国税審判官経験者が説く 最新の評価通達項...

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国税審判官経験者が説く 最新の評価通達6項適用裁決 審査部部長 公認会計士・税理士 大橋 誠一 税理士法人チェスター 第14回 相続実務セミナー

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Page 1: 国税審判官経験者が説く 最新の評価通達項 適用裁決②原処分庁が2社に対して不動産鑑定を依頼し(推定)、いずれも平 成27年4月付で鑑定評価書を作成

国税審判官経験者が説く最新の評価通達6項適用裁決

審査部部長 公認会計士・税理士 大橋 誠一

税理士法人チェスター

第14回 相続実務セミナー

Page 2: 国税審判官経験者が説く 最新の評価通達項 適用裁決②原処分庁が2社に対して不動産鑑定を依頼し(推定)、いずれも平 成27年4月付で鑑定評価書を作成

今回のセミナーのねらい

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税理士の実務においる悩みどころは、これからしようしている申告内容が課税庁に是認されるか否かのいわゆる「予測可能性」についての心証が得られないこと。

特に、「行為計算否認」に代表される包括否認規定については、発動の判断基準が抽象的で、個々の事例ごとの判断になり、過去の判例・裁決事例から経験的に考えるしかない。

相続税法における「行為計算否認」に似た定めが、財産評価基本通達6項であり、相続税申告実務・事業承継のコンサルティングに従事する税理士にとっては、意識しないことが許されない取扱いである。

今回は、評価通達6項について争われた平成29年5月23日の国税不服審判所裁決を題材に、「裁決書を書く側」の立場からの着眼点をもって解説する。

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平成29年5月23日公表裁決(本件裁決)関連情報

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裁決番号:札裁(諸)平成28年第15号

札幌国税不服審判所長 土屋 雅一氏(国税庁キャリア採用)

(直近経歴)大阪国税不服審判所 次席審判官名古屋国税不服審判所 次席審判官大阪国税不服審判所 審理部部長審判官国税庁課税部審理室 国税争訟分析官税務大学校 研究部長関東信越国税局 課税第一部長名古屋国税局 課税第一部長

(論文)税大ジャーナル(平成26年5月)第23号「ビットコインと税務」

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本件裁決の事案の概要<基礎事実①>

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①平成20年5月 R銀行に〇〇診断を申込み「相続税が心配」②平成20年8月 二男Pの子Kを養子縁組

③平成21年1月 R銀行から借入の上で本件甲不動産を取得④平成21年12月 R銀行から借入の上で本件乙不動産を取得

⑤平成24年6月 本件相続開始⑥平成24年10月 遺産分割協議成立(Kが本件各不動産を取得し債

務を承継)↓

⑦平成25年3月 本件乙不動産を外部に譲渡【疑問】なぜ譲渡の事実が「基礎事実」に記載されているのか?

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本件裁決の事案の概要<基礎事実②>

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<本件各不動産の価額>

①請求人らは、評価通達の定めのとおりに評価額を算定して申告

②原処分庁が2社に対して不動産鑑定を依頼し(推定)、いずれも平

成27年4月付で鑑定評価書を作成

③原処分庁は、「国税庁長官の指示を受けて」本件各鑑定評価額を

もって本件各原処分庁評価額とする本件各更正処分を行う。

④本件甲土地に小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等と推定)を適

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本件裁決の事案の概要<審査請求に至る経緯>

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①平成24年6月 本件相続開始

②平成25年(推定) 期限内申告

③平成27年(推定)~平成28年 税務調査

④平成28年4月 本件各更正処分

⑤平成28年7月 国税不服審判所長に対して審査請求

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本件裁決の争点

争点1

本件各不動産について、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるか否か。

争点2

本件付記理由に、本件各更正処分を取り消すべき記載不備があるか否か。

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争点1の主張の要旨<原処分庁>

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次のとおり、「特別な事情」があり、本件各鑑定評価額は、相続税法22条規定の時価を適正に反映している。

①評価通達6の射程は、通達評価額が時価を上回る場合だけでなく、

下回る場合も含まれる。

②本件各不動産の通達評価額は、鑑定評価額の30%にも満たず、著し

い価額の乖離がある。

③本件各不動産の取得から借入までの一連の行為によって相続税額が

全く算出されず、本件スキームによる相続税負担の軽減を享受する

余地がない納税者との間の租税負担の公平を著しく害し、相続税の

機能に反する著しく不相当な結果をもたらしている。

④本件各鑑定評価額は、時価を合理的に算定し信頼性が高い。

⑤評価通達は税務官庁の公的見解として明示しており、同通達6に基

づき原処分することは信義則に反しない。

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争点1の主張の要旨<請求人ら>

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次のとおり、「特別な事情」がなく、本件各更正処分は租税法律主義に反する。

①評価通達6の射程は、路線価に反映されない客観的な評価減の根拠

事実が発生し時価が激変した場合に限られる。

②節税や租税回避の目的があった事情によって「特別な事情」がある

と判断することは許されず、恣意的な課税が可能となる。

③節税や租税回避以外の合理的な目的が存在していた。

④通達評価額と鑑定評価額との間の著しい乖離は稀ではなく、そう

いった事案の全てや本件各不動産の近隣不動産について、評価通達

6に基づく課税処分がなされているかどうか明らかでない。

⑤相続税法22条規定の時価は、相続という偶発的原因による控えめな

評価額であり、鑑定評価額をもって同条の時価とはいえない。

⑥評価通達6による課税処分は信義則に反する。

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争点1の法令解釈(評価通達の規範性)

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・相続税法第22条の時価とは「客観的な交換価値」である。

・あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、

納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみ

て合理的である。

・特に租税平等主義という観点からして、評価通達が合理的なもので

ある限り、これが形式的に全ての納税者に適用されることによって

租税負担の公平をも実現できるから、特定の納税者あるいは相続財

産についてのみ評価通達に定める方法以外の方法によって評価する

ことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法

22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、

納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり許されない。

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「評価通達の規範性」の引用判決①

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<東京地裁平成26年10月15日判決(平成24年(行ウ)第382号)>

「同(評価)通達の定める評価方式が形式的に全ての納税者に係る財産の価額の評価において用いられることによって,基本的には租税負担の実質的な公平を実現することができるものと解されるのであって,同(相続税)法22条の規定もいわゆる租税法の基本原則の1つである租税平等主義を当然の前提としているものと考えられることに照らせば,特段の事情があるとき(同通達6参照)を除き,特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ同通達の定める評価方式以外の評価方式によってその価額を評価することは,たとえその評価方式によって算定された金額がそれ自体では同法22条の定める時価として許容範囲内にあるといい得るものであったとしても,租税平等主義に反するものとして許されないものというべきである。」

→当時は、いささか書き過ぎ(踏み込み過ぎ)な印象があったが、これを本件裁決の法令解釈として引用している。

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「評価通達の規範性」の引用判決②

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<東京高裁平成27年12月17日判決(平成26年(行コ)第18号)>

「納税者間の公平の確保、納税者及び課税庁双方の便宜、経費の節減等の観点から、評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定し、これにより財産の評価がされることを当然の前提とする趣旨であると解するのが相当である」

→本件裁決までは、上記判決が審判所の法令解釈のスタンダートだったのではないか。

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争点1の法令解釈(6項の許容可能性)

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・評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等

を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現す

るという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を

著しく害することが明らかな場合には別の評価方法によることが許

され、このことは、評価通達において「通達の定めによって評価す

ることが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指

示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかである。・すなわち、特別の定めのある場合を除き、評価通達に定める評価方

法によるのが原則であるが、評価通達によらないことが相当と認

められるような特別の事情のある場合には、ほかの合理的な時価の

評価方法によることが許される。

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争点1の認定事実①

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【租税回避の意図】

①本件被相続人は、R銀行から診断結果の報告を受けた際、借入金に

より不動産を取得した場合の税額の試算及び財産の圧縮効果につい

ての説明を受けており、本件各不動産を取得した時期は、R銀行に

相談し、請求人Kと養子縁組した時期に近接した時期である。

②R銀行の「貸出稟議書」の「採上理由」には、相続税対策を目的と

して収益物件の購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった

旨の記載があり、本件被相続人は、R銀行との間で、借入れの目的

が相続税の負担の軽減を目的とした不動産購入の資金調達にあると

の認識を共有していた。

→審判所は、原処分庁による銀行調査内容(銀行は納税者に閲覧を認めない内容)を事実認定した。

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争点1の認定事実②

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【不合理不自然な取引】

③本件各不動産以外の同族会社の不動産も担保に供している。

→審判所は一般の納税者ではできない(資産家でしかできない)取引によってそのスキームが成り立っていることを事実認定した。

【評価の乖離状況】

④本件甲不動産の通達評価額は、取得価額・鑑定評価額のそれぞれ約

23.9%・約26.5%、本件乙不動産のそれは、取得価額・譲渡価額・

鑑定評価額のそれぞれ約24.3%・約26.0%・約25.8%の水準である。

→乖離の割合の高低が直接問題なのか。

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認定事実の法令解釈への当てはめ方①

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・鑑定評価額が相続税法22条の時価であることを認定。

→審判所も最終的に鑑定評価額に依拠するため予め認定しておく。

・本件スキームがなければ通常相続税が発生するが、それによって、

結果として、課税価格に算入すべき金額の大半が圧縮され、請求人

らは相続税の負担を免れる。

→「いくら何でもやり過ぎ」という判断基準があるのか?

・本件各不動産の取得から借入れまでの一連の行為は、通達評価額と

鑑定評価額との間に著しい乖離のある本件各不動産を、借入金によ

り取得し、評価通達に定める方法により評価することにより、本件

借入金債務額がほかの積極財産の価額からも控除され、請求人らが

本来負担すべき相続税を免れるという結果をもたらす。

→「一連の行為」の範囲は、「譲渡」までではなく「借入れ」まで

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認定事実の法令解釈への当てはめ方②

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・基礎事実・認定事実を総合すれば、本件各不動産の取得の主たる目

的は相続税の負担を免れることにあり、本来請求人らが負担すべき

相続税を免れることを認識した上で、本件各不動産を取得したとみ

ることが自然である。

→【租税回避の意図】を認定

・多額の借入れができたのは、親族及び同族会社が保証人となり、か

つ、同族会社所有の不動産にも抵当権を設定できたためである。

→【不合理不自然な取引】を認定

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認定事実の法令解釈への当てはめ方③

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・通達評価額を採用すると、請求人らが本来負担していたはずの相続

税を免れる利益を享受するという結果を招く。このような事態は、

本件スキームを採ら(れ)なかったほかの納税者との間の実質的な

租税負担の公平を著しく害し、富の再分配機能を通じて経済的平等

を実現するという相続税の目的に反する著しく不公平なものである。

→「課税の公平」を重視

・本件については、評価通達を画一的に適用するという形式的な平等

を貫くことによって、相続税の目的に反し、かえって実質的な租税

負担の公平を著しく害することが明らかであるから、「特別の事

情」があると認められ、本件各不動産は、ほかの合理的な時価の評

価方法である鑑定評価額に基づいて評価することが相当である。

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裁決書を書く側の疑問①

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この争点「本件各不動産について、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるか否か。」は適切なのか?

本来は、「本件各原処分庁評価額は、相続税法第22条規定の『時価』を上回る違法があるか否か。」とすべきではないか。

審判所は、通達以下の発遣文書の法令適合性を審査する権限がある。

→審判所が拘束されるのは法令のみであって、通達以下の発遣文書には拘束されない。

→判断基準である課税要件は、拘束される法令記載の文言から抽出しなければならず、本件については相続税法22条の「時価」しか規定がない。

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裁決書を書く側の疑問②

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①相続税法22条の「時価」は、「客観的交換価値」をいう。②「客観的交換価値」は一義的に確定できないことから、課税実務上は、評価通達に定められた画一的な評価方法によって評価する。そうする方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるからである。③しかし、形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許され、6項の定めは当審判所においても相当であると認められる。

④6項に定める「著しく不適当」とは、評価通達によらないことが相当と認められるような「特別の事情」のある場合と解するのが相当である。

→ここまで説示して初めて「特別の事情」を導くことができるのに、法令(相続税法22条)にも通達(6項)にも登場しない「特別の事情」という文言を争点(判断のポイント)にいきなり持ち出している。

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裁決書を書く側の疑問③

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「本件の事実関係が『特別の事情』に該当するから、(鑑定評価による)本件各原処分庁評価額によるべきである」と結論づけている。

→本来は、下記まで説示しなければ、原処分の適否は判断できない。

①本来は、画一的な評価方法によって評価すべきであるが、本件には「特別の事情」が認められ、6項に定める「著しく不適当」に該当するから、別の評価方法によるべきである。

②本件各原処分庁評価額は、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に従って評定した価額を基にしており、当該評価額は相続税法22条の「時価」を合理的に算定している。

③よって、本件各原処分庁評価額は、相続税法22条の「時価」と同額であり、原処分に違法はない。

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請求人らの主張の排斥①

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①評価通達6の射程は、路線価に反映されない客観的な評価減の根

拠事実が発生し時価が激変した場合に限られる。

→いわゆる「独自の見解」として排斥

②節税や租税回避の目的があった事情によって「特別な事情」がある

と判断することは許されず、恣意的な課税が可能となる。

→相続税の負担軽減の目的があったことを「特別の事情」の有無を判

断する上で考慮することは許され、租税法律主義に反しない。

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請求人らの主張の排斥②

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③節税や租税回避以外の合理的な目的が存在していた。

→否定するに足る証拠はないが、ほかの目的が併存しても、実質的な

租税負担の公平を著しく害することに変わりなくほかの目的によっ

て、「特別の事情」の存在が肯定されなくなるものとすべき根拠は

乏しい。

④通達評価額と鑑定評価額との間の著しい乖離は稀ではなく、そう

いった事案の全てや本件各不動産の近隣不動産について、評価通達

6に基づく課税処分がなされているかどうか明らかでない。

→仮に同様の事案で本件のような課税処分が行われなかった事例が

あったとしても、殊更恣意的に本件のみ異なる取扱いをしたよう

な特段の事情がない限り租税公平主義に反するものとはいえない。

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請求人らの主張の排斥③

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⑤相続税法22条規定の時価は、相続という偶発的原因による控えめな

評価額であり、鑑定評価額をもって同条の時価とはいえない。

→いわゆる「独自の見解」として排斥

⑥評価通達6による課税処分は信義則に反する。

→評価通達自体、同通達に定める方法による評価がいかなる場合にも

適用されるものではないことを明示しており、主張の前提を欠く。

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本件裁決の特徴

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①「一連の行為」の範囲を「取得から借入」までと認定しており、(一部)譲渡を考慮せずに6項の発動を許容している。

【疑問】なぜ、譲渡まで考慮しなかったのか?

②「租税回避の意思」をかなり重視している。

③その納税者だからできた取引であることを判断材料にしている。

④課税の公平をかなり重視している。

【疑問】隠れた判断基準は「いくら何でもやり過ぎ」基準?

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裁決書を書く側からみると・・・

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「税法の読み方 判例の見方」TKC出版より抜粋

伊藤義一(国税不服審判所創設時の制度設計担当者)著

第一に、判決には「初めに結論ありき」も多いということを忘れてはなりません。裁判官は、当然心証の傾いた方を勝たせるのですから、そのような場合には、その勝たせるための理屈は後から付けることになります(これを評して「理屈は後から貨車で3杯付いてくる」と言われます)。そのようなときに、「裁判官は何らかの理由で原告(又は被告)を勝たせたかったのだな」と気付けば、いろいろな疑問が氷解することが多いのです。

→【私見】本件裁決は「いくら何でもやり過ぎ」との心証による「原処分維持ありき」で、(審判所よりも上に位置する)裁判所の裁判官が裁決書を読んでも「原処分を維持すべきだな」と思わせるような認定事実を積み上げた可能性がある。

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本件裁決を意識した今後の判断基準

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例:フルローンによるタワマン節税

①評価額の乖離 → 通常の賃貸物件よりも顕著

②租税回避の意図を客観的に識別できるか否か

→銀行の融資稟議は「資産家による相続税圧縮目的」と書くと決裁されやすい(返済能力があることをアピールできる)

③資産家でしかできない取引によりスキームが成り立っているか

・フルローンでも「1部屋で自己居住用の場合」と「10部屋で全て賃貸物件の場合」によって判断は異なる

・通常銀行が高齢者に融資する際の返済期間を大幅に超えた返済期間である場合

④譲渡していないことは、6項適用の制約条件ではなくなった

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行為計算否認規定と評価通達6項との関係性①

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税務大学校「税大論叢」第80号 平成27年7月3日

山田重将「財産評価基本通達の定めによらない財産の評価について-裁判例における「特別の事情」の検討を中心に-」

①評価通達による評価方法を形式的に適用することの合理性が欠如し

ていること(評価通達による評価の合理性の欠如)

②他の合理的な時価の評価方法が存在すること(合理的な評価方法の

存在)

③評価通達による評価方法に従った価額と他の合理的な時価の評価方

法による価額の間に著しい乖離が存在すること(著しい価額の乖離

の存在)

④納税者の行為が存在し、当該行為と③の「価額の間に著しい乖離が

存在すること」との間に関連があること(納税者の行為の存在)

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行為計算否認規定と評価通達6項との関係性②

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<評価通達6項と相続税法64条との関係性>

・評価通達6項適用に係る裁判例のうち、同族会社を利用して行われた

「租税回避型」に該当するもの(東京地裁平成12年5月30日判決、

大阪地裁平成16年8月27日判決など)については、相続税法64条1項

の適用も可能であったと考えられ、同族会社の行為計算否認規定で

ある同項と評価通達6項はその適用において並存し得るといえる。

・しかし、昨今のヤフー・IBM事件等を契機に、行為計算否認規定の

法令解釈に変更(揺らぎ)が生じているとともに、課税庁は、本件

裁決を評価通達6項の適用局面を拡大する裁決と捉えることが想定

される(判決・裁決はされた以上独り歩きすることを止めることが

できない)ことから、本件裁決の行き過ぎに警鐘を鳴らす判決がな

い限りは、その影響は継続して注視しなければならない。

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行為計算否認規定と評価通達6項との関係性③

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<(参考)ヤフー事件>

・控訴審(東京高裁平成 26 年 11 月 5 日判決)

不当とは、取引が経済取引として不合理・不自然である場合のほか、一連の

行為に係る税負担を減少させる効果を容認することが税制の趣旨・目的又は

当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものを含むものと解

することが相当である。

・上告審(最高裁(第1小)平成 28 年 2 月 29 日判決)

「不当」とは,個別規定を租税回避の手段として濫用することにより税負担

を減少させることをいい、その判断に当たっては、通常想定されない手順や

方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出するなど不自然なものであ

るかどうか、税負担の減少以外に合理的な目的が存在するか等の事情を考慮

した上で、個別規定を利用した税負担の減少を意図したものであり、個別規

定の本来の趣旨・目的から逸脱する態様でその適用を受ける又は免れるもの

と認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

Page 31: 国税審判官経験者が説く 最新の評価通達項 適用裁決②原処分庁が2社に対して不動産鑑定を依頼し(推定)、いずれも平 成27年4月付で鑑定評価書を作成

(参考)争点2の法令解釈

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・行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその

理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、不利益処分

の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を

抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに

便宜を与える趣旨に出たものと解される。

・行政手続法第14条第1項本文に基づいてどの程度の理由を付記すべき

かは、上記の趣旨に照らし総合考慮して決定すべきであるが、行政

庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的

を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する

理由の付記として欠けるところはないと解するのが相当である。

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本日は、お忙しいところ、本セミナーにご参加いただき、誠にありがとうございました。

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