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2009 年度 修士論文 環状ギャップ磁路を用いた渦電流磁気浮揚 2010 2 和歌山大学院システム工学研究科 学生番号:60090064 武田 敏宏

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2009年度 修士論文

環状ギャップ磁路を用いた渦電流磁気浮揚

2010年 2月

和歌山大学院システム工学研究科

学生番号:60090064

武田 敏宏

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Eddy Current Levitation by Using Ring Gap Magnetic Circuit

by

Toshihiro Takeda

Master’s thesis

Graduate school of system engineering

Wakayama University

February 2010

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環状ギャップ磁路を用いた渦電流磁気浮揚

武田 敏宏

和歌山大学大学院 システム工学研究科 光マイクロシステムクラスタ

要旨

近年,ビーム形状やリンク形状のアクチュエータは構造による運動の制限が存在するため回転機構を有す

るマイクロモーターの研究が行われている.マイクロサイズ領域においてフォトリソグラフィーを用いて製作するこ

とを考慮すると,1方向からのみで吸引力・反発力を発生させる単純な構造が好ましい.これを満たす浮揚方式に渦電流を用いた磁気反発浮揚がある.ただし,軸受として不可欠である安定浮揚の実現までには至っておらず,浮

揚させる際の安定化が課題となっている.従来手法では浮揚対象の安定化にはコイル 3 つを用いることが考えられてきた.本研究では,環状ギャップ磁路を用いた渦電流磁気浮揚において,コイル 1 つを用いることで制御を必要としないセンターリング可能な安定浮揚機構の実現を研究目的とする. まず,安定浮揚には磁場を強く局所化する必要があるため,環状ギャップ付き磁気回路の構造設計のため

磁場解析を行った.その結果,中空径を設け,磁極厚さを薄くするほどギャップ付近に磁場を強く局所化で

きることがわかった.また,アルミ円板を磁気回路上に置いたとき,センターリングに必要な力が発生する

かを調べるため,磁場解析を行い得られた磁束図によって確認したところ,環状ギャップの内径程度の直径

のアルミ円板を用いることで,磁気回路の円心方向にマクスウェル応力による力が発生することがわかった. これらの磁場解析を踏まえて磁気回路を作製した.そこで,鉛直方向に働く力の局在化を確認するために

力の分布の測定を行った.鉛直方向に働く力(浮揚力)は環状ギャップによって磁場が絞られているので,アルミ片全体の面積に依存するのではなく,環状ギャップ上のアルミ片の面積にのみに働くはずである.しかし,

この測定によって浮揚力はアルミ片の面積に比例する形となって表れた.磁場がギャップ付近で絞り切れず

中心付近にも発生していることが原因として挙げられる.ただし,1辺が2mmと3mmの面積の小さなアルミ片を用いることで力の局在化は確認できた.次に,ラジアル方向から外力を徐々に加えていき,アルミ円

板が中心に留まることのできる発生力を測定した.この発生力は 0.3Aまでは電流に比例して大きくなる傾向となった.しかし,0.3A以下で電流を一定に流したとき,磁気回路表面から500μm以上の位置ではセンターリングに必要となる中心方向に働く発生力は生じなかった.また,本研究で得られたアルミ円板を留まら

せるための発生力は,磁気回路表面から 200μmの位置のとき 0.3Aで 20μN程度あり,それ以下の外力がアルミ円板に働く場合であれば,十分にセンターリングが可能であることがわかった.さらに,実験によっ

て得られた鉛直方向に働く力とラジアル方向に働く発生力からアルミ円板に働く発生力の合力を求めた.こ

れにより,磁気回路の中心かつ斜め方向に 36.1μNの発生力が得られた.この発生力は,磁場解析で得られた磁束線図の歪みで表されるマクスウェル応力そのものを示しており,力の発生を証明できた. 以上のことから,渦電流磁気浮揚に環状ギャップ磁路を用いることで,安定浮揚の実現が可能であるとい

うことを示すことができた.

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目次

第1章 序論

1.1 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.2 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第2章 磁気回路設計

2.1 渦電流の発生原理と浮揚力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2.2 構造決定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2.2.1 表皮効果と磁気飽和・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2.2.2 磁場解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2.3 ラジアル方向の安定性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2.4 材料選定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2.5 アルミニウム円板設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第3章 実験評価

3.1 磁場分布測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3.2 鉛直方向に働く力の分布測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3.3 センターリング力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3.4 円板に働く発生力評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第4章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1

3

4

5

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第 1章 序論

1.1 研究背景

近年,半導体技術の発展に伴い,Micro Electro

Mechanical Systems(MEMS)の研究が盛んに行われ

ている.ビーム形状やリンク形状のアクチュエータは

構造物による運動の制限が存在するため回転機構を

有するマイクロモーターの研究が行われている.しか

し,現段階ではMEMS分野に適用できる軸受機構は

主として滑り軸受であり,マイクロメカトロニクスで

は低摩擦・低摩耗の実現が課題となっている(1).これ

は,運動方程式から分かるように寸法が小さくな

ると,体積が寸法の 3 乗に比例するのに対し,

面積は寸法の 2 乗に比例して減少するからであ

る.すなわち,寸法の減少に伴い体積が大幅に

小さくなり,体積(質量)に依存する慣性項が無視

できる程小さくできても,表面積が関係する摩

擦(粘性)の項は無視できず顕著化され,支配的に

なるためである.摩擦は界面での分子間力に起

因するので,これを小さくするには相対する二

面を引き離す必要がある.たとえば,超高速回転

によるジャイロやマイクロモーターを実現する上で

は摩擦・摩耗の問題が非常に大きく完全非接触技術を

用いた浮上機構が不可欠となる.

浮上させるための主な駆動力として

・ 静電気力

・ 空気力

・ 磁気力

などが利用可能である.静電吸引力を利用して非接

触を実現するにはローター両面からの吸引力釣り合

いを利用することになり,高度なアセンブリ技術が不

可欠である.空気を用いる方法として,気流を利用

したものは基板に多数のノズルを作製し,基板

下から圧縮空気を送ることにより,スライダを

浮上させラジアル方向に駆動する方式が研究さ

れている.また,磁気力を用いるもので,超電

導体のマイスナー効果を利用した浮上機構では

超電導体と永久磁石の組み合わせによって反発

浮上力が得られる.磁気力の利用は,容易に大

きな吸引力を得ることができると同時に,永久

磁石や常電導電磁石,あるいは超電導磁石を使

用することによって反発力も得られるというメ

リットがあり,近年,有効な浮上手段として得

ることが可能である.現在,有効な方法として

注目を浴びている.

磁気力を用いる方法について特性比較を行っ

た結果を Table1-1 に示す 1)2)3).超電導磁石は吸

引力・反発力共に十分な力を発生することが可

能であるが,冷却する必要があり,使用するた

めには大掛かりな冷却装置が必要となるため,

マイクロ化には不向きである.また,永久磁石

については,μmオーダで磁極の向きを制御し

て作製することが非常に困難である.一般的に,

永久磁石 常電導

電磁石

超電導

電磁石

発生力 ◎ △ ◎

安定性 △ △ ○

制御性 × △ △

発生力 ◎ ○ ○

制御性 × △ △

小型化 △ ○ ×

Table1-1 Character of magnetic force

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磁気軸受においても安定浮上を実現するためには対

向方向からの制御を必要とするが,マイクロサイズ領

域においてフォトリソグラフィーを用いて製作する

ことを考慮すると,1方向からのみで吸引力・反発力

を発生させる単純な構造が望ましい.そこで,有効な

浮上方式として常電動電磁石を利用し,1方向か

ら吸引力・反発力を発生させることが可能であ

る渦電流を用いた反発磁気浮上に着目した.渦

電流による反発磁気浮揚を用いることで,摩

擦・摩耗が解決でき,超高速回転が実現可能と

なると同時に,振動による騒音が極めて小さく

なる.また,潤滑油を使用しないため,特殊雰

囲気中(高温,低温,真空中)などで使用するこ

とができるなどの長所が期待できる.

先行研究によって,渦電流を用いた磁気反発

浮揚の有用性についての検証を行った経緯があ

る.実験によって厚さ 0.3mm,重さ 23mg,直

径 6mmのアルミを浮揚させ評価を行っている.

渦電流を用いた反発方式は電磁調理器と同様の

原理であるため発熱を伴うが,ギャップ付き環

状磁気回路形状にすることにより,発熱を抑え

ることが可能であることを確認している.また,

有限要素法を用いてスケールによる効果を評価

した結果,電磁気学の現象を利用しているため,

実際に実験を行ったマクロモデルの 100 分の 1

の寸法であっても,コイル表面から発生する z

軸方向磁場分布に大きな変化は見られないとし

ている 4).ただし,先行研究では,制御をかけず

に浮揚対象を拘束して発生力の評価を行い,軸

受として不可欠である安定浮揚の実現までには

至っておらず,未だに課題となっている現状で

ある.軸受として応用させるために重要である

安定浮揚に関する実験・考察には至っていない.

現在,課題となっているのは渦電流を用いた磁

気によって浮揚させる際の安定化であると考え

る. この問題を解決することで軸受として確立

することができ,マイクロモーター及びジャイ

ロスコープなどのマイクロアクチュエータに応

用可能となる.

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1.2 研究目的

浮揚体を安定化させるには,一般的に支持点

が 3 点以上必要となる.渦電流反発を用いた磁

気浮揚においてもコイルを 3 つ用いることで浮

揚体の安定化が実現可能であるが,3つのコイル

構造は小型化に適しない.これら能動型磁気軸

受システムは,本来不安定な系であり,フィー

ドバック制御によって安定化させるため,何ら

かのセンサを設置する必要がある.したがって,

磁気軸受のマイクロ化が要求される場合,セン

サの選定や空間占有率が重要な問題となってく

る.また,一般的に使用される変位センサは高

価であり,安価な磁気軸受システムを作製する

ための大きな問題となっている 5).

本研究では 1 つのコイルと環状ギャップ付き

磁気回路を用いた単純構造で,安価で新しい安

定浮揚機構を提案し,制御を必要としないセン

ターリング可能な安定浮揚機構の実現可能性の

検討を目的とする.

具体的には,リング状の磁場分布を発生させ,

磁場分布の内側に設計を行った浮揚対象を落と

し込むことで,磁気回路から浮揚対象に均一な

磁場を与えることができる.それによって,金

属導体側面に磁束の壁を作ることができ,側面

に垂直な方向すなわちラジアル方向にも鉛直方

向と同様に反発力を発生させることで,ラジア

ル方向の安定化が可能になる.反発磁気浮揚方

式を含む能動型磁気軸受の特徴として,回転体

をその重心軸(慣性主軸)の回りに回転させるこ

とによるアンバランスのキャンセル作用がある

が,それに加えて浮揚対象に外乱が加わった場

合のラジアル方向において中心方向に発生力が

働くことでセルフセンシングが可能となる.こ

こでのラジアル方向とはコイルの表面に対して

水平な面を示すこととする.本研究ではラジア

ル方向に働く発生力について検証する.磁気回

路の設計をすることで,制御の伴わないシステ

ム構築を実験によって確認し,安定浮揚の実現

の可能性を検証する.

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第 2章 磁気回路設計

安定浮揚を実現するためには環状ギャップ付

近で急峻で強い磁場分布が望ましい.鉛直方向

とラジアル方向の両方の磁場分布を調べること

で磁気回路の構造決定を行う.マクロモデルを

用いて実験を行うため,機械加工による作製が

可能な範囲での設計となる.そこで,磁気回路

の設計を解析によって行い,実験によって評価

を行う.

2.1 渦電流の発生原理と浮揚力

電流と磁場の関係はアンペールの法則から,

Hrを磁場,J

rを電流密度,Cを任意の閉路, ld

v

を線素片ベクトル,Sを導体の任意の断面, Adv

を微少面積として,

SCAdJldHrrrr (2-1)

で表される.一方,ファラデーの法則は,

dtBdEv

v (2-2)

で表され,オームの法則に従う抵抗をもつ媒質

中では,電場Evに対し EJ

rrが成り立つので,

これを式(2-2)に代入することで電場Evを消去し,

両片を積分したのち式(2-1)を代入すると,

SCAdB

dtdldJ

vvvr1 (2-3)

が得られる.右辺の負号は,磁束密度の時間変

化を妨げる方向に周回路Cに電流が生じること

を示す.これが導電媒質中に渦電流が生じる原

理である(Fig.2-1).また,ローレンツ力の観点

から, BJFrrrの関係が成立する領域では,

Fig.2-1 Principle of generating eddy current

磁気力が発生する.

一方,無限大の導体表面の接線方向に交流磁

場(周波数 f )を印加した場合,導体内部では表面

から入るに従って磁場が減衰し,以下のように

定義される表皮厚さ δ が得られる.ここで,σ

は電気伝導度,μは透磁率を示す.

f1 (2-4)

表皮厚さは磁束の導体内への浸透を妨げる空

間領域を示す特性長である.

集中定数回路で導体板上のコイルを考える

と,コイルの抵抗,コイルインダクタンス L と

導体の渦電流に起因する損失が直列に負荷とな

る回路である.動作上はコイルが導体に近づく

と L は下がり渦電流に起因する損失が増加する

が,これは,コイルから出た磁場が誘導電流に

より修正されるからと考えられる.

高周波電流を流すとコイルと導体の間の空間

に磁束が集中し,コイルのインダクタンスは自

由空間の時(L0)に比べて減少する.この関係は,

誘導電流による係数を Lγとして

rz

r eLLzL 0 (2-5)

Eddy current

Coil

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と表される.γは空間配置に依存する特性長であ

る.

交流電流をコイルに流した場合,インダクタ

に蓄えられるエネルギーは

2

21

ACm IzLE (2-6)

である.このエネルギーはコイル位置によって

変化し,結果的にコイルに力を与える.コイル

に働く力はエネルギーの勾配であるから,

dzzdLIE

dzdf AC

mz 2

2

(2-7)

である.今,浮揚体が一定のすきま Z0で浮揚し

ているとする.浮揚力は等価的に一定値+変化

分である

zZz fFf (2-8)

とおくことができ,さらに浮揚すきま z が浮揚

力 に 対 応 す る 形 と な る よ う に

zzZz   0 であるとする.コイル

が安定に浮揚する場合,FZ=Mg(M:コイルの質

量)である.これから,コイルに働く力は

zMgeeLIfFzZ

ACzZ 1

2

02

(2-9)

つまり,渦電流による反発力はあたかもバネ

力 kzとして働き,コイル質量とバネからなる単

純振子を構成する.つまり,この系の共振周波

数は

g

Mkf z

OSC 21

21

(2-10)

となる.

2.2 構造決定

本研究では浮揚対象の安定化を図るために磁

気回路の設計を行う必要がある.そこで,急峻

で強い磁場を得るために有限要素法による磁場

解析を行った.

2.2.1 表皮効果と磁気飽和

表皮効果については前述しているが,特徴と

して周波数に依存し磁場の浸透の深さが表面上

の 1/eになる位置が表皮厚さである.これは磁気

回路設計において重要な要素となる.本研究で

浮揚させる金属導体に使用する常磁性体は密度

の低いアルミニウムを選択した.回路を組むと

きに扱いやすい帯域の周波数が必要であり,表

皮効果を考慮した結果,アルミニウムの厚さを

0.3mmとした.そのため,式(2-4)を用いて,表

皮効果により 0.3mmの深さまで渦電流が浸透

する周波数を算出し,その結果,50kHz の交流

による磁場解析をおこなった.また,磁気回路

にはパーマロイを想定しており,設計では磁気

飽和を考慮しなければならない.中心磁極にお

ける面積より磁極厚さが薄い場合において磁気

飽和を起こす可能性がある.一度,磁気飽和が

起きれば,磁気回路によってギャップを絞るこ

とが無効化されてしまう.よって,表皮効果お

よび磁気回路の厚さを考慮した設計が必要とな

る.

2.2.2 磁場解析

磁場解析で用いる磁気回路モデルの断面図を

Fig.2-2に示す. 磁場解析によって磁気回路から

発生する鉛直方向とラジアル方向の磁束密度を

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それぞれ取得し,磁気回路の構造決定を行った.

中空にすることで,磁束の通り道を中心からよ

り外側にさせ,局在化の位置を外側にすること

を狙っている.また,磁極厚さの変化は漏れ磁

束の増加による磁場の増大を狙いとしている.

まず,中空部分の半径をパラメータとして変化

させ,交流磁場解析によって磁場分布を求めた

ものを Fig.2-3に示す.磁場解析は軸対称で行っ

ており解析条件は以下に示す通りである.また,

グラフの横軸は環状ギャップ付き磁気回路の磁

気ギャップで割った商とし縦軸は磁束密度を表

している.

Fig.2-2 Tectonic profile of magnetic circuit

Analysis condition:

Width of gap w:0.1mm

Pole thickness h1:1mm

Height h2:11mm

Relative permeability of magnetic circuit

μ:1000

Current density J:1.2×107A/m2

Magnetomotive force m:24AT

Frequency f:50kHz

Measured distance from magnetic circuit

:100μm

(a)

(b)

Fig.2-3 Magnetic distribution (a)vertical direction

(b) radial direction

Fig.2-3より,中空ではない構造のときに比べ

中空部分を大きくすることで,磁場の強さが大

きくなる傾向になることがわかった.よって,

この中空部分をいかに確保し磁気回路の設計を

行っていくかが重要となる.しかし,中空構造

にすることで内側を回り込む磁束が減少し,分

布が外側によることで,磁場の急峻さが大きく

変わると予想していたが,変化が得られなかっ

た.この理由として,今回の解析では磁極厚さ

をギャップ幅 0.1mmに対して,1mmと十分に

厚い場合として行ったので,漏れ磁束が少なく

Hollow part

Gap:w Magnetic pole Pole thickness:h1

Coil Gapped core

h2

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なったと考えられる.

次に,磁極厚さを変化させ解析を行った.中

空構造ではなく,磁極厚さのみを変化させる.

解析条件は中空部分を変化させたものと同様と

して行った.得られた解析結果 Fig.2-4 に示す.

横軸は先ほどと同様にギャップで割った商とし

ている.Fig.2-4より,磁極厚さを薄くするにつ

れ急峻で大きな磁場分布が得られることがわか

った.

以上の結果から,中空径の変化と磁極厚さの

(a)

(b)

Fig.2-4 Magnetic distribution changing Hollow part

(a)vertical direction (b) radial direction

Fig.2-5 Magnetic field distribution

変化による解析から中空径を設け,また磁極厚

さをできるだけ薄くすることで急峻で大きな磁

場分布が得られることがわかった.よって,こ

の解析結果を踏まえ,マクロモデルの作製のた

めの機械加工および磁気飽和を考慮し,磁気回

路の寸法を次のように定めた.磁極厚さ 0.5mm,

中空径 4mm,ギャップ幅 0.1mm,外径 10mm,

高さ 11mmである.上記の寸法を用いた磁気回

路で磁場解析を行い,これによって得られた磁

束密度分布を Fig.2-5のグラフに示す.環状ギャ

ップで絞ることで,この解析のように微小領域

にのみ磁場分布が得られ,その分布に対応する

形で力が発生するので,結果的に環状ギャップ

長に比例する浮揚力が得られるはずである.

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2.3 ラジアル方向の安定性

先行研究での浮揚実験ではラジアル方向を拘

束していたので,中心方向に力が働いているか

の検証が行われていない.ここではラジアル方

向の安定性について考察する.磁場の発生して

いるコイルを置いてある空間にアルミを置くと

仮定すると何も置いてないときに比べ,空間エ

ネルギーが変化する.このエネルギーの変化を

磁束線の変化に置き換えて考える.空間エネル

ギーには z 方向成分の変化も含まれているが,

ここではラジアル方向の安定性の議論のため z

方向成分は考えないものとする.まず,アルミ

円板が磁気回路上にないとき,十分大きいとき,

直径が環状ギャップ近傍のときの 3 種類につい

て磁場解析を行った.解析結果を磁束線図によ

って Fig.2-6に示す.ただし,アルミ円板は厚み

0.3mm とし磁気回路表面から 0.1mm の距離に

設置してある.(a)はアルミ円板がないとき,(b)

はギャップ近傍までアルミ円板があるとき,(c)

は十分大きなアルミ円板があるときを示してい

る.Fig.2-6(b),(c)についてはアルミ内部で渦電

流によるローレンツ力が発生しており磁束線の

変化がうかがえる.環状ギャップ近傍にアルミ

円板がある場合(b)はない場合(a)に比べて力線

が外周側に歪み,マクスウェル応力が発生して

いることが分かる.さらにアルミニウム円板の

半径が大きく(c)なると,磁力線は全体に渦電流

の効果によって磁極側に押され,反発力が大き

くなることが定性的に説明できる.これにより,

アルミ円板がギャップ近傍のときにはラジアル

方向に力が働いていることが分かる.

(a) (b)

(c)

Fig.2-6 Change of magnetic flux distribution by a

aluminum disk diameter (a) without disk, (b) disk

diameter equals to gap radius, (c) larger diameter

Fig.2-7 Change of the magnetic field strength in

radius direction

この解析結果を基にラジアル方向での向心力

を検討するため,アルミの水平中心において z

方向の中心から 0.5~2.5mm の距離での磁界強

度変化を解析した.このとき,パラメータはア

Aluminum disk

Aluminum disk

Al disk radius Al disk

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ルミ円板の半径とし,0.5~2.5mmと変化させた.

結果を Fig.2-7に示す. アルミ円板の半径を変

化させた時,磁場強度が変化してラジアル方向

に力が働いている.これより,同心円上では同

等の力がかかることになるため,浮揚させるべ

きスラスト板の適切な設計により中心保持が可

能であるといえる.また,この磁束線の変化お

よび磁界強度の変化から得られた結果より,ギ

ャップ近傍においてアルミ円板に働く力が大き

くなることが予測でき,このギャップ近傍に働

く力は実験的に求める必要がある.

2.4 材料選定

本研究において,磁気回路に使用する材料は

鉄損(ヒステリシス損+渦電流損)を減らすため

にヒステリシスの小さい軟磁性材料を用いる.

軟磁性の主な材料特性を Table2-1に示す.飽和

磁束密度は高くはないが,透磁率が大きいとい

う特徴に加えて比較的強度が強いため,作製時

の変形などが起こりにくいと考え,本研究の磁

気回路には 78 パーマロイを使用してマクロモ

デルのギャップ付き環状磁気回路を作製した.

また,マイクロ化を考慮すると,めっきによっ

て作製可能であることから,プロセスの観

点から考えてもパーマロイは大いに期待できる

材料である.作製した磁気回路を Fig.2-8に示す.

磁気回路は内径 4mm,外径 10mm,ギャップ

位置は中心から 3.4~3.5mmの間とし,内部磁極

と外部磁極の2ピース構造となっている.また,

コイルに関しては銅線の径 0.2mm,巻き数 85

回として作製した.

Fig.2-8 Magnetic circuit

飽和磁束密度(T) 保磁力(A/m) 初透磁率 最大透磁率 比抵抗(μΩcm) 電磁軟鉄 2.2 80 150 10000 10 珪素鋼板 2.0 10 2250 70000 50

電磁ステンレス 1.2 80 - - 60 パーメンジュール 2.4 16 1200 20000 28

45パーマロイ 0.9 3 2500 25000 50 78パーマロイ 0.8 4 20000 200000 55

10mm

7mm

Table2-1 Magnetic material characteristic

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2.5 アルミニウム円板設計

目的とする安定浮揚を達成するためにはアル

ミ円板の設計を行う必要がある.設計を行うこ

とで,浮揚させるアルミ円板の浮揚力およびラ

ジアル方向において中心に働く力を効率よく作

用させることができる.そこで解析で得られた

鉛直方向とラジアル方向の磁場分布から考察す

る.この 2つの分布は Fig.2-6に示している通り

である.磁場分布の鉛直方向とラジアル方向の

ピーク位置に着目した.本研究では,ラジアル

方向に大きな力が働くことが必要となるため,

ラジアル方向の磁場勾配を急峻にすることが重

要となっている.磁場分布の急峻となっている

位置に,また鉛直方向に働く力として分布の面

積分が浮揚力として効いてくるため,磁場のピ

ーク位置を覆いかぶせるだけのアルミ円板が必

要になると考える.よって,グラフから設計す

るアルミ円板の半径は双方のピーク位置間の

3.51~3.63mmであればいいと考えられる.

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第 3章 実験評価

3.1 磁場分布測定

本研究において磁場分布を測定するためには

市販のホール素子の空間分解能は 1mm であり

この測定においては足りない.そこで,サーチ

コイル法を用いて磁場分布の測定を行った

(Fig.3-1).作製したサーチコイルの分解能は

0.5mmであり,コイル電圧は面積の周回積分で

表される.サーチコイル法とは,コイルに交流

磁場が通ると電磁誘導によりコイルに電流が流

れるが,そのときの誘導起電力を測定すること

で発生磁場を求める方法である.磁束密度は

fnSVBπ2

(3-1)

で求めることができる.ここで,B:磁束密度,

V:コイルに生じる誘導起電力,f:周波数,n:

コイルの巻き線数,S:コイルの断面積である.

コイルには 30kHzの交流電流を 0.3A 流し,磁

気回路表面からの距離 0.2mm で,走査間隔を

0.5mmとしコイルを走査させ磁場分布を測定し

た.ただし,サーチコイル法を用いて得られた

出力電圧は微弱なため増幅回路によって増幅さ

せる必要がある.増幅率を 1000倍としてアンプ

の設計を行い,オシロスコープによって検出し

た.アンプ作製に用いたオペアンプの素子には

型番がNJM4580DDを用い 2段増幅させた.横

軸に中心からの距離,縦軸に磁束密度としたと

きの解析結果と実験結果を Fig.3-2に示す.

解析結果と比較すると,ラジアル方向の磁場

分布に関しては,ほぼ解析結果と同等な結果が

得られ磁場の局在化ができているといえる.ま

た,鉛直方向の磁場分布に関して磁束密度の大

きさは,よりなだらかな分布が得られた.この

原因として,1つにはサーチコイルが磁気回路と

平行に走査することができていないためこのよ

うな分布になったと考えられる.もう 1 つは作

製した磁気回路の構造によって得られたもので

あり測定誤差によって生じたものではないと考

えられる.

Fig.3-1 Measurement of magnetic field distribution

Fig.3-2 Experimental results of measuring

magnetic field distribution at 30 kHz

Search-coil magnetometer Magnetic circuit

Z

R

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3.2 鉛直方向に働く力の分布測定

磁気回路表面上において任意の位置でのアル

ミ円板に働く力がどの程度か解明できれば,安

定浮揚に直結させることができる.そこで,作

製した磁気回路において鉛直方向の力の分布を

測定する.測定には小さなアルミ片を用いるこ

とで局所的に働く力を測定した.

Fig.3-3に示すような測定系を作製し,コイル

に流す電流とアルミ円板の荷重を変化させ,コ

イルに流す電流とアルミ円板の荷重が同一の距

離でつりあうようにして電流から反発力を測定

した.実験系全体を傾けアルミ片の見かけの重

さを変化させる.傾きを θ 変化させることで,

アルミ片の重さはmg cosθと変化する.よって,

小さな磁場でも理論上浮揚させることができる.

また,一定の距離を保つためにファイバ変位計

を用いて,電圧によって変位を調節する.浮揚

対象であるアルミ片には 1 辺が 2mm,3mm,

5mm のものを用意し,ラジアル方向を

PET(Polyethylene terephthalate)でそれぞれ拘

束し z 軸方向(コイルに対して鉛直方向)のみ

自由度を与える.アルミ片を磁気回路表面上か

ら 100μm の距離とし,走査位置を磁気回路の

中心を通る直線状において 0.5mm 間隔で行い,

周波数 30kHz,電流値 0.3A として,鉛直方向

に働く反発力の分布を測定した.また,測定位

置はアルミ片の重心とする.その結果を Fig.3-4

に示す.

アルミ片は面積に対してではなく,アルミ片

の長さに比例する形で力が生じていると予想さ

れる.この力は磁気回路を中空構造とし,環状

ギャップ上にのみ発生しているからである.こ

のことから,浮揚させるアルミ円板も中空構造

とすることでより小さな力で大きな浮揚力を得

ることができると考えられる.しかし,Fig.3-4

の結果からアルミ片の 1 辺の長さが大きくなる

ほど浮揚力が増加し,1辺の長さが 5mmのとき

極端に大きくなる結果となった.原因として,1

つにアルミ片を走査させてギャップ近傍から離

れてもアルミ片の一部が環状ギャップ上に残る

からである.また,磁場分布の測定でで得られ

たように鉛直方向の磁場が解析のようにギャッ

Fig.3-3 Measurement of force distribution about

vertical direction

Fig.3-4 Measurement of force distribution at

0.3A

Fiber displacement gauge

Magnetic circuit Displacement stage

PET(polyethylene terephthalate)

θ

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プ近傍で絞りきれないことも要因の 1 つと考え

られる.以上より,1辺 5mmのアルミ片のとき

には最大値がギャップの内側になり,磁場を受

けている面積が平均化されるので浮揚力が増加

したと考察できる.残りのアルミ片については

ギャップ近傍に最大値が得られ,これにより力

の局在化が確認できた.

3.3 センターリング力

磁気回路から発生する磁場の強さは電流に比

例した形となって表れており,鉛直方向に働く

力もそれに伴った傾向が先行研究によって確認

されている.そこで,ラジアル方向についての

傾向を確認する必要がある.そこで,ラジアル

方向に働く発生力についての実験を行った. こ

こでの発生力とはアルミ円板が磁気回路の中心

に留まることができる力の最大値と定義する.

Fig.3-5 に示すような実験系を用いて実験を

行った.厚さ 0.3mm,重さ 20mg,直径 5.8mm

のアルミニウム円板の鉛直方向を糸で固定し高

さを一定に保ち,ラジアル方向のみに自由度を

与えた.実験系を鉛直方向の力の分布測定のと

きと同様に傾けることで,ラジアル方向に荷重

を徐々に増加させる.アルミ円板に磁場を印加

した状態でセンターリングから外れるときの力

を発生力として取得した.周波数を30kHzとし,

アルミ円板の磁気回路表面からの距離を変化さ

せ行った.実験結果で得られた印加電流と発生

力の関係を Fig.3-6に示す.

Fig.3-6 のグラフからラジアル方向において,

どの浮揚距離に対しても 0.3A までの電流を流

したとき,線形な反発力が得られること

Fig.3-6 Generative force in radial direction for

changing distance from magnetic circuit

Fig.3-7 Generative force distribution changing

electric current

がわかった.0.3Aを超える電流についてはこの

磁気回路において磁気飽和を起こしていると考

えられ,リング状の磁場分布が山なりの分布に

θ

Fig.3-5 Measuring method

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近づいたと思われる.これは,Fig.3-7で示す鉛

直方向の力の分布の測定結果によって説明可能

である.電流が 0.3Aのときには中心付近に力の

発生は確認できないが,0.44A のときには中心

付近に力の発生を確認することができる.そも

そも力の発生には磁場が必要であり,本来は環

状磁気回路によって磁束の局在化がされている

ため中心では力が働かない.よって,測定で磁

束の漏れによる力の発生が確認できるため,磁

気飽和が起こっていると定性的に判断できる.

また,0.08A 以下の電流を流したときの発生力

は微弱すぎるため,実験においてセンターリン

グできるだけの力を測定できなかった. ラジア

ル方向に働く発生力は鉛直方向における浮揚力

に比べて小さいことがわかったので,外力が働

いたときでもセンターリングができる軸受を考

慮した場合には構造を一層工夫することが必要

であると考えられる.

磁気回路表面からの距離によって磁場の分布

が変化すると,それに対応して発生力も変化す

るため,浮揚させるアルミ円板の位置が重要と

なってくる.そこで,電流を 0.1,0.2,0.3Aと

変化させて磁気回路表面からの距離に対するラ

ジアル方向の発生力の変化を調べた.この実験

結果を Fig.3-8に示す.Fig.3-8より磁気回路表

面にアルミ円板を近づけるにつれ,より大きな

発生力が得られることがわかった.このことか

ら,浮揚させる金属を常磁性体と強磁性体の 2

層構造とし,吸引力と反発力によって浮揚隙間

を制御することで,ラジアル方向に大きな発生

力が得られ,制御の必要のないシステムの構築

が可能となる.また,磁気回路表面から 0.5mm

以上の高さにアルミ円板を位置させると,セン

ターリングに必要な発生力が生じなかった.こ

の理由として,磁場の分布が環状ギャップから

遠ざかるにつれ,磁気回路の中心の磁場が大き

くなる傾向が顕著に表れ,中央が窪んだリング

状の磁場分布では無くなると考えられる.した

がって,0.5mm以下の低い位置で浮揚させるこ

とで,大きな発生力によって安定化させること

ができると考えられる.また,先行研究で測定

された鉛直方向に働く力は 0.3Aのとき 120μN

であるのに対し,本研究で得られた力は 0.3Aで

20μN ほどであった.ただし,センターリング

を行うのに十分な値であり,今回の実験によっ

てラジアル方向に働く力が確認することができ

たので,自動調芯が可能となることを示した.

Fig.3-8 Generative force in radial direction for

changing electric current

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3.4 円板に働く発生力評価

実験によって求めた鉛直方向の力の分布とラ

ジアル方向に働く発生力から円板に働く発生力

を求めた.力の働く位置を示したものを Fig.3-8に示す.これは磁場を印加した際にギャップ位

置におけるアルミ円板側面および底面に働く力

を表している.鉛直方向に働く力は円板全体が

受ける磁場が及ぼす浮揚力 Fzとし,円板がラジ

アル方向から受ける発生力を Frとし,その合力

を Fs とする.実験条件は電流 0.3A,周波数30kHz であり,そのときに働く発生力は測定値より Frは 21.7μN であった.また,Fzは 1 辺2mm のアルミ片の断面積が受けている力であ

るから,これをラジアル方向の円板の面積と等

しくなるようにしたときに受ける力を積分して

計算する.計算した結果,Fzは 28.8μNとなった.よって,Fsは 36.1μNとなる.この合力は2.3節のFig.2-6の(b)で示した磁束線の変化で確認したマクスウェル応力そのものである.また,

中心方向に磁気回路表面から 53 度上方に働いている.

Fz

Fr

Fs

Fig.3-8 compute of maxwell stress

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第 4章 結論

本研究では,マイクロデバイスにおける渦電

流による磁気反発を用いた軸受機構の実現可能

性を検討した.この浮上方式による軸受の課題

として,浮上の際の安定化が検証されていない

ことが挙げられる.そこで,環状ギャップ付き

磁気回路の設計を行い,マクロモデルを作製し

安定浮揚の可能性の実証を行った. この浮上方式に環状ギャップを用いることで,

磁気回路の構造を中空径や磁極厚さの変化から

生じる磁場の局在化および磁場の大きさから決

定した.その結果,中空半径を持たせ,磁極厚

さを薄くしていくことで,磁場がより大きく急

峻になることがわかった.また,ラジアル方向

において,センターリングすることができる力

が存在するかについての検証を,磁場解析を用

いて磁束線図による磁束線の変化およびアルミ

円板の有無による磁場強度の変化から確認した.

これにより,マクスウェル応力によって中心方

向に留まる力が働いていることがわかった.解

析結果を踏まえ,機械加工が可能な大きさの寸

法に磁気回路の構造を限定し,マクロモデルを

作製し実験を行った. まず,サーチコイル法を用いて作製した磁気

回路の特性として磁場分布を測定した.次に,

鉛直方向に働く発生力の分布を求める測定を行

った.測定には,アルミ片を用いており,測定

結果から浮揚力はギャップ近傍でピークをとる

分布となった. また,ラジアル方向に働く発生力についての

測定を行った.この発生力は磁気回路の中心に

アルミ円板が留まる最大の力として取得した.

この結果からラジアル方向に働く発生力は,

0.3Aまでは電流に比例して大きくなることがわかった.0.3Aを超えると,作製した磁気回路が

磁気飽和を起こし,磁束の漏れが発生している

と考えられる.また,電流を一定とし磁気回路

表面からの距離と発生力との関係を調べた.こ

のとき,500μm以上の距離になると発生力が中心方向に働かなくなった.反対に磁気回路とア

ルミ円板の距離を縮めると発生力は大きくなる

ことが確認できた.先行研によって測定された

鉛直方向に働く力は 0.3Aのときで 120μNであるのに対し,本研究で得られたラジアル方向に

働く力は 0.3A で 20μN ほどであったが,今回の実験によって発生力の確認ができ,センター

リングを行うのに十分な値で自動調芯が可能だ

とわかった.実験によって得られた結果から円

板に働く発生力の合力を算出したところ,中心

方向の上向き53°の方向に36.1μNの発生力が得られた.この発生力は解析において得られた

磁束線で示されているマクスウェル応力そのも

のを表しており,安定浮揚ができるということ

を数値で示すことができた.よって,環状ギャ

ップ磁路用いた渦電流磁気浮揚によって安定浮

揚の実現に期待することができる.ただし,ラ

ジアル方向の発生力をより大きくし安定した機

構を目指すためには磁気回路の再設計が必要で

ある.具体的には,本研究では鉛直方向に大き

く浮揚力が働く構造をとっているが,磁気ギャ

ップを持つ平面を球面にすることで,ラジアル

方向成分を増加させることができ,大きな発生

力を望むことができる. 以上のことから,本研究で提案した環状ギャ

ップを用いた渦電流磁気浮揚ではラジアル方向

においての発生力が確認でき,磁気回路表面か

ら 500μm 以下の距離であれば,距離が近づくにつれて大きな発生力が得られることがわかっ

た.また,適切なアルミ円板の大きさを設計す

ることで中心方向により大きな発生力が働くこ

ととなり,安定浮揚が見込まれる.安定浮揚が

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実現できれば,マイクロモータやジャイロスコ

ープといった回転機構を有するマイクロアクチ

ュエータのより一層の発展に繋がると期待でき

る.

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謝辞 本研究を進めるにあたって終始御指導および

御鞭撻して頂きました越本泰弘教授,様々なア

ドバイスを頂いた幹浩文助教,実験冶具を加工

して頂いた白神清民技術職員に深く感謝いたし

ます.そして,ともに切磋琢磨しあった同研究

室の皆様に深く感謝いたします.

参考文献

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アアクチュエータを用いた磁気浮上機構,”日本

AEM学会誌 Vol.14, No.1 (2006). (2)上野哲,金箱秀樹,山根隆志,岡田養二,“永久

磁石反発型磁気軸受を用いたアキシャル磁気浮

上モータの開発,”日本機械学会[No.00-6] Dynamics and Design Conference 2000 CD-ROM論文集.

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る高温超伝導浮上系の非線形解析と浮上体の振

動絶縁制御,”日本機械学会論文集 61巻 585号(1995-5).

(4)中尾武史,“渦電流を用いたマイクロ磁気軸

受け,”第 31回日本磁気学会(2007). (5) 松田健一,“非線形補償を用いたセルフセンシング磁気軸受の実用化研究,”日本機械学会論

文集,72巻 723号(2006-11). (6) 進士忠彦,“磁気軸受の現状と高精度化,”精密工学会誌 Vol.67,No.7(2001). (7) “磁気浮上と磁気軸受, ”電気学会磁気浮上応用技術調査専門委員会,コロナ社 (1993). (8)“磁気軸受の基礎と応用,”日本磁気学会,養賢堂(1995). (9)H.J.Fink and C.E Hobrecht,“Instability of Vehicles Levitated by Eddy Current Repulsion-Case of an Infinitely Long Current

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Loop, ” journal of applied physics,volume 42,number9(1971).

発表業績

武田敏宏,中尾武史,幹浩文,越本泰弘,“環状ギ

ャップ磁路を用いた渦電流浮上とセンサ応用,”

電気学会研究会,MAG-08-117(2008). 武田敏宏,“環状ギャップ磁路を用いた渦電流磁

気浮揚の研究,”わかやま情報サービス産業クラ

スタ研究成果発表会(2009).