石油産業法案(pib)と米シェールオイルに揺れる...

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Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に 含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一 切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2012/12/13 石油調査部:竹原 美佳 石油産業法案(PIB)と米シェールオイルに揺れるナイジェリア ナイジェリアは深海油田開発を進め、2020 年までに生産量を 400 万 b/d とする増産目標を設定して いるが、石油窃盗団の設備破壊に起因する出荷障害リスクや米国の需要減少リスクを抱えている。 米シェールオイル増産に伴い、サウジアラビアなどの中東原油ではなくシェールオイルと同等の軽 質低硫黄原油であるナイジェリアが直撃を受けている。 メジャーズのナイジェリアへの投資はニジェールデルタから深海に軸足を移しつつあるが、ここ数年 メジャーズの深海投資は石油産業法案(Petroleum Industry Bill:PIB)により停滞している。入札も 2008 年以降行われていない。 政府は透明性向上や法規制の明確化など PIB の意義を強調しているが、天然ガス開発事業への課 税強化やこれまで減免されてきた深海や天然ガスへのロイヤルティの変動リスクに対し、Shell 等の IOC は投資が停滞すると懸念を表明している。LNG 事業については法人税が免税となるインセンテ ィブが与えられているが、天然ガス開発事業が滞れば原料ガスが確保できず液化事業が進まない 可能性がある。 中国 SINOPEC が Total の油田資産買収で合意。Addax 買収に続きナイジェリアにおけるプレゼンス を拡大した。同社は資産・企業買収によりサブサハラにおける石油開発主要事業者の一角に食い 込んだ。 1.ナイジェリアの増産目標に立ち塞がる課題 ナイジェリアはアフリカ最大(世界 12 位)の産油国 1 で OPEC に加盟しており、石油生産量(2011 年)は 246 万 b/d(うち 215 万 b/d が原油)である。ナイジェリアは生産の 9 割を主に米国や欧州に輸出している。 特に米国向けが 4 割と高い。ナイジェリアにおける主な生産地域は同国南西部のニジェールデルタで国 営石油会社 NNPC が Shell、ExxonMobil、Chevron、Eni、Total などの IOC と共同事業協定(ジョイント・ベ ンチャー;JV)にもとづき生産を行っている(図1)。同国生産の 6 割はこの利権契約(JV)によるものであ る。海洋における探鉱開発は主に PS 契約にもとづいている。 ナイジェリア政府は 2020 年までに石油埋蔵量 400 億バレルを確認し、生産量を 400 万 b/d とする目 標を設定している(2010 年に同様の目標を設定したが未達)。深海油田生産量は生産量全体の3 割程度 だが、 深海油田の開発を梃とした目標達成を目指している。石油は輸出収入の 8 割、政府収入の 4 割を 1 アフリカの原油生産量は世界の生産量の約1割、ナイジェリアの生産量はアフリカの 4 分の 1

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に

含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら

かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2012/12/13

石油調査部:竹原 美佳

石油産業法案(PIB)と米シェールオイルに揺れるナイジェリア

ナイジェリアは深海油田開発を進め、2020年までに生産量を 400万b/dとする増産目標を設定して

いるが、石油窃盗団の設備破壊に起因する出荷障害リスクや米国の需要減少リスクを抱えている。

米シェールオイル増産に伴い、サウジアラビアなどの中東原油ではなくシェールオイルと同等の軽

質低硫黄原油であるナイジェリアが直撃を受けている。

メジャーズのナイジェリアへの投資はニジェールデルタから深海に軸足を移しつつあるが、ここ数年

メジャーズの深海投資は石油産業法案(Petroleum Industry Bill:PIB)により停滞している。入札も

2008年以降行われていない。

政府は透明性向上や法規制の明確化など PIBの意義を強調しているが、天然ガス開発事業への課

税強化やこれまで減免されてきた深海や天然ガスへのロイヤルティの変動リスクに対し、Shell 等の

IOCは投資が停滞すると懸念を表明している。LNG事業については法人税が免税となるインセンテ

ィブが与えられているが、天然ガス開発事業が滞れば原料ガスが確保できず液化事業が進まない

可能性がある。

中国SINOPECがTotalの油田資産買収で合意。Addax買収に続きナイジェリアにおけるプレゼンス

を拡大した。同社は資産・企業買収によりサブサハラにおける石油開発主要事業者の一角に食い

込んだ。

1.ナイジェリアの増産目標に立ち塞がる課題

ナイジェリアはアフリカ最大(世界12位)の産油国1でOPECに加盟しており、石油生産量(2011年)は

246万b/d(うち215万b/dが原油)である。ナイジェリアは生産の 9割を主に米国や欧州に輸出している。

特に米国向けが4割と高い。ナイジェリアにおける主な生産地域は同国南西部のニジェールデルタで国

営石油会社NNPCが Shell、ExxonMobil、Chevron、Eni、Totalなどの IOCと共同事業協定(ジョイント・ベ

ンチャー;JV)にもとづき生産を行っている(図1)。同国生産の 6 割はこの利権契約(JV)によるものであ

る。海洋における探鉱開発は主に PS契約にもとづいている。

ナイジェリア政府は 2020年までに石油埋蔵量 400億バレルを確認し、生産量を 400万 b/d とする目

標を設定している(2010年に同様の目標を設定したが未達)。深海油田生産量は生産量全体の3割程度

だが、深海油田の開発を梃とした目標達成を目指している。石油は輸出収入の 8割、政府収入の 4割を

1 アフリカの原油生産量は世界の生産量の約1割、ナイジェリアの生産量はアフリカの4分の1

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かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

占めており、国家財政の石油への依存度が高い。国営石油会社NNPCは石油収入を国庫に納入してお

り、毎年 JVにおける負担額(キャッシュ・コール)を政府に予算要求しなければならない。2012年の支払

い額は 127億ドルであった。2013年についてNNPCは政府に 138.4億ドルを請求した。油価 75ドル/

bbl、生産量 245.5万 b/d 石油収入 436億ドル(グロス収入 672億ドル、ナイジェリア政府取り分が 65%と

いう前提である。しかしナイジェリアは米国の需要減少リスクならびに組織的な石油窃盗による関連設備

破壊に起因する生産停止・出荷障害など様々な課題を抱えている。

各種情報にもとづき作成

図1:ナイジェリアにおける主な石油・天然ガス田と出荷ターミナル

(1)米シェールオイル増産によりナイジェリアの米向け原油輸出に影響

ナイジェリアにとり最大の石油輸出相手国である米国向けの輸出が 2012 年に半減した。米エネルギ

ー省エネルギー情報局(EIA)によると、今年米国はシェールオイル(タイトオイル)の生産量が約 80 万

b/d増え、純輸入量は前年比12%(約100万b/d)減少している。米国の石油輸入上位5か国(カナダ、メ

キシコ、サウジアラビア、ナイジェリア、ベネズエラ)の1-9月の石油輸入量増減を比較したところ、ナイジ

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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ェリアからの輸入は 11年 1-9月2の 88万 b/d(ナイジェリア生産量の約 4割)から 12年 1-9月は 45万

b/dと半減した(図2)。他の4か国をみると、メキシコやベネズエラからの輸入も落ちているがナイジェリア

に比べ下落率は低く、カナダやサウジアラビアからの輸入量は逆に増えている(図3)。米シェールオイ

ル増産に伴い、サウジアラビアなどの中東高硫黄原油ではなく、シェールオイルとほぼ同等の軽質低硫

黄原油であるナイジェリアが最も影響を受けた。

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1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

2009年 2010年 2011年 2012年

千バレル/日

図2:米国のナイジェリアからの原油輸入推移(2009年~2012年9月)

Source:EIA

-50%

-30%

-10%

10%

30%

09/10年

1-9月

10/11年

1-9月

11/12年

1-9月

Source:EIAにもとづき作成

2米国のナイジェリアからの原油輸入実績(2011年)は 82万b/d

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図3:米国の原油輸入上位5か国の輸入増減推移(2009年 1-9月~12年1-9月)

それではナイジェリアの原油はどこに向かったのか。ナイジェリアの統計によると、2011年第 1四半期

以降オランダ、イタリアなどの欧州地域ならびにインド向けの輸出が伸びている(図4)。これはイラン原

油の輸入削減によるものと思われる。2012年初頭に米国がイラン原油輸入国に対し輸入削減を要請した

他、同年1月に EUが 2012年7月1日から EU加盟国による原油輸入の禁止を決定した。これにより関

係国のイランからの原油輸入は減少しており、2012年7月にはイランからの原油輸出は 110万b/d程度

と 2011年の水準の半分に減少したと推定されている3。

イラン原油は硫黄分が高く、ナイジェリアの軽質低硫黄原油とは性状が異なるが、インドや欧州はイラ

ン原油の代替としてナイジェリア原油により必要量を確保したのではないかと思われる。一方、カナダは

2012年第1四半期にナイジェリアからの石油輸入を大きく減らした。これはカナダの石油輸出がナイジェ

リア同様米国のシェールオイル増産の影響を受けているためと思われる。

現在ナイジェリアの原油輸出は欧州やインドの代替需要が米向けの輸出減を補う形となっているが、

イランの原油禁輸措置が解除された後にナイジェリアは米国の需要減リスクと直面することになるのでは

ないか。ちなみに今年ベネズエラから中国向けの輸出が約8万b/d増えた。これは公的融資返済に伴う

輸出の増加であると思われるが米国のベネズエラからの輸入減少分とほぼ同量増えており興味深い。

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30

40

2010年1~6月 2011年1~6月 2012年1~6月

万b/d

3 原油市場他:欧州によるイランからの原油輸入禁止、そして欧州債務問題対策や中国での景気刺激策に対する期待で回復する原油価格

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Source:NNPC

図4:ナイジェリアの国別原油輸出比較(一部抽出)

(2)石油窃盗団の設備破壊等に起因する出荷トラブル

米国の輸入減はナイジェリアの原油輸出を巡る問題の一つに過ぎず、むしろ石油窃盗によるパイプラ

イン等設備の損壊による生産停止や出荷の遅れはナイジェリアの増産目標達成にあたり課題と言える。

2012年にナイジェリアは洪水により10月以降生産が最大で50万b/d程度落ち込んだ(図5)。生産は

回復基調にあるが洪水による出荷の遅れは来年 1月まで続く見通しである。石油の窃盗被害はさらに深

刻である。ナイジェリア石油資源省(DPR)は同国原油の 18~25 万 b/d が盗まれており、国家の損失は

70 億ドル/年にのぼると表明している。石油泥棒は組織的に行われており、輸送パイプラインに非合法

なバルブを取り付け簡易製油所で処理している。Shell の現地操業 SDPC の推計によると、2006~2010

年に同社施設で起きた石油流出事故の 75%以上は破壊、盗掘、非合法な精製によるものであり、石油泥

棒は同国の経済だけではなく環境にも深刻なダメージを与えている。

Source:IEA

図5:ナイジェリアにおける原油生産推移

2.PIBによる財務条件変更で深海油田開発や天然ガス投資に不透明性

メジャーズのナイジェリアへの投資はニジェールデルタから深海に軸足を移しつつあるが、ここ数年メ

ジャーズの深海投資は石油産業法案(Petroleum Industry Bill:PIB)問題により停滞している。

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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

PIB は上流から下流までを網羅した法案で、石油・ガス産業の改革を図るため、管理体制と法規制を

見直すものである。2008年から審議が行われており、2012年7月には17回目の修正案が議会に提出さ

れ、現在も審議中である。ナイジェリアでは同法案不成立により入札も 2008年以降行われていない。

政府は PIB により①業界の透明性強化、②政策、規制、商業ルールの明確化、③天然ガスを石油の

付属物ではなく単独で扱う、④国営石油会社、ガス会社設立による収益性向上、⑤HSE への配慮が実

現できるなどの意義を強調している。しかし企業側は投資が滞ると反発している。2012 年 9 月、ラゴス商

工会議所(The Chamber of Commerce and Industry)Oil Producers Trade Section(OPTS)傘下企業(Shell、

Exxon、Chevron、Total、Addax)は PIBが通過した場合深海への投資は皆無となり、JVへの投資が 7割

ダウンすると表明している。法案は利害関係者の意見を入れ修正を重ねているが、今回も成立するか定

かではない。本稿では本法案が成立した場合の石油探鉱や LNG事業への影響について述べる。

(1)石油産業法案(PIB)のポイント:国営石油会社

PIB により国営石油会社が改変されるが、これは投資を抑制するものではなさそうである。一時政府は

ベネズエラ同様 JVを法人企業化することを検討していたが、現在の法案は JVの形態はこれまでと変え

ず、共同事業協定にもとづくものとなっている。JV におけるナイジェリア権益(資産)は、持ち株会社

National Petroleum Assets Management Corporation(NPAMC)子会社の National Petroleum Assets

Management Corporation Ltd.(NPAMCL)に移管される(図6)。石油大臣がNPAMCLの株式1%を保有

し、会長となる。NPAMCLはこれまで同様、パートナーである IOCと非法人の共同事業協定を結び操業

を行う。また JVにおける負担額(キャッシュ・コール)を毎年政府に予算要求する。PS契約のナイジェリア

権益についてはNNPC傘下の探鉱開発子会社NPDCからNational Oil Company Ltd.(NOC)に、ガス事

業についてはNational Gas Company Ltd.(NGC)がそのまま継承する形となる模様である。NOCならび

に NGCはノルウェーの Statoilやブラジル Petrobras等の国営石油会社をモデルとし、市場から資金調

達を行い、税金やロイヤルティを政府に納める企業とする構想である。PIB成立後一定期間内にナイジェ

リア株式市場で一部株式を公開する計画である。

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Source:Wood Mackenzie“A review of Nigeria’s Petroleum Industry Bill” 他にもとづき作成

図6:ナイジェリア PIB後の国営石油会社

(2)PIB問題で深海油田開発や天然ガス投資の不透明性高まる

PIB により財務条件は大きく変わる。まず従来の石油利潤税(Petroleum Profit Tax)を炭化水素税

(Nigerian Hydrocarbon Tax)に改め、これまで非課税であった深海のガス事業にも炭化水素税が適用さ

れる。また法人税(Companies Income Tax)が導入される。これにより、陸上・浅海や深海・フロンティアの

石油開発事業への課税率に大きな変化は生じないが、天然ガス開発事業については大幅な増税となる。

ガスの比率が高いフィールドは影響を受ける(図 7)。また、産油地帯コミュニティ向け基金(Petroleum

Host Communities Fund)が設立され、税引き後の純利益の 10%を納めなければならない。PS 契約につ

いては優遇税制(生産控除)が認められているものの企業の負担は総じて増加する。

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Source:図4と同じ

図7:ナイジェリア PIB後の炭化水素税・法人税

またロイヤルティについて大きく変わる。これまで深海の石油開発事業ならびにガス事業はロイヤル

ティが免除あるいは低く抑えられていたが、PIB ではロイヤルティは別途政府規定で定めるとしており、

政府は油価・ガス価ならびに生産量に応じた料率への見直しを検討しており、今後は課税・増税となる見

通しである。また投資決定後に変動するリスクがあり、企業は巨額の深海油田開発や天然ガス開発投資

の決定を行うことが難しくなると言える。

利権契約 生産エリア ロイヤルティ(現行)

原油 内陸 10%

陸域 20%

沖合(水深200m以内) 16.5~18.5%

(水深201~500m) 8~12%

(水深501~1,000m) 4~8%

(水深1,000m超) 0%

ガス 陸域 7.5%

沖合(水深200m以内) 5%

(水深200m超) 0%

Source:石油・天然ガス開発資料、 Wood Mackenzie資料にもとづき作成

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図8:ナイジェリアのロイヤルティ(現行)

(3)PIBにより LNG事業への投資は進むか?

LNG事業については法人税が免税となるインセンティブが与えられており、原料ガスが安定的に確保

できれば、長らく停滞していた Brass LNG等のガス中下流事業が進展する可能性がある。

ナイジェリアではインフラ不足から大量の随伴ガスを焼却処理(フレア)している。政府は天然ガスのマ

ネタイズ、温室効果ガス排出抑制という観点から、2008 年以降、数度に亘りフレアの全面禁止という政策

を打ち出している。フレアのペナルティを 6¢/Mcf に引き上げるなど対策を打ち出しており、企業はフ

レア抑制ならびにインフラ構築に努めている。しかしGlobal Gas Flaring Reduction (GGFR) によると、ナ

イジェリアはロシアに次ぐ第2のフレア排出国である4。また、政府は国内向けガス供給プロジェクト“ガス

マスタープラン”によりガスの国内供給(メタノール、GTL、化学肥料、IPP、LNG 向け)を強化する計画を

進めている。しかし PIB はガス事業への課税が強化されており、短期的な政府増収にはつながっても、

天然ガスの供給強化にはむしろ逆効果となり、LNG 事業が十分な原料ガスを確保できず事業が遅延す

る懸念がある。

参考:ナイジェリアにおける天然ガス事情

ナイジェリアはアフリカでアルジェリア、エジプトにつぐ第3位の産ガス国であり、アルジェリアにつぐア

フリカ第 2位の LNG輸出国である。現在リバーズ州ボニー島の液化施設NLNGプラント(液化能力 1~

65トレイン計2,200万トン/年)が稼働中で、2011年に 259億m3/年(LNG約1,900万トン)を輸出してい

る。輸出の約 7割は欧州向けである。ナイジェリアでは NLNGの増強計画に加え、Brass LNG(500 万ト

ン/年2トレイン、計 1,000万トン/年、NNPC49%、 ConocoPhillips、Eni、Total 各 17%)などの新規 LNG

液化プラントの建設計画ある(図9)。これらの計画が実現した場合、同国の LNG 供給能力は 4,000 万ト

ン/年(天然ガス約 550 億 m3/年)を超える見通しである(図9)。LNG 事業の他、ナイジェリアからガー

ナ、トーゴ、ベニン向けのWest Africa Gas Pipeline(WAGP;総延長678km、設計輸送能力470MMcfd)が

建設されたが、原料ガスの不足によりほとんど稼働していない。またナイジェリアはアルジェリア経由欧

州向けの Trans Sahara Gas Pipeline(TSGP;総延長4,300km、設計輸送能力2.9Bcfd)建設について検討

し、ロシアGazpromが一時関心を示していたが、本計画は進展していない。Chevronが進める Escravos

4 1位ロシア3.6Bcfd、2位ナイジェリア1.4Bcfd、3位イラン1.1Bcfd 5 第6トレインは原料ガスの不足により未出荷

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かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

GTLプラント(能力33,000 b/d、325MMcfdの天然ガスを用い軽油、ナフサ、LPGを製造)は2010年稼働

予定であったが遅延しており、2013年稼働を目指している。

図9:ナイジェリアにおける稼働・計画中の LNG液化プラント

3.中国SINOPECが資産・企業買収によりサブサハラにおけるプレゼンス拡大

~SINOPEC、Addax買収に続き Total深海油田買収へ~

2012年11月、Sinopecは TotalとOML138(Usan油田)権益 20%を 25億ドルで買収することについて

合意した。Usan油田のプラトーは 18万 b/d、現在 9~12万 b/dを生産中である。OML138は利権契約

で NNPCが利権ホルダーであり、その他のパートナーは Chevron・Exxonが各 30%、加 Nexenが 20%を

保有している。Nexenは現在CNOOCが買収を進めており(2012年 12月 7日、カナダ政府は買収を承

認)、買収完了後、CNOOCと Sinopecを合わせOML138の中国企業保有権益が 40%に達する見通しで

ある。

Sinopecは資産・企業買収によりナイジェリア、サブサハラにおけるプレゼンスを拡大している。2005年

にアンゴラ国営Sonangolと共同で深海Block18権益50%を取得した。また、2009年に中国の石油産業史

上としては最高の買収額(約 88億ドル)でスイス Addaxを買収、ナイジェリア、ガボンの生産中鉱区でオ

ペレーターシップを取得した。サブサハラにおける石油・ガス生産事業者上位 10 社の一角に食い込ん

でいる。