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- 44 - 研究主題 地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学 ~活動を充実させる教科との関連の工夫を通して~ 久留米市立山川小学校 教諭 河野 慎一郎

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研究主題

地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学~活動を充実させる教科との関連の工夫を通して~

久留米市立山川小学校 教諭 河野 慎一郎

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要 旨

学習指導要領「総合的な学習の時間」編では,総合的な学習の時間において「協同」「探究」

ということが重要視されている。また,久留米市でも,学力向上の一つの政策としてくるめ学

が重要視された。このことから,総合的な学習の時間での取り組みが学力の向上を大きく意識

していることがわかる。しかし,わたしの今までの総合的な学習の時間の実践では,認識面を

どれだけ育てることができたのだろうかという反省が大きい。その点から,総合的な学習の時

間でも重視されている教科との関連を図り,子どもが他者との協同や探究的な学習を効果的に

行うこ

とができるようにしたいと考え,次の主題を設定した。

地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学

~活動を充実させる教科との関連の工夫を通して~

教科の内容を総合的な学習の時間の中に子どもが関連させることがで

きるように,次の3つの手立てをとった。

○ 地域との協同を図る教材化の工夫

○ 教科との関連を意図的に仕組む活動の工夫

○ 子どもの学習意欲を高めるための評価の工夫

これらをふまえて本論では,第六学年単元『「キラリ☆久留米」大作戦』を実践事例として

述べている。

本研究の成果として,他教科の学びを総合的な学習の時間の中に子どもが活用することがで

きた,という子どもが九割以上できたこと,さらには,地域との協同した活動を行ったことで,

子どもだけでなく子どもと協同した他者にも学習の満足感が高かったことがあげられる。ただ

し,課題としては,他者による評価を重視しすぎたあまり,子ども同士による評価による学習

の深まりが見られなかったことがでてきた。

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研究主題

地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学

~活動を充実させる教科との関連の工夫を通して~

-目次-

1 主題設定の理由 45

(1) 総合的な学習の時間の目標から 45

(2) 第2期久留米市教育改革プランから 45

(3) 今までの授業の反省から 46

2 主題の意味 46

(1) 「地域と協同して」とは 46

(2) 「探究を深める」とは 47

(3) 「地域と協同して探究を深める子ども」がもつ資質・能力 47

(4) 「地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学」とは 47

3 副主題の意味 48

(1) 「教科との関連」とは 48

(2) 「活動を充実させる教科との関連の工夫を通して」とは 48

4 研究の目標 49

5 研究の仮説 49

6 研究の具体的構想 50

(1) 地域との協同を図る教材化の工夫 50

(2) 教科との関連を意図的に仕組む活動の工夫 50

(3) 子どもの学習意欲を高めるための評価の工夫 51

7 研究構想図 51

8 研究の実際(実践例 第六学年単元 「キラリ☆久留米」大作戦) 52

(1) 地域との協同を図る教材化の工夫 52

(2) 教科との関連を意図的に仕組む活動の工夫 52

(3) 子どもの学習意欲を高めるための評価の工夫 53

(4) 本単元の目標 53

(5) 単元計画 53

《指導の実際と考察》 54

9 成果と課題 57

(1) 成果 57

(2) 課題 58

※ 参考文献 58

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1 主題設定の理由

(1) 総合的な学習の時間の目標から

学習指導要領「総合的な学習の時間」編に総合的な学習の時間の改訂の要点の中に,今回

の目標についての改善点を次の様にあげている。

(前略)この目標は,従前から示されていたねらいの(1)(2)を踏まえながら,これまでも大切にしてきた「探究的な学習」を行うことや,「協同的」に取り組む態度を育てる

ことなどを明らかに構成した。 (学習指導要領「総合的な学習の時間編 P7)

つまり,総合的な学習の時間において最も大切に考えておかなければならないことは,「探

究的な学習」「協同的な学習」の二つであることであると述べている。そのような改訂の趣

訂の趣旨に沿って考えられた目標の中にも次の様に述べてある。

横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考

え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方

やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組

む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにする。

(学習指導要領「総合的な学習の時間編 P7)

上記の目標の波線部分からわかるとおり,「探究」や「協同」は目標の中にも明記されて

おり,今回の総合的な学習の時間において最も重要視しないといけないことがわかる。

以上のことから,地域の人とともに問題を解決するために協同すること,自ら学習を進め

ていくために探究活動を行い,総合的な学習の時間の内容に迫り自己の生き方を見いだそう

とする子どもを育てようとする本実践は意義深い。

(2) 第2期久留米市教育改革プランから

第2期久留米市教育改革プランの目的は,「未来を担う人間力を身に付けた子どもの育成」

である。この中で,人間力とは「自立した一人の人間として力強く生きていくとともに,社

会の一員として役割を果たすことができる総合的な力」と定義されている。つまり,「確か

な学力」「健康・体力」「豊かな人間性」といった生きる力を更に発展させたものとして人

間力をあげているのである。

その中でも特に,第2期は「確かな学力」を充実させようとする傾向があると考えられる。

なぜなら,第1期では地域愛を育むための方策としてあげられていた「くるめ学」を,確か

な学力の育成の一つの柱としてあげているからである。

○身に付けた知識・技能の活用や,「くるめ学」をはじめとする総合的な学習の時間で

の探究的な学習活動で,思考力・判断力・表現力等を育成する。

(「笑顔で学ぶくるめっ子」に向かって 第2期久留米市教育改革プラン P45)

④「くるめ学の充実」

(前略)また,身近なものを材料にして探究的な学習を行うことで,学習意欲の喚起

や様々な知識を複合的に活用する能力の育成を目指しています。

(「笑顔で学ぶくるめっ子」に向かって 第2期久留米市教育改革プラン P46)

上記の引用から,「くるめ学」は地域愛を目指すものだけでなく,更に今まで学んだ学

習を総合的に生かし,学力を向上するための一つの方策としての面が非常に強くなっている

と考えられる。

よって,地域の人と協同で地域の問題の解決に向けて,今まで学んだ学習内容を総動員し

ながら,探究活動を深めていこうとする本実践は第2期教育改革プランの充実からも意義深

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いものであると言える。

(3) 今までの授業の反省から

今までの自分が行ってきた総合的な学習の時間の授業において,最も大切にしていたもの

は「地域のひと・もの・こと」に対する愛着といった,子どもの感性を育てることであった。

それで,地域の素材を教材化する,地域の人たちと触れ合っていく,地域のことについて考

えを作っていくといった授業は行ってはきた。しかし,その授業の中で,子どもが何を身に

付けたのか,何がわかればよかったのかという認識面について考える事は少なかった。また,

地域の人とのコミュニケーションをとる際に,インタビューをすることだけを考え,どのよ

うにすればいいのかといった教科での学びをどのように生かせばいいのか,ということを考

えながら授業を設計したこともあまりなかった。

そのため,授業を行ってはいるものの,子どもが「今日は○○がわかった。」という認識

面について満足したり,「これには,この学習で学んだ事を生かせばいい。」といった子ど

も自ら教科の学びを生かしていこうとする姿は見られなかった。更に,普段の授業において

も「何に使えそうか。」という視点で考えることもなかった。

そこで,地域の人と協同して問題を解決することを円滑に進めることができるように,各

教科の内容を生かしながら,探究を深めていくような学習を進めていこうとする子どもを育

てていく。ここに,本実践の意義がある。

2 主題の意味

(1)「地域と協同して」とは

ここでいう地域とは,「久留米市のひと・もの・こと」のことを指している。しかも,協

同する対象というのは「久留米市の人」のことであり,自分たちの住んでいる久留米市で様

々な取り組みを行っている人のことである。

そこで,「地域と協同」するために必要な条件は資料1のように次の3点である。

1つ目は,地域の人たちと活動の目的を共有化する

ことである。地域の中では様々な課題を解決しようと

するために,様々な取り組みがなされてある。そこで,

子どもも一緒にその課題の解決を目指していこうとい

う目的を共有化することが大切である。

2つ目は,立場に応じた役割の設定である。課題解

決に向けての目標を共有化しても,子どもに大人と同

じようなことをさせることは無理がある。しかし,大

人には大人としての役割を,子どもには子どもにしか 資料1 「地域と協同して」とは

できない役割を作り出すことによって,一緒に課題解決に向けた取り組みができる。

3つ目は,コミュニケーションを繰り返し図ることである。1度だけの交流では,一緒に

行っていこうという相手意識が強まることがなく,子どもにしてみれば「やらされた」とい

う思いが強くなると考えられる。そこで,相手とのコミュニケーションを多くとることでそ

れぞれの活動について知り,課題達成に向けて取り組んでいく必要性を感じてくるのである。

よって,「地域と協同して」を次の様に定義する。

「地域と協同して」とは,目的の共有化,役割の設定,コミュニケーションの継続の

3つをふまえ,地域の人と問題解決に向けて活動していくことである。

目 的 の 共 有 化

解決

解決

役割 役割コミュニケーション

の繰り返し

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(2)「探究を深める」とは

「探究」とは,問題解決を繰り返す中で物事の本質

を見極めようとする一連の営みのことである。その探

究の活動に最も大切になってくるのは,資料2のよう

に子どもが「何を解決しようとするのか」「何のため

に解決しようとするのか」という目的意識である。地

域に存在する課題を解決することを自分たちの目的し

なければ,「やらされた学習」となり,探究していく 資料2 「探究を深める」とは

ことにはつながらない。つまり,「探究を深める」ということを次の様に定義する。

「探究を深める」とは,明確となった目的意識を強くもち,子どもが,物事の本質を

見極めようと問題解決を連続発展的に行うことである。

(3)「地域と協同して探究を深める子ども」がもつ資質・能力

「地域と協同して探究を深める子ども」とは次のような子どものことである。

「地域と協同して探究を深める子ども」とは,地域に存在する課題の解決に向かって

地域の人たちと目的を共有し,コミュニケーションを図りながら役割遂行のために問題

解決を連続発展的に行い,これからの生き方を見いだす子どものことである。

地域の人との協同で課題解決を図っていくためにコミュニケーションを繰り返すことを通

して,子どもは他者へのコミュニケーション能力が高まっていく。また,役割を遂行するた

めに,自分の問題を解決しようとするために問題解決能力を高めていく。さらには,地域の

人の生き方や自分の行った活動を振り返ることによって,今後に自分がどのように生きてい

こうとするのか,自己決定能力が育っていく。そこで,「地域と協同して探究を深める子ど

も」のもつ資質・能力を次の様に設定する。

コミュニケーショ ・他者に対する相手意識を持ち,相手との円滑なかかわりを作り出

ン能力 すことができる能力

問題解決能力 ・自分の役割を遂行するために,自分の問題を明確にもちそれを解

決するために様々な学習方法や内容を生かしていく能力

自己決定能力 ・今までの学習や他者とのかかわりを振り返り,今後自分がどのよ

うにしていこうとするのか決定する能力

資料3は,子どもの高まる資質能

力を位置づけたものである。これら

の能力は,探究のサイクルに応じて

て資料3のように高まっていく。

特に,自己決定能力については,

コミュニケーション能力と問題解決

能力の高まりに応じて,学習の最後

の段階で高まっていくと考える。 資料3 子どもの資質・能力の高まり

(4)「地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学」とは

第2期久留米市教育改革プランにくるめ学について次の様に書かれている。

「くるめ学」は,久留米の自然や文化,歴史を築いてきた先人や久留米に生きる人々

を学ぶことによって,子どもがふるさと久留米を郷土として親しみや誇りを持ち,地域

づくりへかかわろうとする動機付けを図るための学習活動です。

目的意識

情報の収集

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

整理・分析

まとめ・表現

目的意識

目的意識

生き方

目的意識

情報の収集

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

課題の設定

整理・分析

まとめ・表現目的意識

目的意識

生き方

コミュニケーション能力

問題解決能力

自己決定能力

コミュニケーション能力

問題解決能力

自己決定能力

コミュニケーション能力

問題解決能力

自己決定能力

コミュニケーション能力

問題解決能力

自己決定能力

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(「笑顔で学ぶくるめっ子」に向かって 第2期久留米市教育改革プラン P46)

つまり,子どもが自ら久留米のひと・もの・ことに積極的にかかわっていくことを通して,

郷土愛を育て,地域作りの一翼を担っていこうとする心情を育てようとするものである。た

だし,第2期においては学力充実の面にくるめ学が位置づけられているため,地域愛を育て

さらに学力を身に付けさせるために重要視されている。

そこで,「地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学」を次の様に定義する。

「地域と協同して探究を深める子どもを育てるくるめ学」とは,久留米に存在する課

題の解決に向かって久留米の人たちと目的を共有し,コミュニケーションを図りながら

久留米のために子ども自ら問題解決を連続発展的に行い,子どもが久留米の地域作りの

ために関わっていこうとする生き方を見いださせる学習のことである。

特に,本研究では総合的な学習の時間においてくるめ学を位置づけ実践を行っている。

3 副主題の意味

(1)「教科との関連」とは

「教科との関連」を次の様に定義する。

「教科との関連」とは,地域の人とのコミュニケーションや自己の問題解決を円滑に

進めることができるように,他教科・領域で学んだ内容を総合的な学習の時間に生かし

て学習を進めることである。

総合的な学習の時間では,他教科・領域で学習した内容が生かされて子どもの問題解決

を進めることが求められている。そのため,学習指導要領にも,次の様に述べられている。

各教科,道徳,外国語活動及び特別活動で身に付けた知識や技能を相互に関連付け,

学習や生活に生かし,それらが総合的に働くようにすること

(学習指導要領「総合的な学習の時間編 P28)

そのため,総合的な学習の時間では,資料4のように年間計画において,各教科との関

連的な指導ができるようにすることが求められている。さらには,総合的な学習の時間に

おいて,学習の質的な高まりや段階的な積み上げ,経験や興味,活動の変化,思考や認識

の発達に応じた適切な内容が位置づけられているのか確認するためにも,教師が各教科で

学んだ内容を把握しておかねばならない。下の資料4は,本実践に関する年間指導計画に

おいて他教科・領域にとの関連を位置づけたものである。

資料4 各教科との関連が位置付いたカリキュラム

(2)「活動を充実させる教科との関連の工夫を通して」とは

「活動を充実させる教科との関連の工夫」とは,各教科の内容を整理し,それらがど

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のように総合的な学習の時間の中でいかすことができるか,課題発見・情報収集・整理

・分析・まとめ・表現に位置づけておくことである。

先ず教師が,各教科・領域で学んだ学習内容や学習方法を把握することが,各教科・領

域と総合的な学習の時間を関連させることにつながる。そこで下記のように,総合的な学

習の時間で活用できる他教科の学習内容をあらい出してみた。

教科・領域 関連させることができる学習方法 教科・領域 関連させることができる学習方法

国語科 ・報告文・説明文・意見文・依頼 図画工作科 ・造形に関する技能

状といった文章の書き方 ・作品の鑑賞に関する技能

・報告・意見・討論・説明・助言 音楽科 ・器楽・歌唱・音楽作りに関する

・提案・推薦といったプレゼンテ 様々な音楽的技法

ーション 体育科 ・体を使った表現技法

・記録・報告文・事典・解説文の 家庭科 ・手縫い・ミシン縫いなどの衣に

利用 関する技能

算数科 ・数の見方 ・包丁・炒める・炊くなどの食に

・量や測定の仕方 関する技能

・グラフでの統計処理 ・金銭・品物選びなどの消費生活

社会科 ・様々な資料からの事象の読み取 で必要な技能

り方 外国語科 ・外国語(主に英語)を用いたコ

・地図や年表の書き方 ミュニケーション

理 科 ・比較・因果・条件制御の科学的 学級活動 ・話し合いにおける折り合いの付

な見方 け方

・様々な実験・観察技能 ・相手の意見の生かし方

それを,どのように関連させることができるのか,課題設定,情報収集,整理・分析,

まとめ・表現の段階に下記のように位置づける。

このように考える事で,どの教科の内容をどのように関連させることができるのか,総

合的な学習の時間の単元計画の際に生かされていくのである。

4 研究の目標

自ら地域と協同し,探究を深めることを通して生き方を見いだす子どもを育てるた

めに,他者との協同や自分の問題解決を円滑に進めることができる各教科との関連の

あり方を究明する。

5 研究の仮説

くるめ学において,次の3つの工夫を行いながら,各教科・領域で学んだ内容を関

連させる学習活動を仕組むことで,自ら地域と協同し,探究を深め生き方を見いだす

子どもが育つであろう。

課題設定 情報収集 整理・分析 まとめ・表現

・数の見方・資料からの事象の読み取り

・記録・報告文・事典・解説文の利用

・量や測定の仕方・様々な資料の読み取り・様々な実験・観察技能・衣・食・消費生活に関する技能

・外国語を用いたコミュニケーション

・報告・意見・討論・説明・助言・推薦といったプレゼンテーション

・グラフでの統計処理・地図や年表の書き方・比較・因果・条件制御の科学的見方

・話し合いにおける折り合いの付け方

・相手の意見の生かし方

・報告・意見・討論・説明・助言・推薦といったプレゼンテーション・報告文・説明文・意見文・依頼状といった文章の書き方・造形や音楽に関する技法

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(1) 地域との協同を図る教材化の工夫

(2) 教科との関連を意図的に仕組む活動の工夫

(3) 子どもの学習意欲を高めるための評価の工夫

6 研究の具体的構想

(1) 地域との協同を図る教材化の工夫

教材の開発・選定にあたっては,「本質性」「課題性」「多様性」の3点から吟味する。

その視点は次の通りである。

本質性 ・単元のねらいを達成することができ,子ども達が久留米のために今後ど

のようなかかわりを持つことができるかという生き方を見いだすことが

できるもの

課題性 ・久留米が抱える問題において,子ども達なりの解決方法を見いだすこと

ができやすいもの

多様性 ・子どもが多様な調査や活動を行うことができ,それらを通して個々それ

ぞれに多様な考えを作り出すことができるもの

本質性とは,総合的な学習の時間の最終的な目標である「生き方」を子どもがそれぞれ

見いだすことが可能なのか,ということが大切となる。

課題性に関しては,久留米市が抱えている様々な問題の中において,解決を求められて

いるものであり,その解決に向けて取り組んでいる人がいること,そしてその人物と一緒

に問題解決に向けて取り組む事ができることが大切となる。つまり,地域と協同すること

ができるためには,この課題性が重要で,これが子どもにとって切実になればなるほど子

どもの活動は活発になってくると考えられる。

(2) 教科との関連を意図的に仕組む活動の工夫

教科との関連を子どもが積極的に行っていこうとするために,学習の内容や方法につい

て次の2つ視点から考え,総合的な学習の時間の学習活動を意図的に他教科と関連するよ

うにする。

○ 「学習の類似性」について

他教科の学習内容について考えた際(例えば,社会の地図,算数のグラフといった内容),

どのように活用することができるのか,どのような内容を取り入れる事によって,子ども

の学習活動が旺盛になるのか考えていく。例えば,数値的な情報を集めた場合,グラフに

よる統計処理の活用が最も有効であることや,まとめ・表現では意見文がいいのか,推薦

文がいいのか教師側が先ず分析し,それが意図的に子どもが使おうとするように仕組むの

である。

○ 「学習の時期性」について

総合的な学習の時間の単元と平行して行っている各教科・領域の内容を生かして発展的

に取り入れていこうというものである。例えば,総合的な学習の時間の単元と同時期の国

語の授業で学んだ発表の仕方を生かして他者に発信していくといったものである。そのよ

うな学習内容をいつ学んだのか,と考える事によって,総合的な学習の時間で意図的に子

どもが他教科・領域の内容を関連させていこうとするのである。

さらに他教科・領域の内容を関連させるために,「見通し」「振り返り」の段階を重要

視する。そこで,必ず何を関連させるのか,そして振りかえりの段階でそれができたか意

識させるのである。

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(3) 子どもの学習意欲を高めるための評価の工夫

子どもの活動を更に充実させるために,評価活動を重視する。発表内容が伝わりやすか

ったのか,追究した内容がよかったのか等の評価について,一緒に協同している地域の人

に行ってもらうようにする。つまり,専門家からの意見を聞くことによって,子どもが自

分たちの活動を振り返り,更に良いものにしていこうとする意欲を喚起させていくのであ

る。この評価活動を,探究のサイクルの中でも特に,整理・分析の活動に入れて子どもの

学習内容について下記の様に,子ども,専門家両方から評価をするように仕組む。

探究のサイクル

課題発見→ 情報収集→ 整理・分析(他者評価)→ 課題発見→ 情報収集→

7 研究構想図

地域と協同して探究を深める子ども

学習指導要解説書 久留米市第Ⅱ期教育改革プラン 今までの授業の反省・他者との協同する価値 ・学力向上としての柱 ・久留米に対する認識不足・様々な他者とのかかわり

・地域の人による他者評価

・評価の観点の明確化

・地域の人による他者評価

・評価の観点の明確化

教 材 化 の 工 夫くるめの人・もの・こと→本質性・課題性・多様性

・数の見方・資料の読み取り

・量や測定・資料の読み取り

・取材方法等

・プレゼン能力

・統計処理・地図表記等

・プレゼンの仕方

・文章のまとめ

まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

情報情報収集収集

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

情報情報収集収集

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

情報情報収集収集

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

情報情報収集収集まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

情報情報収集収集

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

情報情報収集収集

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

情報情報収集収集まとめ・表現まとめ・表現

整理・分析整理・分析

課 題 の 設 定課 題 の 設 定

情報情報収集収集

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

コミュニケーション能力

問題解決能力 自己決定能力

地域との協同

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8 研究の実際(実践例 第六学年単元 「キラリ☆久留米」大作戦」

(1) 地域との協同を図る教材化の工夫

本単元の教材は「久留米の観光客を集めるために,大阪・鹿児島・韓国の人たちに適し

た久留米の観光マップ作り」である。

その教材選定の理由は下記の視点の通りである。

本質性 ・今まで自分たちが知らなかった久留米のひと・もの・ことの魅力を再発

見することができ,久留米が他地域に劣らない魅力ある市であることを

とらえ,今後も久留米を発展させようと自分の生き方を見いだすことが

できる

課題性 ・新幹線開通にともなう久留米が観光客を集客するという問題において,

子ども達なりにターゲットとなった地域ごとに,観光ルートを作成する

ことができる

多様性 ・子どもがインターネットや電話取材,図書資料といった多様な調査や活

動を行うことができ,それらを通して個々それぞれに多様な観光ルート

を作り出すことができるもの

この教材において,学習対象と学習事項については下記の通りである。特に学習事項に

関しては「わかる」「感じる」「できる」の3点から考え,本単元の学習内容を決定する。

学 習 対 象 学 習 事 項

○市外・県外から ・久留米市が誇る「ひと・もの・こと」やそれらを観光として久

見た久留米の魅 留米のよさを広めるる観光課の人の生き方 (わかる)

力(ひと・もの ・久留米の魅力や自分もその魅力を伝えて久留米をよくしていき

・こと) たいという思い,故郷への愛着 (感じる)

・久留米市観光課の職員と目的を共有化して,それぞれに役割分

担を意識した県外への発信 (できる)

また,本単元において,地域と協同する他者を久留米市役所観光課の人として本単元を

進めていく。

(2) 教科との関連を意図的に仕組む活動の工夫

他教科との関連について下記の内容を設定していく。

課題設定 情報収集 整理・分析 まとめ・表現

・数の見方 ・インタビューの仕 ・推薦の仕方 ・推薦文の述べ方

・資料からの事象 方 ・パンフレットの作

の読み取り ・資料収集の仕方 成の仕方

・取材の仕方 ・地図の縮尺(縮図)

・割合の考え方

資料5は,本単元第6学年「キラリ☆久留米」大作戦で,

子ども達が観光客に久留米のポイントをアピールするため

に,整理・分析の段階で用いるルートマップである。丸で

囲んでいる部分は,JR久留米駅から山川小学校までの距

離と時間を示している。そのことによって,算数科の「割

合」や「比」で学んだことをいかして,ポイントからポイ

ントまでの距離にかかるおよその時間を子ども自らが求め

ていくことができるようにする。 資料5 観光ルートマップ

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(3) 子どもの学習意欲を高めるための評価の工夫

本単元で協同していく人物は,久留米市役所観光課の方である。この人物と一緒に,新

幹線開通にともなう観光客の集客数を上げるために,「キラリ☆久留米」ブランド化計画

を協同で行うようにしていく。そこで,子どもの作り上げた観光ルートについて一回目の

探究のサイクルと二回目の探究のサイクルにおいて,下記の視点から整理・分析の活動で

評価してもらうようにする。

探究のサイクル1の評価の視点 探究のサイクル2の評価の視点

・久留米の魅力が伝わるか ・久留米の魅力が伝わるか

・時期的に合うか ・時期的に合うか ・時間内に回れるか

・時間内に回れるか ・ターゲットとした地域の人が旅行に求め

ているものか

(4) 本単元の目標

1.久留米の「ひと・もの・こと」についてインタビューや資料を用いて調査したり,

作成した久留米の観光ルートマップについて友達や GT と観点にそって交流したりすることができる。

2.久留米市のすばらしさを他市の人にも伝えたいという久留米市観光課の人の思いを

とらえたり,その人の思いに共感して役割を分担し企画会議を進めたりしながら交

流する事ができる。

3.自然・食・芸術・体験という久留米市の魅力をとらえ,久留米市が自分にとって他

市に誇れるものであり,これから多くの人たちに伝えて行こうとする生き方を見い

だすことができる。

(5) 単元計画

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《指導の実際と考察》

○ つかむ段階(2時間+課外)

まず,単元に入る前に,クラスでアンケートをとっておいた。そのアンケートでは,新幹線を多く

の人が利用し,久留米市にも多くの人が観光で来ていると思っていた。そこで,久留米市の主な施設

の新幹線開通後の利用状況を調べた。中には,前年度より2倍以上に増えている施設もあり,多くの

人たちが久留米に観光に来ていると考えた。

次の時間に,新幹線久留米駅の利用状況を他の九州新幹線の駅

と比較させた。久留米市は,目標とする利用人数を2700人と

設定しており,目標達成率も100パーセントだった。そのこと

に子どもは「おー。」という歓声を上げた。その後,資料6の各

駅の利用客状況で他の駅と比較していくと,特に鹿児島・熊本・

博多とは大きく利用客数が違うことをとらえ,「え~,全然違う

やん。」と言い出した。その資料と,九州新幹線の各駅を載せた

地図をつなぎ合わせて考えさせると,子ども達は「久留米市はス

ルーされているんだ。」「久留米市にはあんまり人がおりていない 資料6 新幹線各駅の利用状況

んだ。」「このままでは,久留米市には人が来なくなるんじゃないか。」といった否定的な意見が多く

出された。教師からも「このまま久留米市に誰も来なくなっていいのかな。」と聞くと,危機感を感

じた子ども達は当然のように,「これじゃいけない。」と力強く答

えた。そこで,どんな方法でと尋ねたが子ども達には難しかった

ので,教師から「実際に久留米市をどうにかしたい,と思ってい

る人がいるけど話を聞いてみたいですか。」と尋ねた。ここでも

「聞きたい。」と子ども達が力強く答えたので,久留米市観光課

の方の話を聞かせた。久留米市の観光課の方から,「私たちも久

留米市がこのままでいいとは思っていません。だから,いろいろ

な方法で久留米市に人が来てもらえるように取り組んでいます。 写真1 観光課の方の話を聞く様子

みなさんも,一緒にしていただくことはできませんか。」と話していただいた。子ども達は,その話

を聞いた時,写真1のように大きく目を開き,「もちろん。」と観光課の方に返事をした。そこで,「久

留米市に新幹線に乗って観光客に来てもらえるように作戦を考え,久留米をもっと元気にしよう。」

と学習のめあてを立てた。

〈考察〉

つかむ段階で,久留米市に新幹線が開通したことで「きっ

と,いろいろな場所から久留米市に人が来ている。」と最初

に子どもに考えさせ,実はその逆で久留米市は鹿児島・博多

などの大きな駅に比べると人が集まっていない,というズレ

を生じさせるような導入を行ったことで,資料7のように子

ども達は,このままでは久留米に人が来ないという危機感を

持って,学習のめあてを作ることができた。よって,子ども 資料7 子どものノート

達の認識と現実のズレを生じさせるような新幹線の見学,久留米市と他の都市の新幹線利

用状況や都市ブランド化計画の話は探究活動に入るに当たり有効であったと言える。

○ さぐる段階(8時間)

※ 観光ルート作成や相手に伝えるために,関連できる他教科・領域の内容

国語・・・推薦の仕方(5年生) ・パンフレットの作成の仕方

算数・・・地図の縮尺(縮図) ・割合の考え方(比べる量・基にする量・割合の関係)

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まず,久留米市にもっと人を集めるために,誰をターゲットにするのか,どんな方法で

伝えるのか,の2点について考えていった。久留米市がターゲットにしているのが韓国・

中国と行ったアジア,大阪などの関西,熊本・鹿児島と行った南九州であることを伝え,

どの都市にターゲットをしぼるのか,それぞれの地域の資料で調べていった。すると,在

住する人数で「大阪」,福岡に旅行に来る人数から「韓国」,新幹線を利用するメリット

の大きい「鹿児島」の3つにしぼられた。更に,どのような方法で知らせるかと考えると,

観光ルートのマップが一番便利ではないか,という意見が子どもから出され,その意見に

集約されていった。さらには,久留米市のホテル・旅館の部屋数から,宿泊では無理があ

るので,日帰りプランを立てるということになった。

次の時間からさっそく調査が始まり,インターネットや図

書資料,それでもわからないその店のよさやおすすめなどは

電話を使ってインタビューしていきながら調べていった。子

どもは,自分たちが知らない久留米の魅力的な物やことを見

つけるたびに,「これいいんじゃない。」「こんな場所がある

よ。」といった声をあげ,多くの久留米市の魅力的なひと・

もの・ことを見つけていった。 写真2 整理の様子

その後,写真2のようにターゲットごとのグループで集めた情報をルートマップとして

整理していった。その際に,久留米市のどの位置にどれくらいの時間でいくことができる

のか,という観点を伝え,今まで学んだどんな学習内容が使えそうか考えた。そうすると,

子ども達は今までの学習内容を考えたり,教科書を見たりしながら,「国語の推薦の仕方

が使える」「時間を考える時に,算数の割合や比例が使えそう。」という,他教科と関連させるよ

うな発言をしていった。そこで,時間を考える時には,比例

や割合,自分たちの意見が伝わるようにするためには推薦文

の書き方を生かしていくことになった。そして,写真3の通

り1回目の報告会でルートを分析していった。ここで,自分

たちの観光ルートが「久留米の魅力」「時間」「季節の統一」

という視点から適切かどうか,観光課の人と一緒に分析して

いった。自分たちのルートを発表したり,友達から出た質問

については答えたりしていきながら,自分たちのルートのす 写真3 整理・分析活動の様子

ばらしさをアピールしていった。そして,最後の観光課の方からの評価をいただいた。評

価をもらう時には,子ども全員が「どんな評価をもらえ

るのだろう。」と真剣な表情で観光課の方を見ていた。

その評価は,「おしい。」だった。その理由が,「相手と

しているターゲットがどんな好みなのかが反映されてい

ない。」というものだった。それを聞いた子ども達は信

じられないというような顔をしていた。そこで,教師か

ら「残念でしたね。やっぱりあなた達には、無理なのか 資料8 観光ルート

な。」と言った。すると,子どもからは「まだする。」「本気ではないから。」と言った。

そこで,「次はどういうことをしたいか。」とたずねると,「ターゲットのことをよく調べ

て,もう一度観光ルートをつくりたい。」と言ったので,まとめをそのようにして,次に

備えた。

〈考察〉

資料8のような観光ルートをつくる際に,時間軸・空間軸で考えさせるために時間を求めるには比

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や割合の考え方,相手に伝えるためには推薦文を述べるといった,教科で学んだことを生かすことが

できるような場を意図的に設定したことは,教科の学びを子ども自ら活用していくためには有効であ

ったと言える。

○ 深める段階(9時間)

※ 観光ルート作成や相手に伝えるために,関連できる他教科・領域の内容

国語・・・推薦の仕方(5年生) ・パンフレットの作成の仕方

算数・・・地図の縮尺(縮図) ・割合の考え方(比べる量・基にする量・割合の関係)

調査を開始する前に,今度作った観光ルートをだれに評価してほしいのかたずねた。観

光課の方はもちろんだったが,子ども達からターゲットとしている出身地の人に聞いて評

価をしてほしいという願いが出た。そこで,子ども達に電話して依頼してみるかどうかた

ずねたら,すぐにすると言ったので依頼を久留米大学の学生課と国際交流課に電話させた。

大学から了承の返事が来ると,子ども達は「次こそ。」という意欲を持った。ただし,鹿

児島・大阪・韓国の人たちの好みについて調べることができないため,まず,その地方の

よさは何かインターネットで調べること,鹿児島県庁,大阪市庁,観光庁でそれぞれのタ

ーゲットの好みを調べることを教師から提案した。

次の時間から,それぞれの班で役割を決め,それぞれの市や県の特産品や有名なことを調べたり,

県庁や市庁,観光庁でターゲットの好みを調べたりする調査活動

が始まった。子ども達は写真4のように電話やメール,インター

ネットを活用しそのターゲットの情報を集め出した。すると,子

ども達からは,「絶対,久留米のユメタウンは推薦できないよ。

だって,そこ,ユメタウンの何倍の大きさの店がたくさんあるも

ん。」とか,「自然は少ないな。」など,久留米がその地方に勝て

る魅力をなんとかみつけようとしていた。さらには,ターゲット

の好みを調査したことで「温泉が好きらしいよ。」「その地方の食 写真4 情報を集める様子

べ物がいいらしいよ。」といった情報を同じ班の友達に伝えていった。

そして,前の整理で行ったように,久留米の観光ルートを整理

していった。同じように時間軸,空間軸で整理していき,久留米

のどんなところが魅力なのか伝えるようにしていった。

そして,写真5のように報告会を行った。今回は観光課の方だ

けでなく,ターゲットの人もいるということで緊張していた様子

だった。しかし,子ども達は授業が始まると,自分のターゲット

を班の所に迎え,そのターゲットの前で堂々と発表していった。 写真5 分析の様子

自分達の報告が終わった後,ターゲットの方たちから質問を受けていった。子ども達は質

問を受けるとなぜ,それが魅力なのか,なぜターゲットの好みに合うのか自分達が調べた

内容を基に答えていった。質問が終わった後,ターゲットからの評価をもらっていった。

おおむね好評だったため,子ども達は今回の発表には自

信を持っていたようだった。さらに,ターゲットから評

価したもらった場所から,久留米の魅力について話し合

っていき,久留米の魅力は「だれに対してもその好みに

応じた場所がある」ということにまとめた。

最後,ゲストティーチャーである観光課の方に写真6

のように評価してもらった。すると,「よく頑張ってく 写真6 評価の様子

れました。この発表をそのまま久留米市のブログに載せてほしい。そうできないだろうか。」

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と逆に依頼を受けた。子ども達はそのことが嬉しかったようで,すぐに「はい。」と大き

な返事をして答えた。

〈考察〉

資料9は,深める段階での探求のサイクルのまとめで書い

た子どもの感想である。実際に認められたことが嬉しかった

ことがよくわかる。子どもは,ターゲットからも認められる

ように,自分達が学んだことを生かしてどうにかしようとし

ていた。学んだことを生かすためにどうにかして伝えたい,

わかってもらいたいという切実感を持たせたことはとても有

効であったと考える。 資料9 子どもの感想

○ 生かす段階(4時間)

ターゲットや観光課の方から改善点を出されたところはその点を改善して,久留米の観光ブロ

グに載せるための取材を受けた。子ども達はその取材者の前

でも堂々と発表をしていき,自分達の観光ルートがインター

ネットに載ることをとても喜んでいた。

自分達の発表がブログにアップされるのを見て,とても喜

んでおり自分達の活動が久留米市のために役に立ったことを

実感していった。そして,子ども達は自分たちの学習を振り

かえり,これからの自分のあり方について考えていった。

〈考察〉 資料10 最後の子どもの感想

多くの人たちからの賞賛を受けることによって,子ども達は自分達の学習に満足感を得

るだけでなく,観光課の方の反応から「久留米のことを知って行くにつれて,楽しくなっ

てきました。どうして今まで自分が住んでいる所なのに,知らなかったのだろうと思いま

す。そして,この単元で2つわかったことがあります。一つは,喜んでもらえることは嬉

しいことだと言うこと。2つ目は~。」と資料 10の感想に書いている。つまり,久留米の魅力の再発見だけではなく、自分達が行ったことが人の喜びにつながること,そしてそれ

を生かしていこうという思いが伝わる。そのような思いを作るために,他者からの評価は

とても有効であったと考える。

また,本単元を通して,地域の人との協同で久留米の問題を見つめ直し,そこから久留米の魅力を

再発見していったことによって,最終的に子どもは「これから,久留米がにぎやかになるように,も

っとほかの県に行って,久留米の事をアピールしたい。」と述べている。これは,くるめ学のねらい

である,郷土愛を表現したものに他ならない。つまり,地域の人と協同で活動を行い探究を深めてい

った姿が個々に見られる。

2 成果と課題

(1)成果

○ 資料 11 は,学習後子ども達にとった「他の教科の学びは役に立ったか」というアンケート結果である。9割以上の子

どもが役に立っていると答えている。その内容も,「地図を

描くのに算数の縮尺の学習が役に立った。」「推薦文を書くと

きに国語の学習が役に立った。」とある。つまり,他教科で

学んだ内容を生かすために,学習内容と類似した学習の構成

を行って計画を立てたことで,子どもが進んで他教科の内容 資料11 他教科との関連についての子どもの反応

他教科の学びは役に立ったか

96%

4%

役に立つ 役に立たない

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を生かしていくことができた。

○ 観光課との共同参画活動において,はじめは観光課と一緒になって子どもが観光課が行っている

ことと似たようなことをしていた。しかし,だんだんと活動が本格化するにつれて子どもの活動を

観光課が生かしていこうというようになった。そして,最後は子どもが主になって市との協同を行

っていった。つまり,子どもが本気になって活動を行っていくような教材化,学習構成の工夫がで

きたからであると言える。

資料 12 は,久留米市役所観光課の人の本単元に対しての子供に向けた感想である。この中に,「久留米が持つ豊

富な観光資源を発見し,組み合わせることによって,魅力

的な観光コースを考え出してくれたと思います。」とある。

このように,子どもが作り出した観光コースを好意的に受

け止めくれたことがわかる。また,設問別に関して言うと, 資料12 久留米市役所の方の感想

下記の通りとなっている。

1 今回の取り組みは山川小学校の取り組みと協同して行うことができた・・・できた

2 今回の取り組みは今後も続けていきたい・・・続けたい(実施方法について検討が必要)

3 今回の取り組みは久留米市にとってとても役に立った・とても役に立った(参考になった)

上記の回答からも,今回の取り組みは久留米市にとっても有意義なものであったと言える。

また,本単元での子どもの満足度を5段階で評価すると,平均で「4.7」という非常に高い

評価になった。中には,「「キラリ☆久留米」の学習は,ぼくにとっても久留米にとてもよかった

と思いました。」と書いている子もいた。

つまり,地域と協同するための教材化において,課題性を重視したことで,お互いのコミュニ

ケーションをしっかり育んでいき,共通の目標に向かって取り組んだ成果だと言える。

(2)課題

● 整理・分析の後に,子ども達が自分達の活動の評価をどうしても観光課やターゲット

の方たちからという外部からの評価が主としたため子ども主体の評価があまりできてい

ない。もっと子どもが主体となるためには,子ども同士の評価活動が必要であるといえ

る。そのような,子ども同士による評価活動の具体化が更に求められる。

● 成果の欄にあるとおり,市の方から「実施時期については検討が必要と考える」とあ

る。これは,スケジュールや回数,来ていただいた時の内容,効果についてであった。

そのような内容についての,外部との事前の協議・検討の改善が,地域との協同を更に

深化させるためには必要である。

※ 参考文献

学習指導要領「総合的な学習の時間編」 平成20年 文部科学省

今,求められる力を高める総合的な学習の時間の展開

平成22年11月 文部科学省

これからの生活・総合 みらいの会 平成21年 東洋館出版

豊かな学びをひらく授業の構想 寺尾愼一 平成21年 梓書院

リニューアル総合的な学習の時間 田村学 原田信之編著

2009年 北大路書房

「笑顔で学ぶくるめっ子」に向かって 第2期久留米市教育改革プラン

平成23年3月 久留米市教育委員会