神戸発「分かる授業」の 実践5 声 ・全教員による 「私の 研究テーマ...

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4 分科会 会 場 10階ホール 参加人数 102名 テーマ 神戸発「分かる授業」の実践 ●実践発表(1)語彙指導のためのさまざまな手だて、表現力を育成するための各学年の実践例を 中心に、小学校「分かる授業拠点校」としての取組の発表 ●実践発表(2) 「ことばひろがる よみときブック」の計画的な活用により、全教科で言語力(読 解力)の育成をめざした取組についての発表 ●実践発表(3)各種アンケートの活用、授業力向上・研修の活性化のための「私の研究テーマ」 の設定、自主学習ノート、保護者への情報発信、校区内小学校との連携等、中学 校「分かる授業拠点校」としての多角的な取組の発表 ●おもな質問 (稗田小へ) ・意味マップを使った授業で、子どもがありえない発想をしてしまった時の対応は。 (多聞南小へ) 「よみときブック」の年間活用計画について。この実践で子どもについた力とは何か。 「読んで考えて書く」指導のポイントとして、どのような上位目標を考えられているのか。 (本多聞中へ) ・学習面での小中連携の難しさ、特に共通課題の設定の難しさを感じている。進め方のヒント を教えてほしい。 「私の研究テーマ」はどのように授業に生かされているのか。 ・教育計画等の保護者への配布は参考になったが、配布後の保護者の反応はどうなのか。 ●助言 兵庫県立大学 藤原 顕教授 (稗田小の実践発表について) 「手だてを軸にした」実践。語彙力を育てるための豊富な手だてを紹介。単に言葉の力だけ でなく、言葉を使っての表現力につなげていこうとしている。拠点校として、実践研究テー マを系統的に展開している点は、各校のテーマ作りの参考になるだろう。 ・言葉で自己表現する力は生きる力の根本であり、それをどのように耕していくのかが課題。 今後、語彙指導のデータベース化も検討されたらどうか。 (多聞南小の実践発表について) 「教材を軸にした」実践。 「よみときブック」の活用では、年間指導計画をもとに指導のタイ ミングを考え、展開についても学校独自の思い切った工夫をされている。この教材は、教科 横断的な読解力育成の試みであり、根拠をもとに述べたり、熟考、評価したりする力を育成 しようとする、神戸市的に言えば「読んで考えて書く力」を育てようとする教材である。 「分かる授業」に特化したプロジェクトチームを作り、子どもや授業について話し合う場を 多くしている。同僚性を高めるいい取り組みである。 (本多聞中の実践発表について) 「授業研究を軸にした」実践。校内研究体制をきちんと組み立ててあり、学校組織の中で「分 かる授業」の位置づけがしっかりなされている。

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分科会 1 会 場 10階ホール 参加人数 102名

テーマ 神戸発「分かる授業」の実践

内 容

●実践発表(1)語彙指導のためのさまざまな手だて、表現力を育成するための各学年の実践例を

中心に、小学校「分かる授業拠点校」としての取組の発表

●実践発表(2) 「ことばひろがる よみときブック」の計画的な活用により、全教科で言語力(読

解力)の育成をめざした取組についての発表

●実践発表(3)各種アンケートの活用、授業力向上・研修の活性化のための「私の研究テーマ」

の設定、自主学習ノート、保護者への情報発信、校区内小学校との連携等、中学

校「分かる授業拠点校」としての多角的な取組の発表

●おもな質問

(稗田小へ)

・意味マップを使った授業で、子どもがありえない発想をしてしまった時の対応は。

(多聞南小へ)

・ 「よみときブック」の年間活用計画について。この実践で子どもについた力とは何か。

・ 「読んで考えて書く」指導のポイントとして、どのような上位目標を考えられているのか。

(本多聞中へ)

・学習面での小中連携の難しさ、特に共通課題の設定の難しさを感じている。進め方のヒント

を教えてほしい。

・ 「私の研究テーマ」はどのように授業に生かされているのか。

・教育計画等の保護者への配布は参考になったが、配布後の保護者の反応はどうなのか。

●助言 兵庫県立大学 藤原 顕教授

(稗田小の実践発表について)

・ 「手だてを軸にした」実践。語彙力を育てるための豊富な手だてを紹介。単に言葉の力だけ

でなく、言葉を使っての表現力につなげていこうとしている。拠点校として、実践研究テー

マを系統的に展開している点は、各校のテーマ作りの参考になるだろう。

・言葉で自己表現する力は生きる力の根本であり、それをどのように耕していくのかが課題。

今後、語彙指導のデータベース化も検討されたらどうか。

(多聞南小の実践発表について)

・ 「教材を軸にした」実践。 「よみときブック」の活用では、年間指導計画をもとに指導のタイ

ミングを考え、展開についても学校独自の思い切った工夫をされている。この教材は、教科

横断的な読解力育成の試みであり、根拠をもとに述べたり、熟考、評価したりする力を育成

しようとする、神戸市的に言えば「読んで考えて書く力」を育てようとする教材である。

・ 「分かる授業」に特化したプロジェクトチームを作り、子どもや授業について話し合う場を

多くしている。同僚性を高めるいい取り組みである。

(本多聞中の実践発表について)

・ 「授業研究を軸にした」実践。校内研究体制をきちんと組み立ててあり、学校組織の中で「分

かる授業」の位置づけがしっかりなされている。

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・全教員による「私の研究テーマ」設定は、個々の教員が研究テーマを持ち、教科の壁を越え

て研究しようとする実践。教師アンケートを見ると、授業のこと、教育のことを教師間でよく

話し合っていることが分かる。

(全体として)

・ 「分かる授業」へのアプローチは、指導の手だて、教材、授業づくりなど切り口は様々あるが、

一点突破していくという発想が大切。「分かる授業」と他の実践との関連を明らかにし、学校

全体の教育実践の中に授業づくりを位置付けることが大切である。

・授業づくり、学校づくり、教師づくりの三位一体。授業づくりと学校づくり、授業づくりと教

師づくり、学校づくりと教師づくりの視点から、「分かる授業」づくりを支えるシステム構築

や授業研究の活性化を考えていきたい。

《 参加者アンケートより 》

○小学校の実践は、とても参考にな

るもので、若い先生方に具体的な手立

てとして紹介し、私たちも今後の実践にいかした

いと思いました。中学校の実践は、小中連携がと

ても充実しておられたところに、今、自分たちが

職員全体をその気にさせるというところで苦しん

でいるので、とても参考になりました。

(小学校教員)

○語彙のネットワークから詩作りの発展は、すぐこれからに生かせそうで良かったです。「よみ

ときブック」の年間指導計画をどうしていったらいいのかと思っていたので、3~6年までの

例を発表していただけたことが、とても参考になりました。 (小学校教員)

○指導助言の藤原先生のわかりやすい説明で、 3校のすばらしい実践がより具体的・焦点化され、

わかりやすく頭に入った。本校でも参考にさせていただこうと考えています。(小学校教員)

○各学校の実践がわかり、良い情報交換になったし、具体的な話でよくわかった。ただ、分野が

似通っていたように思う。多くの方面から「分かる授業」を推進していると思うので、今後、数

多くの実践を紹介してほしいと思った。 (小学校教員)

○本校に取り入れることがたくさんあり、参考になりました。チームワーク力、ねらいを持つこ

と等、今の取組の上に、さらにパワーアップし

たいと思いました。 (小学校教員)

○各学校での「分かる授業」の実現のための工夫

や方法がよくわかりました。実施できるものは

取り入れたいと思いました。学校へもどって使

える資料がいくつかあって良かった。

(中学校教員)

第1分科会 物足りな

かった, 2.1%

やや物足り

なかった,

4.3%

たいへん良

かった, 23.4%

良かった,

70.2%

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第1分科会(1)

「分かる授業」稗田小学校の実践~言葉は知的活動の基盤 コミュニケーションや情緒・感性の基盤~

稗田小学校 水田 由美子

1.はじめに

本校は児童数518名、18学級(普通16、特別支援2)教員数26名の中規模校で、灘区阪急王

子公園駅の東に位置している。北部は水道筋商店街を中心とした商業地域、南部は住宅地域で活気と落

ち着きをあわせ持つ校区である。子どもたちは素直で優しく、友達のよいところを見つけたり、個々の

がんばりを認め合ったりできる。また、困っている子や弱い立場に立っている子への関わりが温かく、

支え合いながら学校生活を送っている。新しい学習や学校行事にも意欲的で、集団で協力して活動でき

る。しかし、自ら課題を見つけたり少し難しい課題に取り組んだりするときには引っ込み思案になり、

苦手なことや自信の持てないことはあきらめがちであった。原因のひとつとして、言葉の力と言葉によ

る表現力の不足が課題となっていた。

そこで、「分かる授業」では、下記のテーマを設定し、子どもたちが言葉に意識を向け、言葉を駆使

して理解し、考え、表現することで確かな学力を身につけていけるよう取り組みを始めた。日常的な学

習活動や言葉で表現する多様な場面設定によって、子どもたちは自分の思いや考えを自分らしく表現し

ようとするように変わってきている。昨年度は、書く活動を中心とした表現力の向上を目指した授業作

りを重ねた。子どもたちは言葉を意識するようになり、文を書くときに使用する言葉を選び、表現法を

工夫し、個性が生きた文章を書くようになってきた。

2.取り組みの重点目標

○「分かる授業」特定課題と単年度のテーマ

語彙力、国語力の向上により、理解力、コミュニケーション力や思考力の向上を目指す。

ステップ1(18年度)

語彙力を伸ばし、伝え合うこと

の楽しさを味わうことのでき

る授業づくりを進める。

ステップ2(19年度)

語彙力を高め、書く楽しさを味

わうことのできる授業づくり

を進める。

ステップ3(20年度)

語彙力を高め合い、話したり聞

いたりすることの楽しさを味

わうことのできる授業づくり

を進める。

○稗田小学校における基礎基本の力

基礎学力

読み

書き

計算

より確かな学力

言葉力を培う

言葉により知る力

考える力

想像する力

表現する力

感じ取る力

話す 聞く

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3.実践例

○ 18年度

子どもたちひとりひとりの語彙のネットワークを作る。すでに獲得している語彙を整理したり、

新しく獲得した語彙を組み込んだりして、変容させながらネットワークを広げていく。

低学年の実践例(音読を中心として、「聞く・話す」の基礎基本の力を身につけ伸ばす授業づくり)

音読・・・言葉のおもしろさやリズムの良さが味わえるような題材での一人読み・交替読み・

群読・暗誦など

言葉あつめノート・・・テーマに沿った言葉をどんどんノートに書いていく(しりとり、あた

まとり、二文字しりとり、「あ」のつく言葉、「赤いもの」といえば、

雨の音調べ)〈資料1〉

研究会提案授業

国語 「ことばであそぼう」 音を表す言葉、 様子を表す言葉をテーマにそって集め、 知らせ合う。

(光村2年)

中学年の実践例(子どもが楽しく学べる語彙習得活動)

国語辞典・漢字辞典の活用・・・身近に置き、いつでも使える

漢字クイズやゲームを通して辞書と親しむ〈資料2・3〉

言葉遊び・・・クロスワード・四字熟語づくり・四こまマンガ〈資料4〉 ・言葉リレー

音訓カルタ遊び〈資料5〉

研究会提案授業

国語「言葉遊びの世界」春夏秋冬をテーマに言葉を集め詩を作る。

(光村4年)

高学年の実践例(言葉を知り、扱う楽しさを味わう活動 語彙を増やすための教材やトレーニン

グ方法 読むことの中で言葉の意味やイメージを獲得する授業)

4色百人一首・・・1回の取り組みが25枚なので手軽にできる

ことわざ・慣用句・四字熟語・・・日記やスピーチに使う・場面を創作してどの言葉の場面か

当てるクイズやビンゴゲーム〈資料6〉

国語辞典・・・どの授業でも机の上に置いて使うことを習慣づける

日記・・・使用禁止語彙(うれしい、楽しい、かなしい、すごい、色々等の簡単で便利な言葉)

気持ちを表す言葉一覧表(参考「学習基本語彙」浜本純逸) 〈資料7〉

擬音語、擬態語を考える(似ているようで違う言葉「がっかり」「がっくり」)

詩の朗読と詩作

研究会提案授業

国語「詩を味わおう」本文が問題、答えが題名になる詩を作り、題名当てをしながら鑑賞し合

(光村 5年) う

全学年通しての実践

言葉のネットワークを広げる意味マップ〈資料16〉

パターン1 思いつくままに広げていく

パターン2 名詞を共通する形容詞・形容動詞などでつなげながら広げていく

パターン3 五感・比喩など観点を持って広げていく(作文を深める支援に使える)

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○ 19年度

書く活動を中心に、理解語彙(読んだり、聞いたりして意味の分かる言葉)を使用語彙(書いた

り、話したりの表現に使うことのできる言葉)に高める。

低学年の実践例(言葉のおもしろさに気づき、生き生きと表現する子を育てる)

言葉遊び・・・言葉のかくれんぼ(こどもたちの集めた言葉を使って) ・作文お話のかくれんぼ

五感を使って日記や観察メモを書く〈資料10〉 〈資料8〉 〈資料9〉

言葉集め・・・季節の言葉集めから、あいうえおのうたやカルタを作る〈資料11〉

↓ 季節を感じさせる言葉を集めて詩を作る(風がそよそよふく・ぽかぽか温かい)

研究会提案授業

国語「あきいっぱいフェスティバル」 ・・・秋の言葉を集め、分類し、知らせ合う。「あつまれふ

ゆのことば」(光村 1年)を含めた大単元。

中学年の実践例(言葉や文のおもしろさを発見し、意欲的に書こうとする子を育てる)

5・7・5ニュース、5・7・5日記・・・伝えたいニュースを俳句にする

自分の名前で作文を書く〈資料12〉

五感を使って観察メモを書き、詩をつくる

言葉のぴかりん化(言葉を詩的言語に高める) 〈資料13〉

視写

ベストノート賞

物語の学習の中での書く活動・・・理解したことを登場人物の視点になって書く

↓ 作者の表現や文章構成の効果を考えて書く〈資料14〉

研究会提案授業

国語「ひとつの花」十年後の場面があることの効果について考え、作者の意図にせまる。

(光村 4年)

高学年の実践例(言葉のネットワークを広げ、思いや考えを自分らしく表現する子を育てる)

正しい鉛筆の持ち方と視写(百人一首、算数用語とその説明など)

わたしの辞書・・・新しく獲得した語彙で辞書をつくる

わたしの好きな場所・・・国語科と図工科のコラボレーション

「絵は絵の具で色づけ、作文は言葉で色づけ」〈資料15〉

朝日小学生新聞の活用

日記

授業後の自己評価や音楽図工の鑑賞を文で書く

キャッチザニュース・・・新聞記事とコメント、得た情報を伝える

研究会提案授業

総合「稗田から都賀川通信」他校と合同で行う都賀川フォーラムで発表する原稿を、聞き手に分

(地域教材5年) かりやすく伝わるように校正する

全学年通しての実践

作った作品「なつのあいうえお」や「動物の詩」を児童集会で発表する

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「書く力」実態調査

7月と3月に同じ題名で15分間で作文を書く

学年 1年 2年 3年 4年 5年 6年

名 きゅうしょく 学校の休み時間

わたしの好

きな場所

今学期心に残

ったこと

・全文の文字数

・適切な文で最長の文字数

・ 「を」「へ」「は」の間違い数

(1年)

・長音・拗音・撥音・促音の間

違い数〈2年〉

・光る言葉、思いを表す表現

・全文の文字数

・適切な文で最長の文字数

・ 「」の数

・ 「を」「へ」「は」の間違い数

・気持ちや様子を表す表現

・全文の文字数

・適切な文で最長の文字数

・書き出しの工夫

・比喩・慣用句などの表現の工

・既習漢字の使用、未使用

文章を書くことに抵抗がなくなり、文字数はどの学年も増えた。比喩・擬態語・擬音語の表現法や書

き出しの工夫など授業や日々の学習で指導したことは使えるようになっている。また、3月実施の作文

の方が調理士さんへの感謝の気持ちや友達との関わりなどが表現され、心情面での育ちも見られた。

4.2年を経過して、本年度の取り組み

言葉を習得する学習は、知的好奇心がくすぐられ、短い時間にゲーム感覚でできる教材も多くあり、

子どもたちは興味を持って取り組んだ。しかし、うっかりすると言葉を記号として操作することだけに

陥ることもあった。校内研究を重ね、子どもたちの実態や成長をみるにつけ、ひとつの言葉と結びつい

ているその子の体験、イメージ、思いを豊かにすることの必要性を実感した。また、言葉で表現すると

きに、対象をどれだけよく見ているか、いかに強い思いを持っているかということが使用語彙や表現法

を左右することも痛感した。

20年度は、理解語彙(読んだり、聞いたりして意味の分かる言葉)を使用語彙(書いたり、話した

りの表現に使うことのできる言葉)に高める実践を「話す・聞く」の活動を中心に行っていくが、話し

合い活動でも子どもたちそれぞれの語彙がさらに確かに豊かになっていくことをねらいとしたい。それ

とともに、 言葉のキャッチボールを通して、 コミュニケーションの力を高めていきたい。 課題に対して、

それぞれの考えを伝え合い、発言を組み立てながら課題解決していったり、自分ひとりでは考えられな

かったことが生み出されていく喜びを味わったりすることが、これまでの稗田で願っておりながらも実

現が難しかったことである。

そこで、 「話す・聞く」(話し合うを含む)のカリキュラム作りとして、国語の教科書教材からどうい

う力を養うことができるかプランを立てた。次に稗田の子どもの実態と各研修グループのテーマから、

どういう力を養っていきたいか、どの教科、どの教育活動で実践可能かのプランを学年ごとに立ててい

る。また、話し合い活動や発表に必要な思考方法を言葉として明らかにし(観点・比較・分類・仮説・・

等)、教科をこえて育成することを研究していきたい。何より、子どもたちがお互いを認め合い、安心

して思いや考えを伝え合い高め合える学校づくりが大切だと考え、それが、授業を通して作り上げるこ

とができるのであれば、これ以上の喜びはない。

本校は、読書活動として、朝の10分間読書、地域ボランティアの方々による読み聞かせの会を行っ

ている。未知の語との出会い、文脈からの意味の学習など、語彙力・国語力の向上を支えている。 また、

地域を教材として進めている総合的な学習でも、実際に体験したり調査したりしたことを言葉を工夫し

て表現する指導をしているので、伝えることへの意欲や自信にもつながっている。様々な教科、教育活

動を通して、分かる授業の課題にせまっていきたいと思う。

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第1分科会(2)

「ことばひろがる よみときブック」の活用 ~全教科で取り組む言語力(読解力)の育成をめざして~

多聞南小学校 新谷謙一 中溝恵子

1.はじめに

○平成16~17年度 ~人権感覚にあふれた学習の場作りをめざして~

言葉づかい改善計画「プロジェクトX」

○「分かる授業」年間目標

〔平成 18 年度〕 ①漢字を書く力の確実な習得を図る ②話す力を育てる国語科の授業研究

〔平成 19 年度〕 ①国語科を中心とした話す力、読解力を育てる授業の推進

~よみときブックの活用~

②漢字を書く力の確実な習得 ③算数科におけるノート指導の改善

〔平成 20 年度〕 「読んで 考えて 書く」授業づくり ~全教科で取り組む言語力(読解力)の育成をめざして~

2. 「分かる授業」推進のためのプロジェクトチーム

○19年度から、8つのプロジェクトチームを設け、PDCAサイクルに基づいて、分かる授業の推

進に取り組んでいる。 担当学年だけでなく、6 年間の育ちを見通した取り組みを。

○各チームは3~9名、適材適所で構成。全員が役割を分担。

【多聞南小の紹介】

○垂水区北部の住宅地に位置し、全校児童数357名。13学級(1年のみ3学級)+2学級(特支) 。

卒業生のほとんどは本多聞中に進学(一部は多聞東中)。

○教員数21名(新学習システム教員1名、学力向上支援員1名含む)

○教員のチームワークはよく、分かる授業の研究実践に積極的に取り組んでいる。

(プロジェクトチーム) 主 な 内 容

1 学習意識・生活実態

調査

5 月と 12 月に実施把握。課題の分析と提示。重点指導事項の絞り込み。 学校・学年便り、学級懇談会等での保護者説明の実施。

2 授業評価シート 年間目標「読んで考えて書く授業づくり」に適した評価シートの開発

3 全国学力・学習状況調査

学力定着度調査

実態の把握と課題分析。検証改善プラン立案。保護者への説明。 市教委配布国語・算数テストと「漢字力試し」の実施と結果分析。

4 ノート指導 「書く」活動を重視したノート指導の推進。

5 Q―U

(学級満足度、学校生活意欲調査)

高学年児童(5・6 年)の学級集団の状態を把握して、計画的な指導と 支援を積極的に行う方法を探る。

6 夏休み学習教室 全教員で行う「補充学習教室・水泳指導」の企画・運営。 参加対象児童についての共通理解。保護者へのお知らせ作成。

7 家庭学習(読書活動)

全学年で「多聞南リーディング」を推進。(低 10 分、中 15 分、高 20 分の家庭読書) 図書室に、学年別「先生のおすすめベスト 30冊」コーナーを設置。 高学年の家庭学習・自主学習を推進。漢字・計算~算数ダッシュ、算 数エースの活用、自主学習ノートの活用。

8 よみときブック 年間計画の作成。 「読んで考えて書く」活動を重視した授業研究。

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3. 「よみときブック」の活用

◆「よみとき プロジェクトチーム」1学期の取り組みより

・教材のねらい、指導のポイントを示した3年~6年の年間活用計画(全35時間)を作成。

・毎学期、5時間分を総合的な学習の時間に、他は各教科の時数に位置づける。

・グループ研修で研究授業を行い、 「よみときブック」の活用を全校で推進する。

・授業参観、研究授業などの機会に積極的に「よみときブック」に取り組む。

・ 学力向上支援員との連携~担任とTTで授業を行って児童のつまずきを把握し、指導や支援に生かす。

◆「授業の進め方のポイント」は?

・指導案集の活用~全教材に指導案が用意されている。効率的に授業の準備ができる

・導入の工夫~子どもたちに興味を持たせるための工夫、反対にあっさりと導入することも重要

・読んで考えて書く指導のポイントの確認

~グラフや表にまとめる、要約する、自分の考えを書いて発表する など

・1時間で完結する授業をめざす~発表のための時間をとりすぎると1時間では不足

読む

*教材に合わせて、教師が範読、指名読みなど

*必ず一人一人が読む時間を確保する

*読みの目標を持たせて線を引かせる。段落番号を書く。

*分からない言葉を調べる(国語辞典の活用)

*図表やグラフの読み取りの練習を特に重視する

考えて 書く

*根拠を明らかにして自分の考えを書く

*相手を意識して書く

*与えられた条件で書く

*グラフや図表にまとめる

*自分の意見をまとめて、発表し合う~「発表ボード」の活用

*互いの発表・意見について評価する~ディベートへの発展

◆活用を進めるための課題は?

・1時間でまとめることの難しさ~3,4年生から「よみときブック」に慣れさせていく

・理解や書く早さの違い(どの教科でも同じだが…)~TTによる指導は効果的

・発表ボード、拡大コピー等を効果的に活用する

・ペアトーク、グループトークなどで発表のスキルアップを図る

・授業参観の後など、家庭学習用に持って帰らせることも有効

~保護者の協力を得やすい

・年間35教材をどう活用するか?~学校独自の思い切った工夫

◆「よみときブック」の指導で、見えてきたこと

・言語力・読解力の指導は、低中学年からの指導の積み重ねが重要

・教科の授業とよみときブックを使った授業、それぞれの良さ取り入れた授業研究

互いの考えの良さを認め合い、高め合う 個人のスキルアップを図る

・国語以外の教科等でどのように言語活動(新学習指導要領のねらい)に取り組ませるのか

中学年からの慣れが重要!

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4.「よみときブック」の授業実践例

・教師の質問に答える

「あなたは何人?」

「富士山は○○一の山」など

・段落番号を記入させる

・段落ごとに指名読み

・一人読みをして意味調べ

(国語辞典の活用)

・段落番号を記入させ、 自

分の考えの根拠を明らかに

させる

・設問に対応している教材文

の記述や表の数字に線を

引かせる

・全員で答え合わせをする

・まず、自分の考えを示し、

その根拠になる記述を明

らかにしながら、意見を書

くよう助言する

・ペアを組み、発表し合う

・全体で発表し、評価する

(1)6年 No.11「にほん?にっぽん?」 ~自分の考えを書いて話そう~

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(2)6年 №21 「かくされたザビエル像」 ~ガイドになって説明しよう~

○音読→意味調べ→設問1、2を解くところまでは、ほぼ全員が興味を持って学習できた。

○設問3になると、ただ単に指定された5つの言葉をつないで一文で書こうとしたり、ザビエル像が

描かれたときのこと、隠されていたこと、今の状態のことの3点のどれかが足りない文を書いたり

する傾向が見られた。相手を意識して説明するという設問の意図が読み取れていない。

そこで、上記の3点に着目して教材文を読み直し、ザビエル像が、いつ頃どこでどのような歴史

をたどってきたのか、3文に分けて書くことを全体に指示した。

○授業後のアンケート集計結果からも、このヒントが有効であったことがわかる。

○自分で考えて書くことは大切だが、児童と

設問や教材文を近づけるための、効果的な

助言が必要である。

5.6年「よみときブック」年間活用計画(1学期分)

月 タイトル 関連する教科等

※網掛けは総合でカウント 「読んで、考えて、書く指導」

のポイント

10 明石原人の夢 社(縄文時代) 年表にまとめる(大歳山遺跡見学)

14 いろいろなたねの運び屋たち 理(生き物のくらし) 表にまとめる (インゲンマメの種植え)

20 生物のつながり 理(生き物のつながり)

国「生き物はつながりの中に」 生き物のつながりを図で表す 4

4 寿限無 国 「今も昔も」(落語) おもしろさを説明する(暗唱で関心を

高める)

8 学校から帰ったら何をする 家(生活時間) 表にまとめ、自分の生活を見つめる

19 日曜日の午後に 総合(国際理解) 読み取って様子を想像する

11 にほん?にっぽん? 国「日本で使う文字」 根拠を明らかにして自分の考えを書

き、発表する

5

15 おくのほそ道 国「短歌・俳句の世界」 俳句に親しむ(暗唱・感想の交流)

12 からだの中にある時計 家「生活時間を見直してみよう」

理(体内時計) 体内時計の仕組みを説明する

7 バナナの皮でスッテンコロリン 道(公徳心・決まりを守る) 気持ちの変化を読む

2 外国文化の香りただよう町 総合(郷土) 神戸の魅力を伝えるキャッチフレーズ

をつくる

6

1 シュートを決めろ! 体(サッカー) 盛り上げるアイデアを考える

9 オオカミとヤギとキャベツ 算(算数的な考え方) 図と言葉を整理して考える

7 21 かくされたザビエル像 社(神戸と歴史)

相手を意識して説明する(市立博物館

への関心)

学習日(7/16 )

アンケート参加者 22 人

そう

思う

どち

らか

とい

うと

そう

思う

どち

らか

とい

うと

う思

わな

そう

思わ

ない

①新しいことを知ることができた。 16 5 0 1

②興味を持って学習できた。 14 6 1 1

③ヒントなしで、ザビエル像のたどった歴史

を読み取る方法が分かった。 7 11 4 0

④ザビエル像のたどった歴史の3点に気を

つけ、5つの言葉を使って文章に書くこと

ができた。

14 6 2 0

⑤ザビエル像のたどった歴史を相手に分かり

やすく説明することができた。 7 9 4 2

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分かる授業推進拠点校としての取り組み

本多聞中学校 山﨑 泰時

はじめに

「分かる授業推進拠点校事業」の最終年度となり、その活動の総括をする時期を迎えた。 「すべての

生徒に人間力を育む学校教育」を一貫した特定課題として実践を行なってきた。本校では、生徒に身に

つけさせたい力を人間力と捉え、その根幹である「確かな学力」「学びの基礎力」「社会力」を教科指導

だけではなく、教育活動全体を通して育成を図ることを目指してきた。ここでは、3年間の実践活動の

検証とその成果について報告する。

1.各種アンケートの分析による教育活動の改善 PDCA サイクルを生かした取り組みを進めるために評価活動、校内授業研究、補充学習活動、調査活

動、情報発信活動、研究・調査活動、小中連携活動などの年間実施計画を一覧表にまとめ、それぞれの

活動を有機的に関連させて把握できるようにした。また、教職員による自己評価、教育活動に対するア

ンケート調査を実施して、その結果を指標として改善を進めていくシステムを構築した。

生徒による評価アンケートより

質問Ⅰ「授業は分かりやすい」 質問Ⅱ「分からないことを質問しやすい先生が多い」

質問Ⅲ「家庭学習のきっかけとなる宿題が出ている」 質問Ⅳ「少人数授業の方が分かりやすくてよい」

①質問Ⅰ・Ⅱに対する成果の検証

○職員相互評価

相互授業参観などの機会に、授業評価シートを使って、生徒の学びが成立しているか否かについて

見ている。生徒の様子を観察することで、授業の手法だけを論議することがなくなり、生徒理解につ

ながる話し合いが可能になったことが分かる授業につながったと考えられる。

○研究・研修活動

年度当初に職員全員が研究テーマを設定し「分かる授業」の研究に取り組んでいる。また、全職員

が「その時間のねらいを生徒に明確に伝えること」を共通の課題として日々の授業に取り組んだ成果

と考えられる。

②質問Ⅲに対する成果の検証

○自主学習ノートの取り組み 18 年度の生活アンケート調査を見ると、家庭学習の平均時間が、テレビを見たり、ゲームをする時

間を大きく下回っており、家庭学習の時間が1時間以下の生徒が 25%という結果であった。そこで 18 年度より自主学習ノートによる家庭学習の支援を全校体制で取り組んでいる。 内容よりも継続する

ことに主眼を置き、家庭学習の習慣化を目標にしている。学級担任の工夫もあって定着率、提出率と

もに上昇傾向にある。20 年度の全校生徒の平均提出率は 80%に達している。

18 年度

肯定的回答率 67 % 19 年度

肯定的回答率 72%

18 年度

肯定的回答率 59 % 19 年度

肯定的回答率 58% 18 年度

肯定的回答率 56 %

19 年度

肯定的回答率 69%

18 年度

肯定的回答率 69% 19 年度

肯定的回答率 73%

第1分科会 (3)

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③質問Ⅳに対する成果の検証

○少人数指導、同室複数指導の展開 18 年度は1学年の数学と英語、選択国語(漢字進級)で少人数授業。2学年は英語で少人数授業、数

学で同室複数授業を実施した。19 年度は1学年が数学と英語で少人数授業。2学年は英語で少人数授

業、数学で同室複数授業を実施した。20 年度は、2学年の数学と 2.3 学年の英語で少人数授業を実施

している。質問Ⅳを学年別に見ると、少人数授業を実施している学年の肯定的回答率が他の学年を大

きく上回り、少人数授業が有効に機能していることが確認できた。

2.授業力の向上・研修の活性化 18 年度より全職員が「わたしの研究テーマ」を設定し、個人研究に取り組んでいる。一人一人が1年

間の研究テーマを決定して、 年度当初に発行する 「学校教育計画」 にA4一枚にまとめ、 掲載している。

この学校教育計画は、地域や保護者にも配布している。また、年度末に実施している本校の教育研究発

表会に合わせて発行する研究紀要の中に、その研究テーマについての実践報告を掲載している。一人一

人の教師が年間を通して研究テーマを決めることで、個々の力量を高めていく手だてとなっている。

3.家庭との連携・情報発信

分かる授業や教育課程の実施状況に関する自己点検・自己評価を行なってきた。また、外部評価を生

かした改善を行なうには、積極的な情報発信が必要と考え、地域や保護者に以下のような情報発信を行

なっている。情報発信として行なっているのは、年度当初に発行している「学校教育計画」と「評価規

準表」 。年間に2回発信している「教育活動評価アンケートの結果」(20 年度は1回)。その他、規範意

識調査結果や全国学力・学習状況調査の分析結果や毎年

1学期に実施している CRT の分析結果も保護者に公表

している。また、学校だよりや学年・学級通信について

は、きめ細かくタイムリーな発信を心がけている。学校

教育計画は本校の教育活動の全体像と年間の目標や学

年ごとの努力目標や行動目標、指導・支援の具体的な方

策も掲載している。評価規準表は、教科、単元ごとに達

成目標・評価方法、観点を詳しく説明している。

4.校区内小学校との連携

「9年間で地域のすべての子どもたちの学びを保障する」 を合言葉に小中連携教育に取り組んできた。

連携は教職員だけではなく、総合的な学習の時間を活用して児童・生徒の交流学習も実施している。

①合同職員研修会(年間2回) 夏休みと2学期の中旬に職員研修会を実施している。児童・生徒の実態を話し合い、小中の取り組み

を話し合う中で、互いに課題を確認することができた。また、教科や総合的な学習・キャリア教育につ

いて各学年のカリキュラムをお互いに知ることができた。

②情報交換・授業相互参観

本事業担当者が小学校の担当者と度々、推進状況、児童・生徒の学力分析、生活実態分析等の情報交

換を行なっている。また、他の教員も学習内容や児童・生徒のレディネス情報を交換し合っている。本

校の授業公開や小学校の研究授業を互いに参観している。通常授業日のため、一部の教師だけになって

いるが、積極的に参加し感想を寄せ合っている。推進拠点校である本多聞小学校とは、研究発表会の相

互協力を毎年行なっている。