現代建築作品のダイアグラム表現にみる建築の生成イメージ...

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現代建築作品のダイアグラム表現にみる建築の生成イメージ A Study on the Spatial Formation in the Description of Diagram Drawings by Contemporary Architects 奥山研究室 09M30196 佐藤 (SATO, Takeshi) Keywords:ダイアグラム、生成イメージ、図面表現、現代建築家 diagram, spatial formation, description of drawing, contemporary architect 2.ダイアグラムの配列形式 ダイアグラムは、図 1 にみられるように複数の図形によって 表現されており、それらのまとまり方からひとつの図として独 立したものを単位図 2) として定義する。ここでは、ダイアグ ラムを単位図の配列形式とそれらの序列を示す記号の有無から 検討する(図 2)。まず単位図の配列形式をその規則性から整 理し、全ての単位図が一つの軸に沿って並べられたものを【一 軸】、二つの軸に沿って並べられたものを【二軸】、共通した軸 がみられないものを【軸なし】の3つに大別した。次に単位図 間を英数字や文字によって序列を示す文字記号、単位図同士の 関係を示す対応線、矢印を序列記号として捉えた。そして図 2 では単位図の配列形式と序列記号の有無が示されている。その 結果【一軸】が多くみられ、このとき序列記号をもたないダイ アグラムが比較的多くみられた。 図 3 単位図を構成する図形の種類 図 2 単位図の配列形式と序列記号の関係 ・線 ・面 ・線的 ・面的 ・空間的 記号図形 平面図形 立体図形 ・ロゴ ・矢印 LIVING TERRACE KITCHEN DINING ・添景 イラストレーション 図 1 分析例 No.044 「サイ・トゥオンブリ・ギャラリー」 - レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ 単位図1 分析 単位図2 単位図3 単位図4 単位図5 ※単位図と図形 単位図6 立体図形① 立体図形② ・立体図形 -複数図形 ・分 節 線 あり ・立体図形 -単数図形 ・分 節 線 あり ・立体図形 -単数図形 ・分 節 線 あり ・立体図形 -複数図形 ・分 節 線 あり ・立体図形 -単数図形 ・分 節 線 あり ・立体図形 -複数図形 ・分 節 線 なし 立体図形③ 立体図形④ 立体図形⑤ 立体図形⑥ 立体図形⑦ 立体図形⑧ 立体図形⑨ 模式化 序列記号 No.9 コーニングの消防署 No.92 House 1 No.29 ポートランド舞台芸術センター 一軸 (98) 67 78 二軸 (29) 軸なし (18) 単位図の 配列形式 序列記号 の有無 ・矢印 ・対応線 単位図同士の対 応を示すもの ・文字記号 単位図同士の序 列を示すもの 58 No.11 カルヴァリー・バプティスト教会 40 16 No.113 オフィスビルディングK47 1 2 3 4 5 6 7 8 9 13 No.36 タウエル図書館 4 14 ①’ ②’ ⑤’ ⑦’ ダイアグラムを構成する 要素を図形とする。 図形の集合で、一つの図 として独立したものを位図とする ひとつの軸に沿って 全ての単位図を並べたもの ふたつの軸に沿って 全ての単位図を並べたもの 全ての単位図の並べ方に 共通した軸がみられないもの 1.序 建築家は、自身が設計した作品を発表する際に、複数の図によ り構成されたダイアグラムを用いて、コンセプトを明快に表現 することがある。それらは、建築のかたちを単純な外形線のみ で描くものや、様々な機能に対応可能である様子を色の変化に よって示すものなど様々であるが、一つのダイアグラムを構成 する図相互の関係によってそれぞれ独自のコンセプトが表現さ れているといえる。したがって、このようなダイアグラム表現 には、建築を生成する仕組みに関する建築家のイメージが示さ れていると考えられる。そこで本研究では、建築作品のダイア グラムを資料 1) とし、それを構成する複数の図の配列形式と 図相互の表現内容からみた生成に関わる操作との関係を検討す ることで、設計論理を示す建築の生成イメージの一端を明らか にすることを目的とする。

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  • 現代建築作品のダイアグラム表現にみる建築の生成イメージ

    A Study on the Spatial Formation in the Description of Diagram Drawings by Contemporary Architects

    奥山研究室 09M30196 佐藤 剛 (SATO, Takeshi)

    Keywords:ダイアグラム、生成イメージ、図面表現、現代建築家diagram, spatial formation, description of drawing, contemporary architect

    2.ダイアグラムの配列形式ダイアグラムは、図 1にみられるように複数の図形によって

    表現されており、それらのまとまり方からひとつの図として独

    立したものを単位図 2) として定義する。ここでは、ダイアグ

    ラムを単位図の配列形式とそれらの序列を示す記号の有無から

    検討する(図 2)。まず単位図の配列形式をその規則性から整

    理し、全ての単位図が一つの軸に沿って並べられたものを【一

    軸】、二つの軸に沿って並べられたものを【二軸】、共通した軸

    がみられないものを【軸なし】の3つに大別した。次に単位図

    間を英数字や文字によって序列を示す文字記号、単位図同士の

    関係を示す対応線、矢印を序列記号として捉えた。そして図 2

    では単位図の配列形式と序列記号の有無が示されている。その

    結果【一軸】が多くみられ、このとき序列記号をもたないダイ

    アグラムが比較的多くみられた。

    図 3 単位図を構成する図形の種類

    図 2 単位図の配列形式と序列記号の関係

    ・線 ・面 ・線的 ・面的 ・空間的

    記号図形平面図形 立体図形・ロゴ ・矢印

    LIVING

    TERRACE

    KITCHENDINING

    ・添景 イラストレーション

    図 1 分析例

    No.044 「サイ・トゥオンブリ・ギャラリー」-レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ

    単位図1

    分析

    単位図2

    単位図3

    単位図4

    単位図5

    ※単位図と図形 単位図6

    1軸

    立体図形①立体図形②

    ・立体図形 -複数図形・分節線あり

    ・立体図形 -単数図形・分節線あり

    ・立体図形 -単数図形・分節線あり

    ・立体図形 -複数図形・分節線あり

    ・立体図形 -単数図形・分節線あり

    ・立体図形 -複数図形・分節線なし

    分節線

    序列記号

    立体図形③

    立体図形④

    立体図形⑤立体図形⑥

    立体図形⑦立体図形⑧

    立体図形⑨

    模式化

    序列記号

    No.9 コーニングの消防署 No.92 House 1 No.29 ポートランド舞台芸術センター

    序列記号あり

    一軸 (98)

    67

    78

    二軸 (29)

    序列記号なし

    軸なし (18)単位図の配列形式

    序列記号の有無

    ・矢印

    ・対応線単位図同士の対応を示すもの

    ・文字記号単位図同士の序列を示すもの

    58

    No.11 カルヴァリ ・ーバプティスト教会

    40

    16

    No.113 オフィスビルディングK47

    1 2 3

    4 5 6

    7 8 9

    13

    No.36 タウエル図書館

    4

    14

    ①’

    ②’

    ⑤’

    ⑦’

    ダイアグラムを構成する要素を図形とする。図形の集合で、一つの図として独立したものを単位図とする

    ひとつの軸に沿って全ての単位図を並べたもの

    ふたつの軸に沿って全ての単位図を並べたもの

    全ての単位図の並べ方に共通した軸がみられないもの

    1.序建築家は、自身が設計した作品を発表する際に、複数の図によ

    り構成されたダイアグラムを用いて、コンセプトを明快に表現

    することがある。それらは、建築のかたちを単純な外形線のみ

    で描くものや、様々な機能に対応可能である様子を色の変化に

    よって示すものなど様々であるが、一つのダイアグラムを構成

    する図相互の関係によってそれぞれ独自のコンセプトが表現さ

    れているといえる。したがって、このようなダイアグラム表現

    には、建築を生成する仕組みに関する建築家のイメージが示さ

    れていると考えられる。そこで本研究では、建築作品のダイア

    グラムを資料 1) とし、それを構成する複数の図の配列形式と

    図相互の表現内容からみた生成に関わる操作との関係を検討す

    ることで、設計論理を示す建築の生成イメージの一端を明らか

    にすることを目的とする。

  • 単位図の組合せNo. No.作品名 作品名 配列単位図の組合せ

    ムラグアイダ形図面平

    ムラグアイダ形図体立

    立+平

    1軸2軸

    1軸

    1軸

    2軸

    なし

    1軸

    2軸

    軸なし

    註)1.図形の数については記号図形を除いて考える。

    2.複数図形において少なくとも一つの図形が分節線をもつ場合、分節線ありとする。

    分節線を持たない単位図を含む 分節線を持つ単位図のみ

    LIVING

    TERRACE

    KITCHENDINING

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    平面図形図形の種類

    図形の数

    記号なし 記号なし記号あり 記号あり立体図形 記号図形

    18

    37

    ○*

    109

    50

    ◎*

    19

    26

    LACMA

    ◇*

    27

    17

    ❖*

    66

    254

    ◉29

    ●*

    25

    ◉*

    3

    ◆*

    4

    *28

    52

    図 4 単位図の描画形式表 単位図の組合せにみるダイアグラムの性格

    082 デンタル・フォス *2 096 ハ-グの複合施設 *2

    087 シルベル・タワ- ◎○* ●◇ 4 ◆024 フランクフルト大学生物学センタ-

    107 フリ-ダム・タワ- ○* 6●* 12097 カンタブリア美術館 ● *●◇ *◇

    ◎4013 国立テクニカル大学実験棟◎4035 キャナル・プラス本社ビル◎4043 サンライズ・プレイス◎4046 アリカンテ大学図書館プロジェクト

    ◎*020 ペ -パ -・ミル劇場 2

    089 ホテル・チュリン ◎2

    109 ブリュッセルの文化センタ-の改築 ◎*2

    125 ミュ-ジアム・プラザ * 4❖

    142 ショッピング・モ-ル屋上の集住 ◎*3057 フィリップモリスU S A工場計画 ◎*3

    061 ヴィラVPRO ◎7

    076 リッチ/ゾ-イ・スタジオ 1997 ◎*4

    098 サレルノ裁判所 ◎3

    111 黒いアマガエル ◎*5074 液晶ガラスの家 ❖2

    095 ロサンゼルス・カウンティ美術館 ◆*2

    117 RVBオフィス ◇◇ *3

    110 旧市街の住宅 ○3 ◎

    126 ソウル国立大学美術館 * 2○2 ❖129 テ・パパ博物館増築計画 ○2 3◎* ❖

    131 IKBインタ-ナショナル ○ 2◎2050 2000年の教会 ○* ◎5

    062 ユトレヒトの二連戸住宅 ◎4◎ * 5

    115 シアトル中央図書館 ◇ ○* *

    ❖*◎* ◎2○ *007 ノ-スレイク・コミュニティ・カレッジ 2

    079 ハムリンのチャペルと図書館 ◎2◇

    119 集合住宅VM ◇*4

    123 ディ- &チャ-ルズ・ワイリ- シアタ- ◇*2139 オ-トモ-ション博物館 ◇*2140 ア-キテクチュア・ファ-ム ◇*2

    145 ベル・ヴュ-・レジデンシィズ ◇*○ 3 2

    063 RVUオフィス 1997 ○ ◎2 ❖*◇ ◎○2 2008 S.U.C.N.Y.体育施設

    ❖6036 コ-ルベ ルク・タウン・センタ-の改築

    ❖2◎14027 グ アルデ ィオ邸138 ポルシェ博物館 ◎ ❖11

    ◎9028 ヴ ィラ・メイヤ- 1986091 WTC・マスタ-・プラン ◇ 8 092 House 1 ◎4

    060 ジャン・マリ- ・チバウ文化センタ- ◎*6

    ◎◎ *018 ラ・スペ ツィアのアパ -ト 3124 マックス・マイヤ-邸 ◎5 ◎*4

    141 FlexiVilla ◇* ❖*42

    ○* ❖*◎4 ❖038 ゴ -マン邸

    133 まつだい文化村センタ- ○* ❖*2 3

    ○* ❖2 ❖*021 フランクフルト工芸博物館

    ◎8○*025 リンゴット工場の改築113 オフィス・ビルディングK47 ○ ◎8

    ◎2○ *◎*022 サン・アントワ-ヌ 病院中央厨房 1985 22

    ◎*023 ロワラ・オフィス 4

    ◎*◎4026 ブ リスベ イン・リヴ ァ-サイド ・センタ- 4100 レイツェンヴェ-ンの高齢者住宅 ◇*6

    067 スカイスクレ-パ-・スタディ 1996 ○5

    ○*18003 資源再生ファウンデ -ション・センタ-

    016 共同墓地霊安所 4120 芸術の館 4073 V2-ラボ *2

    011 ◉2 ◉*ヴィジタ-・レセプション・センタ-

    ◉2 017 セメントとガ ラスのパ ビ リオン計画案

    ◉014 多目的スポ -ツ施設 2

    009 ◉2グ リニッジ のプ -ルハウス

    106 BAK ◉4

    130 新エストニア国立博物館 ◉6

    048 ヴァ-ティカル・パ-ク ◆ 3

    051 ロサンゼルス車両整備/保管ビル ◉5 3

    064 サモラ古代芸術・美術館 ◉2

    080 モアレ・ステア・タワ- ◉6

    070 ダレサンドロ邸 1998 ◉2 2

    ◉3010 消防署◉3012 カルヴ ァリ-・バ プ ティスト教会

    ◉3015 ヘクスタ-彫刻ギ ャラリ-

    ◉3041 題名のない家

    085 ピノ-現代美術館 ◉2102 ア-バン・テトリス ◉2

    122 ポリ・ハウス ◉7

    128 ヒンツァルト資料館 ◉3

    136 ボストン現代美術協会 ◉2

    137 メルセデス・ベンツ博物館 ◉10144 ハウスSB ◉*2

    053 ビストロ・アンド・バ- ◉2

    052 コロンビア大学学生センタ- ◉3

    059 ソルトウォ-タ-・パヴィリオン ◉4066 ヴェネツィア建築大学新棟 ◉4

    069 グラ-ツのミュ-ジック・シアタ- ◉9

    071 ヘイツベリ・レ-ンのミュ-ズハウス ◉3

    099 イクタス・ビジネス・センタ- ◉2 3

    105 ヘッジ・ビルディング ◉3

    ◉ *001 ロイヤル ホロウェイ カレッジ化学実験棟

    ◉ *◉040 ア-バ ン・ア-ムズ

    065 イリノイ工科大学学生センタ- * ◉*◆

    084 ハウス・オブ・カ-ド住宅協会 ◆ *◆

    ● ◉033 コンピ ュ-タ・ラボ ラトリ- 3134 ガリシア地方歴史博物館 ◉2● 2◆

    118 ヴァイレビル ◆*●* *

    ◉045 サイ・トゥオンブ リ・ギ ャラリ- 23◆081 王室図書館 ◉3◆

    083 パラサイト ◆ ◉2 ● 2

    094 ゼ-ダス社の技術開発センタ- ◆● 2

    047 スファブルグ広場 1995 ◉4◆

    108 30セント・メリ-・アクス ● *◉*

    077 ポンピド-センタ- 屋上のレストラン ● ◉

    093 ベルラレ・ミュ-ジアム ● **2 ◉ 3

    112 タ-ンオン ●*● 4

    114 ウィ-ンの住宅Ray-1 ● ◉5

    121 クウェ-ト・ス-パ-・ブロック ●4 ●* 6◉

    132 掩蔽壕に建つティ-ハウス ◉3●

    135 ペニスコラ・コングレス・センタ- ◉4

    143 ヨハネ・パウロ2世記念堂 ● ◉2

    104 木造の小屋 ●2 ◉2◉*

    068 ミルブルックの住宅 ● *◉*2

    058 イリノイ工科大学キャンパスセンタ- ●5 ◉

    ◉3006 パ -ルズ ・レストラン◉3029 ジ ョ-ジ ア・パ シフィック・センタ-

    ◉6032 シンシナティ大学建築デ ザ イン学部棟

    055 サ-ラム・ホ-ル・スク-ル ◉5072 メリフォント修道院博物館 1996 ◉8

    103 ボディ・ハウス ◉4

    ◉5 031 クリック・アンド ・フリック・オフィス

    ◉3 044 国立通信制大学図書館 3

    101 フォ-ルデイング・ウォ-ル ◉3 ◉*054 ロザリンド・フランクリン館 ◉ 2

    ◉5● 5030 ポ -トランド 舞台芸術センタ-●2 ◉11039 ハ-グ の住宅

    056 プライス/オライリ-邸 ● ◉6

    ●* 3◉*10002 スプ リング ・ポ ンド ・アパ -トメント075 タ-ミナル・ラインの住宅 ●2 ◉*◉2 2

    ●3 ◉6034 モ-トン・ビ ルデ ィング

    078 ミレニアム・ハット ◉2◆

    ◉5●037 タウエル図書館 2

    ◉5005 ブ ラックバ -ン

    049 リッソン・ギャラリ- 1 1986 ◉5127 ガリシア文化都市 ◉9004 住宅 I ● ◉5

    086 2002年スイス万国博覧会スイス館 ●16

    116 海辺のユ-ス・ハウス ●* ●2 ◉2◉*3◆

    ◉2◆042 グ ラマシ-・パ -ク・アパ -トメント 2

    088 スラウスハウス ● ◆ ◉2 4◆ ◉ 4019 カサ・フェルダ - 6

    090 クゥエ-ト国家警察訓練施設 ◉6◆●5 5

    単数図形

    分節線なし

    分節線あり

    分節線なし

    分節線あり

    複数図形

    588

    150

    438

    76

    100176

    173 130303

    400 61461

    18 17

    88

    2 1

    2

    2

    23 36

    7 3

    7 9

    54

    4

    85

    3. 単位図の描画形式にみるダイアグラムの性格3.1 単位図の描画形式  単位図を構成する図形の種類をそ

    の内容から、二次元的に表現された平面図形、三次元的に表現

    された立体図形、ロゴや矢印などの記号図形で捉えた 3)(図 3)。

    それとあわせて図形を分節する線(以下、分節線)の有無も同

    時に検討した。こうした、単位図に描かれる図形の種類、数、

    分節線の有無の組み合わせから単位図の描画形式を捉えた(図

    4)。その結果、平面図形、立体図形ともに記号図形をもたず、

    単数図形で分節線をもつものが最も多くみられた。

    3.2 単位図の組合せからみたダイアグラムの性格  単位図

    の組合せからダイアグラムの性格を捉え、2章で分類した配列

    形式との関係を検討した(表)。その結果、平面図形同士の組

    合せ(以下、平面図形ダイアグラム)と立体図形同士の組合せ

    (以下、立体図形ダイアグラム)で資料のほとんどが捉えるこ

    とができた。両者を比較すると、平面図形ダイアグラムにおい

    ては、記号図形をもった組合せが多く(36/54 作品)、分節線

    をもつ単位図のみの組合せとそれ以外の組合せが同数程度みら

    れた。一方で、立体図形ダイアグラムでは記号図形をもった組

    合せが少なく(18/85 作品)、分節線をもつ単位図のみの組合

    せが多くみられた。これは、ダイアグラムを平面的に捉えると

    きには記号を用い、図式的に表現するのに対し、立体的に捉え

    るときには分節線を用い、実体に近い表現をする傾向にあると

    いえる。また、平面図形ダイアグラムには【二軸】の配列形式

    をもつものが多くみられるのに対し、立体図形ダイアグラムに

    は【軸なし】の配列形式が多くみられた。

    4. ダイアグラムにみる建築の生成モデル4.1 単位図間の操作の種類  3 章で明らかにした単位図の

    描画形式をもとに、単位図同士を比較し、変化の内容を読み

    取ることで生成に関する操作を捉える(図 5)。操作の種類は、

    単位図間において、図形が増えるものを付加、異なる図形同士

    が結びつくものを統合、図形の輪郭の変化がみられるものを変

    形、図形の分節線が増加するものや複数の図形に分かれるもの

    を分割、異なる図形に置き換わるものを置換とし、5つで捉え

    た(図 6)。

    4.2 単位図間の操作の組合せにみる生成モデル  前節で捉

    えた操作の種類をもとに、ダイアグラム全体の操作の組合せを

    生成モデルとする(図 7)。生成モデルは、付加、統合の操作

    のみによって、複数の単位図が集合してひとつの建築の成り立

    ちが示されるものを集成モデル、変形、分割の操作のみによっ

    て図形が変化し、建築の生成の段階が示されるものを変成モデ

    ル、置換の操作のみによって、ひとつの建築の複数の現れ方が

  • アグラムが多くみられた。これは、それぞれの平面図形が異な

    る建築の現れ方を示し、序列とは無関係な意味合いをもつため、

    ひとつの軸に並べることで多面性を強調し、図式性の強い表現

    を意図するものであると考えられる。最後に複合モデルにおい

    ては、序列記号の有無に関わらず【一軸】と【二軸】に一定の

    資料がみられた。これは要素に複雑な操作を与える際には、ひ

    とつの軸の中で段階的に捉えるだけでなく、無性格な二軸の配

    列の中に単位を並べることでそれぞれの操作を整理する傾向に

    あると考えられる。

    5.2 通時的傾向  さらに、全ての生成モデルと配列形式の

    関係を通時的に検討した(図 9)。その結果、複合モデルにお

    いて、序列記号があるときには、70~80 年代の作品の割合が

    高くなるのに対して(6/11 作品)、序列記号がないときには、

    【二軸】の配列形式の中に 00年代の作品の割合が高かった(6/8

    作品)。これは、複雑な操作の組合せで建築の生成を捉える際

    に、70~80 年代ではその操作の段階を序列記号によって明示

    する傾向にあったが、近年においては、序列記号がなく、操作

    の段階を明示しないといったそれまでの生成イメージとは異

    なった傾向を示すものであると考えられる。さらに、集成モデ

    ルにおいては、序列記号ありの【軸なし】に 90年代以外の作

    品が少なかった(3/12 作品)。これは、序列記号を用いること

    で不規則な配列をもった要素同士の関係を明示し、その集合と

    して建築を捉えることが 90年代の集成モデルの捉え方のひと

    つの特徴であると考えられる。また変成モデルは、資料の 2/3

    が(20/30 作品)00 年代の作品であった。これは、建築を変

    示されるものを範列モデルとし、それらが複合するモデル(複

    合モデル)で捉えることができた。

    5. ダイアグラムにみる建築の生成イメージ5.1 ダイアグラムの配列形式と生成モデルの関係  2 章で

    捉えた配列形式、及び序列記号の有無と 4章で捉えた生成モ

    デルの関係を検討した(図 8)。まず、最も資料数の多い集成

    モデルにおいては、序列記号の有無に関係なく【一軸】の配列

    形式に資料が偏り、その大半が立体図形ダイアグラムであった。

    これは、建築を要素の集合として捉える際には、ひとつの軸に

    沿って配列することで、建築の実体に近い要素の立体的な位置

    関係を明示することを意図したものであると考えられる。また

    他の生成モデルと比較して、序列記号ありの【軸なし】に資料

    が多くみられた。これは本来ひとつの軸では捉えきれない建築

    がもつ複雑な部分同士の位置関係を序列記号を用いることで明

    確にするものであると考えられる。次に、変成モデルにおいて

    は、集成モデルと同様に【一軸】に資料が集中した。これは、

    要素を変化させていくことで建築の生成を捉える際には、単位

    をひとつの軸に沿って配列することで変化の段階を捉えやすく

    することを意図したものであると考えられる。また平面図形ダ

    イアグラムと立体図形ダイアグラムの資料の割合を検討する

    と、序列記号をもつ場合には平面図形ダイアグラムであるもの

    に資料の偏りがみられた。これは、変化させる要素を図式的に

    捉えた場合に、配列に加え、序列記号を用いることにより操作

    の順序を強調する傾向にあると考えられる。範列モデルにおい

    ては、序列記号がない【一軸】に資料が集中し、平面図形ダイ

    図 5 3章の分析例 図 6 単位図間にみる操作の種類 図 7 操作の組合せにみる生成モデル

    AU0504No.118 「ヴァイレビル」 PLOT

    付加 集成モデル 複合モデル

    変成モデル

    範列モデル

    変形

    分割

    統合

    置換

    変形、分割のみによって関係づけられたモデル

    単位図 1

    単位図 2

    単位図 3

    図形の分割

    図形の変形

    分割

    分割

    変形

    変形

    変成モデル記号化

    ○…単位図を構成する図形の数

    ◆*

    ●*

    *

    ●* ◆* *

    67

    30

    21

    27

    10 1011

    919

    1

    4158

    17 19

    8

    ①’ ④⑤

    ⑥⑦

    ①’ ③’④’

    ⑤’⑥’

    ⑦’

    集成×変成モデル17

    7

    2

    1

    2

    2 21

    5

    4

    1

    1 1

    5

    集成と変成が複合するモデル

    集成と範列が複合するモデル

    2

    1

    変成と範列が複合するモデル

    集成と変成と範列が複合するモデル

    複合化

    置換のみによって関係づけられたモデル

    付加、統合のみによって関係づけられたモデル

    No.143 「ロ-マ教皇ヨハネ・パウロ2世記念堂」

    No.119 「集合住宅VM」

    No.007 「S.U.C.N.Y.体育施設」

    付加のみ 統合のみ単一操作 複数操作

    単一操作 複数操作変形のみ 分割のみ

    単位図間において図形が増えるもの

    単位図間において異なる図形同士の対応関係がみられるもの

    単位図間の図形において輪郭の変化がみられるもの

    単位図間の図形において分節線が増加するもの、複数の図形に分かれるもの

    単位図間において図形の数が同数で、部分的に異なる図形に置き換わるもの

    ◆ ◆

    ◆ ◆

    ◆ ◆

    ◆ ◆

  • した場合、序列記号を用いず、図の対応関係や生成の段階を明

    示しないといった従来の捉え方とは異なる新たな表現が明らか

    になった。このことは、建築を複雑な操作が展開するプロセス

    の中で捉えようとする場合に、ひとつの流れの中で捉えるので

    はなく、いくつかの操作を並走させることによって捉えようと

    する思考の現れであると考えられる。またそれと同時に、変成

    によって建築の生成を捉える割合が増えており、建築が生成す

    るそのプロセスを重要視するといった近年に特徴的な2つの傾

    向が明らかになった。

    註 :1)資料は、建築ジャーナリズムにおいて国際的な事例を取り扱っている「a+ u」1972 年から 2009 年を資料対象とし、その中で、複数の図によって構成されたダイアグラム表現が見られる作品 145 作品を資料対象とする。2)単位図は 145 作品の中から、768 の単位図を抽出した。  3)同一の図形が反復するものに関しては群とし、単一の図形として捉える。

    化の中で捉えることが近年における建築の生成イメージのひと

    つの特徴であることを示すと考えられる。

    6. 結以上、ダイアグラム表現にみる建築の生成イメージを単位図の

    配列形式と生成モデルとの関係をもとに、描画形式とあわせて

    検討した。単位図の描画形式の比較から、ダイアグラムにみる

    生成モデルを集成モデル、変成モデル、範列モデルおよびそれ

    らの組合せによる複合モデルで捉えることができた。また配列

    形式は図をひとつの軸にそって並べるものが最も多くみられ、

    それが図形の立体的な位置関係や変化の過程を明示するダイア

    グラムの基本的な表現形式であることがわかった。それに対

    し、図がグリッド上に配列されるものやランダムに配列される

    場合、序列記号を用いることで図の対応関係を明解に示すもの

    が多いが、近年においては複雑な操作で建築の生成をイメージ

    23

    図 8 単位図の配列と生成モデルの関係 図 9 通時的傾向

    095 * *

    144 ◉* ◉*

    096 **

    109 ◎* ◎*

    062 ◎2 ◎2◎*5

    ◎◎3098

    110 ○2 ○ ◎

    063 ○ ◎◎ ❖*

    112 ●* ●4134 ◉ ◉ ● ● ◆

    131 ○2◎2

    058 ●5◉

    ●*◉*108

    077 ●◉065 ◆* ◉*

    123 ◇* ◇*

    118 ●* ◆* ❖*

    104 ●◉●◉*◉

    126 ○❖*○❖*

    119 ◇* 2 ◇* ◇*

    079 ◎ ◎ ◇

    ❖* 2125 ❖* ❖*

    035 ◎◎3057 ◎* ◎* 2

    048 ◆ 3❖

    089 ◎◎

    074 ❖❖

    001 ◉❖*

    102 ◉◉

    073 ❖* ❖*

    008 ◇ ◎○2 2007 ❖*◎* 2 ◎2 ○*

    117 ◇* ◇* 3111 ◎* ◎* 4

    127 ◉3 ◉3 ◉3116 ●* ●◆ ◆2 ● ◉2 ◉*

    088 ●◆◉ ❖4 ◉038 ○* ❖* ◎ ❖ ◎3036 ❖ ❖ ❖ ❖3

    091 ◇ ◇◇ 2 ◇5

    107 ○* 6 ●* 6 ●* 6

    018 ◎◎* ◎* ◎*

    097 ●* ● ◇*◇090 ◉ ◉5 ◆5●5

    021 ○* ❖ ❖ ❖*019 ◉4◆2 ◆2 ◆ ❖2

    145 ◇◇ ◇ ○*○*076 ◎* ◎*2 2

    120 ❖❖ ❖2

    050 ○* ◎ ◎2 ◎ ◎043 ◎ ◎3

    013 ◎◎ ◎ ◎

    083 ◆◉ ❖ ●2 ◉

    024 ◇ 2 ◆

    094 ●◆2

    004 ●◉◉ ◉ ◉ ◉

    025 ◎8○*022 ◎* 2 ○* 2◎2

    124 ◎5◎* 4092 ◎◎3060 ◎* ◎* 5

    133 ○* 2❖* 3

    032 ◉◉5

    093 ●* ●* ◉* ◉* ◉*067 ○○4

    023 ◎* ◎* 3

    026◎* ◎* ◎* ◎* ◎ ◎ ◎ ◎

    10

    2

    1

    2

    1

    42

    2

    12

    2

    No.052  コロンビア大学ラーナ-学生センタ-

    No.108

     

    30セント・メリ-・アクス

    No.034

     

    モ-トンビルディング

    ○2 ○ ◎- -資料No.操作の種類

    単位図の構成と数凡例

    016 ❖❖3

    085 ◉◉

    053 ◉◉

    136 ◉◉

    122 ◉◉6

    137 ◉ ◉9

    071 ◉◉2

    041 ◉◉2

    012 ◉◉2 015 ❖◉3

    132 ●◉3 135 ◉◉ 3

    143 ●◉2

    087 ◎○*●

    040 ◉* ◉

    064 ◉2❖080 ◉◉ 5

    130 ◉6❖

    014 ◉2❖011 ◉2❖◉*

    047 ◆❖ ◉4051 ❖3◉5045 ◆ ❖3 2◉

    106 ◉◉3❖

    099 ◉◉❖3 105 ◉◉2

    052 ◉◉2

    010 ◉◉2

    066 ◉◉3

    103 ◉◉3

    059 ◉◉3046 ◎◎3

    069 ◉◉8061 ◎◎6

    114 ●◉5142 2◎* ◎*

    020 ◎* ◎*

    082 **

    070 ❖2◉2

    009 ◉2❖

    017 ◉2❖

    115 ◇* ○*

    068 ●* ●* ◉*

    033 ❖ 3●◉

    081 ◆❖ ◉2 ◉

    128 ◉2 ◉

    24

    15 14

    67 30 21 27

    40

    13

    14

    58

    16

    67

    78

    121

    129

    集成モデル 変成モデル 範列モデル 複合モデル

    りあ号記列序

    しな号記列序

    113 ◎8○

    055 ◉◉4

    005 ◉◉4

    029 ◉3❖

    072 ◉◉7056 ●◉6

    054 ◉ 2❖044 ❖3◉3

    003 ○* ○* 17

    031 ◉5❖

    101 ◉*❖ ◉3

    039 ●2◉11034 ●3◉6

    037 ◉5❖2 ●

    002 ●*3◉*3 ◉*4 ◉*3

    042 ◉◉ ◆◆049 ◉◉4

    078 ◆❖◉◉

    006 ◉◉2

    100 ◇* ◇* 5030 ●5◉5

    084 ◆* ◆

    4

    5

    7

    1

    平面8 立体58 平 17 立 14 平 16 立 4 平 13 立 9

    6全体

    ‘70~

    ‘80~

    ‘90~

    ‘00~

    集成 変成 複合範列

    145作品

    25 23 167

    29 475

    90年代に多くみられる

    028 ◎◎8027 ❖ ◎ ◎ ◎ ◎82 2 2 2

    139 ◇* ◇*

    140 ◇* ◇*

    138 ◎ ❖ ❖10086 ●● 15

    70’s

    70’s

    70’s

    70’s

    80’s

    80’s

    80’s

    90’s

    90’s

    90’s

    90’s

    90’s

    90’s

    00’s

    00’s

    00’s

    00’s

    00’s70’s

    70’s80’s

    00’s

    80’s

    80’s

    90’s

    00’s

    90’s

    00’s

    00’s

    90’s

    80’s

    90’s

    00’s

    00’s

    70’s

    90’s

    075 ●● ◉* ◉ ◉*◉00’s

    00’s

    00’s

    00’s

    70’s

    70’s

    8

    1軸

    2軸

    軸なし

    1軸

    2軸

    軸なし4

    4

    9 4 2

    2 3 5

    67 272130

    生成モデルの通時的傾向

    70 ~80年代に多くみられる 141

    に多くみられる00年代

    に多くみられる00年代

    ◇*❖* ◇*❖* ❖*❖*

    ○2 3◎* ❖

    ●●●● ●* ●* ●* ●* ◉3

    資料No.図註) は右の図の典型例をあらわす