発熱と呼吸困難にて発症し治療が奏効した血管内リ …743 症 例...

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743 ●症 要旨:症例①:43 歳,女性.39℃ 台の発熱と呼吸困難により入院し,胸部 CT 上は無所見であったが肺血 流シンチにて多発性の欠損像を認めた.Ga シンチでは両肺野と脾臓に集積の亢進を認め,胸腔鏡下肺生検, 骨髄穿刺および皮膚生検を行い血管内リンパ腫と診断した.症例②:61 歳,男性.発熱と呼吸困難にて発 症し,肺野にすりガラス影と浸潤影を認めた.間質性肺炎と診断しステロイドを投与したところ一旦軽快し た.約半年後に再び発熱と呼吸困難が生じ,両肺に限局性のすりガラス影を認めた.骨髄穿刺の結果,血管 内リンパ腫の疑い例として治療を行った.両例とも導入化学療法と自己末梢血幹細胞移植併用大量化学療法 が奏効した.血管内リンパ腫は症状や画像所見が多彩でありしばしば診断が困難であり,時にステロイドに 良好な反応を示すため間質性肺炎や血管炎等との鑑別が必要である. キーワード:血管内リンパ腫,経気管支肺生検,胸腔鏡下肺生検,骨髄穿刺,皮膚生検 Intravascular lymphoma,Transbronchial lung biopsy,Video-assisted thoracic surgery, Bone marrow aspiration,Skin biopsy 血管内リンパ腫(Intravascular lymphoma;IVL)は 主に小血管内に閉塞性に腫瘍細胞が増殖する稀なリンパ 腫である.通常リンパ節腫大や腫瘤形成を認めず,進行 が速く致死的であるため生前診断は困難なことが多 )~.今回我々は,CT 上肺野は無所見であったが胸 腔鏡下肺生検により診断した症例,及び,当初間質性肺 炎と診断しステロイド治療を行った後に,改めて IVL 疑い例と診断し治療が奏効した症例を経験した.IVL の 早期診断について示唆に富むこれら 2 例について報告す る. 症例①:43 歳,女性.10 日前から続く 39℃ 台の発熱 と乾性咳嗽,労作時呼吸困難を主訴に 2008 年 6 月 13 日 当院呼吸器内科外来を受診した後に精査加療目的に入院 した.胸部 X 線や胸部造影 CT では肺野に異常を認め ず(Fig.1a,1b),呼吸音も正常であったがSpO2 は 85~ 92%(Room Air)と低下していた.表在リンパ節は触 知せず,皮疹も認めなかった.腹部 CT にて肝脾腫と右 副腎の腫大を認めた(Fig. 1c).入院後も 39℃ 台の波状 熱が持続した.肺血流シンチで両肺野に多発性の淡い欠 損像を認めたが(Fig.2a),LDH(1,864IU! L)と sIL-2R (1,810 U! ml)が異常高値であったため肺塞栓よりも IVL が疑われた(Table 1).Ga シンチでは脾臓と両肺野に 集積の亢進を認めた(Fig. 2b).呼吸状態が急速に悪化 し,右室圧 60 mmHg と肺高血圧を認めたため出血の危 険性の高い経気管支肺生検(Transbronchial lung bi- opsy;TBLB)ではなく胸腔鏡下肺生検を施行した.骨 髄穿刺と,入院後出現した左側胸部の薄い紅斑の皮膚生 検も行った.肺,皮膚,骨髄の全ての検体で,毛細血管 内に CD20 陽性の異型リンパ球を認めた(Fig. 3a,3b, 3c).肺では間質の肥厚と毛細血管の拡張を認め,内腔 に大型の異型リンパ球が腫瘍塞栓を形成していた(Fig. 3a,3b).IVL と診断し 6 月 26 日より R-CHOP 療法(Ri- tuximab,Cyclophosphamide,Doxorubicin,Vincristine, Prednisone)を開始し,計 6 コースを施行した後,自己 末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行った.約 22 カ 月後の 2010 年 4 月に再発を認め,現在化学療法中であ る. 症例②:61 歳,男性.一週間前からの発熱と呼吸苦 を主訴に 2005 年 4 月 19 日当院呼吸器内科外来を受診し 発熱と呼吸困難にて発症し治療が奏効した血管内リンパ腫の 2 例 櫻井 綾子 富井 啓介 春名 片上 信之 高橋 今井 幸弘 〒6500046 兵庫県神戸市中央区港島中町 4―6 1) 神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科 〒6158256 京都府京都市西京区山田平尾町 17 2) 京都桂病院呼吸器内科 〒6500047 兵庫県神戸市中央区港島南町 2―2 3) 先端医療センター病院総合腫瘍科 4) 神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器外科 5) 臨床病理科 (受付日平成 23 年 2 月 2 日) 日呼吸会誌 49(10),2011.

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Page 1: 発熱と呼吸困難にて発症し治療が奏効した血管内リ …743 症 例 要旨:症例①:43歳,女性.39 台の発熱と呼吸困難により入院し,胸部CT上は無所見であったが肺血

743

●症 例

要旨:症例①:43歳,女性.39℃台の発熱と呼吸困難により入院し,胸部CT上は無所見であったが肺血流シンチにて多発性の欠損像を認めた.Gaシンチでは両肺野と脾臓に集積の亢進を認め,胸腔鏡下肺生検,骨髄穿刺および皮膚生検を行い血管内リンパ腫と診断した.症例②:61歳,男性.発熱と呼吸困難にて発症し,肺野にすりガラス影と浸潤影を認めた.間質性肺炎と診断しステロイドを投与したところ一旦軽快した.約半年後に再び発熱と呼吸困難が生じ,両肺に限局性のすりガラス影を認めた.骨髄穿刺の結果,血管内リンパ腫の疑い例として治療を行った.両例とも導入化学療法と自己末梢血幹細胞移植併用大量化学療法が奏効した.血管内リンパ腫は症状や画像所見が多彩でありしばしば診断が困難であり,時にステロイドに良好な反応を示すため間質性肺炎や血管炎等との鑑別が必要である.キーワード:血管内リンパ腫,経気管支肺生検,胸腔鏡下肺生検,骨髄穿刺,皮膚生検

Intravascular lymphoma,Transbronchial lung biopsy,Video-assisted thoracic surgery,Bone marrow aspiration,Skin biopsy

緒 言

血管内リンパ腫(Intravascular lymphoma;IVL)は主に小血管内に閉塞性に腫瘍細胞が増殖する稀なリンパ腫である.通常リンパ節腫大や腫瘤形成を認めず,進行が速く致死的であるため生前診断は困難なことが多い1)~3).今回我々は,CT上肺野は無所見であったが胸腔鏡下肺生検により診断した症例,及び,当初間質性肺炎と診断しステロイド治療を行った後に,改めて IVL疑い例と診断し治療が奏効した症例を経験した.IVLの早期診断について示唆に富むこれら 2例について報告する.

症 例

症例①:43 歳,女性.10 日前から続く 39℃台の発熱と乾性咳嗽,労作時呼吸困難を主訴に 2008 年 6 月 13 日当院呼吸器内科外来を受診した後に精査加療目的に入院

した.胸部X線や胸部造影CTでは肺野に異常を認めず(Fig. 1a,1b),呼吸音も正常であったが SpO2は 85~92%(Room Air)と低下していた.表在リンパ節は触知せず,皮疹も認めなかった.腹部CTにて肝脾腫と右副腎の腫大を認めた(Fig. 1c).入院後も 39℃台の波状熱が持続した.肺血流シンチで両肺野に多発性の淡い欠損像を認めたが(Fig. 2a),LDH(1,864 IU�L)と sIL-2R(1,810 U�ml)が異常高値であったため肺塞栓よりも IVLが疑われた(Table 1).Ga シンチでは脾臓と両肺野に集積の亢進を認めた(Fig. 2b).呼吸状態が急速に悪化し,右室圧 60 mmHgと肺高血圧を認めたため出血の危険性の高い経気管支肺生検(Transbronchial lung bi-opsy;TBLB)ではなく胸腔鏡下肺生検を施行した.骨髄穿刺と,入院後出現した左側胸部の薄い紅斑の皮膚生検も行った.肺,皮膚,骨髄の全ての検体で,毛細血管内にCD20 陽性の異型リンパ球を認めた(Fig. 3a,3b,3c).肺では間質の肥厚と毛細血管の拡張を認め,内腔に大型の異型リンパ球が腫瘍塞栓を形成していた(Fig.3a,3b).IVLと診断し 6月 26 日より R-CHOP療法(Ri-tuximab,Cyclophosphamide,Doxorubicin,Vincristine,Prednisone)を開始し,計 6コースを施行した後,自己末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行った.約 22 カ月後の 2010 年 4 月に再発を認め,現在化学療法中である.症例②:61 歳,男性.一週間前からの発熱と呼吸苦

を主訴に 2005 年 4 月 19 日当院呼吸器内科外来を受診し

発熱と呼吸困難にて発症し治療が奏効した血管内リンパ腫の 2例

櫻井 綾子1) 富井 啓介1) 春名 茜2)

片上 信之1)3) 高橋 豊4) 今井 幸弘5)

〒650―0046 兵庫県神戸市中央区港島中町 4―61)神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科〒615―8256 京都府京都市西京区山田平尾町 172)京都桂病院呼吸器内科〒650―0047 兵庫県神戸市中央区港島南町 2―23)先端医療センター病院総合腫瘍科4)神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器外科5)同 臨床病理科

(受付日平成 23 年 2月 2日)

日呼吸会誌 49(10),2011.

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日呼吸会誌 49(10),2011.744

Fig. 1 a) b) Case 1: Chest x-ray and CT on admission showed no abnormality. c) Abdominal CT showed hepatosplenomegaly and an enlarged right adrenal gland.

Fig. 2 a) Case 1: Lung perfusion scintigraphy revealed multiple non-segmental defects in both lungs. b) Case 1: Diffuse pulmonary uptake of 67Ga in both lung fields, and the spleen was observed.

た.39℃の発熱と SpO2の低下(85%,Room Air)を認めたため同日入院した.胸部単純写真では両肺のスリガラス影および左胸水と左上肺の浸潤影を認めた(Fig.

4a).胸部 CT上右肺野濃度の上昇と一部浸潤影,左肺の腫瘤状影を認め(Fig. 4b),肺炎と診断し抗生剤を開始した.しかし呼吸状態は急速に悪化し心不全も合併し

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血管内リンパ腫の 2例 745

Table 1 Laboratory findings (Patient 1)

【Hematology】 【Serology】WBC 4,800/μl sIL-2R 1,810 U/mlNeu 66% KL-6 235 U/mlLym 23%Mono 8% 【Tumor marker】Eos 2% CEA 0.8 ng/ml

RBC 437×104/μl SCC 0.7 ng/mlHb 11.7 g/dl CYFRA 0.9 ng/mlPlt 16.1×104/μl NSE 72 ng/mlESR 54 mm/h CA19-9 22 U/ml

【Biochemistry】 【Arterial blood gas】TP 6.9 g/dl pH 7.456Alb 3.5 g/dl PaCO2 35.2 torrBUN 7 mg/dl PaO2 72.0 torrCr 0.75 mg/dl SaO2 91.2%AST 46 IUALT 13 IU 【Coagulation】LDH 1,864 IU APTT 31.4 secALP 280 IU PT-INR 1.03Na 138 mEq/l D-dimer 2.0 μg/mlK 4.1 mEq/lCl 100 mEq/lCRP 2.2 mg/dl

Fig. 3 Case 1: Transbronchial lung biopsy stained with hematoxylin-eosin (a) CD20-positive findings (b) large atypical lymphocytes within markedly expanded capillary lumens. (×100) c) d) Case 1: Skin biop-sy revealed large atypical lymphocytes forming thrombi within capillaries. (c: ×100, d: ×400)

たため同日夜に非侵襲的人工呼吸器を装着した.LDHは 763 IU,sIL-2R が 5,920 U�ml と異常高値を認めた(Table 2).間質性肺炎を疑いメチルプレドニゾロン(methylprednisolone;mPSL)80 mg�day を投与したところ呼吸状態は速やかに改善した.ステロイドを漸減した後中止し,退院した.約半年後の 2005 年 10 月 31 日に再び発熱,呼吸困難

により入院した.胸部単純写真では異常所見を認めず(Fig. 5a),胸部 CTにて両肺野に限局性のすりガラス影を認めた(Fig. 5b).初回入院と同様に LDH(809 IU)と sIL-2R(15,200 U�ml)が上昇していた(Table 3).mPSL 125 mg�day を開始後,呼吸状態はやや改善したが前回ほどの効果は示さず酸素 6 Lの投与を必要とした.肺血流シンチにて両肺に多発性の欠損像を認めたため(Fig. 6a)肺塞栓と考えヘパリンを開始したが効果はなかった.血小板減少と腎機能の悪化を認め人工透析を開始.TTPや ITPも考えられたが,sIL-2R が 15,200 と高値でありリンパ腫が疑われた.Gaシンチでは脾臓に強い集積を認めた(Fig. 6b).骨髄穿刺にてCD20 陽性の異型リンパ球のびまん性の浸潤および血球貪食像を認め,IVLの一病型である probable AIVL(Asian variant

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日呼吸会誌 49(10),2011.746

Table 2 Laboratory findings (Patient 2 on 1st admission)

【Hematology】 【Biochemistry】WBC 9,300/μl TP 5.2 g/dlNeu 64% Alb 2.8 g/dlLym 16% BUN 19 mg/dlMono 18% Cr 1.4 mg/dlEos 1% AST 20 IU

RBC 399×104/μl ALT 23 IUHb 12.0 g/dl LDH 763 IUPlt 11.1×104/μl ALP 139 IUESR 101 mm/h Na 141 mEq/l

K 4.1 mEq/l【Serology】 Cl 107 mEq/lsIL-2R 5,920 U/ml CRP 15.0 mg/dlKL-6 250 U/ml

【Arterial blood gas 10L mask oxygen】pH 7.475PaCO2 27.0 torrPaO2 89.3 torr

Fig. 4 Case 2 on first admission: a) Chest X-ray film showed diffuse ground glass opacities in both lungs. b) Chest CT revealed a mass, consolidation and ground glass opacities.

Fig. 5 Case 2 on second admission: a) b) Partial ground glass opacities in bilateral lung fields and a small amount of pleural effusion were observed in chest x-ray and chest CT.

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血管内リンパ腫の 2例 747

Table 3 Laboratory findings (Patient 2 on 2nd admission)

【Hematology】 【Biochemistry】WBC 7,700/μl TP 6.0 g/dlNeu 65% Alb 3.2 g/dlLym 12% BUN 24 mg/dlMono 21% Cr 1.5 mg/dlEos 1% AST 33 IU

RBC 446×104/μl ALT 61 IUHb 14.2 g/dl LDH 809 IUPlt 10.0×104/μl ALP 167 IU

Na 142 mEq/l【Serology】 K 4.6 mEq/lsIL-2R 15,200 U/ml CRP 10.6 mg/dlKL-6 227 U/ml

【Coagulation】APTT 30.8 secPT-INR 1.11D-dimer 7.3 μg/ml

Fig. 6 a) Lung perfusion scintigraphy revealed multiple nonsegmental defects in bilateral lung fields. b) Partial uptake of 67Ga in the spleen was observed.

of intravascular large B-cell lymphoma)と診断した4).悪性リンパ腫随伴性血球貪食症候群に対してmPSL 125mg+VP-16 90 mg�body×4 回を投与し,12 月 2 日よりCHOP療法を 1コース施行,2コース目よりリツキシマブを加えたR-CHOP療法を計 6コース施行した.CRとなった後に自己末梢血幹細胞移植を行った.2010 年 10

月現在再発は認めていない.

考 察

いずれも発熱と呼吸困難を主訴に呼吸器内科外来を受診し IVLと診断された 2例である.2例目は当初間質性肺炎と診断したが,初回入院時に LDHおよび sIL-2R が上昇していたこと,ステロイド投与後呼吸困難が速やかに消失したことを考えると,初診時に既に IVLを発症していたと考えられる.文献的には,当初は間質性肺炎や膠原病と診断されステロイドにより一時的に症状が軽減したものの数カ月後に再燃した例や,数カ月から数年にわたり増悪と軽快を繰り返した例が報告されている5)~8).IVL は主に小血管内に閉塞性に腫瘍細胞が増殖するこ

とを特徴とする稀なリンパ腫である1)3)4).2 例目は骨髄にびまん性に腫瘍細胞の浸潤を認めたが,病理組織において血管内に限局した腫瘍細胞は確認できなかった.WHOの定義では病変が血管内に限局することを条件としているため厳密には IVLとは診断できない.しかしながら進行例や剖検例では血管外浸潤や腫瘤形成を認めることも多く,これらは IVLから進展した病変�病態と考えられている.そのため最近では小血管内ないし類洞内に病変の主座があれば IVLと診断し得るという見解が有力になりつつある3)4).

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日呼吸会誌 49(10),2011.748

IVL の病態の基本は内腔閉塞性に増殖する腫瘍細胞による小血管の多発性小梗塞であり,浸潤する臓器により多彩な症状を呈する1)3).例えば肺に浸潤した場合は殆どの症例で咳嗽や呼吸困難,低酸素血症等の呼吸器症状を伴い,これらは治療に反応し速やかに改善する5)9)~13).また,副腎不全7)や上腸間膜動静脈血栓症で発症した症例や6),失行失認で発症し脳腫瘤の開頭生検により診断された症例14)もある.他に脳梗塞や多発性硬化症やTTP,血管炎などが鑑別に挙がることもある4)15).さらに,皮膚に浸潤した場合は紅斑,疼痛を伴う硬結,潰瘍,毛細血管拡張など多様な臨床症状を呈する1)4)5)16).胸水は心不全に起因することもあるが,胸水からリンパ腫細胞が検出された報告もある4).AIVLは 2000 年に報告された IVLの一病型であり,

欧米人に比して神経症状や皮膚症状を呈することが少なく,血小板減少や肝脾腫,骨髄浸潤を認める頻度が高く,血球貪食症候群の合併等を高率に認めるという特徴がある.疑い例(probable AIVL)も含めると本邦では半数以上がAIVLに該当するとされる3)5).IVL の診断は生検で小血管内の腫瘍細胞を認めること

で確定する.剖検例では殆ど全ての臓器に病変が認められ,生検も骨髄,肺,皮膚,肝,腎,副腎,脳,硬膜,筋肉,リンパ節など様々な臓器で行われる1)8)17).IVL の肺病変は基本的にTBLBによって診断可能であり8)9)11)12),低酸素血症があり IVLを疑う場合には積極的に施行すべきとされる18).骨髄の検査により診断されることも少なくなく,単回の骨髄穿刺は陰性でも複数個所の穿刺や骨髄生検により診断された例や17),骨髄生検は陰性であったが剖検にて骨髄浸潤を確認した例などが報告されている4).また,最近ではランダム皮膚生検の有用性を示した報告が散見される5)10)16).IVL では LDHとsIL2R はほぼ例外なく高値であり1)2)5),これらが高値であるがリンパ節腫大が見られない場合は積極的に IVLを疑う必要がある8)9).IVL の画像所見については多彩な報告があり,症例①

のようにCT上肺野は無所見であったが低酸素血症を呈した症例や10)11),症例②のようにびまん性または散在性のすりガラス影9)12)14),さらには粒状影や稀には腫瘤影を呈した症例もある12)13)19).肺野の間質影の増強は腫瘍細胞の増殖による胞隔の肥厚と含気の減少を意味し,浸潤影および腫瘤影は血管外に浸潤した腫瘍によるとされる8).また,IVLでは肝脾腫や,腎臓,副腎など浸潤する臓器の腫大を認めるが,これらは治療に反応し出現と消失を繰り返す.Gaシンチでは病変部位に集積の亢進を認める場合も認めない場合もあり,その有用性は限定的である9)13).本症例のように肺血流シンチにて多発性の血流欠損像を認めた報告や12)13),最近では PETの有

用性を示す報告も散見される.CT上は無所見であっても肺や骨髄など浸潤する臓器にFDG-PETの取り込み亢進を認めた報告や9)~11)14),PETを治療効果判定に用いた報告もある9).IVLは極めて予後不良な疾患とされていたが,最近は

R-CHOP療法や PBSCTとの併用によって長期生存が得られるようになっている1)2)20).通常は R-CHOPを 6コース行うが,症例①のように初回は腫瘍崩壊症候群を避けるためCHOP療法を行い,2コース目からR-CHOP療法を行うことを推奨する報告もある2).IVLは多くの場合発熱と呼吸困難を呈するため呼吸器

内科を受診する機会が多く,進行が速く致死的であり早期診断のためにはまず「疑うこと」が重要である8)17).呼吸困難を呈し,LDH及び sIL-2R が高値の場合には,肺野の画像所見に関わらず本疾患を疑ってTBLBやランダム皮膚生検および骨髄生検を行うことが早期診断と早期治療につながる.謝辞:本症例の経過において貴重な御助言,御助力を頂きました当院免疫血液内科 田端淑恵先生,大郷皮フ科クリニック大郷典子先生に深謝致します.

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血管内リンパ腫の 2例 749

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Abstract

Two cases of successfully treated intravascular lymphoma presenting with fever and dyspnea

Ayako Sakurai1), Keisuke Tomii1), Akane Haruna2), Nobuyuki Katakami1)3),Yutaka Takahashi4)and Yukihiro Imai5)

1)Department of Respiratory Medicine, Kobe City Medical Center General Hospital2)Respiratory Disease Center, Kyoto-Katsura Hospital

3)Division of Integrated Oncology, Institute of Biomedical Research and Innovation4)Department of Thoracic Surgery, Kobe City Medical Center General Hospital

5)Department of Pathology, Kobe City Medical Center General Hospital

We report two patients with intravascular large B-cell lymphoma who presented with fever and dyspnea. Se-rum level of lactate dehydrogenase (LDH) and soluble interleukin-2 receptor (sIL-2R) levels were extremely highin both cases. Chest CT revealed tumor mass and ground glass opacity in one patient, and no abnormality in an-other patient who had severe hypoxemia. Their perfusion ventilation lung scintigraphy demonstrated multiple de-fects, and gallium scintigraphy showed abnormal accumulation in both lungs, and the spleen. Both patients weresuccessfully treated with rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisone (R-CHOP). Initialchemotherapy was followed by high dose systemic chemotherapy with peripheral blood stem cell support. In-travascular large B-cell lymphoma should always be considered in the differential diagnosis of fever and hypoxe-mia with elevated serum LDH and sIL-2R, regardless of the chest CT findings.