gr022 セルロース・ミクロフィブリル(cmf)の …20 30年の 応用展開 研...

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セルロース・ミクロフィブリル(CMF)の革新機能の開拓と イノベーションの創出 課題番号: GR022 助成額:165 百万円 平成23年2月10日 ~平成26年3月31日 専門分野 生体高分子 キーワード 生体関連高分子/天然・生体高分子材料/ナノ機能材料/ 表面・界面ナノ構造/グリーンケミストリー/セルロース/触媒 WEB ページ hp://www.serizawa.polymer.tech.ac.jp/ グリーン ・ イノベーション 理工系 芹澤 武 Takeshi Serizawa 東京工業大学大学院理工学研究科 教授 木や草などに多く含まれるセルロースは、地球上 で最も豊富に存在する有機高分子である。天然 のセルロースは、ナノメートルオーダーの幅をもつ 結晶性繊維として存在する。 我々は、天然物か ら抽出した結晶性セルロース表面にペプチドが 結合すると、その場でペプチドが加水分解される 新しい現象を見出した。 加水分解活性の系統的な評価 結晶性セルロースの加水分解活性を定 量的に評価する反応系を構築した。エス テル、リン酸モノエステル、アミド基を有 するモデル低分子基質の加水分解がセ ルロースにより促進されることがわかっ た。加水分解速度はエステル>リン酸モ ノエステル>アミドの順であった。エーテ ル(グリコシド)基質の加水分解は促進 されなかったことから、セルロース表面で アルカリ加水分解が進行していることが 示唆された。モデルウイルスであるM13 ファージとセルロースを相互作用させたと ころ、M13ファージのコートタンパク質が 所 定 時 間 後 に 加 水 分 解され、M13 ファージの大腸菌への感染能が低下し た。 生物試料を不活化する新たな機能 材料としてセルロースが利用できる可能 性が明らかとなった。 結晶性セルロースによる合成および天然由来基 質の加水分解反応を系統的に評価し、基質の 構造、セルロースの由来・結晶形態・調製方 法、反応条件の影響について整理するとともに、 反応機構を明らかにすることを目的とする。 容易 かつ安価に大量調製できるセルロースが示す特 殊機能を最大限に活用することを目指す。 代表論文: Biomacromolecules, 14, 613-617, (2013) 特許出願:特願 2012-201518 (2012年9月13日) 受賞:高分子学会 Wiley 賞(2013 年 9月) 真水の安定供給は、近い将来、地球規模で 解決すべき重要課題のひとつである。 加水 分解活性をもつセルロースを素材として濾過 装置などが作製できれば、無毒化された水が 簡単に得られる可能性があり、これまでに例 のない日本発の水処理技術の開発が期待さ れる。 図左上:モデル基質の構造式。 図右上:モデルエステル基 質を加水分解した際の可視 - 紫外吸収スペクトル。 図下:各種モデル基質のセルロースによる加水分解。+およ びーはセルロース存在下および非存在下での反応を表す。 図中にそれぞれの基質に対する反応時間と反応率を示す。

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Page 1: GR022 セルロース・ミクロフィブリル(CMF)の …20 30年の 応用展開 研 究背景 研 究成果 研 究目的 研 究の特色 実 績 セルロース・ミクロフィブリル(CMF)の革新機能の開拓と

2030年の

  応用展開

20

研究背景

研究成果

研究目的

研究の特色

研研

実績

セルロース・ミクロフィブリル(CMF)の革新機能の開拓とイノベーションの創出

課題番号:GR022助成額:165百万円

平成23年2月10日~平成26年3月31日

専門分野生体高分子

キーワード生体関連高分子/天然・生体高分子材料/ナノ機能材料/表面・界面ナノ構造/グリーンケミストリー/セルロース/触媒

WEBページhttp://www.serizawa.polymer.titech.ac.jp/

グリーン・イノベーション

理工系芹澤 武

Takeshi Serizawa

 東京工業大学大学院理工学研究科 教授

木や草などに多く含まれるセルロースは、地球上で最も豊富に存在する有機高分子である。天然のセルロースは、ナノメートルオーダーの幅をもつ結晶性繊維として存在する。我々は、天然物から抽出した結晶性セルロース表面にペプチドが結合すると、その場でペプチドが加水分解される新しい現象を見出した。

加水分解活性の系統的な評価結晶性セルロースの加水分解活性を定量的に評価する反応系を構築した。エステル、リン酸モノエステル、アミド基を有するモデル低分子基質の加水分解がセルロースにより促進されることがわかった。加水分解速度はエステル>リン酸モノエステル>アミドの順であった。エーテル(グリコシド)基質の加水分解は促進されなかったことから、セルロース表面でアルカリ加水分解が進行していることが示唆された。モデルウイルスであるM13ファージとセルロースを相互作用させたところ、M13ファージのコートタンパク質が所定時間後に加水分解され、M13ファージの大腸菌への感染能が低下した。生物試料を不活化する新たな機能材料としてセルロースが利用できる可能性が明らかとなった。

結晶性セルロースによる合成および天然由来基質の加水分解反応を系統的に評価し、基質の構造、セルロースの由来・結晶形態・調製方法、反応条件の影響について整理するとともに、反応機構を明らかにすることを目的とする。容易かつ安価に大量調製できるセルロースが示す特殊機能を最大限に活用することを目指す。

代表論文:Biomacromolecules, 14, 613-617, (2013)特許出願:特願2012-201518 (2012年9月13日)受賞:高分子学会Wiley賞(2013年9月)

真水の安定供給は、近い将来、地球規模で解決すべき重要課題のひとつである。加水分解活性をもつセルロースを素材として濾過装置などが作製できれば、無毒化された水が

簡単に得られる可能性があり、これまでに例のない日本発の水処理技術の開発が期待される。

図左上:モデル基質の構造式。図右上:モデルエステル基質を加水分解した際の可視-紫外吸収スペクトル。図下:各種モデル基質のセルロースによる加水分解。+およびーはセルロース存在下および非存在下での反応を表す。図中にそれぞれの基質に対する反応時間と反応率を示す。