特集 若者への消費者教育 -成年年齢引き下げを受けて- ·...

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特集1 消費者行政と学校現場の連携による新しい消費者教育 -それぞれの強みを生かしてつなぐ- 1 特集2 若者の主体的な学びを促す消費者教育-経済法を学ぶ学生の取り組み- 特集3-1[実践例1] 生活設計の視点から考える消費者教育-高校家庭科の授業から- 特集3-2[実践例2] 県民生活センター(消費生活センター)と 高校との連携による消費者教育 4 7 9 平成の消費者問題 ケータイと消費生活 電気通信サービスと消費者保護ルール 提供条件説明義務と書面交付義務 データの裏側 世の中を分布でつかんでみよう 知って備えよう地域防災 災害情報で被害を減らす(2) 20 海外ニュース <ドイツ>有害物質の検出が相次いだペダルなし二輪遊具 <オーストリア>原産地表示が役に立たない蜂蜜も <イギリス>当座貸越の高過ぎるコストに規制を <韓国>消費者力は着実に向上 22 消費者教育実践事例集 地域と連携した高齢者の消費者被害防止のための出前講座 気になるこの用語 ファンドラップ 24 26 消費生活相談員のための割賦販売法 個別信用購入あっせん(4)-事例検討- 苦情相談 解約料不要期間内に解約を申し出たが翌月の解約扱いになり、 解約料を請求された光回線 暮らしの法律 Q&A お金を借りるときに書いた念書の効力は? 暮らしの判例 サクラサイトに加担した収納代行業者の不法行為責任を認めた事例 誌上法学講座 不当条項規制(10 条)(3) 28 32 34 35 38 ウェブ版 NO.792019目次 11 14 18 -成年年齢引き下げを受けて- 特集 若者への消費者教育 New!

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Page 1: 特集 若者への消費者教育 -成年年齢引き下げを受けて- · 消費者教育実践事例集 地域と連携した高齢者の消費者被害防止のための出前講座

特集1 消費者行政と学校現場の連携による新しい消費者教育

-それぞれの強みを生かしてつなぐ-

1

特集2 若者の主体的な学びを促す消費者教育-経済法を学ぶ学生の取り組み-

特集3-1[実践例1] 生活設計の視点から考える消費者教育-高校家庭科の授業から-

特集3-2[実践例2] 県民生活センター(消費生活センター)と

高校との連携による消費者教育

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7

9

平成の消費者問題 ケータイと消費生活

電気通信サービスと消費者保護ルール 提供条件説明義務と書面交付義務

データの裏側 世の中を分布でつかんでみよう

知って備えよう地域防災 災害情報で被害を減らす(2)

20

海外ニュース <ドイツ>有害物質の検出が相次いだペダルなし二輪遊具

<オーストリア>原産地表示が役に立たない蜂蜜も

<イギリス>当座貸越の高過ぎるコストに規制を

<韓国>消費者力は着実に向上

22

消費者教育実践事例集 地域と連携した高齢者の消費者被害防止のための出前講座

気になるこの用語 ファンドラップ

24

26

消費生活相談員のための割賦販売法 個別信用購入あっせん(4)-事例検討-

苦情相談 解約料不要期間内に解約を申し出たが翌月の解約扱いになり、

解約料を請求された光回線

暮らしの法律 Q&A お金を借りるときに書いた念書の効力は?

暮らしの判例 サクラサイトに加担した収納代行業者の不法行為責任を認めた事例

誌上法学講座 不当条項規制(10条)(3)

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38

ウェブ版

NO.79(2019)

目次

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-成年年齢引き下げを受けて-

特集 若者への消費者教育

New!

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国民生活 2019.2 1

はじめに

成年年齢が 18歳に引き下げられたことを受け、若者を対象とする「消費者被害予防教育」や「商品やサービスの取引に関する教育」が強化されるようになりました。18歳前後の当事者への被害・加害防止のための学習はもちろん、早期から批判的思考力や判断力を磨く学習も重要です。消費者を取り巻く環境が大きく変化する中で、これからの若年消費者教育はどうあるべきか、本稿では、現状の課題を踏まえ、消費者行政の現場で消費者教育を着実に進めていく方策について考えてみたいと思います。

優れた教材・授業の開発と収集、提供

私たちはみな、フィンランドの社会の小さな一部

分です。では、「社会」とは何でしょう。そして、社

会の一員だということは何を意味するのでしょう。

その答えを探るために、ここではまず、私たちにとっ

て身近な話題から考えていきます。家族、人間関係、

さまざまなフィンランド人たち、平等、などについ

てです。

これは、フィンランドの中学 3年生が学ぶ現代社会の教科書*の最初の文章です。そして、

「権利と義務」については、第 7章「国民の安全」の中で次のように書かれていました。 あなたも幼い赤ちゃんも、だれもが、さまざまな

権利を持っています。すべての人に法的人格があり

ます。あなた自身で言えば、国籍、養育、教育や安

全な生育環境への権利があります。さらに、自分の

銀行口座やその他の財産があるのならば、保護者が

その用途を決めているとしても、あなたには所有権

があるのです。

自由と責任は年齢とともに増える

未成年者に関する事柄については保護者が決定し、

利益や権利を監督します。年齢とともにその人の権利

も増えます。成人年齢(18歳)に達すれば、その人

は完全な権利を持つようになります。そのとき人は

法的人格を持ち、自分のことは自分で決定し、いろ

いろな契約を結んだり、自分の財産を売ったり、ロー

ンを借りたりすることができるようになるのです。

(中略)権利が増えるということは、自分の行動につ

いての責任も増えることを前提としています。(後略)

「法的人格を有する成年」になることの意味が若年者にも理解しやすく説明されています。成年と未成年の違いや権利と義務について「分かりやすく伝える」重要性を痛感しました。ここで 2015 年にオーストラリアの 7年生

* タルヤ・ホンカネンほか著『フィンランド中学校現代社会教科書 15 歳 市民社会へのたびだち』(明石書店、2011 年)

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-

特 集

消費者行政と学校現場の連携による新しい消費者教育-それぞれの強みを生かしてつなぐ-

日本消費者教育学会理事。京都府、兵庫県、奈良県ほかの消費生活審議会委員等行政委員多数。消費生活コンサルタントの資格も有する。

大本 久美子 Omoto Kumiko 大阪教育大学教育学部教授

特 集

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国民生活 2019.2 2

(中学 1年)の授業参観をしたときの事例を紹介します。「偽サイトを見破る」という内容の「消費者の権利と責任」についての学習です。生徒にトランプを引かせてペアを作り、タブレット端末にダウンロードした 8つのサイトの真偽をそれぞれ問い、なぜそう思ったのかを考えさせ、発表させるという授業でした。一見、どのサイトも本モノに見えますが、細かいところに仕掛けがあり、生徒は見事にそれらを見抜き、偽モノである「理由」を答えていました。その後 YouTube で実際の被害の実態を紹介し、オンラインチケットを購入する際の注意点を学ぶという流れで、例えばサイトのどこを見るべきか、どういう書き方だと怪しいのか、などを判断する力を確実に身に着けさせた授業でした。わが国でもこのような学習を積み重ねて、批判的思考力や判断力を育成したいものです。多様な教科で活用できる、こうした資質や能

力を育む消費者教育教材の提供には、消費者行政と学校現場、それぞれの強みを生かし、時には専門家に加わってもらうことも必要でしょう。一方、近年優れた消費者教育教材も増えてき

ていますが、学校現場にその情報が届いていないこともあります。優秀な教材や授業事例の実物(指導案や授業ビデオ等)を手に取って見ることができる空間、機会を確保し、教員にその場所を伝える、これだけでも有効な現場教員支援の 1つになりそうです。

学習指導要領の記述内容の理解

学校現場では、学習指導要領を基に授業が進められています。消費者行政においてもその内容を理解したうえで連携することが大切です。新学習指導要領の消費者教育に関連する学習を整理しておきます(表)。誌面の都合で小学校、高等学校は割愛していますが、中学校では、社会科と家庭科と道徳が挙げられています。下線部は筆者が特に注目したところです。契約の重要性や消費者行政の学習は社会科、売買契約の

しくみや消費者被害の背景と対応、消費者の権利と責任は家庭科の学習内容となっています。しかし、これからの学校教育の理念に「社会

に開かれた教育課程で、社会との連携・協働により、よりよい社会を創ること」と掲げられていることから、教科を越えて、あらゆる機会をとらえて、消費者行政と連携した消費者教育を進めることが可能となります。教科化された「道徳」の時間の活用を視野に入れた教材・授業開発や総合的な学習の時間、ホームルームや学校行事等の活用も検討課題です。また、高等学校の公民科に新設される「公共」

の記述の中で「関係する専門家・機関」として、「消費者センター、弁護士、NPOなど」の文言が確認できます。そこで次に消費者行政と学校現場の連携につ

いて考えてみましょう。

特集1 消費者行政と学校現場の連携による新しい消費者教育―それぞれの強みを生かしてつなぐ―

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

・社会生活における物事の決定の仕方、きまりの役割、法の意義

・契約の重要性やそれを守ることの意義及び個人の責任について理解すること

・金融などの仕組みや働きを理解すること・市場の働きと経済に関連して、希少性に着目すること・個人や企業の経済活動における役割と責任・消費者の保護と、その意義を理解すること・消費者の自立の支援なども含めた消費者行政

・購入方法や支払い方法の特徴が分かること・計画的な金銭管理の必要性について理解すること・クレジットなどの三者間契約・売買契約の仕組みについて理解すること・消費者被害の背景とその対応について理解すること・物資・サービスの選択に必要な情報を活用して購入について考え、工夫すること

・消費者の基本的な権利と責任、自分や家族の消費生活が環境や社会に及ぼす影響を理解すること

・自立した消費者として責任ある消費行動を考え、工夫すること

・環境に配慮した消費生活を考え、実践できること

・節度を守り節制に心掛け、安全で調和のある生活をすること

・法やきまりの意義を理解し、それらを進んで守るとともに、そのよりよい在り方について考え、自他の権利を大切にし、義務を果たして、規律ある安定した社会の実現に努めること

社会科[公民的分野]

技術・家庭科[家庭分野]

特別の教科 道徳

※第 20 回消費者教育推進会議(2017 年 10 月)資料2「学習指導要領の改訂について(消費者教育の充実等)」(文部科学省)から筆者作成、太字は主な充実箇所で原文どおり、下線部は筆者が特に注目した点

表  新学習指導要領における消費者関係教育に関する主な内容(中学校)

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国民生活 2019.2 3

教員に消費者教育の必要性を理解してもらう

消費者行政と学校現場の連携における課題は次のようなことが挙げられます。●教員自身が消費者力を高め、消費者教育の必要性

を理解できる研修(機会の確保)

●教員の自主的研究会等を支援する体制づくり

●教育長や学校長など、学校現場のリーダーへの

啓発

●出前講座のお知らせのしかた(時期、方法)や申し込

み方法の工夫

●出前講座講師と教員の打ち合わせ時間の確保

このほかにも課題は数多くありますが、まずは、教員が消費者教育の必要性を体得する「機会の確保」と「研修内容の充実」といえるでしょう。消費者教育の必要性を実感していない教員に消費者トラブルの予防方法を教えられても、消費者教育を学び続ける必要性は子どもたちに伝わらないからです。各地の消費者行政担当部局では、学校現場と

の連携事例としてさまざまな取り組みが行われています。例えば京都府消費生活安全センターでは、2017年度より高等学校における消費者教育推進校事業に取り組んでいます。京都府教育委員会指導主事もオブザーバーとして参加、教員がモデル授業例を作成、実践し、授業事例集の学校への配布等により消費者教育を周知・普及させる内容です。多様な教科の実践授業を参観し、事例集にまとめることで、事業にかかわる消費者行政の関係者や教員の消費者教育への理解も、より深まっています。兵庫県もモデル校を活用して、「生徒自らが

考え、体験・実践する」授業を行い、その成果を高等学校教育研究会家庭部会で報告するなど、県内の消費者教育を推進するという取り組みを行っています。また職業体験の一環で兵庫県立消費生活総合センターに来ていた中学生が相談員向け講座に参加し、中学生グループの発

表も組み込んだ、中学生への消費者教育も兼ねた研修会もありました。奈良県では、相談員と教員が同じ研修会に参

加し、グループワークを共にするという講座を開催しています。教員向け、相談員向けなど対象を限定する講

座が多い中で、今後は世代を越えた多様な立場の人々が出会える機会の創出も課題です。また、学校現場は時間の調整がとても難しく

なってきています。教員研修や出前講座実施に当たっての打ち合わせ時間の確保が最大の課題といえるでしょう。連携には研修開催のタイミングや打ち合わせ時期等、工夫が求められます。

おわりに

以上、消費者行政の現場で学校での消費者教育を進めていくための課題をまとめてみました。実効性を高めるためには、消費者トラブルや学校教育の現状を深く理解している人材育成の強化が不可欠です。例えば、相談員を常勤の専門職として位置づけることや消費者教育に関心のある人を一定期間、消費者行政担当部局に配置すること等も有益です。一方でキーマンの有無にかかわらず、学校現

場との交流、連携が継続できるしくみの構築も急務です。都道府県間の温度差を解消し、行政の横のつながり、連携も大切にしながら、学校現場とかかわりを深めていただくことを期待しています。高等学校教員はもちろん、小中学校教員や大学教員への「消費者教育の必要性を理解(体得)する研修・消費者トラブルの実態を知る研修」が必要です。消費者教育の必要性を理解した教員は、批判的思考力、判断力の育成や消費者被害・加害防止のための学習を自身の授業で実践することでしょう。消費者行政担当部局と教員、それぞれの強みを生かしてつなぐ、新しい消費者教育が全国各地で展開されることを願っています。

特集1 消費者行政と学校現場の連携による新しい消費者教育―それぞれの強みを生かしてつなぐ―

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

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若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

消費者教育テキスト作成の経緯と目標設定

『Consumer’s Why -みんな消費者』*は、筆者のゼミで 2008 年度から作成を始めた消費者教育テキストです(図)。本学部は2年次後期からゼミが始まりますが、2~4年のゼミ生がそれぞれの年次(いずれも 10 名程度)ごとに共同研究のスタイルで、内容の更新・改訂に取り組んでいます。

2008 年3月に筆者がメンバーとなっていた任意団体・佐賀消費者フォーラム(現在は適格消費者団体)が、その活動目的であった自治体の消費者行政に対する政策提言の一環として高校生向けの消費者教育の必要性を唱え、弁護士、司法書士、消費生活相談員らが中心となって参考教材として消費者教育テキストと指導用マニュアルを作成しました。これをゼミ生に見せたところ、大変関心を示したのが学生たちによるテキスト作成が始まったきっかけでした。

筆者の本学部での講義科目は「経済法」であり、独占禁止法および関係法律が講義の対象です。独占禁止法の目的(1 条)は「公正且つ自由な競争」の促進によって「一般消費者の利益」を確保することを定めています。ゼミの名称も

「経済法ゼミ」ですが、「消費者利益の確保」「消費者問題」について学びたいと当ゼミを志望する学生が例年多く、ゼミ生らで決定する共同研究テーマもほぼ例外なく消費者と法に関するも

のが選ばれています。ゼミの場にはさまざまな独占禁止法や消費者法に関する基本書や教材等が持ち寄られますが、彼らの問題意識や関心は専門書の内容に行き着く前の生活経験上の「疑問」、例えば「なぜコンビニ商品の価格はスーパーより高いのか」などであり、これに応える法律の専門書はほとんどなく、むしろ法律以外の書籍などから知識や情報を持ち寄ることも頻繁でした。そこで、自分たちの知りたい消費者目線でまとめた知識と必要最低限の法律知識を盛り込んだテキストを作りたい、と発案したのが前記 2008 年度のゼミ生たちでした。

契約締結後の法律知識だけでなく、契約締結前段階の問題である広告・表示、価格について、大学生、そして2年前までは高校生であった若者の目線からの疑問に答えるテキストを作成し、作成する以上自分たちも講義ができる力を身に着けるという到達目標を設定し、これが後輩ゼミ生たちに引き継がれています。テキストのタイトルが消費者の「Why」になっているのは、こうした経緯によるものです。

* http://www.saga-consumersforum.or.jp/main/540.html

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特 集

2 若者の主体的な学びを促す消費者教育-経済法を学ぶ学生の取り組み-

専門は経済法、消費者法。消費者庁消費者教育推進会議(第3期)委員。適格消費者団体・特定非営利活動法人佐賀消費者フォーラム理事長。

岩本 諭 Iwamoto Satoshi 佐賀大学経済学部教授

図  消費者教育テキスト『Consumer,s Why ーみんな消費者』

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特集2 若者の主体的な学びを促す消費者教育-経済法を学ぶ学生の取り組み-

広範な消費者問題を対象とするテキストに-その内容と特長-

(1)まずは「価格」から テキストの初めのほうに置かれているのが

「価格の Why」です。続いて「景品・懸賞付き販売」「ポイントサービス」が続きます。価格は独占禁止法の問題である、という暗黙の了解の下、消費者法関係の専門書で「価格」が取り上げられることはまずありません。しかしながら、学生たちにとって「価格」は消費者問題の中で上位に位置づけられるテーマの 1 つです。景品・懸賞付き販売は景品表示法の規制対象ですが、現行法の規制対象となるのは、景品が本体商品から分離・着脱可能なかたちで付けられている場合(例:ペットボトルのネック部分に景品が付いている分離型)であり、商品と景品が一緒に梱包されている場合(例:箱の中にラムネ菓子とおまけが同梱されている一体型)は規制対象とはされていません。子どもや若年消費者の目線からは分離型と一体型の間で顧客誘引効果として大きな違いがないという視点から景品付き販売に対する規制制度を説明しています。

(2)受け手側の目線から「広告」を検討景品表示法上、広告が問題となるのは不当表

示(5 条 1 ~ 3 号)の要件を充足した場合ですが、学生たちの「広告の不当性」への関心は、

「なぜ有名人・芸能人を起用した広告が多いのか」「深夜の時間帯に近づくにつれてリピート広告が増えるのはなぜか」「ストーリー性のある広告が伝えているものは何か」という「受け手」の目線からの日本の広告の特徴に向けられています。ネット上のステルスマーケティング広告に対する規制を考えるうえで、優良または有利誤認という基準のほかに有効な観点はないのかというのが、現在のゼミでの検討課題の 1つです。

(3)「食品」の表示や安全についても盛り込む食品については、表示規制と安全規制は別物

であるという観点から検討を行いました。学生たちはさまざまな食品を持ち寄り、表示の確認や比較を行いました。例えば、魚肉ソーセージは魚から作られたもののみと考えがちでしたが、品質表示基準では「魚肉の原材料に占める重量の割合が 50% を超え、かつ、植物性たん白の原材料に占める重量の割合が 20% 以下であるもの」と定められており、畜肉を加えたものもあることに気がつきました。常にこうした学生たちの疑問と関心がテキスト作成の源泉となっています。また、地元のベーカリーのパンに「当店は○○を使用しません」(○○は食品添加物)という強調表示があるのを見つけたことから、当該添加物を使用する大手メーカーのパンと使用しない地元ベーカリーのパンを常温

(筆者の研究室の棚)で保存し、その腐敗過程の観察を通して添加物の役割を理解しました。さらに、○○という表示のみでは消費者が適切な情報にアクセスできないという食品表示制度の課題についても「画像」を通じて読み手に伝えるなど、学生ならではの発想で工夫しています。

アクティブラーニングの実践と今後の課題

前述したように、テキスト作成を通じて得た知識と思考力を基に、自ら講義を行うことがゼミの到達目標です。その実践の対象には、①児童・生徒向け②市民向けがあります。

①は本学教育学部附属中学校の「佐賀大学の授業を受けてみよう」という企画(保護者組織が主催)です。まず、教員である筆者が最初に1 時間程度基本的な内容を講義しました。そして、後の 1 時間を「人工イクラ」の製造や、ジュースに毛糸を入れて染めた後で水洗いをして着色料を確認する実験を学生が生徒たちとともに行い、最後に実験の意図を説明するという講義を行いました。前者は、いわゆる「コピー食品」が氾

はん濫らん

しているというニュースに接した学生の提案で実施し、後者の実験は学生が鮮明に記憶していた中学校の家庭科の授業で実践した内容

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

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特集2 若者の主体的な学びを促す消費者教育-経済法を学ぶ学生の取り組み-

を再現したものです。また別の年度では食品ごとに複数のメーカー品を用意して、表示の見方や同種の商品の表示を比較する(例えば、ペットボトルのお茶の原材料表示にある「ビタミン C」の表記の違い)講義や、いわゆる「無添加」表示の意味について実際の食品を例に説明を行ったこともあります。

②としては地元の消費者団体から当ゼミへのテキストの内容に関する講義依頼や、消費者団体の人々とともに寸劇形式で啓発活動をしてほしいという依頼に応えています。2018 年度はテーマとして、ジュースの果汁の含有量によるパッケージ画像の違い、なぜ販売されているシシャモは「子持ちシシャモ」ばかりなのかなどを取り上げました。また、行政(佐賀市)からは、毎年開催されている「佐賀市消費生活フェア」への出展依頼があり、学生たちによる実験形式や寸劇での取り組みを行っています。2017 年度は「ステルスマーケティング」を取り上げました。

そのほか、佐賀県が 2017 年度から開始した「県内大学生消費者教育推進リーダー養成事業」において、県消費者教育コーディネーターと学生が毎月 1 回学習会を開催し、若年消費者に対して大学生が主体的に取り組む教育・啓発活動の効果的な手法と実践方法について検討を深めています。

そして、毎年更新されるテキストの原案は、学生が佐賀消費者フォーラムの専門家の前で報告を行い、アドバイスを受けながら作成を進めています。これはテキストの「質の保証」と学生のプレゼンテーション能力を確保するための機会になっています。

こうした2年半のゼミでの成果は、卒業論文としてまとめるほか、国民生活センター主催「全国消費者フォーラム」での発表をめざすことも、大きな努力目標となっています。

今後の課題としては、学校教育の場との連携・協力の機会の確保、毎年のテキスト更新・製本にかかる財源・予算の確保が挙げられます。

成年年齢引き下げを受けて本格化する消費者教育のあり方

成年年齢引き下げにかかる改正民法が施行される 2022 年までの 3 年間は、消費者教育推進の集中加速期間とされており、いかなるスタンスでこの期間の取り組みを実施するかは重要な課題であると思われます。新たに成年を迎える層をねらい撃ちするビジネスに対応するための知識の付与といった情報提供と啓発活動は不可欠ですが、消費者教育は付け焼き刃の情報提供や啓発にとどまらないものであり、消費者教育の担い手がこれを認識することが重要です。

本テキストは、高校生から大学初年次を対象とするものですが、テキスト全体に占める「契約締結後」「救済」に関する記述は 3 割に満たない程度です。

消費者教育として教えるべき基本内容は、消費者相互の他者理解・自覚・社会形成への参画という 3 つのメルクマールから成る消費者市民社会についての理解と、消費者が「消費者の権利」の主体であるとの認識を持ってもらうことです。本テキストの冒頭に「消費者の権利」の章を置いているのはそうした理由からです。学生たちが地域・社会に出向くことは、「知らされる権利」「意見を聞いてもらう権利」の主体として、個々人が疑問を持ち、発信することの重要性を自ら体得することでもあります。

本テキストの指導理念というものがあるとすれば、それはテキスト名のとおり「みんな消費者」であり、ケネディ大統領の「消費者の権利」に関する特別教書の冒頭言です。消費者であることは人間の一面であり、しばしば言われる「消費者としての役割」ではなく、「消費者であることが役割」というのが、本テキストのモチーフです。今後本格化する消費者教育の推進に際して重要なことは、「消費者とは何か」という問いかけを教える側と教えられる側の双方が考える場として、教育が実践されていくことにあると思われます。

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

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国民生活 2019.2 7

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

はじめに

2018 年6月、民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられることが決まりましたが、そのときの連日のマスコミ報道には少々驚きました。若者の消費者被害の増加が懸念されることから「すごく心配!」という保護者や中学生を紹介するなど、不安を強調するような報道が続き、さあ、学校での消費者教育はどうする、大丈夫なのか?とまるで責められるような日が続きました。確かにそのとおりと思いつつ、少し違和感もありました。学校での消費者教育はこれまでもずっと行わ

れていますが、それでも若者の消費者被害がなくなることはありません。消費者教育がこのように注目されている今こそ、これまでのことも含めて、社会全体で考える時期に来ているのだと気持ちを引き締めています。

家庭科と消費者教育

高校の「家庭基礎」は週に 1回 2時間、1年間しかありません。その内容は広範囲にわたり、時間が本当に足りないのが悩みです。ここ 10年ほど、私は家庭基礎の中の「生活

設計」に注目して授業実践を積み重ねてきました。生活設計は人の一生を見つめ、自分の生き方を考えるという、高校生にとって非常に重要な内容です。何とかして彼らに生活設計に積極的に取り組んでほしいと願い、これまで「人生

すごろく」を導入として、人生のリスクとその対策や社会保障制度、男女共同参画社会の意義などを取り上げてきました。最近では金銭が重要な生活資源であることから、経済計画についての学習を生活設計の単元に組み込んで指導するようになりました。いわゆる消費者教育も「大人になること」と関連させて指導するのが効果的ではないかと考え、生活設計の中で取り組んでいます。

生活設計の授業の内容

(1)人生すごろくの製作生活設計の指導計画は表のとおりです。最初

に人生すごろくを取り上げたのは、先のことを考えられない高校生に、とにかく興味を持たせたいと思ったからです。生徒たちは楽しく作業に取り組むようになりましたが、単に作らせるだけでは、現実味のない架空の夢物語になったり、突然の「事故死」が続出したりしました。そこで取り入れたのが、ゴールを 80歳以上

にすることと、リスクとその対策を入れるとい

回(1回2時間) 生活設計の指導内容

1 人生におけるリスクと生活資源の活用(人生すごろくの製作)

2 生活資源としての社会保障制度3 ライフコース別の家計シミュレーション

4 生活設計と金銭資源(1) ライフイベントと経済資源

5 生活設計と金銭資源(2) ライフデザインと資金準備 

6 生活設計と消費者問題/現代家族の特徴実施:2018年1月~2月

18

特 集

3-1 生活設計の視点から考える消費者教育-高校家庭科の授業から-

仲田 郁子 Nakada Ikuko 千葉県立流山おおたかの森高等学校教諭家政学部被服学科を卒業し、千葉県公立高校家庭科教諭へ。その後大学院で生活設計を学び、現在は生活設計の視点から「お金」についての教育に取り組んでいる。

表  生活設計の指導計画

【実践例1】

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国民生活 2019.2 8

特集 3-1 【実践例1】生活設計の視点から考える消費者教育-高校家庭科の授業から-

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

うルールでした。生徒の作ったすごろくを見ると、今の高校

生の興味関心事などがよく分かります(写真)。主なリスクとしては、病気や事故、リストラなどが挙げられ、その対策としては、貯金、民間保険、資格を取るなど「自助」が中心で、社会保障制度について学ぶよい導入となっています。

(2)「社会への扉」の利用経済計画について考えるために、奨学金を

テーマにミニディベートを行いました。詳細は省略しますが、お金についての意識が高まり、これからの人生に向けて緊張感を高めたところで、消費者問題をテーマにしました。教材は消費者庁作成の「社会への扉*」の最初のクイズ5問です。結果は生徒の知識のあいまいさを実感するものとなりました。特に、未成年のうちは保護者を頼りにする思

いが感じられ、また「クーリング・オフ」という語はほとんどの生徒が知っていますが、その意味を正確に理解している割合は低いように思われました。また未成年者取消権については、クーリング・オフほどには理解されていないことも分かりました。「社会への扉」はよくまとまっていて分かり

やすい教材ですが、1冊全部を指導するには多くの時間が必要です。各学校で生徒に合わせた指導計画を立てる必要があります。

大人になることの意味を実感

授業後に寄せられた生徒の感想には、次のようなものが挙げられました。●生活設計の授業で、人生すごろくを作った。私は夢も目標も持っていたが、それについてのリスクは考えていなかったので、乗り越え方を考えることができた。

●欲しいものをすぐに買っていてはだめだと思った。

●未成年者取消権について学び、悪質商法がより身近に感じられた。

●成年年齢が18歳に引き下げられるが、私たちは20年間守られるのに対し、これからの世代は18歳までしか守ってもらえない、その2年は若者にとっては非常に大きい。

●自分はむしろ(成年年齢を)大学卒業年齢の22歳に引き上げるほうがよいと思う。18歳ではまだ大人とは言えない。

などです。一人一人が大人になることについて、具体的に考えられたのではないかと感じています。

今後の展望

 現民法では、18歳(未成年)であっても結婚すると未成年者取消権はなくなりますが、このことを授業中に話したところ、ある女子生徒が突然びっくりしたように顔を上げ、「なぜ?」と質問してきました。彼女にとっては「憧れの結婚」が「大人としての社会的責任」とはまったく結び付いていなかったのです。消費者教育とは、いろいろな数字や決まり事を暗記させることではないはず。近い将来大人になったらどのような生活が待っているのか、夢とリスク、果たすべき責任とを組み合わせて、考えさせていくことが家庭科の役割であり、生活設計の面白さだと思っています。

* http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/teaching_material/material_010/

写真 生徒の製作した人生すごろく

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山梨県の消費者教育の特徴山梨県の消費者行政には、他の県にはあまり

みられない大きな特徴があります。それは、小学校もしくは中学校の教員 1名(教頭相当職)が、消費者教育担当者(コーディネーターも兼ねる)として、山梨県県民生活センターへ配属されることです。学校現場のようすの分かる現職教員が相談 ・啓発スタッフとして消費者行政にかかわることで、学校における消費者教育を推進しやすくしています。小学校教員であった私は、2016 〜 2017 年度の 2 年間、その役を担いました。消費者教育を充実させていくためには、さま

ざまな組織との連携が大切なのはいうまでもありません。学校教育関係では、教育委員会の 4課(義務教育課、高校教育課、高校改革 ・特別支援教育課、社会教育課)および教員の研修やさまざまな教育情報を提供している山梨県総合教育センターと連携を図っています。具体的には、次の取り組みが挙げられます。①教育委員会および総合教育センターとの消費者教育推進についての話し合い・消費者教育 PRの場の提供依頼 ・消費者教育に関する情報の提供依頼を本課課長や県民生活センター所長も同席のうえ行う。

②消費者教育PR校長会、教頭会、社会科教員研修会、家庭科教員研修会、県PTA協議会総会などで出

前講座のチラシ配布、教材等の案内。③総合教育センターの授業づくり研修会での講義

④研究授業*1へのかかわり⑤公立高校における消費者教育の実態調査*2

消費者教育 PRでは、前年度行った学校での消費者教育における生徒のよい変容について話したり、使用したパワーポイントの抜粋をチラシに付けたりすることで、より具体的になり、理解を得やすくなったと思います。また、教育委員会と連携を行ったことで、⑤の実態調査においては、教頭会での説明の時間をいただけたため、回収率は 100%となりました。

公立高校における消費者教育県民生活センターでの消費者教育の中心

は、出前講座や出前授業です。高校における出前講座・授業の内容としては表のとおり

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

目的 教科等 内容❶ 成人前での自立

した消費者となるための基礎養成

家庭科(家庭基礎・家庭総合)

・契約と契約トラブル

・契約と若者が遭あ

いやすい消費者トラブル

・商品選択の意思決定と消費者トラブル

❷ 学校現場や発達段階においての需要の高い情報の提供

総合的な学習の時間学級活動行事

・高校生とネットトラブル

・身近にひそむネット依存

❸ 自立した消費者となるための必要な情報提供

学校行事学年行事(巣立ち教室)

・かしこい消費者になるために

* 1 教員の資質向上のために教員等関係者に公開される授業。* 2 https://www.pref.yamanashi.jp/kenminskt-c/center/koukouanket.html

18

特 集

3-2 県民生活センター(消費生活センター)と高校との連携による消費者教育荻野 三穂 Ogino Miho 山梨県甲府市立中道南小学校教頭山梨県内で小学校教諭として長年勤務。学級担任をしながら、研究主任、学年主任、教科主任等を歴任。2016 ~2017年、山梨県県民生活センターに出向。2018 年、教頭として学校現場に復帰。

【実践例2】

表  高校における出前講座・授業

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です。出前授業は、綿密な打ち合わせの下、TeamTeaching*3(チームティーチング、以下、TT)で行うものを指します。私の在籍した 2年間の出前講座・授業の総回数は、2016年 155回、2017年 173回でした。そのうち、高校への出前講座・授業は、2年間合わせて38回行いました。

出前授業の実際(1)事前準備

A高校で行った家庭科の出前授業について紹介します。「家庭基礎」および「家庭総合」の消費生活に関する単元で、県民生活センター職員と A高校の家庭科教員との TT で授業を行いました。内容は、成人前での自立した消費者となるための基礎養成を目的とした「契約と若者が遭

あいやすい消費者トラブル」(2時間扱い)

です(表の❶)。事前打ち合わせとして、電話やメールで内容を詰めた後、A高校に訪問し、パワーポイント、DVD、資料・プリント等用いる教材について、教員と最終確認をし、授業に臨みました。

(2)授業当日の流れ消費者庁作成の「社会への扉*4」「もしあな

たが消費者トラブルにあったら*5」を中心教材とし、「社会への扉」のクイズの部分をパワーポイント(図 1)にしたり、若者があいやすいキャッチセールスやマルチ商法などいくつかの消費者トラブルを実際の相談事例とともに紹介したりと、工夫して取り組みました。DVD「もしあなたが消費者トラブルにあっ

たら」を視聴後、ネットショッピングのトラブルについて、問題点等を考え話し合い発表し合うアクティブラーニングを取り入れました(図2)。

(3)教員からの感想授業後の教員の感想は次のとおりでした。

「講義は分かりやすく、講義内容を進める速さ

もよかったです。消費者教育に携わる専門の講師の話は重みと真実味があり、生徒たちは話に引き込まれるように集中して受講していました。パワーポイントも工夫されていて、クイズ形式の進め方は、生徒全員が考え授業に参加していると実感できました。多種にわたった問題形式があったり、DVDももう1種類くらいあったりするともっとよかったかもしれません」

今後も高校との連携を成年年齢引き下げにより、高校生でも消費者

トラブルに巻き込まれる可能性が高くなります。これからも、消費者行政と学校の連携した消費者教育を続けることが大切だと考えます。

特集 3-2 【実践例2】県民生活センター(消費生活センター)と高校との連携による消費者教育

若者への消費者教育-成年年齢引き下げを受けて-特集

* 3 学級担当の教師が進める授業に、その教師とチームを組む他の教師が入り、生徒の習熟度などに合わせて担当教師を助力しつつ行う授業の形態。

* 4 http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/teaching_material/material_010/* 5 http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/teaching_material/material_007/

写真 出前授業のようす

図1 使用したパワーポイントの一部

図 2 話し合い活動ワークシートの一部

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ケータイと消費生活(株)アスキー、(株)ケイ・ラボラトリー(現KLab(株))などを経て大学教員に転向、2013年より現職。1,000台を超えるケータイコレクションを保有している。

木暮 祐一 Kogure Yuichi モバイル研究家、青森公立大学 経営経済学部地域みらい学科 准教授

急速な進化と普及を果たした携帯電話

 平成の30年間を振り返るなかで、この間に著しい進化を遂げるとともに私たちの社会生活に大きく影響を与えてきたものの1つに、いわゆる「ケータイ」の存在が挙げられます。 そのルーツは1987(昭和62)年に登場した「携帯電話」にたどり着きます。持ち歩ける電話機としては、自動車電話を持ち歩けるようにという発想から自動車電話無線機にバッテリーとハンドセットを取り付けた「ショルダーホン」(1985年に登場)が先行してスタートしていますが、これを小型化するためにハンドセットと無線機を一体化しハンディタイプにしたものが携帯電話でした。 当初はNTT(現在、NTTドコモ)のみが提供してきた携帯電話サービスでしたが、NCC(New Common Carrier、新電電)が新規参入すると、この業界にサービス競争がもたらされていきます。まず、1988(昭和63)年に東名阪エリアに日本移動通信(IDO)が、1989(平成1)年には、関西、中国、九州エリアにセルラー電話グループが参入し(IDO、セルラー、ともに現在、KDDI)、これを契機に新規加入時の手数料や、毎月の基本使用料などの引き下げ競争がスタートしていきます。 特に1994(平成6)年は、この業界の大きな転機となりました。新たなNCCとしてツーカーグループ(現在、KDDI)、デジタルホングループ(現在、ソフトバンク)が参入、また「お買い上げ制」が導入され、量販店等で携帯

電話を購入できる現在の販売のしくみがこの年から始まりました。携帯電話が店頭で手軽に購入できるようになったことと、レンタル料が不要になったことによる基本使用料の引き下げにより、携帯電話が一段と一般の消費者に身近な存在になっていきました。 翌1995(平成7)年にはPHSサービス3事業者も参入し、料金引き下げ競争にさらに拍車がかかるようになり、以降は年々倍々増の勢いで加入者数が増加の一途をたどっていきました。

多機能化が進み携帯電話はケータイへ

 初代携帯電話の登場から10年を経た1997(平成9)年に、携帯電話の役割を大きく変える新たな機能が搭載されました。それが「ショートメールサービス」の開始です。それまで音声通話しかできなかった携帯電話に新たなコミュニケーション手段が加わりました。無線通信を使ったサービスにおいては、携帯電話の登場以前から「ポケットベルサービス」が普及を果たしており、90年代には文字メッセージの受信も可能なサービスが提供されてきました。携帯電話にショートメールが搭載されたのは、これらポケットベルのユーザーを、携帯電話サービスに取り込んでいこうというのが1つの目的でした。 さらに1999(平成11)年には、「iモード」を始めとするモバイルインターネットサービスがスタートしました。それまで通信事業者を超えて送受信することができなかったショートメールは「モバイルEメールサービス」に置き

第1回平成の消費者問題 平成の 30 年間をテーマ別に3回シリーズで振り返り、今後を展望します。今月号のテーマは「ケータイ」です。

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換わり、携帯電話の画面でインターネットを通じて情報を閲覧したり、Eメールでやり取りするといったサービスが定着していきました。 こうしたモバイルインターネットサービスの提供がきっかけとなり、インターネットを通じたサービスをより便利に活用するという観点から、携帯電話端末そのものが急激に進化、多機能化していきました。 まず1999(平成11)年末にはカラーディスプレイを搭載した携帯電話が登場、翌2000(平成12)年には、カメラ機能を搭載した携帯電話が発売開始されます。2001(平成13)年にはアプリが動作する、すなわち端末上でプログラムの動作が可能な機種が登場し、これにより携帯電話はコンピューターに位置づけられる製品となりました。 この頃になるともはや“電話”という名称がそぐわない製品になってきており、携帯電話に代わる名称として“ケータイ”と呼ばれるようになっていきました。ケータイはこの後も次々と新機能を追加していきます。2003(平成15)年にはFMチューナーを搭載したケータイが登場、2005(平成17)年には、翌年のサービス提供開始を控えた「ワンセグ」視聴機能を搭載したケータイが登場しました。 前後しますが2004(平成16)年には、「おサイフケータイ」機能を搭載したケータイが登場し、ケータイはまさに生活インフラへと進化を遂げていきました。 2007(平成19)年、アメリカで初代「iPhone」が発売開始されました。それ以前から「スマートフォン」は存在しましたが、コンピューターを小型化し、タッチパネルをスタイラスペンで操作するといったものばかりでした。そうしたなかで、指だけで必要な操作ができてしまうiPhoneのインターフェースは非常に斬新なもので大ヒットとなりました。2008(平成20)年には、いよいよこのiPhoneが日本でも販売開始されました。いわゆる「ガラケー」が不動

の地位を築いていたわが国においてiPhoneがヒットするとは考えられないという論調もありましたが、iPhoneはこれを覆し、わが国にもスマートフォンブームを巻き起こしました。 その後のスマートフォンは、機能としては大きく変わることはありませんでしたが、ネットワークの進化に歩調を合わせ、通信の高速化、大容量化が進んで行ったとともに、ディスプレイ解像度やカメラ性能なども高性能化を果たして現在に至っています。

社会生活の変化と情報リテラシー

 携帯電話が広く社会に普及し、私たちの生活が便利になる一方で、携帯電話をめぐるトラブルも増えていきました。同時に公共の場におけるその利用に関するさまざまなルールづくりが求められるようになりました。 特に1994(平成6)年以降、利用者が急増していった時期には、携帯電話を徐々に“迷惑なもの”ととらえる風潮も見受けられるようになっていきました。まず話題に上がったのがマナー問題です。電車の車内などでの音声通話が問題視されるようになり、徐々に公共の場での携帯電話利用を規制するようになっていきました。通話の際の人の声に加え、着信音そのものがうるさいという人も増え、このため1996(平成8)年には携帯電話に“マナーモード”

平成の消費者問題

写真 左から、NTT TZ-803B 型携帯電話(1989 年)、i モード初号機 /NTT ドコモ F501i(1999 年)、多機能を極めていたガラケー /NTT ドコモ P-07A(2009 年)

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平成の消費者問題

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が登場しました。「マナー」と書かれたボタンをワンプッシュするだけで着信音を無音に、着信バイブレータをONに同時に設定できる機能でした。 携帯電話に標準搭載されるようになった機能の1つにカメラ機能がありますが、すぐに撮影可能なカメラを誰もが持ち歩けるような状況となったことで、カメラの利用に関する配慮も求められるようになりました。わが国で市販されるスマートフォンは日本独自レギュレーションとしてシャッター音を消せない仕様となっていますが、盗撮問題なども後を絶ちません。 2004(平成16)年は、GREE、mixiの両「SNSサービス」がサービスを開始し、以後、Twitter、Facebookといった海外のSNSサービスも上陸を果たしていきます。これらSNSの普及にもケータイやスマートフォンなどのモバイルが大きな役割を果たしたことは言うまでもありません。海外ではパソコンで利用することも多いSNSですが、いつでもそのときに思ったことを発信できる機動性はモバイルにかないません。 一方でマーケティングの観点からこうしたインターネットサービスを通じてユーザーの日常の行動や趣味嗜

し好こう

、交友関係などあらゆる情報が収集され、そのデータが活用される時代になりました。スマートフォンから収集される情報をすべて拒絶していては、むしろスマートフォンの使い勝手が悪くてしかたありません。今後は消費者のほうが、どういったシチュエーションでどのようなデータが収集されているのかをきちんと把握し、自らそれらデータの利用可否を必要に応じてコントロールできるような能力が求められる時代になります。

顧客獲得競争の裏側で契約や料金をめぐる問題が

 通信事業者間の競争はサービスの充実や携帯

電話料金の低廉化に大きく貢献してきましたが、一方でその内容が複雑で難解なものになり、特に契約に関する消費者とのトラブルは後を絶ちません。 スマートフォンの端末価格は高機能化に伴って高騰が続いていて、それを使用するためには利用料金を毎月支払い続けなければなりません。わが国の通信サービスは回線契約と端末販売が抱き合わせ、というのが古くからの商慣習でした。MVNO(格安SIM)の普及とともに、SIMカード(回線契約)だけ、あるいはスマートフォン端末だけを購入する機会は増えてきてはいますが、まだ約9割の消費者は従来の回線契約を伴った端末を購入している実情*があります。 通信事業者の考え方としては長らく、入り口(購入時)の敷居を下げ、毎月の利用料金で収益を回収していくというスタイルを崩していません。現在は高価なスマートフォンが一見非常にお得に購入できるように見せて消費者の購買意欲を湧かせ、契約後はあの手この手で解約を躊ちゅう

躇ち ょ

させるしくみを設けています。また販売代理店としても端末販売だけでは利益が少ないために、代理店の利益になるインセンティブを少しでも増やすためのさまざまなオプション契約を勧めてくるような状況です。 こうした実態を踏まえ、総務省も2008(平成20)年頃から回線契約と端末販売の分離をめざしたさまざまな施策を打ち出しているところですが、結局のところ大きな変化はもたらされていないのが実情です。 スマートフォンの購入に当たり、消費者自身が端末購入価格と2年間の利用料総額を算出して冷静に損得を見極められる力を養っていけるとよいと思います。

* MMD 研究所「2018 年 9 月格安 SIM サービスの利用動向調査」より

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消費者保護ルールに関する各種法令など

 電気通信事業法(以下、法)の消費者保護ルールの各規定は、電気通信事業法施行令(以下、施行令)および電気通信事業法施行規則(以下、規則)などの政令へ委任されている事項や、総務省告示によって指定されている事項が多いため、法律の規定だけでなく、省令や告示を参照する必要があります。また、消費者保護ルールの解釈・運用について、「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が公表されています。

提供条件説明義務と書面交付義務

法は、①電気通信事業者や代理店が利用者との間で電気通信サービスに関する契約を「締結しようとするとき」は、当該電気通信サービスに関する料金その他の提供条件の概要を利用者へ説明しなければならないと規定しています

(法 26 条 1 項の提供条件説明義務、以下、説明義務)。さらに、②電気通信サービスに関する「契約が成立したとき」は、遅滞なく総務省令で定めるところにより書面を作成し利用者に交付しなければならないとも規定しています

(法 26 条の 2 第 1 項本文の書面交付義務)。説明義務は契約締結前に、書面交付義務は契

約成立時に課される義務ですが、規則では、提供条件説明も「説明事項……を分かりやすく記載した書面……を交付して」行うこととされているため(規則 22 条の 2 の 3 第 3 項本文)、

電気通信事業者は、原則として契約締結前と契約成立時の 2 度、それぞれ所定の書面を利用者へ交付する必要があることになります。

説明義務や書面交付義務の対象となる電気通信サービス契約の種類は、総務省告示「電気通信事業法第二十六条第一項各号の電気通信役務を指定する件」(いわゆる指定告示)に規定されており、MNO や MVNO の携帯電話サービス、FTTH(光ファイバー)や ADSL などの固定通信サービスのほか、IP 電話やアナログ電話など、一般消費者が電気通信事業者と契約する可能性がある契約はほぼ網羅されています。

提供条件説明義務

(1)説明義務の適用除外電気通信事業者が提供する電気通信サービス

の多くが説明義務の対象となりますが、以下の場合は説明義務の適用がないとされています

(法 26 条 1 項ただし書、規則 22 条の 2 の 3第 6 項)。① 法人契約 法人その他の団体(法人等)を相手方とし、営業目的または事業目的で締結される契約をいいます。個人事業者による契約は法人契約に該当しませんが、法人格のない団体(法人格のないマンション管理組合など)による契約は法人契約に該当します。② 自動締結契約 契約約款に基づき他の電気通信事業者が契約を締結したときに自らも締結したこととなる電気通信サービス契約をいい、例えば他事業者との間のローミング契約や長距離電話サービスの提供契約が挙げられます。

提供条件説明義務と書面交付義務大阪弁護士会・消費者保護委員会委員。堺市情報セキュリティアドバイザー。インターネット取引やネット上の名誉毀損におけるトラブル解決などに取り組む。

川添 圭 Kawazoe Kei 弁護士

第 2 回電気通信サービスと消費者保護ルール

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電気通信サービスと消費者保護ルール

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③ 都度契約 公衆電話のように、電気通信サービスの提供を受けようとする都度、契約を締結するものをいいます。プリペイド携帯は、料金の前払いにより一定期間通話や通信が可能となる契約であり、都度契約には該当しません。④ 接続・共用関係契約 他の電気通信事業者と接続または共用協定を締結して電気通信サービスを提供する事業者が、他の電気通信事業者がまとめてサービス内容等の提供条件の説明をする場合です。例えば、MVNOがMNOと接続して移動通信サービスを提供する場合、MNOには、MVNO利用者に対する説明義務が課されません。⑤ 変更・更新契約のうち説明不要なもの 変更契約・更新契約については後ほど詳述します。(2)説明すべき内容(基本説明事項) 電気通信事業者が利用者に電気通信サービスを提供する際に説明すべき内容(基本説明事項)は、規則22条の2の3第1項各号に規定さ

れています。具体的な説明内容を表1にまとめましたので、ガイドラインと共に参照してください。(3)説明の方法

「説明」とは、説明事項について利用者の理解が形成された状態におくことをいい、平均的な消費者であれば理解できる程度の内容および方法による情報伝達が必要です。前述のとおり、説明に際しては、説明事項を分かりやすく記載した書面(説明書面)を交付して行わなければならないとされています(規則 22 条の 2 の 3第 3 項)。説明書面に記載される説明事項は、できるだけ一連のページに集中していることが求められます(集中化・一括化の原則)。

対面による説明は、説明書面を交付したうえで、口頭による説明を併せて行うことを原則としていますが、利用者の了解を得たときは、電子メールの送信、CD-ROM など記録媒体の送付、ウェブページへの表示などの代替的説明手段も認められています。

表 1 提供条件説明の説明事項内容および交付書面の記載内容

提供条件の説明事項

交付書面への記載事項

基本説明事項

電気通信事業者の氏名または名称、連絡先 ○ ○媒介等業務受託者(代理店)の氏名または名称、連絡先 ○ ×電気通信役務の内容(名称・種類・品質・提供場所・フィルタリング等) ○ ○通信料金・その他の経費 ○ ○期間限定の割引の適用期間等の条件 ○ ○契約解除・契約変更の連絡先および方法・条件等(期間拘束・違約金等) ○ ○初期契約解除が可能な場合、初期契約解除制度に関する事項 ○ ○確認措置の対象契約である場合、確認措置に関する事項 ○ ○契約変更・解除に伴う負担(端末代金の割引やキャッシュバック適用の場合の違約金等) ○ ○

他業種との一体的な販売がなされる時の説明義務の取り扱い ○ ○定型約款に関する情報提供 ○ ○

その他

書面の内容を十分に読むべき旨 × 〇契約を特定するに足りる事項(契約者氏名・住所・契約者番号等) × ○料金支払の時期・方法等に関する説明 × ○サービス提供の予定時期に関する説明 × ○付随有償継続役務(オプション契約)に関する事項(名称・料金・割引条件・契約解除/変更の条件等) × ○

複雑な割引のしくみについての図示 × ○経済上の利益の提供に関する事項(キャッシュバック等) × ○

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電気通信サービスと消費者保護ルール

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(4)適合性原則説明に当たっては、利用者の知識および経験

ならびに契約締結の目的に照らして、利用者に理解されるために必要な方法および程度で説明を行わなければならないとされています(規則22 条の 2 の 3 第 4 項)。これは、金融商品取引法でも規定されている「適合性原則」と同様の義務を規定したものです。

例えば、(ア)未成年者に対しては高額利用の防止の観点からの説明やフィルタリングサービスの説明、(イ)高齢者に対しては高齢者向け資料の作成や複数の担当者による説明、(ウ)障がいを持つ利用者にはその障がいに応じた説明方法(筆談や点字資料)など、利用者が説明事項を理解できる方法・程度が要求されています。

一方、電気通信サービスに対する知識や経験が豊富な利用者に対しては、口頭説明を省略・簡略化することも許されることになります。(5)変更・更新時の説明 説明義務は、新規契約の場合に限らず、契約の変更・更新の場合にも必要とされています。ただし、表2のとおり、変更・更新の内容によって説明の要否や説明事項が異なります。

また、ガイドラインでは、自動更新(「2 年縛り」など利用者から更新しない旨の申出がない限り契約が更新され、更新後の契約に期間拘束があり、中途解約に対して基本料金の額を超える違約金の定めがある場合)については、契約期間満了前に、①自動更新の旨、②自動更新後の契約に期間拘束と違約金の定めがある旨、③自動更新後の契約期間、④自動更新後の違約

金の額をそれぞれ通知しなければならないとされています。この通知は、書面に限らず SMSや電子メールなどでも可能とされていますが、重要な内容は本文に記載することや、重要な通知であることが認識できる表現であることが求められます。

書面交付義務(法 26 条の 2)

書面交付義務は 2015 年の改正法で新たに導入されたものですが、初期契約解除制度(法26 条の 3)とワンセットであり、契約書面の受領が初期契約解除可能な期間の起算点になるという意味があります。なお、初期契約解除制度は次回で解説します。(1)書面交付義務の適用除外

説明義務の対象外である法人契約、自動締結契約、都度契約には書面交付義務も適用されません(規則 22 条の 2 の 4 第 6 項第1号)。接続・共用関係契約も、いずれか一方の電気通信事業者がまとめて書面交付を行えば足ります(同項3 号)。

また、初期契約解除制度の適用がない契約については、提供条件説明から契約成立までの間に契約書面に相当する書面を交付することも許されています(同項 2 号の事前交付)。(2)契約書面の記載事項・記載方法 契約書面への記載事項は、表1に記載のとおりです。説明義務と比較すると、「書面の内容をよく読むべき旨」の記載や、複雑な割引のしくみについて文字だけでなく図示することを義務づけるなど、説明義務における説明事項より

表 2 契約変更と説明義務

種類の変更* すべての基本説明事項についての説明が必要

種類以外の基本説明事項の変更

利用者からの申出による変更該当する基本説明事項について説明が必要

事業者からの申出による利用者に不利な変更

事業者からの申出による利用者に有利な変更説明は不要

基本説明事項以外の変更または変更がない場合

* 種類の変更とは施行規則別表の区分に従い基本説明事項により説明した種類の変更。例えばADSLからFTTHサービスへの変更など。

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多様かつ多岐にわたっています。また、契約書面の文字は 8 ポイント以上が

必要とされ(規則 22 条の 2 の 4 第 4 項)、書面の記載には一覧性・一体性を確保することが求められています。ガイドラインには、契約書面の書式例も紹介されています。(3)変更・更新時の書面交付

説明義務と同様に、変更契約・更新契約により書面の記載内容に変更があった場合には、改めて書面の交付が必要とされています。ただし、利用者の利益保護に支障がない軽微な変更や付加的な機能に係

かかる変更、電気通信事業者の申出

による利用者に有利な変更(値下げや速度向上など)のみである場合には、書面交付は不要です(規則 22 条の 2 の 4 第 3 項)。(4)電子交付

書面交付は、紙の書面ではなく電磁的方法による交付(電子交付)も許されます(規則 22条の 2 の 5)。ただし、電子交付に際しては、電子交付の方法および内容を利用者へ提示し、書面・電子メール・ウェブページなどにより利用者の明示的な許諾を得る必要があるとされており、口頭や電話での承諾取得は認められません。また、利用者による電子交付の承諾の撤回も可能とされています(施行令2条)。

オプション契約(付随有償継続役務)

(1)オプション契約の種類 電気通信サービスにおいて、本体の契約に追加してさまざまな有料オプションが用意されて

いるのが一般的です。オプション契約は、電気通信サービスに対する付加的なサービス(留守番電話や国際電話、固定IPアドレスサービスなど)のほか、公衆無線LANやホームページ、動画配信サービスなど多岐にわたります(表3)。なお、通信機器(スマートフォンなど)の売買契約や、電気通信サービス本体の料金や速度などに影響するもの(データ容量の上限を緩和するオプションなど)は電気通信サービス契約自体の内容に含まれ、ここでいうオプション契約(付随有償継続役務)には該当しません。(2)オプション契約と説明義務

オプション契約については、付加的な機能に関するオプションも含め、説明義務の対象外とされています(規則22条の2の3第1項柱書)。ただ、オプション契約に無料期間が設定され、特定のオプション契約への一定期間の加入を条件として電気通信サービスの割引を受けられるといった場合も少なくありません。ガイドラインでは、オプション契約の無料期間終了前に利用者へ通知することが適切であるとされています。(3)オプション契約と書面交付義務

説明義務とは異なり、契約書面には、付随有償継続役務に該当するオプション契約の名称、料金その他の経費、期間限定の割引条件、契約解除・変更の条件などを記載しなければならないとされています(規則 22 条の 2 の 4 第 1項 5 号)。

表 3 オプション契約の種類(平成 30 年 9 月版ガイドライン 43 ~ 44 ページより)

移動・固定共通 主に移動系 主に固定系

付加的な機能 ・留守番電話、転送電話・SMS機能

通信系 ・公衆無線LAN・IP電話

・位置検索・リモートロック ・ホームページ容量追加

コンテンツ・アプリ系 ・動画配信、音楽配信・モバイル機器用アプリ ・緊急地震速報

セキュリティ・サポート系 ・遠隔サポート・セキュリティ確保サービス ・端末補償プログラム ・PCプロテクション

・訪問サポート

その他 ・クレジットサービス・保険

・総合生活サポート・ネット宅配サービス

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ニュース:「東京株式市場で、日経平均株価は前営業日比867円89銭安の2万1560円52銭となり、大幅続落となりました。カルタ大統領の発言を受けて、前日の米国株が大幅安だったことが影響しているものと思われます」母:「これは猛烈な下げが来たわね。全面安じゃない。カルタ大統領は思い付きでものを言うから、市場が振り回されるのよ。値頃感が出て、後で買い戻されるかしら。株の買い時かもしれないわ」翔太:「なんだかすごいことが起きているみたいだね。お母さんはいつも売りだの買いだの言っているけど」母:「いや、とにかく今回の株の下げ幅は大きいのよ。たまたま先週手放したからよかったけれど、持ってたらこの下げに巻き込まれて大変なことになるところだったわ」翔太:「そういうことはめったにないんじゃないの。今、株を持ってる人はよっぽど運が悪かったんだね」母:「そんなことはないの。株っていうのはものすごくフラフラ動いて、すごく下げる日も結構ある。だから、今回くらいの下げはそれほど珍しくもないのよ。もちろん、世界大恐慌みたいな極端に大きな下げはそんなにしょっちゅうあるわけではないけどね」翔太:「そうなんだ。確かに、ブラックマンデー*とかは何千年に1回の下げだったって、よく言ってるね。でも、株ができてから、まだ何千年も経っていないんでしょ?千年前だと平安時代ぐらいかな。『いとをかし』とか言いな

がら、株の取引してたりしないよね(笑)」母:「もちろん実際に千年も経ってはいないわね。確率の話だから」翔太:「何千年に1回のことが、10年とか20年の間に起きているんだよね。それはやっぱり、すごく運が悪いってことなんじゃないの?」母:「いや、実はその確率が間違ってるの。株価がおとなしい動きをすることを前提にした計算だからね。正しいのは現実のほうよ」翔太:「えっ、間違ってるの?」母:「そう。手元に1984年1月4日から2016年10月14日までの日経平均の終値のデータ(図1)があるから、ちょっと見てみようか」翔太:「うわ、昔はすごく株価が高かったんだね。この一番高い山がバブル?」母:「そう。この時代は、日経平均株価が4万円近かったのよね」翔太:「ずいぶん激しく動いているね。すごくギザギザしてるけど、たまにどーんと上げたり下げたりしているんだね」母:「そうなの。株はあまり変化しない日が結

専門は、数理物理学、暗号理論。著書に「現代暗号入門」、「ウソを見破る統計学」(共に講談社ブルーバックス)など。日本数学会、日本文藝家協会会員。

神永 正博 Kaminaga Masahiro 東北学院大学工学部教授

世の中を分布でつかんでみよう

* 1987 年 10月 19日(月)にニューヨーク株式市場で起きた、史上最大規模の株価の大暴落

1984−01−04 1990−01−22 1996−01−26 2002−02−08 2008−02−25 2014−03−11

10,000

20,000

30,000

40,000(円)

(年月日)

データの裏側 身近な事例を紹介しながら、データを正しく理解するために必要な知識について解説します。

第2回

図 1 日経平均株価の終値の推移

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データの裏側

国民生活 2019.2 19

構あるのに、たまに事件があって、急に上げたり下げたりするのね。これ(図2)は、1日の日経平均株価の変化を対数でみたヒストグラムなんだけど、まあ、細かいことはいいわ。とにかく株価の変化だと思って」翔太:「この点線は何?」母:「赤色の点線は統計でよく使われる仮定に基づく株価変動の確率だと思っていいわ。正確には『確率密度』って言うんだけれど」翔太:「あまり聞いたことないな。とにかく、理論と現実にはズレがあるということだよね」母:「そうそう。見やすくするために、この株価の上がったところを拡大してみようか(図3)」母:「点線のところにご注目。理論上は、確率がほとんどゼロになっているけれど……」翔太:「え?確率がほぼゼロのはずなのに、実際には株価の上昇が10回以上も起きてる!」母:「つまり、理論と現実が食い違っているというわけ」翔太:「どうしてこんなことが起きちゃうの?」

母:「理論的な分布は、『正規分布』というベルみたいな形なのね。でも、実際の株価の分布は、端っこのほうが『べき分布』というものになっているの。特に大きな違いは裾の部分。べき分布しているものを正規分布で計算してしまうと、変化が起きる確率を過小評価してしまうの。さっき話した『何千年に1回の下げ』というのも、こういった理論に基づくものなのよ」翔太:「正規分布って、名前からして正統派っぽいよね。でも、使えないってこと?」母:「そう。確かに、正規分布は正統派の分布で、身長や測定の誤差を扱ったりするときには役に立つ。でも、経済現象には当てはまらないことが多いのよ」翔太:「べき分布の例って、他にもあるの?」母:「株価だけじゃなく、所得や資産もべき分布になるよ。例えば、日本に年収2000万円以上の高額所得者は1パーセントちょっとしかいないのね。その分布を見ると、大体はべき分布になっているよ。例えば、所得1億円以上の世帯数は、所得5000万円以上の世帯数の大体半分くらい(図4)。これをべき分布で表すと、この比率には変化がないの」翔太:「かなり大ざっぱだけど、所得8000万円以上の世帯数も、所得4000万円以上の世帯数の半分くらいになるんだね。お金持ちは、僕らとは全然違う世界に住んでいるんだなぁ」

−10 −5 500.0

0.1

0.2

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0.4

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3 4 5 6 7 8 9

1000000

1000002000万円3000万円

億円

5000万円 1億円

10000

1000

100

10

11000万円 1 10 100

100億円以上の所得の9世帯は金額不明のため、ここでは除外

(確率密度)

(株価の変化率)

(確率密度)

下落← →上昇

正規分布

べき分布

図 2 日経平均株価の1日の変化(対数)のヒストグラム

図 3 日経平均株価(図2)の上昇部分図 4 2007 年の 2000 万円以上の所得分布(両対数グラフ)

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国民生活 2019.2 20

避難の最大の敵は自分

2018 年7月の西日本豪雨で大きな被害が出た広島市が住民を対象に行ったアンケート調査の結果を見ると、災害のときの避難を阻む最も大きな要因は、自分自身の心理状態だということが分かります。広島市は、避難を呼び掛けたにもかかわらず

避難した人が少なかったことから、避難指示が出された地域の住民 1,700 人にアンケート調査を行い、50%に当たる 858人から回答を得ました。それによると、市が指定した避難場所など、安全な場所に逃げなかった人は約74%に上りました。その理由を聞いたところ、「被害にあうとは思わなかった」と答えた人が53.3%と半数を上回ったほか、「今まで自分の居住地が災害にあったことがなかった」と答えた人が 38%いました。災害のときに“自分は安全だ”と根拠なく思

い込んでしまう心の動きは「正常化の偏見」とか「正常性バイアス」と呼ばれます。災害で何か異常な事態が起きたときに、「これは正常の範囲内」だと思い込んで、危険を過小評価してしまうのです。人はなるべく逃げたくないのです。そこで「去年の雨も激しかったが、逃げなくてすんだ」とか「これまで 50年生きてきたが、災害で逃げたことはなかった」などと勝手な理由を見つけて逃げなくていいように考えてしまいがちなのです。したがって災害時の避難を進めるためには、「正常化の偏見」を打ち破る情報の力が必要です。避難するために必要な情報を出す際、伝える際、そして情報を受ける

際の3つのポイントを考えます。

災害情報は分かりやすく

1つ目のポイントは、災害情報は分かりやすくなくてはいけない、ということです。西日本豪雨では上流のダムの容量がいっぱい

になり、通常よりも多くの量を放流したダムがありました。その際の周知文は「〇〇ダムでは〇日〇時〇分から放流を開始します。ダム洪水調節に活用する空容量を確保するため、放流量を〇日〇時〇分に最大〇㎥ /s まで増加させる予定です。なお、最大放流量〇㎥ /s を超える場合は再度通知します」となっています。ダムの機能や放流についてよく知っている専

門家同士なら、放流量の数字を知らされれば、下流の河川の水位が急上昇して氾

はん濫らんしたり、場

合によっては堤防が決壊したりしてしまうおそれがあることが分かると思います。しかし一般の住民は無論のこと、3年くらいで担当が変わることが多い市町村の防災担当者もダムや河川の専門家ではありません。最近はさまざまな防災機関が多くの災害情報

を発表するようになりましたが、情報の中に専門用語や数字が出てくるケースが目立ちます。専門用語や数字から危機感を持つことができるのは、情報を発表する側と同じくらい専門知識がある人だけです。したがって災害情報を出す際は、情報を受け

取る立場に立って、専門用語をかみ砕いて説明したり、数字を使う場合には数字が持つ意味合いを伝えたりしなくてはいけないのです。災害情報は命にかかわる情報ですから、子どもから

地 域 防 災知って 備えよう

鹿野川ダム(愛媛県大洲市)

元NHK解説委員(自然災害、防災)。主な著書に『防災から減災へ~東日本大震災取材ノートから~』(近代消防社、2013年)、『地震予知大転換~最近の地震災害の現場から~』(近代消防社、2018年)など。

山﨑 登 Yamazaki Noboru 国士舘大学 防災・救急救助総合研究所教授

災害情報で被害を減らす(2)

第 3 回

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国民生活 2019.2 21

高齢者までが理解できる分かりやすい情報であることが重要です。

大事な情報は複数の手段で伝える

2つ目のポイントは、大事な情報は複数の手段で伝える必要があるということです。 東日本大震災後、内閣府が沿岸地域の住民を対象に、大津波警報や避難の呼び掛けなどの情報をどのような手段で知ったかを調べています。それによると、防災行政無線を聞いたと答えた人が多くなっていますが、テレビやラジオ、携帯電話のメールやワンセグ放送、役場や消防の広報車、それに直接人から聞いたなど、さまざまな手段で情報を得ていたことが分かります(図)。多様な生活をしている多くの人に、大事な情

報を伝えるためには、複数の伝達手段が必要です。また「正常化の偏見」を打ち破っていくためには、同じ情報を複数の手段で届ける必要もあります。例えば、雨の降り方がいつもと違うなあと感

じている人に、テレビやラジオが「避難勧告」が出たことを知らせ、“エッ”と驚いているところへ防災行政無線や広報車が避難を呼び掛け、携帯やスマホに「災害・避難情報」のメールが届き、“どうしよう”と思っているところへ、自主防災組織の人がドアをノックして「一緒に逃げましょう」と言ってくれ、ようやく避難す

るのです。災害情報で避難を進めるためには、情報を複

数の手段で、繰り返し伝える必要があるのです。

地域の避難訓練への参加が重要

3つ目のポイントは、地域の避難訓練に参加して避難行動を身に着けておくことです。以前、東京消防庁消防救助機動部隊(ハイパー

レスキュー隊)の訓練を取材したことがありました。隊員たちは地震で壊れた住宅などの下や車の中に閉じ込められた人を想定し、エンジンカッターなどの器具を使って救助する訓練を繰り返し行っていました。隊長に厳しい訓練を毎日のように繰り返す理由を聞いたところ「本番では訓練以上のことはできないから」という答えが返ってきました。災害は穏やかに晴れた日の昼間に起きるとは

限りません。雨や雪の日、深夜や明け方にも襲ってきます。そうしたときにきちんと避難ができるようにするためには、避難場所や避難路が分かっていて、からだが避難行動を覚えていることが大切です。避難の呼び掛けがあったら、身支度をして、必要な物を持って靴を履き、玄関の外に出ているようになっていたいものです。災害情報を防災に生かせるかどうかは、日頃

の情報のあり方と一人一人の心構えにかかっていると言ってよいと思います。

資料:内閣府・中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」「津波警報等に関する調査結果」より

※宮城県の沿岸地域の住民(385名)を対象にしたアンケート

5%1%

11%1%5%3%2%2%7%

47%18%

6%

0 20 40 60 80 100

その他施設の放送

消防の車や人から警察の車の人から

家族や近所の人から役場の広報車や人から携帯電話のメールから

携帯電話のワンセグ放送から車のテレビ・ラジオ(カーナビ)から

防災行政無線からラジオからテレビから

4%

7%

9%1%

7%13%30%29%

4%

(%) (%) (人)

N=161 N=82

2

14

0 2 4 6 8 10

N=7

11%2%

27%2%

14%2%

1%2%

34%10%

2%

0 20 40 60 80 100

N=90

(%)0 20 40 60 80 100

大津波の津波警報

予想される津波の高さ

最初に観測された津波の高さ 避難の呼びかけ

地 域 防 災知って 備えよう

図 情報の入手先(手段)

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国民生活 2019.2 22

 外見は自転車なのに、ペダルもブレーキも付いていない二輪遊具*1が人気を集めている。地面を蹴って走行するしくみで、自転車に乗り始める前の幼児のバランス感覚を養うのに役立つという。商品テスト財団では、同遊具15商品を対象に、走行性、安全性、有害物質の含有等をテストした。 実地テストは、3〜4歳の保育園児10名の協力を得て、平坦

たんな直線路、カーブ、砂場、芝生、丘などか

ら成る屋外のコースで行った。まず、テスト品を砂場に倒して並べ、ヘルメットを被

かぶった園児に自由に

選んでもらったところ、ポップな色使いの商品が好まれる傾向にあったという。車体の起こしやすさ、乗り降りのしやすさも考慮しながら、子どもが遊具に乗って走るようすを専門家が注意深く観察した。

 その結果、走行性や使い勝手は概おおむね良好と評価された。しかし、

対象品をより詳しく観察したところ、子どもの指を挟みやすい箇所がある木製の商品や、車高が低いため、縁石に引っ掛かる可能性のある商品が見つかったという。さらに、実験室でハンドル、サドル、タイヤの一部を削って有害物質の有無を調べたところ、発がん性が指摘される多環芳香族炭化水素(PAHs*2)が11商品から検出された。そのうち8商品では、子どもが長時間接触するサドル、ハンドルから検出されており、同財団は危機感を表明している。既に購入した消費者に対しては、有害物質を含む部品または商品丸ごと交換に応じると回答した事業者があった一方で、交換には一切応じないと

 オーストリア人は蜂蜜好きな国民として知られる。1年間に消費する蜂蜜の量は、1人当たり平均1.2kgに達するという。流通する蜂蜜の半分以上は国内で生産されるが、残りは輸入品であることから、シロップ類で水増しされた中国商品が出回っているのではないかと不安を抱く消費者も多い。そこで、オーバーエスターライヒ労働者会議所は百花蜜(複数の植物に由来する蜂蜜)13商品を対象に、シロップ類の混入がないかテストするとともに、原産地表示の実態を調査した。 その結果、シロップなど蜂蜜以外に由来する糖類が混入した商品は皆無だったが、原産地表示には問題が多かったという。原産国が具体的に表示されていたのは、わずか1商品(チリ、エルサルバドル等6カ国を列挙)だったからである。他の11商品には「EU加盟国とEU加盟国以外の蜂蜜を混合」、1商

品には「EU加盟国以外の蜂蜜を混合」という表示しかなく、どこで生産されたのか、まったく判断できないものだった。当然ながら、中国産が何パーセント含まれるかも不明である。 ところが、EU(欧州連合)の蜂蜜規則によると、このような表示でも適法とされる。蜂蜜の原産地は原則として表示する義務があるが、2カ国以上の蜜源から採取した混合品(百花蜜等)の場合、今回のテスト品のような表示も許容される。 このような取り扱いについて同会議所は、どこの国の蜂蜜が含まれているのか知りたい消費者にとって、役に立たない表示制度であると批判する。消費者が蜂蜜の原産国を知ったうえで商品選択ができるように、法改正の要請も含め、EUに働きかけを続けるとのことである。

ドイツ   有害物質の検出が相次いだペダルなし二輪遊具●商品テスト財団『テスト』2018年 12月号 https://www.test.de/Laufraeder-im-Test-Dreimal-gut-elfmal-mangelhaft-5400646-0/

●オーバーエスターライヒ労働者会議所ホームページ https://ooe.arbeiterkammer.at/service/testsundpreisvergleiche/tests/Supermarkt-Honig__Qualitaet_OK__Herkunft_unklar.html

オーストリア   原産地表示が役に立たない蜂蜜も

* 1 国民生活センター「ペダルなし二輪遊具による坂道の事故に注意」   http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20140703_1.html* 2 PAHs は発がん性のある化学物質として、欧米を始め世界各国で規制されている。

答えた事業者もあった。

文 / 岸 葉子 Kishi Yoko

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国民生活 2019.2 23

 イギリスでは、思いがけない急な出費に限らず生活費の支払い等で残高不足になった際、定期預金口座の無い個人でも当座貸越(=借入れ)を利用する。 当座貸越には2種類あり、①借入金があらかじめ設定された限度額以内の場合は、金利なしまたは低金利で借りられるが、②限度額上限を超えて借入する場合、高い金利と利用料で返済額が非常に高額になることが多い。当座貸越は銀行・金融機関にとっては年間24億ポンド(2017年)もの高収益を上げるサービスで、その3割以上(約7億ポンド)は②の貸越によるものだ。問題は、この7億ポンドの約半分はわずか1.5%の利用者が支払っていることで(2016年)、貧困層の利用者の多くがこうした貸越を繰り返す危険な負債スパイラルに陥っている。 そこで、FCA(金融行為規制機構)はこのほど

当座貸越の料金徴収システムの根本的な改革と消費者保護の拡大をめざす規制案を発表した。内容は、◦固定利用料の廃止◦消費者が理解・比較しやすい年利の表示◦収支ひっ迫の兆候が見られる顧客を見分け借入を抑制するなどだ。 FCAでは既に金利の低い金融機関を探すためのデジタルツールの提供やATMで現金を引き出す際、残高不足の警告を画面に表示するなど、改革を導入している。 今回の提案は2019年3月まで公開後、一般から寄せられた意見などを検討し、6月に最終決定される見込み。2016年より度々この問題を追及し、各金融機関で異なる複雑な利率や利用料・手数料を調査・比較するなど消費者にアドバイスを行ってきたWhich?は今回のFCA案を歓迎、早急な実施を要望するとしている。

 KCA(韓国消費者院)はこのほど、消費者力調査の結果を発表した。金融や取引などの項目ごとに「消費者として適切・効果的に振る舞える総合能力」を調査し、指数化するものだ。今回は2010年、2014年に続き3回目の調査となる。 総合指数は前回より1.5ポイント上昇し、100ポイント中65.5ポイントとなった。金融に関する能力は全体で65.7ポイント、取引に関する能力は66ポイントとそれぞれ前回より2.7ポイント上昇した。細かくみると、取引における交渉力(70.1ポイント)や購買決定能力(66.9ポイント)が比較的高い一方で、情報を理解・活用する能力は低く(62.5ポイント)、消費者として自らの権利を主張する能力は前回より3.3ポイント下落して62.9ポイントであった。 年代別では、30歳代と40歳代が高く(68.4ポ

イント)、すべての分野で60歳代以上が最も低い(60.4ポイント)。特に取引に関しては58.5ポイントと平均を7.5ポイント下回っていた。さらに、20歳代の金融に関する能力(62.5ポイント)が60歳代以上の63.4ポイントをも下回ることから、早急な改善が望まれるとしている。また、月収150万ウォン以下の層の総合指数は最低の59.6ポイントだった。 サンプル数は少ないが、過去3年間にわたって消費者教育を受けたグループは、受けなかったグループより10ポイントも高い75.4ポイントであった。このことは消費者教育が消費者力向上に大きく貢献することを示している。KCAでは、今回の結果を基礎データとして、消費者政策に有効活用し、消費者啓発のためのセミナー開催により、関係各機関との連携や交流に努めたい、としている。

イギリス  当座貸越の高過ぎるコストに規制を● FCAホームページ https://www.fca.org.uk/news/press-releases/fca-announces-proposals-fundamentally-reform-way-banks-charge-overdrafts-and-extends-protections●Which? ホームページ https://press.which.co.uk/whichstatements/which-welcomes-strong-action-to-tackle-unarranged-overdraft-charges/

ほか

● KCAホームページ http://english.kca.go.kr/brd/m_11/view.do?seq=433&srchFr=&srchTo=&srchWord=&srchTp=&itm_seq_1=0&itm_seq_2=0&multi_itm_seq=0&company_cd=&company_nm=&page=1

ほか

韓国    消費者力は着実に向上

文 / 安藤 佳子 Ando Yoshiko

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国民生活 2019.2 24

「グループあんあん」(以下、当グループ)は奈良県消費生活センター(以下、センター)を窓口として、消費者被害防止のための啓発活動をしているボランティアグループです。本稿では、その結成から、現在の活動の内容と今後について紹介したいと思います。

グループ結成のきっかけ

社会情勢が複雑、多様化するなか、悪質商法は後を絶たず、その手口はますます巧妙化し、特に高齢者の消費者被害が増えています。行政の力だけでは、消費者情報を県民すべてに届けることには限界があります。そこで、奈良県(以下、県)では、2007年度に消費生活相談窓口と地域をつなぐパイプ役として「くらしの安全・安心サポーター」を誕生させました。その主な活動内容は、センターが発信する情報を身近な人や所属団体・グループ等に伝えることです。毎年「くらしの安全・安心サポーター講座」が開講され、受講者の多くがサポーター登録をしており、2019 年1月現在の登録者数は 118名です。第 1回サポーター講座終了後、「せっかく縁

あって、同じ講座を受講したのだから、このまま別れるのはもったいない。センターからの配布物をただ配るだけでなく、何か活動を始めよう」と、2008 年 1 月、サポーターの有志でグループを結成しました。「くらしの安全・安心」の「安」をとって「グループあんあん」と名付けました。結成当時、会員は 20数名いましたが、現在は 7名で活動しています。

寸劇やクイズを取り入れた出前講座

 主な活動はセンターの「出前講座」で、高齢者学級、婦人会、自治会の集まりなどに出向くことです(写真1)。

講座内容は、センターの紹介、最近の相談事例、対処法などですが、楽しく記憶に残る講座にするために、悪質商法・特殊詐欺等の手口を寸劇で紹介しています。取り上げる事例としては、最近高齢者に被害が広がっている点検商法や還付金詐欺、実体不明な投資商品に関する劇場型勧誘などです。 理解が難しいクーリング・オフ制度について

は「通信販売でソファを買ったけど大き過ぎる」「訪問してきた業者に耐震工事を依頼したけど家族が反対」などの設定でコント形式のクイズにし、クーリング・オフの可否を答えてもらいます。そして最後は、「点検しますと上がり込み……」から始まる「替え歌」を全員で歌って楽しく講座を終わります。歌詞はセンターから提供されたものですが、曲は童謡、演歌、時代劇のテーマソングなど数曲を用意しています。 寸劇で工夫していることは、パワーポイントの画面を利用していることです。受講者の多く

地域と連携した高齢者の消費者被害防止のための出前講座

消費者教育実践事例集

このコーナーでは、消費者教育の実践事例を紹介します。

第 59回

写真 1 出前講座のようす

垣田 博子 Kakita Hiroko 奈良県くらしの安全・安心サポーター グループあんあん会長

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国民生活 2019.2 25

は高齢者なので、劇の背景としてだけでなく、ポイントとなる言葉を画面に大きく表示しています。マイクを使っても聞き取りにくいと言われたことがあったため、劇中の大事なせりふを見られるようにしました(写真2)。さらに、パソコンから出てくるのは、画像だけでなく、電話やインターホンの音などの効果音、登場人物に合わせた登場曲などの音声もあります。

また、台本はオリジナルで、せりふは関西弁を取り入れています。臨場感があるため、受講者からは「ATM行ったらあかんよ!」(還付金詐欺)とか「ただほど怖いものはないで~」(点検商法)などと声がかかることもあります。出前講座にはパソコン、プロジェクター、ス

ピーカー、時にはスクリーンも持参で出かけます。その設定や片づけをしている時に受講者から「実は、こんなメールが来たけど大丈夫かな」「こんなパンフレット来たけど、詐欺やと思うから講座で使って」と声をかけられることがあります。役所の人でも偉い先生でもない私たちだから話しやすいのだと思います。

県内市町村との連携も

当グループは現在、県内の市町村のうち、奈良市、生駒市、王寺町と連携しています。この場合は、出前講座に出向く担当の相談員の話の中に当グループの寸劇を織り込み、一緒に1つの講座を作ります。相談員一人一人講座の進め

方が違いますから、事前打ち合わせをして、それに合わせて寸劇も変えます。台本を新しく書くこともあります。相談員と一緒に講座を作ると、私たちも最新の相談事例を知ることができ、勉強にもなります。 また、県内から消費者被害をなくそうと立ち上げられた「特定非営利活動法人なら消費者ねっと」という団体があります。県内の消費者団体、弁護士会、社会福祉士会、生協連、消費者などが会員で、当グループも団体会員になっています。その団体の総会や講演に啓発劇の依頼を受けることや、さらにはセンターと金融広報委員会が主催の講演会でも啓発劇を披露するなどにより、当グループの年間講座実績総数は表のとおりです。

これからもさまざまな地域で活動を

出前講座の受講者に「この間見せてもらった劇と同じ電話がかかってきてな、すぐに電話切ったよ」「家に訪問して来た人が、劇と同じこと言うてたんで、断ったわ」と言われたとき、寸劇をしてよかったと思いました。これからも、寸劇を取り入れた出前講座は続けていこうと思います。また、実際に出前講座に行ってみて、県内に

は、交通の便が悪い地域が多いことを知りました。高齢者は買い物に行くのも大変です。悪質業者は、このような地域をねらって訪問してくるようで「通帳と印鑑を業者に渡してしまった」という話も聞きました。こうした情報が届きにくい地域にもっと出向いていきたいと考えています。今連携している地域以外とも連携をとって、県内の消費者被害が少しでも減るように活動を続けていきたいと思っています。

消費者教育実践事例集

2016年度 2017年度 2018年度※

講座数(会場) 37 51 39受講者数(人) 1,488 2,316 2,388

※2018年度は4月から12月まで

写真 2 せりふを画面に表示

表 当グループの年間講座実績

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国民生活 2019.2 26

ファンドラップとはファンドラップ(Fund Wrap)とは、販売

金融機関が顧客に代わって顧客の口座に対して運用指図をする投資一任サービスの一種で、投資の対象が投資信託に限定されているものを言います。1970 年代にアメリカの証券会社によって開発されたサービスで、投資一任契約に基づいて開設される口座をラップ口座(Wrap Account)と呼んでいたことから、投資信託

(ファンド)に投資をするラップ口座という意味でファンドラップと呼ぶようになりました。わが国では、2004 年に証券会社が投資一任業の兼業ができるよう法改正* 1 が行われたことを契機に、大手証券会社がアメリカで展開されていたファンドラップを日本向けに開発したのが本格的な始まりです。

ファンドラップで運用される資産額は、2013年以降拡大しています* 2。背景に、金融庁が銀行や証券会社等の販売金融機関に対して、顧客の保有する投資信託を売却して別の投資信託を買うように勧めて手数料を稼ぐ“乗り換え営業”の是正を強く求めたことが少なからず影響しています。ファンドラップでは、販売手数料がない代わりに、販売金融機関は、顧客から投資一任を許された資産(運用資産)の時価評価額に一定比率を乗じた金額を投資顧問報酬として定期的に受け取ることができます。このため、販売金融機関には運用資産を増やす方向にインセンティブが働くと期待されています。

ファンドラップのしくみ ファンドラップは投資一任契約に基づいて組

成されています。現在の金融規制の下では、投資一任契約を顧客と締結できるのは、金融商品取引法上の資産運用業(投資一任業者)の登録を受けた事業者に限られます。このため、わが国で提供されているファンドラップには、①証券会社や信託銀行自らが投資一任業者となり、顧客と契約を締結してサービスを提供する形態(図1)と②販売金融機関(主に銀行)が顧客と投資一任業者(ラップ会社)との間の投資一任契約を代理して締結し、一部のサービスをラップ会社に代わって提供する形態(図2)があります。 ファンドラップでは、世界にある資産を大きく日本株式、日本債券、海外株式、海外債券、現金、国内不動産、海外不動産といった資産クラスに分け、これらの資産クラスに資金をどう

気になるこの用語 第 6回

最近よく耳にする「ラップ口座」や「ファンドラップ」。今月は「ファンドラップ」という用語を取り上げます。ファンドラップ

消費生活相談の周辺用語を取り上げ、やさしく解説します。

*1 有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(投資顧問業法)の改正。なお、同法は2007年に金融商品取引法に統合され廃止。* 2 2018 年 6月末現在、8兆 2747 億円、契約件数は 75万 8135 件((一社)日本投資顧問業協会調べ)。

※顧客の情報を代理金融機関と投資一任業者で共有することを認める同意書

前金融審査会委員、金融広報中央委員会・金融経済教育推進会議委員、国民生活センター紛争解決委員会特別委員などを務める。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会代表理事・副会長。

永沢 裕美子 Nagasawa Yumiko フォスター・フォーラム(良質な金融商品を育てる会)世話人

図 1 販売金融機関が投資一任業者の場合

図 2 販売金融機関が投資一任業者ではない場合

金融機関(投資一任業者)

投資信託口座

コンサルティング・サービス

投資信託口座開設ファンドラップ専用投資信託

投資一任契約運用指図

顧 客

金融機関(代理金融機関)

契約締結の代理

投資信託口座

コンサルティング・サービス

投資信託口座開設 ファンドラップ専用投資信託

運用指図

投資一任契約

情報共有同意書※

投資一任業者

顧 客

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国民生活 2019.2 27

配分していくかというアセットアロケーション(資産配分)という考え方で運用が行われます。ファンドラップのサービスは6つのステップで構成されるのが一般的です(図3)。まず、販売金融機関の担当者がヒアリングシートを用いてさまざまな質問を行い、顧客の資産運用の目的や期待する収益率、顧客が許容できるリスクの種類や程度(リスク許容度)、現金をいつ・いくら引き出すことを予定しているかなどの情報を収集します。こうして得られた情報に基づき、独自の投資モデルを使って理論上最適な資産配分比率を算出し、お勧めの運用コースを顧客に提案することになります。このコースに顧客が同意した後に投資一任契約の締結となり、運用が開始することになります。

実際の運用では、それぞれの資産クラスに幅広く分散投資を行っている投資信託を買い付けることになります。ファンドラップが登場した当初は、世の中にある数多くの投資信託を調査し優れたファンドを選び出して投資をするという方式が行われていましたが、最近では、専用に設定されたファンドに投資する方式が増えています。

運用が開始すると運用状況のモニタリングが開始します。市場環境が大きく変化し、顧客に最適な資産配分比率が変更になると、一部の投資信託を売って他を買い増して組み入れ比率の変更(リバランス)が行われます。  

顧客には3カ月に一度の頻度で運用経過報告レポートが届けられます。1 年に一度、顧客と

の面談等が行われ、顧客の状況を確認し、必要な場合は資産配分比率の変更が行われることになります。

ファンドラップでは、投資顧問料は運用成績に連動することになります。最近では成功報酬制を導入しているものもありますが、基本報酬が定められており、マイナスの運用成績であっても報酬がゼロになるわけではありません。

ファンドラップの特徴と利用上の留意点

ファンドラップの最低契約金額は数百万円程度のものが多いようですが、最近では 10 万円からというものも登場しています。ファンドラップのメリットは、最低契約金額が1億円程度からといわれる投資一任サービスを数百万円、場合によっては 10 万円単位からでも利用できるようにした点です。自分のリスク許容度に合致したポートフォリオを構築し分散投資を行うことができることから、長期の資産形成・運用に適したツールということができます。

一方、デメリットとして利用コストの高さが指摘されています。ファンドラップでは、ラップ会社に支払う「投資顧問料」に加えて、投資をしている投資信託からも「信託報酬」という費用が発生します。某銀行が提供しているファンドラップサービスでは、運用資産の時価評価額が 2000 万円以下の場合、投資顧問料は年率 1.35%、投資している投資信託から支払われる信託報酬は最大で年 1.3%と開示されており、投資をする投資信託の種類にもよりますが、最大で年率 2.65% の費用を毎年支払うことになります。運用成績がプラスになるためには、2.65% を上回るリターンを獲得する必要がありますが、今の金利・市場環境を考えるとかなり高いハードルです。

ファンドラップのセールストークとして「プロにお任せ」という文言をよく耳にしますが、過大な期待は禁物です。前述のようにコストが高いこともあり「運用成績が期待外れ」という不満も聞かれます。何よりも、元本保証ではないことをよく理解して契約に入ることが必要です。

気になるこの用語

見直しの検討

ヒアリング

提案

契約

投資一任運用

定期運用報告

図 3 ファンドラップのサービスの流れ

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個別信用購入あっせん(4)-事例検討-

国民生活 2019.2 28

今回は、個別クレジットに関する知識を踏まえて、相談事例を実際に処理する過程で割賦販売法(以下、割販法)をどのように活用するかを整理してみます。個別クレジットは、訪問販売等の特定商取引法(以下、特商法)適用 5類型で利用されることが多く、特商法と割販法の両方の規定を有効に活用することが求められます。もちろん、店舗販売でも利用されていますので、その場合も想定して検討してみましょう。【事例】「美顔マッサージ体験コース初回3,000円」という広告サイトを見てエステサロンに行ったところ、「検査をしたところ、あなたの肌は数年後にはシミだらけになることが分かった。今ならシミの元が消える専用クリームと美顔マッサージ20回コースを特別価格20万円で契約できる」と勧誘され、月1万円×24回払いの個別クレジットで契約した。3回目に行ったとき、「自宅でも家庭用美顔器と専用クリームを使わないと効果が出ない。美顔コースの会員には特別に30万円で販売できる」と言われ、1万円×36回払いの個別クレジットで契約した。しかし、本当に必要な施術なのか疑問なのでこれまでの契約も止めたい。家庭用美顔器は最初の2〜3回だけで、その後はほとんど使用していない。

 まずは売買契約の規律を検討支払先の個別クレジット会社に申入れをする

前提として、販売業者との売買契約や役務提供

契約の効力について、解除・取消し等の主張ができるかどうかの検討が先決です。販売業者との契約の効力に関しては、特商法

適用対象契約であれば、クーリング・オフ、過量販売解除、中途解約権などの適用を検討し、消費者契約一般について不実告知等の誤認取消しや不退去等の困惑取消しを検討し、民法に基づく債務不履行解除の検討も必要です。そのほかに、説明義務違反や適合性原則違反などの事情を指摘して解約交渉を行う視点もあります。【事例】は、美顔マッサージのコース契約が特定継続的役務提供に当たり(特商法41条、政令11条、別表第4)、美顔マッサージに使う専用クリームが関連商品の販売に当たります(政令14条、別表第5の1号ロ)。また、家庭用美顔器と家庭で使う専用クリームも、美顔施術と同じくシミを消して美顔目的を達成するために必要であると説明されて契約したものですから、関連商品の販売に当たります(同別表1号ロ、ニ)。 特定継続的役務提供と関連商品販売契約であれば、契約書面交付義務の適用対象ですから、交付された書面に法定記載事項がきちんと記載されているかどうか検討します(特商法42条2項)。事業者の中には、エステティック施術で使用する化粧品は関連商品に当たるが、家庭で自己使用する美顔器や自分で使うクリームは別の契約だと主張するケースがあります。しかし、自己使用であっても契約目的の達成に必要だという関連性があれば、関連商品に当たります。関連性を誤解している場合、特商法の契約

日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事、内閣府消費者委員会委員、経済産業省産業構造審議会割賦販売小委員会委員、特定適格消費者団体埼玉消費者被害をなくす会理事長、国民生活センター客員講師、明治大学法科大学院非常勤講師など。著書に『割賦販売法(クレサラ叢書 解説編)』(共著、勁草書房、2011 年)ほか。

池本 誠司 Ikemoto Seiji 弁護士

第 12 回消費生活相談員

のための割賦販売法

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国民生活 2019.2 29

書面記載事項を満たしていない可能性があります。書面記載事項に不備があれば、今からでもクーリング・オフを行使できる可能性があります(特商法48条)。「肌の検査をしたら数年後にはシミだらけに

なることが分かった」「シミの元が消える専用クリームと美顔マッサージ」という商品や役務の効果に関する説明が、事実なのかどうか調べることができれば不実告知に当たる可能性があります。信頼できる皮膚科の専門医などの助言が受けられるとよいでしょう。なお、個別事案の解決手段ではありませんが、

同種苦情が多発する事業者の場合、行政庁が効能効果の説明の裏付けに関する合理的根拠資料の提出を要求し、その提出がなければ不実告知と見なすという規定があります(特商法 44条の 2)。特定継続的役務提供と関連商品販売契約は、

中途解約権の行使という方法も可能です (特商法 49条 )。美顔コースについては、未提供役務部分を解除し、提供ずみ役務の対価と法定違約金(2万円または残金の 10%のいずれか低い額)の範囲を超える部分は支払い義務が消滅します (同条 2項 1号、政令 15条、別表第 4)。関連商品については、残存商品を返還するとともに、その商品の通常の使用料相当額か、販売価格から返還時価格を差し引いた価値減少額のいずれか高いほうが上限とされ、それを超える金額を販売業者は請求することができません(同条 6項)。クリームについては未開封商品部分は価値の減少がないと言えるでしょうが、家庭用美顔器はその使用状況などを踏まえて返還時の公正な評価額分を算定して価値減少相当額を支払うことになります。そのほかにも、不当勧誘行為の背景事情の調

査やトラブル防止の観点から、広告画面の記載内容に誤認を招く誇大広告がないか (特商法43 条 )、契約締結前の概要書面交付義務を尽くしているか(特商法 42条 1項)など、多角的に検討することが必要です。

 個別クレジット会社への主張以上の売買契約上の問題点を踏まえて、販売

業者に対して契約の解除・取消しの通知書を送付します。個別クレジット会社に対しては、販売業者に主張し得る解除・取消し・無効・損害賠償等の事由をもって抗弁接続の主張(割販法35条の3の 19)をすることが考えられますが、特商法 5類型の契約については個別クレジット契約の解除・取消しの可能性もあります(割販法 35条の3の10〜 16)。これに加えて、個別クレジット会社の販売業者に対する加盟店調査義務に基づく苦情への対処を要請することにより、紛争の円滑な解決をめざす視点も重要です。特定継続的役務提供など特商法 5類型の売

買契約や役務提供契約についてクーリング・オフができるときは、個別クレジット契約についてもクーリング・オフができる可能性があります。法定書面受領日から 8日または 20日以内の本来的なクーリング・オフ期間内であれば、売買契約と個別クレジット契約は当然に両方が解除できますが、書面記載不備によるクーリング・オフの場合は、売買契約書面だけの不備であれば、売買契約のクーリング・オフを理由に個別クレジット契約については抗弁主張するにとどまります。個別クレジット契約の書面記載不備があるかどうかを確認し、両方に記載不備があれば、売買契約と個別クレジット契約の両方がクーリング・オフできることとなります。逆に、売買契約書面には記載不備がないが個

別クレジット契約書面だけに記載不備があるケースもあります。例えば、販売業者との間では美顔施術+化粧品の契約内容が記載されているが、個別クレジット契約書面には商品売買の記載しかないケースなどです。この場合、個別クレジット契約は書面記載不備でクーリング・オフができるだけでなく、売買契約も同時に解除されたものと扱われます。この規定の趣旨は、現金一括払いの売買契約だけが存続することはかえって不合理なため、個別クレジットのクーリング・オフができるときは売買契約も

消費生活相談員のための割賦販売法

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国民生活 2019.2 30

連動して解除されるものとして扱い、後は販売業者と個別クレジット会社との内部で清算することを求めています(割販法 35条の3の 10第5項)。訪問販売等による売買契約や役務提供契約と

個別クレジット契約がクーリング・オフにより解除された場合、エステサロンに直接支払った頭金はエステサロンに対し返還を請求しますが、個別クレジット会社に支払った既払い金は個別クレジット会社に対し返還を請求できます(同条 9項)。

訪問販売等 5類型による売買契約や役務提供契約について不実告知取消しが適用されるときは、これに利用した個別クレジット契約も不実告知取消しができます(割販法 35条の 3の13〜 16)。美顔コースの効果や関連商品の効果に関する不実告知は、個別クレジットの内容に関する不実告知ではありませんが、売買契約または個別クレジット契約のいずれの不実告知であっても、個別クレジット契約の取消し事由となります。個別クレジット契約が取り消された場合、個別クレジット会社に支払った既払い金は個別クレジット会社に対し返還を請求できます (同法 35条の3の 15)。特定継続的役務提供と関連商品販売契約が中

途解約された場合、役務提供事業者に対して代金支払い義務が消滅する金額について、これを抗弁事由として個別クレジット会社に対し未払い金の支払い拒絶が主張できます。役務提供事業者に対する支払い義務が存続する金額に比べ、個別クレジット会社に対する既払い金額が少ない場合、役務提供事業者への支払い義務の範囲内で個別クレジット会社への支払いを継続し、その後の支払分を拒絶することとなります。これに対し、役務提供事業者への支払い義務の範囲を超えて個別クレジット会社への支払いが進んでいた場合、抗弁接続規定の効力としては支払い超過分を個別クレジット会社に返還請求することはできません。この場合、超過部分は役務提供事業者に対し返還を請求することとなります。

Q 特定継続的役務提供契約を中途解約して、個別クレジット契約の債務の一部が消滅する場合、個別クレジット契約の割賦手数料の取り扱いはどうするのですか? A 抗弁接続は、販売業者に主張できる抗弁事由をクレジット会社にも対抗して、抗弁事由の範囲内でクレジット契約の支払いを拒絶することができる権利です。中途解約により代金支払い義務の一部分が消滅した場合は、存続する代金額の範囲では個別クレジット契約の支払いを継続しなければなりません。その場合、分割払いの個別クレジット契約は支払期間に応じて割賦手数料が加算されており、これまでに支払った代金分および存続する代金分について分割払いの利益を受ける以上は、その期間内の割賦手数料の負担義務はあります。例えば、代金 20万円、2万円× 12 回払い

( 割賦手数料 4万円を含む ) の契約で、10 万円分を利用した時点で中途解約した場合、違約金1万円 (2万円または残金の10%の低い額 )を加算した 11万円分の支払い義務が存在します。仮に中途解約時点で個別クレジットの支払いが 5回(10万円)支払いずみであった場合、この個別クレジット会社に支払った 10万円は割賦手数料を含む 24万円のうちの 10万円であり、立て替え金 20万円の半額を支払ったわけではありません。そこで、支払月額に対する割賦手数料の額を考慮して、立替金を基準として 11万円相当になるような金額(割賦手数料を含むと 13万円強となります)を割賦払いする必要があります。実際の清算処理に当たっては、個別クレジッ

ト会社と役務提供事業者との間の加盟店契約に基づいて個別クレジット契約を全部キャンセルし、消費者と役務提供事業者との間で清算するよう求められるケースがあります。その場合も、加盟店契約上の個別クレジット契約のキャンセル手数料 (立て替え金全額を解除した場合の加盟店の負担額 )を役務提供事業者が消費者に対し全額請求することは、抗弁接続の権利を侵害することになり正当ではありません。

消費生活相談員のための割賦販売法

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国民生活 2019.2 31

 個別クレジット契約の紛争解決の 実務的処理消費者の主張する契約解除・取消し等の理由

を書面に記載して、販売業者と個別クレジット会社の両方に通知します。販売業者と個別クレジット会社に解除・取消

しの通知書を送付したからと言って、自動的に売買契約や個別クレジット契約の効力が消滅するわけではなく、解除・取消しの主張を販売業者が受け入れて売買契約と個別クレジット契約の解約処理を自主的に対応するよう交渉することが、早期解決のうえで肝要です。解除・取消し事由が成り立つかどうかの交渉

期間中、とりあえずクレジットの引き落としを停止してもらうよう個別クレジット会社に申し入れます。日本クレジット協会の「個別信用購入あっせんに係

かかる自主規制規則」第 62条は、

消費者から抗弁の申し出があった場合、直ちに消費者と加盟店に対する状況調査を行うものとし ( 同条 2項 )、明らかに抗弁事由に該当しないと判断した場合を除き、第 2項の調査結果について消費者に伝えるまでの間は消費者に対する支払い請求は行わないこととする ( 同条 3項 )、と規定しています。クーリング・オフや中途解約権のように、外

形的な事実から解除・取消しの成立が明らかな場合は、販売業者も個別クレジット会社も速やかに解約処理を進めてくれるでしょう。しかし、不実告知のように消費者側の主張と販売業者側の主張が対立するようなケースでは、個別クレジット会社としても判断が付きかねるため、販売業者との交渉によって解約処理に応じるかどうかがカギになります。だからと言って、個別クレジット会社が「消費者と販売業者間で解約の話し合いができたら連絡してください」という姿勢で、紛争解決に関与しない態度は適切ではありません。個別クレジット会社は、訪問販売等に利用する場合は適正与信義務(割販法35条の 3の 5)による、店舗取引の場合は苦情の適切処理義務(同法 35条の 3の 20)に

よる加盟店調査義務があります。不実告知等の取消し事由に当たる苦情の場合は、1件の苦情申し出であっても、個別クレジット会社が加盟店調査を行い不適正な契約であれば販売業者の対応を促す義務があります(同法 35条の 3の5、省令 77 条 1 項 2号)。したがって、消費者から販売業者に対する解除・取消しの主張に対し販売業者がきちんと対応しない場合は、個別クレジット会社に連絡して加盟店の販売方法の調査を行い適切な対処を指導するよう要請することが効果的です。販売業者が話し合いに応じて解約処理の対応

をすれば、個別クレジット契約もキャンセル処理となりますが、販売業者がどうしても話し合いに応じない場合や倒産して話し合いができない場合もあります。個別クレジット会社の中には、「販売業者が解約処理をしなければ、未払い金の支払い拒絶を超えて既払い金返還には応じられない」と主張するケースがあります。しかし、これも正しくありません。販売業者との間の売買契約や役務提供契約にクーリング・オフや取消し事由があるときは、個別クレジット契約も解除・取消しができ、消費者は個別クレジット会社に対し既払い金返還請求ができます(割販法35条の3の13第4項)。個別クレジット契約の締結に伴って個別クレジット会社から販売業者に交付した立て替え金は、販売業者から個別クレジット会社に返還する義務を負いますが(同条 3項)、立て替え金が返還されないからといって、個別クレジット会社の消費者に対する既払い金返還義務は免れません。立て替え金が返還されないことの損失は、加盟店の調査・管理をする立場にある個別クレジット会社が負担することとなります。販売業者が問題解決に対応せず、個別クレ

ジット会社も結論が出せないケースも生じます。その場合は、消費者の側から支払義務不存在確認訴訟を提起する方法もありますが、少なくとも抗弁事由の存在を裏づける資料を保存してようすを見ることが必要です。

消費生活相談員のための割賦販売法

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国民生活 2019.2 32

相談内容

光回線の契約先事業者(以下、A社)から、契約期間の自動更新に関するハガキが届いた。解約料が発生しない期間(以下、解約月)が 1カ月あったので、解約月中に別の事業者(以下、B社)へ乗り換えることにした。B社から解約月の月末に工事日を指定されたので、解約月の月初めにA社に「月末で解約する」と伝えたところ、「工事が終了したら再度連絡するように」と言われた。月末の工事終了後に改めてA社に連絡すると、「解約手続きに 6営業日は必要で翌月にまたいでしまうため、解約料が発生する」と言われた。納得できない。

(40歳代 女性 家事従事者)

結果概要

相談を受け付けた消費生活センター(以下、受付センター)では、相談者から経緯の詳細を聴き取ってA社に確認したところ、「解約手続きには6営業日かかる。解約料は請求しないが、解約手続き完了までの日割りの基本料金が発生する」との回答であった。受付センターからA社へ解約手続きに 6営業日が必要な理由を尋

ねたが、明確な回答はなかった。受付センターから前記の情報を得た国民生活

センター(以下、当センター)は、相談者および受付センターとA社とのやり取りを整理したところ、以下の内容が分かった。①相談者が受け取った更新ハガキには、解約料の不要期間(○月1日〜〇月31日の1カ月間)の日付の記載はあるが、解約まで6営業日が必要との記載はなかった。その一方で、A社のホームページに記載されている利用規約等には、消費者がA社に解約連絡をした日の翌営業日を1日目として6営業日から90日後の間で消費者が希望する日が解約日になる旨の記載があった。②相談者の固定電話は光回線を利用して音声通話を行う光電話(IP電話)の契約になっていた。③相談者は、B社への乗り換え時に固定電話の電話番号をA社から移行する手続き(番号ポータビリティ)を利用できる状態であった(加入電話[アナログ電話]で発番されていた電話番号に限られるため、移行できない場合もある)。B社への番号ポータビリティにはアナログ電話への変更工事を経由する必要があり、B

国民生活センター 相談情報部

解約料不要期間内に解約を申し出たが翌月の解約扱いになり、解約料を請求された光回線

光回線の解約料が発生しない月内に契約先事業者に解約を申し出たのに、手続きが翌月にまたいでしまい、解約料を請求された事例を紹介する。

苦 情 相 談

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国民生活 2019.2 33

社が月末の工事日を指定した。④月末の工事終了後に相談者がA社に解約を申し出た際に、A社からは「固定電話の番号が消えないようにするために、翌月に再度A社に連絡するように」と言われていた。当センターからA社に対して本件への対応

の検討を依頼したところ、下記の回答があった。❶相談者の固定電話は光電話のため、アナログ電話への変更工事が終わらないうちにA社で解約手続きをしてしまうと、電話番号が廃止されてしまって使えなくなってしまう。相談者が事前に解約の申し出をしても、実際の解約手続きはアナログ回線への変更工事が終了してからでないと始められない状態であった。❷B社が工事日を月末に指定したため、A社の解約手続きが翌月にまたいでしまった。解約処理は1営業日だけでは完了せず、6営業日は必要になる。❸一方で、更新ハガキの文面は相談者の誤解を招く記載だったため、解約料は請求せず、解約手続き完了までの基本料金の日割り分と、光回線の工事費分割払いの残債を支払ってほしい。相談者にA社の回答内容を伝えたところ、A

社の提案に合意した。また、A社から当センターへ、「相談者と同様の相談が複数寄せられていることから、解約希望日の 2週間前を目安にA社に連絡してほしいとの記載を更新ハガキに追加した」との報告があり、相談を終了した。

問題点

本件は、光回線の解約に伴って発生した固定電話の番号ポータビリティに関する手続きに時間がかかり、光回線の解約料無料期間内に解約手続きが完了できず、解約料を請求されてし

まったものである。主な携帯電話会社では、携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)は即日で手続きが完了することが多いため、固定電話の番号ポータビリティの場合でも即日で手続きが完了するとの認識を持つ消費者も多いのではないかと思われる。また、現在、番号ポータビリティが利用できる電話番号はアナログ電話で発番された番号に限られているため、そもそも番号を移行できない場合もある。すべての電話番号で番号ポータビリティを導入すべく、総務省の検討会において議論されている*が、導入後も本件と同様に、事業者の乗り換え等の際に消費者が想定している以上の時間がかかり、トラブルになる可能性がある。電気通信事業法の消費者保護ルールに関する

ガイドラインでは、契約の更新通知には特段の事情がない限り解約料が発生しない具体的な期間を記載する必要があるが、解約を申し出た日から解約手続き完了までにかかる日数等の記載までは求められていない。その一方で、こうした記載がなければ、解約の申し出から手続き完了までに時間がかかり、解約料が発生しない期間を越える場合があるとの認識にはならないと思われるため、解約時のトラブル防止の観点から、更新通知の中で、解約の申し出から手続き完了までの目安期間等も記載されることが望ましいと考えられる。また、光回線等の解約や申し込みに際しては、

回線設備等の撤去や、新規敷設のための工事が発生する場合があるが、工事が混み合っていて自分が想定した日程よりも遅くなってしまう場合もあるため、解約等を決めたら早めに事業者へ申し出をしておくことも重要である。

* 総務省「情報通信審議会 電気通信事業政策部会 電話網移行円滑化委員会(第 31 回)」http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denwa/02kiban02_04000307.html

(参考)国民生活センター「光回線サービスの卸売に関する勧誘トラブルにご注意!第2弾―安くなると言われても、すぐに契約しないようにしましょう―」(2018 年 7 月 26 日公表) http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20180726_1.html

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国民生活 2019.2 34

A 相談者が期日に返済することができなかった場合、お金を借りた際に作成した念書は、訴訟等における証拠にな

りますが、公正証書を作成した場合* 1とは異なり、当該念書に基づき直ちに不動産や預貯金口座に対して強制執行を行うことはできません。他人からお金を借りることは、民法 ( 以下、

法 ) 上、消費貸借契約といい、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」とされています (法 587条 )。同条では書面の作成が義務づけられていない

ため、書面を作成しなくても契約は成立します。友人・知人間、親子間でお金の貸し借りを行う場合や、少額の貸し借りを行う場合には、何も書面を作成しないことは珍しくないでしょう。他方、金融機関から融資を受ける場合や、高額の貸し借りを行う場合には、金銭消費貸借契約書、借用書、念書といった書面を作成する場合が多いと考えられます。上記のような書面を作成するメリットは、当

事者間の意思を明確にして、後々のトラブルを避ける点にあります。書面に契約日、金額、返済期日、利息・利子などの条件を明記することで、例えば、借りたのか、それとももらった (贈

与 ) のか、いつまでに返済すべきかなどに関するトラブルを避けることができます。本件でも、念書の記載内容次第ではありますが、基本的には相談者が友人からお金を借りた事実を否定することは難しいでしょう。相談者がお金を借りた事実や条件を争わず、

誠心誠意対応していれば、友人は返済を猶予してくれるかもしれません。他方、友人が返済を猶予しない場合に、相談者の財産、例えば不動産を差し押さえて強制的に返済してもらおうと考えたときは、訴訟を提起して勝訴判決をもらい、その後、強制執行を行うことになります。お金を借りた際に作成した念書の記載内容、そして相談者が念書に自ら署名・押印した事実は、訴訟上有力な証拠になります。また、友人としては、支払督促手続き* 2 を利用することも考えられます。いずれにせよ、念書に基づき直ちに強制執行を行うことはできない点に注意が必要です。なお、借主が約束を守らない場合に直ちに強

制執行するには、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている公正証書を作成しておくことが必要です。この公正証書の詳細は、日本公証人連合会のウェブサイト* 1 をご参照ください。

* 1 日本公証人連合会 http://www.koshonin.gr.jp/business/b03/* 2 裁判所「支払督促」 http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_04_02_13/

お金を借りるときに書いた念書の効力は?

友人にお金を借り、1年後の期日までに返済するという念書を書き、署名・押印しました。期日に返済できなかったときはどのような効力を持つのでしょうか?

Q暮らし &法律 Q A

第一東京弁護士会所属。企業法務を中心に、一般民事事件、家事事件などを広く手がける。協力:萩谷 雅和(萩谷法律事務所)

菅原 修 Sugawara Shu 弁護士

第 81 回

相談者の気持ち

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国民生活 2019.2 35

  事案の概要

 Xは、2015年4月頃から、連日のようにX宛てに届いた迷惑メールの本文のリンクを経由して出会い系サイト(以下、本件サイト)を利用するようになった。その後、毎日のように本件サイト運営者から「〇〇様からメッセージが届いている」という内容のメールが届くようになった。Xは、本件サイトでメールのやりとりをするために、最初は既にアカウントに入っていたポイントを利用していたが、他の登録会員から次のような要請を受けてポイントを購入するようになった。     すなわち、4月8日、Aなる名称の会員から、「私が譲渡したポイントを1回の手続きで換金を行って個人情報も受け取ってもらえませんか?」などのメッセージを受け、本件サイト

運営者からも同内容のメッセージを受けた。Xは、同ポイント等を受け取りたいという旨の返信をし、その後、ポイントを換金するための手続きのためにYらの口座に振り込みをした。また、同日にBなる名称の会員からも、8500万円を無償で贈与したいなどとするメッセージを受け取り、会いたいと返信すると、Bから「待ち合わせ場所が文字化けしており、文字化けを解除するために本件サイトのポイントを購入して一定の合言葉を本件サイトに送信する必要がある」旨のメッセージを受けた。またCなる名称の会員からも文字化け解除の手続きを要求するメッセージを受け、その後Yらの口座に指定された金額を送金するなどした。なお、Y1の口座については、2015年5月13日に振込先が変更されている(それぞれ「旧Y1口座」「新Y1口座」とする)。

暮らしの判例

サクラサイトに加担した収納代行業者の不法行為責任を認めた事例 本件は、出会い系サイトを利用したいわゆるサクラサイト* 1 商法の被害にあった消費者が、収納代行業者 2 社とその代表取締役に対して、共同不法行為による損害賠償請求をした事例である。 裁判所は「収納代行業者とその代表取締役は、自らの行為が振り込め詐欺における『出し子』に当たることを十分に認識しており、サイト運営者と一体となって詐欺行為を行っていたものと認められる」と判断して、収納代行業者らに損害賠償を命じた。 サクラサイトの事例で収納代行業者の責任を認めた点において、参考になる判決である。 ( 東京地裁平成 29 年 5 月 10 日判決、LEX/DB 掲載 )

消費者問題にかかわる判例を分かりやすく解説します

原告:X(消費者)被告:Y1(収納代行業者)、Y2(Y1 の代表取

締役)、Y3(収納代行業者)、Y4(Y3の代表取締役)

関係者:A、B、C(サクラ)、D(本件サイト運営者の担当者)

国民生活センター 相談情報部

* 1 サイト業者に雇われた“サクラ”が異性、タレント、社長、弁護士、占い師などのキャラクターになりすまして、消費者のさまざまな気持ちを利用し、サイトに誘導し、メール交換等の有料サービスを利用させ、その度に支払いを続けさせるサイト。

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 Xは、前記のように本件サイト運営者に言われるまま、本件サイト運営者から指定されたYらの口座に、さまざまな名目で繰り返し振り込みを行った。その内訳はY1口座につき合計1549万円(旧Y1口座290万円、新Y1口座1259万円)、Y3口座につき合計232万円である。Xと本件サイト運営者とのやりとりやA、B、Cなるものの実態が不明であることから明らかなように、本件サイトは、本件サイト運営者に雇われたいわゆるサクラが、Xのさまざまな気持ちを利用し、本件サイトに誘導し、メール交換等の有料サービスを利用させ、そのつどに支払いをさせるようなサクラサイトである。 Y1およびY3は、収納代行業者であり、Y2およびY4はそれぞれの会社の代表取締役であり、両社とも他に従業員はいない。Y1およびY3は、2015年4月、セーシェル共和国に所在すると称する、本件サイト運営者のDと名乗る者から「御社サービスをお申込したくご連絡致しました」との日本語のメールを受け取り、その後もすべて日本語でのメールでやり取りし、また、Y2は電話でDと日本語でのやり取りをし、本件サイトが出会い系サイトであること、口座が止められる可能性があることを知ったが、Dの本人確認書類を要求することも、サイト運営会社の会社情報の照会をすることもないまま収納代行業務を行う契約をした。その際、Dが知らせてきた電話番号は無関係な第三者のものであることが後日判明した。 Y1は、当初は、事務所近くのATMから1日2回現金を引き出し紙袋に入れた状態で本件サイト運営者の指示した人物に駅近くの屋外喫煙所か喫茶店で引き渡していた。上記口座が凍結された後に、Y1は直ちに新しい口座を提供し、1日数回、多いときは1日に6回の不自然な引き出し行為を行い、引き出す度に上記と同様に現金を手渡ししていた。Y3についても、相手方の確認もしないままに口座を提供し、口座に振り込まれた金員を頻繁に現金で出金し、

本件サイト運営者に直接手渡していた。 以上の状況の下で、Xは、収納代行業者Y1およびY3と各社の唯一の業務従事者であり代表取締役であるY2およびY4に対して、被害金額全額について共同不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴した。

  理由

●Yらの共同不法行為責任の成否 本件サイトはいわゆるサクラサイトであり、本件サイト運営者は、自らまたはサクラであるAらを使って、Xに対して資金供与を受けられる旨の虚偽のメッセージを送信し、これを閲覧したXをしてその旨誤信させ、ポイント購入を名目に多額の金員を支払わせたいわゆるサクラサイト商法により、Xに対する詐欺を行っていたものである。また、Y1およびY2は、自らの行為が、振り込め詐欺における「出し子」に当たることについては、十分認識しており、本件サイト運営者と共謀して詐欺行為を行っていたものというべきである。さらに、Y3およびY4も、本件サイト運営者と一体となって詐欺行為を行っていたものである。●全損害についての共同不法行為責任について(関連共同性*2についての判断) Y1およびY3は、出会い系サイトを使った本件詐欺商法において、本件サイト運営者らに自ら開設した口座を利用させ、Xからの騙

へん取しゅ金きんを

受け取る役割を果たした者らであり、本件詐欺商法に必要不可欠な道具として自らの預金口座を詐欺行為に利用させることによって、またY2およびY4は、自らXから騙取した被害金を口座から引き出し、本件サイト業者に届けるなどして、本件全体に加担していたとして、Xの全損害について、実行行為者である本件サイト運営者らとの共同不法行為に当たるとXは主張する。しかし、Y1およびY2との本件サイト運営者との共謀、Y3およびY4ならびにサイト運営者との共謀は認められるものの、Y1および

暮らしの判例

* 2 それぞれの行為が客観的にみて共同で加害行為を行ったと認められること。

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Y2ならびにY3およびY4との共謀を認めるに足りる証拠は存在しない。そして、Xの本件の一連の詐欺被害に関して、Xの各振り込みについて個々に見れば、各振り込みごとに完結しているといえるから、各Yらが責任を負う範囲は、Y1およびY2については新旧Y1口座が用いられた範囲内で、Y3およびY4については、Y3口座が用いられた振り込みの範囲内で、それぞれ本件サイト運営者の行為と関連共同性を有するにとどまり、本件犯行全体について共同不法行為が成立するものと認めることはできない。

  解説

いわゆるサクラサイト商法による被害が多発しているが、サクラサイト商法では、サイト運営者を特定することが困難なことが多く、被害者である消費者が支払ってしまった金銭をサイト運営者から取り戻すことは困難なことが多い。本件は、典型的なサクラサイト商法について、サイト運営者に対して振込用の口座を提供していた「収納代行業者」とその代表取締役について、詐欺行為の「出し子」に当たることを十分認識していたのであり(業者らは否定したが、裁判所は事件当時の社会事情、業者の行為態様などから業者の言い分を不自然として認めなかった)、サイト運営者との間に共謀があったもので一体として詐欺行為を行っていたものと認定し、共同不法行為責任を認めた事例である。本件は、第一に、サクラを利用した出会い系

サイトについて、サクラサイト商法であり不法行為に該当すると判断した点が、類似の消費生活相談の参考になる。第二に、サイト運営者に口座を提供した「収納代行業者」およびその代表取締役について、サイト業者と一体として詐欺行為を行っていたとして共同不法行為責任を認めた点が参考になる 。なお 、原告代理人は、2社の「収納代行業者」には、全損害について共同不法行為を構成すると主張したが、判決では、「収納代行業者」2社との間の共謀は証拠

上認められないとして、各振り込みごとに、該当する振り込みに口座を提供した部分について関連共同性を認めて共同不法行為責任を認めた。本件判決が不法行為についての共謀があった

と認定した事情としては、収納代行の契約の際に本人確認や会社の照会手続きなどをしていないこと、出会い系サイト業者であることおよび口座が凍結される可能性を知りつつ契約していること (Y1)、口座が凍結されると直ちに新しい口座を提供していること (Y1)、1 日に複数回振込金を引き出し、紙袋に入れて直接手渡すといった不自然な引き渡し方法をとっていること、などの特殊な事情があったことが指摘できる。詐欺行為に対して詐欺行為に使用する道具を

提供した者について不法行為責任を認めた事例には、下記の判決などがある。買え買え詐欺などに私書箱サービス(参考判例②)、銀行口座(参考判例③)、電話転送サービス(参考判例④)などを提供していた者について、契約締結時の本人確認を怠るなどの過失による不法行為を構成するとして損害賠償を命じた事例である。本件ではサイト運営者との共謀があったものでサイト運営者と一体となって詐欺行為を行ったと認めた点に特徴がある。

  参考判例

①大阪高裁平成29年4月20日判決(裁判所ウェブサイト 安愚楽牧場事件(関連共同性に関する事例))

②東京地裁平成26年12月10日判決(『消費者法ニュース』103号283ページ)

③東京地裁平成27年3月4日判決(ウエストロー・ジャパン)

④さいたま地裁平成27年5月12日判決(『消費者法ニュース』104号370ページ)、ウェブ版「国民生活」2017年1月号「暮らしの判例」http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201701_14.pdf

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法改正で実現されなかった不当条項規制

連載第9回から前回まで、不当条項規制にかかわる条文についてその改正を踏まえながら検討してきました。実は、内閣府消費者委員会の消費者契約法専門調査会(以下、専門調査会)では、不当条項規制に関連して、さらに多くの論点が検討されましたが、実現しませんでした。例えば、消費者契約法(以下、法)8条に関

しては、連載第9回で現行法の問題点として指摘しましたが「事業者の軽過失による人身損害の賠償責任の一部を免除する条項の無効」に関する規定の新設が検討されました。また、法9条1号に関しては「早期完済条項」(債務者が予定されている期限よりも前〔早期〕に債務を完済〔弁済〕した場合に、当該期限までの利息の支払い、または損害賠償〔違約金を含む〕の支払いを義務づける条項)を念頭に、「消費者契約の解除に伴う」という要件を削除して期限前の弁済(民法136条2項・新591条3項参照)を含めた損害賠償額の予定・違約金条項一般への適用範囲を拡大し、または、期限前の弁済の特則を新設すること等が議論されました。また、法 10条に関しても、当該条項が平易・明確でないことを後段要件該当性の重要な要素として明記することが検討されました(こちらは、連載第1回・第3回で述べた「条項使用者不利の原則」〔法3条1項1号〕の立法化をめぐる議

論に影響を与えました)。さらに、前記の事業者の軽過失による賠償責

任の一部免除条項を含めて、不当条項の類型を追加することも検討されましたが、実際にはその一部が実現されるにとどまりました。以下では、この「追加されなかった不当条項規制」について、その必要性の有無を中心に検討することにします。

解除(解約)権に関する条項連載第 11回・第 12回でも紹介したように、

2016年の法改正では、債務不履行等の規定に基づく解除権をあらかじめ放棄させる条項を無効とする規定(法8条の2)が新設されました。ところが、任意解除(解約)権(消費者が自らの意思で任意に解除〔解約〕する権利)を放棄させる条項については、不当性が同程度に高いとまではいえないとして法規制の対象からは外されました。しかし、解除・解約をさせずに消費者を契約

関係に拘束し続けることが適切ではない場合もあるでしょう。専門調査会の議論で例示された、葬儀サービス契約において、遠方に引っ越しても県外に移転しなければ解約できない旨の条項等は、その典型例といえます。また、同じ回で紹介したように、2018年の

法改正では、消費者の後見・保佐・補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項を無効とする規定(法8条

不当条項規制(10 条)(3)博士(法学)。専門は民法・消費者法。消費者庁「消費者契約法の運用状況に関する検討会」委員等を歴任。宮下 修一 Miyashita Shuichi 中央大学法科大学院教授

誌上法学講座 新時代の消費者契約法を学ぶ

第 17 回

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国民生活 2019.2 39

の3)が新設されました。もっとも、その他、事業者に一方的な解除(解約)権を付与する条項については、いわゆる「暴力団排除条項」(暴排条項/顧客が暴力団等の反社会的勢力である場合に契約を解除できる旨の条項)の必要性を踏まえて規制を設けるべきではないとする意見が強く主張され、立法化されませんでした。しかし、専門調査会で例示された、家賃を7

日以上滞納すれば無催告で賃貸借契約を解除できる条項は、信頼関係が破壊されているといえない限り直ちには契約解除が認められないという民法上の一般的な取扱いに反しており、不当性が極めて高いものであるといえます。このような条項は、直ちに不当であるとまで

はいえないまでも、現行法でも法 10条に該当する可能性が高いといえます。そうであるとすれば、無効となる可能性があることを分かりやすく明示することが必要だと思われます。

消費者の不作為・作為を意思表示と擬制する条項連載第 15回で紹介したように、2016 年の

法改正では、消費者の不作為(何も行為をしないこと)をもって当該消費者が新たな契約の申込みまたは承諾の意思表示をしたものとみなす条項が、法 10条前段に該当する条項として例示されました。これは、当該条項は直ちに無効となるほどの不当性はなくても、場合によっては不当性を帯びることがあるということを分かりやすく明示した点で、大きな意味があります。もっとも、不作為に限らず、作為(何らかの行

為をすること)を条件として、消費者がまったく意図していなかった契約条件に拘束されるという条項も不当性を帯びる場合があります。専門調査会で例示された、メディアの包装を開封した場合にソフトウェアの使用条件を承諾したものとみなす旨の条項は、その典型例です。これも直ちに不当であるとはいえなくても、不作為と同様に、場合によっては不当性を帯びて無効となる可能性があることを明示すべきです。

決定権限・解釈権限付与条項連載第 11回で紹介したように、2018 年の

法改正では、事業者の債務不履行または不法行為に基づく損害賠償責任の有無の決定権限を事業者に付与する条項を無効とする規定(法8条を修正)、さらに、事業者の債務不履行を理由とする消費者の解除権の有無の決定権限を事業者に付与する条項を無効とする規定(法8条の2を修正)が設けられました。もっとも、同じ回で指摘したように、「決定

権限付与条項」(契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性や内容の決定権限を事業者に付与する条項)が問題となる場面は、これだけに限られるわけではありません。専門調査会で例示された、映像配信サービスにおいて、配信会社が顧客の帰責事由により利用機器が正常に作動しないと判断した場合にはすべての費用を顧客が負担する旨の条項のように、事業者ではなく消費者の帰責事由の有無を一方的に事業者が決定する条項等も、不当性を帯びる場合が少なくないでしょう。そこで「決定権限付与条項」を法 10条の前段要件の例示として定めることも検討されましたが、そのような条項には一定の必要性があるとの反論もあって立法化は実現しませんでした。同様の問題は、消費者契約の文言を解釈する

権限を事業者のみに与える「解釈権限付与条項」にも生じます。例えば、事業者が特に基準も示さずに一方的に解釈でき、それに消費者が必ず従う旨の条項は、不当性が極めて高いといえるでしょう。また、一応の基準を示していたとしても、それが曖

あい昧まいである場合にはやはり不当性

が強い場合が多いと思われます。これも専門調査会の議論で例示されたものですが、規約の解釈に疑義が生じた場合には、事業者は信義誠実の原則(信義則/民法1条2項参照)に基づいて決定するように努め、顧客はその決定に従う旨の条項等は、その例といえるでしょう。以上で検討した結果を踏まえると、前記2つ

誌上法学講座

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の条項については、場合によっては無効となる旨を明示する必要性が高いように思われます。

サルベージ条項「サルベージ条項」とは、本来であれば全部

無効となるべき条項について、その効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の条項です。これも専門調査会の議論で例示されたものですが、事業者は、顧客に対して、広告・宣伝物、情報提供等につき、法律で許容される範囲において一切責任を負わない旨の条項等が、これに当たります。これらの条項は一見問題ないようにみえますが、それを認めると、「強行法規によって無効とされない範囲で」という消費者には分かりにくい抽象的な限定を加えるだけで全部無効となることを回避し、また、事業者が消費者に対してどこが無効であるかを示すように迫ったり、それを示さない消費者に本来は無効である条項を押しつけたりするおそれがあると指摘されています。しかし、サルベージ条項は、法改正等に逐一

対応することは事業者に不可能を強いるものである等の指摘を受けて、立法化は見送られました。ただし、2017年に公表された専門調査会の報告書(以下、2017年報告書)では、消費者にとって明確・容易な条項となるようサルベージ条項を使用せずに具体的に条項を作成するよう努めるべきことを法3条1項の『逐条解説』*に付記することが提案されています。また、サルベージ条項については、例えば、

法令により無効とすべき条項について、無効となる範囲を限定する趣旨の文言をなかったものとみなす旨の規定を設けることも検討されていました。本来は全部無効であるのにあたかも有効な部分が残存するかのような誤解を消費者に与えることは避けるべきであり、このような立法の方向性を追及すべきでしょう。

軽過失による人身損害の一部免責条項

冒頭で述べたように、「事業者の軽過失による人身損害の賠償責任の一部を免除する条項の無効」に関する規定については、スポーツ観戦のように危険がある程度想定されるもの等に関してその必要性を説く意見があり、立法されませんでした。しかし、本来、生命や身体は人間にとって最

も重要な人権であり、それが侵された場合に一部であっても一方的に免責されるという規定の存在は許されるべきではありません。また、前記の指摘にある危険性等については、債務不履行における帰責事由または不法行為における過失の判断の中でも考慮することが可能であり、逆に、一部とはいえ、そうした考慮を避けるかたちで免責を認めることは、実質的な判断をできないようにする原因ともなります。そう考えるならば、やはり、人身損害の賠償

責任の一部免除条項は不当性が高く無効となる旨の規定を設けるべきです。ただ、次善の策としては、前記の実質的判断を先取りして免責の正当性が認められる場合を除き無効となることを明記することが望ましいといえるでしょう。

「リスト」化の必要性と当面の方向性連載第 15回で言及したように、法8条・8

条の2・8条の3・9条はいわゆる「ブラックリスト」、法 10条は「グレーリスト」にかかわる条文ですが、2016年と 2018年の2回の改正を経ても、いずれもその対象が若干増えるにとどまっています。しかし、これまで検討してきたように(さらに、検討していないものも含めて)、それぞれ追加されるべき条項は複数存在します。とりわけ、場合によっては無効になることがある旨を定める法 10条に該当する条項は、相当数存在します。その意味では、法

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* 消費者庁「逐条解説 消費者契約法」 http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/

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10 条に例示される条項が、改正を経ても1つにとどまるというのは極めて残念なことです。もっとも、法 10条を離れて、原則として無

効と推定されるものの場合によっては有効となるという本来の意味でのグレーリストに掲げられるべき条項も複数存在します。また、そもそも一般条項である法 10条に例示というかたちで明文化するのは、条項の明確化の要請からすると不適切であり、本来、無効であると推定されるものについてはグレーリストとして独立して規定すべきであるという強い批判も寄せられています。筆者も、もちろんそれが望ましいと考えています。ただ、従来の議論状況を考えると、実現にはやや高いハードルがあるようにも感じられます。そこで差し当たり、法 10条に該当する条項の例示を増加させるという方法も、1つの選択肢であるように思われます。

定型約款の規定の新設と事前開示の必要性2017 年に改正された民法では、定型約款に

関する規定(新 548条の2~ 548条の4)が新設されました。「定型約款」とは、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行い、その内容が画一的であることが双方にとって合理的な「定型取引」において用いられる条項の全体を指すものです。この定義からすると、不特定多数を相手方として行われる消費者取引は、そのほとんどが前記各条文の適用対象となると思われます。具体的には、新 548 条の2第1項2号では、定型約款を準備した者(定型約款準備者)があらかじめ定型約款を契約の内容とする旨(内容そのものではないことに注意!)を相手方に表示していたときには、両者は、その約款の個別条項に合意したものとみなされます。また、新 548 条の3では、定型約款準備者は、相手方から請求があった場合には遅滞なく相当の方法で定型約款の内容を示す必要があり、仮にこれを拒めば新 548 条の2は適用されない、すなわち、個別条項について合意はな

かったものとみなされます。しかし、事業者と消費者との間に大きな格差

がある消費者契約では、消費者にとって一方的に不利な条項が設けられているケースも多いでしょうし(新 548 条の2第2項では、信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項については、個別条項についての合意がなかったとみなされますが、それを消費者が立証するのは大変です)、そもそも消費者が自ら開示請求することもあまり期待できないでしょう。そこで、専門調査会では、消費者契約につい

ては消費者が事前に契約条項を認識できるように事業者に約款の事前開示に努める義務(努力義務)を課す特則を法に設けるべきであるという見解も強く主張されたのですが、意見がまとまらず立法化は見送られました。しかし、実際に不当条項をめぐる争いが数多

く起こっているなかで、改正民法の施行によって、前記のような問題がさらに先鋭化してしまう可能性もあります。2017年報告書を受けて、内閣府消費者委員会委員長が内閣総理大臣に対して行った法改正に向けた答申(2017年8月8日付)でも、前記の努力義務が早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題として付言されています。また、法改正に際して参議院で行われた附帯決議でも、この付言を踏まえた対応が求められていることも忘れてはなりません。以上の点を踏まえれば、再度の法改正が望ま

しいですが、少なくとも、2017年報告書にもあるように、開示の方法や態様について具体的に明らかにできるところから今後改訂されることになっている『逐条解説』で具体的に示すことは最低限求められるでしょう。なお、衆議院・参議院の附帯決議では、連載

第 13回で検討した法9条1項にいう「平均的な損害」の推定規定の新設や不当条項の類型の追加等について、2年以内に必要な措置を講じることが求められています。法の充実に向けて、専門調査会において改正に向けた議論が再開されることが強く望まれます。

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