建築基準法第21条、第27条の改正に伴う 大規模木 …1. はじめに...

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1. はじめに 「建築基準法の一部を改正する法律(平成26年法律第 54号)」が平成2664日に公布、平成2761日に 施行されました(以下、建築基準法を“法”という)。 主な改正項目として、「木造建築関連基準の見直し」 「構造計算適合性判定制度の見直し」、「容積率制限の合 理化」等が挙げられています。 建築物に求められる防火性能は、その用途・規模(高 ,延べ面積等)および建設地の地域地区に応じて、法 で具体的な基準が定められていますが、ここでは「木造 建築関連基準の見直し」について、改正の概要と性能評 価の概要について説明します。 2. 法改正の概要 今回の法改正によって「大規模木造の建築物が建築可 能」となりました。実大火災実験等により得られた新た な知見に基づき告示仕様が定められ、告示仕様以外のも のを用いる場合は、性能評価を受け、大臣認定を取得す るルートが示されました。この背景としては、建築物に おける木材利用や新技術導入を促進するための規制緩和 が挙げられます。 改正に関わる主な法文は下記の2条文です。 ・法21条第2項 大規模の建築物の主要構造部等 ・法27条第1項 耐火建築物等としなければならない特殊建築物 次に、それぞれの改正の概要につい て概説します。 (1)法21条第2項(図-1) 「延べ面積3,000㎡を超える建築物 を木造で建てることが可能となる」 これまでは延べ面積3,000㎡を超 える建築物は、耐火構造とする必要 がありましたが、今後は延べ面積 3,000㎡を超える建築物であっても、 3,000 ㎡以内ごとに法21条第2項で 定められた「壁等」で区画すること により、耐火構造以外の建築物とす ることが可能となりました。 図-1 建築可能な木造建築物の例(法21条) 1) テーマ解説 24 建築基準法第21条、第27条の改正に伴う 大規模木造建築物の性能評価について 建築確認評定センター 性能評定課

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1. はじめに「建築基準法の一部を改正する法律(平成26年法律第

54号)」が平成26年6月4日に公布、平成27年6月1日に施行されました(以下、建築基準法を“法”という)。

主な改正項目として、「木造建築関連基準の見直し」「構造計算適合性判定制度の見直し」、「容積率制限の合理化」等が挙げられています。

建築物に求められる防火性能は、その用途・規模(高さ,延べ面積等)および建設地の地域地区に応じて、法で具体的な基準が定められていますが、ここでは「木造建築関連基準の見直し」について、改正の概要と性能評価の概要について説明します。

2. 法改正の概要今回の法改正によって「大規模木造の建築物が建築可

能」となりました。実大火災実験等により得られた新たな知見に基づき告示仕様が定められ、告示仕様以外のものを用いる場合は、性能評価を受け、大臣認定を取得するルートが示されました。この背景としては、建築物における木材利用や新技術導入を促進するための規制緩和が挙げられます。

改正に関わる主な法文は下記の2条文です。・法21条第2項

大規模の建築物の主要構造部等・法27条第1項

耐火建築物等としなければならない特殊建築物

次に、それぞれの改正の概要について概説します。

(1)法21条第2項(図-1)

「延べ面積3,000㎡を超える建築物を木造で建てることが可能となる」

これまでは延べ面積3,000㎡を超える建築物は、耐火構造とする必要がありましたが、今後は延べ面積3,000㎡を超える建築物であっても、3,000㎡以内ごとに法21条第2項で定められた「壁等」で区画することにより、耐火構造以外の建築物とすることが可能となりました。

図-1 建築可能な木造建築物の例(法21条)1)

テーマ解説

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建築基準法第21条、第27条の改正に伴う大規模木造建築物の性能評価について

建築確認評定センター 性能評定課

性能評価としては、通常の火災による火熱が「火災継続予測時間」加えられた場合の各部材の非損傷性、遮熱性、遮炎性などの評価を行います。

(a)「火災継続予測時間」の算出方法

建築物の構造、建築設備および用途に応じて、個別に収納可燃物および構造躯体の燃焼を考慮して算定するか、又は告示250号の仕様の根拠となった「90分」と想定します(ただし、収納可燃物が多い倉庫は除く)。なお、前者の場合は、実大規模の壁等および区画された部分の試験(標準加熱曲線による加熱時間(火災継続予測時間)に変換)や壁等を構成する各部材の耐火試験等に基づいてその妥当性を確認することとなります。

(b)壁等の技術的基準(施行令109条の5)

壁等には、表-1に示す性能が要求されます。

(2)法27条第1項(図-2)

「3階建ての学校等を木造で建てることが可能となる」

これまでは3階建て以上の学校等は耐火建築物にする必要がありましたが、一定の延焼防止措置を講じた場合、1時間準耐火構造の建築物とすることが可能となりました。

ただし、法21条および法27条いずれの場合も建物単体の規定であり、市街地火災に対する安全性については別途、集団規定で規定されています。集団規定において単体規定より高い耐火性能が要求されている場合は、集団規定が優先されますのでご注意ください。

3. 性能評価の概要3. 1 法21条第2項

法改正に伴い、新たな用語として「火災継続予測時間」および「壁等」が定義されました。「火災継続予測時間」は、「建築物の構造、建築設備お

よび用途に応じて火災が継続することが予測される時間」を示します。「壁等」は、「壁、柱、床その他の建築物の部分又は防

火戸その他の施行令で定める防火設備」を示します。この中には「壁で区画する場合(以下、“壁タイプ”

という)」(図-3)と「火災の発生のおそれの少ない室である壁等で区画する場合(以下、“コアタイプ”という)」

(図-4)が含まれます。

図-2 建築可能な木造の学校等の例(法27条)1)

図-3 壁タイプの壁等2)

図-4 コアタイプの壁等2)

通常の火災による火熱に対する

非損傷性

遮熱性

遮炎性

壁等で区画された建築物の部分の倒壊時の

応力に対する 自立性

壁等で区画された建築物の部分から屋外に

出た火炎に対する 延焼防止

表-1 壁等の技術的基準

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GBRC Vol.40 No.3 2015.7

(b)主要構造部等の技術的基準(施行令110条)

主要構造部等には以下の性能が要求されます。・主要構造部の非損傷性、遮熱性、遮炎性・外壁の開口部の遮炎性これら主要構造部等は告示255号に示される仕様とす

るか、又はその性能を耐火試験によって確認します。なお、本項は、主要構造部等が告示255号に示される

構造方法どおりの仕様とするのであれば、通常の確認申請ルートのみで建築可能となります(性能評価及び大臣認定取得ルートは不要)。

4. まとめ本報では、大規模木造建築物に関わる法21条、法27条

の改正の概要とその性能評価方法について概説しました。当法人では平成27年6月1日の改正法施行に伴い、こ

の改正に関する新たな性能評価業務を開始しました。当法人は、「建築物の避難・耐火性能評価」と「防耐火構造部材等性能評価(試験を伴う評価)」の両者を業務として行っており、今後はこれまでの両評価実績を活かして、ご紹介した業務を行う所存です。

なお、本報執筆時点では、評価方法等に関しては未定の部分も含まれていますことをご了承ください。

【参考文献】

1) 国交省ホームページ:建築基準法の一部を改正する法律(平成26年法律第54号)について http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_fr_000071.html

2) 国住指第558号(平成27年5月27日付):建築基準法の一部を改正する法律等の施行について(技術的助言):別紙7

これらの壁等については、告示250号に示される仕様を用いるか、又はその性能を、壁等を構成する各部材ごとの耐火試験等によって確認します。コアタイプの場合は、告示仕様を用いるか、又はその性能を耐火試験もしくはシミュレーションによって確認し、壁等を構成する各部材の接合部を防火上支障がない構造としていることを確認します。

なお、本項は、壁等が告示250号に示される構造方法どおりの仕様とするのであれば、通常の確認申請ルートのみで建築可能となります(性能評価および大臣認定取得ルートは不要)。

3. 2 法27条第1項法改正に伴い、新たな用語として「特定避難時間」が

定義されました。「特定避難時間」とは「特殊建築物の構造、建築設備

および用途に応じて当該特殊建築物に存する者の全てが当該特殊建築物から地上までの避難を終了するまでに要する時間」を示します。

性能評価としては、通常の火災による火熱が、特定避難時間(屋根、床、非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分以外の部分などは30分間)加えられた場合の、主要構造部(またはその一部)の非損傷性、遮熱性、遮炎性の評価を行います。

(a)特定避難時間の算出方法

建築物の構造、建築設備および用途に応じて、個別に建物に存する者の全てが他の者の救助によって地上まで避難する時間を考慮して算定するか、又は告示の仕様の根拠となった方法に基づいて算定します。

平成 27 年 6 月 1 日より「壁等(法 21 条第 2 項)」「特殊建築物の主要構造部(法 27 条第 1 項)」

に係る性能評価を開始しました。これらは「建築物の避難・耐火性能評価委員会」において審査を行

います。具体的な相談は下記にお問い合わせください。

お問合せ先

一般財団法人 日本建築総合試験所 建築確認評定センター 性能評定課(担当:中野、中道)

TEL:06-6966-7600 FAX:06-6966-7680 E-MAIL:[email protected]

「壁等の耐火性能評価」「特殊建築物の主要構造部の耐火性能評価」に係る性能評価を開始

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