原爆投下から70年 薄れる記憶,どう語り継ぐ - nhk...2015/11/01  · 4 2015 3....

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2 NOVEMBER 2015 の平均年齢は初めて80歳を超えた。体験を 直接聞ける機会が年々失われていくなか,唯 一の被爆国である日本の国民は,記憶の継承 や核兵器をめぐる現状とどう向き合っているの か。また被爆地と全国ではどのように意識が異 なるのか。2015 年 6月,NHKは広島市と長崎 市,それに全国の3つの地域で20歳以上を対 象に電話による世論調査を実施した。 NHKでは原爆に関する意識調査を長崎市 で 1971年,広島市では 72 年にそれぞれ「面接 法」で始めた。75 年以降,広島市では 5 年ご と,長崎市では 2005 年を除き10 年ごとに実施 している 1) 。ただし調査方法は2010年に「面 接法」から「電話法」に変更し,今回の調査は その設計を引き継いでいる (表1) 。このため, 原爆投下から70 年を迎えた 2015 年 6月,NHK が広島市と長崎市・全国で実施した電話世論調査の結果につい て,被爆地と全国の比較や時系列比較を交えて分析,報告する。原爆についてふだんどの程度話し合うかを尋ね た結果,広島・長崎では「あまり」もしくは「まったく」ないという人が 5 年前と比べ増加し,ほぼ 3 人に 2 人に上る。 また,広島で「広島原爆の日」を正しく答えられた人は 69%で 5 年前から変化がないが,長崎で「長崎原爆の日」を 答えられた人は 59%で 5 年前の 64%から減少するなど,被爆地でも記憶の風化が進んでいる。一方,全国で広島・ 長崎それぞれの投下日を答えられた人は 3 割程度に過ぎず,被爆地との差が大きい。アメリカが広島と長崎に原爆 を投下したことについてどう思うかを尋ねた結果,5 年前は全国・被爆地ともに「今でも許せない」のほうが「やむを 得なかった」より多かったが,2015 年は広島・長崎で「今でも許せない」が減少し,被爆地では 2 つの意見が同程 度となった。 核兵器については全国・被爆地とも「保有も使用も良くない」と考える人が約 8 割を占める。しかし,核軍縮の見 通しについては多数が悲観的で,7 割程度が核戦争の起きる危険性を感じている。原爆の被害や被爆者の実情が 世界に伝わっていないと感じる人はどの地域でも6 割を超え,被爆者の高齢化が進むなか,被爆体験をどう受け継 いでいくかが問われている。 1. はじめに 「『非人道性の極み』,『絶対悪 』である核兵 器の廃絶を目指さなければなりません」― 原爆 投下から70年を迎えた2015年の平和記念式 典。平和宣言に立った広島市の松井一實市長 は,核兵器廃絶に向けた世界的な流れを加速 させるために,強い決意を持って全力で取り組 むと訴えた。 1945 年 8月6日,アメリカ軍によって広島に 人類史上初めて原子爆弾が投下された。3日 後の9日には2発目の原爆が長崎に落とされ, 同じ年の12月末までに広島市では約14万人, 長崎市では 7 万 3,000人余りが死亡したとされ る。あれから70 年,原爆の惨禍を知る被爆者 原爆投下から70 年 薄れる記憶,どう語り継ぐ ~原爆意識調査(広島・長崎・全国)より~ 世論調査部 政木みき

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2  NOVEMBER 2015

の平均年齢は初めて80歳を超えた。体験を直接聞ける機会が年々失われていくなか,唯一の被爆国である日本の国民は,記憶の継承や核兵器をめぐる現状とどう向き合っているのか。また被爆地と全国ではどのように意識が異なるのか。2015年6月,NHKは広島市と長崎市,それに全国の3つの地域で20歳以上を対象に電話による世論調査を実施した。

NHKでは原爆に関する意識調査を長崎市で1971年,広島市では72年にそれぞれ「面接法」で始めた。75年以降,広島市では5年ごと,長崎市では2005年を除き10年ごとに実施している1)。ただし調査方法は2010年に「面接法」から「電話法」に変更し,今回の調査はその設計を引き継いでいる(表1)。このため,

原爆投下から70年を迎えた2015年6月,NHKが広島市と長崎市・全国で実施した電話世論調査の結果について,被爆地と全国の比較や時系列比較を交えて分析,報告する。原爆についてふだんどの程度話し合うかを尋ねた結果,広島・長崎では「あまり」もしくは「まったく」ないという人が5年前と比べ増加し,ほぼ3人に2人に上る。また,広島で「広島原爆の日」を正しく答えられた人は69%で5年前から変化がないが,長崎で「長崎原爆の日」を答えられた人は59%で5年前の64%から減少するなど,被爆地でも記憶の風化が進んでいる。一方,全国で広島・長崎それぞれの投下日を答えられた人は3割程度に過ぎず,被爆地との差が大きい。アメリカが広島と長崎に原爆を投下したことについてどう思うかを尋ねた結果,5年前は全国・被爆地ともに「今でも許せない」のほうが「やむを得なかった」より多かったが,2015年は広島・長崎で「今でも許せない」が減少し,被爆地では2つの意見が同程度となった。

核兵器については全国・被爆地とも「保有も使用も良くない」と考える人が約8割を占める。しかし,核軍縮の見通しについては多数が悲観的で,7割程度が核戦争の起きる危険性を感じている。原爆の被害や被爆者の実情が世界に伝わっていないと感じる人はどの地域でも6割を超え,被爆者の高齢化が進むなか,被爆体験をどう受け継いでいくかが問われている。

1. はじめに

「『非人道性の極み』,『絶対悪』である核兵器の廃絶を目指さなければなりません」―原爆投下から70年を迎えた2015年の平和記念式典。平和宣言に立った広島市の松井一實市長は,核兵器廃絶に向けた世界的な流れを加速させるために,強い決意を持って全力で取り組むと訴えた。

1945年8月6日,アメリカ軍によって広島に人類史上初めて原子爆弾が投下された。3日後の9日には2発目の原爆が長崎に落とされ,同じ年の12月末までに広島市では約14万人,長崎市では7万3,000人余りが死亡したとされる。あれから70年,原爆の惨禍を知る被爆者

原爆投下から70 年薄れる記憶,どう語り継ぐ~原爆意識調査(広島・長崎・全国)より~

世論調査部 政木みき

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被爆した」人を合わせると,広島(52%),長 崎(59%)が半数を超えるのに対し,全国は10%にとどまる。

被爆体験の有無を年層別にみると,「身近な 人が被爆した」という人は,広島と長崎では20・30 代でも半数程度に上る(図1)。これに対し全国では最も多い70歳以上でも14%にとどまり,被爆者が身近にいるかどうかという点で被爆地と大きな差がある。

なお「自分が被爆した」という人は,広島 46人,長崎72人,全国7人と該当者が少ないため,分析にあたっては,「身近な人が被爆した」人とまとめてデータをみることとした。

(2)被爆地での居住年数

同じ被爆地に住んでいても,居住年数によって意識が異なるのかどうかをみるため,広島と長崎の調査ではそれぞれの市にどのくらい住んでいるかを尋ねた 3)。「生まれてからずっと」住んでいるという人は,長崎では42%で広島の36%を上回る。居住年数が「50年以上」という人は,広島・長崎とも約1割で差がないが,それより短い「30年以上~ 50年未満」は広島20%,長崎15%,「30年未満」は広島29%,長崎23%でどちらも広島のほうが多い。

本稿の時系列分析は2010年調査との比較を中心に行うが,調査方法の異なる2005年以前の結果も,継続している質問については変化の方向性を踏まえて分析した。なお2015年調査の単純集計結果は14~15ページに記した。

──2.─分析の視点

本稿の分析は,被爆地と全国,あるいは年齢や被爆体験によって原爆や核兵器に対する意識がどのように違うのかという点を主眼におく。まず分析の前提となる地域による被爆体験の違いと,広島と長崎それぞれの居住年数についてみていきたい。

(1)被爆体験の地域差

被爆体験について「自分が被爆した」「自分は被爆していないが,身近な人が被爆した」

「自分も身近な人も被爆していない」の3つの選択肢で尋ねた。「自分が被爆した」と答えたのは,広島4%,長崎7%,全国1%で,2010年と比べ広島は8%から,長崎は18%からそれぞれ減少した 2)。

一方,「身近な人が被爆した」という人は,広島48%,長崎52%,全国9%で,「自分が

図 1 被爆体験の有無(2015年,年層別)

0 10 20 30 40 50 60 70

身近な人が被爆

自分が被爆

以上

30 代

20・

0 10 20 30 40 50 60 70

身近な人が被爆

自分が被爆

以上

30 代

20・

自分が被爆身近な人が被爆

20・30代

40代

50代

60代

70歳以上

〈広島市〉 〈長崎市〉

自分が被爆身近な人が被爆

46%

45

53

602

44 19

50

62

63

622

4028

表 1 調査の概要(2010年,2015年)

広島市 長崎市 全国

2015 年

調査時期 2015 年 6 月 26 日(金)~ 28 日(日)調査方法 電話法(RDD 追跡法)調査対象 20 歳以上の男女調査相手 1,973 人 1,720 人 1,781 人

回答数(率) 1,130 人(57.3%)

1,005 人(58.4%)

1,024 人(57.5%)

2010 年

調査時期 2010 年 6 月 25 日(金)~ 27 日(日)調査方法 電話法(RDD 追跡法)調査対象 20 歳以上の男女調査相手 1,977 人 2,089 人 1,720 人

回答数(率) 1,276 人(64.5%)

1,373 人(65.7%)

1,030 人(59.9%)

NOVEMBER 2015

4  NOVEMBER 2015

──3.─薄れる記憶,─ 被爆地と全国の温度差

(1)被爆地で 3人に 2人が原爆を話題にせず

原爆の問題について,ふだん家庭や職場,近所の人や友人とどの程度話し合うかを尋ねた。「よくある」という人は広島5%,長崎 6%,全国2%,「ときどきある」はそれぞれ26%,29%,20%で,どちらも被爆地が全国より多い

(図2)。「まったくない」という人は広島24%,長崎23%,全国38%である。

2010年と比べると,広島・長崎ともに『ある (よく+ときどき)』が減った一方,『ない(あまり+まったく)』は広島では63%から68%,長崎では56%から65%に増え4),被爆地でもほぼ 3人に2人の割合に上る。全国は『ない』が78%に達するが,5年前からの変化はない。

長期的変化をみると,広島で『ある』と答えた人は,1975年は半数を占めたが90年には37%まで減少した(図3)。その後 2005年まで横ばいが続いたが,調査方法が変わったこの

5年では減少している。5年前と比べ被爆地ではどんな層で『ある』

という人が減少したのか。年層別にみると,2010年の広島では70歳以上だけ53%と半数を超えていたが今回は39%に減少し,年層による違いが小さくなった(図4)。一方,2010年の長崎は60 代以上で50%を超えていたが,この年層でも2015年は38%まで減少し,若い層との差がなくなった。体験の伝え手だった高齢層が原爆を話題にしなくなっていることが被爆地での継承を弱めている。『ある』という人を男女別にみると,広島

は男性 27%,女性34%,一方,長崎は男性28%,女性39%で両市とも女性のほうが多い。5年前と比べると,広島では変化がないのに対し,長崎では男女ともに減少した。

被爆体験の違いによる差をみるため,原爆を話題にすることが『ある』と答えた人を「自

図 3 原爆を話題にすることが『ある』(広島市)

図 4 原爆を話題にすることが『ある』(年層別)

0

10

20

30

40

50

60よくある

ときどきある

15 年10 年5年2000 年95 年90 年80 年1975 年

60

40

20

015(年)100520009590801975

43

68 5

4 35 5

535 33 29 28 31 31 26

(%)

よくある

ときどきある

面接法 電話法

0

10

20

30

40

50

602015 年

2010 年

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代 0

10

20

30

40

50

602015 年

2010 年

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代

60

40

20

020・30代

23

2527

2932

30

39

2929

34

31

3539

3138

5553

39 38

54

40代

50代

60代

70歳以上

20・30代

40代

50代

60代

70歳以上

(%)

2015 年2010 年

〈広島市〉 〈長崎市〉

図 2 原爆を話題にする頻度

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

まったくない

あまりない

ときどきある

よくある

全国 2015 年

全国 2010 年

長崎市 2015 年

長崎市 2010 年

広島市 2015 年

広島市 2010 年

わからない,無回答

まったくない

あまりない

ときどきある

よくある

2015年

2010年

2015年

2010年

2015年

2010年 5 31% 41 220

265 44

37 37 180

7

426 29 230

192 39 400

40 380

2 20

241

〈全国〉

〈長崎市〉

〈広島市〉

『ある』 『ない』

5

分または身近な人が被爆した」人と,身近に被爆体験のない「それ以外」の人に分けて表2で比較した。「自分・身近な人が被爆した」人では

『ある』という人は,広島37%,長崎40%であるのに対し,「それ以外」の人で『ある』というのは広島26%,長崎29%である。広島・長崎とも「自分・身近な人が被爆した」人における割合が高く,2010年と同様の結果である。ただし,長崎の「自分・身近な人が被爆した」人では2010年の51%から40%に減少している。

2015年の被爆地での結果を居住年数別にみると,話題にすることが『ある』という人は,広島に「50年以上」住んでいる人(47%)と長崎に「30年以上~ 50年未満」住んでいる人

(44%)で割合が高い。

(2)投下日を答えられたのは全国 3 割,

被爆地長崎でも進む風化

広島・長崎に原爆が落とされた日付をそれぞれ「何年何月何日」という自由回答の形式で答えてもらった 5)。「広島原爆の日」を正しく答えられた人は広島が69%と最も多く,長崎は50%,全国では30%にとどまる。いずれの地域も5年前からの変化はない。

広島で正しく答えられた人の長期推移をみると,1975年(77%)から2005年(74%)は横ばいだった(図5)。調査方法が変わったこの5年

も7割ほどで変化がない。一方,2015年に「長崎原爆の日」を正しく答

えた人は長崎が最も多く59%,広島54%,全国は26%である。全国は広島・長崎いずれの投下日についても正しく答えられた人は3割ないしそれに満たない低い割合である。5年前と比べると,広島と全国は変化がないが,被爆地の長崎では64%から減少している。

長崎の過去の変化の傾向をみると,「長崎原爆の日」を答えられた人は,75年の62%から増え続け95年は90%に達した(図6)。しかしここ5年では減少し,約6割となっている。

表 2 原爆を話題にすることが『ある』(被爆体験別)

広島市 長崎市

自分・身近な人が被爆 それ以外 自分・身近

な人が被爆 それ以外

2015年

(母数)(586 人) (479 人) (594 人) (330 人)% 37 > 26 40 > 29

2010年

% 42 > 29 51 > 32 (母数)(764 人) (461 人) (902 人) (372 人)

※ 不等号は両側の数字を比較した検定結果で,「>」は左が多いことを示す(信頼度 95%)

※ データがない年は調査をしていない(以下同)

図 5 広島原爆の日を正しく答えた人(広島市)

0102030405060708090100

 15 年10 年2005 年95 年90 年85 年80 年1975 年

(年)1975 80 85 90 95 2005 10 15

(%)100

80

60

40

20

0

面接法 電話法

77 77 78 80 77 7470 69

図 6 長崎原爆の日を正しく答えた人(長崎市)

0102030405060708090100

15 年10 年95 年85 年1975 年

(年)1975 85 95 2010 15

(%)100

80

60

40

20

0

面接法 電話法

62

74

90

6459

NOVEMBER 2015

6  NOVEMBER 2015

年層別にみると,広島で「広島原爆の日」を正しく答えた人は60 代で81%と多いのに対し,20・30 代では61%にとどまる(図7)。

一方,長崎で「長崎原爆の日」を答えられた人を年層別にみると,60 代が67%であるのに対し,20・30 代では46%と半数を下回る。5年前と比べると,被爆地では長崎の70歳以上でのみ変化があり,67%から57%に減少している。「自分または身近な人が被爆した」人がどの

程度答えられたのかをみると,広島の「自分・身近な人が被爆した」人で「広島原爆の日」を答えられた人は75%,長崎の「自分・身近な人が被爆した」人で「長崎原爆の日」を答えられたのは65%である。広島・長崎とも5年前からの変化はない。それぞれ全体に比べ割合が高いものの,正しく答えられない人が少なくない割合で存在する。

(3)原爆投下を許せない人,被爆地で減少

アメリカが広島と長崎に原爆を落としたことについて,日本の国民は現在,どのように考えているのだろうか。「今でも許せない」と「やむ

を得なかった」の2つの選択肢で尋ねた。「今でも許せない」は広島43%,長崎46%,全国49%であるのに対し,「やむを得なかった」は広島44%,長崎41%,全国40%である(図8)。

5年前は3地域とも「やむを得なかった」より「今でも許せない」のほうが多かった。しかし,被爆地の広島と長崎では「今でも許せない」が減少し,「やむを得なかった」との差がなく なった。

この40年の広島での変化を図9でみると,1980年までは「やむを得なかった」より「今でも許せない」のほうが多かった。冷戦が終結

図 7 原爆の日を正しく答えた人(2015年,年層別) 図 8 原爆投下について

図 9 原爆投下について(広島市)

0102030405060708090100

長崎市で「長崎原爆の日」を答えた人

広島市で「広島原爆の日」を答えた人

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代

(%)100

80

60

40

20

020・30代 40代 50代 60代 70歳以上

長崎市で「長崎原爆の日」を答えた人

広島市で「広島原爆の日」を答えた人

長崎市で「長崎原爆の日」を答えた人広島市で「広島原爆の日」を答えた人

61

46

69

63

67

62

81

67

65

57

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

その他

やむを得なかった

今でも許せない

全国 2015 年

全国 2010 年

長崎市 2015 年

長崎市 2010 年

広島市 2015 年

広島市 2010 年

2015年

2010年

2015年

2010年

2015年

2010年

〈全国〉

〈長崎市〉

〈広島市〉

今でも許せない

48% 42 3 7

44 4 943

39 4 850

41 5 946

38 3 653

40 3 849

やむを得なかったその他

わからない,無回答

0

10

20

30

40

50

60

70

80

やむを得なかった

今でも許せない

15 年10 年5年2000 年95 年90 年80 年1975 年

(年)1975 9580 90 10052000 15

(%)80

60

40

20

0

面接法 電話法やむを得なかった

今でも許せない

64 48

31

42

67

43

30

4448

45

52

41

48

45

56

36

7

した後の90年から2000年の間は双方横ばいだったが,2005年は「今でも許せない」が増加し,「やむを得なかった」が減って差が開いた。この時期は2001年のアメリカ同時多発テロを機に,アメリカのアフガニスタン攻撃やイラク戦争が起きて,国際情勢が緊張していた時期と重なる。そして2010年も「今でも許せない」のほうが多かったが,2015年は双方の差がなくなった。

年層別に5年前と比べると,2010年は広島の20・30 代と70歳以上,また長崎の40 代と70歳以上で「今でも許せない」が,「やむを得なかった」を上回っていた。しかし,2015年に は広島の20・30 代と70歳以上,長崎の70歳以上で「今でも許せない」が減少し(図10),広 島と長崎のすべての年層で「今でも許せない」と「やむを得なかった」との差がなくなった。

2015年の被爆地ではすべての年層で「今で も許せない」と「やむを得なかった」が同程度 だったのに対し,全国では20・30 代で「やむ を得なかった」のほうが多く,60 代以上では

「今でも許せない」のほうが多い(図11)。「今でも許せない」は20・30 代では35%と少な いが,年層が上がるにつれ多くなり,50 代で半数を超え,70歳以上では56%となる。一方,

「やむを得なかった」は,20・30 代だけ56%と半数を超えるが,高年層ほど少なく,70歳以上では34%となる。

被爆体験によって原爆の受け止めに違いがあるかどうかをみると,広島では5年前からの変化はなく,「自分・身近な人が被爆した」人も,身近に被爆体験のない「それ以外」の人も「今でも許せない」と「やむを得なかった」が40%台で並ぶ。

これに対し,長崎では2010年は「自分・身

近な人が被爆した」人,「それ以外」の人ともに「今でも許せない」のほうが多かった。しかし2015年は「それ以外」の人で「今でも許せない」が減少し,「自分・身近な人が被爆した」人でのみ「今でも許せない」(48%)が「やむを得なかった」(39%)を上回る。

原爆の受け止めについて尋ねたこの質問の結果については幅広い見方がある。日本の近現代史が専門の広島大学大学院の布川弘教授は「国際情勢が変化するなか,核の抑止力で戦争を回避しているという考え方が根強くあり,原爆投下もやむを得なかったという回答に結びついているのではないか」と分析する 6)。

一方,広島で被爆した父親の体験を記した著書もある臨床心理医の美

甘かも

章子氏は,筆者の取材に対し,被爆地で「今でも許せない」が減少したことについて「単純に多くの人が許せ

図 11 原爆投下について(2015年,全国,年層別)

図 10 原爆投下について「今でも許せない」(年層別)

0

10

20

30

40

50

60やむを得なかった

今でも許せない

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代

20・30代 40代 50代 60代 70歳以上

やむを得なかった

今でも許せない

56

3543

43

40

51

35

55

34

5660

40

20

0

(%)

0

10

20

30

40

50

602010 年

2015 年

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代 0

10

20

30

40

50

602010 年

2015 年

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代

2015 年2010 年

60

40

20

020・30代

40代

50代

60代

70歳以上

20・30代

40代

50代

60代

70歳以上

(%) 〈広島市〉 〈長崎市〉53

49

3940

44

54

4942

48 48

4949

42

51

4643

53 56

4542

NOVEMBER 2015

8  NOVEMBER 2015

るようになったとは解釈しない」としたうえで,「一番の要因は被爆者の減少と被爆体験者から何らかの影響を受けている人の減少である」と指摘する。また,被爆地の高齢層で「今でも許せない」が減少したことについては「被爆から時間が経って高齢になり,過去の苦悩は意識の中心におかず,静かに平和に暮らしたい人も多いのではないか」と述べている。

(4)被爆者支援,全国のほうが厳しい評価

国や自治体は,被爆者の健康や生活に対して面倒を十分に見ていると思うかどうかを尋ねた。被爆地の結果をみると,「十分だ」という人は広島16%,長崎23%,「まあ十分だ」はそれぞれ 40%,36%で,ともに全国に比べ多い(図12)。「十分だ」と「まあ十分だ」を合わせた『十分』は,全国が25%にとどまるのに対し,被爆地では広島56%,長崎58%といずれも過半数を占める。一方『不十分(十分とは言えない+不十分だ)』は広島・長崎はともに32%,全国は55%である。5年前と比べると,長崎は37%から,全国は66%から減っているが,『十分』が増えた地域はない。

国の被爆者支援策は,1957年の原爆医療法の制定以来,被爆者自らの働きかけによって徐々に拡充されてきた。時系列変化をみると,広島・長崎とも支援が『不十分』という人 は,1975年は7割台に上ったが次第に減少している(図13)。ただし,被爆地の広島・長崎で今も3人に1人が支援が『不十分』と答えている点は留意したい。被爆者支援をめぐっては,原爆症の認定を受けられなかった被爆者が,国の認定基準が厳し過ぎるとして,原爆症と認めるよう訴える裁判を今も続けている。高齢となった被爆者の救済をどうするのか,解決

が急がれる。ところで,「自分が被爆した」人の評価をみ

ると,該当者が広島46人,長崎72人と少ないものの,広島の「自分が被爆した」人では「十分とは言えない」が24%,「不十分だ」は11%であるのに対し,長崎の「自分が被爆した」人では「十分とは言えない」が42%に上り,「不十

図 12 被爆者支援の評価(2015年)

図 13 被爆者支援の評価 『不十分』

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

不十分だ

十分とは言えない

まあ十分だ

十分だ

全国

長崎市

広島市

16% 40 25 7 11

23 36 26 6 10

20 38 17 195全国

長崎市

広島市

まあ十分だ

『十分』 『不十分』

十分とは言えない 不十分だ十分だ

わからない,無回答

0

10

20

30

40

50

60

70

8080

不十分だ

十分とは言えない

15 年10 年2005 年95 年90 年85 年80 年1975 年

0

10

20

30

40

50

60

70

80不十分だ

十分とは言えない

2015 年2010 年95 年85 年1975 年

2315 8

10 7 66 749

56

19

11

9

3929 29

86

26

48 4837 39 36 28 25

80

60

40

20

0

(%)

15(年)10200580 85 90 951975

十分とは言えない

不十分だ

面接法 電話法

〈長崎市〉

〈広島市〉

80

60

40

20

0

(%)

15(年)201085 951975

十分とは言えない

不十分だ

面接法 電話法

9

分だ」は7%である。被爆者支援をめぐる長崎特有の問題として,

「被爆地域」指定の問題がある。長崎市では国が指定する「被爆地域」は,原爆投下時の旧長崎市を中心とした行政区域によって定められ,爆心地からの距離とは必ずしも符合していない。このため爆心地から同じ距離で被爆しても「被爆地域」の外にいた場合「被爆者」とは認定されず,「被爆体験者」として区別され,支給される医療費などに大きな差が生じている。

「被爆体験者」の一部は「被爆地域」の拡大などを求め,現在も裁判で争っている。被爆者研究が専門の直野章子九州大学大学院准教授は,筆者の取材に対し,こうした格差の問題が裁判で明らかになってもなお解決していない現状が,長崎の「自分が被爆した」人の評価の低さの背景にあるのではないかと述べている。

──4.─核兵器削減の理想と現実

(1)大多数が核兵器は保有も使用も否定

原爆などの核兵器についてどう思うかを図

14の3つの選択肢で尋ねた。いずれの地域も「保有も使用も良くない」という人が約80%と多数を占める。「保有は良いが使用すべきでな

い」は10%台,「必要な時は使用しても構わない」という人はごく少数である。5年前からの変化がみられたのは,全国で「必要な時は使用しても構わない」が3%から1%に減少しただけである。

(2)核兵器削減の実現には多数が悲観的

世界には今なお1万5,000 発以上の核弾頭が存在する。現在ある核兵器が今後どうなると思うかについて,図15の4つの選択肢で尋ねた。すべての地域で最も多いのは「今よりは減るが,それほどは減らない」で,広島と長崎がともに46%,全国45%,次いで「今と変わらないか,むしろ増える」が広島32%,長崎31%,全国32%で続く。一方,「完全になくせる」という人はどの地域も2%とわずかで,「完全にはなくせないが,大幅に減る」という人も広島13%,長崎11%,全国12%にとどまる。核兵器削減の展望については被爆地・全国を問わず悲観的な人が大勢を占める。

(3)核戦争が起きる危険がある 7 割

近い将来,世界のどこかで核戦争が起きる危険がどの程度あると思うかを尋ねた。「かなりある」という人は広島24%,長崎23%,全

図 15 核軍縮の可能性(2015年)図 14 核の保有と使用の是非(2015年)

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

今と変わらないか、むしろ増える

今よりは減るが、それほどは減らない

完全にはなくせないが、大幅に減る

完全になくせる

全国

長崎市

広島市

全国

長崎市

広島市2

2

2

13% 46 32 8

46 31 1011

45 32 912

完全になくせる

完全にはなくせないが,大幅に減る

今よりは減るが,それほどは減らない

今と変わらないか,むしろ増える

わからない,無回答

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

保有も使用も良くない

保有は良いが使用すべきでない

必要な時は使用しても構わない

全国

長崎市

広島市

217% 78 3

79 6213

81 4114全国

長崎市

広島市

保有は良いが使用すべきでない

必要な時は使用しても構わない

保有も使用も良くない

わからない,無回答

NOVEMBER 2015

10  NOVEMBER 2015

国21%で,「少しある」はいずれの地域も46%となっている(図16)。『ある(かなり+少し)』 は,広島・長崎では5年前から変化がなく,ともに70%である。これに対し,全国では『ある』が66%と5年前の72%から減ってはいるが,いずれの地域も多数の人が核戦争の起きる危険性を感じていることに変化はない。

(4)アメリカの“核の傘”は

「今も将来も必要ない」が増加

日本の安全保障のために,アメリカの核抑止力に頼る“核の傘”が必要だと思うかどうかについて,図17の4つの選択肢を示して尋ねた。どの地域も「今も将来も必要ない」が4割を超え最も多く,次に「今は必要だが,将来は必要ない」が2割程度である。これに対し「今も将来も必要だ」「今は必要ないが,将来は必要だ」という人はそれぞれ約1割である。「今は必要」「将来は必要」「今も将来も必要」と何らかのかたちで核抑止力の必要性を感じている人を合わせると,どの地域も4割程度となり,「今も将来も必要ない」という人と同程度である。アメリカの核抑止力の必要性については意見が割れている。

ただし,2010年と比較すると,すべての地域で「今も将来も必要ない」という人が3割台から4割台に増加し,「今も将来も必要だ」と

いう人が約2割から約1割に減った。「今も将来も必要ない」という人を年層別に

みると,5年前と比べ広島では40 代以上の中高年層でおしなべて増加し,すべての年層が4割台となった(図18)。一方,全国でも40 代と60 代以上で増加し,年層による差がなくなっている。長崎は2010年も今回もすべての年層で4割程度で変化がなかった。

男女別でみると,いずれの地域も「今も将来も必要ない」という人は,男性より女性のほうが多い(表3)。女性ではすべての地域で半数

図 18 “核の傘”「今も将来も必要ない」(2015年)

0

10

20

30

40

50

602015 年

2010 年

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代 0

10

20

30

40

50

602015 年

2010 年

70 歳以上60 代50 代40 代20,30 代

2015 年2010 年

60

40

20

020・30代

40代

50代

60代

70歳以上

20・30代

40代

50代

60代

70歳以上

(%) 〈広島市〉 〈全国〉

39

43

43

51

36

45

37

48

29

44

39

46

27

40

30

55

32

41

33

52

図 16 核戦争が起きる可能性(2015年)

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

まったくない

あまりない

少しある

かなりある

全国

長崎市

広島市

全国

長崎市

広島市 24% 46 18 5 7

23 46 16 6 8

21 46 21 5 7

かなりある

少しある

あまりない

まったくない

わからない,無回答

図 17 “核の傘”の必要性

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

今も将来も必要ない

今は必要ないが、将来は必要だ

今は必要だが、将来は必要ない

今も将来も必要だ

全国 2015 年

全国 2010 年

長崎市 2015 年

長崎市 2010 年

広島市 2015 年

広島市 2010 年

2015年

2010年

2015年

2010年

2015年

2010年

〈全国〉

〈長崎市〉

〈広島市〉19% 30

13 23 11 41 11

8

11 20 10 44 15

19 22 9 38 13

10 19 9 49 13

21 25 35 1010

32 11

今も将来も必要だ

今は必要だが,将来は必要ない

今は必要ないが,将来は必要だ

今も将来も必要ない

わからない,無回答

11

前後を占める。これに対し,男性は「今は必要だが,将来は必要ない」と「今も将来も必要だ」という人が女性に比べ多い。特に広島と長崎の男性では「今は必要だが,将来は必要ない」が3割を超え,「今も将来も必要ない」という 人と同程度である。

先にみた,原爆投下を「今でも許せない」と思うか,「やむを得なかった」と思うかの受け

止めの違いによって,核兵器に対する態度がどう違うのかを被爆地で比較した(表4)。広島・長崎とも「やむを得なかった」という人より「今でも許せない」という人のほうが,核兵器の「保有も使用も良くない」という人や,アメリカの“核の傘”が「今も将来も必要ない」という人が多い。ただし,原爆投下が「やむを得なかった」という人でも,核兵器の「保有も使用も良くない」という人は7割に上る。また“核の傘”については「今も将来も必要ない」という人が3割台であるものの,最も高い割合を占める。

(5)原爆の実情は,伝わっていない 6 割

原爆の被害や被爆者の実情が,世界にどの程度伝わっているかを尋ねた。「十分に伝わっている」という人は広島3%,長崎4%,全国 4%と,3つの地域とも少数で,「ある程度伝わっている」を合わせても,広島34%,長崎33%,全国36%にとどまる(図19)。一方,「あまり伝わっていない」という人はいずれの地域も半数を超える。『伝わっていない(あまり+まったく)』は,広島・長崎ともに5年前の59%から64%に増加した。全国では変化はないものの,61%に上る。

表 4 核の保有と使用の是非・“核の傘”の必要性(2015年,原爆投下に対する考え別)

(母数)

広島市 長崎市今でも

許せない

やむを得

なかった

今でも

許せない

やむを得

なかった

487人 499人 459人 410人

核の保有と使用の是非

必要な時は使用しても構わない 1% 2 1 < 4

保有は良いが使用すべきでない 14 < 23 10 < 19

保有も使用も良くない 83 > 73 86 > 74

“核の傘”の必要性

今も将来も必要だ 10 < 18 9 < 16

今は必要だが,将来は必要ない 23 24 19 24

今は必要ないが,将来は必要だ 9 < 14 10 11

今も将来も必要ない 49 > 35 52 > 38

※ 不等号は両側の数字を比較した検定結果で,「>」は左が多く 「<」は右が多いことを示す(信頼度 95%)

表 3 “核の傘”の必要性(2015年,男女別,3 地域の全体で多い順)

(%)広島市 長崎市 全国

男性 女性 男性 女性 男性 女性今も将来も必要ない 32 < 47 38 < 47 42 < 54

今は必要だが,将来は必要ない 36 > 16 32 > 14 27 > 13

今も将来も必要だ 17 > 11 16 > 9 17 > 6

今は必要ないが,将来は必要だ 10 12 7 < 12 8 10

※ 不等号は両側の数字を比較した検定結果で,「>」は男性が多く 「<」は女性が多いことを示す(信頼度 95%)

図 19 被害の伝わりの程度(2015年)

0 20 40 60 80 100

わからない、無回答

まったく伝わっていない

あまり伝わっていない

ある程度伝わっている

十分に伝わっている

全国

長崎市

広島市

3 31% 57 7 2

56 8 34 29

324 52 9 3全国

長崎市

広島市

ある程度伝わっている

十分に伝わっている

あまり伝わっていない

まったく伝わっていない

わからない,無回答

NOVEMBER 2015

12  NOVEMBER 2015

──5.─記憶の継承のために─ 重要なことは

原爆の悲惨さを後世に伝えるため,最も重要な方法は何かを尋ねた。選択肢は表5に示した5つである。回答の多い順にみると,広島と全国では「学校でもっと積極的に教える」と

「被爆者などの証言を,映像や文章で残し続ける」とが30%台半ばから後半で並ぶ。長崎では「学校でもっと積極的に教える」が31%と他の地域より少なく,「証言を映像や文章で残し続ける」が最も多い。いずれの地域も「後世に伝える必要はない」という人は,1%または2%と少ない。

年層別にみると,「学校で教える」は広島の60 代(49%)と70歳以上(43%),長崎の60代(41%)と高齢層がより重視している。これに対し,「証言を映像や文章で残し続ける」は広島の20・30 代(45%)と40 代(46%),長崎の20・30 代(51%)と40 代(48%),全国の40代(49%)と比較的若い層で重視する人が多い。資料の保存はあらゆる継承の方法に役立つ。若い人は,被爆者から直接話を聞けるうちにまず記録に残さねば,という思いが強いのではないだろうか。

──6.─おわりに

2015年調査で自らが被爆したと答えた人は広島市46人,長崎市72人,全国7人。被爆者に調査をすることが今後非常に難しくなることを示している。

調査では,原爆の投下日といった知識や日常的関心について全国と被爆地の差が大きいこと,また被爆地でも記憶の風化が進んでいることが明らかになった。体験者任せの記憶の継承には限界がきている。

核兵器を否定する意識は,被爆国日本の 多くの国民に共有されている。しかし,核廃絶への道のりは険しい。2015年5月のNPT・核拡散防止条約の再検討会議では,核保有国と非保有国が激しく対立し,核軍縮の目標を示す最終文書の採択すらできなかった。それに先立つ3月には,ロシアのプーチン大統領が,クリミア併合をめぐり核兵器使用に向け準備をしていたことを明らかにした。こうした世界の現実が,日本の人びとに核戦争への不安を抱かせ,核兵器を拒みつつもアメリカの“核の傘”に守られる現状を否定しきれないジレンマを生んでいるのではないか。

一方で変化の兆しもある。2009年4月,アメリカのオバマ大統領は,チェコ・プラハでの演説で「核兵器のない平和で安全な世界」を目指すことを提唱した。世界の現状はその理想とは程遠いが,演説の翌年の2010年から広島平和記念式典にアメリカの駐日大使が参列するようになった。また,戦後70年を機にアメリカで実施された世論調査 7)では,原爆投下について「正しかった」とするアメリカ人が56%と半数を超えたが,年層別にみると,65歳以上では70%であるのに対し,18 ~ 29歳では47%

表 5 被爆体験の継承(2015年)

(%) 広島市 長崎市 全国学校でもっと積極的に教える 36 31 39 被爆者などの証言を,映像や文章で残し続ける 34 37 36

体験を引き継ぐ,「語り部 」 のような人を増やす 15 16 11

被爆者などの遺品を,さらに収集し展示する 3 3 3

後世に伝える必要はない 1 2 1 その他 4 3 2

13

と半数を割り込むなど,若い世代で意識の違いがみられた。

世界の状況が不安定さを増すなか,被爆者が体験した原爆の惨状や放射線による病気の苦しみを伝え,核兵器の非人道性を訴える重要性は増している。「二度と被爆者を出してはならない」という願いをかなえるため,記憶をいかに受け継ぎ,世界に伝えていくのか。唯一の被爆国だからこそ課せられた重い課題に人びとがどう向き合うのかを今後もみていきたい。

(まさき みき)

注: 1) 本文中引用した過去の調査の概要は下記の表に

示した。2010年調査は,表 1と西久美子「原爆投下から 65 年 消えぬ核の脅威~『原爆意識調査』から~」『放送研究と調査』2010 年 10 月号を 参照。

2) 「身近な人」の定義は定めておらず知人なども含まれる可能性がある。また 2015 年 3 月末の厚生労働省発表によると被爆者健康手帳所持者数は広島市 5 万 8,933 人,長崎市 3 万 4,199 人。20 歳以上人口に対する割合を計算すると,広島市 6%,長崎市 9%で,両市とも調査結果が実際よりやや少ない。

3) 広島市,長崎市に合併された地域の居住年数も含める。

4) 回答結果をまとめる場合は,実数で足し上げて%を再計算しているため,単純に%を足し上げた数字と一致しないことがある(以下同)。

5) 「年」については「昭和 20 年」「1945 年」「終戦の年」を正答とした。

6) NHK「NEWS WEB」2015 年 8 月 3 日放送。 7) アメリカの世論調査機関「ピュー・リサーチセ

ンター」が日米の 18 歳以上各 1,000 人に 2015年 1 ~ 2 月に実施した電話世論調査。

参考文献:・ 直野章子『原爆体験と戦後日本――記憶の形成と

継承――』岩波書店(2015)・ 永井秀明「日本人の核意識構造―戦後 30 年間の

世論調査資料の分析から」『広島平和科学』1 巻(1977)

本文中引用した 2005年以前の調査の概要調査名 調査時期 調査地域 調査方法 調査対象 調査相手 有効数 (率)

広島・長崎の原爆に関する住民意識 1975 年 6/14(土)

~ 15(日)広島市

個人面接法

有権者

選挙人名簿から

層化無作為2 段抽出

各900 人 730 人 (81.1%)長崎市 684 人 (76.0%)

原爆についての世論調査 1980 年 5/31(土)

~ 6/1(日) 広島市 900 人 615 人 (68.3%)

被爆 40 年・広島・長崎の市民意識 1985 年 6/15(土)

~ 16(日)広島市 各900 人 626 人 (69.6%)長崎市 523 人 (58.1%)

被爆 45 年・広島市民の意識調査 1990 年 6/2(土)

~ 3(日) 広島市 900 人 605 人 (67.2%)

戦後 50 年調査 1995 年 5/12(金)~ 15(月)

広島市

20 歳以上

住民基本台帳から

層化無作為2 段抽出

各900 人 610 人 (67.8%)長崎市 597 人 (66.3%)

全国 2,000 人 1,440 人 (72.0%)

広島市民原爆意識調査 2000 年 6/30(金)~ 7/2(日) 広島市 900 人 636 人 (70.7%)

広島・日本・アメリカ原爆意識調査(日本調査)

2005 年

6/17(金)~ 19(日) 広島市 900 人 516 人 (57.3%)

6/9(木)~ 12(日) 全国 2,000 人 1,375 人 (68.8%)

NOVEMBER 2015

14  NOVEMBER 2015

原爆意識調査(広島・長崎・全国) 単純集計結果

―原爆を話題にする頻度―問 1 あなたは,ふだん,家庭や職場,近所の人や友人と,原

爆の問題について話し合うことがどの程度ありますか。次に読み上げる 4 つの中から 1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. よくある 5.1 6.2 2.2 2. ときどきある 26.4 28.7 19.6 3. あまりない 43.9 41.7 40.2 4. まったくない 24.0 23.1 37.7 5. わからない,無回答 0.6 0.4 0.2

―原爆投下の日付(広島)―問 2 あなたは,いつ,広島に原爆が落とされたかを知ってい

ますか。「何年何月何日」というようにおっしゃってください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 昭和 20 年(1945 年)8 月 6 日 68.6 50.2 29.5 2. 上記以外の日(不正解) 21.4 25.0 28.1 3. 知らない,わからない,無回答 10.0 24.8 42.4

―原爆投下の日付(長崎)―問 3 それでは,いつ,長崎に原爆が落とされたかを知ってい

ますか。「何年何月何日」というようにおっしゃってください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 昭和 20 年(1945 年)8 月 9 日 54.2 59.2 25.6 2. 上記以外の日(不正解) 23.0 27.0 25.2 3. 知らない,わからない,無回答 22.7 13.8 49.2

―被爆者支援の評価―問 4 あなたは,国や自治体は,被爆者の健康や生活の面倒を

十分に見ていると思いますか。次に読み上げる 4 つの中から 1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 十分だ 15.8 22.6 5.3 2. まあ十分だ 40.4 35.7 20.1 3. 十分とは言えない 25.0 25.8 38.0 4. 不十分だ 7.4 6.0 17.2 5. わからない,無回答 11.4 10.0 19.4

―被害の伝わりの程度―問 5 あなたは,原爆の被害や被爆者の実情は,世界にどの程

度伝わっていると思いますか。次に読み上げる 4 つの中から 1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 十分に伝わっている 3.3 3.9 3.7 2. ある程度伝わっている 31.1 29.4 31.8 3. あまり伝わっていない 56.6 55.7 52.0 4. まったく伝わっていない 7.3 8.0 9.3 5. わからない,無回答 1.8 3.1 3.2

―原爆投下について―問 6 あなたは,アメリカが,広島と長崎に原爆を落としたこ

とについて,現在どのようにお考えですか。次に読み上げる 2 つの中から 1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 今でも許せない 43.1 45.7 48.8 2. やむを得なかった 44.2 40.8 39.6 3. その他 3.5 4.8 3.2 4. わからない,無回答 9.2 8.8 8.4

―核の保有と使用の是非―問 7 原爆などの核兵器について,あなたのお考えに最も近い

のは,次に読み上げる 3 つの中ではどれでしょうか。1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 必要な時は使用しても構わない 1.5 2.2 1.3 2. 保有は良いが使用すべきでない 17.4 13.3 14.1 3. 保有も使用も良くない 77.8 78.9 81.2 4. わからない,無回答 3.3 5.6 3.5

―“核の傘”の必要性―問 8 あなたは,日本の安全保障のために,アメリカの核抑止

力に頼る“核の傘”が必要だと思いますか。それとも,そうは思いませんか。次に読み上げる 4 つの中から 1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 今も将来も必要だ 13.4 11.3 10.3 2. 今は必要だが,将来は必要ない 23.2 20.4 18.6 3. 今は必要ないが,将来は必要だ 10.8 10.0 9.3 4. 今も将来も必要ない 41.4 43.7 48.9 5. わからない,無回答 11.2 14.5 13.0

広島市 長崎市 全国

調査期間 2015 年 6 月 26 日(金)~ 28 日(日)

調査方法 電話法(RDD追跡法)調査対象 20 歳以上の男女

調査相手(人) 1,973 1,720 1,781 回答数(人) 1,130 1,005 1,024 回答率(%) 57.3 58.4 57.5

15

―核戦争が起きる可能性―問 9 将来の,核兵器使用の可能性についてお尋ねします。あ

なたは,近い将来,世界のどこかで核戦争が起きる危険があると思いますか。次に読み上げる 4 つの中から 1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. かなりある 24.2 23.2 20.6 2. 少しある 46.3 46.3 45.8 3. あまりない 17.9 16.0 21.2 4. まったくない 5.2 6.4 5.4 5. わからない,無回答 6.5 8.2 7.0

―核軍縮の可能性―問 10 あなたは今現在ある核兵器は今後どうなると思います

か。次に読み上げる4つの中から1つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 完全になくせる 1.5 1.8 2.4 2. 完全にはなくせないが,大幅に減る 12.7 11.4 12.4 3. 今よりは減るが,それほどは減らない 46.4 46.0 44.8 4. 今と変わらないか,むしろ増える 31.7 31.1 31.5 5. わからない,無回答 7.7 9.7 8.8

―被爆体験の継承―問 11 広島と長崎に原爆が落とされてから今年で 70 年にな

り,被爆者の高齢化も進んでいます。そうした中で,原爆の悲惨さを後世に伝える方法は,いろいろ考えられますが,次に読み上げる 5 つの中では,あなたは何が最も重要だと思いますか。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 被爆者などの証言を,映像や文章で残し続ける 33.6 36.6 36.3

2. 被爆者などの遺品を,さらに収集し展示する 3.1 3.2 3.1

3. 体験を引き継ぐ,「 語り部 」 のような人を増やす 14.6 15.7 10.6

4. 学校でもっと積極的に教える 36.1 30.7 38.6 5. 後世に伝える必要はない 1.2 2.2 1.1 6. その他 4.4 2.7 2.1 7. わからない,無回答 6.9 8.9 8.1

―被爆体験の有無―問 12 あなたには,被爆した体験がありますか。次に読み上

げる 3 つの中から 1 つ選んでお答えください。

(%)広島市 長崎市 全国

1. 自分が被爆した 4.1 7.2 0.7 2. 自分は被爆していないが,身近な

人が被爆した47.8 51.9 9.0

3. 自分も身近な人も被爆していない 42.4 32.8 83.7 4. 答えたくない,無回答 5.8 8.1 6.6

―年層―問 13 あなたの年齢は何歳代でしょうか。次に読み上げる中

からお答えください。  (サンプル構成参照)

―居住年数―〈全国は実施せず〉問 14 あなたは広島市(長崎市)に,生まれてからずっとお

住まいでしょうか。(「いいえ」の人に)では,広島市(長崎市)に通算して何年お住まいでしょうか。次に読み上げる中からお答えください。

(%) 広島市 長崎市

1. 生まれてからずっと 35.8 42.2 2. 10 年未満 6.0 5.1 3. 10 年以上~ 30 年未満 22.5 18.2 4. 30 年以上~ 50 年未満 19.8 15.3 5. 50 年以上~ 70 年未満 7.2 8.3 6. 70 年以上 1.6 1.7 7. 無回答 7.2 9.3

全 体 性 年 層男性 女性 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70~74 歳 75~79 歳 80歳以上 無回答

広島市 1,130 人 427 703 40 93 280 203 243 100 53 68 50 長崎市 1,005 人 374 631 17 76 221 187 212 74 65 87 66 全 国 1,024 人 410 614 30 90 263 175 187 87 73 60 59 広島市 100.0% 37.8 62.2 3.5 8.2 24.8 18.0 21.5 8.8 4.7 6.0 4.4 長崎市 100.0% 37.2 62.8 1.7 7.6 22.0 18.6 21.1 7.4 6.5 8.7 6.6 全 国 100.0% 40.0 60.0 2.9 8.8 25.7 17.1 18.3 8.5 7.1 5.9 5.8

サンプル構成

NOVEMBER 2015