糖尿病治療経過中に ネフローゼ症候群が急性発症した一例2 013年 214年...

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症  例 症 例:59 歳 男性 現病歴:1993 年より 2 型糖尿病の診断で内服 加療開始される。 2012 11 月まで腎機能障害指摘されていな か っ た が,2013 3 月下腿浮腫の増悪と SCr1.06㎎/dl の腎機能障害を認め,4 月には尿 蛋白(4+),TP5.1g/dl を認めたためネフローゼ 症候群の疑いで当科紹介受診となった。 経過中,腎機能改善の程度が低下したため, 16 病日にエンドキサン 400㎎パルスを追加施 行し,その後は順調に血清 Cr 値,一日尿蛋白 の低下を認めた。下肢しびれなどの神経炎所見 は継続していた。 1 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 腎臓・高血圧内科 2 聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科 3 川崎市立多摩病院 病理診断科 4 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座  5 山口病理組織研究所 糖尿病治療経過中に ネフローゼ症候群が急性発症した一例 町 田 慎 治 大 石 大 輔 市 川 大 介 松 井 勝 臣 白 井 小百合 今 井 直 彦 柴 垣 有 吾 小 池 淳 樹 3 病理コメンテータ  城   謙 輔 4 山 口   裕 5 KeyWord:膜性腎症,糖尿病性腎症,巣状分節性糸球体硬化 図2 【血液検査所見】 ≪血算≫ 生化学≪感染症・免疫学的検査≫ 【尿検査】 尿定性WBC 8500 10 3 /μL RBC 406 10 3 /μL Hb 12.5 g/dL Hct 37.4 Plt 24.2 10 /μL TP抗体 (-) RPR (-) HCV抗体 (-) HBs抗原 (-) C3 116 mg/dL C4 35 mg/dL CH50 63.5 U/mL IgA 298 mg/dL IgG 871 mg/dL IgM 55 mg/dL 抗核抗体 <40 比重 1.013 pH 6 尿蛋白 (3+) 尿潜血 (2+) 尿糖 (3+) 赤血球 1~4 /HPF 白血球 1~4 /HPF 硝子円柱 (+) 上皮円柱 (+) 脂肪円柱 (+) 顆粒円柱 (+) 尿蛋白 11.4 g/gCre TP 5.0 g/dL Alb 2.3 g/dL AST 16 U/L ALT 14 U/L γ-GTP 12 U/L UN 11.2 mg/dL Cre 1.28 mg/dL eGFR 46.4 ml/min 尿酸 5.8 mg/dL Na 139 mEq/l Cl 104 mEq/l K 3.6 mEq/l Ca 7.7 mg/dL P 2.5 mg/dL CRP 0.15 mg/dL TG 196 mg/dL LDL-C 193 mg/dL HDL-C 74.4 mg/dL HbA1c 8.0 血糖 251 mg/dL 尿沈査図1 既往歴】 1993年 2型糖尿病 糖尿病網膜症(レーザー治療) 糖尿病性神経症 2013年 高血圧、逆流性食道炎 【家族歴】 父;高血圧弟;糖尿病 腎臓病の家族歴なし 【内服】 フロセミド20mg 4T ネキシウム20mg 1T トラゼンタ5mg 1T メトグルコ250mg 2T アマリール0.5mg 1T ベイスン0.2mg 2T 【現症】 身長 166cm 体重 75.3kg 血圧 140/72mmHg 脈拍 102/min整 体温 36.6℃ 胸部:心音、呼吸音 異常所見なし 腹部:平坦軟、自発痛圧痛なし 四肢:両側下肢圧痕性浮腫あり、紫斑など皮湿疹なし 1第 65 回神奈川腎炎研究会 1

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Page 1: 糖尿病治療経過中に ネフローゼ症候群が急性発症した一例2 013年 214年 2015年 RBx② RBx③ mPSL 0.5g PSL40mg LDL-apheresis計12回施行 8.0 9.3 7.9 7.3 6.9

症  例症 例:59歳 男性現病歴:1993年より2型糖尿病の診断で内服加療開始される。

2012年11月まで腎機能障害指摘されていなかったが,2013年3月下腿浮腫の増悪とSCr1.06㎎ /dlの腎機能障害を認め,4月には尿蛋白(4+),TP5.1g/dlを認めたためネフローゼ症候群の疑いで当科紹介受診となった。経過中,腎機能改善の程度が低下したため,第16病日にエンドキサン400㎎パルスを追加施行し,その後は順調に血清Cr値,一日尿蛋白の低下を認めた。下肢しびれなどの神経炎所見は継続していた。

(1聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 腎臓・高血圧内科(2聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科(3川崎市立多摩病院 病理診断科(4東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 (5山口病理組織研究所

糖尿病治療経過中にネフローゼ症候群が急性発症した一例

町 田 慎 治1  大 石 大 輔1  市 川 大 介2

松 井 勝 臣1  白 井 小百合1  今 井 直 彦1

柴 垣 有 吾2  小 池 淳 樹3

病理コメンテータ   城   謙 輔4  山 口   裕5

Key Word:膜性腎症,糖尿病性腎症,巣状分節性糸球体硬化症

図 2

【血液検査所見】≪血算≫ ≪生化学≫

≪感染症・免疫学的検査≫

【尿検査】≪尿定性≫

WBC 8500 103/μL

RBC 406 103/μL

Hb 12.5 g/dLHct 37.4 %

Plt 24.2 104/μL

TP抗体 (-)

RPR (-)

HCV抗体 (-)HBs抗原 (-)

C3 116 mg/dL

C4 35 mg/dLCH50 63.5 U/mLIgA 298 mg/dLIgG 871 mg/dLIgM 55 mg/dL抗核抗体 <40

比重 1.013pH 6尿蛋白 (3+)尿潜血 (2+)尿糖 (3+)

赤血球 1~4 /HPF白血球 1~4 /HPF硝子円柱 (+)上皮円柱 (+)脂肪円柱 (+)顆粒円柱 (+)尿蛋白 11.4 g/gCre

TP 5.0 g/dLAlb 2.3 g/dLAST 16 U/LALT 14 U/Lγ-GTP 12 U/LUN 11.2 mg/dLCre 1.28 mg/dLeGFR 46.4 ml/min尿酸 5.8 mg/dLNa 139 mEq/lCl 104 mEq/lK 3.6 mEq/lCa 7.7 mg/dLP 2.5 mg/dLCRP 0.15 mg/dLTG 196 mg/dLLDL-C 193 mg/dLHDL-C 74.4 mg/dLHbA1c 8.0 %血糖 251 mg/dL

≪尿沈査≫

図 1

【既往歴】1993年 2型糖尿病

糖尿病網膜症(レーザー治療)糖尿病性神経症

2013年 高血圧、逆流性食道炎

【家族歴】父;高血圧、 弟;糖尿病腎臓病の家族歴なし

【内服】

フロセミド20mg 4T

ネキシウム20mg 1T

トラゼンタ5mg 1T

メトグルコ250mg 2T

アマリール0.5mg 1T

ベイスン0.2mg 2T

【現症】身長 166cm 体重 75.3kg血圧 140/72mmHg 脈拍 102/min整 体温 36.6℃胸部:心音、呼吸音 異常所見なし腹部:平坦軟、自発痛圧痛なし四肢:両側下肢圧痕性浮腫あり、紫斑など皮湿疹なし

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第65回神奈川腎炎研究会

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【治療経過】

2013年 2014年 2015年

RBx② RBx③

mPSL0.5g

PSL40mg

LDL-apheresis計12回施行

8.0 9.3 7.9 7.3 6.46.9 7.8

HbA1c PSL5mg

PSL20mg

Tac3mg (12時間トラフ3-7ng/ml)

PSL5mg

PSL40mg

PSL10mg

11.4

0.632.91

(mg/dl)(g/dl)(g/gCr)

12.6

4.19

RBx①

図 3

図 8

【第1回目病理診断】

#1 軽度びまん性の糖尿病性腎症

巣状分節性糸球体硬化症

膜性腎症

#2 中等度の動脈硬化

#3 中等度~高度の細動脈硬化

図 7

電子顕微鏡所見

Stage ⅠのDeposit が少量認められる

Diffuseなfoot processの消失(Depositない所にもfoot processの消失あり)

図 6

【蛍光顕微鏡所見】

IgG

C3c

Peripheral granular pattern

MASSON 400×

PAS 100×

光学顕微鏡所見

PAM 40×

図 5

第1回目腎生検(治療開始前)

図 4

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腎炎症例研究 33巻 2017年

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図 14

第2回目病理診断

#1 びまん性の膜性腎症

#2 糖尿病腎症

#3 中等度動脈硬化

図 13

電子顕微鏡所見

Deposit増加Stage Ⅱ

Foot process 消失増加?

図 12

蛍光顕微鏡所見

IgG

C3c

Peripheral granular pattern

光学顕微鏡所見

図 11

第2回目腎生検(再発時、治療前)

図 10

【治療経過】

RBx①

2013年 2014年 2015年

RBx② RBx③

mPSL0.5g

PSL40mg

LDL-apheresis計12回施行

8.0 9.3 7.9 7.3 6.46.9 7.8

HbA1c PSL5mg

PSL20mg

Tac3mg (12時間トラフ3-7ng/ml)

PSL5mg

PSL40mg

PSL10mg

11.4

0.632.91

(mg/dl)(g/dl)(g/gCr)

12.6

4.19

図 9

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第65回神奈川腎炎研究会

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【治療経過】

RBx①

2013年 2014年 2015年

RBx② RBx③

mPSL0.5g

PSL40mg

LDL-apheresis計12回施行

8.0 9.3 7.9 7.3 6.46.9 7.8

HbA1c PSL5mg

PSL20mg

Tac3mg (12時間トラフ3-7ng/ml)

PSL5mg

PSL40mg

PSL10mg

11.4

0.632.91

(mg/dl)(g/dl)(g/gCr)

12.6

4.19

図 15

図 20

第3回目病理診断

#1 びまん性の膜性腎症

糖尿病性腎症

巣状分節性糸球体硬化症

#2 中等度動脈硬化

#3 高度細動脈硬化

図 19

Stage Ⅱ~Ⅲ 、 Deposit 増加

Foot processは回復してきている?

電子顕微鏡所見

図 18

蛍光顕微鏡所見

IgG

Peripheral granular pattern

光学顕微鏡所見

図 17

第3回目腎生検(蛋白尿増悪に対しての治療後)

図 16

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腎炎症例研究 33巻 2017年

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図 26

【私 見】

ステロイド長期使用による糖尿病性腎症の進

展と二次性FSGS、さらに動脈硬化の増悪も認め

たことより、今後再度蛋白尿が急性増悪した際

は、ステロイドの増量ではなく、保存的または、

ステロイド以外の免疫抑制薬(+LDLアフェレシス

使用)等の使用が望ましいと思われた。

図 25

DN合併の有無でわけたNDRDの組織所見

The Modern Spectrum of Renal Biopsy Findings in Patients with DiabetesShree G. Sharma,* Andrew S. Bomback,† Jai Radhakrishnan,† Leal C. Herlitz,‡ Michael B. Stokes,‡ Glen S. Markowitz,‡ and Vivette D. D’Agati‡

(Clin J Am Soc Nephrol 8: 1718–1724, 2013)

図 24

【考 察】

• DM患者の増加に伴い、DM患者に対する腎生検の頻度

も増えつつある。

• DM患者の腎生検では、

DN(diabetic nephropathy)単独

DN+NDRD(nondiabetic renal disease)

NDRD単独

があり、それぞれ治療や予後が異なる。

≪3回目≫

★ステロイド、タクロリムス治療により蛋白尿改善後の所見。

2回目の腎生検の主病変と思われるMNの所見は、depositの増加を認めるものの(stage 2-3)、脚突起の消失は改善傾向であった。

糖尿病性腎症の所見は、高度び漫性病変~一部結節病変へと進行していた。

糖尿病性糸球体硬化症に伴う?二次性FSGSの所見が認められた。

⇒MN(stage2-3)とDMNが主病変。

図 23

≪2回目≫

糖尿病性腎症を認めるものの、依然び漫性病変が軽度から中等度であった。

スパイク形成がみとめられ、MNのstageが進行した。(stage 2)

⇒MNが主病変であると考えられた。

図 22

腎生検所見の解釈

≪1回目≫

糖尿病性腎症としてはびまん性病変が軽度であった。

一次性FSGSと思われる所見が認められた。

MNの上皮下の高電子密度沈着物(deposit)は少なく(stage 1)、沈着物のないところにも上皮細胞脚突起の消失がびまん性に認められた。

⇒一次性FSGSが主病変と考えられた。

図 21

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第65回神奈川腎炎研究会

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討  論 町田:よろしくお願いします。【スライド】症例は59歳,男性。1993年より2

型糖尿病の診断で内服加療を開始された方です。 2012年の11月までは腎機能障害は指摘されていませんでしたが,2013年3月になり,下腿浮腫の増悪と血清creatinine1.06mg/dLの腎機能障害を認め,4月には尿蛋白も認められたためネフローゼ症候群の疑いで,当科紹介受診となりました。【スライド】既往歴としましては,1993年,20

年来の糖尿病歴とそれに伴う網膜症,神経症。2013年から高血圧症を指摘されていました。 家族歴としましては,父が高血圧,弟が糖尿病歴とありますが,腎臓病の家族歴はありませんでした。 内服としては,以上のようなものを飲まれておりました。 現症ですが,身体所見として両側の下腿浮腫を認める以外は大きな所見な認めませんでした。【スライド】検査所見です。total protein5.0g/

dL,アルブミン2.3g/dLの低アルブミン血症,腎機能障害,LDL-C,193mg/dLの高脂血症を認めました。 血清免疫学的検査は全て陰性でした。 尿所見としましては,11.4g/gCreの高度な蛋白尿を認めました。【スライド】経過は,20年来の糖尿病の既往があること。また,神経症,網膜症の合併もあることから,糖尿病性腎症にネフローゼ症候群がまず第一に考えられました。しかし,蛋白尿の経過が急性発症であることから,一次性ネフローゼ症候群の合併の可能性も考え,腎生検施行としました。【スライド】本症例では,経過中,3回の腎生検を施行しております。1回目の腎生検の病理所見をお示しします。

結  語長期DM患者であっても発症起点などからNDRDが疑われる場合は,免疫抑制薬による治療効果も期待できるため積極的に腎生検を検討すべきと思われる。

病理医の先生方にお聞きしたいこと

2回目の腎生検において、

高度上皮細胞障害の原因はMNのみによるものと捉えてよい(採取されていないところに一次性FSGS病変が存在する可能性がある)のでしょうか?

3回目の腎生検において、

上皮細胞障害が先に改善し、depositが残る(あとから改善してくる)ことはあり得るでしょうか?

図 27

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腎炎症例研究 33巻 2017年

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増悪を認めました。ステロイド20mgでは効果が乏しかったため,さらにステロイドを増量しましたが,糖尿病性腎症増悪のリスクを加味し,早期ステロイド漸減のため,タクロリムスの併用も開始しました。【スライド】その後,蛋白尿は改善傾向でしたが,今後,再燃時のステロイド追加投与の要否を検討するため,3回目の腎生検を施行することとしました。【スライド】ほぼ全ての糸球体でmesangium領域の拡大が見られました。また,毛細血管壁のspike形成が観察されました。2個の糸球体では糖尿病性糸球体硬化症によるものと思われる二次性のFSGS所見が認められました。【スライド】蛍光は IgGのみ基底膜に沿って顆粒状に染まっていました。【スライド】電顕では,前回所見と比較し,

foot processは改善しているようでしたが,de-

positは増加している印象でした。【スライド】3回目の病理診断です。びまん性の膜性腎症,糖尿病性腎症,二次性のFSGSと診断しました。【スライド】病理所見の解釈ですが,1回目の所見に関しては,糖尿病性腎症としては,びまん性病変が軽度であったこと。一次性のFSGS

と思われる所見が認められたこと。depositは少なく,depositのないところにも foot processの消失がびまん性に認められていたことより,主病変は一次性のFSGSと考えました。【スライド】2回目の所見についてですが,糖尿病性腎症は認めるものの,依然びまん性病変が軽度から中等度であること。spike形成が認められ,膜性腎症の stageが進行していることより,主病変は膜性腎症であると考えられました。【スライド】3回目の所見についてですが,ステロイド,タクロリムス,治療後により,蛋白尿改善後の所見です。2回目の腎生検の主病変と思われる膜性腎症の所見はdepositの増加は認めるものの,foot processの消失は改善傾向

【スライド】PAS染色では軽度びまん性のme-

sangium領域の拡大を伴っていました。PAMでは,2個の糸球体で分節状の糸球体毛細血管の虚脱と上皮細胞の増生が認められました。mas-

sonの400倍では,基底膜に沿って,stage1のdepositが認められました。【スライド】蛍光所見です。IgGとC3cが基底膜に沿って,顆粒状に染まっていました。【スライド】電顕所見です。stage1のdepositが少量認められることと,びまん性の foot process

の消失を認めました。depositがないところにも,foot processの消失があることが特徴的でした。【スライド】1回目の病理診断です。軽度びまん性の糖尿病性腎症,FSGS,膜性腎症と診断しました。1回目の腎生検後,ステロイドセミパルスを3日間施行。後療法として,40mgから治療を開始しました。治療により蛋白尿は0.63g/gCr,不完全寛解Ⅰ型まで改善し,ステロイドは5mgまで減量できていました。 しかし,2014年7月になり,g/gCrで4.19の蛋白尿と下腿浮腫の出現,ネフローゼ症候群の再発を認めたため,同月に2回目の腎生検を施行しております。【スライド】2回目の所見はびまん性の軽度から中等度のmesangium領域の拡大を認めました。PAM染色では一部の糸球体に分節状の毛細血管の spike形成を認めました。【スライド】蛍光は IgGとC3が基底膜に沿って,顆粒状に染まっていました。【スライド】電顕所見ですが,stage2のdeposit

の増加,foot processの消失も増加をしているように思われました。【スライド】2回目の病理診断は,びまん性の膜性腎症,糖尿病性腎症と診断しました。【スライド】2回目の腎生検施行後は,外来主治医の方針により,DM腎症の増悪を懸念し,ステロイドはMAX20mgとし,その後は漸減していきました。しかし,2015年6月になり12.6g/gCrの蛋白尿を再度認め,ネフローゼの

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第65回神奈川腎炎研究会

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治療により蛋白尿が改善後の所見なのですが,上皮細胞が改善していて蛋白尿が減少しているということで説明できると思うのですけれども,上皮細胞障害だけ改善し,depositが残るということはあり得るでしょうか。 以上です。ありがとうございました。座長 町田先生,ありがとうございました。ただ今のご発表につきまして,ご質問,コメント等がありましたら,よろしくお願いします。宮城 ありがとうございました。済生会横浜市東部病院の宮城と申します。 聞き漏らしの確認ですが,1回目の腎生検の巣状糸球体硬化症の所見は具体的に,どんな所見だったのでしょうか。町田 ありがとうございます。PAM染色で2個の糸球体に分節状の糸球体毛細血管の虚脱と上皮細胞の増生が見られました。今,赤丸で出ているところです。宮城 糖尿病性腎症の腎生検の所見で,私たちがちゃんと捉えていないのかもしれないですけれども,硬化性病変を取り囲むようなかたちで,上皮細胞がaccumulationしている所見を時々見るような気がするのですけれども,本当のFSGSの合併と考えるのか,ほかの薬剤性でもいろいろFSGS様病変があると思うのですが,それとの鑑別はどのように考えられましたでしょうか。町田 二次性との鑑別はすごく難しいと思うのですけれども,そういう薬剤歴がないことや,糖尿病性腎症の度合いとしては軽度であるということから,これは一次性かなと思ったということです。宮城 糖尿病性プラスmembranousという考え方のほうがシンプルな気がしたので,お聞きしました。ありがとうございます。町田 ありがとうございます。座長 ほかにございますでしょうか。城先生,よろしくお願いします。城 急激なネフローゼの発症について,もう少し具体的に説明をお願いします。微小変化型ネ

でした。 糖尿病性腎症の所見は,高度びまん性病変から,一部結節性病変と進行していました。糖尿病性糸球体硬化症に伴うものと思われる二次性FSGSの所見が認められました。 以上より,主病変は膜性腎症,糖尿病性腎症と考えました。【スライド】DM患者さんの増加に伴い,DM患者に対する腎生検の頻度は増えつつあります。DM患者の腎生検では,diabetic nephropathy単独,DN+non diabetic  renal diseaseの合併例。NDRD単独の3つがあり,それぞれ治療や予後が異なります。 コロンビア大学のD’Agatiらが行った2642の腎生検のうち,糖尿病を有する620名を用いたretrospective studyからの抜粋です。DM腎症合併の有無で分けたNDRDの所見ですが,NDRD

単独では,FSGSが22%と最多。DN+NDRD

では,ATN(acute  tubular necrosis)が43.3%と最多でした。【スライド】ステロイド長期使用による糖尿病性腎症の進展と,二次性FSGS,さらに動脈硬化の増悪を認めたことより,今後再度蛋白尿が急性増悪した際には,ステロイドの増量ではなく,保存的に見るか,またはステロイド以外の免疫抑制薬等の使用が望ましいと思われました。【スライド】 【結語】 結語です。長期DM患者であっても,発症起点などからNDRDが疑われる場合は,免疫抑制薬による治療効果も期待できるため積極的に腎生検を施行すべきと考えました。【スライド】病理の先生方にお聞きしたいこととしましては,1回目のFSGS所見を加味すると,2回目の腎生検でも観察できていないだけで,FSGS病変が隠れている可能性は否定できないと考えたのですが,高度上皮細胞障害の原因は膜性腎症によるものと考えて良いでしょうか。 もう1つが,3回目の腎生検は,免疫抑制薬

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たときの膜性腎症の進展はこういうものなのか。そこらへんの先生のご見解はいかがですか。町田 膜性腎症に関しては,IgGの subclassも3

回目で行っているのですけれども,IgG4しか染まっていないので一次性と考えているのですが,経過がそれで合うかというのはよく分からなかったです。座長 山口先生,お願いします。山口 高血圧はどうでしたか。町田 高血圧は,2013年から指摘されていて,ただ,内服としてはまだされていなかったので,特に降圧剤も使用していなくて。山口 全体像でこの症例を見て,3回生検をして,membranousにターゲットを絞ったのか,FSGSにターゲットを絞って治療をして,結果的に腎障害が進んでいるわけです。membra-

nousも,治ってはいなくて,新たにdepositが加わっているのです。そうすると,この3回の生検で,先生たちの,この症例に対する総括はどうなりますか。町田 治療経過中に膜性腎症,FSGS,糖尿病と3つの病態があって,FSGSに関しては最初は主病変だと考えたのですが,2回目,3回目ではその所見が乏しくなっていって,代わりに糖尿病性腎症,膜性腎症の病状が進んでいる状態で,治療としては,腎臓の機能自体は悪くなってはいません。今は良くなってきているところなので,腎生検をやることによって,糖尿病腎症ということで,長期間の糖尿病性腎症という理由で腎生検をやらずに放っておくよりも,こうしてやって診断をして,ステロイド介入までしたことで,今は良くなっていると考えています。座長 ありがとうございました。それでは病理の解説をよろしくお願いいたします。【スライド01】3回生検をなさったので,どういう治療が介在して,その組織がどう変化していったのかというのは,興味があります。 膜性腎症に関しては,stageが進んで,3回目で新たなdepositが加わっているようなところ

フローゼ症候群的な急性発症なのでしょうか?糖尿病性糸球体硬化症に合併することのある膜性腎症でこの発症の説明がつくかどうかという質問です。町田 foot processの消失があるので否定はできないと思うのですけれども,ほかの所見があることから,今回,私たちはMCNSを考えていなかったです。城 急激な発症について,先生はこれはFSGS

的な発症だとおっしゃっているわけですね。町田 FSGS的というより,糖尿病性とは考えられないので腎生検を施行したというところで,やる前からFSGSだと思っていたわけではないです。城 結果として,このような所見があって,FSGS的なもので説明ができると先生はおっしゃっているわけでしょうか?町田 そうです。白井 共同演者の白井でございます。すみません。 発症起点としましては,急激発症ということからMCNSも否定はできないと思うのですけれども,そちらの合併があるかどうかということに関しては,電顕のびまん性の上皮細胞のfoot process消失から考えますと,確かにMCNS

の合併に関しては,蛍光で,膜性腎症の様相が加わっていますので,MCNSのような全て染まらないというpatternではなくなってしまうのですが,発症起点や電顕所見からは,MCNSも否定できないかもしれないと思います。城 膜性腎症の中でも,MCNS的な急激な発症の症例は結構ありますよね。だから,その意味から,そこらへんのディスカッションをしなければいけないと思うので質問しました。 もう1つ,もし膜性腎症の合併だとして,1

年ごとにbiopsyをやってみたところ,膜性腎症としても病理的な進行が結構早いように思うのです。それは,糖尿病が背景にあってステロイドの投与量が制限されていた。それによる原因なのか。あるいは,膜性腎症に糖尿病が合併し

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第65回神奈川腎炎研究会

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皮の剥離があって,そこをepithelialに liningしている。ここは癒着があるかもしれませんけれど,はっきりしない。【スライド07】collapseして,ここは二重化になって基底膜様の物質が出かかっております。これは tip型に,尿細管極に近いところの癒着が。【スライド08】こんなにあります。全体にcol-

lapseして,上皮のcappingがあって,一部癒着を伴って,podocyteの空胞状の変性,あるいはMHD様の病変が加わっていると思います。【スライド09】これは髄放線で近位尿細管の直部に本来の上皮がこちらにあって,本来の基底膜との間に染み込み病変が進展して,paraTBM

(tubular basement membrane)insudationという私の造語を使って,それは癒着病変から染み込み病変で,近位尿細管の直部まで広がっている。糖尿病による所見と思います。【スライド10】動脈硬化に関しては,一般的に内膜の線維性肥厚が問題になるのですが,糖尿病は基底膜病ですから,中膜筋の周りの基底膜がみんな厚くなるわけです。ここにある平滑筋細胞がどんどん減ってくる。light chain deposi-

tion diseaseでも似たような現象を見ますけれども,糖尿病でもひどくなる。このへんの解析は,ぜひ若い人たちが,今後やっていただければなと思います。【スライド11】IgGで,ばらついたfine granular

で,C3もperipheral granularで,ちょっと大小があって,つながっていないかたちと思います。【スライド12】電顕は,GBMの肥厚です。5,600nmあると思いますが,糖尿病の場合は,三層構造が不明瞭になるのです。depositのないところで厚くなって,homogeneousに厚くなるのが糖尿病のGBMの変化で,mesangial matrixが癒合性に厚ぼったくなるのも,糖尿病の変化と思います。 上皮下に大小の沈着が,spikeがありますので,stage 1から2で,バラツキがあります。これはリマチルとかで,基本はminimal-changeで,

で,あまり改善はしていないです。ただ,FSGSは,先ほども問題になりましたけれども,膜性腎症,あるいはDMでもFSGS様の病変はよく合併するし,最近は,DMでpodocyteの剥離が進展するようなペーパーも出ています。このFSGSは,fibrin capとか,癒着病変によるものと確かに違う病変が出ていますので,そのへんの問題です。蛋白尿が何回か再燃しているわけで,その原因をどこに求めるかという問題も恐らくあるのでしょう。膜性そのものはある程度抑えられているのでしょうけれども,またそれが再燃することも,臨床的にはあると思います。【スライド02】これは1回目で,mesangiumの拡大があって,細動脈の硬化症とpolar vasculo-

sisという言い方と,最近はefferent extra vessels

(EEV)という言い方も英文では出ています。私は,そちらのほうが正しいのではないかと思っていますので,EEVという言い方でこれからお話をしていきたいと思います。【スライド03】PAMで見ますと,細動脈のhya-

linosisが非常に強いです。EEVの発達も見られています。細動脈の硝子化が強いです。上皮が反応しています。【スライド04】segmentalな病変は,こんな感じなのです。上皮の反応があって,collapseして,癒着なのかどうかは分かりません。【スライド05】糸球体は全体に大きくなって,ここにcollapseがあって,上皮の liningが起きています。もしかしたら上皮が剥離して,re-

placeして,昔,epithelial cappingといっていた先生方もいます。膜の変化は上皮下に多発して見られています。【スライド06】segmentalな lesionは2カ所ではなく,5,6カ所あります。上皮が部分的に剥離して,我々は,硝子滴変性がpodocyteに埋まっているのを,massive hyaline degeneration(MHD),podo-

cyteのMHDと。 電顕で観察しますと,基底膜から部分的な剥離像を象徴しているのです。collapseして,上

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があるのかもしれないです。【スライド23】FSGS様の tipで,糖尿病のfibrin capでもいい病変が明らかに進展していて,ボーマン嚢の肥厚が目立ってきている。【スライド24】癒着,染み込み。primaryな

FSGSは難しいと思うのですが,hyalinosisもあります。【スライド25】こういう変化が以前は見られなかったのですが,その周囲の尿細管の萎縮。もしかしたらタクロリムスの影響なのかもしれない。【スライド26】癒着があると,ここから染み込み病変が進展していくのだろう。collapseしています。【スライド27】癒着病変で,二次的に染み込み病変ができますので,通常見られる糖尿病の変化でいい。動脈の壁は同じような変化です。【スライド28】spikeが非常にクリアになってきています。3回目で,bubbling spikeの形成が,はっきりしてきている。膜の変化が進展して,コントロールされていない。【スライド29】PAMでびまん性で,spikeの形成が見られています。【スライド30】IgG4優位で,ほかも一応出ているように思います。PLA2はぜひやってほしかったのですが,IgG1,IgG3もちょっと出ているので,原発性とはいえないと思います。【スライド31】κ,λはちょっと分かりません。λのほうがあまり出ていない。κもあまり付いていないです。【スライド32】電顕は,やはりdepositが重積性に。少し斜めに切れているのを見ると重積性に。wash outされてなくなっている部分に,新たにdepositが加わったのかなと。糖尿病性腎症は,diffuseなものはある。【スライド33】膜は stageが進んでしまって,

IgG1,IgG2,IgG3もあり,secondaryの膜といったほうがいいと思います。 以上です。座長 山口先生,ありがとうございます。続き

with epimembranous depositぐらいに頻度が少ないかというと,それほどでもないように思います。 もう1つ,移植でfine granularにあって,de-

positが電顕でない,いわゆる stage0があるのです。そういったものが眠っているかどうか分かりません。microvilliが発達し広範な foot pro-

cess fusionがある。【スライド13】FSGSの病変が,6カ所あるので,診断名に入れるのを忘れてしまったのですが,stageは早い時期と思います。【スライド14】2回目に何が違ったかというのは,あまり違いはない。epithelial depositははっきりしている。細動脈の硝子化もはっきりしています。【スライド15】糖尿病の尿細管の病変も,me-

sangial matrixも少し増えている感じです。【スライド16】ボーマン嚢が厚くなっていますので,糖尿病で見るfibrin capと区別がつかないです。泡沫状の内容で,癒着病変で,ここから染み込み病変が進展するわけで,efference側にhyalinosisがあります。【スライド17】糖尿病によって糸球体が大きくなって,尿細管極側に tip  lesionというか,fi-

brin cap病変をつくりやすいものに相当する。1

回目のcollapseで,epithelial cappingとは類似していない。【スライド18】細動脈の硬化症が進展してしまった印象です。【スライド19】depositは少し膜の中に取り込まれたので,蛍光は弱いように思います。【スライド20】stageが進んで stage2から3。ただ,

depositの数はearlyなものもあり,膜性の変化が進展して,stageも進んでいるけれども,改善していない。【スライド21】FSGSの病変は入れていないで,

stageが進んだ。【スライド22】3回目は,硬化した糸球体が出てきて,間質の線維化がやや目立って,peri-

glomerular fibrosisなもの。タクロリムスの影響

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第65回神奈川腎炎研究会

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に陽性。IgAが弱陽性。C1q,IgMが陰性ということで,primaryの膜性腎症の所見かと思います。【スライド08】epimembranous depositがありますけれども,基底膜は反応して棘を出しておりませんので,膜性腎症 stage 1。背景となる基底膜はやはり厚い。mesangium matrixも拡大をしている。すなわち糖尿病性糸球体硬化症に,stage 1の膜性腎症が合併している所見だと思います。【スライド09】dense depositの分布ですけれども,比較的均等です。primaryと secondaryの区別は,大人の場合は特にそうですけれども,mesangium depositがあるかどうか。あるいは,内皮下にdepositがあるかどうか。あれば二次性膜性腎症を疑いますけれども,この症例は,電顕のレベルでは一次性膜性腎症,stage 1だと思います。【スライド10】1回目腎生検ですけれども,球状硬化糸球体が7%。ろ過面を持たない小血管があります。一部に軽いdoughnut regionもありますので,糖尿性糸球体硬化症,びまん型と診断ができると思います。 虚脱,癒着糸球体があり,先ほどのようにFSGS様の足細胞の腫大があります。光顕のレベルでは spikeはありませんので,膜性腎症stage 1。糸球体は腫大しております。尿細管は30%の萎縮,リンパ球の浸潤が20%あります。小葉間動脈の内膜の線維性肥厚が高度,輸入・輸出細動脈に硝子様肥厚は,糖尿病性腎症の特徴だと思います。【スライド11】免疫染色においては,糸球体末梢系蹄に顆粒状の陽性で,一次性のpatternではないかと思います。糖尿病性腎症に一次性の膜性腎症が合併しています。 電顕においても,undulationといった基底膜の反応がありませんので膜性腎症 stage 1。me-

sangium領域や内皮下の沈着物はないので,電顕的には,一次性膜性腎症を疑っていいと思います。

まして,城先生,よろしくお願いします。ご質問に関しては,お2人の解説が終わってからお受けいたします。よろしくお願いします。城 この症例は,1年ごとにbiopsyをして,進展の様子が非常によく分かる症例だったと思います。【スライド01】1回目は,3本採取されております。皮質対髄質が8対2。動脈硬化が合併しております。間質の障害度は約20%。弓状動脈から小葉間動脈に動脈硬化が非常に強く,細動脈の硝子様肥厚も伴っています。mesangium領域の拡大もあります。間質に,巣状の炎症があって,主にリンパ球です。【スライド02】これを見て,糖尿病と診断できるかどうかということですけれども,ご覧のようにmesangium領域は拡大している。mesangi-

um領域に分節性に細胞増多がありますけれども,拡大したmesangium基質の中に小血管が取り込まれております。IgA腎症のときにはメサンギウム領域が拡大してきますけれども,小血管がこういうふうに取り込まれることはありませんので,糖尿病性糸球体硬化症のびまん型が疑われます。【スライド03】糸球体毛細血管腔がcollapseを起こしているところもあります。【スライド04】collapseを起こして,その周囲に

podocyteが賦活してきております。こういう変化はFSGSのときに出るのですけれども,IgA

腎症でも出てまいります。膜性腎症でも出てきます。ネフローゼと関係のある病変だとは思いますが,FSGSだけの特徴ではないと思います。【スライド05】連続切片で見ないと分かりませんが,糸球体基底膜の連続性がありませんけれども,これは半月体とはいえないと思います。毛細血管係蹄が虚脱をした周りに,取り囲むように足細胞が賦活増生している病変と表現していいと思います。【スライド06】これはvas afferentですけれども,糖尿病特有の内膜のhyalinosisもあります。【スライド07】IgGとC3がperipheral,granular

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と思います。先ほどは IgAが出ておりましたが,2回目は IgAが出ておりません。確かに基底膜の中にdepositが取り込まれて,stage 2への進展が電顕的に分かります。【スライド18】mesangium領域のdepositは,me-

sangial  ringのところのepimembranous depositが見られます。これはmesangium depositとはいえないと思います。【スライド19】ここもそうです。これはみんな

lamina depositの外側です。epimembranous de-

positがmesangial  ringにも進展している。一次性膜性腎症にcompatibleだと思います。【スライド20】ここは説明をはぶきます。【スライド21】1回目の腎生検で,既に膜性腎症があった。軽症型の糖尿病性糸球体硬化症もある。2回目の腎生検で膜性腎症が stage 1から2に進展したと思います。【スライド22】本症では,急性のネフローゼ症候群が一旦,ステロイド治療により寛解して,その後,再発している。糖尿病を合併しない膜性腎症の中にも,MCNS的な急性発症のものはいくらもあります。ステロイドに反応する症例もあるので,この臨床経過は膜性腎症の特徴が裏にあるのではないかと思います。糖尿病性糸球体硬化症だけでは,もちろん急性のネフローゼは説明できない。膜性腎症が加わることによって,しかもステロイドが一旦効くことも,膜性腎症合併の存在である程度説明がつくと思います。【スライド23】これはまとめです。【スライド24】私と山口先生が前半と後半で標本を交換しておりますので,標本を返した後に,3回目の標本がまいりました。まとめておりませんが,来ましたので,一応標本だけは撮影してまいりました。【スライド25】3年目の腎生検です。2回目の腎生検からまた1年後に採取されたものです。これを見ますと,明らかに,尿細管の萎縮と間質の拡大が進行しております。糸球体の硬化も強くなってきております。分節性病変も増えてき

【スライド12】まとめです。糖尿病性糸球体硬化症びまん型がある。その背景に巣状分節状の硬化がありますけれども,硬化そのものはFSGSの合併とはいえないと思います。FSGS様の分節性硬化病変があるということはいえると思います。 この硬化の内容ですけれども,分節性に毛細血管係蹄が虚脱をして,その周囲に足細胞の腫大がある。分節性糸球体硬化が加わっているということがいえますが,病態としてFSGSが合併ということにはならないと思います。 では,このFSGS様病変が何を意味するのかはディスカッションになるとは思いますけれども,病理でいえることは,一次性膜性腎症stage 1を認め背景に糖尿病糸球体硬化症があって,硬化病変を臨床とどういうふうに結び付けるかというのは,もう少し後でディスカッションしたいと思います。【スライド13】2回目腎生検です。これは4月から1年3カ月ぶりにbiopsyをしたものです。基本的にほとんど変わっておりません。多少,尿細管の萎縮と間質のfibrosisが増えているようには思います。【スライド14】病変も,特に大きな進展はないと思います。collapseした糸球体はありますけれども,先ほどのような顕著なFSGS様の足細胞の取り巻きは,見た範囲では見つかりませんでした。よく見ますと,ここに spikeがありますので,光顕で見ても,膜性腎症が進展しているようには見えます。【スライド15】動脈硬化はあまり変わっていないと思います。【スライド16】糸球体は17個ありますが,2回目腎生検ではFSGS病変がなかった。1回目はかなりの頻度であった糖尿病性糸球体硬化症の進展はないと思います。ただし,多少 spikeが出てまいりましたので,膜性腎症の進展はあると思います。尿細管の萎縮と間質のfibrosisは進んでおります。【スライド17】免疫染色はほとんど変わらない

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【スライド33】糖尿病特有のhyalinosisがあって,こういうものが進行したときに,線維性半月体様の病変の形成に拍車が掛かっているのではないかと思います。【スライド34】3回目はまとめていないのですけれども,3回目生検で明らかに慢性化が進展しております。病理学的に見ると,明らかに3

年間で膜性腎症が進行しております。通常の膜性腎症にしては進行が速いのではないかと思います。特に3回目に慢性病変が非常に強く出ております。これに関しては,膜性腎症としての進展が速いのですけれども,動脈硬化から来る,あるいは高血圧から来る要因が進展を速く強くしているのではないかと思います。 糖尿病と膜性腎症の合併はまれではありませんけれども,3年後に再生検をしていただいたということで,病変の進行,特に慢性病変の進行があり,stageが進行していることがわかりました。治療は糖尿病を背景に膜性腎症に対して弱腰だったのではないかと思うのです。そういう意味で,この症例はどう治療をしていったら良かったのか,この進展をどう防げたらいいのか,そこらへんが,病理から皆さんに提言できる観点ではないかと思います。 以上です。座長 城先生,ありがとうございました。お時間が少しだけありますので,ご質問がございましたら,よろしくお願いします。 私のほうから,膜性腎症の進行が今回の蛋白尿の増加に一番寄与していると考えられたのですが,比較的1回目の腎生検から,かなり上皮の障害が強い印象を受けたのですが,膜性腎症とか,secondaryにpodocyteが障害を受けることはよく経験されるのですが,stage0ないし1

というすごく早期の膜性腎症でも,ああいう現象は起こると考えてもよろしいでしょうか。山口 最近,膜性腎症を見ていると,humpみたいに,いわゆる基底膜の上皮膜の反応がほとんどなく,ずっとpodocyte側に寄ったような沈着が多いのです。そうすると,強いnephroticな

ております。【スライド26】動脈の硬化はもともと強いものですから,さらに進展したものとはいえないと思います。【スライド27】尿細管の中に isometric vacuoliza-

tionが認められます。【スライド28】癒着病変の中にhyalinosisが見られます。これは IgA腎症でも来ます。もちろん糖尿病のときにも来ます。足細胞障害があれば,足細胞障害から癒着を起こして,この場所にhyalinosisが起こります。これが慢性病変の進展ではあるのですけれども,糖尿病の進展であるのか,あるいは膜性腎症の進展であるのか,私もよく分かりません。【スライド29】こういうふうに分節性にcollapse

を起こして,癒着を起こして,分節性硬化に進展しております。【スライド30】糖尿病に確かによく見ますが,動脈硬化症にも見られる病変で,糸球体毛細血管係蹄が虚脱すると同時にBowman腔に線維性半月体様の病変が出てまいります。中を見ますと細胞成分はほとんどありませんので,線維性半月体ではなくて,呼び名はよく分かりませんけれども,線維性半月体様病変と仮に呼んでおります。 こういう病変については,マクマロス先生の論文がありました。動脈硬化が進展するときに,こういう病変ができて,どんどん硬化が進行をしていくというきれいなシェーマが論文に出ております。糖尿病のときに多いのは,糖尿病のときに動脈硬化症が強いからだと思っております。 今回も,こういう病変が出てくるのは,糖尿病自体の変化ではなく,動脈硬化症あるいは高血圧のコントロールが不良の背景から出てきた病変ではないかと思います。【スライド31】膜性腎症に関しては,明らかに

stageの進展があります。【スライド32】分節性にhyalinosisも認められます。

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する病態があると思いますが,この症例の場合DMとMNだけで,ステロイドに反応するかが疑問です。全体の病態として,DMに膜性腎症があって,さらに少しpodocyte系の障害が来るような病態があるのではないかと思いますが,病理学的に何かそれを示唆する所見があるかどうか,山口先生,城先生から御意見を頂ければと思います。山口 我々は回答を持っていないのです。組織学的に見ると,collapseとepithelial cappingなので,ステロイドに反応したというのは,城先生が言われるように,MCNS的なファクターが絡んで起こしてきたのかと考えます。城 私もよく分からないのですが,糖尿病に膜性腎症を合併したときの治療で,ステロイドをやる,あるいはシクロスポリンをかぶせる。いろいろなチョイスがあると思うのですけれども,皆さん,恐らく糖尿病の膜性腎症は経験されていると思うのですが,糖尿病に膜性腎症を合併した症例は,このようにあまり反応してこないのですか。ステロイド反応性はいかがですか。座長 乳原先生,いかがでしょうか。乳原 そのへんは,皆さんでまた整理をしていかないといけないと思います。それに対する適切な答えは持っておりません。座長 ありがとうございました。

状態になるみたいで,そういう場合は恐らく上皮障害はあると思うのです。 ただ,この症例は最初に変なepithelial cap-

pingを起こすようなcollapseなのです。あれは,僕も理由が分かりません。膜性腎症で,FSGS

様の病変を伴ってくるのは,高血圧とかです。ですから,何かhemodynamicsなものが,関与しているのか。earlyで多発してきますと,上皮障害も相当あってもおかしくないと思うけれども,「それだけで剥がれますか」と簡単に言われると,なんとも言えないように思う。プラスアルファの何かの要因はあったと思います。座長 ありがとうございました。城先生,お願いします。城 ひと言で膜性腎症といっても,臨床と合わせたときに,MCNS的な急性の発症の膜性腎症がありますし,lupus腎炎のときに,silent lupus

といわれるようにほとんど蛋白尿が出てこない膜性腎症もあります。それから,今,先生がおっしゃった足細胞の反応が早期に出てくる。これも,まだプラスアルファの要因で分かっていないところだと思います。 1ついえることは,臨床の先生の最後の質問にあった,clinicalに蛋白尿が引いたときに,depositが残るかどうかの問題に関してです。国立病院機構千葉東病院にいたときに,小児科の膜性腎症のフォローアップを見せていただいて,6年目で寛解した膜性腎症を再生検すると,depositがぎらぎら残っているのです。発症のときには,恐らくdepositと蛋白尿はある程度の時間的な相関性はあると思うのですけれども,寛解する場合に関しては,臨床のほうが早く引いて,depositは後に残る傾向があります。これは,そういう例ではないかと思います。座長 ありがとうございます。星野先生,よろしくお願いします。星野 この症例は,経過を見るとステロイドに反応性があり,減量後に悪化するのが非常に印象的でした。その場合,例えば,FSGSでも tip variantのようなMCNSに近いステロイドに反応

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I-1:糖尿病治療中にネフローゼ症候群が急性発症した1(聖マリ西部病院腎高血圧科)

症例:59歳、男。20年前から糖尿病で加療。Cr1.28mg/dlで尿蛋白11.4g/gCrとネフローゼを呈した。PSLで治療改善。その後1年目に再燃し、2回目生検。その後1年再燃Cr2.72g/dlで尿蛋白11.1g/gCr で3回目生検。

臨床病理学的問題点:

1.DN+MN+FSGSで良いか?

2.再燃の原因は?3.PSL治療などでDNの進展は?

山口先生 _01

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65-I-1-11. Diabetic nephropathyA. Diabetic glomerulosclerosis, diffuse typeB. Arteriolosclerosis, severe2. Membranous glomerulonephritis, stage I-II

cortex/medulla= 9/1, global sclerosis/glomeruli= 2/27

光顕では、糸球体にはメサンギウム域拡大が見られ、上皮増生を伴う分節状虚脱及び癒着を6ヶに認め、ボウマン嚢壁の線維性肥厚を伴っています。Polar vasculosisを疎らに認め、内皮下硝子化が見られます。

尿細管系には近位上皮の硝子滴変性が軽度見られ、基底膜の二層性を呈する尿細管萎縮と間質線維化及び単核球浸潤を髄放線部を含み疎らに認め、硝子円柱が散見されます。

動脈系には細動脈硝子化が輸出入に亘り高度見られ、中位動脈筋層の硬化が目立ち、中等度の内膜肥厚があります。

蛍光抗体法では、糸球体にIgG(+), C3(+): peripheral & granular patternです。

電顕では,観察糸球体はほぼびまん性に肥厚したGBMに上皮下沈着物が散在性に見られ、

軽度のスパイク形成を認めます。メサンギウム領域にはメサンギウム基質の小結節状で癒合性増加が見られます.足突起は疎らに癒合しています.

以上、早期膜性腎症を合併した糖尿病性腎症と思われます。

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65-I-1-21. Diabetic nephropathyA. Diabetic glomerulosclerosis, diffuse typeB. Arteriolosclerosis, severe2. Membranous glomerulonephritis, stage II-III

cortex/medulla= 9/1, global sclerosis/glomeruli= 1/21

光顕では、糸球体にはメサンギウム域拡大が見られ、fibrin capを1ヶに認め、ボウマン嚢壁の線維性肥厚を伴っています。Polar vasculosisを疎らに認め、内皮下硝子化がかなり進展しています。

尿細管系には近位上皮の硝子滴変性が軽度見られ、基底膜の二層性を呈する尿細管萎縮と間質線維化及び単核球浸潤を疎らに認め、硝子円柱が散見されます。

動脈系には細動脈硝子化が輸出入に亘り高度見られ、中位動脈筋層の硬化が目立ち、中等度の内膜肥厚があります。

蛍光抗体法では、糸球体にIgG(+), C3(+): peripheral & granular patternです。

電顕では,観察糸球体はほぼびまん性に肥厚したGBMに上皮下或は膜内沈着物が散在性に

見られ、スパイク形成を認めます。メサンギウム領域にはメサンギウム基質の小結節状で癒合性増加が見られます.足突起は疎らに癒合しています.

以上、進展した膜性腎症を合併した糖尿病性腎症と思われます。

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65-I-1-31. Diabetic nephropathyA. Diabetic glomerulosclerosis, diffuse typeB. Arteriolosclerosis, severe2. Membranous glomerulonephritis, stage III-II

cortex/medulla= 9/1, global sclerosis/glomeruli= 6/37

光顕では、糸球体にはメサンギウム域拡大が見られ、spikes形成が目立ちます。ボウマン嚢壁の線維性肥厚が14ヶと目立ち、fibrin capを7ヶに認めます。Polar vasculosisを疎らに認め、内皮下硝子化がかなり進展しています。

尿細管系には近位上皮の硝子滴変性が軽度見られ、基底膜の二層性を呈する尿細管萎縮を散在性に認め、硝子円柱が散見されます。間質線維化及び単核球浸潤がかなりびまん性に拡がっています。

動脈系には細動脈硝子化が輸出入に亘り高度見られ、中位動脈筋層の硬化が目立ち、中等度の内膜肥厚があります。

蛍光抗体法では、糸球体にIgG(+), IgG1(+), IgG2(+), IgG3(+), IgG4(++), kappa(+), lambda(±), C3(+): peripheral & granular patternです。

電顕では,観察糸球体はほぼびまん性に肥厚したGBMに上皮下或は膜内沈着物が散在性に見られ、washed-out像が増え、スパイク形成を認めます。メサンギウム領域にはメサンギウム基質の小結節状で癒合性増加が見られます.足突起は疎らに癒合しています.

以上、進展した続発性膜性腎症を合併した糖尿病性腎症と思われます。

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Page 23: 糖尿病治療経過中に ネフローゼ症候群が急性発症した一例2 013年 214年 2015年 RBx② RBx③ mPSL 0.5g PSL40mg LDL-apheresis計12回施行 8.0 9.3 7.9 7.3 6.9

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<光顕>標本は3切片採取。

糸球体: 2/27個 (7%)に全節性硬化。残存糸球体において、メサンギウム細胞増多を11/25(44%)認め、拡大したメサンギウム領域に濾過面を持たない小血管の増生ならびにドーナツlesionを軽度認めます。管内性細胞増多ならびに分節性硬化はありません。細胞性半月体を1/25個(4%)、癒着を1/25個(4%)、虚脱を1/25個(4%)認めます。糸球体基底膜の肥厚はなく、PAM染色にて二重化ならびにspike・bubblingも見られません。糸球体はやや腫大傾向にあります(230μm)。

尿細管・間質: 尿細管の萎縮ならびに間質の線維性・浮腫性拡大を中等度に認め(30%)、同域にリンパ球浸潤を20%認めます。

血管: 小葉間動脈に高度の内膜の線維性肥厚を認め、輸入・輸出細動脈に高度の内膜の硝子様肥厚を認めます。

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Page 24: 糖尿病治療経過中に ネフローゼ症候群が急性発症した一例2 013年 214年 2015年 RBx② RBx③ mPSL 0.5g PSL40mg LDL-apheresis計12回施行 8.0 9.3 7.9 7.3 6.9

<第1回腎生検 まとめ>

軽症の糖尿病性糸球体硬化症 びまん型を背景に巣状分節性糸球体硬化症の発症が疑われます。その根拠として、巣状分節性のメサンギウム細胞増多があり、軽度ですが濾過面を持たない小血管ならびにドーナツlesionを認め、さらに輸入・輸出細動脈の硝子様肥厚が目立ちます。以上の所見は糖尿病性糸球体硬化症 びまん型に矛盾しません。

さらに分節性に糸球体毛細血管係蹄が虚脱し、その周囲に足細胞の腫大を認め、分節性糸球体硬化症の所見が加わっています。臨床的に急性のネフローゼ発症に相応しています。免疫染色にて一次性膜性腎症の診断です。

電顕診断にて一次性膜性腎症 stage1と診断されています。以上の所見から、糖尿病性糸球体硬化症 びまん型に膜性腎症stage 1が合併し、さらにFSGS様病変を認めます。急性発症のネフローゼ症候群は上記の膜性腎症の発症と関連しています。

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第2回目 腎生検X+1年7月

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<光顕>標本は2切片採取。糸球体は、1/17個 (6%)に全節性硬化を認めます。残存糸球体において、メサンギウム細胞増多を7/16個(44%)認め、拡大したメサンギウム領域に濾過面を持たない小血管の増生を軽度認めます。管内性細胞増多はありません。半月体形成ならびに分節性硬化、癒着、虚脱はありません。糸球体基底膜の肥厚はなく、PAM染色にて二重化は見られません。しかし巣状diffuse segmentalにspikeならびにbubblingが見られます。糸球体はやや腫大傾向にあります(230μm)。

尿細管・間質では、尿細管の萎縮ならびに間質の線維性・浮腫性拡大を中等度に認め(30%)、同域にリンパ球浸潤を20%認めます。

血管系では、小葉間動脈に高度の内膜の線維性肥厚を認め、輸入・輸出細動脈に高度の内膜の硝子様肥厚を認めます。

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Page 26: 糖尿病治療経過中に ネフローゼ症候群が急性発症した一例2 013年 214年 2015年 RBx② RBx③ mPSL 0.5g PSL40mg LDL-apheresis計12回施行 8.0 9.3 7.9 7.3 6.9

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<免疫染色>IgG・C3cが糸球体末梢係蹄に顆粒状に陽性で、

一次性膜性腎症にcompatible です。

<電顕診断>上皮下沈着物が広範に見られ、undulationを伴っ

ています。膜性腎症stage2にcompatible です。メサンギウムならびに内皮下沈着物は見られず、

一次性膜性腎症 stage2と診断します。

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<第2回目腎生検 まとめ>軽症型糖尿病性糸球体硬化症に膜性腎症stage2の合併と診断。免疫染色において一次性膜性腎症と診断されています。電顕診断において一次性膜性腎症 stage2と診断。上記の光顕診断に矛盾しません。1回目の腎生検を総合すると、既に1年前の第1回目腎生検において、軽症型糖尿病性糸球体硬化症に膜性腎症stage1が合併し、1年後において糖尿病性糸球体硬化症の進展はないものの膜性腎症のstageがstage1からstage2に進展。本症例は急性のネフローゼ症候群が一旦ステロイド治療により寛解し、その後、再発しています。膜性腎症の限られた症例においては本症例のようにMCNSに似た急性発症の経過をたどりステロイドに反応する場合があります。しかし、その後、膜性腎症が進行したと思われます

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第2回目腎生検

臨床診断 ネフローゼ症候群の再燃、糖尿病病因分類 糖尿病性腎症病型分類 軽症型糖尿病性糸球体硬化症、一次

性膜性腎症 stage2の合併IF診断 一次性膜性腎症の合併電顕診断 一次性膜性腎症 stage2、

糖尿病性糸球体硬化症の合併

皮質:髄質=10:0糸球体数:17個、全節性硬化:1個、メサンギウム細胞増殖:7個、管内性細胞増多:0個、半月体形成:0個(細胞性半月体:0個、線維細胞性半月体:0個、線維性半月体:0個)分節性硬化:0個、癒着:0個、虚脱: 0個、未熟糸球体:0個尿細管の線維化(IFTA):30%、間質の炎症細胞浸潤:20%小葉間動脈内膜の線維性肥厚:高度、輸入・輸出細動脈内膜の硝子様肥厚:高度

第3回目 腎生検X+2年12月

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Page 27: 糖尿病治療経過中に ネフローゼ症候群が急性発症した一例2 013年 214年 2015年 RBx② RBx③ mPSL 0.5g PSL40mg LDL-apheresis計12回施行 8.0 9.3 7.9 7.3 6.9

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