稲わら中のひ素の基準値の見直し(案)...稲わら中のひ素の基準値の見直し...

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平成19年12月7日 稲わら中のひ素の基準値の見直し(案) 1.稲わら中のひ素の基準値については、平成4年に における配合飼料 EU の基準(2 )や我が国における鉛の基準(3.0 )を参考にして、 ppm ppm 乾牧草の一部として、「配合飼料、乾牧草(稲わらを含む):2.0 ppm 魚粉等:7.0 」を有害物質の指導基準(農林水産省畜産局長通知) ppm として基準値を設定した。 2.15年にサーベイランスを行ったところ、稲わら(国産、中国産)中の ひ素の濃度分布が乾牧草中の濃度分布とは大きく異なり、稲わらの大半が 基準値を大きく上回る状況にあることが判明した。 そこで、15年4月16日の農業資材審議会安全性部会で意見を聴いた ところ、「飼料中の濃度全体で考えると、基準を超えた稲わらが給与され たとしても、稲わらの給与量が適切であれば畜産物への残留の可能性が低 いと言える。」との意見を得て、牛への給与割合を抑制するよう通知を発 出し指導(概ね2割以下)を行ってきたところである。(その後の給与割合 は、1割前後で安定的に推移。) 3.16年に、動物試験を行い、畜産物への移行に関してより詳細な科学的 知見が得られた。さらに、17年に欧州食品安全機関( )は、飼料 EFSA 中のひ素が畜産物へ移行する量は低く、ヒトが畜産物由来のひ素を摂取す る量は低いとの評価結果を公表した。 4.このような実態及び新たに得られた科学的知見を踏まえれば、我が国で 生産される畜産物の安全を確保しつつ、稲わら中のひ素の基準値を見直す ことが適切であると考えられる。 jtd 071227 . ひ素表紙 参考資料4

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平成19年12月7日

稲わら中のひ素の基準値の見直し(案)

1.稲わら中のひ素の基準値については、平成4年に における配合飼料EUの基準(2 )や我が国における鉛の基準(3.0 )を参考にして、ppm ppm乾牧草の一部として、「配合飼料、乾牧草(稲わらを含む):2.0 、ppm魚粉等:7.0 」を有害物質の指導基準(農林水産省畜産局長通知)ppmとして基準値を設定した。

2.15年にサーベイランスを行ったところ、稲わら(国産、中国産)中の

ひ素の濃度分布が乾牧草中の濃度分布とは大きく異なり、稲わらの大半が

基準値を大きく上回る状況にあることが判明した。

そこで、15年4月16日の農業資材審議会安全性部会で意見を聴いた

ところ、「飼料中の濃度全体で考えると、基準を超えた稲わらが給与され

たとしても、稲わらの給与量が適切であれば畜産物への残留の可能性が低

いと言える。」との意見を得て、牛への給与割合を抑制するよう通知を発

出し指導(概ね2割以下)を行ってきたところである。(その後の給与割合

は、1割前後で安定的に推移。)

3.16年に、動物試験を行い、畜産物への移行に関してより詳細な科学的

知見が得られた。さらに、17年に欧州食品安全機関( )は、飼料EFSA中のひ素が畜産物へ移行する量は低く、ヒトが畜産物由来のひ素を摂取す

る量は低いとの評価結果を公表した。

4.このような実態及び新たに得られた科学的知見を踏まえれば、我が国で

生産される畜産物の安全を確保しつつ、稲わら中のひ素の基準値を見直す

ことが適切であると考えられる。

jtd071227 .ひ素表紙

参考資料4

稲わら中のひ素の基準値の見直し

農林水産省 消費・安全局

畜水産安全管理課

I. ひ素の特性

II. 稲わら中のひ素

III. ひ素の現行基準値と汚染実態

IV. 稲わらの基準値を見直す必要性

V. ALARA (As Low As Reasonably Achievable)の原則

VI. 稲わら中のひ素の基準値の見直し

VII. 稲わらの基準値見直しによる畜産物の安全性の確認

VIII. 稲わらの暫定基準値設定後の対応

参考1 ひ素の基準値に関する過去の経緯

参考2 動物試験による家畜への移行

参考3 畜産物に由来するひ素の摂取量の計算

参考4 諸外国におけるひ素の基準値

平成19年12月7日

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Ⅰ.ひ素の特性

1. ひ素は、天然に広く分布する元素であり、生物に対する毒性が強いことで注目されてきたが、毒性が比較的強い無機ひ素(PTWI(暫定1週間耐容摂取量)0.015mg/kg体重/week )から毒性が砂糖並みであるといわれるアルセノベタインまで様々な形態が存在する。

2. また、ひ素は、農薬や半導体などの原料として用いられてきたが、我が国では、飼料中のひ素が原因で家畜あるいは畜産物の安全性に問題が生じたとの報告は行われていない。

2

Ⅱ.稲わら中のひ素

• 我が国の土壌は火山性であるため、土壌中にはひ素が多く含まれる。

• 土壌中に含まれるひ素は、灌水することにより還元され亜ひ酸として水に溶解し、稲わらに吸収されやすい傾向がある。

また、稲の部位別のひ素濃度は、「根>>茎葉 >>玄米」であり、玄米よりも稲わらに含有しやすい傾向が強い。

そのため、他の飼料原料と比べ、稲わらにはひ素が多く含まれる傾向がある。

3

Ⅲ.ひ素の現行基準値と汚染実態

稲わらの現行基準値は、汚染実態に基づかずに乾牧草の基準値をそのまま適用したため、基準値と実態の間に大きな齟齬が生じている。

0.6~6.8 (2.5)【国産及び中国産】

稲わら

<0.1~0.5 (<0.1)2.0牛用配合飼料

<0.1~0.6 (0.1)2.0

乾牧草(稲わら以外)

実測濃度範囲(中央値)基準値牛が摂取する主な飼料

単位:ppm (総ひ素ベース)

※ 定量限界:0.1ppm

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Ⅳ.稲わらの基準値を見直す必要性

1.国際的には、ひ素やカドミウムなどの環境汚染物質に関して、基準値を設定する場合、サーベイランスの結果に対して、 ALARAの原則を適用して設

定するのが通常である。(例:コーデックスのコメ中のカドミウムに関する基準)

2.稲わらに関するひ素の濃度分布は、乾牧草の濃度分布とは大きく異なる状況にある。一方、現行のひ素の基準値は、このような実態を考慮せずに乾牧草の基準値をそのまま適用したため、稲わらの大半が基準値を大きく上回る状況にある。

3.このような状況を踏まえて、平成16年度には、動物試験を実施した結果、より詳細な科学的知見が得られた(参考3)。さらに、平成17年に欧州食品安全機関(EFSA)は、動物試験の結果から飼料中のひ素(無機態)が畜産

物へ移行する量は低く、ヒトが畜産物由来のひ素(無機態)を摂取する量は低いとの評価結果を公表した。

4.このような実態及び新たに得られた科学的知見を踏まえれば、我が国で生産される畜産物の安全を確保しつつ、稲わら中のひ素の基準値を見直すことが適切である。

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Ⅴ.ALARA (As Low As Reasonably Achievable)の原則

• 合理的に到達可能な範囲でできる限り低く設定• 生産や取引の不必要な中断を避けるため、食品中

の汚染物質の通常の濃度範囲よりもやや高いレベルに設定

前提条件として、① 消費者の健康保護が図られること② 適切な技術や手段の適用によって、汚染しないように

生産されていること

環境汚染物質の基準値を設定する際に用いる国際的な考え方であり、Codexにおけるコメ中のカドミウム

の基準値設定等の際に用いられた原則である。

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6

順位 中国産稲わら 順位 国産稲わら2 6.2 1 6.8 0.83 4.8 17 3.0 0.54 4.6 20 2.7 0.45 4.2 34 1.9 0.36 4.0 35 1.8 0.37 3.8 39 1.6 0.28 3.8 40 1.5 0.29 3.8 4 0.8 -0.110 3.6 46 0.7 -0.211 3.5 47 0.6 -0.212 3.413 3.314 3.215 3.1 現行基準値超過16 3.0 現行基準値内18 2.919 2.821 2.622 2.623 2.524 2.525 2.426 2.327 2.328 2.329 2.230 2.131 2.032 1.933 1.936 1.737 1.738 1.641 1.542 1.343 1.144 0.8

稲わら中のひ素の基準値に関しては、ALARAの原則に基づき、稲わらの実測濃度範囲(0.6~6.8ppm)を考慮し、暫定的に7ppmと設定。

Ⅵ.稲わら中のひ素の基準値の見直し

※1 U検定を行ったところ、国産稲

わらと中国産稲わらのひ素の間に有意な差は見られなかった。

2 実際に流通されている稲わら

について、サンプリングしため、詳細な産地は不明。

3 基準値を超過した稲わらに関

しては、回収措置を実施。

稲わら中のひ素濃度 (ppm)

0

5

10

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

稲わら中のひ素濃度の分布

濃度(ppm)

検体数

違反率2%を想定

7

Ⅶ.稲わらの基準値見直しによる畜産物の安全性の確認

・稲わら(7ppm) 20%・稲わら以外 (2ppm) 80%

トータルダイエット調査による推定摂取量(厚生労働省)

比較

豚、鶏への給与・飼料 (2ppm) 100%

• 人の畜産物の摂取量から畜産物由来のひ素の摂取量、さらには

その場合の食品全体の摂取量を算出

• 動物試験から、ひ素が含まれる飼料を摂取した家畜の体内(筋肉、内臓等)に移行する量を算出(参考3)

⇒ 飼料全体※ 豚、鶏に対して、通常は稲

わらが給与されることはない。

1. 家畜が摂取する飼料中のひ素の最大濃度の推定農家への給与指導割合(最大)

③ 最大指導割合の2倍を給与の場合4.0ppm

牛への給与

② 最大指導割合(20%)の場合 3.0ppm① 通常の給与割合(10%)の場合 2.5ppm

P.8参照

P.9参照

8

EFSAの評価によると、1.2mg/bw・day(≒43ppm )のひ素を牛に給与しても、ひ素の中毒症状が見られないことから、稲わらの基準値が7ppm(飼料全体では4.0ppm)としても牛の安全性には影響がないものと考えられる。

また、EFSAは、飼料中のひ素(無機態)が畜産物へ移行する量は低く、ヒト

が畜産物由来のひ素(無機態)を摂取する量は低いとの評価結果を公表した。

② 最大給与指導割合(20%)した場合

① 通常の給与割合(10%)した場合

③ 最大給与指導割合の2倍を給与した場合

7ppm × 0.1(10%) + 2ppm ×0.9(90%) = 2.5ppm

7ppm × 0.2(20%) + 2ppm ×0.8(80%) = 3.0ppm

7ppm × 0.4(40%) + 2ppm ×0.6(60%) = 4.0ppm

稲わら 稲わら以外の飼料 飼料全体

2. 牛が摂取する飼料中のひ素の最大濃度の推定

※ 牛の体重500kg、1日当たりの飼料の摂取量を14kgと仮定

(日本飼養標準及び畜産物生産費(平成18年)より推計)

稲わら 稲わら以外の飼料 飼料全体

稲わら 稲わら以外の飼料 飼料全体

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畜産物についてワーストケースに置き換えた場合

トータルダイエット調査

稲わら中のひ素の基準値を2.0ppmから7ppmに見直し、さらにワー

ストケースを想定しても、ひ素の摂取量は厚生労働省のトータルダイエット調査の平均的な結果と比べて有意に高いわけではない。

単位:μg / 人 / 日

出典 日常食の汚染物質摂取量及び汚染物モニタリング調査研究(平成12~16年平均)

食品全体 175.7 ±14.4

うち畜産物

肉・卵 1.6 (0.9%)

その他 174.1 (99.1%)

食品全体 176.4

うち畜産物(計算方法は、参考3)

肉・卵 2.3 (1.3%)

3. 日本人が摂取する一日当たりのひ素の摂取量(全国平均)の比較

単位:μg / 人 / 日

[100.0%] [100.5%]

※ 平成12~16年のデータの標準偏差

その他 174.1 (99.1%)

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Ⅸ.稲わらの暫定基準値設定後の対応方向

これまで得られたサーベイランスの結果をALARAの原則に適用して暫定基準値の設定

• モニタリングの実施• 家畜を用いた動物試験の実施

モニタリング及び動物試験の結果、さらには国際的な議論の動向等を踏まえて基準値の再検討

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参考1.ひ素の基準値に関する過去の経緯

1.指導基準のひ素については、平成4年の農材審家畜飼料検

討委員会において、EUにおける配合飼料の基準(2ppm)や我

が国における鉛の基準(3.0ppm)を参考にして、局長通知に

よって(配合飼料、乾牧草(稲わらを含む):2.0ppm、魚粉等:

7.0ppm)設定した。

2.しかしながら、15年3月、国産、輸入稲わらともに、この基準値

を大きく上回る状況にあることが判明し、農材審安全性部会に

意見を聴いたところ、「稲わらの流通・使用の実態を踏まえ

ると、現行の規制に加え、家畜への稲わら給与割合を抑制

するとの指導を行うことが望ましい。」との意見を得て、

牛への給与割合を抑制するよう指導(概ね2割以下)を行っ

てきたが、その後の給与割合は1割前後で推移。

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無機ひ素を含む飼料を給与

2及び10ppmの飼料2及び10ppmの飼料

参考2 動物試験による家畜への移行

2、4及び10ppmの飼料(肉牛試験)

平成16年実施(7週間)0.0383-0.01030.008鶏筋肉

平成16年実施(4週間)0.0187-0.00550.0004鶏卵(卵黄)

0.0016

1

0.22

10ppm

平成16年実施(4週間)

平成元年実施(16週間)

備考

-0.00340.0007豚脂肪

0.180.1<0.1牛肝臓

<0.1<0.1<0.1牛筋肉

4ppm2ppm標準区(0ppm)飼料中の無機ひ素の濃度

動物試験による畜産物中の総ヒ素の移行状況 (単位:ppm)

※ 1 定量限界は、牛筋肉及び肝臓に関しては0.1ppm、その他に関しては0.0001ppm。

2 赤字は、ワーストケースの試算に使用した数値。3 豚及び鶏に対して、通常は稲わらが給与されることはない。

n=3 n=3n=5

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参考3 畜産物に由来するひ素の摂取量の計算

34.4鶏卵

1.6内臓

19.0鶏肉

30.6豚肉

15.0牛肉

0.0055鶏卵

0.180牛肝臓

0.0103鶏筋肉

0.0034豚脂肪

0.1牛筋肉

× =0.2鶏卵

0.3内臓

0.2鶏肉

0.1豚肉

1.5牛肉

2.3μg / 人 / 日

1日当たりの畜産物の摂取量

ワーストケースの飼料を給与した家畜中の残留濃度

人が畜産物から摂取する1日当たりのひ素の量※最もひ素が残留した部位の残

留濃度を採用

牛に4ppmのひ素を含む飼料・稲わら(7ppm) 40%・稲わら以外 (2ppm) 60%

豚・鶏に2ppmのひ素を含む飼料豚・鶏用飼料(2ppm) 100%

ひ素に関するワーストケースの飼料を家畜に給与

出典:国民健康・栄養調査報告(平成16年)

肉卵

(単位:g) (単位:μg/g) (単位:μg)

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参考4 諸外国におけるひ素の基準値

(コーデックス委員会)1999年の第31回CCFAC(食品添加物・汚染物質部会)においてひ素の基準値に関する検

討が行われたものの、食品に含まれるヒ素の化学的な形態(有機、無機等)や形態別の毒性の明確化、形態別の分析法が開発されるまでの間、基準値の検討を中断。

(EU)食品に関する基準は未設定。

(日本)食品衛生法において、ひ素を含む農薬の残留基準値として設定(As2O3換算、ただし、我が

国では、現在使用されていない。)・ もも、なつみかん、いちご、ぶどう、ばれいしょ、きゅうり、ほうれんそう 1.0 ppm・ 日本なし、りんご、なつみかんの外果皮 3.5 ppm

【食品】

【飼料】

104-

42

EU

米国

Codex

-7.0魚 粉

-2.0ビートパルプ

-2.0→7稲わら

-2.0乾牧草(グラス)

-2.0配合飼料

豪州日本

日本と諸外国における飼料中のひ素の基準値(トータルひ素:ppm)