環状トリエノンとルイス酸による カチオン性芳香族 …...2 第一章 序論...

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筑波大学大学院博士前期課程 数理物質科学研究科修士論文 環状トリエノンとルイス酸による カチオン性芳香族化合物の合成とその発光特性 戸村 文弥 化学専攻 2017 2

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筑波大学大学院博士前期課程

数理物質科学研究科修士論文

環状トリエノンとルイス酸による

カチオン性芳香族化合物の合成とその発光特性

戸村 文弥

化学専攻

2017 年 2 月

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筑波大学大学院博士前期課程

数理物質科学研究科修士論文

環状トリエノンとルイス酸による

カチオン性芳香族化合物の合成とその発光特性

戸村 文弥

化学専攻

指導教員 市川 淳士 印

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目次

第一章 序論 2

第二章 ルイス酸によるトロピリウムの合成

第一節 緒言 10

第二節 トリエノンとルイス酸の反応 11

第三節 トロピリウムの構造 14

第三章 トロピリウムの発光特性

第一節 緒言 18

第二節 吸収および発光特性の評価 19

第三節 発光機構に関する考察 22

第四章 実験項 24

第五章 総括 33

謝辞 34

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第一章 序論

炭素 7 員環の共役系に 6電子を有する化合物は芳香族性を示し、トロポノイドと呼ばれる。この

ような非ベンゼノイド系芳香族化合物には、ヒノキチオールをはじめとするトロポロン (2-ヒドロ

キシ-2,4,6-シクロヘプタトリエン-1-オン) 誘導体や、カチオン性のトロピリウム (シクロヘプタト

リエニウムカチオン) などが含まれる (Figure 1)。

ヒノキチオールは、1936 年に野副によってタイワンヒノキの精油より発見された 1)。その後 1953

年に Doering と Knox によって、クメンへの Buchner 環拡大および続く過マンガン酸カリウムによ

る酸化を経て初めて合成された (Scheme 1a)2)。また、その母体骨格であるトロポロンの合成に関し

て、シクロペンタジエンをジクロロアセチルクロリドの塩基処理で得られるジクロロエテンと反応

させる方法 (Scheme 1b)3a)や、ピメリン酸エチルエステルからアシロイン縮合および臭素による酸

化を経る方法 (Scheme 1c) 3b)が報告されている。

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トロポロンは、各種金属イオンと安定な錯体を形成し易いことが知られている。例えば、ヒノキ

チオールは植物中で一部ヒノキチンと呼ばれる鉄錯体として存在している (Figure 2) 4)。また、トロ

ポロンやヒノキチオールは強い抗菌・殺菌性を示すことから、多数の誘導体が合成され、医薬品や

化粧品として実用化されている。

一方、トロピリウムは非局在化した 6電子系の 7 員環カチオン種であり、平面の環状構造をとる。

1891 年に Mering らによって発見され、63 年後の 1954 年に Doering らが構造を決定した 5, 6)。さら

に Doering らは、シクロヘプタトリエンの臭素化と続く脱臭化水素によって臭化トロピリウムを単

離した。また、これらのトロピリウムが高い吸湿性を持ち、水に溶解するが低極性溶媒には不溶で

あることを明らかにしており、さらに NMR や X 線結晶構造解析の結果から平面 7 角形の構造を持

つことを確認している (Scheme 2)。その後、置換ベンゼンへの Buchner 環拡大と続くトリチルカチ

オンを用いた脱ヒドリドによる多置換トロピリウムの合成が、1982 年に岡本らによって報告されて

いる(Scheme 3a)7)。また同様の反応経路を利用して、フェニル基を電子供与体として分子内に組み

込むことで安定化を図ったトロピリウムも合成されている (Scheme 3b, c)8)。

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また、シクロヘプタトリエンのメチレン基をカルボニル基へと変換したシクロヘプタトリエノ

ン (トロポン) は、カルボニル炭素がカチオンとなる共鳴構造を描けるため、トロピリウムイオン

類似の共役 6電子系構造をとることが考えられる。しかしながら、芳香族性の指標として知られ

る核非依存的化学シフト (NICS) の値がトロピリウムの−7.6に対してトロポンは−0.3であること

から、トロポンは芳香族性が低く、トリエノンとしての性質が強いことが明らかにされている

(Scheme 4)9)。

このようにトロポン自体の芳香族性は低いものの、1968 年には Harmon らによって、トロポンを

酸処理することで容易にヒドロキシトロピリウムイオンが生成し、共鳴安定化することが報告され

ている (Scheme 5)10)。1980 年には Stang らが、トロポンに対してトリフルオロメタンスルホン酸無

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水物を作用させることで、ジトロピリウム塩を合成している 11)。しかしながら、この反応ではモノ

カチオン種を単離できていない (Scheme 6)。

そこで筆者は、様々なトロポン誘導体に対して、従来用いられてきたプロトン酸ではなくルイス

酸を作用させることで、トロピリウムの簡便かつ高効率な合成を計画し、達成した。ここでは、ト

ロポンのカルボニル酸素とルイス酸の間に結合を生成することで、炭素 7 員環上にカチオンを発生

させる。これらの詳細について第 2 章で述べる (Scheme 7)。

ここで得られるトロピリウムは、高い芳香族性に起因する安定性とカチオンとしての反応性を併

せ持つユニークな性質を持つ。例えば、Nguyen らと Lambert らのグループが中心になって、トロピ

リウムを合成反応に取り入れている。アルコールのハロゲン化 (Scheme 8a) 12a)、カルボン酸とアル

コールあるいはアミンとのカップリング (Scheme 8b) 12b) 、第 3 級アミンの位シアノ化 (Scheme

8c) 12c)、Swern 酸化 (Scheme 8d) 12d) および第 2 級アミンのアザコープ転位 (Scheme 8e) 12e) において、

トロピリウムが基質を活性化することで反応を促進する。

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また、トロピリウムはホスト–ゲスト化学にも用いられている。トロピリウムとイソ-C16-シクロ

アラミドとを処理することで、電荷移動錯体が形成するという報告が Yuan らによってなされてい

る (Scheme 9)13)。

一般にカルボカチオン種は、合成反応の重要な鍵中間体となるだけでなく、様々な機能性色素に

含まれる基本骨格としても利用されている。例えば、トリチルカチオン類、ローダミン類、および

シアニン類のような安定なカルボカチオンは、強い光吸収と発光を示すことが知られている

(Figure 3)。

同じくカルボカチオン種であるトロピリウム誘導体についても、特異な光吸収や発光を示す例

がいくつか報告されている。例えば Kharlanov は、電子供与性基を導入したアリールトロピリウム

イオンが緑色発光を示すことを見出した 14)。また、Prosenc は電子供与性の金属錯体部位を有する

トロピリウム誘導体が長波長の光を吸収し発光することを報告している (Figure 4)15)。第ニ章で筆

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者が合成したトロピリウム誘導体も、紫外光照射下で黄緑色に強く発光することが分かった。これ

らの発光特性の詳細について第 3 章で述べる。

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参考文献

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(4) Asao, T.; Kikuchi, Y. Chem. Lett. 1972, ,1, 413.

(5) Merling, G. Chem. Ber. 1891, 24, 3108.

(6) Doeiring, W. V. E.; Knox, L. H. J. Am. Chem. Soc. 1953, 76, 3203.

(7) Okamoto, K.; Komatsu, K.; Takeuchi, K.; Arima, M.; Waki, Y.; Shirai, S. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1982, 55,

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Am. Chem. Soc. 1977, 99, 1996. c) Hudrlik, P. F.; Hudrlik, M.; Rona, R. J.; Misra, R. N.; Withers, G.

P. J. Am. Chem. Soc. 1977, 99, 1996.

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(10) Harmon, K. M.; Harmon. A. B.; Coburn, T. Y.; Fisk, J. M. Org. Chem. 1968, 33, 2567.

(11) Stang, F. J.; Maas, G.; Fisk, T. E. J. Am. Chem. Soc. 1980, 102, 6312.

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d) Nguyen, T. V.; Hall, M. Tetrahedron Lett. 2014, 55, 6895.

(13) Yuan, L.; Chen, L. L.; Peng, Z.; Liu, S.; Li, X.; Chen, R.; Ren, Y.; Feng, W. Org. Lett. 2015, 17, 5950.

(14) Kharlanov, V. A.; Abraham, W.; Rettig, W. J. Photochem. Photoboil. C. 2001, 143, 109.

(15) Heck, J.; Prosenc, M. H.; Dabek, S. Organometallics 2012, 31, 6911.

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第二章 ルイス酸によるトロピリウムの合成

第一節 緒言

序論でも述べた通り、シクロヘプタトリエンはメチレン部位が脱ヒドリドされると、環状 6電

子共役系のトロピリウムとなる。また、シクロヘプタトリエンのメチレン部位をカルボニル基へと

変えた 7 員環共役トリエノン (トロポン) についても、プロトン酸処理で容易にヒドロキシトロピ

リウムが得られることが知られる。そこで筆者は、様々なトロポン誘導体に対してルイス酸を作用

させることで、トロピリウムの簡便かつ効率的な合成を目指した (Scheme 1)。

ここでは、トロポン誘導体を用いて対応するトロピリウムの合成を検討した。種々のルイス酸を

検討した結果、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを用いた場合に、これらの 1:1 錯体を定量

的に得ることができた (式 1)。X 線結晶構造解析により、この錯体は酸素がホウ素に配位した構造

を有することが分かった。さらに、ここで見出した最適条件を用いることで、様々な環骨格を有す

るトロピリウムの合成にも成功した。

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第二節 トリエノンとルイス酸の反応

まず、市販のジベンゾスベレノン (1a) をモデル基質として、トロピリウムの合成を検討した

(Table 1)。1a に対して等モル量のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを作用させて、0 oC で 30

分間攪拌したところ、1a とボランの 1:1 錯体 2a が定量的に得られた (Entry 1)。実験操作をより簡

便にするべく、反応条件のさらなる検討を行った。その結果、室温で反応時間を 2 分間に短縮して

も、同様に 2a が定量的に得られた (Entries 2–3)。さらに、空気中で反応を行っても、同じく 2a が

定量的に得られた (Entry 4)。ルイス酸として三フッ化ホウ素–ジエチルエーテル錯体、塩化アルミ

ニウム、塩化チタン、塩化ビスマス、塩化インジウム、五フッ化アンチモン、トリメチルシリルク

ロリド、t-ブチルジメチルシリルトリフラート、あるいは塩化ガリウムも検討したが、いずれも空

気中で安定なトロピリウムは得られなかった。

続いて、この反応の基質一般性を調べるために、基質となる種々のトリエノンの調製を行った。

ここでは、既知の手法を用いてトロポン (1b) あるいはトロポン誘導体 1c–1e の合成を行った。無

置換のトロポン (1b) は、シクロヘプタトリエンの二酸化セレンによる酸化によって合成した (式

2)1)。ベンゼン環が 1 個縮環した 1c は、1,3-アセトンジカルボン酸ジメチルと’-ジブロモ-o-キシ

レンとの反応で炭素 7 員環を構築した後、脱炭酸、ブロモ化、および脱臭化水素によって合成した

(Scheme 2) 2)。ベンゼン環が 2 個縮環した 1d は、2-ブロモベンズアルデヒドを出発物質とし、ボリ

ル化、鈴木カップリング、および分子内アルドール縮合によって合成した (Scheme 3) 3)。ベンゼン

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環が 3 個縮環した 1e は、1a を出発物質として 2 段階でアルケン部位をブロモ化し、フランとの

Diels-Alder 反応を鍵としてもう一つのベンゼン環を縮環させることで合成した(Scheme 4) 4)。

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次に、前節で得られた最適条件を用いて、トロポン誘導体 1 とトリス(ペンタフルオロフェニル)

ボランとの反応を行った。基質としてトロポン (1b) を用いた場合、速やかに反応が進行し、定量

的に 1:1 錯体 2b が得られた。また、ベンゼン環が 1–3 個縮環したトロポン誘導体 1a, 1c–1e におい

ても速やかに反応が進行し、1:1 錯体 2a, 2c–2e がそれぞれほぼ定量的に得られた (Table 2)。

また筆者は、カルボニル基の酸素原子を他のヘテロ原子に変えたトロポン誘導体についても基質

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として検討を行った。チオカルボニル基を有するトロポチオン誘導体 3 は、トロポン誘導体 1a に

対して Lawesson 試薬を作用させることで定量的に得た。3 に対してトリス(ペンタフルオロフェニ

ル)ボランを作用させたところ、反応溶液に色の変化が見られたものの、3 のみが定量的に回収され

た (式 3)。

第三節 トロピリウムの構造

得られた錯体 2a の構造解析は、X 線結晶構造解析により行った。2a の X 線構造では、酸素–ホ

ウ素間の距離が 1.58 Å で、酸素がホウ素に配位した構造を有していることが確認できた (Figure 1)。

また、2a の C1–O 間の結合距離は 1.27 Å であり、C=O 結合の一般的な距離である 1.23 Å から長く

なっていることから、C1–O 結合は二重結合性の弱いことが示唆された。さらに、七員環を構成す

る炭素–炭素結合の長さはそれぞれ 1.47 Å (C1–C2), 1.41 Å (C2–C3), 1.45 Å (C3–C4), 1.34 Å (C4–C5),

1.45 Å (C5–C6), 1.42 Å (C6–C7), および 1.46 Å (C7–C1) で、結合交替が小さいことも分かった

(Figure 2)。この結果から、2a は芳香族性を持ち、トロピリウム類似の構造を有することが示唆され

る。錯体 2b–2d についても同様に X 線結晶構造解析を行い、七員環を構成する炭素–炭素結合の結

合交替が小さいことを確認した (Figure 3–6)。また錯体 2e では、再結晶操作中に一水和物 2e’とな

っていることが分かった (Figure 7)。2e’でも 7 員環の炭素–炭素結合の結合交替が小さいことを確

認した (Figure 8)。また実際に、2e の重ジクロロメタン溶液に対して水を添加すると、2e’へ変化す

ることを NMR で確認できた (式 4)。

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参考文献

(1) Paquette, L. A.; Dahnke, K. R. Org. Synth. 1993, 71, 181.

(2) Paquette, L. A.; Ewing, G. D. J. Org. Chem. 1975, 40, 2965.

(3) Heo, J.-N.; Choi, Y. L.; Yu, C,-M.; Kim, B. T. J. Org. Chem. 2009, 74, 3948.

(4) Miao, Q.; Luo, J.; Song, K.; Gu, F.-L. Chem. Sci. 2011, 2, 2029.

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第三章 トロピリウムの発光特性

第一節 緒言

蛍光物質は、蛍光インク、有機エレクトロルミネッセンス (EL)、あるいはバイオイメージング

剤などとして広く利用されている。中でも、励起波長と蛍光波長の差であるストークスシフトが大

きい蛍光物質は、蛍光の自己吸収が起こり難く、蛍光プローブとして用いた際の定量性が向上する

といった長所があり、注目を集めている。ストークスシフトを大きくする手法としては、励起状態

における分子構造が変化するような分子設計を行う必要がある。励起後に分子がより安定な構造へ

変形すれば、励起状態と基底状態とのエネルギー差が減少し、長波長領域の発光を示すことになる。

Dorr らや安藤らのグループは、分子が励起状態においてエノール型からケト型への互変異性によっ

て分子内プロトン移動 (ESIPT) を示すように分子設計を行っている。また Grabowski らや山口・深

澤・東山らは、分子内電荷移動 (ICT) により電荷分離状態が形成されるような分子を設計している

(Scheme 6)2)。また山口らは、V 字型分子が励起状態で平面型へと構造変化する設計をしている

(Scheme 7)3)。筆者が第 2 章で合成した無色結晶錯体 2a に対し紫外光を照射したところ、緑色発光

が見られた。そのため 2a は、上述の分子と同様に大きなストークスシフトを示す物質であると考

え、合成した一連のトロピリウム 2 の発光特性を調べることにした。

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第二節 吸収および発光特性の評価

初めに、合成したトロピリウム 2のジクロロメタン溶液中での吸収スペクトルを測定した (Figure

9)。測定の結果、2b は、310 nm 付近に広範囲にわたる弱い吸収 ( ≈ 3×103 M-1cm-1) を示した。ま

た 2c では、263 nm を吸収極大とする強い吸収 ( ≈ 3×104 M-1cm-1) と 300 nm ( ≈ 1×104 M-1cm-1) お

よび 350 nm 付近に弱い吸収 ( ≈ 2×103 M-1cm-1)が見られた。2d は、273 nm を吸収極大波長とする

強い吸収 ( ≈ 7×103 M-1cm-1) と 340 nm 付近に弱い吸収 ( ≈ 1×104 M-1cm-1) を示した。2a では、258

nm ( ≈ 4×104 M-1cm-1) および 310 nm ( ≈ 1×104 M-1cm-1) を吸収極大とする強い吸収と 350 nm 付近

に弱い吸収 ( ≈ 2×103 M-1cm-1) が見られた。そして 2e は、277 nm を吸収極大とする強い吸収 ( ≈

4×103 M-1cm-1) と 330 nm 付近に弱い吸収 ( ≈ 2×103 M-1cm-1) を示した。

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続いて、トロピリウム 2 のジクロロメタン溶液中での発光スペクトルを測定した (Figure 10)。2b、

2c、2d、および 2e は青色発光を示し、それぞれ 409 nm (ex = 350 nm), 404 nm (ex = 390 nm), 428 nm

(ex = 390 nm), および 445 nm (ex = 350 nm) に最大発光ピークが観測された。2a は緑色発光が見ら

れ、501 nm (ex = 350 nm) に発光ピークが観測された。以上の測定結果から、合成したトロピリウ

0

1

2

3

4

5

6

7

250 270 290 310 330 350 370 390

/ 1

04 M

-1 c

m-1

Wavelength /nm

2b

2c

2d

2a

2e

390 410 430 450 470 490 510 530 550

Flu

ore

sc

en

ce

in

ten

sit

y

Wavelength / nm

2b

2c

2d

2a

2e

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ムの中でも 2a が最も長波長領域で発光を示し、150 nm もの大きなストークスシフトを持つことが

明らかになった (Table 2, Figure 11)。

0

1

2

3

4

5

250 300 350 400 450 500 550 600

/ 1

04 M

-1 c

m-1

Wavelength / nm

em = 351 nm

ex = 501 nm

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第三節 発光機構に関する考察

大きなストークスシフトを示したトロピリウム 2a について、量子化学計算によりその特異な発

光機構を調べた。まず簡略化のために、2a のホウ素上の三つのアリール基をフッ素に置換したジベ

ンゾスベレノン–トリフルオロボラン錯体 2a’をモデル化合物として計算を行った (Figure 12)。密度

汎関数法 (B3LYP/6-31G*) による 2a’の最適構造 (A) において、C1–C2, C2–C3, C3–C4, C4–C5, C5–

C6, C6–C7, C7–C1, および C1–O間の距離が 1.48, 1.42, 1.45, 1.35, 1.45, 1.43, 1.47, および 1.26 Åであ

り、X 線で求めた 2a の結晶の構造 (C1–C2: 1.47 Å, C2–C3: 1.41 Å, C3–C4: 1.45 Å, C4–C5: 1.34 Å, C5–

C6: 1.45 Å, C6–C7: 1.42 Å, C7–C1: 1.46 Å, C1–O: 1.28 Å) と良い一致を示した。また、一般的な B–O

単結合の距離 (1.36 Å) に対して 2a’ の B–O 単結合の距離は 1.70 Å と長く、結晶構造の値 (1.58 Å)

と似た傾向を示した。したがって、2a’は 2a のモデル化合物として適していると言える。また、時

間依存密度汎関数法 (TD-DFT, B3LYP/6-31G*) によって導いた 2a’の励起状態の最適構造 (B) では、

C–O 間距離は 1.30 Å と基底状態の 1.26 Å と比べて長くなり、B–O 間距離は 1.70 Å から 1.58 Å へ

と短くなった。さらに、構造 B の炭素 7 員環における C–C 結合の距離は 1.38–1.48 Å の範囲に入っ

ており、構造 A (1.35–1.48 Å) よりも結合交替が小さくなった。これらの結果は、2a の励起状態で

は炭素 7 員環上のカチオン性が増すことで、炭素 7 員環の芳香族性が増大して安定化することを示

唆する。また、基底状態 A からその構造を保ったまま励起状態 C へと変化させるのに必要なエネ

ルギーは 3.2 eV であり、励起状態 B の構造を保ちながら基底状態 (D) へと変化する際に発光によ

って放出されるエネルギーは 2.8 eV である (Figure 13)。つまり、励起時に吸収するエネルギーに比

べて発光によって放出されるエネルギーは 0.4 eV 小さくなる。すなわち 2a では、このエネルギー

を波長に換算した約 50 nm ほど、他の基質に比べてストークスシフトが増大したと解釈できる。

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参考文献

(1) a) Dorr, F. C.; Woolfe, G. J.; Melzig, M.; Schneider, S. Chem. Phys. 1983, 77, 213. b) Wakita, J.; Inoue,

S.; Kawanishi, N.; Ando, S. Macromolecules 2010, 43, 3594.

(2) a) Grabowski, Z. R. Pure Appl. Chem. 1993, 65, 1751. b) Yamaguchi, S.; Yamaguchi, E.; Wang, C.;

Fukazawa, A.; Taki, M.; Sato, Y.; Sasaki, T.; Ueda, M.; Sasaki, N.; Higashiyama, T. Angew. Chem., Int.

Ed. 2015, 54, 4539.

(3) Yamaguchi, S.; Yuan, C.; Saito, S.; Camacho, C.; Kowalczyk, T.; Irle, S. Chem. Eur. J. 2014, 20, 2193.

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第四章 実験項

General Information

1H NMR, 13C NMR, and 19F NMR spectra were recorded on a Bruker Avance 500 spectrometer and a

JEOL 400 spectrometer. Chemical shift values are given in ppm relative to internal Me4Si (for 1H NMR: =

0.00 ppm), CDCl3 (for 13C NMR: = 77.0 ppm), CD2Cl2 (for 1H NMR: = 5.32 ppm. and 13C NMR: =

54.0 ppm), and C6F6 (for 19F NMR: = 0.00 ppm). IR spectra were recorded on a Horiba FT-300S

spectrometer by the attenuated total reflectance (ATR) method. Melting points were measured on a Yanaco

micro melting point apparatus, and were uncorrected. UV-VIS spectra were recorded on a JASCO V-630

spectrometer. Fluorescence spectra were recorded on a HITACHI Hi-technologies F-4500. X-ray diffraction

study was performed on a Bruker APEXII ULTRA instrument equipped with a CCD diffractometer using Mo

K(graphite monochromated,= 0.71069 Å) radiation. The structure was solved by direct methods

(SIR97). The positional and thermal parameters of non-hydrogen atoms were refined anisotropically on F2

by the full-matrix least-squares method using SHELXS-97. Hydrogen atoms were placed at calculated

positions and refined with the riding mode on their corresponding carbon atoms. Theoretical Calculations

were performed with Gaussian 03 and Gaussian 09 packages.

Dichloromethane was purified by a solvent-purification system (GlassContour) equipped with columns of

activated alumina and supported-copper catalyst (Q-5) before use. Tris(pentafluorophenyl)boranewas

furnished as its toluene solution (15 wt%) by Tosoh F-Tech, Inc. dried under reduced pressure at room

temperature overnight, and stored in a glove box. Tropone derivatives 1a–1e were prepared according to the

literature procedures. 1) Unless otherwise noted, materials were obtained from commercial sources and used

directly without further purifications.

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Chapter 2

Preparation of Tropone derivativetris(pentafluorophenyl)borane 2

2,3:6,7-Dibenzotroponetris(pentafluorophenyl)borane 2a

Tropone derivative 1a (21 mg, 0.10 mmol) was dissolved in CH2Cl2 (1.0 mL). To the mixture was added

tris(pentafluorophenyl)borane (51 mg, 0.10 mmol) at room temperature. After stirring at room temperature

for 2 min, removing the solvent gave 2a (72 mg, quant.) as a white solid.

mp 118.6–120.1 °C. 1H NMR (500 MHz, CDCl3): 7.20 (s, 2H), 7.55 (ddd, J = 8.2, 7.1 1.3 Hz, 2H). 7.64

(dd, J = 7.9, 1.0 Hz, 2H), 7.74 (ddd, J = 7.9, 7.1, 1.3 Hz, 2H), 8.00 (dd, J = 8.2, 1.0 Hz, 2H). 13C NMR (126

MHz, CDCl3): 116.4 (brs), 129.2, 129.7, 131.3, 131.9, 133.7, 135.8138.0 (m), 135.9, 136.2,

139.0141.3m, 146.6148.8 (m)19F NMR (471 MHz, CDCl3): 0.34 (ddd, JFF = 22, 19, 8 Hz,

6F), 6.70 (t, JFF = 22 Hz, 3F), 27.8 (d, JFF = 19 Hz, 6F). IR (neat): 1516, 1458, 1099, 970, 802, 989, 727

cm–1.

The structure of 2a was confirmed by X-ray diffraction analysis (Table S1 and Chapter 2, Figure 1).

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Table S1. Crystal Data Collection Parameters for 2a

-----------------------------------------------------------------------------

compound 2a

-----------------------------------------------------------------------------

formula C33H10BF15O

crystal system Triclinic

space group P1

R, Rw (I > 2(I)) 0.0418, 0.1039

R1, wR2 (all data) 0.0510, 0.1099

GOF on F2 1.049

a (Å) 8.0801(18)

b (Å) 711.445(3)

c (Å) 17.145(4)

(deg) 88.371(3)

(deg) 79.728(3)

(deg) 76.628(2)

V (Å3) 1517.7(6)

Z 2

T (K) 120(2)

crystal size (mm) 0.56, 0.46, 0.24

Dcalcd (g/cm3) 1.666

2min, 2max (deg) 2.42, 55.14

-----------------------------------------------------------------------------

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Troponetris(pentafluorophenyl)borane 2b

Compound 2b was synthesized according to the procedure described for 2a using tropone (1b, 8.9 uL,

0.091 mmol), tris(pentafluorophenyl)borane (47 mg, 0.091 mmol), and CH2Cl2 (1.0 mL). Stirring at room

temperature for 2 min gave 2b (56 mg, 99%) as a white solid.

mp 200.6–202.0 °C. 1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): 7.96 (d, J = 11.1 Hz, 2H), 8.01 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 8.16

(m, 2H), 13C NMR (126 MHz, CD2Cl2): 118.9 (brs), 136.5138.7 (m), 139.5141.5 (m), 141.5, 143.4,

146.9, 147.5149.3m,19F NMR (471 MHz, CDCl3): 2.12 (s, 6F), 4.09 (t, JFF = 19 Hz, 3F), 28.5

(d, JFF = 23 Hz, 6F). IR (neat): 1516, 1461, 1375, 1093, 802, 980 cm–1.

4,5-Benzotroponetris(pentafluorophenyl)borane 2c

Compound 2c was synthesized according to the procedure described for 2a using tropone derivative 1c

(16 mg, 0.10 mmol), tris(pentafluorophenyl)borane (51 mg, 0.10 mmol), and CH2Cl2 (1.0 mL). Stirring at

room temperature for 2 min gave 2c (66 mg, 98%) as a white solid.

mp 117.1–119.8 °C. 1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): 7.64 (d, J = 12.0 Hz, 2H), 8.09 (dd, J = 6.0, 3.4 Hz, 2H).

8.20 (dd, J = 6.0, 3.4 Hz, 2H), 8.49 (d, J = 12.0 Hz, 2H). 13C NMR (126 MHz, CD2Cl2): 119.0 (brs), 131.2,

135.0, 136.6, 136.8138.7m, 138.5, 140.0141.5 (m), 140.0141.5 (m), 135.9, 147.5149.4 (m),

152.7.19F NMR (471 MHz, CD2Cl2): 2.16 (dd, JFF = 19, 20 Hz, 6F), 4.01 (t, JFF = 19 Hz, 3F), 28.6 (d, JFF

= 20 Hz, 6F). IR (neat): 1514, 1459, 1356, 1088, 978 cm–1.

The structure of 2c was confirmed by X-ray diffraction analysis (Table S2 and Chapter 2, Figure 2).

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Table S1. Crystal Data Collection Parameters for 2c

-----------------------------------------------------------------------------

compound 2c

-----------------------------------------------------------------------------

formula C29H8BF15O

crystal system Triclinic

space group P1

R, Rw (I > 2(I)) 0.0704, 0.1354

R1, wR2 (all data) 0.14755, 0.1695

GOF on F2 1.003

a (Å) 11.643(7)

b (Å) 12.820(8)

c (Å) 18.144(11)

(deg) 82.454(8)

(deg) 89.748(4)

(deg) 70.565(7)

V (Å3) 2530(3)

Z 4

T (K) 120(2)

crystal size (mm) 0.41, 0.11, 0.02

Dcalcd (g/cm3) 1.754

2min, 2max (deg) 2.26, 55.68

-----------------------------------------------------------------------------

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2,3:4,5-Dibenzotroponetris(pentafluorophenyl)borane 2d

Compound 2d was synthesized according to the procedure described for 2a using tropone derivative 1d

(11 mg, 0.055 mmol), tris(pentafluorophenyl)borane (28 mg, 0.055 mmol), and CH2Cl2 (0.5 mL). Stirring at

room temperature for 2 min gave 2d (39 mg, 99%) as a yellow solid.

mp 251.1–254.2 °C. 1H NMR (500 MHz, CDCl3): 7.21 (brs, 1H), 7.74 (m, 6H). 8.24 (d, J = 7.3 Hz,

1H), 8.29 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 8.78 (s, 1H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3): 117.5, 125.1, 130.0, 130.6, 131.1,

131.4, 132.7, 133.2135.4 (m), 133.8, 136.0138.1 (m), 136.1, 136.2, 138.1, 139.1, 140.0, 141.1,

146.9148.8m151.119F NMR (471 MHz, CD2Cl2): 0.75 (s, 6F), 5.87 (s, 3F), 29.1 (s, 6F). IR

(neat): 1516, 1458, 1286, 1099, 970 cm–1.

The structure of 2d was confirmed by X-ray diffraction analysis (Table S3 and Chapter 2, Figure 3).

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Table S1. Crystal Data Collection Parameters for 2d

-----------------------------------------------------------------------------

compound 2d

-----------------------------------------------------------------------------

formula C34H12BCl2F15O

crystal system Monoclinic

space group P 21/c

R, Rw (I > 2(I)) 0.0343, 0.0797

R1, wR2 (all data) 0.0455, 0.0856

GOF on F2 1.035

a (Å) 11.584(2)

b (Å) 11.390(2)

c (Å) 23.367(4)

(deg) 90

(deg) 100.915(2)

(deg) 90

V (Å3) 3027.4(10)

Z 4

T (K) 120(2)

crystal size (mm) 0.35, 0.12, 0.04

Dcalcd (g/cm3) 1.762

2min, 2max (deg) 3.56, 55.24

-----------------------------------------------------------------------------

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2,3:4,5:6,7-Tribenzotroponetris(pentafluorophenyl)borane 2e

Compound 2e was synthesized according to the procedure described for 2a using tropone derivative 1e

(26 mg, 0.10 mmol), tris(pentafluorophenyl)borane (51 mg, 0.10 mmol), and CH2Cl2 (1.0 mL). Stirring at

room temperature for 2 min gave 2e (77 mg, quant.) as a white solid.

1H NMR (500 MHz, CDCl3): 7.42 (ddd, J = 7.5, 7.2, 1.4 Hz, 2H), 7.48 (dd, J = 7.7, 1.4 Hz, 2H), 7.54 (dd,

J = 5.9, 3.4 Hz, 2H) 7.627.67m, 4H7.76 (d, J = 7.9 Hz, 2H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3): 116.4,

126.2, 128.1, 128.8, 129.5, 131.1, 132.6, 135.9, 136.1137.9 m137.6, 139.2141.3 m141.3,

146.8148.7m202.8. 19F NMR (471 MHz, CD2Cl2): 1.40 (ddd, JFF = 24, 21, 8 Hz, 6F), 5.71 (t, JFF =

21 Hz 3F), 26.8 (dd, JFF = 24, 8 Hz, 6F).

The structure of 9 was also confirmed by X-ray diffraction analysis (Table S1 and Chapter 2, Figure 1).

2,3:4,5:6,7-Tribenzotroponetris(pentafluorophenyl)borane monohydrate 2e’

In NMR tube, H2O (excess) was added to CDCl3 solution of 2e at room temperature. Hydrate 2e’ was

detected by NMR spectroscopy.

1H NMR (500 MHz, CDCl3): 3.53 (brs, 5H), 7.46 (d, J = 7.8, 7.3 Hz, 2H), 7.52 (dd, J = 5.9, 3.4 Hz, 2H).

7.587.63m, 4H7.66 (dd, J = 6.0, 3.2 Hz, 2H), 7.74 (d, J = 7.8 Hz, 2H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3):

117.5, 126.1, 128.1, 128.6, 129.4, 131.1, 132.7, 132.2, 132.5, 136.0138.0 m 137.5, 139.2141.3

m146.8148.8m151.119F NMR (471 MHz, CD2Cl2): 1.49 (s, 6F), 5.68 (t, JFF = 22 Hz, 3F), 26.6 (d,

JFF = 22 Hz, 6F).

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Table S2. Crystal Data Collection Parameters for 2e’

-----------------------------------------------------------------------

compound 2e’

-----------------------------------------------------------------------

formula C37H12BF15O

crystal system Monoclinic

space group P 21/c

R, Rw (I > 2(I)) 0.0474, 0.1514

R1, wR2 (all data) 0.0590, 0.1604

GOF on F2 1.109

a (Å) 13.552(3)

b (Å) 17.789(4)

c (Å) 13.455(3)

(deg) 90.00

(deg) 109.334(3)

(deg) 90.00

V (Å3) 3060.7(11)

Z 4

T (K) 120(2)

crystal size (mm) 1.46, 0.90, 0.90

Dcalcd (g/cm3) 1.757

2min, 2max (deg) 3.18, 55.1

-----------------------------------------------------------------------

参考文献

(1) a) Paquette, L. A.; Dahnke, K. R. Org. Synth. 1993, 71, 181. b) Paquette, L. A.; Ewing, G. D. J. Org.

Chem. 1975, 40, 2965. c) Paquette, L. A.; Ewing, G. D. J. Org. Chem. 1975, 40, 2965. d) Heo, J.-N.;

Choi, Y. L.; Yu, C,-M.; Kim, B. T. J. Org. Chem. 2009, 74, 3948.

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第五章 総括

本論文で筆者は、環状共役トリエノン 1 とルイス酸によるカチオン性芳香族化合物 2 の合成に成

功した。また、2 が有する特異な発光特性を見出し、その発光機構を考察した。

第二章では、ジクロロメタン溶媒中、トロポン類 1 に対してトリス(ペンタフルオロフェニルボ

ラン)を作用させることで、1:1 錯体 2 を簡便かつ効率的に合成した。さらに、この錯体は空気中で

も安定であることが分かった。X 線結晶構造解析により、この錯体は酸素がホウ素に配位した構造

を有し、トロピリウム類似の構造を持つことが分かった。

第三章では、合成したトロピリウム 2 の吸収および発光特性について解析を行った。その結果、

2 は紫外光を吸収して可視光の発光を示すことが分かった。ジベンゾスベレノンから合成した錯体

2a においては、特に大きなストークスシフト (~150 nm) を示すことが明らかになった (Figure 1)。

量子化学計算の結果により、励起状態において 2 の構造が大きく変化することが分かり、これが大

きなストークスシフトの原因と考えている。

以上のように、トロポン誘導体に対してルイス酸を作用させることで、簡便かつ効率的なトロ

ピリウムの合成法を確立した。合成したトロピリウムは特異な発光特性を示すことから、有機 EL

やバイオイメージング剤などの機能性材料としての応用が期待できる。

0

1

2

3

4

5

250 350 450 550

/ 1

04

M-1

cm

-1

Wavelength /nm

em = 351 nm

ex = 501 nm

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謝辞

本研究を行うにあたり、有益かつ熱心なご指導、ご鞭撻を賜わり、また快適な研究環境を与えて

下さいました、本学教授 市川 淳士 先生に心より感謝致します。

また、本研究を行うにあたり、化学的考察技術および実験操作を懇切丁寧にご指導下さいました、

本学准教授 渕辺 耕平 博士に深く感謝致します。

本研究を進めるにあたり、直接指導を賜わり、適切な助言によって研究を支えて下さいました、

本学助教 藤田 健志 博士に心から御礼申し上げます。

著者が研究室に配属されてから、実験や研究姿勢を教えて頂いた諸先輩方、研究の苦楽を共にし

た同輩、後輩の皆様に深く感謝致します。

最後に、筆者の研究生活を精神的に支えてくれた両親、姉、祖母、親戚の方々、友人にこの上な

く感謝致します。

2017 年 2 月