三人称単数現在形の定着を図る英文法指導の工夫 ·...

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- 1 - 沖縄県立総合教育センター 1年長期研修員 第 57 集 研究集録 2015 年3月 <IT教育:中学校 英語> 三人称単数現在形の定着を図る英文法指導の工夫 ―定着が難しい生徒のための自主学習、タブレット端末活用教材の開発を通して― 沖縄市立安慶田中学校教諭 ジョンソン みゆき テーマ設定の理由 平成 20年に改訂された学習指導要領において、「コミュニケーション能力の基礎を養うこと」を外国語 科の目標としている。また改訂の趣旨の1つに「『聞くこと』『話すこと』『読むこと』及び『書くこと』の 4技能の総合的な指導を通して,これらの4技能を統合的に活用できるコミュニケーション能力を育成す るとともに,その基礎となる文法をコミュニケーションを支えるものとしてとらえ,文法指導を言語活動 と一体的に行うよう改善を図る。」と示されている。 中学校に入り文字指導、表現に向けての英作文・文法指導が導入されると、小学校での聞く、話す力に 加え、読む、書く力も必要になり学習内容が増える。中学校においての英作文や文法指導などの「読む・ 書く」が加わった授業では、受け身的になり意欲が低下する生徒が見られる。そのため、コミュニケーシ ョン能力の基礎となる文法内容を前向きに学習させ、定着させる工夫が求められる。 三人称単数現在形は人称を区別するという日本語ではあまり意識されない概念や-s・-es をつける動詞 の活用(以下動詞の活用)が4パターンあるという複雑さから、1学年の学習内容において難易度が高く、 この単元を境に英語を難しいと感じる生徒が増える。指導する際には、人称の区別、単数か複数かの区別、 肯定文では動詞の活用、疑問文・否定文では does を使うということを丁寧かつ段階的に行う。 英文法には関連する事項があり、1つの学習事項の習得が新しく学習する文法事項の理解に影響するこ とがある。3学年で学習する現在完了形の場合には、主語が三人称単数形かそれ以外の区別ができるか否 かが、この文法学習開始時点で大切になってくる。その判断ができるかどうかは、1学年で三人称単数現 在形を学んだ時に、人称を理解していたかどうかにかかっている。次の学習につなげるためにも、三人称 単数現在形をしっかり理解することが重要である。 これまでの指導においては、三人称単数形を理解させる際は人称表を使い言葉で説明を行い、動詞の活 用の指導においては、言葉での説明後、いくつか例を示し生徒が動詞を活用させる練習を行った。ふり返 ってみると、印象づけるような説明でも理解させるには不十分で、動詞の活用においても定着には差があ り、工夫が必要であった。 よって本研究では、三人称単数現在形を定着させるために、理解の手助けや復習可能なデジタル教材を 作成し、文法内容を文字だけでなくイラストを加え説明できるようにする。「動詞の活用練習」と「主語の 判断と動詞の活用という2つの関係をつなぐための練習」では、「選択問題」から難易度を少し上げた「入 力問題」や「並べかえ問題」を設定し、段階的学習が行えるようにする。また、内閣府の調査(平成 25 年度)では、中学生の約6割がゲーム機やタブレット型携帯端末等を利用している状況があり、国は教育 現場において小中学校の生徒に1人1台の情報端末を 2020 年までに導入する目標を掲げており、これから タブレット型携帯端末等がますます身近なものになってくる。そのため、その機器を自主学習に生かせる ような教材開発を行う。分かりづらい概念をイラストでイメージ化し、動詞の活用などをスモールステッ プで繰り返し練習させることで、三人称単数現在の理解や定着につながると考え、本テーマを設定した。 〈研究仮説〉 三人称単数現在形の学習場面において、タブレット端末活用教材を使うことで、定着が十分でない生徒 の個別反復学習が可能になり、三人称単数現在形の定着につながるであろう。また、既習事項を忘れてい る生徒の復習が可能になるであろう。

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    沖縄県立総合教育センター 1年長期研修員 第 57 集 研究集録 2015 年3月

    <IT教育:中学校 英語>

    三人称単数現在形の定着を図る英文法指導の工夫

    ―定着が難しい生徒のための自主学習、タブレット端末活用教材の開発を通して―

    沖縄市立安慶田中学校教諭 ジョンソン みゆき

    Ⅰ テーマ設定の理由

    平成 20 年に改訂された学習指導要領において、「コミュニケーション能力の基礎を養うこと」を外国語

    科の目標としている。また改訂の趣旨の1つに「『聞くこと』『話すこと』『読むこと』及び『書くこと』の

    4技能の総合的な指導を通して,これらの4技能を統合的に活用できるコミュニケーション能力を育成す

    るとともに,その基礎となる文法をコミュニケーションを支えるものとしてとらえ,文法指導を言語活動

    と一体的に行うよう改善を図る。」と示されている。

    中学校に入り文字指導、表現に向けての英作文・文法指導が導入されると、小学校での聞く、話す力に

    加え、読む、書く力も必要になり学習内容が増える。中学校においての英作文や文法指導などの「読む・

    書く」が加わった授業では、受け身的になり意欲が低下する生徒が見られる。そのため、コミュニケーシ

    ョン能力の基礎となる文法内容を前向きに学習させ、定着させる工夫が求められる。

    三人称単数現在形は人称を区別するという日本語ではあまり意識されない概念や-s・-es をつける動詞

    の活用(以下動詞の活用)が4パターンあるという複雑さから、1学年の学習内容において難易度が高く、

    この単元を境に英語を難しいと感じる生徒が増える。指導する際には、人称の区別、単数か複数かの区別、

    肯定文では動詞の活用、疑問文・否定文では does を使うということを丁寧かつ段階的に行う。

    英文法には関連する事項があり、1つの学習事項の習得が新しく学習する文法事項の理解に影響するこ

    とがある。3学年で学習する現在完了形の場合には、主語が三人称単数形かそれ以外の区別ができるか否

    かが、この文法学習開始時点で大切になってくる。その判断ができるかどうかは、1学年で三人称単数現

    在形を学んだ時に、人称を理解していたかどうかにかかっている。次の学習につなげるためにも、三人称

    単数現在形をしっかり理解することが重要である。

    これまでの指導においては、三人称単数形を理解させる際は人称表を使い言葉で説明を行い、動詞の活

    用の指導においては、言葉での説明後、いくつか例を示し生徒が動詞を活用させる練習を行った。ふり返

    ってみると、印象づけるような説明でも理解させるには不十分で、動詞の活用においても定着には差があ

    り、工夫が必要であった。

    よって本研究では、三人称単数現在形を定着させるために、理解の手助けや復習可能なデジタル教材を

    作成し、文法内容を文字だけでなくイラストを加え説明できるようにする。「動詞の活用練習」と「主語の

    判断と動詞の活用という2つの関係をつなぐための練習」では、「選択問題」から難易度を少し上げた「入

    力問題」や「並べかえ問題」を設定し、段階的学習が行えるようにする。また、内閣府の調査(平成 25

    年度)では、中学生の約6割がゲーム機やタブレット型携帯端末等を利用している状況があり、国は教育

    現場において小中学校の生徒に1人1台の情報端末を 2020 年までに導入する目標を掲げており、これから

    タブレット型携帯端末等がますます身近なものになってくる。そのため、その機器を自主学習に生かせる

    ような教材開発を行う。分かりづらい概念をイラストでイメージ化し、動詞の活用などをスモールステッ

    プで繰り返し練習させることで、三人称単数現在の理解や定着につながると考え、本テーマを設定した。

    〈研究仮説〉

    三人称単数現在形の学習場面において、タブレット端末活用教材を使うことで、定着が十分でない生徒

    の個別反復学習が可能になり、三人称単数現在形の定着につながるであろう。また、既習事項を忘れてい

    る生徒の復習が可能になるであろう。

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    Ⅱ 研究内容

    1 調査研究

    (1) 文法学習の見直し 小学校で外国語活動が導入され、昨年中学1年生を受け持った際には、4月の英語授業開始時点

    で簡単な挨拶や曜日・月・天気などの問いに対して、英語で答えることができる生徒が増えたと感

    じた。

    Benesse 教育研究開発センターが 2009(平成 21)年に実施した「第1回中学校英語に関する基本

    調査」の中で小学校での英語の授業や活動について「内容が簡単だった。」75.2%、「楽しかった」

    70.7%と答えており、7割を超える中学生が小学校での英語の授業を好意的にとらえている(図1)。

    しかし、小学校での聞く、話す活動中心とは異なり、中学校では文字指導、表現に向けての英作文・

    文法指導が加わり、英語学習が進むにつれて英語を難しいと感じる生徒が増える傾向がある。「英語

    の得意、苦手、好き、嫌い」を尋ねる質問に対しては、中学2年生の6割弱が「苦手、嫌い」と答

    えている(図2)。

    また英語学習のつまずきやすいポイントを尋ねた質問には、1位「文法が難しい」78.6%、2位

    「英語のテストで思うような点数がとれない」72.7%、3位「英語の文を書くのが難しい」72.0%

    という結果となっていた。小学校と中学校の学習内容の差が大きく、授業についていけない生徒や

    英語の文法学習に戸惑を感じている生徒の表れだと感じる。小学校で感じた「英語は楽しかった」

    という気持ちを中学校でも持たせ、英語学習を前向きに続けさせるためには、文法が難しいという

    苦手意識を抱かせることなく、聞く、話す、書く、読むことの総合的なコミュニケーション能力を

    育成する基礎となる文法学習を大切にしていくことが重要である。大津(2012)は「学習英文法を

    見直したい」の中で「言語を使うためにはその仕組みを知らなくてはならない。」「身につけた、外

    国語の仕組みについての知識が使えるようになるためには繰り返しの練習が必要である。」と述べて

    おり、言語の仕組みを学び理解することが、効率よく、効果的に英語学習をすすめることにつなが

    ると考える。また、その知識が使えるようになるために反復練習も必要であり、しっかり定着する

    まで練習を行なわなければならない。

    (2) 三人称単数現在形を習得することの重要性 中学校学習指導要領解説外国語編の中に「英語の特質を理解させるために,関連のある文法事項

    はまとまりをもって整理するなど,効果的な指導ができるように工夫すること。」とある。一般動詞

    の過去形は三人称単数現在形と肯定文、疑問文、否定文などの文構造に共通点が多い。また、「~し

    なければならない」の意味の have to、has to や現在完了形の導入時には have、has の区別をする

    ときには三人称単数形の復習をおこない関連的な学習を行う。

    中学2、3年生の中には既習の文法事項を忘れている生徒がおり、三人称単数現在形についても

    忘れられていることが多い単元である。生徒は主語の判断、動詞の活用、時制の3つの判断を行う

    必要があり、理解させるには1年生の導入時と同じように段階的な指導をしなくてはならないため、

    時間がかかる。それにより、新単元の導入場面において、新文型を学習するのがおくれ、支障をき

    たすことになる。

    75.2

    70.7

    41.8

    36.5

    30.4

    30.2

    内容が簡単だった

    楽しかった

    外国や英語に興味をもった

    もっと早くから学校で英語を習いたかっ

    もっとたくさん英語を話したかった

    もっとたくさんの英語の文やアルファ

    ベットを書きたかった

    0 50 100

    図1 小学校英語に対する意識(Benesse 2009)

    (%)

    図2 中学校英語に対する認識(中2)(Benesse 2009)

  • - 3 -

    「第1回中学校英語に関する基本調査」では「英

    語を苦手と感じるようになった時期」については中

    学校1年の後半が26.6%と最も高い数値を示してい

    る(図3)。

    大津(2012)は「中1秋の壁」を取り上げ、「2学期

    になると英語の仕組みを分析的に理解することが必

    要となる。」と述べている。そして「三人称単数現在

    形の-s」を例にとり「『(文の)主語』『人称』『数』

    『動詞』『時制』などの文法概念を理解できていない

    と『3人称単数現在形の-s』を理解することができ

    ません。」とも述べている。また著書の中で、ネット

    上に三人称単数現在形の内容が含まれる関連記述が

    多く存在するとし、その関連記事から引用し三人称

    単数現在形の理解の難しさにふれている。

    三人称単数現在形を理解するために、主語の判断では一、二人称を理解して、次に単数か複数か

    を判断する必要がある。動詞の活用では-s をつけるのが基本であるが、-es をつける場合、y を i

    に変え-es をつける場合もあるなど、4パターンの活用の仕方を理解していなくてはならない。

    be 動詞、一般動詞、三人称単数現在形は文法事項に関連している部分があり、文法的概念を理解

    することは重要になってくる。三人称単数現在形を理解することで、be動詞の人称の判断、be 動詞

    と一般動詞との違い、一般動詞の疑問文とその答え方、否定文の文法的概念の理解、名詞の複数形

    の作り方である-s の付け方の規則の復習など、それ以前の学習の振り返りが行える。また一般動詞

    の過去形、疑問文とその答え方、否定文の文法的概念の理解、現在完了形を学習する際の have、has

    の区別などそれ以降の学習につながっていく。三人称単数現在形の文法的概念理解は、その後の英

    語学習に大きく影響してくるのである。

    また、英語を母語として話すほとんどの人たちにとって、三人称単数現在形は就学以前に習得さ

    れるものであり、受けた教育や育った環境により使えない場合を除いては、三人称単数現在形を用

    いて話せることが普通なのである。「三人称単数現在形の-s」を間違えてしまうと、英語を母語とし

    て話す人の中には違和感を覚える人もおり、そのことからも三人称単数現在形を習得することは必

    要だと考える。

    (3) 教師用アンケート調査

    沖縄県中頭地区 36 校の英語担当教師に対して「英語指導に関するアンケート」を実施した。「日

    頃の授業で文法指導をする際、理解させづらい、定着に時間がかかるなど、特に気を配って指導し

    ている事項を学年別に教えてください(複数回答可)。」として、中学校英語指導における課題の把

    握を行った。

    その結果「三人称単数現在形」が最も多く(図4)、次に「現在完了形」「不定詞」と続いている

    (図5、図6)。三人称単数現在形の学習後、関連づけて学習する一般動詞の過去形は、2学年で学習

    する事項の3番目に多い項目であり、現在完了形も3学年で学習する事項で1番目に多い結果とな

    った。2、3学年の学習につなげるためにも1学年で三人称単数現在形を理解させることが大切だと

    15

    30

    18

    20

    24

    2

    64

    1

    12

    8

    0 50 100

    アルファベット

    be動詞

    疑問詞

    代名詞

    一般動詞

    命令文

    3人称単数現在

    助動詞can

    進行形

    一般動詞過去形

    図4 1学年 (回答 194件)

    2014

    115

    913

    631

    438

    1515

    50

    0 20 40 60

    一般動詞過去

    be動詞過去形

    過去進行形

    will

    be going to

    I think that

    There is構文

    動名詞分詞

    不定詞

    give 人物などの4文型

    比較級

    最上級

    as as構文

    受身形

    図5 2学年 (回答 195 件)

    20

    46

    1

    34

    13

    22

    36

    3

    0 20 40 60

    受身形

    現在完了形

    It is+ to構文

    関係代名詞

    間接疑問文

    動詞ing形の後置修飾

    過去分詞の後置修飾

    want 人to動詞の原型

    図6 3学年 (回答 175 件)

    図3 英語を苦手と感じるようになった時期

    (Benesse 2009)

  • - 4 -

    考える。

    英語担当教諭が三人称単数現在形に配慮している理由として「概念を理解させにくい」が最も多

    く、「三人称単数現在形の-s、複数の-sの違い」「三人称を理解するのに時間がかかる」「英語と日

    本語の感覚の違いに対応しづらい」等があった。さらに2、3学年でも1、2学年の復習として「be

    動詞、一般動詞、三人称単数現在形が定着していないため復習が必要だ」という意見もあった。

    また、別項目の「授業で定着が図れなかった生徒へ対して行っていることがあれば教えてくださ

    い(複数回答可)」の回答結果は「放課後補習を行った」42件、「別課題をしている」26件、「T.

    Tでの個別対応している」17件となった。

    また、その他の回答として「時間をとれないのが大きな課題」「時間の確保ができていない日々が

    多い。別教室で個別の対応をしていますが、手立ての必要な生徒に十分な対応ができていない現状」

    という声もあがった。沖縄県教育委員会は「わかる授業 Support Guide」の項目において、「下位

    及び中位の児童生徒の支援」として「遅れへの対応と補充学習時間の確保」「現在学んでいる学習の

    補充の徹底(ドリル問題や形成確認問題等の活用)」を挙げている。しかし、家庭訪問や面談等へ

    の対応、行事や準備練習時間、委員会活動、部活動など教師も生徒も放課後は時間の隙間がほとん

    どない状態である。アンケートの結果にもあるが、補習のための時間確保は厳しい状況であり、そ

    の日分からなかったことがあっても、放課後補習ができないことが多い現状がうかがえる。

    (4) 生徒用アンケート調査

    本校の2、3学年の生徒を対象に「三人称

    単数現在形の学習に関する事前テスト」の直

    後にアンケート行った(図7)。両学年とも

    最も多かったのが「忘れてしまっている」と

    いう回答で3学年 61%、2学年 67%という

    結果からも三人称単数現在形は忘れやすい

    単元であることが分かる。さらに「忘れてし

    まっている」「1年の時点で分からなかった」

    と回答した生徒に対して行った、「機会があ

    れば復習したいですか」の質問には3学年

    61%、2学年 50%の生徒が「時間を作ってで

    も復習したい」と回答している。

    (5) ICTの活用について

    「わかる授業 Support Guide」において、「『わかること』と『参加する授業』・『楽しい授業』の

    実践」で7つの項目を挙げている。その1つに「わかる授業をつくる『ICT』の活用」がありI

    CTの効果を述べている。その中に「鮮明な画像により視覚化できる。(科学的な目、別次元から

    の目など)」「情報を一つの画面に瞬時・連続的に提示できる。(集中力の維持)」がある。言葉の

    説明に視覚効果のあるイラストや画像を用いることで、わかりづらい文法概念の理解にもつなげる

    ことができる。また、複雑で細かな文法学習を画面に集中して連続的に行うことで問題の数をこな

    すことができ、定着につながると考える。

    小貫、桂(2014)は「授業のユニバーサルデザイン」の中で「発達障害のある子によい授業は、

    その連続体のなかにいるすべての子たちにとってよくないわけがない」と述べている。また、平成

    25年度文部科学省調査研究委託事業で筑波大学がまとめた「発達障害のある子供たちのためのIC

    T活用ハンドブック」では「ICTを活用し、発達障害のある子供たちの様々な困難を取り除いた

    り減らしたりすることにより、子供たちの可能性を広げることが期待できます。」としている。

    ICTを活用することで、イラストや写真などを使いイメージ化し理解を促すことが可能であり、

    自ら筆記用具を持つのが苦手な生徒や集中することが苦手という生徒たちも、画面に集中し連続的

    に提示される問題に取り組むことができる。また、個別学習が可能で1人の時でも学びたいと思っ

    たときに何度でも練習が可能である。

    赤堀(2014)は「タブレットは紙に勝てるのか」において「タブレット端末の特徴として、写真

    でイメージしやすい、もう一度やってみたい、退屈しにくい、などの特徴がある。」「タブレット

    はコンピュータであるから、ドリルなどの正解は即時に採点できる。つまり、タブレットは、紙に

    図7 三人称単数現在形学習のアンケート

  • - 5 -

    比べてはるかに効率的に利用できる。」と述べている。タブレット端末は生徒に「触ってみたい」

    や「もう一度やってみたい」と誘発的に感じさせることから、基本的な事項を反復練習させ、効率

    的に定着させることにおいて有効だと考える。

    2 教材の開発

    (1) 教材開発の方針

    ① 英語を苦手とする生徒や復習を必要とする生徒が、教師が補習を組むことができない時でも、

    自主的に練習や復習が行えるような教材にする。ひとりでもスムーズに学習が行えるよう、操作

    しやすいデジタル教材にする。

    ② 視覚的配慮

    産業教育機器システムの情報を扱った Web サイトによれば、私たちの取り入れる情報量は視覚

    83%、聴覚 11%、嗅覚 3.5%、触覚 1.5%、味覚 1.0%で、視覚による情報量が最も多い。時間

    経過における記憶率について「言葉だけの説明」「図だけの説明」「言葉と図の併用説明」の3種

    類で比較した場合、「言葉と図の併用」が他の2つに比べ3倍も高い結果が出ている。よって開発

    する教材はイラストと文字で視覚的情報がスムーズに伝わるように読みやすいフォント、直感的

    に理解できるように短いフレーズで分かりやすく表記する。

    「和歌山県教育委員会」が出している「発達障害児指導事例集」通常学級指導編において、学

    習のポイントを「カードに書いて提示したり、罫線で囲む、色チョークで強調すると分かりやす

    くなります。」としている。その効果を生かし、単語や文は枠で囲んだり、下線を引き、視点をお

    くところを明確にし、誰でも理解しやすい教材になるよう心がける。

    ③ 問題作成に関すること

    三人称単数現在形の学習では、主語の判断、動詞の活用、時制の3つの判断をしなくてはなら

    ないが、現在の教科書教材配列では過去形が三人称単数現在形の後にある。そのためデジタル教

    材では、時制を英語表記はするものの、時制の判断については、現在形と過去形を比較し違いを

    確認するのみにとどめ、過去形の文法事項は含

    まないこととした。また、三人称単数現在形の

    理解が目的のため、教材作成に使う語が難しく

    ならないよう、1学年の教科書に使われる単語

    を中心に問題作成をする。

    ④ 教材作成の工夫(図8)

    各セットに問題の正誤をポイント化して表示

    するようにし、生徒が楽しく学習するゲーム的

    仕掛けを盛り込む。5問1セットになっており、

    5問ごとに結果確認が行われる。そのため短時

    間でリセットでき、次のセットに負担なく進む

    ことができる。

    (2) 三人称単数現在形の練習・定着を図る教材内容

    三人称単数現在形の定着が不十分な生徒にスモ

    ールステップで、三人称単数現在形のつまずいた

    ところから学習を行い理解していくことができる

    ように教材を作成した。三人称単数現在形の理解

    のために必要な項目を定め、学習者は自分が理解

    できていない項目を選択して学習を行う。

    ① メニュー画面の紹介及び学習項目(図9)

    このデジタル教材で学習できる項目「3人称

    単数形」「動詞の変化」「肯定文」「疑問文」「否

    定文」「おまけ」のボタンが色違いで並べてあ

    る。学習者は自分の学びたい項目を選択し、学

    習を進めていく。「3人称単数形」は三人称単

    数の概念理解、「動詞の変化形」は動詞の活用の仕方を学び練習する基礎的問題である。「肯定文」

    図8 正誤をポイント化する工夫

    5問1セットになっていて正誤がポイント

    化して表示される

    図9 メニュー画面(もくじ)

  • - 6 -

    「疑問文」「否定文」では「文法事項確認」「主

    語に合わせて動詞を選ぶ問題」「並べ替え問

    題」を設定している。「おまけ」では「三人

    称単数現在形の-s」と「複数の-s」の違いの

    確認や三人称単数形が主語の時の「現在形」

    と「過去形」の違いの確認が行える。

    ② 文法内容復習(図 10)

    本教材で「3人称単数形」「動詞の変化形」

    「肯定文」「疑問文」「否定文」のボタンを選

    択すると、各項目に「~確認」というボタン

    があり、そこでは各項目の文法内容がイラス

    トと文字による説明で復習することができ

    る。「~確認」を選択した学習者に復習内容

    を一通り確認してほしいため、「最初に戻る」

    ボタンを設定していない。しかし、復習内容

    が多い「疑問文」などでは、内容のまとまり

    の区切れのよいところで「最初に戻る」ボタ

    ンを設定しており、学習者が復習する際に負

    担にならないように配慮した。

    ③ 三人称単数の見分け方(図 11)

    「3人称単数形」のスタート画面では「3

    人称単数確認」「3人称選択練習」「ミニテス

    ト」の3つの項目がある。「3人称単数確認」

    では基礎的な復習や確認を行うことができる。

    「3人称単数選択練習」ではイラストを数枚

    提示し、その中から三人称単数にあてはまる

    ものを選択する。次のステップでは、そのイ

    ラストに三人称単数にあてはまる英単語が加

    わり、終わりの段階ではイラストを省き、す

    べて英単語の中から三人称単数を見分けて選

    択する問題となる。

    ④ 動詞の活用の仕方

    「動詞の変化形」では動詞の活用の仕方で

    ある4パターンを学習する。スタート画面に

    「動詞の変化確認」「変化選択練習」「変化す

    らすら」「ミニテスト」の項目がある。「変化

    選択練習」「変化すらすら」の各問題画面には

    ヒントボタンがあり、動詞の活用の仕方を忘

    れた時や確認したい時には、いつでも見るこ

    とができる。「変化選択練習」(図 12)は、活

    用した動詞が書かれた赤いりんごがあり、そ

    の中から正しく活用した形を1つ選ぶ問題で

    ある。選択すると正誤判定され、不正解の場

    合には変化のさせ方と正答が表示されるので、

    なぜ不正解なのかを確認できる。「すらすら問

    題」(図 13)は、動詞を正しく活用しキーボ

    ードで入力する問題である。不正解の時は

    「study は y の前が子音だよ」など、その単

    語に絞ったヒントが表示される。そのヒントを各ページにあるヒントと照らし合わせることで、

    図 11 三人称単数形概念理解項目

    三人称単数形をイラストから選ぶ問題

    正解○、不正解×が表示される

    図 12 動詞の活用の仕方選択問題

    不正解の時は、正解と説

    明が表示される

    ヒントを

    表 示で き

    図 10 文法内容復習項目

    図 13 動詞の活用の仕方入力問題

    不正解の場合、その単語に絞ったヒントが表示

    される

    「さる」を触ると単語の発音が流れる

  • - 7 -

    図 14 主語に合わせて動詞選択問題

    正しい動詞を選び、上の( )に移動させる

    活用できるようになっている。正解するまで何度でも取り組め、練習が偏らないように、各セッ

    トに活用の仕方が異なる単語を必ず 1つは設定している。また、「さるのイラスト」を触るとその

    単語の音声が流れるようになっている。「すらすら問題」の難易度が高いため、選択問題を終えて

    から入力問題へ進むことで無理なく学習できる。1問ごとに正誤判定され、不正解の時には説明

    やヒントが出るため、次の問題へ生かすことができ、動詞の活用の仕方の定着につなげることが

    できる。

    ⑤ 主語に合わせて正しい動詞の形を選択する

    「主語が三人称単数の判断」と「動詞の活用」

    という2つの関係をつなぎ合わせる練習を行う

    (図 14)。主語に合わせて動詞を選択できるよ

    うに、三人称単数形とそれ以外を主語に持つ英

    文を2文提示し、それぞれに正しい動詞を選択

    させる。主語によって動詞の形が決まるという

    ことを比較しながら学んでいく。「肯定文」では

    「主語に合わせて動詞を並べる練習」「疑問文」

    では主語を判断して「Doか Does かを見分け、

    並べる練習」「否定文」では「don’t か doesn’t

    かを見分け並べる練習」を「選択問題」として

    設定している。操作が簡単に行えるように、語

    句を括弧内へ移動することで解答できるように

    した。また「答えをリセット」するボタンがあ

    り、「解答」ボタンを押して正誤判定を出すまで

    は、何度でもリセットできる。不正解の場合は

    解説が表示される。同じ形式の問題であるが「肯

    定文」「疑問文」「否定文」でそれぞれの問題に

    「ペンギンの仲間探し」「クイズ形式」「エイリ

    アンの探しもの」などのテーマを設定し、飽き

    にくいように工夫した。例えば、「ペンギンの仲

    間探し」では問題に正解するごとに、ペンギン

    の仲間が 1 匹ずつ見つかり、増えていくという

    ストーリー性を設定してある。

    ⑥ 疑問文とその答え方(図 15)

    「疑問文」の項目に進むと「答え方の確認」

    「答え方の選択問題」があり、質問に対して

    「Yes/No」を使って答える練習が行える。選択

    肢は2択問題や3択問題から選ぶ形式である。

    正解が出ると画面が自動で変わり次の問題へ進

    むが、不正解の場合は正解が出るまで同じ画面

    が続き、次へ進むことはできない。

    ⑦ 文構造理解についての問題(図 16)

    並べかえ練習問題を行い、肯定文、疑問文、

    否定文の文構造の理解につなげていく。並べる

    単語を2つから3つ、4つとセットごとに徐々に増やし、難易度をあげていく。また「usually、

    always」などを使った文や「疑問文」では「What」などの疑問詞を使った文なども設定されてい

    る。こちらも同じ形式の問題であるが「肯定文」「疑問文」「否定文」でそれぞれの問題に「お昼

    寝ドラゴン」「夏祭り」「のびーる首」などのテーマを設定し、飽きさせないように工夫した。

    図 15 質問に対し答えを選択する問題

    疑問文に対して正しい答えを選択する

    図 16 文構造理解並べ替え問題 肯定文

    四角の中の語を、①、②に順序よく並べ替

    える。

  • - 8 -

    ⑧ ミニテスト(図 17)

    「3人称単数形」「動詞の変化形」の項目の中

    に「ミニテスト」が設定してあり、基礎が身に

    ついたかを自己確認できる。1問 10 点で、10

    問1セットになっており、10 問ごとにテスト結

    果が表示される。1 問の配点を高くすることで

    高得点を取りやすくし、次への意欲喚起につな

    げられるようにした。

    Ⅲ 指導の実際

    1 補習計画

    (1) 主題名 文法学習「三人称単数現在形」の復習

    (2) 指導を通して定着させたい力

    ○三人称単数の概念をイメージ化させる。

    ○「三単現の -s」の動詞の活用をすることができる。

    (3) 対象 2学年全員、 3学年全員

    (4) 主題の指導計画(2時間)

    (5) 本時の展開

    ① 目標 動詞の活用の仕方を定着させる。

    ② 評価規準

    (6) 展開

    過程 学習活動 予想される生徒の反応

    ○成果がある反応

    ●課題と思われる反応

    教師の指導・支援

    導入

    3’

    1 英語で挨拶をする。

    2 コンピュータ室での確認をする。

    ①パソコン室を使用する時の約束を確認する。

    (教師が話している時は、パソコンを触らない。)

    ②機械操作が苦手な生徒は、教師に挙手で知らせ

    る。

    ○英語で挨拶ができ、静かに確認がで

    きる。

    ●落ち着きがなく、教師の方を見るこ

    とができないため、確認ができない。

    英語で挨拶をしながら、集中し

    て聞ける雰囲気をつくる。

    パソコン室を使用する時の約束

    を確認する。機械操作が苦手な

    生徒の確認をする。

    声かけをし、全員が授業を聴く

    姿勢になるまで待つ。

    展開

    練習

    37’

    3復習

    ①三人称単数形の概念・動詞の活用を復習する。

    ②発問に答える。

    4練習

    ①目標確認・練習の手順と操作の仕方を確認した

    後、デジタル教材による学習を行う。

    ○教師の話を聞くことができ、復習事

    項の発問に答えることができる。

    ●落ち着いて話が聞けないため、復習

    が行えない。

    前時の復習を行う。

    集中できてない生徒には声かけ

    や発問をし、注意を促す。

    目標確認・練習の手順と操作の

    仕方を確認させる。

    机間支援で全員が操作や練習を

    1 時限 代名詞の復習、三人称の概念理解、「三単現の -s」の動詞の活用の仕方を復習する。

    2 時限(本時) 動詞の活用の仕方の練習、確認テスト

    A 十分満足できる B 概ね満足できる C 支援を要する

    言語や文化についての

    知識・理解

    ○三人称単数形の概念を理解し、

    説明できる。

    ○主語が三人称単数現在形の時

    には、間違えることなく動詞を活

    用することができる。

    ○三人称単数形の概念を理解して

    いる。

    ○主語が三人称単数現在形の時

    には、正しく動詞を活用すること

    ができる。

    ○三人称単数形の概念を理解で

    きていない。

    ○主語が三人称単数現在形の時に、

    正しく動詞を活用することができ

    ない。

    図 17 ミニテスト

  • - 9 -

    目標

    ・絵や英単語で三人称単数形を見分けること

    ができる。・動詞の活用ができる。

    ②三人称単数形の概念理解・動詞の活用問題の練

    習をする。

    ICT 活用場面デジタル教材を用いての練習

    三人称単数現在形の教材を使い、「三人称単数

    形の概念理解」、「動詞の活用」の練習を行う。

    ○教師の指示に従い、落ち着いて学習

    に取り組んでいる。

    ●操作方法が分からず、落ち着くこと

    ができないため練習に取り組めない。

    行えているか確認する。

    操作が行えない生徒には個別で

    操作方法の説明を行う。

    まとめ

    10’

    5 確認テストに取り組む。

    6 自己評価をまとめる。

    7 授業終了の挨拶をする。

    ○テスト記入、自己評価をまとめる。

    ●書く様子が見られず、別のことをす

    る。

    机間支援で取り組めるよう促

    す。

    2 授業計画(1 年生)

    (1) 単元の指導計画(8時間) NEW CROWN ENGLISH SERIES 1 SANSEIDO

    時間 学習活動及び指導事項

    ☆生徒の活動 ★教師の活動

    観 点 評価規準

    関 表 理 知

    1 1Lesson6 の全体の導入。

    ★レッスン全体の進め方を説明し、生徒に学習の見通しを持たせる。

    2○三人称単数現在の-sの導入。

    ★教師の会話の場面を設定し、それを通して、三人称単数現在形の時の動

    詞の活用に気づかせる。☆三人称単数の概念の確認をおこなう。

    ○三人称の概念、主語

    が三人称単数で現在の

    場合の動詞の活用(-s、

    -es がつくこと)を理解

    できたか。

    ****

    本時本時本時本時

    1○異文化理解(イギリス)。①

    ★イギリスの生活様式について、英語で紹介する。

    ★Q and A で内容理解の確認をさせる。☆英語を聴き、質問に答える。

    2動詞の活用、三人称単数形、人称、単数の概念の復習。

    3デジタル教材を使い、個別で繰り返し練習(14 分)。

    ☆三人称単数形など人称の区別の練習、動詞の活用練習をする。

    ☆主語にあわせて動詞の活用をする。 4○☆確認テストをする。

    ○イギリスについて興

    味を持ち聴けたか。

    ○動詞の活用を正しく

    行えたか。

    3 1○Part1 の対話内容理解。

    ★新出単語の発音・意味を確認させる。☆単語の確認、発音練習をする。

    ★リスニングで本文の対話内容の概略をつかませる。

    ★Q and A で内容理解の確認をさせる。

    ★リーディング練習をさせる。☆リーディング練習をする。

    2★動詞の活用、三人称単数の概念を復習させる。(口頭)

    3○コミュニケーション活動(text p65)。

    ☆ペアで「何時頃~するか」インタビューし、それを他の人に伝える。

    ○リスニングやリーデ

    ィング活動を通して対

    話内容を理解できたか。

    ○動詞の活用を用いて、

    ペアのことを他の人に

    紹介したり、書いたり

    できたか。

    4 1○異文化理解(イギリス)② 。

    2★一般動詞の、疑問文、否定文を復習させる。

    3★三人称単数現在形の疑問文・否定文の作り方を説明する。

    4 ☆ICT 教材を使い、個別で繰り返し練習する。

    5○☆確認テストをする。

    ○イギリスについて興

    味を持ち聞けたか。

    ○三人称単数現在形の

    疑問文・否定文作り方

    を理解できたか。

    5 1○Part2 の対話内容理解。

    ★新出単語の発音・意味を確認させる。☆単語の確認、発音練習をする。

    ★リスニングで本文の対話内容の概略をつかませる。

    ★Q and A で内容理解の確認をする。 ☆英語を聴き、質問に答える。

    ★リーディング練習をさせる。☆リーディング練習をする。

    2★動詞の活用、三人称単数の概念の復習をさせる。

    3○コミュニケーション活動(text p67)。

    ○リスニングやリーデ

    ィング活動を通して対

    話内容を理解できたか。

    ○ペアで積極的に活動

    できたか。

  • - 10 -

    3 仮説の検証と考察

    研究の仮説に基づき、「三人称単数をイメージでとらえ理解する教材」と「主語が三人称単数で現在

    の場合の動詞活用練習教材」を使って、三人称単数の概念理解と動詞を活用することができたかを検

    証した。

    (1) 検証方法

    ① 補習授業での活用

    開発したデジタル教材を活用した授業以下(デジタル教材活用あり)と従来型授業(【開発した

    ICT教材を活用していない授業)以下(デジタル教材活用なし)の2つのグループに分け、事

    前テストと補習後の確認テストの結果で比較を行う。「デジタル教材活用なし」のクラスは従来通

    りの紙媒体でのワークシートでの学習を行う。その他の学習条件は「デジタル教材活用あり」と

    同じである。

    ア デジタル教材活用あり 2学年(2クラス 50 人)

    イ デジタル教材活用なし 2学年(2クラス 50 人)

    ② 授業での活用

    授業での活用における検証を行った。「デジタル教材活用あり」と「デジタル教材活用なし」の

    2つのグループに分け単元テストの結果で比較を行う。

    ア デジタル教材活用あり 1学年(2クラス)

    イ デジタル教材活用なし 1学年(2クラス)

    ③ 検証授業後のアンケート調査

    デジタル教材を活用したグループに対して、操作性やパソコンを活用した学習についてのアン

    ☆ペアで教科書に出てくる人物について、質問し合う。

    6 1○コミュニケーション活動(ワークシート)。

    ☆クラスメイトにインタビューし、表にまとめる。

    2○クラスメイトを紹介する表現活動(英作文)。

    ☆インタビューした中から1人選び、その生徒についての紹介文を書く。

    ○積極的に活動できた

    か。

    ○既習文法事項を使い、紹

    紹介文が書けたか。

    7 1三人称単数現在形の復習。

    2★「where」や「when」を用いた疑問文を導入する。

    3○Part3 の対話内容理解。

    ★新出単語の発音・意味を確認させる。☆単語の確認、発音練習をする。

    ★リスニングで本文の対話内容の概略をつかませる。

    ★Q and A で内容理解の確認をする。 ☆英語を聴き、質問に答える。

    ★リーディング練習をさせる。☆リーディング練習をする。

    ○「where」や「when」

    を使った疑問文とその

    答え方を理解できたか。

    ○リスニングやリーデ

    ィング活動を通して対

    話内容を理解できたか。

    8 1○異文化理解(イギリス)。③

    2★「where」や「when」を用いた疑問文の復習をする。

    3グループの人にクラスメイトを紹介する(練習)。

    ☆紹介文を聴いて、「where」、「when」を用いた疑問文での質問に挑戦す

    る。

    4☆クラスメイトの紹介活動(他者)評価をワークシートにまとめ、よく

    なるためのアドバイスを互いにおこなう。

    ☆次の発表に向けて、自分の紹介文内容や質問したいことを考える。

    ○イギリスについて興

    味を持ち聞けたか。

    ○ペアやグループで積

    極的に活動できたか。

    9 1○コミュニケーション活動。

    ★クラスメイトを紹介する発表の進め方を確認する。発表の仕方や話し手

    や聞き手の態度などについて確認する。

    ☆再度グループで発表する。☆お互いの評価をワークシートにまとめる。

    ☆グループ代表を決め、全体で発表する。☆活動の振り返りを行う。

    ○ ○ ○ ○既習の文法事項を使

    って、分かりやすい発

    表ができたか。積極的

    に質問ができたか。

    10 1レッスンのまとめを行う。

    ★単語・文法事項の復習・リーディングさせる。

    ☆単語の復習・文法事項・リーディングによる単元内容の再確認を行う。

    2○☆単元テストをする。

    ○この単元で学習した

    内容を理解できている

    か。

  • - 11 -

    0

    2

    4

    6

    8

    A B C D E F G H I J K L M N

    ケートを実施した(3学年3クラスも含む)。

    ④ 追加検証

    1学年は検証授業後、「三人称単数の判断」「動詞の活用の仕方」で単元テストが半分点以下の

    生徒中心に実施した。一通り問題を終えることを伝え時間は設定せずに補習を行った。

    2学年は検証補習後、「動詞の活用の仕方」で定着の弱かった生徒2人を抽出し実施した。時間

    を本人達に任せタブレット端末を使い補習を行った。

    (2) 検証結果について

    ① 2学年での「デジタル教材活用あり」と「デジタル教材活用なし」のグループでの検証結果

    ア 三人称単数形の概念理解

    「三人称単数形の概念を理解できているか」の検証において、若干の違いは見られるが、ほ

    とんど差はなかった。事前テストにおいて正答率が0%だった生徒に着目し比較行うと、絵や

    英単語の中から三人称単数形を選ぶテストでは、「デジタル教材活用なし」(図 18)では 14人

    中7人が8点満点をとり、平均 6.7 点なったのに対し、「デジタル教材活用あり」では(図 19)

    14 人中9人が満点を取り、平均 7.4 点であった。満点には及ばないその他生徒を比べても「活

    用あり」の方が正答数は多かった。三人称単数形の概念を理解するために、イラストを用いて

    イメージさせることは有効だと考えられる。

    ② 動詞を変化させること

    イ 動詞の活用の仕方の理解

    「動詞を4つのパターンに分けて、活用することができるか」の検証において、こちらもア

    の結果同様「デジタル教材活用あり」と「デジタル教材活用なし」の差はわずかであった。し

    かし、こちらの場合はやや「デジタル教材活用なし」(図 20)の生徒の方が「デジタル教材活

    用あり」(図 21)の生徒よりも伸びがみられた。事前テストで正答率が0%だった生徒の比較

    からは、「活用なし」では 16 人中7人が 12 点満点で平均は 10.2 点となり、「デジタル教材活

    用あり」では 11 人中4人で平均 9.4 点であった。動詞を活用して正しくアルファベットをつ

    づる学習場面では、機器に不慣れな生徒や入力問題まで進めなかった生徒もおり、デジタル教

    材を活用する上で、十分な練習時間のとれない生徒がいたことが授業後のアンケートから分か

    った。

    図 19 三人称単数概念理解変化 「デジタル教材活用あり」

    14141414 人人人人

    得点 個人

    達成率(%)

    図 18 三人称単数概念理解変化 「デジタル教材活用なし」

    0 10 20 30 40

    0~10

    11~20

    21~30

    31~40

    41~50

    51~60

    61~70

    71~80

    81~90

    91~100

    人数人数人数人数

    補習後

    補習前

    0

    2

    4

    6

    8

    A B C D E F G H I J K L M N得点

    個人

    正答率(%)

    事前テストで正答率0%だった 14 人の生徒の変化

    事前テストで正答率0%だった 14 人の生徒の変化

    14141414 人人人人

    平均 7.4 / 8 点

    平均上昇率 93%

    平均 6.7 / 8 点

    平均上昇率 85%

    0 10 20 30 40

    0~10

    11~20

    21~30

    31~40

    41~50

    51~60

    61~70

    71~80

    81~90

    91~100

    人数人数人数人数

    補習後

    補習前

    正答率(%)

    14141414 人人人人

  • - 12 -

    ② 2学年における追加検証

    ウ 追加検証

    後日、時間を設け生徒Pと生徒Kにタブレット端末デジタル教材を活用した補習を行った(図

    22、23)。負担のないように練習時間を任せると、Pは 51 分、Kは 46分の自主学習を行うこと

    ができた。はじめはヒントを見ながら問題に取り組んでいたが、練習を重ねていくとヒントを

    使う回数が減っていった。自主学習中に教師から「三人単数現在形」を理解するための視点を

    与える質問を行い、理解していない場合には補説を加え補習を行った。学習後の確認テストで

    は 12点満点中Pは8点、Kは5点という結果となった。Pの場合は従来通りの紙媒体による補

    習後も動詞を活用することができずにいたので、このことよりデジタル教材の効果があったと

    考えられる。

    ② 1 学年において、授業で基本事項の練習にデジタル教材を取り入れた場合

    ア 授業の条件を揃え、その中の 14 分間は三人称単数形の概念理解、動詞の活用の仕方の2つの

    練習を行った。「デジタル教材活用なし」「デジタル教材活用あり」のグループに分けての検証

    でも、2学年での検証結果と同じく、三人称単数の概念理解では「デジタル教材活用あり」の

    グループの方がやや高く(図 24)、逆に動詞の活用では「デジタル教材活用なし」の方がやや高

    い結果となった(図 25)。

    図 20 動詞の活用の仕方 「デジタル教材活用なし」

    0 10 20 30 40

    0~10

    11~20

    21~30

    31~40

    41~50

    51~60

    61~70

    71~80

    81~90

    91~100

    人数人数人数人数

    補習後

    補習前

    図 21 動詞の活用の仕方 「デジタル教材活用あり」

    0 10 20 30 40

    0~10

    11~20

    21~30

    31~40

    41~50

    51~60

    61~70

    71~80

    81~90

    91~100

    人数人数人数人数

    補習後

    補習前

    0

    6

    12

    A B C D E F G H I J K L M N O P

    0

    6

    12

    A B C D E F G H I J K

    11116666 人人人人

    11111111 人人人人

    得点

    個人

    個人 正答率(%)

    正答率(%)

    得点

    事前テストで正答率0%だった16人の生徒の変化

    事前テストで正答率0%だった 11 人の生徒の変化

    平均 9.4 / 12 点

    平均上昇率 79%

    平均 10.2/ 12 点

    平均上昇率 85%

    図 23 タブレット端末による3人称単数選択練習 図 22 少人数の補習の様子

  • - 13 -

    0 10 20 30

    0~10

    11~20

    21~30

    31~40

    41~50

    51~60

    61~70

    71~80

    81~90

    91~100

    三人称単数理解 単元テスト

    デジタル教材活用なし54人

    デジタル教材活用あり50人

    図 24 1 学年 三人称単概念理解

    「この単元で分かったこと、分かりづらかったこと、また、授業でがんばったこと、反省な

    どを書きましょう。」の項目において「分かりづらかったこと」では「三人称単数の意味が分か

    りづらい」「どの動詞に es かsか ies をつけるのかあまり、分からなかった」「主語がどんなと

    きに、sや es がつくのがよく分からない」などがあがっていた。また、「今までの勉強で一番

    難しかった」「英語は難しいと思った」「三人称単数形について全然知らなかったけど、パソコ

    ンを使って勉強したから、簡単にできたという思い出がこの単元にはありました」などの感想

    もあがっていた。

    イ 1学年における追加検証

    単元テストの結果を受け、「三人称単数形の概念理解」と「動詞の活用の仕方」の2つの項目

    に関して、点数が半分以下の生徒を中心に放課後補習を行った。デジタル教材を使い前向きに

    取り組んでいる生徒を2人抽出し検証を行った。生徒A(授業で従来通り紙媒体の練習、三人

    称単数形の概念理解3/6点、動詞の活用の仕方が0/12 点)生徒B(授業でデジタル教材を活

    用練習、三人称単数形の概念理解3/6点、動詞の活用の仕方が0/12 点)の2人である。Aは

    補習後のふりかえりテストで三人称単数形の概念理解5/6点、動詞の活用の仕方が6/12 点、

    Bは3人称単数形の概念理解6/6点、動詞の変化のさせ方が 12/12 点)の結果となった(表1、

    2)。

    ③ アンケート調査ではパソコンやデジタル教材を使った学習について以下のような回答があった。

    ○すごく分り易くて、今まで理解していなかった部分がはっきり分かるようになりました。他

    の単元でも使ってみたい(3学年)。

    ○字を書いたりしないし、パソコンを使うから楽しい。1人 1台あるから自分のペースで進めら

    れるから楽しかった(2学年)。

    ○集中できるし、やる気もでる(2学年)。

    ○これをやったら、前の日休んでいて分からなかったことが分かりました。とても分かりやす

    かった(1学年)。

    ●パソコンを使っての学習は良いと思いましたが、しかし、簡単すぎではないかと思いました。

    でも三単現を忘れてしまいそうなときは役に立ちそうで良かったです(3学年)。

    ●パソコン学習を授業にとりいれたら確かに分りやすいけど、単語のスペルを覚えたりするの

    図 25 1 学年 動詞の活用の仕方

    0 10 20

    0~10

    11~20

    21~30

    31~40

    41~50

    51~60

    61~70

    71~80

    81~90

    91~100

    動詞の活用の仕方 単元テスト

    デジタル教材活用なし 54人

    デジタル教材活用あり 50人

    正答率(%) 正答率(%)

    人数 人数

    表1 三人称単数形の概念理解テスト結果比較

    単元テスト ふりかえりテスト

    生徒A 3/6点 5/6点

    生徒B 3/6点 6/6点

    単元テスト ふりかえりテスト

    生徒A 0/12 点 6/12 点

    生徒B 0/12 点 12/12 点

    表2 動詞の活用テスト結果比較

  • - 14 -

    は筆記の方がいいと思った(3学年)。

    ●キーボードの練習の難しさをあげるべき(2学年)(問題の難易度を上げる)。

    (3) 考察

    ① 授業では定着が不十分な1学年の生徒の個別反復学習

    1 学年において「単元テスト」と追加検証補習後に行った「ふりかえりテスト」の結果比較を

    通して、生徒Aと生徒Bは「三人称単数形の概念理解」と「動詞の活用の仕方」の2つの項目に

    関して個別反復学習として効果的であると考えられる。

    ② 2、3学年の復習

    補習後の結果は、「デジタル教材活用あり」と「デジタル教材活用なし」では全体的には同様な

    伸びが見られた。しかし、正答率0%の生徒に着目すると「三人称の単数の概念」においてはイ

    ラストなどでイメージがしやすい「デジタル教材活用あり」の方が理解を促したと考察できる。

    選択問題においては選択することで回答できたことが復習の効率を上げることにつながったと考

    えられる。「動詞の活用の仕方」においては 1問ごとに正誤判定が行われ、その結果を次の問題に

    つなげることができたこと、訂正する場合もボタン 1つでできるという操作性が、これまでの「書

    いて、間違えたら消しゴムで消す」ことに比べて容易にできるという点でも、多くの問題へ取り

    組めることにつながっていったと考えられる。

    補習に活用する際には、「忘れてしまっている」生徒と「1年の時点で分からなかった」生徒の

    補習では学習形態を変える必要がある。前者の生徒には一斉補習や宿題として教材活用を行い、

    その後「ふりかえりテスト」等で確認する形態でも復習可能である。しかし、後者の生徒には少

    人数よる個別補習で理解したかを確認しながら、練習に取り組ませる配慮が大切である。

    補習後は個々の学習状態を確認するために、豆テストを用意することで、教師が補習につけな

    い場合でも、個々の理解や定着が把握する必要がある。

    ③ アンケート結果より

    感想としてはパソコン学習への期待や楽しさが多くあげられていた。英語を苦手とする生徒の

    理解に合わせているため、苦手とする生徒からはわかりやすいという感想が多かった。しかし、

    得意とする生徒からは難易度をあげてもいいという意見もみられた。また、授業内の決められた

    練習時間においてはパソコン操作に慣れているか否かでも問題の進み方が異なり、アルファベッ

    ト入力に慣れるまでの時間のゆとりを持つことが望ましい。生徒から「操作が苦手なので、入力

    問題はやりたくない」という声もあり、実際に入力問題には進んでいない生徒もいた。つづりを

    確認しながらの入力問題では時間の配慮や紙媒体と併用して活用すると効果的だと考えられる。

    今回の検証において、「三人称単数形の概念理解」と「動詞の活用の仕方」の2つの項目において、

    概念の理解の高まりや、動詞の活用ができるようになってきた。しかし、生徒によって習得や定着

    には個人差があるため、個々のペースに合わせて繰り返しデジタル教材を活用することで、定着に

    つながると考える。

    Ⅳ 成果と課題

    1 成果

    (1) 「三人称単数形の概念理解」においてイラストと文字を一緒に提示し説明することで、イメージ

    化が図られ、三人称単数概念の理解を高めることができた。

    (2) 「動詞の活用の仕方」において、ヒントや誤った場合の説明を次の問題に生かし「選択問題」か

    ら「入力問題」へとスモールステップで練習することで、動詞を活用できるようになってきた。

    (3) 画面に問題が連続的に表示されることで、集中して多くの問題を反復練習することができた。

    (4) ICTを活用し生徒が個別に自分のペースで学習することで、意欲喚起につなげることができ、

    授業改善につなげることができた。

    2 課題

    (1) 「三人称単数形の概念理解」と「動詞の活用」において、定着には至らなかった。

    (2) このデジタル教材は Web ブラウザ上で機能するので、本教材を活用するためには、各学校の実情

    に合わせて設定しなければならない(別紙マニュアル参照)。

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    赤堀 侃司 2014 『タブレットは紙に勝てるのか』 ジャムハウス

    小貫 悟 桂 聖 2014 『授業のユニバーサルデザイン入門』 東洋館出版社

    沖縄県教育委員会 平成 25 年 『わかる授業 Support Guide』

    筑波大学 平成 25 年 『発達障害のある子どもたちのための ICT 活用ハンドブック』

    大津 由紀雄 編著 2012 『学習英文法を見直したい』 研究社

    鈴木 希明 編著 2012 『be』株式会社いいずな書店

    株式会社 アンク 2012 『ホームページ辞典 HTML CSS JavaScript 第5版』 株式会社 翔泳社

    和歌山県教育委員会 平成 21 年 『発達障害児指導事例集』

    文部科学省 平成 20 年 『中学校学習指導要領解説 外国語編』 開隆堂

    『子供のゲーム機・タブレット型携帯端末・携帯音楽プレイヤーの利用状況』

    http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-jittai/html/2-2-3.html

    『視聴覚教育技術(AVI=Audio-Visual)』産業教育機器システム

    http://www2s.biglobe.ne.jp/~ganko/kikaku/polytech/1-5.html

    『かわいいフリー素材集 いらすとや』

    http://www.irasutoya.com/

    『ベネッセ教育総合研究所』調査・研究データ

    http://berd.benesse.jp/global/research/detail1.php?id=3302

    『Google 翻訳"Text to Speech"』

    http://translate.google.com/translate_tts?tl=en&q=

    『子どもの探究心を伸ばすタブレット端末の可能性』 ベネッセ教育総合研究所

    http://berd.benesse.jp/berd/focus/1-digital/activity4/