研究計画作成に当たり留意すべき事項② -農業研究に特有な留意 … ·...

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「農研機構」は 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 の登録商標であり、コミュニケーションネームです。 研究計画作成に当たり留意すべき事項② -農業研究に特有な留意点- 作物生産技術に関して 農研機構 生研支援センター 渡邊好昭 2019/09/24 @川崎市産業振興会館 生研支援センター 応募前研修

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Page 1: 研究計画作成に当たり留意すべき事項② -農業研究に特有な留意 … · 「農研機構」は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の登録商標であり、コミュニケーションネームです。

「農研機構」は 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 の登録商標であり、コミュニケーションネームです。

研究計画作成に当たり留意すべき事項②-農業研究に特有な留意点-

作物生産技術に関して

農研機構 生研支援センター渡邊好昭

2019/09/24 @川崎市産業振興会館生研支援センター 応募前研修

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本日の内容

1.現場実証試験の必要性2.現場実証試験の特徴

On-Farm Researchガイドブックの紹介1)色々な段階のOn-Farm Research2)基本的な特徴3)試験区の作り方4)どんなデータを取るか5)作業の手順

3.リスク管理4.現場実証試験の実例

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1.現場実証試験の必要性

現場で利用できる技術の開発(→社会実装)=生産者に受け入れられる技術の開発×研究のための研究

現場実証試験で受け入れられることを証明開発技術単独では現場に入らない。新技術を取り入れた技術体系で現場に入る。

この技術体系が生産者の評価できる姿

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On-Farm Researchガイドブックの紹介

URL:http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/narc/farm/056328.html

農研機構 プレスリリース・広報刊行物 アーカイブ中央農業総合研究センター研究所からの報告一覧2015 ファーミングシステム研究12

2.現場実証試験の特徴

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1)色々な段階のOn-Farm Research

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2)基本的な特徴

研究機関の試験圃場 農家圃場

目的 処理の効果交互作用

生産現場でしか得られないデータを得る

現場で受け入れられることを証明

作業 生産現場と異なる 生産現場と同じor近い

試験区 小規模 多数 大規模 少数

土壌の理化学性等

均一 誤差が小さくできる

不均一

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現地実証試験の特徴(欠点)を意識した設計・一つの試験区の面積が大きい ex.圃場1枚

生産現場で使う機械での作業、管理

・圃場の不均一性・反復数の制限

3)試験区の作り方

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・説得力のあるデータ取得=統計解析(反復、無作為化、局所管理)

・対照区を明確にする・要因を絞り込んで反復数を増やす・途中で柱となる試験設計を変更しない

柱となる開発技術の年次間差を見る

○計画段階での十分な討議が必要

3)試験区の作り方

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4)どんなデータを取るか

①研究目標の達成を証明するデータ=数値目標アウトカム目標:開発技術が実装されることでもたらされる目標値ex 収益向上 20%

アウトプット目標:開発技術の目標値

構築する新しい技術体系としての目標値ex 収量向上 20% + コスト削減 10%

技術体系を構成する個別技術の目標値ex 苗立ち率向上 10%ex 適期作業による収量向上 10%ex 作業時間の削減 40%ex 病虫害防除コスト削減 20%

プロジェクト開始時に研究メンバー全体で共有

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4)どんなデータを取るか

②結果を解析するためのデータ・収量と収量構成要素ex麦 収量=穂数x一穂粒数x粒重

何が制限要因になっているのか?に注意

・圃場条件の定量化どんな圃場でそのデータを出したのか?(土性、肥沃度、気温、降水量、排水性

作付前歴、土地改良・・・)

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5)作業の手順

1.現場実証試験の構想2.共同研究機関の設定3.候補地の選定4.経営体(農家)の選定5.圃場の選定6.現地との調整7.試験の実施8.現場へのフィードバック(結果の報告)

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5)作業の手順

1.現場実証試験の構想中核となる開発技術(研究機関の試験圃場で効果を実証済み)中核となる開発技術を補完する技術開発現場実証試験で収集すべきデータ等

2.共同研究機関の設定補完技術を担う共同研究機関収集すべきデータをとる共同研究機関

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5)作業の手順

3.候補地の選定開発技術が効果を発揮する条件都道府県の方針などとの整合性都道府県公設試験場の協力

4.経営体(農家)の選定経営体の方針、目標との合致開発技術を受け入れられる技術力、装備等試験場、普及機関、JA等とのコミュニケーション

5.圃場の選定(現地で実際に見る)地域を代表する圃場開発技術が導入可能な圃場(大きさ、理化学性等)

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5)作業の手順

6.現地との調整(契約、約束)開発技術、技術体系の説明 メリット、デメリット対象:経営体(農家)、試験場、普及機関、JA、

土地改良区等必要な約束:生産物の取扱、損害への対応等

7.試験の実施試験時前の打ち合わせ:作業の分担、天候対応等

途中で問題が生じた場合の対応:

8.現場へのフィードバック(結果の報告)

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3.リスク管理

農業特有のリスク・周囲環境からの影響 気象など

・圃場条件からの影響 土壌肥沃度、病虫害など

現場実証試験特有のリスク・成果が得られないリスク 圃場条件、気象条件

・導入技術が生産者に及ぼすリスク導入技術による減収導入技術による病虫害等 (他圃場への影響)機械、施設等の破損

・その他のリスク作業中の事故、移動に伴う事故

考えられるリスクを事前に整理、対応を検討

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汎用型不耕起播種機

作業速度:1m/s2.6ha/1日

大豆播種に適する麦、水稲乾直も可能

松山㈱ NSV600

4.現場実証試験の実例

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図 大豆播種時期の日降水量の推移と大豆不耕起播種作業の状況(S経営事例)資料:2005年6月20日~7月31日における茨城県筑西市下館のアメダスデータ

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日降水量

(mm)

6月 7月

不耕起播種機購入不耕起播種作業実施日

耕起播種作業実施日

不耕起大豆の増収効果

0

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100

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200

250

300

タチナガハ 納豆小粒

収量

 (k

g/10a)

耕起 不耕起降雨直後でも作業可能な特性

実際に農家が播種した圃場の収量

大豆での成功事例

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事例 水稲-麦-大豆不耕起体系

水稲播種レーザーレベラによる圃場の均平

レベラによる均平作業を組み入れた水稲乾田直播小麦ー大豆 2年3作不耕起体系

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実証地の稲ー稲ー麦ー大豆3年4作体系の労働費、生産費

事例 水稲-麦-大豆不耕起体系

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2006.03.28

不耕起播種機条間30cm

ハローシーダ条間20cm

2006.03.28

不耕起播種機条間30cm

ハローシーダ条間20cm

不耕起栽培小麦の収量と穂数

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300

400

500

耕起 不耕起 耕起 不耕起

収量

(kg

/10a)

0

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200

300

400

500

穂数

(/m

2)

収量 穂数

11/21播種 12/7播種

小麦での低収

• 広い条間が晩播小麦の低収を引き起こす。

• 低地温が生育の遅れを引き起こす。

事例 水稲-麦-大豆不耕起体系

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表3 2008年 大豆不耕起播種機の苗立ちと収量

地区 土壌 品種 苗立ち数   収量 対照比

つくばみらい市 灰色低地土 タチナガハ 12.9 21.0 59坂東市 黒ボク土 納豆小粒 47.6 37.1 261大田原市 黒ボク土 タチナガハ 16.0 38.5 108足利市 灰色低地土 タチナガハ 20.9 21.0 88高畠市 エンレイ 18.3 21.9 96村山市 リュウホウ 16.6 30.0 158寒河江市 タチユタカ 21.5 32.6 136

表4 2009年 大豆不耕起播種栽培の苗立ち

地区 土壌 品種 苗立ち数 坪刈り収量全刈り収量

つくばみらい市 灰色低地土 タチナガハ 15.3 29.8坂東市 黒ボク土 納豆小粒 37.0 35.5 154

ハタユタカ 22.2 32.1 108藤岡町 黒ボク土 タチナガハ 21.3 37.2 34.0 113大田原 黒ボク土 タチナガハ 17.1 34.4 30.9 131佐野市 灰色低地土 タチナガハ 19.5 30.3 22.3 74.3足利市 灰色低地土 タチナガハ 20.6 46.2 36.0 120

事例 普及拡大を目指して(大豆)

排水不良の灰色低地土での低収

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2005年 筑西市現地 灰色低地土、黒泥土

水はけがよい圃場排水対策(明渠)有

枕地の苗立ち不良の状況 茎疫病の発生

排水不良圃場不適地

事例 普及拡大を目指して(大豆)

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23松尾ら 2011

黒泥土:低い排水性

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事例 普及拡大を目指して(大豆)

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 図2 不耕起コムギあと不耕起ダイズに対する基肥施用が

    本数(a)及び収量(b)に及ぼす影響(2007年 品種納豆小粒)

       エラーバーは95%信頼区間

(a)本  数

05

10152025

V1期 R2期 R8期

本/

基肥有 基肥無

(b)収量

0

10

20

30

基肥有 基肥無

kg/a

事例 普及拡大を目指して(大豆)