第8回 1タ 北海道農業研究センター ネなしスイ · 花 粉 も う ま く 作 ら...

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1 2 3 野菜のチーム 北海道農業研究センター 作物開発部 野菜育種研究室 室長 杉山 慶太 スイカ 8 71 2006.タキイ最前線 春号 筆者紹介 筆者略歴 杉山 慶太 1985 にて 員として スイカの育 1996 ーに異 院園 にて う。1997 とし てスイカ 1999 2001 としてニ の育 2005 より ター としてス イカ、カボチャの している。 F

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野菜のQ&Aチーム北海道農業研究センター

作物開発部 野菜育種研究室室長 杉山 慶太

スイカ第8回

712006.タキイ最前線 春号

筆者紹介

筆者略歴杉山 慶太1985年、野菜試験場に入省、久留米支場にて研究員としてスイカの育種に従事。1996年、国際農林水産業研究センターに異動、上海市農業科学院園芸研究所にて共同研究を行う。1997年、野菜・茶業試験場久留米支場主任研究官としてスイカ研究に従事。1999年、農林水産省農林水産技術会議事務局で研究調査官を担当。2001年、野菜茶業研究所キク科育種研究室室長としてニンジンの育種を担当。2005年より北海道農業研究センター野菜育種研究室室長としてスイカ、カボチャの研究に従事している。

スイカは南アフリカの原産で、わ

が国へは16〜17世紀に伝来し、江戸

時代に広まっていきました。明治時

代以降は盛んに品種改良が行われ、

F1品種の育成および、3倍体や不活

化花粉を利用したタネなしスイカの

作出などがなされました。このよう

な世界に先がけた技術や、地域ごと

の緻ち

密みつ

な栽培技術により、わが国の

スイカの品質は世界の最高峰にある

といえるでしょう。

スイカの収穫量は2003年には

約48万7000tと、年々数量が減

少している中で、小玉スイカは増加

傾向にあります。2004年の東京

都中央卸売市場における、小玉スイ

カの取扱数量は約7万6000tで、

スイカ全体の18・4%となっていま

す。品質のよい小玉スイカ品種も多

く発表され、ますます増加するもの

と予想されます。

スイカについては、それぞれの産

地で適した栽培法が開発されている

ため、本稿では栽培の基本的なポイ

ントと最新の技術開発についてご紹

介したいと思います。

スイカの来歴と品種動向

タネなしスイカは日本の技術

アメリカ、中国、台湾などをはじめ、世

界的にはタネなしスイカが増加する傾向に

あります。このタネなしスイカの作出法を

開発したのは日本の研究者です。約60年前

の戦前から戦後にかけて寺田、益田、木原

らが、コルヒチン処理により4倍体を作出

し、これと2倍体をかけあわせて得られた

3倍体を利用する、タネなしスイカを作出

しました。この技術を利用して、戦後続々

と3倍体スイカ品種が育成され、昭和30年

代には、タネなしスイカの栽培がかなり広

まりました。

どうしてタネなしスイカになるの?

スイカの種子をまいて発芽した時に、コ

ルヒチンという薬品を芽生えに滴下します。

コルヒチンは染色体数を倍化させる効果が

あります。この処理によって、染色体の組

が通常の2倍(4組)に増えた4倍体の茎

(つる)や葉が出てきます。また、雌花の

中にある卵細胞の染色体は減数分裂により

2組となります。この雌花にコルヒチン処

理していないスイカの花粉(染色体1組)

を受粉すると、卵細胞と受精し(花粉1組

+卵細胞2組)、分裂して種子が果実の中

にできます。この種子を3倍体のタネとい

います。

このタネをまくと、発芽して、やがて花

ができます。この雌花の中で胚のう(タネ

となる部分)が作られる時、余分な1組の

染色体があるため、うまく分裂できず、卵

細胞が形成されません。この果実にはタネ

のもとになるものが作られないので、「タ

ネなし(シイナは残る)」となるわけです。

ですから、タネなしスイカを作る時は、い

つも3倍体のタネをまくことになります。

この3倍体からは、同様に花粉もうまく作

られません。そこで、普通のスイカ(2倍

体)の花粉を受粉することによって、その

刺激で果実を肥大させているのです。

タネなしスイカ栽培のポイント

日本では、この3倍体スイカの栽培自体

が難しい、品質が劣るなどの理由から次第

に作られなくなりました。しかし、最近の

品種は品質がよく、栽培もしやすく改良さ

れてきています。

3倍体スイカは、普通スイカに比べて生

育が旺盛ですが、雌花の開花が遅い傾向が

あります。そのため、普通のスイカより早

めの播種が必要です。また、普通スイカに

比べ生育を抑えぎみにして雌花の着生や着

タネなしスイカ

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スイカの自根栽培では、連作によってつ

る割病が発生する恐れがあります。果実が

成熟する前に株全体が萎い

凋ちょう

して、まったく

収穫できなくなる病気です。現在はユウガ

オ、カボチャ、トウガンなどに接いでこの

病気を防いでいます。できるだけ土壌消毒

を行わないためにも、接ぎ木苗を利用する

ことが必要です。

また、特に怖い病気として、スイカ果実

汚斑細菌病があります。日本では近年発生

が確認された病気で、スイカだけでなくほ

かのウリ類にも感染して発病します。主に

種子で伝染しますが、接ぎ木操作、苗への

潅水、定植後の整枝などにより、広範囲に

第二次伝染する可能性があります。苗の腐

敗(写真2)や、時として本葉での黄変帯

をともなう不整形病斑(写真3)、果実に

亀裂をともなう大型の褐色病斑(写真4)

などが主な病徴です。特に育苗時の発生が

非常に多く、被害の大部分を占めています。

もし、疑わしい病徴が見られた場合は、

自己判断せずに都道府県の病害虫防除所や

農業試験研究機関へ診断を依頼してくださ

い。適切な処置を行わないと、病気が拡大

して周辺の産地にも影響を及ぼすことにな

ります。

スイカの病害

果を高めます。受粉後は普通のスイカより

温度を3〜4℃高めに維持することによっ

て、着果が安定しシイナ(タネの白い皮)

の発達が抑えられるといわれています。

普通スイカも必ず植えること!!

タネなしスイカのタネをまくだけでは、

果実は肥大しません。3倍体スイカも雄花

が咲いて花粉が出るため、受粉して雌花が

肥大するように思えますが、実は3倍体の

花粉のほとんどは不稔で受精能力がありま

せん。そこで、必ず普通のスイカを植えて、

その花粉をつけるようにします。3倍体ス

イカの列の横に普通スイカを植えると、ミ

ツバチによって効率よく受粉させることが

できます。枕形の「紅まくら」なら低温期で

も花粉が多く、青果の取り違えも防げます。

タネなしスイカ作出に向けての研究

タネなしスイカを作る方法は3倍体以外

にも試みられ、植物生育調節剤(オーキシ

ンやサイトカイニン)による作出方法があ

ります。また、最近開発されたものに、ス

イカの花粉に軟X線を照射し、その花粉で

受粉することによって、タネなしスイカを

作出する方法があります(写真1)。この

技術には、まだ解決すべき課題があります

が、これまでに得られた知見を紹介します。

この方法は、普通のスイカ品種をそのま

まタネのないスイカにする方法です。開花

した雄花を摘んで、軟X線を発生させる装

置の中に入れて照射します。軟X線装置は

取り扱いの資格は不要です。この雄花(花

粉)が受粉された雌花は、肥大してタネな

しスイカとなります。

軟X線とは波長の長いX線で、細胞を通

過する能力が低いものです。軟X線を照射

した花粉を雌花に受粉すると、花粉の染色

体は卵細胞と接合しますが、卵細胞はうま

く分裂できずに消えていきます。これは、

軟X線の処理によって、花粉の染色体が切

断されるためと考えられます。この方法に

よってできた果実は、普通のスイカと大き

さや味などまったく変わりなく、タネだけ

がないものとなります(シイナは残ります)。

ただし、普通の花粉が雌花につくと、タ

ネができてしまいます。そのため、雌花の

開花前後に袋などをかけて、昆虫その他に

よる受粉を防止しなければなりません。現

在、受粉作業の省力化などに向けて実用化

の研究が行われています。

写真2

↑苗での病徴(白川隆 原図)。

↑本葉での病徴(白川隆 原図)。

↑果実での病徴(白川隆 原図)。

写真3写真4

写真1軟X線によるタネなしスイカの作出。雄花を採取(a)し、軟X線で照射(b)後、人工受粉(c)すると、タネなしの果実(d)となる。赤肉、黄肉スイカを問わず作出できる。

●a ●b

●c ●d

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ったりします。このような状態で結実し

ないと、いわゆる「つるぼけ」となって、

結実させる時期を逃してしまうことにな

ります。また、逆に生育が悪い(つるの

伸長が悪い)と、雌花は貧弱となり、結

1

2

スイカの基本は土づくり

スイカの根は地中約100㎝以上、幅

は200㎝以上に広く張っています。根

が広く張らないと、生育後半に株の勢い

が衰えて、収穫まで続く養分吸収力が低

下し、収量や糖度などの品質に影響を与

えます。根を広く十分に張らせるために

は、牛ふん堆たい

肥ひ

などの有機物を施用し、

休閑時にはソルゴーや麦を作ってすき込

むなど、地力を高め、数年に一度は深耕

して土壌の団粒構造を改善し、膨潤な土

壌を作ることが重要です。土壌に孔隙が

できると通気性や透水性がよくなり、地

中深くまで根が発達して、湿害の影響を

受けにくくなります。そのため、糖度を

高めるための水切りを行っても、萎凋す

ることなく草勢が維持されます。

定植期

定植時の地温は、最低15℃以上を確保

します。定植後から活着まではトンネル

を密閉し、昼温30〜35℃、夜温15℃以上

で管理します。日差しが強い時は急激に

気温が上がるので、注意が必要です。45

℃くらいを超えると、葉焼けや生長点へ

の影響が出てきます。

スイカはトマトよりも光合成の光飽和

点が高く、野菜の中で最も強光を好む作

物です。そのため光不足は、品質のよい

果実を得るには致命的になります。でき

るだけ光を取り入れるためにも、ビニー

ルの汚れは落とし、古くなれば取り替え

る必要があります。また、葉の重なりも

なるべく少なくして、1枚1枚の葉が採

光できるように仕立てる工夫が重要です。

生育の診断

受粉期前に生育が旺盛になりすぎる(つ

るの勢いが強い)と、雌花の着生が不安

定となり、雌花がついても栄養が茎葉の

伸長に流れてしまうため、結実が悪くな

品質向上・秀品率アップのためのポイント

スイカで大きな問題となる害虫は、ハ

ダニ、アブラムシ、ミナミキイロアザミ

ウマです。

いつの間にか葉の表面の所々に、白い

小さな斑点模様(写真5)が見え始めた

ら、すでに多くのハダニが繁殖している

ということです。葉が黄化するまで気づ

かないでいると、あっという間に株全体

に広がってしまいます。気温上昇にとも

なって繁殖スピードが速くなりますので、

油断は禁物です。ダニに薬剤耐性を付与

させないよう、登録を確認し必ず毎回違

う薬剤を使用します。また、次作の被害

を減らすためにも、植物体を圃ほ

場に残さ

ず持ち出して、焼却処分するなどの対策

も必要です。

アブラムシも増殖が早く、そのまま放

置すると果実の表面が汚されます。でき

るだけ早めに防除することが重要です。

また、ミナミキイロアザミウマは九州

などの温暖地域で問題となりましたが、

今ではほとんどの地域に広がっています。

食害するだけでなくウイルスも媒介する

ので、注意が必要な害虫です。スイカに

おける被害としては、新芽や若い葉を食

害するので、生長が遅延したり、食害が

ひどくなると生育が停止したりしてしま

います。また、幼果などを食害されると、

果面の汚れやサメ肌となって品質を落と

します。

この害虫に対する防除法としては、青

色や黄色粘着テープによる誘殺、忌避効

果として反射の強いシルバーフイルムの

利用、ハウス出入口の防虫ネットによる

遮断などがあります。このような耕種的

防除による、薬剤をできるだけ使用しな

い取り組みが必要ですが、発生の初期防

除も有効なので、動き回る小さな虫を発

見したら本害虫を疑ってみてください。

スイカの虫害

写真5

ダニ発生初期の症状。黄色い小斑点が見ら

れる。

写真6

両性花。柱頭を取り囲むように葯がある。

きゅうかん

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実しても十分な大きさになりません。

そこで、生育が適当であるかを判断す

るため、雌花の着生位置とつる先までの

長さ、つる先の状態を目安にすることで

およその見当をつけます。つる先に最も

近い雌花の着生位置からつる先まで約30

〜40㎝で、つる先が地面から約20〜30度

の角度がよいとされています(第1図)。

これよりも長く、つる先がこれ以上の角

度で持ち上がるか、かま首を持ち上げる

ような状態では、勢いが強いため結実が

難しくなります。両性花(写真6)は生

育が旺盛である時に発生しやすい傾向が

あります。また、雌花からつる先までが

20㎝以下で、つる先が上を向かない場合

は生育が弱いと判断できます。

生育が旺盛な時は、適度な整枝を行う

ことで調整します。また、生育が弱い時

は、その原因(水不足なのか、栄養不足

なのか、光不足なのかなど)によって対

処します。しかし、極端な対処の仕方は、

逆に生育や果実の品質を悪くしてしまう

ことがあるので注意が必要です。

交配(受粉)期

第3〜4番目に着生した雌花に着果さ

せるのが、品質のよい果実を得るポイン

トです。およそ20節前後の雌花です。充

実した雌花をつけるためには、葉に光が

十分当たるよう整枝することが必要です。

側枝は、結実させる雌花から数節先まで

は摘み取ります。また、受粉期は最低15

℃以上で保温し、特に受粉後は最低15℃

以下にならないように管理することが重

要です。そのためには、早めの被覆管理

が必要となります。

雌花の寿命が短いため、受粉は午前中

に終えることが大事です。昼過ぎの受粉

では着果しにくくなります。人工受粉の

際は、花粉を柱頭全体につけるようにし

ます。雌花の開花日に気温の低下が予想

される場合は、開花前日の雄花をとり、

暖かい部屋で翌日に開花させて利用する

ことも可能です。また、当日開花した雄

花を、すぐ乾燥剤とともにタッパーなど

へ密閉し(湿気は禁物)、冷蔵庫で保存(5

℃程度)すれば、翌日でも使用すること

ができます。そのほか、低温期でも花粉

が出やすい品種の利用も考えられます。

しかし、いずれも花粉に十分な発芽力が

あることが前提で、雌花にも受精能力が

ないと結実には至りません。

ミツバチ交配を行う場合は、気温が低

いと活動してくれないので、人工受粉の

併用も必要となります。また、紫外線カ

ットフイルムは、ミツバチの活動を妨げ

るので注意しましょう。着果が確認され

た雌花は、収穫までの目安となるよう棒

やラベルなどで必ず目印をつけて(写真

7)、品質の安定を図ります。

空洞果を生じさせないためには、適切

な潅水を行い、トンネルやハウスの換気

に気をつけて、温度や湿度といった環境

の急激な変化は避けることです。特に、

果実を肥大させようとするあまり、必要

以上に水を多く与えすぎないようにしま

しょう。

収穫期

近年の温暖化とともに日差しが強くな

り、スイカ表面が日焼けを起こす事例が

多くなってきました。この日焼けを防ぐ

には、石灰を果実に散布したり、ビニー

ルに塗布したりする方法があります。も

ちろん、出荷する時に果実の石灰は落と

します。

スイカ果実は、果糖、ブドウ糖、ショ

糖を含んでいます。果糖やブドウ糖は開

花後から増加しますが、ショ糖分は開花

30日ごろから急激に増してくる特徴があ

ります。糖度を上げるには、収穫の1週

間前くらいから水切りを行って、土壌を

乾燥させるようにします。収穫間際に降

雨などによって水を吸うと、糖度は急速

に低下してしまいます。特に、夜間に降

雨があった後の収穫は、できるだけ避け

たいものです。

収穫までの日数は、品種と栽培してい

る地域の気候によって異なります。基本

的には交配後の積算温度などを参考にし、

試し切りを行って収穫日を決めます。作

型によって適した播種期と求められる形

質(第1表)がありますので、種苗会社

のカタログやホームページでの情報を参

考にしてください。

第1表 スイカの作型と必要な形質

促 成

半促成

早 熟

普 通

抑 制

作型 播種期 収穫期 求められる主な形質(株)

9~11月

11~1月

1~3月

3~4月

7~8月

1~5月

3~6月

6~7月

7~8月

11~12月

着果安定性、低温肥大性など

着果性、空洞果の低率、日もち性、 耐裂果性(小玉)など

日もち性、空洞果の低率、 耐裂果性(小玉)など

果肉の着色性・果皮の着色性など

写真7

↑着果棒による収穫予測。交配後、着果が確認された果実に棒を立て、収穫までの目安にする。着果日が異なる場合は、棒の色を変える。

第1図 順調な生育の目安

雌花の位置からつる先まで30~40Bで、地面か ら20Bくらい立ち上がるのを目安とする。

雄花 つる先

30~40B

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高品質なスイカ作りと省力・軽作業化のための立体栽培

スイカの立体栽培は、古くよりわずか

ながら行われていましたが、近年になっ

て熊本県農業研究センターと野菜茶業研

究所が、スイカ立体栽培についての利点

と栽培技術を明らかにしてきました。

熊本県での促成スイカの立体栽培にお

いて、親づると子づるの2本仕立てにす

ることで受粉期が早まり、収穫も早まる

傾向が見られています(第2表)。また、

結実率の向上や、空洞果の発生率の低下

なども明らかにされています。2本仕立

てだと1果重は小さくなりますが、栽植

密度が高くなるため、収穫果数は増加し

ます。

さらに、立体栽培における省力化をね

らった栽培法として、「オールバック+

垂直ひも誘引」法が開発されました(第

2図)。この方式では、株を植え付けた

後、畝の端まで伸びたつるを株元へバッ

クさせます。これに15〜20枚程度の葉を

着生させてから、つる先近くにひもを結

びつけ、上につるを持ち上げてワイヤー

とひもを結びます。つるがひもから外れ

ないよう数日ごとに巻きつけ、つるが伸

びたらワイヤーを越えさせて反対側に降

ろします。果実の着生節位から12枚程度

を残して摘芯します。果実は玉つりをし

ますが、果面にキズなどがつかないよう、

第2図 オールバック+ 垂直ひも誘引の例

畝幅160B

ワイヤー

ひも

↑立ち作りによるスイカ栽培(渡辺慎一 原図)。

写真9

すでに、トンネルを利用したスイカの

栽培法は各産地で確立されていますが、

近年は高齢化が進んでおり、他作物との

競合による労力不足などもあって、栽培

管理の省力化が望まれています。そこで、

ここではトンネル栽培での省力化の例を

紹介します。

北海道のトンネル早熟栽培において、

親づるは摘芯せずに子づるを5本伸ばし、

側枝をとらず、ほとんど放任に近い状態

で2果どりする栽培法があります(写真

8)。従来の子づる3本仕立てで、着果

節位までの側枝を除去し、1果どりする

のに比べて、整枝・誘引にかかる作業時

間を半減できるうえ、必ずしも品質を低

下させないことが分かりました。つる引

き作業は、交配させる雌花がつくまで2

回ほど行います。ただし、着果と収穫が

数日遅れる傾向があります。

また、鳥取県の大栄町では、4本仕立

て放任栽培という省力整枝法が進められ

ています。これは、つる引き後にトンネ

ル付近の株元から伸びてくる側枝はその

まま放任し、着果節位前後の側枝は除去

するという方法です。これにより、交配

前の省力化を図っています。

省力化栽培への取り組み

↑北海道での省力的整枝法によるトンネル栽培(平井剛 原図)。

写真8

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大きなスイカを、丸ごとその場で切っ

て食べるのが醍醐味だと思うのですが、

少家族化や単独世帯の増加、ゴミの問題

などから、大玉スイカを丸ごと買うこと

が少なくなりました。そのため、大玉ス

イカは、カットやブロックカットなどの

形態で販売されるのが普通となっていま

す。また、丸ごと買いたいという消費者

向けには、小玉のスイカが多く作られる

ようになり、次第にその量も増えていま

す。さらに、黒皮や黄皮のスイカ、様々

なブランド化によるネーミングなど、人

目を引く工夫がされています。タネなし

スイカ(シイナがある)もまだ少ない量

ですが、見かけるようになってきました。

機能性面においてはカリウムを多く含

み、スイカ糖は昔から腎臓病によい薬と

して知られています。また、抗がん作用

のあるリコペンを多く含有し(黄肉種で

はキサントフィル)、抗酸化作用のある

ビタミンA(カロテン)、シトルリン(ア

ミノ酸)も含みます。このように、スイ

カはミネラルや機能性成分を多く含んで

いるので、その点を消費者にアピールす

ることも大切です。

消費ニーズの拡大に向けて

ミカンネットなどを用います(写真9)。

この栽培法によって、上物率が高く、空

洞果の発生もなくなり、品質が優れるこ

とが分かりました。

立体栽培における姿勢改善や作業時間

の短縮について、参考となるデータがあ

ります。つらさ指数(作業姿勢の苦楽)

によって、地じ

這ば

い栽培と立体栽培の側枝

除去作業を比較したところ、立体栽培の

方がつらさ指数が低く、作業時間も短い

ことが明らかとなりました(第3表)。

このように、スイカを立体栽培にするこ

とで、地這い栽培と比べて作業姿勢が顕

著に改善され、単位面積当たりの栽植本

数を増やせるなどのメリットが生まれま

す。しかし、地這い栽培と比べて果実が

小さくなりやすいこと、資材費がかかる

ことも考慮する必要があります。

第2表 促成スイカの地這い栽培と     立体栽培の比較

地這い

立 体

栽培 方式

交配日 (月/日)

着果率 (%)

収穫日 (月/日)

商品化 収量

(㎏/a)

商品化 平均果重 (㎏)

空洞果 発生率 (%)

2/3

1/24

35.6

63.9

3/28

3/21

157

259

4.01

2.30

37.5

0.0

(熊本県農業研究センター)

※大玉スイカ、16株平均。立体栽培の着果率は親づるの10~35節を調査。

第3表 地這い栽培および立体栽培の     つらさ指数と所要時間

地這い

立 体

栽培方式 つらさ指数 側枝除去総数 (本)

1本当たり 所要時間(秒)

6.3

4.9

126

83

7.4

5.4

(野菜茶業研究所)

※被験者:身長183B、男性 ※地這い栽培、立体栽培とも30個体(面積は地這い63.0G、立体31.5G)当たりの値。 ※つらさ指数は作業姿勢に基づく  (10:腰を深く曲げた中腰で上体を前屈←→1:立ち姿勢)。

↑大玉スイカは、カット販売が増えている。

写真10