合理の枠組み”の中で模索を重ねながら 電流出力型パワー・9)18th-r… ·...

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●第18回「RGAAクラブ-音の展覧会」出展作 ‘‘合理の枠組み”の中で模索を重ねながら 電流出力型パワー・ アンプの試作 (1)リファレンス・アンプ第1号 臆土岐啓太■ 合理の枠組み-主観と客 観の折り合いをどうつけるか 通勤途中で目にする小さなギャラ リーがあります.作品を掛け替える 作業を見ていると,水糸を張って正 確に額を掛けているようですが スカレータを昇りながら見ると,決 まって画が曲がっているように見え るのです 話が飛びます.尊敬する廣坂正明 氏は 無線操縦電動模型自動車の競 技分野において,子息正美氏のドラ イブにより世界選手権優勝13回を 誇る世界的に有名な伝説のエンジニ ア・メカニックです. 長さ400mm,幅190mmの車体 の調整は実に繊細で 精密な各種の ゲージを使ってセッティングの再現 性を確保するのか常識となっていま すが,蹟坂氏は最も重要な調整項目 の1つである最低地上高については 単体を定盤に触れるまで数回スコス コと押しつけてみるだけ 同じくた いへんシビアなタイヤのキャンパー 角も.直角の目安となるジュース缶 を隣に置いてクイクイっとレンチで 調整して終わり,という具合で OCT 2014 「音の展覧会」でパソコンと プロジェクタを使って経過 を説明する土岐氏 ベてが手の感覚と目分量による調整 なのです.2年に一度の世界選手権 決勝ヒートのスタート・ラインに目 分量で仕上げた車を置く勇気は 人の想像が及ぶものではありません. さて,わたくしは上記の例でいい ますと,“水糸”よりも頗坂氏の“目 分量当こ親近感を覚えるものです. 人が目で見るためのギャラリーの額 は.人の目で見てまっすぐに見える ように掛ければいいのではないか, と思うのです. オーディオにおいでも,人が使う 機器の性能は当然,人が判断するし かないと考えます.音楽を聴くのか 人間である以上 音楽用装置は人間 ∴‾∴ ∴∴∴ ∴「 空拳ザ ;態掛 ∴∴ ∴∴ ∴∴∴ ∴∴∴∴ ∴十十 ㌧∴∴∴ ∴一∴ 一1主軸mL∴ 一∴ ∴ ∴∴∴ ∴一一∴ 一∴ /シ)原)/亀 ∵∴ 羅霊 _一 ∴幸 一「. ∵∴∴ ∴ 白予玖/ ∴∴∴∴∴∴∴∴ ∴∴ヽⅢ 一一一一一 一一、ii/1-iii● :i ∴、∴i∴∴ ∴∴∴ .∴∴∴、∴.∴∵ ∴∴∴∴∴∴∴∴: 「‾“‾ “○○∴∴ :∴∴∴∵∴、∴ ∴∴∴∴ ∴一 ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴:∴ ‾i∴∴∴∴∴∴∴ 0882‘ 遼\\こか\\\ 言霊 、、実、 1、緊 一∴∴∴ ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴ ∴∴∴i 一日一∴∴∴∴∴ ∴∴∴∴∴∴∴ ∴∴∵∴∴, ‥∴ ∴ ∴:∴∴∴ :∴ :∴ ∴ :∴ ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴ ∴∴「’ i∴∴∴∴∴ ∴∴∴一∴∴ -.: ∴∴ ∴∴∴∴「∴∴∴ :∴∴:∴∴∴∴ \言告/ ∴∴∴ ∴∴ ∴」 :「∴ ∴∴∴ 垂裏二二‘//∴一∴ ∴∴蝉 ∴∴-∴一 一一 ●デモは写真の試作最終機(?)と前回出展された速度制御型SPシステムの改良機を使 って行なわれた 101

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Page 1: 合理の枠組み”の中で模索を重ねながら 電流出力型パワー・9)18th-R… · 的な連載は96年10月号~97年 7月号「何がアンプの音を決めるの

●第18回「RGAAクラブ-音の展覧会」出展作

‘‘合理の枠組み”の中で模索を重ねながら

電流出力型パワー・

アンプの試作(1)リファレンス・アンプ第1号

臆土岐啓太■

合理の枠組み-主観と客

観の折り合いをどうつけるか

通勤途中で目にする小さなギャラ

リーがあります.作品を掛け替える

作業を見ていると,水糸を張って正

確に額を掛けているようですが エ

スカレータを昇りながら見ると,決

まって画が曲がっているように見え

るのです

話が飛びます.尊敬する廣坂正明

氏は 無線操縦電動模型自動車の競

技分野において,子息正美氏のドラ

イブにより世界選手権優勝13回を

誇る世界的に有名な伝説のエンジニ

ア・メカニックです.

長さ400mm,幅190mmの車体

の調整は実に繊細で 精密な各種の

ゲージを使ってセッティングの再現

性を確保するのか常識となっていま

すが,蹟坂氏は最も重要な調整項目

の1つである最低地上高については

単体を定盤に触れるまで数回スコス

コと押しつけてみるだけ 同じくた

いへんシビアなタイヤのキャンパー

角も.直角の目安となるジュース缶

を隣に置いてクイクイっとレンチで

調整して終わり,という具合で す

OCT 2014

「音の展覧会」でパソコンとプロジェクタを使って経過

を説明する土岐氏

ベてが手の感覚と目分量による調整

なのです.2年に一度の世界選手権

決勝ヒートのスタート・ラインに目

分量で仕上げた車を置く勇気は 凡

人の想像が及ぶものではありません.

さて,わたくしは上記の例でいい

ますと,“水糸”よりも頗坂氏の“目

分量当こ親近感を覚えるものです.

人が目で見るためのギャラリーの額

は.人の目で見てまっすぐに見える

ように掛ければいいのではないか,

と思うのです.

オーディオにおいでも,人が使う

機器の性能は当然,人が判断するし

かないと考えます.音楽を聴くのか

人間である以上 音楽用装置は人間

   ∴ ‾∴ ∴     ∴∴∴       ∴「

空拳ザ       ;態 掛

∴ ∴

∴∴∴∴∴

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●デモは写真の試作最終機(?)と前回出展された速度制御型SPシステムの改良機を使って行なわれた

101

Page 2: 合理の枠組み”の中で模索を重ねながら 電流出力型パワー・9)18th-R… · 的な連載は96年10月号~97年 7月号「何がアンプの音を決めるの

●第18回「RGAAクラブ-音の展覧会」出展作

さス作正づ 間に小まべ に

Trl;A798

H2:C1815

H3:AlO15

Hl:MJE80u2N6037

Hs;MJE700/2N6034

五6:2N6043

H7:2N6040

T吋9.暗B595

HmMJE2955/8595

H12.13.1信D525

H15:MJE3055/B525

43K

2SK30AX2

(*は52-68pF,持3と‘は熱結合)

〈第2図〉2001年7月号に掲載された大沢久司氏作「決定版電流出力アンプ」

を改善したい,と考えました.石塚

氏は従来の電流出力アンプの音を,

“コントラスト重視で“解像度”が

やや不足する,と表現されました

全体としては“立ち上がり重と当)

リース.,“エッジ”と“柔らかさ”

などなど 相反する方向性を兼ね備

えた表現力を目指したいと思いまし

(3)新型アンプの構想

石塚氏のアンプ回路に関する集中

的な連載は96年10月号~97年

7月号「何がアンプの音を決めるの

か」,05年9月号一06年9月号「MC

用I-Ⅴコンバータを作る」.および

09年9月号一12年7月号「バイポ

ーラ・トランジスタの使いかたを考

える」の3つがあります.

これらを通じてヘッド・アンプ

ライン・アンプに関してはいくつか

の回路とその成果としての実機が発

表されていますが パワー・アンプ

に関しては形になったものはありま

OCT 2014

せんでした

一連の連載にある新回路やそのベ

ースとなる考えかたをパワー・アン

プに通用し,新しい回輔戌で1号

機を凌ぐパフォーマンスの新型アン

プの開発を目指すことにしましだ

最終的な構成としては,

・10年12月号型差動アンプ構成の

髄増幅段

・「石塚メモ(第1回」による新型増

幅段

・逓倍型カレント・ミラーの採用

・コレクタ接地段とベース接地投の

分離

・閉回路型ブート・ストラップ・

・レギュレークの採用

といった形態になりましたが 上述

の“合理の枠組み”に沿って,順次

ここに至る経緯を次回以降にお話し

たいと思います.

ことのなりゆき

オーディオ趣味に復帰後「1万円

lK    500

㊥Wcl

TL431  eVccl

2SK30AX2

コンテスト」の出展を終え.いよい

よ自家用装置の盤鰐に取り掛かるこ

とにしました

第1弾としてパワー・アンプの製

作を計画し,13年11月15日に石

塚氏に相談しました.双方すでにベ

ルギービールを相当量飲んでいる状

態でしたが「出力段が問題である」

という短い言葉とともに,石塚氏は

薄暗いビア・バーのカウンターで1

枚の回路図(第1回をさらさらと書

かれました.いわく.「これを動かし

てみろ,お前ならできるはず」,と

何やら買いかぶられたかたちです.

あくまでも自家用装置の相談をした

つもりでしたので正直なところ困惑

もしましたが かといって逆らうわ

けにもいかず(?),年末に試作を開

始した次第です.実際はこの図面が

回路のどの部分に当たるのかすらも

正確にはわかっていなかったのです

か…・

(1)リファレンス・アンプ

103

Page 3: 合理の枠組み”の中で模索を重ねながら 電流出力型パワー・9)18th-R… · 的な連載は96年10月号~97年 7月号「何がアンプの音を決めるの

電流出力アンプを作ること

は当初から決めており,パワ

ー・アンプについて各種の回

路の開発経緯などをお訊きし

ました 石塚氏の“息のかか

った購ものの中にあって,現

状で最高のパフォーマンスを

誇るのは たいへんな苦労の

末に大沢久司氏が01年7月

号に発表された回路とのこと

でした(第2図).

原回路は 70年代のユタ

ザクト社での市販を前提にし

たプロジェクトで「極端にコ

ストを制限する中で生まれた

こと.本来はhFEが小さか

った当時のトランジスタの使

用が前提であること,決定版

ではあるがこれ以上の大出力

化は望めないこと.極めて素朴な電

圧増山酸を含め,1か所も変更でき

ないほど絶妙なバランスの構成であ

ること,などを氏より教えていただ

きました

デッド・コピーでの試作後,アー

l)効果対策の徹底を狙い,05年9

月号開始の「VVコンバータを作る」

連載中に開発された閉園躍レギュ

レークを電源端子のブート・ストラ

ップ用に起用した第3図の回路に変

更しました「1か所も変更できない」

との禁を早速破った形です!

その他の箇所については AlO15

をA991に C1815をC1844に

変更した以外は,電源部も含めて.

前記大沢氏の記事を全面的にコピー

しています.使用部品のなかでは

モトローラのダーリントン・トラン

ジスタなどが特殊かと思いますが

インターネットの部品通販サイトを

探すと見つかりますので 原回路が

発表された01年当時よりは製作上

104

のハードルは下がっている,と思い

ました

差勒アンプ エミッタ・フォロア,

出力カレント・ミラーのそれぞれに

温度ドリフトがあるため,現在流通

しているトランジスタで租み立てる

と,大沢氏が書いておられるとおり,

出力オフセット電圧は80の負荷に

対して±100mV程度のドリフトを

覚悟する必要があり,おそらくは1

年を通して無調整とはいかないだろ

う,と思いました

100mVのオフセット電圧は高感

度のスピーカでは十分目視できるく

らいの振動系の変位を引き起こしま

すので やはり気になります.

このような欠点がありながらも,

総体的な評価としては,電流出力ア

ンプの美点である圧倒的な音の立ち

上がりが感じられ 楽器や声部の分

離が明快で音楽を構造的にとらえ

やすい音味を存分に楽しむことがで

きます.

このアンプは 第3図の状態で「1

号機」としていったん固定し,新し

い構想でこの回路を超えるアンプを

作ることを目標として,つぎのステ

ップへ進むことにしましたが この

リファレンス機は非常に高性能であ

り,その後長さにわたって超えられ

ない壁として立ちはだかることにな

ります.

e参考黄瀞(すべてラジオ技術)

石塚俊:

①「何がアンプの音を決めるのか」96

年10月号~97年7月号

(D「定電流型アンプはこうして生ま

れた」99年9月号p.23

③「MC用I-Ⅴコンバータを作る」

05年9月号~06年9月号

④「バイポーラ・トランジスタの使

い方を考える」09年9月号~12年

7月号

⑤大沢久司:「最終版定電流出力ア

ンプの製作」大沢久司01年7月号

p.38

ラ ジオ技術