田中雅明 研究内容 - 東京大学 · “スピントロニクス”...

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48 図1 図2 図3 図4 研究内容 将来の電子デバイス、光デバイス、スピン(磁気)デバイス、それらのハイブ リッド素子への応用を視野に入れた、新しい電子材料とデバイスの基礎研究。 具体的には、(1)半導体、金属、半金属、強磁性体など様々な物質を(縦横無 尽に)用いて、量子力学的効果が現れるナノメータ・スケールの超薄膜や人工 格子・量子ヘテロ構造のエピタキシャル成長を行い、自然界に存在しない新し い物質を原子レベルで設計し作製すること、(2)作製した新物質群のマテリア ルサイエンスと物性物理を研究し、デバイスを試作して将来のエレクトロニ クス応用への指針を示すことをめざしている。特に近年は、電子のスピンや その秩序(磁性)が顕著に現れる新しい物質群の創成とそれらの半導体エレク トロニクスへの応用:「スピントロニクス ‒ Spintronics ‒」の開拓研究に力 を入れている。 ◆スピンとは? 電子は負の電荷をもつ素粒子であることはご存知でしょう。 トランジスタの発明以来、20 世紀後半の情報・通信技術(IT)の発展は、主 に電子の電荷を用いた様々な半導体デバイスによってもたらされました。一 方、電子はもう一つ “ スピン ” という本性を持っています。スピンは量子力学 の概念ですが、古典力学の言葉で言えば電子の自転に相当します。この自転 は決して止まることがないので、電子はそれ自身が小さな電磁石であるとも 言えます。つまり “ スピン ” を持つことによって、電子は世界最小の永久磁石 であるとも言えるのです。(余談ですが、世界最大の磁石は ... ? それはもち ろん地球です)。電子の “ スピン ” の働きと電子同士の相互作用によって、あ る物質は永久磁石のような強磁性になり、またある物質では電気抵抗がゼロ になる超伝導を示したりします。 ◆スピントロニクス(Spintronics) ところがエレクトロニクスや情報通信 技術を担う半導体においては、電子の電荷のみが主に使われており、もう一 つの自由度である “ スピン ” が使われることはありませんでした。私たちは、 21 世紀の半導体テクノロジーにおいてはこの “ スピン自由度 ” を積極的に用 いる必要があると考えており、「スピントロニクス」と呼ばれる新分野を開拓 しています。この分野は十数年前からの私たちによる先駆的研究の貢献もあっ て、現在では世界的な新しい研究の流れになっています。またポストシリコ ンの有力候補とも見なされ、世界中で関心を集めつつあります。このような サイエンスとテクノロジーのフロンティアを切り拓く研究では、エレクトロ ニクスや IT 技術への幅広い関心と共に、物質科学など基礎科学への深い理解 と知的好奇心が必要になります。 “ スピントロニクス ” 電子のスピン機能を活用した 21 世紀のエレクトロニクスを開拓する 研究テーマの例(他にも様々あり) ◆強磁性を示す新しい半導体を創る結晶成長 ◆強磁性半導体の光・電子・スピン物性の解明、光・電子・スピンデバイスへの応用 ◆半導体 / 強磁性体ナノ構造における電気 - 磁気エネルギー変換の原理、スピン起電力、ス ピン電池の研究 ◆半導体ヘテロ構造のトンネル磁気抵抗効果(TMR)とスピン依存トンネル現象の物理 ◆エピタキシャル強磁性金属/半導体ヘテロ構造の結晶成長と物性、デバイス応用 ◆巨大磁気抵抗効果(GMR)、トンネル磁気抵抗効果(TMR)など電子伝導現象を中心とし た不揮発性メモリの基礎研究、微細加工プロセス、デバイスの試作など ◆スピンの自由度を活用したスピントランジスタ、スピン FET の提案・解析・試作、デバイ ス物理 ◆スピンデバイスを用いた再構成可能な論理回路 本研究室では、マテリアルサイエンス・デバイス・物性物理学・結晶工学など Science と Technology の広い領域にまたがる新しい分野を開拓しつつあ り、取り組むテーマも斬新なものが多い。博士課程はもちろん修士課程の若 い学生でも、努力次第では比較的短期間で研究の最前線に躍り出ることが可 能であり、そうなるように後押ししている(実際すでに多くの大学院生が国 際会議など学会の最先端で活躍している)。サイエンス志向の人は知的好奇心 をもって深く真理を探求してもよいし、エンジニアリング志向の人はデバイ ス設計 / 試作まで何でも意欲的に取り組んでみればよい。フロンティアスピ リットと意欲あふれる学生の入学・進学を歓迎する。このような新分野の研 究を様々なアプローチから行うために、国内・海外の優れた研究機関との共 同研究も積極的に行っており、産業技術総合研究所、東大理学系物理学専攻、 SPring-8、東大工学系応用化学専攻、アメリカのベル通信研究所・ミネソタ 大学、ポーランドのワルシャワ大学、フランス CNRS-IEMN、ロシア科学ア カデミー Ioffe Institute、ベルギー Microelectronics Center などの研究 グループとの共同研究実績がある。 学生へのメッセージ 二度とない人生、二度とない若い時代の貴重な時間です。何でもよいですか ら価値のある何かを創造することに全力で打ち込みましょう。私たちの研究 室は、世界トップレベルを走っており、そこで全力をかけて打ち込むだけの 価値があります。 ★連絡先:田中雅明 教授 [email protected] 研究室ホームページ http://www.cryst.t.u-tokyo.ac.jp/ 田中雅明 / Masaaki Tanaka 【研究分野】ナノ物理・デバイス分野 【研究内容】光 / 電子 / スピン物性・デバイス、 ナノサイエンス、スピントロニクス H25東大入試案内.indb 48 H25東大入試案内.indb 48 12/03/23 13:08 12/03/23 13:08

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Page 1: 田中雅明 研究内容 - 東京大学 · “スピントロニクス” 電子のスピン機能を活用した21世紀のエレクトロニクスを開拓する ̶ 研究テーマの例(他にも様々あり)̶

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図 1

図 2

図 3

図 4

研究内容将来の電子デバイス、光デバイス、スピン(磁気)デバイス、それらのハイブリッド素子への応用を視野に入れた、新しい電子材料とデバイスの基礎研究。具体的には、(1)半導体、金属、半金属、強磁性体など様々な物質を(縦横無尽に)用いて、量子力学的効果が現れるナノメータ・スケールの超薄膜や人工格子・量子ヘテロ構造のエピタキシャル成長を行い、自然界に存在しない新しい物質を原子レベルで設計し作製すること、(2)作製した新物質群のマテリアルサイエンスと物性物理を研究し、デバイスを試作して将来のエレクトロニクス応用への指針を示すことをめざしている。特に近年は、電子のスピンやその秩序(磁性)が顕著に現れる新しい物質群の創成とそれらの半導体エレクトロニクスへの応用:「スピントロニクス ‒ Spintronics ‒」の開拓研究に力を入れている。◆スピンとは? 電子は負の電荷をもつ素粒子であることはご存知でしょう。トランジスタの発明以来、20世紀後半の情報・通信技術(IT)の発展は、主に電子の電荷を用いた様々な半導体デバイスによってもたらされました。一方、電子はもう一つ “スピン ” という本性を持っています。スピンは量子力学の概念ですが、古典力学の言葉で言えば電子の自転に相当します。この自転は決して止まることがないので、電子はそれ自身が小さな電磁石であるとも言えます。つまり “スピン ” を持つことによって、電子は世界最小の永久磁石であるとも言えるのです。(余談ですが、世界最大の磁石は ... ? それはもちろん地球です)。電子の “ スピン ” の働きと電子同士の相互作用によって、ある物質は永久磁石のような強磁性になり、またある物質では電気抵抗がゼロになる超伝導を示したりします。◆スピントロニクス(Spintronics) ところがエレクトロニクスや情報通信技術を担う半導体においては、電子の電荷のみが主に使われており、もう一つの自由度である “ スピン ” が使われることはありませんでした。私たちは、21世紀の半導体テクノロジーにおいてはこの “ スピン自由度 ” を積極的に用いる必要があると考えており、「スピントロニクス」と呼ばれる新分野を開拓しています。この分野は十数年前からの私たちによる先駆的研究の貢献もあって、現在では世界的な新しい研究の流れになっています。またポストシリコンの有力候補とも見なされ、世界中で関心を集めつつあります。このようなサイエンスとテクノロジーのフロンティアを切り拓く研究では、エレクトロニクスや IT 技術への幅広い関心と共に、物質科学など基礎科学への深い理解と知的好奇心が必要になります。

“ スピントロニクス ”電子のスピン機能を活用した21世紀のエレクトロニクスを開拓する

研究テーマの例(他にも様々あり)◆ 強磁性を示す新しい半導体を創る結晶成長◆ 強磁性半導体の光・電子・スピン物性の解明、光・電子・スピンデバイスへの応用◆ 半導体 /強磁性体ナノ構造における電気 - 磁気エネルギー変換の原理、スピン起電力、スピン電池の研究

◆ 半導体ヘテロ構造のトンネル磁気抵抗効果(TMR)とスピン依存トンネル現象の物理◆ エピタキシャル強磁性金属/半導体ヘテロ構造の結晶成長と物性、デバイス応用◆ 巨大磁気抵抗効果(GMR)、トンネル磁気抵抗効果(TMR)など電子伝導現象を中心とした不揮発性メモリの基礎研究、微細加工プロセス、デバイスの試作など

◆ スピンの自由度を活用したスピントランジスタ、スピン FETの提案・解析・試作、デバイス物理

◆ スピンデバイスを用いた再構成可能な論理回路

本研究室では、マテリアルサイエンス・デバイス・物性物理学・結晶工学などScience と Technology の広い領域にまたがる新しい分野を開拓しつつあり、取り組むテーマも斬新なものが多い。博士課程はもちろん修士課程の若い学生でも、努力次第では比較的短期間で研究の最前線に躍り出ることが可能であり、そうなるように後押ししている(実際すでに多くの大学院生が国際会議など学会の最先端で活躍している)。サイエンス志向の人は知的好奇心をもって深く真理を探求してもよいし、エンジニアリング志向の人はデバイス設計 /試作まで何でも意欲的に取り組んでみればよい。フロンティアスピリットと意欲あふれる学生の入学・進学を歓迎する。このような新分野の研究を様々なアプローチから行うために、国内・海外の優れた研究機関との共同研究も積極的に行っており、産業技術総合研究所、東大理学系物理学専攻、SPring-8、東大工学系応用化学専攻、アメリカのベル通信研究所・ミネソタ大学、ポーランドのワルシャワ大学、フランスCNRS-IEMN、ロシア科学アカデミー Ioffe Institute、ベルギーMicroelectronics Center などの研究グループとの共同研究実績がある。

学生へのメッセージ二度とない人生、二度とない若い時代の貴重な時間です。何でもよいですから価値のある何かを創造することに全力で打ち込みましょう。私たちの研究室は、世界トップレベルを走っており、そこで全力をかけて打ち込むだけの価値があります。★連絡先: 田中雅明 教授 [email protected]

研究室ホームページ http://www.cryst.t.u-tokyo.ac.jp/

田中雅明 / Masaaki Tanaka

【研究分野】 ナノ物理・デバイス分野

【研究内容】 光 / 電子 /スピン物性・デバイス、ナノサイエンス、スピントロニクス

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