

敏感に反応するといえる。

一方,石炭については電気事業においてよりも全国レベルの場合の方が自

己価格弾力性の絶対値が大であって,しかも全国レベルでは石油,LNGと

比較して相対的にかなり大である。わが国において1979年から1980年にかけ

- 256 -

て電気事業よりも他のセメントを中心とする産業で80~90%近くも石油から

石炭への燃料転換が行なわれたことはこのことを裏付けているといえよう。

また石炭の自己価格弾力性の絶対値が他と比較して相対的に絶対値が大であ

るということから,現在は相対的に安価な石炭も大幅な価格上昇が将来起こ

るとするとかなりの需要減が起こることが予想される。

近年の自己価格弾力性に関する計測結果からみると,石油の自己価格弾力

性は電気事業,全国レベルのいずれの場合にもやや下降気味である。つまり

将来原油価格が高くなると,原油需要はますます大きく減少する傾向が見ら

れる。原油価格が大幅に上昇する場合には,石油から石炭,LNG等の他の

燃料への転換が起こって,原油需要が大幅に減少することは十分に予想され

る。現に1979年から1980年にかけて原油価格はほぼ1.80倍になっているのに

対して,電気事業における石油消費量はほぼ16%減少している。また全国レ

ベルのデータからは,1979年から1980年にかけての原油価格の上昇が1.82倍

であるのに対して,消費量がほぼ9%減少しているのがわかる。表3.9,表

3.10の結果からも分かるように石油の自己価格弾力性は全国レベルにおいて

よりも電気事業の方が絶対値が大である。原油価格の上昇に対しては,他の

産業に比してかなり早期にしかも大幅に電気事業における原油需要の減少が

起こることが予想される。

石炭に関しては,電気事業,全国レベルのいずれにおいても,わずかでは

あるが近年の自己価格弾力性に上昇傾向が見られる。つまり石炭価格が上昇

した場合に石炭需要が減少する割合は,わずかではあるが小さくなりつつあ

る。原油にかわる化石燃料として世界的に豊富な埋蔵量を有する石炭の需要

が今後増大することは十分に予想されるが,小刻みな価格上昇に対しては石

油と比較して需要量の減少は少なくなると思われる。特に電気事業における

石炭の自己価格弾力性は全国レベルの場合と比較して絶対値が小である。電

気事業における石炭消費が増大しつつある近年(1979年から1980年にかけて

は約14%増),石炭価格上昇に伴なう需要減は電気事業においては他産業と比

して小さいといえる。

LNGの自己価格弾力性は,電気事業においては3種の化石燃料のうちで

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 257 -

は最大の絶対値を有する。したがってLNGの価格上昇に伴なう需要減は相

対的に大きく,1970年代には環境規制,大気汚染防止という観点から“政策

的”に導入を積極的に促進されてきたLNGも,今後は価格効果の影響を受

け,価格上昇が石油に追随した形で起こる場合に需要が大きく減少すること

が予想される。

前に述べたAtkinson & Halvorsen〔8〕による米国の火力発電プラントを

対象とした価格弾力性の計測結果と比較してみよう。彼らの計測によると,

燃料別の自己価格弾力性の平均値として,石炭(C ),天然ガス(G )を燃料と

する発電プラントに対しては ,43.1,43.0 −=−= GGCC EE そしてまた石炭(C ),

石油( P )を燃料とする発電プラントに対しては ,50.1,15.1 −=−= PPCC EE さ

らに石油( P ),天然ガス( G )を燃料とする発電プラントに対しては

21.0,60.1 =−= GGPP EE (これはトランスログモデルが凸性を満足していな

いことによるとしている)を得ている。われわれの計測結果と比較すると,

石油に関してはわが国の電気事業においては火力発電用燃料の約80%を占め

ていることから自己価格弾力性が米国に比較して小さいことがわかる。石炭

に関しては,米国の火力発電プラントにおける石炭の自己価格弾力性が-

0.43程度であって,米国における燃料別自己価格弾力性としては石油LNG

と比較して小さく,わが国の電気事業の場合とほぼ同様の値である。また天

然ガス,LNGに関しては,相対的にみて米国,わが国とも自己価格弾力性

の絶対値は大であるが,それでも燃料選択上の多くの可能性を有する米国の

火力発電プラントにおいてより大きな自己価格弾力性が得られている。

異なる燃料間の交叉価格弾力性をみると,それらの正負の符号から電気事

業,全国レベルのいずれの場合にも石油,石炭あるいは石油,LNGについ

ては代替的であると別断される。それに対して石炭,LNGについては電気

事業,全国レベルのいずれに対しても補完的である。わが国における大気汚

染に関する公害規制が硫黄分の排出総量規制であることから,輸入原油の硫

黄分含有率が近年では0.4%程度であるのに対して石炭では約3%,LNGでは

ほとんど0となっていることを考えると,石炭とLNGが燃料消費形態に関

して補完的となることが説明される。

- 258 -

石油と石炭の間の第1次石油危機以降の交叉価格弾力性の計測結果をみる

と, PCE に関しては電気事業,全国レベルともほぼ0.04程度となっているの

に対して, CPE は電気事業で0.67~0.84,全国レベルで0.97~1.01とやや高

い。原油価格が上昇した場合の石炭への燃料転換が電気事業以外の産業(た

とえばセメント産業など)でより積極的に推進されていることを示唆してい

るといえよう。石油とLNGの間の交叉価格弾力性をみると, PLE に関して

は電気事業で0.01~0.17,全国レベルで0.05~0.17とほぼ同様の値である。

それに対して LPE に関しては電気事業で0.49~0.53,全国レベルで0.14~

0.34であることから,原油価格上昇の結果生ずるLNGへの転換が電気事業

においてより活発となることを示唆している。石炭とLNGの間の交叉価格

弾力性に関しては,電気事業,全国レベルのいずれにおいても CLE =-0.23~

-0.36, LCE =-0.06~-0.10とほぼ同様の値が得られ,電気事業と都市ガ

ス産業を中心とする需要部門との間で石炭とLNGに関する補完関係にそれ

ほど差がないことを示している。

Atkinson & Halvorsen〔8〕の計測結果によると石油(P ),石炭(C ),天

然ガス(G )の間の相互関係は米国の火力発電プラントではすべて代替的であ

ると得られている。石油と石炭に関しては PGE =1.01, CPE =0.99とわが国の

電気事業よりは少し高く,全国レベルの場合とほぼ同様の値が得られている。

石油と天然ガスあるいはLNGに関しては GPE =0.76, PCE EGP=0.58であっ

て,わが国の電気事業の場合と比較すると PGE はかなり高く, GPE はほぼ同

様である。天然ガスと石油が米国においてかなり代替性が高いことを示して

いるといえる。天然ガスと石炭に関しては, CGE =0.09, GCE =0.45であって

これらの燃料間の代替性としては最も低い値が得られている。

技術進歩項を入れたモデルの計測結果についてみよう。表3.5,表3.6にあ

るパラメタ Niit ∈,γ の推定結果から第1次石油危機以前を対象としたモデルで

は,電気事業,全国レベルのいずれに対してもほぼ 0,0,0 ≈<> LtCtPt γγγ と

いう傾向がみられ,1970年代前半で第1次石油危機以前の技術変化が石油消

費的石炭節約的,そしてLNGに関しては電気事業においてはやや節約的,

全国レベルではやや消費的であるがいずれもどちらかというと中立的である

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 259 -

という解釈を加えることができる。それに対して第1次石油危機以後を対象

とするモデルでは,電気事業,全国レベルのいずれに対しても ,0<tPγ

0,0 >< tLtC γγ という傾向がみられる。最近におけるわが国のエネルギー技

術の変化が石油節約的,石炭についてはやや節約的,そしてLNG消費的で

あることを示している。しかしながら石炭に関しては, 0<Ctγ ではあるが

Ctγ は非常に絶対値が小さく0に近いことからも,近い将来わが国の石炭エネ

ルギー技術が中立的,あるいは石炭消費的となることは十分に予想される。

3.4 モデルの検証

トランスログモデルを用いた分析においては,われわれの設定したトラン

スログ型の単位コスト関数が変数間の分離可能性を満たしているか,あるい

はコスト関数が価格に関して凹性を満たしているかといった問題を統計的に

検定することによってトランスログモデル分析の妥当性を検証する必要があ

る。このようなモデルの妥当性を尤度比検定法によって検証する。尤度比検

定法においては,トランスログモデルのパラメタ間の制約条件を付加するこ

とによってモデルの適合度が減少する程度が有意であるか否かを統計的に検

定する。

まずトランスログ型コスト関数の単調性は,(2.14)あるいは(3.6)の推定

方程式の定数項が正であることによって検証される。われわれのトランスロ

グモデル分析では,12種のモデルに対する36本のコストシェア推定式のうち

でLNGに関する2本の式のみが負の定数項を与えた。しかしながらこれら

の負値も非常に0に近い値であるので,ほとんどすべてのモデルで単調性は

成立していると結論できる。

変数間の分離可能性,技術進歩のHicks中立性などに関する尤度比検定の

結果は表3.11に示されている。たとえば表中にある単位コスト関数の弱分離

可能性は必ずしも生産関数自体の弱分離可能性を意味するものではないが,

ここではトランスログ型単位コスト関数の弱分離可能性の検定を行なうこと

によって各種生産要素間の弱分離可能性の検定とする。石油,石炭,LNG

の価格をそれぞれ LCP PPP ,, とすると,たとえば CP PP , の LP からの弱分離可

- 260 -

表3.11 統計的仮説検定結果

仮 説 パラメタ制約 条件数(K) 00

ˆlog ΩΩN 2x 値

弱分離可能性 P,C from L 3 112.2* 11.34

C,L from P 3 1023.7* 11.34

L,P from C 3 905.0* 11.34

強分離可能性 NjjP ∈= 0β 2 192.8* 9.21 NjjC ∈= 0β 2 161.5* 9.21 NjjL ∈= 0β 2 241.4* 9.21 Njiji ∈= ,0β 3 804.2* 11.34

Hicks 中立性 Niu ∈= 0γ 2 1097.0* 9.21

(注) LCP ,, にそれぞれ石油,石炭,LNGを表わす。 N は LCP ,, なる集

合を表わす。

0N は標本データ数(=27×3=81)を表わす。

統計量 ||/|ˆ|log 00 ΩΩN の右肩の*印は仮説が棄却されたことを示す。

また 2x 値は有意水準1%の下での値を表わす。

能性は以下に述べるような条件が満たされることを意味する。

いま要素価格 LCP PPP ,, にもとづく単位コスト関数を

(3.10) ),,( LCP PPPgC =

と表わす。この時,石油,石炭の価格 CP PP , がLNGの価格 LP から弱分離

可能であるとは次式が成り立つことである。

(3.11) 0=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛∂∂

∂∂

∂∂

CPL Pg

Pg

P

つまり上式は次のように書くことができる。

(3.12) 022

=∂∂

∂⋅

∂∂

−∂∂

∂⋅

∂∂

LCPLPC PPg

Pg

PPg

Pg

したがってコスト関数として(3.5)で表わされるトランスログ型単位コスト

関数を前提とすると,(3.12)式は(2.14)の関係を用いて

(3.13) PLCCLP MM ββ =

のように書くことができる。そこで(3.13)に(3.7)を代入した関係が任意の

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 261 -

要素価格について成立することを用いると, NiRitCiPi ∈≠≠≠ ,0,0,0 γββ の

(3.14) Ct

Pt

CL

PL

CC

PC

CP

PP

C

P

γγ

ββ

ββ

ββ

αα

====

が成立しなければならない。したがってコスト関数の要素価格に関する1次

同次性,パラメタ ijβ の対称性を前提とすると, CP PP , が LP から弱分離可能

であるための必要条件として次式が成立しなければならない。

(3.15) PPCPCP βαβα =

(3.16) 2PCCCPP βββ =

(3.17) PtCCtP γαγα =

このようにしてパラメタ間の線形制約(2.16)-(2.18)に非線形制約(3.15)-

(3.17)を加えてパラメタを推定すると,分散共分散行列の推定行列 Ωを得

る。いま Ωの行列式の値を |ˆ|Ω ,そしてパラメタ間の制約として線形制約

(2.16)-(2.18)のみを設定した場合の分散共分散行列 0Ω の行列式の値を

|| 0Ω とする。そこでこれらに基く尤度関数値の比入の対数をとると

(3.18) LΩΩN ==− ||/|ˆ|loglog2 00λ

( 0N :標本データ数)

が得られる。統計量 Lが漸近的に自由度K(=パラメタ制約条件式の数)の2x 分布にしたがうことを用いて弱分離可能性の検定を行なう。 LC PP , の PP

からの弱分離可能性, PL PP , の CP からの弱分離可能性の検定も上と同様に

して尤度比検定を用いて行なうことができる。

トランスログ型コスト関数の強分離可能性は,上述の3種類の弱分離可能

性がすべて同時に成立することつまり(2.16)-(2.18)のパラメタ制約に加え

て PLLCCP ,,,,, のすべての組に対して(3.15),(3.16)の関係が成立す

ることに相当する。したがってコスト関数の強分離可能性はすべての

Nji ∈, に対して 0=ijβ となることから,トランスログ型コスト関数が

Cobb-Douglas型コスト関数に帰着される。

コスト関数の弱分離可能性,強分離可能性に関する統計的仮説検定は電気

事業を対象とした第1次石油危機以降の期間IIIの技術変化項つきモデルに対

- 262 -

して行ない,その結果は表3.11のようになる。表3.11の結果によると,弱分

離可能性および強分離可能性の仮説は個々の推定式に含まれるパラメタ ijβ が

0であるという場合を含めてすべての場合に棄却される。

技術進歩がHicks中立型であることは Niit ∈= ,0γ なるパラメタ制約が成

立することに相当する。この仮説は表3.11の結果からも分かるように棄却さ

れ,トランスログモデルにおいて Niit ∈,γ の形の技術変化を表わす項を導入

することの妥当性が検証される。

トランスログコスト関数が燃料価格 LCP PPP ,, に関して凹であることの検定

方法について述べよう。コスト関数の凹性はコスト関数から得られるヘシア

ン行列がすべての観測値の組に対して半角定であることを検証することによ

って得られる。単位コスト関数のヘシアン行列H は次のような対称行列とし

て与えられる。

(3.19) ⎥⎥

⎢⎢

−++++−++++−+

=)1(

)1()1(

LLLLLCCLLPPL

LCCLCCCCCPPC

LPPLCPPCPPPP

MMMMMMMMMMMMMMMMMM

Hβββββββββ

上のヘシアン行列Hが半角定値であるための必要十分条件はHのすべて

の固有値が0以下であることである。Hが固有値0を有することはすぐに確か

められる。そこでHの他の2つの固有値を 21,λλ とすると,これらは以下の関

係を満たさなければならない。

(3.20) H=+ 21 λλ の対角成分の和

LMMM LCPLLCCPP −+++++= 222βββ

(3.21) 22

21 )()( LCCLLPPL MMMM +++= ββλλ

2)( CPPC MM++ β

)1()1( −+−+− LLLLCCCC MMMM ββ

)1()1( −+−+− PPPPLLLL MMMM ββ

)1()1( −+−+− CCCCPPPP MMMM ββ

したがって 21,λλ がいずれも0以下であるためには次の条件を満足しなければ

ならない。

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 263 -

(3.22) 01 =<++= LCP FFFF

(3.23) 0)( 2222

<=++−++= LPCLPCPLLCCP FFFFFFFFFF

なおここで上式中の NjiFF iji ∈,,, は以下の量を表わす。

NiMMF iiiii ∈−+= ),1(β

jiNjiMMF jiijij ≠∈+= ,,,β

以上の議論をわれわれのトランスログ単位コスト関数の凹性の検定に適用し,

電気事業および全国レベルを対象とした技術変化項を有する対象期間IIIの

モデルについて上の 21, FF の符号を調べる。電気事業モデルに関しては28個

の観測値中14個の観測値に対して, 0,0 21 =<=< FF なり単位コスト関数の凹

性が得られたのに対して,全国レベルのモデルでは同様に28個の観測値中20

個に対して単位コスト関数の凹性が得られた。しかも 0,0 21 =<=< FF なる条

件を満たしていない観測値に対しても 01 <F は常に得られ, 02 =F が非常に

絶対値の小さい値を有している。このことはH が正の固有値を有する場合で

も非常に0に近いことを意味する。トランスログ単位コスト関数の凹性はほ

とんどの場合に満足されていると結論できるであろう。

4. まとめと課題

本論文では1次エネルギー資源として石油,石炭,LNGを取り上げ,こ

れらがエネルギー生産要素として相互の代替,補完性に関していかなる相互

関連を有するかを定量的に評価し,これらの生産要素の自己および交叉価格

弾力性を計測した。ここでは電気事業レベルおよび全国レベルの2つのレベ

ルを対象として計測を行なったが,このような計測が他の鉄鋼,紙パルプな

どのエネルギー多消費産業をはじめとするその他の産業においても可能であ

ることはもちろんである。エネルギー資源間の相互関係ではないが,わが国

における鉄鋼業,紙パルプ産業を対象として資本,労働,エネルギーの要素

間代替を計測したものとして〔20〕がある。また電気事業レベルを対象とし

た分析に関しても,よりミクロにたとえば電力会社別に各種生産要素間の相

互関係を考慮することも可能である。わが国の電気事業を対象として,電力

会社別に資本,労働,エネルギーの間の相互関係を分析したものとして

- 264 -

〔21〕がある。

トランスログ型コスト関数の推定に際して(2.14)あるいは(2.24)(あるい

は(3.7))の形のコストシェアの式を用いることは前にも述べたが,これら

の推定に伴なって生じる推定誤差について考慮してみよう。いま(32)式に誤

差項 iε を追加すると

∑ +++=j iitjijii PM ,log εσβα

LCPNi ,,=∈ と書くことができる。われわれはすべての観測データについてその期待値が

,0)( =iE ε そして iε の分散共分散行列についてはそれが一定であることを仮定している。なおここで iM は各生産要素のシェアであることから,

∑∈

=Ni

iM 1が常に成立する。したがってこのことから誤差項については次式

が成立しなければならない。

∑∈ =Ni i 0ε

上式は誤差項が互いに独立ではないことを意味する。

一方技術進歩を表わす推定式(2.25)(あるいは(3.8))についても,左辺

の差分化近似にあたって(3.8)式のところで述べたように, t期についての観

測データに関しては t期と 1−t 期のデータを用いている。したがって(3.8)式

の推定に伴なう推定誤差を )(tiε とすると, )(tiε と )1( −tiε との誤差相関に

よって独立性が失なわれる。

このような誤差相関をいかに処理するかについて, Jorgenson &

Fraumeni〔19〕による定式化では分散共分散行列の直交変換を用いたひと

つの方法が提起されているが,このような考慮がここで用いた方式について

も必要であろう。

トランスログ型生産関数を用いた実証分析に関しては,生産関数に関する

存在自体を問題としたかなり本質的な疑問から,トランスログ型関数につい

ての凹性,生産要素を表わす変数間の分離可能性,集計可能性等の前提条件

に関する疑問まで多種の問題が提起されている。トランスログモデル分析に

おいてはこのような疑問に対する明確な解答のないまま非常に多くの実証分

第6章 トランスログモデルによるわが国の1次エネルギー消費分析

- 265 -

析が行なわれ有益な結果が次々と得られているのが現状である。トランスロ

グモデル分析が各種生産要素間の相互関係の定量的分析にあたって非常に強

力な手法,理論であることは事実であろう。このようなモデル分析は,トラ

ンスログモデルに欠けているとされる限界費用分析あるいは生産費用に関す

る可能集合の明示化といった機能を追加することによってより強力な手法と

して発展すると思われる。そのような点で生産,コストの両関数の間の双対

性を明示的に与える数理計画モデルが何らかの役割を果たすことが予想され

る。

参 考 文 献

〔1〕P.C.Douglas and C.W.Cobb.“A Theory of Production”, American Economic Review, Vol. 18, No. 1, 1928, pp. 139-165.

〔2〕W.E.Diewert, “An Application of the Shephard Duality Theorem:A Generalized Leontief Production Function”, Journal of Political Economy, Vol.79, No.3, 1971, pp.481-507.

〔3〕K.J.Arrow, B.H.Chenery, B.S.Minhas and R.M.Solow.“Capital-Labor Substitution and Economic Efficiency”, Review of Economics and Statistics, Vol. 43, No. 3, 1961, pp. 225-250.

〔4〕L.R.Christensen, D.W.Jorgenson and L.J.Lau,“Transcendental Logarithmic Production Frontiers”, Review of Economics and Statistics, Vol.55, 1973,pp.28-45.

〔5〕H.Uzawa, “Productions with Constant Elasticity of Substitution,” Review of Economic Studies, Vol. 29(4), No.81,1962,pp.291-299

〔6〕R.Halvorsen, “Energy Substitution in U.S.Manufacturing”, The Review of Economics and Statistics, LIX, No. 4, 1977, pp.381-388.

〔7〕M.A.Fuss,“The Demand for Energy in Canadian Manufacturing:An Example of the Estimation of Production Structures with Many Inputs”, Journal of Econometrics, Vol.5,1977, pp.89-116.

〔8〕S.E.Atkinson and R. Halvorsen,“Interfuel Substitution in Steam Electric Power Generation”, Journal of Political Economy, Vol. 84, No.5, 1976, pp.959-976.

〔9〕L.R.Christensen and W.H. Greene,“Economics of Scale in U.S.Electric Power Generation”, Journal of Political Economy, Vol. 84, No.4, 1976, 655-676.

〔10〕E.R.Berndt and D.O.Wood,“Technology, Prices and the Derived

- 266 -

Demand for Energy”, The Review of Economics and Statistics, LVII, No.3,1975,pp.259-268.

〔11〕J.M.Griffin,“Interfuel Substitution Possibilities:A Translog Application to Intercountry Data, International Economic Review, Vol.18, No.3, 1977, pp.755-770.

〔12〕J.M.Griffin and P.R.Gregory,“An Intercountry Translog Model of Energy Substitution Responses”, American Economic Review, Vol.66, No. 5, 1976, pp. 845-857.

〔13〕E.A.Hudson and D.W.Jorgenson,“U.S.Energy Policy and Eco-nomic Growth 1975-2000”, Bell Journal of Economics and Management Science, Vol. 5, No. 2, 1974, pp. 461-514.

〔14〕J.Wills,“Technical change in the U.S.Primary metals industry”, Journal of Econometrica, Vol.10,No.1,1979, pp.85-98.

〔15〕R.G.D.Allen,,“Mathematical Analysis for Economists”, 2nd ed.,London, Macmillan, 1938.

〔16〕 A.Zellner,“An Efficient Method of Estimating Seemingly Unrelated Regressions and Tests for Aggregation Bias”, Journal of the American Statistical Association, 57, 1962, pp. 348-368.

〔17〕M.Fuss and D.Mc Fadden, Production Economics:A Dual Approach to Theory and Applications, Vol. 1, 2, North-Holland, 1978.

〔18〕 R.W.Shephard, Theory of Cost and Production Functions, Princeton, NJ, Princeton University Press, 1970.

〔19〕D.W.Jorgenson and B.Fraumeni, “Relative Prices and Technical Change”, in E.R.Berndt and B.C.field, eds,, Modeling and Measuring Natural Resource Substitution, Cambridge, MIT Press.

〔20〕鈴木武,他:トランスログ型関数とエネルギー多消費産業における要

素代替,昭和56年度文部省科学研究補助金,エネルギー特別(1),ディス

カッションペーパー,1982。

〔21〕熊倉修,大山達雄:Translong型生産関数理論の電気事業への応用,電力中央研究所研究報告,昭和56年3月。

- 267 -

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・

種類別分析

1. はじめに

家庭用エネルギー需要は,将来次第にそのウエイトが増すであろうと言わ

れながらも,データの不備のためもあり内外とも産業用に比しその分析例は

少ない。(1)(2)

ここでは,家計調査データをもとに,①ベースロードエネルギー需要,②

暖房用エネルギー需要,③冷房用エネルギー需要を,時系列(年ベース)+

クロスセクション(全国9地域および所得5分位)のパネルデータとしてエネ

ルギー種類別に推計した。さらに,②の暖房用エネルギー需要については,

電気,ガス,灯油間の代替関係を,各エネルギーの価格と地域(または所得

分位)平均所得で説明する多対ロジットモデルによる分析を行った。

本報告では,第2節で用途・種類別エネルギーの推計手順を,第3節で暖房

用エネルギーの分析を示す。第3節では3.1で暖房用エネルギー需要量を気候

および所得により説明し,3.2で全国勤労者世帯データを用いてマクロな代

替関係を求める。3.3では9地域データを用いて代替関係の地域差を分析し,

3.4では所得5分位データについて同様の分析を行う。第4節では冷房用エネ

ルギー需要,第5節ではベースロードエネルギー需要の分析結果を簡単に紹

介する。

2. 用途別エネルギー需要の推計手順

家庭用エネルギー需要に関してはデータベースが完備していないため,独

自に調査を行うか,または家計調査データに頼る他はない。(2)

ここでは,家計調査のうち以下の項目を用い,まず種類別需要を求めた。

① 家計調査品目別支出(電気,ガス,その他光熱費)

全国勤労者世帯 1970.1~1982.3

- 268 -

② (同上)

地域別勤労者世帯 1972.1~1982.3

③ (同上)

所得5分位勤労者世帯 1976.1~1982.3

いずれも月別データである。ここで,次の仮定を導入する。

(1) ガス代支出はすべて都市ガスと見なす。ガス代支出はプロパンガスも

含んでいる。しかしプロパンガスのシェアは地域・時点で変化しており

両者の分離が難しいこと,都市ガスとプロパンガスの代替は価格に依る

のではなく施設の普及度に依るものであることから,やむを得ずこの仮

定を設けた。

(2) 都市ガスの価格および,エネルギー原単位は全国共通とする。全国に

は700以上のガス企業体が存在し,価格,原単位ともまちまちである。し

かし,各家計主体との対応付けができないため,この仮定を設けた。

(3) その他光熱費支出には灯油の他に石炭,薪炭等の支出が含まれるが,

これらは無視できるものとする。

(4) 翌年度まで持ち越される灯油の在庫は無視できるものとする。

(5) 電気の価格も全国平均値を用い,全国共通とする。

エネルギー原単位は,エネルギー統計(3)に従って,電気:860kcal/kWh,都

市ガス:10,000kcal/m3,灯油:8,900kcal/ lとした。

エネルギー価格月別データから次のように用途別需要を推計した。

A ベースロード需要

電気(照明,動力,その他),ガス,灯油(いずれも給湯,厨房)の各々

につき,5~7月分支出より計算された消費実績の平均値により推計する。

なお,ベースロードとして5~6月分支出,6~7月分支出をとる場合につい

ても計算を行なったが,計算結果に本質的差異は認められなかった。

B 暖房用エネルギー需要

各エネルギー種別につき,12~翌3月分支出から計算された消費実績の平

均値からベースロードエネルギー需要分を差引き推計する。

C 冷房用エネルギー需要(電気のみ)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 269 -

8~10月分電気代支出から計算された電力消費実績の平均値から,ベース

ロードエネルギー需要分を差引く。

ここで,電気,ガスに関しては,支出と実際の消費時点との間に約一ケ月

の遅れがある。

なお,実際にはベースロードエネルギーのうち給湯用の需要は冬期には増

加するものと考えられる。しかし,この点の分析には水温や入浴回数の変化

等のデータが必要となるため今回は見送ることとした。また,気候と地域に

よっては冷房用エネルギー需要が負となることがある。

このような問題点を残してはいるが,現状では家計調査から以上のように

して推計する以外の方法は考えられない。今後のデータベースの充実が望ま

表1 9地域年ベース暖房用エネルギー需要(103kcal)

北海道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 1972 867.3 544.5 416.4 402.4 366.3 356.6 447.2 336.9 296.2 1973 1396.0 719.0 452.2 386.4 309.0 407.1 388.4 358.3 383.6 1974 915.9 632.3 399.8 283.6 267.5 332.8 383.7 278.6 276.0 1975 1155.0 686.2 370.8 389.6 354.4 311.4 362.6 258.6 310.4 1976 1007.0 767.0 399.3 515.6 367.4 342.6 490.5 315.6 400.5 1977 1222.0 759.4 405.1 564.5 355.7 342.3 416.1 288.8 378.8 1978 1071.0 818.8 425.0 498.9 323.9 367.0 454.7 336.7 391.9 1979 759.3 755.1 374.1 441.5 288.2 304.7 395.4 306.1 359.0 1980 903.3 756.9 417.8 558.1 372.5 374.3 441.0 289.3 428.3 1981 1058.0 646.4 414.4 406.8 326.3 367.1 443.9 320.1 317.5

表2 9地域年ベース冷房用エネルギー需要(103kcal)

北海道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 1972 9.51 4.15 9.27 11.70 12.96 14.40 1.66 11.80 8.70 1973 5.46 7.71 14.8 11.75 17.70 33.65 16.92 1.91 26.13 1974 4.30 10.05 16.987 10.59 25.10 25.56 9.45 19.45 14.59 1975 4.56 9.76 13.98 20.51 20.37 43.43 29.63 32.48 42.50 1976 0.2 -1.524 0.053 15.59 5.03 26.53 7.73 14.46 14.06 1977 -0.08 -3.79 13.53 24.82 34.52 47.66 26.17 37.02 31.30 1978 2.15 2.94 32.35 33.09 37.54 60.61 40.88 37.59 46.68 1979 -10.03 0.79 27.39 15.07 33.69 48.95 28.80 32.88 38.03 1980 3.22 -6.40 10.03 8.87 14.86 34.47 10.12 24.59 14.50 1981 -1.51 -11.06 19.09 15.57 27.02 51.39 35.40 33.27 39.9

- 270 -

表3 9地域72年~81年ベースロードエネルギー(103kcal)

(電 気)

北海道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 1972 83.59 102.39 95.01 110.23 96.59 95.83 101.78 101.09 104.56 1973 95.57 107.07 104.07 121.22 115.40 101.23 102.84 105.15 103.38 1974 95.96 100.13 102.10 115.73 108.98 104.95 112.96 110.92 107.00 1975 111.25 123.41 125.63 124.30 120.48 124.94 132.25 145.71 124.63 1976 116.99 144.83 120.64 138.84 137.65 125.46 130.57 150.28 129.76 1977 121.19 154.04 127.66 148.27 147.16 137.57 163.79 166.92 131.04 1978 131.00 156.24 142.02 167.59 149.41 149.96 159.73 173.26 148.67 1979 137.37 173.73 142.20 159.63 150.69 158.30 189.02 182.61 159.06 1980 117.49 164.30 144.83 154.44 159.49 139.65 192.96 169.60 154.12 1981 117.91 182.10 152.32 164.08 178.08 162.12 195.78 193.66 160.30

表4

(ガ ス)

北海道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 1972 123.68 159.50 208.83 162.15 195.70 200.84 142.21 129.78 193.38 1973 118.57 160.78 231.90 169.12 213.91 202.91 156.64 154.91 165.59 1974 152.33 205.27 263.18 199.38 255.01 252.12 221.54 227.92 226.08 1975 155.19 210.42 254.68 176.24 236.8 239.20 197.87 179.06 235.39 1976 160.29 221.11 278.76 207.23 259.76 256.20 184.15 195.80 248.65 1977 150.95 205.82 247.74 215.04 252.83 260.63 180.59 205.66 231.43 1978 156.19 225.95 261.87 222.52 288.77 265.75 195.40 212.89 217.35 1979 200.86 218.81 274.08 221.91 292.49 270.78 194.18 209.05 265.63 1980 152.02 224.80 261.32 238.12 253.79 286.65 197.45 215.21 228.08 1981 147.32 236.38 276.20 249.98 265.49 283.58 192.02 212.81 267.41

表5

(灯 油)

北海道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 1972 470.58 164.34 66.31 55.97 100.42 45.19 105.29 68.66 117.26 1973 408.39 168.33 66.39 91.16 73.46 50.46 106.82 89.55 92.89 1974 524.75 186.62 76.21 156.91 64.62 49.29 79.65 89.08 101.42 1975 475.23 196.36 63.92 103.86 50.58 34.63 87.44 72.63 98.90 1976 470.00 172.54 69.19 48.63 41.88 35.95 67.34 79.27 65.37 1977 499.21 164.25 58.33 69.53 45.86 23.93 79.39 56.19 66.66 1978 430.12 169.77 62.49 65.00 36.41 31.17 55.43 50.47 60.66 1979 569.33 169.98 78.75 79.10 48.76 33.81 63.76 89.24 60.83 1980 421.23 126.72 45.77 58.73 20.54 27.28 55.94 58.05 41.37 1981 363.27 159.02 44.79 95.62 34.93 22.48 51.50 47.38 42.92

(注)北海道地域は,給湯(風呂)用に灯油を用いることが多い。

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 271 -

図1.1 電気,ガス,灯油用途別需要

(全国,勤労者世帯一ケ月,一世帯当り)

図1.2 同

図1.3 同

- 272 -

れるところである。

以上の地域別推計結果を表1~表5に,全国勤労者世帯に関する推計結果を

図1.1~図1.3に示す。電気,ガスについてはベースロード需要の増加傾向が

見られる。

3. 暖房用エネルギー需要の分析

3.1 暖房用エネルギー需要量の分析

ここでは, t期 r地域 k種エネルギーの暖房用需要 tkrD に次のようなモデル

を考えた。

(1) ),(),( |tr

tk

trk

tr

tr

tr

tkr yPSTyfD ⋅=

ここで try …… t期 r地域平均所得 t

rT …… t期 r地域平均気温(冬期) t

kP …… t期 k種エネルギー価格 t

rf …… t期 r地域暖房用エネルギー需要量 t

rkS | …… t期 r地域暖房用エネルギーの k 種エネルギーシェ

である。t

rf はエネルギー価格にも依存すると考えられるが,推計の結果有意

な影響が認められないため除くこととした。

従って地域内で kについて総和をとると,

(2) ∑ == ⋅K

tr

tr

tr

tr

tkr TyfDD ),(

となる。すなわち暖房用エネルギー需要量は所得と気候のみで決まり,次い

で各家計主体は価格と所得によってエネルギー種の選択を行う。という二段

階のモデルを想定したことになる。

全国9地域内の表中に示した主要都市平均気温は表6に示すとおりである。

所得データとして,労働者月額平均現金給与総額を用いた(4)。これは本分析

の時点では1980年値までしか公表されていなかったため,1975年~1980

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 273 -

表6 9地域冬期平均気温データ(地域内平均)

(時事年鑑より)

北海道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 1972 -2.31 3.7 4.27 6.63 5.67 7.13 6.07 7.2 8.34 1973 -2.73 0.61 1.63 2.63 3.23 6.2 3.87 5.02 5.77 1974 -4.88 0.25 2.19 3.37 3.86 5.67 4.5 6.1 7.1 1975 -3.62 1.11 3.22 4.33 5.07 6.9 5.4 6.67 7.49 1976 -5.33 -0.15 1.8 2.6 3.53 5.27 3.35 4.67 5.38 1977 -5.0 0.93 2.93 4.1 4.93 6.87 5.17 6.58 7.7 1978 -3.13 2.8 4.78 6.03 6.7 8.23 6.55 7.72 8.48 1979 -3.38 1.59 3.76 4.2 5.13 6.57 4.95 6.1 7.0 1980 -3.35 1.31 2.93 3.25 4.02 6.18 3.89 5.10 6.01

北海道…釧路,稚内,札幌,函館 近畿…大阪 東北…青森,秋田,仙台,新潟 中国…鳥取,広島 関東…松本,宇都宮,東京 国四…高松,高知 北陸…金沢 九州…福岡,熊本,鹿児島 東海…名古屋

表7 労働者月平均現金給与総額地域平均値

(労働省統計調査部「労働統計年報」)

北海道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 1972 91.310 78.440 93.739 83.691 90.248 99.462 87.301 82.270 81.221 1973 110.341 91.364 110.397 103.179 108.867 120.643 105.388 98.425 93.832 1974 139.525 116.279 143.001 127.241 138.585 152.820 134.034 125.116 121.542 1975 165.685 135.986 162.904 143.663 156.875 174.468 154.009 142.622 140.152 1976 181.691 154.240 185.133 164.946 177.813 196.894 171.042 159.090 159.514 1977 200.652 169.240 202.008 180.738 193.360 215.869 185.894 175.159 176.192 1978 216.906 181.928 216.041 196.405 206.795 229.909 196.862 185.248 186.809 1979 224.831 184.668 229.414 209.298 218.627 242.762 206.404 198.985 195.032 1980 239.504 199.020 244.711 225.626 233.744 258.787 220.558 210.025 207.739 1981 262.565 218.037 269.557 250.707 256.494 284.405 239.156 230.996 229.045

年データを外そうとして1981年値を推計した。

いずれの地域でも,この期間内の成長率はほぼ一定であった。これらを表

7に示す。

(2)式の ),( tr

tr

tr Tyf に対数線型モデルを仮定し地域・時系列全データで推定

した結果,

- 274 -

(3) )38.14()089.0)(29.7(102.0ln1050.640.6. 3

        

tr

tr

tr TyInD −×+= −

727.02 =R を得た。

trD⋅ の実績値と推計値を3.3の図7.1~図7.9に示す。北海道,東北,北陸の

寒冷地域で適合が悪い。これは気温データに用いた都市が,その地域の気候

を十分代表していないこと,夜間の暖房の有無のような生活パターンの差等

が原因と考えられる。地域内時系列データを用い,地域ごとにt

rf を個別に推

定する試みも行なった。しかし適合度の向上は認められず,統計的有意性は

逆に低下したため,(3)式をt

rf として採用することとした。

(3)式では所得が有意でない点が注目される。また,この推定結果から,

冬期平均気温の1の変化が暖房用エネルギー需要の約11% (≒102.0e )の変化

をもたらすことが示される。

3.2 多対ロジットモデルによるエネルギー種類別シェアの分析(I-全

国)

エネルギー種類間の代替関係を多対ロジットモデルによって分析する。本

節では,全国・勤労者世帯データから推計されたマクロな電気,ガス,灯油

の暖房用エネルギーシェアをそれぞれの価格で説明する。

多対ロジットモデルでは,第 k種エネルギーシェアの理論値を次のように

表わす。

(4) ⎭⎬⎫

⎩⎨⎧

= ∑=

K

j

tjj

tkk

tk PPS

1)exp()exp( λλ・

Kk ,1 LL=

ここで,パラメータλが kによって異なる点が通常のロジットモデルと異

なる。これはPindyck(1)の用いたモデルから価格に関する項のみを取り出し

た形となっている。

ここで,各家計主体は全K種のうち1種のみを選択するものとする。(これ

は必ずしも現実的ではなく,暖房に電気と灯油を併用することはしばしばあ

る。この場合,以下の多項分布の当てはめは成立しなくなるが,これはのべ

家計数を考えることとすれば良いであろう。ただし,尤度関数の総サンプル

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 275 -

数は調査家計数とは一致しなくなる。) tkN を t期に k種エネルギーを選択した家計数とすると,尤度関数は,

(5) ∑=

===

⎟⎟⎟

⎜⎜⎜

⎛=

K

k

tk

tNt

ktk

tt

tT

t

K

kNNS

NNNNIIIIΦ

tk

12111)()(

!!!!

・・

・・・

‥ 

‥・

L

..NN t =・・ と調査人数が調査期間を通じて一定であったとすると,(5)式は

(6) ..N

NRtkt

k・

・= (選択のシェア)

を用いて

(7) ∑∑= =

+=K

k

T

t

tk

tk SRNΦ

1 1

const.ln..ln ・・

となる。多対ロジットモデルは指数分布族であり,十分統計量tkR ・を持つ。

(7)式をNeuton-Raphson法で最大化することにより,パラメータ kλ の最

尤推定量が求まる。

(4)式から t期 k種エネルギーシェアの自己価格弾力性および交叉価格弾力

性は次のように得られる。

(8) t

ktkk

k

tk PSI

PS )(

lnln

・・ −=

∂∂ λ

(9) tj

tjj

j

tk PS

PS

・・ λ−=

∂∂

lnln

このように交叉価格弾力性が kに無関係となる点にロジットモデルの問題

点がある。

(4)式でt

kP を tkPln で置き換えたモデルはいわゆる輸送抵抗モデル(5)の拡張

となる。この場合,t

kP の測定単位に関し kλ は不変ではない。そこで,

(10) ∑ −

−=

j

tjj

tkkt

k PP

S)(lnexp

)(lnexpαλαλ

と尺度母数α を入れるか,または tkP を何らかの相対価格として正規化すれ

ば良い。

この場合,(8),(9)の価格弾力性は,

- 276 -

図2 電気,ガス,灯油,kcal当り価格

図3 全国勤労者世帯の暖房用エネルギー需要と種類別需要

(一世帯,月当り平均)

(11) )1(lnln t

kkk

tk S

PS

・・ −=

∂∂ λ

(12) tjj

j

tk S

PS

・・ λ−=

∂∂

lnln

となる。

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 277 -

図2,図3にkcal当りの電気,ガス,灯油の価格と全国勤労者世帯データに

よる暖房用エネルギー需要とその種類別需要を示す。

これらに,上のa.(4)式の多対ロジットモデル,b.70年灯油価格で正規化

した価格による対数ロジットモデル,c.(10)の尺度母数を含む対数ロジット

モデル,の3種を適用した結果を図4~図6に示す。図から,対数変換した価

格を用いたモデルの適合度が高いこと,また尺度母数を導入しても適合度の

向上は見られず,推定の誤差分散をきわめて大きくする逆効果のあることが

わかる。従って,以下の分析には,70年灯油価格で正規化した価格の対数を

用いる対数ロジットモデルを用いることとする。

この場合の自己および交叉価格弾力性を表8に示す。灯油の自己価格弾性

値が他に比して小さな絶対値を有し,石油ショックの時点(1973年と1979年)

でその値が大きくなっていることがわかる。

3.3 多対ロジットモデルによるエネルギー種類別シェアの分析(II-全

国9地域地域差モデル)

(1)式の地域種類別需要モデルのシェアの項trkS | を拡張多対ロジットモデ

図4 多対ロジットモデル

- 278 -

図5 70年灯油価格を基準とする相対価格指数の対数ロジットモデル

図6 世帯尺度母数をパラメータとする輸送抵抗モデル

(対数ロジットモデル)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 279 -

表8 70年灯油価格で正規化を行なった対数ロジットモデルによる

自己および交叉価格弾力性

年 電気 ガス 灯油 (1970) -1.38515 -1.26563 -.230509

(7.35233E-02) (.270546) (.787097) (1971) -1.38625 -1.26909 -.227455

(7.24299E-02) (.267086) (.790151) (1972) -1.3864 -1.31175 -.199088

(7.22749E-02) (.224427) (.818519) (1973) -1.36756 -1.28064 -.232831

(9.11103E-02) (.255529) (.784775) (1974) 1.35585 -1.32114 -.214172

(.102821) (.21503) (.803434) (1975) -1.3434 -1.31168 -.229125

(.115272) (.22449) (.788481) (1976) -1.36049 -1.33464 -.202003

(9.81889E-02) (.201538) (.815603) (1977) -1.3623 -1.35021 -.190422

(9.63741E-02) (.185966) (.827184) (1978) -1.36018 -1.35446 -.189085

(9.84955E-02) (.181714) (.828521) (1979) -1.30379 -1.25169 -.296504

(.154884) (.284488) (.721102) (1980) -1.34738 -1.33694 -.209616

(.111292) (.199231) (.80799) (1981) -1.33518 -1.31328 -.233806

(.123497) (.222894) (.7838)

ルで分析する。いま, t期において r地域 k種エネルギーの消費シェアを tkrS

と表わす。 tkrS は(

tr

tr

tk TyP ,, )の関数と考えられる。ここで,所得

try が固定されてお

れば価格t

kP と気温 trT は分離可能であると仮定する。すなわち

(13) )|()|()|,( tr

tr

tkr

tr

tk

tkr

tr

tr

tk

tkr yTVyPUyTPS ×=

tkrS をロジットモデルの拡張として

(14) ∑∑ +

+=

S j

tS

TS

tjS

tS

tj

tjS

tr

tr

tkr

tr

tk

tkrt

kryTVyPU

yTVyPUS),(),(exp

),(),(exp

とすると,

- 280 -

(15) ∑∑

==

j

tr

tj

tjr

tr

tk

tkr

j

tjr

trkt

rkyPU

yPUS

SS

),(exp),(exp

|

となり, rのみに依存する項は消える。 tkrU として,

(16) ))(ln(lnln tr

tkkr

tkk

tkr yPPU βλ +=

とする。t

kP には,前節の結果に従い1970年灯油価格で正規化された値を用

いる。(15)式のt

rkS | を用いても(7)式と同様の尤度関数が得られる。すなわち, t

rkR | を t期 r地域で k 種エネルギーの需要のシェア, N ・を調査人数(地域,

時点で共通とする)として,(17)式を得る。

(17) +⎭⎬⎫

⎩⎨⎧⋅= ∑∑∑

= = =

T

t

R

r

K

k

trk

trk SRNΦ

1 1 1|| lnln const.

シェアt

rkS | には,次のように自己および交叉価格弾力性,所得弾力性が定

義される。

(18) )1)(ln(lnln

|| t

rktrkrkt

k

trk Sy

PS

−+=∂∂

βλ

(19) )()ln(lnln

|| jkSy

PS t

rjtrjrjt

j

trk ≠+−=

∂∂

βλ

(20) )1(lnlnln

|| t

rkt

kkrtr

trk SP

yS

−−=∂∂

β

(21) )(0lnln | Sr

yS

tS

trk ≠=

∂∂

   

また,3.1の結果を用いると, r地域 k種エネルギーの t期需要 trkD から

(22) ),(lnln

lnln | jk

PS

PD

tj

trk

tj

tkr ∀

∂∂

=∂∂

   

(23) tr

trk

tr

tr

tr

tkr

yS

yf

yD

lnln

lnln

lnln |

∂+

∂∂

=∂∂

となる。さらに,全国の k種エネルギー需要

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 281 -

(24) ∑=

=R

r

tkr

tk DD

1.

に関しても価格弾力性,所得弾力性が自己および交叉で次のように定義され

る。

(25) ∑ ∂

∂⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=

∂∂ ⋅

rt

k

trk

tk

tkr

tk

tk

PS

DD

PD

lnln

lnln |

.

(26) ∑ ≠∂∂

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=

∂∂

rtj

trk

tk

tkr

tj

tk jk

PS

DD

PD )(

lnln

lnln |

.

.    

(27) ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

∂∂

+∂∂

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=

∂∂

tr

trk

tr

tr

tk

tkr

tr

tk

yS

yf

DD

yD

lnln

lnln

lnln |

..

.

これらを需要の自己または交叉周辺価格(所得)弾力性と呼ぶ。

実際の1972~1981年の9地域種類別暖房用エネルギー需要推計データに適

用した結果の需要量およびシェアの実績値と理論値を図7.1~図7.9に示す。

表9は,推定されたパラメータの値とその誤差の標準偏差(漸近的分散共

分散行列の対角要素の平方根)を示す。

シェアのパターンには明らかな地域差が見られ,北海道地域のように灯油

がシェアの97%以上を占めしかも石油ショックの影響を受けない地域や関東,

近畿のようにガスのシェアの高い地域等の特徴がある。本モデルは,このよ

うにクロスセクションでのパターン差や時系列での適合度,特に,1979年の

第2次石油ショックによる灯油シェアの落ち込みを良好に表現していると言

えよう。

シェアt

rkS | の自己および交叉価格弾力性を表10に,自己所得弾力性を表11

に示す。需要の周辺価格弾性値と周辺所得弾性値を表12,表13に示す。

これらの結果から,以下のことが結論される。

(1) エネルギー需要量は地域,時点によって大きく変動する。それは気候

に依る所が支配的であり,所得の影響はきわめて小さく統計的には有意

でない。

(2) しかし,エネルギー種類別シェアは地域内できわめて安定している。

- 282 -

これらは過去電気,ガス,灯油の相対価格がほぼ一定であったことによる。

しかし,1979年のように石油ショックによって相対価格が変化すれば,その

影響は直ちにシェアの変化として現われる。

(3) シェアの変化には地域差があり,①北海道,近畿は灯油の価格弾性値

の絶対値がきわめて小さい。②ガスの価格弾性値は関東,近畿が1未満の

絶対値を示す。その他の地域ではこの値が1.1~1.5であるが,北海道で

は約4,東北では約2という高い値を示す。

(4) 全国的に電気のシェアはほぼ一定である。ガスのシェアは温暖地域で

図7.1 地域別暖房用エネルギーシェア(北海道)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 283 -

図7.2 地域別暖房用エネルギーシェア(東北)

図7.3 地域別暖房用エネルギーシェア(関東)

- 284 -

図7.4 地域別暖房用エネルギーシェア(北陸)

図7.5 地域別暖房用エネルギーシェア(東海)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 285 -

図7.6 地域別暖房用エネルギーシェア(近畿)

図7.7 地域別暖房用エネルギーシェア(中国)

- 286 -

図7.8 地域別暖房用エネルギーシェア(四国)

図7.9 地域別暖房用エネルギーシェア(九州)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 287 -

表9 9地域暖房用エネルギー分析・ロジットモデルバラメ一夕推定結果

( )内…誤差標準偏差

** kλ 電 気 ガ ス 灯 油

-1.54 -4.06 -6.08 (0.452) (0.547) (0.964)

** lkβ

電 気 ガ ス 灯 油 北 海 道 -0.060 0.005 0.353

(0.038) (0.047) (0.079) 東 北 -0.017 0.147 0.397

(0.038) (0.047) (0.079) 関 東 0.009 0.232 0.423

(0.038) (0.047) (0.079) 北 陸 0.011 0.194 0.422

(0.038) (0.047) (0.079) 東 海 0.021 0.225 0.431

(0.038) (0.047) (0.079) 近 畿 0.043 0.261 0.464

(0.038) (0.047) (0.079) 中 国 0.022 0.208 0.421

(0.038) (0.047) (0.079) 四 国 0.040 0.225 0.442

(0.038) (0.047) (0.079) 九 州 0.009 0.220 0.413

(0.038) (0.047) (0.079)

高い傾向にあり,近畿を除き1979年の石油ショック時,灯油との間に代

替が生じたと言える。

(5) 所得弾力性にかんしては,1973年以降いずれの地域でも灯油は正,そ

の他の燃料は負となっているが,1972年のみ関東,東海,近畿,四国,

九州の温暖地域でガスが僅かながらも正の値をとる。特に近畿では灯油

の所得弾力性が負となっている。また,第1次と第2次の石油ショックの

度ごとに電気,ガスの所得弾力性が大きく低下している。例えば関東の

ガスの所得弾性値は,1973年から1974年にかけ-0.11が-0.18に,1978

年から1979年にかけ-0.16から-0.48へと変化している。これは価格弾

力性がほとんど変化していないことと対照的であり,各家計主体の低コ

- 288 -

表10 全国9地域暖房用エネルギーシェア

各時点において上段から電気,ガス,灯油の順に示されている。

北海道 東 北 関 東 北 陸 1972 -2.18247 -1.74787 -1.52695 -1.44220

(0.03418) (0.06302) (0.07270) (0.08659)

-3.02566 -2.02621 -1.32761 -1.57574 (0.02448) (0.11976) (0.26509) (0.17597)

-0.05297 -0.17355 -0.36197 -0.25881 (2.20622) (1.74190) (1.34635) (1.38862)

1973 -2.10128 -1.66462 -1.44285 -1.33640 (0.05347) (0.09024) (0.09462) (0.11071)

-2.94502 -1.92402 -1.19568 -1.44387 (0.03093) (0.14913) (0.31224) (0.20119)

-0.07433 -0.22079 -0.42245 -0.29245 (2.03672) (1.56905) (1.15029) (1.17861)

1974 -2.01437 -1.56317 -1.33659 -1.24335 (0.06365) (0.10310) (0.10252) (0.12197)

-2.86524 -1.84379 -1.10510 -1.37490 (0.01874) (0.11426) (0.26869) (0.16337)

-0.07156 -0.19131 -0.36242 -0.25312 (1.85586) (1.39996) (0.99584) (1.04133)

1975 -1.95186 -1.49954 -1.28299 -1.19065 (0.06997) (0.10920) (0.10659) (0.12731)

-2.79827 -1.76973 -1.03899 -1.31440 (0.01836) (0.11355) (0.26726) (0.16203)

-0.07374 -0.18743 -0.35171 -0.24600 (1.71921) (1.27487) (0.89855) (0.94618)

1976 -1.94066 -1.47961 -1.25688 -1.16438 (0.05102) (0.08266) (0.08407) (0.09968)

-2.76724 -1.73224 -1.00928 -1.27167 (0.01325) (0.09091) (0.23067) (0.13437)

-0.05228 -0.13978 -0.28460 -0.18764 (1.66850) (1.21878) (0.85963) (0.88814)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 289 -

の自己価格弾力性

( )内…交叉価格弾力性

東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州

-1.38709 -1.02759 -1.42852 -1.18098 -1.60189 (0.09125) (0.09893) (0.10078) (0.12007) (0.08133)

-1.35385 -0.88608 -1.54369 -1.31516 -1.52447 (0.23282) (0.24237) (0.20607) (0.20823) (0.25146)

-0.33900 -0.35350 -0.32148 -0.34329 -0.36067 (1.28722) (0.81469) (1.42885) (1.15595) (1.53846)

-1.28934 -0.93578 -1.32398 -1.08029 -1.51661 (0.11547) (0.10979) (0.13213) (0.14709) (0.11212)

-1.22280 -0.77322 -1.41267 -1.19734 -1.39267 (0.26623) (0.24790) (0.24148) (0.23095) (0.30983)

-0.38337 -0.34775 -0.37735 -0.37884 -0.44658 (1.08552) (0.65218) (1.21664) (0.96676) (1.33385)

-1.18534 -0.84035 -1.21467 -0.97305 -1.40263 (0.12486) (0.10610) (0.14798) (0.15574) (0.12841)

-1.13979 -0.68673 -1.33221 -1.11320 -1.30318 (0.22360) (0.20294) (0.19986) (0.18782) (0.26771)

-0.32839 -0.27008 -0.33332 -0.32186 -0.39862 (0.93805) (0.52380) (1.06101) (0.81814) (1.16898)

-1.13258 -0.78905 -1.15499 -0.91819 -1.34171 (0.12901) (0.10185) (0.15368) (0.15679) (0.13554)

-1.07789 -0.62785 -1.26376 -1.04982 -1.22922 (0.22096) (0.18816) (0.19778) (0.18174) (0.26919)

-0.31663 -0.23399 -0.32326 -0.30158 -0.39365 (0.84582) (0.44443) (0.95572) (0.72620) (1.05678)

-1.10891 -0.75668 -1.14232 -0.89974 -1.32136 (0.10357) (0.08352) (0.12557) (0.13034) (0.10703)

-1.04385 -0.58635 -1.23792 -1.01608 -1.20167 (0.13979) (0.16243) (0.17035) (0.15752) (0.23092)

-0.25299 -0.18127 -0.26222 -0.24359 -0.31735 (0.80438) (0.39177) (0.92966) (0.69056) (1.02664)

- 290 -

表10 (つづき)

北海道 東 北 関 東 北 陸 1977 -1.91450 -1.45401 -1.23062 -1.13784

(0.04473) (0.07436) (0.07717) (0.09055) -2.73114 -1.70184 -0.99037 -1.24235 (0.01044) (0.07700) (0.20437) (0.11711) -0.04377 -0.11788 -0.24661 -0.15966 (1.59933) (1.16425) (0.82531) (0.83909)

1978 -1.89165 -1.43135 -1.20817 -1.11064 (0.04210) (0.07047) (0.07409) (0.08531)

-2.70143 -1.67322 -0.97104 -1.20898 (0.00962) (0.07110) (0.18889) (0.10813)

-0.04006 -0.10720 -0.22422 -0.14249 (1.54208) (1.11539) (0.79204) (0.78622)

1979 -1.82195 -1.36454 -1.15229 -1.04758 (0.10007) (0.13178) (0.10715) (0.12356)

-2.67540 -1.60618 -0.84962 -1.12758 (0.02160) (0.13100) (0.27918) (0.15714)

-0.09336 -0.19786 -0.32126 -0.19938 (1.46071) (1.01242) (0.64522) (0.67577)

1980 -1.84762 -1.38646 -1.15933 -1.05647 (0.05373) (0.08236) (0.07556) (0.08536)

-2.66329 -1.62477 -0.88618 -1.14024 (0.00893) (0.07668) (0.20916) (0.10621)

-0.04755 -0.11618 -0.23020 -0.12987 (1.45705) (1.03246) (0.68277) (0.68199)

1981 -1.81354 -1.35141 -1.12469 -1.01937 (0.05776) (0.08389) (0.07345) (0.08133)

-2.62640 -1.57758 -0.83679 -1.08866 (0.00919) (0.08030) (0.20843) (0.10408) -0.04953 -0.11474 -0.21713 -0.11652 (1.38313) (0.95874) (0.61569) (0.60653)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 291 -

東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州

-1.08437 -0.72545 -1.12023 -0.87195 -1.29371 (0.09525) (0.07617) (0.11529) (0.11860) (0.09713)

-1.02172 -0.55362 -1.21617 -0.98377 -1.18059 (0.16829) (0.14400) (0.14982) (0.13879) (0.20142)

-0.21929 -0.14857 -0.22791 -0.20727 -0.27210 (0.76777) (0.34428) (0.89482) (0.64442) (0.99010)

-1.06233 -0.70201 -1.10306 -0.85399 -1.27572 (0.09096) (0.07319) (0.11018) (0.11355) (0.09304)

-0.99879 -0.52854 -1.19723 -0.96229 -1.16612 (0.15625) (0.13405) (0.13965) (0.13057) (0.18612)

-0.19931 -0.12995 -0.20995 -0.19034 -0.24962 (0.73140) (0.30799) (0.86518) (0.61336) (0.96446)

-1.00290 -0.67226 -1.02409 -0.79033 -1.20065 (0.12858) (0.08013) (0.17075) (0.14782) (0.15184)

-0.90283 -0.48418 -1.09635 -0.88435 -1.02299 (0.22324) (0.14816) (0.21649) (0.17056) (0.30733)

-0.27572 -0.13309 -0.31884 -0.23701 -0.40462 (0.60832) (0.25743) (0.71699) (0.50540) (0.77403)

-1.01209 -0.66361 -1.04558 -0.80179 -1.22137 (0.09317) (0.06198) (0.12349) (0.11417) (0.10729)

-0.92676 -0.47714 -1.12650 -0.89824 -1.07577 (0.16450) (0.11966) (0.15267) (0.12803) (0.22246)

-0.17460 -0.09573 -0.22065 -0.17362 -0.28407 (0.63335) (0.23908) (0.76010) (0.52252) (0.84268)

-0.97868 -0.63028 -1.01376 -0.76876 -1.18485 (0.09018) (0.05574) (0.12384) (0.10809) (0.10694)

-0.37993 -0.43674 -1.08136 -0.85166 -1.02036 (0.16299) (0.10758) (0.15671) (0.12413) (0.22819)

-0.18050 -0.07043 -0.21508 -0.15394 -0.27788 (0.56955) (0.18211) (0.69846) (0.46064) (0.76855)

- 292 -

表11 全国9地域暖房用エネルギーシェア

各時点で上段から電気,ガス,灯油の順に示されている。

北海道 東 北 関 東 北 陸 1972 -0.19207 -0.11188 -0.08231 -0.06341

-0.26446 -0.08540 0.01590 -0.02819

0.00521 0.00952 0.00139 0.00762 1973 -0.38003 -0.29243 -0.24146 -0.23535

-0.42582 -0.23339 -0.10781 -0.16537

0.01436 0.03630 0.05084 0.04772 1974 -0.58898 -0.49616 -0.42784 -0.42972

-0.55181 -0.33048 -0.17504 -0.24561

0.02246 0.05682 0.08827 0.08015 1975 -0.67906 -0.58197 -0.50094 -0.50998

-0.62410 -0.39487 -0.22503 -0.30302

0.02875 0.07262 0.11753 0.10397 1976 -0.67576 -0.58235 -0.50300 -0.51114

-0.62642 -0.39670 -0.22538 -0.30539

0.02093 0.05647 0.09778 0.08417 1977 -0.65760 -0.56849 -0.49620 -0.50024

-0.59223 -0.36319 -0.19718 -0.27352

0.01774 0.04777 0.08184 0.07194 1978 -0.61151 -0.52629 -0.46251 -0.46224

-0.53828 -0.31387 -0.15726 -0.22808

0.01562 0.04109 0.06715 0.06107 1979 -1.08131 -0.94977 -0.79944 -0.86588

-1.00322 -0.72883 -0.48335 -0.62246

0.06845 0.16569 0.28094 0.21691 1980 -1.05334 -0.94793 -0.81918 -0.86613

-0.95287 -0.68884 -0.45507 -0.58134

0.03403 0.09367 0.18322 0.13605 1981 -1.15518 -1.04488 -0.89835 -0.96343

-1.05628 -0.78750 -0.53598 -0.68045

0.04099 0.11109 0.21907 0.15565

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 293 -

の所得弾力性

東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 -0.05443 -0.02418 -0.04882 -0.01817 -0.07752

0.00623 0.03843 -0.01307 0.00118 0.00220 0.00309 0.00879 0.00583 0.00196 0.00424 -0.21569 -0.17745 -0.21147 -0.17832 -0.23717 -0.11949 -0.07687 -0.14107 -0.12281 -0.12268

0.05290 0.05718 0.05212 0.05738 0.05159 -0.40083 -0.35937 -0.39413 -0.35793 -0.42020 -0.18680 -0.13306 -0.20996 -0.18444 -0.18959

0.09293 0.10706 0.09224 0.10591 0.09058 -0.47506 -0.43408 -0.46812 -0.43173 -0.49167 -0.23774 -0.18290 -0.26118 -0.23441 -0.23835

0.12235 0.14013 0.12086 0.13808 0.12068 -0.47638 -0.43197 -0.46940 -0.43160 -0.49529 -0.23914 -0.18097 -0.26364 -0.23637 -0.24108

0.10185 0.12023 0.10049 0.11679 0.09946 -0.46843 -0.42552 -0.46088 -0.42393 -0.48894 -0.20973 -0.15161 -0.23421 -0.20687 -0.21373

0.08676 0.10268 0.08619 0.10089 0.08324 -0.43423 -0.39375 -0.42620 -0.39035 -0.45519 -0.16846 -0.11223 -0.19213 -0.16517 -0.17352

0.07258 0.08515 0.07304 0.08588 0.06901 -0.78650 -0.76478 -0.76712 -0.74865 -0.77055 -0.51071 -0.47261 -0.52381 -0.51423 -0.47862

0.27703 0.29154 0.28317 0.29541 0.30011 -0.79951 -0.75890 -0.78526 -0.75284 -0.80060 -0.47910 -0.41928 -0.50065 -0.47699 -0.46312

0.18252 0.20852 0.18413 0.20430 0.19256 -0.88385 -0.85148 -0.86502 -0.84128 -0.87461 -0.56525 -0.51380 -0.58222 -0.56735 -0.53887

0.21453 0.23676 0.21955 0.23466 0.23268

- 294 -

表12 暖房用種類別エネルギー需要の周辺価格弾性値

各時点の ),( ji 要素の数値は ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⋅∂t

i

tj

PD

lnln

を示す。

電 気 ガ ス 灯 油 1972 1) -1.3419 8.49123E-02 7.76635E-02

2) .163768 -1.21484 .120365 3) 1.10003 .855587 -.165554

1973 1) -1.29499 8.10461E-02 6.30423E-02

2) .309652 -1.32566 .244187 3) .891119 .850934 -.225029

1974 1) -1.19636 .149752 .130481 2) .141437 -1.34561 .129661 3) .877035 .857091 -.155344

1975 1) -1.32285 .113975 9.91404E-02

2) .195046 -1.20687 .139191 3) .896374 .713094 -.169418

1976 1) -1.30233 .108902 9.65128E-02

2) .148393 -1.25966 .114483 3) .855422 .727897 -.143822

1977 1) -.804171 .226943 .157882 2) .165788 -1.21848 .107443 3) .866158 .691896 -.126783

1978 1) -1.32349 9.56644E-02 9.98083E-02

2) .157677 -1.20806 .139979 3) .829683 .666823 -.15481

1979 1) -1.28329 .109941 9.44108E-02

2) .285589 -1.21886 .245374 3) .686106 .647216 -.203731

1980 1) -1.26486 .120214 .112336 2) .161266 -1.23838 .143353 3) .712618 .649818 -.155793

1981 1) -1.36163 .10012 .100602 2) .132274 -1.10948 .103748 3) .823849 .556034 -.127224

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 295 -

表13 暖房用種類別エネルギー需要の周辺所得弾性値

各時点の ),( ji 要素は, ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⋅∂t

i

tj

YD

lnln

を示す。

電 気 ガ ス 灯 油

1972 北 海 道 -1.63368E-02 0 3.58229E-03 東 北 -4.16748E-03 1.29027E-03 3.40965E-03 関 東 3.26014E-03 7.36069E-02 8.22995E-03 北 陸 3.83964E-03 2.66794E-02 5.37066E-03 東 海 7.81513E-03 6.46395E-02 7.7993E-03 近 畿 1.40657E-02 8.92553E-02 9.35714E-03 中 国 8.25312E-03 3.67424E-02 6.3164E-03 四 国 1.19211E-02 5.64014E-02 7.06459E-03 九 州 1.8991E-03 2.64603E-02 3.81278E-03

1973 北 海 道 -1.15421E-02 8.15347E-04 7.55416E-03 東 北 -4.40438E-03 2.91795E-02 1.15209E-02 関 東 2.83754E-03 .050849 .011632 北 陸 3.99664E-03 1.95029E-02 7.32646E-03 東 海 4.41422E-03 3.58206E-02 8.70002E-03 近 畿 1.79963E-02 6.18715E-02 1.33118E-02 中 国 7.5018E-03 4.53926E-02 1.11732E-02 四 国 1.59963E-02 3.36579E-02 9.70541E-03 九 州 2.81996E-03 4.30832E-02 1.00437E-02

1974 北 海 道 -1.01802E-02 0 5.48202E-03 東 北 -5.02668E-03 8.98754E-02 1.07659E-02 関 東 3.35683E-03 .094893 1.58164E-02 北 陸 2.97501E-03 0 5.98172E-03 東 海 6.03994E-03 2.23696E-02 8.60443E-03 近 畿 1.53643E-02 .116407 1.70102E-02 中 国 7.2411E-03 .037103 1.13183E-02 四 国 1.73223E-02 1.19988E-02 1.15709E-02 九 州 2.21283E-03 5.00259E-02 9.38028E-03

1975 北 海 道 -1.22834E-02 0 5.59609E-03 東 北 -7.84859E-03 .024446 1.55502E-02 関 東 1.53517E-03 7.31714E-02 1.31553E-02 北 陸 4.56386E-03 5.34674E-02 1.44745E-02 東 海 8.2695E-03 6.56186E-02 1.47898E-02 近 畿 7.39098E-03 8.00521E-02 1.38865E-02 中 国 9.90721E-03 4.86295E-02 1.38922E-02 四 国 9.27952E-03 .041889 1.00564E-02 九 州 3.14457E-03 5.40085E-02 1.18345E-02

1976 北 海 道 -1.45801E-02 0 5.49017E-03 東 北 -6.02516E-03 2.64329E-02 1.22178E-02 関 東 2.50554E-03 .077307 1.22894E-02 兆 陸 4.79766E-03 5.85161E-02 1.39333E-02 東 海 6.67309E-03 4.07414E-02 9.72864E-03 近 畿 1.33205E-02 7.90571E-02 1.30441E-02 中 国 1.07903E-02 6.85422E-02 1.52991E-02 四 国 1.39404E-02 6.73241E-02 .012496 九 州 2.57823E-03 6.86756E-02 1.14583E-02

- 296 -

表13(つづき)

電 気 ガ ス 灯 油

1977 北 海 道 -9.54681E-03 4.62877E-05 6.05488E-03 東 北 -3.27327E-03 3.17884E-02 1.16783E-02 関 東 1.4013E-03 8.74591E-02 1.22331E-02 北 陸 3.68426E-03 5.41619E-02 1.42688E-02 東 海 3.40484E-03 7.27625E-02 1.13148E-02 近 畿 6.65767E-03 9.77154E-02 1.30799E-02 中 国 3.12475E-03 3.82451E-02 8.23998E-03 四 国 4.53275E-03 4.44261E-02 7.93441E-03 九 州 7.01225E-03 6.58331E-02 1.07528E-02

1978 北 海 道 -1.96868E-02 2.05029E-04 7.44066E-03 東 北 -7.16089E-03 2.55425E-02 1.38214E-02 関 東 1.53474E-03 7.84474E-02 1.26383E-02 北 陸 2.85994E-03 6.69755E-02 1.39394E-02 東 海 3.45031E-03 4.14516E-02 8.23755E-03 近 畿 1.26575E-02 8.19205E-02 1.41025E-02 中 国 1.33396E-02 4.37569E-02 1.44005E-02 四 国 .015255 .047628 1.18383E-02 九 州 2.5155E-03 7.71064E-02 1.31097E-02

1979 北 海 道 -1.08779E-02 3.534E-04 8.79437E-03 東 北 -6.03773E-03 5.09988E-02 3.41094E-02 関 東 3.44206E-03 7.00065E-02 2.58008E-02 北 陸 4.13472E-03 5.10338E-02 2.62067E-02 東 海 7.46351E-03 .043283 .020109 近 畿 1.19337E-02 5.56681E-02 2.24707E-02 中 国 8.19961E-03 5.29245E-02 2.52609E-02 四 国 1.58986E-02 4.63427E-02 2.25215E-02 九 州 3.61581E-03 5.81951E-02 2.42893E-02

1980 北 海 道 -1.49792E-02 3.3873E-04 9.08864E-03 東 北 -5.96655E-03 4.30236E-02 .021601 関 東 2.68887E-03 9.72493E-02 2.18329E-02 北 陸 7.22408E-03 5.53413E-02 2.48296E-02 東 海 6.59364E-03 7.57962E-02 1.95342E-02 近 畿 1.89026E-02 8.18459E-02 2.26719E-02 中 国 8.6133E-03 4.72861E-02 1.78542E-02 四 国 1.39084E-02 4.79665E-02 1.61718E-02 九 州 2.84525E-03 9.35114E-02 2.15584E-02

1981 北 海 道 -3.76378E-02 1.1397E-04 1.52856E-02 東 北 -2.02787E-03 .0268 1.00062E-02 関 東 4.05765E-03 .119902 2.41361E-02 北 陸 2.0753E-03 .026747 9.07235E-03 東 海 5.62011E-03 8.34257E-02 1.75314E-02 近 畿 3.5118E-04 .126914 2.48161E-02 中 国 1.61495E-02 .083981 2.57455E-02 四 国 1.89189E-02 3.50993E-02 1.68563E-02 九 州 4.76077E-03 6.06737E-02 1.68926E-02

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 297 -

表14 年間収入5分位データ月平均所得

(単位:104円)

I II III IV V total 1976 15.05 20.08 24.00 29.73 40.26 25.82

1977 16.77 22.28 26.80 32.60 44.57 28.60

1978 17.63 23.56 28.52 34.78 47.79 30.46

1979 19.35 25.68 30.68 36.94 50.37 32.60

1980 20.51 27.29 33.03 39.61 54.40 34.97

1981 22.32 29.66 35.87 42.62 58.69 37.83

スト暖房システムへの志向を示すものと考えられる。

3.4 多対ロジットモデルによるエネルギー種類別シェアの分析(III-全

国所得5分位データ)

所得5分位データは1976~1981の6時点が利用可能である。表14に各所得分

位の平均所得を示す。ここでも,1981年値は1976~1980年データを延長して

推計されている。いずれの地域においてもこの期間は年率約7.5%の安定的な

成長を示している。

所得分立クラスを )1( LLLll = とすると, t期の lクラス k種エネルギー

需要シェアを tkS lとした場合,

(28)

∑∑ ++

++=

j i

ti

tjji

tii

tjj

ttkk

ttkkt

kyPyP

yPyPS))(ln(lnlnlnexp

))(ln(lnlnlnexp

βμλ

βμλ lllll

とする。これは,3.2の対数ロジットモデルを )(ln),(ln ti

tj yP の二次元双線型

形に拡張したものである。 0=∀ lkβ ならば,価格と所得は分離される。尤度

関数は今までと同様に ..N をサンプルサイズ(時点によらず一定),tkR lを t

期における k種エネルギー lクラスの暖房需要に占めるシェアとすれば,

(29) ∑∑∑ +=t k

tkRNΦ

ll..ln const.

となる。前節と同様にして, ll kk βμλ ,, の最尤推定量が得られる。

さて,(28)式から様々な弾力性が導かれる。

- 298 -

A. tSlの価格弾力性と所得弾力性

(30) ∑ +−+=∂∂

j

tkj

tjkjk

tkkt

k

tk Syy

PS )ln()(

lnln βλβλ ll

l

(自己価格弾力性)

(31) ∑ ≠+−=∂∂

i

tki

tikikt

k

tj jkSy

PS

)()ln(lnln

  βλl

(交叉価格弾力性)

(32) ∑ +−+=∂∂

i

ti

tii

tkkt

t

SPPyS

lllll

l

l )ln()ln(lnln βμβμ

(自己所得弾力性)

(33) ∑ ≠+−=∂∂

i

ti

tiit

tkj jkSP

yS

)()ln(lnln

  lll

l

βμ

(交叉所得弾力性)

B. ∑=j

tkj

tk SS . および ∑=⋅

i

ti

t SS ll の周辺価格弾力性と周辺所得弾力性

(34) ∑ ∀∂∂

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=

∂∂

l

ll ),(lnln

lnln

.

. jkPS

SS

PS

tk

tj

tj

tj

tk

tj

(自己および交叉周辺価格弾力性)

(35) ∑ ∂∂

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=

∂∂

it

tki

tk

tki

t

tk

yS

SS

yS

ll lnln

lnln

.

.

(周辺所得弾力性)

(36) ∑ ∂

∂⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=

∂∂

jt

k

tj

t

tj

tk

t

PS

SS

PS

lnln

lnln

.

. l

l

ll

(周辺価格弾力性)

(37) ∑ ∂∂

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=

∂∂

itj

ti

t

ti

tj

t

yS

SS

yS

lnln

lnln

.

. l

l

ll

(自己および交叉所得弾力性)

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 299 -

C. )/( .|tt

ktk SSS lll = および )/( .|

tk

tk

tk SSS ll = の条件付価格弾力性と条件付所

得弾力性

(38) ),(lnln

lnln

lnln .| kj

PS

PS

PS

tj

t

tj

tk

tj

tk ∀

∂∂

−∂∂

=∂∂

  lll

(39) ),(lnln

lnln

lnln .| llll i

yS

yS

yS

ti

t

ti

tk

ti

tk ∀

∂∂

−∂∂

=∂∂

  

このように,条件付弾力性はtkS lの弾力性と周辺弾力性の差として表現さ

れる。t

kS |l についても同様である。

パラメータ推定値を,表15に示す。 ll kk βμλ ,, はいずれも高度に有意であ

り,所得とエネルギー価格は独立ではない。しかし所得階層間では,パラメ

ータはクラスの順に大きさを変えてはいるものの,その統計的有意差はデー

表15 所得5分位暖房用エネルギー分析,ロジットモデルパラメー

タ推定値 ( )内……誤差標準偏差

** kλ

電 気 ガ ス 灯 油 -6.69 -7.54 -8.49 (1.619) (1.837) (2.329)

** lμ

第I分位 第II分位 第III分位 第IV分位泣 第V分位 -7.54 -6.86 -6.51 -6.05 -5.61 (2.369) (2.153) (2.036) (1.920) (1.764)

** lkβ

電 気 ガ ス 灯 油 第 I 分位 1.91 2.25 2.66

(0.556) (0.632) (0.796) 第II分位 1.76 2.04 2.44

(0.507) (0.576) (0.725) 第III分位 1.67 1.94 2.32

(0.480) (0.544) (0.686) 第IV分位 1.58 1.81 2.17

(0.456) (0.514) (0.652) 第V分位 1.48 1.71 2.02

(0.419) (0.475) (0.600)

- 300 -

タ期間が6年のため小さい。

暖房用エネルギーシェアの実績値と理論値を図8に示す。図8には,各所得

分位の月当り一世帯平均暖房用エネルギー需要tD l. を平均所得

tylで説明した

理論値とtD l. の実績値が対照して示してある。ここで,

tD l. をtylで説明する

回帰式は以下の通りである。

(40) )8.317()105.0(ln435.01087.1ln 2

.    −

⋅+×−= − tt yD ll

713.02 =R

所得のみで説明を行ったため,所得階層間の変動は説明できても,気候条

件に影響される同一階層内の変動は誤差の一部と見なされる。図8に見られ

る通り(28)式の多対ロジットモデルは1979年の石油ショックによるシェアの

変化,時系列の変動パターンの階層間の差などをよく説明していると言えよ

う。

表16~表18にエネルギー種類についての周辺および条件付弾力性を示す。

表18のtkS l| の所得弾性値から,1977年まで電気,ガスが正,灯油が負であ

ったものが1981年にはすべての階層で逆転していること,しかもその逆転が

1979年以降に生じていることがわかる。

これは3.3の地域差分析で,灯油を用いるシステムへの志向が所得弾力性

の中に見られた点と共通するものである。ただし,3.3では灯油の所得弾力

性が負となった場合は1972年の近畿地域に限られていた。この点はここでの

結果とは相反する結果となっている。言うまでもなく地域間での所得弾力性

と所得階層間の所得弾力性を同一視することは正しくないが,双方の結果の

解釈には,やや検討の余地が残ると言えよう。

なお,価格弾力性は3.3の結果と近い値を得ている。また,図8から,石油

ショックに対して第IV分位が最も敏感に反応したこと,第III分位,第V分位

がおたがいに比較的似た行動をとり,シェアのパターンを前年からほとんど

変えていない点が注目される。

本節の結論を以下に要約しておこう。

1. 暖房用エネルギーの種類別需要を,需要量全体とエネルギー種類間シェ

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 301 -

図8 所得5分位暖房用エネルギーシェア

- 302 -

表16 所得5分位暖房用エネルギー需要tkS .(第 k種エネルギーシェア)

周辺価格弾力性と周辺所得弾力性

周辺自己価格弾力性(上段)と周辺交叉価格弾力性(( )内) 年 電 気 ガ ス 灯 油

1976 -1.26471 -1.19166 -0.21230 (0.08229) (0.17193) (0.92188)

1977 -1.10366 -1.01710 -0.17168 (0.07586) (0.14783) (0.72618)

1978 -1.00465 -0.91142 -0.15069 (0.07357) (0.13660) (0.60614)

1979 -0.87523 -0.74515 -0.16172 (0.08948) (0.16381) (0.43073)

1980 -0.78789 -0.66206 -0.09638 (0.06235) (0.11482) (0.33950)

1981 -0.66822 -0.52721 -0.05789 (0.05374) (0.09586) (0.19568)

周辺所得弾力性(上から電気,ガス,灯油) 年 I II III IV V

1976 0.10246 0.11554 0.11744 0.15441 0.17472 0.14318 0.12458 0.12226 0.13274 0.15536 -0.02991 -0.02801 -0.02779 -0.03220 -0.03723

1977 0.10734 0.12243 0.12461 0.16432 0.18477 0.16573 0.14540 0.14320 0.15699 0.18395 -0.03454 -0.03255 -0.03238 -0.03770 -0.04355

1978 0.12426 0.13644 0.13728 0.17465 0.18881 0.18205 0.16539 0.16279 0.18084 0.20296 -0.04019 -0.03852 -0.03816 -0.04428 -0.04909

1979 -0.09178 -0.08480 -0.08917 -0.06582 -0.05863 -0.01811 -0.05059 -0.05975 -0.06254 -0.04539 0.01620 0.02336 0.02619 0.02390 0.01873

1980 -0.06618 -0.04192 -0.04484 0.01187 0.04298 0.07865 0.01578 0.00397 0.00281 0.05512 -0.00869 0.00095 0.00347 -0.00165 -0.01451

1981 -0.11207 -0.08879 -0.09584 -0.03380 -0.00959 0.03652 -0.03172 -0.04843 -0.04662 -0.00233 0.00353 0.01489 0.01890 0.01256 0.00139

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 303 -

表17 所得5分位暖房用エネルギー需要 tkS l| (所得階層内種類別シェア)の

条件付自己価格弾力性と条件付交叉価格弾力性

(上段から電気,ガス,灯油) I II III IV V

1976 -1.45070 -1.35132 -1.30335 -1.24809 -1.13255 (0.07068) (0.07717) (0.07599) (0.08960) (0.09173) -1.23729 -1.25571 -1.22022 -1.22652 -1.07279 (0.20384) (0.16986) (0.16077) (0.16174) (0.17026) -0.24078 -0.20556 -0.19152 -0.20779 -0.21435 (1.04062) (0.98145) (0.92517) (0.92469) (0.79722)

1977 -1.25036 -1.17505 -1.12527 -1.10883 -0.98930 (0.06457) (0.07095) (0.06954) (0.08335) (0.08445) -1.02394 -1.06787 -1.02979 -1.08021 -0.92269 (0.17370) (0.14573) (0.13728) (0.14087) (0.14701) -0.19292 -0.16532 -0.15133 -0.17279 -0.17410 (0.80078) (0.76859) (0.70935) (0.75981) (0.63164)

1978 -1.15624 -1.07867 -1.02318 -1.00917 -0.88942 (0.06329) (0.06927) (0.06760) (0.08079) (0.08108) -0.92438 -0.96439 -0.91953 -0.97307 -0.81606 (0.16073) (0.13531) (0.12695) (0.13058) (0.13473) -0.17216 -0.14632 -0.13130 -0.15245 -0.14970 (0.68858) (0.65159) (0.58506) (0.63975) (0.51488)

1979 -0.96699 -0.91379 -0.88850 -0.89159 -0.79510 (0.07494) (0.08290) (0.08020) (0.10323) (0.09757) -0.68794 -0.76364 -0.75576 -0.82861 -0.70014 (0.18771) (0.16017) (0.14920) (0.16674) 0.16103) -0.17557 -0.15087 -0.13546 -0.17891 -0.16538 (0.43768) (0.43728) (0.41152) (0.48261) (0.39279)

1980 -0.87951 -0.83244 -0.79075 -0.81212 -0.70954 (0.05135) (0.05752) (0.05452) (0.07251) (0.06921) -0.61130 -0.68742 -0.65978 -0.75193 -0.61606 (0.13335) (0.11261) (0.10209) (0.11582) (0.11392) -0.10739 -0.09039 -0.07459 -0.10990 -0.09856 (0.35107) (0.34972) (0.30117) (0.40025) (0.30385)

1981 -0.72696 -0.69518 -0.66143 -0.70401 -0.60597 (0.04257) (0.04860) (0.04590) (0.06497) (0.06043) -0.45059 -0.53804 -0.51878 -0.63206 -0.50330 (0.10377) (0.09218) (0.08319) (0.10282) (0.09729) -0.05666 -0.05023 -0.03745 -0.07883 -0.06286 (0.17697) (0.18713) (0.14693) (0.27246) (0.18594)

- 304 -

表18 所得5分位暖房用エネルギー需要tkS l| (所得階層内種類別シ

ェア)の条件付所得弾力性 (上から電気,ガス,灯油)

I II III IV V

1976 0.68179 0.68047 0.64984 0.65720 0.61275 0.84152 0.71736 0.67118 0.61982 0.59189 -0.18557 -0.14784 -0.13752 -0.14235 -0.16113

1977 0.72347 0.72433 0.69157 0.69757 0.64523 0.97510 0.84440 0.79197 0.73413 0.69385 -0.21958 -0.17332 -0.16187 -0.16381 -0.18637

1978 0.79040 0.78720 0.75063 0.75103 0.68935 1.08958 0.95247 0.89428 0.82918 0.77677 -0.25302 -0.20168 -0.18979 -0.19042 -0.21642

1979 -0.54425 -0.45968 -0.44058 -0.34450 -0.29551 -0.21973 -0.27368 -0.27751 -0.24937 -0.19183 0.12085 0.11524 0.10930 0.10598 0.09687

1980 -0.21128 -0.13593 -0.12816 -0.05531 -0.03388 0.23100 0.14743 0.12629 0.12035 0.14671 -0.03880 -0.01506 -0.01080 -0.01470 -0.02633

1981 -0.48784 -0.39860 -0.38101 -0.28553 -0.24095 -0.05476 -0.12376 -0.13469 -0.11756 -0.06757 0.04916 0.05600 0.05439 0.05231 0.04388

アの2段階に分けモデル化した。前者は気候条件によってほぼ説明され,

所得の影響は無視できる程度にすぎない。すなわち,所得の回帰係数は統

計的には有意でない。

2. これに対し,エネルギー種別のシェアは,全国レベル,地域別レベル,

所得階層レベルのいずれも,時系列で見ると1978年までは比較的ゆるやか

に変化している。

3. しかし,電気,ガス,灯油の相対価格の変化には敏感に反応する。こと

に,1979年の第2次石油ショックによる影響が明瞭である。

4. 相対価格に対する反応のしかたは地域,階層間で一様ではない。寒冷地,

近畿,所得第V分位では反応が低く,関東,東海,所得第IV分位では反応

が大きい。本報告で用いた拡張多対ロジットモデルによってこれらの差は

かなり良く説明された。また,このモデルから種々の弾力性が計測された。

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 305 -

この結果,灯油の所得弾力性は正であり,家計の低コスト暖房システムへ

の志向が示唆された。

4. 冷房用エネルギー需要の分析

暖房用エネルギーに次ぎ,冷房用エネルギーの分析を9地域データおよび

所得5分位データについて行う。

r地域の冷房用エネルギー需要 trC を,3.2,3.3で用いた所得データ t

ry と r

地域の t期7月~9月平均気温 trQ で説明を行なう。表2および表19の100世帯当

りエアコン普及台数データから,北海道,東北は元来冷房に対する需要がき

わめて少ないと考えられるので,この2地域は除いて分析を行った。

表19 9地域エアコン普及台数(100世帯当り)

北海道 東北 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州

1972 0.35 1.8 7.7 6.9 8.9 20.1 12.5 16.3 5.3 1973 0.4 1.0 10.2 7.3 15.7 27.6 17.4 14.8 7.9 1974 2.4 2.8 10.4 10.1 13.4 23.3 16.9 10.6 8.8 1975 0.8 3.4 16.4 13.4 15.8 33.9 20.1 20.9 12.6 1976 1.6 4.0 17.6 13.8 19.9 37.4 23.8 23.5 15.0 1977 1.6 5.4 26.8 23.3 28.3 42.7 29.7 30.7 19.2 1978 5.0 5.0 45.1 25.5 34.2 73.1 49.1 49.1 36.9 1979 9.2 9.2 49.5 34.6 57.5 83.7 54.3 54.3 45.5 1980 8.5 8.5 58.8 37.7 61.1 89.9 60.0 60.0 48.5

図9には,関東,近畿,九州地域の1972年~1981年8月~10月分電気代支出

に基づく冷房用エネルギー需要の実績値推計データを示す。

この場合,対数線型回帰は良い結果を与えず,線型回帰

(41) )86.9()23.5(

6.26354.101027.1 4

    

−⋅+×= − tr

tr

tr QyC

676.02 =R 

が最も良い結果であった。2R が低いという留保条件のもとで夏期平均気温

が1上昇すれば,冷房用エネルギー需要は約10.5×103kcal増加すること,

これは約83,000円の所得の増加による需要増に相当することを示す。

- 306 -

図9 地域別,勤労者世帯冷房用エネルギー需要

(8月~10月支出による推計値)

すなわち,所得の増減がもたらす効果は気候の及ぼす効果に比べれば僅小と

言える。

これに対し,表19に示す100世帯当りエアコン普及台数を同様に所得と平

均気温で説明すると,

(42) )2.15()12.9()8.10(14.33370.0ln875.1ln

      −+= t

rtr

tr QyA

780.02 =R となる。所得,平均気温とも高度に有意であり,ことに所得弾性値が1.875

ときわめて高い点が注目される。

これらから,所得増加は冷房機器の普及に貢献するものの,それがただち

に冷房用エネルギー消費の大幅な増加につながるわけではないことが示され

た。

なお,trA を冷房用エネルギー需要の説明変数に加えても説明力の改善はほ

とんど見られず F 値は逆に低下した。

所得5分位データによる冷房用エネルギー需要実績値を図10に示す。所得

の多い階層ほど需要が多い傾向は1977年~1978年については明らかである

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 307 -

図10 所得5分位冷房需要実績

が,1980年~1981年ではその傾向が逆転している箇所も多く階層間の差は明

確でない。また,需要の増加傾向もこれのみでは明瞭とは言えない。

以上から冷房用エネルギー需要の増減のほとんどは気候に左右されるもの

と言えよう。

ここで用いたモデルはきわめて簡単なものであり2R もそれほど高いとは

言えないが,冷房機器のストック等を考慮したより詳細なモデル化が現在室

田(6)等によって進められており,本報告と同様の結論を導いている。

5. ベースロード需要の分析

9地域の電気,ガス,灯油のベースロード実績値推計データは表3~表5に

示されている。これと所得データtry との関係の簡単な分析を本節で行なう。

〔電 気〕

電気のベースロードエネルギーとしては,照明,厨房,動力,その他があ

る。図1.1に示した全国勤労者世帯の場合,年率6.3%の成長が見られる。地

- 308 -

表20 電 気,ガ ス,灯 油 9地域地域別所得

北 海 道 東 北 関 東 北 陸 r1α 0.400 0.621 0.455 0.407

(t ) (5.59) (7.69) (9.48) (7.18) 〔電気〕 R 2 0.796 0.881 0.918 0.866

r2α 0.289 0.377 0.212 0.394 (t ) (2.73) (7.33) (4.17) (8.87)

〔ガス〕 R 2 0.482 0.870 0.684 0.908

r3α -0.020 -0.123 -0.272 -0.100

(t ) (0.146) (1.11) (1.63) (0.287) 〔灯油〕 R 2 0.0001 0.133 0.249 0.010

for each krt

rkrt

kr Ykr βαβ += lnln:, rkr :α 地域 k 種エネルギーベースロード需要所得弾力性

)91,31( LLLL == rk krt α: の t 値

域データでも(表3)から,いずれの地域にも明らかな増加傾向が見られる。

全地域データと所得データでは,

(43) )52.1()0.11(774.0ln471.0ln−

−⋅=    

tr

tr yE

606.02 =R となる。 r地域の t期電気ベースロード需要を t

rE としている。 2R の低さは,

地域差が所得のみでは十分に説明できないことによるが,所得弾性値は有意

であり,0.471は比較的高い値である。おのおのの地域ごとに個別にエネル

ギー需要と所得の対数線型回帰モデルを適用した場合は適合度はきわめて高

くなる。表20には,地域内時系列データから求めた所得弾性値とその t値,

および2R を示す。東北,中国,四国の所得弾性値は他地域より高い。また

全体的に適合度は高いと言えよう。

このように,電気に対するベースロード需要は明らかに増加傾向にある。

〔ガ ス〕

ガスのベースロード需要は,給湯および厨房である。図1.2の全国勤労者

世帯データの場合,年率4.38%で成長している。地域データ(表4)でも電気

と同様の増加傾向が見られる。

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 309 -

ベ ー ス ロ ー ド 需 要 弾力性推計結果

東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 0.540 0.525 0.739 0.689 0.476 (9.55) (9.09) (8.43) (10.58) (8.45) 0.919 0.912 0.899 0.933 0.899

0.313 0.351 0.258 0.430 0.331 (4.71) (9.68) (2.52) (4.06) (3.66) 0.735 0.921 0.442 0.673 0.627 -1.14 -0.695 -0.734 -0.383 -0.939 (5.32) (4.89) (6.61) (1.77) (5.91) 0.780 0.749 0.845 0.282 0.814

(44) )85.1()10.6(244.1ln342.0ln

    −= t

rtr yG

296.02 =R  

となる。ここでtrG は t期 r地域のガスベースロード需要である。

給湯用エネルギー需要は地域差が大きいため,2R が低くなっている。し

かし所得弾力性は有意であり,0.342と比較的高い。

地域ごとに個別に推計した結果は表20に示した。この場合,北海道,中国

を除いて良好な適合度を示す。所得弾性値は電気より低いが,いずれも有意

である。

〔灯 油〕

ベースロードエネルギーとしての灯油はガスと同様,給湯と厨房である。

図1.3の全国勤労者世帯データでは,年率4.09%で減少している。北海道,東

北のような寒冷地では給湯に灯油を用いる場合が多いため,他地域に比し需

要が大きい。推定結果は,

(45) )78.3()25.2(94.10ln542.0ln

   −+−= t

rtr yK

054.02 =R  

となる。

- 310 -

地域ごとに推計を行った結果を表20に示す。灯油のベースロード需要では,

北海道,東北,北陸のように適合度がきわめて低く所得の回帰係数が統計的

に有意と言えない群,東海,中国,近畿,九州のように高い適合度と-1.14

~-0.70という負で大きな所得弾性値を示す群,および関東,四国のように

どちらとも言えない群の3群に分かれている。また,所得弾性値はいずれの

地域でも負となっている。すなわち,ベースロード需要に関しては全般的に

灯油から他のシステムへの移行が見られるものの,寒冷地ほどこの代替はき

わめて遅いと言えよう。

6. おわりに

家庭用エネルギー需要の用途・種類別需要を家計調査をもとに,暖房用エ

ネルギー需要を中心に行なった。全般的な結論として,以下の諸点が示され

た。

1. 暖房用エネルギー需要,冷房用エネルギー需要とも気候による影響が支

配的であり,所得の影響は小さい。

2. これに対し,ベースロード需要の場合は電気,ガスとも増加傾向にあり,

所得弾性値は電気:0.47,ガス:0.34,で有意である。

一方,灯油に関しては全般的に負の所得弾性値を示すものの,その絶対

値は高い地域,低い地域,どちらとも言えない地域と3群に明確に分かれ

た。

3. 暖房用エネルギー需要の種類別シェアを拡張多対ロジットモデルで地域

別,所得5分位別に行なった。モデルの適合は良好である。地域内,階層

内でのシェアの時系列変動は1978年までは小さいが,1979年の第2次石油

ショックによる相対価格の変化によって,シェアはかなり大きな変動を示

している。また多対ロジットモデルによってこの影響の地域差,あるいは

所得階層差はかなりの程度まで説明できた。

参 考 文 献

(1) R.S.Pindyck, The structure of World Energy Demand, MIT Press,

第7章 家庭用エネルギー需要の用途・種類別分析

- 311 -

1979 (2) 日本エネルギー経済研究所,国民生活水準と民生用エネルギー需要,

1980

(3) 資源エネルギー庁,総合エネルギー統計,1981

(4) 週刊東洋経済臨時増刊,地域経済総覧,1973~1982年度版,東洋経済新

報社,1973~1982

(5) 宮武,多対選択モデルの同定,第7回計測自動制御学会システムシンポ

ジウム予稿集,1981

(6) 室田泰弘,中上英俊,伊藤浩吉,家庭用エネルギー需要について,文部

省科研エネルギー特定研究ディスカションペーパー,1982.1

- 312 -

第8章 家庭用電力の時間帯別

電気料金制度の経済性

―北アメリカと日本の比較研究―

1. まえがき

北アメリカで実施されている時間帯別電気料金制度の社会実験の評価が依

然として定まらない現在,本論文の表題に示した如く,そこから日本にとっ

ての有益な示唆を導き出そうとするのは,さ程容易なことではない。実際の

ところ,これら一連の社会工学的な実験からその実験計画者が期待していた

程多くの結果が得られなかったにも拘わらず,家庭用電力需要の時間帯別料

金制度(1)に関しては,計量経済学の立場からみて,数多くの興味あるまた検

討に値する成果が得られている。家庭における電力需要のような小口の電力

消費部門の実態がほとんど解明されていない日本の現状についても,これら

の実験結果から推論あるいは示唆できる点は少なくないであろう。

現在,アメリカの電力会社で採用されている標準的な家庭用電気料金制度

は,基本料金に消費した電力量で決まる電力量料金を加算する方式となって

おり,消費電力量は数段階に区分され,各段階における料金率(KWh当りの

単価)は,より消費量の大きい段階ほど低くなる,いわゆる料金逓減制であ

る。第1次石油危機以前の日本の料金制度は,電力量料金が一定の単価(円

/KWh)で算定されていたが,その後米国と同様の料金体系に変更された。し

かし,根本的に相違する点は料金逓増制であり,これは電力需要の限界的増

加を抑制するため,基本的に電力消費を節約する効果を持っている。料金逓

減制がそれと逆の効果を有しているのは言うまでもない。

米国における電気料金の時間帯別料金制度の社会実験では,試験的に数多

くの料金率が採用された。また実験結果の比較のために,電力量料金単価が

(1) 時間帯別料金制度とは,time of use(TOU)あるいはtime of day(TOD)を意訳したものであり,TOUはTODと比較してより広い時間的な概念

を持っている。

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 313 -

年間を通じて使用時間帯によらない定率料金制度も実施された。季節別料金

制度は,1日の24時間における電気料金の単価は定率であるが,季節毎にそ

の料金単価が変化するものである。他方,時間帯別料金制度は1日の24時間

において,電力需要の殺到する時間帯(ピーク時)には料金単価を高く設定

し,そうでない時間帯(オフ・ピーク時)には低く設定するものである。そ

して,この料金体系のもとでは,ピーク時とオフ・ピーク時の中間時間帯に,

別な料金単価を設定するのも稀でなく,全体として季節毎あるいは1週間の

曜日によって変動させることもある。

アメリカの消費者と同様に,日本の消費者も時間帯別料金制度を特殊なシ

ステムと考えるかもしれないが,これは長距離電話料金の夜間割引とか旅行

の季節割引き等と本質的に全く同等の概念であり,これらは既に多くの人々

に広く受入れられているものである。ヨーロッパでは,電気料金の時間帯別

料金制度が早くから実施されていたし,一般に考えられているのとは異なり,

日本でもごく少数の大口電力需要家と電力会社の間で,この概念と等価な制

度の適用がかなり以前から実施されている。1964年頃から,日本の電力会社

は消費者に対しても,電気温水器の夜間給電を比較的安い料金で実施してい

る。そして近年になると,夏期電力需要の集中する7月から9月までは,産業

用電力需要家に対しても,その電力料金を10%高く設定する季節料金制度が

採用されている。しかしながら,これらに先がけて一部の大口電力需要家に

対しては,需給調整契約(ピーク時からオフピーク時への負荷移行や需給状

況に応じて負荷調整を実施するなどにより,節減される供給設備に見合った

料金の軽減をはかる契約)という名称の制度が実施されている。

電力会社が時間帯別料金制度を採用する理由は非常に単純なもので,通常

の料金体系よりももっと正確に電力の発送電の限界コストを需要家に負担さ

せたいからである。電力会社は電力需要の殺到するピーク・ロード時には,

待機中の予備火力発電所を稼働させて,需要増加に対処するが,これらの予

備火力は石油あるいは天然ガスといった高価な燃料を使用するので,当然の

ことながら発電した電力の限界コストはオフ・ピーク時に比べて上昇する。

時間帯別料金制度は,このピーク時の電力需要を平坦化する働きがあり,し

- 314 -

たがって電力の供給予備能力の新規増設の必要性をある程度まで抑制するこ

とが可能となる。現在の金利と発電プラント建設費を所与とすれば,わずか

2年でも新規の供給予備力の増設を抑制できれば,それは結果的に消費者と

電力会社の双方に多大な経済的利益をもたらすであろう。

ヨーロッパでは既に長年にわたる時間帯別電気料金制度の実施歴が存在し

ているにも拘わらず,第1次石油危機直後のアメリカでは,政府と電力会社

がともに料金制度の違いと電力の消費傾向の相違のゆえに,その直接的な導

入は不適切と考えていた。この制度の適用可能性を示す唯一の手段が社会実

験であり,いまやアメリカの至る所で,この実験が行われている。カナダで

は,外国の実施結果は参考にはなるが,あくまでも独自にその社会実験を行

って最終的な評価を下すという立場から,現在そのための準備が進行中であ

る。というのは,たとえばアメリカでは夏期の冷房用電力需要が問題になる

のに対し,カナダでは冬期の暖房用電力需要に焦点が絞られるからである。

日本の実状について述べると,家庭における電力需要の動向についてはさ

ほど研究されておらず,北アメリカの現状と大きく相違するが,これは日本

の電力需給問題を考える上で,家庭用電力需要は他の産業部門の需要と比較

して,現在さほど大きな比重を占めていないからであろう。しかし近い将来

においては,その比重がもっと大きくなることは言うまでもなかろう。外国

で実施された時間帯別料金制度の社会実験結果を安直に日本に応用するのは

不適当ではあるが,そうした実験結果は電力会社と消費者の関係を知る上で

の一つの基本的な糸口となるのは疑いないであろう。

次の第2節では北アメリカで実施された時間帯別料金制度の社会実験の基

本的な考え方を述べ,第3節ではその主要な実験例を解説し,そして第4節で

その実験結果の概要を紹介する。第5節では公開されている資料を参照しな

がら,日本の時間帯別料金制度について議論し,第6節で仮説的な結論を引

き出すことにしよう。

2. 社会実験の概要

1960年代の後半からアメリカおよび一部カナダでは,重要な社会経済政策

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 315 -

の問題点を探るため,政府機関により一連の社会実験が企画立案され,そし

て実施されてきた。これは小規模集団を実験対象として取り上げ,それに諸

種の社会経済政策を試験的に適用し,その反応を観察するものである。これ

により,未だかつて実施された例のない潜在的政策が持つ効用の推定が可能

となる。典型的な実施例として所得保証プログラム(負の所得税制),時間

帯別電気料金制度,住宅補助金制度,医療費償還制度が挙げられる(2)。しか

しながら,このような社会実験の実施に要する費用は相当高価につく。ちな

みに,Hausman(1980)は米国で行われた4回の「負の所得税制」の実験コス

トは1億ドル以上であり,時間帯別電気料金制度の実験コストは総計2.500万

ドル以上に達するものと推定している。

これらの社会実験に付託された一連の社会経済政策のうち,本格的に施行さ

れたのは,ごくわずかしかないという事実は非常に興味深い。その理由の一

つは,実験目的の重複した実施例が多数あったこと,いまひとつは実験に付

託された社会経済政策そのものがあまりにも政治的にすぎたことであろう。

さらに,必ずしもすべての実験で計画担当者の予想していた有益な情報が得

られなかったという理由も挙げられる。これらの社会実験は計量経済学者に

新しい研究方向を示唆するとともに,結果として数多くの計量経済学上の諸

問題が実験データの解析を通じて見出された。一般の経済学者と異なり,計

量経済学者は社会政策的な分析を行うために必要な理論的解析手法の開発に

熱心に取組んだ。とはいえ,実験計画者が望んでいる情報の一切を,実験結

果から抽出するのを困難にするような様々な問題点が残されている。

問題点の幾つかは,社会実験そのものに付随する本質的なものであり,実

験計画者にとって回避できないものである。たとえば,社会実験に参加した

くないという人があらわれたため,政策が目標とする母集団,すなわち最終

的に政策が実行に移された場合に強制的に参加させられる人々の集団からの (2) 北アメリカで実施された社会実験のうち,カナダで実施されたのは,マニトバでの「負の所得税制」のみである。 オンタリオでは時間帯別電気料金制度の実験が準備中であり,ノバ・スコ

ティアでは,その検討段階である。これ以外の実験はすべてアメリカで行われ

たものである。

- 316 -

標本としては,片寄りが生ずることになる(3)。実験参加者に金銭的な報酬を

支給する方法だと,この問題は回避できるだろうが,厳密な計量経済学的な

分析を前提とするならば,各個人が実験に参加するか否かの意志決定過程を

モデル化することが必要となるのは言うまでもない(4)。社会実験に各家庭を

強制的に参加させるとしたら,このようなモデル化は不必要であるが,政治

的にみて,そうした強制は達成できそうにもない。

さらに実験期間中でも,実験集団からの脱退者が出てくることもありうる。

もし脱退者の発生になんらかの片寄りがあるとすれば,そのバイアスを補正

するような工夫がモデル化にあたって必要となろう(5)。また,予めわかって

いる有限期間内での実験において,各個人が長期間永続する場合と同じ反応

を示すとは限らない。そのため観測された短期の反応を解釈するにあたって

は,慎重を要するのである(6)。結局,恒久的な政策変更に直面した他の消費

者たちもまたおなじような行動様式をとるものと期待しうるような環境を,

短期の実験において計画的に作りあげることは不可能に近いのである。

たとえば,家庭用電力需要部門で時間帯別料金制度が実際に施行されたな

らば,電気器具製造業者はこの制度の持つ有利な点を活用するための種々の

器具(タイマー装置,蓄熱器)を大々的に販売しようとするが,実験期間中

の各家庭では,これらの器具はそれほど多く取り付けられていない。

さらに,この種の社会実験につきものの問題点として,実験計画のやり方

そのものにかかわるものがある。たとえば内生的階層化を行う,すなわち,

なんらかの内生変数の現在値または過去の値に基づいて母集団を作為的に階

層化した場合には,実験に付託された社会経済政策の効果の不偏推定量を求

めるために,複雑な非線型モデルが必要となる(7)。しかしながら,この種の

モデルは,その関数型と確率密度分布にかんする仮定の現実からのズレにた

(3) Hausman and Wise(1976,1977)参照。 (4) Aigner and Hausman(1980)参照。 (5) Hausman and Wise(1979)参照。 (6) この問題を軽減するために,ノースカロライナIIの実験では,実験

参加者が実験期間を過ぎても任意に同制度を活用できることとした。 (7) Housman and Wise(1981a,1986b)参照。

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 317 -

いして頑健性を欠くという難点をもつ。また,この内生的階層化法では,脱

退者や自己選択の問題の取扱いが複雑になるという欠点を有する。

このような問題があるにも拘らず,家庭用電力需要の時間帯別料金制度の

社会実験からは,非常に有益な情報が得られている。これは内生的階層化を

最小限に押えたこと,また実験によっては,強制参加のやり方をとったこと

によるのであろう。

この実験結果の分析は次の節で行うこととし,ここでは日本の現状にかん

する疑問を一つ呈しておこう。これまで日本で大規模な社会実験が実施され

ていなかったように思われる。社会問題をも含む種々の事柄に関して,日本

の社会が協調精神に富んでいるという通説からすれば,この種の社会実験が

試みられた例がないというのは幾分驚くべきことである。実際,むしろ驚く

べきなのは,個人主義に徹している北アメリカの社会で強制参加の社会実験

が実施されていることかもしれない。日本では社会実験は役にたたないのだ

ろうか?それとも日本人は持前の協調精神のおかげで,新しい社会経済政策は,

その確たる効果が何であるかがわからなくとも,その導入を認めるのであろ

うか?言いかえれば,なんらかの社会経済政策の施行にたいする政治的反対を

打破するために,社会実験的な証拠を示す必要はないのだろうか?この疑問

に対する明確な答は得られなかったが,その究明自体は非常に興味をそそら

れるものである。

3. 北アメリカの時間帯別電気料金制度の社会実験

アメリカの連邦エネルギー庁は,時間帯別電気料金制度を家庭用電力需要

に導入した場合の効果を調べるために,1975年より一連の社会実験を開始し

た。この実験に要する費用は連邦エネルギー庁,州政府および電力会社の資

金援助でまかなわれた。主要な実験目的は,Miedema,Lee and White

(1981,p.1)によれば

(1) 時間帯別電気料金制度を実際に施行する際の技術的及び制度上の問題

点を探る。

(2) 時間帯別電気料金制度に対する消費者の受入態度を調べる。

- 318 -

(3) 時間帯別電気料金制度の導入によって生ずる家庭部門の電力負荷曲線

の変化を分析するための基本資料を得る。

である。

Miedema他(1981)は,前後11回にわたって実施された時間帯別電気料金

制度の実験結果を系統的に解析し,表1にあるような興味深い結果を導いて

いる。これらの実験の前提条件として,実験期間は6ヵ月から最長36ヵ月に

わたり,実験参加者の約半数は強制参加者で,残り半数は自発的な任意参加

者であった。任意参加の場合,実験参加者には謝礼が支給され,強制参加者

には謝礼が支給された場合もあれば,されない場合もあった。実験に付託さ

れた料金制度は季節別よりもむしろ時間帯別料金制度に主眼がおかれ,実験

対象集団の大きさは最小140,家庭から最大1263家庭にわたった。この集団

の相対的規模は,その地域に送電している電力会社の全需要家庭の12%~87%

までの広がりを持っていた。したがって,これらの実験データから結論を一

般化するのは多くの場合困難である。

表1 主要な時間帯別電気料金制度の実験例

参加方式使用された料金率 の種類

実験の規模 (家庭数)

実 験 地 域a 実験

期間

(月) 強制謝礼 支給

定率

料金

季節別

料 金

時間帯

別料金

基準

集団

実験 集団

実験集団 の相対的 な大きさ

(%)

アリゾナ 6b × 0 0 28 0 140 19 アーカンサス 12 × 0 2 1 126 186 - コネチカット 12b × 0 0 1 200 200 29 ロサンゼルス 30 × 2 4 34 175 1093 21 ノースカロライナ I 12 × 0 0 1 98 102 87 ノースカロライナ II 14.18 × 0 0 13 86 514 81 オハイオ 18 × × 0 0 1 60 100 12 オクラホマ 12 2 4 6 90 510 77 プエルトリコ 11 × 0 0 10 60 339 56 ロードアイランド 13 0 0 1 130 170 60 ウィスコンシン 36b × 1 0 9 92 506 43

出典:Miedema他(1981,p.30.) a ノースカロライナI及びIIは,それぞれブルー・リッジ電力及びカロライナ電力を示している。

b 準備期間を除く。

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 319 -

表2 時間帯別電気料金制度の実験内容

時間帯の長さ 平日の料金比率 平日の料金差( /c /KWh)

地 域 料金率 の種類 季 節

ピーク時 中間時 平時 (ピーク時/平時) (ピーク時料金-平時料金)

基本料金 適用日(1)

ア リ ゾ ナ 16 年間 3 10 11 2.75-12.0 7.0-13.0 × 毎日 6 〃 5 8 11 3.0-6.0 5.0-10.0 × 〃 6 〃 8 5 11 1.67-6.0 3.0-7.0 × 〃

ア ー カ ン サ ス 1 夏 8 0 16 6.06 7.04 × 毎日 冬 8 0 16 1.06 0.07 × 〃

コ ネ チ カ ッ ト 1 夏 4 9 11 16.0 15.0 × 平日(2)

冬 4 9 11 16.0 15.0 × 〃 (2)

ロ サ ン ゼ ル ス 11 年間 3 0 21 2.5-6.5 3.0-11.0 × 毎日 11 〃 3 0 21 2.5-6.5 3.0-11.0 × 平日 1 〃 6 0 18 3.5 5.0 × 毎日 1 〃 6 0 18 3.5 5.0 × 平日 2 〃 9 0 15 5.0-9.0 4.0-8.0 × 毎日 2 〃 9 0 15 5.0-9.0 4.0-8.0 × 平日 3 〃 12 0 12 2.5-9.0 3.0-8.0 × 毎日 3 〃 12 0 12 2.5-9.0 3.0-8.0 × 平日

ノ ー ス カ ロ ラ イ ナ I 1 夏 8 0 16 2.1 1.26 × 毎日 冬 8 8 8 3.8 3.39 × 〃

ノ ー ス カ ロ ラ イ ナ I I 9 夏 10 6 8 2.19-6.19 2.12-5.50 × 平日(3)

冬 8 8 8 1.98-5.59 1.74-4.87 × 〃 (3)

2 夏 10 6 8 2.69 1.91 (4) 〃 (3)

冬 8 8 8 2.66 1.88 (4) 〃 (3)

2 春 12 0 12 1.21 0.32 (4) 〃 夏 12 0 12 1.46 0.70 (4) 〃 冬 12 0 12 1.27 1.21 (4) 〃

オ ハ イ オ 1 夏及び冬 6 0 18 22.8 8.7 × 平日 春及び秋 6 0 18 7.8 2.7 × 〃

- 320 -

表2-(続き)

時間帯の長さ 平日の料金比率 平日の料金差( /c /KWh)

地 域 料金率 の種類 季 節

ピーク時 中間時 平時 (ピーク時/平時) (ピーク時料金-平時料金)

基本料金 適用日(1)

オ ク ラ ホ マ 4 年間 9 0 15 1.7-3.33 1.6-4.2 × 毎日 2 夏 9 0 15 3.6,4.2 4.7,5.7 × 〃 冬 9 0 15 1.4,1.94 0.7,1.7 × 〃

プ エ ル ト リ コ 1 年間 12 0 12 3.5 7.5 × 平日 9 〃 6 0 18 1.97-6.2 3.88-12.75 × 〃

ロードアイランド 1 夏 9 4 11 1.8 1.53 × 平日 冬 13 0 11 1.8 1.53 × 〃

ウィスコンシン 3 夏 6 0 18 2-8 3.10-11.08 × 平日 冬 6 0 18 2-8 2.64-9.32 × 〃 3 夏 9 0 15 2-8 2.86-8.55 × 〃 冬 9 0 15 2-8 2.45-8.31 × 〃 3 夏 12 0 12 2-7.6 2.62-6.61 × 〃 冬 12 0 12 2-6.9 2.31-5.88 × 〃 1 夏 0 0 24 1.0 0 〃 冬 0 0 24 1.0 0 〃

(1) 毎日と書かれている以外は,すべて週末(土.日)は,平時とみなす。 (2) コネチカット地域の週末の料金率は,中間時(13時間)及び平時(11時間)が各々,3 /c /KWh,1 /c /KWhである。 (3) これらの料金率は,週末においては16時間の中間時及び8時間の平時を含む。 (4) 2種類の料金率のうち,一つは基本料金の他に負荷管理選択金をも含む。 出典:Miedema 他(1981,p.32.)

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 321 -

表2は,これら11回の実験で使用された電気料金率を示している。幾つか

の実験では単一の料金率しか採用しなかったため,多数の異なる料金率にた

いする反応の相違に注目する新古典派経済学的な需要分析が実施できず,基

準集団との比較を行う共分散分析のみに限定されている。ほとんどの実験は,

1日の24時間における時間帯別料金制度の他に,1週間の曜日毎にあるいは1

年間の季節毎にも,その料金率を並行的に変化させて実施された。時間帯別

料金制度の料金率は高低2段階が採用され,少数の実験例では高低の他に中

間的な値をも含めた3段階の料金率が採用された。また多くの実験例では,

料金率そのものを多数回変更して実験が実施された。これらの実験例に共通

するのは,基本料金制度がほとんど実施されなかったという点である。

4. アメリカにおける時間帯別電気料金制度実験のまとめ

この料金制度は,長期的にみてこの制度から生ずる利益が,新規に取付け

る付帯設備の費用およびこの制度の実施にともなう諸経費の合計を上回る場

合のみ,費用対便益の意味で実施が望ましいものである。

便益の一つの解釈としては,各家庭の諸活動ひいては電力の使用を電力需

要のピーク時から他の時間帯にずらすことによる費用の低下があげられる。

このコスト節約は,限界コストの低い発電施設を有効利用できること,お

よび発電所の新規増設を抑制することの当然の結果である。この利益の大き

さを知るには,種々の時間帯別料金制度のもとでの電力負荷曲線の全体を推

定し,それを電力の発送電に関する技術的なコスト・データに結びつけて,

異なる料金率のもとでの電力コストの変動を予測する必要がある。他方,家

計の厚生の変化によって便益をはかるという考え方もある。この意味での便

益を測るには,新古典派の厚生経済学的分析を行うための家計の意志決定最

適化モデルを開発する必要がある。

時間帯別電気料金制度の経済性を分析する計量モデルは,一般に2段階に

分割される。これは実験データの集録過程で,各データの集録間隔が異なる

ことに由来する。たとえば,電力の消費量とか天候のデータは1時間毎ある

いはもっと短時間の間隔で集録することが可能であるが,家計に関するもの

- 322 -

は,たかだか月毎あるいは四半期毎である。したがって,計量モデルの第1

段階というのは,特定家計の特定月(あるいは平均の月)における毎時の電

力消費量を,時刻や天候(8)などのように毎時変動する変数に回帰する。モデ

ルの第2段階では,第1段階で推定された回帰係数が家計間あるいは月別に,

どのように変動しているかが説明される。

この2段階の各々にどのような計量モデルを用いるかは,前に述べた2種類

の便益解釈に対する研究者の態度を反映するものといえる(9)。負荷曲線のシ

フトに注目する解釈を前提にすれば,第1段階の回帰分析でパラメータの数

が比較的多いモデルを用いて負荷曲線の形状をうまくとらえようとする。

そして第2段階では,必ずしも新古典派の需要理論には固執せずに,家計

の特性と料金率に線形回帰がなされる。他方,厚生の向上に注目する解釈に

立つ人々は,第1段階では簡単なステップ関数を採用し,第2段階で新古典派

的な需要関数を用いる。後者のやり方の欠点としては,次のようなものがあ

げられる。

(1) 電力負荷曲線全体の形状について合理的な説明がなされない。

(2) 家計の特性には第二義的な役割しか与えられない場合が少なくない。

(3) 電力需要のピーク時間帯を異にする家計を一括して扱うことが難し

い。

厚生経済学的な便益解釈の長所としては,ある特定の料金体系のもとで,他

の料金体系よりも高い効用を家計が得ているかどうかを判定するための電力

価格指数を構成できることがあげられる。

今までに作られた単一の二段階モデルでは,上述の解釈の双方を十分に満

足させるものはない(10)。オンタリオで実施されようとする時間帯別料金制度

(8) すべての実験参加者の家庭において,電気料金率は天候とは無関係に月

毎に一定の方針に基づいて変更されるので,その影響は時刻をパラメータ

ーとして把握される。 (9) Aigner and Poirier(1979)参照。 (10) 計算指向型の単一需要モデルがKoenker(1978),Hendricks and Koen-

ker(1980)により開発された計算指向型の単一需要モデルが一つのアイデアを示している。Hausman,Kinnucan and Mcfadden(1979)参照。

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 323 -

実験のために,Poirier及びMelino(1982)によって開発されたモデルは,この

両方の説明を目指している。そこでは,便益の両解釈に基いた結果が示され

ることとなり,いずれにしても実験の終了が待たれる。

時間帯別電気料金制度実験の定量的な結果を示す前に,一般的な定性的結

論の要約を述べる。前節で説明した合計11回の時間帯別料金制度の実験から,

Miedema他(1981,PP.111~114)は次のような結論を導いている。

(1) 時間帯別料金制度の参加者は,通常料金制度の消費者よりも,電力

需要のピーク時における電力消費量が少ない。

(2) 電力需要のオフ・ピーク時では,電力消費に対する時間帯別料金制

度の効果は無視できる程度に小さい。

(3) 時間帯別料金制度のもとでは,一般に1日の電力消費量は減少傾向を

示している。

(4) 年間を通じて電力需要が最大になる日(通常は年間を通じ,最も暑

い日または寒い日)には,電力需要が平均的な日に比べて,普通料金制

度と時間帯別料金制度では,ピーク時間帯における電力消費量の差が大

きくなり,時間帯別料金制度のもとではピーク時間帯の前後に幅の狭い

ピークが生じている。

(5) 電力多消費型の家計は,普通の家計よりも敏感に時間帯別料金制度

の料金率に反応している。これは電力多消費型の家計の方が電力消費の

価格弾力性の大きいことを示している。

(6) 一般に時間帯別料金制度に対する消費者の反応についての季節変動

は少ないと考えられるが,少数の実験例では,夏または冬に他の季節よ

りも強い反応が認められた。

(7) 時間帯別料金制度の“構造的効果”の方が,料金率の“変動効果”

よりも大きい。すなわち,現行の平坦な料金制度から何らかの時間帯別

料金制度に移行させることによって,平均的な家計の電力負荷曲線は大

きく変化し,同じ時間帯別料金制度のもとで料金率を変化させても負荷

曲線はさほど影響されない。

これらの定性的な結論について,次のような幾つかの点が指摘される。結

- 324 -

論(1)は,それほど驚くべきことではない。重要なのは,稀にしか統計的に

有意な差が見出せないという点である。電力需要のピーク時間帯に,直接的

かつ重要な影響を与え得る料金率の効果を検出できない実験は,実験計画そ

のものが不適切であるか,あるいは分析に使用したモデルが不十分であるか

のいずれかであろう。

結論(2)が示しているように,ピーク時の電力消費に対するオフ・ピーク

時の代替がほとんど認められないのは意外な結果である。Miedema

(1981,p.111)は,非常に注意深く計画された実験の一つであるロサンゼル

コネチカットにおける冬期の負荷曲線の代表例

図1 電力の普通消費型家計

出典:Hendricks 他(1979)

図2 電力の多消費型家計

出典:Hendricks 他(1979)

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 325 -

表3 時間帯別料金制度の新古典派的需要分析による価格弾力性

偏 価 格 弾 力 性 全 価 格 弾 力 性 弾力性実 験 季 節 及 び 関 数 型

オフ・ピーク時 ピーク時 オフ・ピーク時 ピーク時 コネチカット:冬 Lawrence and Braithwaite(1979):LES (-.360,-.294) (-.657,-.455) (-.291,-.196) (-.352,-.176) アリゾナ:夏 Aigner and Hausman(1978):TL -.188 -.483 -.015 -.048 Atkinson(1978):TL (-.635,-.409) (-.780,-.643) (-.507,-.278) (-.312,-.057) Lau and Lillard(1978):TL -.461 -.412 -.127 -.050 Miedema他(1978):TL (-.388,.036) (-.637,-.572) (-.845,-.028) (-7.82,.244) Taylor(1979) (-.50,-.06) (-.26.71) ウィスコンシン:夏 Aitkinson(1978):TL (-.239,-.094) (-.826,-.806) (.13,.386) (-.383,-.219) Caves and Christensen(1978):CES,TL, (-.854,-.059) (-.844,-.349) (-.191,.133) (-.203,.061) Caver and Christensen(1979):CES (-.595,-.395) (-.709,-.544) (-.118,-.093) (-.121,-.092) Miedema他(1979):CES (-.594,-.412) (-.717,-.543) (-.120,-.102) (-.120,-.110) ウィスコンシン:冬 Miedema他(1979):CES (-.570,-.348) (-.736,-.494) (-.090,-.001) (-.096,-.081) ロサンゼルス:通年

Manning and Acton(1978) -.054 (-.084,-.072)

出典:Hendricks and Koenker(1980) 注:偏価格弾力性および全価格弾力性の両方の数字が記載されている場合には,全価格弾力性は全需要弾力性を-0.1と仮定して求めている。点推定の代りに推定範囲が記載されている場合は,異なるピーク時とオフ・ピーク時の定義において求められた点推定の上限と下限を示している。推定に使用された関数型は研究者名の後に LES =線型支出型関数,CES =CES型関数,TL =トランス・ログ型関数,GL =一般化レオンティエフ型関数で示されている。

- 326 -

スの実験では,これと反対の結論が引き出されていると指摘している。

結論(3)は(1)と(2)から直接導き出されるものである。実際にMiedema他

(1981,p.111)は,週末のオフ・ピーク時においても,しばしば電力需要

が落ち込んでいると報告している。換言するならば,時間帯別料金制度は家

計の広範な節約行動に影響するものと考えられる。

結論(5)は全く自明なことであり,電力多消費型の家計は,本質的にこの

制度から最も大きな利益を得るからである。これらの家計は,ほとんど恒常

的に電力による空調設備(冷暖房)を使用しており,かりにこの料金制度を

完全に活用できる特別な機器(タイマー,蓄熱槽)を設置しなくとも,温度

調節器(サーモスタット)を時刻に応じて手動で調整すれば,この料金制度

から十分に利益を得ることが可能である。Hausman and Trimble(1981)は,

バーモントで恒久的に実施されている時間帯別料金制度の実状を分析し,電

力による空調(暖房)を行っている電力多消費型の家計では,平均して年間

300~500ドル程度の暖房費が節約されていると報告している。この事実は,

上述の社会実験の結論(5)を裏付けるものであろう。

また,電力需要のピーク期における電力需要の価格弾力性は小さいと考え

られており,結論(4)と(6)は,幾分奇異の感を免れなく,さらに検討が必要

である。結論(7)も同様である。

次に,定量的な結論に立ち入るが,まず,電力負荷曲線のシフトに焦点を

あてる。図1と図2は,第3節で述べたコネチカットの実験を,Hendricks,

Koenker and Poirier(1979)が分析した結果の代表例である。両方とも,現

行料金制度と時間帯別料金制度における,典型的な冬期一日の電力負荷曲線

を示している。図2は電力による完全な空調(暖房)を実施している家計であり,

図1はそれを行っていない普通消費型の家計である。図1および図2とも,時

間帯別料金制度の適用により,ピーク時の電力消費量が減少しており,うち

幾分かは電力需要のピーク時が深夜にずれ込むのがよくわかる。これは結論

(1)~(3)の妥当性を示すものであり,さらに詳しいことは,Miedema他

(1981)を参照されたい。

表3は新古典派経済学的な需要分析から得られた定量的結果の要約である。

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 327 -

この表中の数字は,電力需要のピーク時およびオフ・ピーク時における,偏

価格弾力性と全価格弾力性を示している(11)。しかし,これらの数字を実験例

間で直接に比較するのは適当でない。これは実験ごとに,電力需要のピーク

時とオフ・ピーク時の定義が本質的に異なり,また分析に使用された計量モ

デルの関数型も異なり,弾力性を推定するための実験集団の規模も異なるた

めである。また,第2節で指摘された社会実験に付随する問題点が,すべて

の実験例について共通していないことにもよる。

上述の点を念頭におけば,推定された弾力性に一定した傾向が見られない

のは,さして驚くことではない。表3の推定値の標準誤差が与えられれば,

その不明確さは一段と強調されるであろう。こうした結果は研究者に失望感

を与え,政策立案者に挫折感を持たせ,社会実験に懐疑的な人々には,当然

だという印象を与える。実験結果から一時的な推論(たとえば結論(1)~

(7))を導いたり,それらの結論を支持する数量的裏付け(たとえば図1,

2)を提供できる場合もあるが,価格弾性値の推定はきわめて困難なのが目

下の実状である。

結論そのものが錯綜しているからには,北アメリカの電力会社と消費者の

双方に,時間帯別料金制度が混乱した受け取り方をされるのは当然である。

最近のニュースで,Ebasco Business Consulting Companyが,1981年の

秋に行ったアメリカの132社の電力会社についての調査結果が報告されてい

る。これによると,回答を寄せた102社のうち70社は,この料金制度を既に

採用しているか,採用を検討しているか,あるいは最近採用したばかりかで

ある。この70社のうち50社は,全部で58種類の料金制度を家庭用電力需要部

門に適用しており,その内訳は7種類が強制参加であり,36種類が任意参加

で,15種類が実験中である。全需要家に占めるこの制度への参加者の割合は,

家庭部門で0.11%,商業部門で0.25%,産業部門で6%となっており,その比率

はいまだにごくわずかである。自由選択制の下での制度参加者は,家庭部門

で0.05%,商業部門で0.04%,産業部門で1.30%である。

(11) 偏価格弾力性は電力消費量が一定という条件で求められるのに対し,

全価格弾力性はこの条件を除外して求められる。

- 328 -

5. 日本の時間帯別電気料金制度

日本の電気事業は9つの地域電力会社と電源開発,日本原子力発電ならび

に沖縄電力によって営まれている。これ以外に32社の公営事業者,15社の共

同火力および少数の小規模な民営の発電会社がある。しかし,上述の9つの

地域電力会社が日本の電力の70%以上をまかなっているため,以下では9電力

会社に重点をおいて議論する。

これらの電力会社は株式会社として組織され,その地域の独占企業体とし

て,電力の発送電に対して責任を負っている。1981年における総発電電力量

のうち67%が火力発電,16%が原子力発電,17%が水力発電となっているが,

日本電力調査委員会(1981,p.7)の予測によれば,1991年にはこれらの比

率は各々56,32,12%になると推定されている。原子力発電施設と大規模な

火力発電施設が定常的な電力需要をまかない,電力需要のピーク時には揚水

発電所を稼動させる仕組みとなっている。表4は1955年から1981年までの9電

力会社の供給能力,ピーク需要及び供給能力に対する負荷率をまとめたもの

である。

発電能力および総発電電力量に関して,日本はアメリカとソ連につぐ世界

第3位に位置づけられる。1人当りのエネルギー消費量では,北アメリカの

40%程度で,これは西ヨーロッパ並すなわち仏,英,独よりも幾分少なく,

イタリアよりも若干多めである。1人当りのエネルギー消費量のうち電力の

占める割合は,米国の下限の値とカナダの上限の値の中間程度である。日本

の総エネルギー供給に占める電力の割合は年々増大してゆき,1979年には

34%を越えるに至った。

日本の総エネルギー消費に占める家庭消費の比率は,1970年代を通じて順

調な伸びを示し,1979年にはおよそ14%程度に達している。また総電力消費

に占める家庭用電力消費も同様であり,1979年には27%になっている。1人当

たりの家庭用エネルギーの消費量はアメリカの20%以下であり,カナダの25%

程度で,西ヨーロッパの約半分の水準である。しかしながら,1人当たりの

家庭用エネルギー消費に占める電力の割合は27%となっており,アメリカの

16%,カナダの25%および西ヨーロッパの10~20%と比較して,かなり

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 329 -

表4 電力供給能力,最大電力需要及び負荷率

年 電力供給能力

(A)(MW) 最大電力需要

(B)(MW)

差(A)-(B)=(C)(MW)

負荷率 (%)

1955 9.494 9.331 163 66.9 1960 16.892 16.892 0 67.4 1965 31.098 26.864 4.234 68.7 1970 50.607 48.964 1.643 69.8 1975 84.765 74.096 10.669 60.7 1976 91.207 79.099 12.108 61.1 1977 93.398 84.215 9.183 59.9 1978 99.444 88.622 10.822 59.7 1979 106.053 91.361 14.692 62.1 1980 111.253 89.095 22.158 62.8 1981 113.080 94.591 18.489

注:1 電力供給能力および最大電力需要は日本全体について集計されたもの

である。 2 負荷率は9電力会社についての平均で,次の式で求められている。

年間の負荷率=年平均電力需要

出典:OEISI(海外電力調査会)(1981,p.11,Table 5,)

高い数字を示している。

表5は日本における1965年,1972年および1978年の家庭用エネルギー需要

の内訳についてまとめたものである。エネルギー用途として炊事用及び暖房

用の%比率が変化している以外は,大体安定した傾向を示しているが,表の

数字は家庭部門における冷房用電力需要の急激な伸びをおおいかくしている。

実際のところ,年間の総電力消費量に占めるこの比率が低くても,夏期の電

力需要のピーク形成には,非常に大きな影響を与えている。将来についても,

この傾向が更に進むことはあっても,減少することはありえないと予想され

ている。たとえば,東京地区におけるクーラーの普及率は,1961年には1%弱

であったのが,1981年には60%となり,1990年には90%を越えると予想されて

いる。

この表はまた調理,給湯及び暖房に使用されるエネルギー源についても述

べている。これらの用途における電力消費は,現在のところさほど大きな比

年間最大電力需要の発生した月の,電力 需要の大きさ順に3日間を抽出し,その 平均の電力需要

- 330 -

表5 家庭におけるエネルギー消費

% 1965 1972 1978

家庭用エネルギー需要の内訳 (100) (218) (306) 照 明 13% 14% 14% 調 理 27 19 19 給 湯 26 24 26 暖 房 32 42 40 冷 房 0 1 1 調理用エネルギー (100) (136) (167) 電 力 6% 7% 8% 都 市 ガ ス 26 33 39 L P G 31 50 50 そ の 他 37 10 3 給湯用エネルギー (100) (199) (302) 電 力 1% 5% 12% 都 市 ガ ス 21 29 30 L P G 25 43 37 灯 油 12 18 20 石 炭 10 1 0 そ の 他 31 4 0 暖房用エネルギー (100) (289) (388) 電 力 6% 6% 8% 都 市 ガ ス 7 7 5 灯 油 48 83 86 石 炭 24 3 0 そ の 他 15 1 0

出典:家庭用エネルギー需要の動向に関する基礎調査 (資源調査会資料第86号,

1981)

率を占めていないが,今後は順調に伸びてゆくと予想される。

日本の電気料金制度は,基本料金に消費した電力量で決まる電力量料金を

加算する方式で構成されており,これは更に主として商業及び産業部門のた

めの電力契約と家庭部門の電灯契約に分類される。

電力契約においては,2種類の広範囲にわたる時間帯別料金制度が実施さ

れている。その一つは季節別料金制度と呼ばれる1980年から実施されている

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 331 -

制度である。これは電力需要の増大する夏期3ヵ月間(7~9月)について,他

の月よりも10%高の割増料金率を適用するものであり,もう一つは25年以上

の実施歴のある需給調整契約である。

東京電力で実施されている例を参考にして,需給調整契約について述べて

おこう。同社では,料金率と契約資格(契約電力の大きさ)によって,この

契約を分類しているが,ここでは負荷の調整機能に応じて次のように分類す

る。その第1は時間帯別調整契約で,時間帯別(ピーク時,オフピーク時,

軽負荷時,夜間)に料金率を定めており,ピーク時の負荷抑制,夜間への負

荷移行を促進するものである。第2は,負荷曲線別調整契約で,日々の電力

使用パターン(負荷曲線)を予め協定する等需給状況に見合ったきめ細かい

調整を行なうものである。その第3は瞬時調整契約で,電力会社が電力需要

のピーク時に,即時かつ一時的に電力供給を削減するものである。第4は休

日振替契約(予定調整契約を含む)で,夏期(7-9月)において,予め指定

された期間中,連続3日以上,電力消費量を50%以下に調整するものである。

第5は緊急時調整契約で,少なくとも3時間の猶予期間を置いて,需要家に3

時間以上,25%以上の電力供給削減を通告するものである。第6は通告調整契

約で,7月から9月までの夏期3ケ月間,需要家はその前日の夕方5時までに,

少なくとも25%以上の電力供給削減を通告されるものである。第7は定時調整

契約で,同じく7月から9月までの夏期3ケ月間,毎日午後1時から4時までの

電力需要のピーク時間帯において,予め決められた計画に従って30分以上の

間,30%以上の電力供給の削減を行うものである。第8は,業務用畜熱調整契

約で,ビルの地下などに設置された蓄熱槽を利用した蓄熱型の空調設備によ

り,昼間の電力消費量の5%以上を夜間消費に振向けるものである。

電力契約と異なり,電灯契約は本来,一般家庭における照明と小容量の電

気器具による電力需要を対象としており,最大契約容量は50KVAである。

これは4種類に細分化される。すなわち,定額電灯,従量電灯,臨時電灯,

および公衆街路灯の4種類であるが,ほとんどの契約は従量電灯である。

1974年以降この料金体系は,3段階の逓増料金制度に変更された。月間の電

- 332 -

力消費量が120KWhまでは比較的低い料金率で,120~200KWhまでは中程度の

料金率であり,200KWhを越える電力消費に対しては,供給設備の限界コスト

の逓増傾向を反映すべく割高に設定されている。

前に述べたように,家庭用電力需要部門で適用されている時間帯別料金制

度は,給湯用の深夜電力契約(午後11時から翌日の朝7時まで電力を供給す

る)のみである。1981年のKWhあたりの料金でみると,家庭用電力需要部門

の平均料金が28円03銭/KWhであるのに対して,深夜電力は16円12銭/KWhと非

常に低く設定されている。しかし,この深夜電力の契約は,都市ガスによる

給湯がほぼ同額のコストで供給可能なので,現在それほど普及していない。

この普及率は電力会社によって大きく異なり,1981年の数字で東京電力の3%

から中国電力の18%まで開いている。また,年間の総販売電力量に占める深

夜電力の比率は電力会社によっても異なるが,大体2~7%程度である。

このような一般的かつ定性的な議論はさておき,日本の家庭用電力需要の

実態については,ほとんど知られていない。特に他部門との比較を行うため

の電力負荷曲線に関するデータは,現在限られた範囲で実施されている時間

帯別料金制度のみならず,この制度の将来を検討する上で非常に重要なもの

である。

図3は,1980年8月における電力負荷曲線であり,全電力負荷曲線は第3水

曜日のもの,家庭部門の電力負荷曲線は1日当りの電力消費量の大きさ順に3

日間を選び,その平均とったものである。

この図から特に重要な点として次のことが指摘できる。すなわち,全体の

負荷曲線では,午後の早めに電力需要のピークが発生しているが,家庭部門

の電力需要のピークは夕方遅く(午後8時~9時頃)発生している。この時間

帯では他部門は相対的に低い水準に戻っている。

この重要な事実は次の解釈を生むであろう。北アメリカとの比較になるが,

日本の家庭部門における電力負荷曲線は,北アメリカのそれとは全く異なっ

た様相を示している。日本の家庭でも,夏期の電力需要のピーク発生は主と

して冷房用電力消費に依存するが,その発生時刻が北アメリカでは気温が最

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

- 333 -

図3 電力負荷曲線(A社)

1時間当たりの平均消費電力量=100

全体:1980年8月の第3水曜日の電力負荷曲線

家庭部門:同月の1日当たりの家庭部門の電力消費量の大きさ順に3

日間を抽出し,その平均の電力負荷曲線

も高くなる午後に集中するのに対して,日本ではこの時間帯ではなく,むし

ろ一家の主人が帰宅して家族と共に夕食をとり,テレビを見る夕方遅くに集

中している。このクーラーの使用時間帯の差というものは,電力需要の国際

比較を行う際の生活文化の違いを認識させるものである。

- 334 -

6. 結 び

北アメリカで実施された家庭用時間帯別電気料金制度の社会実験は,次の

ように要約できるであろう。実験結果の示すところによれば,ピーク時の電

力消費は確かに減少したが,それに比較してオフピーク時へのシフトは必ず

しも認められず,その結果,全体の電力消費が減少した。バーモントで実施

されている恒久的な時間帯別料金制度の実施結果について,Hausman and

Trimble(1981)が示唆している所によれば,電力多消費型の消費者(電力

による空調を実施している)は,ピーク時の電力消費削減のために,蓄熱槽

とかあるいは電力代替用の器具に対する資本投下を行うであろう。また多く

の消費者がピーク時の電力消費を削減するために,種々の電気器具の作動を

管理する自動タイマーの購入が有益であると考えている。そういった投資が

必ずしもすべての消費者にとって,有益であるとは限らないが,この料金制

度が任意加入であるならば,その制度に加入し,それらの機器の購入を決定

した消費者にとっては,明らかに利得が期待されるにちがいない。そして,

その消費者が電力の大口需要家ならば,電力会社にとっても時間帯別料金制

度は電力負荷曲線を平坦化し,負荷率を高めるための魅力的な手段となるだ

ろう。

日本の家庭用電力需要部門における時間帯別料金制度は,給湯用の深夜電

力料金のみであり,その制度はそれほど広く普及していない。図3からわか

るように,時間帯別料金制度導入の是非を考えるならば,家庭用電力需要が

ピークに達する時刻は,全体の電力需要のピーク時とずれているので,家庭

部門にとってこの制度の適用は大いに有益であろう。家庭用電力需要の全体

的な水準の低さが所与であるとすれば,時間帯別料金制度を施行しても,全

体の電力需要のピーク時解消には余り役立たないので,新たに設置する電力

消費計測器のコストに見合うかどうか疑問であろう。しかしながら将来の各

家庭における空調機器の利用が,北アメリカと類似の傾向を示すようになれ

ば,電力会社にとって家庭用時間帯別電気料金制度の導入は魅力的となるで

あろう。

参 考 文 献

第8章 家庭用電力の時間帯別電気料金制度の経済性

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