科学的な思考法igakan.cranky.jp/omc2019.pdf · 2019-06-13 ·...
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科学的な思考法 -考えることの重要性-
伊賀幹二
伊賀内科・循環器科
西宮市
伊賀内科・循環器科
医師になれば
• 患者や患者の家族に、論理的に説明して納得してもらうことが重要な仕事
• 国試の○×方式では、患者を納得させられない
– 試験に正解することは理解の程度として低い
– 他人に説明できるレベルの理解が必要
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伊賀内科・循環器科
そもそも講義に何を期待する
• 一方的 (?)な医学知識の伝授
– スプーンフィーデイング
– 正解は一つ
• その結果
– 講義を理解していますか?
– 試験は、記憶のみに頼っていませんか?
– 国家試験の予備校のような勉強は楽しいですか?
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AI医師に勝てない
本日のすこし変わった講義
• 考える習慣をはぐくみたい双方向性の講義 • 一つの問いに対しては、いくつもの答えがある
• 自分の意見を持つこと、発信することの必要性
– 人に説明できる根拠を持たねばならない
– 人前で自分の意見をいうのは恥ずかしいことではない
• 知識を得るのではなく、知恵をつける
–問題解決能力(考える、工夫する力) • 勉強方法や自己の理解の問題点に気づく
–学習のMotivationをあげる • 勉強が楽しいと思える(知識欲)
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伊賀内科・循環器科
本日の内容
• 批判的文献の読み方
• 目標、方法、評価を考える
– 特に自己評価の重要性
– PDCAサイクル(Plan,Do,Check,Action)
• 一般社会での精度
– 医学における、感度と特異度
• 危機管理(時間があれば)
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伊賀内科・循環器科
批判的文献の読み方
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伊賀内科・循環器科
日常生活におけるみなさんの判断
• すべて、比較を行っている
• 例えばこの講義の出席
– 出席点がもらえる
– 他にもっと重要なことがある
– いい情報がもらえる
–
–
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伊賀内科・循環器科
出席か欠席かの判断
論文の種類
• この薬剤が効果があった
– 他の薬剤または無治療との比較
• この検査が有用であった
– 新しい検査の有用性
– 他の検査との比較
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伊賀内科・循環器科
9
新聞報道などで
• 平均値の比較
– 野球チームの平均身長は176cm
– 日本の一人あたりの平均貯蓄は1300万円
伊賀内科・循環器科
10
新聞報道などで比較以外
• 2016年度 8000医療機関での不正請求
• 総合診療の必要性
• 新しい検査の精度が高い
• 開業医の年収平均2200万は多い?
– 所得500万のサラリーマンとの比較
伊賀内科・循環器科
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「批判的」ということは
• 2つの群を比較できる?
• 議論しているものの定義は同一?
• 提示データの再現性
論文の価値を評価できる
情報管理に必要
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新聞報道などで
• 野球チームの平均身長は176cm
• 日本の一人あたりの平均貯蓄は1300万円
• 開業医の年収平均2200万、会社員の所得500万
• 2016年度 8000医療機関での不正請求
• 総合診療の必要性
• 新しい検査の精度が高い
伊賀内科・循環器科
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•過去20年で肺ガンの治療成績(5年生存率)が向上した
ある論文で
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治療を比較することは妥当?
• 肺ガンの定義は一定か?
• 30年前の検査法と現在の検査法
– 有症状の人を胸部レントゲンで診断
– 無症状の人を、CTで肺ガン検出
伊賀内科・循環器科
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• PCIの死亡事故率がこの近くのA循環器病院の方大阪医大より低い(5%対2%)
• A病院には、名人がいる
A循環器内科病院の宣伝
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議論するデータ
• 骨密度
– いつとっても同じ
• 計測データ
– 別の人が計測
– 同じ人が別の日に計測
伊賀内科・循環器科
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コレステロール治療 • 5年で心筋梗塞を30%減少させる
– ヨーロッパのデータ
• あなたは50歳で、コレステロール300mg/dl
• 経済的にめぐまれる
• 薬の副作用はほとんどない
あなたが患者なら
治療を受けますか?
伊賀内科・循環器科
18
%
1
2
3
4
5
6
7
8
1 2 3 4 5
治療群
非治療
年 7%が5%へ
心筋梗塞発症率
伊賀内科・循環器科
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• コレステロールが300mg/dl以上の50才以上の男性
2000人を対象に5年間フォロー
• 治療群(1000人)では50人の心筋梗塞
• 非治療群(1000人)では70人の心筋梗塞
NNTは、1000/(70-50)=50人/5year
• この場合、心筋梗塞の罹患率は5年間で7%
• 相対危険減少率は30% • (70-50)/70=0.30
NNT(治療必要患者数)とは number needed to treat
伊賀内科・循環器科
20
%
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
1 2 3 4 5
治療群
非治療
年
伊賀内科・循環器科
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• もし、日本人の有病率を5年で2%と設定すれば
• 相対危険減少率は30%(同じ)
• NNT1000/(20-14)=170人/5year(異なる)
伊賀内科・循環器科
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別の言い方として
• 170人がこの薬服用で、5年間でひとり心筋梗塞が回避される
• 30%のリスク回避
伊賀内科・循環器科
この2つの文章は同じ?
どちらの説明でも薬服用?
重要なこと • 前提は何か?
–平均値(正規分布?)で比較可能?
• 2つのグループを比較可能?
–母集団は同じ?
• %表示とは(100%とは何?)
• 使用されていた言葉の定義は?
• 測定データの信ぴょう性
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伊賀内科・循環器科
みなさんが診療経験から発信
• この薬剤はXXに効果があった
– 過去形
• この薬剤はXXに効果がある
– 現在形
• 100例での検討
– 大多数が効いた(間違った一般化)
– 何%に効果があった
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伊賀内科・循環器科
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これから考慮して欲しいこと
•事実か想像か?
伊賀内科・循環器科
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伊賀内科・循環器科
2019/6/14 27
学童心臓検診から
目標・方法・評価を考える
2019/6/14
ニード
目標
方法
評価
結果
過去の分析
西宮市の心臓検診の実際
2019/6/14 29
2019/6/14 30
一次検診
• 学校での聴診とアンケート
–意識消失の有無
–40歳以下突然死の家族歴
• 心電図の判読
–右脚ブロックなら心エコー
2019/6/14 31
異常があれば二次検診
•診察、心音図、胸部レントゲン
–必要なら運動負荷心電図
2019/6/14 32
三次検診
•心エコー図検査
2019/6/14 33
実際は
•該当学校の協力姿勢も様々
–当事者意識がないこともあった •学生間違いをさける
• スムーズに検診する
• アンケートのサポート
•三次検診をどの医療機関でも行っていた
–エコーを備えておれば質は問わない
•各医療機関で分類の基準が一定ではない
–期外収縮に対して
2019/6/14 34
そもそも 心臓検診でどんな疾患を検出するのか
(できるのか)
• 心房中隔欠損症
• 心室中隔欠損症
• チアノーゼ性心疾患
– 学童まで見逃される可能性はある?
• 心筋症(肥大型または拡張型)
• カテコラミン依存性多形性心室頻拍症
• Long QT症候群
• 心室性期外収縮
• WPW症候群
この方法でそれは可能か?
2019/6/14 35
2019/6/14
36
心房中隔欠損症
• 古典的なものを見つける?
– 収縮期雑音、S2の固定分裂、不完全右脚ブロックがある
• 雑音なし、右脚ブロックなしであってもカラードプラエコーで初めて発見される例
– 欠損口が小さくともカテーテルで閉鎖する?
このシステムの問題は?
2019/6/14 37
• アンケートの記入の信憑性
• 一次聴診の医師の資質
• 二次検診の医師の資質
• 心エコーはどこで(誰が)とる
• 心電図は誰が読影する
• システムに対する評価は?
– 10年たてばシステムを評価必要
2019/6/14
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他の方法は?
• 聴診から心エコー検診にかえる
• どのような機種
• 誰が施行
• データの保管は
• 誰が最終判断(ビデオで?)
2019/6/14
ニード
目標
方法
評価
結果
過去の分析
2019/6/14 40
小児心臓検診の目的は
2019/6/14
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教育委員会の目標は?
2019/6/14
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実行する医師会の医師の目標は
2019/6/14
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現場の養護教員の意識は
• 教育委員会の仕事の下受け?
• 当事者意識が少ないと • 現場でのひと間違いをしないような工夫がない
• 問診での意識消失、突然死の家族歴が不明確
検診の目標を教員に理解・納得させる必要性
2019/6/14
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このことから
• 何かを始めるとき、目標(目的)、方法(手段)、評価を考える(加えて世間のニーズがあるかも) – 目標はその方法で実現性があるか?
• 目標では最終目標も考える – 最終目標から考えると、掲げた目標が方法のこともある
• 方法(手段)と目標(目的)を混同しないこと
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上位の目標
• 異なる目標であるがためのコンフリクト
• スプーンフィーデイングと本日の考える講義
– 上位の目標は「良医の養成」
伊賀内科・循環器科
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伊賀内科・循環器科
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応急診療所で
伊賀内科・循環器科
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医師にアンケート
• 症状が出現したのは
– 本日から、昨日から、2日前、それ以前
• 救急受診は妥当か
– 妥当、妥当でない
伊賀内科・循環器科
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この目標は
• 何であるのか?
• どうやって集計するのか
• 定義が異なるものを集計して意味があるか?
伊賀内科・循環器科
糖尿病の治療
• 血糖をさげる
– 1ヶ月前の血糖の平均値であるHbA1cをさげる
• 自己評価は?
– (食事量、運動量から)
• 今月の血糖を測定
– データ提示(他己評価)
• 良かった点、悪かった点を気づけるように
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伊賀内科・循環器科
学生の学習
• 同じです
• 自己評価できていますか?
– 試験は他己評価??
• できた原因と出来なかった原因の分析
– 反省ではなく振り返り
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伊賀内科・循環器科
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伊賀内科・循環器科
インフルエンザの検査キット
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伊賀内科・循環器科
検査の精度
• 検査が陽性の時、インフルである確率
• 検査が陰性の時、インフルでない確率
• インフルの患者さんの検査陽性率
• インフルでない人の検査陰性率
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伊賀内科・循環器科
インフルエンザキットの有用性
• キット陽性の時
– インフルエンザの可能性
• キット陰性の時
– インフルエンザでない可能性
インフルエンザのキットを開発
• キットの質をどのように判定できる?
– あなたが売り込むべきキットの業者であったなら
• インフルエンザであった人のキットでの正解率
– これ(表の検査)が高ければ質が高い?
• インフルエンザでなかった人のキットでの正解率
– この情報も必要である(裏の検査)
そもそもキットとは?
• インフルの人、インフルでない人に対してキットを用いると
• 集団を2つから4つのパターンに分類
– インフル+ 検査陽性(表)
– インフル+ 検査陰性(裏)
– インフル- 検査陽性(表)
– インフル- 検査陰性(裏)
• 表裏の確率が50%のコイントスで考えてみる
インフルエンザ患者
インフルエンザでない患者
この2つは外から見分けがつかない
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+
-
インフルエンザ患者 コイン表
インフルエンザ患者 コイン裏
インフルエンザでない患者 コイン表
インフルエンザでない患者 コイン裏 - -
+
59
+
-
+
-
+
-
+(コイン表)であったらインフルの可能性は?
+ + +
- - -
60
+
-
+ + +
- - -
+ +
- -
+(コイン表)であったらインフルの可能性は?
61
+
-
+
-
+
-
+
-
+
-
+ +
- -
+(コイン表)であったらインフルの可能性は?
62
答えはだせない
患者と非患者の割合の情報が必要
検査前確率とは
• インフルエンザでは
– 周りでインフルが流行っているか
• 学校、家族
– 発熱、悪寒、関節痛があるか?
• 病歴と診察から検査前確率を推定
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伊賀内科・循環器科
業者が提出できるデータ
• インフルエンザ患者でのキット陽性率
–感度
• 非インフルエンザ患者でのキット陰性率
–特異度
一般人には、表の検査と裏の検査
新聞で用いられる精度のうち
• 検査陽性の患者のインフルエンザの率
• 検査陰性の患者のインフルエンザでない率
検査前確率がないと提出不可
医療界のその他の用語として
• 事前確率(検査前確率または有病率)
• キット陽性の時、インフルエンザである確率を陽性的中率という
• インフルエンザであるとの判断
– PCRにより標準化
– これをGold standard(基準)という
PCR陽性を基準にする
• どんな患者にPCR検査する
• 選択バイアスの排除は難しい
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インフルエンザに対する簡易キットの 感度・特異度
• 感度60%、特異度90%と仮定
69
70
疾患あり 疾患なし
合計100人
検査陽性
検査陰性 40
60
合計100人
90
10
検査前確率50%、陽性的中率は60/70
2019/6/14 70
71
疾患あり 疾患なし
合計10000人
検査陽性
検査陰性 4000
6000
合計100人
90
10
検査前確率99% 陰性的中率は90/4090
2019/6/14 71
72
疾患あり 疾患なし
合計100人
検査陽性
検査陰性 40
60
合計100000人
90000
10000
検査前確率0.1% 陽性的中率は60/10060
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キットによるインフルエンザの診断
• 学級閉鎖のクラスから
• 健康な野球チームの集団
伊賀内科・循環器科
感度・特異度の高いものを使っても
• 検査前確率が高ければ陰性的中率は低い
– きわめて流行っている時に検査が陰性
– 心筋梗塞など病歴できわめて疑わしい時
• 検査前確率が低ければ陽性的中率は低い
– 全く流行っていないときに検査が陽性
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新聞における4つの精度
• 疾患患者で正しく検査陽性の率
– 感度
• 疾患(-)患者で正しく検査陰性の率
– 特異度
• 検査陽性患者の疾患の率
– 陽性的中率
• 検査陰性患者の疾患でない率
– 陰性的中率
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感度・特異度
感度:TP/(TP+FN) 特異度:TN/(FP+TN)
TP: true positive
FN: false negative
検査前確率(有病率):(TP+FN)/(TP+FP+FN+TN)
陽性的中率:TP/(TP+FP) 陰性的中率:TN/(FN+TN)
疾患(+) 疾患(-)
検査(+)
検査(-)
TP
FN
FP
TN
伊賀内科・循環器科
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伊賀内科・循環器科
78
病院での危機管理
伊賀内科・循環器科
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ある事例
•本態性振戦の80才の一人住まい女性。5年前よりアルマール(5)2Tを服用。
•今回外来で処方うけて2日目に家で昏睡になっているのを娘が訪ねてきて発見した。
•血糖は30mg/dlであり、救急処置がなされて回復した。調べてみると服用されたのはアマリール(1)であった。
伊賀内科・循環器科
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患者の口に入るまで
• 医師の処方ミス
• 事務員によるチェック
• 薬剤師によるチェック
• 本人によるチェック
スイスチーズ理論
伊賀内科・循環器科
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薬局での原因の検索
• 病院では間違いがないように、一人の薬剤師が薬を袋に入れて、もう一人の薬剤師が確認作業をしているという
• 薬局でのこのダブルチェックをすり抜けていた
伊賀内科・循環器科
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改善案として
• 薬局は三重チェックをすることを考えた
伊賀内科・循環器科
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危機管理の前提は
伊賀内科・循環器科
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To err is human
伊賀内科・循環器科
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• 誤診(失敗例)から何を学ぶか
– これらを少なくするのが目的
• 管理職の仕事??
• 医師は研修医も管理者
失敗例
30件の小さなミス
300件のニアミス
ハインリッヒの法則
危機管理
伊賀内科・循環器科
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ヒアリハット報告の目的
同じ間違いを共有する
システムで問題は無かったかを議論する
その結果、システムを変えた方がよいと判
断すれば、システムをかえる
個人を批判するためではない
伊賀内科・循環器科
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情報の分析
薬剤師は、患者の病名を知っているか
間違いやすい商品名はないか?
確認(ダブルチェック)はどうしているか
(間違うくらい)仕事が忙しすぎないか
患者への薬の説明はどうしていたか
伊賀内科・循環器科
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アマリール(5) Arotinolol α-β-遮断薬
アマリール(1) glimepiride SU剤
伊賀内科・循環器科
この危機管理の目的は?
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•医療事故を減らすこと
伊賀内科・循環器科
どうやって事故を減らせる?
•その方法をどう評価するか?
–方法の妥当性
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伊賀内科・循環器科
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やったことの評価はどうする?
• すべての行動に、目標、方法、評価が存在
伊賀内科・循環器科
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伊賀内科・循環器科
本日の話で学生さんに
• 考えることの楽しさと重要性
• 受け身の勉強と自主的勉強の違い
• 強制され勉強したことと、必要であると自覚して勉強したことは成果が大きく違う
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伊賀内科・循環器科
そして国家試験に合格することは
• 皆様のほんとうの目標ではない
• いい医者になり、社会に還元するための方法である
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医師であり続けるためには、一生勉強である
伊賀内科・循環器科
本日の講義で
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(記憶するのではなく) 考えることの楽しさを体感できましたか?
3年後、希望されれば当方でこのような
2週間の実習が受けられます